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1952-12-18 第15回国会 参議院 文部委員会 第11号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年十二月十八日(木曜日)    午前十時二十一分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     若木 勝藏君    理事            木村 守江君            梅原 眞隆君            堀越 儀郎君    委員            黒川 武雄君            高橋 道男君            山本 勇造君            梅津 錦一君            矢嶋 三義君            相馬 助治君            棚橋 小虎君            木内キヤウ君   事務局側    常任委員会専門    員       竹内 敏夫君   参考人    奈良県教育長  足立  浩君    東京芸術大学学    長文化財専門審    議会委員    上野 直昭君    京都古文化保存    協会会長    岡田 戒玉君    京都教育委員    会文化財保護課    長       荻野 二郎君    文化財専門審議    会委員     下村 寿一君    東京芸術大学教    授       丸山 義男君    東京芸術大学教    授文化財専門審    議会委員    脇本十九郎君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○教育及び文化に関する一般調査の件  (文化財保護に関連する諸問題に関  する件)   —————————————
  2. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) 只今から委員会を開催いたします。  本日は文化財保護に関連する諸問題につきまして、過日委員会で決定いたしました通り参考人のかたがたから御意見を伺うことにいたしたいと存じます。先ず委員会を代表して、参考人各位に御挨拶を申上げます。  本日は年末御多忙中を枉げておいで頂きまして、誠に有難く、ここに厚く御礼申上げます。各位には、日頃我が国の貴重な文化財保護につきまして、格別御尽力、御配慮を頂いておりますことは、かねて文化財保護法の立案に当りました本参議院文部委員会といたしまして、深く敬意を表する次第であります。文化財保護法が発足いたしましてから、すでに二年余となりまして、文化財に対する国民の関心は次第に深まり、保護行政も又漸く軌道に乗るべき時期に至つたわけであります。ところが近来この文化財保護に関連いたしまして、御承知のごとく各種の問題が続発いたしまして、各方面からこれに対し種々の御意見、御批判が出ております。又文化財保護法自体につきましても、立法当時の情勢が大分変化いたしましたために、更に検討を加へるべき点が相当見受けられるようになりました。従いましてこの際是非御造詣の深い各位から十分に御意見をお伺いいたしまして、委員会の今後の審議に資しまして、延いては我が国文化財のよりよい保護を図りたいと存ずる次第でありますので、本日皆様の御足労を煩わした次第でございます。  案件は先般四点を掲げまして御通知いたしました。その全部について御意見をお述べ頂きたいのでありますが、その一部についてでも結構であります。時間はお一人大体十五分前後お願いいたしたいと考えております。皆さんの御意見を全部承わりましたあとで、委員のかたから更に質問がおありのことと思いますが、そのときは何とぞよろしくお願い申上げます。なお御発言は五十音順で、公報掲載の順序に従つてお願いいたしたいと思います。なお和辻哲郎君は御病気のため御欠席の御通知がありましたから、その点委員各位におかれましても、御了承を得たいと思います。  では足立浩君からお願いいたします。
  3. 足立浩

    参考人足立浩君) 文化財保護に関連する諸問題のうち、第三に掲げられておりますところ文化財保護行政機構及び文化財保護行政運営についてという案件と、それから最後の、第四に挙げられております文化財保護法改正すべき点についてという案件につきまして、私の意見を申述べたいと存じます。  先ず文化財保護行政機構についてでございまするが、文化財保護行政機構が、文化財保護法が制定されまして、以来非常に整備をいたしまして、この点につきましては画期的な出来事でありまして、文化財保護行政全般につきまして非常に整備をいたしましたところ機構の下に、整備した行政運営が行われるようになつて参つたというふうに考えまして、非常に御同慶に存じておる次第であります。  なお予算の面におきましても、国会の非常な御尽力並びに関係機関の非常な御尽力によりまして、画期的に多くなつて参りまして、こういうふうな面からいたしましても保護行政が飛躍的な進歩を遂げて参つたということは、これも又非常な喜ばしい点と考えておるわけであります。  なお又特に申上げたいと存じますることは、文化財保護委員会ができ、又この文化財保護法施行伴つて一般国民文化財に対するところの価値を認識するということが非常に急速度に深まつて参りまして、又それに伴つて保存に関しまして積極的に協力をし、これをますます尊重いたしまして、又国民文化財について究明をして、自分の文化的な向上に努めて行くというような気風が漸次助長されて参つたということは、これは文化財保護法が制定をされましたところの非常に大きな効果でありますと共に、文化財行政運営を担当しておられますところの諸官の非常な御努力の賜物であるというふうに、私は地方におりまして常にこの点は喜びとし、又敬意を表しておる次第であります。  なお又特に私ども地方におりまして実務に携わつておりまして特に感じます点は、補助金管理の面でありまするとか、或いは又地方公共団体文化財保護に関するところ行政事務指導助言が、従来よりは非常に的確、確実に行われるようになつて参つたということは、私ども地方におりまして、この事業に携わつておりますものとい  たしまして非常に感謝を申上げておる点であります。  以上のような文化財保護法施行に伴い、又今日のこの文化財保護行政機構が逐次整備して参りました結果、非常にいい点が以上のように数えられると思うのでありますが、併し又半面文化財保護委員会合議制行政委員会であるというふうな関係からいたしまして、その運営にとかくの困難な点があるのではないかと、こういうふうな  ことを私どももはたから見ておつて、そういう点を特に感ずるのであります。このことは併しながら、私は地方におりまして、県の教育委員会運営仕事に携わつております、そういうふうな経験を通しまして、これは戦後にできましたところの民主的な行政運営をし、又政策一貫性図つて行くという行政委員会の性格というものが、まだ非常に一般認識を得ていないというふうな面があり、又非常にこの運営についても不馳れであるというふうな点もございまして、行政委員会運営ということは、ただに文化財保護委員会だけではないと思いますが、私ども実際平素実務に携つておりますところ教育委員会運営からいたしましても、そういうふうな批評がされておるのではないかと、こういうふうに率直に反省をいたしておるよう  な次第であります。従つてこの行政委員会運営が現在いろいろな点で批判をされておるというふうな点がありといたしましても、これは行政委員会が非常に民主的な行政運営ができ、又政策忠実性一貫性というものを確保して行けるというふうな美点を、これを覆うということは、これは私はとらないところでございまして、借すに年を以ていたしまして、この行政委員会を育成して行くということが極めて必要なのではないか、こういうふうに存じておる次第でありまして、文化財保護委員会も戦後の行政委員会一つといたしまして、そういうふうな点につきましていろいろな批判をされるかたはあると思いますけれども、これを今後この機構を十分に育成して行くように、私ども努力をして行く必要があるのではないか、こういうふうな感じを持つている次第でございます。なお文化財保護行政運営についてでございまするが、これにつきましては五つばかりの点を申述べてみたいと思うのでありまするが、その第一番目は、特にこの文化財保護法が制定されるに当りましても、国会におきまして細心の注意をそれらの点に注いでおられるようにお聞きをいたしまして、非常に敬意を表しておるわけでございまするが、即ち文化財保存活用という、公共福祉という面と、それから文化財所有者文化財に関する財産権保障をするという、この二つの点、この両面をどういうふうに調整図つて行くかということが、これが文化財保護行政に当る場合に最も必要な要点ではないか、こういうふうに考えておる次第でございます。特にこの文化財の中には、我が国文化財一つの特色とも考えるのでありまするけれども仏教美術に基きますところ文化財が非常に多いわけでございまするので、特に現在におきましても信仰の対象になつておるようなものも非常に多いように考えるのでありますが、従つてこの文化財を単なる器物として取扱わないで、慎重な態度で以てこれを取扱つて行く。特に宗教的な対象物でありますところ重要文化財に対しましては、その取扱上特に慎重を期して、所有者との間の密接な連絡図つて行くということは、特にこの行政運営上極めて肝要なことであろうと考えておるわけであります。私ども地方におりまして、この行政事務に携つておりますものも、これらの点につきましては特に留意をいたしまして、平素事務に携つておるわけでございまするけれども併しなおその事務執行の場合におきまして、なお十分でないような点もあるのではないかということを毎日恐れておるような次第でございます。これらの点につきましては、文化財保護委員会の御当局とも十分に連絡をとりまして、私ども地方におりますものも、十分これらの点を密接な連絡の下に慎重な取扱をするという点、公共福祉財産権との調整図つて行くという点に、今後も努力を進めて参りたい、こういうふうな考えを持つておる次第でございます。  第二といたしましては、文化財保護の完遂を図つて行きますためには、これはどういたしましても、政府地方公共団体所有者の間の円満な協力図つて行くということが、これが非常に必要なことであろうと存じます。従来、文化財保護委員会機構整備されるに従いまして、地方の各府県に対するところ指導助言も、だんだんと徹底をして参るようになりましたし、又府県文化財保護委員会との連絡というふうなものも努めて積極的な連絡図つて行くように努力はしておるわけでありまするけれども併しなお今後もこの三者の円満な協力の上に立つて文化財保護行政を支障なく運営して行くように努力をいたすべきではないか、こういうふうに存じておるような次第でございます。地方におりますところの私どもといたしましては、この点地方からの積極的な連絡政府に対するところ連絡或いは所有者に対するところ連絡ということを図つて行かなければならないことは勿論でありまするけれども政府におかれましても、これらの点につきましては十分な御配慮をお願いをいたしたい、こういうふうに考えておる次第でございます。  それから第三点といたしましては、これは私、県の教育委員会運営の実際の経験を通して、特にその感じを深くいたすのでありまするが、行政委員会運営には、専門的な知識技能を備えておられまするところ附属機関との調和あるところ運営図つて行くということが、これは非常に必要であるように考えておるわけであります。特に私どもこの教育委員会平素運営におきまして、社会教育委員教育委員との間の連絡調和をどういうふうにして行くか、又産業教育審議会教育委員会との間の妙味あるところ調和を、どういうふうに図つて行くかというふうなことは、これは非常に必要なことでございまするし、又平素非常に苦心をいたすところでございます。この文化財保護委員会におかれましても、専門審議会が設けられまして、それぞれ専門的な立場に立つておられますところ先生がた審議会委員にお願いしておるわけでありまするが、文化財保護委員会専門審議会とが互いに任務権限を自覚をいたしまして、他の権限を尊重をいたしまして、そうしてこの委員会専門審議会との機能の妙味あるところ調和図つて、そうして文化財保護委員会が専門的な立場に立つたところ意見を十分に尊重して、調和ある行政運用をして行くということは、これは行政委員会としては極めて必要なことであろうと思うのであります。教育委員会運営につきましても、平素常にそういうふうな点について非常に困難性はございまするけれども努力をして参つたような次第でありまして、時にはそれらの点につきまして、或いは或る程度のトラブルが起り、或いは又運営上非常に困難な点があるにはあるのでございまするけれども、併しこれを乗り越えて行くということが、この行政委員会を本当によく運営するところの基本的な問題であろうかと、こういうふうに考えまするので、平素教育委員会運営に参画をいたしておりまするところ経験を通しまして、この点につきまして卑見を申述べる次第でございます。  それから第四点といたしましては、各府県への権限委任のことについてでございまするが、これは文化財保護委員会法律に基きまして、府県にそれぞれ権限委任をされておる部分は或る程度あるのでございまするけれども、併し府県文化財保護行政事務陣容でございまするとか、或いは又行政実務能力等に亘りましては、担当の差があるように思われるのであります。従つて一般的な事項として一律に委任をするという面は勿論なければならんと思いまするけれども、又一面異なる範囲権限委任をするということも考えられて然るべきではないか、こういうふうにも思うのでありまして、そういうふうな措置を講じて参りますことによりまして、文化財に対する地方公共団体認識責任をますます倍加して行くこともできましようし、又地方財政措置を容易にして行くということもできるのではないか、こういうふうに考えるのでございまして、各府県への法律の定めた範囲内におきまして、可能な権限委任ということにつきまして、御処理を願うということがいいのではないか、こういうふうに望んでおる次第でございます。  なお最後に、これは或いは一部法律改正というものと関連をするのではないかと存ずるのでありまするけれども修理技術者身分保障をするために、何らかの措置を講じて行くということが非常に必要ではないかというふうに考えるのであります。例えばその一案といたしましては、何か法人組織によるところ協会等作つて、そうして修理の実際を担当いたしておりますところ重要文化財修理技術者の、或いは待遇改善でありまするとか、或いは互助救済措置をとるとか、広くその身分保障いたしまして、修理技術者が安んじて文化財保護事業に従事する、専念することができるような措置を、或いは行政的に、或いは必要があれば法律上これを考えて行くというふうな措置を講じて頂きたいものだと、こういうふうに考えるわけであります。  なおこの重要文化財保護を徹底して参りますためには、この事業に携わるところ後継者を養成して行くということが非常に必要であろうと存じまするので、修理技術者の適切な養成方法を講じて行くということも併せて極めて大事ではないか、こういうふうに存ずる次第でございます。時間の関係もございましようから行政機構及び保護行政運営につきましては以上のことを申述べるにとどめたいと思います。  なお第四点の文化財保護法改正すべき点についてでありまするが、これもいろいろあろうとは思いまするけれども、時間もございませんから、はしよりまして要点だけを申述べたいと思います。  先ず第一番目は文化財関係のいろいろな税でありまするけれども文化財関係の諸税を減免するところ処置を講じてもらいたい、こういう点でございます。申すまでもなく所有者に対しては義務を課し、又責任を強化して参つておるわけでありまするし、又政府干渉権というものも文化財保護法においては相当強く出ておるわけでございますので、その半面所有者負担の軽減を図つて行くということは、これはどうしても必要な問題ではないかと思うのであります。従つてこの文化財保護活用を徹底するということのためには、或いは相続税でありまするとか、或いはその他富裕税或いは所得税等減免措置法律上講じて行くということが、非常に大事ではないかというふうに存ずる次第であります。特にこの相続税のような場合には、一時に多額の税額を所有者負担をしなければならないというふうな関係上、却つて文化財の散逸を来たすというふうな虞れもないではございませんので、文化財保護という直接的なためにも、これらの措置は緊急な問題ではないかというふうに思いまするし、又入場税の問題にいたしましても、これは国民をして低額の入場料文化財を鑑賞さして、文化的な教養を高めて行くというふうな立場からいたしましても、入場税減免措置が講ぜられて然るべきではないか、こういうふうな意見を持つておる次第でございます。  なお第二点といたしましては、この所有者自身文化財を公開いたします場合に、管理上の危険性を防いで行くという措置法律上とつて行く必要があるのではないか、こういう意見を持つておるわけであります。現行法によりますと、所有者によるところ文化財の公開は、これは自由に行われるようになつておるようでございまするが、そういうふうな場合、或いは火事とか或いは盗難とか、その他の危険性伴つて参ることも予想されまするので、事前届出制度をとるとか、適切な処置を講じて、法律整備図つて行く必要があるのではないか、こういう意見を持つておるわけであります。  なお重要文化財又は史蹟名勝天然記念物所有者或いは管理者自費修理する、又は復旧をする、こういうふうな場合に、事前届出制度をとることができないであろうか、こういうふうに思うのでありまして、自費修理又は復旧の場合は、現在の法律におきましては、現行法においては文化財保護委員会の監督が及ばないことになつておりますので、保存上適当な措置を講ぜられるように、事前届出制度のような措置を講じて行くことができないだろうか、こういうふうに存ずるのであります。  なお第四点といたしまして、史蹟名勝天然記念物は、これは所有者及び管理者に対して国庫補助の道が法的に規定されているのでありまするけれども重要文化財に対しては管理責任者を置くという規定はありまするが、補助金管理責任者に出すと、こういうふうな規定はございません。従つて今後法律改正をされまする場合に、重要文化財管理者に対しましても補助ができますような道を講じてもらえないだろうか。特に例えば防災施設のような場合には、この管理は事実上は市の消防がやつていると、こういうふうなことになつているのでありまするけれども、その維持管理というふうなものに対して国庫補助の道を開いて頂きますならば、防災事業がもつと徹底して参るのではないかと、こういうふうに存ずる次第であります。  なお又修理に対しましては国庫補助が非常に行き届いて参つているのでありまするけれども、広く管理ということに対して国庫補助がなかなか届かないというような状況でございまするので、この修理のみではなしに管理の問題につきましても、今後国庫補助の道が広く開かれて参りまするような方途を講じて頂きたい、こういうふうに存ずる次第であります。  最後文化財及び史蹟名勝天然記念物現状変更をいたします場合に、許可なしで現状変更したと、こういうふうな場合には原状回復命令を出すことのできるような、そういうふうな措置が必要になつて参るのではないかと、こういうふうに思うのであります。現行法におきましては規定が欠けているのでありまするが、まあ望むべきことは、こういうものの悪質な無許可現状変更から文化財保護するというためには、そういうふうな規定も必要になつて来るのではないかというふうに思いまするのと、なおこの原状回復命令を出すところ規定というだけではなしに、それに伴つて生ずるところの損害に対する補償制度を併せて規定をするというふうなことも必要ではないかと、こういうふうに存ずる次第であります。  時間の関係もありまするので、以上気のついておりまするところの五点を申上げた次第でございます。
  4. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) それでは次に上野直昭君。
  5. 上野直昭

    参考人上野直昭君) 私はこの二、三、四に関しては、先ごろ芸術新潮という雑誌に遠慮会釈のないことを書いて置きました。恐らくお読み下さつたことと存じます。又そのために今日お呼び出しにあずかつたことと存じますが、これは繰り返さずに、ただその先の、殊にこれは今の月光菩薩問題、即ち第二項に関連しておりまして、それを中心として書いたものでございまするが、それに関する補足だけをいたします。  あのうちに書きまして、保護委員会高橋君と二、三回交渉いたした結果、私は専門審議委員辞表を出しました。それは十月二十日に出したわけであります。そのことはあれに書いてございます。一月ばかりたちまして、丁度専門審議委員会がございましたけれども、私はもう辞表を出して、協力をいたしかねるから辞表を出すという意味で以て辞したものですからして、その会議には出ませんでした。その会の途中に高橋君が見えまして、辞表を撤回してくれ、又そのあとの総会に出てくれということでございましたけれども芸術新潮に詳しいことを書いて、遠慮会釈もないことを書いてあるからして、それを読んでもらいたい。それをお読みになれば多分お互いに一緒に仕事ができないということが明らかになるであろうからということを申しまして、お別れをしたわけであります。その後辞意を聞き届けられたわけではありませんが、私どものほうでは辞したものと考えております。そのときに高橋君とお話をしたことでありますけれども高橋君は委員長としていろいろ月光の問題、首切りの問題についていろいろの人の意見を聞いたようでありますが、それによると、大体首を切らずに済んだ、或いは首を切らなかつたほうがよかつたというふうに言われる。大体それを高橋君も承認しておるようであつて、とにかく首を切つたことは軽卒であつたということは委員会で認めている。が併し今回はそれを応急措置として認めるからして、君も応急措置として認めてくれということであるのでありますけれども、どうも私は応急措置として認められないということで、到頭説が分れてしまつたわけであります。その後別に私の考えは進捗しておりませんけれども、ただあの首を切つたことについてだんだん考えて、薬師寺管長などと話したことなどから推測をしますと、元来この修理事業に対して、いろいろ金銭の予算関係で大分暗い影が射しておることも、私は前から聞いておりましたが、或いはそういうことがここにあるのではないかということを感じたわけであります。と申しますのは、あの首を切つた場合に、薬師寺のほうから水煙をやつてつた水煙修理をしてくれた。ここにも見えておられますけれども丸山教授修繕をして欲しいと言つたところが、あんなものにできるもんかという非常にまあ乱暴な言葉を使つて排斥をしたというようなことをそのときにも聞き、その後も聞いたのでありますけれども、その首を切つておいて、自分たちの仲間で以て修繕をするというふうに持つて行きたかつたのではないかという点が、いろいろの点から推測されるのでありますけれども、それも詳しくは申上げたくございませんけれども、そういうことも十分御調査を願いたいと思います。  それから第一の重要文化財海外移出の点でございますけれども、これも今の薬師寺月光問題に連関して、この海外移出のものについて行つた人が、この月光菩薩首切りの下手人の一人であるということについて、私は甚だ不満を持つておる次第であります。で、この海外移出会議がございましたときに、私は先ず第一に、この月光菩薩の首を切るような乱暴をことをやる文化財保護委員会の連中に、大事な日本の文化財を持つてアメリカを一年も廻られたならば、どんなことになるかも知れないからして、その月光問題のほうを先に片付けようじやないかというようなことを、その委員会で申したことでありましたが、遂にそのことはあいまいのうちに済んでしまつて海外移出のことはきまつてしまつたのでありまするけれども、その移出について、私自身としては、私の管理している芸術大学の所蔵品は、脇本教授が関係しておりまするけれども、脇本教授の意見にも従つて海外移出のうちに入れることをお断りをいたしました。それから又博物館の評議員をいたしておりまして、評議委員会でも保護委員会のほうからこれだけのものを出したいと言つて参つたことについて、私はそのうちの極く大事なものは、これもアメリカを持つて廻られたら恐らくは恐ろしいことになりやしないかという理由で以て、二点ばかりお断りしたようなことがございました。まあともかくもそういう月光の首切の下手人であるような人が、現在社会で問題になつておる人をアメリカへ逃がしてしまうというようなやり方は、保護委員会としては甚だ卑怯な不埓なやり方だと私は考えておりますので、そういう点からも、保護委員会仕事そのものに今は全然触れたくないと存じておりますので、何かお聞き下さるならば、知つておる限りはお答えをいたすつもりでありまするけれども、別に今差当つてここに申上げようと思うことはございません。
  6. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) それでは次に岡田戒玉君。
  7. 岡田戒玉

