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1953-08-07 第16回国会 衆議院 法務委員会 第33号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十八年八月七日(金曜日)     午前十一時三十九分開議  出席委員    委員長 小林かなえ君    理事 鍛冶 良作君 理事 佐瀬 昌三君    理事 田嶋 好文君 理事 古屋 貞雄君    理事 井伊 誠一君 理事 花村 四郎君       押谷 富三君    林  信雄君       高橋 禎一君    中村三之丞君       猪俣 浩三君    細迫 兼光君       木下  郁君    岡田 春夫君  出席国務大臣         法 務 大 臣 犬養  健君  出席政府委員         国家地方警察本         部長官     斎藤  昇君         法務政務次官  三浦寅之助君         法務事務官         (大臣官房経理         部長)     天野 武一君         検     事         (刑事局長)  岡原 昌男君         法務事務官         (入国管理局         長)      鈴木  一君         外務政務次官  小滝  彬君  委員外出席者         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小林 貞一君     ――――――――――――― 八月七日  委員大橋武夫君及び岡田勢一君辞任につき、そ  の補欠として高橋英吉君及び三浦一雄君が議長  の指名で委員に選任された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  人権擁護に関する件  法務行政に関する件     ―――――――――――――
  2. 小林錡

    小林委員長 これより会議を開きます。  この際お諮りいたすことがございます。昨日午前の委員会において御協議を願い、閉会審査事件のうちに接収不動産に関する件を加えたのであります。これにつきましては、その直後、接収不動産に関する借地借家臨時処理法案が付託となり、提出者より昨日提案理由説明を聴取いたしたのでありますが、その後委員各位との協議によりまして、本案につきましては、なお慎重審議を期するため、これを閉会中の継続審査に付するのが妥当であるとの結論に達したのでございます。従いましてさきに閉会審査事件に加えました接収不動産に関する件はこれを省いて、あらためて接収不動産に関する借地借家臨時処理法案を加えたいと存じますが御異議はありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 小林錡

    小林委員長 御異議なしと認め、さよう決定いたします。  人権擁護に関する件のうち鹿地亘関係事件について協議を願いたいと存じます。田嶋好文君。
  4. 田嶋好文

    田嶋委員 鹿地事件は昨年の十二月上旬当委員会に取上げまして以来、天下の耳目を響動し、国民複雑怪奇の念を与え、世界に大きな反響を与えたのであります。私は第十五国会におきまして法務委員長といたしましてこの問題の真相糾明のためあらゆる努力を払つた心づもりでございますが、このたび引続き当委員会におきまして慎重な調査が行われたのであります。喚問すべき証人はすべて喚問いたし、その他政府関係当局調査説明をもしんしやくし、この事件関連を有するような新しい事実についても調査終つたのでありますから、この際結論を出したいと思うのであります。結論案文は後ほど申し上げたいと思います  御承知のように、本件調査主眼点は、独立後の日本において鹿地氏の不法監禁があつたかないかという点にあるのであります。本件は何分にも占領下に始まつたことであり、しかも国際的な関連を有する問題であり、従つて調査は相当困難を予想されたのであります。その上調査の過程におきまして、これに関連するような新しい事実が次第に現われて参りまして、国民注目も一段と深まつて参つたのでございます。前国会におきましては、私ども米側関係人の当委員会喚問を通じ、あるいは当時委員長であつた私と、当時のアメリカ大使でありましたマーフイー氏との会見等によりまして、その実現を努力したのでございますが、遺憾ながらこれは実現されなかつたのであります。そこで外務省を通じて詳細な質問書を提出したのでありますが、個々の具体的な点につきましては必ずしも私ども期待したような十分な調査の結果の報告が得られなかつたのであります。何と申しましても、本件国際法上その他の制約を受けておるのであります。これは国内だけの問題と異なり、ある程度はやむを得ないかとも思われます。従いまして、本件調査米側の分につきましては覚書等によるほかはなかつたことはまことに遺憾なことでございました。その上本件は、いわゆる三橋電波事件というものによりまして、まことに複雑怪奇な様相を呈するようになりましたことは、私からここに申し上げるまでもないことであります。  さて本件の主題でありますところの不法監禁有無でありますが、当委員会に現われました各種の証言資料その他諸般状況よりいたしまして、不法監禁ありと断定することはできないのではないかと思います。本人は申出をしないと言い、米側はまつた反対本人の承諾があつたと言うのであります。このいずれを断定するか確たる証拠が今日ないのであります。しかし日本人の感覚といたしまして、純粋なる保護援助と思われない点があるのでありますから、米国側の言うような人道的保護だというような主張そのものをそのまま肯定するわけにも行かない事情があると思うのであります。それらをしんしやくした上で、私は本日ここに鹿地亘事件調査結論議題に提供いたしたいと思うのでございます。私のつくりました鹿地亘事件調査結論を朗読いたします。  当委員会は、人権擁護に関する国政調査の問題として、日本人鹿地亘本名瀬口貢、五十歳、東京都新宿区上落合一ノ三六)が、日本独立国内において、米軍のもとに監禁されていたかいなかに関する調査行つたのであるが、本件国民基本的人権及びわが国の独立にも関するものであるという重大な問題であるとともに、他方、米軍人等関係者とする重要かつ複雑な国際問題をはらんでいる点等を十分考慮し、これが取扱いに慎重を期し、真相究明のため、外務省を通じあるいは、前法務委員長田嶋好文君が大使であつたマーフイ治氏と会見する等米国側に対しても本件調査に関する協力を要請すべく、あらゆる手段を講じたのであるが、「米側証人国会喚問」は法律上並びに事実上不可能であつたため、その真相を明らかにする上にきわめて遺憾な事柄が多かつた。本調査結論は、鹿地本人及び日本側証人山田善二郎内山完造斉藤正太郎渡辺利三郎榎本正雄鈴木長松瀬口幸子三橋正雄板垣幸三)の証言日本政府関係当局説明及びアメリカ大使館より日本政府に寄せられた三つの覚書(一九五二・一二・一五、一九五三一・二六、九五三・二・二五)、米軍声明(一九五二・一二・八)その他多数の関係書類等によつたものである。  一、平和条約発効前の事実について    鹿地亘本名瀬口貢)が占領中の昭和二十六年十一月二十五日江ノ島電鉄鵠沼駅付近において逮捕され、平和条約発効の日まで米国公的機関のもとにいたことは明らかであるが、しかし、鹿地逮捕及び取調べ同人占領軍に対するスパイ容疑によるものであり、かつ、そのため必要であつた限りにおいて、これを不法逮捕監禁ということはできない。    なお、この間、鹿地取調べを受けた期間は明白でないが、何ら法的処罰を受けなかつたことが認められる。また、同人が、昭和二十六年十二月二日川崎東銀クラブにおいて自殺をはかり、未遂に終つたことも明白である。しかし、これら占領中の事実は本調査の主たる目的ではない。  二、平和条約発効以後の事実について鹿地亘平和条約発効後、引続き昭和二十七年十二月七日帰宅するまでの間、東京地区を含む米側接収家屋数箇所にいたことは明らかである。右期間中、鹿地が、米軍関係者と思われるものにより不法監禁されていたこと、その間、居所を数度移されその都度目隠しをされて連行されたこと等の事実を関係人は申し立てている。    この点につき、アメリカ大使館日本政府に寄せられた覚書によれば、本件につき「存し得べき一切の誤解を一掃し、また一切の疑点を明らかにするためにできる限り助力を惜しまない。」「いかなるとき、いかなる場所においても、鹿地アメリカ官憲により、日本法律及び裁判権を侵害し、当人意思に反して足どめされ、その他拘留された事実はない。何人当人意思に反して拘留の目的鹿地を監視した事実はない。反対に、占領鹿地は、犯罪容疑をもつて逮捕され尋問及び調査のため拘置され、共産主義者間諜機関として活動したことを白状しために生命の危険をおそれ、かつ、当時健康もすぐれなかつたというともあつて、みずからの懇請により、同人及び同人健康状態を熟知する関係人により保護援助を与えられたのである。」「鹿地に対し保護並びに援助を与えた者の氏名、地位その他の詳細は、本件関係した人々の安全を害することなしに、これを提供することができない明白な理由がある」というのである。   本調査の基礎となつた前述の諸資料そのほか諸般状況より、鹿地亘が、平和条約発効後、昭和二十七年十二月七日帰宅までの期間米国公的機関と推定されるもののもとにあつたことは明らかであり、かつ、(1)鹿地の居室その他の場所出入品に外部からかぎがかけられていたこと。(2)ピストルを持つた監視人が出入りを厳重に見張つていたこと、目夜間米軍用機鹿地沖繩へ連行したこと等の事実の存することは、これを認めざるを得ないので、不法監禁疑いがあるものといわなければならない。   なおまた、米側より保護並びに援助を確信せしめるに足る十分な具体的な資料の提供がない以上、鹿地に対し純粋の人道的保護並びに援助が与えられたものであるということは、今にわかにこれを肯定することはできない。   当委員会は、一、平和条約発効直後、日本政府に対し、本件につき何ら通告措置がとられなかつたこと。二、鹿地家族に対し、連絡等友愛的配慮がなされなかつたことについては手続上特に遺憾を感ずるものである。   終りに、当委員会としては、日本独立国たるの名誉並びに人権尊厳保持のために今後かかる不明朗きわまる事件が再び決して発生することなきよう強く要望する次第である。  以上が鹿地亘事件に対する調査結論として本日の議題に提供いたしたいと思うものでございます。何とぞよろしくおはからいをお願いいたします。
  5. 小林錡

    小林委員長 ただいまの田嶋君の提案について議事を進めます。     〔「議事進行」と呼ぶ者あり〕
  6. 小林錡

    小林委員長 ちよつとお待ちください。私の言うことをお聞きなさい。  質疑通告がありますからこれを許します。岡田春夫君。
  7. 岡田春夫

    岡田(春)委員 質疑ではない、議事進行です。  ただいま田嶋委員から御報告があつたのでありますが、議題に供するためには当然これは動機として提出されなければならないと思いますが、動議についての採択が行われておらないのは、これはどういう意味で行つておらないのか、この点をまず委員長に伺つておきたいと思います。
  8. 田嶋好文

    田嶋委員 私の今の発言は、これを案文として採択するよう動議を提出したわけでございますから、御採決を願いたいと思います。
  9. 小林錡

    小林委員長 ただいまの動議を取上げることに賛成の方の起立を求めます。     〔賛成者起立
  10. 小林錡

    小林委員長 起立多数。よつてただいまの田嶋君の動議にかかる提案について議事を進めます。     〔「委員長議事進行」と呼ぶ者あり〕
  11. 小林錡

    小林委員長 次に各派より討論通告がありますから、順次これを許します。高橋禎一君。
  12. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 私は改進党を代表いたしまして、ただいま田嶋委員より提出されました動議賛成をいたし、ここにその理由説明いたしたいと思うのでございます。  ただ冒頭に一言申し上げたいのでありますが、この問題は日本国民にとりましては、きわめて重大な問題であります。鹿地亘君とは、当委員会における審議経過から知り得ました私の認識によりますと、政治的な考え方は私どもとは非常に異なつておるのであります。しかしながら日本国民人権は、日本国民全体の力で守らなければなりませんし、また日本国民生命身体自由等は、日本政府責任を持つてこれを擁護しなければならないわけでありまして、そういう意味において私は、この問題を重要視いたすものでございます。しかもこの問題は対外的な関係がございますので、この席上に外務大臣出席を求めましたにもかかわらず、その出席を見ないことははなはだ遺憾であります。外務大臣は先般の不信任案が通過しなかつたからといつて、その地位が安泰なものであり、また外務大臣として完全にその職責を果したものであるというふうにお考えになることは、誤りであります。私ども岡崎外交に対して、数々の不満を持つておるのでありますが、外交の重大なる今日において、ちようどそれがかりに篤馬といえども、敵前において乗りかえるということは、他にこれという駿馬を見出し得ない限り、われわれは国家の大きな立場において、これらに対して不信任案を積極的に表明いたさなかつたのでありまして、そういうことを考えますときに、この重大なる問題に対して、一たびも顔を見ることができない、その私どもの意見を十分聞かれるという機会をつくられなかつたことに対して、はなはだ遺憾に思うものでございます。  私はこの問題を考えますときに、まず一九四八年十二月十日、第三回国際連合総会において採択せられましたところの人権に関する世界人権宣言、これを日本のこの法務委員会から、全世界人類に対して訴える意味において、ともにこれを読んでみなければならぬと思うのでございます。世界人権宣言は、人類の良心を踏みにじつた野蛮な行為の生れることは、人権の無視と軽蔑とに基因するものであることを説き、かつ人間が専制と圧迫とに対して最後の手段として反逆に訴えざるを得ないようになるのを防ごうとするなら、人権を法の規律によつて保護することが肝要であることを教えまして、しかる後に、何人も拷問または残虐、非人道的もしくは屈辱的な待遇を受けることがなく、また何人も専断的な逮捕、拘禁を受けることがない旨を定め、人権擁護について厳然たる態度を示しておるのであります。  私どうは戦いに破れて、ポツダム宣言を受諾いたしましたけれども、これによつて世界のいずれの国に対しましても、日本国民人権蹂躙を認めたということは断じてないのでございます。鹿地亘君の逮捕については、占領中のことでありましたから、本委員会においては主として講和発効後、すなわち日本独立後における不法監禁の問題に重点を置いて調査をいたしましたけれども、私はこの問題についての、第十五特別国会以来審議されました経過を、さらに昨晩徹夜して、これを静かに顧みてみましたが、講和発効前の処置といえども、私は日本人として黙視することのできない、すなわち世界人権宣言の趣旨に反するところのものを数々、きわめて濃厚な疑いを持つてその問題を考えたことを、非常に悲しく思つた次第でございます。いわんや日本独立いたしましてから、講和発効後においても、引続いてほぼ同じような状態において、軟禁された疑いの顕著であることを思いましたときに、私どもは敢然として全世界に対して、われわれ日本民族八千六百万人の人権を、われわれ日本民族の力によつて、また日本国政府によつて擁護しなければならぬということを痛感いたしたような次第でございます。  鹿地君が姿を消しましたのは、昭和二十六年十一月二十五日の夕刻でありました。そして釈放されて姿を現わしたのが二十七年十二月七日のことであります。この間一年余りであります。‘私はこの間にはなはだ遺憾に思いますことは、日本政府は一体何をしておつたのであろうかという点であります。法務大臣も御出席でございますが、法務省には人権擁護局がある。また国警長官もおいでですが、警察使命というものは、これは警察法にちやんと明記してあります通りに、国民のために人間の自由の理想を保障する日本国憲法精神従つて、そうして個人と社会との責任の自覚を通じて人間尊厳最高度に確保し、個人の権利と自由を保護するためにこの警察法は制定されるということを前文に麗々しく掲げてあるのであります。そして第二条に、その目的とするところは国民生命及び財産保護をする、こういう警察使命を述べておるのでございます。一体占領中であるからというので、日本人権擁護局やあるいはまた警察は、日本国民人権外国人によつてあるいは蹂躪されるかもしれないということを念頭に置いていろいろの措置を講じなければならない。日本人日本人人権を蹂躪するというような場合だけ注目をしておくべきものではないのです。たとい占領をされておつても不当に日本国民人権を蹂躪され、その生命身体の自由や、財産というものが不法に侵害されるようなことがあつてはならぬということを十分自覚して、その職責を果すことに努めなければならなかつたはずでありますが、委員会審議経過を見ますとそれが私には全然認められないのであります。占領中であるからもうどうにもならないのだと投げてしまつたようなかつこうなんです。私はその間に、講和条約発効前において、国家機関がまつた眠つてつたのではないかということを考えざるを得ないのでございまして、もしそうであつたとすれば、これは鹿地君に対しましても、そうしてまた鹿地君には妻もあることです。子供が二人まである、そういう家族人たちに対しても私はまつたく気の毒であつたという感じがいたしてなりません。いよいよ講和条約が発効いたしましたならば、それこそ従来とは打つてかわつて、何の気がねもなく、人権擁護局においても、また警察においても――それが遠隔の地というのではないのです。ほんとう日本政府のある、日本国会のあるこのおひざ元の東京都とか川崎市とかいうところにある場所において、一年以上も姿を隠して帰つて来ない、拘禁されておるような事実を発見し得なかつたということは、私は当局にとつても大きな責任であると考えるのであります。しかも本委員会において審議を進めますと、対外的な関係においてもまた遺憾な点が数々あるのであります。私は日本外交というものが非常に弱々しい感じがいたします。占領から解放はされたけれどもほんとう政府当局独立したという認識が十分でなかつたのではないか、ほんとう独立したという気魄がなかつたのではないか、占領した方の側も占領惰性というものがあつたのではないかということを考えますとともに、占領されておつたところの日本政府においても、せつかく占領から解放されておりながら、やはり占領惰性でほとんど占領中と同じような気持でその職務に当つてつたという感じがいたしてならないのでありまして、私は外務当局は強く反省しなければならないと思うのです。人権擁護の問題について直接の調査ということは、これは外務当局はなされる筋合いでないかもしれませんけれども外交自主独立ほんとう日本国民の手によつて行われるものだということが外務当局によつて力強く表明されますところに、私は政府機関がそういう心構えを持つてほんとう独立国政府機関として職責を果し得るように相なると思うのであります。しかもこの調査にあたりましても、ほとんど対外的な関係において十分なる協力を得ることができませんでした。ここに外務当局にしても司法当局にしても警察当局にしても、鹿地君の場合でありますと、鹿地君あるいはその家族人たちあるいはそれを知る人たち政府を信頼し、政府の力を借りようとしなかつたところに、私はこのいわゆる不法監禁疑いのあるべき事実があまりにも長く継続したものではないかというふうに考えられるのでありまして、この際私は国民としてもまた政府当局としても十分考えなければならぬと思うのでございます。田嶋委員のお述べになりましたこの調査結論というものについては、私は非常に御遠慮なさつた結論であると思うのであります。私の考えをもつていたしますと、独立いたしましてから後に鹿地君が釈放されるまでの間、米国公的機関のもとにおいて不法監禁をせられたる疑いが濃厚であるということを実は考えておるような次第でございますが、何しろ問題は日本国内関係方面のみの証拠資料しか十分に集まつておりません。相手方の言い分も十分聞き得なかつたのは遺憾でありますが、それゆえにここに断定を下すということもいかがかと考えまして、不法監禁疑いがあるという点にとどめてのそれに関する政府当局に要望せられるところ、これはもつともしごくであると思うのでございます。この意味において私は田嶋さんの提議に全面的に賛成をいたすものでございますが、私どもはこういう経験を貴重なる資料といたしまして、私どもともそれに、ほんとう日本国民将来のために政府国民も力を合せて世界に向つて日本国民人権擁護の叫びをあげ、その行動に出でなければならぬと考えるような次第でございます。これらの点を政府当局においては十分反省されまして、真に独立国日本責任ある政府機関であるの使命を全うせられるよう要望して、私の賛成討論を終りたいと思うのでございます。
  13. 小林錡

