運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1953-03-11 第15回国会 参議院 予算委員会 第34号 公式Web版

  1. 会議録情報

    公聴会 ―――――――――――――――― 昭和二十八年三月十一日(水曜日)    午前十時四十一分開会   ―――――――――――――    委員長     岩沢 忠恭君    理事            左藤 義詮君            高橋進太郎君            内村 清次君            西田 隆男君            木村禧八郎君            岩間 正男君    委員            石坂 豊一君            石原幹市郎君            大矢半次郎君            川村 松助君            郡  祐一君            駒井 藤平君            杉原 荒太君            鈴木 恭一君            山本 米治君            石黒 忠篤君            片柳 眞吉君            田村 文吉君            溝口 三郎君            羽生 三七君            三輪 貞治君            棚橋 小虎君            堂森 芳夫君            深川タマヱ君            堀木 鎌三君            鈴木 強平君            千田  正君   政府委員    大蔵政務次官  愛知 揆一君    大蔵省主計局長 河野 一之君    大蔵省主計局総    務課長     佐藤 一郎君   事務局側    常任委員会専門    員       野津高次郎君    常任委員会専門    員       長谷川喜作君    常任委員会専門    員       正木 千冬君   公述人    社会保障制度審    議会委員    今井 一男君    巴商事株式会社    専務取締役   櫻井 英雄君    東京都教育委員    会委員長    八木澤善次君    全日本海員組合    組織部長    和田 春生君    全日本中小工業    協議会委員長 中島 英信君   ―――――――――――――   本日の会議に付した事件 ○昭和二十八年度一般会計予算内閣  提出衆議院送付) ○昭和二十八年度特別会計予算内閣  提出衆議院送付) ○昭和二十八年度政府関係機関予算  (内閣提出衆議院送付)   ―――――――――――――
  2. 岩沢忠恭