    参考人(岡田戒玉君) 私はお見かけ通りに僧侶であります。そうしてこういう方面の余り専門の知識を持つておりません。殊に法律上の用語など存じません。この点前以てお断り申上げておきます。  大体我々は、国宝を多数所有しておる側のほうでございますが、所有者といたしましては、従来非常に困つたわけであります。明治三十年にできた国宝保存法、その後ときどき多少の改正を加えられましたが、明治三十年にできた国宝保存法を骨子として、そうして今日まで政府関係当局のかたがたがそれを運営して、全国にある国宝を、主として社寺の国宝であります。その社寺の国宝を修理して下さつて、いろいろなお手をお加え下さつてつて頂いたのであります。それも誠に有難いことでありまするから、感謝はいたしておりましたけれども、余りに時代外れで、ほかのものはどんどん改正されて都合よく行くのに、国宝を保護するという古社寺保存法というようなものがいつまでも改正されず、たとい改正があつてもほんの小部分の改正に過ぎなかつた。これを所有している社寺のほうでは、修理したくても十分な修理ができないというような状態におかれたのであります。非常に遺憾に存じておるわけであります。ところが二十五年にこちらの方で御立案下さつて、そうして今回の文化財保護法というものができた。私どもにはそういうことがわかりませんのですが、私ども素人がこれを読みましても、これを従来のと比較しますに、非常に文化財保護するというような点について著しい進歩のあとを示しておるように思われるのであります。その点は所有者側としては、平素深甚な感謝の念を抱いているようなわけであります。ところが、それじやこれでいいのか、こうおつしやられると、やはりまだ足らんところが大分あるように思われます。  第一に申上げたいことは、我々は所有者としてやはり日夜心痛して、国宝その他重要文化財保護管理というようなことにつきまして全幅の努力を払つておるような次第であります。ところが、御承知の通りに、戦争も非常に影響しておりまするが、そうじやなくつても、日本の現在古社寺で国宝とか或いは重要文化財を持つておるようなところの、御維新当時のいわゆる神仏混淆と相並んで、神仏分離というような、あの際にとられた措置と申しますか、政府処置が非常にたたりまして、それで昔から国宝を持つてつたような立派なお寺は、財政上の非常な打撃を受けた。それがために明治三十年に国宝保存法が制定され、それまでの間に社寺の持つてつた重要な国宝文化財、そういうようなものは内地で散逸されたものもありましようが、海外へもどんどん流れて行つたわけであります。これが漸くまあ保存法ができて防ぎ得られるようになつたのでありますが、そういう点は非常に結構なことと存じておるのでありますが、私は第一、所有者側の立場から考えまして、今日政府のほうにおきましても、非常な熱を持つて、そうしてこの国宝保護をやつて行こうというような気分が非常に濃厚であつて、非常に御熱心にやつて下さる。一般国民も、これは自分らの国宝だ、単なる社寺の所有品ではない、これは公共国民的の財産であるというようなふうに指導啓蒙されて参りまして、そうしてそういう点に国宝というようなことについては、非常に関心を持つようになつてくれたということは、非常にありがたいことだと存ずるのであります。  そうすると、今後どういうふうにしてやつたらいいかということを私ども考えますが、第一、こういう立派な国のお宝を滅失してはいけない、焼いてもいけない、盗難にかかつてもいけない、これは勿論でありますが、滅失の主な原因とか状況というようなものは、やはり火災であります。そうですからこの火災から防護する、どんなことがあつても焼かないような設備をして行く。今日一般科学が非常に進んでおりますから、そういう科学的の力を以て文化財保護する、こういうことが第一必要だろうと思うのであります。これは私自身の考えであります。信念でありますが、何人がお考えになつても、そういうものを失つてはいけない、或いは毀損してはいけない、こういうふうにお考えになるものと私は信じておるのであります。そういたしますと、この法律を拝見いたしますと、そういう点については強調されておらない。又そういう条文すらも殆んどないというようなことになつております、修理をする、或いは管理の指揮監督をする、或いは命令するというようなことを相当条文に載せられておりまするが、焼かないような設備をする、これが第一根本的なものであるというようなふうに、この法律など拝見できません。第一に、将来文化財保護法をどういうふうに改正するか、保護する本当のものを滅失させちやいけない、こういうところに根本の重点を置いて頂きたいと考えるのであります。  それからもう一つは、維持管理をもつと厳重にやることを具体的に一つ明示して頂きたい。私どもは細心の注意を以て日夜これをお守りしておりますのですが、やはり規則が相当抜け道があり、そうしてルーズでありまして、やはりそれに慣れて、慣れるということはよくないことでありますが、人情というものは自然にそれに慣れて行く。知らず知らずのうちにおろそかになるわけでありまするから、国家がこれを国宝と認め、重要文化財として指定する以上は、平素維持管理をもつと厳重にする、こういうことをお願いしたいと思います。  それから維持費につきまして、維持費じやございませんけれども補助金につきまして、現在は昔の古社寺保存法は二十万円しか予算を持つておりません。而も十五万円は建築物、五万円は動産の文化財です。それを以て国家のほうで補助をなさつておるのでありますが、今日それと比較して考えますと、雲泥の差がある金額の数字が出ております。併し物価の貨幣価値から考えますと、今日補助金をおとりになつておる金額では、やはり日本の現在あるこういう大事な品物を次から次へ修理して行つて、そうして補助金を多分にやるというようなことはできないことになつております。望んでも得られないような少額の予算だと言つてもいいくらいであると私ども考えております。これらはどういうふうに一般の学者のかたなり、専門家のかたが考えておいでになるのか知りませんですが、これは所有者が社寺であり、神社であり、寺院である、或いは個人の人の場合もあります。それの所有としておるものだが、国家的に見てこれは重要な品物だから、国宝又は重要文化財に指定して行く、わしのほうは指定はしてやる。指定はしてやるし、補助もくれと言えば或る程度の補助はやる。併しながら指定のしつ放しである。平素それを維持管理するというような費用の考慮などは一切しない。この法律を拝見しましても、平素維持管理費というものをやる、支給する、或いは補助してやるというようなことは一切ございません。で、これを実例を申しますと、私は極端な異なことを申上げるのじやありません。私が住職をしております醍醐寺三宝院の庭園でありますが、今度国宝に指定替えをなさつて、第一回の特別史蹟名勝になつたわけであります。相当面積の広い大きな庭であります。それは豊太閤とその当時の義演准三宮がお作りになつた庭であります。史蹟としては、而もその当時の記録も存置されております。広くもあるし、立派な名園である。ところがそれを指定いたしまして、或いは年年植木屋を入れて、そうしていたずらに大きくなつておる樹脂などを選定いたしまして、或いは橋を架け替えるとか何とか、いろいろな庭の手入れをいたします。その庭は醍醐寺三宝院の庭に違いない、国家もそれを特別史蹟名勝として指定しておる、品物はそつちのものだから、所有権はそつちにあるのだから、修理する場合の補助だけはしてやる、平素維持管理するのはお前らの責任である、そういうようなことで、気に入らんければ気に入らんで勝手にせいというような態度が見える。又規則の上ではそういう維持費を見てやるということがないのです。先年これをお作りになる際に、参議院の文部委員会、又専門員のおかたがお呼びになつて、これをお作りになつておる。その際に来てくれというものですから伺いまして、是非ともやらなければいかん、如何に立派に、建物なりお庭なり立派に修繕しておいても、修繕は一時的である。あとでやはりきれいに掃除もし、修理もし、もののいたまなないように終始手入れする。そうしてその上に保管をするというような事柄については、何にもそういう点については御採用にならなかつたらしい。従つてこれも法律の上に現われていないのであります。それだから修理補助をして下さるということは非常に結構であります。その補助率を最近はよほどよくなつております。よくなつておりますが、その維持管理ということについては、維持管理費の補助とか、支出とかいうようなことについては、何ら考えておいでにならないようでありますが、今後参議院等におきまして、この法律を御改正下さるというのならば、その点にまで御考慮を一つお願いいたしたい。こういうように考えるのであります。  それからもう一つは、国宝に指定なされ、重要文化財に御指定になる場合に、神社でいえば御神体、仏教のほうでいえば御本尊です。そういうものは幾ら古代文化の遺産であり、そうして精粋を誇るものであつても、それは現在生きた信仰の対象として我々は尊信しておる。で、それは御指定になる点までは、まだ無理もないかも知れないと思いますが、御指定になるについては調査をなさる、或いは調査後においても必要あれば、学術の研究とかその他いろいろな理由でそれを御覧になつたりする。そんな場合に我々は、その我我の宗門の、いわゆる教義からその本尊様は非常に大事にしておる。ところが中央地方を問わず、官公吏のかたとか、或いはこういう技術関係の学者等が出て来られて、普通の一個の物品と同じようにお取扱いになつておる。そういうようなことは、我々は宗教上の信用とか、信仰を冷ますようなことになる。そういうような点は、こういうことに従事せられるかたがたも、その像、その本尊とか、或いはその御神体の祀られた由緒、因縁、古事来歴というようなものを十分御承知下さつて、そうして、そういうものを取扱上非常に鄭重にするということは、何かの条文で一つきめておいて頂きたい、こう考えるのであります。先ほど奈良県の教育長のおかたがこの点をおつしやつておりましたから、その点につきましては、我々も同感でありまして、これ以上申述べることの必要はないと思いますが、そこはどうかよろしくお願いいたします。  それからもう一つ。維持するとか、或いは修理保護するというような点は相当強調されておりまするが、これを滅失、毀損したりした場合のその責任は誰がとるかということが明確じやないと思うのです。例えば具体的事実として申上げます。非常に日本の国家にとつて不幸なことでありましたが、法隆寺の金堂が焼けた。世界最古の木造建築物が焼けた。あの場合はどういう状態に置かれておつたかと申しますと、法隆寺の金堂は国宝なんです。併しながら国宝保存法その他の、あの当時の規則によつて修理は一切国家に委託されているはずです。国家が委託されて、事務所を作る、そうして責任者を置いて、そうして修理をやつてつたわけです。不幸にして、模写をしておつたのですけれども、模写は残つたけれども、現物は殆んど見られないように焼いてしまつた。こういうような不始末な結果になつた。その当時誰が責任をとるかということを別に考えておいでにならんようでありました。国家なら国家が、文化財保護委員会のほうで責任をとつているから、今金堂を再建してやつているじやないか、こういうお話が出ているだろうと思つているのですが、又そういうふうにお考えになつているのではなかろうかと想像しているのでありますが、併し金堂は建直してもらつても、壁画が焼けては元に戻ろうはずがありません。これは法隆寺としては重大な損害を受けている。国家に委託してあつて修理その他すべてについて全部委託してしまつて、そういう形式をとつている。事実その通りにやつてつた。そういうときに建物は造つてある、それでいいじやないかと言われても、千三百年前の貴重なものが焼かれてしまつて、今日の新らしいものをこしらえてもらつても、これは社寺のほうは困る。困るといつているだけなんです。そういうことは誠に気の毒なんです。先年これに引続きまして、金閣寺が焼けました。あれなどは法隆寺の場合などとは非常に違う。社寺みずからが、社寺の責任者の責任をとらなければならない問題だと私は考える。あれは住職の弟子で異常心理者みたいな人がおつて、それでこれが火をつけて焼いた。住職の監督不行届、これは寺が責任をとるのが当然だと思いますが、法隆寺のごときはよほど事情を異にしている。又豊太閤が造りました土塀の上に、私のほうのお寺の桃山時代のあれがあつた。いわゆる宮様が桜の花見をなさる楼門のところにお座敷が二間ある。ところ京都府へ修理を委託してあるので、純浄観の襖なり、純浄観の古い建具などすべて修理事務所に入れてしまつたほうが便宜でいいから貸してくれというので、そこへ貸して、修理をしている建物の建具などをそこに詰め込んだ。それが技師が不注意であつたがために、夜中に火災を起しまして、その建物は一棟すつきり焼いてしまつた。それは慶長二年の建物で、非常に桃山文化の粋を誇るようなもの。けれども、そうしたことがその結果どうなつたかと言いますと、すべてやはりお寺のほうが焼かれたということで、これは泣寝入をしているということです。これは役所に委託している。而も法律によつて委託している。お寺が勝手気儘に委託しているのではなくて、仕方なしに委託している。法律を遵奉するためには、そういうようにしなければならんようになつている。それでその場合でも、うやむやに終つて、寺は一切損害賠償をして頂くことになつていない。又そんなこともしませなんだ。進んでしませんし、又向うのほうから進んでそんなことを考慮して下さらなかつた。そういうような事実の例があるのです。まだ全国的に拾い集めると幾らでもありましようが、そんなことは詳しいことを申上げなくてもおわかりだろうと思うので、二、三の例だけ申上げたような次第であります。  それからもう一つ申上げておきたいのは、研究されて、こういう方法がいいと専門の技術者が、いわゆる審議会とか或いはどこかでお集りになつて、幾多研究し、議を練る。これで大丈夫というようなことで、修理保全のために施行して下さるのだろうと思うのであります。それはほかではございませんが、襖やそのほかの屏風であるとか、或いはその他の仏具、掛軸であるとか、時代がだんだん古いものですから、時代がだんだん経ているので或いはそれを取扱う上において、幾分かずつそこにやはり絵の具が剥げたり、そういうようなことを、そのまま放つておいては仕方ないから、これの防止策を考えなければならん。その防止策について最近御研究になつた結果、今合成樹脂が一番いいという話があつた。それで盛んにあちらこちらに合成樹脂を注射なさつたところがあれは百年も二百年も研究されたものならいいが、そういう実験を経たものならいいが、まだ最近御研究になつて、果してそれを注射しておいて、将来痛ませないというような保証を誰がするか。だから所有者としては非常に意見がある。今のところは大丈夫だとおつしやる。そういう点はよほど今後慎重に一つ取扱うようなふうに一つお願いしたい、こういうふうに考えております。  その他ほかの問題もございますが、上野学長や奈良県の足立さんからお話なさいましたし、又ほかの参考人として呼ばれている諸先生方がいろいろ意見をお出しのようでありますから、私はこのくらいの点でお願いを申しておきまして、責を果したいと存じます。悪しからず、どうぞ。
  8. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) では次に荻野二郎君にお願いいたします。
  9. 荻野二郎

    参考人(荻野二郎君) 私は都道府県立場から文化財保護法改正に要望すべき点を申上げたいと存じます。  我が国文化財を守つて行きます一番基本の態勢、一番大切な態度というものは、国と地方公共団体とが力を合せて常に細心の注意を以て守つて行くこのことだと思うのでございます。これは文化財保護法の第三条に謳われているのでありまするが、国及び地方公共団体の任務として謳われているのでございますけれども地方公共団体の任務というものは、この総論に謳われているだけでございまして、第二章以下の各論には何も謳われておりません。都道府県の固有の事務というものは一つもございません。権限委任することができるとか、書類を提出するとか、なお最近附加えられまして、意見を国に対して述べることができるという具申権、これは附加えられましたけれども、固有の事務は全然ございません。私はこの改正の際に、すべてを、フイルド・ワークというのはすべて地方に任せろ、そういう乱暴なことは申しません。文化財管理事務というものは、都道府県の固有の事務にするということが、私は非常に大切なことじやないかと思います。このことは、なぜこれまでそういうふうにされていないかと申しますと、都道府県にそういう行政能力がないということだと思います。ところ行政能力がないからと言つて放つときましては、いつまで経つて行政能力はつきません。各府県の専門学校を新制大学にしたり、各市町村に教育委員会を置いたりしたことから比べれば、都道府県教育委員会文化財管理事務をさせるだけの行政能力を持たせることは、そう大してむずかしいことではないと思います。財的な裏付といつたものも若干は要ると思いますけれども、それは当然平衡交付金において見るべきだろうと思いますが、地方のその地域に存在しております文化財を常に守つて行く、見守つて行く。これは国にすべて任して、地方の隅々まで目が届くとは思いません。文化財保護法改正の際に、是非とも文化財管理事務というものを都道府県の固有事務としてお載させ下さり、そうして国と地方とが力を合せて文化財を守つて行く態勢というものをお作り願いたい。  なおその他文化財保護法改正について意見を持ちますけれども、それは現在文化財保護委員会事務局で考えられております通り、すでに発表されております試案に全面的に賛成でございますので省きます。
  10. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) 次に下村寿一君に……。
  11. 下村寿一

