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1953-01-30 第15回国会 参議院 本会議 第18号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十八年一月三十日(金曜日)    午後三時三十八分開議     ━━━━━━━━━━━━━  議事日程 第十七号   昭和二十八年一月三十日    午後三時開議  第一 国務大臣演説に関する件      ——————————
  2. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 御報告いたします。  一月四日、雍仁親王殿下が薨去あらせられましたので、同日、議長は、本院を代表して、皇居に参内いたし、御弔問申上げました。  又去る十日、議長は、千代田区三番町宮内庁分室におきまして弔詞を奉呈いたしました。  その他諸般の報告は朗読を省略いたします。      ——————————
  3. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) これより本日の会議を開きます。  この際お諮りいたします。島清君から十五日間、高良とみ君から三十日間、それぞれ海外旅行のため請暇の申出がございました。いずれも許可することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 御異議ないと認めます。よつて許可することに決しました。      ——————————
  5. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) この際、日程に追加して、土地調整委員会委員の任命に関する件を議題とすることに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  6. 佐藤尚武

    ○局長(佐藤尚武君) 御異議ないと認めます。  去る二十七日、内閣総理大臣から、土地調整委員会設置法第七条の規定により、青沼亜喜三君、佐野憲次君を土地調整委員会委員に任命することについて、本院の同意を求めて参りました。本件に同意することに賛成諸君起立を求めます。    〔賛成者起立
  7. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 過半数と認めます。よつて本件は同意することに決しました。      ——————————
  8. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 日程第一、国務大臣演説に関する件。  吉田内閣総理大臣岡崎外務大臣向井大蔵大臣及び小笠原国務大臣から発言を求められております。順次発言を許します。吉田内閣総理大臣。    〔国務大臣吉田茂登壇拍手
  9. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 第十五国会休会明けに当り、政府所信を述ぶる機会を得ましたことは、私の最も喜ぶところであります。  皇太子殿下には、昨年立太子の礼を滞りなく終えさせられ、今春は天皇陛下の御名代として英国女王陛下戴冠式に参列遊ばされる予定であり、なお、これを機会欧米諸国を御歴訪遊ばさるるよう承わつております。この御旅行によつてますます知見を広めさせられると共に、友好諸国との国交の上にもよい影響をもたらさるることと信じ、慶賀に堪えない次第でございます。  独立後最初の予算案を提出するに当り、先ず以て国民諸君に訴えたいことは、独立日本としては、自由諸国との提携、なかんずく対米親善関係を一段と緊密にし、力を国連協力に致し、以て世界平和への貢献をなすことであります。米国においてアイゼンハワー氏が新たに大統領に選ばれ、ダレス氏が国務長官に就任せられたことは、米国アジアに対する関心を語るものであり、日米関係の将来にも新らしい希望を感ぜしむるものであります。  併し日米関係を緊密にすると同時に、独立日本として、占領中の施策中、行過ぎの感あるものに対して、又は占領中必要にしてその必要の去りしものに対しては、この際これを是正するは当然の措置でなければならぬと考えます。  道義昂揚治安確保国民生活の安定は、組閣に際し政府政策基調として声明したところでありますが、道義昂揚は、究極において教育の作振に待つほかありません。政府が今回義務教育費全額国庫負担を決意し、教育職員国家公務員とするの措置をとるのは、この故にほかならないのであります。(「道義の高揚と何の関係がある」と呼ぶ者あり)勿論、道義昂揚各種施策総合によらなければなりませんが、政府は今回の施策により義務教育の面目の一新を信ずるものであります。  政府治安確保のため警察制度改革を必要とし、近く案を具して国会の協賛を求める考えであります。現在の警察制度は、占領下警察制度民主化の名の下に作られた制度でありますが、国警、自警の区別は、往々にして両者の連絡を欠き、警察目的達成に不便を来たすことなしと限らないのであります。今回の改革目的は、叙上の欠陥を是正し、旧弊の復活を戒めると共に、効率的警察制度を確立せんとするものであります。  昨冬行われた電産、炭労の両ストは、我が国において空前のものであつたばかりでなく、外国においても多くその例を見ない長期大規模のものであり、幸いにして潰裂前一歩にこれを収拾し得たのでありますが、而も、その一般国民生活に与えた脅威と損害とは実に甚大なものがあります。政府は、今回、この種スト影響を少くするために、公共的性質を有する産業の争議に対し適当の制扼を加えることを考え、今国会中に提案する所存であります。  行政機構簡素化行政運営能率化は、前内閣以来の宿題として、政府は欠員不補充の措置を引続き強化し、配置転換等によつて事務能率を上げておりますが、更に一歩を進め、極力行政事務並びに機構合理化を図りたい所存であります。地方制度についても再検討を要するものは一にして足りませんが、政府中央地方有機的関係を密にすることを主旨として、目下、地方制度調査会に諮問中であり、その答申を待つて改正を実施するつもりであります。  以上、占領政策の是正と共に、(「行政協定はどうした」と呼ぶ者あり)政府財政の許す範囲において旧軍人の恩給を復活することにいたしました。