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1952-11-29 第15回国会 衆議院 本会議 第9号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年十一月二十九日(土曜日)  議事日程 第八号     午後一時開議  一 国務大臣演説に対する質疑(前会の続)     ————————————— ●本日の会議に付した事件  国務大臣演説に対する質議(前会の続)  一般職職員等の俸給の支給方法臨時特例に関する法律案有田二郎君外二十三名提出)     午後一時二十八分開議
  2. 大野伴睦

    議長大野伴睦君) これより会議を開きます。      ————◇—————  一 国務大臣演説に対する質疑(前会の続)
  3. 大野伴睦

    議長大野伴睦君) 国務大臣演説に対する質疑を継続いたします。勝間田清一君。     〔勝間田清一君登壇〕
  4. 勝間田清一

    勝間田清一君 私は、鈴木委員長質問に続きまして、日本社会党を代表して、吉田総理大臣並びに関係大臣に対して、さらに吉田内閣施政方針に関する質問をいたしたいと存ずるものであります。  第一は、朝鮮動乱に対するアメリカ戦略いかんが直接日本の安全に重大な関係を持つておることについて、その戦略を事前に知り、あるいは日本意思を主張し得る日本の主権が、あるいは自由が、いかに保障されておるかという問題であります。今日まで、アメリカも、あるいは吉田内閣も、常に日本の安全をソ連、中共の侵略に対する問題としてのみ扱いまして、あるいは国民の眼をそらさしめ、あるいは場合によつて恐怖心さえ起させて、いわゆる真空理論を展開して再軍備を急ぎつつあることは、総理答弁いかんにかかわらず、今や国民周知の事実であります。(拍手)しかしながら、過去二箇年有半にわたる朝鮮動乱の歴史は、アメリカ戦略いかん日本をそのまま第三次大戦に巻き込んだかもしれないという恐怖の歴史であつたことを、われわれは看過することが断じてできないのであります。  過ぐる昭和二十五年六月、朝鮮動乱勃発後間もなく、中共軍が介入するやいなや、世界が三たび戦争に突入するのではないかとおののいた際に、アメリカをして、妥協政策はとらないが、第三次大戦には発展せしめず、名誉ある解決まで戦うと言わしめた、いわゆる限定戦争を余儀なくせしめたのは、ほかならずイギリスであり、フランスであつたことは、われわれの記憶に新たなるところであります。また、マッカーサーが、その限定を破り、戦争拡大あえて辞せずとなして、中ソ友好同盟条約に直接抵触するおよそ五つの危険な戦略を採用せんといたしました際に、遂にイギリスモリソン外相が立つて、かかる戦略は第三次大戦を惹起せしむるものであると警告し、マッカーサー元帥の罷免を要求したことは、あまりにも有名であると存ずるのであります。(拍手)さらに六月二十三日、突如として日本基地から出発せるジエツト機に掩護されたアメリカ艦載機六百数十機が水豊ダムを爆撃した際に、これまたイギリス等が、かかる戦略の危険を指摘し、しかもイギリス等に何ら事前に相談することなく、かかる危険な戦略をとつたアメリカに対して厳重な抗議をなしたのでありまするが、かかる幾多の歴史的な事実は、はたして日本国民に何を教えておるでありましようか。ここにおいて、われわれは、中ソ両国戦略もさることながら、アメリカ戦略もまた日本の安全と平和に重大な関係を持つておることを如実に示されたものといわなければなりません。(拍手)  しかるに、かかる重大な際に、当時の日本政府はいかなる態度をとつてつたでありましようか。マツカーサー元帥が罷免されたときに、政府の中には、その真相を知らずして、彼を日本永久国賓にすると提唱した人たちさえあると聞いておるのであります。(拍手)また、水豊ダム爆撃の際に、わが党がその戦略危険性を指摘いたしまして、岡崎外務大臣に警告し、日本国民平和的意図を世界に訴えるべきであると申入れいたしました際に、岡崎外務大臣は、もしそんな危険なものであるならば、あらかじめ日本にも相談があるはずであると答弁されたにすぎない状態であります。独立国たるイギリスにさえ水豊ダムの爆撃を相談しなかつたアメリカが、日本には特に相談してくれるとでも岡崎外務大臣思つてつたのでありましようか。(拍手)私は、日本国民のすべてを含めて、過去二箇年有半、われわれの国土を直接の基地とされ、朝鮮の苛烈な戦いが行われているにもかかわらず、まつたくつんぼさじきに閉じ込められておつた日本の姿を、きわめて遺憾に存ずるものであります。(拍手)それと同時に、つんぼさじきにあつて、ずるずると重大なアメリカ戦略に引込まれつつある吉田内閣に、国民は最大の不安を感じているといわなければなりません。(拍手)  しかも、ここ数日来における新聞は、インドの代表の苦難に満ちた努力にもかかわらず、朝鮮の停戦には前途暗澹たるものをわれわれ日本人にひしひしと感ぜしめているのであります。(拍手)停戦不調の責任が米ソいずれにあるにいたしましても、その後に起つて来る朝鮮動乱変化が、長期化するか、あるいは拡大するか、そのことがそのまま日本国民運命に関することは、われわれがいかにこれを考えても見のがすことができませんが、この国民の不安にこそ、吉田総理は明確なる回答を与えべきであると存じます。吉田総理は、朝鮮動乱の前途に対していかなる見通しをもつて諸般の政策を実行いたしつつあるか、これをまず第一にお尋ねいたしたいのであります。  もとより、私は、いたずらに朝鮮動乱の拡大のみをここに誇張せんとするものではありません。言わんとするところは、日本アメリカ軍事基地にされておるのであるから、アメリカ戦略いかんによつては、日本日本意思とは無関係に、第三次大戦に巻き込まれる危険が厳存しておることを、ここに指摘せんとするものであります。また、それと同時に、かかる危険に対して、日本日本の平和と安全を断固として守るために、アメリカ戦略を前もつて知り得る権利、あるいは日本みずからの意思を決定し得る自由、これがいかに今日保障されておるのであるかを吉田総理に尋ねんといたすのであります。