    委員長岩沢忠恭君) これより昨日に引続き公聴会を開きます。
  3. 今井一男

    公述人今井一男君) 私には委員会事務局のほうから主といたしまして恩給について意見を申上げろという御注文でございましたので、その点につきまして少しく御清聴を煩します。ただ私かねてからこの問題につきましては関心を持つてつたものの一人でございますが、併しながら資料等が断片的な新聞発表等以外に持ち合せがございませんので、実は御内命を受けましてから、事務局を通じまして恩給局のほうに資料を頂くようにお願いしたのでありますが、結局頂きましたものは法律案だけでございまして、その意味から或いは見当違いのことを申上げるかも知れないのでありますが、御了承を願いたいと思います。  この問題につきまして、一番私が関心を持ちました大きな点は、このぐらい国内相剋摩擦を起す虞れのある問題は少いんじやないかといつた点であります。即ち、やり方如何によりましては、職業軍人応召軍人、或いは軍人文官、或いは軍人を含めました公務員民間労働者、或いはこれに対する他の戦争犠牲者との権衝、或いはその税を負担しますところ一般国民との関係と、五重、六重にいろいろの相剋摩擦が起る可能性のある非常にむずかしい問題であるという点が、最初から私国民の一人として憂慮された点であります。幸か不幸か、最近この問題につきましての論争は比較的低調のように見受けるのでありますが、併しその原因は、おおむね現在国の内外に起つております他の問題に国民関心が向けられた結果であろうかと考えられますので、これが実現された暁におきましてやはりそういつた点につきまして非常な尾を引く慮れが多分あるので、単なる財政問題以上の問題を含んでおるだろうという点に鑑みまして、国会が独自のお立場から慎重な御検討を特にとつて頂く必要があろうと思うものであります。  私、本日は社会保障制度審議会委員という肩書でお招きを受けたようでありますが、社会保障制度審議会におきましては、本年七月軍人恩給の問題のみならず、文官恩給の問題も起つておる、且つ又民間労働者厚生年令改正問題も起つておる、こういつた長期の年金関係の問題が個々ばらばらにそれぞれの立場々々で議論されたならば、その間に非常な不権衡と無駄が起り、又国内に今申上げましたような余計な摩擦を起す虞れがある意味におきまして、これを総合調整する必要があろう。まあ政府が本来やるべき仕事でありましようが、社会保障制度審議会そういつた面につきまして、いわば総合調整するような立場にあります関係からこの問題を取上げまして、幾度か委員諸公が集まられまして議論を重ねたのでありますが、その結果御承知とは思いますが、昨年の暮に一応政府に対しまして意見書提出しております。大部分の人の意見軍人恩給復活に対しましては否定的な考え方が強かつたのでありまして、この意見書もおおむねその線に沿つたものが出されております。この審議会は御承知通り国会議員も十人各党から参加しておられまして、勿論これは党を代表されたお立場ではないかも知れませんが、まあそれらの方々を含めましてそういつた意見になつたわけであります。但し、申しておるところはやはり抽象的でありまして、恩給法特例審議会というものの立場が非常に狭いという点に重点を置きまして、特に既得権に基く主張はその根拠が薄弱である、又軍官恩給改革が必要であるならば、文官恩給改革も考えたらどうか、又他の社会保障制度権衡も考える必要がある、こういつたことが主になつております。併しながら政府のほうにおきましては、社会保障制度恩給とは全然別問題であるが故に、これを審議会に諮問する必要はないと、こういうお考えで全然御説明も伺う機会がなかつたのであります。この点は昨年遺家族援護法の問題に当りましても、審議会からたびたび政府に申入をしたにもかかわらず、而も我々の判断によりますれば、あの法案は明らかに社会保障観念を少くとも相当入れておる法案であるのにかかわらず、これ又遂に御説明を正式に伺う機会がなかつたのでありまして、その意味から申しますれば、軍人恩給の問題は一層その要素は少い意味におきまして、そういつたことになつたのかも知れないと思われます。が、併しながら、私は実はこの審議会の結論と、私個人としましては全面的に同調いたしておるものではございませんので、本日は私個人意見をむしろ中心にして申上げようと思います。  ここで一番基本的に問題になりますことは、よく言われます国家補償、国が補う補償であります。弁償するという意味国家補償観念をとるか、或いは社会保障観念をとるかという両方の立場だと思いますが、前のほうの補償、弁償するほうの、補うほうの補償という観念が昨年以来強く言われまして、遺家族援護法におきましても、この軍人恩給復活におきましても、その線が主張されておりますことは御承知通りであります。併しこの国家補償という観念は、甚だ私どもの見るところではまだ熟しておらない観念のようにまあ見受けるのであります。従いまして、いろいろの見解がそこからは出て参るのではなかろうかと考えるのでありますが、これを単なるいわゆる法律に基く既得権といつた立場に立ちますならば、如何にこれは使用主立場に国が立つておる場合におきましても、そこに問題が当然出て参ると思います。今回の恩給法改正に当りまして、軍官恩給ベース・アップいたしておりません。法律上の既得権といたしましては、恩給法最終の報酬、それに勤続年数を加味しましたものを給付するのが建前でありますが故に、当然に法律ベース・アップを含むとは考えられないと、こういうふうに政府説明しておられるようでありますが、法律論としてはそうなるのではなかろうかと考えます。その意味におきましては、純粋法律的な既得権論は私は振廻わしにくいのではないか。併しながらいわゆる道義的責任における国家補償観念ならば、これは勿論成立の余地はあろうと思うのでありますが、ただその場合に他の問題との権衡、即ち国が使用主としての立場以外に例えば金を借りたとか、或いは戦時補償の打切をした面、或いは論功行賞で与えました国債を無効にした面というもの等との権衡論も出て来ると思うのであります。更に又申すまでもなく今回の戦争が極めて大規模な範囲に亘りまして犠牲者を出した、いわゆる国が公的な立場における、国家権力作用純粋統治権の面における作用から影響を及ぼした面に対する補償的な観念、この問題と事業主という立場における補償という面との差異ということをどういうふうに把握するかということは非常に議論余地があるところだろうと思うのであります。今回の観念公務員という国に雇われた軍人、その軍人であるが故に国が特殊な事業主立場において道義的強度責任を負うという考え方から出発しておるように思われるのであります。併しながらいわゆる応召いたしましたところの徴兵によりまして強制的にとられました国民立場というものは、いわゆる職業軍人とやはり考え方を異にすべき面があるのではなかろうか。即ちこの面は国の統治権作用に基く問題に属しまするが故にそこに兵と職業軍人とのその理論構成におきまして、私は議論が出て来る余地があるのではないか。又そういつたふうに国が統治権作用によりまして行いました行為、その行為から及ぼした損害、その損害のうち一番大きな人的な面を補償してやる、こういつた考え方をとりますならば、これはひとりそういう軍人なり或いは強制徴集いたしました兵隊以外に、例えば学徒動員いたしましたものでありますとか、或いは隣組その他におきまして民間で防空に従事さしたいろいろな人たちというようなものまでも少くとも総合的に考えないと理論的に一貫しない面が出て来るのではないか、こういつた疑問が当然出て参るように思われるのであります。又現在の憲法社会保障を宣言いたしまして、先ず一番最低のものを国民がお互いに保障し合う、それによつて国内に極力平和な住みよい国を作ろうという考え方から出発いたしますというと、財政に余裕がありますならば、先ずその面から行くべきか、或いは乃至戦争犠牲者から行くべきかという点もこれ又基本的に大きな問題になつて来ると思うのでありますが、今回の案はおおむね公務員が、文官が現在恩給をもらつておりまするが故に、その恩給に比準ずるといいますか、その恩給にそのまま右へ倣えをする、こういつた立場で以て一切が貫かれておるようでありますが、若し私の申上げておるように純粋法律的な既得権でない道義的な要素の入つた責任から来ておるといたしますれば、やはりこれに洩れたところ戦争犠牲者に対する配慮がなければ国としての責任通りにくいのではないか。勿論国といたしまして、この際一番大きな顕著な犠牲から手をつけるということは当然でありましよう。その意味におきましてこういつた軍人、殊に遺家族の方面から手をつけられることは国民感情から申しましても当然のこととは思いますが、併しその他の面に対して一体どれだけの少くとも肚積りを持つておるか、こういつたことが私は議論されて然るべきでなかろうかと思われますが、もともと恩給というものは私に言わせますならばかなり時代遅れの観念だと思います。御承知通り恩給軍人に出発いたしましてそれが文官に及んだものでありますが、軍人は申すまでもなく終身官であります。建前といたしまして、大将はやめてからでも、死ぬまで大将であります。そういう建前ででき上つておる制度であります。その建前に着目いたしましてできたものがこれが恩給法である、こう私は観念できると思うのであります。即ち大将でやめた人に対しては終身大将にふさわしい少くとも大将面子を汚さない生活を保障すべきである、こういう観念から出発いたしたものが恩給制度であると思います。それが文官にも適用せられておる、今度文官に適用されたものを基礎にしてその文官に右へならえをして旧軍人をそれに揃えようというのが今回の案でありますが、併し戦前におきましては、我が国の天皇制があのような形でございましたからして、従つて軍人は、文官もその点はやや似ておりますが、文官以上に軍人天皇の股肱といたしまして、直接天皇から恩給を頂く、こういつたような観念ずけになつておつたと見てよかろうと思う。ところが戦後におきましては、天皇制が全然性質を異にいたしまして、従いまして主権は国民にある。従つて国民から恩給をもらう、こういつた観念基本的に切換えられて参つたわけでありまして、若し前に申しましたような、大将はやめてからでも大将面子を汚してはいけない、そういう終身官的な考え方というものを以てすれば、これはその意味におきましては、町検討さるべき余地が十分に出て来る問題ではなかろうかと思うのであります。国民感偏といたしましては、勿論戦争犠牲者に対しまして、少くとも特殊な戦争責任者は別にいたしまして、最も大きな犠牲払つた軍人遺家族等につきましては、これは相当のこのために負担をすることにやぶさかではなかろうと思うのでありますけれども、その意味におきまして、私は軍人にのみ戦争責任を負わせようという考え方には絶対に賛成しがたいと考えるのでありますけれども、それにいたしましても、天皇制が変りまして、天皇から頂く恩給でなくて、国民からもらう恩給になりました以上は、そこに十分国民感情というものが取入れられなければなるまいかと思うのであります。その点現在の恩給法が従来の恩給法をそのまま原則として踏襲しておりますが故に、従つて私の議論は突きつめますと、文官恩給現行法に手をつけなければならないことに相成りますが、現在文官がこういうような制度であるが故にということで、すぐさまそれに右へ倣えをするということは、将来そういつた意味における大きな問題をもたらすのではなかろうかと思うのであります。国民感情は一体どうであるかということを私の勝手な判断を申上げますならば、率直に申しまして、職業軍人はいわゆるつぶしがきかないという点は、これは文官以上のものがあるわけであります。その意味におきまして、職業軍人老齢者というものが非常に気の毒な、生活能力が非常に少いという点は確かに言えると思うのでありますけれども、それにいたしましても、遺家族援護法によりまして、みんなが平等な、同じような年金なり一時金なりをもらつてつた、そうして少くとも、戦後そういつた形における何年かの経験を経たのちに、今度のこの復活によりまして、あの人の亡くなつた旦那様は師団長であつたということが又ここに出て来るということ自身が、これは税金を払う国民としては、又遺家族同士の間におきましても、果してどういう感じを持つであろうか、勿論これによりましてそう大きな財源は出る余地はそれほどないと思うのでありますけれども、これは私はそう見逃がせない点だと思うのであります。例えば大将なら大将は現職中は確かに大任であり、大臣大臣であるべきでありましようが、併しながらそれかやめてからでも終身的にそういつたことが結びつき、いわんや本人が死んでからでも遺族にそういつた観念が結びつくということは、これは少くとも戦後における身分的な観念を打破しようという新憲法の精神から申しましても、国民感情から申しましても、この点はよほど考慮する必要があるのではなかろうか、特に亡くなつた、国のために戦死された軍人さんにおきましては、これは職業軍人よりも応召軍人のほうにより厚くしろというのが国民の気持ではなかろうかという、こういつたふうな私は想像を持つ者であります。ところが先ほど申上げました今回の恩給法というものは、すべて原則として現在の文官恩給を右へ倣へをするという建前原則としてでき上つております。勿論いろいろの加算を削つたり、その他いろいろの技術的な工作は施されておるようでありますが、その点につきましての技術的な苦心法案を読んで参りますというと、相当努力された余地は私も認めるのにやぶさかではないのでありますが、例えば戦時加算のほかに不健康地加算僻陬地加算も削られました。若年停止も五年延ばされました。外国勤続加算もやめられた、又軽い傷病年金から一時金になりました。ここで一時金になつた場合に傷病賜金という賜うという文字を使う言葉に法案が変えられておりますが、賜うという文字は今申上げたような意味における、新しい形における恩給としてはこれは如何なものかと私は思うのであります。事は名称の問題にすぎないのでありますけれども、やはり恩給というものの観念が、昔の形でそのまま存続されて行くということは、とにかく新らしい憲法建前から申すと非常に奇異な感がするのであります。それから又戦傷公務普通公務の区別もなくなつた、そのほかいろいろの点につきまして苦心がされていることは、これは皆様御承知通りでありますが、併しそれにいたしましても、まだこの原案を基礎として物を考えましても、まだ考慮の余地が私は若干あろうかと思うのであります。例えば増加恩給の問題であります。即ち戦争によりまして怪我をした、身体の不自由と不具癈疾に近い程度まで不自由を受けられたところのいわゆる傷痍軍人のかたたち、そのかたたちにつきまして、非常に圧縮はされておりまするけれども、なお且つ階級制の差が認められておるのであります。法案の十ページにございますが、例えば第一項症で申しまして、一番高いのが十二万九千円で、一番低いのが十一万六千円、わずかに二割程度でありますけれども、なお且つこういつただけの差を付ける必要があるという考え方、申すまでもなく増加恩給をもらえる人は、当然普通恩給がもらえるのであります。普通恩給には御承知通り仮定俸給によりまして、大将から二等兵の格差が完全についております。それをもらつて、その上にプラス・アルフアーでもらう、いわゆる不具癈疾に対するところ国家の給付でありますが、これにまで差をつけるということは、これは理論的に申しましても、金額の問題でなくて考え方の問題として、私は問題点があるのではなかろうかと思います。話がちよつと元へ戻りますが、階級差につきましては、これは現在の公務員階級差と同じように全然比準されておるのでありますが、その議論は一応前に述べましたところで、説明を終つたことにさして頂きますが、いわゆる遺家族に対する公務扶助料、この面におきまして、今申しましたところ階級差を倍率におきまして、例えば戦死者遺族に対しまして下のほうには二十七割、上のほうには十七割という、こういつたような差をつけまして、なるべく上下の開きを少くするように、恩給法全体の仕組をこの機会に立直すという考え方がとられております。考え方としてはそうでなければなるまいと思うのでありますけれども、併しながらそれでもまだ問題点があると港えられます。一つには恩給算出基本観念が先ほど来申上げるように、最終のやめたときの、或いは死んだときの俸給勤続年数との組合せでございます。同じように大佐なら大佐戦死をされましても、二十年勤めた人と二十五年勤めた人とでは、これは金額が違つて参るのであります。併しそういう勤続年数による差を遺族生活をする場合にまで持込む必要があろうか、これが単に普通恩給をもらつて大佐なら大佐でやめられまして、やめられた人が亡くなつた。それで遺族が普通の扶助料を頂く。そのときには普通恩給の半分になることは御承知通りでありますが、その半分になるのがこの場合におきましては、戦時の場合におきましては、上のほうはそれより十七割増、下のほうは二十七割増しになるわけでありますが、そういつた場合に普通扶助料、即ち今申上げましたところの根つこに当りますところの、本来生きておつた主人が亡くなつた場合に与えられる部分扶助料、その部分には前申上げましたように階級差も、或いは勤続年数差も付けてもよろしいかも知れませんが、その上に越えるところこぶまでにそういつた差をくつつけようということは、これは私前に申上げましたような立場からして、議論余地は十分にあるのではないかと思うものであります。  又更に問題となりまするのは、実在職即ち加算をつけまして実在職七年という、こういつたことで一時恩給一切その他いろいろの恩給基本を定められた点であります。これは勿論財政との絡み合せから、止むを得ず不本意ながらとられた方法かと考えるのでありますが、併しながら実在職七年といたしますというと、少くとも応召軍人で命を全うして帰つて来られた諸君は原則としてひつかからないことは、これは事実であります。この人たち生活能力の点におきましては、原則として職業軍人より上でありましても、その人たちがそのために相当の不利を蒙つていることは事実でありまして、やはりこの人たち老齢になつた場合においては、現在すぐは必要でなくても、老齢になつた場合にはやはり権衡上何らかの措置を請じなければ、そこに工合の悪い点が起りはしないか。まあ今までの恩給法では、将校は十三年、兵は十二年という建前で、恩給が付く年限がきまつておりまして、それがそのまま今回も踏襲されておるのでありますが、戦時加算というものをやめ、軍人の一切の特殊な立場を削りまして、軍人文官とを揃えようという考え方に立つた今回の改正であります。ならば、或いは将校のこの十三年という勤続年数のほうはむしろこれを若干延長いたしますと同時に、兵の十二年は戦時加算がつきませんというと、殆んど恩給というところにぶつかりませんから、まあ遺族は無論別でありますが、その意味ではこの年数のほうをむしろ下げる、こういつたような配慮も私はあつて然るべきではなかろうかと考えます。  更に又、こういつた問題を処理する場合に、厳に現在の文官恩給というものとの権衡のみならず、一般民商の労働者に対するところのいわゆる厚生年金、或いは更に労働基準法に示されましたところ災害補償事業主が業務上の災害者に対しまして与えるものは、本人は最高が八カ月であります。即ち、年俸の三分の二であります。特に遺族のほうは本俸のおよそ六分の一ということになるのでありまして、この点との権衡等は、今回の恩給法改正等を比べますというと、非常に問題点があるように考えるのであります。  なお、この機会に、未帰還者或いは未復員者、或いは援護法関係の非戦員等につきまして、いろいろの配慮がめぐらされまして、恩給法改正バランスがとれますように、大体あれは一等兵ですか、ぐらいを基礎としたような工夫が試みられているようでございます。詳しい検討機会はございませんでしたが、おおむねその点はバランスはよくとられているような印象を受けたのでございます。併しながら、やはりそこに問題になりますことは、最近帰つて来られます中共引揚者、この未帰還者に対する給与というものは、これは明らかに政府雇つた人という、そういう観念で与えておるものではないのであります。これは明らかに別な角度から、いわゆる社会保障という角度から取上げる以外にこの理論的な構成はでき得ないのじやないかと考えるものでありまして、そういつた意味におきましては、これはこういつたものを一方にすでに手を着けながら、一方旧軍人恩給のほうは飽くまで事業主としての政府立場ということからのみ出発する点におきましては、理論的に矛盾がありはしないかということを感じます。更にこれに取残されましたところの、その他の例えば戦災によつて死んだかたの未亡人、遺児、その他に対しましての配慮だけはどうしても何らかの形でなされないというと、やはりそこに先ほど冒頭に申上げましたところ問題点が残るのではないかと思います。  それから最後の一点は、四号俸だけ軍人の仮定俸給を下げまして、約一割だけ国庫負担を減らした点であります。これは結局財源に合わした以外の説明方法はないようでありますが、まあこの説明政府はどういうふうにおやりになつたものかよくわかりませんが、或いは文官は百分の二の国庫納金をしておる、軍人のほうは原則として百分の一乃至或いはしておらんと、こういつた保険経済的な考え方から出たものとすれば、或いはそれも見方かも知れませんが、併しこういつたように財政でこういうふうに合わせるという観念を入れますというと、いよいよ以てこの復活基本的な観念とは大分そぐわなくなるのではないかと考えます。私はこのむずかしい問題が決して一本の観念で割切れるものではないと考えるものでありますが、それにいたしましても、先ほど申上げました社会保障制度審議会が取上げましたように、とにかくこういう問題を総合調整的にいろいろな角度から見なかつたという点につきましては、甚だ手続的にも、又国民に納得してもらうためにも、遺憾であつたということを附加えておきたいと思うのです。甚だ要を得ませんでしたが、私が与えられました時間を過ぎたようでありますから、ここで終らして頂きます。なお、国民保険で一言することもございますけれども、この問題は時間の関係上割愛いたします。なお一言この機会に生意気なことでありますが、財政問題につきましてちよつと一言だけ触れさして頂ければ、私ども一般国民立場から財政を見ておりますと、どうも歳出と歳入というものが全然ばらばらに審議されておるという点に非常な不満を持つのであります。即ち歳出面につきましては何が一番大事かといつたような角度からいろいろな経費が取上げられて、それに五百億、千億とこういうふうに割当てられておる、一方歳入につきましては、どういつた税制が負担の均衡が図れるかという見地から、これ又相当の議論が行われておる、併しながら歳入と歳出というものが結びつかない、結びついたように国民判断して呉れない、それが国民が一般的に国に何でもかんでも負んぶしたいという気持と、一方税金は何でもかんでもまけろという両方を生み出す原因ではなかろうかと、こういつた点であります。即ち経費につきまして、この経費は一体どういつたもののために必要となつた経費か、その経費の必要性、社会的の犠牲のために起つた経費であるか、或いはその経費によつて社会全体が利益を受ける経費であるか、或いは一部の人が、特定の人が利益を受けるに過ぎないものであるか、乃至は又それが本人の利益と同時に又社会的な利益になる、そういつたようないろいろの要素があろうと思う。私はそういつた要素によりまして、歳入面も違うべきではなかろうか、即ち当事者に相当の部分を負担さしていいものもあれば、又そうであつてはならんものもあろうと思います。国の関係においては比較的少いのでございますが、地方関係におきましては特に私はそれが多いと思います。極めて卑近な例を申上げますと、例えば戸籍謄本なら戸籍謄本、印鑑証明なら印鑑証明というもののためにどれだけの経費を使つているか、これなどは殆んど当人の利益に期するものでありますが、それだけのサービスを国がしなければならん。勿論余裕があつてすることに私は異存はございませんが、併しこれほどまでに国民が今負担に堪えかねて減税を叫んでおる際には、そういつた経費と、経費のいろいろなランキングと申しますか、種別と申しますか、そういつたことと、それからそれを如何にして負担するか、どういつた人にどう負担させるか、どの程度本人の負担にし、どの程度一般納税者の負担にするかといつたようなことの結付きが殆んど議論されておられない。これが又結局におきまして先ほど申上げました、国民が一方ではとにかく無限に国に金を出せ、一方では又税金は極力まけろ、こういつた矛盾した要請の起る大きな原因ではなかろうか。いわば財政というものが一種のマンネリズムになりまして、従来のものを比較的に、そのまま前年対幾らという比率だけで動かされているような、そういつた点を私個人として常々思つておりますので、折角の機会でありますから、甚だ出過ぎておりますが、一言附加えたいと思いまして……。
  4. 岩沢忠恭

    委員長岩沢忠恭君) 御質疑はございませんか。
  5. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 どうも今井さんの話を初めから聞きませんでしたが、私が出席しておつて聞きますところによりますと、今回の軍人恩給に関して社会保障の見地からいろいろ御批判があつたように思う。何か社会保障制度審議会のほうで大体社会保障制度の見地に立つと、こう修正すべきだというふうな御研究ができ上つておるのでしようか、その点はどうでしようか
  6. 今井一男

    公述人今井一男君) 不幸にしてそこまでの議論はまとまらなかつたのでありますが、一番有力な意見は、今の遺家族援護法のラインを殖やして行け、こういつた点と、並びに老齢、要するに老齢の、年によつた定額的なものも考えられる、こういつた意見が、決をとつたわけではございませんが、大体委員諸君の間には有力なものでございました。
  7. 溝口三郎

