○今井
参考人 最初に一言お耳に入れておいた方がよかろうと
考えます点は、
仲裁委員会の仲裁に対する
立場でございます。一部新聞雑誌等で、われわれも御
意見を拝聴しておるのでありますが、要するに労使問題というものは、すべて自主的解決が原則でございまして、これに対しまして、権力的に当事者の意思にかかわらないで押しつけるという形は、最も避けなければならぬ点であることは申し上げるまでもございません。しかしながら、公労法でございまして、やむを得ずこれを両当事者の意思にかかわらず拘束いたしますものが
仲裁裁定でございます。従いまして、われわれの
立場は、あくまで
一つの
企業体におきましての労使の紛争を解決するという見地が、その主体とな
つております。すなわち、
一般の
賃金委員会で、
賃金はかくあるべきだ、こうい
つたような
立場から議論をいたす
考え方はと
つておりません。従いまして、労使の
意見が妥決しました部分、一致しました部分につきましては、われわれは何らの
意見示さない。ただ、両者の
意見が食い違
つた場合に、その食い違
つた点を何とかいたしまして調整する。むろん調整の
立場は、
一般の良識なり、あるいは輿論なりというものを中心にしてものを
考えて行くつもりでありますし、また極力公平なる第三者の
立場に立ちまして、
独立独歩で判断をして参ります。あくまで労使の
意見を、合せるように努力して行くということが、基本的な
考え方でございます。
裁定の中にも書いておいたのでありますが、そうい
つた見地で
考えますと、少くとも
一つの
国鉄という
企業体におきましての
賃金問題でございまして、従いまして、現在わが国の各産業、各
企業において見られますように、時と場合によりましては、
賃金が割高になる場合もありますれば、割安になる場合もございます。これは現在の経済機構におきまして、
企業というものが責任をと
つて運営をいたします以上は、これは避けられない現象であると思います。昨年あたりも、ある産業では年末に十万円ももら
つたという話がありましたが、そうい
つたことも、決して非難するには当らない場合があろうと思うのであります。しかしながら、これが
一般の民間の産業でなく、
公共企業体という特殊性に立ちます以上は、やはりそこに民間の
企業体と違
つた制約を受けるであろう。すなわち、かりに
国鉄が非常な
支払い能力が出、経理に余裕ができたといたしましても、おのずからなるそこには頭の出る上の方の限度がある。その限度が幾らであるかということは、きわめてむずかしい問題でありましようが、これは私はあり得ると思います。同時に、反対に下の方の限度もあり得る。上の方の限度はあるが、下はすべて押えるということでは、バランスはとれますまい。従いましてその点をどの程度に時と場合によ
つて、
企業の能力に応じまして、
組合員の諸君にがまんしてもらうか、あるいはこれより上は、あるいは下はどこで切るか、こうい
つた点が、われわれといたしまして一番苦慮いたします点でございます。算出額につきましては、比較的に簡単な方法をと
つたのでございますが
——第一次
裁定以来、これで四回目に相なりますが、最初から、
国鉄につきましては、
企業の経理能力に非常な圧迫を受けております
関係から、従来の
裁定にはつきり示されておりますように、やむを得ず割安的な
賃金をきめて参
つたことは、今までの
裁定の理由書にもはつきりうた
つてあるところでありまして、それがそのまま延長された形で、今回の
裁定と相な
つております。しかし、われわれといたしましては、これが
公共企業体の性質を考慮いたしましても、おそらく最低線であるとい
つた角度におきまして出したものでありますことは、この
裁定の理由書にも、相当に述べてあるつもりでございます。問題は、
国鉄の経理能力がいかにも乏しい。事実当初の
予算では、ほとんど大部分の点におきましてこの金が出せないという点で、われわれも
国鉄の経理能力というものを、ある程度ひつくり返したのでありますが、しかし、ここで見落してならぬことは、この
裁定にもございますように、わが国の
国鉄の輸送量は、戦前に比べまして非常にふえておる。少くとも旅客においては三倍以上、貨物も二倍近くふえております。
国鉄の職員の数が非常に多いということが叫ばれておるのであります。確かに戦前に比べまして人数は相当大きくふえておりますけれども、そうい
つた仕事の量を
考えますと、またもう
一つは、
国鉄の
作業そのものが、機械力にたよれない、こうい
つた人力本位の、すなわち
一般製造工業におきまして
労働生産性が上るという
考え方と同じようなそろばんが持てない、こうい
つたような特殊性をしんしやくいたしますと、さらにただいまも
お話が出たようでありますが、その後におきましての基準法