併しながら、旧軍人とはいえ、その九八%は普通軍人以外の応召軍人とその遺族であり、総額の九二%は遺族扶助料であるのであります。国の再建に当り、先ず古い創痍を医するのは、思うに当然のことであり、戦争責任を永く旧軍人にのみ「しわ」寄せするのは、社会平和をもたらすゆえんでないと考えたからであります。これに伴い留守家族の援護についても更に強化することにいたしました。  一般国民の福祉については、政府の夙に意を用いて来たところで、今回国民健康保険充実強化するの措置を講ずると共に、従来の健康保険についても、その適用範囲を拡大する等の施策を行うことにしたのであります。  政府は、更に、人口問題が独立日本前途に横たわる重大にして深刻なる課題なるに鑑み、その解決の一助として移民問題に対し適当の措置を講ずるつもりであります。  若しそれ二十八年度総予算については、後刻、大蔵大臣より説明をいたしますが、独立再建の首遂に当り、主力を国家経済自立国民生活の安定に注ぎますることは言うまでもないことであります。政府が乏しき財源を、電力の開発道路交通網の整備、(「軍事道路」と呼ぶ者あり)食糧の増産に重点的に配布し、又、特に中小企業振興を強力に推進したのは、この故にほかなりません。防衛費に関しては、不要になつ安全保障諸費を削除すると共に、よつて生じた余裕の一部を、保安隊訓練強化、装備の充実に充て、以て保安隊目的達成に遺憾なきを期するものであります。  思うに、独立日本前途は容易でありません。政府は、当面する危局を克服し、国の将来を開拓する上に不断の努力を傾けております。諸君におかれても政府の意のあるところを諒とせられ、厳正なる審議を尽されんことを希望いたします。(拍手
  10. 佐藤尚武

  11. 岡崎勝男

    国務大臣岡崎勝男君) 先般、本国会の冒頭、外交方針一般について所信を明かにいたしました。即ち、我が国外交政策基調は、国際連合協力し、自由民主主義諸国提携し、以て世界の平和と繁栄に寄与し、且つ自国の安全を図るにある旨を申述べたのであります。爾来、国際情勢を観察いたしますのに、世界戦争の危険は一応遠のいたかの感がありますが、共産陣営側の態度は依然として改まらず、我々としては、その脅威について、更に明確に認識すべきものと考えるのであります。  即ち、いわゆる冷たい戦争世界各地で行われておりますが、アジアの一部では、これが実際上の戦闘行為にさえ発展しております。共産主義浸透戦術により、或いは直接の武力行使により、結局、力を以て圧服され、全く自由を失う人々のあるのを見るのは、誠に忍びないことであります。(「大きいことを言うな」と呼ぶ者あり)欧州共産主義国中には、すでに、かかる圧力に反撥する傾向も現われておりますことは、最近の相次ぐ粛清の事実より見ても推察に難くないのでありますが、アジアにおきましては、事態は多少異なるのであります。多年、植民地とされ、帝国主義の犠牲となつたと考え諸国が、この際、完全なる独立を回復し、自国の資源は自国の利益のため開発せんと主張する等は、自然の勢いとも言うべきであります。これは、元来、民族的国家的運動であつて共産主義とは何ら関係ないわけでありますが、共産主義者は、ややもすれば、かかる運動をその革命方式と一体なるやに装い、澎湃たるアジア独立運動が、あたかも共産主義の勃興であるかのごとく宣伝するに努めているのであります。民衆も一部には、これに迷わされている者もありますが、我々としても右は特に注意すべき点であると考えます。  我が国民が共産主義に同調しないことは、すでに明かであり、従つて我が国自由愛好国一員たるべきことは当然の帰結であります。然るに、いわゆる中立論なるものも世上に行われておりまして、我が国の進むべき方向につき、国民の一部に疑いを起さしめておる感がありますから、これに対し考察を加えたいと存じます。  各共産主義国におきましては、その基礎がやや固まらんとするや忽ち粛清が行われますことは、過去においても現在においても全く同様であります。当初は、いわゆる統一戦線或いは人民戦線と称して各方面の分子を組合いたしますが、漸次、異分子を清算して、最後には完全に共産主義一色となるのであります。これは国民のすべてを「敵か味方か」に区別するやり方でありまして、中立又は第三勢力のごとき存在を許さないのがその実情であります。かかる事情は、国家間においても同様であります。現在の世界情勢におきましては、国民の自由を守る国家か、自由を認めない国家か、究極においては漸次そのいずれかになつてしまう大勢にあります。従つて中立論なるものは、抽象的な理論としては成立ち得るのでありますが、現実事態は、たとえ、こちらが中立を唱えても、相手方はこれを認めないということになるのであります。(拍手)このような切実なる事実に直面することをなさず、あいまいなる中立論を唱えても、それは自己を欺瞞するに過ぎずして、問題の解決とはならないのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり、拍手)若しそれ、国を共産主義侵略に売り渡さんとして中立を唱え、防備の不必要を説くがごときは、もとより論外であります。  而して、更に考慮を要するのは、国家間の争いが単に当事国の利害にのみ関係する局地的のものである場合には、その紛争に巻き込まれず、局外に立つことも考えられるのでありますが、国際間における今日の争点は、共産陣営侵略に対し、自由国家群集団的自衛をなさんとすることに発しているのであつて、その規模世界全体に及び、争いの中心は二つの世界観の相違に根ざしているのであります。而して、そのいずれに正義があるかは、おのずから明かであります。この際、我が国が自由と正義に組して、これに一臂の力を添えるにあらざれば、民主主義国家結束は乱れ、世界平和の維持も困難となり、その結果、更に災いは我が国自体にも及ぶのであります。徒らに中立を唱えて現実を逃避し、尽すべき義務をも免れんとするがごときは、卑怯であるばかりでなく、遂には平和国家維持せんとする精神的支柱をも失い、国民をしてその行くところに迷わしめる結果ともなるのであります。(拍手)よろしく我々は、堂々立つて自由国家提携し、その一員として世界平和の維持に尽すべきであると信じます。(拍手)  なお、自由なる独立国家としての一つ義務は、国民が可能な範囲において自国の安全をみずからの手によつて守り、できるだけ他国の世話にならぬという点にあります。