    ○溝口三郎君 今井さんの意見をお尋ねしたいと思います。今回の恩給法改正につきましては、今までの恩給のほかに軍人恩給を入れることが、根本になつております。先ほどのお話によりましても、軍人恩給は現在の公務員恩給制度に大体右にならえというようなことで、階級差の問題とか勤続年限の問題とか、現在の公務員恩給の、特に恩給の支給額、これは原則的に十七年たつた者は百五十分の五十支給するのだ。この率は大正十二年頃に恩給法ができたときの率そのままになつておるのでございます。国家公務員法の恩給の根本原則におきましては、退職当時の条件に基いて退職後においても適当な生活を保障するに必要な金額を支給することが根本原則なつておるのであります。恩給法のできました当時を考えて見ますと、本俸の三分の一というのを支給すれば、その地位にあつた者が将来生活して行くに、大体二人の世帯の生活ぐらいならば大よそ生活ができる程度だということから私は百五十分の五十の率ができたように想像するのでございます。先ほどお話がありましたように、本人が死亡したあとは扶助料が出る、これは本俸の六分の一くらいになつておる。これも一人でやれば大体その頃は生活ができたのじやないか。それをそのまま現在の恩給法は踏襲されておると思いますが、そこで適当な生活を保障するという根本原則があるのであります。現在の恩給の支給は、基本給の中の本俸についてやはり百五十分の五十ということになつておる。基本給の中の本俸は大体八割になつておるのでありますが、その基本給も御承知通り、これは民間の給与に比べて二、三割私は低いと思う。その八割くらい、これの三分の一というのでは適当な生活が、現在の給与でも二人の生活を維持して行くことができない。大正十二年頃のその率のままでやつて行くならば生活できないのぢやないか。もう一つ恩給の根本原則は、これは保険経理に慕いてやつて行かなければいけない。そのことは只今人事院で研究して、近く国会政府提出するはずになつておりますが、根本の原則は、一方には適当な生活を保障しなければならん、一方には保険経理でやつて行け、そうしてそれはマイヤース勧告といいますか、どうも日本の現在の恩給制度は非常に非民主的であつて、ひどく金がかかるから、保険経理に基いて統一した制度をこしらえろ、私ども伺つておると、公務員の国庫納金といいますか、現在の百分の二をもつと上げないと国の財政が立たんというようなことでやつて行きますと、恩給の支給の根本原則というものは殆んど顧みられないということになつて来るのじやないか。私は現在の制度は、国の財政上から止むを得ない切り下げておるのだというのならば、これは或る程度公務員も我慢しなければならない。併しそれは現在働いておる者のその職務は、これは現在だけのことではなくて、将来の問題に繋つておる仕事に携つておる。この点におきまして、私は昨年の国鉄の裁定のときの今井さんの裁定の御趣旨に対して非常に私は敬服しておるのでございます。あのときもやはり国鉄の職員の給与は一割くらい足りないのであるが、現状では止むを得ないのだからこれで我慢すべきだ、これは国鉄のは一年だけの経理でなくて、鉄道を利用する人は将来の人があるのだから、現在の国鉄の経理のしわを職員だけにしわ寄せさせてはいけないのだ、だから何か考えなければならんのじやないか、そこで最小限の一割か二割の運賃の値上げを政府は考えたらどうだ、建設公債もやつて、そうして修繕費や物件費のしわ寄せを職員にばかり集めるべきではないのだという勧告をなされておつたのでありまして、それの結果かどうか知りませんが、運賃も値上げになつた、建設公債も出した、そうして幾らかゆとりができるようになつた。私はああいう基本的なお考えがあれば、恩給法改正におきましても、従来の公務員恩給制度、大正十二年頃にやつたそういう支給率をもとにして、それに軍人恩給も右へならえというのならば、而も保険経理の上からは、軍人恩給のほうは一割くらい減ずるというのだが、それは非常に私は矛盾しておるではないか、いずれ恩給法が根本的に制度が変るということになれば、国家公務員法のあの原則に基く恩給制度ができることになる。そこへ旧軍人恩給を入れる、そうして一方は全然の公務員恩給と並べて行くということになれば、あの原則から変えて行かないと非常な矛盾が起きるのじやないかというように考えるのでありますが、従来の、今までの制度のあの支給の率等があれでいいのか悪いのかということが何か論議があつたかどうか、そうして恩給の根本原則が今の二つの矛盾したようなものの原則の上で普通の公務員、そうして旧軍人恩給を入れて行くということは、今の恩給法、これはどうか知りませんが、もつと根本的な制度を立てる場合の考え方はどういうふうにお考えになつておるか、承わりたいと思います。
  8. 今井一男

    公述人今井一男君) 私の個人的な見解を申上げますれば、今お説の通り確かに三分の一の普通恩給では生活は賄えません、お話の通りだと思います。その意味もございまして、又現職の間には大臣であり或いは下のそれぞれの身分は違つてもよろしいでありましようが、やめてからまでそのままその俸給差を引延ばす必要があるかということが、私どもの基本的な考え方でございます。ですからこれは保険経済的にいいますならば、特に勿論余裕があればよろしうございますが、余裕のない場合にはああいう三分の一なんという式の仮定をいたしませんで、これは思いつきでございますが、上のほうは三分の一をもう少し下げる、仮定俸給によつて、三分の一という名前で、如何にも三分の一の原則を変えないで、仮定俸給の操作によつてそういうことはできますけれども、下のほうはそれを四割なり五割なり上げる、更に遺族扶助料におきましても同じような観念を取入れる、あの人は大臣の奥さんである、あの人は大臣の息子である、こういつたようなことが後々まで残るような形の恩給というものは、とにかく終戦後の時代においてはこれは私は時代遅れではないか。当人が現職の間はこれは明らかに大臣といろいろの人との格差があつてよろしいと思いますが、併しその後におきましてもなお且つそういう俸給差を続ける必要があるかということが、私の基本的な疑問点の尤なるものであります。なお、今後の文官恩給制度といたしましては、そういう点を取入れると同時に、一方におきましてこれが相当利益を受けるほうの側のほうも醵出をする、今の百分の二までは……、保険計算がはつきりできておりませんから一概に言えませんが、噂によりますと、現在は国庫納金が約四十七、八億、恩給額が百四億で、二分の一ちよつと切れる程度でありますけれども、これが将来延びて行きますというと、国の負担と文官の国庫納金との比率は一対七以上になるという推定のようにあります。そういう意味からいたしましては、私はもう少し文官側の醵出も殖やさなければならんという問題も起つて来ると思います。併しながら一番根つこにおきましては、これは民間労働者と同じような立場におきましての社会保障一本的な観念を入れて、その上に特殊なる業主としての立場である国の見地から、特殊に公務員に働かせるためのそういう瘤をくつつける、こういつたような考え方で組立てて行くべきではないか。それに今申上げたところ階級差の問題、遺族擁護の問題等噛み合せて行けば、大体まあその新らしい形において恩給が組立てられるのではないか。要するに国が人事管理の面から今のように百分の二の程度の国庫納付金を取つてそうして今のような恩給をやるのならば、これは私申すまでもないと思いますけれども、若し国庫納金を余計取るようにいたしますと、今の文官制度の或る部分の人は五十幾つかでやめさせられる、実際問題として……。ところが或る職種の人は六十過ぎまで完全に身分が保障されている。だからそういう者の最終報酬プラス勤続加算という建前をとるところ恩給制度をとつてつたならば、結局一部の人たちは、特に女子職員等はそういう特殊な、特権でもないかも知れない、特殊な職種の人に全部奉納するような形になる。こういつたことも私は面白くないと思う。従いましてそういう三つぐらいの要素を噛み合せて行けば、大よその構図は描けるのではないか、こういつたことを個人的には考えております。
  9. 岩沢忠恭

    委員長岩沢忠恭君) 別に御質疑はありませんか……。それではどうも有難うございました。  お知らせ申上げます。この次の公述人の予定でありました全日本開拓者連盟委員長村山藤四郎君が、急病のために出席不可能だという知らせがございましたから、午前中の公聴会はこれを以て暫時休憩いたします。午後は一時から再開いたします。    午前十一時三十六分休憩    ―――――・―――――    午後一時三十八分開会
  10. 左藤義詮

    ○理事(左藤義詮君) 午前に引続き公聴会を開きます。  公述人のかたに申上げますが、御発言の時間は三十分間でございますから、さよう御了承の上公述を願います。巴商事株式会社専務取締役櫻井英雄君。
  11. 櫻井英雄

