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小林政夫君 先ほどのに続いて申上げます。今回の調査の主な目的は、但馬
地方の課税が同じ局管轄にあ
つても瀬戸内海側と日本海側と比較して、又隣接地である鳥取
地方は局が違うわけでありますが、この方面と比較して相当高い徴収が行われているという業界からの声に応えまして、本
委員会としても初めて参る
地方でもありますので、特に但馬
地方における商工業の中心地である豊岡市と、
漁業の小心地である香住町、更に鳥取市においてそれぞれ懇談会を開きまして、税制、税務行政等の諸問題に関する業界の要望を聴取し、その実情について調査したわけであります。丁度豊岡へ参りました際に、全但馬
地方の商工業者が集りまして全但商工業振興協議会の大会が開かれ、その代表者のかたより但馬
地方の特殊性と申しますか、自然的、経済的
条件の不利な点について
説明があり、又他
地方に参りました際も同様な
趣旨の陳情を受けたのでありますが、当地の特殊
事情は単に但馬
地方のみに限らず、裏日本を通じての一般的な問題であり、相当重要性を持つものと思われます。御
承知のごとく但馬
地方は日本の北海道とか、或いは日本のロンドンとか称せられますように、豊岡附近では快晴の目が一年を通じて七日しかないと言われ、冬季四ヵ月は積雪に覆われ、而も非常に湿気が多いわけであります。従
つて交通の不便なことと併せて地元商工業の立地
条件は極めて不利な立場に置かれ、現在
経営されているものの殆んど大
部分は
中小企業であり、而も零細
企業経営である実情であります。由来当地は杞柳を特産物として繁栄し来つた所でありますが、海外市場を喪失した今日においては、もほや昔日の面影はなく、このほか寒冷多湿地帯特有の
事情等によりまして、商工業者の不振を急速に打解し得ることは困難で、当地経済の発展はひとえに
原始産業たる
農業、
漁業に依存しなければならない現状でありまして、農漁村の景気の動向は直ちに但馬
地方の盛衰に決定的な役割を演ずるものと言われており、本
年度のごとく天候不順、或いは病虫害等による農漁村の不作は必然的に景気の沈滞を招来しておるのであります。かような諸
事情下にある但馬
地方の課税
状況を実証的に観察いたします一つの材料としまして、
昭和二十五
年度及び
昭和二十六
年度の申告所得税の業種目別課税
状況調によりまして、兵庫県下の税務署別資料を見ますと、日本海岸にある豊岡香住税務署と瀬戸内海沿岸にある神飾、龍野、上郡税務署と比較しますと、一人当りの所得は別表(1)の
通りであります。お手許に表が配
つてあると思います。この表によ
つて一応推測されます点は、瀬戸内海沿岸に比較して日本海沿岸の営業者の所得の伸びが急カーブを描いており、明らかに所得決定について但馬
地方が過重に置かれていることが指摘され得ると思われるのであります。
次に、鳥取税務署管内のものと比較いたしますと、別表(1)の一番下の段にありますように、この表においては顕著な相違は、
漁業面を除いては見当りませんが、鳥取税務署の算出
方法がよそと興るために正確なる結論は控えたいと思います。ただ香住で一業者より薬局業者の立場を述べた意見として、別表(2)のごとく、鳥取の所得決定が香住よりも軽いとの発言がありましたので、これはほんの御参考までにお知らせいたしておきます。併し全体を通じまして
漁業の面では顕著な増加を示しており、
昭和二十六
年度は前年に比し約倍増と
なつております。このことは昨
年度は「いか」等の漁獲物が激増したことにもよりますが、
税法の取扱いに不統一、不備なこととから招来されていると考えられる点もあるのであります。例えば漁船のエンジンのボーリング費を経費と見ている税務署もあり、又償却資産の価値の増大と見ている税務署がある。又香住では二十六
年度に初めて手持資料の棚卸をやらせて、従来から常時固定して保持してお
つて網、ロープ等の資材まで二十六
年度の資産所得に計上して課税した等の不合理な
措置によ
つて、苛酷な課税が行われておるのであります。一般的な考え方を二、三申上げますと、
第一に、
地方は都会に比べて所得の把握度が高いため不利な立場に置かれていること、例えば香住のごときは交通の便が悪く、鉄道便に依存するほかなく、従
つて漁獲物等物品の動きが漏れなく把握されること。
第二に、大
企業なきため朝鮮事変による好景気の影響を受けることなく、所得の伸びは極めて低調であるに対して、経済実務を無視した全国画一の査定率を以
つて決定するために、相対的に苛酷な課税を招来していること。
第三に、当
地方では
