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徳川宗敬君
只今委員長の
お話になりましたように、先頃木内先生と視察に参りましたので、その御報告を申上げます。
去る一月の十五日に東京を出発、熊本、鹿児島、宮崎三県下の県議会
図書室と
図書館を視察して二十四日帰京いたしましたわけでございますので、その状況を概略御報告申上げます。視察いたしましたところは三県の議会
図書室と、熊本、鹿児島、宮崎の三県立
図書館、それから水俣市の淇水文庫、それから都城市の都城
図書館、それに熊本、鹿児島、宮崎各大学の附属
図書館でございます。
先ず議会
図書室から申上げますと、議会
図書室は三県の議会
図書室とも非常に小規模でありまして、その一年の
経費は僅かに二十万乃至三十万くらいであ
つて、
管理図害も多いところでも数千を出でず、少いところでは千にも満たないという状態で、
職員も又専任
職員一人いればいいほうで、一人もいないところもあ
つたのであります。議会
図書室が設置されて間もないとはいいながら、余りに貧弱なのに驚いたような次第であります。議会
図書室が地方自治法によ
つて議員の調査研究に資するために置かれるという立法の趣旨が理解されず、法律で置くことに
なつたから止むを得ず置くのだというような感じがしないでもなか
つたのであります。議会図妻室が設置されて間もない頃、
国立国会図書館から地方議会
図書館設置要領案というのが各県の議会
事務局に配付されたようでありますが、これは
相当大きい規模の議会
図書室のモデル・
プランであり、三県の議会
図書室の状態からすればその懸隔が甚だしく、単なる参考にしか過ぎなか
つたように思われます。
図書室の業務に従事している
職員は誠に気の毒なくらい懸命の
努力をしておるように思いましたが、何と言
つても専任
職員一人では如何に
努力しても月々入
つて来る
図書館資料の整理に追われて休む暇もなく、積極的に
資料を収集して議員の立法活動に役立つような参考
資料を時に応じて提出するというようなことは思いも及ばないような次第であります。で、折角地方議会の民主的立法活動のために議会
図書室設置の法律が制定されたのでありますから、その目的達成のために地方自治庁あたりでその育成に
努力すべきものとは思いますが、併しそれはそれといたしまして
国立国会図書館は
国立国会図書館法の
規定に従いまして地方議会及び
図書館人を援助する義務を課せられているのでありますから議会
図書室設置の趣旨に従
つたその育成とその目的達成のためにできるだけの援助をなすべきものと思います。地方議会のすべてがそうであるかどうかはわかりませんが、少くとも昨年来私も方々見ましたが、この議会
図書室の所属する議会は余りにも議会
図書室のあり方について無関心であり、認識が欠けているように思われるので、何らかの方法でその関心を高め、その認識を深めるように援助すべきものと
考えます。
図書館の
職員を指導することも必要とは思いますが、地位の低い一、二の
職員では、
発言権もなく、その
職員を通じて議会の認識を深めるというようなことは望めないことと思います。あらゆる方法で地方議会を援助するという
国立国会図書館法の趣旨に
従つて直接議会に
働きか分て個々の議員と
事務局の認識を深め、議会のために真に役立つ
図書室を作り上げるように仕向けてやらなければならないと思
つた次第であります。その援助の方法としては、例えば国立国合
図書館が中心と
なつて全国の都道府県議会
図書室協議会とい
つたようなものを作
つて議会
図書室のあり方について研究させるとか、遠い将来の理想案でなく少し
努力すれば
実行可能なモデル・
プランを作成して配付するとか、
国立国会図書館の調査立法考査局の考査状況を知らせるとか、又その調査参考
資料を配付してやるとかそういう方法も
考えられるのではないかと思います。
次に大学附属
図書館について申上げます。視察いたしました大学附属
図書館は、いずれも新制国立大学の附属
図書館でありますので、規模はそう大きいとは申せませんが、併し幾つかの旧高等学校
程度の学校が一緒に
なつて総合大学を構成しておりますので、統一された
図書館を持
つているところはかなり大きな規模であります。熊本大学などは統一
図書館を持ち、
経費年額八百万、
図書数も二十万を超え、専任
図書館員も二十数人という
相当完備されたものであります。元来別々の学校であ
つたものが各一学部を成しておりますので、学部々々で持
つていた
図書室を合せて統一的な
図書館を形
作つたものでありますが、宮崎大学などではまだ各学部が独自の
図書室を持ち、統一
図書館ができておらず、鹿児島大学では統一
図書館を作りつつある状態であります。大学附属
図書館は大学の
職員と学生の研究機関でありまして、大学を構成する学部の性格に応じた専門
図書館であります
関係上、
図書館資料の充実については特に
努力を払
つているようであります。これらの大学附属
図書館は、文部省直轄大学の必要欠くべからざる機関でありますので、