(拍手)私は、ここで、かつてインドネールが悲壮な言葉を言つたことを思い出します。すなわち、ネールは、インドは第一次大戦の当時英国の植民地であつたために、本国イギリスから戦争のことについては一言の相談もなかつた、しかし、戦争が始まるやいなや、インドの民衆は暫壕の最前線に立たされたのであると、悲壮に言われたのでありますが、私は、今日の日本が、かつて植民地インドのごとき運命と同じ運命をたどらないために、吉田総理はいかなる確信をお持ちであるかを、さらにお尋ねいたしたいのであります。(拍手)  第二の質問は、吉田内閣朝鮮国連軍に対しいかなる援助をなさんとしておるのか、国連軍支援限度あるいは範囲は何かという問題であります。吉田内閣は、過ぐる講和条約において、いまだ国連にも加入せず、しかも平等にして正当なる権利が何ら保障されていないにもかかわず、われわれの反対をもあえて押し切つて国連憲章の一切の義務を負つたのであります。さらに講和条約第五条において、国際連合が憲章に従つてとるいかなる行動についても国際連合にあらゆる援助を与える義務を負つておるのでありまするが、これは日本朝鮮国連軍にあらゆる援助を与える義務を負つたことを意味することは当然といわなければなりません。さればこそ、吉田アチソン書簡は、講和条約調印と同時に、国連軍に対してとりあえず労役その他の便益を提供いたし、遂に日本運命朝鮮運命と同じるつぼの中に投げ込んでしまつたのであります。(拍手)それにもかかわらず、日本国民は、こうした、火中にくりを拾うにひとしい危険な外交が吉田内閣によつて行われておることを知らされず、ひたすら架空の平和を求めておるのが、今日の日本現実の姿であります。また、こうしたとりきめがなされておることを知つておる国民があるにいたしましても、現実朝鮮動乱の内情を知らされていないがために、これを身近なものとして意識し得ないのが、今日の日本の姿というべきであります。  しかるに、吉田内閣は、このたびの施政方針演説において、きわめて重大な発言をいたしておることを発見いたすのであります。それというのは、施政方針一般がきわめて空疎かつ低調であつたにもかかわらず、ひとり自由諸国家群軍事的結束と、朝鮮国連軍支援態度のみが、きわめてあざやかに強調されているからであります。すなわち、吉田総理は、その演説において朝鮮における国際連合集団的措置平和維持努力であるのみならず、これがわが国に直接かつ重大な関係を持つことにかんがみ、国際連合要望に対しては今後とも全幅の協力をいたす考えであると言つております。また岡崎外務大臣は、さらにこれを敷衍いたしまして、わが国と一衣帯水の朝鮮にありましては、今なお苛烈な戦闘が行われておるのでありまして、われわれとしても、かかる現実の事態は十分認識し、今後とも強い決意と勇気とをもつてこれに対処すると言明せられておるのであります。まさに両氏が言う通り朝鮮動乱わが国に直接かつ重大な関係を持つておるのであります。また、まさに苛烈な戦闘が朝鮮に行われておるのでございます。さればこそ、われわれ日本国民は、眼を開いて朝鮮動乱の帰趨を見守つておるのであります。従つてここに吉田総理が言うところの国連軍要望に対する全幅の支持、あるいは岡崎外務大臣が言うところの勇気と決意とをもつて対処するということは、具体的にいかなることをさすのであるが、これを明白にされる必要があると存ずるのであります。(拍手)  たとい吉田内閣が決意と勇気とをもつて国連軍を支援するにいたしましても、日本として当然に一定の限度は厳守されなければならぬと確信いたすものであります。イギリスフランスは、自国の軍隊を朝鮮に派遣しておりますけれども、常にアメリカ戦略を監視し、朝鮮動乱拡大を阻止する自由と権利を握つておることは、すでに申し述べた通りであります。(拍手)また、インド国連を支援しておることは明らかでありまするが、朝鮮には医療、衛生等で協力をするにとどめ、さらに停戦交渉には、中立的な立場で、現にこれがあつせんに努力をいたし、しかもネールは、第三次大戦には絶対参加せずと声明し、国連支援限度を明らかにいたしておるのであります。(拍手)しかるに、日本は、吉田外交によつて日本国及びその周辺全部を軍事基地に提供し、労役その他の便益も提供いたしておりまするが、さらにこの上に何を支援するのであるか。私は、この際、その限度について明確なる態度を内外に示すことが、今日における朝鮮動乱の現状にかんがみて、日本の最も必要かつ重大なることであると確信いたすものであります。(拍手)  そこで、吉田総理に次のことを明白に御答弁願いたい。第一は、朝鮮動乱を中心とするアメリカアジア政策が、最近何らかの新たな変化が起つているのかいないのか。マーフイーやアリソンから、日本の再軍備あるいは国連支持に関し何らかの新たな要望がなされているのかいないのか。太平洋同盟に甘本は将来参加する考えであるのかないのか。国連要望全幅の支援をするというその具体的方途は何か。また国連支援限度を今日ここで明らかにする意思はないか。最後に、日本国民が最大の不安としている日本保安隊出兵要請に対して、断じてこれを拒否すると、吉田総理みずから、これを今日ここに断言することができるかどうか。(拍手)  なお、ここに政府憲法上の解釈についてお尋ねをいたしたいと存ずるものであります。すなわち、新日本国憲法のもとで、国連軍軍事的要請により、または国連軍を支援する目的で、戦闘に参加することなくして、後方で勤務するという状態でも、保安隊を外国に派遣することは憲法上可能と見るかどうかという解釈でございます。(拍手)  第三の質問は、財政経済に対する質問でございます。まず、向井大蔵大臣は、昭和二十八年度の予算編成見通しをどう見ておるのであるか。過般、大蔵大臣は、川崎秀二君の同様の質問に対して、いまだその方針が決定されていないと逃げられましたが、はたしてそうであるならば、何ゆえ参議院における三好君の質問に対して、来年度一千億円の減税をすると答弁されたのであるか。減税が税法上の減税にせよ、少くとも減税の金額を明らかにする限りにおいては、その対象となつておる課税所得あるいは国民所得、それが一面において明らかになつていなければならぬと同時に、他面において予算のわくが決定していなければならぬはずであります。