    参考人(下村寿一君) 私はこの与えられた問題につきまして、大体全部に触れて意見を申上げたいと思います。但し三のほうは極めて簡単なことに止めまして、その他の諸点について意見を申上げたいと思います。  重要文化財海外移出についてでございますが、これは原則としては移出をすべきじやないと思いまするけれども、国際文化の交流、その他の理由によつて、必要な場合には無論これは認めてよろしいわけです。そこで品物の選定、輸送の安全、管理の厳正確実、損害の補償、そういう点を十分考慮いたしまして、先ず以てこの保存上の注意を十分しなければならん。国際的文化の交流、その他の事由によつて、特に必要と認めるに足るかどうかということは、これはちよつと具体的に測定しがたいのでありますけれども、日本の古代から伝わつているところの高度の文化財をかの国で展覧させるということは、外国人が日本国、日本民族を理解し、認識するに与かつて力あるばかりでなく、かの国の文化の発展に相当大きな貢献をなし得ることと思う。こういういわゆる文化財の活用を図り、以て国民の文化的向上に資すると共に、世界文化の進歩に貢献することを目的とする、こういうことに当てはまるものと思うのであります。でありますから、以上述べたような点を注意いたしまして、濫りに移出をしてはいけませんが、場合によつては移出も差支なかろうと思う。このたびのアメリカ展の問題でありますが、これについていろいろ異論がありますけれども、品物選定、輸送の方法、管理の問題、損害の補償等につきまして、相当周到な考慮が払われたようであります。それからこの文化財所有者側の感情でありますが、これは世間で余り申しておりませんけれども、三、四のかた等から聞いたことでありますが、日本が無条件降伏をしたのであるから、その当時は重要文化財が向うに持つて行かれるかも知れない、或いは償金の一部として接収されるようなことがありやせんかというようなことを、相当心配した向きもあつたようであります。或いは奈良の正倉院の御物も持つて行かれやしないかというような心配もしたようでありましたが、併し米軍の占領によつて、そういう事態は起らなかつた。幸いに、絶無ではなかつたようでありますけれども、刀剣等において多少のことはあつたようでありますが、そういうようなことはなかつたのです。京都、奈良のようなところが米軍の配慮によつて爆撃を免れた。これは道徳の面からも、米国があれほど熱心に懇望するならば、出してもよかろうじやないかというような考え方があつたようであります。でありますから、海外移出、殊に今回の米国移出につきましては、これは不当ではなかつたと思います。併し原則はどこまでもこれは重んじなければなりませんから、仮にヨーロツパ諸国から同じような要望がありましても、その場合には各種の事情を考慮して慎重に決定すべき問題であろうと思います。  次には薬師寺月光菩薩の問題でありますが、この月光菩薩首切り云々の問題は、それが現状変更か、或いは維持のための緊急措置であるかということによつて、まあ結論が違うことになると思います。で、私の聞くところによりますというと、倉田技官、これはこの前に相当長期に亘つて月光菩薩の像を詳しく調べたのでございます。修理の必要上相当長期に亘つて調べたということでございます。で、そのときには前にはその亀裂が一部しかなかつた、それが吉野地震の被害調査に行つて見たところが、これが全部に亀裂が廻つているということを発見したということであります。でありますから、首切りというのは吉野地震が切つたので、技官が切つたのではない、こういうことになるように思うのであります。すでに全面的に頸部に亀裂が廻つている。他のほうから伺いますというと、地震で首が切れたのじやなくして、技官が切つたのだということでありますが、ここに相方の事実の認識の食違いがあるので、結論がおのずから違つて来るのじやないかと思います。仮にその亀裂の点に触れることは暫らく差措きまして、月光菩薩の仏頭が、まあ吉野地震から相当経つておりますから、余震はないかも知れませんが、或いはあるかも知れんが、その他偶然の事故によつて遂落して、破壊する危険は全然なかつたかというと、たしかにその危険は全然ないということは断言できなかつたと思います。それは寺側が、薬師寺側の仏象の安全保護方を技官に懇請したことは間違いないことであります。どうか一つ安全によろしく措置をしてもらいたいということを言つたことは間違いないようであります。寺が嫌がるのを、無理に技官が処置したのではない。これは事実のようであります。そこで元に返りまして、若し首の全部に亀裂が廻つてつたとすれば、それを取外して安全を確保するということは、維持のためにする緊急措置として認めざるを得ない。文盲の一部は繋がつてつたとしても、なお甚だしい危険状態にあるとすれば、その危険を避けるために首をおろすということは、他にも方法があるかも知れんけれども一つの安全確保の緊急措置として、認めざるを得ないことであろうかと思うのであります。  この事件において鉄心を切つたということが、論争の重要な一つの焦点になつておりますことは、誠に尤もなことでありますが、この鉄心というものが重要文化財構成の一要素であるかどうか。この点は専門家によつて意見が違うようでありまするが、私は鉄心というものは頭の支えにもなつておらん。大分上までは通つておらんそうだ。下は幾分腹部に留まつているということで、支えにはなつておらん。仏像の内部に残存した物体だ、残置物件だ。別に重要文化財としての構成要素ではないと思います。年代は古いものには相違ありませんけれども、決してこれが重要文化財の構成の、その一要素になつているとは思われない。いわば刀剣の目釘の働きもしていないかと思います。刀剣の目釘は、きちんとその刀剣をおさえておりますけれども、この月光菩薩の鉄心は目釘の働きもしておらん。仏像修理の場合には、例えば乾漆の仏像などには、内枠の入つておるものがたくさんあります。その内枠などを取換える場合、削り直すというようなことが、一々現状変更として従来取扱われているかどうか、多分そうではないと思うのでありますが、これは実務者のほうに聞いて頂きたいのであります。恐らく一々そういうことを現状変更として取扱つてはいなかつたと思います。一体現状変更ということは勿論余ほど慎重にしなければならんことでありまして、相当厳重に取締を要しますが、例えば指定当時の、刀剣の指定を受けた当時の、目釘を替えるとか、或いは仏像の中の枠をいじる、それが一々現状変更であるか、建物の場合ならば、地方の国宝建造物或いは重要文化財、ひどくいたんだのがありまして、或いは風水害のために雨漏りがするとか、風が吹けば今にも倒れやせんかというのも見受けるのでございますが、そういうような雨漏りをとめるがために、屋根の裏に手を入れて、例えば檜皮葺の部分の一部に鉄板みたいなものを差入れて、垂木を一本切るというようなことが起るのでありましようが、それは一々現状変更で取締るべきものであろうかどうか。現状変更というのは相当重い刑罰規定も存しておるのでありまして、所有者がやつた場合でも二年以下の懲役又は禁錮或いは罰金というようなことがついておりますが、こういうことを一々現状変更ということで取締るということは、これは保存行政としては非常に行き過ぎかと思うのであります。でありますから、或る行為が現状変更であるか否かということは、そう軽々にこれは判定すべきものではないと思います。技官たちにいたしましても、今後災害の復旧調査などでしばしば出掛けますが、そういう場合に、応急措置の程度がいつも問題になつて、手も足も出ないということになりますというと、これは実に保存行政の上からも困ることになりはせんか、こう私は思いまして、現状変更は成るほど厳重には取締りをしなければならんが、重要な問題、殊にこれは所有者に刑罰まで科してある問題でありますから、所有者以外ならば五年以下の懲役又は禁錮というようなことになりますから、軽々にあの行為が現状変更であつたというようなことを論断するのは、これはよほど慎重な態度を要するかと私は思います。  それから何故に専門審議会にかけなかつたかという点でありますが、この点も御尤もでありますけれども、これも事態の認識如何によつて分れる問題であります。技官が奈良から帰りまして復命をして、案を作つて専門審議会にかけるというためには、少くとも一週間や十日はかかるのであります。ところが技官の認識は、一刻も争うことはできないというのでありますから、この点を強く責めるということもどうかと思います。併し私は専門審議会でも意見を申述べたのでありますが、非常にこれは刑法上の問題で言えば、正当防衛であるとか緊急避難というようなことであつたのだ。であるから事態が、最善のやりかたではなかつたかも知れませんけれども、それは責めを問うべきものではない。こう申述べたのでありますが、そのことは今日もなお同様に考えておるような次第であります。  要するに月光菩薩の問題は、当委員会が技官の責めを問うべき筋合ではない。今までのところは……。今後どういうふうにして世界的の立派な仏像を修理して、完全に復元すべきかということが、これが重点になるわけであります。若し今後の処置が誤つておるとするならば、これは相当の責めを保護委員会としましても関係者に対しても問うべきであろうが、今までのところではあらゆる事情を考慮しまして、責めを問うべき問題ではないと思うのでございます。  それから文化財保護行政のことでございますが、これは文化財保護行政の画期的に大変に大きな改正をされまして、漸く軌道に乗つて来たのでありますから、この問題についてはさしたる別に意見もないのでありますが、ただ私が考えますのに、予算が非常に少いと思います。先ほど岡田戒玉氏からもお話がありましたが、明治三十年に古社寺保存法が制定されまして、それ以来十五万円乃至二十万円ということがちやんと法律の文句の中に規定してある、法文の一条になつております。そのときには、その保護対象というのは非常に少かつた。恐らく今日の保護対象の何十分の一であつたかと思うのであります。今日は個人のものも入つて来たし、或いは無形文化財或いは天然記念物と、いろいろなものが入りまして、恐らくその古社寺保存法制定時代と比べますというと、どのくらい数が増しておりますか、大変な数が増しておると思うのであります。それから物価の高騰率も、これも恐らく数百倍或いは千倍近くもなつてやしないかと思うのであります。そういたしますというと、現在二億、三億の金を費しておるということでありまするが、とにかく日露戦争より前にこういう古代美術を保護するために、当時の日本政府は二十万円の金を出しておる。今日は日本は文化国家として立つて行かなければならんということを堂々と世界に向つて宣言をしておる場合におきまして、二億、三億の程度では非常にこれは少い。これは是非この予算を二倍なり、三倍にするということが私は絶対に必要であろうかと思うのであります。  それから文化財保護法について改正すべき点でありますが、これは先ほど足立さんからもお話がありました租税の減免措置の問題であります。あえてこれは、私はくどくどしく申上げませんけれども、非常に厳重な制限、さつき申上げましたような懲役だとか禁錮だとか或いは罰金科料、まあいろいろなことで所有者を責めて、いろいろな義務を負わしておる。調査に来れば拒むわけには行かない、或いは移動を報告しなければならん、何とかかんとかしきりに責めておいて、そうして税は当り前にかける。これはどうも私はよろしくないと思います。殊に同じような美術的価値や或いは経済的価値を持つておるものであつて、或るものは国宝なり重要文化財になる。それと同じようなものが、その指定を受けないものが現にたくさんある。これはその作者の、まあ年代とか或いは同じような図柄の作品が三つも四つもあるというような場合によく起るようでありますが、同じような芸術的価値を持ち経済的価値を持つておるもので、一方は国宝になる、重要文化財になる。ならんものはどんどん普通の財産として市場に取引され、何らの制限も受けておらん。重要文化財、国宝は非常な制限を受けながら、税の減免を受けない。これは私は国家として非常に片手落であると言いたいのであります。曾つて馬場英一氏が大蔵大臣をしておられましたときに、この美術品に対する課税問題というものが起りましたけれども、諸般の事情を考慮されまして、国宝或いは美術品等に対する課税はしないということに決定をいたしておつたのであります。ところがまあ国の財政もだんだん困難になつて来たわけでありましようが、こういうものに税をかける、而も遠慮会釈もなく高税をかけるということは、これはどうしても直さなければならん問題であります。どうかこれは参議院におかれまして、政府を鞭撻されまして、然るべく方途を講じて頂きたいと思うのであります。政府のほうが若し何かこれについてしておられぬようでありましたならば、財政関係のことでありまするけれども、或いは議員立法によつて適当な措置を講じて頂くのがよろしかろうと思うのであります。  それからこの国宝、重要文化財保存修理と宗教法人法との関係でありますが、これについてちよつと御考慮を願わなければならんことがあるように思います。それは宗教法人法の二十三条に、社寺が重要な行為をする場合には、その行為をする一カ月前に公告をせねばならんということになつておるのであります。これは社寺というものは従来住職なり神職なり総代で大体主なことをきめてみなやつたのでありますけれども、いわゆる民主化の原則に従いまして、或る重要な行為をする場合には、信者、その他の利害関係人にそのことを周知させるために一カ月前に公告せいということになつておるのであります。それでありますから、社寺の主要な建物の新築、改築、増築又は著しい模様替えをするということは一カ月前に公告してかからなければならん、こういうことにまあなるわけであります。それはつまりそういう宗教団体の民主化の線に沿つてきめられたのでありまして、決して不当な定めではないと思うのでありますが、ところが国宝やなんかの修理につきましては、これが非常な煩らいがある。例えば模様替えをするということであります。建物の模様替えをする。これはいろいろ古い記録を調べて見る、或いは建物を解体して見る、解体した結果、途中にいろいろ改悪をされて、どうしてもこれは復元しなければならん。例えばまあ著しい例を申しますというと、屋根が棧瓦葺になつておる。元はこれは檜皮葺であつた。建物の構造の上から、又記録の上からはつきり出ている。そうするとこれを檜皮葺に改正をしなければならんということは即ち著しい模様替えになります。そういうことをする場合に、一カ月前に公告してやらなければならんということになるのであります。丁度工事の進行中にそういうことが発見されて、そういうふうに復元をするという、専門審議会にかかつてきまつても、一カ月間仕事を停頓しなければならんのみならず、そういう点はややもすると、学者、専門家の意見の違うことがある。建物の復元について甲の説、乙の説、違うということがあります。そうすると、そういうような場合にはその解決までこの長期間その工事を停止しなければならんというようなことが起るのでありまして、実際問題として非常にこれは何とか善処をするような方法を考えなければならんと思います。例えばまあ法隆寺の金堂の壁画や、まあ法隆寺は新らしい法人法の適用を受ける状態になつているかどうか、それは調べて見なければわかりませんけれどもいずれ早晩もう新らしい法人法によることになるにきまつている。今年の十月の二日が期限でありまして、これから一年六カ月の間にみんなすべての社寺は新らしい法人法によりますから、そうなると壁画なら壁画の取扱いを聞き、これを一カ月間に公告する。そうすると、学者、専門家によつていろいろ意見も違い、殆んど手も付けられんような事態が起りはせんかということを懸念する次第でありまして、この点は一つ宗教法人法の改正になりますか、或いはこの重要文化財保護法改正によりますか。いずれにしても適当に改正をする必要があるかと思います。  それからもう一点でありますが、史蹟名勝天然記念物文化財保護法対象として取扱うべきであるかどうかということであります。史蹟名勝天然記念物全部を文化財保護法対象として取扱うべきであるのかどうか。史蹟名勝天然記念物はこれは大正八年の制定の何でありまして、これは当時の貴族院の立法であつたように私は記憶しております。徳川頼貞侯その他の人が大変に骨を折りまして、こういう何ができたかと思うのであります。そのときは内務省の地理課で所管をいたしておりました。全く文部省の社寺保存とは行政として別の系統であつたのであります。それから昭和三年に文部省にそれが内務省の地理課から移管されまして、局はやはり宗教局で取扱つてつたのでありますが、法令系統としては別でありまして、この古社寺のほうは古社寺保存会というものがあり、史蹟名勝天然記念物のほうは、このほうの調査会がありまして、別々であつたのであります。昭和四年に国宝保存法が制定されまするときにも、これはどうしようかという問題があつたのです。一緒にしようかどうしようか。けれども依然別個のものとして取扱うことにきまつたのであります。然るにこの文化財保護法では、有形文化財、無形文化財と相対して、史蹟名勝天然記念物として別に一章を設けて、有形文化財、無形文化財と同じような規定を定められ、又は多くの規定を準用されております。これは果して如何なものであろうか。史蹟名勝天然記念物は勿論文化と直接関接の関係のあるものもたくさんありますが、多くのものは天然現象それ自体、或いは文化の方面とは関係の極めて稀薄なものが多い。それを行政対象として同じように法律の下に置くということはどういうものでありましようか。殊にその史蹟名勝天然記念物でその取締りをするとか、国家的配慮を要するというようなことは、現状変更とか、その保存に影響を及ぼす行為が主でありまして、こういうことは今までもとは地方長官の許可でみんなやつたことであります。大臣まではやつておらなかつたのであります。そういう現状変更とか、保存に影響を及ぼす行為の取締りが主であつて、国宝や重要文化財のように維持し得るということが重要な行政目的となつているものではない。でありますから、この史蹟名勝天然記念物というものは文化財保護法とは切り離して、別個の委員会取扱うことにしたらどうだと。そうしてその国家的のもの、史蹟名勝天然記念物のうちの国家的のもの、これはもとは第一類と言うておりました。地方的のものが第二類、その第一類のものだけ中央で取扱い、それから第二類以下のものはこれは地方教育委員会に移譲したらどうかと思うのであります。これは随分数が多い。千何百幾つ、全国にあると思いますが、二千近くあると思いますが、それを一々中央で配慮するだけの、まあひらたく言えば、価値はないものだ。ずつと前に知事が指定した。仮指定をした。そういうものが今ずつと残つているわけなんであります。それについては、そういうことは地方に任せるというと、これは地方のいろいろ政党の事情やいろんなボスなどが又影響して来るからいかんという説もありますけれども、そんなことを言うていた日には限りはない。併しそれは権威ある委員会の構成によつて、又或る程度は政府が進めることがあるとしても、そこまで一々考える必要はなかろう。これはそういうわけで史蹟名勝天然記念物のうちの第一類に属するものは、国家的のものはこれは中央で扱う、第二類以下のものは、これは地方教育委員会保護してもらう。そうして中央に残すこの史蹟名勝天然記念物保護委員長というものは文化財保護委員長がかねる。それからその行政事務保護委員会事務局が取扱うということにしますというと、この相互の関係も脈絡も十分つくわけであります。相互の交渉事項などはスムースに取捌いて行くことができると思うのであります。こういうふうにいたしますというと、事務の面におきましても相当簡素化されるのじやなかろうか。現に史蹟名勝のごときは今大部分まだ手がついておらんと思うんです。殆んど大部分は昔のままでこれからどう整備なさるのか知りませんが……というようなことでありますから、これはまあそういうふうにしたらいいんじやないかと思う次第であります。  以上大変無遠慮なことを申上げましたけれども、気の付きましたことを申上げまして御参考に供したいと思います。
  12. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) 次は丸山義男君にお願いいたします。
  13. 丸山義男

