○松本七郎君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま議題にな
つております
義務教育学校職員法案に関します
基本的な点につき若干
質問を申し上げたいと思うのでございます。
今まで御
答弁を聞いておりますると、この方律案の欺瞞性がいよいよ明らかにな
つて来ておるように思うのでございます。(
拍手)今度のこの
法律案は、波及するところは相当広範囲に及びます。また、その
内容におきましても重大な問題を多数含んでおるのでございまするから、私どもは、
政府がこの案を最終的に決定するまでに至るその取扱いにおきましても注目を払
つてお
つたのでございます。
吉田内閣は、
民意を尊重するために、そういうことを
建前にいたしまして、たくさんの
審議会を設置いたしております。もちろん、私どもは、
民意を尊重するために
審議会を活用するという
根本的な趣旨にはまつたく異存はありません。しかし、問題は、この
審議会の構成と
運営にあるわけであります。最近のこの
審議会の
運営を見ままと、まつたく
民意尊重というのは看板だけであり、
世間を擬装する機関と化してしま
つておるのであります。先般問題になりました米価決定にあたりまして、米価
審議会を無視したやり方、これはこの間の事情を端的に物語
つておると言えるのでございましよう。今回のこの
法律案にいたしましても、
地方財政、税制、
地方行政一般に広く
関係して来る重要な問題なのでございます。従いまして、
政府としては、その案を閣議できめるにあた
つては、当然
地方制度調査会あるいは中央
教育審議会にこれを諮問すべきものではなかろうかと思うのであります。本日参議院における官房長官の
答弁を聞いておりますと、それは占領
政策の行き過ぎの是正のために、時間がなかつたから、やむを得ずかけることができなかつた、こういう
答弁をしておるのであります。ところが、この行き過ぎの是正と
言つておりまするが、はたしてこれが行き過ぎであるかという判断は、だれが一体しておりますか。私は、こういう重要な問題は、この判断を含めて
審議会に諮問すべきものであると思うのであります。(
拍手)これをするだけの余裕がなかつたならば、むしろ延期すべきであります。そのくらい慎重にこれは取扱うべき問題であると
考えるのでございますが、
総理大臣の所信を伺いたいのであります。
また
岡野文部大臣は、昨年
教育委員会が
全国の市町村にまで設置されて、そうしてこれをどのように円滑に
運営するかということが
国会で問題になりましたときに、この
教育委員会は非常に重要な問題であるからして、近くできるところの
地方制度調査会に十分研究してもら
つてからその案をつくりたい、こういう
答弁をはつきりされておるのであります。それならば、今度の
法案にはつきりしておりますように、この
教育委員会の
権限と重大な
関係のある今回の
法律案を、なぜ
地方制度調査会なり、あるいは中央
教育委員会にかけることを
岡野文部大臣は強調されなかつたか。この点を明らかにしていただきたいのでございます。(
拍手)
総理大臣は、
施政方針演説におきましても、道義の高揚ということをこの
全額国庫負担と結びつけて述べられました。先ほどから官房長官の
答弁を聞いておりましても、ますますその欺瞞性がはつきりして来たようでございます。私は、道義の高揚の
根本は、まず
政府が欺瞞性を払拭して、
政府みずからが道義を
確立することが先決問題であると
考えるのであります。(
拍手)
本法は
全額国庫負担でないことは明らかでありまするが、先ほどの
答弁によりますと、昨年できた
義務教育国庫負担法は
半額負担である、それが今回は
全額に
なつた、こういうふうな印象を与える
答弁をされておるのでございます。ところが、実際は、昨年できました
義務教育費国庫負担法におきましては、実際に支出しておる、現実に払
つておる
給料の
半額を
負担するという
建前にな
つておるわけでございます。今回の分はどうか。今回の分は、実際に払
つておるものの
全額を払うのでなしに、
定員定額を
政府できめて、その分だけを全部払おうというのであります。ここにみそがある。これが、ふたをあけてみれば、
全額負担でも何でもない。実は減額
負担であるということをはつきり暴露しておるのでございます。(
拍手)その証拠には、
政府は長い間
全額国庫負担と宣伝しておきながら、今回出て来た
法案の名前は、
義務教育学校職員法とすりかえられておるのであります。この
法案の名前自体がそのことをはつきり物語
つておるのであります。問題は、
法案の名前がかわつたということ自体よりも、これが今まで
国民全体にいかような
