○
淺沼稻次郎君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題になりました改進党並びに両
社会党の
共同提案による
吉田内閣不信任案に対し
賛成の意を表明せんとするものであります。(
拍手)
吉田内閣は、
日本独立後初めて行われた総
選挙の
あとを受けて昨年十月召集され、現に開かれておる第十五
国会において
成立せる
内閣であります。その
内閣が、同じ
特別国会において
不信任案が
提出され、その間五箇月有余というのでありますから、いかに
吉田内閣が
独立日本の要望にこたえ得ず、その立
つている
基盤がいかに脆弱であるかということを示す証左であると思うのであります。(
拍手)以下、
不信任案に対する
賛成の
理由を述べて、各位の
賛同を求めんとするものであります。
第一には、第四次現
吉田内閣は、
独立後初めて
成立せる
内閣でありまするから、
独立後の
日本をどうするかという
抱負経綸が示され、
日本国民に
独立の
気魄を吹き込み、
民族として立ち上る気力を与えることがその務めであるにもかかわらず、
吉田内閣積年の宿弊は、
独立後の
日本の
政治を
混迷と彷徨の中に追い込んでおるのであります。(
拍手)
終戦六年にして
独立をかち得た
国民は、
占領下に失われた
国民としての自覚をとりもどし、
民主主義的な
民族として
再建に
努力せんとの熱意に燃えておるのであります。しかるに、
吉田内閣は、この
国民の熱情に何らこたうるところなく、いたずらに、
外交は
アメリカ追従と、内政は
反動と逆
コースをば驀進し、進歩的な
国民を絶望に追い込む
フアツシヨ反動の
政治を抬頭せしめ、一面、共産党に跳梁の間隙を与え、左右全体
主義への道を開き、
祖国と
民主主義を危機に直面せしめておるのであります。(
拍手)
民族の生気をとりもどし、
国民を奮起せしめるためには、まず
吉田内閣の打倒から始めなければなりません。(
拍手)これ、わが
不信任案賛成の第一の
理由であります。
第二には、
日本の完全
独立と平和確保のためにその退陣を要求するものであります。お互いの愛する
祖国日本は、昨年四月二十八日、
独立国家として国際場裡に再出発をしたのであります。現実に
独立をした
日本の姿を見れば、日米安全保障
条約並びに行政協定に基いて、
日本の安全はアメリカの軍隊によ
つて保障され、アメリカ軍人、軍属並びにこれらの家族には、
日本の
裁判権は及びません。およそ一国が他国の軍隊によ
つてその安全が保障され、その期間が長きに及べば、
独立は隷属に転化することを知らなければならぬのであります。(
拍手)
日本に居住する者に対し
日本の
裁判権の及ばざることは、一種の治外法権であ
つて、完全なる
独立と言うわけには参りません。
加えて、領土問題についてこれを見るに、
日本が
発展途上に領有いたしました領土は、それぞれその国に返すことはやむを得ぬとするも、南樺太、千島の領土権を失い、歯舞、色丹島は、北海道の行政区にあるにもかかわらず、ソビエトの占拠するところとなり、奄美大島、沖縄諸島、小笠原、硫黄島等、これらのものは特別なる軍事
占領が継続され、百数十万の同胞は
日本の行政の外にあるのであります。まさに
民族の
悲劇と言わなければなりません。(
拍手)しかも、これらの同胞は、一日も早く
日本への復帰を望んでおるのであります。
従つて、
吉田内閣は、
日本の完全
独立のために、安全保障
条約並びに行政協定の根本的
改訂のため、最大の
努力をなさねばならぬにかかわらず、
吉田総理、岡崎外相は、その都度
外交と称し、
アメリカ追従を展開し、
日本国家の主体性を没却し、行政協定の
改訂期を前にして何らの動きを示さず、領土問題についても何ら解決への
努力を示さず、その買弁的性格をますます露骨に現わしておるのであります。(
拍手)特に、
日本独立後、国連軍を無協定のまま
日本に駐屯せしめておるその
外交の不手ぎわを、断固糾弾しなければならぬと思うのであります。(
拍手)
また、国際情勢を見れば、アイゼンハウアー将軍のアメリカ大統領就任、ダレス氏の国務長官就任、その巻きかえし
外交の進展、ソ連スターリン
首相の死、マレンコフ新
首相の就任と動く中にも、
世界は一種の引締
つて行く姿を見るのであります。
世界人類には、依然として平和か戦争かということが重大なる課題とな
つております。しかるに、対日
平和条約に対しては、まだ多くの未調印
国家、未批准
国家があり、特に一衣帯水のソ連並びに中共との間には戦争の状態が残
つておるのであります。かかる中にあ
つていかに
世界平和に寄与せんとするかということは、
