○
鍛冶委員 まず
修正案の案文を朗読いたします。
刑事訴訟法の一部を
改正する
法律案に対する
修正案
刑事訴訟法の一部を
改正する
法律案の一部を次のように
修正する。
第六十条第二項の
改正規定を次のように改める。
第六十条第二項
但書中「第八十九条第一号又は第三号乃至第五号」を「第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号」に改める。
第八十四条第二項の
改正規定を次のように改める。
第八十四条第二項を次のように改める。
検察官又は
被告人及び
弁護人並びにこれらの者以外の
請求者は、
意見を述べることができる。但し
裁判長は、相当と認めるときは、
意見の
陳述に
代え意見を記載した
書面を差し出すべきことを命ずることができる。
第八十九条の
改正規定に関する
部分を次のように改める。
第八十九条第一号中「
無期の
懲役」を「
無期若しくは短期一年以上の
懲役」に改め、同条第五号中「
氏名及び
住居」を「
氏名又は
住居」に改め、同号を同条第六号とし、同条第四号の次に次の一号を加える。
五
被告人が、
被害者その他
事件の審判に必要な
知識を有すると認められる者の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる充分な
理由があるとき。
第百九十八条第二項の
改正規定を次のように改める。
第百九十八条第二項中「
供述を拒むことができる旨」を「
自己の
意思に反して
供述をする必要がない旨」に改める。
第百九十九条の
改正規定に関する
部分を次のように改める。
第百九十九条第二項を次のように改める。
裁判官は、
被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な
理由があると認めるときは、
検察官又は
司法警察員(
警察官又は
警察吏員たる
司法警察員については、
国家公安委員会、
都道府県公安委員会、
市町村公安委員会又は特別区
公安委員会が指定する
警部以上の者に限る。以下
本条において同じ。)の
請求により、前項の
逮捕状を発する。但し、明らかに
逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
第二百八条の二の
改正規定を次のように改める。
第二百八条の二
裁判官は、
刑法第二編第二章乃至第四章又は第八章の罪にあたる
事件については、
検察官の
請求により、前条第二項の
規定により延長された
期間を更に延長することができる。この
期間の延長は、通じて五日を超えることができない。
第二百十九条の二の
改正規定に関する
部分を削る。
第二百九十一条の二の
改正規定中「
検察官及び
被告人又は
弁護人」を「
検察官、
被告人及び
弁護人」に改める。
第三百六十条の二の
改正規定中「
死刑の
判決」を「
死刑又は
無期の
懲役若しくは
禁錮に処する
判決」に改める。
この
刑事訴訟法の一部を
改正する
法律案の提案せられました真の
理由は、いわゆる
占領治下における
改正立法として、新しい欧米の
法律制度をわが国に輸入せられたものでありますが、遺憾ながら
国情に合わないもの、その他実際に適しないものがあるので、それを
国情に合い、または実際に照して
不都合のないように改める御
趣旨のものと
考えておるのであります。われわれもかねて
考えてお
つた改正の点を取上げられたことを、喜んでお
つたのであります。ところがこの
内容を見ますと、その
趣旨も盛られておりまするが、どうも
検察事務の遂行にあた
つて便宜なようにだけ
考えられまして、われわれが
考えておりまする
人権の尊重、並びに
捜査や審理に関する
民主的改革という点には、はなはだ遠いところがあるように
考えられるのであります。むしろ
職権主義に基いて、旧
刑法時代にもどさんとする
考え方でなかろうかとまで疑われるものがあることは、われわれもはなはだ遺憾とするところであります。さらにもう
一つは、
取扱い上はなはだ不便なところのあつたことは、われわれも認められまするが、それらの点は、特殊の場合、特殊の思想を持
つてや
つておる一部の者のやることであ
つて、そのや
つておることは
不都合に違いないけれ
ども、その
不都合を矯正しようとして、
一般国民全体の
権利を短縮しようというような傾向のありますることは、まことにわれわれは遺憾だと思います。その
意味において、この
修正を
提出した次第でございます。
まず第八十四条の
改正でありまするが、
改正案を
修正いたしまして、現在の
刑訴訟法八十四条に
但書をつけることにいたしました。これは、但し
裁判長が相当と認めるときには、
意見の
陳述は
書面をも
つて出すべきことを命ずることができるとしたのであります。
