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専門員(
磯部巖君) それでは命によりまして私から
珪肺病院の
視察につきまして簡単に御
報告申上げます。
去る二月五日に出発いたしまして、
派遣議員は
吉田委員長、
村尾委員、
重盛委員、
堀委員、四人のかた、それに
磯部専門員のほか数名のものが随行いたしまして、
鬼怒川にあります
珪肺のための
労働省の
労災病院を
視察したわけでございます。御
承知の
通りに、先般来
金属鉱山において、多数発生いたしておりまする
珪肺患者に対する
法律上並びに国家の
取扱が不十分であるから一日も早く完全なる
珪肺法を
制定してもらいたいという請願並びに
陳情が毎
国会のたびに相当数出ておりますし、相当問題化いたしております。なお衆議院におきましても、すでに
珪肺法制定に関する小
委員会ができておりまして、このほうにおかれても、相当
調査を進めておられることも御
承知の
通りでございます。従いましてそういう
趣旨におきまして、この際
参議院労働委員会の
委員の
皆さんが
視察されることに
なつたわけでございまするが、幸いに当日は
労災病院におきましても、
大西院長から詳細な
説明があり、又
入院患者の
代表からも偽らざる
要望の数々が申述べられ、又同行いたされました
労働省の
労働衛生課長からも、専門的な
立場からの
お話がございました。又
丁度機を同じくして
金属鉱山関係の
労働組合の
代表者、又
使用者団体の
代表者というような
皆さんがたもお集まりになりましたので、それぞれの
立場からの御発言がございまして、いわゆる
珪肺問題に関する問題は出尽したような気がするのでございます。それでそのいろいろな御
意見はすべて詳細にこれを写しまして持
つて帰
つておるのでございますが、これは追
つて次回の
委員会に正式の
報告書といたしまして
委員さんのほうから御
報告を頂くことにいたしたいと思いますが、その要点だけを今私から御参考までに御
報告したいと思います。
御
承知の
通りにこの
珪肺病というのは非常になおりにくい
病気でございまして、又発見がなかなか困難なんでございますが、そのための
患者の
希望といたしましては、現在の
療養期間が三年に限定されておるのでありまするが、これはどうしても
珪肺病の特性から行きましても、少くとも五年
程度までは延長してもらいたい。それからなお
入院中の
生活費を補償する
意味において
只今休業補償費、それから打切られた
あとの
打切補償費等をもら
つておるのでありまするが、これらが十分ではない。だからこれを増額すると同時に、
スライド制を適用してもらいたい。それから先ほど申上げましたように、この
珪肺病であるということを
巡回検診によ
つて確認せられましてから
療養に入りまするのにどうしても事務的に半年乃至一年という長い
期間がかかる、これをもつと早くできるようにしてもらいたい。それからなお
入院中におきましても現在食費が極めて少い。一日百五円で賄
つているので非常にそのために食事が十分でないからもつとこれを増額してもらいたい。それからなお
娯楽設備が非常に不十分であるので長くここに続けておりにくいというようなことを申してお
つたわけでございます。
政府におかれましてはこれらに対しまして本年度においては
予算の上において三割五分ばかりの増額に成功されておるという話でございます。従いまして
巡回検診を従来も盛んにや
つておられましたが、今後もこれを一層拡充する。今までは
金属鉱山に
重点を置いておられましたのを今後はむしろそれ以外の
工場等にも巡回されるようにしたい、こういうことでございました。それからこの
発病の
防止の
対策といたしましては
発塵の
防止、つまり成るべくこの
珪肺の
粉塵が少くなるようにいろいろ
鑿岩機を
湿式にしたり、袋のついた
鑿岩機を使用したり、そういうふうな
発塵の
防止、それから
防塵マスクを更に徹底して使わせる。更に
巡回検診によ
つて珪肺病の
早期の
患者を発見いたしましたらこれを
職場転換によ
つて発病をさせないようにするということについても更に積極的に行な
つて行きたいと、こういうふうに言
つておられるわけでございます。
それから
経営者のほうの
意見といたしましては、勿論この
珪肺対策としていろいろそういうふうに問題にな
つておりまするような
施設を講ずることは勿論賛成であるが、何しろ
企業にはいろいろな格差がありまするので一律にこれを行うことは困難である。それから又
珪肺患者でも極く軽い者は
現存健康保険で見ておりませんけれ
ども、これを
健康保険で見ることができるようにしたいというような
意見でございまして、この
珪肺法制定につきましてはこれは急激に理想的な
法律を作ることについては必ずしも同意するという
立場ではないように聞きました、
それから
労働者の側からの
意見としましては、先ほど
お話いたしました
湿式の
鑿岩機は