日本外交の重大課題であります。これがためには、
日本は絶対に戦争に介入しないという大原則のもとに、自由アジアの解放と、自由アジアと西欧を結ぶ平和のかけ橋となることを
日本外交の基本的方針として、自主
独立の
外交を展開して参らなければなりません。(
拍手)このことは、
吉田内閣のごとく、その主体性を没却せる、
アメリカ追従外交政策によ
つては断じて打開ができないのであります。われわれが
不信任案に
賛成せんとする第二の
理由であります。(
拍手)
第三には、
吉田内閣は、
占領政策の行き過ぎ是正と称して、
わが国民主化に最も必要なる諸
制度を廃棄して、戦前及び戦時中の諸
制度に還元せんとして、
反動逆
コースの
政治を行わんとしております。われらは、この
反動逆
コースの
政治に断固
反対し、その退陣を迫らんとするものであります。およそ
占領政策の行き過ぎがあるとすれば、その
責任の大半は
吉田総理それ自体が負わなければならないのであります。しかも、行き過ぎと称するものは、おおむね進歩的
政策であ
つて、是正せんとする方向は
反動と逆
コースであります。(
拍手)われらが
占領政治の行き過ぎを是正せんとするものは、
国会軽視の傾向であり、行
政府独善の観念であり、ワン・マンの名によ
つて代表せられたる不合理と独裁の傾向であり、官僚
政治の積弊であります。(
拍手)
しかるに、
吉田内閣は、
警察法の
改正により戦前の
警察国家の再現を夢見、全
国民治安維持のための
警察をして一政党の
権力維持のための道具たらしめんとしております。(
拍手)また、義務教育学校職員法の制定によ
つて、義務教育費全額国庫負担という美名のもとに、教員を
国家公務員として、その
政治活動の自由を奪い、教職員組合の寸断、弱体化を期し、封建的教育専制を考慮しておるのであります。
労働争議のよ
つても
つて起る
原因を究明せず、最近の
労働争議が
吉田内閣の
政策貧困から来ていることを意識せず、ただ弾圧だけすれば事足りると考え、電産、石炭
産業の
労働者のストライキ権に制限を加えるごときは、
労働者の基本的人権を無視したものにして、逆
コースもはなはだしいものと言わなければなりません。(
拍手)また、農村においては、農地の
改革は事実上停止せられ、農業団体再編成の名のもとに官僚的農村支配を復活せんとしており、さらには、独占禁止法の
改正によ
つて財閥の復活を意図しておるのであります。今にしてこの
反動逆
コースを阻止せんとするにあらざれば、
日本は財閥独裁、
警察国家を再来いたしまして、
日本国民の民主的、平和的
国家建設の
努力は水泡に帰するということを知らなければならぬのであります。(
拍手)これ、われらが
不信任案に
賛成せんとする第三の
理由であります。
第四には、
吉田内閣の手によ
つては、
日本の
経済の自立と
国民生活の安定は期せられません。かかる見地から、
吉田内閣の退陣を要求するものであります。
民族の
独立の陰には、
経済の自立がなければなりません。
日本は、狭き領土において資源少く、その中に、
賠償を払いながら八千四百万の
人間が生きて行かなければならぬのであります。これがためには、自由党の自由放任の
資本主義経済によ
つては断じて私は打開されないと思うのであります。(
拍手)これには、われらの主張いたしまするところの計画
経済による以外に道はありません。現在、
わが国経済界の実情は、物資不足の時期は
通り過ぎて、物資過剰のときとな
つて、資本家、企業家は
生産制限をたくらんでおります。
政府は、独占禁止法の精神を無視して、その
生産制限の要求を容認しております。その結果は物価のつり上げとな
つて現われて来るのであります。この状態を打開するには、それは国内における購買力の増大が絶対に必要であります。これがためには、
勤労者の所得の増大をはかるとともに、一面においては貿易の
振興をはか
つて参らなければなりません。しかるに、
吉田内閣の
政策は、
労働者には低賃金、農民には低米価、
中小企業者には重税、貿易
政策においてはま
つたく計画性を持たず、特需、新特需に依存をしておるのであります。(
拍手)
吉田内閣の農業
政策を見るに、米は統制で押え、肥料は自由販売として、
日本の農民には高い肥料を売りつけ、安い米を買い上げ、外国には安い肥料を売
つて、高い米を輸入しておるのであります。(
拍手)一体だれのための農政だか、捕捉に苦しむものがあるのであります。(
拍手)農民の熾烈なる要求に、申訳的に肥料の値下げをやりましたが、農民の憤慨は高ま
つております。
吉田内閣打倒の声は農村に満ち満ちておると言
つて過言ではないと思うのであります。(