政府は、かような見地から、今般保安庁経費を相当増加計上しておりますが、これは諸外国においても十分理解し賛同せらるるものと信じて疑いません。  なお、近来北海道上空において、外国軍用機による領空侵犯が行われたのでありますが、これは単に国際法上の不法行為であるにとどまらず、我が国の安全に重大な影響を及ぼすものでありますので、駐留米軍協力を得てこれを排除するために必要と認められる措置をとることにいたしました。独立国として領空権を守ることは、いずれの国家にも認められているところでありまして、当然の措置をなしたに過ぎません。各国においても、今後十分我が領空権を尊重せられるものと期待しております。  以上のような観点よりする、政府自由国家群との提携、乃至国連協力方針は、最近数カ月間においても漸次具体化されつつあります。  その一つは、国連我が国加盟資格承認であります。先般、政府国連加入の申請が、安全保障理事会におけるソ連拒否権行使により実現しなかつた後、我が国国連加盟資格承認決議案が、昨年十二月二十一日、国連会議に提案され、賛成五十、反対五の圧倒的多数によつて採択せられたのであります。即ち、我が国平和愛好国であり、且つ国連憲章に掲げる義務を履行する意思と能力を有するものであることを、国連加盟五十カ国が正式に認めたのでありまして、その政治的効果は少からざるものがあると信ずるのであります。  その二はフイリピンとの間の賠償問題であります。我が国は、平和条約規定に基き、誠意を以てこれを解決いたしたい意向でありますが、我が国役務提供によつてフィリピン経済復興産業開発に寄与し得る範囲は広大でありまして、フィリピン側でも、最近に至り、かかる事情を漸次了解するに至つた模様であります。二月中には右に関する日比会談が開催され得るものと予想しております。なお、現在、比島沿海の沈船について調査を行なつておりますが、今後、沈船引揚に関する話合いが妥結する場合は、その協定国会に提出し、審議を願う考えでおります。又、インドネシア、ビルマ、仏印三国とも、賠償問題解決についての具体的折衝に入りたいと希望いたしております。  その三は日韓関係であります。本年初め、クラーク大将の招待により、韓国李承晩大統領が非公式に来訪せられた際、総理大臣及び私は同大統領と話合う機会を得たのでありますが、日韓両国が懸案を解決し、善隣友好関係を打ち立てる必要のあることについて、意見の一致をみました。政府といたしましては速かに会談を再開し、互譲の精神によつて問題を解決いたし、両国国交を緊密にすると共に、ひいては朝鮮における国連努力に一層協力し得るに至ることを希望いたすものであります。  かかる時期に当り、米国において、アイゼンハワー大統領を首班とする新政府が発足いたしました。新大統領は、その就任演説におきまして、米国の今後進むべき指針として九原則を明らかにし、侵略者に対しては絶対に宥和妥協せず、盟邦を助けると共に、その協力を期待し、又かかる協力前提として、自由諸国経済力、生産、貿易発展努力すること等の原則を述べたのであります。これによつて、新大統領及び米国民の確固たる決意が宣明せられ、自由諸国結束協力はますます緊密となるべきことは言を待ちません。又、日本との平和条約等を通じて、東亜事態についても深い認識と豊富な経験とを有するダレス氏が国務長官になられたことは、(「最も危険である」と呼ぶ者あり)日米友好関係のためのみならず、東亜における諸問題の解決のため喜ばしいことと存じます。(拍手)(「何が喜ばしい」「ヨーロツパじや反対しているぞ」と呼ぶ者あり)  翻つて思うに、我が国経済は、八千五百万の人口がカリフオルニア一州よりも狭隘なる地域に密集しているという現実前提としまして、雇用の増大にしても、国民生活の安定にしても、外国貿易発展に待つところ最も大であります。よつて政府は、先ず北米、中南米等ドル地域に対する輸出市場を拡大すると共に、輸入については非ドル地域に重点を移し、列国との間に、入国、滞在、関税その他交易条件に関し、互恵平等の待遇を獲得することに努め、更に今後一層多くの国と貿易及び支払に関する取極を結び、貿易規模の拡大を図りたき考えであります。昨年末、日伊間及び日芬間貿易支払取極を結びましたが、更に英国との間に貿易量増大方式について討議を開始するほか、中華民国及びパキスタンとも貿易協定締結について交渉中であります。又、近く中近東のアラブ諸国通商使節団を派遣し、これら地域との貿易増進の実際的措置を講ずる予定であります。日米通商航海条約も近く妥結せられたる後、本国会に提出し得るものと期待しております。  又、我が国は、アジア諸国と、その社会経済上の条件を等しくする点が多く、従つて我が国経験及び技術は、アジア諸国経済復興産業開発に最も有益に利用し得るものと考えますが、各国の要請がある場合には、その計画従つて産業開発に積極的に協力いたしたいと考えます。而して、世界諸国特にアジア諸国と緊密なる提携を進めるための前提条件として、技術或いは文化に関する相互の理解が必要なることは勿論でありまして、政府としましては、今後とも、我が国文化技術或いは社会一般に関する実情対外啓発に努めると共に、相手国との文化の交流を行う意向であります。近く印度に文化使節を派遣いたしますが、アジア諸国からの留学生についても、その受入体制を整備し、積極的に招致を図る所存であります。  邦人の海外移住につきましては、十二月二十八日、第一回アマゾン移民が出発いたしました。更に南米諸国によつて許可されました来年度分約七百家族計画移民の送出に当つては、現地における実情十分調査の上、確実な基礎に立つてこれを実施したいと考えます。又、計画移民については、最近、諸外国で行なつているように、我が国においても、政府機関責任を持つて優秀な人々を選出し、これに十分なる教養を与え、準備を整えて、海外に送り出すことといたしたく、このため関係機構を整備する考えでおります。  次に中国残留同胞引揚について申述べます。現在までソ連及び中共地区からの引揚のみが完全には実施せられず、国民一般鶴首してこれを待ち望んでいたのであります。政府も、国連国際赤十字第三国等を通じ、鋭意引揚努力していたのでありますが、去る十二月一日の北京放送以来、漸くその実現が期待されるに至つたのは、誠に喜びに堪えません。すでに打合せのための代表一行は中国に参つておりますが、打合せ成立せば直ちに高砂丸で輸送を開始し、又、先方の事情が許せば、更に数隻の船舶を用いて、数カ月内に全引揚者を帰国せしめ得る態勢を整えております。政府といたしましては、本件純然たる人道問題として、引揚の促進のみを念としておるのでありますが、中共側においても、同様に、純然たる人道的立場から、我が同胞が速かに帰国できるよう考慮せられんことを、国民と共に希望いたすものであります。(拍手)  戦争裁判受刑者については、関係各国によつて、漸次、同情的な措置がとられるに至りつつありますが、今後とも、事態の改善のため努力いたしたいと存じます。  本年におきましても、世界情勢には種々重大なる発展があるものと思われますが、政府は、以上述べました外交方針の下に、国民及び国会協力と支援を得て、強く外交施策を推進したく念願いたしております。(拍手
