○山花秀雄君 私は、日本社会党を代表して、このたび
政府より提案されました
電気事業及び
石炭鉱業における
争議行為の
方法の
規制に関する
法律案に関するただいまの
労働委員会委員長の
報告に対して、絶対反対の意思を表明するものであります。(
拍手)また、山村新治郎君提案の修正案にも反対の意を表するものであります。
本
法律案は、
労働委員会において論議の過程において明らかにされた提案
理由は、
公共の
福祉を危殆に陥れるような
争議行為は許さるべきではない、
従つて、
公共の
福祉のため、やむを得ず
争議行為の一部を
規制したものであ
つて、
労働者の持つ
労働権、すなわち
争議権の禁止ではない、他にいろいろ
争議行為は残されている、また
規制した
争議行為は、従来明らかに違法とされた
争議行為をこの
法律で明らかにしたにすぎないものである、これらのことは、現在の
社会通念上非とされたをものを、この際正当ならざることを明らかにすると同時に、
争議行為と公益の
調和をはかるためであると
説明されたのであります。私は、
公共の
福祉、
公益事業、
社会通念等々の、
国民大衆に受入れられやすい言葉の魔術によ
つて、
憲法二十八条に
規定されたる
労働者の基本的
労働権を断圧抑制し、も
つてわが
国民主主義態勢の逆行に狂奔する吉田
内閣の反動的
労働政策の本性を露骨に現わしたものと断言せざるを得ません。(
拍手)
私は、一つの具体的論拠を示して、本
法案に反対
意見を開陳するものであります。
政府は、
労働基本権である
争議権を禁止するものでない、その
争議行為の一部を
規制するものであると言
つているが、たとえば、
法律第二条で示すごとく、停電スト、給電ストを禁止しているが、わが国
労働組合組織は、産業別
労働組合への望ましき組織形態はいまだしの状況であります。その多くは、
企業別、職業別に組織され、この第二条の対象となる
電気労働者が職業別
労働組合を組織した場合はもちろんのこと、
現状組織においても、
電気技術
労働者は絶対に
争議行為は行い得なくなるのであります。これらの
労働者に対しては、明らかに
争議権の禁止であり、決して
争議行為の一部
規制では断じてないのであります。(
拍手)また、
法律第三条の
規定による
炭鉱労働者に対する保安要員
引揚げ禁止の
争議行為規制のごときは、産業の
重要性とか特殊性とかいうことを
政府は非常に強調しております。しかしながら、この
規定を推し進めて行くと、
炭鉱労働者の場合、どんな規模の山であ
つても、その山が日本の産業の全体に
影響を及ぼす大手筋の山々であ
つても、また日本の全体の経済にほとんど
関係のない群小の山々であ
つても、ひとしく
争議行為の
規制を受けることになるのであります。産業の特殊性とか、日本経済に及ぼす
重要性とかいう考えを進めて行けば、この考え方を一貫した
法律として制定せらるべきであるのにもかかわらず、そうでなくて、どんな小さな、またどんな産業にもあまり
影響のないよろなところであろうと、ひとしくこの
法律の適用を受けるということは、これは決して
政府の口ぐせのごとく強調する産業の特殊性とか、
重要性とかでなく、その真意は、炭鉱資本家の施設を守るために、すなわち資本擁護の犠牲に
労働者の権益を抹殺せんとする、まことにも
つて驚き入つた資本偏重の天下の悪法であります。
政府は、従来違法であつた
争議行為を、本
法律によ
つてそれを明らかにしたまでで、新しく
争議行為を
規制したものでないと、しばしば弁明しているのであります。まるで、今まで違法の
争議行為をさも見のがしていたごとき口吻を漏らしているのであります。とんでもない詭弁であります。今まで
電気労働組合や
石炭労働組合の行つた、本
法律で
規制された
争議行為を、いまだか
つて違法行為として処罰ざれた実例はないのであります。(
拍手)もし
政府説明のごとく、従来から違法であれば、違法に対する
法律的制裁を行い得るために、いろいろたくさん
法律があるはずであります。しかるに、数多い
法律をも
つてしても
制限され得なかつたことは、従来の
争議行為が断じて違法でなく、りつぱな合法的わく内の正当なる
争議行為であることを実証しておるものであります。(
拍手)
なお、この
争議行為が合法か違法かをさらに明らかにするために、
政府の言う
社会通念というようなあいまいな論拠でなく、最近
東京高等裁判所で示された
判決を見よう。それは、
昭和二十五年に川崎市の変電所で行われたスイツチ・オフによる停電行為を、当時の
電気事業法違反事件として起訴されたものに対する
裁判所の判断であります。
判決文は、
労働争議における
争議行為によ
つて業務の正当な運営は当然阻害されるに至るものである、
従つて、その間において
使用者の発する労務または業務命令が
労働者によ
つて拒否され得ることは起り得ることであるから、かかる事態が
発生したとしても、これがために何ら
争議行為の
正当性を否認する
理由とはならないことはもちろんである、また、これがために
使用者に財産上の
損害を生ずるに至ることも当然であ
