○春日一幸君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題に供せられました
日本輸出入銀行法の一部を
改正する
法律案並びに
設備輸出為替損失補償法の一部を
改正する
法律案に関するただいまの
委員長報告に対し
反対いたすものであります。(
拍手)以下、その
理由について申し述べます。そもそもこの二つの
法律は、プラント輸出の特性にかんがみまして、その振興のため、これに必要な国家融資を行うことのために制定された
法律であります。従いまして、この
法律には、
わが国の財政がこの目的のために動員し得る能力の限界を規制いたしました。すなわち、その融資は、コマーシヤル・ベースの本質を尊重し、市中銀行との協調融資の場合にのみ限定し、またその業務範囲は設備輸出の輸出契約の成立せる場合のみを対象となし、特にその融資期限については、これを最長五箇年を限度とする等、その他幾多の業務規制を設けておるのでございますが、しよせん、これら規制の意図するところは、本輸出入銀行の活動が
わが国経済の実態より逸脱することを厳に防止することにあつたと思うのであります。
しかるところ、
政府は、今次ここに上程されました
改正案によ
つて、この輸出入銀行法の各種の制限
規定をほとんど野放図に解放せんといたしておるのであります。たとえば、融資対象のわくを大きく
拡張いたしまして、ただにプラント輸出にとどまらず、一般製品にして延べ払いとなる輸出一切、その地無為替輸出及び入札保証金までを対象といたしまして、さらに新しく海外投資にもこの窓口を開かんとしておるのであります。まだ市中銀行等の協調融資の規制を大幅に緩和いたしまして、新しく輸出入銀行のみの単独融資の道を開かんといたしておるのであります。特に重要なことは、その融資期限を、現行最長五箇年のものを一躍十箇年に延長せんとし、さらに事情のあるものについては実に十五箇年までの超長期融資の道を開かんといたしておるのであります。
一体、
わが国の当面する財政力は、かかる茫漠たる資金需要を満たす能力をはたして持
つておるのでありましようか。しかして、かかる放漫なる融資を行うことなくしては輸出振興の方途は他にはないというのでありましようか。たとえば、輸出入銀行の融資計画によりますれば、
昭和二十八
年度においては、年間二百四十億の融資を行わんとしておるのであります。かりにこれを十年期限の貸出しに充当いたしまして、さらに二十九
年度以降においても輸出入銀行が年々これとほぼ同様の事業を断続いたしました場合、この融資金額の累積は数年を出でずして一千億を越えることは必定であり、しかもこの貸出し残高は、本
改正による輸出入銀行の業務を
維持断続する限りにおいては、これは恒常的融資残高となるでありましようが、かくのごとき放漫厖大な海外投資は、
わが国が当面せるこの行財政の貧困をも
つてして、将来はたして国際競争に占勝し得るの施策たり得るでありましようか。
もとより、経済の自立を標榜し、その方途を貿易の振興に求めんとするわが
日本社会党は、輸出の促進に役立たせるための財政投融資の必要性を決して否定するものではありません。しかしながら、国家財政による投融資には、おのずからその使命と限界があるのでありまして、いかに輸出振興のためとはいえ、この範疇をはずれては相ならぬのであります。本
改正案は、明らかに、国家財政の直接投融資によ
つて国際貿易に競合せんとする点において、ときにソーシヤル・ダンピングの疑いをはらむものでありまして、よ
つてもたらす国際的影響は甚大であります。さらに、かかる国家資金の活動は、勢い商業資本の活動力をおのずから退嬰せしめる結果とな
つて、遂にはこれがかえ
つてわが国貿易の健全なる発展を阻害するの結果に陥ることなしとせず、私どもはこの点を最もおそれるものであります。
本
改正案によれば、貸付期限を現行五箇年より十箇年とし、さらに特殊の場合は十五箇年に延長せんとし、その
理由とするところは、英米その他の諸外国との
支払いタームの競争のためとの趣でありますが、しからば、本法
改正後、これら競争国が、その強力な経済力を発揮して対抗し、さらに貸付期限を十五箇年、二十箇年に延長の挙に出ることは当然起り得ることでありましようが、その場合、
わが国は、再びこれにせり合
つて、その延べ払い競争に立ち向うことができるのでありましようか。かかる見通しと決意なくして、自信のない競争に血道をあげることは、軽卒愚劣のそしりを免れるものではありません。古来、十年は一昔と申します。およそビジネスは代金の回収が生命であります。
物品を販売して、一昔にわた
つて代金の回収のできしないようなビジネスは、真のビジネスとは言い得ないものであります。かかる畸形の取引を擁護するために、幾多緊急焦眉の
