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一松定吉君 こういうような
法案をお出しになることについて、私は
提案者の諸君に深甚の敬意を表しますが、ただ問題は今
提案者の
伊藤君の御発言のように、これが通過すれば、本当に我が国においてこれだけの
取締ができなければ、ただ法そのものが存置するというだけで、何らの
効果がなければ、その法は死文に属するということは最も憂慮に堪えないのでありますが、この点について腹蔵なき一つ御意見の御発表を願いたいし、場合によれば傍聴を
禁止して祕密会にして頂いても結構ですが、
須藤君の言う、いわゆる性の問題だ、だからして幾ら
法律を以てこういうことを禁じても、人間が生きておる間はこれを禁ずることができないんだということは、これは私真理だと思う。そこで問題は例の公娼、私娼の問題になるわけです。東京で吉原だとか、京都では島原だとかいうように、それぞれ公娼を一つの区域をきめて区域の中に入れて、そうして今
須藤君の言う必要に迫られる人々が、そのいわゆる区域内に進出して、そうしてその欲望を満足するというような制度があれば、これは必ずしも
須藤君の言うような非難は起らんで済むと思うのでありますが、(
須藤五郎君「ノー・ノー」と述ぶ)併し公娼制度に対して随分非難がありまして、そういうようなことを認めることによ
つて、文明国である諸外国から、日本にはこういう地域を設けて淫売をさせておるというようなことで、日本の体面にも関するのではないかという議論が盛んに行われたものです。現に当時における尾島二郎君などは非常にそういう主張をして、そうして公娼
廃止論の急先峰であ
つた方が、
昭和十一年に万
国会議に出席して、出張で行
つて、ドイツの或る町を視察して驚いて、それから後は星島君も公娼
廃止ということを言わないように
なつた。こういうようなことで、この性の問題を解決するということについて、ただ
取締一方であ
つて、解決の
方法はどつかに一つはけ口をこしらえなければ、到底ただ
法律が存在するだけであ
つては、
目的を達しないと私は思うのです。このはけ品は考えないで、ただこれを
取締るというだけではどうであろうか、
取締ること結構ですよ。現に麗質を尊んでおるかの英国のロンドンにおいて、御承知のハイド・パーク、即ちバッキンガム宮殿の前にあるハイド・パーク、あそこでさえあの辺を視察した人はよくおわかりでしようが、夜にな
つて、夜の十二時の、あのハイド・パークを閉めるまでは至る所に男女が密会をして重なり合
つている。私どもは現場を見て実はびつくりしたのである。丁度これが議会の問題にな
つて、そうして内務大臣は一体この
取締を何と考えているのだという質問に対して、内務大臣は、我が英国にはそういうような醜
行為は行われていないということを議会で答弁した。それじや行
つてみたらどうだ。じや行
つてみようということで、その翌日見て面を覆うて内務大臣は家に帰
つて来た。そうして議場に帰
つて、どうであ
つたかというと、英国人はゼントルマンだからして、そういうものを見るべきものではないと答弁して、そのことはそれなりお流れに
なつたことは有名な事実です。ですからこういうことは、何とかやはりはけ品をこしらえてやらなければいかんのであるが、公娼制度というものを
廃止したがために今では至るところにそういうような悪い風潮が漲
つて、学校の正門の前には
売春婦がうじうじしている。教会の隣にはパンパンが盛んに出入りしておるというようなふうで、これでは本当にこういう
売春取締りなどということをしなければならぬということは痛切に感じるのです。私も、
伊藤君や宮城君などと一緒に、佐世保等を視察してみて、実はびつくりしたのです。まるで公然と許されておる。それで而もその町の
理事者、市長あたりでも、若しくは警察あたりでも、これはもう
取締ることはどうも困る。どうもこれを
取締ると、この町は衰微してしまうのだというように、警察署長や市長などが我我に哀訴歎願をするというような実情であ
つたのを見て、我々は驚いたのであります。それは進駐軍等が、何とかしていわゆるはけ口を担えなければならんというようなことで、はけ口というものが公然とな
つているから、従
つて売春婦というものが至るところに横行跋扈するに至
つたのだということであります。
本法を制定してこれを
取締るということは非常に結構でありますが、
取締るについては飛躍的の
効果の上るようにしなければなりません。で、その点をもう少し掘下げて研究してみる必要はないでしようか。
それから私はこの
法案を見て実は驚いたのですが、これは
須藤君と同じですが、
特定の人とこれこれすることは、それは
売春にはならないのだと。こういうことをすると或る一人の女が五人なら五人の
特定の人を
相手にして、これら五人だけから生活費をもらうておるという場合に、
売春法の
取締り外におかれるというようなことはどうだろうか。それから例の二号、即ち妾のことですが、いわゆる有婦の夫が独身の女と
関係して、これを囲い、或いは家を持たせて家庭をそとにして
風紀を紊し、家族間に風波の絶えまがないというふうなことをして、人の指弾を受けるというような者がたくさんありますことは、皆さん御承知の
通りですが、(「その
通り」と呼ぶ者あり)そういうような者に対する
取締りを何らか設ける必要がありませんか。尤もさような乱行な
男子のあることは、今に始ま
つたことではありませんから、これを
取締るということは、言うべくして行われがたいことと思われます。果して然らば、あなた方の提案の
理由にあるように、
風紀紊乱を
取締るという点のみに重点をおくことは如何でしようか。
風紀の
取締りと同時に花柳病の
取締りをも兼ねて、本
法案を考える必要はないでしようか。私はかような点をも考うべきだと思います。
次にいま一つ、本
法案についてどうかと思う点は、私が
法律家だから言うのではないが、
売春行為の
既遂と未遂との区分をどこにおくかという問題です。
既遂でないと罰せん乏いうことになると、
既遂と未遂との間で……こういう席上で言うのは何だから言わないが、こういうことは
取締れぬ。私が未遂だと言
つたら、そうですか、
既遂だと言
つたら、そうですかですよ。結局或る一部の、局部の検査をしなければ、
既遂か未遂かわからんことになる結果にな
つてしまう。そうすると
既遂とまでは行かないけれども、貝原益軒の言うように淫して漏らさずということでやるというようなことにな
つて来れば、これは又問題が別にな
つて来る。これはなかなか
取締るのにむずかしいのです。そういうような点も、もう一遍これは練り直す必要はありませんか、
立法の
趣旨はいいけれども、実際これを実務の上に行うについて、そういうような非常な欠陥が多い法文だと思いますので、もう一つこれを練り直して頂くか、或いは私が今申上げたようなことについては、こういう対案を持
つておるのだということであれば、それを一つ聞かして頂きたい。私どもは一番困る問題は、例の病毒の感染という問題であると思うのですが、それについてはいろいろな対策を厚生省方面で持
つておると思うのですけれども、本
法案だけで
取締るということについては、少しどうかと思いますので、もう少し実際の上でこれを
適用して、これならば
取締りができるし、これならば性の満足もできるし、これならば余り行きすぎでもないというようなことを今少し御検討なさる必要はないのだろうかということについて、
伊藤君に伺
つてみたい。