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1953-07-11 第16回国会 衆議院 法務委員会 第11号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十八年七月十一日(土曜日)     午前十時五十三分開議  出席委員    委員長 小林かなえ君    理事 鍛冶 良作君 理事 佐瀬 昌三君    理事 田嶋 好文君 理事 吉田  安君    理事 井伊 誠一君 理事 花村 四郎君       大橋 武夫君    押谷 富三君       林  信雄君    星島 二郎君       本多 市郎君    三浦 一雄君       古屋 貞雄君    細迫 兼光君  出席政府委員         法制局第二部長 野木 新一君         法務政務次官  三浦寅之助君         検     事         (刑事局長)  岡原 昌男君  委員外出席者         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 七月十日  毎年一回住民登録実施に関する陳情書  (第七四九  号)  戦争受刑者全面的釈放海外抑留同胞の急速  引揚に関する陳情書  (第七九七号) を本委員会に送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  逃亡犯罪人引渡法案内閣提出第一〇二号)     ―――――――――――――
  2. 小林錡

    小林委員長 これより会議を開きます。  逃亡犯罪人引渡法案を議題とし、質疑を続行いたします。質疑の通告があります。これを許します。佐瀬昌三君。
  3. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 国際社会交通機関の発達、人文の交流によつてきわめて圧縮された今日、いわゆる国際犯罪あるいは国際犯人がきわめてその数を増しまして、各国間にこれが鎮圧あるいは取締り上国際的な交渉を持つのは今日きわめて多いのであります。この際この法案政府の手によつて提案されたことは、この国際社会の実情に照しましてまことに時宜を得た立法であると、私は当局の短期間におけるこの成案に対して深く敬意を表する次第であります。しかしながら事がきわめて対外的に重大であり、過去の外交史の上においても、逃亡犯罪人引渡し問題をめぐつて戦争にまで発展したという国際紛議もないのではないのであります。また国内的に見ましても、最近は犯罪人に対する人権自由の保障、その他いろいろ近代的な司法制度整備刷新に対する要望も強いのであります。以上いろいろな点を顧慮いたしまして私はこの法案に対する若干の質疑をいたし、この法の運営の上においても過誤なからしめたいと考える次第であります。  まず第一にお伺いいたしておきたいのは、この逃亡犯罪人引渡法は、外国からわが国に対して引渡し要求された場合に対する規定であるようでありますが、わが国外国に向つて外国に逃亡した犯罪人引渡し要求する場合、これに伴う国内取扱い規定というものも、この法を完璧ならしめるがためには必要であろうと思うのでありますが、政府においてはその点はいかに顧慮されたか、これを伺つておきたいと思います。
  4. 岡原昌男

    岡原政府委員 今回御審議を煩わすことになりましたこの法案は、外国からわが国引渡し要求がありました際の手続を中心に規定しておりますことは、御指摘通りでございます。しからばただいまお尋ねの、わが国から外国に対して犯罪人引渡し要求した場合にはどういうふうなことになるのかと申しますると、まず条約のあります日米関係におきましては、日米犯罪人引渡条約の第五条によつて外交官を経て米国請求する、米国ではその国内手続法連邦法典の第二百九章にございますので、その辺の資料はお手元にお配りしてございますが、それによつて当該逃亡犯罪人逮捕してこれを日本国官憲に引渡すこととなるわけであります。この引渡しはこの法案のまる反対の場合でございまして、米国の領域内で行われるものでございます。この場合に日本国から逮捕状を持つて犯人引渡しを受けに参るわけでございます。この逮捕状を持つて行く手続わが国刑事訴訟法逮捕状手続に完全によるわけでございまして、これによつて逮捕状が執行され、身柄が手に入りますと、その身柄受取つて日本参つて、そこで初めてあとは完全に日本刑事訴訟法によつて行く、かよう建前をとつているわけでございます。従いましてちよう相互的な関係になりますので、特にその点について特別の規定を置かずとも、わが国刑事訴訟法が動いて行く、かよう関係になろうかと思います。なお附則の第五項につきまして、わが国からアメリカ身柄を引渡す要求が参りました際に、あちら側で抑留拘禁された期間を、わが国刑事補償法関係でどう扱うという問題が出ようかと考えまして、この点は刑事補償法の一部改正を行いまして、さような場合にも補償関係ではアメリカにおける拘留拘禁、これが全部補償を受ける、かような橋渡しと申しますか、人権擁護建前から補償的な規定をいたした次第でございます。大体さよう考え方に基いております。
  5. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 なお本法案全体の構造から見ますると、いわば引渡す締約国との関係を規律する立法というふうに観察されるのであります。しかしながら私ども文明国家逃亡犯罪人の問題をめぐつて引渡条約を締結することのすみやかに、かつ万国に普遍化されるということを希望するものではありまするけれども、なかなかそこまで達し得ない、いわば無協約国というものか相当存在するであろうと今日予想するわけでありますが、この引渡条約のない国との間については政府はいかなる態度をもつて引渡し問題に臨むか、これをまずただしておきたいと思います。
  6. 岡原昌男

    岡原政府委員 犯罪人引渡しに関する条約締結されていない国相互間におきまして、国際礼譲によりまして逃亡犯罪人引渡しをなすことは、従来から多数の国の間において行われておるところでございます。古くは一八八 ○年のオックスフォードにおける万国国際法学会においても引渡しをなし得るのは、単に協約のみでなく、引渡しは何らの協約または条約なき場合においても実行することができるというふうな決議がされておりました。なお学説もこの点は国際礼譲としてなし得るものであるということを広く認めておりところでございます。たとえばハレツクの国際法、あるいはただいま御質疑いただきました佐瀬先生は「司法研究」の中にもその点が触れられておりまして、この原則国際法上確立されたものと申すことができるのでございます。わが国においても条約国以外の国に対して、逃亡犯罪人引渡し要求いたしまして、その引渡しを見たこともございます。あるいはその請求に応じて、礼譲としてこの引渡しをした実例もございます。右の国際法上の確された原則は、もちろん憲法上九十条二項に、確立された国際法規というものにあるでもございましようし、従つてわが国においても、条約のない場合に逃亡犯罪人引渡しをなすことは当然認められるものである、かよう解釈しております。  なおこの機会に、今回の法案全体の立案につきましては、佐瀬先生が今から二十年前に司法研究として研究されました逃亡犯罪人引渡しに関する研究という著書がたいへん参考になりました。その点この機会に厚く御礼申し上げる次第でございます。
  7. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 その場合引渡しについていかなる準拠法に基いて国内的措置をとられる方針であるか、私どももちろんこの逃亡犯罪人引渡法に準拠するということが当然だろうと思うのでありますが、国際礼譲という観念から割り出して行きますると、これはきわめて漠然たらざるを得ないのでありまして従つて国際礼譲の上に立つて引渡し要求をする国の方からいうと、いろいろその準拠法についての考え方がまた日本の場合と違つたものもあり得るのであります。これらの点を顧慮して、政府日本の立場としては、何によつてこれを行われるかということをお聞きしたいと思います。
  8. 岡原昌男

