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猪俣委員 大臣は御用がありましたら、どうぞお引取りを願います。
私は、この
執行猶予に
保護観察を付することと、少年あるいは仮釈放者に
保護観察をつけるということとは、
観念上違いがあるのではないか、要するに
執行猶予の
制度なるものは、
監獄において服役させなくとも、一般の
市民生活を送らせることによ
つて、その反
社会性を矯正しよう。すなわちそれには自由ということが中心であります。されば、それを
法律の
恩典なりとして感謝して、彼らの反
社会性が消えて行く、ここにねらいがあるのでありまするから、
執行猶予をつけておきながら、これに何らかの看視をするということには私は
矛盾があると思います。
執行猶予をつけるならば、それは
監獄行政に服せしめず、一般の
市民生活を享楽させながら改過遷善されようという深い深い法のたくらみがあると考える。それにけちな干渉がましいことをや
つて、そうしてその人の自尊心を傷つけ、
社会から何らかの色目で見られるような
生活をしなければならぬというようなことならば、
執行猶予制度の根幹に横たわりまする深い深い法のたくらみというものがこわされるおそれがあると思うのであります。それでありまするがゆえに私が先ほど
観念に
矛盾があるのじやないかと言うたのは、そういう基本理念からであります。そうしてその
観念に相違がありまするがゆえに、ただいま
政府委員の御説明になりましたような仮釈放の者と同じような
保護観察に付するというようなことが出て来るのであります。私はこれでは
執行猶予の根本的精神を破壊することになり、百害あ
つて一利がないというふうに考えるのであります。ことにこの
遵守事項なるもの、これは
犯罪者予防更生法に書いてあります。これは少年あるいはは仮釈放者――仮釈放者というのは、
監獄行政によ
つて陶冶すべきことを適当なりとして入獄した者でありますが、その後のかれの行状、
態度によりまして、裁判なしに、いわゆる
監獄行政を適当なりとした判事の判断なしに、
保護更生
委員会においての処置としてその家庭にもどらせるのであります。これは
委員会としても当然責任があることだろうと考えられる。しかもこれは
監獄生活を送らなければならぬ人種でありまするから、これに
一定の制限を付するということも、これは理解ができるのであります。
監獄におるよりも外に出しておくのでありまして、元来は
監獄におらなければならぬ人なのであります。それでありますがゆえに、そこにいろいろ
条件が出て来るということも考えられるが、一般の
成人で
執行猶予をつけられた者に対しまして、この
犯罪者予防更生法が
規定しております
遵守事項というものは、これははなはだどうもぎこちないことが起るのではないか。
一定の
住居に居住する。正業に従事するということはよろしゆうございますが、善行を保持する、
犯罪性のある者または素行不良の者と交際しない。これは少年ででもある者ならば、悪い者と一緒になるなというものも、ある程度これは訓示になりましよう。しかし一般の
社会生活を
行つておる者に、
犯罪性のある者または素行不良の者と交際しないことと言
つても、一体どういうような人間が
犯罪性のある人間であるか、
犯罪性のあるとということは、一般の人にはどういうふうに考えられるか。素行不良と申しましても、どういうのを素行不良というのか、こういう普通の人が
ちよと判断できないようなことを、しかも誤
つて犯罪性のある者や素行不良の者と交際したということになると、
執行猶予は取消されるということになる。これではどうも自由なる
市民生活を享楽することはできません。
住居を転じ、または長期の旅行をするときは、あらかじめ
保護観察を行うものの許可を求める。これも商人その他活発に活動しなければならない人にとりましては、これは非常に煩雑なことである。しかもこれを怠ると
執行猶予を取消される。これは
執行猶予を取消される場合は、
犯罪を犯して、
罰金に処せられたとか、禁錮以上の刑が発覚したとかいう
刑罰条件の予定した場合において取消される、あるいは
刑罰に処せられたということで取消されるのであります。そこで先ほどの質問になりますが、この
遵守事項というものは、
刑罰法規違反と同じような
性格を持
つておる。禁錮以上の刑に処せられた、
罰金に処せられたのが
取消しの
原因になる、それと同じように、この
条項に違反すると、
取消しの
原因になる。
犯罪性のある者と交際した、素行不良の者と交際したというと、これが一種の処罰
条件、一種の
刑罰条件みたいにな
つてしまう。
犯罪を犯して
罰金に処せられたと同じ効力を発生してしま
つて、
執行猶予は取消されるということに相なるのでありまして、
遵守事項というものが非常に重大な働きをしておるというふうに考えられる。
執行猶予になりましても、なおまたこういう
刑罰条項のようなものがあ
つて、それを守らなければまた逆もどりするというようなことは、全体といたしまして
執行猶予制度の根幹と背馳する理念である。自由なる
社会生活を営むことによ
つて、反
社会性を消滅せしめようという、深い法のたくらみが、またく裏切られることになる。私はその
意味において
保護観察制度というものを心配するのでありますが、どうしてもつくらなければならぬならば、先ほど言いましたように別な見地に立ちましたる独立の立法をすべきものであるというふうに私は考えるのでありますが
政府委員は独立の立法をしなくてもよいと考えられておるかどうか。
法務大臣は後刻よく考えるとおつしやつたが、あなたとしては
法務大臣に独立の
法律をつくることをお勧すめする気があるかないかということを承りたい。