関係、その他のいろいろな
人員増を考慮いたしますと、とにかく
生産性として戦前に比べておおむね見劣りはしない線にはバツクしておる。そうい
つた点並びに
労働時間におきましても、
一般の
公務員よりも、おおむね一割近く長い負担をしておる。さらに日夜をわかたず約四、五万の人間は、
国鉄という
作業の性質上、一分間も汽車をとめるわけに参りませんので、常に夜中に起きて働かなければならぬという形にな
つておる。また
作業の性質上、毎日平均一人ずつの
犠牲者を出す。また年末年始におきましても、全然休暇が与えられない。そうい
つたようないろいろな要素もあるのであります。またさらに
昭和二十四年以来の約三割の減員、その減員が個人々々にとりましても、相当
労働量を
増加させておりますけれども、その面にはわれわれはおおむね触れませんでした。触れるだけの経理能力の余裕がない意味におきまして、その点はがまんしてもらうという建前で、この
賃金は出したものでございます。
しかし、
国鉄の経理の悪い原因は、大部分は
物件費の
関係でありまして、
物件費がおよそ七百倍にな
つておるのに対して
人件費は三百倍程度にしかな
つておらない。特に戦争によりましての非常な酷使、復旧、復興の遅延からいたしまして、実質的に
考えますと、収入の約半分はそうい
つた面に充てられまして、結局わずかに半分で実際の直接の運転をしなければならないような形にな
つておる。これは一に
賃金を国策的な見地によりまして抑えた結果であります。もちろんこの
国鉄の運賃のような、わが国の産業に非常に重要な影響を及ぼすものに対しまして、これを非常に低く押えることは必要なことであろうと
考えますが、しかし国策的な意味におきまして、そうい
つたような押え方をいたしますと、何らかの形でやはり
国民がこれを見てやるという形がなければならないであろう。これは少し脱線になるかもしれませんが、たとえば自動車の運送でありますれば、それを使いまする路盤というものは、原則として自動車の乗客の負担にならぬ。また船の交通でありますれば、水路の標式からあるいは波止場というものまで、一切別の資金によ
つてまかなわれます。ところが
国鉄だけは、かりに災害がありましても、たとえば昨年でありましたか、軽井沢の近所の熊ノ平の
犠牲のような事故がございましても、かりにあの山くずれが山林の治水の間違いで起
つたものといたしましても、その
犠牲は全部
国鉄の経理でカバーする、こうい
つた仕組みにな
つております。また
国鉄が私鉄のようにいろいろ営利事業を兼常いたしまして、それによりまして利益を生む、こうい
つたことも原則的に許されておりません。また東海道線等の非常にもうかる
鉄道だけを経営するならば、もちろん経理はきわめて余裕がございましようが、特別な
国家の使命を帯びております以上、不採算の線につきましても、それ相当の
仕事をしなければならぬ。一方運賃は、戦前に比べまして、今までのあらゆる物価の中では、おそらく一番低いのではないか。今回の値上げ案が出ますまでは、旅客においては百九倍、貨物においては百五十倍、こうい
つた線をと
つておりますことは、他の料金あるいは物価に比べまして、非常に低いことは事実であります。たとえば、定期の料金等につきましても、そうい
つた国策的な非常な割引率の増大が戦後において行われておるのであります。その結果、同じく
国鉄事業の運尚をその使命とする
組合員の諸君にも、もちろんできるだけのがんばりなり、さらに今後の努力なりを要請する必要はございましようが、それにいたしましても、おのずからなる限度というものがあろうという
考え方におきまして、われわれといたしましては、相当議論を重ねた結果、こうい
つた結論と相な
つた次第であります。ただ、われわれの
立場は、
国鉄の経理は、一応は分析いたしましたけれども、しからばいかにしてこの点をカバーすべきかという問題につきましては、別に結論を持
つておるわけではございません。それは、たとえば値上げの方法も
一つの方法でございましようし、また
一般会計が直接見てやるということも
一つの方法でございましようが、特にまた現在の酷使による施設を復旧復興いたしますための投資は、その利益は大部分が後年の乗客利用者に均霑するのでありますから、これを現在の利用者に持たせることは非常に疑問がありはしないか。その意味におきまして、
国鉄の施設の復旧復興を急ぐことが国としてきわめて重要でありますならば、この面において資金的な援助は、他の民間
企業との権衡からも、相当
考えられてよろしい点ではなかろうかというふうな点を痛感いたしたものであります。
時間も参
つたようでありますから、御審議の上に何らかの御参考になろうかと思う点だけを、かいつまんで申し上げた次第であります。