○
田中参考人 炭労の
田中であります。時間の関係もございますので、要点を申し上げまして後刻質疑でなお私
どもの
考えておりますことを明確にしたいと思います。
現状を認識していただくために、今までの炭鉱
賃金は大体どういう経過をたど
つて今日に至
つたかという概況を御説明申し上げて、御参考にしていただきたいと思うのであります。具体的な
数字を並べるのは避けますが、御
承知のように、昭和二十一年から二十三年に至る三年間の炭鉱
ベースは、地下産業という特殊な
状態が十分考慮されまして、官公労、あるいはまた一般の民間産業の給与に比べまして大体二割上まわ
つてお
つたのであります。これが二十四年に至りまして、ほぼ官公労
並びに一般産業並になりまして、今日昨年秋締結いたしました協定におきましては、大体逆に一般産業
並びに公務員に比較いたしまして、二割下まわ
つておるのであります。これが現在の炭鉱
ベースであります。その
数字をちよつと申し上げます。この
数字は
組合の
数字を使いますと、また
あとで早川さんの方から、それは
組合の一方的な
数字であるという
異議が出ましては、皆さんの
判断もしにくかろうと思いますので、相手方の連盟の資料そのままをここに参考として申し上げます。三月からずつと出ておりますが、今年八月における坑外夫の
ベースは、基準
ベースで実績収入が七千二百三十八円、それから
基準外賃金が三千七百二十四円、計一万九百六十二円という
ベースに相な
つております。この実績べースの基準にな
つております標準べースは、御存じかと思いますが、一日三百四十円の二十五がけ、公休を除く二十五日の八千五百円という
ベースによ
つて、これらの実績が出て参
つたわけであります。しかも、この八千五百円というべースは、他産業や官公労と違いまして、成人男子だけの
ベースであります。つまり婦人とかあるいはまた十八才未満の労務者の
賃金は、別途
協議の形で、これよりさらに低い標準で協定されております。このことは、もちろん炭鉱産業という特殊な
状態によりまして、婦人や年少労務者を坑内の作業に従事させることはできないという特殊の
状態もありますけれ
ども、これらがこの基準
ベースの適用範囲には入
つておらぬ。
従つて一般産業並にこれを基準
ベースで
判断いたしますと、八千五百円の基準
ベースが七千五百円に相なるのであります。こういう現行の
状態で、一般の基幹産業
並びに公務員の現行
ベースと比べてみた場合に、炭鉱労務者の
賃金が今どういう
状態に置かれているかということは、この
数字できわめて簡明に御
判断願えると思います。
従つてわれわれとしては、従来も
主張して参
つたことでありますけれ
ども、要するに、炭鉱という特殊な悪い作業環境の中で働く
労働者が一般並にもらえないというのはおかしいじやないか、そういう
考え方もありますし、同時にまた、他産業の
労働者も、はたしてそれでも
つてほんとうに次の
労働力を維持でき、また家庭的に見ても、ある
程度の文化水準を保
つた賃金ベースであるかどうかという点にも疑義を感じ、これらのいろいろ書点の欠陥を総合的に
判断いたしまして、今回の
賃金ベースの要求と相
なつたわけであります。
そこで、私
ども交渉の
過程は、冒頭に中山会長からも若干お話があ
つたように承
つておりますので、詳細に申し上げることは避けますが、とにかく八月の中ごろから
交渉を始めまして、十月十日に至るまで十数回の
交渉、あるいは小
委員会その他の形で進めて参
つたわけでありますが、結果的に出て参りましたのは、名目的な
賃金は現状
通り払うが、その裏づけになりております標準作業量
——これは一〇〇%上昇した分の八〇%を、さらにこの
賃金の表づけにな
つております標準作業量につけ加えてくれ、こういう連盟の
意見か表明されたわけであります。そうしますと、その一〇〇%上昇した分の八〇%というものを
金額的に逆算いたしますと、大体一六%から二〇%の現行
賃金の引下げという形に実質的にはなるのであります。これらの
状態もありますが、要するに連盟の
考え方の本質を流れておるものは、この際一気に
労働者のみの犠牲による炭鉱の
合理化というものを強行しようとしたところに、根本的な意図があるわけであります。しかし、この問題はさておいて、結果的に
労働組合がこれに対して了解できるかどうかということにつきましては、われわれはとうていこれに対して了解することはできない。そういうことで、私
どもは十三日、十四日の四十八時間の警告
ストライキを経て、十七日から今日に至る四十九日間連続の無期限
