○生田
委員 私たち
派遣委員は、北
九州の豪雨による
被害状況実地
調査のため、七月二日より十日間にわたら、
福岡、佐賀、長崎、
熊本、
大分各県下の
水害地を三十数個所にわたり実地に
調査したのでありますが、各地における
災害の
状況及びこれに対する緊急並びに恒久
対策と認められるもの、その他
委員会において参考となるべき事項について、
現地において収集した
資料及び各地の
要望書を添えて、ここにその概要を
報告いたします。
一、
災害の概況
今次の
災害は、いわゆる三百年来の大水によるものであ
つて、六月二十四日
九州南方にあつた梅雨前線は、二十五日未明に北上し、五島列島付近より
九州南々東に横断し、宮崎付近より四国沖に抜け、二十六日にはさらに北上を続け、この線上にあたる対島海峡付近には千ミリバールの低気圧が発生し、その活動はさらに活発化し、北
九州一帯に豪雨をもたらしました。すなわち、その降雨量は、平地においてはおおむね六百ミリ内外、山間部においては千ミリに達し、各地にわたり甚大な人的、物的被害を与えたのでございます。
これらの
災害の原因を考察いたしまするに、(一)降雨はかなり長期に及び、かつ一時に多量の降雨があつたこと、(二)山地における濫伐、過伐、及び造林の不足、(三)不自然な河川改修計画が所々に見られた。(四)過年度
災害復旧工事の未完成等に基因するものと考えられますが、その最も大きな原因は、今回の水が超々大水であり、河川の計画洪水量をはるかに越えていたことであります。
今次
災害の態様についてこれを区分いたしますれば、一、山岳地帯(小段地を含む)における
災害二、平原地帯における
災害、三、山くずれによる
災害、四、地すべりによる
災害にわけることができます。これについて各別にその概要を述べれば次の
通りであります。
(一)山岳地帯における
災害
山岳地帯においては狭い渓谷に河床が狭扼されている
関係上、一時多量の降雨によ
つて水嵩が異常に上昇し、河岸を決壊し、耕地、道路、橋梁、人家家財道具を大量に流失破壊いたしまして、人命の損傷はきわめて大きいのであります。耕地の流失につきましては、その原形をとどめず、長期にわたり耕作を不能ならしめたものがたくさんございます。また、随所に起つた山くずれは小段地耕地をことごとく流失せしめております。
この事例は、
大分県下玖珠、日田、
熊本県下阿蘇、菊池、鹿本、佐賀県下小城、長崎県下の小段地について随所に見ることができます。
(二)平原地帯における
災害
水系源における多量の降雨により、各河川は怒濤の奔流するところとなり、岩石、立木、土砂を押し流し、橋梁を流失し、各所において堤防を決壊した大洪水は、筑後川、白川、遠賀川、矢部川、嘉瀬川、城原川、田手川、
大分川、
大野川等、各河川の流域一帯の沃野を広範囲に冠水、決壊現場付近には荒土、岩石の堆積せしめ、あるいは水路の変更を生じ、交通
機関の杜絶、家屋の流失、灌漑用水路の破壊等、その被害はきわめて大であります。また、
熊本市、
久留米市、佐賀市の全域、
福岡市、
大分市、佐世保市の一部その他の都市を浸水し、あるいは水道送水管は不通とな
つて断水し、屋内、道路に泥土を堆積せしめ、多数の人命を奪い、中小商工業者に対して致命的打撃を与えたほか、
罹災民の生活を極度に困窮に陥らしめました。農作物につきましては、前回の二号台風に引続き、重ねて被害をこうむり、前回ようやく
災害を免れたる麦類、豆類等の春期収穫農作物及び保有米をことごとく冠水したほか、田植の時期を失し、長期冠水と苗代の被害により植付は不能に陥り、かつまた冠水を免れた植付完了田も、灌漑用水路の破損によ
つて植苗は枯死寸前の
状態となり、かつまた将来の旱魃は必至と認められる
状態であります。
なお、平原地帯における
災害の特異な事例をあげれば次のごとくであります。
(イ)白川流域における
災害の特異性
白川は阿蘇外輪山の水を集める河川であ
つて、水源山岳地帯に激甚な出潮が起り、亜硫酸ガスを含む火山灰土を急激かつ多量に流失し、流域一帯の耕地を初め
