○山縣国務大臣 私はちようどこの前の
委員会に
出席いたしまして、その日の飛行機で九州地区の水害地の視察、並びに現地におきます対策等の確立に対して参りまして、一昨日帰
つて参
つたのであります。その間
国会開会中でありますので、そう長期間にわた
つて現地に滞在ができなか
つたのでありますが、できるだけその間に災害各地を現地に視察いたしまして、
厚生省所管のことを中心にいたしまして、できるだけ応急対策の確立に遺憾なきを期したいと存じて参つた次第でございます。私はたしか二日でございましたか着きまして、すぐに現地の対策本部において、各
関係官から被害状況等を聞き、その後連日飛行機、ヘリコプター、自動車あるいは徒歩によ
つて、大体災害の各地を見て参りました。ただ滞在しましたのが中三日でありましてその間長崎とそれから大分県は、私は参るつもりで機上の人となりましたが、途中で降雨になりまして、パイロットの申入れによ
つて長崎は途中から引返し、なおまた大分地区は日田地区の途中まで参りましたが、何分にも大分地区その他は飛行場の設備がありません。ヘリコプターあるいは小型機で参りましたので、風速を冒して参り着陸することが危険だというパイロツトの申出によ
つて、長崎及び大分の両県は現地に参りません。その県下の一部を機上から視察いたしましたが現地には参
つておりません。しかし福岡、佐賀、熊本、山口等には現地について視察いたしたような次第でございます。時間もありませんので、詳細なことは政府の対策本部等の発表、あるいはその他の報告がございますから省きまして、できるだけ
厚生省所管のことについて申し上げたいと存じます。
なおこの点は皆さん御
承知の
通り、新聞紙等において御
承知だと思いますが、今回の災害の特殊な点は降雨量が多かつた、総量においても密度においても非常に多かつた。たとえば私が帰ります現在までにおける対策本部の調査によりますと、福岡において千百十二ミリ、それからその他大体八百ないし九百くらいの降雨量があ
つたのであります。それで今回の災害の特徴といたしましては梅雨前線と豪雨、それから長雨、この三つが競合いたしましたために、たとえば門司、これはむしろ山津波、それから熊本は泥害、それから佐賀県は長期の滞水、長崎県は山すべり、地すべり、こういうふうにおのおのの県によ
つて特殊の災害の状況を示しております。機上から見ましても、一番ひどいのは筑後川沿岸であります。遠賀川も決壊いたしております。たとえば佐賀県の嘉瀬川の流域の嘉瀬村にも、私は小舟で河を渡
つて、ロープを伝わ
つて参りましたが、ここなんかは非常に災害もひどく、ちようど私が参
つて飛行機から見ましたときには、この嘉瀬川の決壊場所は、何ら人影もなくして、まだ氾濫をしておつた。そして嘉瀬川の下流の方の一帯の地域は、むしろ水量がふえておるというような状態でありました。これをすぐに帰
つて対策本部に報告してその翌日から保安隊がいわゆる締切り工事に当
つておるような状態であります。
ほかにもいろいろございまするが、建設
関係の御報告は、他の機会に報告があつたと思いますから省略いたしますが、とにかく災害は
相当にひどく、ことに大分県の日田地区のごときは、連絡等の不十分のために、私らが帰ります一両日の間に漸次その被害状況がわか
つて来たというような状態であります。従
つてこの災害の規模等については、まだ確かな数字はわかりませんが、私が帰りますときの最後の調査では——きよう現在ではあるいはまた少し変化があるかもしれませんが、大体死者、行方不明合計いたしまして千百四十、それから罹災者の総数が百三十三万五千、世帯数が二十六万一千というふうなことであります。
なおこれはもうすでに新聞紙上で御
承知でありますから省略いたしますが、水田、畑地の冠水、流失、埋没、それらは
相当の数に上
つておりますし、全壊、流失の戸数、半壊あるいは冠水、床下の浸水、床上の浸水も
相当の数に上
つております。それらのことにつきましては、他の機会に発表があると思いますから省略いたしますが、さような災害下においてまずも