    岡原政府委員 条約がない場合に、先ほどお答えいたしました国際礼譲によつて逃亡犯罪人引渡しをする場合がございますが、その際の国内手続につきましては、この法律ができますと逃亡犯罪人引渡法が類推適用されるというふうに解しております。すなわちこれはあることに対しまして直接の準拠法規かない場合において、合理的と認められるときは最も類似した事項についての法規を類推適用すべきであるという理論に基いての相当の措置で赤ると考えるのでございます。わが国における先例を見ましても、条約のない国からの要望に基きまして国際礼譲として逃亡犯罪人を引渡すこととなつた場合には、例の逃亡犯罪人引渡条約に準拠して処理しておつたのでございます。それはいわば慣習法として確立されていたと申してもよい程度であつたのでございます。新しいこの法律ができた後におきましても、従来その慣習法的なやり方ないしはその類推解釈態度、これをくつがえす明文もないのでありまして、まつたくその点に触れていないのでございますから、その点に関しては従来と同じ条件あるいは法律関係と申してもよいでしようが、それにあると申してもよいと思うのであります。従つてその類推解釈態度は引続き採用し得るもの、かように考えております。  なお同様の事例といたしましては、沖縄巡回裁判所から証人尋問嘱託があつた場合に、国内の直接の準拠法規がなかつたのでございますが、類似の場合を規律した「外国裁判所嘱託ニ因ル共助法」これは明治三十八年法律第六十二号でございますが、これにのつとるべきものであるという昨年四月二十三日の最高裁判所刑事局長回答がございました。裁判所においては爾来これに基いて事を処理しておるような前例もあるわけでございます。
  9. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 その場合一番多く問題になるのは、いわば引渡し犯罪範囲であります。引渡条約が締結された場合には、その条約の中に引渡し犯罪が何らかの形式規定されるわけでありますが、無条約国との間にはその点欠けるものがあるので、常に引渡し犯罪の種類、範囲について紛議が起りやすいのでありますが、これに対する解釈はどうなつておりましようか。
  10. 岡原昌男

    岡原政府委員 引渡しを求められたその逃亡犯罪人が犯した犯罪というものを一体どの範囲において引渡し犯罪と認めるか、つまり条約というものがありませんから、何を基準にしてこれを定めるかという点が御指摘ように起つて参るわけでございますが、逃亡犯罪人引渡法を類推適用するについてもこの点が問題になつて来るわけでございます。このような場合には世界の多数の国において逃亡犯罪人が引渡される、その引渡し犯罪とされておる犯罪範囲が、いわば最大公約数的なものが出て参るわけでございまして、その範囲に限ると解するのが相当であろう、かように存ずる次第であります。
  11. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 この法案が大体引渡条約を締結した国を対象として立案されておりまするために、無締約国との関係その他について疑問の起らないように、ただいま一応お伺いしておつたのでありますが、さらに根本に立ち帰りまして、一体この種立法における基本的原理原則がいかに立法上反映されておるかということが、この法の真価を定める上においてきわめて重要な点であります。しかも事は国際的な性格を帯びた近代的な立法でありますので、それらの点において十分政府当局立案にあたつては顧慮されたと思うのでありますが、以上の観点から、私はこの点について若干伺つておきたいと思うのであります。  まず憲法九十八条二項にも関連する問題でありますが、政府はその解釈上、国内法国際条約ないし国際法規との関係、特に効力の優劣について、いかような判断の上に立つておるかということを、これは法制局政府委員でもけつこうでありますから、一応この法案を審議する上において、これを明確にしておきたいと思います。
  12. 野木新一

    野木政府委員 それでは便宜私からお答え申し上げます。憲法九十八条にうたつてありますように、日本国締結した条約及び確立された国際法規は、日本国として誠実にこれを遵守することを必要とするわけであります。従いまして、確実な国際法規並びに日本国締結した条約わが国国内法とは、相矛盾しないようにこれを履行し、または解釈して行く、そういうところが憲法の要請する基本的態度であろうと存ずる次第であります。
  13. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 もしこの国内立法である逃亡犯罪人引渡法矛盾したよう国際条約、ことに犯罪人引渡条約というものができた場合を私どもは懸念するわけであります。おそらく日本とある特定国家との間において個別的条約締結する場合には、ただいま政府委員から説明された通り、本法を基準にして矛盾のないよう条約締結されることをわれわれは期待するものでありますが、多数国間における集団的な協定とかあるいは共同宣言というものも、これは引渡し義務づけることになるのでありまして、さような場合にこの法案矛盾なきを保しがたいという場合があるわけであります。そこで私は今その点に対する政府心構えを伺つたわけでありますが、でき得る限り矛盾のないようこれからは立法するように、また条約等国際協約締結に当らるるように、その点は政府において統一ある努力を願いたいと考えます。  ただここでなお触れておきたいのは、過去においてすでにアメリカとの犯罪人引渡条約もありますが、その他国際団体的な協約に基いて、あるいは婦女子売買、阿片の取引あるいは通貨偽造防止に対するものとか、いろいろいわゆる国際犯罪に対する協約条約というもので、若干日本の参加したものがすでに成立しておるわけであります。それらの条約ないし協約の中にもし犯罪人引渡しに関する規定があるならば、私はこの法案がそれと矛盾しないよう立案立法されなければならぬ、かように考えるので、その点について政府当局はこの立案過程においていかなる顧慮を払われたか、あらかじめ承つておきたい。
  14. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいま御指摘日米間の犯罪人引渡条約以外に、国際間のいわば団体加入的な条約協約というものは、いろいろ拾い上げて研究いたしてみたわけでございます。その点で相互引渡しの条項を有し、わが国が現在加盟しておりますのは、婦人及児童売買禁止ニ関スル国際条約、一九二一年(大正十四年)、これがただ一つでございます。その第四条に「締約国ハ締約国間二犯罪人引渡条存在セサル場合ニ於テハ千九百十年五月四日ノ条約第一条及第二条一定メタル犯罪ニ付起訴セラレハ有罪ト判決セラレタル者引渡又ハカ引渡準備ノ為其ノ為シ得ル一切ノ措置ヲ執ルコトヲ約ス」ということがございまして、その「千九百十年五月四日ノ条約」と申しますのは、「醜業ラ行ハシムル為ノ婦女売買禁止ニ関スル国際条約及最終議定書」というものでございます。その第一条、第二条に人身売買に対する規定がございます。さようなものについて国際的に相互にこれに加入した範囲においては、特段の個別の引渡条約を要せずして引渡しをする、かようなことになつておるわけであります。この点も十分考慮いたしまして、これとの矛盾なきように本法案立案した次第であります。
  15. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 この引渡し問題について、原則的な問題として、常に条約をつくる上において、またこの種の立法の上において顧慮される問題は、いわゆる引渡し国家相互主権対立関係にありまするがゆえに、相互主義というものが条約の上にあるいは国内立法条文の上に常に規定づけられるのであります。ここで特に立案の場合に顧慮された点は、この相互主義についていかように相なつておるか、これも合せて伺つておきたいと思います。
  16. 岡原昌男

