○兼岩傳一君 私は
日本共産党を代表して、
スト禁止
法案について
質問をいたします。
政府は、本
法案が
公共の
福祉を守るためのものだと
説明しておるが、一体、
政府の言う
公共とは誰を指すのか、先ず第一にこの点について吉田首相の明快なる
答弁を求めるものであります。街を御覧なさい。現在、一日二時間、一週二回の昼間
停電で
国民は大変な損害を受けておる。家庭ではアイロンもかけられず、電熱器も使えず、中小
企業家は仕事にならないため、一層ひどい金詰りに陥
つて、倒産の危機にさらされておる。この電力危機は一体どこから来ているでしようか。今、
日本では年間四百十八億KWHの電力が
生産され、これは戦前の最大の電力量を更に二割も上廻る電力量ではありませんか。こんな大量の電力が
生産されながら今日の電力事情は、
国民の全く理解できん
ところです。
政府は口を開けば渇水であるとごまかしておる。併し米軍
関係や軍需工場を御覧なさい。これらに対しては、市民の損害をよそにして、思い放題の
電気が流されております。その分量は驚くなかれ電力総
生産量の七割に及んでおります。例えば
昭和電工への送電を一日切れば、これで東京全部が明るくなるのです。而もこの
昭和電工たるや、この一社だけで関東地方の電力の一割以上を使
つて硫安を
作つておりますが、不届きなことに、その硫安を東南アジアに一叺六百六十円で投売りをしております。そうしてその損失を補うために、
日本の農民に対して八百八十円という高値で売
つておるではありませんか。この不合理を
総理や通産大臣は
日本国民に何と
説明されるでしようか。(「聞かんぼうがいいぞ」と呼ぶ者あり)
殊に重大な点は、昨年の電産
ストの際に、
政府や
資本家団体がどういうやり方をし、何と宣伝したかです。会社側は、軍需会社への送電を確保しながら、市民向けの
電気だけを切らせて、市民の生活を暗くさせ、あたかも電産労組が
公共の
福祉を害したかのごとく騒ぎ立てたではありませんか。(「謀略だよ」と呼ぶ者あり)今、渇水期にな
つても、米軍
関係や軍需工場をとめようとしないで、平和
産業や市民だけに迷惑をかけながら何
一つ謝まらない。口を拭
つて知らん顔をしておるのみか、
公共の
福祉などと都合のいい理屈を付けて、電産
労働組合から
ストと
権利を
剥奪しようとしておる。而も、先に大山郁夫先生の指摘されたように、これらの米軍
関係や軍需工場は、日米行政協定の取極によ
つて、一キロワツト時の原価三円五十銭のものを催か五十五銭で買
つておる。これに反し、肝心の
日本側の中小
企業や市民には八円から十六円という驚くべき高値で売
つておる。これによ
つて会社は一割五分という高率の利益配当ができ、大々的に電源開発を進めておる。例えば東電は、東京の月島で二十万キロワツトという東洋一の大火力発電所を建設しているではありませんか。それのみか、外資導入のために更に三割の
電気料金の値上げをもくろんでおる。そうして
労働者に小しては首切りと労働強化を押付けております。例えば朝鮮
戦争前に一人の電産の集金係の一カ月の料金票千二百枚の
責任が、今ではその七割増しの二千枚にな
つているではありませんか。
私は吉田首相に質したい。
政府が国の宝と宣伝しておる電力は、私が以上指摘したように決して
日本人の国の宝にはな
つておらんではありませんか。
政府は電力の七割までをただ同様の値段で米軍と軍需工場に使わせ、
日本の市民には高い
電気料を、
日本の農民には高い硫安を、電産
労働者には低賃金と労働強化を押付けておる。そうして、この国辱的な経営を安穏に続けるために
労働者の
ストライキを禁止しようとしておるのが今回の
法律案なんです。
従つて政府の守ろうとしている
公共の
福祉は、
日本人の平和な生活の
福祉ではなくて、アメリカ帝国主義者の
福祉、アジア侵略
戦争の
福祉、その
日本における少数の召使
どもの