誤解を与えておつたかということが大切だろうと思うのであります。
政府は、いやしくも国の
政策を実行する上におきましては、
国民に疑惑や不安や
誤解のないように懇切丁寧な
説明をして、その趣旨を
徹底する
責任があると思うのでございます。それが、
全額国庫負担、
全額国庫負担と宣伝されております。そこで、最近も私のところにはいろいろな
質問が参りますが、今度
国会に
義務教育学校職員法というものが出て来たが、
全額国庫負担法というのはいつ出るのか、こういう
質問が来るのであります。現に議員の中からでさえこういう
質問が来ておるのであります。いかに
国民が
政府のやろうとしておる
全額負担——ただに
給与費ばかりではない、
学校の施設費あるいはその他の
教育費が
国庫負担にな
つて、そうして今苦しい中から
負担をしておるところのいろいろな
教育費が
負担せずに済むようになるのではないか、こういう期待を
国民が持
つてお
つたのは当然でございます。その期待をまつたく裏切るのであります。それでありますから、私は、この
機会に、
総理大臣の口から本議場を通じまして、今まで宣伝されておつた
全額負担というのは決して
全額ではなかつた、実はこの
義務教育学校職員法に盛られた
定員定額による
負担にすぎないのであるということを明言されまして、
国民に陳謝されるべきが至当ではないかと思うのでございます。(
拍手)
総理大臣の所見をお伺いしたいのであります。
岡野文部大臣にいたしましても、この
義務教育費国庫負担法が昨年問題になりましたときに、
委員会ではつきり
答弁されております。先ほどの御
答弁でも、みずからそう
言つておられる。自分の速記録を見てもらえばわかるとおつしやいましたが、あの当時、先ほども指摘しましたように、実際に払
つておる
給与費の
半額を
負担するというのが、昨年問題に
なつた
義務教育費国庫負担法でございました。そのときに、
岡野文部大臣は、
半額ではいけない、
全額なら自分は賛成だ、これが自分の信念であると言われたのであります。しかしながら、当時その
全額というのは、
定員定額による
全額だということとは一言も言われておりません。あの
義務教育費国庫負担法で問題に
なつたとき、現実に払
つておる
給与費の
半額を
負担する、これは
半額ではいけないのではないか、
全額にすべきであるという主張に対して、
岡野文部大臣は、
全額はよろしい、自分は
全額——当時は
文部大臣ではございませんが、
地方自治の
責任者として、
全額ならいい、
半額だから
反対だ、こう言われてお
つたのであります。それが、今日は
定員定額制による
負担を出して来られた。一体、今までの信念がかわ
つて、
定員定額ということを新たに
考えて来られたものか、あるいは当時から
定員定額ということを頭に描いて来られたのか、そうだとすれば、これは当時からわれわれを欺瞞したことになる。また信念がかわつたとするならば、これははなはだたよりない信念と申さなければなりません。(
拍手)もしも信念が依然としてかわ
つておらないとするならば、こういう
定員定額による
全額負担法はすみやかに撤回すべきであると
考えるのでございますが、文相の見解を明らかにしていただきたいと思うのでございます。
さらに、先ほどから
文部大臣は、
首切り、
給与の
引下げ等は絶対に起らない、こういうことを
言つておられるのでございますが、一体何を根拠にしてそういうことが言えるのであろう。先般の
全国知事
会議の席で、
全国知事会において調査いたしました結果が発表されております。それによりますると、二十八年度に実際に支出さるべく予定されている額と、今回の
法案によ
つて負担される額との間には百三十七億円の差額があると言われております。この差額は、結局
地方公共団体が自己財源でまかなわなければならない、こういうことが言われているのでございますが、一体
文部大臣は、この
全国知事会で出した数字は間違いであると言われるのか、この点を
文部大臣並びに
本多国務大臣からはつきり御
答弁願いたいのでございます。もしも、こういう不足分があるとするならば、どうや
つて補填されるか。また中国、四国のブロツク知事
会議の申会せでは、
給与費には都道府県費を計上しない、こういう申合せまでしているわけでございます。こういうことになりますと、結局は
給与単価の
切下げをするか、それでなかつたら、あくまでも単価を
維持しようとすれば、
首切りをやらざるを得なくなるのであります。こうなれば、
教職員の地位と
待遇を保障するというこの
法律の
目的は、まつたく
反対の結果にな
つてしまいます。
教育は混乱と破壊に瀕することになるわけでございますが、文相の数字をあげての明確な御