つて、そのような財産権の侵害をするものについては、
争議行為なるがゆえに正当な
争議行為でないということは判定することはできない。この
判決文は、明らかに、
憲法第二十九条の財産権より、二十八条の
労働基本権がはるかに優位の立場にあることの
解釈を明らかにしたものでございます。(
拍手)また、本
法案三条の
石炭関係の禁止
規定に対しても、反発の議論とな
つているのであります。また、
判決文は、重大な事故
発生の危険の伴いやすい職場放棄等の手段を避け、比較的安全にして効果的な停電ストの
方法に出たことは、
電気事業の性質上時宜に適した
措置であつたとも言えるべく、
従つて、本件停電行為をも
つて必ずしも正当な
争議行為の範囲を逸脱したものとは認められない。(
拍手)
これが
昭和二十七年七月三日の
判決であります。すなわち
本法における
争議行為の禁止
事項は何らの違法行為でないことは、この
判決によ
つても明らかにされていたものであります。(
拍手)私は、
裁判所の
判決は、これこそ科学的
社会通念であるということを申し上げたいと思うのであります。(
拍手)
政府は、いたずらに
社会通念なるものを振りまわしているが、いかに
政府がそういう観念を
国民に宣伝いたしましても、
裁判所がただいま申し上げましたような判断をしておるのであります。この
裁判所の判断こそが、ただいま申し上げましたように、誤りなき
社会通念と私は付言して申し上げたいと思うのであります。(
拍手)
政府は、
本法提案に対して、
公共の
福祉ということを、くどいほど
説明されておるのであります。それは、
基本的人権は
公共の
福祉に沿うようにしなければならないという
憲法十二条の
規定を強く前面に押し出して、さも
基本的人権が
公共の
福祉に従属的立場にあるがごとき
解釈精神をこの
法律案に押し込もうとしておるのであります。そもそも
公共の
福祉は、決して
基本的人権の上に君臨するものではありません。
そこで、
公共の
福祉という概念が問題になりますが、わが
憲法においては、すべての
国民は個人として尊重され、主権は
国民にあり、国政の権威は
国民に由来するとされておるのであります。
国民の
基本的人権を越える、あるいはこれに対する存在として権威を認めることができないゆえに君臨するのではなく、一つの
基本的人権の
行使が他の
基本的人権を侵害し、もしくはこれに脅威を与えるおそれある場合にこれを制約し、すべて
基本的人権をして平等にこれを享受し得るため相互の摩擦を
調整する、いわば
基本的人権に内存する一つの
調整できる機能であると
解釈すべきであります。(
拍手)すなわち、
基本的人権が第一義的であ
つて、具体的な場合において
基本的人権間に衝突があつた場合は、
公共の
福祉という一個の
調整的な概念をも
つて調整するという、
調整的機能しか持たないものであると解さるべきであると、私どもは
解釈しておるのであります。(
拍手)
政府は、この概念
規定であるところの
公共の
福祉を阻害する
争議行為、または公益的性質を有する産業については、その
争議権を適当に押えねばならぬと言
つておるが、公益的性質を持つ産業は、ひとり
電気事業や
石炭産業だけではないのであります。
政府は、昨年の
争議の
実情にかんがみて、種々検討の結果、今日は
電気、
石炭にのみ
規制すると言
つておるが、たといそれが今回は
電気事業、
石炭産業のみであろうが、
法律制定の精神が、
基本的人権より
公共の
福祉が優先するという誤つた観念
規定でこの
法律が制定される限り、将来これに類似する産業、すなわち
交通機関、貨物輸送、
ガス、水道等々に従事する
労働者が生活権擁護のために
争議を行えば、必ず
公共の
福祉に阻害ありと断定し、これらの産業に従事するすべての
労働者の
基本的人権を次々と剥奪されることは、火を見るよりも明らかなことであります。(
拍手)まことに、
公共の
福祉の美名に口をかり、すべての
労働者から
労働運動の自由を奪い、再び戦前の奴隷
労働に追いやらんとする恐るべき反動的意図が、わずか三条しかない条文であるが、法の全体に充満しておるのであります。
憲法または
労働法の建前から言えば、むしろその仕事に公益的性質が大きければ大きいほど、
労働者が喜んで自発的に働き得るような条件をつくり出さなくてはならないのであります。しかるに、公益的性質ということに名をかりて
労働争議を禁止するということは、
電気がとまれば、まつ暗にな
つて社会が困る、
石炭が出なければ、日本の産業に重大な
影響を与える、だから、公益的性質を持つ産業に働く
労働者は、いわゆる
賃金が安くても、劣悪な
労働条件のもとにおいても
労働争議をや
つてはいけない、社会を明るくするために、日本の産業がフルに動くために、発電所の
労働者や山の
労働者を奴隷にする——君らが
労働争議をやるから社会が迷惑する、ゆえに
労働争議をや
つてはいけないということは、まつたく
労働者を奴隷にすることであり、実に
憲法の真髄であるすべての
国民は個人として尊重される精神に違反することになり、近代社会における最も愚劣なる労使
関係を