個人の青色申告に対する更正決定は表面皆無でありますが、申告指導と称して事前に納税者に対して税務当局の腹づもりの額まで所得額を
引上げさせている。当
地方の納税意識は良好であり、それだけに強い反対の意を表しないこと。
第四に、
地方の特殊
事情、例えば高い温度のため家屋、機械器具等の減耗度他地域より大なるにかかわらず、全国一率の耐用年数で算定されることが、当
地方の課税を不適正なものであると痛感させていると思われます。これに対しまして徴税当局の話では、
地方の経済実勢に応じて段階を設け課税所得を決定する等、十分考慮を払
つており、豊岡市についても市制地の取扱ではなく郡部の取扱をなしており、決して無理な課税を行
なつていないと否定的言辞を述べておりますが、両者の意見を総合して見まして、業界側の主張にも相当無理からん妥当な点も少なくないのですが、何分にも論拠とすべき適当な資料が
作成されておらないので、端的に割切つた結論を得ることはできなか
つたのであります。併し今回の派遣により、少くとも徴税当局と業者間に相互理解に達し得た
事項もあり、又今後の円滑なる
話合に端緒を開き得た効果は十分あるものと期待いたしますと同時に、
地方の零細なる中小業者に対する徴税当局の温情ある取扱を要望して止まない次第であります。
次に、租税問題につきまして業界より聴取して参りました要望
事項を御披露いたしたいと存じますが、結論を申上げますと、更に大幅の減税
措置を実施されたいとの一語に尽きるものと思われます。実は各
地方別に多少意見を異にしており、それぞれ具体的に申上げるのが妥当と思われますが、同様な
趣旨もありますので、重複を避ける
意味から一括して簡単に述べたいと思います。なお念のために申し添えますが、ここに紹介する具体的な個々の意見に私がすべて賛成であるというわけではありません。
第一に、所得税の問題であります。第一点は所得税の負担が過重であるから、基礎控除、扶養控除、勤労控除等の
引上げ、税率の引下げを行うべきであるとの一般的意見は各地共通の声でありますが、豊岡では零細
事業者は実質上一般勤労者と何ら異らない立場にあるから、その
給与を経費と見るか、又は特別控除を設けてもらいたいとの要望もあり、又香住では
漁業者の家族専従者の所得を世帯主たる
事業主の所得より分離し、家族専従者に相応する使用人に支払うべき
給与額に対する源泉課税にしてほしいとの意見があり、鳥取では農民に勤労控除を設けるか、或いは専従者控除を青色申告の農家以外にも
適用して頂きたいとの要望がありました。
第二は、これは
地方の経済力の相違から来る見解と思われますが、大阪では減税
措置を講ずる場合、特に年所得百万円以下五十万円までの、いわゆる中堅所得者層に重点を置く必要があるとの主張に対しまして、豊岡、鳥取では一段と低い低額所得の階層の優遇を図り、例えば五万円以下の所得は百分の五の税率となし、漸次累進税を強化して、一千万円を超えるものに対しては百分の八十にすべきであるとの説を唱えていた団体もありました。第三点は、生命
保険料控除限度額を現行四千円より一万円
程度に
引上げられたい。
第四点は、医療費控除、雑損控除の一割超を改めて全額控除を認めることにしてほしい。
第五点は、預金利子に対する源泉選択課税の税率を二〇%に引下げ、貯蓄の増大を図ると共に、無記名定期預金の源泉課税を軽減せられたい。
第六点は、所得
税法第十五条の六の
規定、即ち配当所得に対する二五%の控除
規定は是非存置されたいということ。
第七点は、有価
証券移転和の設置に当
つては、税率を極力低位にされたい。
それから第八点は、
国家公務員には
寒冷地手当というような特別な寒冷地に対する
手当のあることでもあり、農民に対しても同様の
趣旨で寒冷地控除を設けられたいという要望。
第九点は、必要経費の査定に際しては、
地方の特殊
事情又は営業の特殊
事情を十分に勘案して、
適用範囲の拡大と、適正なる査定を希望する。土地改良費等国の補助金に合せて農家が置担する改良費は必要経費に認めてくれとの要望もありました。
第二点は、
法人税についてでありますが、どこへ参りましても、
法人税四二%の課税は過重であり、速急に是正されたいとの強い要望を受けたのでありますが、特に
中小企業においては大
企業のような特別の
方法で実質的な減税
措置を講ずることが不可能であるから特に配慮を願いたい。例えば
法人所得に
一定の限界点を設けて、大
企業と区分して四二%と三五%の二本建の課税をなすべきだとの意見がありました。このほか社内保留分と社外分配分を区別して、社内保留分に対しては軽減した税率を
適用すべきであるとの意見もありました。このほか同族会社の
積立金に対する課税を廃止若しくは軽減されたい。若し廃止乃至軽減が困難な場合には、現行の五十万円以下の制限を二百万円