  12. 佐藤尚武

  13. 向井忠晴

    国務大臣向井忠晴君) 昭和二十八年度予算の提出に当りまして、政府財政金融政策につき所信を申述べたいと存じます。  一、今後における我が国経済運営基本は、国際経済情勢に即応しつつ、経済基礎充実強化し、その健全な発展を促進することにあると信ずるのであります。今日、世界経済は、朝鮮動乱後の異常な好況状態が鎮静して、調整過程にあると存じます。この過程において、海外における需給事情の緩和に伴う輸出価格低下等により、我が国経済の一部にも景気後退現象が見られるのであります。いわゆる底の浅い日本経済においては、このような景気後退現象は、中小企業等の面に相当深刻な影響を及ぼし、これが対策を必要としているのでありますが、我が国経済としては、基本的にはどうしてもこの世界経済調整過程に適応して行かなければなりません。加うるに、我が国国際収支は、特需等の臨時的な外貨収入に支えられて均衡維持している現状でありまして、正常な輸出増進を図ることが何よりも緊要であります。而も今後世界市場においては、輸出は更に困難の度を加えることが予想されるのであります。未だ基礎の強固でない我が国経済が、このような国際情勢の中によくその自立達成し得るかについては、必ずしも楽観を許さない状況であります。  従つて我が国経済運営に当つては、決して安易な道を選ぶべきではなく、飽くまでも堅実な経済施策基調を保持し、一段と、経済合理化能率化を進め、経済力充実を図らなければなりません。企業経営においても、戦時中及び戦後を通じて、とかく放漫に流れがちであつた風潮を改め、政府補助救済への依頼心を捨てて、みずからの責任においてその経営基礎を確立することが必要であり、又一国民生活においても、一層勤労に励むと共に、浪費を排することが肝要であります。  世界各国が現にインフレの抑制に努力し、堅実な歩みを続けているこの際、我が国財政金融運営も放漫にならないよう、厳に戒しむべきであります。我が国としては、今後も全体として健全財政及び通貨安定の基調を引続き維持し、国内物価国際物価との均衡を図ることが必要であります。従つて、私は、安易な景気振興策のごときは採るべきでないと存ずるのでありますが、我が国経済現状、最近の財政金融情勢等から見て、今日必ずしも財政収支総合的均衡に関する従来の方式を、そのまま踏襲する必要はなく、むしろ財政金融を通じ弾力ある施策の運用を図るべきものと考えます。即ち、この際、経済活動状況国際収入見通し等を勘案しつつ、財政による投融資を積極化するため、或る程度蓄積資金活用予定すると共に、市中消化の可能な範囲内において公債を発行し、民間資金を吸収して、その活用を図りますことは、けだし時宜に適したものと存じます。(「誰が書いたのだ、それは」と呼ぶ者あり)而して、このような財政政策に照応して、金融面施策の適切な運営を図ることに努め、財政金融を通じ、資金総合調整に遺憾なきを期する所存であります。  二、昭和二十八年度予算は、このような基本構想の下に編成いたしたのであります。  (一) 先ず、財政規模について申述べます。我が国の国土並びに各種の施設は、未だ戦後の荒廃から十分には立ち直つていない現状でありまして、その復興のため各部面における財政支出への要望は極めて多額に上りますが、国民負担能力を考慮して、極力これが縮減に努め、一般会計予算総領を九千六百五億円余にとどめました。これは、昭和二十七年度の予算額九千三百二十五億円に対し、二百八十億円の増加となるのでありますが、国民所得に対する比率においては若干の減少となり、財政投融資総額を含めた場合の割合も本年度とほぼ同程度であります。  歳出面におきましては、一般経費の節減に努めますと共に、防衛関係費の削減を図り、又、いわゆるインベントリー・フアイナンスの方式を取りやめ、余裕財源経済力の増強と民生の安定とに振り向け、限られた財政支出の中において能う限りその重点的配分効率的活用に努めました。  歳入面におきましては、従来採つて参りました減税の方針維持し、更に国民負担軽減適正化を実施しているのであります。而して、一般会計収支均衡は、これを保持しております。  (二) 次に、来年度におきましては、財政総合収支均衡について或る程度弾力的な運営を企図しているのでありますが、この点に関連し、財政投融資について申述べたいと存じます。  来年度の財政投融資は、総額三千五十五億円に達するのでありますが、その財源については、一般会計の歳入を以て賄うもの並びに資金運用部等の通常の原資のほか、特に保有国債の売却等による蓄積資金活用に配意いたしますと共に、日本国有鉄道、日本電信電話公社の建設資金調達のため、市中公募債発行の途を開くことにいたしました。更に又、新たに産業投資特別会計を設置し、三百億円の特別減税国債の発行を予定いたしております。この国債は、減税と結び付けることによつて民間資金を吸収し、これを産業開発経済発展活用することを狙いとするものであります。その蓄積資金活用につきましては、財政金融を通じてインフレ的な効果を生じない程度にとどめており、又、公社債券及び特別減税国債は完全に市中消化に待つものでありますから、この面からもインフレの懸念は存しないのであります。 (三) 来年度における税制の改正につきましては、先ず、国民生活の安定を図るため、先般実施いたしました所得税の控除及び税率の軽減措置を平常化いたしますほか、所得税、相続税、酒税等につき更に一層の負担軽減合理化を図ることといたしました。