政府原案によりますると、
原則として、
書面でやらせて、
一般の
供述権をなくしようというお
考えのようであります。
立法上の問題から
考えますと、いろいろ
議論はありますが、いずれにいたしましても、
現行において
供述でき得る
権利があるにもかかわらず、特殊の
事件の特殊の人々がこれを妨害するからとい
つて、
一般国民の
供述権をなくすることは、われわれは首肯できないと
考えまして、特にやらなければならぬ必要がある場合は、そのときに
限つて、
裁判長においてこれを用いたらよろしいという
意味で、この
修正案を
提出した次第であります。
第二は、八十九条の四号を削りまして、これに伴う六十条の
条文の整理をいたした次第であります。これはいわゆる新
刑事訴訟法において、最も特長的とせられました
権利保釈の
権利を狭めようとする
改正でございます。この
改正には、たくさんの
改正点がありまして、いろいろ
議論はありましたが、特にここに削除いたしました第四号は、「
被告人が多衆共同して罪を犯したものであるとき。」という表現にな
つておりまして、この多衆という文字に対しても、
旧来いろいろ議論があつたものでございますし、これの
運用いかんによりましては、たいへん広い範囲にわたる
危険性もあると
考えますから、かようなことで
国民に与えられたる
権利保釈の
権利を狭めることは、最も申訳ないと
考えまして、この四号を削除することにいたしました。その他の点についても、相当
議論もあり、また考慮すべき点もあるとは心得ますが、一応この
改正をや
つてもら
つて、その
実情をながめた上で検討すべきものでなかろうかと
考えまして、この
程度の
修正にとどめたわけでございます。
第三は、百九十八条第二項の
修正であります。
原案では、いわゆる
世上拒否権と言われる
権利でありますが、
原案では
被疑者に対し「あらかじめ
自己に
不利益な
供述を強要されることがない旨を告げなければならない」とありましたが、
自己に
不利益であるか
利益であるかということはいかにもどうも
法律的にはあいまいな
言葉でありまするし、またいろいろ
議論しておりますときに
不利益なことは
供述しないが、これはお前のために
利益だと思うから、お前に言わしておるのになぜ言わないのかと言われたときに、たいへんあいまいなことになります。こういうことでこれは
議員総体がずいぶん頭を悩ました結果、何人にも最も明瞭にわかるようにというので、「
自己の
意思に反して
供述をする必要がない旨を」というふうに改めた次第であります。
第四は、百九十九条第二項の
修正でありますが、この点も最も
議論のあつたところでありまして、要するに
政府の答弁を承りますと、
本条の
修正のねらいは
逮捕状の
濫発の非難がある。これにこたえての
修正であると言われております。そこでわれわれの
考えますところは、もちろんわれわれも過去において
濫発ありとし、何とかこれを
改正しなければならぬと
考えてお
つたのでありますが、この
濫発を防ぐ、
国民の最も信頼する方法は、
逮捕状は
裁判所において発するものだ。――これはいろいろ
議論があります。
逮捕状は
裁判所で発するのではない、
裁判所は
捜査官に
逮捕権限を付与するのだという今までの
考え方もありましたが、
裁判所がなるほどこれは
犯罪の嫌疑があり、さらにまた
逮捕の必要があるということを認定いたしまして、その結果発せられるということになれば、
国民の最も信頼し、安心し得るものだと
考えましたので、この点を
修正案において根本的に
改正いたしまして、
裁判所が「明らかに
逮捕の必要がないと認めるときは」これは発しないでもよろしいのだというふうに改めました。
従つてこれが十分徹底して行きますならば、
逮捕状の
濫発ということは十分防げると
考えましたので、あえて
検察官に
同意を求むるの必要はなかろう、こういうことでこの点は
現行刑事訴訟法の
通りといたしたのであります。ただ
一つ異なりましたのは今までの
警察における
逮捕状の
要求権はいわゆる百九十九条によります
司法警察員がやられるということで、その
警察員なるものの
内容はところによ
つて異なり、
警部補はもちろん
巡査部長までも
要求できるというふうなことでありましたので、これはよほど重大なことでありますから、相当
法律知識もあり、
社会常識も円熟したる人に取扱
つてもらわなければならぬと
考えまして、これを
公安委員会の定むるところによ
つて指定するのであ
つて、
警部以上の者にするということ、かように
修正いたしたわけであります。このほか
検察官の
意見を求めることが必要であるかないかという
議論もありましたが、これらは
裁判所においてそれを認定する上においての実際問題でありますので、いずれこれに対し