    参考人丸山義男君) 私は学校のほうで、芸術大学のほうで、鋳金を受持つている者でございます。この保護法とか、保護上の規定、法規のことについては極く不慣れの者でございましてはつきりわかつておりません。ただここに月光菩薩問題についてと書いてありますが、その問題と申しまするのは、実際の仕事上のことについてばかりじやなしに、法規上のことが随分からまつているように私は考えられます。併しその法規上のことは私は詳しくもありませんし、今まで余りそういうことは存じておりませんので、そういうことは申上げません。  月光菩薩のことにつきましては、私が最初に月光を見たのは、丁度以前に水煙水煙ばかりじやありませんですが、相輪全体のことについて修理を私はやりまして、それができ上りまして、丁度取附けに行きました、九月一日でございますが、そのときに月光のことを見て呉れといわれまして、ちよつと拝見したわけでございます。それで見ましたところが、もうそのときはすでに仏体が寝せてありまして、首が離れておりました。で、その首が離れておる状態をよく見ましたところが、もうすでに首のところの亀裂はよほど以前から十分に切れておつたものと私には考えられます。この際に、地震の際に離れたというような個所の部分は極く小さな個所でございまして、まあそういうような状況だと私は観察して来ました。それでそれにつきましていろいろお話を承りましたところが、あの首の頭の天辺から少くとも膝の下くらいまでに通つておる鉄心が切られたのだということでやかましくなつたわけでございました。その首の鉄心を切つたことが相当問題になつておりまして、これが法規上からいいか悪いかというようなことは私はよくわかりません。ですが、あの場合にいろいろ話を聞きましたところが、あの首を下さなければならないというような信念の下に、技官たちがそれをまあ釣上げたものらしゆうございます。そして釣上げては見たものの、鉄心が通つておる。首だけを釣上げようと思いましたところが、事実は首ばかりでありませんで、体全体が極く少しですけれども、下の台座から離れたというようなことを私は聞きました。そして又一層力を入れて首を釣上げたところが、どすんといつてそれが落ちた。そういうようなことを聞いております。で、どすんといつて全体が落ちた。それでもつと首を引上げて見たところが、鉄心が通つておるので、鉄心は首のほうにくつついておつて胴のほうにはくつついてない状態にありました。それでどんどん首を上に上げようとしましたところが、その鉄心が長いもので、天井に閊えてこれが上らない。それで首の中の鉄心を切断して、そうして下した、こういうような話を私は聞きました。併しその状態は、私はどすんと落ちたというようなことは、私がこの目で見たわけではありませんから、それはわかりませんが、そういうような状態だということを私は聞きました。果してその首の中の鉄心を切らなければならないかどうかというようなことにつきましては、これは技官たちが切られたということも、或いは一面無理がないじやないかということも考えられますけれども、ただ首を下すというようなことばかりを考えたために、そういうことが起きたということは、そうしたことも私は止むを得ないことじやないかとも考えますけれども、併しあの鉄心なるものはただ私が見ただけで以ては相当頑丈なものでございまして、首だけの目方といいましたならば、せいぜい五、六十貫の首じやないかと思います。その中に、而も頭の中にしつかりくつついている鉄心が、その鉄心の長さが相当長いものが、たとえ地震があつたとしても、首が落ちるということは想像できません。仏体全体が、これが或いは倒れはしないかというようなことも考えられたのには無論違いありません。私も又再度の地震があつた場合にも或いは倒れはしないかと考えられます。それでこれが安全な措置をとるためには、私でしたならば、或いは切らずにそのまま倒します。例えばあの仏体全体が相当の角度までに横に倒された場合に、決してあの鉄心があれば首が離れて落ちる憂えはありません。で、私としましたならば、あの首を上げて、少し引上げて、その間に間隔ができますから、その間隔の間に相当、たとえてみますと座布団のようなものを挾んで、首がぶらつかないように囲りからそつと当て木をしまして、そのまま穏やかに倒せば支障が少しもないものと私は信じております。これは少くともそういうような仕事に慣れておらないかたであるから、そういう処置に出られたのじやないかしらと私は想像しております。で、若しそのことについて、私の申上げた私の信念について、御疑問がありましたならば、実験してお目にかけても結構です。  それから修理というようなことになりますでしようが、それはどういう手段でおやりになりますか、どういう規模でおやりになりますか、それはわかりませんけれども、或いは無論首はつけなければならない。つけるについてはどういう方法でつけるかというようなことは、これは実際の技術者の御相談を待たなければならんのじやないかと思います。それから台座の蓮弁でありますが、上向の蓮弁が約三分の一ありません。下向の蓮弁が約四分の一近く欠けております。それからそのほかに又瓔珞とか天衣とか、そういうものは相当多数欠けておりますので、修理をなさるのでしたならば、これは全部元の形にまで十分な修理をされるべきであると私は考えます。ただ私もそのときの状態を見まして、それだけのことが考えられますので、簡単に申しました。  又詳しいことについて何か御質問がありましたならば、私がお答えできる範囲のことは申上げます。
  14. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) 次に脇本十九郎君にお願いいたします。
  15. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) 私は全体について、修理について申上げると申しておきましたが、時間もそうないそうでありますから、余り詳しいことは申上げません。極めて簡単に申上げます。  文化財海外移出、つまり今度のアメリカでありますが、無論私は頭が悪いせいか、初めからはつきりしない。つまり私自身から申しますと、不明朗な点がありまして、会議の席上でも、いろいろ質問をしたことでありました。まあ文化の国際的交流ということは非常に大切で結構でありますけれども、何分にも長期の陳列でありまして、長途の運搬になりますし、それから気候風土なども違いますことですし、どうもこれは相当はつきり考えなければならんと思つたのでありますが、何分にも、まあ私が申せば、事後承諾のようなものでありまして、頻りに国策ということを言われまして、ナシヨナル・ポリシーということを言われまして、而も大体にはもう案がきまつておる。それを鵜呑みにしなければならんというような状態でありました、事情にありました。私はしきりに準備期間が少ないということを申して、少くとも二、三カ月、或いは半年ばかり延ばしたらどうだ、第一、当局において用意された原案、つまり品目を見ますと、相当名品が揃つておりますけれども、いわば美術品的には何らそこにはつきりとした、何といいますか、統一というものもありませんし、もつと親切な品目が組めないのか、日本美術というものを十分理解してもらうためには、もつと学術的な立場からはつきりとした品目で行きたいといつたようなことも申したわけであります。併し何分にも時間がありませんということ、それから陳列その他の方法につきましても非常に不安がありましたものですから、こういう点はどうか、こういう点はどうかというようなことをしきりに矢代君などに質問をしたわけでありますが、とに角そういう注文はするけれども、時間がないから、どうなるかわからんといつたような不安のままに議事を進めることになつたわけであります。その品目そのものにつきましても、先ほど上野学長が申しましたように、すぐには承認しがたいものを含んでおりました。ウオーナー博士その他がドリーム・リストというものを後に示されましたが、それを渡されるときに、このうち一点でも出れば、アメリカ側は満足するということであるということが繰返されておりまして、成るほどウオーナーさんあたりは、流石に日本美術の品質上の極めて薄弱な材質で……、この間博物館の野間君が耐久力というようなことを申しておりましたが、長期の陳列さえも懸念される、つまり褪色が考えられるといつたようなもので、余ほど謙遜的な下手なアメリカ側の希望で、申出を諒といたしましたら、こちらは存外に気前がよくて結局そのリストに載つているものが二十点ばかり加わりまして、原案はもつともつと多かつたわけであります。そのようなことを詳しく申しておりましてもいたし方ありませんが、私の見るにはアメリカ側では博物館が事に当り、こちらも博物館がありますが政府自体が当る。これはどちらでもよろしいのでしようけれども国民がそれを聞いた場合に、どうであろうかといつたような点もありまして、いろいろ質問を試みたわけでありました。立派なものを持つて行くということは勿論日本美術を理解してもらう上に必要であると思われますけれども、先ほど申しましたように、非常に薄弱な材質のものでありまして、実を申しますと、そういう褪色とかいつたような方面は専門家の間でも科学的な実験もできておりませんし、非常に不安で、私どもにお尋ねになりましても、どの程度、どの期間にどのくらいの光線で褪色するかといつたようなことはわかりませんけれども会議の席上でも述べましたように、博物館の貯蔵品で陳列しておりますものが、数年間で急速に様子が変つて参ります、その実例などを挙げまして、まあ安田靫彦委員などからも、毛利家の雪舟の山水長巻が出るならば、今の色の状態をそのままに一つ模写を作つておいて、帰つて来たならば、どのくらい変つたか調べてみようじやないかという提案もありまして、皆賛成いたしました。この毛利の山水長春につきましては、私ども非常な関心を持つておりまして、勿論アメリカ側も近来雪舟画に対する研究が盛んに起つておりますので、要求もありそうなことは考えましたけれども、何分にもあそこに使われております色彩は、鉱物性でなく、植物性のものでありまして、これが一番危いものであります。日本においての陳列にしましても、せいぜい五日間、先年は陛下が丁度行幸になりますので、更に二、三日を加えたといつたような状態、まあ我々の祖先を初め、我々が古美術の保存について非常な注意を払つて、漸く全きを得ておるものでありますから、ここで正味五カ月の陳列というものは、とても想像するだに恐ろしいものでありまして、幸いにその雪舟の山水長巻は毛利家から拒絶をされまして、行かないことになりましたが、とにかくこの文化財保護委員会の問題になりますけれども保護という面が存外にはつきりと考えられないではありませんでしようが、先ほど来お話に出ました活用の面というものが余り大きく考えられまして、日本美術はそのものの性質上高度の活用には耐えないという点が忘れられている。これは非常に遺憾であると思うのです。この海外移出につきましてその管理責任者として月光菩薩の問題の当事者が、片附いたような片附かないような月光菩薩の問題をあとにして、そのアメリカ行きの品物について行つたとかいうことも不思議なことだと考えております。  それから第二の薬師寺月光菩薩の問題は、これは丸山君の言われたことは尤もと私も思います。それからもつと詳しいことは上野学長の書いたもの、ただその首を下したということばかりではなく、それについての委員会の態度といつたようなものは、私どもには全く了解ができません。下村さんは会議の席上でも言われましたし、先ほども申されましたが、つまり強盗に対する正当防衛というお考えであり、又刀の目釘のお話なども出ましたが、多少私にはそのたとえは当らないのではないかという気がいたします。最後の小委員会がありましたときに、香取秀真という専門家が、やはり委員でありますけれども、出席されておりまして、香取さんは斯道の最高権威であつて、そしてあの中の鉄の心棒は今の時代においては取り去るのが習慣であつて、ああいうものはあつてもなくても大した相違はないのだ、だから君もそう思わないかという美術工芸課長の本間君から頻りに私にそう申されました。大体本間君は刀剣の研究家でありますが、この刀剣の人が絵画とか彫刻とかいつたような方面を含めての文化と申しますか、それを総括しておるということにも機構上の多少疑いがありますが、それは申さないとしまして、私はそのときに、香取さんも面前におられましたが、私はそうは考えない。やはりあれは必要上残してあるものだ。今と昔とは違うかも知れないし、殊にあの月光菩薩を脇侍とする三尊仏は天武天皇の御願に成る国家的な意味を有する像であつて、若し取除くべきものを取除かないままで納めたとするならば、それはよほど不思議なことでなくてはならん、一種別体の未完成、つまり仕上げが十分できていない。当時の心理を以てそういうものを差出すということはまあ常識的にもあり得ないでしようということを申したわけでありました。丸山君のお話で、あの鉄棒があれば横にそのまま倒しても大丈夫だというお説も私も早くお話を聞いておりまして、そうかと思いますが、そのほかに倒すべき方法はたくさんあつたと思われます。いわゆる白書なるものが発表されておりますけれども、私はそれをそのままに承認することはできないわけであります。なおあとの三問、運営といつたようなことに関しましようけれども、この一、二の問題において委員会諸公の示された何と言いますか、政治性といつたようなものがバツクにあつて、それが多少とも働いてはいないか、私ども考えではこれは或る程度輿論の声とも言うことができましようが、政治性の要らないところに、政治性が入つて来るということに甚だ遺憾の情を持つておるものであります。  それから第三の文化財保護行政機構保護行政運営でありますが、どうも委員会というものが私ども……ではない、私がはつきり呑み込めないせいもありましようと思いますけれども、どうも見ておりますと、保護行政が、どうも心許ないので、下村さん等もよく御存じでありました……宗教局長などもなさつておりましたから昔のことも御存じでありましようが、極めて小人数でありながら事を処理して行つた時代があるようであります。勿論、文化財の数は同日の比ではありませんけれども、何かどうも機構の上にも、運営の上にも釈然たらざる点が多いようであります。昨晩も少し思いつく点を書いて見ましたけれども、これは御質問でもあれば又申してもよろしいのでありますが、実を申しますと、私も十二月三日に高橋委員長ところ辞表を提出いたしました。早く提出しようかと思いましたが、まあその後の様子を内部において少し観察して見ようと、又微力な私どもの発言が多少とも役立つならばという考えもありましたが、昔の人が申しましたように、志を同じうし、道を同じうしないものは共に語らないという諺もありますので、アメリカ行きの問題には私など最善の努力を払つたのにもかかわらず、理想的に行かなかつたというような責任感じなくはありませんし、辞表を提出いたしました。その文面は、文化財保護委員会及び専門審議委員会のあり方について考えた結果、職を解いて頂きたくなりましたからお取計らいを願いますということであります。審議会のあり方につきましても誠に遺憾な点が多いと思います。一言に申しまして、熱意が足りない、こういうふうに考えております。先ほど来、国民の関心が、文化財保護法ができてから急に高まつたというお話がありましたが、これも私どもから見ますと誠に物足りない。最近読売で二十七年度の十大事件というものが出ておりますが、それに更に、それに準ずる十件を取上げて二十の事件がリストになつておりますが、その中に勿論、アメリカ行の問題も月光菩薩の問題も取上げられておりません。以てその関心というものが如何に薄いかということを嘆きます。  それから文化財保護法改正すべき点、これは一、二、三について申しますうちに、うすうすはそういう必要があるということをお感付きになつたと考えますが、申せば長くなりますし、一応ここで申すことをやめます。
  16. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) それでは、これで参考人のかたがたの御意見が全部終りましたが、どうも有難うございました。委員諸君から御質問があるかと思うのでありますが、ちよつとお諮りいたしたいと思います。この質疑に関しましては、四つの事項別にしたらいいでありましようか。或いは一括して質疑したらいいか……。
  17. 相馬助治

    ○相馬助治君 この問題については、是非とも事項別に区切つて取扱われるように希望いたします。それから時間の関係を以て恐らくここに昼食に入ると思うのでありますが、そののちにおきましても、私どもといたしましては、お二人の参考人のかたがたに耳を傾けて頂いて、お二人のかたがたから御意見を伺いたいという点もございまするので、委員長においてそういうことをお考え下さつて参考人のかたがたで、時間的な都合等が若しもあるならば、そういうことも一応考慮されて取扱われるように希望いたします。
  18. 木村守江

    ○木村守江君 相馬君の今の、お二人のかたに耳を傾けるということは具体的にどういうことですか。
  19. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) 速記をとめて。    〔速記中止〕
  20. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) 速記を始めて。午後一時半まで休憩いたします。    午後零時三十九分休憩    —————・—————    午後一時四十八分開会
  21. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) 午前に引続き委員会を再開いたします。先ほどの御協議で事項別に質問することになつておりまするが、脇本さんは時間に御都合がありますので、先ず脇本さんに対しての質疑を先にしたいと思います。それで原則は事項別になつておりまするけれども、脇本さんに対する質問は各項に亘らなければならんようなことになるかと思いますが、さように願いたいと思います。ちよつと速記をとめて。    〔速記中止〕
  22. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) 速記を始めて。それでは第一項の重要文化財等の海外移出について、この項目につきまして質疑をいたすことにいたします。
  23. 相馬助治

    ○相馬助治君 私はこの際下村先生に三点ほどお尋ねして、重ねて脇本先生に又三点ほどお尋ねしたいと思います。下村先生のお話下さいました中に、重要文化財海外移出の問題に関しまして、損害の補償、そういう展覧等について周到な補償がなされる見通しが立つたので、これは自分としてはよろしいと思つた、こういう御発言でございましたが、このようなことを申すのは、ちよつと失礼かと存じまするが、アメリカ側と作られました協定の全文を御存じであろうと存じまするが、あの協定を見た場合に、私どもはこの委員会において二、三の点について、各委員から不満が表明されておるのですが、それらを思い浮べながら、一つこの点についてもう一度御見解を承わつておきたいと存じます。  第二点は、国際文化の交流のために、この海外移出が結構であるというお話でございましたが、私も同感でございます。ただ具体的に、今度の海外移出に見合うものとして、何か交流のために先方から美術品等が来るような話が、専門審議会等において問題になつたかどうか。問題になつたとすれば、その事実について承わりたいと存ずるのでございます。  第三点は、アメリカ側からあれほど懇請があつたならば、とにかく出すべきではないかという意味合いの御発言がございました。この問題に関しましては、私も事重要であると存じまするので、実はこの保護委員会事務局の某氏を通じてそれらの事情を聴取いたしたのでありまするが、その場合のお話は、下村先生と同じような意味合いのことでございました。然るに高橋委員長が本委員会において証言しておりますることは、日本国の自発的意思によつて、具体的に申しまするならば、文化財保護委員会の積極的意思と責任において海外移出をしておるのであるという証言がなされておるのでございます。この事務局並びに先生によつて代表された意見と、委員長意見とは完全な食い違いが速記によれば明らかであろうと存じます。これらのことについて知つている限りのことを一つお教え願いたいと存じます。
  24. 下村寿一

    参考人(下村寿一君) 私はアメリカ側との協定文書そのものは、事務局当局を通じて承わつておるのであります。その協定に基いて私は私としての判断をいたしたのでありますが、それで品物の選択等につきましても、先刻脇本さんからのお話のありました、向うのドリーム・リストというものがありまして、それにたくさんのものが列んでおつたのでございまするが、併しながらそれを十分に選考いたしまして、保存上懸念のあるものはできるだけ除く、まあ大体において保存上大した差支えはなかろうというものを選んだのであります。それから運搬方法等につきましても、まあ今日の科学的の方法としては完全であろうと思われました。現にその梱包の場所に行つて我々も拝見をしたのでありますが、まあこれならば途中は安全であろう、而してアメリカの軍用船で運搬をするのだ、仮に途中で難破をしても、或る時間の間は品物は安全であるというようなことを承わりまして、先ずよかろうというような感じを持つた。  それからアメリカに行つてからの管理の問題でありますが、これは最初向う側からは四人の専門家をつけてもらいたい、それだけの予算を組むということであつたそうでありますが、いろいろそのことを検討いたしました結果、四人ではどうしても足らない、更に増す必要があるというので、これを六人にいたしまして、それだけの要求を先方が容れることになつた。それぞれのエキスパートがついて行くということを承わつたのであります。  それから補償等の問題でありますが、これは正確に金額は記憶いたしておりませんけれども、その文化財に対する損害保険がついておりまして、これは無論その無価の宝物でありますから、プライス・レスのものでありますから、或いは金銭の補償じやいかんのでありますけれども、とにかく高度の保険額がついておるということで、まあまあそれもそれでよかろう、こういうように感じたようなわけでありまして、保存上についての相当適切な配慮が現われておる。まあこういうふうに私は考えたのであります。出すならば十分それらの点は考慮しなければならんのでありますが、私考え得べき点について相当の考慮を払つておる、そういうふうに見ておりました。  それから国際的、文化的交流ということにつきましては、これは今度日本がアメリカに重要文化財を出すから、その代りに直ちに向うから何ものかをこつちに持つて来させる、直接のギブ・アンド・テイクというようなことじやない、向うにそれを持つてつて、向うの人が日本国、日本民族を理解する、認識することになる。それからまあ、アメリカでもヨーロツパでも、東洋の芸術、仏教芸術なんというものに対して非常に関心が高まつておるということを聞くのでありますが、そういう所にこれを出すということは、世界の文化の発展に貢献するゆえんにもなりはしないか、そういうようなことを考えて、それをまあ国際的文化の交流の一端になると申上げたのでありまして、直接のギブ・アンド・テイクを考えているのではありません。  それから高橋委員長が、自発的意思ということを声明されたそうでありますが、それを私は聞いておりませんけれども、恐らくそれはアメリカから懇望があつて、その懇望を容れて、日本政府即ち保護委員会が自主的にきめた。そこになんにもプレツシヤーなどはないんだ、その委員会が自主的にきめるについての目録を作つたのは、それはアメリカが目録を作つた、それは間違いないことのように思います。でありますから、そこにいわゆる矛盾は私自身は感じておらんのでございますが、併し高橋委員長がどういうことを言われましたかよく存じませんし、その辺のことはただ私はそう考えておるということを申上げまして、お答えにさして頂きます。
  25. 相馬助治