粉塵の殆んどすべてを抑えてしまいますので非常に有効であると思うけれ
ども、実際これを使います上においては非常に重いので、運搬が容易でない。それから
防塵マスクは現在九〇%の
粉塵を防ぎますので非常に有効ではありますが、何しろ呼吸が困難でありますので長時間これを使うことは困難である、
従つて九〇%濾過するものを一時間使うよりも五〇%濾過するものを五時間使
つたほうが有効じやないかという
意見も出てお
つたのであります。それで
中小企業等ではこの
珪肺対策はなかなか費用の面ですることは困難でありまするが、そういう点につきましては早く
立法をして年間十億円ぐらいの金があれば大体自分らの
要望通りのことがしてもらえると思うから、そういうふうなお
取扱に是非ともしてもらいたい。
それからなお
職業病研究所の設置を
労働省にたびたび
陳情しておりますが、いつも却下されておる。こういうような
研究機関は早急に必要であると思うから是非ともその
方面を促進して頂きたい。又その前に、
珪肺症というものは特殊な
病気でありますので普通の
医者ではなかなか
診断が困難であるから
医者の
講習会をもつと開いてもらいたいというような
希望がございまして
珪肺法の
早期制定について最も熱心な
要望があ
つたわけでございます。
最後に
珪肺病に関する日本での最大のオーソリテイーと言われております
院長の
大西博士から
珪肺法制定につきましては是非これらの点をお考え願いたいと言われたことは、先ず
週期範囲を
職種別、
業種別の
双方から考えてもらいたい、漏れなく
患者に法を適用できるようにしてもらいたい。それから第二に
珪肺の定義を明確に
規定してもらいたい。それから次に
予防は、
防塵、つまり
粉塵を防ぐという
方面に
重点を置くべきである。それからその次に
技能者養成の
目的を以て
未成年者を
鉱山の
坑内夫に使うことができるように前
国会で
労働基準法が
改正にな
つたのでございますが、その場合に少くとも
ツベルクリン反応が陰性であるものは使用しないようにしてもらいたいということを特に強調しておられました。
その次に例の
休業補償費でございますが、
自宅で
療養しておるものと
入院して
療養しておるものとは
生活の状態が違いますので、いわゆる
医療施設を利用しておるもの、即ち
入院者には
休業補償費を割増をするようにや
つてもらいたい、それでないと折角
入院しておりましても
自宅の
生活が心配で尻が落着かなくて十分に
療養ができないというような実際上の
経験から申されてお
つたわけであります。
それから
珪肺患者であり、且つ
結核患者である、いわゆる合併症のものが
病院において
療養を拒否される事実がしばしばあるようでございますから、そういうことのないように
結核予防法の適用を排除してもらいたい。それから
診断につきましても二診制にしてもらいたい。それから
珪肺患者につきましては、
結核予防法で
規定がありまするように
強制入院の途も開いておいてもらいたい。
それから
最後に
法律の問題ではございませんが、
病院を
一同で隅なく
視察したわけでございますが、いろいろ不備な点が多いのでございます。例えば
患者が全国から集ま
つて来ておるのでありますが、その慰問のために、又面会のために家族その他のものが参りましてもゆつくり
泊つて話をする所がない。幸いにあそこは
温泉も湧いておる所でございますから、少しばかりの経費で済むことだから
病院の一隅に
温泉保養所を作
つてもらいたい。これは非常に必要な
施設である。
次に
治療上の
設備が不十分でありますので、可
搬的レントゲンの備え付けであるとか、或いは
レントゲンの
深部治療機であるとか、そういうような
設備を早く備え付けてもらいたい。それから
研究施設が極めて不十分でありますので、この
珪肺病の本体を早く把握するために、この
研究施設をもつと
充実してもらいたい。その他暖房であるとか、水道であるとか、いろいろな点についての
要望があ
つたわけでありますが、それらについての
陳情があ
つて、
大西院長の話が終
つたわけでございます。大体大ざつぱに申上げまして、以上のような
内容を以てこの
派遣の仕事を終
つたわけでございまするが、
一同で
会議をいたされまして、この
珪肺病の悲惨であること、並びにこれは一日も放置して置くことができないということは十分認識せられまして、一日も早く完全な
珪肺法、
単行法の
制定が必要であるということ、並びにその
制定と共に
珪肺病院の
充実であるとか、
研究機関の
充実であるとか、それからいろいろ
予算面においても、できる限りの
充実をいたしまして、不幸なる
患者が安んじて
療養できるようにしなければならないこと、又
予防施設を更に一層徹底普及いたしまして、今後発生する
患者を絶滅するようにするというような、いろいろな
方面に対して今後
参議院の
委員会として
一つ急速に努力をして行きたいというような
意見に大体一致せられた次第でございます。
以上簡単ながら御
報告申上げます。