○
吉田(賢)
委員 私は、
日本社会党を代表いたしまして、
昭和二十八年度
一般会計、同
特別会計、同
政府関係機関の各
暫定予算案、並びにその他の四つの
法律案に対しまして、賛否の
意見を述べます。前者の三つの
暫定予算に対しましては
同意せず、残りの
法律案に対しましては
同意する。以下その
理由を申し上げます。
まず不
同意の
案件についての
理由を開陳いたします。
第一は、これは
政府が、
憲法五十四条第二項によ
つて、
参議院の
緊急集会を召集し、これに付議いたしたのでありまするが、これは
国会召集権の
濫用であります。重大な
憲法違反であります。何ゆえならば、およそ
憲法の同条第二項によりますると、国のため緊急必要なる
事項についてのみ、
政府は
参議院の
緊急集会を召集し得る
権限を付与されております。非常に厳格な
制限規定があるわけであります。一方
財政法の
規定によりますると、同第三十条によりまして、単に
内閣がその必要を認めたときには、
会計年度の
一定期間の
暫定予算を作成して、
国会に付議し得るということが
規定されてあるわけであります。そこで本
暫定予算についてこれを検討してみますると、はたして
憲法の厳格に求むるところの
措置の対象としての
条件を具備したものであるのかいなや、この点について、先般来当
委員会において、われわれの質疑に対する
政府側の
幾多の答弁を求めたのでありましたけれども、十分に満足を得られないまま経過してお
つたのであります。しかしながら、
財政法に
規定する
暫定予算なるものは、
財政法のみに
規定されておるものでありまして、その
条件は、今申したごとくに、単に必要を認めたときはこれを編成し得るということにな
つておるのであります。
憲法の
制限規定は最も厳格に解釈せねばならぬことは、これは旧
憲法以来一貫した
精神であろうと思います。旧
憲法第八条の緊急勅令の緊急の
精神、第七十条の緊急
財政処分の緊急の趣旨は、いずれも
現行憲法の五十四条二項の緊急の字句、その
精神、趣旨に同一であり、承継されておることは、過日の副総理の答弁でも
同意にな
つてお
つたし、またこれは学者一般に何ら
異論のない通説であります。そこで、この
暫定予算なるものがはたして
緊急性を持
つておるかどうかにかかるのでありまして、
緊急性のないものを
緊急性ありとして
憲法上の
規定を利用せんとすることは、これは
憲法は
内閣に許しておらぬのであります。
そこで
予算案の
内容について見ますると、たとえば
政策的な
予算がありますることは、われわれしばしば指摘したところであります。防衛
関係諸
経費につきましては、
国会において非難をせられ、
国会において
反対をせられておりましたところの、顕著な大いなる
政策経費であることは申し上げるまでもありません。これが麗々しく提示されておるのであります。また不急の
経費につきましても、これは断じて緊急
措置の対象とすることは評し得ないのであります。たとえば私どもが指摘いたしましたごとくに、一般の交際費にいたしましても、また一般予備費にいたしましても、これを緊急
経費と見るということは、
憲法を曲解するものと申すほかはありません。そこで、これらの例示いたしました多額の
経費が緊急の名によ
つてみな暫定予知に組まれまして、緊急の
条件を厳格に構えておる
憲法の
緊急集会の対象として持ち出しておりまするので、これは何としても、善意に解しましても、
政府のこの上ない近来まれな
憲法違反の失策であ
つたと申さねばなりません。これをしも
憲法違反にあらずして、われわれは、過日総理が、
憲法は慎重に
運用すること、
憲法は厳格に解釈することということに
同意になりました。その美いずこにありやと申さねばなりません。新
憲法実施以来、
憲法が忽卒の間に制定せられましたような経緯にもかんがみまして、世の風潮は、
憲法の解釈につきまして、と
かくこれを軽侮せんとするような風が見えないではありません。
内閣が率先して
憲法の
精神を蹂躙するというようなことは、
国会は断じて許すことができぬのであります。要するに、
かくして
憲法違反の重大な事犯を犯して来たのであります。これが
反対論の第一
理由であります。
第二には、
内閣はこの
暫定予算を通じまして、
国会軽視、