    岡原政府委員 その相互主義考え方は、この法案の第二条に出て参つておるわけでございます。そのこまかい点はなおその条約等において規律される、かようなことになろうかと存ずるわけであります。
  17. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 第二条に「引渡条約に別段の定があるときは、」と規定されておるようでありますが、これがいわゆる相互主義的な取扱いを考えた規定である、かように承つておいてよろしいでしようか。
  18. 岡原昌男

    岡原政府委員 第二条は第一号から第五号までの引渡してはならないという場合と、それから六号、七号の条約に別段の定めがある場合の二つでございますが、その後段ももちろんさようでございますが、前段につきましても、たとえば政治犯引渡し引渡しせざるの原則あるいは相互処罰の場合に限るといつたような、国際法上の原則をこの条文の中に取上げたわけであります。
  19. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 政治犯罪引渡し原則あるいは相互科罰原則といつたようなものは、これは一種の国際法上の原則としてすでにこれが確立されたものになつておるのであります。そこで私ども相互主義適用対象は、もつぱら内国人引渡し認むべきかどうかということ、それからまた国内に係争しておる犯罪人についてこれを引渡し認むべきかどうかという事柄について、もつぱら相互主義が適用されるのであります。でありまするから、政府もこの点は御異存ないと思うのでありますが、これはやがて国際条約締結する場合に問題になるわけでありまして、この際法務当局にその方針を承ることは、いささか当を得ないかと思うのでありますけれども、さきに申し上げましたごとくに、条約とこの法律はきわめて緊密な関係があるので、常にその点を統一ある態度をもつて臨んでもらいたいために、この際その点に対する御注意と、同時に心構えのほどを切にお願いするわけであります。そこで次に私は問題として取上げてみたいのは、引渡し主権対立であるという姿でこれをながめてみまする場合に、いろいろ他にも問題が起きて参ります。その一つとして特にこの条文に関連ある問題といたしましては、引渡し場所であります。十五条にこれが規定されてありますが、一体これは引渡し監獄で行うということになつておるようでありますが、監獄で引渡された場合、その後は相手国官憲日本国内において監獄から港あるいは空港まで、これの逮捕を継続し拘禁を継続して連行するということ、あるいはその間に逃亡された場合にはさらにそれを追跡逮捕するとか、主権行使の問題が、その間にいろいろ起り得るわけでありますが、これに対してはどういう御解釈をとつておられるか承つておきたいと思います。
  20. 岡原昌男

    岡原政府委員 引渡し場所をどこにするか、考え方としてはいろいろあるわけでございますが、現在の国際条約あるいは各国国内法等でとつております態度は、すべて本法案ような行き方でございまして、第十五条によりまして規定監獄引渡し場所になるわけでございますが、それから国外に出るまでの間の法律的な根拠と申しまするものは、二十一条における護送の権限、さようなふうに移管しております。この際、御指摘ような、たとえば護送の途中において逃げたような場合にどうするか、いろいろな問題が出て来るわけでございます。それから先はこの法案には特にうたつてございませんけれども、事の性質といたしまして逃げた場合は、そこに必要な限度において、事実行為として追跡し得るというよう程度であろうかと考えます。なおこれを奪取した場合はどうなるだろうかという問題が出て参るわけでございますが、これは刑法第九十九条の、「法令ニ因リ拘禁セラレタル者奪取シタル者」という条文に当つて来ると考えるのでございます。それは二十一条の護送という文字から出て来る、かよう解釈いたしております。
  21. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 もつぱら原理原則の上から大きく問題を考えたいと思いますので、こまかな条文の問題はなおあとに譲りまして、この際引続いて伺つておきたいのは、この制度の本旨は、いわば引渡し制度というものを過去の多くの国がとつように、単なる行政的処分として理解し、かつ扱わずに、これを司法化そうというところに近代的な進歩が見受けられるのであります。しかしよつて来るところの思想は、要するに個人基本的人権を尊重する近代の立憲政治考え方をこの制度の上に具現しようというところにそのねらいがあるのであります。従つて犯罪人としてこの法の対象になる者に対する手続等においては、十分その司法化の精神を浸透して、個々の取扱い過程においても十分個人の自由、人権保障をするような体制にこれをつくり上げ、かつ運営しなければならないわけであります。そこで問題になるのは、東京高等裁判所で審判を受ける場合において、この被請求人がいわゆる弁護権あるいは異議権と云うようなものについてどのよう保障がされるのか、この規定の上からだけでは十分その点が明らかにされていないうらみがありますので、これに対する見解を承つておきたいと思います。
  22. 岡原昌男

    岡原政府委員 たいへんごもつともな御質問であります。その点につきましては、ただいま最高裁判所におきましてルールを出すことになつておりますが、そのルールの中に、逃亡犯罪人は弁護士の補佐を受けることができるものとするというよう条文が入ることになつております。この種の立法形式法廷等秩序維持に関する法律が同じように考えております。
  23. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 弁護権の点はわかりましたが、異議の申立というのはあるいはレヴユー、再審とかそういう点はいかように相なるわけでありますか。
  24. 岡原昌男

    岡原政府委員 東京高等裁判所決定に対しましては、異議申立てができないという見解をとつております。それはその決定性質上、それがほかに何らの規定もございませんし、第十条の一号、二号の却下決定、あるいは引渡しできない旨の決定については、これはもちろん異議を申し立てる規定がありません。三号の決定に対しましても、特にこれの異議を申し立てる規定がございませんので、これはできない。但しその点の裏打ちといたしまして第十四条の引渡しに関する法務大臣の命令は完全に行政処分でございます。これに対しては行政訴訟と申しますが、訴訟をもつて争える、かように理解しております。
  25. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 引渡しを認められる場合については、結局行政訴訟によつて、被引渡人の権利の保全ができるということは、ただいまの回答でわかりましたが、しからば引渡しが認められないということになつた場合は、その決定なり命令を尊重して、いわゆる一事不再理の原則国際刑法上の確認――再び三たび他国がどんな引渡し要求をして来てもこれを拒絶するというのがその者に対する人権保障の上から当然あるべき制度でありますが、これについてはいかように御理解なさつておりますか。
  26. 岡原昌男