    小林委員長 ちよつと速記をとめて。     〔速記中止
  14. 小林錡

    小林委員長 速記を続けてください。猪俣浩三君。
  15. 猪俣浩三

    猪俣委員 本件は昨年の十一月二十日ごろ鹿地亘近親者から、鹿地亘アメリカ側監禁せられている模様であるから救い出してもらいたいという依頼がありましてから、私は二週間にわたりまして、その事実の有無調査いたしました。真実なりと認定いたしまして昨年の十二月八日当法務委員会へこの調査方提案いたしました。法務委員会におきましてはこれを採択されまして、爾来今日に至るまでこの問題を御調査願つたのであります。当時の委員長でありまする田嶋好文君、現委員長であります小林かなえ君に対しまして、なおまた熱心に調査に当られました各委員に対しまして、この問題を提出いたしました私といたしましては感謝の言葉を捧げたいと存じます。  本件につきましては事がアメリカ軍でありまするので非常に困難を感じましたけれども、しかしアメリカ民主主義を建国の精神とし、なおかつ世界の指導にも当られておる国でありまするし、民主主義なるものはその根底が基本的人権擁護にあることは申すまでもないことである。われわれが基本的人権擁護に立ち上りましたゆえんのものも、やはり民主主義の完成を願うからでありまするがゆえに、アメリカ側がこれに対しまして悪感情を持つ道理がないと自信を持ちまして調査に乗り出しました。なおまたアメリカ側からも十二分なる協力が得られるものと考えました。アメリカは率直な国であるがゆえに、多少の手続上の間違いは率直にこれを認められるものと私ども考えて出発いたしました。いずれにいたしましても、鹿地亘そのものは放免をされまして生命に異常はなかつたのでありまするがゆえに、いたずらに反米感情をあおるような材料を提供したくない、かような意味合いから十二月八日鹿地の手記の発表及び同月十日の当法務委員会陳述、同月二十三日の当法務委員会における鹿地陳述、多少そこに事実が附加されて進展して参りました。これに対しましていろいろの批判があつて、これは鹿地に不利でありましたけれども、われわれが反米感情をあおるためじやない、アメリカが率直に事を認めるという前提のもとに、あまりにえげつないことまでも申し立てたくないという老婆心から出たのでありまして、これが相当の疑惑を鹿地自身に持たれ、なおこの態度アメリカ側に利用されたのではないかとも考えられるのは遺憾に存ずるのであります。この問題が昨年の十二月八日から日本及び世界の輿論と相なりまして、重大問題に発展をいたしました。ところが突如といたしまして十二月十一日かアメリカ側発表あるいは国警長官国会における発言、さようなことから鹿地スパイであるという問題が喧伝いたされまして、これにつきましては私は今でも遺憾千万に存ずる、人権擁護のこの観点が妙な方向にそらされまして、おそらくは日本国民反米感情の高揚を押えんとするところのアメリカ側の深謀遠慮から出たものであり、日本人の民族心理すなわち長い間の軍国主義的な独裁主義的なかような心情から生れまするスパイに対する反感、これを見込みまして鹿地スパイとするような宣伝に全力をあげて、もつて鹿地の不当監禁事実を抹殺せんとした企てじやないかと考えられるのであります。その通りにまた結果は相なりまして、最初鹿地及び私に対しまして相当の激励の手紙が参りましたにかかわらず、一たびこのスパイ問題が発表いたされまするや、今度は凶悪犯人のごとく非難されまして、これが今回まで続きました。今から三日前にも私のところへ脅迫文が舞い込みました。基本的人権なんということに対しまする、これがいかに大切なものであるかということに対しましての認識の乏しい日本民族、私は実に寒心にたえないのであります。これをうまく利用いたしまして鹿地をまんまと凶悪犯人につくり上げ、今日スパイなんというものは存在しない、鹿地が何らかの法律違反とするならば、三橋の電波法違反、それに暗号電報を頼んだということが事実ならば、ごく悪く解釈してもその幇助罪にすぎない、これをまるで凶暴犯人のごとく世人に印象づけてしまいました。そうして人権擁護の問題はほとんど影をひそめてしまつたような現状、私は実に遺憾千万に存じます。当法務委員会に現われましたる諸般の事情につきまして、これが不法なる監禁であつたことは動かすべからざる真実であります。この真実の叫が一般民衆に浸透しないような妨害に出会つたということは返す返すも私は遺憾である。民主主義の根底でありまする人権擁護の思想をこの機会に高揚せしめたいと考えました私どもの企図は挫折いたしたかと存ずるのであります。  スパイの問題につきましては、これはなかなかデリケートな問題でありまして、当法務委員会において黒白をつけることは至難でありますけれども、しかしアメリカ側にキヤノンという諜報機関があつて活動しておつたことは周知の事実である。国警長官にしろ、田中警視総監にしろ、キヤノン機関の活動は御存じのはずであります。そうして私自身が調べました点におきましても、鹿地と同じような目に会いました者は数人ある。三橋自身もそうでありましようし、先般の法務委員会に出ました板垣自身もそうである。なおそのほかに二人の人物、私が詳しく模様を聞きますと、ほとんど鹿地監禁と同様な手段において監禁せられた事実がある。しかしこれは他日の調査にまかせまして、私どもはこのスパイ問題については、中心的な問題に調査を進めなかつたのでございますが、しかし世人がほとんどこの方に興味をとられてしまつたことは、繰返すようでありますが遺憾に存ずるのであります。  この鹿地の問題につきまして、アメリカ側は口に協力を唱えながら全面的に事を否認するだけで、ことにスパイの問題で逮捕したがこれは釈放した、もし釈放したならば、スパイの犯罪がなくて釈放したに違いない。それから後は鹿地自身から身の危険を感じ保護を頼まれた、これは三橋が身の危険を感じて国警に保護を頼んだのと同じような言い方である。そういう発表をいたしております。これは鹿地亘にとりましては心外千万なことであります。一年有半にわたりまして実に骨身を削る苦労をさせられたことに対するかようなアメリカ側の虚偽なる報告に対しまして、彼は心からの怒りを発しておるのであります。一体鹿地の依頼によつて保護することと沖繩へ軍用機に乗せて連れて行つたことはいかに調和できることであるか。しかも沖繩へ飛行機に乗せて行つて、行くときには陸軍の輸送機に乗せて、帰りには爆撃機に乗せて帰つたことはほとんど明らかな事実である。これに対してアメリカ側も積極的に否認しておらぬ。ただ当法務委員会が、一体沖繩に連れて行つたのか、だれがつれて行つたか、何のためにどこに連れて行つたかという詳細なる文書を出したのに対しまして、彼らの答弁は何であるか。鹿地共産主義者であるからときどき居場所をかえることはあり得ると思う、そういう答弁をやつておる。これが一体答弁になるのかならぬのか。しかしよく考えれば、みずから沖繩行きを否認、否定できなかつたところに、鹿地沖繩に行つたことを彼らが暗々裡に認めた意味において、この彼らの回答は意味があるかと存ずるのであります。かようにしてアメリカ側自身が積極的に否認しない沖繩行きと、身の保護を頼んで知人にかくまつてもらつたということをいかに調和するか。これだけでも鹿地の意に反して監禁が続けられたことは疑うべからざる真実であるがゆえに、私ども田嶋好文氏のこの結論に対してはいささか不満があります。夜簡単用機で鹿地沖繩に連行したこと等の事実の存することは、これを認めざるを得ない。この沖繩に連行した事実を認めざるを得ないとしたならば、不法監禁せられたことは真実であるという断定を下さなければならぬはずであります。しかし不法監禁疑いがあるということにとどめられましたことには、私ども不満がございますけれども、事が国内問題のみならずアメリカに対する外交交渉にありまして、重大なる国際問題でありますがゆえに、政府あるいは与党の立場というものも考慮しなければならず、われわれは不本意ながらこの不法監禁疑いがあるということに同調したのでありますけれども、今改進党の代表高橋委員の申されたように、不法監禁疑いが濃厚である。これは改進党の提案でありまして、私どもそれを主張し、左右の社会党のみならず鳩自党でも濃厚くらいのことは入れなければならぬ、しからざれば断定すべきである、不法監禁の事実があつたと断定しない以上は濃厚という文句は入れるべきものである、こういう話し合つた結論から申しますれば、皆さんの意見であります。但しここへ参りまして、この不法監禁疑いがあるということで改進党も同調いたしましたゆえんのものは、これをこのまますなおに受取つた同調ではありませんことを政府当局はよく頭に置いていただきたい。皆さんにげたをあずけます。ここで投票によつて結論を出すならば、不法監禁疑いが濃厚であるという結論が出るのであります。自由党委員は全部同調いたしました。しかし自由党及び政府の立場も考えまして、われわれは不法監禁疑いがあるということで涙をのんだのであります。その点をよく御認識の上に、今後の諸君アメリカに対する交渉におきまして、当法務委員会の意のあるところを十分おくみとりくださいまして適宜なる御処置を願いたい。軍用機で沖縄に連行されたということを認める以上は、不法監禁の事実があるという断定は明白なことであります。これは矛盾いたしますけれども、その矛盾を忍ぶゆえんのものは、今申しましたような事実であります。自由党の諸君も腹ではさように考えておられることもよくわかるのでありますが、公な文書としてここに妥協いたしました。そこで当法務委員会疑いがあるというのを、軽いようなお考えのように政府がおとりになりますとまつたくの違いであります。私はここに繰返し申し上げまして、ことに外務省に対しまして申し上げます。きよう外務大臣がお越しにならない。他の重要な案件があるということでございますから了承いたしましたけれども、これは非常に遺憾であります。外務大臣によく聞いてもらいたい。外務大臣に聞いてもらいたいことは、われわれのこの討論の趣旨である。外務大臣がお見えにならぬのは遺憾でありますが、これは何ともやむを得ない。かわつて政務次官が出られたのでありますから、当法務委員会の空気を十二分にお伝え願いたい。私どもは岡崎外務大臣は不信任したのでありますが、国会で信任に相なりましたから、これは多数決に従うわけでありますが、そういういきさつもあります。当法務委員会意思も濃厚の疑い以上の結論の出るのをここにとどめたことをくれそれもお考えになつていただきたいと思うのであります。  以上のようなことで、本件委員会の熱心な活動によりまして、ほとんど鹿地意思によらざる監禁が長い間続けられたことは、一点の疑いがないのであります。ただアメリカ側の加害者側の供述を聞くことができないというだけで最後の断定は下されないような形なんでありますが、なお私ども外務省及び法務大臣にお願いしますが、本件は相当の法律問題がまだ残つておる。もしアメリカ側が明白に否認せざるごとく沖縄へ連れて行きましたことが事実であるといたしますならば、これは今の入国管理法――昔の出入国管理令に違反しておると思います。不法出国罪であります。アメリカ側は少くとも不法出国罪の幇助になるかと思います。なおまたもし鹿地が承諾したといたしましても日本の刑法の「略取及ヒ誘拐ノ罪」、二百二十六条に「日本国外二移送スル目的ヲ以テ人ヲ略取又ハ誘拐シタル者八二年以上ノ有期懲役ニ処ス」という規定があります。この規定にも違反する。沖繩は外国じやないじやないかと言うかもしれませんが、外国であります。現に鹿地が連れ出されたとき、日本の内地はうるさいからしばらく外国へ行つてもらおう、こう言うて連れ出されたのが沖繩でありますから、外国という認識のもとに鹿地を連れ出したことは疑いがない。そうすると刑法の略取誘拐罪、国外移送拐取罪という二百二十六条に相当する。また鹿地が同意した、しないにかかわらず、出入国管理令違反という問題が残ると思うのであります。外務省並びに法務大臣はこういうことに対しましても十二分なる御研究の上に交渉に当つていただきたい。申し上げるまでもなく今全国に七百有余の軍事基地がある。これに対しましてアメリカの軍人がたくさん来ておる。そうして日本人不法監禁せられるというようなことがもしかりに起りましたならば、日本の不幸のみならずアメリカの不幸でもあり、日米の国交を阻害すること、はなはだしいものが起ると存じまするので、ことに軍事基地問題が、尖鋭化しております今日におきまして鹿地事件に対しまして毅然たる態度をとることは決して私どもは反米のためではありません。日米国交をこれ以上そこなうことなく私どもは進んで行きたい。さような意味におきまして、悪いことは悪い、十二分に糾弾すべきことは糾弾して、お互いにそのあやまちを二度と繰返さぬよう最善の努力をすべきものであると存じます。つまらないことから国交が破れ、世界の平和を乱すようなことは私どもの念願せざるところなるがゆえにそういう意味におきまして、大きな意味から言うならば国権の侵害であります。満州事変、日華事変も日本軍人が外国兵に誘拐されたことからあの戦争が起つております。かような国権侵害に当ります重大事実なるがゆえに――鹿地がいかなる立場の人物であるにいたしましても、あるいはスパイをしたかしないかということに関しましても、人権擁護ということはかわりがないはずでございますがゆえに、そして過去の歴史におきまして、いかにこれが国権侵害の問題として、国交を阻害して来たことであるか。私どもは短い過去におきまして体験していることでありますがゆえに、かようなことが再び起りませんよう政府におきまして十二分なる御留意を願いたいと存じます。  私ども今申し上げました意味におきまして田嶋好文提案動議賛成いたすものであります。
  16. 小林錡

    小林委員長 木下郁君。
  17. 木下郁

    ○木下委員 私は社会党右派を代表しまして田嶋君の動議賛成するものであります。  この事件調査するに当りましては、私どもの党としてはまずこれを二段に区分して調査しなければならないという方針を立てました。と申しますのは、占領下監禁の問題、人権蹂躙の問題と、講和条約発効後の日本独立国となつた後の監禁の問題とに法律的な構成に非常な区別がありますので、その二つにわけてこれを調査すべきものだというふうに考えて参りました。この報告書にも今占領中の事実は本調査の主たる目的ではないということになつております。「主たる」という冠詞がついておりますので、まあがまんいたしたわけでありますが、占領下であるからといつて何の理由もなく日本国民逮捕するというようなことは許すべからざることであります。さような意味でまず一段に昭和二十六年十一月二十五日午後七時過ぎに鹿地アメリカ公的機関逮捕した。それが不法であるかどうか、その点について考え調査をいたしたわけであります。ところが調査の結果出ましたのが、まず第一にはその鹿地逮捕したのが十一月二十五日と申しますと、五時ごろからもう暗やみになつております。その暗やみになつた二時間も後に散歩している人――鹿地の言う散歩であります。三橋の言うレポであります。それが鵠沼の暗やみでつかまつたという事実から判断いたしましても、これが盲めつぽうにつかまつたのではなくして、何がしかの根拠があつてアメリカ公的機関がつかまえたものだということが当然考えられるのであります。初めから鹿地をつかまえるつもりでありますならば、鹿地の自宅もわかつていることでありますし、自宅に行つて逮捕して、家宅捜査でもすれば何でもないことでございますが、つかまえて見たらばあとでそれが鹿地君であつたということになつたの真相であるというふうに私どもは判断いたしたのであります。  なおさように判断したのは、鹿地君が日華事件中に南京、重慶その他におきまして反戦同盟を主宰して、そして当時の国民政府の諜報機関と連繋して働いておつた。その活動しておつたときにはアメリカの諜報機関もそこに出入りしておつて鹿地君の人となり、ものの考え方等についてよく知つてつたわけである。かような意味においてつかまえてみたらそれが鹿地君であつたので、そこでアメリカが単にスパイ嫌疑でつかまえて処罰するということではなくして、また自分たちと日華事変中には対日本関係で一緒に協力して働いたが、今度は対ソ連関係で一緒に働くようにというふうに方針をかえて、そこでかようなぐずぐずした結果になつたものだというふうに私どもも事実を判断いたしたのであります。  なお鹿地君のどこにスパイに基く十分の理由があつたかどうかにつきましては、まず抜き差しならぬ証拠としましては、鹿地君の自供調書があります。これについては鹿地君いろいろ弁解いたしておりますが、鹿地君は、かつてわれわれの調査のときに出ましたように、やはりこの自供調書のような手記を治安維持事件のときに出した経験を持つておる人であります。なお調査の途中で初めてわかつたことてありますが、共産党に籍を置いているということもわかりました。それやこれやを参酌して、私ども昭和二十六年の十二月の二十五日アメリカ占領軍が、いわゆるスパイ活動の嫌疑十分なりとしてこれを逮捕したということは、その間に何らの不法はないということの結論に達したわけであります。  それでは第二段の、占領状態がやんで講和条約が発効した昨年の四月二十八日以後、この鹿地君の身柄を拘束しておつた、その状態がどういうふうに見られるか。アメリカの側の話では、鹿地君の依頼によつてこれを保護しておつたというふうでありますが、この田嶋委員動議の中にも出ておりまするように、鹿地君の居室の出入口に外部からかぎをかけておつた、あるいはピストルを持つた監視人がいつも厳重に監視しておつた、それから当法務委員会の問題になつて、世論がやかましくなつたときに、急遽鹿地君を軍用機で沖繩に連れて行つたというような事実から、これが普通の鹿地君の依頼に基く保護でなかつたというふうに私どもは判断いたすのであります。またそう判断しなければならぬと思うのであります。その点につきまして、アメリカ側からは、存じ得べき一切の誤解を一掃し、また一切の疑点を明らかにするために、できる限りの助力を惜しまないという回答を得ておりますが、その点について十分の協力を私としましては得得なかつたというふうに考えて、その点まことに遺憾に考えておる次第であります。その理由等につきましては、アメリカの側からの回答の中に、鹿地に対し保護並びに援助を与えた者の氏名、地位その他詳細は、本件関係した人々の安全を害することなしに、これを提供することができない明白な理由があるというふうに言われております。この意味がどんな意味かといろいろ輩ましたが、その理由をそんたくしますのに、多分これは鹿地君が、あるいは鹿地君以外の人がアメリカにおいて不法監禁なりとして告訴するか、告発した、そういうことがあつた場合に、その人がたいへん困るのだからというぐあいに考える以外に、何ゆえこのような人の氏名を知らせないかということが理解できないのでありまして、私としましては、人権擁護のために、また世界の平和を擁護する、世界の正義を守つて行くというアメリカの立場から言うならば、今アメリカにおるならば、お前旅費くらい出すから日本証人として出て行けというくらいのことがあつてしかるべきものではないか、それができるだけの協力をするということになるのではないかとすら考えておる次第であります。さような点につきまして、ただあの形式的な回答、声明というようなものを得ただけである点はまことに遺憾に考えておる次第であります。  なおこの点に関連して、アメリカ協力の程度について遺憾がありますが、同時にまたここに国警長官もおられますが、この事件の審理中に一番かんじんな鹿地と三橋との間の供述が全然対立いたしております。その問題を解くきめ手とも称すべき、あのレポのために鹿地から三橋を呼び出したと言われるはがき、その原本が取調べの途中において紛失いたしましたというようなことがあつたのであります。これは考え方によればいろいろのふうに考えられます。また世間でも実際私のところにいろいろのことを申して来ております。でつち上げの証拠であるがゆえに、その原本がいざとなつたときになくなりましたというようなことにせざるを得ないというふうに言う人があります。かんじんなときにかんじんな書類がなくなるというようなことから考え合せますると、さような疑いを持たれるのもやむを得ないことであると思うのであります。さような点について、この問題については世間でいろいろ見方があります。国民の中には、私がこの法務委員の一人であるという関係で、鹿地君が自殺を企てたあれも、狂言自殺ではありませんかというふうに言うた者もあるのであります。その点について、私は狂言自殺じやないんだ、ぼくの判断では、あれは自分の活動がアメリカ占領軍の方に漏れたという意味で、ほんとうに真剣に考えて自殺を企てた、そのときに書き残したもの等、その他の事情から考えて、あれは決して狂言とかいうようなものではないというふうに答えておきましたが、さように一つの事柄についても、国民の間にはいろいろの見方があるときであります。さようなときに、一国の治安の責任を持つておる国警が、天下の耳目を集めておるこの事件の捜査中に、かんじんな書類がなくなりましたというようなことでは相ならぬ。この点はこの機会に特に強く申し上げたいのであります。  なお、われわれ法務委員会で問題を取扱うにあたりましては、外交の上にどうだこうだというようなことはとんちやくすべきものではないと私は考えております、政治をやる政府はその責任を持て、しかしながらわれわれとしては、正しきを正しくするという意味において事案を明らかにしなければならぬ。さような意味で、私は講和条約発効後の監禁について、それが不法監禁疑いがあるという点、これは見方であります。もうそれだけあれば不法監禁に違いなしというふうに結論を出しても十分だと思うのであります。ただ一番かんじんなアメリカ側証拠について、アメリカ側の具体的な協力がないために、そこをその程度までにしなければならぬと思つております。こういう点につきましても、少しく問題は別になりまするけれども、われわれ法務委員会としては、占領中にはさような自由を持ちませんでしたが、独立になりましたので、あの東京でなされた戦犯に対する裁判、あるいはまた広島で落された原子爆弾というようなものが、一体国際法的に適法なりやいなや、それに対して責任を追究すべきものなりやいなやというような点については、われわれ委員法務会として取上げてやらなきやならぬ、さように考えております。これは日本独立、正義のためには、どこにさしつかえがあつても、そんなことにはとんちやくしないでやるんだという独立国の気魄を示す意味におきましても、今貧乏をしておる日本でありまするが、精神的な面では、どこまでもやるのだという気魄を世界に示す意味でも、原子爆弾の唯一の体験者である日本国民が、原子爆弾の投下の当不当、違法適法という問題について何らの意思表示もしないというようなことであつてはならぬというふうに考えております。さような意味でも、このたびのアメリカ協力が私どもの期待するほどに沿わなかつた点について、まことに遺憾に考えております。さような点を申し添えまして、田嶋君のこの結論、事実認定に対する判断について私どもと同じでありまするゆえに賛成する次第であります。
  18. 小林錡