ストライキを続行しておるわけでありますが、結果的には、われわれただわれわれの求めておる
賃金水準の目標をとるということにあるわけでありますけれ
ども、資金が豊富にありましていろいろな独占資本とつながりりある大口産業は、これらの
事態を予知いたしまして、十分
石炭の確保ができた、買おうと
思つても買うことのできない中小企業や一般の消費者の皆ん方に対して、現在非常に大きな打撃を与えておるという結果に相な
つております。先月半ばの
調査によりましても、あるいはけさの朝日
新聞の
調査によ
つても、すでに発生炉炭その他の大口需要者の
石炭でさえ相当値上りを示しており、かつまた一般は、今までより千円よけい出しても
石炭が買えなという
状態にな
つております。このことは、先ほど申しましたように、もちろん
組合の本旨とするところではありま
せんけれ
ども、結果的に最もわれわれの立場に近い中小企業や一般の
国民の皆さんに対し、非常に大きな
影響を与えることに相
なつたことにつきましては、当事者といたしまして、非常に遺憾に
思つておる次第であります。
そこで、この要求を出します場合に、われわれは盛んに最近論議されておりますマーケツト・バスケツト方式を採用いたしたわけでありますが、このマーケツト・バスケツトが正しいか正しくないかという論議は、これは決して抽象論では当てはまらない。と申しますことは、マーケツト・バスケツトを
組合が本質的に取上げなければならなか
つたこと自体は、間接的に言うならば、従来の総理府統計局でや
つておりまするCPS、CPIそのものに信頼が置けなく
なつたということに相なるのであります。このCPSの
内容についても問題がありますけれ
ども、そのCPSの本質的な要素は、今までの
賃金を何ぼもら
つて、それをどういうふうに何ぼ使
つたかというデータを表わしたものにすぎま
せん。
経営者が自分の企業をあらゆる面で改善して、できるだけ利潤を上げようとするのと同じく、
労働者自身もまた、われわれの
生活を常によくしようと思うのは当然であります。
従つて、われわれの求める統計というものは、常に漸進的なものであり、しかも欲求が含まれておるものでなければならぬ。今まで、晩のおかずに魚が半きれであ
つたから、いつでも半きれでいいということはない。やはり子供にはよけい食べさせたいし、自分自身も体力を十分つちかうために、今まで半きれ食べていたものを三分の一きれにするとか、あるいは一尾にするとかいう欲求は、生きている者として当然持
つている希望であり、人間の本能であります。
従つて、従来とられておりましたCPSの総理府統計局の資料をわれわれが参考にしてお
つたことは、これにはこの欲求というものは加味されていない。しかし戦後ようやく解放と同時に認められた
労働組合自体には、これに対抗し得る
調査機関というものが何らなか
つた。われわれもまた、一体どんな方法で自分の
賃金の要求の
基礎になるべき
数字を求めるかという
判断ができなか
つた。われわれは長い期間を通じて、組織網、
調査網を一応確立することができる段階に今日な
つておるのではないか、こういうことで、われわれはあらゆる角度から自分の持ついろいろな機能を動員いたしまして、現状においてわれわれ
労働者が、それぞれの企業において、一日のカロリーはどれだけのものがなければならぬか、そのカロリーをとるためには、どういう品目をどれだけ食べなければならぬかということを、具体的に
数字に表わしたのがこのマーケツト・バスケツト方式でありまして、マーケツト・バスケツト方式というものは、頭の上にあるものではない。炭鉱
労働者は一日に魚が一きれいり、おしんこが半分いる、飯が何ぼいるという
数字を目具体的に積み重ねたのがマーケツト・バスケツト方式であるから、もし
経営人あるいは
第三者が批判するならば、具体的
内容に入
つて米の一合が多いとか、あるいは魚一尾が多いとかいう論議をして結論を出さないことには、このマーケツト・バスケツト方式そのものが間
違つているということには全然相ならぬのであります。これは、
言葉をかえて申しますならば、お前はカール・マルクスの共産主義の本を読んだから共産主義者だと言うのと同じであります。こういう抽象論は、その本質を
解決するには何ら役に立たないのであります。私はそういうふうに
判断しているわけであります。そういう観点から、従来総理府統計局がつく
つておりますCPSは、つまり過去を表わしたもので、今まで、たとえば私、
田中という人間が先月は一万円の給料をもら
つた、その金から魚を何ぼ買