    岡原政府委員 御指摘の点まことにごもつともの点でございまして、私どもも、この法案の全体を通じて、さよう考え方に立つておるわけでございます。運用上も、もちろんさようにいたすつもりでございます。
  27. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 あえて規定を置かぬでも行政措置としてさよう方針のもとに臨もうという御決意と承つてよろしゆうございますか。
  28. 岡原昌男

    岡原政府委員 さようでございます。
  29. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 やや逐条的に承つておきたいのでありますが、第一条の第三項、「その犯罪について締約国刑事に関する手続が行われた者」云々とありますが、この刑事に関する手続というのはいかなる範囲のものを指されるのか明らかにしておきたいと思います。
  30. 岡原昌男

    岡原政府委員 大体捜査に着手した、かように考えるわけでございます。その後の手続は、従つて全部入つておる、かように考えております。
  31. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 引渡し条約によりましては、この点をやや具体化して起訴あるいは告訴、アキユーズされた者というふうに限定されております。この法律立案の御趣旨から言うと、これは非常に広くなつておりますが、元来この法律によつてまた引渡し条約締結によつて日本は今度は引渡し義務を負担しなければならぬのでありますが、なるべく義務範囲は狭くいたして明確にしておくということが必要だと思うのであります。その点から見ると、やや広い表現の仕方ではないかと思うのでありますが、この点に対する立案当局の意見もこの際伺つておきたいと思います。
  32. 岡原昌男

    岡原政府委員 条約日本文におきましては、御指摘通りに「有罪ノ宣告若クハ告訴告発受ケタル者云々ということになつておりまして、元の引渡し条例におきましても、その用語例に従つたわけでございます。ただ英文はその点に関しましては「フービーイング・アキューズド・オア・コンヴイクテツド・オブ・ワン・オブ・ザ・クライムス・オア・オフエンセス・ネームド・ビロー・イン・アーティクル・ツー」云々、こうなつておりまして、アキユーズとか、ロンヴイクトというような文字を使つてありまして、これをその当時の日本語の翻訳として「有罪ノ宣告若クハ告訴告発」というだけにしたのもどうかという感じもございます。それはいずれにせよ、日本の正文によるといえば、それまででございますけれども、なおこの点に関する国際間の諸条約を見ましても、さような「刑事に関する手続が行われた者」というふうに理解するのが正しいのではないだろうか一今後いろいろな条約が結ばれる場合は、必ずそういうふうな方向になつて参るのではないかと思うのであります。なおこの引渡し条約は英文が正文になつておりますので、一応英文の方が相当参考になるのではなかろうか、かように存ずる次第でございます。
  33. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 第二条の問題でありますが、大体引渡し犯罪については、これを列挙する主義と、そうでなくして刑罰を一定の基準といたしまして、たとえば何年以上の懲役禁錮にかかわる罪というふうに、抽象的にこれを限定する仕方と、それからさらに引渡し犯罪条約立法規定せずに、今度は引渡しのできない犯罪規定するという、大体三つの方式があるわけであります。多く引渡し立法においては、引渡し犯罪をその二つのいずれかの形式をもつて明確にすると同時に、引渡しのできない犯罪国際法規にまかせずに、また念のために規定しておくという、折衷的な方式が最近の立法例には多いようでありますが、この法案におきましては、引渡しのできない犯罪を第二条において規定するという方式をとつておるわけでありますが、そこで問題になるのは、引渡し犯罪は要するに普通犯罪全般に及ぶということを原則とされて、そしてこの第二条に除外されたものだけをそれから除くという考えのもとに立案されたのかどうか、その点ひとつ立案方針について承つておきたいと思います。
  34. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいまの引渡し犯罪方針といたしましては、引渡し犯罪の種類、その種類をきめるにつきましてもただいま御指摘ように刑期できめる場合、それから個々の犯罪の罪名を考えるような場合でございますが、それは条約に一応これを譲りました。ただ実際に引渡しをしていかぬ場合、これは第二条で「場合」として除外した、さよう建前をとつておるわけでございます。この点につきましては国際的にもいろいろ立て方が違つておるようでありまして、いろいろな条約を検討してみたところが、確かにお話の通り種々雑多の――大体二つか三つの類別になるわけでございますが、非常に多岐にわかれております。この点につきまして、一九三五年にハーヴアード大学で国際法研究会の起草にかかる犯罪引渡し条約案なるものがございます。これはその当時の国際法学者が衆知を集めて結論ずけたもので、いわば万国的な基本条約ができる際の骨組みといつてもいいものだろうと思うのでありますが、その第二条におきましては、請求国及び被請求国の双方において法定刑上年以上の懲役、または禁錮に当る罪について引渡しを行うべき旨を規定いたしております。さよう考え方、つまり刑期で行くという考え方が比較的新しい行き方と、さように申してもいいのではないか、かように存ずる次第であります。
  35. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 引渡し条約においてはなるべくさような方式を私は選んでほしいと考えております。  次にこの二条の第一号の、いわゆる引渡しすべからざる犯罪としての政治犯罪の問題であります。これがしばしば国際紛議対象になるのでありますが、たとえば現在問題になつておるロシヤのベリヤ氏が日本に逃亡して来た、ロシヤからこれに対して引渡し要求があつたというような場合にはただちにこれが問題になるわけであります。要するに政治犯罪という観念がきわめて不明確である。しかも普通犯罪政治犯罪が併合する、あるいは牽連犯の関係に立つとか、いろいろ複合的な形式をとる場合もある、中には政治犯罪を罰する意図のもとに、表面は普通犯罪を理由に引渡し請求をする、いわゆる擬装的政治犯罪の場合もあるというふうに、きわめてこれが理論と実際の上において混迷を来す種になるわけであります。そこでよほどこの運用においてはその点に過誤のないよう立法の面でも顧慮しておかなければならぬ点でありますが、私はこの第一号において、少くとも政治犯罪として立案された政府当局が考えられておる範囲、範疇はどのようなものであるか、立法解釈としてこの機会に明らかにしておきたいと思います。
  36. 岡原昌男