  19. 岡田春夫

    岡田(春)委員 われわれ労農党は、田嶋委員の提出されました結論に対して反対をいたします。反対理由はあとで申し上げますが、まず第一に、その取扱い方についても、われわれはきわめて納得をし得ないのであります。先ほど休憩中にも、われわれ話をしたのでありますが、今度の結論を出すにあたつて、昨日伝えられるところによると、というよりもむしろ私自身が田嶋委員から聞きましたところによりますと、すでに各党の間でこの結論なるものを打合せの上できよう出された模様でございまするが、これに対しましても、われわれ労農党といたしましては重大なる関心を持つているにもかかわらず、なぜかこの結論の草案なるものを、われわれが要求したにもかかわらず、見せておらないのであります。しかも昨日の打合せのときにおきましては、この結論なるものについては、各政党の一部にはこの結論を配付しておきながら、われわれがこれを要求したことに対してなぜか故意にこの結論ができておらないという理由をもつて提示しなかつたのであります。しかもこのようなことで、きよう突如として田嶋委員結論なるものをここに出しまして、そうしてそこでただちに討論に入るというようなことをとつたということは、問題がきわめて重大であるだけに、国会法の精神田嶋君を初めとしてこれに関連するものが蹂躙をしたと言わざるを得ないのであります。このような重大な事件については、田嶋委員からこの結論案なるものが提出されました場合においては、当然各党にこれを持ち帰つて、この結論案の文案について詳細に検討する時間を与えて、そのあとにおいてこの結論に到達するのが過去九箇月にわたつて慎重に討議、調査をいたして参りました鹿地事件についての結論を見出すための最も至当なる方法であると私は考えますが、当初においてはきわめて慎重の態度をとりながらも、最後において急にそそくさと何らかの結論をいわばでつち上げて、こういう形できようの委員会を通過させようとしているのであります。このような方法については、われわれは断じて承服することはできない。このような方法をとられたということには理由があるから、このような方法をとつているのである なぜならば、この問題を今後においてますます慎重に調査をするということになるならば、鹿地事件の本質というものが大衆の前に暴露されて来るということを恐れているものにほかならないのであります。すでに先日の板垣証人、あるいはそれに関連する山田証人証言によつても、または鹿地証人証言によつても事実がだんだん明らかになつて参り、その事実が明らかになるたびに、この結論案なるものを急いで早くつくつてでつち上げて委員会を通さなければならないというところに追い込められたからこそ、昨日において急に各党と打合せをして、きようここで多数の力によ。て押し切ろうとしているのであります。しかもこのあとで待ち構えていることは、齋藤国警長官もここにおりますから、私ははつきり言つておきますが、この委員会における結論案が出されたあとにおいては、当然おそらく鹿地本人に対して、今度は国警がこの間出しておる逮捕令状を、今執行を停止していると言つているが、片方において逮捕令状という強権を持ちながら、このあとでは鹿地事件に対して半ば脅迫的な形において証言調査をしようとする挙に出ることは明らかであります。今度の法務委員会において、ことさらにこの調査を取急いで結論を出したということは、この点にも関連を持つていることであるといわなければなりません。私はこういう意味においても、まず第一にこの取扱いについて反対をしなければならないと思います。  第二の点は、調査報告結論でありますが、この調査報告結論が社会党の左派までを含めた各党の間の話合一い――極端な言葉で申し上げますならば、なれ合いのもとにおいてつくられた結論であるが、この結論においてはわれわれは絶対に承服することはできない。この内容の一々を見て参りますと、具体的に今まで九箇月にわたつて証言が行われて、しかも不当監禁の事実があがつているにもかかわずら、この事実については具体的な例証をことさら使わないで、それ以外の点であいまいなる形でこの結論をつくり出そうとしている点であります。伝えるところによると、当初の結論案によれば、アメリカ側の情報を五〇%、この法務委員会の今までの調査による結果を五〇%、大体半々の立場においてこの結論案を出そうとしたそうでありますけれども、さすがにこのような五〇%ずつの半々の結論では、法務委員会の権威にもかかわると見てか、という意味においてか、これに色をつけて、あやをつけて、法務委員会のかつこうだけをつくつて、そうしてこの結論をつくつているように思われる。しかもその内容を見ると、講和条約発効以前において、以後においてというようなことを書いておりますが、この以前と以後において問題をことさらに区別をして取上げる必要はないと思う。大体われわれはあの講和条約なるものが、日本の植民地奴隷化をしいているところの条約であつて、いわゆる講和なるものとは考えておりませんけれども、しかしながらこれを二つにわけて規定をしているということは、この調査報告結論の体裁としては体をなしておらないと思う。なぜならば、問題は、鹿地という人の逮捕をされている事実は、講和の前後に限らず、その人本人の不当な人権蹂躪は、この講和を限つて、その前後において区別すべきものではないからであります。しかも講和前において――たとえば百歩譲つて講和前においては、アメリカ占領下であるために、それならば不当なる人権蹂躙アメリカの手によつて行われてもいいということは、われわれは言えばいと思う。講和前においても、アメツカが不当な逮捕を行つて人権蹂躪が起こつたとするならば、日本国民としては、当然これについて抗議をするのがあたりまえでなければならない。この点についてはなぜか触れようとしてねらないのであります。このあとにおいて私は具体的な事例をあげて申し上げて参りますけれども、このようにして一つ一つの点においてこの結論なるものはまつたく不当なるものであります。いわばでつち上げとしか考えられないと思うのです。監禁の事実の問題にしても、一昨年の十一月の二十五日に鹿地氏が鵠沼において逮捕をされてから以降、岩崎邸あるいは川崎のTCクラブ、そのあとでは茅ケ崎へ、そしてまた沖縄へ連れて行かれて、さらに渋谷に連れて行かれて、そうして最後に解放されるまでには事実不当な監禁が行われて、本人が逃げ出そうとしても逃げ出し得ない状態にあつたことは、今までのこの法務委員会において喚問された証人によつて明きらかに暴露されている事実であります。川崎のTCクラブにおいて一昨年の十二月二日に、自殺の未遂をやつたという事実についても、そうしてそのあとにおいてもTCクラブにおいて不当な監禁が続けられたことについては、証人山田善二郎君あるいは板垣幸三君によつて明らかに証言をされているのであります。これ以外に証言をすべき道はないではないか。これ以上にまだこの事実を不法監禁として証明し得る事実が何かあるならば方法を出してもらいたい。それ以外に明らかなる不当事実を証明する方法はない。これで明きかなる不当の事実を暴露しているのであります。また十二月の中旬以降においてはこの点は重要でありますが、キヤノンの手によつて鹿地さん自身がみずから自供調書を強要されて書かされている。この自供の調書が、三橋事件なるものをでつちあげた根拠になるのでありますが、この自供調書を書かされて、そのあとで続いてTCクラブにおいて監禁が続けられた。そして先ほども言うように、そのあと茅ケ崎へ行つたことについても山田証人が明らかに証言をしていることは事実であります。このような事実になぜかしらこの結論案に対しては触れないで単に不当監禁をされた疑いがあるという程度で、不法監禁があるものといわなければならないという程度でこれをごまかしているというのは、この結論案がいかにいいかげんなものであるかということを明らかにしていると思います。  それからその次には鹿地亘という人が、鵠沼において逮捕をされたということは、占領中において何かスパイの容疑があつたためにアメリカ軍によつて逮捕されたのであるといわれているが、しかしこれは事実でないことは、この間の法務委員会証言において明らかに暴露されております。それは何かというと、板垣幸三という証人によつて、キヤノン機関のもとには、八月ごろから板垣君ではないけれども、ドイツ系の日本人が、――鹿地亘を鵠沼において内偵をしろという命令を、松井というキャノン機関の副官からドイツ系の日本人スパイに言い渡されている。この事実をもつてしても、鹿地亘という人がスパイの容疑で取調べられたのではなくて、先ほどだれかもいいましたけれども、戦争中に中国においてフアシズムの反対のために闘つて参りましたこの鹿地亘君に対して、再びアメリカスパイとして起用せんがために、ことさらに十一月二十五日逮捕をして、そうしてスパイになることを強要したという跡は歴然と見えているのであります。この事実については三橋の場合にいたしましても、板垣幸三証人が遂に死の脅迫をもつてスパイに追い込められたという事実をもつても明らかであります。しかもこのスパイであるという容疑については、三橋が証言するにあたつて、公判廷その他の証言においては、まつたくTCクラブにおいてキヤノンから強要されてつくらせられた自供調書に基いてこのスパイの容疑がつくられている。この事実がもしうそだというならば、これは齋藤国警長官が去年の暮れに鹿地亘氏の自供調書なるものを発表いたしておりますが、これと対比してみれば明らかに出て来る事実であると私は考えます。  第三にキヤノン機関の存在でありますが、キヤノン機関の存在をこの機会に明らかにしない限りにおいては、鹿地亘氏の不当逮捕の問題は出て参りません。ところがこのキヤノン機関の存在がすでに大体明らかになつているにもかかわらず、最近の法務委員会においては、キヤノン機関の実体にわれわれが触れて行こうとすると、ことさらに委員会ではキヤノン機関の実体に触れることをさえぎろうとしておるのであります。その証拠に先日の法務委員会において、委員長がおらないあとに田嶋君が委員長代理になられたのでありますが、あのときに私がキヤノン機関の実体を明らかにするために青パスの問題に触れようとしたところが、この青パスの問題については事件に直接の関係がないから、触れてはいけないといつて委員長の職権をもつてこの点についての証人に対する質疑を押えております。このようにしてキヤノン機関の実体に触れさせないようにするということは、鹿地事件の根本問題に触れさせないことなのでありますが、こういう問題をあいまいにしようとしているのである。ところが板垣証人の言葉によりますと、キヤノンの機関というのは、ダレスが日本講和条約の交渉をするためにこちらに来朝するのにあたつてアメリカ政府機関であるCIAの一機関として設けられたものであり、昨年の二月の二十日までその機関の存在しておつたことを認めております。こういう点から考えましても、キヤノン機関の存在を明文化するのが当然であると思う。こういう点については結論案には書いておらない。そうしてまたキヤノン機関日本警察との交渉についても、再三の証言があつたにもかかわらず、これについては触れておりません。斎葉国警長官、田中警視総監が、多くの証人によつてキヤノンの機関のキヤノン邸に出入をしておつたことも証言の中に出ております。ところがこの点についても触れておりません。そしてまた鹿地亘氏がアメリカ側から釈放される以前に、斎藤国警長官がすでに鹿地亘氏が不法逮捕されているという事実を知つているということから考えても、キヤノン機関あるいはアメリカ機関日本警察との間に連絡のあつた事実は、明らかにこれによつても暴露されておるのであります。  その次の問題としては、三橋との関係でありますが、三橋と連絡をとつた鹿地亘スパイであつたというようなことを、最近盛んに問題として持ち出しておる。そうして鹿地亘氏の不法逮捕の問題については、スパイであつたのだからやむを得ないというような形で問題をごまかそうとしておる。ところがこれについては何ら具体的な物的証拠は出ていないじやないか。たつた一つの物的証拠と言われるはがきの問題にしても、先ほど木下君が触れた通り、このはがきがなくなつてしまつて、そうしてはがきとして残つておるものは写真だけであるというようなああいういいかげんなことで鹿地亘スパイであるということを例証する何らの根拠も出て来ないではないか。それにもかかわらず何か一部の間においては鹿地亘が三橋と連絡をとつたスパイであるから不法逮捕をされたのはやむを得ないのだというような印象を与えるがごときデマ宣伝を行うことによつて問題をあいまいにごまかそうとしておるのであります。しかもこの三橋の問題については先ほど申し上げたように自供の調書によつて三橋がつくり上げた三橋事件なるものはさる芝居であります。このさる芝居を中心にして問題をごまかしておる。この間の法務委員会証言等を見ても明らかになつておることは、鹿地亘君が渡した薬箱の名前は何であつたか、こういう点については三橋君は何ら証言することはできなかつた。あるいはまた天候の問題についても三橋君の証言についてはあいまいなところがある。そしてまた三橋君の証言について私が質問いたしました場合においても、鹿地亘事件については日にちは明確に知つております。しかし鹿地亘事件よりも以降に起りましたいろいろな事件の日にちについては、ほとんど記憶した明確な日時を言わないのであります。こういう点から言つても、それ以降のより近い事実については日時を言わないで、それ以前の鹿地亘関係だけの日時をあまりにも正確過ぎるほど、それこそ正確過ぎるほどに言うということは、何かでつち上げの上でつくられた三橋のいわゆる証言といわざるを得ないのであります。こういう点から言つて鹿地亘スパイ容疑ということについては、何らこれを証明し得る物的な証拠もないし、これを明らかにするものもないのであります。たとえば百歩譲つて三橋の証言の通りであるとするならば、三橋は毎月鹿地亘氏から一万二千円ないし一万五千円の金を受取つたと言つておる。ところがこの金を受取つた三橋自身は、齋藤さんも御承知のようにあそこにりつぱな家を建てておるじやありませんか。ところが金を渡したという鹿地亘は一体どうだ、家を建てるどころか、あの服装を見てもわかるじやないか。あの財政的な窮乏の状態を見てもわかるじやありませんか。同じスパイでありながら片方の金を渡す立場にある、この鹿地の方がいつも貧乏な状態であつて、金を受取つておる者が家を建てておる。こんなことがあるわけはない。金を渡しておるというこの事実は、これだけでもうそであるということを暴露しておるに違いない。こういう点についてもこの調査結論は何ら触れようとしておらない。そしてまた最後の点においてはアメリカ側発表というものがきわめてあいまいであります。私は前国会においては法務委員ではありませんでしたので、前国会における法務委員会調査状況は詳細には知りませんけれども、しかしながら鹿地事件の起つた直後においてアメリカ発表した声明と、それ以降においてアメリカ発表した声明とには大きな食い違いが出て来ておることも事実であります。しかももしアメリカ側ほんとうにこの事実がないのだとするならば、先ほど木下君も言つたようになぜキャノンなり他の者を日本法律的な措置はでないきとしても、法務委員会証人として呼ぶことはできないにしても、向う側から堂々と出てもらつてその事実が違うということを証言させないか。こういうことすらやらないで、あいまいな、しかも前とあととが相反するような声明でごまかしておるということは、この鹿地事件というものは三橋事件に結びつけられてでつち上げられたものである、鹿地亘氏は明らかに不当な逮捕をされたものであると断定せざるを得ないのであります。この意味においてもこの鹿地亘事件における調査結論は、田嶋委員個人案であるかあるいは自由党案であるか、あるいは各党のいわゆるなれ合いの案であるか私は知らないが、この案については私は絶対に賛成することはできない。よつてここに私は修正意見を提出いたしたいと思います。時間の関係もあるので、討論と一括してやりたいと思いますが、委員長いかがですか。
  20. 小林錡

    小林委員長 許します。なるべく簡単に願います。
  21. 岡田春夫

    岡田(春)委員 従つて私はこの調査緒論に対しての修正意見を討論に次いで提出いたしておきたいと思います。  まずこの四ページの「一、平和条約発効前の事実について」とあります中で三行目の「平和条約発効の日まで」から六ページの四行目「又、同人が、」までを削るのであります。従つてつたあとは「鹿地亘本名瀬口貢)が占領中の昭和二十六年十一月二十五日江ノ島電鉄鵠沼駅付近において逮捕され、昭和二十六年十二月二日川崎東銀クラブにおいて自殺をはかり、未遂に終たことも明白である。」こうなります。そうしてそのあとの「しかし、これらの占領中の事実は本調査の主たる目的ではない。」というのを削るのであります。それから「二、平和条約発効以後の事実について、」とあります幾つかの括弧がついている例の問題のやつですが、これの三枚目の初めにあります「(三)、夜間米軍用機で鹿地沖繩へ連行したこと等の事実の存することは、これを認めざるを得ないので、」その次に七字を入れて二字を削りまして「これは明らかに不法監禁があるものといわなければならない。」といたします。それからその次の行の「なおまた、米側より保護並びに援助を」云云というところから「これを肯定することはできない。」までの六行を削るのであります。  私の提出いたしました修正意見は以上の通りであります。
  22. 小林錡

