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国務大臣(小笠原三九郎君)
昭和二十年、混乱と欠乏に始ま
つた日本は、
占領下七年の間、
国民の
努力耐乏と
米国その他友邦
諸国の好意とにより、着実な
復興の道を歩み、
経済的にも一応の秩序と安定とをもたらすことができました。併しながら、
国際社会に復帰した
日本内外の諸
情勢を観察いたしますると、
我が国が真の
独立国家として
自立し得るがためには、今後とも並々ならぬ
努力が必要と
考えられるのであります。よ
つて、この
機会に、
世界並びに国内
経済に関する最近の諸
情勢と、これに対処する
政府経済政策の大綱について、
所信を明らかにいたしたいと存じます。
先ず
日本をめぐる
世界経済最近の諸
情勢について申述べますれば、
米国の
経済界は昨年も引続き良好でございました。その工業生産高は第二次大戦の最高時に次ぐ巨額に上
つており、旺盛な消費需要に応じ得るだけの消費財生産を伴い、
貿易面においても著しい
輸出超過を持続いたしております。然るに、
英国を始めとする西ヨーロツパ
諸国においては、
朝鮮動乱の勃発による
世界的好況が一段落したため、多少の例外を除いて
国際収支の不
均衡を来たしますると共に、
財政悪化の懸念を生ずるに至りました。このため、昨春来、次第に輸入制限を強化すると共に、いわゆる軍拡の繰延べ、
輸出の
振興を図り、ここに
国際的な
輸出競争が激化するに
至つたのであります。この結果、
世界貿易は縮小の方向を辿り、
国際物価も一般的に下落の傾向にありまして、これら
諸国最近の景気は、おおむね停滞状態にあるものと見受けられるのであります。
次に、地理的にも歴史的にも
我が国と密接な
関係にある
アジア諸
地域の
経済情勢を見まするに、昨年初め以来、東南
アジアの
諸国においても、ゴム、錫等の
輸出減少に伴
つて、輸入制限を強化し、
国際収支の改善に努めつつあります。而して、これら
諸国の
国際収支の
現状を見まするに、好転傾向にありと判断せらるる国は殆んどなく、一般的には
貿易規模の縮小を招いている
状況であります。
従つて又、いわゆる動乱ブームの
影響による蓄積
資金によ
つて或る
程度促進されました資源
開発、国内工業化等にも、少からぬ
影響を与えている
実情であります。
かかる
情勢下におきまして、昨年十一月開かれた英連邦首相
会議においては、「援助より
貿易へ」と「資源の
開発」とによる健全
経済の確立が強く要望されております。この
英国その他西ヨーロツパ
諸国の要望を実現するがためには、
米国を中心とする
国際的
経済協力が力強く推進せられねばならぬと
考えられます。一方、
米国においては、去る二十日行われた
大統領の
就任演説に上れば、自由主義
諸国の要望に応えて、
各国生産力の向上と
貿易増進のための諸方策の実施に
努力すべきことを対外
経済政策の
基本的方向といたしております。私は、この
方針が具体的に展開せられ、
世界的な
貿易の自由化、
貿易規模の拡大、東南
アジアその他の資源の
開発、工業化等々が実現されて行くことを期待してやまぬものであります。(「自由党ではできない」と呼ぶ者あり)
なお、
中国等の近隣
諸国は、戦前、特に
我が国貿易の中心をなしていたのでありますが、いわゆる中共
貿易につきましては、外交
関係も未だ確立せられず、実際上にも決済その他幾多の困難がありまして、差向き大いなる期待を持ち得ないような
実情に置かれておるのであります。
二、翻
つて我が国経済に関する最近の
情勢について一言いたしますれば、
我が国経済は、
朝鮮動乱の勃発を契機として
世界的好況の波に乗り、生産の上昇、
貿易規模の拡大等、
産業活動の著しい進展を示したのであります。即ち鉱工業生産は、
昭和二十六年に至