国会無視の思想を露骨に現わしておられるということをいなむわけには参りません。元来、申すまでもなくわれわれ
衆議院は、
憲法六十条によりまして、
予算の先議権を持
つております。
予算はあらゆる場合におきまして、国民の大多数の代表である
衆議院に先議権を付与しておりますることは、これまた世界のおよそ立憲
憲法の一貫した思想であり、今日の
現行憲法もこれによ
つておりますことは申すまでもありません。そこで、
吉田第四次
内閣が、三月の十四日に
衆議院におきまして
不信任決議案を
可決せらるるや、
憲法の六十九条によりますると、その間十日間の
余裕をも
つて、あるいは退陣するともあるいは
衆議院を
解散するとも、二途選ぶ道も一面与えられておる。十日間の猶予
期間というものは、
政府がだんだんと答弁になるような、さように偏狭に、きゆうくつに解釈すべきものではありません。およそこの十日間におきまして、いずれの道を選ぶとも、すなわち
解散をも
つて臨むとも、総
辞職の道を選びまするとも、いずれにいたしましても、
政府といたしましては、国務の渋滞を来さないように、国民生活に支障を来さないように、国家経済に悪
影響を来さないように、あらゆる
観点からいたしまして、臨時の緊急なる
措置をなさねばならぬはずでありました。この善後
措置のためにも、十日間は与えられておるというふうに解釈すべきが理の当然であります。最も道理にか
なつた同条の解釈と申さねばなりません。しからば
吉田内閣といたしましても、当時すでに、三月二日
衆議院によ
つて多数で
可決せられて、
参議院に回付せられ、その審査の途上にありましたところの本
予算につきまして、この十日間に全力をあげましてその通過をはかるべきことが、第一のなすべき
措置でなければならぬと思う。また第二には、臨時の
暫定予算を編成いたしまして、
国会が
両院存在するのでありますから、
衆議院の
予算先議権を尊重いたしまして、
衆議院に対してこれを提示する。提案する。
かくいたしまして、
憲法の条章によりまして
衆議院にこれが審査を求めるということが、第二にとられなければならぬ当然の
措置であ
つたろうとわれわれは思う。ところが
吉田内閣は、
不信任案可決を食らうや、何を狼狽いたしましてか、即日
解散の暴挙に出たのであります。これは、
憲法の条章を真に厳格に履行せんとする忠実なる
態度に欠くるところがあ
つたのが根本であるし、また
衆議院の
予算先議権、
国会が
予算について重大なる
審議の
権限があるということについて、従来からも現われましたごとくに、
国会軽視、
国会無視のその傾向が、勢い事ここに至らしめたものとわれわれは断ぜざるを得ないのであります。かように考えて参りますると、当時の
吉田内閣といたしましては、なすべきこの
二つの方途に出ずして、
解散の暴挙に出てしま
つたのであります。
解散になりましたならば、
国会の機能は即時停止、
参議院は閉院になり、
衆議院はなくなりました。
国会において国事を議する道は大体奪われてしま
つたのであります。ただ
一つ残されておるものは、
憲法五十四条の第三項によりまして、
政府は
緊急集会を求め得る道であります。ところがそこにおきまして、
政府は
暫定予算と
緊急集会のことに思いつかれたものと思う。
暫定予算を組んで、
緊急集会に出してこれを通過せしむるならばそれでよいと、きわめて軽率にかような
措置に出られたものと私は想像いたします。ここに根本的に
国会軽視の思想がありましたことが、このあやまちを犯さしめておることと、また
暫定予算が、無
条件に、いつの
暫定予算でも、いかなる
暫定予算でも、常にこれは
緊急集会の対象となり得るような、昨日あたりの
政府委員の答弁に盛られておりましたごとき、そういう思想が内在してお
つたことが、あやまちを犯したことの第二の
理由であ
つたろうと私は思う。いずれにいたしましても、何らかの
措置に出でなければならぬ。
国政、国務は一日も荒廃させることは許されません。どうしても方法を選ぶとなるならば、この
財政法による
暫定予算を取上げまして、そうしてそれを
緊急集会に持ち込んで行くという以外に道がないというのが、
政府が到達しましたところのただ
一つの道でありました。けれども、
憲法が
緊急集会の
条件を厳記しておりますることは前段述べました通り。これへ持
つて参りました
