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犬養国務大臣 ただいまの御
質疑のうち、まず看守が、異常心理にな
つている被疑者たる
川上氏に対してかみそりを与えて、そのまますぐとりもどしておかなかつということは、十分
職務を尽したとは遺憾ながら言えないと存じております。また
川上氏がそのかみそりで
自殺をいたしますときに、すぐそばにおりましたがそれを発見できなかつたということも、
職務怠慢のそしりを率直に申して免れないと思います。そこでなぜそういうように刄物というような危険なものをそのまま渡したかということについて、ちよつと私も頭を脳ましまして、あるいは刑事局あるいは
人権擁護局よりわれわれの角度から
調査いたしたのでありますが、結局ただいま判明いたし、私の常識で判断した結果としましては、
川上君という人は前に
警察署で巡査部長をしており退職のときに警部補に
なつた、いわば
警察署の先輩でありますので、身分も医師会の事務長か何かしている、その町としては相当の名士の部類に入りますので、普通の人に対してはかみそりを使うときにはそばについてそらせる、済んだらすぐ取上げるというのでありますが、先輩でもあるし、その町では名士であり、
川上さんのことであるがら十分お使い願いましようということで金だらいごと渡したというのが真相のようであります。
従つて積極的な悪意はないかもしれませんが、今申し上げましたように、異常心理の人に対する心づかいというものが欠けておつたということは言えるのでありまして、今後とも、今から言
つてもおつつかないのでありますが、せめて
川上氏の霊に対しても今後こういうことのないように厳重な戒めを発している次第でございます。
それから、何と言いましても
選挙違反は、これは
田嶋委員の方がお詳しいと思いますが、
自分だけで済むわけのことでありませんので、
本人の供述はすぐいろいろな人に響く、それに対して非常に良心がとがめるというようなわけで神経衰弱みたいなことになるのでありますが、それがなぜなおかつ最後の尋問のあとにとめ置いたかというと、実は
川上氏の奥さんを調べる、自宅でしたか、自宅において
拘禁しないまま調べる必要がありまして、その間二、三日た
つている。その間に私の推測では、どうも奥さんが調べられたということを感づかれて、なお煩悶されたように聞いております。かれこれいたして思い余
つて自殺をされたことはまことに残念に存じておるのであります。
それから
拷問がなくてもそれで済むものでなくて、人権蹂躪ということを十分注意しなければならないということでありましたが、これは
田嶋委員御出席のこの前の法務
委員会で私が申し上げたと思いますが、実は私はその点で本月十一日、十二日に行われました
全国次席検事会同で訓示をいたしたのであります。今度の総
選挙においておおむね
拷問というものがなかつたことは非常に私も安心し喜んでいる次第でありますが、
拷問がなかつたからそれで済むという
考えにな
つてはいけないので、
留置場がつらいところであり、あるいは拘置所がつらいところであ
つて、自宅へ帰れば楽なところに帰れると思うその
考え方が
間違いであ
つて、
わが国の現状の農村及び地方の小さい都会においては、義理人情にからんでいるいろんな人情風習が思つたよりも厳格であ
つて、あの人がしやべつたために親類がたくさん呼ばれたとか、友人がたくさん縛られたとかい
つて、家に帰
つて来た被疑者を白眼視する風習というものは、私どもの想像よりずつときびしい。だから被疑者を、
留置場という一つのつらい世界から、自宅という他のもう一つのつらい世界に帰
つて行く人であると思
つて、そしてその際に
拷問ではないが寸鉄人を刺すような、それが最後のきつかけとな
つて自殺を思い立つというようなことが絶対にないように気をつけてもらいたいということを言つたわけでありますが、この点についても、この
川上氏のような
事件を契機といたしまして、
全国の検察庁は被疑者を調べる場合に、この人が特殊な風習、人情を持つた農村、地方の小都会をバツクとする一種の異常心理の持ち主であるということを十分念頭に置いて、はなはだこれは遅ればせで、死んだ人に対して相済まないことでありますが、しかしなおかつ今でも、今後のことを思えばおそくない、こういうふうに思いまして、謙虚な気持でそういう方針を立てております。