つて戦前の水準を突破し、
昭和二十七年も引続き上昇をしまして一三五%
程度に達しております。又
国際収支の面においては、昨年は
特需等をも含め、相当の黒字勘定とな
つておるのでありまして、外貨保有高は、現在、ドルに換算して十一億ドル
程度に達しております。更に
国民生活の面においても、消費水準は漸次戦前の水準に近ずいて参
つておるのであります。併しながら、昨年初め以来、ポンド
地域その他の国々の輸入制限
措置の強化、
輸出競争の激化等により、
輸出は漸次不振となり、この結果、最近においては、
産業活動は一般的に停滞気味の
状況にあります。
このような最近の
経済情勢に対応して、今後の
我が国経済の
発展を図らんがためには、
解決を要する幾つかの重要な問題がございます。御承知のように
我が国は、食糧及び綿花、羊毛、石油、鉄鉱石、粘結炭その他の主要原材料の多くを、
海外、特に
ドル地域よりの輸入に依存しておりまするので、自然、
ドル地域に対しましては甚だしい輸入超過とな
つておりますが上に、
特需等は、その性質上、恒久的なものではないのに加えて、賠償、外債支払等、対外債務処理の問題もございますから、
貿易上のドル不足は、西欧
諸国と同様、
我が国経済の一大弱点とな
つているのであります。
従来から
輸出の大宗をなしております繊維製品等も伸び悩みの状態にありまするし、又東南
アジア諸国等に対する設備、機械等の重化学工業品の
輸出の増加も、
国際経済情勢を反映して期待のごとく参りません。
英国、西独等の
輸出競争はいよいよ熾烈の度を加えつつありまして、我が製品価格が
国際的に割高であるという点なども特に問題とな
つているのであります。
更に、
我が国の物価は、いわゆる
経済の底が浅いがために、内外
情勢の変動に
影響されることが極めて強く、大いに注意を要するものがあるのであります。又資本の蓄積が貧弱でありまして、特に重工業部門においては設備の立ち遅れが顕著であり、
従つて貿易を伸長し、
経済規模を拡大せんがためには、資本の蓄積を促進し、投資の重点化と資本の効率化とにより、電力、石炭、鉄鋼等の重要
基礎産業の
充実を図り、
貿易構成の変化に対応して重化学工業の育成を図ること等が重要な課題とされているのであります。なお、
国民生活について見ましても、衣食については漸くその充足をみて参
つたのでありますが、住宅については、特に都市において未だ相当な不足を示している
実情であるのであります。
三、内外の
経済情勢は概略只今申述べた通りであります。
政府といたしましては、なお相当の期間、
特需等特別の収入を期待し得る間に、
国際的視野において、諸般の
施策を
総合的且つ重点的に実施し、
貿易の
発展を中心とし、国内資源の
開発促進と相待
つて、
経済規模の拡大を図り、
国民生活の向上と雇用の
増大を期し、速かに、
日本経済の真の
自立を
達成して参りたいと
考えるものであります。
この
基本的な構想に基き、今後とるべき
経済施策の主なるものについて申述べますれば、
第一に
貿易の
振興であります。
海外依存度の高い
我が国経済の
発展のためには、
貿易の
振興が絶対必要とされるのであります。このためには、先ず
前提となる
経済外交を積極的に推進し、友邦
諸国との
経済協力を緊密にいたしますと共に、これと並行して、
輸出商品の
国際競争力の培養、
貿易商社の強化等に努めて参りたいと存じます。(1) 先ず諸
外国との通商航海条約等につきましては、互恵平等の
原則に従い、通商上必要な待遇の
確保に努め、期待されるガツトヘの加入等もできるだけ速かに実現いたしたいと存じます。又、通商及び決済
協定等につきましても、これが締結乃至改訂の促進を図り、特に、ポンド
地域、なかんずく東南
アジアとの通商決済
関係につきましては、オープン・アカウント
地域を含め、積極的に改善して参りたい