政策をさしおいて、
国民の血税がこのような方向にむぞうさに流用されることは、厳に戒められなければ相ならぬのであります。
さらに指摘いたしたいことは、輸出本来の目的と本法の効果との矛盾についてであります。言うまでもなく、輸出の目的は外貨の取得にあるのでありますが、本法によ
つて輸出された商品に対する外貨は、その延べ払いの期間中は
わが国へは入金せざるものであり、また海外投資に至
つては、外貨そのものの海外放出を意味するものであります。今や
わが国の保有外貨は減少の一途をたどり、特に本年上半期の貿易統計によれば、その輸入超過五億六千万ドルをとなえるとき、輸出振興のための施策は、この当面の外貨事情に重点を置いて、これらの諸問題は慎重に検討さるべきものと考えるのであります。もとより、
わが国が
アジア唯一の工業国として、
アジア未開発地域の開発のために負うべき任務は、わが党の最もこれを重視するところでありますが、しかしながらこのためには、
世界銀行、ワシントン輸出入銀行、ポイント・フオア計画、コロンボ計画等、幾多の
世界資本がすでに活動を開始している現情勢の渦中にありましては、
わが国はむしろこれらと相提携して、これら欧米資本の
アジアへの導入の促進をはかるべきでありまして、われらの能力はそれへの技術参加を第一義とすべきであ
つて、これに対抗して、乏しきを割いた財政力をみだりに散布するがごときは、蟷螂のおののたとえの愚策なりと断ぜざるを得ないのであります。
なお、本法による貨付対象は、汽車、船舶、鉱山、発電を初めといたしまして、おおむね少数の大企業のみに恩典を与えるものでありますけれども、一方、これは中小企業に均霑するところ、ほとんど皆無であります。ここに、かかる厖大なる国家資金をも
つて輸出振興の策を講ぜんとするならば、すべからく中小企業をも含めた一般産業がひとしくその対象となり得る規模と条件をも
つて、その
政策は樹立せらるべきでありましよう。かくのごとくにいたしまして、それはひとり本法
改正案のみならず、
吉田内閣の大企業一辺倒の本性が本
国会に提出された幾多の
法律案の随所に潜められていることは、
国民大衆とともに、まことに憤激にたえざるところであります。
およそ貿易の振興は、かかるへんぱな施策によ
つてその目的を達成いたし得るものではありません。たとえば、借財だらけの会社が品物を売
つて、その代金を十年間も相手に貸し付けたり、わが家の経理のつじつまも含まぬのに、飢えに泣く子供をよそに、貴重な金を十五箇年も他人に貸し与えたりする、かかる取引は、悪質で横着な取引と称すべく、かかる経営は無謀無軌道のそしりを免れることはできないでありましよう。
今や貿易をめぐる国際情勢は大きく展開しつつあるのであります。
政府は、
わが国輸出の振興のために、いたずらに窮乏せる国家資金の底をはたいて、これを海外に放出せんとし、また輸出代金の回収を十年、十五年というがごとき、ほとんど出世証文にもひとしき延べ払いを認めるがごとき、かかることが輸出振興対策と言えるでありましようか。今日
わが国輸出不振の原因の一つはコスト高にあり、そのコスト高の原因は、金利高、原料高、設備の老朽化にあるのでありまして、輸出振興のためには、まずこの解決こそが急がれなければなりません。
また、
吉田内閣の
自主性なき向米一辺倒の
外交政策も、これは
アジア諸国の顰蹙を買い、これら諸外国の政治的な輸入制限の原因ともな
つて、
わが国の進出がはばまれておることも、吉田
政府の反省すべきところのものでありましよう。ことに、中共貿易促進の大
政策を意地悪く故意に回避して、鉄鉱石、粘結炭、工業塩等の格安原料の入手の道を開こうとはせず、一方、英独の中共市場における活躍に目をとざして、隣国四億五千万人の大消費を黙殺するがごときは、およそ輸出を妨害する政治悪の極致と断ぜざるを得ません。金融機関の利益を擁護して、コスト切下げのための金利値下げを妨げる
吉田内閣、
アメリカに追随し、自主
独立の気禀を失
つて善隣諸国の白眼にさしぐむ
吉田内閣、朝鮮動乱の特需という隣邦人の血肉の
犠牲で三箇年の長きを惰眠した
吉田内閣、かかる政権の存する限り、経済の自立はもちろん、輸出の振興など、とうてい思いも寄らないものでありますが、かかる状況下において、ここに輸出入銀行漢を
改正し、貴重な
国民の血税を冗長放漫に放出するがごときは、あたかも種を砂礫の上にまくに似て、決して当を得たものではないと思うのであります。(
拍手)
以上申し述べました幾多の
理由により、わが
日本社会党は、この両
法律の
改正案は
わが国の当面する国内外の実情に即せず、かえ
つて輸出の振興を阻害するの危険ありと断じまして、これに強く
反対いたすものであります。何とぞ各位の御賛同をお願いいたします。(
拍手)