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参考人(ハワード・バン・ザント君) 私はあなたの会合に御招待を受けたことを感謝いたします。これは私の光栄とするところでありまして、感謝のほかはありません。
国会の電気通信
委員会の中には、長い間私の知
つておるたくさんのかたがおりまして、
山田先生、
新谷先生、長谷川先生及び鈴木先生からは、あなたがた
委員が
日本のよい電話サービスを与えるためのいろいろな賢明なる事柄を学びました。私が招待されて皆様にお会いしたとき、私は二十カ月
日本を留守にしている間にいろいろなことが起こりました。いずれにしろ私はあなたがたの国の電話サービスに非常に関心を持
つておりますので、
考えをあなたがたに
お話いたしたいと思います。あなたがたに
お話するのに私は腹蔵なく、そうしてあけつ放しでいたしたいと思います。でありますから私の話は
個人的なもので、私の会社の公式のものでないことを御
承知下さい。
二年前私の妻と二人の子供は
東京における楽しい数年を過して
アメリカに帰りました。私の娘たちが三日間サンフランシスコに滞在しているとき、私の妻が彼女らに何が一番印象的であ
つたかを尋ねました。六つに
なつた私の末の娘が先に答えました。その娘は少しも彼女の故郷の思い出を持
つておりませんでした。彼女の生涯の殆んどを
日本の子供たちと遊んで来たので、英語は少ししか話せませんでした。彼女は答えました。ママさん、
アメリカにはまるで人がいないんですもの。そのとき十四に
なつた姉娘が言うには、その
通りよ、併しサンフランシスコの下町でならば一時間歩いて道で十二、三人の人に会えるかも知れないわ……。この間の夜
衆議院の四郎・長谷川先生が
アメリカ旅行でと
つた天然色スライド、幻燈を見せてくれました。その
一つはサンフランシスコの住宅地の
通りの写真でしたが、そこには一人も人が映
つていないということです。サンフランシスコは最も人口の多い都の
一つです。横浜と平方マイルにして殆んど同じくらいの人口があります。サンフランシスコの人たちはどこにいるのでしよう。その答えは、電話に関係しているのです。サンフランシスコには八十万人の人口があ
つた、而も本電話が四十万あるのです。
日本の同じくらいの都ではた
つた二万か三万の電話しかないでしよう。サンフランシスコの人たちは
家庭に、事務所に、店に、電話を持
つて事業を富み又生活をしているのです。
日本ではこれと反対にお互いが足で歩いて
事業を営み、又社会生活をしているのです。
日本の
事業人はタクシー又は社用の自動車で用をたすのです。ところがサンフランシスコの
事業人は事務所を離れないで
事業を営むからです。
日本の主婦たちは生活に必要な買
出しをするのにも、用事をたすにも街に出て来るのですが、サンフランシスコの主婦たちは電話で雑貨や百貨店の買物をするのです。
日本の商人は仕事をしようとする市内電車、バス又は鉄道に乗らなければなりませんが、サンフランシスコの商人は店から一歩も出ないで電話で物を買い、売り又は注文いたします。数カ月前私は友だちの経営する
アメリカの工場へ検査に行
つたことがありました。方々の部屋を見て廻るうちに、私は心で思いました。この工場は私が見た
日本の工場に非常によく似ている。併しながら
日本の工場では高い値段で信頼できない物をこしらえる。この
アメリカの工場では安い値段で良い物を作るので有名で、ある。どこが違うのだろうか。そこで私は
考え付きました。私のノートを取り
出して、各部屋を廻る時に或る数字を丹念に書きとめました。検査が終
つた時、私の友だちが尋ねました。何を書きとめたのかね。私は答えました。私の書きとめたのは各部屋の従業員の数とその人たちの使う電話の数をさ。と言いました。この
アメリカの会社では事務員の三分の一と工場労務者の八分の一が私が検査をしている時電話を
使つたということがわか
つたんです。あの会社は例外じやないのですよ。
アメリカのごときは工場における電話は経営の最も重要な道具であります。電話は連絡と協力の道具なのです。これがなければ、労務者は仕事のため連絡し、ようとして工場を歩き廻らねばならないでしよう。彼らが供給者やお得意や事務所を廻れば、たくさんの人がタクシーや会社の自動車や電車や自転車や省線などに乗
つて街に出なければなりません。私は十年を
日本で過し、生涯の残りを
アメリカで暮らして、結論として
アメリカの工業能率が上
つているのは電話サービスのお蔭であるという非常な理由を確信するものであります。
日本は製造し且つ輸入によ
つて長生きしなければなりません。
日本が新らしい能率のいい且つ適当な市内及び市外電話方式を持たなければ、よい品を豊富に且つ低廉に生産することは困難でしよう。何故に
アメリカの電話方式が世界で最もよくて能率的と言われるのでしようか。私は二十四年間電話
事業に関係し、各国の電話
事業を見て来ています。私の意見として、
アメリカの能率は次のようであると思います。第一、
アメリカはモダンな高速度の且つ寿命の長い機械を持
つていること、第二、市内、市外電話サービスの
料金が会社の利益を生むよう十分高いこと、利益のある会社は投下資本ができて、この資本で必要なるサービスの需要に急速に応じられる。第三、二或いは四加入共同都市に、八加入共同村落に使