所存であります。なお、在外公館の整備
充実等を通じまして
海外市場
調査の徹底を期したいと
考えるものであります。(2) 次に、東南
アジア諸国等との
経済提携を強化し、同
地域の資源
開発、工業化
計画に積極的に
協力すると共に、将来に亘
つて、これら
地域の
経済力の向上を通じて、
輸出入市場の開拓拡大を図
つて参りたいと存じます。即ち、食糧、鉄鉱石等の重要物資輸入の相当部分を東南
アジアへ転換いたしますると共に、繊維、雑貨等の
輸出は勿論、設備、機械等、重化学工業品の
輸出の
増大をも期しておる次第であります。このため、農林業等を中心とする
技術提携の促進、
開発工業化に寄与するプラント等の
輸出増進の
措置、並びに積極的に
投融資を可能にするための方策等を推進して参りたいと存じます。
なお、
米国との
経済関係につきましては、今後とも一層その緊密化に努むるは勿論、いわゆる特需についても引続き能う限りの
協力をいたして参りたい
考えであります。(3) 又、電化学工業品についでは、その価格が
国際的に割高である
現状に鑑みまして、
産業の
合理化等により生産コ
ストを引下げて、
国際競争力を培養して参る
所存であります。(4)
貿易商社の問題につきましては、独禁法の改正等を通じてその強化を図りますると共に、短期債務を長期債務に切り替えるなどの
金融上の
措置、
海外支店設置費特別償却等の税法上の
措置を考慮いたしまして、資本力の
充実に努めたいと存じております。(5) なお、
政府といたしましては、
貿易の円滑化を図ると共に、
貿易外
収支の改善に資するため、今後とも引続き外航船復の増強を図
つて参る
所存であり、
昭和二十八年度におきましても約三十万総トンを目標に新造を期しているのであります。
第二に
産業基盤の
充実であります。(1) 先ず
我が国産業の基盤を強化するためには、エネルギー源の電力への移行を積極的に推進し、将来の
産業規模に応ずる電力の供給を図ることを目標として、一定
計画により電源
開発を促進して参ることが最も肝要であると存じます。このため、今後五カ年間に約五百五十万キロワットの出力を増加せしめることとして、
政府資金の投下を図り、
民間資金の
活用と相待
つて、
昭和二十八年度においては前年度より約三百億円を増額、一千五百億円
程度の電源
開発資金を用意して参りたい
所存であります。次に、
国際的に価格の著しく割高な
我が国石炭につきましては、これが価格引下げの必要が痛感されるのであります。よ
つて政府は、税制、
金融等の面に所要の
措置を講じ、竪坑
開発等を中心とする炭鉱の
合理化を図りますと共に、電力、重油への転換促進等により需給の緩和に努め、業界の
協力を得て、逐次価格引下げの
目的を
達成して参る
所存であります。更に鉄鋼につきましては、東南
アジアの
開発に
協力してその原料輸入
地域の転換を図ると共に、老朽化した製鉄設備の近代化を図る等、
合理化計画を促進することにより、価格の引下げを行い、鉄鋼製品の
国際競争力の向上に資したいと
考えているものであります。(2)
中小企業につきましては、
我が国産業に占める重要性に鑑みまして、
財政資金百億円余を以て新たに公庫を設置し、商工組合中央金庫その他既存の
金融機関の作用と相待
つて、
金融面における長短期
資金の供給円滑化を図ると共に、
経済規模の
発展に対応するよう、設備の改善、協同組合の
活用、共同施設の強化を推進すること等により、
経営の安定を期して参りたい
所存であります。(3)又、人口の増加に伴い、
現状のままにては主食の輸入はますます
増大することが予想されまするので、食生活の改善を推進すると共に、土地改良、耕種改善等による食糧の増産に努め、国内自給度の向上と
国際収支の改善とに資して参りたいと存じます。(4)なお、国内資源の