つた、米を何ぼというふうに表わしたデータというものは、一応の参考にはなりますが、人聞欲求がある限り、いつまでもそれでいいということはないい。結局われわれの持つ資料で、われわれは一日こういうものがいるのだという
数字をあげたのがマーケツト・バスケツト方式である。
労働省の相当の地位にある人が、最近国会において政治闘争であると、非常に無責任なことを言うているのを聞いておりますが、これは日経連の言うことをそのまま請売りしているのでありまして、
労働省というサービス機関の地位にある者の言として、私
どもはまことに遺憾であるというふうに
考えておるのであります。そういう観点から、われわれはこのマーケツト・バスケツト方式というものを採用したのであります。
従つて、マーケツト・バスケツト方式によ
つて起きて来る
数字というものは、これは絶対的なものではない。各産業において、それは異
なつた形で出るでありましよう。なぜ出るかというと、
石炭産業に働いている者は、当然その仕事の
状態からい
つて、ほかの産業の
労働者よりも肉をよけい食べなければならぬとか、あるいは三番方を終
つて家内が夜おそくまで起きている関係上、どうしてもそれに要するカロリーとして何が何ぼいる。そういう仕事の
状態に応じて求める嗜好物が
違つて来るから、当然このフアクターが
違つて来るのは間違いありま
せん。そのフアクターの開きが大きいとか小さいとかいう問題については、各
組合の
調査機関の能力の問題その他がありまして、若干の相違はあろうと思いますが、本質的には、私
どもはそういうふうに理解をいたしております。
そこで、私
どもは今日まで五十日に近い
ストライキをや
つて参りましたが、この特異性は、何ぼ
賃金が上
つてそれをさらに何パーセント上げてくれという闘争でなくして、現在の
賃金の一六%を切り下げようとするものに対して抵抗して闘
つて来たのが、今日までの
ストライキであります。それがようやく二十八日に至りまして、
賃金は一応現行
通りにやろうじやないかということで振出しにもど
つたのであります。しかしどこの産業を見ましても、あるいは公務員を見ましても、現在の
賃金ベースそのままでよろしいということで、労使ともに納得しているところはないのであります。この点を見ましても、いかに
石炭企業の
経営者というものが反動的であり、しかも飽くなき利潤追求の前には、自分の使
つている
労働者に対して、いかほどの愛情を持
つておるかということを、結論的には明らかに示しているものにほかならないと
判断するものであります。
従つてこれは当然
組合の納得するところではない。そういう観点から今日まで闘
つて参
つたわけであります。
要するに能率の問題にいたしましても、
経営者は、機械化によ
つて非常に能率が上
つている、
従つて石炭の増産は
労働者の努力ではないのだどいうことを言
つておりますが、しかし皆さんがもし必要でありますれば
調査団等を編成して現地をごらんになればよくおわかりのことと思いますが、日本の炭鉱の機械化が一体どれほど進んでいるか。たまたま最近巷間問題にいたしましてもカッペ採炭の問題にいたしましても、これはただ単にアメリカのあの身長が六尺もあり、体重が二十貫近いそういう人たちが使う標準のカッペを持
つて来て、それをそのまま日本の
石炭産業の坑内に当てはめている。ところが、五尺何寸、十五貫あるかなしの日本人の体質をも
つてしては、容易に使いきれない。そういうことでこれによる被害者というものは、非常に莫大な
数字をも
つて災害率の上昇をたど
つているのであります。これは最近三井鉱山が招いて
調査をいたしましたドイツの炭鉱技術者も、その点を明確に指摘しておるのであります。その
程度が見るべき
程度でありまして、一体そのほかの機械がどれだけ入
つているか。これは皆さんが現に見られれば、私が今申しましたことを十分御納得いただけることであろうと思いますが、ほとんど見るべきものがありま
せん。ただ最近に至りましてようやくアメリカあるいはイギリス、西独、イタリアの模倣をいたしまして、現在の大部分の斜坑を竪坑に切りかえております。これは十年後には日本の炭鉱の機械化ということについて相当役に立つと思いますが、現在ま
つたく特定の大きな資本の一部で試みに採用されておる
一つの現象にすぎない。そういうことで、これは全般的な問題あるいは大多数の問題とは決してな
つておらない。こういうことからい
つて、私
どもはただ単に機械化によ
つて能率が上
つたんだろうという連盟の
主張については、納得ができないのであります。
特に
石炭産業という立場で申し上げたいことは、先ほど申しましたように、基準
ベースが、現在実質