    公述人(櫻井英雄君) 私は只今御紹介頂きました櫻井でございます。  この国家財政が為替収支に依存する度合いは、日本の場合においては非常に極端に依存しております。従つて二十八年度予算を御検討頂くに当つては、この根抵となる貿易政策が最も基調として重要になつて来る。そういう観点から、私は実際に貿易に従事しております立場の者として、主として貿易問題について意見を申上げたいと思います。  この二十八年度予算の説明を拝見いたしますると、二十七頁、特別会計の項目において、外国為替資金特別会計、ここにおいて受取並びに支払勘定が載せられておりまするが、これを一覧いたしますると、いずれにしても、輸出輸入は昨年並びに一昨年度より更に減退の傾向を現わしております。特に著しいのは、輸入に対して輸出がアンバランスの状態にある。これを埋めるのに特需を以て充てておりますが、特需そのものは、これは飽くまでも不安定な収入であり、又この特需の日本産業機構に与える影響は、日本の軍需産業化をますます激しくするだけであつて、特需に依存の一途を迫る、或いは平時、平和が到来した場合には、日本の産業を維持するためにどうしても国民が好戦的になつて来る。そういう危険性があることと、又特需によつて辛うじて収支をバランスするという考え方は、飽くまでもドル経済依存を深めるものとして、これは根本から御検討をお願い申上げなければならないのではないかと考えます。  現在輸出の面を考えますと、これは極めて危険なシンボルを現わしております。一月、二月の輸出の認証額を見ますると、一月においては約八千百八十三万ドル、それから二月においては若干殖えまして、八千四百九十五万ドルを現わしておりまするが、これはたまたまリベリア向きの油槽船約四百万ドルをこれに含んでおりますために、数字としては約八千万ドルと考えなければなりません。この傾向で参りますると、本年度の予定の十二億ドルの正常輸出は到底維持できる可能性はございません。恐らく十億ドルを切るのではないか、二十七年度においてすら輸出は二十六年度に比較して六・二%減る、又輸入は一%減じております。  この貿易立国と称せられる日本の貿易現状がこのような衰頽の道を示しつつあるということは、例えばこの二十八年度予算の租税の見積りにいたしましても、一頁に源泉所得税については、給与所得は来年度における民間産業の雇用量の増加、賃金水準の上昇による給与所得の増額が、本年度に対し一一%程度増加するものとして、計算した。又申告所得税は個人の営業、農業等における生産量、販売量等が若干増加し、個人の営業所得、農業所得等が総額において八%程度増加するものとして計算しておるというような仮定で、国家の租税収入を挙げられておりまするが、貿易の衰頽に伴う民生への影響は、日本経済のこの底の浅さそれから手持外貨の極めて僅少なることによりまして、恐らくこれらの仮定は維持できないのではないか、そういうように考えております。それでは輸出が低調なる場合には、輸入を減らせばいいじやないかという問題が起きて参りまするが、日本の輸入の特徴といたしましては、主として食糧並びに食糧以外の原材料、工業原料、そういうものが輸入の大宗を占めておりまして、国民生活を維持し、又日本経済を維持するために必要欠くべからざる最小限度を現在輸入しておりますので、これらの輸入を減ずるということは、まず困難であります。それで例えばこの輸入の面におきまして二十七年度、昨年度における輸入の構成比を見ますと、食糧が全輸入量の約二二%、それから食糧以外の原材料が四九・二%、鉱物性燃料が八・二%、このうちドル・ブロックに依存しております割合は食糧が約七割、それから非食糧の原材料が四三%、鉱物性燃料が六六%、全体としては五四%、半分以上を占めております。これらのドル・ブロック依存が極めて極端になつて参り、又特にドル勘定においてアンバランスが出て参つたということは、これは後で詳しく申述べたいと存じまするが、主として中国の市場を戦後において喪失したために出て来たと言えるのであります。  列国の現在の貿易の状態を見ますると、イギリスは、輸出は戦前の最高記録を約七割上廻つておりますし、又西独並びにイタリア等、日本と同じような過程を辿つた国家にいたしましても、二乃至三割戦前を上廻つております。ところが日本は現在戦前の約三分の一、特需を入れましても約四割弱の程度にしか回復しておりません。一方国内鉱工業の生産指数は一四〇%になつて参りまして、この生産増加に比較いたしまして、現在のこの輸出の不振ということは極めて重大な赤信号を示しているのであります。戦前日本の輸出は大体国民所得の約二割に相当しておりました。この割合で行けば、現在少くとも三十億ドル程度の輸出を見込まなければ戦前の財政は維持困難であると見てよいのではないかと考えております。  これらの極めて憂慮すべき事態に対しまして、現在考えられておりまする貿易振興政策としましては、対外面におきましては各国との通商決済協定の交渉をやるなり、又スヰツチ取引の提案がなされたり、ポンド建オープン・アカウント制度への提唱がなされたり、輸出入銀行法の改正によつて東南アジア開発、プラント輸出等の推進がなされたり、又本年度の通産省関係の予算でも見られますように、ニューヨークに貿易センターを設置いたしまして、又国内面におきましては為替売買相場を修正し、貿易商社の負担を軽減するような方途がとられ、又貿易業者への強化策がとられ、税制の改正とか短期債を長期債に切換えるとか、優先外貨制度の再開とか、輸出入組合の再組織とか通産省内に民間人よりする審議会を設置いたしましたり、いろいろな方策がとられておるようでありまするが、これは私個人の見解からいたしますると、現在日本の貿易政策に対してかかる単なる技術的な小手先の彌縫策では、到底日本の輸出不振、貿易バランスの好調は望み得ないのでありますので、現在この日本の当面しております貿易不振の材料といたしましては原料高に伴う国内の物価高、製品の質が極めて低下しておる。これは主として技術が遅れておるためでありまするが、それから又金利が高いとか、かかる国際の競争力は極めて弱い現状になつております。これらの問題を一貫して考えますると、現在の通商政策面において取引しておる各国別の市場を検討し、又今後の見通しを立てましても抜本塞源的な好調というものは現状においては到底望み得ません。従つてただ一つの現在のこの不調を切抜けるためには、未開の市場、未だ開かれていない市場、即ち現在非協定国と称しております、主として中国、ソビエト並びに東欧諸国のこの未開の市場を開発する以外には根本的な対策としては恐らくないと存じております。  丁度日本は一九五〇年に、占領下の極めて不利な条件ではありましたが、新らしい中国と通商を開始いたしました。僅か半年経たざるうちに極めて貿易は順調に進展して参りまして、輸出入共に二乃至四%の程度まで復活して参りました。ところが朝鮮動乱を理由にこれらの諸地域とは通商が仕切れておりまして、現在では全く停止状態にあります。で中共市場を喪失するに当りまして、これが代案といたしまして、その当時のGHQのモロー氏やマーカット氏あたりから東南アジアヘの進出ということが提唱され、又ここ数年政府の通商政策の最も大きなウエイトを占めるものとして、これら東南アジア進出が叫ばれたのでありまするが、これは不幸にして従来まで相手国の実情、特に相手国は最近独立したばかりであつて、経済的に曾ての主権国である国家の隷属性を持つておる。又独立に伴う複雑な民族感情、又これら諸国の経済発達の現在の過程、それから又対日賠償に伴ういろいろな経済的な諸問題、これらを無視して全くアメリカのポイント・フォア政策に便乗するような形で、めくらめつぽうに押しまくつたために、ここ数年の実績を見ても御承知通り全然効果を挙げておりません。現在東南アジア諸地域について考えますると、欧洲諸国の輸出は戦前の一七%を占めております。然るに日本は僅かに戦前の六〇%程度にしか到達しておりません。でこれを更に仔細に商品別に見ますと、これは昨年の実績から見まして考えられますことは、日本の対東南アジア向けの物資は主として繊維品を中心に輸出されております。これは全体として約半分を占めております。ところがイギリス、西独等の西欧諸国からの東南アジア向けの輸出品は主として重工業製品でありまして、イギリスのごときは六三%、又西独のごときは八八%が対東南アジア向けの比率を占めております。それらから又欧洲諸国のこれら重工業製品の輸出の戦前との比較を考えますると、戦前の額で申上げますと、約二、三倍になつております。又日本の場合を考えますると、これら繊維を中心とした輸出は、現在次第に減少の一途を辿り、又重工業製品も先ほど申上げました通り諸種の原料高、製品の劣悪等、諸種の原因から一向に伸びず全体として戦前の四割を減じております。現在の東南アジア諸地域に見られまする一般的傾向といたしましては、原料類の輸出不振に伴うドル不足、これに伴う輸入の制限、限られた外貨を使うに当りましてはどうしてもこれら繊維品並びに消費物資が制限されまして、重点的に輸入は重工業製品に向けられておるのであります。従つて日本の現在の産業構造並びに輸出産業の対象として繊維を中心に対東南アジア進出を考えておる限り、絶対に今後の好転は望み得ないと考えられるのであります。従つてこれら対中国市場喪失の代案として考えられておりまする東南アジアに対しましては根本的な製品高の問題、それから質の向上その他日本独自の貿易政策を相手国と直接とらん限り、現在の行き方では絶対に東南アジアへの進出なるものは望み得ない現状にあるのであります。又この製品高の問題に触れて参りますると、やはり根本は高炭価になつて参ります。この東南アジアに関連いたしまして輸入市場として考えまする場合には、中国から従来期待しておつた石炭、これは僅かにインドから期待し得るのみでありますが、これら重要原料の運賃の問題、これは根本的な致命的な問題でありまして、輸入市場として中国を東南アジアに置き換える場合には、この距離の問題を解決せずしては、絶対に輸入原料の価格の低下ということはなし得ないのであります。又如何なる手を打ちましても、現在におきましてはこの距離の問題は解決し得ないのであります。  で、話は前に戻りまして、然らば中国を主体とする非協定国との通商の今後の見通しは如何、そういう問題になつて参りまするが、昨年の六月、すでに御承知と存じまするが、帆足、宮越、高良王氏によりまして、中国国際貿易促進委員会の主席の南漢宸氏との間に六千万ポンドの協定がなされております。これは日本側においては単なる三人が個人的に行つてつて来た問題である、これは何らの権威もなかろうと極めて軽く考えられておるのでありまするが、今度の引揚問題に関連しましてもおわかりと存じまするが、現在不幸にして中国と日本との間には国交が調整されておりません。従つて中国といたしましては国家的な取極めをいたす場合におきましても、日本政府と直接の取極めは不可能でございます。その場合今度の三団体が代表となつたと同様に、この貿易協定におきましては三氏が日本側を代表するという形をとつたのであります。これは又中国側の政府機構を見ましても同様なことが言えるのでありまして、この貿易問題に関連いたしましては中国の人民政府の中に貿易部というものがございまして、これは日本の通産省に当る機構であります。先ほど申上げました中国国際貿易促進委員会は、これは純然たる民間団体の形をとつております。然るに中国側の使い分けは、国交の調整されておる国家群に対しましては貿易部がすべて衝に当る。併し国交の調整されていない国家群に対しましては民間団体ではありまするが、この国際貿易促進委員会が全面的に政府のオーソライゼーシヨンをもらつて国家的な取極めを、相手国のそれぞれの機関とする、そういう形をとつておりまするので、これは全く中国側としましては政府が承認をし、又実行上責任を持つている立派な国家的な協定の形をとつております。この際に、話は余談になりまするが、現在の日本の政治情勢又その衝に携わつておられる方々に対して、多少の苦言とは存じまするが、戦争中の盲目状態並びに占領後の何もかも対立依存でやつて来たこの虚脱状態、これらが長期限を経過いたしました我々としましては、極めて国際事情にうとく又国際政治感覚に全く盲目であると言つてもいいくらいうとくなつていると申上げられるのであります。で、結局現在の我々の政府が、例えば台湾政府を承認し、大陸側はボイコットするような形は、丁度曾て蒋介石を対手にせずとの暴言を叩きつけ、その結果この第二次大戦の悲劇を捲き起して来た、その経過と全く同様な過程を辿つていると考えられるのであります。やはり現在この二つに分れた世界は、単なる一方的にのみ依存いたしましては、先ほど述べましたように貿易面だけの面においても全く根本的な破綻が現れ、日本の経済界に深酷な警告を与えているのであります。やはりこの含みある外交、これは場合によつては何も政府は表面に出る必要はないと存じます。中国側が使い分けているような、そういう民間団体の形なり、若しくは別途の形なりで、日本は現在から更に一方の世界に呼掛けなり繋りなりを持たない場合には、嵐の中に遭遇し、拠り出された場合を考えますると、極めて危険な状態になるのではないかと考えられるのであります。  で、話は余談になりましたが、これらの六千万ポンド協定については、協定実施後日本側における貿易制度上貿易技術上のいろいろな障害があつたために、不幸にして或る限られた物件は出せたのでありますが、これが技術的な障害によつて実行の運びに至らなかつた。そのために再三手紙なり電報で交渉はいたしましたのでありまするが、隔靴掻痒の感じで一向に解決の迎びに至らなかつた。それで実は私は昨年の秋に意を決しまして、北京に参りまして、北京側の丁度貿易部の部長である、日本で言えば通産大臣に当るかたにはお留守のためにお目にかかれませんでしたが、次長のまあ副大臣に当る雷任民というかた、又対目的には全部責任を背負つておられる貿易促進委員会の主脳のかた、又丁度日本の輸出入公団に当ります貿易の実施機関としての中国進出口公司という名前の政府機関がございまするが、これらの総裁、副総裁又主脳部、こういうかたがたと膝をつき合して話をして参りました。結論として中国側はイデオロギーの相違は問わず、中国側から見た対外貿易を考える場合には、日本との今後の経済交流は小国側からみても極めて重要である。そういうような深い関心と、又今後の期待を品を揃えて、これら貿易の担当をしておる指導者連が申しておるのであります。実は昨年の末から本年にかけまして、すでに十指を超える商社が中国側と契約を完了し、現在すでに二、三の商社は実施の運びに至つております。然るにこれら対中国向の貿易に関しましては、どうも政府が見えざる影に怯え、貿易を振興するどころか、却つて阻害する形で諸種の制度を作り上げて来ております。例えば輸入の保証金のごときは、貿易促進の立場から、従来まではポンド・エリアに対して一%の額であつたものを、更に〇・一%に下げました。然るに対中国向に対しては、極めて相手側が不確かである、そういう理由で一〇%の高額を課しておるのであります。又実際に許可を願い出でるに当りましても、単なる日本政府独自の立場で許可の発行がむずかしい。その都度諸種の干渉が行われまして、むしろ日本政府としては、如何にしてこれら干渉を切り抜けるかということに腐心をされながら、許可を出しておるという現状になつております。又金融機関のごときは、いろいろなアメリカ大使館と直接の呼びかけなり、問合せによりまして、無言の圧力を受けて、これら対中国向の輸出貿易に乗り出すことを極めて躊躇しておる現状であります。又昨年の十月に私が参りました時に、先方の当事者と話合いまして、日本船の受入れを先方はわざわざ十月に法律まで出してくれて、実現するように努力を払つてくれたのでありまするが、台湾の中立解除に伴う諸種の神経的な作用によりまして、現在日本側の船主が極めてためらつておる現状になつております。これらの障碍は、やはり現在直面しておりますこの貿易のドル依存の場合においての極めて危険なる状態を考え、又これらを救うべき方策としては、現在殆んど根本的な救援の方法がないことを考えますると、早急にこれらの障碍を排除して、是が非でも未開の市場を、又曾ての日本としては最も経済的に依存の強かつた中国を主体とする市場を速かに回復する方策が取られ、然る後にかかる予算案の再検討をやつて頂く。そういうことがこの予算案の裏付けとして最も緊要ではないかと考えまして、一言意見を申し述べさして頂きました。  では、これで私の意見としては終りまするが、何か御質問があれば頂きまして、知つている限りお答え申上げたいと存じます。  又この問題に関連しません一般的な問題といたしましては、この通産省所管の予算案をみますると、極めて今後の貿易促進の予算が冷遇を受けております。例えば海外市場調査に必要な経費、昨年度は二千九百七十三万三千円を計上されておりましたが、本年度におきましては、僕かに三千万、丁度前年度と同額しか計上されておりません。又先ほど触れましたニューヨークの貿易斡旋所の開設費用として三千六百万計上してありまするが、対アジア地域に対しましては、何らの手を打つておらない。又日本商品の海外向け紹介、宣伝に必要な経費といたしましてこれは民間団体の補助金の形をとつておりまするが、二十七年度の三千八百万が僅かに四千万になつただけに過ぎない。又東南アジア諸国との技術提携に必要な経費として、技術斡旋団体の補助金として僅かに五百万円、これらは人間を数人出しただけで使い切つてしまう額でありまして、極めて微微たる額であります。又主としてプラント類の輸出、重機械類の輸出振興に必要な経費として三千万、これはどうも零が二つか三つ落ちているのではないかと思つて、実は目を疑ぐつたのでありますが、これら僅かの輸出振興費で以て現在の国家財政の最も根本である国際収支を改善しようとすることは、全然不可能であるということも、これら通産省所管の貿易関係の予算を見ますると申上げられると存じます。
  12. 左藤義詮

    ○理事(左藤義詮君) 御質問ございませんか。
  13. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 具体的な問題ですが、これまで中共との貿易について、いろいろ技術的な障害というものが指摘されておつたようでありますが、そのために技術的に困難であるということは随分言われたのですが、実際問題で、今中共との貿易がお話のように折角十社もいろいろ契約して、十社のうち二、三社くらいしか取引が実現していないというお話ですが、どこに具体的なネックがあるか、この点を極めて具体的にお伺いしたい。非常に具体的なお話で参考になりました。こういう点について、実際問題としてお話願いたい。
  14. 櫻井英雄