福祉であることは、今や明かな事実ではありませんか。これに対して吉田首相、
小笠原通産大臣の明快な
答弁を求めます。
第二は、
石炭産業の問題であります。今、
日本の
石炭は電力と同じように、国内ではトン二十ドルのものを、米軍
関係や軍需工場及び朝鮮戦線には元値を切
つてトン当り十六ドルの値段でどんどん持
つて行かれ、激しく増産が要請されております。そのため、朝鮮
戦争以来、目に見えて労働強化がなされました。三年前、一カ年四千五百万トンの採炭量が、翌年には四千八百万トン、そうして次には五千万トン、今年は六千万トンに殖やされております。これに反して賃金は一向に殖えないのみか、昨年十月一日の総選挙で自由党が過半数を取つたその日に、鉱業連盟は炭鉱
労働組合に対して二〇%の賃金切下案を示して来た。即ち
資本家は、同一の賃金で労働強化によ
つて二〇%の増産をやろうとしたのです。(「違う違う」と呼ぶ者あり)そうしてこの増産が、朝鮮戦線に、より安い
石炭を、より大量に提供しようとしたものであつたことは明かでありませんか。
では、この当時の炭鉱
労働者の模様はどうだつたか。一例を挙げてみると、この当時もうすでに
労働者は坑内でゆつくり昼飯を食べるだけの時間がありませんでした。このため、妻は夫の弁当箱に入れる魚の骨を一本々々取
つて詰めなければならなかつた。そうしないと、夫が魚の骨を喉に突き刺す危険があ
つたのです。(
笑声、「笑い事でない」と呼ぶ者あり)この妻は
曾つて父が太平洋
戦争のためにこのようなひどい労働強化をやらされて死んで行つたことを忘れることができません。そうして今又、夫がそれと同じような目に会
つている。これはただごとではない。米国と吉田
政府が大
戦争を企らんでいるに相違ない。
労働者の家族たちは、「父ちやんを殺すな」と叫び、妻は夫と共に、母は息子と共に起ち上り、こうして
日本の労働運動史上曾てない二カ月余に亘る炭労の大
ストライキが起
つたのです。週に十五時間を超える超過勤務で苦しんでいた電産
労働者も、これと共に蹶起しました。この電産、炭労の闘いを中心に、自動車、私鉄、国鉄、金属の
労働者及び基地
労働者など、およそ
日本の組織された
労働者はすべて起ち上り、曾ての二・一
ストを凌ぐ大闘争に発展しました。ここで危殆に瀕したのは誰でしよう。それは
戦争のための、アメリカのための
公共の
福祉ではなかつたでしようか。だから狼狽した米
政府が、例えば
石炭に換算して二百万トンに相当する重油の輸入を押し付けて
ストライキを切り崩そうとしたではありませんか。又、この
ストライキで守られたものは何でしようか。それは平和のための、
日本の
独立のための
公共の
福祉ではなかつたでしようか。だから全世界の
労働者が支持し、中国をはじめ世界労連加盟の
組合は勿論、アメリカのAFLの炭鉱
労働組合からさえも一万ドルの見舞金が送られているではありませんか。こうして、職階制賃金の打破、食える賃金を寄こせで立上つたこの
ストライキが、全
国民の生活を困苦のどん底に落しておるアメリカと吉田
政府の
戦争政策と真つ向から対立したのは当然であります。この
ストライキの先頭に立
つて闘つた炭労、電産の
労働者こそ、吉田
政府と自由党がアメリカに売渡した
日本の
独立を闘い取るための、真に愛国的な行動であ
つたのであります。
私は吉田首相に求める。あなた方売国
政府は、
労働者の愛国的な大
ストライキの闘いが恐ろしくて今回
スト禁止
法案を提出したということを、隠さず率直に認められてはどうか。若し吉田首相の胸に一片の
政治的良心が残
つておるというなら、そうすべきです。若しそうでないというなら、その理由を
日本国民の納得の行くように
説明してもらいをい。而も
政府は、この
法案の第三条で、保安施設を守るために
ストライキを禁止するのだ、保安要員の引上げは不法
行為であると強弁をしております。一体、
日本の炭鉱に、厳格な