    岡原政府委員 政治犯と一口に申します概念が非常にいろいろな角変から争われておるということは、ただいま御指摘通りでございます。大体三つの説がございまして、その一つは、目的をもつてこれをきめるという説、あるいは動機のみでいいというふうな説、あるいは両者を必要とするというふうな説、あるいは客観的に政治犯というものを罪名的に確定できるというふうな説、種々ございます。ただいま御指摘ようなソ連のベリヤ氏の問題もあるわけでございますが、一般的に国際法上はそれらの政治犯の扱いと申しますか、どれまでを政治犯と認めるかという問題は、被請求国、つまり引渡し請求を受けた方の国においてきめるほかはないというふうなことになつておるわけでございます。わが国法律でこれを見ますると、大体内乱罪とか外患罪とかいうふうなものは、これは政治犯であることに疑いはございません。あるいは破壊活動防止法の三十八条ないし四十条、これに該当する罪のような政治目的を構成要件としておるというようなものも当然政治犯罪になるわけでございます。ところで政治上の目的を構成要件としないのであるけれども、動機的には政治の反対の立場にある者を暗殺したといつたようなものが、これに入るかどうか、あるいは放火したというような普通犯罪が入るかどうか、この点はきわめて問題がございまして、個々の事業についてそれがどの程度まで政治的な要素が含まれているかというところに重点を置いて判断するほかないのではないだろうかというふうな考えで、ただいまおるわけでございます。ただこの点について参考になりますのは、一八九二年にスイスの国内法が出ておりますが、それには政治犯引渡し原則を認めると同時に、犯罪の主たる特徴が政治犯よりも普通犯の様相をより多く帯びる場合には、これは引渡すものと定めております。これは一つの行き方でありまして、大体そのような気持で判断できるのではないだろうか、かように存ずる次第であります。
  37. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 ただいま指摘されたスイスの引渡法のいわば母法はベルギー定款あるいは加害定款といわれるものであります。ナポレオン三世に対する殺人未遂事件がベルギーにおいて起きたときに、フランスとベルギーの間にその犯人引渡し問題をめぐつて非常に外交折衝が行われた際に、ベルギー定款として、これが規定ずけられた主義でありますが、要するに他国の元首に対する加害行為はそれが政治的目的あるいは政治的動機に基いても引渡し犯罪から除く、政治犯罪とはしない、言いかえるならば引渡し対象にするということのために、それが確立されて、さらにこれがジユネーヴ主義――万国国際法学界のジユネーヅ会議で採用され、やがてスイスの立法なつたわけでありますが、これがほとんど現在においては国際法として確立されたものといつてもよいと思います。要するに政治犯罪に対する制約はさようにして、そして引渡し犯罪範囲を広げて行く、そして国際的に犯罪の鎮圧に協力するという司法における国際連帯主義というものが確立されつつある今日でありますから、政府においてもさよう解釈のもとにお進みになるということはたいへんけつこうだと思います。ただとかく政治犯罪について引渡しの問題をめぐつて国際紛議を起す事例にかんがみて、これをなるべく少くするには法的にどういう措置をしたらいいかということで私個人が常に考えるのは、幸いにこの第二条第三号でも規定してありまするごとくに、いわゆる双方科罰の原則を厳重に適用するということであります。それは少くとも政治の基本組織が違つておる国の間においては、政治犯罪の観念が違うわけであります。先ほど例に引いたソ連のベリヤについて言うならば、かの国においては共産主義的な政治組織、政治秩序、これを破壊するいわゆる反革命犯罪がベリヤの問題とされた罪名のようであります。しかし共産主義制度をとらない民主主義、自由主義的な政治上の基本組織と秩序を持つ国々においては、それは何ら犯罪ではないのでございます。かの国において犯罪であつても自国においては犯罪ではない、そういうものは第二条、第三号に規定しておる双方科罰の原則から見ても引渡しはできないのだということから、この面からあえて国際紛議を起さずに解決される問題が非常に多いであろう。私は運用の上においてもこの点を十分考慮されるべきであろうと考えますがゆえに、あえてこの点を指摘して、なおこれに対する法務当局のお考えをもひとつ将来のためにここで承つておきたい、こう考える次第であります。
  38. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいまいろいろとお教えいただきまして、私ども従来考えておりました考え方がたいへん固まつて参つたように感ずる次第でございます。先ほど申しましたスイスの国内法考え方は古いものがあるということと、それが現在各国に共通するものであるということを拝承いたしまして、さよう考え方のもとに国際犯罪国際的にまたがるそういうよう犯罪、これは全部の世界が協力して鎮圧しなければならない、こういう大原則のもとにこの法律を運用して行かなければならないということについて実は思いを新たにしたことであります。御趣旨に沿うて私どもも運用して参るつもりでおります。
  39. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 いわゆる国際法の祖父であるグロチウスはその点をきわめて明確に自説として主張され、いわゆる「引渡しか処罰か」という簡明な言葉をもつて表現されております。要するに国際司法、社会は人類のために、平和のために、秩序のためにお互いが協力して犯罪人を鎖圧する、そのためには自分の国で罰した方がよければ罰する、他国に罰せしめた方がいいという場合には引渡しをするという国際連帯の思想をその点で大いに強調されておる。この種の犯罪人引渡条約とか引渡法の根本思想が、このグロチウスによつて植えつけられておるといつても過言ではなかろう。どうかそういう意味において大いに今後政府、またこの裁判所におこてもこの法を活用されるということを期待しております。  ただ最後に承つておきたいのは十条と十四条の関係であります。十条の東京高等裁判所はこの引渡し問題について審判の要求を受けた場合には決定をしなければならぬ、その審査の結果――第三号に規定されておる点でありますが、審査の結果逃亡犯罪人を引渡すことができる場合に該当するときは、その旨を求定する、こうされております。この決定裁判の性格でありますが、これは訴訟法学的に言つてどういう種類の裁判というふうにお考えであろうか、まずこの点についての御意見を承つておきます。
  40. 岡原昌男

    岡原政府委員 一種の行政事件に対する裁判である、かように考えております。
  41. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 その説明も一応うなずかれるのでありますが、要するに給付訴訟にあらずして、確認裁判であるという訴訟法学的な性格は私どもように考えておるのであります。そう承つてよろしいのでありますか。
  42. 岡原昌男

    岡原政府委員 その通りでございます。
  43. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 そうすると先ほど申し上げましたように、国際刑法における基本的人権の尊重のための引渡し問題に対する司法化ということが、まずここに大きな基盤を持つわけでありますが、そうするとこれは裁判である、従つて本人もこれに基いて引渡される以上は、異議はないというところに人権保障されたことになるのであります。そこでこの裁判は、それに対して別に行政的裁量を加える余地がないのであるとわれわれはこの裁判の性格から見るのであります。ところが今度は十四条の方に関連する問題になるのでありますが、十四条は、法務大臣は、第十条第一項第三号の決定があつた場合において逃亡犯罪人を引渡すことができ、かつ引渡すことが相当であると認めるときは、引渡しを命ずるということに規定されておるわけでありますが、この場合引渡すことが相当であると認めあるいは認めないということによつて、裁判に対して行政的な裁量が加わるということになると、せつかくの司法化というものが何かこの意味を失うというふうに考えられるのでありますが、この点はどういう考慮のもとにかよう立法措置に出られたか、これに対する御見解を承りたい。
  44. 岡原昌男