    ○相馬助治君 御意見よく承わりました。第三段については私は私なりの考えもありますが、この場合は議論をすべき場合でないので御意見として承わつて、これは次の委員会において私ども文化財保護立場からこれを取上げて参考にしたいと存じております。有難うございました。  ついで私は脇本先生にお尋ねをいたしたいのですが、第一点はこの専門審議会がどのような形で議事が進められるかは存じておらない者であるということを前提として申上げます。日米間に取交わされた協定が、事務局等から逐条に御説明になられたのですか。それともそれは協定としてあるという報告にとどまつたのでしようか。又この協定は私がこの協定に深い関心を持つてこういうことをお尋ねしておりまするのは、極めて片務的な協定である、言葉を換えて言うならば、やや国辱的な内容を持つ協定である。こういう見解もあるので、そういう前提に立つてこう御質問をまあ発しておるのでありまするが、先生自身はこの協定をどのように理解されておるか、これを承わりたいと存じます。  第二は、専門審議会におきましては少数意見はどのように取扱れておりますかという問題であります。即ち辞表を出されたということをお聞きして尋ねるのですが、上野先生の場合には概括的にあのような事情間において辞意を表明された、これは雑誌、美術新潮において私は仔細に承知しております。先生の場合には、これらの具体的な問題について、いわば審議会においてみずからの意見が通らなかつたということが一つの大きな原因となつて辞任の意思を固められたと存じまするけれども、これはそこまで申してはどうか知りませんが、是非とも先生のようなかたがたにはとどまつてお働き願わなくちやならんとも思いまするので、私はそれらをみずからの気持としてお尋ねしてみるのでありまするが、少数意見はどのような形で取扱れておりますかということを質問の第二点といたします。  第三点におきましては、今度の展覧会が長期にして而も気候、風土の違う場所において開かれるというので、この委員会におきましても山本委員を初めとして各委員が非常に深い関心を示して、この問題に対して高橋委員長とも意見の交換がなされたのでありまするが、先生のお話の中に、海外においては日本のこれらの美術品で、すでに海外のものの所有にかかつておるものが展覧されていて、数年のうちに著るしく褪色しておる絵画等があるというお話がございましたが、これは本日でなくとも結構ですが、そういう資料は本委員会として先生にお願いできれば頂けれるものかどうか。ここで又一つ、二つの例を挙げてお話下されるとするならば、是非それを承わりたい、以上三つでございます。
  26. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) 協定が私は片務的とは決して考えておりません。併し高橋委員長が座談的に私にお話になりましたことに、この一体話は、ロツクフエラー氏夫妻が来たそのときに、現代美術をアメリカへ送つてもらえないか、そうすればアメリカもそれに対する今のギブ・アンド・テイクが行われるだろうということがあつたということでありました。文化財保護委員会の問題は、国民一般もそうでありましようけれども、私どもは特に関心を持つておりますが、併し積極的にすべてのことを根掘り葉掘り聞いて歩くようなことはいたしませんけれども、どこからともなく文化財保護委員会政府機構改革に際しまして何か少し私の耳に入つた言葉は売込みという言葉でありましたが、そういうことをやつてるんではないかといつたような風説が立ちましたので、これは容易ならんことでありますから、会議の席上でも高橋委員長にどういうことでその現代美術というものが古美術に切り替えられたかということをお尋ねしたわけでありました。まあ片務的、つまり何かアメリカからそのお礼或いは報償として来る望みがありますかということは、会議の席でお尋ねしたようにも思いますけれども、ほかの委員の人たちから特別にその点が質問或いは追求されたとは考えておりません。まあ会議の中での、席には清いていながらの座談のうちでは、私は確かにそのことを言つたと思います。  それから第二の出品に対する少数者の意見ということでありましたが、この場合の議場の空気は甚だ私自身としては遺憾な点が少くなかつた考えます。私どもは法規上のことをよく知りませんから、上野部会長が丁度出張されましたので、私が代行いたしまして、議長席に着きましたけれども、相当立派な作品につきましては反対の意見が出そうな空気がありました。そのときに、会議の途中でつまり文部次官、当局側の人はここで採決に加わることができないということは森田局長から申渡されました。併せて私にも投票権はない、ただ賛否同数であつた場合に一票を投ずることができるというようなことでありました。私はどうもあの場合の空気を思い出しますと、森田局長に対しまして甚だ不明朗であるということを最後に申しましたが、どうも釈然たらざるものがありましたけれども、併し議長としまして私は一々の出品に対する賛否を名前を書取りまして数を数えて決定をいたしましたからその点で間違いはありませんが、まあどの出品につきましても重要な特に重要なものにつきましては一、二の反対意見があつたことは確かであります。  なおついでに申しますが、と申しますのは、私は一体この海外出品につきましては、薬師寺の問題につきましても一つ国民としての公憤を持つておるわけでありますが、選定された品目につきまして知らぬうちに変更が行われておつたということもあつたと思います。それはむしろ引つ込めるほうでありましたから私も極めて結構だと思いましたが、これは一度出ることになつておりました博物館に持つております虚空蔵菩薩、これは出ることになつておりました。涙を呑んで出ることを承認したわけでありましたが、その数日後にはそれが出ないことになつた。それは多分上野君が博物館の評議委員会であれは少し困るではないかということを言つたのがきつかけであつたんではないかと承知しております。そういうふうに我々の知らぬうちに品目が変えられるということは面白くありませんから、すぐに松下君に電話をかけまして、あれは一体出ることになつていたんではないかと申しましたが、ところが確かにそうであつたということを申しました。それからまあ私も忘れつぽいほうでありますから、又余り時間もありますまいしですが、そのいよいよ決定をしたリストの中に高橋委員長の所蔵の浮世絵が二点入つておりました。これは浮世絵の専門家である藤懸君もまだ見たことはないというものであります。私も知りません。併しそれが大体に承認されましたけれども、我々の知らないものが多くの国宝と一緒にアメリカに送られるということは心外でありますから、高橋委員長に対して、これは明日どうか博物館までお持たせ頂きたいと申しましたら、遠いところだからそれはちよつと御免こうむりたいということでありましたから、博物館の人に取りに行つたらどうかということで取りに行くことになりました。ところ高橋委員長はいや引つ込めた、あれは出さない、こういうことでありました。まあこんな重大な会議がそんなことでよろしいのでしようか、私には疑問があつたわけでありました。  まあその二はそれだけといたしまして、三問の気候風土を異にするアメリカへ行つてどれほどの懸念があるかというお話でありましたが、それにつきましては大体は前に申しました通りでありまして、それから相馬さんから海外におけるというお言葉がありましたが、その褪色したものは、私は海外へ出たことはありませんから知りません。日本の博物館での経験でありまして、これはいずれ資料を御希望の通りに差出します。それだけです。
  27. 木村守江

    ○木村守江君 ちよつと関連して、私簡単に脇本先生にお伺いしますが、只今の御答弁を聞いておりますと、先生は一体第一の問題を取扱うのについて日米協定というものを御存じでしたでしようか、御存じなかつたでしようか。
  28. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) 日米協定と申すものは存じません。それからアメリカに対してできるだけのことをするということは、日本国民の感情としても当然のことでありまして、私も満腔の同意を表したわけでありますけれども、方法につきましていろいろ疑問があつたわけであります。
  29. 木村守江

    ○木村守江君 お坐りのままで結構ですが、先生が文化財専門審議委員でありまして、日本の重要な文化財をアメリカに送るか送らないかというような重要な審議に際しまして、日米協定というものを聞かなくてどういうふうに審議したのですか。
  30. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) 日米協定というものは大体にはそれは勿論存じておりますけれども、こういう場合にどうなるのかといつたようなことは、まあ常識で判断するより仕方がなかつたと思います。
  31. 木村守江

    ○木村守江君 只今のお話だと常識で解決する以外になかつた、常識的に解決して差支えないと考えたのですか。
  32. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) 出品はよろしいことだと考えました。
  33. 木村守江

    ○木村守江君 出品は差支えないと考えまして、そうして一、二のものが或いは何かの都合で以てやめられた。それから又高橋委員長の持つておるものが出すようになつたり、出さなくなつたり、そういうようなことが自分の気に合わないから、要するに専門委員を辞任したというわけですか。
  34. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) いや、どうも……。私どもはこの会議を非常に重大だと考えておりましたので、そういうふうに容易に人には示されない、併し出すつもりだと申されることは私には大変不満に思われたわけであります。
  35. 木村守江

    ○木村守江君 どうも先生のお話を聞いておりますと、私了承できない点が非常に多いのですが、先生は日米展に日本の美術品を出すことに賛成であつた、而もこの問題についてはいろいろ国民的公憤を持つておるというようなことを言つておられますが、いろいろの内容を承わりますと、あなたは一体日本の美術品を、国際美術交換という点からこれは出すことに賛成しておつたのだが、そのほかの二、三の問題についてそれに反対したということになりますと、これは国民的公憤でなく、あなたの私憤によつてそれに反対する  ことになりませんか。
  36. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) いや、全体としては賛成したわけであります。決して反対したわけではありませんです。
  37. 木村守江

    ○木村守江君 それでは、あなたは日米展に日本の美術品を提出することに賛成したのですか。賛成したのですね。
  38. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) そうです。
  39. 木村守江

    ○木村守江君 それでは重ねてお尋ねいたしますが、あなたは先ほど来委員会が、恐らくは委員会というものは文化財保護委員会だと思いますが、委員会が政治性云々というようなことを申されました。或いは機構上の運営の上にも釈然たらざるものがあるというようなことを言つておられまして、特にその審議会については熱意がないというようなことを申されておりまするが、そのことは一体どういうことを意味するのですか。只今相馬君の質問に対するお答えのようなことですか。
  40. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) 相馬さんへの何といたしますと、どういうことでございましようか。
  41. 木村守江

    ○木村守江君 今あなたは相馬君の質問に対していろいろ何か不満な点を申述べられましたね、そういうことも意味されて申されておるのですか。
  42. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) よくわかりませんが……国民的云々と申しておりますことですか。
  43. 木村守江

    ○木村守江君 いやいや、それでは改めて御質問申上げますが、あなたが国民的公憤と言うのは、どうも私はあなたの私憤的な公憤だというふうにしか解釈できないのですがね。その問題でなくてあなたの問題でなくてあなたが委員会の政治性云々ということは面白くないとか、或いは何か委員会機構運営の上において釈然たらざるものがあるとか、或いは審議会について、審議会というものが更に熱意がないというようなことをあなたは審議会委員自身であつて申されましたが、それはどういうことですか。
  44. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) それはですね、どうもひとり海外出品の問題ばかりではありませんで、私の知つておりますところによりますと、専門委員の多くの者が不満を持つておりますように、それでは調べてみようとかいつたようなことが常に殆んどその場限りになる場合が多いといつたようなことで、このアメリカ行のことにつきましても、私はいろいろ設備のことなどについてお尋ねしましたが、こうしてもらえるはずであるというお答えがあり、かと思うと又アメリカの習慣としてはといつたようなことがありまして、果してそんなはつきりしないことで、日本の貴重な文化財を送つていいのかという点に大変不安な気持を持つておりましたのです。つまりまあ個人的の感想と申されればいたし方がありませんけれども、そういう不安を含みながらすぐ実行に移すということは、どうも私ども専門委員といたしまして考えます場合に、ひそかに忸怩たるものがないわけに行かないのであります。
  45. 木村守江

    ○木村守江君 ちよつとわからないのですが、あなたは先ほど日米展覧会に日本の美術品を出すことに賛成したのですね。
  46. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) そうです。
  47. 木村守江

    ○木村守江君 賛成したのに、あとから不安で以て忸怩たるものがあるとかいうのは一体どういうわけですか。あなたは一体出すことに賛成したのでしよう。そうしましたらあと支障のないようにあなたがたが協議して、その万全を期するというのがあなたがたの任務じやないですか。一度あなたがたが賛成しておきながら、そうしてあと方法が云々というようなことで、或いは委員会がどうであるとか、或いは機構運営が面白くないとかいうことは、あなたの言う通りにはならないから面白くないということですか、どういうわけですか。
  48. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) むずかしいですが……。
  49. 木村守江

    ○木村守江君 むずかしくないですよ。事は簡単ですから……。
  50. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) つまり芸術の批評と同じようでありまして、一人の人の考え方が、一が他に通ずればよろしいわけでありましようと思いますが……。
  51. 木村守江

    ○木村守江君 脇本さんあれですよ。あなたは日米展覧会に日本の美術品を送るごとに賛成したのでしよう。賛成してその送り方とか、保存法について非常に不安があつて忸怩たるものがあるということを言つておりますね。不愉快というのは結局はそれが不愉快だというのでしよう。不愉快とか、何とか盛んに言つておりますね。運営に釈然たらざるものがあるとか、或いはその運営に熱意がないとか言つておりましたが、それはあなた自身がきめて、そういうことがないようにあなたがたがやらなくちやならない問題なんで、ここに来てそういうことで審議専門委員を辞めるのだというようなことじや……。
  52. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) いや審議委員のことは又別でございますが、申しますと、私は初めからこれは準備期間が足りないということを申しておりましたのです。それでまあ議事はどんどん進行して参りますし、そのことも大事なことでありますけれども、陳列などにつきましては、もう一度私は尋ねなければ気が済まないので、それは先ほど申しました日本の美術品が性質上非常に薄弱なものでありますから、その点の設備といつたようなものにつきまして多くの不安を感じておつたわけでありますが……。
  53. 木村守江

    ○木村守江君 もう余り時間がないですからちよつと簡単に質問しますが、どうもあなたのやつは、出品することに賛成しておいて、或いは陳列するところに不安があるとか何とか言つておりますが、一体なぜ賛成したのです。賛成したらそういうものに遺憾のないような措置をとつて行くというのが、そういうふうな意見を具申してそれをそうさせるというのがあなたがたの任務じやないですか。これで見ると賛成してから、あとから女の泣言のようにぐずぐずぐずぐず言つているのは私はわからないと思うのですが……。  それからもう一つ言いますけれども、あなたの進言の多くが疑問を持たれておつたと申されますが、この問題につきまして、つまり専門審議会の第一分科会が開かれまして、その際にあなたがたの御意見は少数で敗れたかのように聞いておりましたが、そのときにはあなたがたと同じような意見を持つ人が何人いましたか。何対何名でしたか。
  54. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) まあ、極めて少数であります。
  55. 木村守江

    ○木村守江君 簡単に質問します。脇本先生、極めて少数だつたということだつたら、これは民主主義下においては審議会でもやはり多数に従つて行くということは私は止むを得ないと思うのです。そうして少数意見は尊重するというような結果になると思うのです。それにもかかわらず、その審議会意見に敗れたからといつて審議会そのものを、或いは委員会そのものに対して云々いうようなことは私はどうしても承服できないのですが、この辺で時間が来ましたからやめておきます。次にほかのかたから質問します。
  56. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 一点だけお伺いいたしたいと思います。脇本先生のさつきの御発言を承わつておりますと、文化財保護法の立法精神に副つて文化財保護を強力に推進して行くに当つて、どうも不満な点があられるやに私は総括的に承わつたわけでございますが、従つていろいろなものが重なつて文化財専門委員を辞任される、そういう辞任騒ぎが起るということは、事の経過の如何を問わず、私個人として非常に日本の文化財保護行政立場から遺憾に思うものでありますが、先生にお伺いいたしたい点は、文化財保護法の立法精神に副つて日本の文化財保護して行くに当つて、若干御不満がある点は、法に欠陥があるのか、あるならどの点にあるか。若し法に欠陥がないとするならば機構に欠陥があるのか、或いは機構の運用に当るところの人に欠陥があるのか、その点について簡単でよろしうございますから、率直な意見を承わつておきたい。
  57. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) これはどの点にも私自身として面白くない点があると考えております。
  58. 梅津錦一

    ○梅津錦一君 脇本先生、この法律を作るときに、政府機関がタツチしないほうがよい、我々はそう言つた委員会でやるべき仕事だ。ところ政府機関がタツチしたからこうなつた。脇本先生に、政府機関がタツチしたほうがいいか、タツチしないほうがいいか、そのことを一言お聞きしたい。
  59. 脇本十九郎

    参考人(脇本十九郎君) 私はその辺、立法とかいつたような方面は全く暗いのでわかりませんが、先ほど山本勇造さんに食事中にお尋ねいたしましたが、あの保護委員というものを申してあるところに政党のことが書いてありまするので、どうも私どもには全く委員会というものの性質が十分呑み込めないと同時に、私自身として大きな疑問を持つたほどでありましたが、なおよくこの点については私も考えてみたいと思います。
  60. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) それでは脇本さんどうも有難うございました。  なお第一項について質問を継続いたします。
  61. 木村守江

    ○木村守江君 これは第一項というか、何か総体全部に関係しておるかも知れませんが、上野先生にちよつとお伺いします。先生は高橋委員長意見が違うからやつて行けない。やめる以外に方法はないということを申されましたが、私は文化財保護委員会でも同じ意見の人ばかりではないと思う。いろいろな意見の違つた人が集つてつて、それに啓蒙されるところがあり、切瑳琢磨してよりよい文化財保護ができるのじやないかというように考えて、そうすることが結局国民の文化発展向上に資するゆえんではないかというふうに考えておる。こういうことは私は口はばつたく申上げる必要もないのですが、あなたは東京の学芸大学の学長をやつておるそうで、恐らくあなたがたの学校の職員にも必ずしもあなたと同じ意見を持つておる人ばかりではないと思う。非常に違つた人があると思う。そういう場合に、俺は校長と意見が違うからやめるのだというふうであつては、これは上野一辺倒の学芸大学になつてしまいまして、私は必ずしも好ましい状態ではないと思う。それでさつきから聞いておりますと、どうも委員長と合わないから俺はやめるのだというような極めて簡単な言葉でしたかを申されましたが、それであなたは文化財保護して国民の文化を向上して行くことができると考えるかどうか、ちよつと御意見を伺いたい。
  62. 上野直昭

    参考人上野直昭君) お答え申します。私は今おつしやつたように高橋委員長意見が違うからやめるというわけではございません。あの芸術新潮にも書いておきましたが、委員会乃至技官のやつておることはすべて私から見ると不正なことをやつておる。私には正と邪との違いである、従つてその邪の仲間に入つておることは国民に対しても恥しいことであるし、みずからを汚すことであるからお仲間入りはできない、こういうわけで私は辞表を出した次第であります。辞表は、協力いたしかねるからやめたい、こういうことを申しておるのであつて、ただ意見が違うからやめたというわけではございません。実は高橋委員長とは意見は余り違わないのです。高橋委員長とは或る点は違いますけれども月光の首を切つた問題について自分もやり過ぎたと思う、ほかに方法があつたと思う、そこまでは同じなんです。ただその場合に技官の行なつたことが不正なことをしたのに、併し自分たちはやはり正しいことをしたように認めるから、お前もそれを承認してくれと、こういうわけです。だからその点で私は意見が違うと言えば違うのですが、それでは私どもも一緒に仕事はできないじやございませんか。
  63. 木村守江

    ○木村守江君 なお重ねてお伺いしますが、先生は今委員会が不正だからやめた、不正だという言葉を使われましたが、その不正ということは物質的の不正ですか、それとも精神的の方面からの不正ですか、これを明瞭にしておいてもらいたい。
  64. 上野直昭

    参考人上野直昭君) ちよつと何と御返事したらいいかわかりませんけれども、とにかくほかに方法があつて、応急の手当をすることができる方法があるにもかかわらず、かなり乱暴な措置をとつたということは、これは正しくないことをやつたに違いない。正しくないことをやつたのを、正しいと認めろということは承認することは私にはできない、こういうことです。もう少し申しますが、例えば保護委員会の規則に、修理をする場合、或いは損傷を避けるような手当をする場合、又は現状変更する場合には専門審議会にかけろということになつておるにもかかわらず、専門審議会にも何も相談せずにやつておいて、それが一月なり二月なり黙つて済ましてしまつたということはこれは規則違反でもあり、正しいことではないと私は考えます。
  65. 木村守江

    ○木村守江君 それでは重ねて御質問申上げますが、誠に失礼な質問を申上げますが、一体先生の御専門は何ですか。それから鋳造物に対して専門的の御経験がどのくらいおありになりますか。
  66. 上野直昭

    参考人上野直昭君) それは何にもございません。ただ常識です。
  67. 相馬助治

    ○相馬助治君 ちよつと議事進行について……。折角御質問ですが、又その質問を徹底的に続けて頂きたいと思うのですが、御案内のように第二、第三に亘つて具体的な問題を解明しなければならん。そこでいわば委員も又一つ意見を交えた、そして又今上野先生と木村先生の取交された意見は、この委員会が最終的な段階で取扱うことのように思いまするので、一つ木村先生、議事進行上、事態の究明、文化財保護問題に関する具体的な事態の究明というものを先にして、先生の質問は次に最終的に譲つて頂くわけにいかんでしようか。
  68. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) ちよつと速記をとめて。    〔速記中止〕
  69. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) それでは速記を開始して下さい。
  70. 木村守江

    ○木村守江君 これ又第二のことに関係があるんじやないかと言われるかも知れませんが、これはやはり総括的な、辞表のいわゆる折合いがつかないということに関連がありますので、重ねてお願いいたします。先生は只今の御答弁で鋳造に対する専門的な知識も、何らの経験もないというような御意見であつたようであります。それでは一体日本で鋳造の専門家というのは誰なんですか。而も文化財保護委員会において文化財専門審議委員の中で、その専門家というのは誰なんですか。そうしてその人の御意見はどうなんですか。ちよつと……。
  71. 上野直昭

    参考人上野直昭君) どう御返事していいかわかりませんけれども、私は御承知の通り芸術新潮に書きまして、それに対しては私はほんの常識で書いたんですけれども、又多少美術を愛するものとして常識で書いたんですけれども、それに対してどこからも、お前の考えは間違つているということを一つも聞いていないのです。むしろ賛成の意見のほうが多いのです。
  72. 木村守江

    ○木村守江君 今上野先生から、自分芸術新潮に書いたので、それに対して誰も反対がない、又幾多の賛成者があるので、自分の言うことがいいのだということを申されております。これはやはり日本の美術を愛さないものはなくて、ひとり先生だけじやないと思うのです。誰も愛していると思うのです。愛しているからこそ、こういうような問題も起つて来たと思うのでありますが、そういうことで、こういう問題は専門家に委すべき問題で、専門家でない人が常識によつて、それが世間の批判がないからといつて、満足すべきものかどうかということは見解の相違ですが、私はそれに対しては大きな疑問を持つているわけであります。あなたの信念に対して……。
  73. 上野直昭

    参考人上野直昭君) 私もそれに対して反対は申しません。ただ専門家から意見を聞きたいと思つております。又恐らくは専門家を集めて審議されることと考えております。近いうちに委員会ができるそうでございますから、これを修繕するについて……。
  74. 木村守江