従つて、蔵相がここに二十八年度予算見通しがないというならば、一千億円の減税もまた、これはでたらめな答弁であつたといわなければなりません。(拍手)  政府は、このたび七百九十八億円の追加予算を計上しましたが、これによつて、二十七年度予算は実に九千三百二十五億円という厖大なる予算となつたのであります。これは政府が発表した国民所得の五兆三千四十億円の一割七分五厘に当りまして、昨年度に比し一・三%の増大を示しておるのであります。そこで、どうしても二十八年度予算が重大な問題となつて参るのであります。というのは、本年の予算をそのまま来年度に当てはめたにいたしましても、十一月からの給与ベースを新たに四月以降の給与ベースに直さなければなりませんから、ここに予算の規模は優に一兆億円を突破するであろうことは明らかであります。(拍手)そこで、来年度の経済がどうなるかという事柄でありまするが、ここで国民所得担税力の問題が出て参るのであります。経済審議庁長官は、来年度、少くとも本年下期ないし来年上期の日本経済見通しをどう見ておるかを、同時にここに明らかにしていただきたい。  私の考えをもつていたしまするならば、生産業危機に当面し、その増加を期し得ないのみか、かえつて減少するとさえ思われるために、貿易不振、特需の減少等とも相まちまして、たとい若干の物価や賃金値上りが予測されるにいたしましても、国民所得は実質的にはほとんど増大を見ないであろうと思われるのであります。従つて政府の発表した新政策なるものは、ここにから念仏に終る危険に立つておるといわなければなりません。(拍手)もし食糧増産あるいは軍人恩給復活等のただ一つの政策をとるにいたしましても、おそらく予算は一兆数千億に達し、ここに増税か、あるいは均衡財政堅持方式の放棄か、いずれかを選ばざるを得ないでありましよう。またこのことは、国庫対民間収支の見込みについても言えることでありまして、大蔵省理財局長の、二十五日の予算委員会における説明によつても、本年度は実に八百八十億円の散布超過となると言われております。近年、毎年二百億ないし八百億円の、逆に揚超になつておるところから比較いたしまするならば、すでに本年は均衡財政方針はまつたくくずれ去りつつあると思うが、大蔵大臣はいかに考えておるのでありましよう。  従つてここに向井大蔵大臣は次のことを明らかにし、来るべき財政基本的見通し国民に知らせる必要があると考えるものであります。すなわち、来年度の財政規模をはたしてどの程度に押えて行こうとするのであるか、蔵相の減税一千億円とは、今度の補正予算の税率を来年度の所得に適用するとすれば、しからざる場合よりも一千億円の減税になることを意味するという数字上の問題であるのか、しからずして、来年度新たなる減税ができると言つておるのであるか、ここを明らかにいたしてもらいたい。さらに健全財政主義を文字通り堅持する限りにおいては、増税は必至と思うが、どうか。しかしながら、向井財政はすでにくずれ去つておるように、均衡財政主義を放棄し、インフレ政策をとろうとしておるのではないか。もしそうでないならば、はつきり理由を明らかにいたすべきであります。同時に、この際、前池田大蔵大臣がしばしば貯蓄公債について言及いたしておつたのでありますが、向井大蔵大臣貯蓄公債に対して、いかに考えておられるか、あわせてこれも御答弁を願いたいのであります。  次に、日本経済が当面しておるさらに重大な問題は、貿易の不振と生産の停滞、なかんずく中小企業を中心とする平和産業の未曽有の危機に対する吉田内閣政策についてであります。すなわち、本年に入つて鉱工業生産は、横ばいというよりも、危機寸前に立つておるというべきでありまして、これは本年九月の指数について見ても、本年はようやく前年度同期の八%増にすぎず、しかもこれは本年当初から行われた繊維、ゴム製品ソーダ工業、薄板あるいは普通線材等消費関係資材の操短によつてささえられて来た数字でございまして、戦前一千二百万錘から持つてつた日本紡績工業が、今日わずかに半数の五、六百万錘に低下して、なおかつ四割の操短をしなければならぬという日本の現在の実情は、対米一辺倒吉田内閣経済政策重大責任といわなければなりません。(拍手)いずれにせよ、今日、日本産業経済の著しい停滞に対して、政府はいかに確信に満ちた政策国民に示すのでございましようか。従つて政府は、各種平和産業の操短の解決の見通し、さらに平和産業危機に対して、いかなる活路を求めんとしておるのであるか、これを承りたいのであります。  次に、吉田内閣は、今日まで国内市場を不当に圧迫し、特に勤労階級生活を極度に犠牲にして参りました。池田前審議庁長官は、過日の答弁において、消費水準は九七と答弁をされましたが、審議庁の最近の九月の統計によりまするならば、逆に七九・二であります。いずれにいたしましても、最近数字上の若干の変化があるにいたしましても、それは綿製品等の暴落、平和産業の重大なる破綻から来たものであつて、その陰には、中小企業の日に続く倒産、工場から解雇される女工等犠牲によつて生み出されたものであることを知らなければなりません。従つて最近日本製造工業雇用指数は漸次減退し、昭和二十六年の一四〇・四に対して、本年九月はすでに一三八・五に下つております。しかも、本年八月の労働力調査によりますれば、就業者数は前月に比し百七万人の減少をいたしておるのであります。これは農村の就業者が百二十万人減少したことに対して都市の労働者がわずかに十三万入の増加をしただけにすぎなかつたのによるものでございますが、しかもこの数字は、自家経営や、あるいは家族従事者によつて事実はまかなわれておるのでございまして、半失業者の増加は、今日は実に驚くべきほどであることを、われわれは注目しなければなりません。  政府は、消費水準を云々する場合に、常に、減税をしたではないか、こう反駁して今日まで参りました。だが、考えてもわかる通りに、今度の減税の財源にしても、いわゆる源泉所得税自然増収を財源にして行つておるのでありまするから、これは恩恵でも減税でもなく、当然中の当然といわなければなりません。