    公述人(櫻井英雄君) 只今の質問にお答え申上げます。現在対中国との貿易が順調に行つておらない原因としては、諸種考えられるのでありまするが、一つは貿易の制限であります。これは輸出貿易管理令という法令がございまして、これによつて日本の輸出の管理、主としてこれは中共を対象としておるのでありまするが、輸出を品目別に制限をいたしております。たまたまこの国会の再開の直前に、約百品目に亘る品種が解除されたのでありまするが、実際問題としては、これら品種を丹念に見ますると、国内価格が国際価格に対して極めて高いために、全然輸出の商談として成立し得ない品目である。又取るに足らざる品目が大部分を占めております。一方対共産圏向の輸出は、パリにおいてココムなる機構がございまして、これで主として西欧各国並びにアメリカに日本が参加いたしまして、中国向の輸出品目の調整をいたしておるのでありまするが、日本だけはこのココムの線以上の苛酷な条件を課せられております。それで先ず輸出品目が極めて限定されておるというのが一つ、それから第二はこれら輸出し得る品目に対しましても、アメリカ側は日本が経済的に中国に近付くことを欲しておらない。これはいろいろ根本的な問題がありまするが、ここではこの問題には触れません。従つてすべて日本の国内における方策が、中国との商売ができにくくなつておる。例えば許可を申請するに当つても、いろいろな諸条件を課せられて、なかなか他の地域とやるような簡単な貿易の輸出入許可がとりにくい。又もつと困難な問題といたしましては、先ほども触れましたけれども、一〇%の保証金なり又信用状の開設若しくは先方から来ました信用状の割引に当りましては、ほかの国との貿易のケース以上の苛酷な条件で審査を受ける。我々が実際に衝に当つておりますると、銀行というものは、商社を助ける意味でサポートして初めて金融機関としての経済機構への積極的な参加がなされるべきだと思うのでありまするが、それがむしろブレーキの形になつておる。これはこの問題をいろいろ申上げますると時間が長くなりますので、詳しいことは申上げませんが、具体的な問題といたしましては、これら商業金融資本が中国との貿易の問題に関与することによつて、他方受ける報復的措置をこわがつておる。これは決して正面からそういう条件が課せられておるのではありませんで、むしろ見えざる影に脅えて、自分から誇大に考えておるような傾向もあるのでありまするが、これらの根本的な背景を排除いたしません限り、金融資本の積極的な参加というものは現段階においてはなかなかむずかしいのであります。これはむしろ一つの案といたしましては、例えば仮りにこれらの非協定国との貿易を促進するためには、民間の金融資本なり又国家金融資本が合体するなりして、これら対社会主義国家群に対する専門のシンジケートのようなものを作られて貿易金融をやつて下されば、これが最もすつきりした形になるのではないかと存じまするが、併しこれは又なかなか大変のことと存じますので、できることなら、日本の商業金融資本が先方の銀行側とコルレスを結ぶ段階に至るまでの援助をやつて頂けば、これら貿易金融の難点は解消できるのではないかと考えております。  それから次の問題は輸送上の問題でありまして、現在までは、アメリカを除く、第三国の船は自由に中国側の港に入つております。ただ日本船だけは、昨年の秋までは全然中国の港に入る余地はございませんでした。私がたまたま向うに行き、又それより前に、貿易促進会等を通じて交渉はなされておつたのでありまするが、現にこの海運界の現状を見ますると、近海航路が閉ざされたために、主としD型クラスの二、三千トンクラスの船が繋船せざるを得ない状況に追込まれて来ておりますが、これら近海川の船を生かす点。又第二は日本船を使つて貿易外収入を図る。第三は日本船を使いました場合には、運賃が第三国船の約半分近くになつて参ります。というのは、第三国船は中国の港に出入りする特権を濫用いたしまして、極めて高く運賃を吹つかけて来ているのであります。この運賃高のために、従来単なる商談だけを考えましても、運賃高が原因で中国側との商談が不成立に終つた例があるのでありまするが、日本船を使う場合においては、日本の輸入価格なり若しくは日本の輸出価格なりが、日本側にとつても極めて有利になつて参ります。この日本船就航問題が、先方は十月に法律を出して了解してくれたにかかわらず、今度の台湾中立解除の呼び声におされてためらつている。  次の問題といたしましてはクレームの処理の問題がございます。これは暫定的に先方と香港あたりで落ち会つてやることも考えられるのでありまするが、やはり商談となりますると、こちらから先方へ乗込んで行つて先方の連中と会つて、こういつたクレームの解決なり、若しくは今後の貿易の商談なりをやる場合においては、現在のような手紙と電報とでの目探りよりは、更に画期的な飛躍が期待できるのであります。  それから根本的な問題といたしましては、従来まで日本側における中国並びにソヴイエト、東欧に対するインフオメーシヨンがスクーリンされて、極めて歪められた一方的な報道のみが入つて来ている。これは曾て我々が満洲事変から対米戦に移る過程において、アメリカヘの我々の認識が如何に歪められ、又その後国家のとつて来た方策が情報不足のために如何に悲劇を生んだかということを考えまして、現在我我は慄然としているのでありまするが、私が実際に中国の国土を縦断して歩いて参りまして見た中国の現状と、今まで国内で開いておつた報道を通じて知つてつた中国の情報とは遥かに大きな懸隔があります。又この誤つた報道が日本の国民の頭の中に染み込んでおつて、これが中国側なりソヴイエト側なりへの又は東欧側なりへの観察を誤まり、ただ徒らに相手は危険である、君子危きに近寄らず、そういうような態度をとつていることが、又正常の貿易を非常に阻害していると考えられるのであります。で、これらを考えまして、やはりこれら非協定国への貿易を拡張するに当りましては、先ず前提として渡航の自由を許しいろいろな方々が先方の国内を見て来ることによつて、おのずから向上がなされて来るのではないかと考えております。そんな程度で如何でございましようか。
  15. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 時間もないようですから、簡単にあと二つばかり。今度の中共に対するイギリス及びアメリカの戦略物資の輸出禁止、この影響はどうであるか、業者の立場からその要点を伺いたい。  それからもう一つは、先ほど日本政府が取引しようとする場合はなかなか困難で、むしろ日本政府が或る他からの干渉を避けるのに苦心されている、こういうお話がありましたが、若しお差支なければ何か一つ具体的に例を挙げてお伺いいたしたいと思います。
  16. 左藤義詮

    ○理事(左藤義詮君) 成るべく簡単に御答弁を願います。
  17. 櫻井英雄

    公述人(櫻井英雄君) かしこまりました。それでは御質問にお答え申上げます。最初の中国側として現在アメリカがとつております禁輸の影響がどうか。実はこれは私も貿易商社の立場から仔細に中国側の現在の経済状態、又物の動きを見て参りました。一言で申上げますると、現在の中国は禁輸の影響を殆んど受けておらんと言つていいくらい痛痒を感じておりません。それは中国は貿易を二つに考えております。国内貿易並びに対外貿易。日本では貿易と考えますると国外とやることだけだと存じておりまするが、中国の場合には従来は経済的には幾多のブロツクにこれは外国の勢力や、又軍閥その他の政治条件によつて寸断されておりました。ところが解放後全く統一されましてこれら曾て寸断されておつた経済ブロックとの経済交流が現在いろいろな形で積極的に推し進められております。これは丁度ヨーロツパ大陸でフランス、イタリア、スペイン、ノールウエイ、そういつた国々がお互いに貿易をやつておるのと同じ効果を挙げております。  それから次の問題といたしましては、現在中国が海外に依存しなければならない原材料としては、僅かにゴムとか、石油製品の一部分であるとか、又はキナのようなものであるとか、極めて限られた物資しか中国としては海外に依存する必要が起きておりません。特にゴムのごときは広東以南で見まするのはもう三年生くらいになつておりまして、ここ数年たつとゴムは自給の段階になりつつあるようですし、又曾つての米の輸入国である中国は現在すでにインド並びにセイロンに対して十数万トン輸出をいたしております。又綿花のごときは昨年度はもうすでに内需をオーバーして、本年度は減反の指令を全国に出し、又石油のごときは新疆省の開発にソ連の技術を入れて非常な努力を注いでおります。こういうことから中国としましては先ず原材料の点では禁輸の痛手を受けておらない。それから同様にその他機械数の輸入の面におきましては、私が見ました範山内においては機械類は主としてチエツコの製品を主体にソ連、東欧、東独、そういつたものがどんどん輸入されております。これは貨物列車の動きなどを見ておりますといろいろ運ばれて来る物資がわかるのでありまするが、シベリア方面から流れて来る物資は相当なものが流れて来ております。昨年度の対外貿易の約七〇%は対ソ向けになつておりまして、アメリカの禁輸の影響はソヴイエト・ブロックに依存することによつて解決しております。  それから次の御質問といたしましては、一つの……ただこの問題はどうでございましようか、こういう席上では触れない方がいいと思いますが、よろしうございますか。
  18. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 それじやよろしうございます。
  19. 左藤義詮