国立国会図書館の援助を必要とするようなことは少いと思いますが、併し
国立国会図書館で刊行する各種の出版物の価値を高く評価して、是非できるだけ多くの出版物を分けて欲しいという要望がありました。
国立国会図書館ではどんな
資料が出版されているか、そのうちどれが販売されているかというようなことを知らないところもあるようでありますから、
国立国会図書館で販売しているものと、ないものとの区別を出版物の一覧表でも作
つて配付されたらよかろうかとも
考えたのであります。又大学によ
つては、新らしい分類方法に
従つて図書の基本カードを作成しているところもあるようでありまして、
国立国会図書館で作成されつつある総合目録の
資料として、何か他の出版物と交換するというようなことも
考えられますので、やはり大学附属
図書館に対しても援助するとか、又は相互に協力し合うとかいうことが是非必要であると思われました。次に公立
図書館について申上げますと、視察いたしました三つの県立
図書館のうち、鹿児島
図書館と宮崎
図書館とは
施設もかなり完備された立派な
図書館でありましたが、熊本
図書館は戦災に会い、
建物、
資料とも焼失したため、県立としては
資料の少い仮住いの
図書館である上に、
経費も県の
財政難で、鹿児島、宮崎両
図書館の
経費は年額一千万を超えているに反し、ここは四百数十万で、他の半分にも達しないというかなり気の毒な状態であります。県
当局も
図書館本
建築の必要は
認めているが、そこまで手が届かない実情のようであります。若し
図書館本
建築のために起債を
認めてもらえるならば、すぐにも建てたいということでありました。この起債の枠を拡げるという点は一応考慮に値いするものと
考えられた次第であります。鹿児島
図書館と宮崎
図書館は
相当組織立
つた図書館でありまして、県の中央
図書館としてよくその機能を果しているように見受けられました。鹿児島
図書館では、文化
施設の恩恵に浴し得ない農山漁村の住民に
図書館奉仕を提供するということで、地方における中央
図書館としては最も重要な機能である
図書の貸出が行届いており、辺陬の地方や島々にまで貸出文庫出張所を設けて読書の普及に努めておるのを見て参りました。又宮崎
図書館は全国においても有数の
施設を完備した
図書館とのことでありまして、
建物の新らしいという
関係もありますが、閲覧者本位の
奉仕観念が
施設の上に現われて、中に入
つた気分が非常にいいというふうに感じました。例えば壁に立派な芸術的価値のある絵画を掲げるとか、又閲覧机のところどころに盆栽を配置するなど、読書欲をそそるような明るい清浄な雰囲気をかもし出していることが特に目立
つたのであります。
次に視察いたしました
二つの市立
図書館は、いわば末端の
図書館でありまして主として市の、つまり市民に
図書館奉仕を提供する小規模の
図書館でありました。併しよく郷土
資料が収集され、又
一般の
図書館奉仕のはか、市内の学校
図書館を指導援助しているとのことであります。洪水文庫は徳富蘇峰氏の
寄附によ
つて創立され、都城
図書館は県から移管されたものであるとのことであります。公共
図書館を通じて感じましたことは、従来の
図書を並べて置いて見せるという閲覧
図書館の殻を破
つて、人々が知ろうとし、又研究しようとする事項について、これに関する
資料なり文献なりの名称所在等を調べて教えてやるとか、或いは
要求する事項そのものを調査してやるというような参考調査
図書館としての機能を発揮する新しい方法に向かいつつあるということでありまして、これによ
つて漸く
図書館というものは、実社会のため必要欠くべからざるものであるという国民大衆の認識を新たにしつつあるというふうに見受けて参りました。又
図書館資料の整理方法について、議会
図書室も
図書館も、全部
国立国会図書館の採用している
日本十進分類法
日本日録規則を採用いたし、統一された新らしい方式で整理を行
なつております。やがて
国立国会図書館で発行している印刷カードを全面的に購入するとか、相互に
図書館資料を貸出す態勢を整えるとか、いろいろな面に利益もあることと思いますが、とにかく最もすぐれた整理方法として、
国立国会図書館の整理方法に統一されるということは誠に喜ばしいことと存じます。
図書館視察中、
国立国会図書館に対するいろいろな要望を受けました。新刊
図書の解題を出して欲しいとか、ゼミナールをして欲しいとか、出版物を分けて欲しいとかいうことでありますが、特に印刷カードの一枚売りを実施して欲しいという要望は大
部分の
図書館から受けた
要求であります。印刷カードの一枚売りの実施によ
つて各
図書館の受ける実益はかなり大きなもののように
考えられますので、
国立国会図書館において、是非
実行されるよう
努力して頂きたいと存じます。なお今後
国立国会図書館は常に地方の中心となるべき
図書館と連繋をとられ、
資料の面において、又レフアレンスの面において援助を与えられ、又相互に協力されるよう
希望を附しまして私の報告を終りたいと存じます。