答弁を煩わしたいのでございます。
このように、この
法案の実際に及ぼす影響というものを、それぞれの
責任ある
団体その他の調査に基いて
考えてみますると、これは混乱を来すおそれが多分にあるわけでございます。よく
世間では、
給与費だけで不十分だが、まあまあ完全な
全額負担に行く一歩前進として、がまんしてもらおうではないかという主張がなされるのでございますが、完全な
国庫負担に行くことを目標にしながら、一歩でも近づこうという
考え方は、もつともこれは了解できるところであります。しかしながら、それを容認するためには、現実にそのために弊害が起らないかどうか、この点をやはり勘案しなければならぬ。弊害や混乱の方が多いということになりますならば、かりに一歩前進の姿が多少ありましても、それはもつと慎重に
考え直さなければならぬということになるわけであります。こういう点から
考えましてなぜこの
法案がこうも急いでやらなければならないか、その
理由がもう少しはつきりわかるように、
文部大臣から御
説明をお願いしたいのであります。
こういう点を
考えてみますと、そのときにこれから疑問が起
つて参りますのが、結局は
身分の問題でございます。私どもの
考えでは、これは現在の
日本の国の
地方財政の現状からいたしまして、結局は
国家が
義務教育の費用というものを
負担する以外に道はない。そういう
地方の財政が困窮しているという現実から、私どもは
全額国庫負担というものを終始主張して来ているわけであります。そういう現実に立つ限りは、理論はいろいろ言う余地はございましようが、現実から
教育を守
つてこれを
維持発展させようという
建前に立つ限りは、
給与費ばかりではなしに、やはり
教材費、
教科書費用、あるいは施設費、
給食費、
維持費、そういつた財政
負担を
国家がする必要が現実にある。
従つて、
国家が財政的な
負担だけをやろう、そのかわり、実際の
教育行政はあくまでも府県の
教育委員会を中心にして、自主的に
地方の
実情に沿つたものでやるべきである、
従つて、
義務教育の
教職員の
身分も
地方公務員でさしつかえないというのが私どもの
考え方でございますが、今回の
法案によりますと、その
身分が
国家公務員になる。先ほど、
地方公共団体の設立にかかります高等
学校、あるいは大学の
教職員は
地方公務員になるという矛盾も指摘されておつたようでございますが、こうなりますと、
教育行政、人事行政というものが一貫性を欠くことになるのでございます。
教育行政、人事行政にこのような二元的な立場を許してさしつかえないものであろうか、この点も重ねて
文部大臣の御
答弁をお願いしたいのでございます。
文部大臣は、一昨日のこの
提案理由の
説明にあたりまして、
義務教育は最も必要なものである、
従つて国が
責任を負わなければならない、こう
言つて、それがゆえに
教職員は
国家公務員にするのである、こういうふうに、
義務教育に対する国の
責任と
国家公務員にするということを結びつけて
説明されたのでございます。ところが、一体法的な根拠というものはどこにあるでございましよう。ただ、国が
義務教育に対して
責任があるから、
身分は
国家公務員でなければならないというのでは、これは
文部大臣の独善的なこじつけといわなければなりません。国の
責任については、
憲法二十六条にはつきりと明記してあるわけでございます。すべての
国民は、その子弟が全部
義務教育を受けるようにしなければならない。これは義務は規定してございますが、その義務に対して
義務教育は
無償である、
無償でなければならない。この
義務教育を
無償にするということが、
憲法の規定による国の
義務教育に対する一番大きな
責任ではないかと
考えるのでございます。(
拍手)そこで、こういう点から
考えますと、私どもは、ただ
国家が
義務教育に対して
責任があるから
国家公務員にしなければならぬというようなことでは、納得することができません。そういうことで
説明されますと、結局これは、
身分保障という美名に隠れて、
政治活動を
禁止し、そうして先ほども御指摘になりましたように、来るべき
参議院選挙を有利に展開させようというような下心があるのではないかという疑惑を
国民の間にますます植えつけることになるわけでございます。(拍子)従いまして、
文部大臣及び本多国務相より、一体
憲法あるいは
教育基本法のどの条項によ
つて国家公務員にしなければならぬ結論が出て来るのか、この点を明らかにしていただきたいのであります。
この
身分の問題と関連いたしまして見のがすことのできませんのが
教育委員会の
権限でございます。本法第六条によりますと、