    ○理事(左藤義詮君) 次に東京都教育委員会委員長八木澤善次君にお願いいたします。
  20. 八木澤善次

    公述人八木澤善次君) 皆さんの前で教育財政に関する私の考えを申上げる機会を得たことを非常に光栄とする次第であります。  私は只今のように冷たい戦争が激化して来た場合における最も有力な対策は、国民生活を高めるということ、すなわち経済生活、文化生活、社会生活を高め、もつて日本国民であるということに自信を持たせ誇りを持たせることではないかと思うのであります。そういう意味において私は学校制度と教育制度というものが非常に大きな意義を持つものであるということを信じて疑わないものであります。で、昨年の第十三国会でもつて皆さんの御協賛を得て実現することができるだろうという期待を持つことのできたあの義務教育費公庫の半額負担制度現行法によりまして私たちは一応教員の給与に関する或いは国民の教育費の負担に関する一定の限度というものが、たとえ今後どんなに国防予算が増大してもそれができるという確信を得たのであります。そういう意味で私たちは感謝した次第であります。そうして私たちは二十八年度からはこれが実現され、そうして実際の義務教育費の実支出額の半額が国家によつて負担され、それと同時に他面におきましては今非常に問題となつているところの四十九万坪になんなんとする危険校舎の改築、三カ年計画でもつて改築をする、或いは戦災によつて犠牲となつたところの四万教室以上のうち僅かまだ二万足らずの教室が復興されているに過ぎないのでありますが、こういう戦災校舎の復旧、それから六三制だよつて落ちこぼれているところの教室の整備ということができるであろう、それに向つて政府は一定の三カ年計画とか、或いは五カ年計画とかいうものを以て、そういう計画で義務教育施設の整備ができる気運が向いて来たと非常に喜んでいたところに、今度計らずもあの義務諸学校教職員の身分法案が出まして、その私たちの今までの期待というものは一朝にして破れ去ろうとしているのであります。そのことを非常に残念に思う次第であります。  成るほど、今度の法案によりますると、文教予算に現われた数字を見ましても、九百二十億という今までにない数字が文教予算の上に現われて来ておるのでありまするが、併し、これは必ずしも国家予算の上から見ますならば全然新らしいものではなくして、地方財政平衡交付金の費目の中に現われていたものがこちらに移されたに過ぎない、こう言つてもいいほどのものだと思うのであります。而もこれによつて政府が標榜しているごとくに、実際に義務諸学校の教職員の給与費が全額国庫負担になるというならば、これは甚だ歓迎すべきことだと思うのであります。併し事案においては必ずしもそうではない、今まで通りのように依然として少額の国庫貝打に過ぎない状態であるということであります。それから又私は、最初の政府の全額国庫負担という標榜にもかかわらず、その後いつの間にか全額国庫負担という言葉が消えてしまつて、義務諸学校教職員の身分法案というふうにすり換えられていることによつてもわかりますように、この法案が非常に教育の向上というものを自的としたところ法案ではなくして、何か別個の意図によつて出されているのではないかというふうに、即ち世間でこれは義務諸学校の教職員を国家公務員に切換え、以て義務諸学校職員の政治活動を抑止するのだ、そういうことを以て主たる目的とするものであるというふうに伝えられて、おる、そういう法案なつていることを実に遺憾とするものであります。  私は只今申上げましたように、この法案の内容に現われたものを批判する前に、これらが本当に日本の教育を向上させることができるものならば甚だ歓迎すべきものだと思うのであります。併しながらこの法案に現われた限りにおきましては、私は私たちが新らしい日本といたしまして最も尊重しなければならないところの地方自治制度を弱めるという、そういうことが第一に考えられるのであります。それから又教職員自身の誇りを持たせ、以て教育に対するところの意欲を高めることができるものであるならば、これ又歓迎すべきでありますのにもかかわらず、今度の法案に現れたところのものは全然反対でありまして、甚だ中央集権的な教育制度に向つて一歩を進めているというふうな感じを与え、これによつてそれぞれ特殊の地方事情によつて行われるべき自主的な教育というものが甚だそこなわれるという、そういう危惧の念を教員自身に与えるばかりか、定員定額法によつて教員の給与というものが低下するのではないか。若し現状のまま給与が維持されるならば減員、即ち首切りが始まるのではないかという教員に不安を抱かしむるような、そういう法案なつていることを甚だ遺憾とするものであります。  従つて今度の法案内容について、政府は今までのような、昨年におきましては地方教育委員会というものについて、中央教育審議会にかけてそうして十分に検討した上において、これを実施するかどうかということを決しても決して遅くないのだと言つて、あの地方教育委員会の義務設置制の実施に対する一年延期案を提出したというような用意周到さであつたにもかかわらず、そうして今日におきましては中央教育審議会もすでに設置されまして、そうしてその運営が始まつたにもかかわらず、この義務教育上最も大きな問題がその中央教育審議会にもかけられず、又地方自治制度に対して非常に重大な関係のあるために、地方自治制度調査会において慎重な審議を経た後にこれが提案をされても決して遅くないと考えられますにもかかわらず、現実のような非常に不用意な、いろいろと穴だらけと言われているほど検討余地のある法案の姿で国会提出されたことを甚だ遺憾とするものであります。今度の法案によりまして地方自治制度というものが如何に無視されているかということは、今私がここで改めて説く必要がないほど明らかだと思うのであります。又折角教育委員制度というものが置かれているにもかかわらず、これを文部大臣が指揮、監督するというような条項があるのであります。又教員の任命について市町村長の意見を問わなければならない、文部大臣意見を問わなければならないというふうにして、この教員の任命に関するところ責任の所在というものを非常にぼかしてしまつているのであります。私は非常にこれを奇異に感ずる次第であります。教育委員会が今まで任命したところの教職員、それが今度はこの学校長の任免については市町村長の意見も聞かなければならない、文部大臣意見も聞かなければならないというふうにして、結局曾ての戦前における官僚制度における各省の連絡協議会におけるようにその責任の所在というものをなくしてしまつているのであります。非常にぼんやりしてどこに、誰がその責任者であるかということをぼんやりとぼかしてしまつているということは、甚だ私は奇異な感を抱かざるを得ないのであります。私は折角できたところの地方教育委員会、これはその当時において我々教育委員関係者は地方教育委員制度それ自体には反対ではないが、日本の現状においてはこれを義務設置する、村々までに設置するというのは時期尚早である。十分検討した後においてこれは行うべきではないか、それまで是非必要とするならば任意設置制度で行くべきではないかというふうに唱えたにも拘わらず、そのとき卓を叩いて自由党の当時の文部委員諸公はこれこそ本当に地方自治制度、地方分権制度の確立だ、民主主義の実現なんだ、これを行わずして民主主義化ということは、日本の民主主義化は実現できないんだと言つた、にも拘わらず今度はその地方教育委員会の権限を縮小し、官僚的な中央集権的統制によつて雁字搦めにしようとするような傾向が見出されることは非常な矛盾であると思い、私は残念で堪らないのであります。そういうふうに、私たちはこの法案について検討をしますならばいろいろ批判されるべきものがる。そうして日本の中央集権制度への逆行と申しましようか、そういう傾向が感知されると思うのであります。併し私は今ここでこれをくどくど申上げません。私は今現われている文教予算のうちの、この義務教育学校職員法案の裏付をなしてあるところ財政予算について私の意見を申上げてみたいと思うのであります。文部省の説明によりまするというと、この義務教育の機会均等とその水準の維持向上を図るために義務教育学校職員の給与の全額及び教材費の一部について国庫負担とする目的を以て二十八年度の予算に九百二十億円を計上したことは、これは皆様が特に御承知通りであります。これは地方税制改正により地方公共団体における財源の偏在が是正されるまでの暫定措置として、富裕な東京とか、大阪等の八都府県に対しては二十八年度においては交付の調整をすることにし、それに充てるべき二百五十四億を控除しているのだという説明をしているのであります。ところがこの九百二十億の中には教材費の十九億円と、それから共済組合費の二十億とが包含されているのでありまして、従つて実際の教職員の基本給与額というものは八百八十一億にしか過ぎないのであります。このことも皆様すでに御承知通りだと思うのでありまするが、そうして文部省はこれは、二十八年度の地方財政計画に算定された共済組合費を含む義務教育学校職員給与費千百五十五億の体系を崩さずに平衡交付金として廻つたものであるからして従来の実績を下廻るはずはないのだとこう主張しているのであります。このことも又皆様がすでに御承知のことだと思うのであります。それではそこでこの問題になるのは、この千百五十五億という数字であります。これは、昭和二十六年十月以降地方教職員の給与単価を三百四十九円不当に引下げたままのものでありまして、昨年の十一月のベース・アップでこの差は更に一層増大しているはずなんであります。このことを考慮に入れて全国知事会はこれに相当するもの、即ち政府の算定したところ千百五十五億に相当するものを千二百九十二億と推計しているのであります。従つて地方財政計画の上で、これにすでに最小限度百三十七億の不足が生じているわけであります。私たち全国都道府県教育委員協議会が推計したところによりますると、これは文部省の算定方式によつて現在の水準を維持するだけでも千二百九十三億を要することとなつているのであります。即ちこれは今年一月の実際に支出されたところの、各都道府県が実際に支出した教職員の給与に基本給を集計いたしまして、そうしてこれに十二をかけたものであります。そうしますというと千二百九十三億を要することになるのであります。即ち言葉を換えて申しますならば、本年一月における義務教育学校職員の現員現給のまま維持するだけでも一千二百九十三億を要することとなつているのであります。従つて一十百五十五億、政府の算定している千百五十五億では実に百三十八億の不足を生ずるわけであります。大体この数字は、この不足額というものは全国知事会の推計と合致していると言つていいのであります。これでは実績を崩さずに、首切りも行わず、減俸もしないで行なつて行くためには不可避的に不足分を都道府県自治体に頼らなければならなくなるのであります。都道府県側といたしましては、平衡交付金のうち教典給与費を吸上げて負担金と、義務教育国庫負担金とされたのであるからして、政府の見ろというこの不足分を支払う金は一文もないのではないかと主張する次第であります。  茨城県の友末知事がこの点を指摘いたしまして、今次の義務教育諸学校教職員法によつて府県に現号俸の給与の負担義務を負わせ、而も定員は政令で政府が定めるということになりますというと、地方財政法第十三条によつて政府は当然平衡交付金の算定基礎にこの不足分を加算すべきである、見込むべきであると、その義務があると主張しているのでありまするが、これは当然な主張であると私は解するのであります。政府が右のような措置に出ることなくして、この提案されている予算で職員法を強行するということになりますならば、府県側か或いは文部省側か、どつちかから給与の切下げが、或いは首切りが提示され、或いは実行されることは必至ではないかということを恐れるものであり、又これに対して教員が不安を抱くのも無理でないというふうに解するものであります。私はそういう意味で、今度政府が提案されたところの義務教育諸学校教職員法案というものに対しましては、十分の御検討をお願いしたいと思うのであります。  私たちは教育の低下ということを恐れます。私は先ほど申しましたように、教育の向上こそ、日本にはこういう立派な教育制度があるのであるということを、内外に誇ることができるようにしなければ、私は教職員の思想の悪化というものを防止することができないのではないかということを常に恐るるものであります。どうぞ皆様におかれましては、こういう見地から、今度、今現に国会において討議、審議されているところのこの法案について、十分の御検討をお願いいたして、私は、今日の私の陳述を終りたいと思うのであります。
  21. 左藤義詮

    ○理事(左藤義詮君) 御質問ありませんか。
  22. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 今、今度の二十八年度の予算に見積りましたのでは、実際に百三十億円不足だというお話があつたわけなんでございますが、そしてそれが大体全国知事会の推定とほぼ一致しておるというお話だつたのですが、文部大臣は大体その定員も多く見積つてあるから、この金額を設ければ、実際の定員から見ますと定員定額でも十分払えるのだと、こういうようなことを言つておるようなんですが、その点についてどうお考えになりますか。
  23. 八木澤善次

    公述人八木澤善次君) 私は現実において、先ほどこの一月の、現に各都道府県の支出したこの教職員給の基本給だけを見ましても、只今申上げましたような数字になるのであります。で、ありますからして、私は、政府の計算、文部省の計算というものが正しくないということを確信するものであります。
  24. 左藤義詮