暫定予算が、ほんとうに
憲法の
精神を十分に厳格に解釈し尊重いたしまして編成した
暫定予算であるならば、
参議院において、またわが
衆議院において、
かくも
議論が沸騰することなく、違憲論が盛んに唱えられることなくてあるいは済んだであろうと思う。にもかかわらず、それに持ち込まれましたものが、先に第一の
理由に述べましたごとくに、きわめて積極性を持ちましたところの
政策的
経費、非
緊急性を持ちましたところの各般の
経費、こうい
つたものを漫然と織り込みましたまま、暫定
措置の対象として
参議院に持ち込んで行
つたという経緯にな
つておるわけであります。これは
政府が、
憲法六十九条の十日間の
期間に当然なさねばならぬところの必要なる臨時的なる善後
措置をなすことを怠りまして、やむを得ずなしたところのその
措置についての
責任を
国会に転嫁せんとするところのやり方であ
つたと、私どもは断ずるのでございます。この点につきまして、
政府の持
つておりまする
政治的責任は、まことに重大なものと言わねばなりません。われわれは、かかる大きなる失策によりまして、
国会が
責任を転嫁せられようとするそれを受取るわけには参りません。これが、私どもがこの
暫定予算に対しまして
同意をいたすことのできない
理由の第二であります。
第三は、
憲法と
財政法上の一種の盲点ともいうべき、
財政法三十条と
憲法五十四条第二項の
規定の関連におきまして、
憲法の
運用上の
一つの盲点を第四次
吉田内閣は悪用したものであります。悪用したものでありまするので、私どもは、これらにつきましても、やはり附加して
反対の
理由として強調せねばならぬものと思うのであります。もし
政府が十日間に適当なる
措置をと
つておりましたならば、これは緊急
措置に持ち込む必要がなか
つた。また
財政法に
暫定予算なるものの定義、その
内容、性格、
条件とい
つたものがもつと明確に
規定せられてありましたならば、あるいはまたこの
措置を誤ることなくして済んだかもしれません。また
憲法には、旧
憲法の七十条によ
つての
財政緊急処分、七十一条によ
つてそれの施行
予算、踏襲
予算の
規定がありましたが、かような
規定が一切ないのが
現行憲法であります。一切ありませんので、ここに盲目的にと言いまするか、
暫定予算を
財政法によ
つて編成いたしまして、
憲法のこの
一つの新たなる欠陥というと少し言い過ぎでありまするが、
憲法の新しいこの書き方に乗じまして、そのすきに乗じて盲点を利用いたしまして、ここに緊急
措置の対象として
参議院に付議いたした次第でありまするので、これは何といたしましても、これらの
憲法運用上の、今後何とか改善されなければならぬところの
一つの盲点を、たまたま
吉田内閣が悪用いたしましたのでありまして、これまた
政治的責任まことに重きものと言わねばなりません。のみならず、
かくいたしまして、私どもは、もし、
吉田内閣のごとく、かように
憲法と
財政法の
規定の関連におきまして、むぞうさに
憲法解釈を曲解したり、無視したりするようなことが許されて行くといたしましたならば、まことに私どもは恐るべき将来を予想しなければならぬと思うのであります。何事ぞと申しますれば、たとえば
吉田内閣は、
憲法第七条によりまして——
幾多の疑義があり、その
解散権の有無につきましても学者にも
論議をされておりましたが、
憲法七条によ
つて衆議院を
解散し、
憲法五十四条によ
つて参議院の一院に緊急
措置を求める、しかもそれは緊急
措置の対象となり得ないような、緊急
措置の当然求むるところの要件を欠いたところのさような
予算案を、要件を守られずしてこれに付議しておる。かように
憲法七条と
憲法五十四条が併用せられて、しばしば繰返されるということに、もしなるといたしまするならば、これは
政府が独裁の政治を実現し得る道を開くものと申さねばなりません。
国会の存在を無視し、
国会の権能を蹂躪し、
衆議院の
予算先議権、国民の代表である
国会の存在を無視すること
かくのごときはなはだしいものはないと言わねばなりません。
かくいたしまして、余儀なく
衆議院にその
同意を求め、もし
同意しないとすれば国務は渋滞する、
国民経済は停頓する、国民生活は悪
影響を受けるとい