規定せんとするものであります。(
拍手)
私は、今、近代社会における最も愚劣なる労使
関係を
規定せんとしていると言つたが、これを裏づける適当な事例を申し上げましよう。吉田
内閣が常にその範を求めているアメリカの
労働運動においても、か
つてタフト・ハートレー法が国会に上程されたとき、アメリカ炭鉱
労働組合長ジヨソ・ルイス氏は、近代的な
労働と奴隷
労働の差異は
労働者に
争議権があるかないかということだ、これだけであると彼は喝破しておるのであります。(
拍手)吉田
内閣が範を求めているアメリカ
労働運動においても、
労働者から
争議権を奪うことは奴隷
労働の強要であるということを言
つておるのであります。社会が迷惑するから
労働争議をや
つてはいけないということは、明らかに
労働基本権を無視した封建社会における
労働蔑視の観念を一歩も前進していないことを如実に示すものであり、これは吉田
内閣が近代社会における
労働政策を担当し得る資格のないことを端的に表明しておるものであると、われわれは断言せざるを得ないのであります。(
拍手)
政府にして、もし
公共の
福祉とか産業、の公益性を真剣に考えるならば、いたずらに法をも
つてこれを
規制する前に、何がゆえにこのような社会に重大な
影響を及ぼした
労働争議が
発生したかを探求して、その
原因除去に努力すべきであります。
およそ
労働争議なるものは、突発的に
発生するものでありません。必ずよ
つて来るべき
原因が存するのであります。
労働争議発生の
原因は、大別して三つにわけることができるのであります。すなわち、
労働者側と、資本家側と、当時の社会環境であります。社会環境のうちには、
政府の
労働行政
対策が含まれておることは言うまでもございません。
そこで、具体的問題として、昨年の
電気事業と
石炭産業の長期にわたる
労働争議が、相当社会に重大な
影響を与えたことは、いなむことができません。昨年の
労働争議の根本的
原因を探求して参りますと、特に
石炭関係におきましては、
一般的物価の上昇に伴
つて、社会常識として
賃金値上げの妥当性を持
つていたのであります。この環境の中にあ
つて、
賃金値下げで対抗して来た資本家の横暴に対して、生活を守る
労働者の必死の闘いが
争議を長期化した
原因であります。
電気関係におきましては、統一
労働交渉、
労働組合組織を分断破壊せんとする資本家の挑戦が
争議を長期化した
原因であります。なお、この二大
労働争議の長期化が必然の様相を呈しておるのにもかかわらず、拱手傍観、無策に過ぎた
政府の無能が、この
争議をして長期化せしめた根本的
原因であるということを私は申し上げたい。(
拍手)今日、社会に重大なる
影響を与えることを
理由として、おのれの無能に対しては自己批判することなく、その責任をひとり
労働者のみに負わせ、てんとして恥じざる厚顔無恥の
政府の態度こそ、
国民の名においてその責任を追究さるべきであるとわれわれは考えます。(
拍手)
政府は、昨年のごとき深刻なる
労働争議を再び
発生せしめないために
本法の
立法化を急いだと
説明して、
本法によ
つて生存権を主張する
労働者の闘争が終息すると安易に考えているが、近代社会において資本主義経済組織を死守ぜんとする保守政治のためにも逆の結果を来すであろうことを私は警告したい。(
拍手)昨年の長期にわたる二大
労働争議が、要約すれば、片方はすなわち生命身体を維持するための生活の基礎を得るための
生存権の主張であります。片方は公益性を口実に自己財産を保全せんとする財産権の主張であります。すなわち、財産権と
生存権の二つの
基本的人権の対立であります。わが国
憲法においては、先に申し上げましたごとく、
公共の
福祉は
基本的人権の衝突の場合における
調整でありますが、この場合、
憲法を誤りなぐ
解釈すれば、財産権よりは
生存権を重く考えることが正しい
憲法解釈であると私は確信するものであります。(
拍手)
以上、いかなる観点より
政府提案の
本法を批判いたしましても、明らかに違憲
立法であります。私は、日本
国民の代表として、明白に違憲である本
法律案には断じて賛成できないのであります。(
拍手)なお、山村新治郎君の修正
意見も、以上の見地によ
つて反対するものであります。
最後に一言いたしたいことは、
憲法九十七条の精神についてであります。九十七条では、「この
憲法が日本
国民に保障する
基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であ
つて、これらの
権利は、過去幾多の試練に堪え、現在及び将来の
国民に対し、侵すことのできない永久の
権利として信託されたものである。」、つまり人類多年にわたる自由度得の努力の成果こそ
基本的人権であり、この人権は過去の幾多の試練に耐えて来た……(「時間だ、時間だ」と呼び、その他発言する者あり)
憲法九十七条の
規定は、まざに労使を超越した、
国民のすべてが厳守しなければならない条項である。
憲法を守るこの一点から、本
法案に冷静なる判断をされんことを望みまして、私の反対討論を終るものであります。(
拍手)