賃金——今までもら
つております
賃金が七千二百八十三円、
基準外賃金が三千七百二十四円、これを合せて一万円ということに総額は相な
つておりますが、この三千七百二十四円という
金額をとるために、毎日
全国平均一時間四十二分の残業をや
つておる。そうしますと、基本的に
労働法では八時間
労働というものが保障されておりながら、炭鉱
労働者は九時間四十二分働かなければ一万円の金がとれないということであります。坑内夫にいたしましても、一番重
労働者である採炭夫の一日
平均残業時間が一時間五十分であります。そうして初めて現在の採炭夫の
賃金というものが維持されておる。こういう形を
考えますと、この炭鉱
ベースの現在の水準というものがいかに低いかということを、私
どもは十分皆様に納得していただけると思うわけであります。さらには地下産業という特殊な
状態から申しまして、災害率の点におきましても、またこれはあらゆる産業に比べて大であります。御
承知のように、年間を通じて二万人の人間が死んだり傷ついたりして行
つておるのであります。私が今こうしてしやべ
つているうちでも、とにかく全国で毎日二人は死んでしま
つておる。月
平均六十人は必ず仕事で倒れて行
つておる。もちろんその家族はその日から路頭に迷
つておる、こういう
状態は私はおそらく他の産業には見られないと思う。月六十人の死者を出し、その何倍に値する負傷者を出しておる産業というものは、日本にはない。こういう悪
条件下にある炭鉱、さらには地下産業という特殊な
状態から、いわゆる
労働年限が
——御
承知のように、一般の
労働者の
労働年限というものは、大体概念的に三十年と言われておりますが、炭鉱の場合には、地下で働くという特殊な形から、珪肺病などという職業病もあり、さらにまたそれによ
つて非常に身体に障害を受ける率も多く、衰弱の度合いも年齢よりも早いのでありまして、通常炭鉱の
労働年限はよくて二十年というふうに言われております。これもまた炭鉱の
状態としては、他の産業に比べまして、将来の問題を
考えた場合には、
一つの非常に大きな要素として
考えなければならぬ。こういう悪
条件下にある炭鉱が、先ほど説明しましたような形に置かれておる。これを打開しようとする私
どもの今の闘いが、政治関争であるとか、むちやな闘争で為るとかいうふうには、
組合側としては絶対に
考えておりま
せん。
従つて、昨日も連盟に通告いたしましたが、もちろん先ほど申しましたように、マーケツト・バスケツト方式による要求でありますから、当然その
内容において魚の一尾は多過ぎるから半分は削るとか、おしんこの二きれが多いから一きれにしようという話合いを持たれるでしようが、その
理由がわれわれに納得できれば、その点はあくまでもマーケツト・バスケツトによ
つてこの
争議というものをかちとらなければ
ストライキをやめないのだということには、相ならぬだろうと思います。
従つて私
どもとして、現段階においては、一応連盟がこの
考え方を捨てる、つまり日本の現在概念的にな
つておる
ベース・アツプの
数字を一応示すという前提がなければ、
交渉に応ずることはとうていできない。すでに皆さんも御
承知のように、来年一月から汽車賃が上る、米代も上る、それにつれて必然にあらゆる物価が上
つて行きましよう。
従つて、もしわれわれが現下の苦しい
状態で連盟の言うことを
承知したならば、それはさらに現在の
賃金は実際的に切下げになるという逆な現象が出て参りますので、この点はとうてい
組合側の納得するところとなりま
せんし、皆さんもこの点については十分御理解が行けると思います。
以上、概括的に申し上げましたが、そういうことで私
どもは闘
つております。とにもかくにも、本来
争議というものは、自主的な
解決によ
つて解決すべきが本質であり、しかもわれわれは、その中で十分対外的に与える
影響というものも考慮しなければならぬのでありますが、そのことについては私
どもといたしましても十分な配慮を加えて来たつもりですが、結果的には連盟の非常な傲慢不遜な態度によ
つて、今日までこの
争議が
解決するところとならず、最高機関である国会の本
委員会におきましても、皆さん方の御心痛を煩わすという結果に相なりましたことにつきましては、非常に遺憾に
思つております。今後におきましても、
組合といたしましても、もちろん
争議の
解決については、万全の努力を惜しまないつもりでありますが、各位におかれましても、現在の低い、非常に苦しい炭鉱の実態というものを十分御理解くださいまして、何分の御支持をお願いいたしたいと思う次第であります。