熊本市にこの泥土のおびただしい堆積を来した。この泥土は悪質であ
つて肥料分を含有せず、その排除は耕地及び市内を間わず絶対必要であるが、排除作業は困難をきわめています。なお、
熊本市内における堆積量は平均三十五セソチに達するといわれております。
(ロ)有明海沿岸干拓地帯における
災害の特異性
佐賀県有明海沿岸の干拓地帯はきわめて低湿であり、出水後二旬を経過するもいまだに冠水し、排水作業は潮の干満に左右され、その進渉
状況ははかばかしくありません。各部落はまつたく不衛生
状態に置かれている一方、また、手持ちの米麦はほとんど腐敗または発芽に瀕し、農民は、玄米を泥水にて洗い、蒸して干飯とした上食用に供せんとする等極度に食糧に窮していると見てさしつかえありません。
(三)山くずれによる
災害
門司市、阿蘇
地区において人的物的にきわめて甚大な被害を与えた山くずれは、おおむね戦時中の山林濫伐に基因するものと思われますが、一方山津浪の特徴としては、瞬間的かつ水量が大であ
つて岩石を含んでいる。
従つて、その被害は特に大きいのであります。家屋の被害につきましては、自然に抗した危険な位置に建築がなされていること、人家が密集していること、家屋が脆弱なこと等があげられます。なお、山くずれによる被害は、門司、阿蘇
地区以外の各地においても随所に見ることができます。特に門司市においては、市街地が急傾斜、脆弱な地盤よりなる山地を背後にめぐらすため、山くずれに伴う山津浪によ
つて一瞬にして多数の家屋が倒壊し、岩石と流木相かむ渦流は、多数の人命財産を初め、道路河川、耕地等に大損害を与えました。
(四)地すべりによる
災害
長崎県南高来郡一帯、北松浦郡一帯、東彼杵郡一帯及び佐賀県西松浦郡一帯における地すべりによる
災害は、田畑、森林を押し流し、鉄道を埋没し、家屋を倒壊し、農地表面には無数の亀裂あるいは凹凸を生じ、耕地の細分化を余儀なくされ、また田の底の地層に亀裂を生ずるため、常に漏水を起し、水田耕作を不可能ならしめている
状態であります。この地帯の町費は第三紀層の上に玄武岩とその風化物でおおわれているのであり、今回の豪雨はその誘因たる刺戟的原因とな
つております。
二、今次
災害に対する
対策
前記のごとききわめて甚大なる
災害に対し、とるべき緊急並びに恒久
対策と認められるものをあげれば次の
通りであります。
(一)
緊急対策
災害の
実情にかんがみ、当面
応急的に、交通、通信、衛生、住宅、食糧、失業
対策に関し、重点的に緊急適正な
措置を断行する必要があると認められるが、それは枯渇せる
現地資金に活を入れることであり、人心を安定せしむるを第一義と考えられる。
地方公共団体については、その支
出しなければならない諸般の
災害対策費は莫大であり、一方
税収入は減少するのであるから、
資金繰り及び
財政援助
措置を講ずる必要があり、また、
罹災者に対しては、主として
生業及び生活
補助の見地から、当面せる各般の
応急対策をとるべきものと認められる。
地方公共団体については、これを項目別に列挙すれば次の
通りである。
(1)
地方公共団体に対する
対策
イ、
つなぎ融資の大幅増額
口、
地方起債わくの拡大、全額起債の承認
ハ、
災害復旧に関する
補助額の拡大及び
補助率の
引上げ
二、過年度
災害復旧の繰上げ実施
ホ、
災害救助法の
改正
へ、税の減免
措置
ト、特別平衡交付金の大幅増額
チ、利子補給及び利率の引下げ
リ、
災害校舎復旧費の全額
国庫負担
ヌ、すえ置き長期低利の救済
資金の貸付
ル、
仮設住宅の建築の融資、公営住宅の建築
(2)
罹災者に対する
対策
(イ)農民に対する
対策
(一)、共済保険金仮払いの早期実施
(二)、飲用米麦の貸与
(三)、種苗、肥料のあつせん交付(種苗は全額)
(四)、田畑復旧工事については耕作者請負とすること
(ロ)中小企業者に対する
対策
(一)、手形決済の延期、長期低利
資金の融通
(ハ)、失業者に対する