次に、資本蓄積の促進に資するため、第三次再評価を実施するほか、企業合理化のための特別償却制度の拡張、準備金制度の改善等を行う方針であります。又、特別減税国債の消化を容易ならしめるため、その購入者に対する減税の措置を講ずることといたしております。なお、富裕税を廃止し、又、有価証券の譲渡所得に対する課税を廃止して、有価証券取引税を創設することといたしました。これらの税制改正により、来年度一般会計歳入中、租税及び印紙収入の総額は七千八十億円と見込まれるのでありまして、これは従前の制度による収入見込額約八千九十億円に比して、所得税を中心として一千億円余の減税となるのであります。(四) 次に、昭和二十八年度予算の内容のうち特に重要な事項について説明いたします。  先ず第一に、防衛支出金として六百二十億円を計上いたしましたが、これと保安庁経費八百三十億円との合計一千四百五十億円は、安全保障諸費を含めた本年度のこの種経費一千八百億円に比して三百五十億円の減少となつております。なお、保安庁経費につきましては、装備施設の充実を図ることとし、人員はほぼ現状にとどめる方針であります。  第二に、経済力充実発展のための措置といたしましては、先ず財政投融資の面におきまして、特に政府の重要施策である電源開発、外航船舶の建造、中小企業及び農林漁業の振興、国鉄事業の拡充等に重点を置くことといたしております。  次に、食糧増産対策及び公共事業につきましては、本年度に比し二百七十二億円を増額し、(「組み替えなさい」と呼ぶ者あり)一千五百十三億円を計上しております。即ち、土地改良、開墾、干拓事業の推進により、食糧自給度の向上を図ると共に、公共事業については、治山治水、特に河川の総合開発及び道路の建設等の推進に意を用いたのであります。  第三に、民生の安定のため積極的な施策を講ずることといたしました。先ず、現在、民生安定の重点が住宅の建設にあることに鑑み、公営住宅の建設に百二十五億円を計上し、住宅金融公庫に対する百八十億円の投融資等と相待つて、住宅対策の強化を図ることといたしております。又、生活困窮者の保護、国民健康保険その他の社会保険、結核対策及び失業対策につきましては、六百七十八億円を計上し、本年度に比し百十五億円を増額しております。  次に、旧軍人等の恩給問題につきましては、慎重に検討を加えました結果、現在及び将来の財政の許容する限度においてこれを復活することといた、たのであります。なお、恩給の対象とならない戦死者遺族、戦傷病者及び未帰還者留守家族に対しましても、従来の援護措置を強化することとし、これらに要する経費として五百億円を計上いたしております。  第四に、文教の振興のための経費でありますが、先ず義務教育に要する経費は、その全額を国庫で負担する方針の下に、九百二十億円を計上いたしました。教育施設につきましては、国立、公立及び私立を通じてその改善につき考慮を払い、特に六三制実施のための校舎の整備は、すでに相当の充実を見たのでありますが、引続き来年度においても危険校舎の改築等を行う計画であります。更に、研究費等、学術振興のための施策にも意を用いております。  地方財政につきましては、義務教育費全額国庫負担とする方針といたしましたため、地方財政平衡交付金制度に相当の変更が加えられることとなり、平衡交付金としては八百億円を計上したのでありますが、義務教育費負担金とを合計いたしますと、本年度に比し二百七十億円の増額となるのであります。なお、別に資金運用部による地方債引受の枠を八百七十億円に拡張いたしました。なお、地方財政につきましては、今後地方制度全般の問題と関連して根本的に検討を要すると認められますので、地方制度調査会審議等を待つて、急速にこれが改善を図りたい所存であります。(五) 以上申述べましたように、来年度予算におきましては必要経費を重点に計上いたしたのであります。予算の執行に当つては、政府といたしましても、常にその適正を期することは勿論、更に進んで積極的にその能率的な使用を図る所存でありますが、国民諸君におかれましても、中央、地方を通じ、予算の適正な執行に対して一層関心を寄せられることを切望してやみません。  三、次に金融に関する施策について申述べます。(一) 今後の金融政策につきましては、財政面の施策と相待つて、物価の安定を維持しつつ、産業振興発展に必要な資金確保し、生産及び貿易の拡大を図り、我が国経済の健全な発展を期することが主眼であります。  先ず昭和二十八年度予算に関連する金融上の施策について申述べますと、  第一は財政による産業投資の問題であります。本来、産業資金は民間資本自体の蓄積に待つべきものでありますが、長期産業資金中小企業資金、農林漁業資金等、民間における資金調達が困難と思われるものについては、来年度においても財政資金を以て積極的に確保を図ることとし、一般会計資金運用部及び産業投資特別会計を合せまして、総額一千七百六十五億円に達する財政資金活用を図る予定であります。その主たる内容としては、日本開発銀行に六百億円、日本輸出入銀行に四十億円、電源開発株式会社に二百億円、農林漁業金融公庫に二百三十億円、中小企業金融公庫に八十五億円、国民金融公庫に八十億円の資金をそれぞれ供給すると共に、資金運用部による金融債の引受三百億円を予定しております。  第二は資本蓄積の促進であります。産業振興経済発展は、民間資本の蓄積、特に企業の自己資本充実がその基本であります。幸い昨年中における金融機関の一般預金の増勢には見るべきものがあり、その増加額は九千八百億円に達し、前年の増加額の一倍半に近く、又昨年中における株式発行高は一千二百億円余に達する好成績を収め、資本蓄積の促進に資するところ大なるものがあります。  政府といたしましても、引続き資本蓄積を強力に推進する考えの下に、預貯金利子に対する所得税の源泉選択税率の引下げ、有価証券に対する譲渡所得税の廃止、生命保険料控除の引上げ、特別償却の範囲の拡張、貸倒準備金及び価格変動準備金制度の改善等、税制上の措置を講ずるほか、第三次再評価を行う方針であります。私は、この際、国民諸君が、以上のような政府施策と相呼応して、勤勉と貯蓄を旨とし、資本の蓄積に努力せられんことを切望してやみません。  第三は中小企業金融充実改善であります。政府は、かねてから中小企業金融の改善に関し深甚の考慮を払つてつたのでありますが、今般、国民金融公庫を通ずる資金供給の増加を図るほか、新たに中小企業金融公庫を設置して、財政資金活用により一段と中小企業金融の積極化を図る所存であります。