拍手)
労働者、農民、
中小企業者の
生活安定なくしては、
日本の
経済の
再建はありません。それは、
労働者を不逞のやからと呼び、貧乏な
日本には
労働争議はぜいたくと言い、
中小企業者は死んで行
つてもしかたがない、金持は米を食
つて貧乏人は麦を食え、とい
つたような性格の
吉田内閣によ
つては、とうてい望みがたきものと言わなければなりません。(
拍手)これ、われらが第四に
不信任案に
賛成する
理由であります。
第五点は、
吉田内閣の
憲法の精神の蹂躪、
国会軽視の事実を指摘して、その退陣を要求するものであります。
吉田内閣が、
警察予備隊を
保安隊に切りかえ、その装備を充実しつつあることは、
憲法九条の違反の疑い十分なることは、何人といえ
どもこれを認めるところであります。(
拍手)自衛力の漸増計画に名をか
つて、あえて
憲法の規定を無視し、事実上の再軍備をや
つておるのであります。一国の総理が、
憲法をか
つてに解釈し、その規定を無視するがごとき行動は、まさに専制
政治家の態度と言
つて断じて過言ではないのであります。(
拍手)また、
吉田内閣は、これのみにとどまらず、
警察法の
改正によ
つて、地方団体の財産を一片の法令によ
つて収奪し、あえて
憲法違反を犯さんとしておるのであります。また、スト制限法の制定によ
つて、
憲法によ
つて保障された基本的人権を蹂躪せんとしておるのであります。
憲法は
国家活動の源泉であり、その
基準であります。また、
憲法第九十九条には、「天皇又は摂政及び国務大臣、
国会議員、裁判官その他の公務員は、この
憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と規定しておるのであります。
吉田総理もその義務を負うことは当然でなければならぬと私は思うのであります。(
拍手)しかるに、
吉田内閣は、
憲法を軽視し、蹂躪し、ときには無視するがごとき行動をあえてとるのであります。まさに
日本民主主義の敵であると言
つて過言ではないと思うのであります。(
拍手)民主
日本に対する
反逆者と言
つて、あえて私は過言ではないと存ずるのであります。(
拍手)
吉田総理の
国会無視の傾向は、第一次、第二次、第三次、第四次
内閣と、数え来れば枚挙にいとまがございません。本
国会においても、
国会無視の発言をなしてこれを取消し、本
会議、委員会にはほとんど出席せず、
国民の代表とともに国政を論ずるという熱意を欠き、ワン・マン行政部独裁の態度を持
つておることは、いまさら言をまたないところであります。(
拍手)われわれは、か
つて凶刃に倒れた浜口元民政党総裁が、議会の要求に応じて病を押して出席し、遂に倒れて行
つた態度と対比してみまして、
吉田総理の、非民主的な封建的な行動は、民主的
日本の総理として、その資格を欠くものと断じ、(
拍手)われらが
憲法を守り、総理の
国会軽視を糾弾するのが、
不信任案賛成の第五の
理由であります。
第六点は、
道義の高揚、綱紀粛正の面から
吉田内閣を弾劾し、
不信任案に
賛成せんとするものであります。
吉田総理は、口を開けば、綱紀粛正と言い、
道義の高揚を叫び、本年二月の
施政方針の演説の中には、特に
道義の高揚を掲げておるのであります。しかも、
吉田内閣のもとでは、綱紀はそれほど紊乱しておらないと強弁されておるが、第十五
国会の決算委員会に現われた報告書によれば、昨年度官庁においてむだに使われた金が三十億五千八百万円と言われておる。この数字は、会計検査院の限られたる人手で調査されたものでありまするから、実際の数字はこの数倍に上ることと思います。
国民の血税が
かくのごとく使われておるのでありまするから、これ綱紀の頽廃にあらずして何ぞやと私は言いたいのであります。(
拍手)
吉田内閣のもとにおいては、あらゆる問題が利権の対象とな
つておるのであります。只見川問題といい、
四日市燃料廠問題といい、炭鉱住宅問題といい、
一つとして利権
とつながらざるものはございません。
週日、この壇上において、人格者をも
つて任ぜられておる閣僚の一人から、待合
政治の合理化、さらに妥当性の答弁を聞き、何ら反省の態度を見なか
つたことは、はなはだ遺憾と言わなければなりません。(
拍手)総理みずからは、予算委員会において、一国の総理として品位を落すがごとき暴言を口にし、議院並びに
国民を侮辱し、懲罰委員会に付せられておるのであります。およそ一国の総理大臣が懲罰委員会に付せられるということは、前代未聞、
世界に類例のないことであろうと思うのであります。(
拍手)かかる立場に立
つた総理でありまするならば、その
道義的