つたようなおどかしを一面に持ちまして、事に臨んで行くということになりまするならば、私は、日本の真に民主的なる平和的なる
憲法政治の
運用におきまして、まことに恐るべき悪例の端緒をなすものと言わざるを得ないのであります。これが
反対不
同意の第三の
理由であります。
そこで私は、第四に、一言われわれの立場につきまして誤解なからしむるために申し上げておかねばならぬと思うのであります。私どもは、前段るる述べましたごとく、国といたしまして国務の進行はこれを一日もむなしゆうすることを許されないのは、何人にもまして強い
責任を持
つてこれを感じておるものであります。しかしながら、もし
衆議院によりまして不
同意の
議決がされたといたしますれば、その際に
責任は一体だれが負うでしようか。その際の
責任を
衆議院に負わし、
反対する者に負わすということでありましたならば、これはもう
憲法政治ではなくなると申すほかはありません。私は、もし
反対、不
同意の結果といたしまして、執行の
責任はいずれが負うやといたしましたならば、これは当然
吉田内閣が負わねばならぬものと思うのであります。またすでに去る五月の二十三日現在、支払い計画承認済みのものが千四百何がしの
予算のうちで九六・四%に当
つております。
従つて現実的には、支払いのこの
経費なるものはもう百パーセントに近く使われておる、九六%以上使われておるものと推定し得ます。もつとも、わが
川島委員からその後の
予算執行の状況について
政府側の答弁を求めましたけれども、これは現実に把握することは困難であるというふうに逃げておりました。いずれにいたしましても、当時、現在において九六%以上支払い計画が承認されてお
つたものと、かように見まするならば、現実の
支出、会計、
財政の面においては多くの
影響がないものと思われますので、これは一言附加しておきます。
次に述べておきたい点は、凍霜害対策に対する
経費の問題であります。これは、全国の被害農民はもちろん、わが党もこぞ
つて緊急すみやかに万全の
措置の講ぜられんことを猛烈に要望しておることは、顕著な事実であります。そこでこの被害対策の
経費といたしまして、
政府は災害対策予備金のうち相当額の支払いを予定しておるがごとくにわれわれは承
つておるのであります。災害対策予備費十億円を組んでおりまして、これを
支出するということについては、これはもつともなことであろうと思いますので、こういう点についても、私どもは、
内容的に災害対策予備金が使用されるということについては、何の異議もないのであります。このことは誤解のないように申し上げておかねばならぬと思うのであります。
さらにもう
一つ申し上げておかねばならないことは、私どもは、さきに、経済あるいは国民生活の将来を遅らすことのないように欲することは人後に落ちないと申し上げましたが、その通りであります。そこでわれわれといたしましては、この
暫定予算の
内容において、さきに指摘いたしましたごとくに、
幾多の
政策的、積極的
経費、
幾多の不緊急なる
経費が含まれておりますので、そうい
つたものをことごとく削除するとい
つたような修正、あるいは組みかえというようなことは、これを望みたい
一つの立場でありますけれども、いろいろ各般の
議論上下いたしました結果は、これは
同意を求めておる。だから
同意するかいなやという不可分論的なる結論が大勢を支配してお
つたようでありますので、かような
理由も織り込みまして、不可分論というような考え方を前提にいたしまして
反対理由を述べましたことについても、国民の了解を求めておかねばならぬと思うのであります。
さらにもう一点申し上げておきたいことは、この
財政法の三十条が、
暫定予算について明確にその性格を
規定しておらぬということが
一つは盲点にな
つておりましたので、こういうことにつきましても、将来
憲法運用上万全を期する意味におきまして、何らかの
措置がとられなければならぬものと思うのであります。これらにつきましても、過日も質疑応答いたしたのでありますが、今は
政府においてその意がないような意向を承りました。まことに遺憾であります。
以上数点を述べまして、私どもは不
同意の
態度を表明する次第であります。残余の各
法律案につきましては、やむを得ざる
理由ありといたしましてこれに
同意する次第であります。以上をもちまして
討論を終ります。