なお、中小企業信用保険制度の改善、信用保証協会の法制化等についても、近くこれを実施する考えであります。  この際、特に申述べたいことは、財政金融との調整の問題であります。来年度におきましては、国庫の収支状況に対応して、金融面においては一層資金の吸収に努力を払うと共に、一段と資金の効率的運用を図ることが最も重要な課題であると考えます。経済の回復と通貨の安定に伴い、金融が漸次正常化の途を辿り、或る程度その弾力性を回復して来た今日、この基盤の上に立つて、資本蓄積方策の強化、日本銀行を通ずる信用政策の弾力的運営等により、財政及び金融を通じて総合的な資金の調整に一層努力する所存であります。かくして通貨の安定と経済の円滑な循環を確保して参りたいと存じます。  民間金融機関においても、右の事情を考慮して、今後貯蓄の増強を更に一段と促進し、公社債券、社債等の円滑な消化を図ると共に、過度の日本銀行借入依存の傾向を脱却するよう努力せられたいのであります。又、資金の融通に当つては、極力不要不急の資金を抑制し、緊要資金確保に努め、基幹産業に重点を置いて、経済基盤の培養、産業合理化等に必要な資金の供給に特に配意されたいのであります。  なお、貸出金利については、国際的に見ても割高であり、企業の金利負担の軽減、ひいては、貿易の促進に寄与するためにも、できるだけこれを引下げることが切に望ましいところでありますから、金融機関としては、経営合理化資金量の増大に努め、貸出金利の引下げを可能ならしめる素地を醸成し、これが実現を期せられたいのであります。  (二) 今後の国際経済に関する政策の基調は、現行為替レートを維持しつつ、友好諸国との経済協力を緊密にして、国際収支及び貿易の拡大均衡化を図り、我が国経済自立発展を達し、併せて世界経済の安定と向上とに寄与することにあるものと存じます。  我が国国際収支は、引続き昨年も相当の受取超過を示し、今日外貨保有高は十一億ドルを超え、この一年間に二億ドル余の増加と相成つております。併しながら、現在までの国際収支の好況は、特需等の臨時的な外貨収入に待つところが少くない実情であります。更に、最近における世界的な貿易縮小の傾向に伴い、正常貿易の面では特にボンド地域及びオープン・アカウント地域への輸出が減少を見ているのであります。従つて貿易振興に今後一段と努力をいたすことは真に現下の急務であります。今後の貿易振興の道は、産業合理化、設備、技術の近代化を一段と進め、品質の改善、価格の低下にたゆまざる努力を続けると共に、諸外国との経済協調の下に海外市場の開拓確保を図ることにあるものと信じます。  政府におきましても、つとに外貨資金の積極的な活用を図る施策を進め、又、諸外国との通商航海条約等の締結、ガツトヘの早期加入の実現を促進して来たのであります。更に、過般本邦為替銀行に対する外貨預託制度を実施すると共に、外国為替の売買に伴う手数量の引下げを行い、又近く日本輸出入銀行の機能の拡充、輸出信用保険制度の改善、貿易商社等に対する租税上の優遇措置等、貿易振興のための施策を講ずる所在であります。今後も、国際金融及び為替取引の正常化、為替銀行の育成強化については、更に一層の努山を重ねたいと存じます。  四、以上、昭和二十八年度予算に関連して政府施策を申述べたのであります。今日、内外の諸情勢を見まするに、我が国経済前途は必ずしも楽観を許さないのでありますが、国民の一人一人が、安きを求めることなく、著実な努力を惜しまないならば、我が国経済は必ずや更に充実発展の道を歩むものであることを確信する次第でございます。(拍手
  14. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 小笠原国務大臣。    〔国務大臣小笠原三九郎君登壇拍手
  15. 小笠原三九郎

    国務大臣(小笠原三九郎君) 昭和二十年、混乱と欠乏に始まつた日本は、占領下七年の間、国民努力耐乏と米国その他友邦諸国の好意とにより、着実な復興の道を歩み、経済的にも一応の秩序と安定とをもたらすことができました。併しながら、国際社会に復帰した日本内外の諸情勢を観察いたしますると、我が国が真の独立国家として自立し得るがためには、今後とも並々ならぬ努力が必要と考えられるのであります。よつて、この機会に、世界並びに国内経済に関する最近の諸情勢と、これに対処する政府経済政策の大綱について、所信を明らかにいたしたいと存じます。  先ず日本をめぐる世界経済最近の諸情勢について申述べますれば、米国経済界は昨年も引続き良好でございました。その工業生産高は第二次大戦の最高時に次ぐ巨額に上つており、旺盛な消費需要に応じ得るだけの消費財生産を伴い、貿易面においても著しい輸出超過を持続いたしております。然るに、英国を始めとする西ヨーロツパ諸国においては、朝鮮動乱の勃発による世界的好況が一段落したため、多少の例外を除いて国際収支の不均衡を来たしますると共に、財政悪化の懸念を生ずるに至りました。このため、昨春来、次第に輸入制限を強化すると共に、いわゆる軍拡の繰延べ、輸出振興を図り、ここに国際的な輸出競争が激化するに至つたのであります。この結果、世界貿易は縮小の方向を辿り、国際物価も一般的に下落の傾向にありまして、これら諸国最近の景気は、おおむね停滞状態にあるものと見受けられるのであります。  次に、地理的にも歴史的にも我が国と密接な関係にあるアジア地域経済情勢を見まするに、昨年初め以来、東南アジア諸国においても、ゴム、錫等の輸出減少に伴つて、輸入制限を強化し、国際収支の改善に努めつつあります。而して、これら諸国国際収支現状を見まするに、好転傾向にありと判断せらるる国は殆んどなく、一般的には貿易規模の縮小を招いている状況であります。従つて又、いわゆる動乱ブームの影響による蓄積資金によつて或る程度促進されました資源開発、国内工業化等にも、少からぬ影響を与えている実情であります。  かかる情勢下におきまして、昨年十一月開かれた英連邦首相会議においては、「援助より貿易へ」と「資源の開発」とによる健全経済の確立が強く要望されております。この英国その他西ヨーロツパ諸国の要望を実現するがためには、米国を中心とする国際経済協力が力強く推進せられねばならぬと考えられます。