(拍手)しかも、このたびの減税は、月六、七千円程度からその恩恵に浴するのであつて、それ以下の大衆は、旅客運賃値上りも、米の消費者価格値上りも、電力、石炭の値上りも、そのまま直接受けるという状態に置かれておることを、われわれ看過してはなりません。(拍手)一体、政府は、これらの大衆をどうして救済するのであるか。これを私は吉田内閣にはつきりお尋ねをいたしたい。  次に、ここに今日重大なる社会問題になつておる炭労あるいは電気産業労組のストライキに関し、戸塚労働大臣の見解を承つておきたいのであります。労働大臣御存じ通り炭鉱会社は、労働組合の要求に対して現行賃金の四%の切下案を回答いたして参つておるのであります。しかも、十月十七日の無期限スト以来今日まで四十数日にもかかわらず、一度の交渉も持たれず、ようやくにして過ぐる二十六日に開かれた第一回の団体交渉においても、依然として現行賃金切下案という無責任きわまる態度をとつておることは、少くとも労働問題に関心を持つ者として断じて許し得ざるものであると存じます。  現在の炭鉱労働者賃金は、坑外夫で七千五百円、坑内夫で一万二千円、しかも、坑外夫は、こういう状態であるから、娘も女房も働かせなければならぬ生活にあるということは御存じ通りでありましよう。坑内夫はまた同時に、炭塵、高温、高湿のあの数千尺の下で、生命の危険を冒して働いていることも、諸君ははつきり御存じ通りでありましよう。しかるに、これに対する会社側の今日の経理状況を見まするならば、炭鉱株は今日百五十円ないし四百円の水準にあります。また配当は今日三割五分ないし四割に達しておるという状況でございます。利潤は一トン当り二千円にも達しておると言われております。かかる状態において、賃金切下げを要求する会社側こそ言語道断というべきでありまして、これはまつた吉田内閣に庇護された一部炭鉱会社資本攻勢といわなければなりません。(拍手)しかして、このことは、電力会社単一賃金をあくまでも要求し、個別交渉を主張しておることと同様に、一面におきましては労働組合の崩壊を企画し、他面においては石炭、電力の値上げをねらつておるという事実をわれわれは見のがすことは断じてできないのでありまして、戸塚労働大臣は、これら地下労働者賃金をいかに今後考えて行くのであるか。しかして、炭鉱並びに電力会社側態度を今日いかに考えるか、ここに明白に御表明を賜わりたい。  次に総理大臣並びに厚生大臣お尋ねいたしたいと思いますのは、戦争犠牲者に対する救済をどうして行くかという事柄でありまして、吉田総理は、過般の答弁において、戦争責任軍人だけの責任に帰して、これに恩給を与えないようで、どうしてりつぱな軍人ができるかと言われました。これは、吉田総理が、軍人恩給復活が再軍備を目的として計画されておることを示したものであつて、まさに語るに落ちたというべきでございます。私は、戦争犠牲者は今日国内に満ちておると存じます。ましてや、これを深く観察いたしてみまするならば、各方面に、きわめて深刻な、お気の毒な方が多いのでございます。政府は、前国会におきまして、わずかに二百三千一億円を支出して、戦争の直接の犠牲者の救済にこれを充てましたが、これはまさに九牛の一毛であることは、何人も疑わないでございましよう。  しかしながら、今日、家や財産を焼かれて、焼け出された人たちが、都市に満ちております。また、外国に財産をとられて今日悲嘆の生活を続けておられる人がございます。また、学徒動員によつて大きな犠牲を受けた方もございます。また今日、病気であるがゆえに未復員のまま病床に横たわるそれらの人々と、それを待つ家族のあることも、われわれは忘れてはなりません。さらに思い出すならば、あの満州の広野において、国策移民として出動し、移民し、これらの塗炭の苦しみにあつたわれわれの兄弟のことを忘れることは断じてできません。(拍手)これらの移民は、終戦時、実に二十五万人おりまして、それに帰還した者はわずかに十三万八千人、死亡者七万六千人、未帰還者実に三万五千に達し、しかも帰還した十三万人の中で、内地に入植した者はわずかに七万人にすぎません。しかも、内地に入植したこれらの諸君を、今日の吉田内閣は、行政協定によつて再び追い出しつつあるのが、今日政府政策であります。  かく見れば、戦争犠牲者はまさに国内に満ちているものといわなければなりません。これらの戦争犠牲者を救済せずして、何が独立か、何が政治かと国民は疑つているに違いない。ましてや、再軍備を急ぐの余り、全体との関連を考慮することもなく、ひとり少数職業軍人のみに恩給を復活せんとする吉田内閣政策を、私はとうてい理解することができないのであります。(拍手吉田総理は、これら多くの戦争犠牲者をいかにして救済されるのであるか、まずこれを承りたい。われわれをして言わしむるならば、すべからく再軍備をやめて、その予算軍人をも含めたすべての人を対象とする社会保障制度の確立につぎ込むべきであると主張いたします。年老いたる者、幼き者、父母や夫を失つた者、病める者、傷つける者、職なき者、すべてに生活と希望を与えて行く政治は、今日新憲法下の第一に行うべき任務であると確信いたすものであります。(拍手)かくてこそ、敗戦日本の連帯責任が真に果せるものと確信いたします。今日こそ社会保障制度確立の絶好の機会というべきであると存じまするが、厚生大臣ははたしてその決意があるかどうか。さらにこの際、農林大臣は、かつての満州移民者に職と生活を与えて行くことが一体できるのかどうか、その計画もあわせて御表明を願いたい。  池田通産大臣は——前通産大臣は、過日の答弁において、貿易振興の政策として四つの条項を明らかにいたしました。その中で、対外競争力の問題をあげておるのであります。しかしながら、この重点たるコスト切下げの問題が、常に今日吉田内閣によつて主張せられながら、今日はたしてどの程度の実績が現われたかを私は疑うものであります。原料、動力、船賃、工場コスト、いずれを見ても、その切下げが成功していないのみならず、むしろ生産費増大の条件を政府みずからがつくり出していると言わざるを得ないのでありまして、主食の値上げをやり、貨物運賃をまた引上げ、やがて電力、石炭を値上げするといつて、ひどり労賃のみに不当にこれをしわ寄せいたしておるのが、今日の自由党内閣の政策でありましよう。(拍手)また大工業のしわを下請工場に寄せつけておるのも、今日の吉田内閣政策であります。