つて電話を最大限に利用できる、第四には、
アメリカの電話会社はほかの国の電話
事業のように法律や
政府の規則に縛られないです。
私は、
日本が現在使
つている電話の機械の型を改善する必要があると信じます。貴国の交換機製造会社は大きいので、欲しいものは何でもできるでしよう。併しながら貴国はモダンな高速で信頼すべき自動交換機を採用する必要があるのではないでしようか。
アメリカでは多年の実験と
研究等によ
つてそんな交換機が設計されております。製造会社及び
日本電信電話公社のために役立つだけの少しはかりを輸入すれば事足りるのです。特許料は
アメリカの製造会社が
研究に使
つている
経費をカバ一するために払わなければならないでしよう。
研究費の大
部分はもうすでに
アメリカの電話会社が払
つているのです。
日本人は優れた交換機を得るために、
研究及び
調査費を僅かばかり支払えばよいのです。あなたがたの欲しい交換機の名はプロスパーと呼ばれております。このプロスパーについては、二週間前に皆さんに英文の
説明書を差上げてあります。或る人は私にこう言います。君の交換機を買うためには、為替が要るし、特許料を支払わなければならないと。私の答はこうです。即ち、あなたの自動車、バス、タクシーなどを動かすには、油やガソリンを買うために多額の外国為替が必要ではありませんか。いつかあなたは油やガソリンや自動車などを輸入するための為替を節約しなければならないでしよう。あなたは適当な電話方式があれば、
日本で十分な工業が持てるのです。適当な電話方式によ
つて能率的な工業を持てるばかりでなく、又外国の油や自動車を買わなくても済むことになるでしよう。あなたがたは若し良い電話サービスを持
つておるならば、自動車バスに代
つてこれを使うことができるでしよう。あなたは電話局が拡張し、且つ質において改善されるに十分な高い
料金を課する必要があります。
アメリカの都市では
設備利用は大ダラー五十セント、そうして毎月の電話料は六ダラー、一通話ごとに四セント半です。この数は
アメリカのシカゴのような大都市です。場合によ
つて違いますが、これは平均と思います。公衆電話は特別です。公衆電話の
料金は、大都市は今十セントです。三十六円でしよう。
日本においては装置料その他で二百五十ダラーでしよう。
月額は一ダラー二十、五セント、一通話ごとに一セント三分の一、五円払わなければなりません。あなたがたのわかるように、
日本の
月額料金と度数
料金は安過ぎる。そうして装置料は高過ぎる。若しもあなたがたの
月額及び通話料を
相当上げれば、電話局は利益が上り、
日本の国民は喜んでこれに投資をするでしよう。これらの投資は拡張と増設に十分な
経費を使うことになり、あなたがたは拡張のための
経費を生むために装置料を上げる必要はなくなる。利益を上げるまで装置料は高い必要があるわけです。近郊市外通話
料金も又安過ぎます。これらの
料金を
相当値上げの必要があります。利益を増加してモダンな高速度な市外電話装置を買うに十分な
経費が得られるでしよう。あなたがたの市外交換機は大
部分古くてな
つていません。これらの大
部分は
アメリカでは四十五年前に使わなくな
つています。四十五年前です。ですから近郊市外通話
料金を上げなければ、新らしい装置を買うことができないでしよう。共同加入サービスに関しては、私は
個人的な
経験から、
日本の小さい
事業家は、
アメリカにおります共同加入者ほど電話を使わないことを知
つています。
日本における小
事業家及び住宅電話の使用者は共同サービスで十分だと思われます。丸の内、茅場町、ああいう所は違いますが、小
事業家、盗難予防の一助として、或いは医者を呼ぶ途を持
つために
家庭又は農家における電話の必要があります。
アメリカにおいては同一回線に数名の使用者を接続することによ
つてこのサービスが与えられているのです。
これは経済的であり、能率的であります。
日本の電話は過去六十年間いろいろな制限を受けて、ハンデイキヤツプが与えられています。
アメリカには如何なる電話会社にも全く
政府の干与しない州すらあります。これらの電話会社は、希望する
料金を課していますが、それでもこれらの自由な州の
料金は
政府の最も厳しい干渉のある州より高くないのです。
アメリカにおける電話
事業の
発達の進歩の大
部分は公社監理
委員会、それは何でしようか、レギユラトリ・コミティー、公社監理
委員会が誕生する前に起
つております。
日本電信電話公社の運営が監督及び規則から解放されたときに初めて、
日本の適当にして使用のよい電話サービスを与えるような
政策を形作ることができると信じます。私は
日本の電信電話公社の幹部に永年関係いたしました。彼らは正直で努力家で能力のあるかたがたばかりです。彼らは現在規則と監督で厳しいハンデイキヤツプを持たされております。私はこれらが解放されて、
日本にと
つてそんなに悪か
つた電話
事業をあなたがたが望んでいるようないいサービスに変ることを望んでやみません。
以上私が拙い意見を申述べましたが、
日本の皆様がたは電話
事業の発展と進歩についてよくこれを
研究されるよう、成功がもたらされるよう祈
つております。御清聴を感謝いたします。