開発は、
経済、社会、
文化等に関する
施策の
総合的見地より行わるべきは勿論でありまして、
政府においては、電源
開発、食糧増産の推進、道路、港湾、鉄道、通信等の整備拡充、治山治水対策の強化等、諸般の
施策を
総合的且つ効率的に
運営して参る
所存であります。
第三に
国民生活の
充実を図ることであります。
最近に至り、
国民の消費水準も漸次戦前に近ずいて参りました。今後は、
経済の拡大的循環による
国民総生産の増加を通じて、
国民生活の向上と雇用の
増大とを期して参りたいと存じます。当面の
国民生活におきましては、前述のごとく、住宅の回復が著しく立ち遅れておりますことが特に問題であります。従いまして、
昭和二十八年度において、
財政資金を増額し、公営住宅の建設を促進しますと共に、住宅
金融公庫の
運営を改善して
産業労務者住宅供給の道を開く等の方策により、住宅不足の緩和に努めて参りたいと存じます。
以上申述べて来ました
経済規模の拡大と
産業基盤の
充実等は、目下のところ主として
政府資金に待たなければなりません。
政府は
昭和二十八年度において、食糧増産、治山治水等、公共事業
関係に一千五百十三億円を計上し、電源
開発、造船、鉄道その他
産業資金確保のために、三千五十五億円に上る
財政投融資を行うことといたしております。このため、特号減税国債等の公募公債を発行いたしますと共に、既往の
政府蓄積
資金を
活用することといたしておるのであります。この結果、
政府資金の対民間
収支におき属しては撒布超過の傾向が強くなるものと
考えられますが、インフレーシヨンを生ぜしめず、且つ
経済発展の基盤を育成して行くためには、今後特に
財政金融の一体化が肝要であると存じます。即ち
財政収支の
実情に即応せる
金融政策の運用によ
つて、常に
総合的に国内
資金の調整を図り、
財政金融一体化の実にいささかの齟齬をも来たさざるよう万全の
措置を講ずることが必要であると
考えます。
国民諸君におかれましても、極力、貯蓄の増加に努め、
経済基盤の育成に格別の
協力をいたされるよう切望する次第であります。一般企業においても、能う限り資本の蓄積に努め、
経営の健全化を図ると共に、対外競争力を強靱化せられたく、又、市中
金融機関においても預貯金の増加に努め、
資金運用に当
つては一段とその効率化に留意せられたいのであります。
政府といたしましても、税制の改正、資産の再評価、金利体系の整備その他必要な
措置を講ずべきは勿論であります。
四、以上、
政府の
経済施策の重点について申述べたのでありますが、これらの諸
施策の実施により、今後、
貿易、生産並びに
国民所得は、漸次その
増大を見るものと
考えます。即ち、
昭和二十八年度における
貿易規模は、最近の
国際経済情勢を反映して、ほぼ前年度と大差なく推移し、
国際収支としては若干の黒字勘定となるものと見込まれます。又、鉱工業生産は全体としては
昭和二十七年度に比し更に約六%上昇し、戦前基準で一四六%
程度になるものと予想されるのでありまして、これに伴い、
国民所得も五兆六千億円余に上るものと推計されるのであります。
五、かく内外の諸
情勢に深く思いをいたしますれば、今後の
日本経済の
前途と
運営とは、なかなかに容易ならぬものがあることを痛感せざるを得ません。併しながら、
国民諸君が、
政府の
施策と相待
つて、不撓不屈、真剣の
努力を続けられるならば、
日本経済の
自立は決して難事でなく、その将来は期して待つべきものがあることを確信いたします。私は、
独立直後のこの最も重大なる時期におきまして、
国民諸君と共に決意を新たにして、
日本経済の
自立と
発展と向上とのために最善の
努力を励みたい
所存であります。(
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