    ○理事(左藤義詮君) 次に全日本海員組合組織部長、和田春生君にお願いします。
  25. 和田春生

    公述人(和田春生君) 只今指名されました海員組合の和田でございます。二十八年度予算案に対して意見を述べます前に、論旨を明らかにするために、若干私の意見を述べる立場について申上げたいと思います。  御承知のように私は海運業に携つておるものの一人でございまして、勿論労働組合のほうにおるわけでございますが、そういう関係からこの予算案について意見を述べますにいたしましても、諸般の問題についてすべて述べるということになりましたら、到底限られた時間内で話すわけに参りませんし、各方面のそれぞれ権威者のかたからお話もあることでございますから、主として海運関係の問題から論旨を進めて行きたい、かように考えております。なお海運問題について、特に重点をおいて話をいたします場合にも、単に海運産業というセクト的な立場ではなくして、やはり日本という全体の立場から海運の占める重要性というものを基本的に我々としては考えまして、その上に立つて意見を述べるつもりでございますので、そのように御了承を願いたいと考えるわけであります。  先ず私がここで喋々するまでもないと思いますが、日本にとつて海運産業は極めて重要でございます。海国日本とか言われておりますように四面海でございますし、又日本の国際収支の上からこれを見ましても、曾つて戦前におきまして、中国、満洲その他に強大な支配権を振つてつたときでも日本の貿易帳尻においては入超を免かれず赤字があつたわけでございます。この赤字を埋めてありましたのは、ほかならぬ海運による貿易外収入でございまして、この海運による貿易外収入というものがなければ、日本は輸入超過国として非常に困つた立場なつておつたということは疑いもない事実でございます。戦後におきましても同様に、日本はやはり輸出よりも輸入のほうが超過している現在におきましては、朝鮮事変による特需収入等によつて、この貿易帳尻の赤字が埋められているわけでございますが、特需というものにいつまでも頼つて行くわけには参りません。やはり本当に日本が自立をして行くというためには、健全な国際収支関係を打ち立てなければならないけれども、これにとつて最も重要なことは、海運を発展さして貿易外収入を増大をする。日本の荷物は、輸出も輸入もできるだけ多く日本船で運搬をする、こういうことが極めて重要ではないかと考えるわけでございます。これなくして日本の真の自立達成ということは不可能である。このように断言しても過言ではないというふうに私は考えております。ところが従来からもそうでございますが、今回の予算等におきましても、この海運という問題について、国会は果して真剣にお考えになつているのかどうか、どの程度に突込んでこのような海運産業に対する助成を考えておられるのかという点について甚だ疑問が多いわけでございます。勿論占領下におきましては、日本を足腰立たないまでに押込めておこうというような意図もあつたのでありましようけれども、日本の海運に対して国家が補助することは一切罷りならんと、いろいろ強い制限が海運産業に加えられておりました。その原因はやはり戦前日本の海運が非常な労働搾取の上に国家の権力を背景にいたしまして、世界の海運市場を荒らした、ソシアルダンピングの非難を受けたということが強く作用をいたしておつたと思いますけれども、又占領政策の一面としてそういう形が生れて来たわけでございまして、これは日本政府の力を以てしては到底突破できない事柄でございました。併しながら独立をした今日におきまして、日本はもつと自主性を確立し、このように重要な海運産業に対して政府国会ももつと力を注いで然るべきであると思うのであります。先ず参議院の公聴会に出席をするに当りまして、参議院当局から二十八年度予算案の説明書が送付されて参りました。私はそういう立場に立つて意見を述べようと思いまして、この費目を調べたわけでございますが、どこにも海運関係の費用というものは載つておらない。重要経費別というところに海運の海の字も出ておらないのでございまして、参議院から送付された資料だけでは到底それを調べることができない。そこでそれぞれ関係方面に当りまして、更に詳細な予算の内容を検討いたしたわけでございました。やつとのことで三十八項目の雑件という中に運輸省の関係の予算の中に小さく片隅に押込められておるのである。こういう驚くべき事実を発見いたしたわけでございます。而もその費用に関して見ましても勿論いろいろな費用が海運関係に盛られておりますが、日本の海運産業を助成し、或いはこれに補助を与えるという費目は僅かに四件しかないわけでございます。  第一といたしまして外航船舶の建造融資利子補給及び損失補償法によるところの約六千六百万円、臨時船質改善助成利子補給法による約三千四百万円、離島航路整備法による二百六十万円、それからルース台風による木船災害復旧資金の融資残高に対する利子補給の約千五百万円、更に航路補助金といたしましては離島航路補助金が四千四百万円、木船町保険法によるものが約百八十万円で、これを占めて一億六千万円しかないわけでございます。私、平素大きな数字は扱いつけておりませんので、桁を読み違えたのかと思つて見直したのでございますが、やはり一億六千万円でございまして本年度歳出総予算額の九千六百万円に比べますと僅かに六千分の一、コンマの以下に零が四つも五つも付くという、言うに足らん額しか計上されておらないわけでございます。そのほかに航路標識であるとか、或いは気象観測、船舶検査職員法の施行に伴う費用、或いは船員の養成に対する費用等も計上されております。これは直接的に海運を助成するという形ではなしにむしろ海運行政の一端として支出される金額でございます。帰還輸送の経費が一億五千万円、船舶の動静調査必要経費が約五千万円計上されておりますが、この初めのほうは御承知のように在外同胞の引揚に要する費用でございまして、面接海運関係の経費とみなすべきものではございませんし、第二の動静調査の必要経費というのは駐留軍がおります関係上、日本の船舶の動静を調査いたしまして、向うに報告をするために要する費用でございますから、これ又直接海運とは関係のない費用でございます。こういう僅少な費用におきまして果して日本の海運というものがうまく成立つて行くかどうかという点について国会におきましては深く御検討願いたいと思うのであります。御承知のように日本の海運は戦争で壊滅的な打撃を受けまして非常に現在企業の基礎は脆弱でございます。この日本の海運が現在一番悩まされている問題と申しますのは非常な高金利、船価高でございます。船価が、造船船価が非常に高いという理由は、鉄鋼価格が世界でも最高水準ぐらいに高いということでございまして、これは当然に国際競争力に堪えて行くためにもやはり国際的な価格内まで引上げられるための努力が政治の上で図られて然るべきであります。造船川鋼材に対する価格補給金、こういう問題も考えられていいのではないかというふうに思うわけでございます。国内のいろいろ産業でございますと、国際的にもう関連のないものはございませんでしようし、直接間接に関係はございますが、海運産業においては直接的に国際的な関係を持つに至りましてコストを補うことができないからということで、運賃を引上げようと思つても国際的な運賃の同じベースの上に立つて外国と競争しなければならん。而も戦前のように日本がダンピングをやり労働搾取の上に乗り出して行く、或いは軍事力を背景にして世界の海運市場を荒すということは到底許されない。そうなると日本にとつて必要な海運が国際競争に堪えて行きますためには、日本の海運事業というものを健全な基礎の上に据えるということが最も重要だと思うのであります。その際造船の船価が高いということは諸般の費用に重要な影響を与えまして、日本の海運産業をせめつけることになるわけであります。更にもう一つ最も甚だしいものは極端な金利の高さにございます。利子補給によりましても日本の現在海運会社が負担をしております金利が年利率において七分五厘でございまして、諸外国におきましては二分五厘から三分五厘程度が通常の状態でございまして、高いところでは五分程度でございます。日本のように貧乏国においてこれだけの高い金利を支払つて行くということは非常に重要問題でございます。これを具体的な数字について申上げますならば、運賃コストをどういう基準でとるかという点についてはいろいろ問題もございますけれども、それぞれの企業の経営方法或いは船舶の船賃、航路その他によつて千差万別でございますが、大体標準化して考えることができるわけでございます。北米太平洋岸と日本岸における一トン当りの運賃コストというものにおいて一体どういうことになつておるかという点を御理解を願うために簡単に申上げますと、日本船におきましては約十三ドルを要することになつております。英国船は九ドル三十七セント、こういう数字になつておるわけでございます。なぜこれだけの差ができておるか。これを船員の給与、労働賃金というものについて見ますならば、日本船は十三ドルのうちに占める額が僅かに五十五セント、五%弱でございます。英国船は九ドル三十七セントのうちに占める額が一ドル強でございまして、一一%を占めておるわけでございます。これはむしろイギリス船のほうが多い。燃料、その他のいろいろ運航経費、こういうものについては同じ基礎に立つておるものとみなして考えますと、保険料添附等に対してももう大して相違はございません。償却において英国船が一ドル六十セント、日本船は二ドルである。この償却金が高いというのは、先ほど申上げました造船価が非常に高いということでございます。ここで十三ドルの差と九ドル三十七セントの差が出て来る最も大きな要素は、日本においては四ドル七十三セントというのが金利に支払われておる。英国船においては僅かに一ドル二セントでございます。従つて日本の船主が負担をしておる金利を半額にいたしましたならば一挙に二ドル以上の運賃コストの切下げができる。仮に船員をただで働かす、そういう馬鹿げたことはございませんけれども、一銭も給料を払わないことにいたしましても僅かに五十五セントしか引下げることができない。こういうべらぼうな金利の負担を強いられておるというのが日本海運の現状でございまして、これを税金その他の一切のものを含めました総支出に対する比率を以ていたしましても、海運産業が日本の産業中唯一の金利負担をしておる。約一割に近い総支出に対しての金利負担をしておるのであります。電気産業がこれに次ぎまして約八%でございますが、その他の諸産業においてはおおむね三%台であります。結局この原因は、戦争中に殆んど全部日本の船が沈められまして、そうしてこの船舶業においては船舶というものが唯一の手段であり財産でありますけれども、これを海に沈めてしまうと元も子もなくなります。けれども、これに対する戦時補償というものが占領政策によつて打切られ、全部借入金で賄つておるという状態でございまして戦前においては自己資本が約七〇%強、他人資本は三〇%弱であつたのが全く逆になりまして、現在海運企業におきましては、二割程度が自己資本でございまして、八割程度が他人資本に頼つておると、こういう状態にあるわけでございます。これも日本の諸産業中占める自己資本の比率が一番少い状態にございまして、これだけ大きな金を借りておりますところへ持つて来場て、利子がべらぼうに高いので、ますます金利の負担というものが殖えて行くという、全くひどい状態になつておるわけでございまして、これが結局企業経営者の立場で企業を経営して行こうということになると銀行からたくさん金を借りている、銀行から金を借りなければならない、非常に金融資本に対して立場が弱くなつて参りまして、必然的に労働者の労賃のほうにこれがしわ寄せされて来る。そうして世界においても最も低劣な労働条件が日本の船員に強いられるところの枷となつてこういうものが現われておるという状態になつておるわけであります。若しこのまま進みますならば、再び日本は労働搾取の上に立つ国際市場に対してのダンピングを行うという非難とそしりを免がれないことになろうかと考えます。勿論組合側といたしまして、こういうものを除去するために極力運動をし、闘つておるわけでございますけれども、如何せん非常に企業経営の底の浅い海運産業によつて我々の意図は思うに任せないという状態になつておるわけでございます。ここにおきまして、国家がとるべき政策としては、先ず金利の引下げに対して有効適切な手を打つということは極めて重要でございまして、一分の利子を補給するというような形ではなしに、政策的に船舶建造に対して長期の低利資金を融資するという機関を設けて、国家財政的にその面倒をみて、少くとも国際的な水準の利子によつて長い聞返さなくてもいいような金を貸すようにやるということが必要でございます。これは当然予算の中に考えられなければならない点だろうと考えます。  それからもう一つは、先ほど申上げましたけれども、鉄鋼価格の引下げに対して有効な手を打つということでございます。この二つは特に造船、海運対策として重要な点でございますけれども、その他にも直接的な航路補助等の形による海運助成策をとつて然るべき段階に現在あるというふうに我々は考えております。今殆んどすべての海運産業は厖大な赤字に苦しんでおつて、どうにかその日その日をやりくつておるわけでございますが、このまま放置しておきますと、最近は若干運賃が持直したと言われておりますけれども、なお厖大な赤字で金利支払の棚上げをやつておる船主もできておりまして、本年の八、九月頃には一つの危機が来るのではないかとも感ぜられます。こういう海運をそのまま放置しておくわけに行かない。貧乏国の日本がそういう大きな財政支出で海運の補助をすることは考えものだ、海運だけではない。あらゆる産業においてやはりそういう条件がある。こういうことをお考えになるかもわかりませんが、これは単に日本だけではなく、世界の各国がこの海運に対しては非常な力を入れておるわけでございます。アメリカにおいては御承知通り非常に労働賃金が高い。そのために英国船に比べてもコストは非常に高いわけでございますが、英国船とのコストの差を国家が補助をするという方法をとつております。非常に金持の国のアメリカの例等は聞いても余り参考にならんと思いますが、日本と同じような立場にあります敗戦国であるイタリア、ドイツ等ではどういう海運政策をとつておるか。戦前日本が世界第三位の海運国である、こういうふうに言われておりました際に、そのあとに続くものとして、ドイツ、イタリア等がございました。これはやはりドイツの場合は若干条件が違いますが、イタリアもやはり海運に頼つて行かなければ非常に貧乏国でありますので、工合が悪い。そういう点で大きな力を注いでおつたわけでございますけれども、敗戦国である、非常にやはり経済的に苦しい条件を強いられておりながら、例えて言いますと、イタリアにおきましては、海運、造船の補助法という法律がございまして、そうして新造船価の三三%を政府が補助をする。それから改造、修繕の費用を補助をする。民間船が、米国からリバテイー船という戦時標準型船、これを売りに出しておりますが、購入するというときには船価の二五%を補助をしてやる。更に政府は融資機関に対しましては、新造船価の四〇%を補償してやる。そういうような措置をとつておりますし、更に新造、改造、修繕の際の資材の輸入税、認可手数料等を一切免除をいたしますし、更に新造の際には所得税を三カ年間船会社に対して免除をしてやる。こういうような海運補助政策をとつております。ドイツの場合にはやはり同様に積極的な海運の補助政策をとつておりまして、海運再建融資法という法律をこしらえまして、年利四分で償還十六年、こういう形で融資をしております。更に戦時に失つた沈没した船舶でありますが、この戦争期間によつて失われた船舶の代船を建造をしたい、或いは購入したいという場合には船価の四〇%を融資をしてやる、そうしてこの融資の利息の支払に関しましては、損失を生じた場合にはその年度は損失額に相当するだけ利子は払わなくてもよろしい、元金の償還は船価の償却をやつたあとで利益金が上つたときに返せばよい、こういうような形で補助をいたしておるわけでございます。  更に戦災に会わない中立国としてやつて参りましたスエーデンでございます。これは主要な海運国ということにも数えるのは問題があろうかと思いますが、このスエーデンさえも政府がやはり融資の両において補償をいたしておるわけでございます。償還期限等も十年というような長い期間にしておる。ところが日本におきましては皆さん御承知のように全く市中銀行に頼つて船主は先ほど申上げましたような苦労を嘗めておるというのが実情でございます。これらの国と同じ採算ベースの上に立つて国際競争をするためには、日本の船価を引下げる、海運に対して直接に国家が補助を与える、こういうことが私は是非必要だと考えるのであります。この補助を与えるのは出し放しではなくして、若し日本船が国際競争に打敗ける、外国船で運んだほうが安く、能率的に運搬されるということになりますと、やはり荷物が外国船に多く食われます。併しながら日本船でこれを運びますと、政府財政的な補助を仮に与えましても、これは日本全体として見ます場合に、日本船で運んだ運賃は日本船が受取るわけでありますから、日本の財産として帰つて来るわけでございます。決して出しつ放しというものにはならない。こういう観点から、国会にも慎重な海運補助政策に対する審議をして頂きまして、少くとも重要費目の中に一つぐらい海運という海の字が入つてもいいのではないかというふうに私は考えるわけであります。更に海運と密接な関係のあるものといたしまして港湾施設がございます。幾ら優秀な船ができましても、海湾施設が非常に悪いとこれは到底円滑な海運の発展を望むことができないわけでございます。ところが、港湾施設事業費が約四十二億、北海道関係の港湾施設費がこれは別口になつておりますが、六億、災害復旧の経費として三十一億が計上されておりまして、しめて約八十億円でございますけれども、これも公共事業費の総額に対しますると僅か八%でございます。日本の国は四面海をめぐらしておりまして、非常にたくさんの島々がございます。又海岸線が複雑でございまして、この港湾施設に対する費用というものは非常に大きな力を注いで差支えのない問題でございます。本来長距離におきましては、海上運賃のほうが陸上運賃よりも安いというのが建前でございますけれども、現在は海上運賃が高くなつておるというその大きな原因は、港湾における能率が非常に悪い。そのために諸経費がかかるということも一つの原因になつておるわけでございます。クイツクデイスパツチ港湾荷役の能率化ということが極めて重要な政策でございます。現在国内的に比べまして、海運の運賃が高いと言われておるのは、国内輸送の場合でございますが、鉄道とのやはり比較において論じられますけれども、鉄道においては政策的見地から極端な長距離逓減によるところの一種の政策運賃をとつておりまして、近い距離のほうが高く、遠くなればなるほど安くなるのはよろしいけれども、それが極端に安くなつておる。長距離輸送だけでは国鉄の収支が賄えないというようなことで、一つの政策運賃をとつております。これと比較いたしますと、海上運賃というものは高いということになつておるのでありますが、陸上輸送の国鉄にそれだけの形をとるならば、海上運賃におきましても長距離を輸送しても安く運べる方法を講ずる、但し現状のまま放置しておきましたのでは、海上運賃を安くいたしますと、忽ち破産するような状態になりまして、どうしてもこの際港湾施設の改善に対してもつと多く費用を投ずるということと、外航のみならず内航に対しても積極的な海運助成政策を作るべきである、かように考えますが、この内航面について重要な輸送の一端を担つておるのは機帆船です。俗に木船と言われております機帆船でございますが、これは全く放置状態にございます。やつとこさ木船再保険というものができましたが、木船再保険に入つておる機帆船は僅かに一割程度でございまして、非常に零細企業であつて脆弱な基礎に立つておる、これを放つておくということは、日本の国内輸送という点が海と切離しては考えられないことからしまして問題であろうと思います。帆前百まで馬車九十九までということが言われますが、陸上の馬車に比べて海上の機帆船は国内の近距離輸送、内国輸送に重要な役割を果しております。殆んど一杯船主、零細船主で、零細船主が船を潰すと代船の建造もできない、現在非常に木船の価格は高くて、幾らかかるという標準のコストさえ生まれない状態にございます。そこでやはり政府といたしましては、この木船に対しましては、例えて申しますれば木船金融公庫法というがごときものを設けまして、市中銀行に相手にしてもらえないこういう零細船主に対して助成政策を考える、こういうことも当然予算面の措置として考慮が払われて然るべきであろうというふうに思うのであります。これらの海運経費は先ほども申上げましたが、現在予算面に上つております費用は締めて僅か一億六千万円で、総予算額の六千分の一ということを申しましたが、保安庁の経費八百三十億に比べまして僅かに五百分の一でございます。私は海運のほうの立場にございますので、海運の問題を取上げたわけでございますが、こういうことは予算全般を眺めましても随所に指摘し得るのではないかというふうに考えます。結局現在日本のとつておる政策というものが非生産的の支出に非常に重点をおかれまして、日本を平和的に再建する、このように重要な海運というものに対しても、保安庁の経費の僅か五百分の一しか助成補助を行なつていない逆立した政策をとつておるのではないか、このように考えまして、非常に現在の提出されております予算案というものはそういう点で逆立しておる、もつと非生産的の支出を削減して、そうして日本の産業を発展させるということに対して重点的な予算案を組んで、財政政策を立てるということが当面最も緊要なる施策ではないかというふうに私は主張いたしたいのであります。  以上要点を申上げましたが、説明の足りない点もあろうかと思いますが、海運という立場から本年度予算案について申上げ、特に以後に一般的な見解を附加えまして私の公述を終ります。
  26. 左藤義詮