つて今回対策本部を中心として政府がとりましたのは、いわゆる災害救助法に基く応急対策並びにそれと並行して防疫対策でありますが、災害救助法に関しましては、結論といたしますれば、実はその間各県の知事にも会い、また市町村においては市町村の責任者にも会い、私が帰ります日に罹災県の民生部長と
会議を開き、またその他調査いたしましたところでは、今回の災害救助の応急対策といたしましては、まずいろいろ個々的には問題もありましようけれ
ども、一応順調に支障なく行
つておる。たとえばこの災害救助法で一番問題になりましたたき出しでありますが、たき出しは一応六日間ということにな
つておりますが、これは福岡の現地の本部においては十日に延ばしました。熊本のことはあとで申し上げてもいいのでありますが、白川の氾濫によ
つて熊本地区の氾濫は
相当ひどいのであります。私はか
つての阪神地方の風水害を知
つております。あの際にも泥害は
相当甚大なものでありましたが、今回の熊本におきます泥害は、新聞にもありました
通り、阿蘇山のいわゆる火山灰を押し流して、たしかきのうの朝日新聞の夕刊でありましたかに写真が載
つておりましたが、例の熊本市内の大きな石の橋があります。その橋のもとから別の川ができて、その流域に百軒ほど家がある、それが押し流された残骸や、上流からの流木が橋げたにかか
つておる写真が載
つておりましたが
相当熊本の泥害もひどい。それから嘉瀬村のごときは、私が行つたときには、決壊場所の修築を全村あげてや
つておりましたが、十日間ではあるいは緊急避難が済まないかもしれない。たとえば熊本のごときは家がこわれていなくても泥害で家に帰れないということでありますから、たき出しの期間等も、今後はある
程度そういうふうな個々的の場面に応じて考慮せざるを得ぬのじやないかというようなことも
考えられております。
なおその他災害救助法の基準につきましては、大体臨機に現地においても対策本部と相談いたしまして、大体五割ないし十割を引上げたのであります。それらにつきましては現地もよく了承いたしておりまして、たとえばたき出しの部分的な延期等について希望がありますほかは、今回は現在のところ一応順調に行
つておると思うのであります。
あまり巨細なことを申し上げる時間がございませんが、まず国立病院及び国立療養所の被害について申し上げますると、九州地方は、国立病院が十二、国立療養所が三十六ございます。そのうち被害を受けましたのは、国立病院十箇所、国立療養所二十五箇所であります。そのうち特に佐賀の療養所は
相当ひどい被害を受けております。それから門司検疫所は、ああいう地域的な
関係で、地すべりで
相当の被害を受け、そのうち職員一名、家族二名が死亡いたしております。但し入院患者につきましては、今回は幸いにして死傷はありませんでしたので、この点は不幸中の幸いと思
つておるのであります。
なお
社会保険関係の施設につきましては、久留米の
社会保険出張所、並びに
社会保険久留米第一病院、これは浸水を
相当受けて
相当の被害がありました。今回は久留米は
相当被害が多いのでありますが、久留米市の上流にあたります筑後川が氾濫いたしまして、久留米市は、ちようど三角形の底辺にあたるところにありますから、
相当の浸水があ
つたのであります。たとえば、久留米医大に参りましだが、これは二階も、
相当な泥を排除はいたしておりましたが、
相当いたんでおります。ちようど私が着きました日に、
相当飛行機が遅くなりましたが、久留米医大の婦長という人がや
つて来まして、
自分は六百人ほど屋根の上に患者を上げて避難させたというふうなことを、もちろん着のみ着のままで来て私に報告いたしておつたようなこともありましたが、そういうふうなことで、大体入院患者等には被害はありませんで、今申し上げましたような
程度の施設の被害がありました。
それからただいま申しました災害は、
厚生省所管では、まずも
つて災害救助法による災害救助と、伝染病予防法に基く、あるいはその他に基く防疫対策、この二つが重要でありますが、まず災害救助につきましては、たとえば避難所の設置でありますとか、たき出し、あるいは被服、生活必需品、学用品、仮設住宅の設置、生業資金の貸与、医療、助産、こういうふうなものにつきましては、大体先ほど申したように、いずれも五割ないし十割を引上げ、そうしてその場合に、中央からはケア物資でありますとか、CAC物資でありますとか、あるいは政府の備蓄いたしておりましたものを持