意味から見て、本当に
労働者の生命を守る保安施設があるというのでしようか。そして
労働者の不注意を責めている。私はこの点について戸塚
労働大臣の
説明を求めたいのであります。炭鉱
労働者は、保安施設らしいものの何もない職場で怪我をして、毎日三百人が片輪になり、毎日平均二人が死んでいるではありませんか。その一番皮肉な例が最近九州の三池炭鉱で起きています。そこで会社が事故なしデーを祝
つてどんちやん騒ぎの最中に、一人の
労働者が炭車に挟まれて死んだのです。ソヴイニトのドンバス炭鉱を御覧なさい。そこでは、
労働者にと
つて一番苦しい、一番危険な採炭作業を機械化することに成功しております。炭鉱
労働者と、技術者と、
政府の
協力によ
つて、輝かしい採炭コンバインが発明されたのです。そして今やそれは全ソヴイエトの炭鉱に普及されています。これこそが本当の保安施設です。飽くなき利潤の追求のためには平気で国を売
つて戦争をやるやからには夢にも
考えられぬことなんです。これは決して科学技術の問題ではなくて、まさに
政治の問題です。今、
日本の炭鉱は、会社の特別訓練を経た職場防衛隊が保安要員とな
つて、発電所、通風機、ポンプ、切羽などを固めています。これは、
労働組合がみずからの手で保安施設を改善し、これを守ることを防ぐために、鉱山の拠点を
資本家自身の手で固め、貴重な
石炭資源と、
労働者の血と汗を
戦争政策の犠牲にしているのです。私は戸塚労相及び木村保安庁長官に対し、この第三条の真の狙いを明かにされることを求めたい。これは
戦争に反対する
労働組合の一切の行動を弾圧するために武装権力を差向けるための
規定でしよう。現に昨年の十二月、九州高松炭鉱で
緊急調整の発動後に、なお独自の要求を掲げて
ストライキを続けていた
ところ、
政府は武装警官を差し向けて山を占拠し、棚を張りめぐらして、
労働者を山から追い出したではありませんか。
政府は将来
ストライキの規模に応じて、保安隊を、或いは米駐留軍を出動させること、これがこの
法律案提出の
政府の真の狙いであることは明瞭です。然りとすればこの
法律案は、以上によ
つて明かに、ポ宣言、
憲法に
違反し、基本的人権を蹂躙し、民主主義の原則に逆行するものであり、
従つて法律として無効であります。
今アメリカにおいてアイク政権が成立し、朝鮮の
戦争を全アジアに拡大しようとする陰謀が着々進められ、ダレス国務長官が吉田首相に再軍備の拡大を強要し、そのため池田前通産相が渡米すると伝えられている矢先に、この
法律案が提出せられたことは、決して偶然ではありません。先に輸送、通信の
労働者から
スト権を奪い、今、
電気、
石炭等、動力部門から
スト権を奪い、やがて私鉄、鉄鋼、造船に及ぼうとしているのは明かです。これこそが再軍備でなくて何でしよう。なぜならば、この体制を作り上げれば、あとは、
憲法の改正も、徴兵制度の施行も、天皇制の強化も、そして全
国民を米帝国主義者の企てている大
戦争に投入することも、ずつと容易になるからであります。なぜならば、
日本の
独立と平和を守る民族の中心部隊たる
労働組合の
ストライキ闘争が弱まるからであります。曾て中国侵略のいわゆる支那事変が開始され、
労働組合が産報化されて、
ストライキの
権利を失つたとき、あの憎むべき太平洋
戦争が起されたことを想い起すべきであります。併し今日の
日本の
労働者階級は、
曾つての過ちを二度と犯すものではありません。今や
日本の
労働者は、アメリカと吉田
政府の
戦争政策のための低賃金、首切り、労働強化に反対して、春季大闘争に起ち上りつつあります。そして実力を以て
政府の意図を粉砕しようとしています。私は
日本共産党を代表して、全
労働者階級をはじめ、平和を愛する全
国民と共に、このような悪法の即時撤回を要求して、吉田
総理大臣以下の誠意ある
答弁を求める次第であります。(
拍手)
〔
国務大臣緒方竹虎君
登壇、
拍手〕