    岡原政府委員 ごもつともの御質問でございまして、この点は十分私どもの方も事前に研究いたしまして、第十条の第一項第三号の決定がありました場合に、これをどういうふうに行政機関が取上げて行くかという問題については、考えようとしては二つあると思います。一つはそのままうのみにして行くこと、一つはそれに対してもう一度何か別段の考慮を払う。この国際法の全体を通じましていろいろ研究いたしましたところ、一八八〇年の国際法学会のオツクスフオード決議の二十条におきまして、被請求国は裁判所がその引渡し要求が受理すべきでないと判定したときは、引渡しをすべきでないというふうにしておりますが、この点に関するフランス及びドイツの引渡法におきましては、政府に対する諮問機関的な効果を与えるということをはつきりさせているようでございます。ベルギーの考え方もそのようでございます。なお先ほど引用いたしました一九三五年のハーヴアード大学の条約案の第十八条におきましても、司法の決定の効果という点で、ちようど今回の私ども立案したと同じよう考え方を採用いたしております。おそらくその考え方といたしましては、かような対外的に非常に大きな効果を持つその決定を、裁判所の全責任に負わせるというのも、司法機関のあり方からいかがであろうかというふうなことも、ございましようし、また決定の後に、いろいろ社会情勢、国際情勢の変遷等によりましてかわつたことが出ないとも限らないのでございまして、さような点について、一応留保的な、行政機関によるレヴユーと申しますか、ただいま御指摘よう考え方が出て参るわけであります。この点についてもう一つ問題になりますのは、先ほど申しました決定に対する異議申立てが許されるどうかという問題に関連して参るわけでございます。この点について、異議申立てができるということになりますと、これはどこまでも司法機関の裁定がそのまま最高裁判所まで参つてこれが対外的にきつぱりそのまま出てしまうということにならざるを得ないのでございますが、さようなここも、国際的なさよう性質の重大な効果の伴うものにつきましては、いかがなものであろうかというので、諸外国におきましても、いずれも司法機関による決定を諮問的なものとしておるのではないかと私どもは考えた次第でございます。そこでその裏打ちとしまして、先ほど申しました行政機関に対する行政訴訟というものを、ここに設けまして、十四条による引渡しの法務大臣の命令のありました際に、これに対して行政的なものとして争い得る、さよう建前とつたわけでございます。この点は、理論的にはさようでございますが、運用の面におきましては、もちろん十分さような点について、ちぐはぐがないようにはなろうかと存ずるわけであります。
  45. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 その裁判は、要するに拘束力がないということに帰着するようにも思えるのでありますが、私ども引渡し問題で、国際紛議を予防するために手続司法化して行くことが、一つは大きな効果をもたらすんじやないか。かつてロシヤ皇太子に対する児島惟謙先生の不敬罪に対する裁判のごとく、事司法機関が判断したということによつて、政治的な国際間の摩擦を相当緩和できるのじやないか。従つてもしそういう顧慮から、なおまた先ほども申しました人権擁護人権保障の思想からも、さらにそうでありますが、そういう点から顧慮して、この十条の規定にいう引渡すことができる場合に該当するときは、これは引渡すことが法令上、条約上、あるいはその他の諸般の事情から適法であり、かつ妥当であるという場合に、その旨の決定をする。そうしてあとは、法務大臣がそれに対しては何らそういう適否、当否に対する判断は加えずに、ただその後の執行段階において、法務大臣が関与する。それから後を引取るということにして行つた方が、以上申し上げましたよう国際紛議の予防と人権尊重の精神を浸透するとかいう上から見ても、何かその方が、非常に合理的のように考えられるのでありますが、その点についてはどういうふうに立案当時顧慮されておつたか、この点もちよつと承つておきたいと思います。
  46. 岡原昌男

    岡原政府委員 高等裁判所におきますこの判断の範囲は、ただいま御指摘よう条約上あるいは法令上、適法であるかどうかという点を中心にして考えることになろうかと思います。つまり法令上、条約上、引渡し得る場合に該当するやいなや。その先の妥当でありやいなやということにつきましては、もつぱら行政当局の判断を受けさせるというふうな方がよかろうではないか、裁判所に、その妥当なりやいなやという判断まではちつと酷ではなかろうか、いわば国際的な非常に微妙な関係もございましようし、条約法令の専門家である裁判所には、その適法なりやいなやという点に重点を置いて調べをしていただく、その上で行政機関において妥当なりやいなやをさらに見る。さように考えた方がいいのであろうというよう考え方を基本にいたしまして、かよう立案にいたした次第でございます。  拘束力の問題は、先ほど申し上げました通り、一号、二号の却下の決定、あるいは棄却の決定、これはもちろんただちに拘束力を持つて参るわけでごごいます。それから三号の点につきましては、先ほど言つた通りに、いわゆるレヴユーするような形になるのでございますが、これもある意味において人権保障を全うするというただいまのお言葉の面に顧慮してあるわけでございます。
  47. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 ただいまの御意見から第十四条を振り返つてみますと、法務大臣は当否の判断、裁判所は適否の判断ということに分析されるわけでありまして、従つて十四条において法務大臣が引渡しを命ずる場合において、その前提として「逃亡犯罪人を引き渡すことができ、且つ、引き渡すことが相当であると認めるときは」というふうに規定されておる。この前半は無用な規定である。しかも無用ばかりでなくし、もしも法務大臣が再び逃亡犯罪人を引渡すことができるかどうか、「できると認めるときは」というふうに適否についても判断を加えるということになると、裁判所の判断に対して法務大臣が再び判断する。極端な言葉をもつてすれば、行政府が裁判に干渉するというような何か非常に誤解を受けやすい用語であります。ただいまの政府会員の御説明の趣旨から、この法案を見るならば、よろしくこの点は削除されて、そしてもつと明快な規定になさつた方が、私は妥当であると考えますか、この点について、御意見を伺いたい。
  48. 岡原昌男

    岡原政府委員 この十四条にさような用語を用いました趣旨は、法務大臣の引渡しに関する命令が出ました際にこれに対して、行政訴訟をもつて争い得るかどうかという点に関連を持つて来るわけでございます。つまり行政機因がその裁量によつてなした処分について、行政訴訟は提起されないというのが通説でございまして、従来の取扱いも単なる裁量の妥当、不妥当だけを問題にした場合には訴訟として取上げない。かようなことになつておるのでございます。それが適法、不適法という場合に、行政訴訟対象になり得るのでございまして、従つて適、不適というふうな要件を並べることによりまして、行政訴訟対象になり得る、かような気持をここに現わしたわけでございます。
  49. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 行政訴訟にこれを移行させる橋渡しとして、かような用語を用いられたという御苦心のほどはよくわかりますが、しかし先ほど私が申し上げましたような理論の上に立つて考えると、これはきわめて妥当性を欠いておる、こう考えるのであります。しかもわれわれの解釈から申し上げまするならば、やはりこの裁量も違法な裁量であるということに持つて行くべきであり、またそうなれば、当然行政訴訟を提起する理由として認められるものである。こういうふうに解釈をいたしております。従つてその点は私は政府委員の御説明のごとく考える必要はないのではないか、かように考えております。しかし、これは意見の相違でありますから、一応私の意見として申し上げておく程度にとどめておきます。  次に先ほどちよつとお伺いした点ですが、監獄引渡した後に、それが逃亡したという場合に、それに対する捜査、逮捕というものは、引受けに来た外国官憲がこれに当るのか、あるいは日本としては、引渡した以上は引渡し義務監獄の門前で完了したのであつて、その後は何ら、それに対しては助力もしないし、ただ外国官憲の活動にまかせておくというのか、これは主権の問題として相当重要性がありますから、この点についてもう一度明快な御答弁を願いたい。
  50. 岡原昌男