    小林委員長 これにて討論は終りました。  お諮りいたします。まず岡田春夫提案の修正意見を採決いたします。本修正意見に賛成の方の御起立を願います。     〔賛成者起立
  23. 小林錡

    小林委員長 起立少数。よつて本修正意見は否決されました。  田嶋君の提案を、鹿地亘関係事件についての本委員会結論といたすに賛成の諸君の御起立を願います。     〔賛成者起立
  24. 小林錡

    小林委員長 起立多数。よつて田嶋提案の通り、これを本委員会結論とするに決定いたしました。  なおただいま決定いたしました結論は、これを文書に作成し、外務大臣、法務大臣及び国家警察部長官へ参考送付することとし、外務大臣に対するものにつきましては、その趣旨にのつとり、適当なる処置をとられたい旨を付加することといたしたいと存じますが御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  25. 小林錡

    小林委員長 御異議なしと認め、さよう決定いたします。  なお各文書の作成につきましては、委員長に一任願いたいと存じますから、さよう御了承願います。  暫時休憩いたしまして、午後二時半から再開いたしますが、第三委員室にかわりますから、御了承願います。     午後一時四十三分休憩      ――――◇―――――     午後三時九分開議
  26. 小林錡

    小林委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  人権擁護に関する件並びに法務行政に関する件について調査を進めます。発言通告がありますから順次これを許します。高橋値一君
  27. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 私は法務大臣にお尋ねをいたしたいと思います。法務大臣は連日御奮闘のために健康を多少そこねていらつしやると聞いておるのでありますが、それにもかかわらずまげて御出席になりましたことに対しては、私はまず敬意を表する次第であります。法務大臣の責任は、申し上げるまでもなく日本の現在の国情からいたしまして、わけても社会の治安を維持するという点についてきわめて重大な立場におられますので、私は今期満了に近ずきましたただいましかも大臣の御健康の点をも顧みず、あえてこの機会に質問いたしまして、政府の所信あるいはその御決意等を明らかにいたしておきたいと思うのであります。大臣も御存じのように、現在日本には至るところに犯罪捜査に関連して人権蹂躪の問題が起つておるのであります。私どもの手元にもそれに関する印刷物等が盛んに送つて来られますし、また当委員会においても過般審議の対象になりました問題として、たとえば福永派の選挙違反事件取調べ中、関係者が自殺したとかあるいはまた私どもの政界の先輩である中島先生のごときは、東京都内における警察署において取調べを受けておる間あるいはまた検察官の取調べを受けておる間に、聞くところによると取調官の暴行によつて傷害を受けたというような事例もございますし、またこれは表面まだ問題に出ておらぬのですが、おそらく大臣もびつくりなさると思うのですが、これは私は証拠をあげろとおつしやるならばあげることは容易なのでありますが、ちようど昔の徳川幕府時代に用いておつた拷問と同じように、被疑者をうしろ手に縛つて、そしてその繩をうしろから首にかけて、手を下げれば首を絞める、手を下げなければ手が非常にだるいといつたような形において、旧幕時代の典型的な拷問方法によつて取調べを受けたという人間が、ただ一人にとどまらないというような事例もあるわけなんであります。こういつたような例をあげれば枚挙にいとまもございませんが、至るところにそういつた問題があるわけであります。そうしてそれは多くは弱い者いじめというような結果に終る場合が、私は非常に多いと考えております。その半面におきまして、先般当法務委員会において問題になりましたが、大阪地方裁判所の法廷におけるいわゆる吹田事件の公判開廷中に、黙祷をしたりあるいはまた拍手をしたりして、私どもの常識から申しますと、とうてい法廷の秩序が保たれておらぬというような事件が起つてつておるのでありますび裁判官といえどもども公平に考えますと、何だか強い力に引きずられ、弱い者に対しては人権尊重とい、点が、はなはだしく足りないというようなことが露骨に現われて来ておるというふうに思うのであります。かかる検察、裁判の一つの憂うべき雰囲気というものがあるまつただ中において、私どもはいわゆる社会秩序維持のためにどうすべきものであるかということを真剣に考えなければならぬと思うのであります。  そこでそれに関連をいたすわけでありますが、過半多くの新聞紙が報道いたしたところでありますが、去る七月の二十二日最高裁判所の大法廷において、いわゆる政令第三百二十五号事件、すなわち占領目的阻害行為処罰令違反事件に対して免訴の言い渡しがなされました。これは天下の注目を浴びておるという状態なのであります。その新聞の記事に徴しますと、当該事件はアカハタ後継紙平和のこえを配付したもので、第一審、第二審とも有罪の判決があつた。そして被告人側から昭和二十七年四月、すなわち一年三箇月も前に最高裁判所に対して上告をしておつた事件であります。もしこれが一州事事件にとどまるというのでありましたならば、この際私は法務大臣の出席まで煩わして質問をする必要はあるいはないのではないかと思うのでありますけれども、この免訴の裁判を受けました事件のほかに、現在裁判所に係属しており、しかも同じように免訴の言い渡しを受けるべき運命にある同種の事件が千数百件にも上るというような記事が出ておりますので、これは私の知識をもつていたしますと、日本の検察、裁判の歴史上ほとんどその例を見ないようなことと考えられるのでありまして、国民といたしましても、その内容なり、今後の処置なり、またこれに関する政府の政治的責任等について知りたいところなのであります。従つてこれに関連して私はまず第一にお尋ねをいたしたいと思いますことは、最高裁判所がこういう事件について、昨年の四月一日に上告された事件を、一年三箇月という長い期間裁判所の手元であつためておつた、その判決が容易に下されなかつたということについて、法務大臣はその原因は一体どこにあるとお考えになるのであるか。私はこれはきわめて重大な問題であると思うのであります。当委員会に提出されましたところの実態調査の記載によりまして、すなわち最高裁判所訴訟遅延の実態調査書によりますと、民事事件はさておきまして、刑事の上告事件のごときも非常に現在係属しておる手持ちの事件というのがたくさんあるのです。昭和二十七年の十月末現在の刑事上告事件の未済事件は、五千五百八十件と、こういうのであります。古いものになりますと、昭和二十二年受付の未済事件もあるというような記載がここにございますが、そういう古い事件、そうして多数の上告事件の未済件数がある。しかもそれには幾多重大な問題があります。ものによりますと、被告人は裁判が長引くことによつて、それであるいは利益を受ける人が時にはあるかもしれませんけれども、すみやかに判決が下つて右か左かはつきり決定をしてもらいたい、しかも無罪たることを確信しておる人たちが、その裁判の遅延するということによつて、忍ぶことのできない苦痛があるわけであります。ある人の言葉によりますと、自分は起訴をされて、そうして訴訟が長引くので、もう自分の後半生というものは、これは被告人として暮すというような気持がするので、職業的にもまた社会的地位、生活上からいつても、まつたく廃人のような感じがする、こういうことを漏らしておられた人がありますが、この未済事件の多数の被告人の中には、そういう人も相当あると思うのであります。私どもつたない、しかも浅い経験によりましても、封建政治というものはある時代には裁判を遅延せしめることによつて国民の権利というものを圧迫して、そうしてその苦痛によつて国民の力というものを弱体化さして、そうしてそれによつて専制政治の権力を維持して来たという事例もあるわけであります。民主主義政治のもとにおいては、訴訟促進ということが、やはり一つの精神、理想となつておるわけであります。こういうふうな最高裁判所の未済事件がたくさんある。ことに政令第三百二十五号事件のごときも、先ほど申し上げましたように、長い期間最高裁判所の手先であたためられておつた。こういうようなことでは憲法の掲げておりますいわゆる司法憲章の精神に沿うものでないと私は考えますので、この点について、その原因がどこにあるのであるか、そしてそれを是正して行くにはどういう方法をお考えになつておるのであるか。裁判所のことであるから法務省は全然知らないぞとおつしやるのか。それらについての法務大臣の御所見を承りたいと思うのであります。
  28. 犬養健

    犬養国務大臣 高橋さんにお答え申し上げます。今お言葉をいただいて痛み入りますが、昨日病気のため御質疑にお答えできなくて、深くおわび申し上げます。  本日の御発言のうち、最初に人権擁護の問題がありましたが、これは忌憚なく申し上げまして、わが国ではまだ国民自身に徹底しておりません。過般来この委員会で取上げられた問題についても、人権尊重の問題よりもスパイ事件として、世間に非常に興味を持たれたというようなことでありまして、午前中木下委員からも御指摘がありましたが、私は日本の世相としては、あの御批評が当つていると思います。これは鹿地君の思想いかんを問わず、外国だつたらもつと人権問題の方が表に出たと思います。それだけに私は法務省の役割というものが非常に責任が重いと感じておるのであります。これは余談になりますが、つい先日通りましたスト規制法についても、結局個々の具体的な事案を扱いまして、起訴か不起訴かをきめるのは、私の方の仕事なんです。これは十分運用について責任感じて、個々の人権擁護ということを、細心に注意したいと思つておるようなわけであります。たいへん話がそれたようでありますが、私は法務省の責任が非常に重いと考えておりまして、ただいま高橋さんの御指摘になりました拷問のやり方、これはもし真実なら驚き入つた話がありまして、どうか、私の方では人事を扱うときの心得もありますから、そういう極端な例はひとつ御遠慮なく個人的にも教えていただきたいと思います。そういうことが早く日本国で一掃されてなくなるように努めることも、私の重大責任だと思いますので、ひとつ具体的にお教えを願えれば、私どもはただちに問合せもいたしますし、真実ならば何らかの処置も考えなければならぬと思つております。  次の政令三百二十五号についての最終判決が最高裁でありましたについて、裁判所における未済事件の山積というお話がありましたが、これは率直に申し上げて、今はもはや輿論になりかけていると思うのであります。御承知と存じますが、法務省は決してこれを人ごととは思つておりませんで、実は法制審議会で取上げておりまして、法制審議会の重要な諮問事項の一つに、裁判所の構成の再検討ということがありまして、この春でありましたか、最高裁判所から事務次長に来てもらいまして、法制審議会の部会の席上、最高裁としての立場からの詳細な説明を聞いたようなわけであります。これは根本的な裁判所の構成にも関係しますので、拙速をたつとぶという審議のやり方はいかがと思つて、十分慎重にやつておりますが、これは早晩結論を出さなければならぬと思つておるのでございます。この次あるいはその次の通常国会あたりには、あるいはこれについての御意見なり御審議を願うようなことがあるかもしれません。なるべく早く結論を出したいと思つております。政令三百二十五号そのものにつきましては、特殊な案件でありまして、つまり占領行政の行われている間は占領行政に反する行動言論はこれを罰しなければならぬという、一つの特殊事情に、占領行政が終つたあと日本国全体に一つの批判的な心持が起つた、こういうことが言えると思うのであります。一般の裁判の未済事件の停頓は今申し上げたような事情でありますが、政令三百二十五号についての最終判決がなぜ遅れたかと申しますと、今申し上げたようなわけでありまして、最高裁の裁判官中にも、御承知のように政令三百二十五号は失効したとはつきり断定する人、有効であるとはつきり断定する人、それからその中間的な意見を持つておる人もありまして、御承知のように少数意見として社会にも公表されたようなわけであります。そういうようなわけで、だんだん遅れたものと思います。これは特殊の事情も含んでおりますけれども、しかし一般的には確かに御指摘のように、裁判所の未済事件というものは山積停頓しているのでありまして、これは今お話がありましたように、一人々々の被告の生活にも関係することでありますし、名誉にも関係することでありますから、早晩これは何かの結論を出さなければならぬときが来ていると思つているのであります。法制審議会の方の審議もできるだく促進させたいと考えておりますから、どうかそのように御了承願いたいと思います。
  29. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 人件の擁護に関する問題はあとまわしにいたしまして、政令第三百二十五号事件関係の点をまずお尋ねいたしたいと思うのでありますが、ただいま最高裁判所の訴訟遅延については法務当局としてもいろいろ御心配になり、その対策を目下御研究中と承つて、はなはだ意を強くする次第であります。私はどうもものを率直に申し上げる方でありましてお聞き苦しいかとも思いますけれども日本が戦いに敗れてから後、日本再建のために公私をわかたず貧しい生活を克服して労力しなければならない今日、国民は比較的高率の税金を納めております。そのときに私ども東京で建物を見ますと、最高裁判所の建物というのは実にりつぱなものである。おそらくこれは日本一の偉容、美観を呈しておるのではないかとさえ思つておるのであります。そしてまた裁判官の部屋とかあるいは備品とかいうものは、これは戦前見ることのできなかつたような、実にりつばなものを備えられておるわけなのであります。そういうところで、しかも日本の国権の発動としてのきわめて崇高な立場を持つておる最高裁判所しかも非常に待遇がりつぱであつて、国務大臣と同等もしくはそれ以上の待遇を受けている裁判官がおいでになりながら、どうも日本の司法権を十分に発場することができない、かえつて司法裁判の威信がそれによつて傷つくのではないかとさえ憂えられるような事態が起つて参りますことは、これは国民の気持としては実に言うに言われない、情ない気持がいたすわけであります。第一審裁判あるいは第二審裁判のごとく事実審理におきましては、あるいは被告人がこれに協力しないとか、あるいは中には弁護人も十分訴訟促進のために協力しないとかいろいろな事情があつて、間々訴訟が遅延することがあり得ることを私は率直に認めなければならぬと思う。だからその点については、被告人側も弁護人側もまた反省しなければならぬところがあると思いますが、最高裁判所におきましてはそれとは趣を異にして、ほとんど書類の上で最高裁判所が独自に考え、まつたく自主的に解決をつけて行けるべき立場にある。そこに数千件という大量の未済事件が山積するということは、それだけでも国民は裁判というものを信頼しなくなるであろう。あのりつぱな建物で、あのりつぱな待遇を受けておられる最高の地位にある人たちは、一体何をしておるのであろうかという疑いが起つて参りまして、それがもととなつて、私は司法裁判のために非常に悪い影響を与えると考えるのであります。この問題解決のためには、法務大臣は全力をあげて御努力になつて国民の要望にこたえていただきたいということを私はまず要望いたしまして、次にお尋ねいたしたいと思うのであります。  そこで先般免訴の裁判のございました、いわゆる政令第三百二十五号事件の内容は、先ほど私は新聞に出ておりましたことを引用いたしましたが、あれと同じ内容であるかどうかという点と、最高裁判所の判決の要旨でありますが、これは私は非常に重大な問題を含んでおると思うのでありまして、事件の内容及びその判決の要旨をここで明らかにしていただきたいと思います。しかしこれはきわめて事務的なものでございますから、直接大臣からお答えくださつてもよろしゆうございますし、そうしていただければけつこうですけれども、あるいは岡原刑事局長から御説明つてもけつこうなのでございます。その点をまずお伺いいたしたいと思います。
  30. 犬養健