    ○理事(左藤義詮君) 質問ございませんか……。  次には全日本中小工業協議会委員長中島英信君にお願いします。
  27. 中島英信

    公述人(中島英信君) 私は只今御紹介頂きました全日本中小工業協議会の中島でございます。財政のことは勿論素人ですからよくわかりませんが、日本のように貧乏で、不安定な経済を土台にして予算を作るということはなかなかむずかしいことであると存じます。併し国家がどれだけ金を集めて、どういうところにどれだけ金を使うかということは、我々国民生活に非常に大きな影響を及ぼすわけであります。そういう意味で私も中小企業者の一人として、又国民の一人として、この予算の内容に対してはいろいろな関心を持つわけであります。  本年度の予算をちよつと拝見して感じましたことは、一つは、やはり財政の規模が前年度よりも大きくなつているということであると思うのであります。これは予算の説明書によりますというと、予算の総額は増加しておるけれども、国民所得に対する率は大体同程度だということになつているようであります。併し前年度における国民所得と予算総額との比率が妥当であつた場合には勿論大した問題はないと思うのでありますが、我々がこの数年来絶えず言つて来ましたことは、今日の国家財政というものが、現在の日本の経済全体に与えている圧迫というものは相当に強いものである。そういうことが同時に中小企業の関係にもいろいろな面で響いて来ておるわけであります。そういう意味で、この根本的な考え方としては、やはり国の予算を作る場合には国民経済の現状とその根本的なあり方というものに即応して立てなければならないのではないかと思うのであります。  それからもう一つ特に気が付きます点は、従来よく言われておりました超均衡予算というのは、今度はこの形を変更されたようであります。そうして終戦後初めて公債政策が取上げられている。それで民間の資金を集めるわけでありますが、これをどこにどうするかということが我々としては非常に大きな問題であります。その内容を見ますというと、これはやはり従来通り大企業を本位にした方面にこの金が流されているということを言わざるを得ないのであります。大体従来の日本の経済の動き方を見てみますというと、終戦直後いろいろな企業が非常に困難な状況に陥つているときには、インフレ政策を以て当然倒れるはずの大企業までもこれを救つた。大体建直つて来たところで今度は引締めの政策に変つて、大企業の立場を安定させるような、むしろ企業整備という形で以てその地ならしが行われた。それが一応済んだところで再び大企業に向つてその金を投じて行くというようなことになつておりまして、その形は違つておりますけれども、終始一貫してその傾向を辿つて来ておる。そういう点から見まして、私はそういうような行き方が果して正しいかどうかということに対して非常に疑問を持つわけであります。御承知通り日本の経済は非常に不安定でありまして、資源は極く僅かしか持つていない。市場の関係も、国内市場も海外市場も非常に狭い。こういうところで以てただ企業の規模が大きくなつて行く、或いは生産が集中されて行く、そうして独善的な企業ができて行くというような形をとつて、それで日本の経済が果して安定するかどうかということに非常に疑問を持つわけであります。結局物をたくさん作り出しても買手がなければこれは売れないわけです。それで物をたくさん作れば、買手を探すためにどうしても無理をするという結果になつて来ますから、再び戦争前と同じような経緯の状況というものをそこに繰返して行くことになると思うのであります。その意味で、私どもといたしましては、勿論必要な部門については非常に強力な大企業が必要であると思います。相当に強力な資本を以て仕事をすることも当然必要であるということは我々としても認めるわけであります。併しそれをあらゆる産業部門に、あらゆる点に亘つてまで、そういつた形で進めるということになりますならば、却つてこれは日本の経済をますます不安定にして行くのではないか、今日のような市場の状況から見まして、又もう一つは、正本の非常に過剰な労働力をどうするかという点から言つて、すべての労働力をできるだけ生産的なほうに向けて行く、そして作り上げたものが国家の経済を十分に潤おすという形にならなければならないと思うのであります。そういう点から見まして、ただ形の如何を問わず、生産を増して海外市場だけを狙うという形では到底立つて行けない。これは現在の日本の状況を見れば極めてはつきりしておると、そういうように私らは考えます。やはり新らしい観点としては国内の経済の仕組を変えて行く、そして国内における経済の循環についても、従来の形よりももう一歩進めて安定を図らなければならん。その場合にやはり一番重要な役目を持つものは、我々としては中小企業というものを見逃してはならんと思うのであります。勿論私らは中小企業の一人として中小企業の立場だけを主張するものでは勿論ないのであります。この予算を作る場合に、各省が分取り主義でやるというようなことは国民としては非常に嫌な気持を持つておる。同じように国民の中にそれぞれの分野にあるものが、自分の立場だけを主張しておるということではこれは収まりがつかんと思うのでありますが、私らとしてはその意味ではやはり一応中小企業の立場と同時に日本の経済のあり方というものを考えて行くわけでありまして、決して中小企業だけの立場から自分らに都合のいいようにしてくれという、こういう意味ではないのであります。要するに私の申上げたい点は、日本の経済を本当に安定さして行くという見地からいたしまして、徒らに大企業偏重の方針ではそれができないのではないかということを申上げたいのであります。それで今度の予算は、先ほど申しましたように、そういう見地から見た場合には、従来の予算を作つて来たのと同じような方針で以て、そういう日本の経済の根本的なあり方についての反省と検討を欠いているという感じがするわけであります。先ほど申しましたように、例えば民間から国債で以て金を吸上げると、これは結局財政投資という形で以て大部分民間の産業に流れて行く。若し自由経済を建前にするならば、民間の資金は直接民間企業に流れるべきであり、これを国家を通じて流すというのはどういうわけであるか、私はそのこと自体必ずしもいいとか悪いとかいうことは言わないわけでありますが、若しそういう必要があるとするならば、国家の手を通じてそういうことをするならば、そのときに国家的な立場から公正な資金の配分をするというときに初めてそのことに意義があると思うのであります。そうでないならば、民間の資金というものはやはり民間の企業に自由に流れさしておけばそれでいいということになると思うのであります。こういう点で、この財政投資の内容を見ましても、中小企業公庫に百五億、その他国民金融公庫に二百三十九億という数が上つておりますけれども、全体から見て二千四百一億のうちで、これの占める割合というものは一割にも満たないというような状況であります。その他の費目を見ましても、例えば住宅公庫のようなものであるとか、厚生住宅のようなものもありますけれども、又農林漁業公庫のような費目もあります。仮にこういうような費目を除いてみても、やはり大部分の金は殆んどこれは大企業に向つて流れておるという状況である。大体大企業というものは放つておいても実際に立つて行く力を持つておるわけであります。そういうものに更に力を入れてこれを育成する、そして、実際には或る程度の調整或いは助成を必要とする方面においてこれが閑却されているということを見ないわけには行かないのであります。そういう点から見まして、私らとしては、その他の一般会計の費目を見ましても非常に生産的なものが少い、これは先ほどどなたかも言われましたけれども、そういう点もある。それでこの財政の規模というものは 日本の現状から見ればこれをできるだけ小さくして、これを一方では減税に廻し、そして他方では消費的な支出はできるだけ生産的な方面へ廻す。この生産的な方面へ廻す場合に非常に均衡のとれた形でやるべきである、こういうふうに考えるわけであります。日本の基本なつている経済政策の中で中小企業が非常に閑却されておるということは以上のような点から見ることができると思うのであります。  少しこれを国際的な見地から見ますというと、アメリカのような国でも、各行政官庁にはあらゆる部門において中小企業に対する措置をやるところのものが揃つておる。商務省には中小企業部があります。それから国家生産庁にもあります。それから小工場国防庁がある。復興金融会社にも中小企業部があるというふうに、十分に中小企業に対する施策に頭を入れておる。又アメリカは海外投資をやるためには相互安全保障庁のようなものを持つておる。この中にはやはり中小企業部というものが置かれておるわけです。これらの中小企業部の人々が海外というときにはやはり日本もその中に入つておる。而も日本の中小企業の資金の充実をやる場合にはどうするかということも、やはりこれらの人は考えておる。こういう場合に、アメリカの人々に日本の中小企業の問題を考えてもらう前に、やはり日本の国家として日本の政府として、もう少し真剣にこういう問題を考える必要があるのではないかと思うのであります。単にこれはアメリカだけでなしに、やはりヨーロツパのほうを見ましても、例えばベルギーなどを見ましても、ベルギーでは一九四八年に経済組織法を作つて経済の振興のために施策をしておる。その翌年の一九四九年には中小企業最高会議法というようなものを制定して、やはり中小企業に対しては経済的な、又政治的な意思表示の場所を与えておる。中小企業最高会議法というのは若干意訳でありますけれども、コンセイユ・シユパリアール・ド・クラス・モアセンという名前でなつておりますが、中間階級という言葉はベルギーの場合は実際は中小企業を指しておるわけであります。従つてこの実態は中小企業最高会議という形をとつておるわけでありますが、そういう意味において非常に重要な役割を示して、中小企業が国民的経済の中に非常に重要な役目を持つておるということをはつきりと認めて、それに対する適切な施策をとつておる。そういうことはオランダにも見ることができますし、或いはドイツ、或いはフランス等におきましても、こういつた点に対する施策というものは日本よりもやはり進んでおる。こういう一般的な国際的な見地から比較して見ても、日本の政府の中小企業対策というものは非常に立遅れをしておる。その立遅れしておるところの経済政策をバツクにして、その上に予算が立てられておるということを我々は言いたいのであります。ですから中小企業に関係する一般的な予算としては、共同施設に対して二億円が出ておる。その他補助費として五千六百万円ほどの金が出ております。両方合せて二億五、六千万の金である。又労働省関係の予算では、労働省が最初原案を作つたのは中小企業関係の技能者養成の費用として一億八千万ほどの案を作つた。それがだんだん減らされて行つて、最後に予算でどうなつておるかといいますと、僅かに一千万円になつております。十八分の一に減らされておるわけであります。非常にこれは地味な問題ではありますけれども、日本の経済という見地から見ても私は非常に重要な問題であると思うのであります。まあ外国の例を引くのはあまりよくないかと思いますが、これもヨーロツパの各国において、殆んどどの国も例外なく技能者養成に対しては十分な補助費を出して、これを助成しておるのであります。これによつて初めて零細技能に至るまで技能者の水準を高め、生産の質を高め、それによつて国民に供給する物資の質もよくなるし、又外国にものを輸出をしてもクレイムの付くようなことは非常に少ない。外国の製品と競争しても堂々とこれと立向つて行け、るようなものを作れるということは、基本的にこういうような政策がとられておるからであります。それに比べますというと、最初一代八千万の案が作られた、それが削りに削られて最後には僅かに一千万円になつておる。こういうような、重要ではあるけれども地味な問題というものには一顧も与えようとしないという傾向が見られるのであります。そういうような点を見まして、結局私たちといたしましては、この国会で審議をされる場合に、そういう基本的な面及び具体的に現われて来る予算の両において十分慎重に御検討を願いたい、こういうふうに考えるわけであります。  なお細かな問題についてはいろいろ意見がございますけれども、大体予定の時間が来たようでございますからして、私の申上げようと思つた要点だけは申述べたつもりでありますからして、私の陳述はこれで終ります。
  28. 左藤義詮

    ○理事(左藤義詮君) 御質問ございませんか……。  公述人のかたがたに御挨拶申上げます。各公述人の諸君は非常に御繁多の中を御出席下さいまして、我々が予算を審議いたしますのに大変有益な参考になります御意見を御陳述頂きまして大変有難うございました。謹んでお礼を申上げます。  本日はこれにて散会いたします。    午後三時五十一分散会