○
岡野国務大臣 お答え申し上げます。第一の賃金の問題でございますが、これは労使相対立しているというような観念で、労働者の方から申しますと資本家が悪い、資本家の方から見れば労働者の要求が大きいということがいつも問題になるようでございますが、しかし、ただいまの
日本の置かれておりますところの法制上の建前から行きましても、また戦後民主
主義になりました国民感情から、行きましても、その賃金をうんと安くして、そうしてそれでも
つてダンピングして行こうというようなことは、事実私はできない問題だと思います。その点につきまして私は、むろんお説のように資本家にも反省を促すことは躊躇いたしませんけれ
ども、賃金をカットして、そうして商品を安く
外国に出そうというようなことは、資本家も
考えておりませんし、またできることでもなかろうと思います。お説の
通りに、賃金を安くして長時間勤めさせたからとい
つて能率の上るものではありません。むしろ賃金を上げて短かい時間働かせると、それに対応して労働者の方でも感激して働くというような点もございましようから、これはやはり各企業々々の労使の間の、いい理解のもとに物事を運んで行くことを希望すると同時に、そうして行きたいと思います。これから欧米に対してわれわれの
輸出貿易が今後どうな
つて行くかという見通しでございますが、私まだ十分
各国の
情勢を調べておりませんから、個個の具体的のことは申し上げかねますが、しかし世界の第三次大戦が遠のいたという感じで行きますと、その
段階にいろいろ過程ありますけれ
ども、
向うではやはり生きて行くために、
相当世界に商品を売り出すという努力を続けるにきま
つております。そういたしますと、
日本の商品の入
つて行く余地がない。こういうようなことにも
考えられますけれ
ども、しかし私の
考えといたしましては、たといそういうふうなことになりましても、
経済というものはまた別でございまして、いろいろの関係で物が売れることがたくさんあるのでございまして、私は欧米に対して、今後
日本の商品を入れる余地がなくなるだろうというような悲観論は持
つておりません。
それから
東南アジア開発ということがよく出ますが、これはお説の
通り、
日本がもと申しましたような功利
主義経済をするというようなことに逆にとられること、そういう
考えはないのでございますから、そういうことを
向うの国民感情に与えるということはよくないと思います。その
意味におきましてわれわれといたしましては、
向うでほしい商品をできるだけ出したい、また
向うで技術の必要がありますれば、技術もこちらで出してよろしい。
向うで
経済を促進して行くのに、非常に近い
日本において役に立つことがあればどんどん役に立たしてもらいたい、こういう
立場であります。
東南アジアとの問題は、お説の
通り賠償問題がひつかか
つておりますけれ
ども、賠償問題はやはり
政治問題でございますので、
政治問題は
政治問題と一応しまして、
外務大臣が十分努力をしておりますけれ
ども、もうすでに
東南アジアとは、金をと
つて来るのに困るほど実は
輸出もできておるような
経済上の緊密な関係ができておりますので、この
情勢をますますよくして行くことに努めたい、こう思います。われわれといたしましては、
政治問題は
政治問題でございますが、その陰に、
向うの
経済発展のために希望しておるものがやはりあるのでございますから、それに協力したいと思
つております。
そこで私戦後におきまして
考えておりますことは一
日本において
外国貿易をしておる商社の信用が戦前のごときものでないことで、これを非常に遺憾に存じております。私一昨年イギリスに参りまして
——これはほかの用で参りましたのですが、
向うの実業家に会
つてみますと、こういうことを
言つてお
つたのであります。
日本にはもと三井、三菱とかなんとかいうのがあ
つて、三井と聞けば安心して物を注文しても売
つてもよか
つた。それにかかわらず、今では一体何という商社が
日本で信用があるのか、また実力があるのか実情を知らないので
商売が非常に停頓しておる。もし帰
つたならば、
日本の
政府において、これこれの商人は信用が置ける。基礎確実のものであるという通知を出してくれということを聞いたこともあります。そういう
意味におきまして、これは一例でございますけれ
ども、
日本の商社の海外
貿易力、信用、内容とかいうものが、戦前に比べて非常に劣
つている、この点は、私は
日本の敗戦後の欠陥だろうと思います。こういう方面にも私は力を注ぎまして、商社の育成発展に努めて行きたい、こう
考えております。
お説のように、
日本が開発するという言葉を自主的に使うことは愼むべきことだろうと思います。