    岡原政府委員 監獄の門前から引渡しを受けて護送の途中に逃げた場合にどうするかという問題でございますが、さような場合におきましては、すでにこちらから引渡しを了しまして、こちらの義務はいわば終つておるわけでございます。従つて真正面からの法律の理論としては一応そのままあと知らぬということになろうかと存じます。たださよう犯罪人でございますので、日本国内では警備上また別個の観点からやるというふうなことはあり得るだろうと思うのでございます。また事実上官憲がちよつと手を離して、それを振り切つて逃げて行つた場合に、それをあと追つかけられないというのもどうかと思いますので、その辺は常識的に追跡が続く間ぐらいのところはかけまわつてもよろしい、かようなことに常識上はなるのではないだろうかというふうなことでございます。
  51. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 どうも私どもの常識から言うと、やはりそれは国境で引渡しをするというのが、国際慣行になつておるように考えます。これはかつて三・一五事件でしたか、佐野学君が上海のフランス租界に逃げ込んだ、日本はその引渡し請求に行つた、もちろん当時はフランスと日本の間には犯罪人引渡し条約がない。いわゆる無締約国間の引渡し問題であつたのですが、そのときフランスの官憲は租界外にこれを拉致する、追放するから、あと日本官憲の自由な受取り行為にしたらよかろうということで、引渡しの目的を達したという近い例もあるわけであります。要するにその国の主権を尊重するという建前を堅持する場合においては、やはり国境線においてそれを引渡しをするということが非常に合法的ではないか、相互主権の体面を維持しながら目的を達するということで、どうも国内のまん中の監獄引渡しをして、あと外国官憲がそれを主権を行使して連行するのだということは、やや不穏当な感が抱かれますのでただいまのよう質疑をいたした次第であります。
  52. 岡原昌男

    岡原政府委員 なるほど引渡し原則といたしましては、理想的には国境で引渡すのが一番いいと思います。ただ日本ように四面海をめぐらしておりますような場合には、領海の境のところで両方の船から橋渡しというのも事実上不可能であろうというようなことから、従来は開港都市、つまり横浜とか神戸とか、そういうような開港都市の警察署において引渡すという先例がずつと行われておつたようでございます。その戒護の施設が万全でない、あるいは処遇の面から妥当ではないというような点から、今回は拘置所というよう建前とつたわけでございます。理想といたしましてはおつしやる通りのことであろうかと存じます。
  53. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 この点は相当顧慮すべき問題であろうと思います。  次に今ちよつと言葉が出たついでにお伺いしておきたいのでありますが、引渡しと追放とという問題は国際刑法の上においてよく相対する問題として扱われるのであります。いやしくも犯罪人である以上は、引渡しという合法的な手続の上に立つて取扱う、従つてこのものを追放という行政処置によつて処理はしないというのが一つ人権尊重の鉄則になつております。しかし実際の国際社会の模様を見ますると、必ずしもそれが貫徹されていないのであります。日本はこの引渡法ができた後は、そういう点についてはどういう実際的な処分をされて行くか、政府方針がありましたならばこの際承つておきたいと思います。
  54. 岡原昌男

    岡原政府委員 たいへん実際的ないい御質問でございます。従来とても外国人がこちらに逃げて参りまして、さような場合におきまして、こちらで在留資格を失つた場合、たとえば旅券の取りかえがあつたような場合、これは在留資格を当然失つて来たのでございますから、出入国管理会によつてあちら側に追放することに相なるわけでございます。そういうような場合には、先ほどお話の通り国際原則としては、国境まで持つてつて追い払う、それから日本ではそうも行きませんから、船に乗せて指定の場所まで連れて行く、あるいは引取つてもらう、かよう手続きになるわけでございます。これとただいま問題になつております引渡し条約との関係は、大体お互いにうらはらに助け合うというよう関係でございまして、どちらかの手続で本人を向うに渡す、かようなことになるのが一般の例であるようでございます。
  55. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 時間の関係もありますから、一応私の質疑はこれで打切つておきまして、後にまだ問題がありましたらお伺いいたします。
  56. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 関連して。今の逃亡したときの問題は、アメリカのを見ますと三千百八十六条に「逃亡犯罪人が逃走したときは、一般囚人と同様方法による逮捕が認められる。」こう書いてあります。そこで先ほど言われたように引渡す。そうするとアメリカ官憲逮捕することができるように見える。そうなると日本主権に影響するのではないか、こういう問題であります。そうなるとあなたもさつき言われるようにこれはどういう規定なのか、これを明確にしてもらいたい。
  57. 岡原昌男

    岡原政府委員 鍛冶委員から御質問の点は、アメリカ国内において引渡しを了しました逃亡犯罪人が逃走した場合、引渡しを受ける前後を問わず逃げた場合にはつかまえるという規定でございます。で、ただいま佐瀬会員から御質問の引渡しを了した後も当然入るだろうと思います。わが国においてはさよう規定を置きませんので、わが国主権が害せられるというしようなことはないわけでございます。なおアメリカ連邦のこの規定は各ステート間のものについても同様適用されるので、若干事情が違うわけでございます。
  58. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 さつき、裁判所のことを聞いておつてどうもふに落ちないが、これは事前に裁判所に連絡がありますか。裁判所はそういうことはよろしいと言つておりますか。いかにも権威のない、裁判所ように思いますが……。
  59. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいま御質問の点は、この法案を練ります際に、裁判所からも二名ないし五名の係官が法制局に一緒に出ておられまして、研究の末できたものであります。ただ裁判所内に一部異論がありますことは承知いたしておりますが、大体はかようなことでやむを得ないというのではないだろうか一というように、われわれは考えておるのであります。御了承を願います。
  60. 小林錡