    ○木村守江君 それでは先生は第一番目の、重要文化財海外移出ということについては御賛成なさるのですか、御反対なさるのですか。
  75. 上野直昭

    参考人上野直昭君) 元来賛成です。
  76. 木村守江

    ○木村守江君 元来賛成です。
  77. 上野直昭

    参考人上野直昭君) それでそのうちの若干のものについては、私の相談にあずかつた範囲ではやめてもらつたものもあります。ただ手きびしく反対しているのは、月光の首を切つた下手人が、私はそれは乱暴な仕事と思つておりますから、そういう芸術品を、何というかむざんに取扱う人間が、芸術品の番人としてアメリカへ移出に行つたということは、問題になつている人間をアメリカへ逃がしたという考え方のほかに、考え方はないと思います。
  78. 木村守江

    ○木村守江君 それでは先生は、倉田君でなかつたならば何にも問題がないというわけですね。倉田君であるから、海外移出に反対するのだということになりますか。
  79. 上野直昭

    参考人上野直昭君) 海外移出にちつとも反対しておりません。
  80. 木村守江

    ○木村守江君 れから私は非常に奇怪至極なんですが、ただ先生が学者として、この参議院の文部委員会参考人として来られまして、下手人である倉田をアメリカに逃がしたということは不合理だというようなことを申されますが、これは恐らくはあなただけの判定じやないかと思う。私はこの逃がしたという……。
  81. 上野直昭

    参考人上野直昭君) 私は学長として申しておるわけでもございません。私個人の意見でございます。
  82. 木村守江

    ○木村守江君 今先生が、おれは学長として言つているのじやないというような話ですが、我々は先生は東京の学芸大学の学長として文化財専門審議委員としてお呼びしたのです。そうしてこの御意見を聞いているのです。その御本人がこれはどういうような確実なる事実があるかは知りませんが、下手人である倉田をアメリカに逃がしたというような断定的な言葉を以て陳述されることに対しては、これは誠に心外に堪えない。これはどうしても承服できない。
  83. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) それは意見の相違になりますから、その辺でどうですか。
  84. 木村守江

    ○木村守江君 委員長にちよつとお伺いしますが、私たちは少くとも文部委員ですよ。そうして文部委員として文化財保護委員会に対しても責任のある委員です。それが堂々たる大学の学長から下手人である倉田をアメリカに逃がしたということを言われて我々の責任がたちますか。
  85. 相馬助治

    ○相馬助治君 委員長はそれに何と答弁するのか私は知りませんが、一言言いたいことは、木村先生、これは参考人をお呼びして意見を我々が聞いておる、上野先生が言うことが妥当であるか妥当でないかは我々が判断すればいい。ああいう馬鹿げたことを言つていると思う人もあるでしよう、ああいう立派なことをおつしやつているとこういう人もあるでしよう。だが木村先生、そこで委員長に御見解を求めるということになると、恐らく委員長が何とおつしやるか知れんけれども、そのことによつて参考人諸君が私は意見御発表の意思が心理的に束縛されるとこう思うのですが、木村先生、今の委員長に対する質問は一つお取下げ願えないものでしようか。
  86. 木村守江

    ○木村守江君 ちよつと相馬君にお話申上げますが、私は参考人として来た上野先生の意見として、下手人であるような倉田君をアメリカに逃がしたような恰好になつているとか何とか言われるのはいいのですよ。ところが下手人である倉田君をアメリカに逃がしたのは不合理だと断定しています。これに対しては、私はこのまま我々文部委員は……。
  87. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 としか考えられないと、こう先生の主観をおつしやつたのですから、その程度はよくはないか。
  88. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) 速記をちよつとやめて下さい。    〔速記中止〕
  89. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) 速記をつけて下さい。
  90. 木村守江

    ○木村守江君 それでは私はまあいろいろ皆さんの御意見がありますものですから、誠に芸術大学の学長の責任ある言葉としてはまあ了解に苦しむものがあるのでありますが、この問題の処理は保留いたしまして議事進行に賛成いたします。
  91. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) 第一の重要文化財海外移出についてはあと御発言ありませんか。……ないようであれば、第二の薬師寺月光菩薩問題について御質疑ありましたらお願いいたします。
  92. 山本勇造

    ○山本勇造君 私は下村さんにお尋ねを申上げたいと思います。併しちよつと座が白けたようだから先ほど下村さんからと、それから足立さんからあとのほうの問題ですけれども、税金の問題が出ておりまして、大変あなたがたが御心配のようだし、それから世間もこの点非常に関心を持つているのですが、我々があの法律の中にあれが入つてないので、御不満は勿論だと思いますけれども、あれは我々無論承知の上で、而も試案の中にはちやんと入つておりまして、大蔵省に見せて、大蔵省も賛成をした。併しこういう状態だと、賛成はしたけれども私が賛成したということをどうかESSのほうに言わないで下さい、向うが承知さえすれば私のほうはしますからというようなことで、あの当時においてはまだ占領治下でありましたために、向うのつまり命令に従わなければならん時代であつたものですから、我々がそういうのをちやんと作つたのにもかかわらず、全部抹殺されてしまいまして、そのために私は何度あつちへ行つて交渉したか知れませんが、しまいには私が行つても手を振られて会わないというほどまでに私は何度も行つたのですが、今のような事情で占領下であつたためにどうすることもできなかつた。で、まあ今度は法律改正をしようというような今日の眼目の大きな一つは、今の税金の問題でありますので、こういうふうな問題も実は大蔵当局と話をしているわけでありまして、十分に我々も考えていることでございますから、皆さんもこの点について大変御関心なり、或いは御希望がおありのようでありますが、こういう点我々も今後大いにやつて行くつもりでありますから、どうか御了承を願つておきたいと思うのであります。  そこで下村さんに御説明を願いたいと思うのでありますが、あなたの先ほどの御意見でありますと、月光菩薩のお首を下したこと、又鉄心を切つたこと、あれはあのままにしておいたのでは危険である。それだからして切らざるを得なかつたので、緊急止むを得ない処置つたとこういうふうにおつしやつたように聞きましたが、そうでございますね。
  93. 下村寿一

    参考人(下村寿一君) その通りであります。
  94. 山本勇造

    ○山本勇造君 そこであなたにお尋ねを申上げたいのですが、而もたしか一刻も猶予がならんという、このままにしておいたら危険で一刻も猶予がならんというようなお話でありますが、私がこの委員会でだんだん調べて来たところによりますと、御承知のようにあの地震があつたのは七月の十七日にあつた。そして薬師寺のかたがこちらの東京の文化財保護委員会に見えて、何とかしてくれと言つたのが、二十三日の日なんです、大分日が経つております。そして今度は文化財保護委員会からこれを応急の処置をとるために出て行つたのは八月の三日に出て行つたのです。そうして出て行つたらその翌日に切つてしまつた。その切つた事情はというと、今のような緊急止むを得ないとこういうのでありますが、緊急止むを得ないというならば、そのときに地震がたびたびそこに起つていたかというと、余震はあの当時なかつた。而も地震のあつたときからこのときまで、二週間も間が経つておるのですが、そのときにはそのお首はぐらぐらはしておつたでしようけれども、ずつとついておつた。そうしてその行つた翌日に、これは一刻も猶予がならんのだと言つて鉄心を切離してしまつたというのでありますが、本当に緊急止むを得ないというふうにあなたはお考えでございましようか。その点が一つ。  それからもう一つ、先ほど丸山教授からのお説でありますと、ほかにも方法があつた。いずれその方法というのはお伺いしたいと思いますが、ともかくほかに方法があつたと、これは鋳金の御専門のかたの御発言なんです。そうするとほかにも方法があつたのじやないかと思われるのですが、あなたはほかには方法がなくて、あれよりほかには方法がないのだというふうにお考えになられるのか。若しそうであるならばどうしてそうなのかということについてあなたの御意見を伺いたいと思います。
  95. 下村寿一

    参考人(下村寿一君) 山本さんのお尋ねにお答えいたします。成るほど技官が現地に参りましたのは、ちよつと間を置いて行つたようであります。併しこれは私は技官の心理の問題でありまして、客観的にそれが緊急止むを得ないかどうかということを判定することは、よほど困難な問題であろうかと思います。だんだん話を聞いてみますと、技官としては余震はその頃はなかつたのですけれども、いつなんどき余震があるかも知れん。或いは他の事故によつて又首が動くことがあるかも知れないということで、何しろこの大切なお首でありますから、これを何とかして安全第一の方法で守らなければならんということは、非常に強く感じたものと思われます。それで技官の心理としてはこれは緊急止むを得んという判断を下して、寺側にも相談をした。寺側もそうしてまあ頂きたい。何分よろしく頼むということであつたそうでありますが、客観的に考えまするとほかにもつといい方法があつたかも知れませんけれども、そのときの技官の心境自身としては、何としてもこれを守らなければならんという考えが強かつたものであろうと、こういうふうに判定を下した次第であります。
  96. 山本勇造

    ○山本勇造君 その当の技官がそれが一番いいのだと思つたのだからやつたんでしようが、併しあなたが今言われた言葉の中に、安全第一の方法をとるのが一番いいのだということをおつしやつた。一番安全の方法をとるのだとすれば、ほかの方法があり得たわけです。つまりあれは安全というんですか、白鳳以来ずつと続いて来ている鉄心で、而も傍に並んでおる、日光菩薩のほうにも同じ鉄心が入つておる。この日光菩薩と月光菩薩と並んで、そうして白鳳以来あの鉄心がずつと入つてつたのです。それを安全第一ということを考える上から言うと、着いたその翌日すぐ切つてしまうということは、果して緊急止むを得ない方法であるかどうか。ほかの方法をどうして考えなかつたのかという点で、私たちは前から疑問を持つておりまして、委員会でその点を尋ねておるのですが、あなたの御意見がどうもその点私はぴんと来ないと思うのです。安全第一ということをあなたがおつしやるならば、例えばお首の周りにふとんならふとんを巻いて、そうして適当な方法によつて横にお寝かし申上げるということもでき得るやに専門家からも私たちは聞いておるのですが、どうしてそういうことを考えなかつたか。或いは本部のほうに聞いて、そうして適当な処置をとる時間がないということは、これは言えないと思うのです。少くとも地震があつたときから二週間経つて、そうしてあれは明日すぐに地震が来るかも知れませんけれども併しながら二週間も今まで存置してあつて、まあともかく保つていた。それを東京に電話をかけて聞くなり何なりする時間がないということは、僕は言えないと思うのですがね。それをあなたは緊急止むを得ない処置というようにやはりお考えになりますかどうかですね。
  97. 下村寿一

    参考人(下村寿一君) その点については、山本さんと御同様にも考える節もあるのでありまして、技官としてはその際まあとつおいつ考えた結果、これが第一の最上の方法であるとまあ信じてやつたわけであります。その心理状態を私どもは認めて、これはその仏像維持のためにする緊急の措置だと、まあこれは認めざるを得ないだろう。併しそれは最善の方法であつたとは、あとからは申すことはできないかも知れませんけれども、少くとも一つの方法であつた。それで仏像の維持をする緊急措置一つの方法として、これは認めざるを得ない。積極的に認めようというのではありません。認めざるを得ないとこういう判断をいたした次第でございます。
  98. 相馬助治

    ○相馬助治君 私下村先生のお話を聞いていて、実際その通り筋が通つておると思うのです。今考えるとそうだと思うのです。併し私は下村先生に一点申上げねばならないことは、私と木村委員とが実地に見て参りまして、百聞は一見にしかずという言葉が、実に真理であるということを私は考えておるということを前提に申上げたい。そこでちよつと先生に申上げたいのですが、頭部がここにありますね。そしてこの頭部に鉄心がついていますが、これが固定しているというふうに先生はお聞きですか、これはぶらぶらしていたというようにお聞きですか。
  99. 下村寿一

    参考人(下村寿一君) それは頭の上までは達しておらないので、途中でとどまつてつたと聞いております。上まではちやんと支柱の用をしておらなかつたと聞いております。
  100. 相馬助治

    ○相馬助治君 従つて切られたものは、ちよつと取れば取れる程度のものとお考えでしようか。つまりこれはですね、この頭部が安定するためには、重要なものであるかないかという点は、どうお考えか。いわゆる私の聞いておることは、鋳造技術から言えば、当然取除くべきであるかどうかという専門のことは僕は別として、現実に頭部を支えるために、この鉄心が重要な物理的な存在であつたかどうかということが、一つの問題の焦点であつたと思う。先生の場合は、まあいわばこの鉄心というものは、頭部をお支えするにはさまで重要でなかつたというような御見解ですと、今言つたようなことに相成るのですが、そこを今前提としてお尋ねしておるわけなんです。
  101. 下村寿一

    参考人(下村寿一君) 技術的なことはよく存じませんけれども、その仏像を支えるためのえらい力になるものではないということを聞いております。
  102. 相馬助治

    ○相馬助治君 よくわかりました。それで下村先生に一言申上げたいことは、私はあの中の心というものがその専門家によつては、鋳造の過程においてどういう働きをしたか知りません。それから又あの種のものにおいて中の鉄心が占める力学的な存在価値というものについても、専門的な知識はございません。併しあの月光菩薩の頭部というものはですね、もう古い傷で、今お首を離してみると殆んどついていた場所がないのです。従つてこの点においては技官の言葉というものは、私は非常に信用したいと思うのです。専門的な立場からするならば、少くとも早く非常手段をしても、お首を下ろして処理しなければならんと松原君が考えたことが、感情過多であるかも知れない。愛情過多であるかも知れないが、私は技官の気持は十分に同情しておるのです。併し今度は問題を別にして、それほどの傷の、全然離れておるものが、今日まで厳として存在して、損傷がなかつた。而も我々をして言わしめるならば、ああいう地震の一回や二回あつても、あの頭部は絶対に落ちないと我々は見て参りました。というのはまさに鉄心があつたと思うからです。そこで私は下村先生にお尋ねしたいとこう思いますことは、一体この専門審議会というものは、この種の問題が起きたときに、公聴会式のものを開いて、専門的な意見を聞く挙に出る意思がなかつたのであるかどうかということが一つ、それから今までのところでは当然事務局側の報告をお聞きになつたと思うのですが、今後この月光菩薩問題については、専門審議会が技官の責任を追及するとか、保護委員会がどうだということを抜きにして、この専門家の意見審議会みずからの意思によつてお尋ねになる意思があるかどうか。これをまあお聞きしながら、先生自身は本問題については何人の報告をお聞きになつて、今日お述べになつた資料となされたかを御参考にお聞きしたい。
  103. 下村寿一

    参考人(下村寿一君) 私の申上げますることは、主として専門審議会における説明を土台にいたしております。
  104. 相馬助治

    ○相馬助治君 事務局の……。
  105. 下村寿一

    参考人(下村寿一君) ええ。それで公聴会云々のことでありますが、それは専門審議会は何分諮問機関で、極めて権限の弱いものでありますから、そういうことが果してできるものであるかどうか、そこまで私にはよくわかりません。
  106. 相馬助治

    ○相馬助治君 非常にこの時間のないところでこういうことを申上げては恐縮なんですが、私の言葉が足らなかつたら木村委員からも補足されると思うのですが、緊急止むを得なかつたかどうかという問題ですが、これは緊急止むを得なかつたという論を立てることができるのです。と申しますのは、その頭部を下すために、チエーン・ブロツクをかけてお首を吊し上げた、そのときにもう夕刻となつて手許がわからないくらいに暗くなつた。そのときに松原君が考えるのに、お首を宙に吊したまま一晩を過すことは専門家としてもできないし、又信仰の対象である仏像に対してもできなかつた。だから緊急止むを得ないので切つた、こういうふうなら、この話はその通り筋が通つて、緊急止むを得ざる処置であると認めざるを得ないのです。それで私たちが本日丸山先生その他この道の専門家の御意見を聞きたいと思つておりますことは、それ以前のことなんでございます。いわばチエーン・ブロツクをかけて吊し上げた、そのときの診断、それから専門家としてそういうことが妥当であつたかどうか、チエーン・ブロツクをかけた技術的な巧拙の問題、これらをひつくるめてみまするというと、問題は別な角度をなすと、こう思つておるのであつて、どうもこの問題の焦点は緊急止むを得ざる措置であるというのは、その以前の、私が説明した以外の、あとで申している以前の段階において、我々は見解を承わりたいのである。こういうことを一つ申上げて、のちの参考意見をお聞きしたいと思うのです。
  107. 山本勇造

    ○山本勇造君 関連して下村さんにお尋ねしますが、そうしますとあなたの今日の御証言というものは、あなたは現地に行つてそれは見て来たわけではないのですか。
  108. 下村寿一

    参考人(下村寿一君) 見て来たわけではありませんけれども、従来も現状変更と、それから維持のためにするこういう措置のケースには、何回か会つたことがあるのでありますから、そういうことを総合判断して私は意見を申上げておるわけであります。
  109. 山本勇造

    ○山本勇造君 わかりました。そうすると今までのあなたのお考え方は、事務局の話を聞いて、そうして実際の細かい問題について、あなたとして御研究になつたというよりは、事務局の話を聞いて、そして今のような緊急止むを得ない措置とあなたはお考えになると、こういうふうに私は承わつてよろしうございましようね。
  110. 下村寿一

    参考人(下村寿一君) その通りでありますが、事務局の話をそのまま受継いだばかりでなく、緊急措置現状変更とのケースに何回かあつたことがありますから、その判断を総合いたしまして、意見を申しておるようなわけであります。
  111. 木村守江

    ○木村守江君 ちよつと丸山先生にお伺いしますが、先生は月光菩薩を見に行つたのは九月三日と仰せられましたが、首の離れたあとに行つて見たのですね。
  112. 丸山義男

    参考人丸山義男君) それは九月一日でございました。
  113. 木村守江

    ○木村守江君 首が離れたあとですね。
  114. 丸山義男

    参考人丸山義男君) そうです。
  115. 木村守江

    ○木村守江君 私たち相馬君と一緒にやはり首の離れたあとへ行つて見たのです。そうして行つて見て、あの首を離れた胴体を初めて見たのです。そのときには何ということをしたのだろうと、期せずして私も相馬君もそういう考えを持ちました。そうしてそれから首を見まして、それから現場に立つてつた場所を見たのです。場所を見た場合に御承知のように非常に狭いところ月光菩薩が立つておりまして、而も屋根に届くくらいの高さなんです。そうして話を聞きますと、一回チエーン・ブロツクをかけて、首を上げようと思つたが、チエーン・ベロツクがきかなくなつて、駄目で、そうしてチエーン・ブロツクをやりなおして、そうして首を上げたんだというような話を聞いた。それで先生が言うのには、これは首をもぎらなくてもあのまま倒せたのだということはよくわかりますが、ああいう狭いところで首を取らないで、もう首ならどこでも亀裂面に座蒲団とか何とかやるとかおつしやいますが、相当上が高くなります。そうしてチエーン・ブロツクをきかして、あの千五百貫ですか、ああいう大きなものを操作することが、ぐらぐらした首でですよ、首はもげてるんですから、もげてぐらぐらした首を何ら損傷なく倒すことができるというようなお話でございましたが、それは先生、我々もあそこへ行つて見たとき、それはもう本当に切つておく以外に方法なかつたのだろうというように考えて来たのですが、やはり先生は今もそういうふうにお考えでございますか。
  116. 丸山義男

    参考人丸山義男君) そうです。
  117. 木村守江

    ○木村守江君 やつぱりあのまま倒せたと、そう考えるのですか。
  118. 丸山義男

    参考人丸山義男君) そうでございます。
  119. 木村守江

    ○木村守江君 ああいう狭いところでも差支えないのですか。
  120. 丸山義男

    参考人丸山義男君) そうでございます。
  121. 木村守江

    ○木村守江君 それでは次に上野先生にお伺いしますが、先生は先日の御意見発表で、現状変更だという御意見を発表されておりましたがね、現状変更という日本語はどういうふうにお考えでございますか、ちよつとお伺いしたい。それからその鉄心を切つたというのが、そのことがどういうところに該当するのですか、ちよつと御説明願いたい。
  122. 上野直昭