(拍手)原料をアジア大陸から入れる、動力並びに基幹産業を国営にする、しかして工業の近代化を的確にはかつて行くのがわれわれの政策であるが、政府はコスト切下げの具体的政策をここに明らかにしてほしい。なかんずく、鉄及び石炭のコスト切下げの政策をどう見ておるか。  重要な、さらに幾多の問題がここに伏在いたすのでありまするが、最後に私は、日本経済に重大な関係を持つておる賠償問題について外務大臣お尋ねをいたしたい。  アリソン来朝の目的は、日本の再軍備促進と、フィリピン等に対する賠償支払いの促進であつたことは、かの日米協会における演説で明らかであります。そして、彼の目的は、太平洋軍事同盟促進の布石をしようとしておることも、すでに鈴木委員長から指摘した通りであります。だが、私が質問せんとするものは、フイリピンあるいはインドネシア等に対し賠償問題の早急な解決をはかると言明した岡崎外交の賠償支払いの態度であります。岡崎外務大臣は、まずフイリピン及びインドネシアとの、今日行われたあの一回の賠償交渉の経過を報告すべきであると存じます。すなわち、講和条約において、第五章第十四条の賠償条項を承認してこれに調印したフイリピンあるいはインドネシアとの問の賠償交渉が何ゆえに失敗をいたしておるのであるか、両者の間の食い違つた問題点がどこにあるのであるか、すなわち第十四条による役務賠償の原則がフイリピン等の現金賠償等の要求との間に食い違いがあつたのであるか、それとも役務賠償の原則には双方これに同意しておるが、その金額や方法について重大なる差異があるのであるか、これを報告しなければならない義務があると存じます。しかして、さらに新聞等によりますれば、政府で第十四条の役務賠償の原則を拡張解釈して解決すると伝えられておりまするが、はたしてさような方法をとるのであるか。  さらに、日本軍隊によつて占領され、かつ日本国によつて損害を与えられた国は、ひとりフイリピンやインドネシアのみではありません。ビルマ、ヴエトナム、カンボジア及び中国もあります。しかも、その要求金額は、中国を除いて、実に百九十七億ドル以上に及ぶといわれております。われわれは、賠償は支払うべきであるという、原則は了承するものでありまするが、それは一定の計画に基いて、各国平等に、しかもそれを支払うことによつて将来双方が確実に繁栄するという方式によつて行うべきであると考えるが、政府の賠償支払いに対する計画を承りたい。しかも、講和条約締結によつて、対外確定債務は、外債の支払分四億八千万ドル、連合国財産の補償が七千五十万ドル、さらにアメリカの対日援助の返済が二十一億ドルの多きに達することを考えてみまするなれば、賠償支払いに対する確固たる計画がなければならないのでありまして、漫然とこれを過すことは断じて許されないものと存じます。政府は、賠償支払いの可能総額を年間約百八十億円、すなわち五千万ドルとして、これを国別配分するとも新聞は伝えておりまするけれども、はたして政府日本の支払い能力をいかに見ておるのであるか。政府が賠償支払、促進の態度を表明したこの際、内外に示す意思はないか。  賠償支払いと関連して、さらにこの際に一言したいことは、アメリカの対日援助についてであります。われわれは、今日まで、すべからくこれが打切り解消を主張して参つたのであります。それは、けだし、終戦来今日まで、二十一億ドルの援助にほぼ相当する……。
  5. 大野伴睦

    議長大野伴睦君) 勝間田君、時間が……。
  6. 勝間田清一

    勝間田清一君(続) 終戦処理費を負担し、しかも、講和後といえども、千数百億円の防衛分担金あるいは安全保障費を負担させられているからであります。
  7. 大野伴睦

    議長大野伴睦君) 勝間田君、時間です。注意いたします。
  8. 勝間田清一

    勝間田清一君(続) 今日まで、吉田内閣は、この対日援助の支払いを打消すことにいかなる努力を続けて参つたのであるか、この所見を最後にお尋ねをいたしたいと存ずるものでございます。(拍手)     〔国務大臣吉田茂君登壇〕
  9. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 勝間田君にお答えいたします。  朝鮮動乱の様相については、政府は、絶えず米国政府側から情報あるいは連絡を受けております。つんぼさじきに置かれておるのではないのであります。また、従つて米国政府の対日といいますか、朝鮮動乱に対する方針が違つたのではないかというお話でありますが、何ら変化は今日まで政府としては認めておりません。その目的とするところは、なるべく早く朝鮮動乱を収めたい、東洋の平和を回復したいう方針にあるのであつて、この方針であるがゆえに、政府協力せんとするものであります。しからば、その協力の範囲はいかんというお尋ねでありますが、協力の範囲は、結局条約及び憲法、あるいはその他日本の国法の止むるところがすなわちその限界であります。それ以上のことを米国政府としては日本に要請するはずもなければ、要請に対してこれに応ずるだけの政府には権限はないのであります。すなわち、国連要望いたしたからといつて保安隊を海外に出すか、これは出しません。また再軍備をせよと言われても、再軍備はいたしません。これがすなしち限界であります。これを再軍備するがごとく、あるいはまた保安隊を海外に派遣するがごとく言われるのは、いたずらに国民を惑わすものであると私は思います。これは反対党といえども、この議会において口にすべきものではない。慎んでいただきたいと思うのであります。  次に、太平洋同盟に入るか入らないか、これは問題になつておりません。日本政府は承知いたしておりません。(「うそを言うな]と呼ぶ者あり)うそは言わない。     〔国務大臣向井忠晴君登壇〕
  10. 向井忠晴