対策
(一)、復旧事業べの雇用、賃金の即日払い
(二)、浸水炭鉱の労務所に対する失業
対策
(ニ)、学童に対する
対策
(一)、教科書、
学用品等の迅速な無償交付
(二) 恒久
対策
前記の
通り、当面せる
応急措置を講ずるほか、今次
災害の経験にかんがみ、将来に備え、
災害の復旧防止につきまして、これが恒久
対策を樹立する必要があることは言をまちません。よ
つて、以下実地
調査の
実情に照し、是正を要する事項等について、これに関し一応参考のために記述しておきます。
(1)
中央に
災害対策の常置
機関を設置するとともに、行政出先
機関の相互連絡の緊密化をはかること
(2)気象、測候、火山、地震等に関する
調査研究諸
機関を
災害防止のために十分段立たしなめるごとく
措置すること。一例を申しますならば、気象台が文部省の
所管にあるがごときは一考を要すると思うのでございます。
(3)
地方公共団体の
財政状態がきわめて窮迫しているので、
災害に対し予防並びに緊急即効的な手段を講ずることができず、また、現行
災害救助法に規定する
救助費ではまかないきれない
実情にあり、かつ、公共土木
災害復旧事業費
国庫負担法による
国庫補助の
程度では、その
補助対象とならないものが全体の三割を占めるがごとき今回の
災害につきましては、
地方公共団体及び個々の
罹災者はとうてい復旧事業をなし得ないから、これらの点について
法律改正を行い、是正策を講ずる必要があると認められる。
(4)
市町村役場、警察、消防団、水防団等の
災害防止復旧に関する努力は十分認められるが、統一ある指揮のもとに訓練されていたならばといううらみがあるので、これについては適当なる是正
措置を講ずること。
(5)
保安隊の活動については、より一層の効果をあげしめるために、鉄舟、トラック等による機動性を持たせるとともに、
災害復旧のための器材器具等を整備いたしたならば、さらにけつこうであると存ずるのであります。
(6)気象連絡については、山間僻地においては特に不十分であつたので、気象速報
機関の設置を促進するとともに、各
市町村において携帯無線機等の設備が好ましいと存ずるのであります。
(7)
災害河川の水源地はおおむね山林が濫伐されたまま再植林が実施されておりませんので、これが
災害を増大せしめた原因とな
つており、今後は植林及び砂防工事を強力に推進する必要があると思います。
(8)河川については、同一水系において、下流は直轄河川であり、上流は県費支弁河川とな
つている場合が多く、一貫した治水工事が行われていないのが認められるので、これが是正策を講ずる必要がある。筑後川はこの端的な事例であります。
(9)土木工事が自然に抗して行われ、かえ
つて自然の猛威の反撃を受けて大きな
災害を認来しているうらみがありますので、特にこの点留意する必要がある。日田市内における玖珠堤防決壊はその事例と認められる。
(10)長崎県下を主とする地すべりについては、特に研究
機関を設けて
調査研究を行うほか、危険地帯を設定して、住居移転等を行わしめる必要がある。
(三) その他
その他の問題について偶感的に申しますれば、以上
災害の概況並びにその
対策について記述したが、その他実地
調査したもののうち、
委員会として参考となるべき事項について若干補足しておきます。
(1)遠賀川の堤防決壊並びに下流一帯について
福岡県遠賀川流域は、地底、河底を問わず坑道が縦横に掘りめぐらされているため、堤防の地盤はゆるみ、堤防は傾斜をなして沈下しており、決壊は当然予想さるべきものでありました。なお、堤防決壊現場たる植木町付近は鉱害補償を受けている地域でありますが、この浸水の影響を最も深刻に受けた同川下流の鹿児島本線遠賀川駅付近の村落は鉱害地の
適用を受けておらず、鉱害補償地域と無補償地域における
災害の関連については一考を要する問題があり、また、将来に対しては炭鉱業者に対する監督に遺憾なきを期すベきであると考えられる。
(2)関門隧道の浸水とその復旧作業について