裁判所において十分適切なようにしてもら
つてよろしい、かように
考えまして、この点に対する
修正はいたしませんでした。これは判事の良識に期待いたした次第であります。次は二百八条の二の
修正であります。これはいわゆる
検事勾留の
期間を十日間とし、さらに事情やむを得ぬ場合はもう十日間延ばせる、こうな
つておるにもかかわらず、さらにその上また特殊の場合には五日間延長できるという
改正なのであります。いろいろ
法制審議会等で
議論のあつたことも聞いておりますが、おそらく
在野法曹はもちろん、
国民の輿論の大多数はこれに
賛成するものはないと
考えます。この
意味においてわれわれもこれには
賛成いたしたくない。また今までの
実情を見ておりますと、十日間が
原則であ
つて、
あとの十日は特殊の場合でなかつたらやれないものだと心得ておりますが、ほとんど
検察庁においては
あとの十日も当然やれるような
取扱いをされているので、さらにこの五日も当然やれるのだ、めんどうな
事件ではたいがい二十五日やれるという頭になりましてはたいへんだと思いまして、これには
賛成しなか
つたのでありますが、特殊の
犯罪については、なるほどこれがなくてはいかぬだろうと思われるものもありましたので、この
意味において
犯種を特定いたしまして、この五日間だけ延長したことを認めた
修正であります。その
犯種といたしましては内乱、外患、国交、騒擾の四つを掲げまして、この
犯罪に対してだけやれるということにいたしました。しかしわれわれはこの
犯罪の場合はやれると
修正いたしたのでありますが、この
犯罪の場合には何でも二十五日やれるのだという頭をも
つてや
つてもら
つたのでは、われわれの
修正の
考え方とはたいへん違うのでありまして、この
犯罪であ
つて、しかもやらなければならない、やむを得ない事情のある場合に限るものと十分御注意を申し上げておきたいのであります。
次は二百十九条の二、これは削除いたしました。本法を
改正しようとせられます御
趣旨は十分われわれもわかります。またかようなことも必要であろうかと首肯できる点もないではありませんが、何よりもこの
規定でおそれることは、現に
捜査に
行つた司法警察員みずからの専断の認定によ
つて確かにここにあると認める、これは「その物の所在する場所が明らかと
なつたとき」とな
つておりますが、明らかとはどういうことか、行つた人の主観で明らかであるというのです。しかしてまたこれを看守するというのでありますが、これはそのもののところで二日でも三日でも看守せられてお
つたのでは、現実に家宅捜索よりもえらいことになる。家宅捜索は令状を持
つて行
つて執行すれば終りなんだが、二日でも三日でも看守されたら二日間、三日間続いて家宅捜索に来られたようなもので、かような
規定は人身
保護の上に最も危険であると思いましたので、これを削除することに決定いたしたわけであります。
次は二百九十一条の二でありますが、この点につきましてもずいぶん
考えなければならぬ点が多々あると思う。ことに現在における
捜査の
実情から見まして、単に
被告人が自白したからとい
つて簡易な
手続でよろしいのだという
考え方は相当注意を要するものと心得ますが、これも新しい
制度の決定でもありますし、またアメリカ等においてもこれに似たる
手続もありますので、なるべくその弊害のないことを希望いたしまして、一応試みにや
つてみたらよかろうというのでこれを是認することにいたしましたが、そのかわりここに「
裁判所は、
検察官及び
被告人又は
弁護人の
意見を聴き、」とありましたのを「
検察官、
被告人及び
弁護人」の
意見を聞く、かように訂正して
原案を認めたわけであります。一体
原案で「
被告人又は」として
被告人だけでや
つて弁護人に聞かぬでもいいということははなはだ了解に苦しむものがありましたので、それをかように
修正いたしますならば、もし弊害ありとしても、幾分なりともこれを矯正できるであろうと
考えて、かように
修正したわけでございます。
次に、三百六十条の二に「
死刑」のみを
規定してありましたのに「又は
無期の
懲役若しくは
禁錮」と加えたのであります。この上訴権の放棄につきましても、これは今までのわれわれの
実情から見ておりまして、いかにも放棄をしいられるような傾向のある場合も認められますので、これもいかがなものであろうと心得えております。そこへ持
つて来て、
死刑は除かれたからいいようなものの、
無期というような重刑に対しても放棄が簡単にできるというようなことにしては、たいへん危険を感ぜられますので、せめて
無期懲役及び
禁錮をも放棄できないものとすることがよろしい、かように
考えてこれに付加いたしたわけであります。
以上、
修正の諸点に対しまして、簡単ながら説明といたします。