    国務大臣(向井忠晴君) お答えいたします。  昭和二十八年度の予算につきましては、目下鋭意検討中でございますが、その基本的な考え方は次のようであります。今後の財政金融政策としましは、健全財政及び通貨安定の方針を堅持しつつ、総合的に弾力ある運用をはかつて行く方針でございます。昭和二十八年度予算については、財政の許す範囲内で、租税負担の軽減、財政投資による産業資金の充実、民生の安定その他政策をでき得る限り織り込んで編成したいと考えております。  財政規模については、軍人恩給その他新たな支出の増加も見込まれるのでございますが、国民経済全体の規模に適合させる方針であり、この規模は本年度と大差なきものといたしたいのでございます。財政資金計画も目下鋭意検討中でございます。  なお減税については、明年度は今回の補正予算に伴う特別措置を平年化て実施する方針であり、増税するようなことは考えておりません。  均衡財政方式が破綻を来しているとのお話でございますが、おそらく財政資金収支が今回の補正予算で支払い超過となる点をさしたものと考えますが、政府としては、総合資金の収支の均衡を基準としておりまして、経済の実勢に応じて、ときに若干の引揚げ超過となり、ときに若干の支払い超過となるのは、あたりまえのことと存じます。ことに、今回の支払い超過は、資金運用部等の蓄積資金をもつて産業投資の充実をはかつておるので、または運転資金の増加を借入金でまかなうためのものでありますから、破綻を来してインフレになるというような心配は全然ございません。  貯蓄国債に対する私の見解ということでございますが、二十八年度の予算編成とも関連しまして目下慎重に検討中であり、近く結論を得る考えでございます。     〔国務大臣小笠原三九郎君登壇〕
  11. 小笠原三九郎

    国務大臣(小笠原三九郎君) 勝間田土議員の御質問にお答えを申し上げます。  本年度と明年度の経済動向について編成のお話がございましたが、これは、本年度は下期も上半期と大体同様の傾向請で推移し、結局経済規模は昨年度を多少上まわる水準を伴うものと見通しておるのであります。昨年度は朝鮮動乱本で景気が多少何しておりましたが、第三・四半期以後調整期に入つたのでございまして、今年度に入りまして、特に軍拡の引延ばし、各国の輸入制限措置の強化、輸出競争の激化等によりまして輸出の伸び悩みが顕著となり、昨年度十四億ドルの輸出に対しまして、今年は十一億五千万ドル見当ではないかと見込んでおる次第でございます。これに伴いまして、生産の上昇も停滞ぎみとなり、輸出の不振——もつとも内需の方は増加いたしまするので、結局鉱工業生産は、さつき数字の御指摘がございましたが、昨年度の一三〇・二に対しまして本年は一三五・九——五%程度の上昇を示すものと考えておる次第でございます。  なお全体の消費水準についてのお話がございましたが、昨年度より一〇%近く上昇いたしまして、都市、農村を通じまして、戦前の九三ないし九五%程度まで回復するものと見込んでおる次第でございます。  なお本年度の国民所得についてのお尋ねがございましたが、昨年度の四兆八千億円を五千億円近く上まわりまして、五兆三千億程度見込まれます。一〇%程度の上昇でございます。これは鉱工業生産におきまする五%程度の上昇と、農業生産におきまする四%程度の上昇に基くものでございまして、これを各所得別に見ますると、勤労所得において三千億、個人営業所得において二千億を増加いたしました。本但し、法人所得の方はむしろ四百億円程度減少するのではないかと見てお次第でございます。  なお、明二十八年度の経済の見通と、国民所得についてのお尋ねがございましたが、これはなお検討をざいまする点がございましてまだ結論を公表申し上げる程度に達しておりません。右は、例年の、ごとくに、来年度予算を国会に提出しまするころには最終の決定がなされますので、そのころ申し上げたいと存じます。  それから、生産停滞等の事柄についてのお尋ねがございましたが、わが国経済の今の状況は一般的と見るべきものでなくて、むしろこれは、前に池田さんが申された通り朝鮮動乱ブームの調整過程ではないかと考えておるのでございます。  なお、政府は、兵器生産は現下のドル不足を緩和すべき産業といたしまして、いわば輸出産業に準ずる用ものとて考えておるのでありまして、平和産業を軽視するような考えは毛頭持つておりません。  なお、現下の景気停滞に対する対策につきましては、これは企業の合理化とか、産業基盤の強化を促進いたしまするとともに、貿易の振興による等、各般の措置を講じたい所存でございます。  なお綿紡の操短についてお話がございましたが、綿紡というものは、従来自カでもつてすべてやつて来ておるのでございまして、私どもは、さしあたり特別の措置を講ずる必要がないのではないかと考えておるのでございます。担し、お話のごとくに、中小企業にこれがしわ寄せを生ずることになつては困りますので、その点については、特定中小企業の安定に関する臨時措置法の運用と、中小企業の金融面に対する財政資金の投入等によりまして問題を解決いたしたい所存であります。  さらに石炭等の問題についてお話がございましたが、過日来たびたび答弁にありました通り、鉄のコスト切下けにつきましては、設備の近代化、東南アジアの鉄鉱資源の開発、鉄鉱原料輸送費の軽減等を考えており、石炭につきましては、縦坑の大規模な開発を行つてコスト低下をはかる等のことにいたしたいと存じております。  なお、電産ストの解決いかんにかかわりませず、電気料金については値上げする考えは持つておりません。石炭につきましては、御承知のごとく価格の統制は行われておりませんので、もし非常に上りまするような場合がございましたら、海外からの輸入等によつて調整をいたしたい所存でございます。(拍手)     〔国務大臣戸塚九一郎君登壇〕
  12. 戸塚九一郎

    国務大臣(戸塚九一郎君) 炭労の争議に関しましては、両者の主張に当初から非常な開きがあつたのでありまして、なお目下双方の自主的の交渉のさ中であります。その間に政府はあまり容喙はいたしたくないと存じます。なお、炭労並びに電産の争議について、経営者側が圧迫をするとかいうようなお話がございましたが、政府はさようなことは承知いたしておりません。(拍手)     〔国務大臣山縣勝見君登壇〕
  13. 山縣勝見