    犬養国務大臣 要すれば私はまたあとで申し上げます。
  31. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 ただいま問題になつております最高裁判所の免訴判決のありました事件は、いわゆるアカハタ後継紙の事件でございます。これは御承知の通り、政令第三百二十五号違反として起訴せられたものでございます。政令第三百二十五号、すなわち占領目的阻害行為処罰令と申しますのはわずか三箇条の条文でございますが、第一条において占領目的に有害な行為の定義を掲げ、要するに「連合国最高司令官の日本国政府に対する指令の趣旨に反する行為、その指令を施行するために連合国占領軍の軍、軍団又は師団の各司令官の発する命令の趣旨に反する行為及びその指令を履行するために日本国政府の発する法令に違反する行為」これが第二条で「十年以下の懲役若しくは二十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」というふうなことになつておるのであります。この三百二十五号がさような広範囲な立法形式をとつておりますので、その内容たる指令は非常にたくさん出ておるのでございますが、そのうち本件で問題になりましたのは、いわゆるアカハタ後継紙の事件でございます。これは昭和二十五年六月二十五日並びに七月十八日に、アカハタの発行停止及びその後継紙、同類紙の無期限発行停止に関する総理大臣あての書簡が出ております。これは長文のものでありますから省略いたしますが、これに関する違反という犯罪事実でございます。この事件が一審、二審有罪になりまして最高裁に参つたのでございますが、なお最高裁判所において、この種の事件は八十数件あつたわけでございます。法律問題としては全部同じような立場に立ちますので、この三百二十五号に対する坂上という被告の事件でございますが、その事件が先例になつて、ほかは片づくわけでございます。判決は大体三つの考え方がございまして、その多数意見が免訴の判決を支持しておるというので、免訴になつたわけでございます。そのうち大名の裁判官につきましては、この占領期間内においてさような指令並びに政令三百二十五号は問題なしに合憲であつた、憲法に合致しておつた従つてその当時これを処罰し得たことは問題がない、この点はすべての裁判官に共通な意見でございます。ところがこの占領終了後にこの効力がどういうふうになるのであろうかということに関しまして、その六名の裁判官の意見は、もはや占領後最高司令官が存在しなくなつた従つてその指令に対する違反行為というものは起り得ない、従つてこの指令違反を理由とする本件政令三百二十五号は当然失効するに至つたというふうな考え方でございます。従つてその考え方は、例の昭和二十七年法律第八十一号、これはポツダム政令の廃止に関する法律、いわゆる親法といわれているものでございますが、これに平和条約発効後ポツダム政令は百八十日間は法律としての効力を有する旨を規定しておる、従つてもしもその内容が憲法に反しなければ、これはそれで問題はないわけです。しかし内容が憲法に反する限りにおいてはこれは無効である、憲法違反であるというふうな考え方でございます。それをさらに判断いたしまして、このポツダム命令であるところの政令第三百二十五号というものは、先ほど言つたような性質を持つておる、つまり指令に内容が新憲法下においては起り得ざることである、つまり憲法の精神に反しておる、さような趣旨からいたしまして、三百二十五号違反というものは全然処罰ができなくなつたのだ、たといそれが占領以前の犯罪事実としてその当時において処罰し得たものであつて保護は全然できないのだ、その見解によりますれば、法律第百三十七号、例の三百二十五号の政令を廃止しまして、その罰則の適用については従前の例によるといたしました。そして本件の処罰の根拠規定とされておつた法律第百三十七号は憲法三十九条違反として無効である、かような考え方が第一説でございます。  次の四人の裁判官の意見は、大体占領期間中ポツダム政令並びに三百二十五号政令が有効であつたことはもちろん問題がない。しかし政令の内容たる指令を一つ一つ考えてみると、これは一概には言えない、それは平和条約発別後においても憲法のもとに許されるような行為もあろうし、また占領の確保のために占領軍の利益のためにのみ発せられたようなものもあろう、その占領軍の利益のためにのみ発せられた趣旨のものは、今後は当然問題にはならない。ただその内容がなるほどポツダム政令という形では出ておるけれども、内容的には新憲法に合致して、そうしてそれはやはり違反しては困るのだという趣旨のものであれば、これはやはり三百二十五号の内容として指令違反になり得る、かようなことで、そういう立場から判断いたしまして、いわゆるアカハタ後継紙、同類紙に関しては、新憲法下はそれらのものを禁止する趣旨ではないのだ、従つてその指令違反の問題は起きない、つまりその指令を実質的に検討した結果、これは本件に関する限りは違反にならないというふうな考え方でございます。  それから第三説は、やはり四人の裁判官の意見でございますが、これは大体形式的には、単に法律として有効である、法律第百三十七号が合法的に法律で取上げられているということのみならず、その実体においてもいわゆる限時法的なものであつて従つてその法規というものは占領期間中のみならず、その最終の段階まで指令の内容を保護する必要がある。従つてこれは現在においても、その当時の行為は処罰       する、かような見解でございます。従つて六、四、四、というようにわかれたので、この本件に関する限りは第一説と第二説が多数意見になりまして、それで免訴になつた、かような事情でございます。
  32. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 まず事務的な問題を先に片づけておきたいと思いますが、そこでこの政令第三百二十五号、占領目的阻害行為処罰令違反事件について、平和条約が効力を発生するまでに起訴され、そうしてそれがかりに有罪になつて処分を受けたということについては、私ども取上げて質問する必要も何もないわけです。問題は平和条約発効後の取扱いについて、いろいろお尋ねをしなければならぬ点が出て参るのであります。  そこで第一に平和条約発効当時刑執行中のもの、政令第三百二十五号事件違反として有罪判決を受けて、それが確定して執行中のものが幾らあるか、お調べになつておればよいですし、お調べになつておらなければあとで承つてもけつこうですが、それをひとつ……。これはいろいろ問題があると思います。それからその当時裁判係属中のもので同種の事件はどのくらいあつたのであるか、平和条約効力発生後の裁判の結果及び刑の執行等――数学の問題のようなえらいごちやごちやとした質問でありますが、これがもしわかつておりましたらお伺いいたしたい。
  33. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 条約発効当時の昨年四月二十八日を基準とする調査はかなり困難でございますので、一応その前後を通じましての数字だけを御報告いたしますと大体おかりを願えるかと思います。講和条約発効前において三百二十五号事件のうち、アカハタ後継紙関係として起訴しましたものが八百七十六名でございます。その他の言論関係が四百七十一名でございます。合計一千三百四十七名となつております。それから条約発効後の起訴はアカハタ後継紙関係が一名、その他の言論関係が九名となつております。それからその後この事件の判決がどういうふうになつたかと申しますと、判決といたしましては御承知の通り全国非常に区々にわかれておりまして、あるところは有罪とし、あるところは無罪とし、あるときは免訴とするというふうにわかれておりましたが、ともかく第一次判決を受けましたものが七百五十三名ございました。そのうちアカハタ後継紙関係が四百六十六名、その他の言論関係が二百八十七名、第二次判決が済みましたものが二百五十六名、そのうちアカハタ後継紙関係百五十三名、その他の言論関係が百三名、そのほかに上告審において例の上告趣意書不提出で却下になつた事件が三名でございます。従つてこれは実態には入つておりません。それが今までのこの種事件の大体の処理状況でございます。
  34. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 私は平和条約効力発生後に起訴されたこの種事件の少いことを聞いて非常に安心いたしたわけでありまするが、そこでなおお尋ねいたしたいのは、平和条約効力発生当時裁判が係属しておつた事件は何件かということがわかれば、ひとつお答え願いたいと思います。  それからなおただいまの質問いたしておりまする先月の二十二日に最高裁判所の免訴の判決のあつた当時、裁判所に係属しておつた同種の事件が何件あるか、これをまず承りたい。
  35. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 平和条約発効当時に係属中の事件は、現在はかなり調査が困難であろうと思います。調べてみますと、昭和二十七年四月三十日現在くらいではあるいはわかるかと思いますが、二十八日現在では出かねると思います。しかし努力してみます。それから現在係属中の事件でございますが、これは下級審まで手が届きませんので、とりあえず最高裁において係属中の事件を調べてみましたところが、総数百四十名と相なつております。そのうちアカハタ後継紙関係が八十九名、一般言論関係が五十一名、さような内訳でございます。  なお、先ほど一審判決の済みましたもの、二審判決の済みましたものの数字をあげておきましたが、その程度において御了承願うことができるのじやないかと思つております。
  36. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 そこで問題は、いろいろ説はあるようですけれども、裁判官多数の意見によつて免訴ということが最高裁判所の意見になつた、そのときに同種の事件が多数係属しており、またおそらく相当の数の人が裁判確定によつて刑の執行を受けておるはずなんです。これに対して法務省は何か特別な御処置をおとりになつたのであるか、ならないのであるか、あつたとすれば、どういう処置をとられたか、その点をお伺いいたしたいと思います。
  37. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 あの判決が出まして、ただちに最高検察庁におきましては、これとまつたく同種の事件について、次のような措置を講じたのであります。その一つは、平和条約発効後判決が言い渡され、確定して、現にその刑の執行中の者につきましては、ただちに刑の執行停止の措置をとつて身柄を釈放するように、第二に、現に未決勾留中の者については、ただちに裁判所と連絡の上身柄釈放の措置をとるように、さらに第三には、従前発付された逮捕状、収監状があれば、その執行をして身柄を収容するということは差控えるように、とりあえず身柄の措置について緊急の手配をいたしたのでございます。なお確定判決のあつた者及び現在係属中の事件に対しましては、その妥当な処理方法を検討中でございますが、法律的には公訴取消の問題とか、あるいは非常上告等の問題があり得るわけでございます。なおこの方針をとりました結果、これによつて身柄の釈放をしたという者は、刑の執行中の者について三名、これが全員でございます。それから未決勾留中の者については二名になつております。ほかには該当者はございません。
  38. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 平和条約発効当時には、政令三百二十五号事件について、平和条約が効力を発生したからというので、特別な措置をおとりになつたことはないであろうと思うのですが、その点はいかがですか。
  39. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 平和条約発効の際に、例の法律第百三十七号の法案の御審議を願いまして、政令第三百二十五号を廃止することにいたしたわけであります。その罰則の適用についてはなお従前の例によるということにいたしまして、とりあえずの措置をいたしたわけでございますが、それはもとよりその当時までに犯された事件についてなお従前の例によるというのにすぎないのでございます。その後の事案の内審たる司令官の指令というようなものは、全部効力がなくなるわけでございます。従つてこれに対する違反の問題ということは起らなくなる、さような見地から、それ以上のことは特に手配をしなかつたわけであります。
  40. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 今度は法務大臣からお答えを願いたいのでありますが、政令第三百二十五号、すなわち占領目的阻害行為処罰令は、占領中の連合国最高司令官の日本国政府に対する指令の趣旨に反する行為を取締ることが目的であることは申すまでもありません。しかも占領中は、その違反行為について公訴提起ということを義務づけられていたわけであります。ところが一たび占領から解放されて日本独立国となつて、いよいよ一人歩きするようになつたならば、ここでうんと頭を切りかえなければならなかつたと私は思うのであります。すなわち連合国最高司令官というものはもういなくなつた、それに対する違反行為なんというものはこれから後にはあり得べきものではない、そして今までの違反行為といえども、もうまつたく無意味のものである、すなわち先月の二十二日に最高裁判所が判決を下したあの多数意見のごとく、何ら効力のないものであるということは、私は当然考えられるべきものであつたと思うのであります。そこで真に独立したものであるということを認識し、ほんとう独立の気魄をもつてこの種の問題を考えましたならば、大臣も岡原局長の答弁をお聞になつておわかりのごとくに、講和条約効力発生のときに、この事案の処置をしなければならないのです。つまり平和条約が効力を発生して日本独立し、マッカーサーの書簡に反するような事件はもうないのだから処罰目的を失つたものである。従つて最高裁判所の免訴の判決のあつたときの、先ほど岡原刑事局長説明されたごとき処置を、昨年の四月におとりにならなければならなかつたわけなんです。たしかその当時は犬養法務大臣ではなかつたと思いますが、しかし吉田内閣としては私は責任があると思います。これは午前中にも意見を申し述べましたが、独立したというても日本政府は本気になつていないような感じがしてならないのです。占領国の方も今までそこを占領しておつたのだからというので、いろいろの事柄についてその惰性というものがあり、また日本国の政府としてもやはり占領されておつた当時の気持が抜け切れないでおつたということが私はこういう事態を引起しておるのだと思います。だから、昨年四月講和条約発効の当時に、このたび免訴の判決があつたときにおとりになつたような措置をなぜとらなかつたのであるか、それをとらなかつたことに対して吉田内閣は何ら責任感じないのであるか、国民に対して申訳ないという感じがしないのか、その点犬養法務大臣からお答え願いたいと思います
  41. 犬養健

    犬養国務大臣 これは時代の切りかえという日本国民の心構えから申しますれば、高橋さんのおつしやる通りであろうと思います。御承知のようにこの政令三百二十五号が限時法として制定された当時、私は法務大臣はしておりませんでしたが、当時の事情をさかのぼつて察しますに、当時は法律家の間にも限時法の理論について相当やかましく論ぜられておつたような状況であります。どいたらすぐ急に手のひらを返すという態度も、いずれの民族とも合法であり、独立自尊心を持つておらなければならぬが、そういうような現金な態度もまた批判しなければならない。かたがたその中庸を得た意味で当時限時法的なものになつたのだろうと思います。今講和発効後の起訴の数が意外に少いというおほめにあずかつて、私非常にうれしいのでありますが、この問題は結局運用によつて、法の解釈はそうであるが、実際の起訴不起訴を定める場合の法の運用によつて講和発効後の日本民族としてのあるいは日本政府としての処置を良識的にやろう、こういう実際の運用面において苦心して来た次第であります。根本論としては高橋さんのような議論はある意味では正しく、また十分まじめに論議されていい問題だと思いますが、当時の事情としては、今申し上げましたように、限時法の理論というものも相当法律学者の間に行われまして、当時の政府としてはこういう限時法を設けるということにおちついたものと思います。私はそのあとを引受けている法務大臣としまして、運用でそこは良識とそうして講和発効後の民族の意識というものをその中へ含めて扱いたい、こういうふうにいたしたわけであります。
  42. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 ただいまの法務大臣の御答弁は私はとても満足できないのです。しかし当時法務大臣であらせられなかつたということについて、はなはだお気の毒であるとは思いますけれども、いま一言お尋ねをいたしたいと思います。と申しますのは、これは実は先ほど岡原刑事局長説明された昭和二十七年の法律第八十一号、昭和二十七年の法律第百三十七号の一部は憲法違反のことを規定しておつたのだ、こういうふうに最高裁判所は見ておるのだと私は理解いたしておるのです。政府も真に独立したという認識の上に立つての処置をとらず、また国会も、これはおそらく自由党が多数で押し切つてできた法律だと私は考えておりますが、最高裁判所で憲法に違反するのだ、これは無効だと言われるような法律をつくつてつた国会も、国民に対してまことに申訳ない。そこでその後に私の考えますのは、今ごろの国会のありさまを見て、ああいうどさくさのわいわい騒いでおる間にできた法律は、これはまた無効の法律をつくる危険が非常にあるということを考えまして、この際これは政府国会も大いに反省しなければならぬ、こういう立場に立つて、あえてお互いにその認識を深めて行こうという意味においても大切であると思つてお尋ねを続けるわけでありますが、最高裁判所が講和条約発効のその日にこの判決を下したならば、万事解決しておる。また政府当局においてはそういう処置をとらなければならなかつたと私は思うのです。また独立したといつたつて、明らかにこれは共産党関係機関紙を配つたのじやないかというくらいな頭が働いたのじやないかというふうに私は考えるのですが、それが非常に恐しいと思うのであります。午前中問題になりました鹿地亘君のごときは、私は思想的には相いれざるものです。もしともにお互いに政治活動をすれば、まつたく相反した立場に立つて闘わなければならぬ運命にある鹿地君ではないかと思うのですけれども、しかしそれは思想の問題である。政治に対する考え方の問題なんです。やはり日本国民として人権という立場に立つて考えますときに、そこにいささかの区別をさるべきものではないわけなんです。すなわち私は思想を異にし、政治に関する考え方を異にしておる政治的にはまつたく相対立する強い敵であるけれども、わが愛する同胞であるという感じがするのですが、一体刑罰権の運用というのは私はそういう考え方でなけらねばならぬと思うのでありまして、この問題のごときについても国民はまじめに考えなければいかぬ。そうすると講和条約効力発生のその日に、もうこれは免訴になるべきものだとして適当に処置さるべきものなんです。これはいろいろ意見があつたと言われますけれども、間違つているのです。およそ法を行う者が法律の解釈を誤つたり、法をつくる者が憲法に違反する法律をつくつたりしているようなことは、実にだらしのない、国民に対して申訳ないことですから、その点について、独立のその日に将来免訴となるような事件、処罰すべきものでないような事件について適当な措置をとられなかつたことを、大臣は違うけれども、むしろ公平なる立場に立つて、それはよくなかつた、これはやはり吉田内閣の責任だというふうにお考えになるかどうか、その点をいま一度お答えを願いたいと思うのであります。
  43. 犬養健

    犬養国務大臣 どうも後任者がいい子になるということはまずいのであつて……(「信念を言つたらいい」と呼ぶ者あり)二つにわけて言います。これがまず第一でありますが、前任者のとられた当時の事情の正当性を一応申し上げたのであります。高橋委員がそれに御不満である気持はよくわかります。今おつしやつたような議論は当然独立国国会法務委員会では出てよい議論だということは、私は厳粛な気持で認めます。そうして高橋さんや、私のような及ばない者でありますが、徐徐に次の時代の日本を立てて行く責任のある者は、政令第三百二十五号を出したことについての批判を厳正にするということは必要事だと思つております。ただそれ以上の話になりますと、前任者のとられたときにはそれ相応のりくつがあり、限時法理論などの闘わされた当時、ちようど中庸論をとられたのであろう、こういうふうに申し上げた次第であります。きよう冒頭に申し上げましたように、鹿地亘氏の事件でも、ほかの外国であつたならば、一般大衆の人権擁護よりもスパイ問題に興味を持つ状態がもつとかわつて現われるだろうということは認めざるを得ない。そういう点について私どもは重大な責任感じております。またただいまの高橋氏の政令三百二十五号を日本の政治家がああいう形で出したことについて批判をしないかというお話ならば、私はえりを正して批判をし、今後の日本政府のとるべきについて沈思黙考をしたいという気持はあるということを申し上げます。
  44. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 次に法務大臣にお伺いいたしたいのは、これは将来の問題に関するものでありますが、この政令第三百二十五号はすでに効力を失つている今日でありますが、講和条約発効後今日まで、いわゆる占領中にマッカーサーその他その後任者リッジウエイ大将等が日本政府に課した指令が全然効力を失つて来ておる。そうしてそれまでは刑事事件として取上げておつて、その後は全然これが取締りの対象にならないことになつた。そのことについて社会の治安維持上何らかの措置を講じなければならないというようなお考えがあるかないか、それに対する対策をお持ちであるのかどうか。これはもう独立して手放しになつたのであつてそれでさしつかえない、こういうふうにお考えになるのであるか。占領中は日本法律を制定しなくてもマッカーサー書簡等によつて秩序の維持はできておつた。さて独立していわゆる総司令部指令というものは全然なくなつてしまつてみれば、何らか法制上、治安維持上特別な対策を講じなければならぬというものがあるのかないのか、その点について御所見を伺いたいと思います。
  45. 犬養健

    犬養国務大臣 ただいまの御質疑に対して、これも二つにわけてお答えいたしたいと思うのです。御承知のように政令三百二十五号は平和条約発効前の行為に対して適用されておるわけでありますから、これが今最高裁判所において免訴の判決を受けたといつてもすぐ穴埋めをする必要はもちろんないと思います。治安維持上いろいろ不便なことはないかという御質疑でありますが、個々の事務をとつておりますと、これは不便だと思うことはありますけれども政府の不便をすぐ立法の必要というふうに飛躍していいかどうか、私は少しそこを臆病といいますか、慎重に考えております。ことに占領軍によつて出ました政令がなくなつて、その穴埋めという場合に占領当局のような気持で、オールマイティの気持で法律を出すようなことがあつたらたいへんなことになりますので、よほど時期を距てて慎重に考えて行きたいと思つておりますへたをやりますと言論圧迫になりましたり、また取締り強化というふうにともすると行きやすいものでありますから、これの穴埋めの処置ということは、輿論が何しているのだ、法務当局何しておるのだというおしかりがあつて、輿論の方がやかましいというような形の方がこういう問題はかえつていいのではないかというふうに考えておりますが、これからの日本も国として事情がなかなかかわつて来ることがありますから、いろいろ必要事は起つております。しかしそれはすぐ解決しないで、世間の状態、国の状態国民の心理状態などを少し慎重に見て行きたい、こういう気持でおるのであります。さよう御承知を願います。
  46. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 その点大体了承いたしたのでありますが、私も犬養国務大臣とはしばしばこの委員会等において刑罰権運用の問題については研究をいたして参つたわけでございます。私もこの刑罰をもつて取締りをするということについての限度があることを自覚いたしておるつもりであります。政治の貧困によつて国民の不平が生れて、その不平が爆発することを、刑罰をもつて圧迫して行くというやり方は、これは専制政治のやり方であると思いますから、取締りの強化ということについて慎重な態度をとらなければならぬとはもとより考えておるところであります。ところがここで注意いたさなければならぬと思いますのは、先ほど大阪の裁判所の公判の例を引きましたが、どうも警察なり、検察庁あるいは裁判所等において不利益をこうむる者は、弱い、しかもおとなしい、平素は比較的中立なと思える人がその被害を受ける。そうしてよく「進歩的」と言われますけれども、私はそういう言葉を使わないで、非常に矯激なる思想を持つた人、破壊的な行動をとる人、こういうような人の勢いに押されることによつて、一体裁判所も何らか――われわれから常識をもつて判断すれば何だ、あんなだらしのないことをと言われるようなことをやることになる。ところがこれが立法府にも影響を及ぼし、また日本政府にも影響を及ぼすということであつてはならない。刑罰による取締りは限度がある。でき得れば法は法なきに帰すべきで、政治というものがりつぱであつて、そこに国民の不平も不満もないような社会国家というものを実現したいのですけれども、そう一足飛びに理想の社会というものはできないでしよう。やはりお互いに苦しみつつその理想に向つて参らなければならぬ。その過程においてはやはりいろいろのごたごたが起ると思うのです。そのときに先ほどお尋ねいたしましたような問題についても私は法務大臣が確信を持つて法の限度はこの程度を守るべきだというそういう態度であらせられることを要望するものでありまして、どうも世間がうるさいからこうすればまた騒ぎ出すのだろうという、あの大阪の裁判所のように、私どもにはとうてい許されないようなことをやつてつても、自分のやつたことを合理化するためにいろいろりくつを並べておるような、こういうふうな事態になるということであつて日本の将来、われわれが社会の秩序を保つという上においてまことに憂うべきことになると思うのでありまして、その点を十分お考え願いたいと思うのであります。それについて何か御所見をお述べくだされば幸いだと思います。
  47. 犬養健