つて行くとか、その他緊急の物資につきましては、現在におきましては問題はないと思います。博多において今米のやみ値が多少上
つておりますが、それ以外の衣料等の価格は上
つておりません。救援物資等の配給等につきましては、いろいろ数字もございますが、時間がございませんから省略いたします。
それから救護につきましては、今回は保安隊が、私が帰りますときで七千三百人ほどおりました。この保安隊は、あの当初において人命救助あるいは救援物資等の配給に
相当努力をいたしましたが、そのほかにも日本赤十字あるいはその他の市町村、ことに救護
関係につきましては、国立病院、医師会、保健所なんかが救護班をつくりまして救護に当りました。大体五十二班各県にわた
つてつく
つておりました。
それから防疫でありますが、これはあの災害が起りましてすぐに安田
社会局長を送りますとともに、防疫官を中央からも派遣いたしました。なおまた伝染病予防法に基いて、
厚生大臣命令でも
つて関係各県に救護班の派遣を命じました。あるいは器材等につきましては、水が不足いたしましたので、濾水器等は各府県から送りますとか、あるいは保安隊から借りますとか、あるいは駐留軍から借りますとか、これらに対しても適当な措置をとる。なおまた医薬品、消毒薬、——当時はカルキとか、そういうような消毒薬が非常に不足いたしましたが、現在におきましてはその手配には遺漏はありません。同時に
厚生大臣において伝染病予防法に基いて地域の指定をいたしました。
それから予算的の措置でありますが、御
承知の法定伝染病予防に関する予算はたしか七億千六百万円本年度予算に計上いたしておりますが、これはいつも年度末清算払いでありまするから、今回のような災害にあた
つては、応急にその都道府県あるいは市町村が対策を講じるについて、
財政上いろいろ問題もありますので、この該算払いをとりあえず七月一日にいたしまして、四千四百万円を電送いたし、今各
関係の自治団体に配付をいたしております。
それからただいま申しました防疫対策のうちで、現在一番大事である給水でありまするが、これに対しては濾水器を、たとえば保安隊あるいは各府県、あるいは駐留軍等から拝借いたしまして、今二十七台活動いたしております。私が佐賀県の嘉瀬村に参りました際に、保安隊の濾水器が非常に活動いたしまして、濁水におおわれて井戸水もない村民が非常に感謝をしている現場を見ております。なお井戸水に対しては、クロール・カルキ等、大体必要なものの入手ができましたので、これによ
つて井戸水の消毒をいたし、あるいは水道の水に対して消毒用の塩素等を多少増量いたしまして、防疫に当
つております。
それから後ほど申し上げたいと思
つたのですが、ついでに申し上げますると、今回一番心配いたしましたのは伝染病、ことに赤痢であります。実は赤痢のことを非常に心配いたしまして、私は、ちようど立ちまする前に災害の奏上をいたしました際にも、伝染病に対して特に注意をするようにというお
言葉もあ
つて、赤痢等を中心といたしまする伝染病予防に対して非常な関心を持
つて参りましたが、数字を申し上げますると、私が立ちまする日の三日前になりまするか、赤痢の発生状況は、罹災県を通じて五百六十六名であります、これを数字的に見ますると、昨年の同期と比較いたしまして、六月十五日以降七月三日までの累計をいたしますと、福岡県は昨年が三百十一名、今年は二百四十五名で、減少いたしております。佐賀県は昨年が百名、本年が百三十六名で、わずかに本年の方が増加しております。長崎県は昨年が二百六十四名、本年が百四名で、これは著減いたしております。熊本県は昨年が二百二十六名、本年が二百四十二名で、これはわずかにふえております。大分県は昨年が八十四名、本年が百二十五名で、これも少しふえております、山口県は大したことはありませんで、昨年が三十一名、本年が四十一名で、合計いたしますと、昨年の六月十五日以降七月三日までの罹災県の累計が千十六名に対して、本年は八百九十三名であります。これは不幸中の幸いであると