    国務大臣(山縣勝見君) ただいまの勝間田君の御質問に御答え申し上げます。  まず第一点の、戦争犠牲者に対する援護の問題でございまするが、戦争によつて非常な困難をこうむられ、また非常な困難な立場にあられました方々に対しましては、政府といたしましては十分の考慮をいたし、また援護をいたしたいと思つてつた次第であります。国家補償あるいは扶助に関しましては、御承知の通り、まずもつて戦争によつて戦没されました方々、あるいは戦傷されました方々に対しましては、本年の四月三十日制定されました援護法によつて、及ばずながら援護いたして参つたのであります。なおまた、未復員の方々、あるいはまた未帰還の方々に対しましては、昭和二十二年、未復員者給与法が制定されたのであります。なおまた昭和二十三年には、夫婦還者の給与法が制定されまして、わずかでありますけれども、国家財政の許す範囲内においてこれが援護に当つてつております。しかしながら、これでは十分ではありませんので、今後、ただいま政府において検討いたされておりまする恩給法との調整をはかつてできる限り、国家財政の許す範囲において、これが援護に当りたいと思うのであります。  ただいまは、この戦争犠牲者に関しまして、三点について御質問がございましたが、第一点の、学徒の動員によつて、あるいは戦争によつて死亡されたような、非常にお気の毒な方々に対しましては、御承知でありましようけれども、旧国家総動員法によつて軍需工場等に徴用せられて、戦災によつて死亡された方々が、今お話の通りございまするが、これに対しましては、先ほどの援護法を適用いたしまして、及ばずながら弔慰金を出して援護に当つてつたのであります。  なおまた第二点の、未復員者——未復員と申されましたが、これはおそらく復員患者のことと存じまするが、復員患者の方々が、復員後——復員中に疾病にかかられまして、療養を終えずして、あるいはその後疾病の状態において内地に復員されました方々に対しましては、御承知の通り、未復員者給与法によつて、復員後三箇年間は国家が必要な療養に当つてつておるのであります。なおまた三箇年間にその療養が完了いたしません際におきましては、さらに三箇年間国費をもつてこれが療養に当つておるのであります。なおまた復員患者の方々がお困りでございまするならば、生活保護法によつてその保護に当つてつておるのであります。  なお第三点でありまするが、第三点の、いわゆる満州開拓団の方々で、戦争のあの災厄によつて死亡された方々、さらに、現地において軍の要請によつて軍人になられて戦死された方々に対しましては、御承知の通り援護法によつて、なおまた軍の要請によつて軍人にならずして、戦争によつて死亡されました方々に対しましては、援護法の規定によつて弔慰金を差上げて参つておるのであります。しかし、御承知でありましようけれども、これらの方々に対しまする援護にあたりましては、今後とも国家は、国家財政の許す範囲において、これが援護に最善の努力を払いたいと考えておる次第であります。(拍手)  なお一点、社会保障制度に対する御質問がございましたから申し上げまするが、社会保障制度に関しましては、先般同じ御質問に対しましてお答えをいたしましたように、疾病あるいは年金等の社会保険の面におきましては、国民健康保険あるいは健康保険等の面において、国家は国家財政の許す範囲において最善の努力をいたしておるのであります。なおまた国庫扶助の面におきましては、生活保護法あるいは母子対策の面、あるいは児童福祉法の面において最善の努力を払つて参りたいと考えておる次第であります。(拍手)     〔国務大臣岡崎勝男君登壇〕
  14. 岡崎勝男

    国務大臣(岡崎勝男君) お答えいたします。  アリソン国務次官補とか、マーフイー大使とかいうものについて、再軍備や賠償についていろいろ要請があつたかというお話でありますが、そういうことはありません。これはもちろん日本自身の問題、または日本関係諸国との間の問題でありますので、われわれはさように取扱つております。  また賠償の件につきにまして、当時の交渉の経過は、大分前でありまするが、当時委員会で詳細に説明いたしたのであります。要するに、総額の問題もありますし、平和条約の規定の解釈の問題もありますし、また実施の方法とか、時期とか、あるいはその他の関連する経済協力等の問題がありまして、話合いが十分つかなかつたのでありますが、これは非常に重要な問題でありまするから、短期間にまとまらないということも自然考えられるのであります。この点、さらに詳細に申し上げるのには時間がかかりますので、委員会等で詳しく申し上げたいと考えております。  賠償の今後の役務と現金の関係をどうするかというお話でありますが、これは平和条約の規定に基いていたすわけであります。なお各国というのは、決してフイリピン、インドネシアと申すのではありませんで、ビルマ、仏印三国等ももちろん考慮に入れております。なお、この諸国も、平和条約の規定もありますし、日本の支払能力の限度もありますので、実行不可能のような大きなものにはならないと予想しております。しかし、その総額とか、時期とか、方法等は、今後交渉によることでありまして、まだむろん決定をいたしておりません。  さらに対日援助の問題でありまするが、米国の対日援助につきましては、前に政府でお答えしました通り、これは債務と心得ておりますけれども、イタリアやドイツのこともありますし、具体的の処理につきましては今後の問題になるわけであります。(拍手
  15. 大野伴睦

    議長大野伴睦君) 河本敏夫君。     〔河本敏夫君登壇〕
  16. 河本敏夫