    犬養国務大臣 峻厳であるべき裁判所に対して国会でこういう御議論がまじめに出るということそれ自体が、非常に裁判所に関して私は遺憾に思つております。これはやはり法制審議会でも取上げまして、組織の問題のほかにただいま御指摘になつた精神の根本問題についても、どうやつたらそれがしやんとなるかということを真剣にそれもなるべく早急にやつてもらいたいと思つております。ただいまお述べになりました点は、実は昨日来法務大臣としましては裁判所に対する忌憚なき批評を多少遠慮しているのでありますけれども、しかし今の高橋委員のお述べになりましたことは全部同感であります。
  48. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 これで政令三百二十五号事件関連しての質問を打切りまして、人権蹂躙に関する問題をお尋ねいたしたいと思います。しかし私は平素の大臣の健康状態を知つている者の一人として、非常にお気の毒に思いますので、これはパンフレットなどたくさんあるから、そんな例はまたの機会ということにして、私はこの際特に大臣の決意をはつきりお伺いいたしておきたいと思うのであります。  午前中の委員会鹿地亘君の問題に関連して、私は世界人権宣言を読み上げました。大臣もお聞きくださつたと思うのですが、あれは世界人類のたつとい理想だと思います。日本の憲法は幸いにしてそれよりも先んじて制定されて、しかもその精神を一にしております。わけても日本憲法中司法憲章に属します部分については、まつたくその軌を一にいたしておるのであります。世界人権宣言を読み、日本国憲法の司法憲章の部分を一読いたしますと、私どもは実に平和な、自由な正義に満ちたまつたく楽園と申しますか、花園におるような感じがするのですが、一たび目を現実の社会に向けますときに、まつたくこれは牢獄と言つては少し言葉が過ぎますけれども、私どもの耳に入つて参りますことは、およそ世界人権宣言日本国憲法の理想としているようなものとは趣を異にした、先ほど例に引きましたような事例が多々あるわけであります。私はがまんをして訴えてないものがまだまだたくさんあると思う。法務大臣は在職中一度全国の大きい刑務所へでも行つて、あの精神病者の入つているところをごらんになれば、おそらく法務大臣の足音を聞いて、私は冤罪ですよと言つてあの鉄窓の中から叫ぶ人が一人や二人私はいると思うのです。必ずいると思います。ところがあれを精神病者だからあんなことを言うのだとこう簡単にきめることは私はできないと思う。冤罪者を処罰したために精神が狂つて、そうして自分は冤罪なのだということを訴えておるのじやないかということに思いをいたしますときに、これは犯罪の捜査、いわゆる警察、検察の仕事というものは実に危険なものだということを自覚しなければならぬと思うのであります。そういうことを思いますときに、人権蹂躙のあるところにいわゆる冤罪者が生れるわけでありますが、人権蹂躙によつて――それが冤罪者でないにしても大きな罪悪でありますが、人権蹂躙の方法による捜査によつてもしも冤罪者が生れるということであれば、これはたいへんなことであります。私は犬養法務大臣が在職中にこの問題について熱意を傾けられて、ほんとう日本国における検察、裁判においては、あるいは警察の問題についてく権蹂躙はないのだ、この政治のやり方をなさいましたならば、これは実に大政治家であり、犬養法務大臣のりつぱな歴史として残るであろうと思うのでもります。私はりつぱな要職にある人が下らない政治をやるのであれば、その歴史が長ければ長いだけその人のために惜しむものでありますし、りつぱな事績を残されて、そうして人類の福祉のために貢献せられる政治家はその生命長かれと祈るものであります。私は重ね重ね、しかもこれは抽象的な問題になりましたけれども、この問題について法務大臣の御所見を伺つて、そうして私は質問を終りたいと思うのであります。
  49. 犬養健

    犬養国務大臣 ただいまのお話は重重ごもつともでありまして、私どもも数多い第一線の検察官、警察官の中にはそういう者もあると思います。絶無だということを私は申し上げる勇気はないのであります。従つてそういうお話は具体的に伺わせていただくならば、私は大体その日のうちか、おそくても翌日は現地に問い合せるという方針をとつているものです、これがやはり国民に対する奉仕者の態度だと思います。特に第一線にききめがありますのは、具体的事実をもつてこういうことをやつたら、社会の輿論からも排斥されるし、法務当局意思にも反するのだということを一つ一つく実証にやつて行きますと、大部分もともと概念的にはわかつている人のはずなのでありますから、大いに気風が一新されると思うのであります。もう一方私が考えておりますのは、刑務所に入つたから、必ずしもそのために真人間になるというふうにも現実には考えられない節もありますので、できるだけ外でもつて、そうして周囲の人のあつたかい心遣いでもう一度正しい人生を歩いてもらうという――保護観察制度という文字について御異論もあるようでありますが、この制度をできるだけ予算をとつて生かして行きたい、そうして刑務所の中に身柄を拘置することによつて心を改めてもらうという明治以来の、いな徳川幕府以来の観念を一掃した政策をとつてみたい、こう思つているのであります。私どもの仕事は概念ではだめなのでありまして、具体的な行き方の行為をできるだけ具体的に注意していただきまして、それを即刻第一線に移して反省を求め、また戒告すべきものは戒告し、罰すべきものは罰する、こういうふうにいたしたいと思つておりますから、何とぞ忌憚のない御注意なり、お教えを願いたいと思います。
  50. 岡田春夫

    岡田(春)委員 政令三百二十五号に関連して伺います。政令三百二十五号の関係でただいま高橋委員から相当詳細に御質問がありましたが、私もきわめて同感な部分が多いのであります。これに関連してきのう高橋さんから言われ加かつた点で、一つだけお伺いをしておきたいと思うのでありますが、今度の最高裁判所の判決によつて憲法違反であるという意味においても、判決があつただけに当然今度の免許によつて当時の被疑者、被告人に対しては刑事補償法による国家賠償の措置をとる必要があると私は思うのであります。ところが刑事補償法の中においては、二十五条において国家賠償の問題については、必ずしも一般的な規定が免訴の場合に与えられるとは限つておらないのであります。こういうような事件に対する免訴については、当然国家賠償を行うべきであると考えますが、これに対する御意見を承りたいと思います。
  51. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 刑事補償法の第二十五条は、御指摘のように「刑事訴訟法の規定による免訴又は公訴棄却の裁判を受けた者は、もし免訴又は公訴棄却の裁判をすべき事由がなかつたならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる」かような条件がかぶつておるわけでございます。従つてその実体に入りまして、それが本来無罪たるべきものであつたかなかつたかということがやはり問題になつて来るべきでございます。これらの点については一応補償の請求がございまして、この点の判断をいたすことになるわけであります。従つて事件によりましてさようなことがあり得ることも考えられると思います。つまりほかの無罪免訴の場合と場合が違うわけでございます。公訴棄却と免訴の場合には、その内容が無罪であるかどうかということが補償事由になる、これだけ違うわけであります。
  52. 犬養健

    犬養国務大臣 この前の場合と同じですよ。
  53. 岡田春夫

    岡田(春)委員 この間の場合とはちよつと違うのです、公訴の棄却の場合ですから。法律家ではない法務大臣にはあまり言わないことにいたしますが、あれとは違うのであります。今度の場合には、最高裁において当然無罪だということの判決を受けておつて、そういう判決が得られたのであるから、従つてこれは判決の精神従つて国家賠償に任ずるのがあたりまえだと思う。事件の内容云々の問題で、これは岡原さん、ごまかしてはいけないと思いますが、こういう点ははつきりしておいてもらいたいと思います。  それからもう一つ、政令三百二十五号については、最高裁で無罪の判決が出ておるのですが、そうすると同じように占領法規である政令二百一号、そうしてこの二百一号の内容は、憲法の二十八条にある勤労者の罷業権、団結権を禁止したものである。そうすれば二百二十五号について最高裁の以上のような判決が出たとするならば、政令二百一号についても、これは当然無効の判決が出たものとして、先ほども高橋さんからの当時において早くはつきりした態度をとらなかつたのはいけなかつたのじやないかというきつい責任の追究に対して、大臣は当時は、私が大臣でなかつたから知りませんでしたというような意味で具体的な答弁をされないが、今度は、今政令二百一号に対しては、あなたは大臣であるから、これについてはどういうような御措置をおとりになるのか、こういう点を具体的に承つておきたいと思います。  なおこの点については、すでに政令二百一号違反で検束中の者もあり、審理中の被告人もあるのであります。これについても二百二十五号違反と同様になるべく早い機会において措置をとるべきであると思いますが、これについても大臣の御意見を承つておきたいと思います。第一の点は、岡原さん、さつきの免訴の場合の国家賠償の点、もう一度明確にしていただきたい。この二つの点をお願いいたします。
  54. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 この刑事補償法の第二十五条の点につきましては、実はいろいろ議論はございますが、その具体的な事件によつて裁判所が認定するのでございまして、たとえばこれは法律門には無罪とこれを見るべきかどうか、免訴というほかの事情でやるべきかどうかということは違つて来る場合かあり得るわけでございます。この点については熊本で何かこういう判決があつたそうでございます。本来無罪であるかもしれぬものを本件については出訴するというふうなことがあつたのたそうでございますが、それの考え方は要するに具体的な事件を一つずつ検討してみまして、それがはたして三百一十五号違反として起訴せられて、その罪名で一審、二審が来て、そして最高裁あるいはその他で今ひつかかつているかどうか。あるいは勾留期間がそういう理由で付されたかどうか。ほかの事件がよく一緒についている場合もございます。御承知の通りたとえばほかの犯行とか違反事実がついたりする場合がございまして、そういうような関係からいたしましてやはり一件々々ということになるのじやないかと思いますが、これはなお十分研究しましす……。
  55. 岡田春夫

    岡田(春)委員 この事案自体については賠償の対象ということにしないと――併合罪の場合はそれは幾つか出て来るのでやむを得ないでしようが、このこと自体についてはどうだということをさつきから聞いている。それをほかの場合と一緒にしてはうまくない。
  56. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 今ちよつと熊本の判決を御紹介いたしましたのは、そういうこともあつて必ずしも明らかでないということを裁判所で言つている向きもございますので、一応これは全部そうだということではないのでありまして、御質問の趣旨はよくわかつておりますので、おそらくほとんどこういうような事件は実際問題としては、本来ならば無罪たるべきものとして補償を受けることになるであろうということだけは私もそう思つております。ただ少し理論的にこまかい点をやかましく申しますと何ですが……。  それから政令二百一号の問題も若干技術的な問題でありますので、私からお答えいたしますが、これは御承知の通り最高裁判所の判決が四月ごろにございまして、それでもちろんこれは三百二十五号とは別個の観点に立ちまして、二百一号として判断をしているわけでございますが、この判決の趣旨が今度の三百二十五号の政令の免訴判決ができたということによつてはくつがえらないわけでございます。従つてこれはこれとして有効であるというように私どもは理解いたしておりますし、同じく最高裁判所の判例になるものと考えます。
  57. 木下郁

    ○木下委員 そこで法務大臣に最初に伺いたいのは、今年の二月十九日に別府で金在魯という朝鮮人が酒に酔つばらつてあばれておつた。そのあばれた拍子に女の人につかみかかつた。で女の人はこわいもので逃げたので、そのつかんでおつた拍子に羽織がとれた。それで近所の人が出てその羽織はすぐ持つてつたが、私はその女の人にも会いましたし、女の人も酔つ払いがあばれかかつたのだということで、決して羽織をとるための強盗という意味感じていなかつた。ところが警察はそれを強盗の容疑者としてひつぱつて行きました。二月十九日の晩の九時ごろであります。で同僚の輪タク屋が行つていろいろ弁解し、酒に酔つていたのだから帰らせてくれと言いましたけれども、それを許さぬ。とうとうとめられて、翌日また友人が行つて、そうして身柄を釈放してもらいたいということを言つたけれども、それも許さない。家族の者が行つたんでもありますが、それも許さないで、それで家族の者に着がえを持つて来いということでしたので、着がえを持つてつた。そしてとうとう翌日の二十日の日一日そのまま警察にとめられて、そして二十一日の朝十時ごろになつて身柄の引受けをさせる、帰すから来いというので行つてみたところが、もう死んでおつたというのであります。これは常識的に考えて、だれかが山の中で死んでおつたとか何とかいうのであれば、あるいは責任者をつかまえて出すということは、事案のいかんによつてはなかなかむずかしい場合もありますが、早くいえばとらになつて元気であつた者が警察に連れて行かれ、そうして警察に二晩もおつて三日目の朝死んだ。そしてこれに対して責任者が出ないということは、その責任者がどういう形で――被害者の側ではこれを警察の拷問の結果だと信じております。さような意味で、それが拷問の結果であるかどうかということはこれは調べなければなりませんが、しかし元気な男が警察に連れて行かれて、そうして元気だつたのが二晩の後には死んだ、これに対して責任者が一人も出ないというようなことであつたのでは、やはり警察取調べ、司法権の発動というような意味に対して国民的な疑惑を抱いて非常なマイナスになると考えるわけであります。ことにその死んだ男が朝鮮人であります。一般世間の中には、終戦直後朝鮮人が元気を出したからというようなことであまりいい感じを持つていない者がある。現に私がこの事実を聞きましたので、自分の郷里のことであるから事実調査に参りました。それに対してあなたはそういう問題にあまりかかわらぬ方がいいというような、私に対するごく好意的なほんとうの話もあつたのであります。さような世間の実情であります。さような実情でありますけれども、これは考え方によると、また朝鮮におつて引揚げた人には、今日本人が朝鮮人からいろいろやられている、しかし自分たちが朝鮮におつたときのことを振り返つて考えればやはりこれくらいのおきゆうのすえられるのはあたりまえだと私は思います。というような述懐をしている人もあるのであります。さような意味で事柄が朝鮮人の問題であるがゆえに、この際責任者の帰趨というようなものははつきりさせる必要があると思う。その点については大分の検事正も非常に注意して調べておるからということでありましたので、いずれ報告が来ておると思います。岡原刑事局長からでもその点の御報告をいただきたいと思います。
  58. 犬養健

    犬養国務大臣 これは大分前に木下委員からお尋ねがありまして、刑事訴訟法その他で延び延びになつておりました責任がございますから、私から御報告さしていただきたいと思います。一人の人間が急になくなつたという事件でございまして、きわめて慎重に扱わなければならぬと思いますけれども、相当詳細な報告を求めておりますので、この報告書を読みますと、どうも木下委員の御満足行くようなふうには書いてないのでございますが、読み上げまして、さらに法務委員会の御批判を仰ぎたいと思います。金在魯氏の死因につきましては、九州大学の法医学教室の北条教授に鑑定をやつてもらつたのでありますが、その鑑定の結果によりますと、頭腔内の出血により意識溷濁し、胃部圧迫により胃内容物を吐き出し、それを気管内に吸入して気道閉塞を生じたことによる窒息死であると認められる、こう書いてあるのであります。金在魯氏はしようちゆうを当日飲んで大分酔つておられたようであります。本年二月十九日の午後八時ころ別府市内において、別府駐留軍警備員の姫野惇という人に因縁を金さんの方からふつかけて、この姫野という者と格闘中投げ飛ばされ、さらに折井恒貞という者の目付近に金さんの方から、朝鮮人がよくやるあれでありますが、頭突きをやつて、かえつて自分のやつた頭突きのために容態が悪くなつて、頭腔内出血を生じたものと認められる。これが北条教授の鑑定であります。次に別府市警のとつた措置はどうかと申しますると、別府市警においては、届出によつて金在魯氏を強盗容疑によつて逮捕したが、被害者の犯人に相違なき旨の確認を得た上これを留置して、その間金さんを泥酔者と認めて、酔いのさめるまで休養せしめていた、ここが問題だと思いますが、金在魯氏が右のような事情で負傷しておるということにはまつたく気づかず、またお医者も酔つておるとばかり思つていた。ここに私は不注意な点があると思うのであります。この点はやはり責任を追究する点であろうと思いますが、そういうわけで、警官としては、お医者さんが酔つておるのだと言うので、酔つておると思つてそこへ寝かしつぱなしにしておつた。ここにどのくらいの犯意が認められるか、あるいは責任問題をどのくらい追究すべきか、ここが私ども考えておる点でございます。ですから表向きの違法かどうかという点では、違法の点は認められないと言つておりますが、心構えあるいは心尽しの点で、私はここが遺憾であつたということを認めておる次第であります。  なお留置中に二度お医者の手当を受けさせておるそうでありますが、初診の際はアルコール急性中毒と診断されており、その後約十二時間半を経て突然急変のために第二回目の手当を仰いだということであります。  次に姫野惇に対する措置であります。金在魯氏の頭の中の出血は前に申し上げましたように、姫野が金さんを投げ飛ばした行為と、折井恒貞に対して今度は金さんの方から頭突きをやつた行為との競合と認められ、一応形式的には姫野の行為は傷害致死罪に考え得る。しかしながら姫野惇は柔道の心得があつて、妻君が出産のため、出産の道具を持つて病院に急ぐ途中に、金さんに難題をふつかけれて暴行を加えられたため、気がせいていたということもありまして、これを防衛する意味もあつて、やむを得ず右の処置に出たものと認められる。また凶器を使つたものでない、右の処置にあたつても相手方の力を利用する消極的な術を使つたのではないか、こういうような報告になつておるのであります。それで最後に姫野は金さんの暴行を避けて逃げた等の事情に照して、防禦の行動であつたので、それを越えたとはどうも認めにくい、それで本年六月三日、これを不起訴処分に付した、こういう報告なのでありまして、どうも多少御不満じやないかと思うのでありますが、私どもの得た一番詳しい報告は右のような次第でございます。
  59. 木下郁

