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町村委員 あと二点だけ伺いたいのでありますが、今度の
文部省の予算には、科学技術の振興につきまして新たに予算を増額せられておるのであります。私どもはその足らざることを非常に憂えておるのでございまするが、いまさら私がここで申し上げまするまでもなく、この困難な日本の現状を打開して参りまするのには、私は、日本人の頭脳を最大限に活用するという以外に、日本の再建の道はないのじやないかというふうに
考えるのであります。御承知の
通りわが国と同様に国土も狭小であり、そうして山国でありまするところのスイスが、今日非常な精密工業を世界に誇るというようなことに相な
つておりまするその原因も、またかれらが子供のときからいわゆる科学
教育というものを国策として実施して参つた結果であると私は聞いておるのであります。すなわち私どもはこの現状を
考えて参りますときに、はたして一体今日、日本は子供のときから理科
教育なり科学
教育なりというものに十分力が尽されて来て参
つておるかどうかということを
考えると、はなはだ現状はそれと相去ること遠いような感じがいたします。従いましてこの問題については、政府としても今回科学技術振興費を予算に組まれましたが、大いにこの点についてはさらに一段の御努力を願わなければならぬと思うのであります。
そこで私はここで一つ伺いたいと思いますことは、大学のことであります。
わが国の大学の状態は、先ほど一つ触れておるのでありますけれども、貧乏な結果もございましようが、大学の実験施設というようなものが非常に貧弱である。湯川博士のような非常に世界的な学者が生れたのでありますが、これも高価な実験施設を必要としない理論物理学の分野でああいうような学者が出ておるのでありまして、実験的な方面におきましては、遺憾ながら日本の工業技術の水準というものは、欧米の諸国に比べてみますれば、少くとも二十年なりあるいは数十年の懸隔があるということはおおいがたい事実であると
考えます。従いましてかような点につきましては、政府としても一段と恒久的な、抜本的な計画をお立てにならなければならないと思うのでありまするが、ややもいたしますと、どうも大学の予算というものが非常に貧困でありますために、十分な研究ができないということを大学の学者がひとしく嘆いておるというのが現状であると思うのであります。たとえて申しますれば、東大の例をと
つて考えてみましても相当の金がかかる、理工科方面
において一講座でも
つて純粋に使い得る一年間の経費はわずかに二十万円にすぎないと言われておるのであります。これで教授、助教授、あるいは数人の助手が研究をしようといたしましても、金がないために何一つ大きな研究ができない。本一つ買えない。外国から優秀な機械を買いたくてもどれも買えない。老朽化した研究設備で、ただおざなりのことをやらざるを得ないというのが私は現状であると聞いておるのであります。従いまして今日大学の
先生方はぶらぶら遊んでおるわけにも行かないというので、民間の会社からいわゆる研究の委託というものをかなり受けておるようであります。しかしながらこの委託をいたします方としてはただちに商売に利用のできるようなものしか委託いたさないのでありますから、研究の
根本に触れたようなことはできない、こういうのが現状であると
考えるのであります。従いまして私は、いつまでもこの大学の研究
機関が、民間会社の委託研究の地位に甘んずるというようなことをひとつ解消していただきたい、まず私は科学技術振興の第一着手はこの辺からお始めになる必要があるのではないか、また今回の予算を拝見いたしておりますと、あるいは応用徴生物研究所であるとか、あるいは宇宙線観測所であるとか、二、三の科学研究所を新設しようというので、予算を御要求にな
つております。これはまことにけつこうなことでありまするが、一方既設の研究所は荒廃してしま
つて、その研究すら十分に行われていない現状であるにもかかわらず、研究所の数をふやしてみたところが、私は決してりつぱな結果があげられるとは
考えられないのであります。さような点から、今日あえて
文部省とは申しませんけれども、政府全体の科学振興に関しての方針というものはすこぶる計画性に乏しいという感じがいたす、同時にまた少くともこれに対する予算獲得の力というものが非常に足りないような感じがいたします。先ほど申しました
通り、今後日本の再建をいたして参りますところの唯一の道は、日本の科学技術の振興をはか
つて、日本人の持
つている優秀な頭脳によ
つて日本の再建をはかる以外に道はないと
考えるのであります。さような点について、私は今日国事多端のときでありますけれども、ぜひとも政府としては科学技術振興の長期の計画を樹立される必要があると思うのであります。かような点について特に私は
文部大臣の格別な御努力を煩わしたいと
考えるのであります。
なお私はこれに関連いたしまして、原子力研究のことについてひとつ伺
つておきたいのであります。先般
天野委員の御
質問に対しまして、福井政務次官から非常に御懇切な御
答弁がございましたが、その際
文部省としては、特に原子力を問題として取上げることは、何か
文部省が戦争科学に力をいたしておるというような懸念があるというような
意味の御返事もあ
つたのであります。またそのあとで特に原子力すなわち戦争という
考え方から
文部省は原子力の研究を敬遠しておるのではないという弁解のお
言葉もあ
つたのでありまするが、私は学術
会議など
においても一部の左翼系の学者から、原子力の研究は戦争科学に奉仕する可能性があるというような反対論が出されまして、結局研究所設置の件がとりやめられたということを聞いておるのであります。しかしながら私は今日の日本の経済力をも
つていたしましては、数千億円の金を必要とする原子爆弾の製造施設というようなものができないことはわかり切
つておるのでありまして、むしろこの原子力を平和的に使うということでありまするならば、必ずしも今日の日本の財政はこれを許さないはずはない。今日の世界の先進国
においては、原子力を平和的に各方面に活用いたしております。これを日本が戦争につながるというただ一片の形式論をも
つて放置し去ることは、将来日本の科学技術の振興、進歩は一層外国に劣
つて参ると思います。私はこの点
文部省としては十分御検討いただきますと同時に、ウラニウム鉱の調査あるいは海外事情の文献の収集ないしは原子力の研究所というものをすみやかに設置する必要があると思う。この点について御意見を承りたい。