一方、米国においては、去る二十日行われた大統領就任演説に上れば、自由主義諸国の要望に応えて、各国生産力の向上と貿易増進のための諸方策の実施に努力すべきことを対外経済政策の基本的方向といたしております。私は、この方針が具体的に展開せられ、世界的な貿易の自由化、貿易規模の拡大、東南アジアその他の資源の開発、工業化等々が実現されて行くことを期待してやまぬものであります。(「自由党ではできない」と呼ぶ者あり)  なお、中国等の近隣諸国は、戦前、特に我が国貿易の中心をなしていたのでありますが、いわゆる中共貿易につきましては、外交関係も未だ確立せられず、実際上にも決済その他幾多の困難がありまして、差向き大いなる期待を持ち得ないような実情に置かれておるのであります。  二、翻つて我が国経済に関する最近の情勢について一言いたしますれば、我が国経済は、朝鮮動乱の勃発を契機として世界的好況の波に乗り、生産の上昇、貿易規模の拡大等、産業活動の著しい進展を示したのであります。即ち鉱工業生産は、昭和二十六年に至つて戦前の水準を突破し、昭和二十七年も引続き上昇をしまして一三五%程度に達しております。又国際収支の面においては、昨年は特需等をも含め、相当の黒字勘定となつておるのでありまして、外貨保有高は、現在、ドルに換算して十一億ドル程度に達しております。更に国民生活の面においても、消費水準は漸次戦前の水準に近ずいて参つておるのであります。併しながら、昨年初め以来、ポンド地域その他の国々の輸入制限措置の強化、輸出競争の激化等により、輸出は漸次不振となり、この結果、最近においては、産業活動は一般的に停滞気味の状況にあります。  このような最近の経済情勢に対応して、今後の我が国経済発展を図らんがためには、解決を要する幾つかの重要な問題がございます。御承知のように我が国は、食糧及び綿花、羊毛、石油、鉄鉱石、粘結炭その他の主要原材料の多くを、海外、特にドル地域よりの輸入に依存しておりまするので、自然、ドル地域に対しましては甚だしい輸入超過となつておりますが上に、特需等は、その性質上、恒久的なものではないのに加えて、賠償、外債支払等、対外債務処理の問題もございますから、貿易上のドル不足は、西欧諸国と同様、我が国経済の一大弱点となつているのであります。  従来から輸出の大宗をなしております繊維製品等も伸び悩みの状態にありまするし、又東南アジア諸国等に対する設備、機械等の重化学工業品の輸出の増加も、国際経済情勢を反映して期待のごとく参りません。英国、西独等の輸出競争はいよいよ熾烈の度を加えつつありまして、我が製品価格が国際的に割高であるという点なども特に問題となつているのであります。  更に、我が国の物価は、いわゆる経済の底が浅いがために、内外情勢の変動に影響されることが極めて強く、大いに注意を要するものがあるのであります。又資本の蓄積が貧弱でありまして、特に重工業部門においては設備の立ち遅れが顕著であり、従つて貿易を伸長し、経済規模を拡大せんがためには、資本の蓄積を促進し、投資の重点化と資本の効率化とにより、電力、石炭、鉄鋼等の重要基礎産業充実を図り、貿易構成の変化に対応して重化学工業の育成を図ること等が重要な課題とされているのであります。なお、国民生活について見ましても、衣食については漸くその充足をみて参つたのでありますが、住宅については、特に都市において未だ相当な不足を示している実情であるのであります。  三、内外の経済情勢は概略只今申述べた通りであります。政府といたしましては、なお相当の期間、特需等特別の収入を期待し得る間に、国際的視野において、諸般の施策総合的且つ重点的に実施し、貿易発展を中心とし、国内資源の開発促進と相待つて経済規模の拡大を図り、国民生活の向上と雇用の増大を期し、速かに、日本経済の真の自立達成して参りたいと考えるものであります。  この基本的な構想に基き、今後とるべき経済施策の主なるものについて申述べますれば、  第一に貿易振興であります。海外依存度の高い我が国経済発展のためには、貿易振興が絶対必要とされるのであります。このためには、先ず前提となる経済外交を積極的に推進し、友邦諸国との経済協力を緊密にいたしますと共に、これと並行して、輸出商品の国際競争力の培養、貿易商社の強化等に努めて参りたいと存じます。(1) 先ず諸外国との通商航海条約等につきましては、互恵平等の原則に従い、通商上必要な待遇の確保に努め、期待されるガツトヘの加入等もできるだけ速かに実現いたしたいと存じます。又、通商及び決済協定等につきましても、これが締結乃至改訂の促進を図り、特に、ポンド地域、なかんずく東南アジアとの通商決済関係につきましては、オープン・アカウント地域を含め、積極的に改善して参りたい所存であります。なお、在外公館の整備充実等を通じまして海外市場調査の徹底を期したいと考えるものであります。(2) 次に、東南アジア諸国等との経済提携を強化し、同地域の資源開発、工業化計画に積極的に協力すると共に、将来に亘つて、これら地域経済力の向上を通じて、輸出入市場の開拓拡大を図つて参りたいと存じます。即ち、食糧、鉄鉱石等の重要物資輸入の相当部分を東南アジアへ転換いたしますると共に、繊維、雑貨等の輸出は勿論、設備、機械等、重化学工業品の輸出増大をも期しておる次第であります。このため、農林業等を中心とする技術提携の促進、開発工業化に寄与するプラント等の輸出増進措置、並びに積極的に投融資を可能にするための方策等を推進して参りたいと存じます。  なお、米国との経済関係につきましては、今後とも一層その緊密化に努むるは勿論、いわゆる特需についても引続き能う限りの協力をいたして参りたい考えであります。(3) 又、電化学工業品についでは、その価格が国際的に割高である現状に鑑みまして、産業合理化等により生産コストを引下げて、国際競争力を培養して参る所存であります。(4) 貿易商社の問題につきましては、独禁法の改正等を通じてその強化を図りますると共に、短期債務を長期債務に切り替えるなどの金融上の措置海外支店設置費特別償却等の税法上の措置を考慮いたしまして、資本力の充実に努めたいと存じております。(5) なお、政府といたしましては、貿易の円滑化を図ると共に、貿易収支の改善に資するため、今後とも引続き外航船復の増強を図つて参る所存であり、昭和二十八年度におきましても約三十万総トンを目標に新造を期しているのであります。  第二に産業基盤の充実であります。