考えております。しかし現地においてかようなことを申しますると、いかにも政府が防疫対策に対して安心をしているようなことになりますので、かようなことは申しませんで、防疫対策に対しましては、ちようど私が帰りまする前日に九州地方の防疫官
会議を開きまして、防疫対策の強化をいたすことにし、大野本部長と相談いたしまして、今後対策本部としては、その下部機構として一番充実すべきは防疫対策であるから、むしろ防疫対策本部というようなものを置いて、予防あるいは治療、あるいは器材、薬品等の配置、整備、これらに対して遺憾のないようにいたしたいと思
つております。もちろん今後伝染病に対する危険等はございますけれ
ども、現在においてはこの赤痢が統計的に見ましてもふえておりませんのは、幸いにして集団地域、たとえば避難いたしたところとか、集団地域には赤痢があまり起
つていないということと、それから治療対策といたしまして、たとえば下痢をいたしますと、従来はまずも
つて検便をして、しかる後に厚生の指導を与えておりましたが、今回は下痢等の
懸念がありますれば、先に厚生物資を与えてまずも
つて伝染を断
つて、しかる後に検便をするというような措置をと
つております。大体さような際には一人当り一・五グラム、千円ほどかかるそうでありますが、そういうような措置をと
つて、多少予算はかかりますけれ
ども、これによ
つて予防上
相当の裨益をいたしておるのであります。
なおこの際ちよつ
とつけ加えておきたいのは、こちらに載つたかどうか知りませんが、当時九州方面の朝日新聞に
相当大きく載りましたのは、久留米医大が筑後川の氾濫によ
つて冠水をいたしまして、この久留米医大の細菌学教室にありました細菌が流出をいたしました、従
つて久留米は伝染病の流行の脅威の中に置かれているというような大きな記事が出たのであります。私がその翌日、向うは飛行場がありませんので、ヘリコプターに乗
つて参りまして、大学の責任者、県、市の責任者、なお防疫官立会いの上で検査をいたしましたところが、その細菌の管は約二百本ございまして、それは綿栓でも
つて封蝋をいたしておりましたが、点検の結果一本も破損をいたしておりませんことが確認されました。なお培養中でありました孵卵器中のものがありましたが、この中には水が入
つておりませんから、これまた流出をしていないということを確認いたしたのであります。しかし久留米地区は
相当被害がありまするので、そういうことを別個に飛行機上からDDT等を散布するというような措置もと
つておりますが、そういうようなことが誤り伝えられて、細菌に対する
相当のデマが飛びましたが、これは対策本部からさような
懸念はないということを発表いたしまして、その後はおちついているはずであります。
なおそのほかに
社会保険関係に対する措置といたしましては、
保険診療費、たとえば今回は
保険医が
相当罹災されております、その
保険医に対して、
保険報酬が入りませんから、政府といたしましては診療費の繰上げ該算払いをいたしまして、これに対して一億五千八百万円を送金いたしております。なおまた
保険料の徴収の延期の措置もと
つております。
その他いろいろありまするが、時間もありませんので、災害救助法に対する研究で問題にな
つております国庫負担の限度引上げ、あるいはまた熊本の泥害は従来の
法律あるいは予算というような見地から見ますると、この甚大な泥害の排除に対して予算措置がとれませんので、これに対して何らかの方法によ
つて予算措置をとるという問題、あるいは今回の災害にかんがみまして、将来防疫用資材とか、器具とか、あるいは薬品とか、あるいは災害救助法の対象になるべき衣料とか、そういうようなものの備蓄配置に対して、平素から
相当考える点があるであろうというような、いろいろな問題点がございまするが、大体さようなことで、一応現地における対策本部の仕事といたしまして、
厚生省所管の災害救助法、あるいはまた防疫対策に関しましては、大体基本的なことは
方針を確立して、その
方針のもとに今各都道府県知事あるいはまた市町村長が責任を持
つて当
つているような次第でありま
一応現地の報告を申し上げましたような次第であります。