    ○木下委員 不満とかいう言葉は、私の質疑意味をどういう意味におとりになつておるかできますことであると思います。そういう点を一々ここで詮索するのもあまりに大人げないと思います。私は警察で拷問して殺したのだ、その結論を出したいとかいうようなことを毛頭考えておりません。さような意味で質問しておるのではありません。ただ友人と親戚の者が会いに行つておる。それにも会わせない、酔いどれというならそういう連中に、お前介抱せよ、警察は手が足らぬから、そう言うのがあたりまえの話です。それを今の鑑定書通りといたしましても、警察は悪いことをした人間をひつぱるのが職務の一つではありますが、その酔つぱらつたような男を保護することもそれと同じ比重を持つた職務であります。ところがこの親戚や友人が行きますと、あのやつ黙秘権を行使して何も言わぬ不当な横着なやつだというようなことを言つておる。また会わせてくれというやつを会わせてくれない。これはこの鑑定人の言う通りだとしまして、頭突きで脳出血をする、相手は大した傷を受けていない。頭突きで脳出血をするというのは、かたいものに頭をぶつつけなくては起ることでありません。相手が傷も負わないような頭突きで、頭のかたい頭骸骨の中に出血を起すというようなことはちよつと常識上考えられぬことであります。姫野にからみかかつて、姫野が柔道何段というような男であつた。姫野も私をたずねて参りました。心配して来ております。過失傷害致死くらいになるのじやないかというのでたずねて来ました。私としては常識的にそれが警察の中の拷問のために死んだのではないということになつた場合に、君とからみ合いで起つた傷がもとであるとするならば、君はどういうふうにやつたのかと言うと、初めはね腰で道路ばたでやつた。その次はともえ投げでやつた、それでそれが正当防衛という問題になりましようが、正当防衛の範囲を越しておるかどうかということも、これは法律的判断の一つの問題になると思う。今の不起訴理由は今初めて伺つたのですが、正当防衛の範囲だ、そして傷は姫野の加えた打撲と頭突きとが競合したのだ、これは鑑定人の鑑定が原因のいかんにまで立ち入つた鑑定であるとすれば、その鑑定は私は鑑定としてはやはり欠点を持つておると思う。そういう点は今ここで議論してもしかたがないことでありますが、警察に連れて行つて、親戚にも、友人にも合わせない、その上に非常に手なんかに血がついたりなんかしておつた警察はこれをふろに入れておる。そして死んだときに本人のつけておりましたふんどしがない。それでどこに行つたかというと本人の手ぬぐいがないから、本人のふんどしでからだをこすつてつた、そのふんどしはどうしたかというと、それは見つけるけれども見つからぬというような状態であります。警察の拷問というものはなかつたというのですが、これは拷問したのだという見方もたくさんございますし、またそれを主張する根拠としては、同じ監房に入つてつた者で、なぐつたのを見ておりましたということを言うておるのも一人おるわけであります。その問題はそれとしても、警察が、何ぼ酔つていても、十九日の晩から翌日の夕方までじつとしておるというときに、お医者さんに過失がある、警察保護に過失があるという意味ならば、これはそのとき手当をすれば、私は死ななくても済んだのではないかり思われるのであります。それをほつたらかしたという不作為の点に、やはり責任考えなければならぬというふうに考えておるのであります。ことに警察が、これは証拠隠滅ということで疑つて考えれば十分疑えます。家族も呼んで来ないように虐待した者を、今度はふろに入れて、そしてかんじんなふんどしがない。それでこすつてつたんだというようなことを言つたところで、常識ある国民は、これを言われる通りに受取ることはできません。さような意味で、命をとつた責任者が、神様でないからわからないということもいわれますが、少くとも警察にその酔いどれを二晩も置いておきながら、これをただ酔つぱらいだとしてほつたらかしておいて、鑑定人の言う通りの脳出血のためとしても、これは不作為の意味責任はあると私は考えております。それについて警察の取扱いというようなものも、一体どういうふうにして保護しておいたのか。あるいは強盗したというようなことをいつても、その被害者である人は、何をとられましたというようなことも言つておりません。その羽織は道路にあつたのだから、隣の人が持つて帰つおります。ただ警察が、強盗という人聞きの悪い名前をつけてひつぱつてつてそして初めから予断をもつて、これはけしからぬ朝鮮人だというような考え方があるものだから、そういう手抜かりをするのだと思う。さような意味でその責任者が一人も出ないで、その責任は刑事責任というほどのことはないにしても、行政的な責任というものは当然出なければ、これがやみからやみに葬られるというようなことがあつたのでは、やはりえたしてひがんでものを考える、また考えるのが当然であるというようにも思われます朝鮮人に、日本の司法に対する信頼というようなものを保つて行けなんかいつても、無理な話であります。さような意味でもそういう面が、ただ検察庁が不起訴処分にしたのだからそれでオーライだというふうな考え方をして、政治をやつてはならぬと思う。さような点については、何か行政的な責任というような点までお考えになつたかどうか、この点をもう一度伺つておきたいと思います。
  60. 犬養健

    犬養国務大臣 それはごもつともであります。実は私もこれを読んで、不起訴になつたが、これは万事おしまいというふうには考えておりません。人権擁護局長に命じまして、人権擁護局の立場からもう一度調べ直してもらいます。ただいまいろいろ木下さんの指摘された点を、実は筆記いたしました。これは全部また検事正に問合せ直します。それと同時に違う角度、つまり人権擁護局という自由な立場からの再検討もさせたいと思います。お話のように十九日から翌日の晩まで、酢つているからといつてつておくということも、お話のようにそのまま受取れない節もありますし、さらに御指摘のように、万一朝鮮人だから少しほつておいてもいいだろうという観念がありましたら、これは国交上将来重大な問題だと思います。そういう点も相当つつ込んで再調査したいと思います。さよう御了承願います。
  61. 木下郁

    ○木下委員 なお先ほど高橋委員からも話が出ましたので、一、二人権擁護に関する点で、大臣の政治的なお考えを伺つておきたいと思います。  先般来日本のフィリピンあたりの戦犯が釈放されて帰つて来て、みな大喜びをしております。それについて政府も非常に努力をしたということでありますが、これは講和条約で、戦犯はこういうふうに取扱うという約束をしたのだから、その約束を履行するということはあたりまえであります。しかし政治的にものを考えるときには、やはりあの戦犯というものが、一体国際法上から見て正しい裁判であるかどうかというような点に対しましても、基本的な態度をきめておく必要があると思う。なおまた、これにはいろいろ議論がありますが、この前の国会外務大臣は、各個人を罰する国際法は常に動くもので、第二次世界大戦後も、国際法は動いて来たということを答弁されました。それに関連して私は外務大臣に、日本国民占領中には品にしなかつたが、また占領独立した後でも、まだあまり口にしないけれども、腹の中では非常に考えている問題であるが、それは原子爆弾の問題である。原子爆弾については、これはだれが何と言つても、これほど非人道的なものはない。しかしこれは新しく出た問題だから、国際法上違反かどうかというようなことは議論がありますが、この点についてどういうふうにお考えになつているかということを伺いましたところが、それは議論としては聞くけれども、自分としては外務大臣という地位だから、はつきり答弁ができないという話でありました。それは政治の責任の衝に当つている人だから無理もないというふうに考えますが、この原子爆弾の問題では、法務大臣もすでに御承知と思いますが、私どもの党から、この前の国会に、原子兵器の使用禁止に関する決議案を出しましたが、国会は解散になつたので流れましたけれども、原子爆弾というものは、毒ガスその他と比較にならぬ非人道的なものであります。従つて当然毒ガスあるいはその他の細菌兵器というようなもの以上に、国際法上禁止さるべきものと思うのでありますが、その問題について独立した日本が、そしてこれの唯一の体験者である日本が、一品も何も言わない。その言わないのには、おのおの考え方があつてアメリカの痛いところにはあまり触れたくないというようなくだらない考え方から、それを不問に付するような人もあるようでありますが、かような態度ではならぬので、私たちの党があの決議案を出しましたのも、決してアメリカにいやがらせを言うとかいうような、末梢的なけちくさい根性から出したのではなくして、独立した日本人の、正義のためにはあくまで闘つて行くという気魂を示す意味において、あの決議案を出したわけでありますが、その決議案の批判を求めるわけではありませんけれども、法務大臣も、人権擁護するというような意味におきましては、やはりあの戦争後に起つた追放という御経験がありまするが、あの追放の制度その他、これは公正と言い得るかどうかちよつと疑問がありますが、追放の制度及び個人を罰した戦犯の裁判が国際法上有効か無効か、ことに原子爆弾が国際法上許さるべきものであるかどうかというような点については、腹をきめて研究をなさつて日本態度をはつきりさせる必要があると私は思うのです。日本人独立を推進する意味において、精神的な支柱としてもそれはやらなければならぬ、さような意味でそのことについて何かお考えを持つておるかどうか、それだけひとつ伺つておきたいと思います。
  62. 犬養健

    犬養国務大臣 戦犯問題は、海外同胞引揚委員会に呼び出されて意見を問われたとき申したのでありますが、事務的段階は過ぎておりまして、戦争犯罪者というものに対する高い立場からの批判、そういうものを談笑の間に各国の政治家と話し得るような人が出て行くべき時期が来ております。もう一つは、今木下さんの言われたことに触れて来るのでありますが、宗教的な立場の人、宗教家などが人類の行うかような行為について高い批判をしながら、目の前の戦犯問題を宗教的な感情に訴えて解決する、この二つの角度の運動が今絶対に必要である。事務的には率直に言うと、あのスピードはなかなか早まらないのじやないか、こういうように考えております。私も実は海外にだれか行つてもらいたいという具体案を持つておりますが、これはまだ関係のある省と相談する余地もありますので、ここで申し上げる機会にはまだ達しておりませんけれども、何かそういう人が出かけるべき時期が来ている、こういうふうに考えておるということを申し上げたいと思います。
  63. 木下郁

    ○木下委員 なお先ほば高橋委員質疑の中に、大阪の黙祷事件において、公判延が黙祷とかその他のことで混雑しておる。高橋委員としては、これに対して何とか新たなる考え方をしなければならぬのじやないかというような趣旨の意見がありました。法務大臣としても、その点を軽々にはやられぬけれども、相当考えなければならぬというように、調子が合つているかのようなお答えがあつたように私は伺つたのであります。その点については、昨日検事総長は見えておりましたが、法務大臣はお見えになつておりませんでしたが、あの吹田事件の被告は大体共産党の諸君じやないかと思います。これはほんとうに共産党的な考え方に徹しておる人、私が申し上げるまでもなく、無神論の立場をとり、唯物主義の立場をとつておる、それが黙祷するというのは、それ自体を見ましてもごく子供らしい、少し英雄主義的な行動だとしか見られないのであります。さようなものに一々こだわつてすぐ取締り規則を強化するとか、いうようなことをやれば、逆効果になると私はかたく信じております。それらの点については昨日申しましたけれども、徳田とか、佐野学なんかの場合における一番最初の共産党事件の連合裁判のときに、冒頭に佐野学が音頭をとつて、渡辺政之輔のために一分間黙祷すると言つた。そのときに宮城裁判長は知らぬ顔をしておつた。黙祷が済んでから、諸君は無神論の立場をとつておると思つてつたが、やはり霊を認めて黙祷するんかねと言つて軽くあしらつてつたが、あの公判の進行については、被告の方には非常にマイナスであつたように記憶しております。さような意味で、英雄主義的な考えでやつておるやつを、一生懸命大きく取扱うことは、いつまでもそれが続くことになる。国民はやはりそれを批判します。現に四、五年前たいへん法廷占拠ということがはやつたことがあります。あの法廷占拠でも、あれを毎回々々続けて行くと、国民はそのやる人をほんとうの気違いのように扱うようになると思う。一つの例を言えば、三十幾名の代議士を持つてつた共産党が、火炎ビンというあの戦術があつたために、国民的な批判を受けて昨年の十月の選挙には一人も出なかつた。その形こそ政治の行くべき道であろうと私は考えておる。さような意味で、今大阪でやつておるあの裁判長の行為については、世上には、ことに法律的な考えの足らぬといいますか、法律の専門家でない見解の人は、あれを違つてことのようにやかましく言つておる向きもあるようでありますが、私はあの裁判長を直接知りませんから、外から見て私の考えでは、非常に徹底した自由主義の人ではないかと思う。あの人の思想を研究したことも何もありませんけれども、戦争前から日本に自由主義的な考えを持つ人は多かつたが、ほんとうに力強く自由主義のために闘い、自由主義のためにこれを推進するという勇気と実行力のあつた人がなかつたことが日本の一つの欠点であつたと思う。さような意味でも、あの被告が黙祷するのをじつと見ておつた、そんなばかなことがあるかというような世間の実相を知らない人たちの声だけで、すぐ新立法を考えたり新制度を考えたりするようなことがあつてはならぬと私は強く考えております。さような意味でも、今法務大臣から高橋君の新しく取締るというようなことを考えてはどうかというような趣旨の発言に同感の趣旨の御答弁がありましたが、その御答弁は、平素自由主義的な立場でおられ、そういう点に相当理解があると考えておる法務大臣としては少しく強過ぎたように私は聞いたのであります。どうかさような点も注意していただきたいし、またその点については、重ねてどういうふうにお考えになつておるかを伺さておきたいと思うのであります。
  64. 犬養健

    犬養国務大臣 これは確かに伺つて置くべき御議論だと思います。先ほど高橋君は取締るとは申しておられなかつたように思うのでありまして、私の答弁も、そういう議論が裁判に関して国会委員会で起るということ自体、非常に遺憾な事件だと思うと、こう申し上げたのであります。問題は私はこうなると思うのでございます。今木下さんが言われましたように、宮城裁判長のような、二十代によくあることだと言つて、非常に高い立場から、教師が生徒をながめるような、そういう態度であの裁判長が扱つたか、それとも少し感心しないけれども、うるさいから、ここは調子を合せて裁判をやつて行こうと思つたか、この二つのいかんによつては、私どもの批判がかわると思うのであります。もし後者であつても、ほかの裁判長がみなもつとおとなであつて、笑つて処理するだけのおとなの余裕が全般的にあるとすれば、またこれは法廷秩序維持に関する私どもの私えもかわるわけであります。問題は木下さんの言われるように、一つ起つたからといつて、まつ赤になつて経過敏に当局が先を越してなるということの戒めば、私は妥当であると思います。そこは私ども今御指摘になつた宮城裁判長のようなおとなの気持になりまして、この事件をながめて批判して、処置すべきことがあつたら、取締りという形よりは、むしろ法廷の尊厳をどうやつて維持するかという、よりよき方法について、すなわち建設的方法について考えてみたいと思つております。
  65. 木下郁

    ○木下委員 最後に一点希望を申しておきます。大阪の裁判なんかもそういう点をお調べになり、また対策等をお考えになるときに、ぜひ考えていただかなければならぬのは、私はあの裁判長のやつたことを弁護するとかなんとかいう意味でも何でもない、私は裁判長自身を知らないのですから……。申し上げるまでもなく、あの確信犯の被告、ことに年も若く、また今も朝鮮において南北が争つておるというような政治情勢のもとにあるあの裁判は、やはり相当のことは入れて行かないと、なお法廷は混乱して、ほとんど裁判はできないようになるということも予想されるのであります。なおまた、水害について何だ、あるいは朝鮮の平和について何だというそこだけをつかまえれば、常識的に見て公判とは何も関係はありません。しかしそれについて被告を代表して陳述するその言葉、その被告の態度等で、その人がその方面にどれだけの信念を持つておる人間か、どれだけの行動力がある人間かというようなことも、事件直接ではないが、間接的判断の資料になることです。さような意味でも、まつた事件に無関係のことをガアガアとしやべらせて、そうして法廷の審理の進行を妨げるのを指をゆわえて見ているばかはありはしないので、これはやはり裁判長には裁判長としての考え方がある。ことに裁判長は法廷の指揮権があるのだから、検事の言うた分離の問題をとらなかつたという問題もありますけれども、それをとらないと決定をしたのは、それに対して予断を抱いておるからだと思うならば、忌避をすればいい。さような問題をすぐ法務大臣なんかがごてごてするということでなく、やはり司法権の独立の維持というような意味でも、相当慎重にしていただかなければならぬと考えております。どうかさような点も遺漏はありますまいが、注意していただきたい。この事件は最近新聞紙上に問題になつておりますので、痛切に感じておる次第であります。
  66. 小林錡

  67. 田嶋好文

    田嶋委員 私は人権擁護の問題とは多少離れますが、実は昨日大臣が御出席くださいますれば、そのときにこれは強く要望いたしたいと思つておりましたが、御病気とかで御出席がありませんでしたので、本日は昨日の私の質問によりまして現われました事実につきまして、御答弁を願いますと同時に、ひとつ大臣の御決意をお述べ願いたいと思うわけであります。それは昨日、日本国家独立して以来の帰化の状態をお尋ねいたしまして、その事情をつまびらかにすることができました。帰化の問題では、特に朝鮮人の帰化問題は、今後の東洋の平和を維持して行くためにも、また日本国家の政治を運営して行くためにも非常に重大な関心を寄せてかからなければならない問題だと私たちは考えております。従いまして、朝鮮人の帰化問題というものは、これをうまく取扱いますれば、今日いいことにも悪いことにも、常に朝鮮人が中心となつて混乱を起しておるこの日本状態を、うまく解決する糸口になるわけであります。これは悪く行けばますますもつて悪くなるわけで、私は非常に重大だと考えておりますが、きのうの調査によりますと、帰化申請件数が非常に多いのに、未処理件数がまた非常に多いということで、その事情をお尋ねいたしましたところ、実は帰化に対してはわずか百五十万円の旅費しかないので、帰化に関する担当官すらない。そこで法務省の地方法務局の役人の一部をさいて、そして慎重審議をやつているためにこうなるのだという。なるほどお聞きしますと、朝鮮人の帰化の問題は、帰化してもらうにも相当慎重に調査しなければいけないと思います。慎重調査ということは、費用もいるし、人手もかかるのに、金もないし人手もないし、それをやれと言う方が無理じやないかと考えまして、なるほどそこに欠陥があるのかということに気がついたのでありますが、その点について、大蔵当局にも来ていただき、実情を訴えまして、ひとつこうした重大な問題に対して、何とか予算的の処置並びに機構的処置をおとり願いたいと考えましたが、大蔵省はお見えないようでありますけれども、大臣がお見えくだすつて御答弁くだされば、われわれ非常に意を強ういたしますので、この点をお願いいたします。なお会計課長もおいでのようでございますから、あわせてお聞きしたいと思います。  それに付随しまして、やはり法務省で私たちが忘れてならない機関であるにかかわらず忘れがちな機関は、地方法務局の出張所、要するに昔の登記所でございますが、これがたいへんな状態だそうでございます。委員長からきのうも実例を示されましたが、委員長なんかのいなかの登記所と申しますと、雨漏りがして、かさをさしていなければならないという。きのう調べましたら、電話のない登記所が大部分で、わずかに三分の一くらいしか電話がないということによつても、いかにこの役所が虐待されているかということが例証されたのであります。御承知のように、この法務省の登記所というのは一番大切じやないかと思う。最もわれわれに関係のある権利義務の書類を取扱うところでありまして、地方法務局で一番大切なものといえばこの機関じやないかと思う。その機関が屋根表で生活をし、雨漏りがしてかさをささなくちやならぬ。こういうようなことでは、とうていりつぱな仕事が行われないでございましようし、また権利義務に関する事件を取扱う上において、どうしても私は責任感を持つていただかなければならぬ。お役人が責任を持たないで、おざなりにやるということだと、たいへんなことになります。ときどき私は法務局関係の涜職事件を聞くのでありますが、やはりそういう面からも生れるのじやないかと考えます。とにかく役所をりつぱにしろということを私は申し上げるわけではないのでございまして、必要以上に役所のぜいたくをしているものではないのでありますが、しかしある程度の権威をもつて国家の仕事をするというためには、人もりつぱでなければならぬと同時に、ある程度の権威を備えた建物も必要じやないかと考えておるわけであります。それがまことに貧弱な状態だということを承りまして、遺憾に存じておるわけでございます。しかし国家財政非常に支出の多いとき、こうした面に向けるためには、よほどの努力をしないと、明らかになつていない機関でございますから、それを認識してもらうために努力し、よほどの決意をもつてお進み願いませんと、こうした縁の下の力持ちをいたしております仕事は、いつまでたつても浮ぶ瀬がないと考えております。この点をあわせてお聞きいたしたいと思います。なお続いて入国管理局関係のものもお聞きしたい。
  68. 犬養健