(1) 先ず我が国産業の基盤を強化するためには、エネルギー源の電力への移行を積極的に推進し、将来の産業規模に応ずる電力の供給を図ることを目標として、一定計画により電源開発を促進して参ることが最も肝要であると存じます。このため、今後五カ年間に約五百五十万キロワットの出力を増加せしめることとして、政府資金の投下を図り、民間資金活用と相待つて昭和二十八年度においては前年度より約三百億円を増額、一千五百億円程度の電源開発資金を用意して参りたい所存であります。次に、国際的に価格の著しく割高な我が国石炭につきましては、これが価格引下げの必要が痛感されるのであります。よつて政府は、税制、金融等の面に所要の措置を講じ、竪坑開発等を中心とする炭鉱の合理化を図りますと共に、電力、重油への転換促進等により需給の緩和に努め、業界の協力を得て、逐次価格引下げの目的達成して参る所存であります。更に鉄鋼につきましては、東南アジア開発協力してその原料輸入地域の転換を図ると共に、老朽化した製鉄設備の近代化を図る等、合理化計画を促進することにより、価格の引下げを行い、鉄鋼製品の国際競争力の向上に資したいと考えているものであります。(2)中小企業につきましては、我が国産業に占める重要性に鑑みまして、財政資金百億円余を以て新たに公庫を設置し、商工組合中央金庫その他既存の金融機関の作用と相待つて金融面における長短期資金の供給円滑化を図ると共に、経済規模発展に対応するよう、設備の改善、協同組合の活用、共同施設の強化を推進すること等により、経営の安定を期して参りたい所存であります。(3)又、人口の増加に伴い、現状のままにては主食の輸入はますます増大することが予想されまするので、食生活の改善を推進すると共に、土地改良、耕種改善等による食糧の増産に努め、国内自給度の向上と国際収支の改善とに資して参りたいと存じます。(4)なお、国内資源の開発は、経済、社会、文化等に関する施策総合的見地より行わるべきは勿論でありまして、政府においては、電源開発、食糧増産の推進、道路、港湾、鉄道、通信等の整備拡充、治山治水対策の強化等、諸般の施策総合的且つ効率的に運営して参る所存であります。  第三に国民生活充実を図ることであります。  最近に至り、国民の消費水準も漸次戦前に近ずいて参りました。今後は、経済の拡大的循環による国民総生産の増加を通じて、国民生活の向上と雇用の増大とを期して参りたいと存じます。当面の国民生活におきましては、前述のごとく、住宅の回復が著しく立ち遅れておりますことが特に問題であります。従いまして、昭和二十八年度において、財政資金を増額し、公営住宅の建設を促進しますと共に、住宅金融公庫の運営を改善して産業労務者住宅供給の道を開く等の方策により、住宅不足の緩和に努めて参りたいと存じます。  以上申述べて来ました経済規模の拡大と産業基盤の充実等は、目下のところ主として政府資金に待たなければなりません。政府昭和二十八年度において、食糧増産、治山治水等、公共事業関係に一千五百十三億円を計上し、電源開発、造船、鉄道その他産業資金確保のために、三千五十五億円に上る財政投融資を行うことといたしております。このため、特号減税国債等の公募公債を発行いたしますと共に、既往の政府蓄積資金活用することといたしておるのであります。この結果、政府資金の対民間収支におき属しては撒布超過の傾向が強くなるものと考えられますが、インフレーシヨンを生ぜしめず、且つ経済発展の基盤を育成して行くためには、今後特に財政金融の一体化が肝要であると存じます。即ち財政収支実情に即応せる金融政策の運用によつて、常に総合的に国内資金の調整を図り、財政金融一体化の実にいささかの齟齬をも来たさざるよう万全の措置を講ずることが必要であると考えます。  国民諸君におかれましても、極力、貯蓄の増加に努め、経済基盤の育成に格別の協力をいたされるよう切望する次第であります。一般企業においても、能う限り資本の蓄積に努め、経営の健全化を図ると共に、対外競争力を強靱化せられたく、又、市中金融機関においても預貯金の増加に努め、資金運用に当つては一段とその効率化に留意せられたいのであります。政府といたしましても、税制の改正、資産の再評価、金利体系の整備その他必要な措置を講ずべきは勿論であります。  四、以上、政府経済施策の重点について申述べたのでありますが、これらの諸施策の実施により、今後、貿易、生産並びに国民所得は、漸次その増大を見るものと考えます。即ち、昭和二十八年度における貿易規模は、最近の国際経済情勢を反映して、ほぼ前年度と大差なく推移し、国際収支としては若干の黒字勘定となるものと見込まれます。又、鉱工業生産は全体としては昭和二十七年度に比し更に約六%上昇し、戦前基準で一四六%程度になるものと予想されるのでありまして、これに伴い、国民所得も五兆六千億円余に上るものと推計されるのであります。  五、かく内外の諸情勢に深く思いをいたしますれば、今後の日本経済前途運営とは、なかなかに容易ならぬものがあることを痛感せざるを得ません。併しながら、国民諸君が、政府施策と相待つて、不撓不屈、真剣の努力を続けられるならば、日本経済自立は決して難事でなく、その将来は期して待つべきものがあることを確信いたします。私は、独立直後のこの最も重大なる時期におきまして、国民諸君と共に決意を新たにして、日本経済自立発展と向上とのために最善の努力を励みたい所存であります。(拍手
  16. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 只今の国務大臣演説に対しまして質疑の通告がございますが、この質疑は次会に譲りまして、本日はこれにて延会いたしたいと存じます。御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  17. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 御異議ないと認めます。次会は明日午前十時より開会いたします。議事日程は決定次第公報を以て御通知いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後四時五十五分散会      —————————— ○本日の会議に付した事件  一、議員の請暇  一、土地調整委員会委員の任命に関する件  一、日程第一 国務大臣演説に関する件