教育委員会を指揮監督する
権限を
文部大臣に認めております。また第十条の第五項におきましては、市町村の
教育委員会は、
教職員の任命にあた
つて、市町村長と協議しなければならぬということにな
つております。しかも、その次の六項におきましては、協議がととのわない場合には
文部大臣に裁定権を与えているのであります。これは明らかに
教育委員会の
根本精神を蹟翻するものであると
考えます。
政府はしきりに行き過ぎの是正ということを
言つておりますが、これはすでに是正ではない。
教育行政の官僚化、
中央集権化、あるいは画一
教育への逆コースであるといわなければならないのであります。(
拍手)
教育基本法の第十条には「
教育は、不当な
支配に服することなく、
国民全体に対し直接に
責任を負つで行われるべきものである。」と規定してある。また
教育委員会法第一条の後段におきましては、公正な
民意により、
地方の
実情に即した
教育行政を行うために、
教育委員会を設けると規定されておるのでございます。何人もこの
教育行政の
根本を否定することはできないはずでございます。
文部大臣は、その
権限を都道府県や市町村
教育委員会に一部委任できるようにな
つておるのでございますが、これでは人事権というものは三元化されてしまう。その上にさらに市町村長が加わるということになりますと、一層人事というものは複雑化して来る。そうして、市町村長を通じまして、
地方のボスがこれに介入するということになりますと、一層人事が不明朗になる危険をはらんでおるわけでございます。このように、
給与の決定権というものは中央で握る、あるいは
身分を
国家公務員として縛
つてしまう、
任命権は最終的には事実上
文部大臣に吸い上げるということになりますならば、一体
教育を不当な
支配から守り抜く保障はどこに求めたらよいものか、これらの点につきまして、
文部大臣並びに
地方自治確立の
責任者であるところの本多国務相の御
答弁を願いたいのである。
以上の数点を
考えてみましただけでも、
国民の疑惑と不安の生ずることは当然でございます。
岡野文部大臣は
地方自治庁長官をされておつたこともございますが、本来ならば、
義務教育の
関係というものは、
地方行政と密接不可分であります。それでありますから、今度のような
法律案を担当されるのには適任者であるはずでございます。ところが、事実は遺憾ながらこれと逆である。
岡野文部大臣は、
日本が四年の間戦争を継続できたことをも
つて国民に自信を持たせようと
考えたり、あるいは「臣茂」という言葉を、これは主権者である人民に対して臣であるというような、
国民を愚弄した
答弁を平気でや
つてのけておるのである。こういつた時代感覚ずれのした
文部大臣の下では、
国民の不安がつのるのは当然であります。(
拍手)この
機会に
文部大臣は真剣な反省をする必要があると思うのでございますが、
文部大臣の所見をお伺いしておきたいのである。
最後に、今回の
法律案の
経過措置によりまして、二十八年度に限
つてこの
経過措置を規定しておるようでありますが、この
法案を円滑に運用するためには、どうしても
地方税制、あるいは
地方財政、また
地方行政全般にわた
つて、国税との調整とも関連した全面的な改革を伴わなければ実現できないことは当然でございます。現に
自治庁におきましては、都道府県税のうち、遊興飲食税、入場税を国税に移管するのでなければ、これは実現することが不可能であると主張してお
つたのであります。それでありますから、二十九年度からは完全にこれを実行するにつきましては、相当大蔵当局にも、あるいは
地方自治庁におきましても、具体的なこういつた
地方制度改革の
意見があるはずでございます。先ほどの
答弁におきましては、本多国務相は、
地方制度調査会に十分諮
つて研究するというような
答弁をされております。しかしながら、そういつたことをやらないで、
地方制度調査会に諮らないで、この
法律案を出されているのである。従いまして、この
法律案に
関係のあるそういつた
地方制度の改革については、当然
政府にも具体的な案があるはずでございます。すでに諮問機関である調査会にかけないで出された以上は、これらに
関係するところの具体的な改革についての構想を本議場においてわれわれに示していただくのでなければ、われわれは納得することができないのである。(
拍手)
以上の諸点につきまして、従来のようなおざなりな
答弁でなしに、明確にして、
国民によく理解できるような、懇切丁寧な
答弁をしていただきまするよう、特にこれを求めまして、私の
質問を終ることといたします。(
拍手)
〔
国務大臣緒方竹虎君
登壇〕