    参考人上野直昭君) 立つてるものを寝かし、繋つている首を切れば、これは現状が変つたと見るよりほか仕方がないだろうと思います。のちに説明によると、修理一つの方法としてやつたのだということでありますが、修理をするにしても、専門審議会にかけるということは、ちやんと規則に出ております。勝手にやつてしまうことはできないと思います。
  123. 木村守江

    ○木村守江君 まあそれは御意見として拝聴しておきます。それから、そうしていわゆる私たちは、これはやはり素人なんです。先生よりもつと素人なんですが、我々見たんでは、あれは首を切る以外に方法なかつただろうというふうに見て来たのですね。そうして首をぶら下げていつまでも置けなくて切つたのだろうというふうに解釈して来たんですが、そういう緊急な場合に、これは専門審議会にかけるということは、実際問題でこれはなかなかむずかしい問題じやないかと思うのですが、これに対してどんなお考えですか。
  124. 上野直昭

    参考人上野直昭君) あの場合に、あの近所に人足もたくさんいたし、材木もたくさんあつたのですから、材木で囲うなり、つつかえ棒するなりして、十分応急の措置はできたろうと思うのです。首が落ちる心配があるとしても、身体が倒れる心配があるとしても、それを支えるだけの方法は幾らでもあつたろうと思う。それをしておいてから専門審議会にかけるなり、東京に報告に来るなり、適当な方法が幾らもあつたと思うのですけれども、それをやらずに切つてしまつたということは、診断を第一間違えているということもありましようし、それに勝手な行動をしたと思うのでありまして、これは本委員会のほうでも認めているように私は思います。
  125. 木村守江

    ○木村守江君 失礼ですが、先生は現場に行つて見て来たんですか。
  126. 上野直昭

    参考人上野直昭君) ええ見ました。
  127. 木村守江

    ○木村守江君 ああいう狭いところで、三本のチエーン・ブロツクのあれも非常にむずかしくて片付けにくいし、下の支え場がないのですね。ああいう所に材木がたくさんあるからといつて、万遺漏ないようにできると先生はお考えですか。
  128. 上野直昭

    参考人上野直昭君) チエーン・ブロツクをかけておいて首が外せるくらいですから、チエーン・ブロツクをかけておいて、そのまま置けば、恐らくは首は落ちなかつたろうし、倒れもしなかつたろう。そういう方法も考えられると思うのです。
  129. 木村守江

    ○木村守江君 その問題は私たち先生のお話は承服できないのです。これは見解の相異です。  もう一つ先生にこの問題に関連してですが、先ほど、これはまあ私は先生の言うことが余り簡単でしたから、我我に非常に不可解に感ずるのかも知れませんが、先生は文化財修理関係で金銭のからくりがあるように思われた。金銭のからくりとか何とかと言いましたが、何と言いましたか、金銭の何とかがあるという話をされましたね。首を勝手に切つて自分たちの仲間に修理させようと思つているのではないかというようなお話がありましたが、これはそういう事実は本当にありましたか、今までありましたか。
  130. 上野直昭

    参考人上野直昭君) そういうことはどうも余り申したくないと思いますけれども、じや少し申上げましよう。実はそこまではあの問題については考えなかつたのです。ただあの切つた後、私は行きまして、やつた側の意見を聞きましたときに、寺側では水煙修理した丸山先生に頼みたいと言つたところが、芸術大学の者なんかにはできやしないということを言つていたそうです。まあそれは単なる技術上の傲慢さかと思つておりましたけれども、後にだんだん聞きますと、予算を千万円とか六百万円とかもらつたそうですが、それを一体どう使うつもりか知りませんけれども、そういう修理問題については前からいろいろな点でいろいろ暗い蔭があるように聞いているのです。それを私は博物館の館長をしていたこともありまして、そのときにはいろいろ修理事業が博物館の管轄だつたものですから、それに携りました際、いろいろ噂も聞いたし、又買入れ問題なんかについても大きな金の動くときにはいろいろ噂が立つのです。そういうことから推察して、それで丸山君を排除して、自分たちの仲間でやろうという場合には、そこに又暗い蔭が幾らかあるのじやないかということを多少想像したわけでございます。たまたま昨日でしたか、薬師寺の管長が見えまして、そんな話をしたら薬師寺の管長も同意見であつて、実はこういうことがあつた。それは参議院では話をしたけれどもと言つて私に話をしたのでは、薬師寺の狛犬が大分傷んだそうです。それで大阪だか奈良だか知れませんけれども自分の知つて関係のそういう人に頼んで修理して欲しいと言つたらば、幾らくらいかかるだろうと言つたら、五千円とか六千円とかくらいはかかるだろうと言つたんです。ところ薬師寺の展覧会を東京でやることになつて先に修理しないで東京へ来てしまつたところから、東京で是非修理するというので、それでどのくらい金がかかるかということを聞いたら、そのときの話は予算が五万七千五百円とかかかると言つたんで、自分は非常に怒つたんだ、一体自分のほうでやれば六千円くらいでやれるものが、どうして五万七千円くらいかかるのだと言つて大いに怒つたんだ。ところがその予算はもう大蔵省から出てしまつたから、どうしてもこちらでやらしてくれなければ困るといつたのでやらしたのだというふうな話をしておりました。それは参議院で話したということですから、多分お聞きだろうと思います。そういうようなことがいろいろありますからして、そのときにもそういうことがあるのじやないかということを想像しても、それは私の間違いばかりとは言えないだろうと思います。
  131. 木村守江

    ○木村守江君 どうも非常に奇怪至極くな話にだんだんなつて来まして、どうも先生の話を一方から聞いておりますと、寺側の話を聞くと芸術大学の丸山君というのは誰かわかりませんが、丸山先生かわかりませんが、芸術大学ではできないと言われたということで、それに関連していろいろな風評があるので、そうして不正事実があると先生が推定して話すのですか。そういうことをはつきりここで言えるのですか。先生は寺側からでは、芸術大学などではこの修理ができないと言われたので、そういうことの感情からまあいろいろ世間の話を総合して、それを集めて、そうしてそういうような不正事実があるというような御推察の下にこういう御意見を吐かれたのですか。
  132. 上野直昭

    参考人上野直昭君) いや、そういう感情問題は少しも入つておりません。
  133. 木村守江

    ○木村守江君 それではこういうような事実があるのですか。この点はつきり話して下さい。
  134. 上野直昭

    参考人上野直昭君) それは一つ適当な機関で以て調査して頂きたいものです。
  135. 木村守江

    ○木村守江君 これは適当な機関で調査してもらいたいという話ですが、ここで話ができないのでしたら、後刻私に親書でも結構ですから、はつきりと責任があるあなたの資料を送つてもらいたいと思います。  それからあなたはですね、博物館に関係しているとき、或いは文化財保護委員会関係しているときにも、そういうような不正があつたかのようにあなたが申されましたが、それではあなたも一緒にそういう不正を黙認してやつたと認めていいですか。
  136. 上野直昭

    参考人上野直昭君) なんとお返事していいのだか私もわかりません。若し何か私に責任がありましたら、幾らでも責任を引受けます。
  137. 木村守江

    ○木村守江君 どうもそういうことじや私は済まないと思うのです。これは少くとも国費ですから、国費をそういうふうにしたと、大学の学長ともある人がここで以て証言しておつて、そういう問題について責任を負えというなら負うというような無責任な言葉では、この問題は済まないと思うのです。もう少しこの問題について私はあなたに究明して、私に責任があるというのなら私は負うとあなたが言うのですから、恐らくあなたもこういうことに関連しているのでしようから、あなたの関連した例をたくさん引いて私のところに届け出ることを約束してもらいたいと思います。(「議事進行」と呼ぶ者あり)
  138. 上野直昭

    参考人上野直昭君) 私はそういう具体的の例は持つておりません。
  139. 梅津錦一

    ○梅津錦一君 本日の委員会文化財関係しておりまして、文化財の中心問題がたくさん残つている。私の聞こうとしている重大問題もあるのです。そんなときに、文化財の中心問題で考えなければならないのが未だ残されていると思うのですよ。その問題は、これはまあ何かスキヤンダルみたいなことで、筋が離れていると思うのです。枝葉の問題です。後刻その問題は、時間のある限りにおいて最終段階にしてもらいたい。中心問題に返してもらいたい。
  140. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) 今御意見が出ておりますが、どうですか、この問題について……。
  141. 木村守江

    ○木村守江君 それではあなたが今最後に、そういう無責任な回答をしたので、あなたの今日の証言は私は少くともこれは取るに足らない証言であると断定して差支えありませんね。(笑声)
  142. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 今日は宣誓をして証人として出られているわけじやないし、さつき上野参考人はこういう噂も聞くというふうに証言されているわけだから、そういう噂を聞くと説明されたことを我々が更に究明しようと思つたら、特別委員会作つて究明したらいい問題で、偽証とか何とかという問題にはならんと思うのだ。そういう噂も耳にするというふうにお話しになつたのだから、議事進行をいたしましよう。
  143. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) 今の議事進行に対して、いいですか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり)
  144. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) それではそういうことにいたします。
  145. 梅津錦一

    ○梅津錦一君 私は非常にこの責任感じているし、この際丁度上野先生もおられるし、宗教関係の岡田さんもおられるので、御両氏にお聞きしたいと思うのですが、実は先ほどもちよつと出ましたが、法隆寺の壁画のときですから、私は昭和二十三年と心得ておりますが、向うに参りまして……、
  146. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 問題が違うぞ、月光菩薩関係するのか。
  147. 梅津錦一

    ○梅津錦一君 月光菩薩関係するのだよ。そこでその壁画を切つてもうすでに裏から裏打ちして抜けるようになつてもうすでに車がついていた。そこであのときは文部省が三十五万円、今で言うと一千万円以上になると思います。一千二、三百万円の金になると思います。それであの壁画を、十分逆光線がとれるところに置いて、それで色彩のはつきりするところで模写をしたいということで、すでに準備に取りかかつたのであります。ところが宗教上の対象であるから、あそこから一歩も出せないというわけで断わられたのであります。この委員会もあのときは文化委員会と言いましたね、文化委員会も文部省も督励して二回も三回も交渉せられたが遂に出せなくてああいうふうになつてしまつた。あのときに不燃性の建物が六十万円でちやんとできるわけだつた。そこへすつと持つて来れば傷まなくてはめ込みができるわけだつた。それができなくてああいう不詳事を起した。ここでも月光菩薩関係して信仰の対象と、これを修理する二つの問題が対立していると思うのです。そこで岡田さんにそういう場合は文化財が宗教と天秤棒にかけた場合、これを修理する場合に、そういうように文部省でも実際督励して六十五万円の予算措置をさせたのですよ。その予算措置ができたけれども、それを断わられたわけです。それで私はここで十分宗教上の立場からと、それから上野先生にもこれは文化財保護のほうにいわゆる技術的芸術的な立場から御見解を御両氏に伺いたい。それが月光菩薩の宗教上の対象の問題になると思うのであります。まだ解決していない。岡田さんには文部省の措置を是とするか非とするか伺いたいと思うのであります。
  148. 岡田戒玉

    参考人(岡田戒玉君) 先ほど私もちよつとそのことを申上げましたが、宗教上信仰の対象であると申しましても、この古文化の中には現にもう信仰の対象になつておらんものもある。現在まだ本堂に祀られてにちにち宗徒が礼拝する。そういうようなものを成るべくならば指定してもらいたくない。我々はこれは宗教家として、それからああいうことを若し指定しなければならんというようなことならば、それはその扱いは一つ慎重にお願いしたい。ただ単なる一箇の物品として取扱つてもらつては困る。今後そういうことのないように、規則とか何かで措置をとつて頂きたいということを申上げてお願いしたわけであります。  法隆さんの場合はよそのことでもありますし、特に御承知の通りこの間亡くなられた佐伯定胤氏は一面学僧であるし、一面非常に高徳のかたであります。何か従来新聞や雑誌に伝えられたところによつても、又我々が直接お目にかかつても、非常に何というか、旧弊と申しますか、そういう点については頑固なかたであります。そんなことをここで申上げたくはないのですが、頑固だという言葉は語弊があるかも知れませんが、法隆さんの場合には私のほうでどうこう言うわけには行かない。ただ法隆寺の問題はあれを六十五万円の予算をとつて、ちやんと安全に模写できるようになつてつた。それを動かすことはできないと反対した。そこで止むを得ず本堂炎焼というような悲惨な結果になつたけれども、普通一般の本尊或いは一般の仏像なんかは、これはどうも数多くの寺では、大抵それを生きた本尊として、生きた信仰を継いでいる。そんなもののためにいろいろのことを干渉せられたりやられては困る。だけれどもそれ以外のほとけさまですね、ほとけ、仏画、仏像でも曾てはお堂に祀られ、それで立派に供養されている、それが今日ではない。そういうようなものはやはりこの古文化の法律によつてつても差支えないと私は考えております。これは私は信ずる。
  149. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) ちよつとお諮りいたしますが、大分時間が経つておりますからこの問題はこの辺で……。
  150. 梅津錦一

    ○梅津錦一君 まだ上野さんに見解を聞いていない。
  151. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) あと十分ぐらいでどうですか。それでは答弁して頂いてからあとそれを一、二点で終つて、次に移りたいと思います。
  152. 上野直昭

    参考人上野直昭君) ちよつと今の質問が私にはよくわからなかつたのですが。
  153. 梅津錦一

    ○梅津錦一君 例えば今度月光菩薩の鉄心を切つたということは、非常に問題だと思うのであります。信仰上の問題であるから、信仰上の対象になつて来ると思うのであります。鉄心を切つたということは問題で、併し鉄心を切らなければならない場合もあるかも知れませんが、併しこういう壁画を切つてトロをつけて車をつけて出すということと同じ条件だと思うのであります。これを信仰上の対象だからいかんと言うのです。だから修理する場合に、言い換えれば技術家の立場から或いは芸術家の立場から、これに対して信仰とも対立があると思うのであります。それをそれならば止むを得ないと従つてしまうか、断じてやるかの問題だと思うのであります。そういう二つの点にあると思うのであります。その点を上野先生から聞きたい。相当勇気の要る問題と思うのです。
  154. 上野直昭

    参考人上野直昭君) ちよつとどう御返事していいか見当がつきません。
  155. 梅津錦一

    ○梅津錦一君 例えばあのときに、断じてあの壁画を外へ出せばこれはできたのです。断じてやらなかつたというところに勇気がなかつたのです。こういう点をお聞きしましよう。やるべきか、やるべからざるものか。
  156. 上野直昭

    参考人上野直昭君) 今の法隆寺の壁画の場合にやつたほうがよかつた考えるが……。
  157. 梅津錦一

    ○梅津錦一君 将来の問題もあります。信仰の対象はかまわんで置くとつぶれてしまうのです。そういう場合には断じてやるか。文化財の専門委員会の決定でやるか。
  158. 上野直昭

    参考人上野直昭君) それはやはり専門委員会の決定だけではいかない。やはり所有者があるのだから、信仰の場合には強いてやるわけにはいかないのですね。私もそんなことぐらいしか考えられませんが、個々の場合において、やらなくちやもつとあれがひどく傷むときには、断じてやつて直さなければなりませんが。
  159. 相馬助治

    ○相馬助治君 私は丸山先生にお尋ねしたいのでありますが、実はこの委員会に橋本凝胤氏の出席を求めるか求めないかという問題になりましたが、橋本氏と技官と両氏を出席せしめて、又水掛論になつても困るからやめたのであります。橋本凝胤氏の行動は、上野先生の証言によつても相当動いているらしいのでありますが、我々の正式な調査団で参つたときには姿を見せなかつた。そこでお尋ねしたいが、先生がお首を切られた仏像の前に立つたときに、又それ以前に橋本凝胤氏はこの措置を不当なりとして抗議的な気分を以て、先生にいわば実地検証的な意味で求められたのか。橋本氏はそのことにさまで深い関心を持つていなかつたのだが、専門的に先生はこれは首を切る必要がないということをおつしやつたので、全くそうだというので勇気をつけて、今度は文化財保護委員会のやり方はけしからんという態度に出たのか。これは下らんことのようですけれども、実は今の世間の騒ぎになつている一つのポイントをなすので、率直に一つ事態をお示し願いたいと思うのです。
  160. 丸山義男

    参考人丸山義男君) 私があの首の切れてあることを見たのは、九月一日でございまして、それで、九月一日と申しますと、東塔の相輪の修理ができ上りまして、取り付けに行つた際でございました。そのときにちよつと見てくれという話で私見ました。それで大体さつきこちらでお話なすつた通りに、ああいたましいことをした、これは感情の上からばかりでありましたが、そう思つただけでございました。それで橋本さんはそのときにはやはりそういう気分は横溢しておつたのじやないかと私は考えております。それで私はそのことについてはいいか悪いか、切るべきか切るまじきかということについては、一言も橋本さんにはお話しませんでした。何か言えと言われましたけれども、私としてはものを言う勇気はありませんでした。
  161. 相馬助治

    ○相馬助治君 はつきりいたしましたが、世上伝えるところによると、丸山先生がハツパをかけて、こんなことをなぜ黙つているのだ。それで橋本さんも本気になつて、それが問題が大きくなつた原因と言われているので、お尋ねしたのです。  それで先生が先ほど確信を持つて短い言葉で、あれは首を切る必要がない、こういうふうに断定されているのでありますが、今度は問題を進めて、技術的に修理をなす場合に、長い鉄の棒がついていた場合と、切られた場合、切られたことは不幸ですけれども修理をする場合の専門的な立場に立つと、どちらが便利でございますか。
  162. 丸山義男

    参考人丸山義男君) どちらでも同じでございます。
  163. 相馬助治

    ○相馬助治君 どちらでも同じだということは、全く切つたことは無用であるということを言外に含めておいでですか。どちでも同じですから切つたことは全くばかげたことである、こういうことを先生の御証言は言外に含めておいででございますか。
  164. 丸山義男

    参考人丸山義男君) それはたとえ切られてあるにもせよ、切られてないにもせよ、私の修理のことについて考えたことから判定しますというと、どちらでも大差ございません。
  165. 相馬助治

    ○相馬助治君 松原技官は我々に証言して言うのには、木彫の仏像なんかを修理する場合に、これを離す場合に、釘がある場合はこれをちよん切ることは問題じやない、あの中の鉄心というのは大きな釘でございます、こういう表現をしておつたわけです。私はこれは今いい悪いを言つているのじやない。松原君も専門的なかたですが、そういう言葉を妥当といたしますか。それともそれはいささか極論であるというふうにお考えでございますかということをお尋ねします。
  166. 丸山義男

    参考人丸山義男君) 釘という意味、私にはわかりませんが。
  167. 相馬助治

    ○相馬助治君 質問がわからない……。再言します。木彫の仏像なんかを直す場合に、例えば腕を離す場合に、これを継いでいるところをはなすと、釘が出て来ますね。これは当然ポキツと切るというのと同じように、あれは太い鉄の話であつて、釘と鉄の差てあるが、あれは一種の釘であります、だから切つたつて、世間で騒ぐほど、そう大問題じやないのだ、こういう意味のことをおつしやつているのです。これは念のために申しますが、この問題に関する松原君の証言というものは、終始真摯を極めております。非常にまじめに答えております。みずからをかばうというような態度は全くないくらいに熱心に、何とかしてこの古仏像を保護するのだという熱意に溢れて、そういうことを申しているのです。私はですから感情的なことを一切除いて、技術的に松原君のその言葉が妥当であるか、妥当でないかということを、この問題を判定する一つの材料として、専門家であります先生にお聞きしておきたい、こういうわけです。
  168. 丸山義男

    参考人丸山義男君) 松原君が言われる場合は、これは木彫の場合だと私は思います。それと同じような意味とは大分かけ離れておると私は思います。つまり鉄心というものは釘と同じようなものだという見解は、私は賛成いたしません。
  169. 相馬助治