    犬養国務大臣 お答え申し上げます。朝鮮の人々の帰化の問題でありますが、御承知のように暴力主義的な地下運動をやつている朝鮮の方もありますけれども、また実際に日本が好きで、日本と融和して行きたいという気持で来る人もあるのです。この二つをよくわけて考える必要があります。すなわち善良な隣国の人に対して、日本政府並びに日本国民が非常にあたたかい気持で、永久に隣に接しておる同志だという気持で扱いませんと、暴力的な方の朝鮮の人に国へ帰つてもらうという処置もはつきり浮んで来ないと思うのであります。私はこの点を常に強調しているのであります。ところがなかなか朝鮮の方は、この範囲は許すというと、その範囲になぞらえての申請が非常に巧みというのですか、非常に巧妙な人が多いのでございまして、そこで詳細な調査というものが必要だ。お話のように、そうなりますと、入国管理局関係の予算というものになるのでありますが、忌憚なく申し上げまして、この一両年は他の面の治安維持については相当予算も大蔵省の理解によつてふえて来たのであります。そのしわ寄せが実は入国管理局に来ておるようなわけでありまして、密入国を各地で非常にやかましく言われるのでありますが、密入国取締りの官吏の数はこれは予算で認められない。刑務所の数を押えて持つて行くと、この間も刑務所で騒動が起きるというわけで、この処置に実はまことに困つておるようなわけであります。  もう一つ、地方の法務局の関係、ことに出張所の関係なのでありますが、ああいうところは電話があれば、一般国民にたいへん便利なんでありまして、これも行政費節約などの関係で、むなしく電話を引くのをあきらめたというような実情もあるのでありまして、まことに旧登記所などは、一般の人が始終必要な場所なんでありますが、そういう点でさだめし御不便をかけていると思うのであります。大蔵省のおられないところでこういうことを言うのは私の主義に合わないのでありますが、結局これは予算の問題なのでありまして、委員会の御要望もありますことでありますから、との次予算を要求するときには、この点は何とかしてみたいと思つております。入国管理の関係は実は内部から、予算というトンネルからのぞきますと、よくこれで仕事ができると思つて、はだにあわを生じると言つても過言ではないのでありまして、この点御理解のある御質疑を受けたことはたいへん私も心丈夫であります。どうか国会の輿論としてそのようにひとつ御支援を願いたいと思つております。
  69. 田嶋好文

    田嶋委員 大臣から強い決意をいただきまして、私非常に期待をいたすものでございます。どうかよろしくお願いいたします。そこで、できましたならば、この要求は、本委員会の強い要望であることが速記録に載りましたのですから、速記録でも御提出願つて、われわれも及ばずながら力を尽したいと思います。  それから幸い鈴木局長がお見えのようでありますから、これに関連してお聞きいたしたいのでございますが、ただいま入国管理局で非常に問題になつておりますのは、今の朝鮮人の帰化と同時に、私は強制送還の問題ではないかと思つております。この強制送還は、どういうような機構か私はわかつておりますが、今の機構を通じて強制送還をやる場合は、どれくらいな日数がかかつて、どの程度の処置ができているか、それをお答え願いたいと思います。
  70. 鈴木一

    鈴木(一)政府委員 ただいま朝鮮人の強制送還の問題について御質疑がございましたが、朝鮮人の強制送還の様子を見ていますと、密入国によりますものと、密入国でないその他の事犯の関係で強制送還しなければならないという二種類にわかれるわけでございます。  密入国の方は、これは大部分でございますが、大体毎日平均しまして十人程度は検挙いたしておるわけであります。月にしまして大体三百人程度はつかまえている。それが現行犯でございますれば、大体帰すことが建前でございますので、大村の収容所に一応収容いたしまして、帰すわけでございますが、費用その他の関係で、現在では一月に一回船を出して釜山に帰しております。大体二百人から三百人の間を送つております。  これは入つてから帰りますまでにそう長い日はかからないのでございまして、中にはどうしても日本にいなければならない特殊な人は、在留の許可を求める者がございます。そういう者につきましては異議の申立てというようなことで、法律できめました手数をふみまして帰すわけであります。そのために違反調査その他異議の申立てというようなことで大体二月間に決定しまして、そうして帰す者は帰すということになつておるわけであります。その間大村収容所あるいは地方に入国管理事務所がございまして、そこに収容場がございますので、そういうところにしばらくいてもらうということになつておりますが、御承知のように、われわれの方の関係は、司法処分ではない、どこまでも行政処分であるというので、できるだけの待遇をいたすということで十分な処置をとつているつもりであります。  それから密入国でない人たち、これは出入国管理令によりまして強制退去をすべき理由がありますれば、退去させるという二十四条に該当します者をあげるわけでありますが、現在におきましては強制送還に該当するとわれわれの方で認定いたしておりますのは、ただ犯罪を犯したというだけではいけないのでございまして、体刑を受けたのにあわせまして登録関係の違反があつたというようなことで、大体普通の事件とそれから登録その他のいわゆる入国管理に関します手続違反というものの併合罪というものを主として帰じておるわけでございまして、ごく軽微な者につきましてはむろん帰しておりません。特に終戦前から日本にずつとおつた一般の人たちに対しましては、帰すことについて十分考慮いたしているわけでありますが、御承知のように、昨年の五月十七日以降韓国政府におきましてこの手続違反の人たちを受取らないという事件がありまして、われわれの方といたしまして、いつでも向うで受取ると言つた場合には、すぐ帰し得る態勢に置いておりますために、大村の収容所にしばらくとどまつてつてもらうわけであります。先般もお話がございましたが、昨年の五月から起算いたしますれば、一年以上韓国側で自分の国民を受取らないというふうに、非常に不幸な人がいるわけであります。その数は約四百人になります。昨年の五月十七日当時一旦釜山に送りましたが、受取らないでまたそれをもとして参りましたのが百二十五名ございまして、その後少しずつふえまして四百人になりました。これらの人たちにつきましては、日韓会談その他によりまして機会あるごとに韓国側には注意を喚起いたしておるわけであります。日韓会談も早晩妥結を見、そうして自分の国民は自分の国で受取るという国際慣例にのつとつた措置が早晩現われるものと期待をいたしておるのでありますが、ただ一年以上になる人たちに対しましては、これが二年も三年もなるようでございましたら、われわれとしても日韓会談の成行きを待つておれない、もう少し人道的な立場で何とか法律を出すなり、別の措置を講ずるというようなことまで考えなければならぬのではないかというふうに考えております。
  71. 田嶋好文

    田嶋委員 たいへんなお仕事と思うのですが、この収容所に収容された人たちに対する食事、その他の給与はこういうことになるのでしようか。国家負担であるとすれば、どの程度のものであるか、それから自費を徴収でもいたしますか。
  72. 鈴木一

    鈴木(一)政府委員 大村収容所その他におきまして強制送還に該当する人たちを扱つておりますが、その食費は全部国費でまかなつておるわけであります、これはカロリーも計算いたしまして、二千四百カロリーは必ず下らないということで十分なカロリーと、それから量におきましても、これはこういうところで申し上げていかがかと思いますが、職員であります警備官などが家庭で食べる食事よりもむしろいいのじやないかといわれる程度になつております。食事につきましては、特段の処置を講じ、特に大村などにおきましては、朝鮮の人たちの好みもございまして、特別のつけものであるとか、そういうようなことも配慮いたしておるわけでございます。  強制送還に関します一切の費用は国費で負担しておりますので、大体現在におきまして、大村収容所に収容する経費、あるいは船を雇いまして行く経費、その他大局的に見まして二億円くらい使つておるのじやないかと思います。
  73. 田嶋好文

    田嶋委員 ますますこれはたいへんなことだと思うのですが、日本の国にただで食べる人が毎月どんどん何百人もふえたりたいへんなんですが、よほどこの対策は私は重大視して今後かからなくちやならぬじやないか、とかく入国管理の仕事なんか忘れがちの面が多うございまして、こうしてお聞きすると大切なことがわかるし、国の政治の上からもわれわれ重視してかからなくちやならない、これから機会あるごとに私は輿論にひとつお聞きすることも必要ではないかと思われます。そのことができましたらひとつお願いしたいと思います。  そこで朝鮮の方が私たちのところに頼みに来る場合がありますが、私は実は鈴木局長御承知のように、これは国の政治の非常に中心になることである。軽々に情にかられてこの人を救つてつてくださいというようなことは、特に私は入国管理局にお願いしないことを原則にいたしまして、たくさん私のところに参りますが、一回もお願いしたことはございません。非常に断りにくいのでございますが、この点だけはつきりと口をきかないということを原則にしております。それらの人たちが頼みに来た事情を聞いてみますと、この事情を調べてくれといいますが、さつき大臣から一つのわくをきめると、わくに似たような申請をどんどんやつて来るという大臣の言葉が非常に意味深重で、私もなるほどと感じたのですが、わくもあるかもしれませんが、最近頼みに来るのは、戦争中に疎開するために朝鮮に帰つた。そうして朝鮮はああいうふうな状態になつて、夫は内地におる。妻と子供を帰してその妻と子供はこちらに渡れないで密入国しておる。こういう事例も非常に多いようでありますが、こういうものはどういう取扱いをしておるのですか。
  74. 鈴木一

    鈴木(一)政府委員 ただいまのような事例が非常に多いのでありますが、原則といたしまして密入国者は必ず帰すというのが法の建前でございますので、その原則はぜひ貫いて行きたいと思つておりますが、ただ日韓の歴史的な関係もございますし、ある者につきましては、認めて在留を許す方が両国のためになるのではないかというような考え方もあるわけでございますが、どこに線を引くかということが非常にむずかしいのでございまして、御承知のように、終戦後朝鮮に引揚げをされました方が、約百七十万とわれわれは考えております。百七十万の方々は特に日本に居住をしておられた人で、いつでも日本に帰りたいという希望の方たちだと思います。従いましてその線のきめ方によりましては、百七十万そつくりおいでくださいと大手を広げて日本に迎えるということであれば、これは非常にたやすいことでありますが。百七十万おつては困る、まだ日本はそれほどの経済的な余裕がないということになりますと、どこに線を引くかということになるわけであります。そこで現在の一応の考え方といたしましては、特別に日本のために働いた人であるとか、つまり日本といたしましてその人に恩義を感じておるというような人、一例をあげますればそういうようなことでありますが、普通のただ善良であるということだけでなしに、何かぜひその人を救つてあげなければならぬという積極的な理由のある人につきましては、特別に考え考え方でおるわけであります。
  75. 田嶋好文

    田嶋委員 その考えは一つの基準がなくて、委員会の裁定によるということになるわけですか。
  76. 鈴木一

    鈴木(一)政府委員 裁決委員会ということを事務的、内部的にやつていますが、そこでただいま申しましたような一つの標準に照しまして、この人を救うベきかどうかということをきめておりますが、原則はわれわれの感じからいたしますれば、一日日本に入りますと、人情が移りまして何とか助けなければならぬという感じになるのでありますが、考え方をかえまして、たとえば密航船で日本に近づいても、波打ちぎわでこれは違法だお帰りなさいといつて帰してしまうのだというような考え方をしていただきますと、非常に気持が楽なんでございますが、どうかそういうふうなお考え方で皆さん当つていただきたいと思つております。
  77. 岡田春夫

    岡田(春)委員 今田嶋君が私の聞きたい点も一、二聞いてくれたので省略をしますが、さつきも局長の答弁によりますと、戦争前から居住権を持つておる者に対しては、これは特別な措置でこの法律が通るときにできるだけこれを除外する特別措置を講ずる、こういうことになつているはずであります。ところが最近になつて来ると、さつきも局長が答弁をされておりますが、何か併合罪というようなかつこうで、ほかの犯罪と結びつけて、従来戦争前に居住権を持つてつた者もどんどん帰そうというような動きが見えておるようにわれわれは聞いておりますが、こういう場合は一体具体的にどういう条項というか、どういう科目になるのか、その点を適用されてそういうように特別の措置を引いて帰すようになつているのか、こういう点をまず伺つて行きたいと思います。
  78. 鈴木一

    鈴木(一)政府委員 入国管理令が法律となりました際に、在留の朝鮮の人たちで、これは台湾の人も入るのでありますが、終戦前から引続き日本に在留しておる人たちは、法の建前から申しますと、在留資格と在留期間というものがきめられるわけでありますが、そういうことがきめられないで、日本に当分おれるのである、いずれ特別法を出して、そのときにきめるのであるという法律になつておるわけであります。ただそれなら在留権が一応認められておるのだから帰す必要はないじやないかということになりますが、これは終戦前の法律が適用されておりますが、旧外国人登録令というものがございまして、その旧外国人登録令時代に、併合罪で、登録違反というものがありますれば、体刑以上になつた者については帰すという条項があるわけであります。その旧令が動いておるという意味で、そういう範囲で帰しておる。たとえば新しい管理令によつては、公共の負担になるような困窮者についても帰すことができるという規定がございますが、そういうものは現在は動かしておらないのでございます。手続違反というのは、旧外国人登録令違反でございまして、これは御承知と思いますが、昨年の五月までに七回にわたつてすでに送つております。それを八回目に同じケースのものを送ろうと思つたら、向うでちよつと待つたということになつたのであります。
  79. 岡田春夫

    岡田(春)委員 今特別措置を講ずるというので別な法律を出すことになつておる。ところがそれができてないので前の管理令に基いてやつておるということになると、その法律をどうしてお出しにならないか。これは、出入国管理法を通す場合において、特別の措置を講ずるという精神に基いた法律を早く出して、具体的な方法を講ずべきであつたと思うのでありますが、こういう点が明確になつておらない点と、それからもう一つは、先ほど御答弁の中にもあるように、相当数の者を向うに帰しておる。ところが去年から日韓会談の関係でそれを受取らないというので、私の方の調べた限りでは大村に百二十五名と聞いておつたのですが、先ほどの答弁だと約四百名になつておる、こういう話であります。ところがこの四百名の中に実際に韓国に送還されることを拒否しておる者が相当数に上つておるわけです。朝鮮人民共和国の方には帰れるなら帰つてもよいが、韓国には帰りたくない、こういうものが実は相当数に上つておると思うのであります。こういう数字を現在あなたの方で集計されておられるならば、これをお答え願いたいと思います。
  80. 鈴木一

    鈴木(一)政府委員 前段の特別法を出すということについては、これは日韓会談の妥結の内容によつて――たとえば国籍の問題については、一応日本側も韓国側も平和条約の成立の際に解釈は一致しておるのでありまして、問題はないところでございますけれども、日韓会談の妥結を待つてさらにそれをはつきりさせるという段階になつております。その際にこの特別法を出しまして、おのおのその問題をはつきりさせるということが最初からの問題であつたのでございまして、日韓会談が成立いたしませんので、まだその特別法は出ないのでありますが、われわれとしては一日も早くこの特別法が出るような状態になることを望んでおるわけでございます。  それからもう一つのお尋ねの大村におる四百名の中に北鮮に帰りたい人がどれだけいるかということでありますが、私のところでは今その数字を持つておりません。これは希望をとればはつきりわかると思いますが、まだわれわれの方では希望をとつておらないのであります。
  81. 岡田春夫

    岡田(春)委員 そういう点は相当実は希望者があるという話をわれわれは聞いております。これは大村の関係ばかりではなくして、そのほか、岡崎の場合を合せても、全国全部十二箇所ですか、約千名以上の収容者の中で、相当数の者が朝鮮人民共和国の方に帰りたいという希望を持つているらしいのであります。ところが最近の情勢を見ると、この出入国管理令違反で韓国に帰されておる者が向うで相当殺されておるのです。殺されておる実例を聞くと、韓国へ帰りたくなくなつている。こういう実例があるだけに、本人の希望としては北鮮に帰りたいという場合には北鮮に帰してあげるのが、日本の国としては建前でなければならぬと思う。私がこういう質問をすると、あなたの方で答弁されることは大体私はわかつているのです。朝鮮人民共和国の方はまだ国交関係ができておりませんので何ともいたし方がありませんというておそらく答弁されるだろう。しかしそれでは答弁にはなつていない。なぜならば、国交回復のできておらない中国との間において、この間からどんどん日本人が帰つて来ている。こういう実例を考えてみても、外国の人であつて帰せばよいのですから、希望しているならば、北鮮であろうと、たとえばソ同盟であろうと何であろうと、帰してあげるのが日本の国としての礼儀だと思う。こういう点についてあなた方の方で御努力をなさつておられることがあるかどうか、ざつくばらんにお話を願いたい。あなたも御承知でありましようが、戦争が終りましてから北鮮に帰している例が二回あるのであります。というのは、昭和二十一年六月に敦賀を出帆して釜山におろして、そのあとで船は清津に行つて、清津で朝鮮人をおろしている。そのほかもう一回あるのでありますが、こういう例を考えてみましても、もしあなたの方で努力をされるならばその道があいていると思うのであります。先に申し上げた中国の例からいつてもあいている。向うへ連れ帰られてから殺されるという話を聞いても、人の国のことだから私は知らぬといえばそれきりの話だが、われわれとしては同じ人間が殺されるようなところへことさらに帰す、いやだ、北鮮に帰りたいというのに、それを帰さないで韓国に帰す必要はないと思う。これについてどのような努力をされているか、こういう点について、時間がありませんから結論的にお伺いしておきたいと思います。
  82. 鈴木一

    鈴木(一)政府委員 今のお尋ねでありますが、出入国管理令の建前から申しますれば、日本から退去して、出て行つてもらう、日本にいてもらいたくないということが主眼でありまして、それが北鮮に行こうと南鮮に行こうと、あるいはまた第三国に行こうと、われわれとしてはさしつかえないのであります。従つて、今までは北鮮に送る道がなかつたということで釜山に送つてつたわけでありますが、もし将来そういう道が開かれるということでございますれば、われわれの方としては大いに研究しなければならぬ問題であると考えております。
  83. 岡田春夫

    岡田(春)委員 将来ということでは困るのであつて、今やつてもらわなければならない。将来努力するということ今は努力しないということになりますので、やはり今から努力してもらわなければならないと思うのです。これはぜひ大臣にも聞いておいていただきたいが、特に朝鮮の休戦問題がこういうふうに具体的になつているときに、なおさら日本としてはそういう点については努力すべきだと思う。これは将来の問題でなくて今すぐ――そういう例が二回もあるだけに、やろうと思えばできるわけで、中国と日本との例を見ましても、政府の間でできない場合には赤十字社を中心にしてやつている例もあることですから、そういう点も十分考慮して努力されるように特に希望いたしておきます。
  84. 小林錡

    小林委員長 それでは本日はこれにて散会いたします。     午後五時五十分散会