責任を感じて辞職するのが当然であると私は言わなければなりません。(
拍手)しかるに、多数を頼んで、懲罰委員会においてはその審議を引延ばし取消せば事は済むというがごとき印象を与えておるのであります。
政治家にと
つて最も必要なことは、発言であり、意見の発表であります。一度発言したことに対しては
責任をとるのが
政治家のとる態度でなければならぬと私は思
つておるのであります。(
拍手)最近、
吉田内閣の閣僚の中には、取消せば事が済むがごとく考えておる者が多々あることは、はなはだ
政治的
道義をわきまえざるものと言わなければなりません。(
拍手)さらに、
選挙違反の疑い濃厚な者が一国の外務大臣となり、一国の総理大臣が懲罰委員会にかけられておるという現実を見て、これが
日本の
独立後の姿かと思い、諸外国が一体いかに考えるかということになりまするならば、
国民の一人として冷水三斗という思いがするのであります。(
拍手)
道義の高揚は理論ではありません。りくつではありません。これは実践であります。百千万の
道義のりくつよりも、総理みずから
道義的
責任を感じて退陣されることが
道義高揚の最上の方法であると言わなければなりません。(
拍手)これ、われらが退陣を迫り、
不信任案に
賛成する第六の
理由であります。
第七には、自由党の
内紛の結果は、すでに自由党が多数党たる資格を失い、
政局担当の能力を失
つておる点を指摘しなければなりません。(
拍手)この事実から、われわれは
吉田内閣に退陣を迫らんとするものであります。
吉田総理は、現在政界の不安定の
原因が自由党の内部
矛盾の上にあるということを知らなければなりません。さきに組閣に際してその内情を暴露した自由党は、さらに池田通産大臣の不信任にあ
つて党内不一致を露呈し、また多数党たる自己政党の総裁を懲罰委員会に付するがごとき、また
不信任案上程を前にして本日の内部
混乱のごとき姿は、その政党としての機能を失
つたものと言わなければなりません。(
拍手)すなわち、政界不安定の
原因が——自由党の
内紛とその
責任の全部が、総裁たる
吉田首相の統率力の欠如と言わなければなりません。(
拍手)自由党幹部の中には、自由党は、民同派、廣川派なきものとして、少数党
内閣として事に当らなければならないと言明をしております。二つの党首を持ち、二つの異な
つている政党が、現実に自由党の姿であると言わなければなりません。(
拍手、「
社会党はどうした」と呼ぶ者あり)多数党たる資格はなくな
つて、
政権担当の任務は終
つたのであります。もはや、多数党としての権利を主張し、その
責任をとらんとしても不可能であります。自由党が多数党としての資格を失
つている以上、
内閣は退陣をすることが当然であると言わなければなりません。(
拍手)
最後に申し上げたいことは、
終戦後八年、
内閣のかわること八回、そのうち、
吉田茂氏が
内閣を組織すること四回であります。その期間五年六箇月に及んでおります。そうして、その任命せる大臣六十余名、延べ百三十五人といわれ、
吉田総理のワン・マンぶりは徹底して、すでに民心は
吉田内閣を去
つております。(
拍手)今こそ人心一新のときであります。
吉田内閣の退陣は
国民の要望するところであります。(
拍手)
吉田内閣の退陣が一日早ければ、それだけ
国家の
利益は増すということになるのであります。(
拍手)
吉田総理も、
政権に恋々とせず、しりぞくべきときにはしりぞくべきと思います。今まさにそのときであります。(
拍手)
政治家はそのときを誤
つてはなりません。(
拍手)しかるに、
吉田内閣並びにその側近派は、
解散をも
つて反対党を恫喝しております。われらまた、
解散もとより恐れるものではありません。しかし、自由党の
内紛によ
つてさきに
国会が
解散され、さらに半年を経ざる今日、同じ
理由をも
つて、総理指名の議決を受けた
特別国会を
解散するというがごときは、天下の公器たる
解散権を自己政党の
内紛鎮圧に利用せんとするものであり、(
拍手)われら、これを
北村君の言うがごとき一種のクーデターであると言
つても断じては過言でないのであります。(
拍手)さきに、
政府の
施政方針の質問演説の際、わが党の三宅正一君が、
解散すべきは
国会にあらずして自由党そのものであると喝破したのでありまするが、(
拍手)まさにその
通りであります。われらは、この際、こ
吉田内閣は総辞職し、自由党は出直すべきであると考えるのであります。ここに、
吉田内閣退陣を強く要求をいたします。
以上をもちまして、私の
吉田内閣不信任案に対する
賛成演説を終るのでありまするが、各位の
賛同を心よりお願いいたす次第であります。(
拍手)