程度に上げてもらいたいという意見。第三点は、貸倒準備金の限度の
引上げと、その認定範囲を明確化し、実情に即した判定を行われたい。
第四点は、価格変動準備金
制度は、一
一定金額、帳簿価格の三割
程度に達するまでは毎期
一定限度、帳簿価格の一割
程度の積立を認める
制度に
改正されたい。
第五点は、
法人の市町村民税は
事業税同様損金算入を認むべきこと及び損金認定を受け得る経費の範囲を拡大すべきこと。
第六点は、いつも問題になる点ですが、特別
法人に対する課税を廃止されたいとの要望であります。
第三に、相続税は依然高率に過ぎるから基礎控除を
引上げて少くとも百万円
程度にしてもらいたい。このほか、農家の場合、相続する際の譲渡所得について、
農業の用に供する資産は相続人自身の勤労の結果によるもので、単にその名義変更に過ぎん場合が多いから非課税とすベきであり、その他の資産についても臨時的なものであるから二分の一の控除を設けられたいとの要望がありました。
第四に、その他の
事項としまして、先ず青色申告
制度について各地でいろいろ強い意見を徴して参りましたが、春色申告者に対しては税務署側では指導奨励の立場から申告者の張簿は十分尊重しておると言われるが、ややもすれば、前
年度の実績と全般的な景気の推移を以て一方的に決定される事例が今なお少くないと業界側では不満を漏らしており一本
制度に対する評判は一般的に芳しからん様子でありました。従
つて本
制度を積極的に利用させるためには、当局の善導、宣伝は勿論のこと、
制度の簡素化を図ると共に、その特典を拡大すべきではないかと思われるのであります。
第二点は、納税貯蓄
組合の強化、善導を図り、その助成策を推進させると共に、税務署側においても十分活用を図られたい。滞納処分の執行に当
つては、事前に
組合理事者と協議してほしい。或いは
組合として
組合員に納税
資金を
融通し得る
措置を講じてほしいというような積極的な意見がありました。
第三点は、従来行われていた所得税調査
委員会制度を復活されたい。特に
農業の場合は、税務当局の指示する
農業所得標準率に納得の行かない場合が多いので、税務当局と納税者の代表者とによ
つて所得
審議委員会を各税務署毎に構成し、その
審議会の答申に基いて標準率を決定するよう希望する。但し
個人ごとの所得決定には全然参与しなくてもいいが、その標準率を決定する
審議会には与からしてもらいたいという要望であります。
第四点は、納税者は
税法上異議申立の
規定により保護されることと
なつているが、実際面では次
年度の報復行為を恐れる気持と、手続上の面倒なことにより、殆んど利用する者はおらず、単に形式的な保護
規定に過ぎない。
第五点は、国税、
地方税を通じた徴税機構の簡素化を図るため、
事業税のごときは附加税となし、徴税事務の煩雑化と納税意識の低下を防止するほか、
地方税と国税との納期の調整をできる限り考慮されたいという要望がありました。
なおこのほか各地の懇談会において強く要望されました点を申上げますと、大阪では、減税
措置の前提として、国家財政の圧縮を図る見地から、国、
地方を通じた行政機構の徹底的な整備を行うことと、貯蓄国債の発行については、関西業界はこぞ
つて反対であるとの強い意見がありました。その
理由については、先般別途お手許に配付いたしました関経連の貯蓄国債に関する意見書を御覧願いたいと存じます。
又鳥取では本年大火を蒙りまして、
中小企業者は塗炭の苦しみの中にも復興に努力を傾注している現状でありますが、これに対し税務署の取扱は、雑損控除の調査を短期間に、而も低率の標準歩合で決定し、甚だ適正を欠いており、総所得金から繰越差除が過小なため、当年限りの減免を受けるにとどまり、恐らく三年に亘り繰越控除を受ける該当者は皆無と思われる実情であるから、別途
法律を制定するなり、何らかの
方法で課税負担の適正なる是正を考慮されたいとの要望がありました。
又鳥取の
農業団体代表者より、鳥取県は農林統計で反当収入が中国五県のうち毎年一位乃至二位に見られておるので、供出割当が苛酷であるのみならず、所得査定額も過高と
なつているとの陳情がありました。
併し又これは納税者側応も問題があるのでありまして、国家助成金をうんともらうというような
意味で、経済効果がこの補助金によ
つても相当経済効果が上がるということで、だんだん反当収入を上げて行くということがあ
つて、実情に反して、農林統計上反当収入が非常に上
つておるということに
なつておる、これは国税庁の問題ではなくて、農林省の基礎数字の問題であります。
以上簡単ではありますが、私の
報告を終りたいと存じます。