    小林委員長 細迫兼光君。
  61. 細迫兼光

    細迫委員 政治犯の問題でございますが、いずれこれの具体化は引渡し条約においてなされることと思うのでありますが、引渡し条約における御方針態度を、ちよつと先ほどはつきりとは聞き漏らしたのでありますが、列挙主義はとらないとおつしやつたように聞いておりますが、さようでございましようか。
  62. 岡原昌男

    岡原政府委員 これは具体的に条約の問題が出て参ります際に、相互のいろいろな国際関係あるいはどういう犯罪を犯して逃げる可能性が多いかというようなことが中心になつて条約が考えられて来るものではないかと存ずるのでございますが、ただ国際的に共通したと申しますか、割合にみんなが最近そういうふうな考え方がよかろうというのは、先ほど申した通り、たとえば二年以上の刑に処せられるような場合といつたような包括的な書き方がいわばプリヴエールしているというようなかつこうでございます。いずれ条約を結びますような場合でも、同列に列挙するというのは煩わしい場合もありますし、それで落してもまた困つた問題が後日残りますので、そういうふうに刑期その他で簡単に線を引くというようなことが、やはり国際的な考え方としていいのではなかろうか、かようなことを申し上げたわけでございます。
  63. 細迫兼光

    細迫委員 条約においてはもちろん相互平等でありましようし、また相互に照応するものになると思うのでありますが、それをつつ込んで申し上げますれば、たとえば、こちらから引渡し要求する犯罪を列挙しますれば、あちらからもそれに照応したものを列挙して要求するというようなことになると思うのであります。ここに具体的にあげますれば、たとえば破防法の犯罪のことだとか、あるいは団体等規正令なんかの残つたのがありますが、ああいういうものについては、引渡し請求する懸度をとられるかいなか、まだ決定していないのでございましようか。
  64. 岡原昌男

    岡原政府委員 それは先ほど御説明申し上げました通り、当然政治犯罪と私ども考えておりますので、さようなものについては引渡し請求というものはあり得ないと考えております。
  65. 細迫兼光

    細迫委員 政治犯罪と考えておられないということになりますと、これは国内法におきましては政治色が濃い犯罪であるということは、おそらくは御承認だろうと思いますが、たとえば内乱外患、これに関する犯罪だけと限定して考えておられるのでございましようか。
  66. 岡原昌男

    岡原政府委員 先ほど政治犯であるとお答えしたのでございまして、政治犯であるから従つて引渡しはない、かようなことであります。
  67. 細迫兼光

    細迫委員 別の問題でありますが関連いたしますから……。朝鮮人の強制送還の問題でありますが、これは一体どういう法的根拠、観念に基いてなされつつあるか、御説明願いたいと思います。
  68. 岡原昌男

    岡原政府委員 出入国管理令に国外退去の場合が幾つか規定してございまして、それに該当するもののうち、順次手続のできたものから帰す、かよう方針ように聞いております。
  69. 細迫兼光

    細迫委員 では、出入国管理令に触れない分子、日本国内法によつて処罰せられる性質の純然たる窃盗、その他強盗というような種類の処刑者、犯罪者については、送還というようなことは、強制的にはなさない御方針であると承つてよろしゆうございましようか。
  70. 岡原昌男

    岡原政府委員 出入国管理令の第二十四条の中に、懲役一年以上の言い渡しを受けた者という条文がございまして、さよう程度以上の重い者については、国外退去を要求するということになつております。
  71. 細迫兼光

    細迫委員 これは国際法上の観念から原則に反することではないかと私は考えておるのでありますが、外国においての逃亡犯人ではないと私は思います。現在そうなつておることはやむを得ないとして、これは国際法上の原則に反するものだとはお考えにならないでしようか。
  72. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいま問題になつております逃亡犯罪人云々の問題は、外国において罪を犯して日本にやつて来た場合でございまして、出入国管理令の関係は、わが国において罪を犯した者を、わが国の立場でこれを国外に退去を要求する、かようなことでございまして、この国内においていろいろな犯罪を犯したり、その他特殊の事情のある、その国におつてもらつて困るような者につきましては、各国ともやはり同様の国内立法をいたしておるのでございます。
  73. 細迫兼光

    細迫委員 これで終ります。
  74. 小林錡

    小林委員長 井伊誠一君。
  75. 井伊誠一

    ○井伊委員 過去において明治時代に、アメリカから日本人四人の引渡し要求があつて、そのうち一人の引渡しが行われておるように資料には出ておるのでありますが、その具体的事実はどういう条件によつてなされておりましたか。
  76. 岡原昌男

    岡原政府委員 たいへん古いことで、私どもの資料では罪名は殺人となつておりますが、そのときは明治二十年以前の古いことで、こまかい内容は実はわかりかねるのであります。
  77. 井伊誠一

    ○井伊委員 今度この法案によつて日本人の引渡しを認める場合、至当と認めて引渡しをする場合というのは、どういう場合でありますか。
  78. 岡原昌男

    岡原政府委員 これは実際問題としては、ほとんどあり得ないのではないだろうか、明治二十年以前にやつたその殺人というものも、どういう凶悪な犯人であつたか、私記録上存じませんがよほどのことではなかつたかと想像するわけであります。その他の事案については全部断つておるような始末でございまして、おそらく今後もそういうふうな方針で事を処理して行く、かようなことになろうかと思います。
  79. 小林錡

    小林委員長 佐瀬昌三君の質疑のときにあつたようですが、東京高等裁判所の審査において、弁護士を付することができるようにするということですか。
  80. 岡原昌男

    岡原政府委員 その通りであります。
  81. 小林錡

    小林委員長 そうするとそれは最高裁判所ルールできめる。どうも最高裁判所のこれまでの規則というものは、ややもすると立法事項を侵害するような、われわれから見るとずいぶんかつてだと思うような行き過ぎた面があるようですが、弁護人を付するということになると、むしろこの法律の中にきめた方がいいのじやないですか。
  82. 岡原昌男

    岡原政府委員 考え方といたしましては、例の憲法第七十七条のルールの制定権の範囲いかんの問題がいろいろでございますことは御承知の通りでございますが、一応前例といたしましては、法廷等秩序維持法の審判の点についても、やはり弁護人をつけるということがルール規定されております。それから今回の条文の三十一条に「この法律に定めるものの外、東京高等裁判所の審査に関する手続云々について必要な事項は最高裁判所が定めるという根拠規定を置きまして、これとのつながりにおいてルールを出す、かように考えておるわけであります。
  83. 小林錡

    小林委員長 ほかに御質疑はありませんか。―ほかに御質疑がなければ本案に対する質疑は本日はこの程度にとどめておきます。次会は来る十三日、月曜日午後一時より開会し、刑法等の一部を改正する法律案並びに刑事訴訟法の一部を改正する法律案の審議に入ることといたしたいと思いますから、さよう御了承願います。  本日はこれにて散会いたします。     午後零時三十七分散会