関門トンネルは、今次豪雨により浸水不通となりましたが、その浸入口たる両側入口における防水設備は必ずしも万全の構えをと
つておらず、その地形的条件に対する認識が不十分であつたと言わざるを得ません。
さらに、トンネル内の排水作業については、実地
調査時においてすでに浸水後七日を経過しておりましたが、ようやく両側合せてわずか六本の四インチ・パイプの設置作業を進めている
程度でございまして近所に存在する石炭、ガス、鉄鉱等の民間会社手持ちの優秀なる排水ポンプが多量にあるにもかかわりませず、米軍の資材を借り受けて排水に従事したものであり、排水完了時期が遅延しておりますのは、国鉄の排水に対する態度にいささか遺憾な点があつたと思うのでございます。なお、この本州と
九州とを結ぶ大動脈たる関門トンネルのごときに対しましては、国鉄当局は平常から緊急時に対する万全の用意があ
つてしかるべきと認められるのでございます。
(3)稻苗の遠距離
輸送及び水浸し米麦について
洪水で田畑を冠水された農民はまた植付期を失した苗床をもことごとく流され、減水後も値付不能に陥
つていたが、これに対して、近県はもとより、遠くは四国、近畿からも救援の稻苗が到着し、各地でけなげな植付が始められておりましたが、この
輸送された稻苗は苗根が腐敗して活着きわめて悪く、農民の努力は灌漑用水の破壊と相ま
つて水泡に帰せんとしている
状態である。なお、水浸し米麦については、麦類は発芽を見て発酵しており、これを飼料に供したがため、貴重なる家畜を死に至らしめた事例が
熊本県にあり、また水にしたつた米は精白時に小破するを通例としますが故に、手持ち主食は全滅に近い
状態であります。
(4)
罹災者収容所の
状況について今次
災害により住居を失つた
罹災者の収容所の
状況を見まするに、
熊本市大江小
学校においては収容者が自治的運営を
行つているが、その
人たちの悩みは、
災害救助法の
適用が停止せられたときにおける生活の不安、
救助物資の末端配給の不円滑及び給与の不十分等があげられます。
同所における
救助物資は、収容人員三百九十二人に対し、毛布三十枚、たび十ダース入四箱のみで、その他は何ら配給せられておりません。給与は七月三、四、五日の献立を見るに、三日は一〇八〇カロリー、四日は一一八五カロリー、五日は一一八四カロリーでありまして、普遍人体の所要カロリー二四〇〇カロリーに対しその半分以下で栄養失調が現われて来ていることを訴えております。なお、当収容所は最初五百人を収容しておりましたが、目前の不安に耐えかねて自由出所した者がすでに百名に達している
状況でありました。
(5) 中小炭鉱の被害について今次
水害により百余の中小炭鉱が被害を受け、その生産減は約七十万トンと称せられておりますが、自己復旧の困難なこれら中小炭鉱に対しては、いろいろ議論の余地はありますが、少くとも炭鉱労務者に対して適当な失業
対策を講ずる必要があると考えられます。
(6)西日本
水害対策本部の設置について政府は六月二十九日、
大野国務大臣を長とする西日本
水害対策本部を
福岡県庁内に設置し、とりあえず
応急対策の実施に当
つておりましたが、これについては地元はいずれも多大の好感を寄せ人心安定の上にきわめて効果があつたものと認められるのであります。
以上実地
調査を行つた各地の
被害状況及びこれに対する
対策並びにその他
委員会の参考となるべき各般の事項について記述した次第でありますが、なお、各地の
被害状況及び被害額に関する数字等については、本
派遣委員が短時日の
調査期間において精密に
調査把握することは不可能であ
つて、これについては本
報告書に添付した県当局作成の
資料及び西日本
災害対策本部提出の
資料によるほかはないと存じます。右
報告いたします。(拍手)
昭和二十八年七月十三日
水害地緊急対策特別委員会派遣委員
生田 宏一
赤澤 正道
細迫 兼光
受田 新吉
松永 東
中村 英男
水害地
緊急対策特別
委員長村上 勇殿