    ○相馬助治君 私は例えば松原君とか倉田君がやつておるような仕事というものは、非常に地味な、そうして又縁の下の力持ちで困難な仕事だと思つております。この種の問題が騒ぎとなつて古仏像の今後の取扱いに慎重を期せられることは非常に幸いであります。同時にこの問題によつてこういう技官が世間から懲罰に処せられるならば、今後彼らは勇気を失う、こう思うのです。そこの兼合いが非常に微妙な問題でございますが、文化財保護委員会においては、高橋委員長の証言によりますると、慎重を欠いたという意味で、松原、倉田君を叱責しております。これは意見を差し加えて恐縮ですが、これは私はおおむね妥当な処置だと思つておりますが、そういう叱責をしております。これは政治的な立場を全然離れて、技術家としてこの文化財保護委員会から叱責された両君の立場というものに対して、先生はどのような所見をお持ちでございますか。並びにそのことは当然文化財が両技官を訓戒したということの妥当性についても、一つ言及して御証言願いたいと思います。
  170. 丸山義男

    参考人丸山義男君) そのことにつきましては、叱責を受けたというようなことは、これは当然と思います。それは決してルーズな考えや何かでやつたものではないと私は思います。だがこれは鋳物を取扱う人じやなかつたがために、そういう処置に出たものと思いますから、ここはどういうふうに判断すべきか、これは私たちはわかりません。
  171. 相馬助治

    ○相馬助治君 只今のことは倉田君、松原君がいい悪いじやなくて、問題は、倉田君、松原君をしてこういう仕事を独断的にやらしめた、そのことについては問題がある、こういうことを含めておりますか。
  172. 丸山義男

    参考人丸山義男君) 多少考えられます。
  173. 山本勇造

    ○山本勇造君 時間が大変経つておりますから、私一つだけお聞きいたしたいと思います。丸山さんに一つ、岡田さんに一つお伺いいたします。今丸山さんの質問だから続けまして丸山さんにお伺いします。保護委員会のほうの立場ですと、あれをやるのは緊急止むを得ない処置だと、それはあそこが場所が狭いためにあれをするより方法がないんだということなんです。ところがあなたのあれだとほかにも方法がある、それはできるということを、できるとおつしやつておりますが、ただできるというだけ聞いたんだと、まああなた専門家ですからそれを我々はそのまま信用していいわけですけれども、併し同時に私たち素人でございますから、例えばこういうふうにすればあの狭いところででもできるんだということをおつしやつて頂けますというと、我々はなおはつきりいたしますので、あの際に鉄心を切らなくてもこうこういう方法があつたんだということをあなたがおつしやるなら、それを一つおつしやつて頂ければいい参考になると思います。
  174. 丸山義男

    参考人丸山義男君) あの像をチエーン・ブロツクで引上げまして、引上げる場合には首ばかりじやなしに、最初はあの首だけを吊り上げますが、そうしますというと、あの当時の状況として首と胴とが離れた、隙間が空いたそこの箇所に、まあ早いことを申しますと、ざぶとんのようなものを挾みまして、そして又一旦それを引下します。首だけを引下します。それでその次にはこの胸のあたりにロープをかけまして、そしてチエーン・ブロツクによつてそれを足の下に柄がありますから、柄から抜ける程度までにそれを引上げまして、それで柄からちよつと位置をずらして、石の台の下の両面のところに柄を当てがつて、それからチエーン・ブロツクを緩めて行きます。静かに緩めます。そして静かにチエーン・ブロツクを緩めて行きますというと、頭のほうが、つまりこういうふうにだんだんこう緩みますから、ここにロープをかけていますから、そのロープを伸ばしますと、静かに廻つて来ます。そして廻つて来て殆んど水平までは首は大丈夫落ちません。あれはあれだけの長い鉄心が身体の殆んど膝の下ぐらいまでに通つておりますから、それから鉄心が頭の中に固着しておりますから、首は決して落ちません。それでここに初めて台をしまして、胸のあたりに台をしまして、それからロープをかけ直します。それで丁度重心になるところにロープをかけ替えまして、それで自由にこれをどちらにでも廻すことができます。そして狭ければ狭いように、あの身体が大した場所を要するほどの面積じやありませんから、例えばあそこの場所とすれば十分にそれを置く場所が生まれて来ます。それからその場所にいけなければだんだんと静かに移動することができます。
  175. 山本勇造

    ○山本勇造君 有難うございました。私も実はあの場合に行きまして、そして私と一緒に或る技術家が行つたのですが、併しあなたのように鋳金を本当にやる技術のほうの人でありますけれども、あなたのように専門にやる人じやなかつたのでありますけれども、やはり狭いといつても何しろお寺の中は相当広いので、あれだけあればできるということを私は聞いておりました。併し今日は本当にあなたが単に彫刻といつても彫刻の中にはさまざまのものがありまして、あれをやるのは鋳金の人が本当の専門家だと思いますが、そのあなたの今のような証言を頂きましたことは、大変にいい参考になつたと思います。有難うございました。  そこで今度岡田さんにお伺い申上げたいと思いますが、月光菩薩の鉄心を切つたことでありますが、今のようなことが一方で専門家に考えられている。それから先ほど申しましたように、行つたその翌日にすぐ切らなければならなかつたものかどうか。その前が二週間もとにかくそのままになつてつて、そうして行つたらその翌日すぐに切つてしまうというのが、どうも私には腑に落ちないので、前からこれは質問続けているところなんですが、信仰の対象ということをあなたが先ほども意見の中でありまして、私も御尤もと思つているのですが、ああいうふうな月光菩薩、日光菩薩と対になつているもので、而も両方とも同じ鉄心が入つている。そうして而もそれは信仰の対象になる。それからして又白鳳以来のずつと続いて来ているものであるというふうなもののときに、あなたはお寺が違うですから何でありますけれども、併し宗教家の立場からしますと、ああいう場合は、今度のような処置が緊急止むを得ないものとやはりお考えになりますか。或いはもう少しほかの方法があつたとお考えになりますか、一つ宗教家の立場から御意見を伺いたいと思います。
  176. 岡田戒玉

    参考人(岡田戒玉君) 私はそれはまあ非常に微妙な問題でありますが、ああいうふうにして今度お切りになつたことは、技官としては無理のないことだろうと思うのです。だけれども大体御承知でもありましようが、神道のほうはさておいて、仏教のほうではああいう御本尊としてお祀りしてあるあれを修繕いたします場合は、首切つたり心を切つたり何かするのでありますが、そういう場合は必ず撥遣の法ということを行うわけです。祓いのけてしまう。私どもは信仰の対象だと言つておりますが、木で造つたものであつても、金で造つたものであつても、生きた仏様と同じものだと、こういうふうに考えているわけであります。事実又そういう宗教的の儀式を行うのです。入魂式というのがある。魂を入れると書きます。入魂式、だから今度あれをお切りになるにしても、そういうことがとり行われてからのちにおやり願つたら、一個の仏体としてお扱いになつてもいいわけだろうと思います。それを果してなさつたか、なさらないか。私は行つて直接お寺の人に承わつておりませんから、ここでいいとか悪いとか余り断言することは控えておきたいと思います。
  177. 高橋道男

    高橋道男君 丸山先生に月光菩薩の技術上の点で一、二お尋ねを申したいのでありますが、この鉄心の問題、私が伺つているのでは、この奈良の文化財研究所の小林さんなどは、あれを首をチエーン・ブロツクで上げるまでは果して鉄心があるかないかわからなかつたのだというようなことを言つておられることが一つ、それからほかにも仏像を鋳造をするについては、あの鉄心は必要欠くべからざるものであるけれども、鋳造が、つまり仏像ができてからのちは、鉄心は大体は要らないものだから、すでに取去られておつたはずであるけれども、あの場合には残されておつたのだということは、これはまだチエーン・ブロツクで首を吊上げたあとで行なつたというようなことを聞いているのでございますが、これは丸山先生の見解からいたしますれば、あの鉄心は取去られておつたのではなしに、ずつと引続き残つてつたものだということは決定的にあらかじめ言われるものでございますかどうかお伺いいたしたいと思います。
  178. 丸山義男

    参考人丸山義男君) あの鉄心は、本来は鋳造してでき上つた場合には、取除くべきものであります。ところがあの割口を見ますというと丁度銅の厚み、裏と申しまするか、その裏があそこは二段になつております。この二段になつておるというようなことは、これは首が弱いために裏付けしたというようなふうにすべての人が判定しております。私もそう思つております。その二段になつておるというようなことは遠くから考えて見ますというと、無論あの鉄心は完成ののちには取去るべきものではあるけれども、鋳造当時においてすでにあの仏さんが完全にできないがために、首を継足して、そうしてその首の折れないように裏付けしたものであるか、或いは後世何かの災害があつて倒れた際に首が折れてそこに裏付けしてあるものか、その点ははつきりいたしません。それで後世裏付けしたものとすれば、その際に或いは首を完全に持たせるために或いは鉄心を入れて丈夫にしたものじやないかとも考えられます。
  179. 高橋道男

    高橋道男君 その鉄心があの月光菩薩の場合には首を空けるまで以前の状態においてあるということはこれは断定してよかつたのでございますね。
  180. 丸山義男

    参考人丸山義男君) ちよつとわかりませんが……。
  181. 高橋道男

    高橋道男君 あの月光菩薩の鉄心の場合ですね、鉄心は抜かれずにあつたということは断定的に考えていいわけですね……。というのは、どつちのほうにいいのですか……。鉄心があつたかなかつたかということはどちらのほうに断定して考えていいのでございますか。あつたということはわからなかつたか、事前に。
  182. 丸山義男

    参考人丸山義男君) それは私は断言できません。
  183. 高橋道男

    高橋道男君 もう一点お伺いしたいのは、台座の問題でございますがね、先ほど上野先生からのお話では、支柱その他の支え物を以て切つたりなどせずに、現状に対する応急手当は別の方法が立てられたのだということを伺いましたが、若しそういう方法を考えない場合にはですね、私は切られたあとで行つたんですけれども、台座が非常に腐蝕して破壊された状態なんですね、そうすると若し地震があの場にでもあつたならば、その腐蝕された台座だけで以てあの仏像を支え得たかどうか、つまりほかの手当をしない状態において、何かの異変があつた場合に仏像の安全が期せられたかどうかに対して、あの台座はどういう働きをしたであろうかということをお尋ねいたしたいと思います。
  184. 丸山義男

    参考人丸山義男君) 台座は殆んど、その地震の程度にもよりますがあの当時の地震ぐらいの場合だつたらば相当危険なものと私は思います。
  185. 高橋道男

    高橋道男君 もう一点、これは岡田先生にお伺い申しておきたいのですが、先ほど梅津委員からも御意見がありましたが、宗教の問題と文化財の問題とが我が国の場合には非常に密接な関係を持つておることは申すまでもないと思います。私も宗教に関係がありますので、宗教上の立場から、その面からも文化財を見て行かなければならんという考えを持つのでありまするが、これはこの宗教法人法におきましてもたしか八十一条か八十三条かにおいて宗教の尊重と伝統の尊重というようなことから、宗教保護の面が相当はつきりと出ておると思うのでございますが、それに関連いたしまして文化財に対する宗教家或いは宗教関係者の見方というものが、これは私の見方が足らんかも知れませんが若干粗末になつて来ておる点がありやしないかということを思うのであります。私も宗教に関係するものでありますけれども、仏教関係のことは余り詳しく存じませんので、お寺に参りましてどの仏体が御本像であるのか、勿論比重関係はあると思うのです。御本体とそうでないものとの関係の差別が或る程度あると思うのでありまするが、その差別なども実はわかりません。そういうような面から考えましてですね、お寺のかたで文化財の御案内を頂く場合に非常に大事に、全般に対して大事にすべき考えを我々が持つのは当然かも知れませんが、御案内頂くような場合に御仏体に対する態度、或いは観念というものに何か非常に粗末に考えて、先ほど物件というようなお話がありましたけれども、普通の物件と変らない、古くから伝わつておるものだから一応大事にしたらいいというような宗教信念を離れたような立場から御案内を受け、或いは御指示を受けるというようなことを感じるのでありますけれども、そういうようなことが今度月光菩薩の問題の場合にも関連があつたのじやなかろうかということを私は非常に恐れるのでありますが、その点についての御意見を伺いたいと思います。
  186. 岡田戒玉

    参考人(岡田戒玉君) 今おつしやつたことは一つちよつとわかりにくい点がございましたのですが、仏教の多くの人がこの頃仏様を粗末に取扱つておるというような御質問なんですか、そうなんですか。
  187. 高橋道男

    高橋道男君 御仏体そのものを全部を粗末に扱つておられるとは思いませんけれども、御案内を受け、御指示を受ける場合に尊重すべきものだというような感じさせ方をなさらないようなことがあるのです。そういうことがこの月光菩薩の問題にも、つまり大事にしないというような態度があるからああいうような事件を起して来たのじやないかというように感じられる点があるのですが……。
  188. 岡田戒玉

    参考人(岡田戒玉君) まあ宗教法が新らしく改革されまして、宗教を尊重するとか、或いは宗教の伝統を尊重してやつて行くというようなことを日本の法律では保障されておるわけであります。そうして一方には同じお寺関係のものであつても、この仏様とかその他の優秀な仏像とか什器等お寺の持つておるものがこちらの文化財保護法で監督を受けるというようなことになつておるわけですが、今の御質問のようでしたら一般のお寺や神社にお参りすると、そうすると案内者でももつと参観者に有難味を感ぜしめるような態度をとるのが少い。だから宗教を愛護するような意味からもつと何か方法がないのか、こういうようなお話のようでございましたのですが、そう承わつていいわけですね、そうじやないですか。
  189. 高橋道男

    高橋道男君 もう少し具体的に一例だけを挙げて申しますると、月光菩薩の場合に切断された仏体はたしか金堂に置いてあるのです。それから首、頭はたしか東院に置いてあるのです。こういうのは私の宗教信仰感情からいたしますれば、もとあつた金堂に御安置申すのが妥当じやないだろうかと、それを二つに切り離して置いてあることは信仰の尊厳を余り考えられない措置じやないか。これは或いはお寺側に申すのじやなしに、文化財保護委員会に申上げることかも知れませんけれども、併し若しそうであるといたしましても、これはお寺のほうでそういう御配慮をあらかじめなさるべきじやないかということを、まあ一例として私考えるのですけれども、例えばほかの場合、こういう例もありましよう、御本体とそれ以外のものと分ける、或いはその他の羅漢像というようなものについて我々がどういうような信仰態度であつたらいいのかというようなことを絶えず考えるのですが……。
  190. 岡田戒玉

    参考人(岡田戒玉君) 只今の御質問を御尤もだと思いますが、私ども誠に、御質問であるけれども、我々に御警告を与えて頂いたと、非常に有難く感謝する次第でありますが、今おつしやるようなふうに、月光菩薩の首と胴体とを離れ離れに保存してある。もとより御本体のあつたところの金堂は、胴だけしかない、それを御覧になると妙な感じを持つのであります。仏様を信仰するというような感情を、よほど離れるとか、或いは傷つけられる、こうおつしやる御意見については私も全く同感なんであります。そういうことのないようなことを私どもは希望しておるような次第であります。
  191. 相馬助治

    ○相馬助治君 議事進行……、あと三と四が残つておりますが、一と二を問題としているうちに内容的には三、四にやはり暗示されておるところが多いと思います。そこで委員長はこれを一括上程して、どなたか最終的に意見でもあつたならば、お一人ぐらい御意見を聞かれて、時刻もほどほどですから、この辺でこの委員会を打切るように一つ尽力願いたいと思う。
  192. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) 今の御動議如何ですか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  193. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) それでは……。
  194. 山本勇造

    ○山本勇造君 最後にちよつと簡単なことですが……。
  195. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) どうぞ。
  196. 山本勇造

    ○山本勇造君 今日は議題が四つありまして今までは一、二までで、今度は三と四をやらなければならんのですが、大分遅い時間になりました。殊に今一、二の問題のところで、委員会としては思いがけない問題が出て来まして、文化財保護委員会の問題、或いは文化財取扱う問題としては少しきれいでないようなことも出て来ておりますので、三の問題にも入るというと、相当又揉めるようなことがあるとどうかと思います。勿論三も四も大事な点でありまするから、恐らくこの委員会で改めて又小委員会を作るなり、或いは特殊な委員会を作るなり、或いは作らんかも知れませんが、何らかの方法で改めてこれはお伺いしたいと思いますので、私今日のあれを見ておりまして、そうして又文化財のことを考えるものといたしまして、先ほどこの月光菩薩のことにつきましては、これは緊急止むを得ない処置であるか処置でないかというような点は、これはまあ大事な点ですからお尋ねはいたしましたが、併しながら我々が本当に考えておることは、月光菩薩の例をとりますれば、もう切られてしまいました以上は、月光菩薩が如何にして元の姿に近い形で以て復旧されるか、それを我々は一番念願しておるわけでありまして、これは恐らく皆様も同じであると思います。同様に、この文化財保護委員会のことにつきましても、この委員会というものはどこまでも公正にやつて、悪いところは悪いとして正し、改めてもらわなければなりませんが、我々はどちらのほうに味方してどうするというような考えは全然ないのでありまして、そういう意味ででは、文化財であるだけになごやかに、そして文化的にこういう問題をそれぞれ始末できることを我々は望んでおります。  そこでさつき承わりますというと、上野さん並びに脇本さんから、この文化財保護委員会に対して辞表を御提出になつておるようであります。上野さんは先ほど素人であると仰せられましたが、素人どころか、たしか出られたのは美学を出ておられます。そしてこの美術工芸の問題に対しては、もう何十年というほどこのことをやつておいでになり、現に芸術大学の学長をされております。学士院の会員でおられるかたですから、十分なるこのほうの権威者であり、ただ謙遜で素人だと言われただけでありますが、あなたのようなかたがこの文化財の問題から退かれることは、日本の文化財の上から言つて非常な残念なことです。勿論あなたがこれをやめられたことは、よくしたいと思つてやめられたのであつて、非常に芸術的な考え方を持つておられたのだろうと思います。脇本君も同様であつたと思います。併しながら、一番大事な点は、如何にしたら日本文化財がよくなるかということでデイスカツスを重ね、そうしていいほうに持つて行くということが大事なことであります。そうして又我々がこの文化財保護法を立法したのもそういう精神でやつたのでありますから、どうかあなたも、いろいろあれもありましようけれども、これは私個人の意見でありまして、委員会としてそういうことをあなたに申上げることはできませんけれども、私個人の意見であるけれども、先ほど下村さんの意見を聞きましても、辞表なんか撤回してやつてくれということがありましたように、我々として個人的に考えますというと、どうかこの文化財がよく育つて行くようにやつてもらいたいので、いろいろあるかも知れませんが、どうか辞表などというようなことでなくて、文化財のために努めてもらいたいということを、今日のあれの機会に申上げたいのです。同時に今日は…丁度文化財保護委員会委員長である高橋さんもおいでですが、高橋さんはこの問題についてどういうふうに処理されておられますか。私は実は今までもしばしばこの問題についてあなたに質問をしようとしておりましたが、この問題を聞こうと思つていたのですけれども、障害がありましたので、わざと今日まで控えておつたのでありますけれども、あなたのほうも辞表を撤回して頂くことを常に申しておるやに聞いております。委員会としても、こういうかた、而も専門審議会の絵画彫刻部会のたしか部長は上野さんがしておいでで、脇本さんはその副部長をしておられるので、重要な人であると思います。意見があればお互いにデイスカツスすることは、民主々義の世の中では当然ですから、どうかデイスカツスすべきものはお互いに十分デイスカツスして、そうしてその結果いいものを育て上げて行くようにしてもらいたいのですね。私はお互いに決して感情問題はないと信じておりますけれども併しながらややもするとそういうふうになりがちですし、あなたの部下のかたにもよくその点は言つて頂いて、どこまでもこの文化財保護法の精神に従つて育て上げるように、これはもう御両所に切にお願いを申上げます。  何かこの委員会としては少し違つた点を申したかも知れませんけれども、併し文化財保護法をこの委員会で作つた者といたしましては、衷心そのことを感じますので、只今御両所にお願いを申上げました。
  197. 若木勝藏

    委員長若木勝藏君) 本日は参考人のかたがたには長時間に亘りまして誠に有難うございました。御開陳の御意見に関しましては、今後我々の委員会審議に非常に参考になりましたことを重ねてお礼を申上げます。  本日の委員会はこれを以て散会いたします。    午後四時十九分散会