    ○河本敏夫君 私は、改進党を代表し、総理大臣以下の施政方針演説の具体的な質問に入るに先立ちまして、まず昨日池田通商産業大臣が本院において不信任されたことと関連し、吉田総理独立後のわが国政治を運営せられるにあたつての、その根本の心構えについてお尋ねしておきたいのでございます。(拍手)  思うに、わが国において、昭和六、七年ごろより順次軍部の勢力が増大し、遂にはその独裁となり、わが国民を無謀な戦争にかり立て、遂に悲惨な敗戦に追い込んだその原因は、一体那辺にあつたか。それは、昭和四年の世界的な恐慌の余波を受け、わが国が不景気のどん底に追い込まれ、国民が塗炭の苦しみにあえいでいるときに、当時の政党政治が、まじめにその対策を考えないで、党利党略を事とし、国民全体にこのことが非常な不満と相なり、遂にそれに乗じてわが国に独裁政治が出現してしまつたのであります。吉田内閣は、わが国経済の現状について、相当の回復と安定を見たと、きわめてのんきなことを言つておられるが、現状は決してさようななまやさしいものではない。  都会における生活水準は、先ほど小笠原通産大臣は、最近上つておると言われたが、決して上つてはおりません。生活水準は、なるほど全国的にはある程度つておるかもしれないけれども、都会だけを統計にとるならば、最近は逆に約一割低下いたしまして、戦前の七五%にすぎないのであります。また貿易は、本年一月政府予算編成をした当時の見込みより三割も減つておるではないか。物価と生産は、ようやく操業短縮と滞貨金融によつて横ばいを続けておるにすぎないではないか。繊維品その他二、三の商品の暴落は、不況の域を通り越してまさに恐慌状態であるといつても過言ではない。チヤーチルは、昨年十月政権を担当するや、英国の経済は破滅寸前にあると国民に訴え、捨身の挽回策を講じ、ようやく最近好転のきざしを見せるに至つておるが、吉田内閣も、かかる謙虚な気持で、これまでの自分の政治の失敗を率直に認めるとともに、日本経済の現状と前途は決して安易なものではないことを国民に訴えて全力をあげてこそ初めてわが国前途に光明を見出し得るにかかわらず、これまでの失政にほおかむりをして、しかも中小企業が倒れて、五人や十人の自殺者が出ても万やむを得ぬというような態度政治をやるならば、私は日本の民主主義の前はまことに暗澹たるものがあり、再びわが国において、フアシズムや共産主義のごとき議会否認の考え方が国民を支配し、遂には国を滅ぼすに至る危険すらありと断ぜざるを得ないのであります。(拍手)  政治の根本は、頭のよしあしではない。小手先の器用さではない。官僚の技術ではない。政策はもちろん必要ではあるけれども、それよりも、常に国民の一人といえども、飢える者はないか、また困る者はないかと常に肝胆を砕き、あたたかい愛情と、日夜寝てもさめても国家の将来を思う燃えるような情熱が必要なんだ。(拍手)私は、先日の池田前通産大臣の、あの国民に対する無礼な言辞と不遜な態度を見て、このことを痛感するがゆえに、吉田内閣政治に対する根本的な心構えと、また内閣において最も重要な地位を占める池田前通産大臣が本院において不信任せられたその責任を、憲法第六十六条との関係において、いかに考えておられるかについて、吉田総理にお聞きしておきたいのでございます。(拍手)  次に、今後のわが国の基本的な進路についてお伺いいたします。すなわち、わが国は、昭和六年の満州事変以来十四箇年にわたる軍部の独裁と、敗戦後七年間になんなんとする占領、すなわち二十年にわたる圧制と支配から初めて解放せられてここに新しいスタートを切つたのでありまするが、この際まず第一に肝要なことは、複雑な国際情勢のもとにおいて、誤りなくこれに対処して行くことであり、このためには、世界情勢の正しい見通しの上に立たなければならぬということは、論をまたないところでございます。吉田総理は、これまでのたびたびの言明によりまして、米ソ間の戦争はまず起るまいとの見通しに立つて、すべて行動せられておるようであるが、私は、かかる独断的よりいろいろな問題に対処して行くことは、わが国の将来にとりきわめて危険であると考えるものであります。  なるほど、ソ連は昨年来世界各地で平和攻勢を機会あるごとにとつておるので、一見戦争の危険は表面的には遠のいていたようには見えるけれども、これは、朝鮮中共が介入して以来、アメリカ中心とする民主主義諸国家の急速な軍備拡張の速度をゆるめるための、彼らの常套手段にすぎないのであつてスターリンも、去る十月三日、プラウダ紙上におきまして世界より戦争の危険を取除くためには資本主義を絶滅しなければならぬと明言しておることよりも、彼らの意図が明確にわかるのであります。ゆえに、私は、総理のごとく、米ソ戦はまず起るまいとの観点よりすべてのことを決定して行くことはまことに危険であつて、現下の世界情勢と、共産主義者の根本的な世界観により、あるいは戦争の起る場合をも予想して、わが国の基本方針を決定しなければならぬと確信するものであります。(拍手)  わが国戦争に対する根本方針は、あくまでもわれわれはいかなる戦争にも参加してはならないし、また他国の巻添えを食つて戦争に巻き込まれるようなことがあつては相ならぬということでなければなりません。しかるに、現在安保条約に基いて米国がわが国に駐留し、行政協定によつて全国に六百に余る軍事施設を保有し、しかもそのうち三百に及ぶ半永久的施設の中には、二十余の飛行場が入つておる。これらはすでにジエツト爆撃機の基地として活用中であり、あるいは整備中のごとく了承しております。さらに米軍は、日本政府の了解を得ずして海外に出動することができますので、米ソ戦争の起つた場合に、当然彼らはわが国基地としてソ連に攻撃を加え、ソ連もまた当然これに反撃し来つてかくしてわれわれの知らないわが国戦争に巻き込まれていたというごとき最悪の事態をも予想しておかなければ相ならぬのであります。かりに一歩を譲つて、かような事態が起きない場合でも、朝鮮問題の解決が長引くときには、米軍が満州あるいは中国本土を爆撃することをも考慮しておく必要がある。かようなときには、すでに二千機に近い航空兵力を擁する中共よりの報復爆撃をもまた考慮のうちに入れておかなければならぬのであります。すでに原子爆弾が広島、長崎当時の十倍の威力を持ち、さらに水素爆弾の実験の成功が伝えられる今日、もしかようなことがあるならば、その惨禍ははかり知るべからざるものがあります。ゆえに、わが国は万難を排してかような事態の生ずるのを防止するように対処して行かなければ相ならぬと考え、私は、以下この問題に関連し、三つの点について吉田総理にお伺いするものであります。(拍手)  第一に、私は、政府が米国政府に対し、米軍はわが国基地として朝鮮以外に出動しないということを確約させる必要があると考えるが、政府の見解はどうか。(拍手)  第二に、わが国が民主主義諸国との友好関係を維持促進して行くことはあくまで必要であるけれども、他面においてわが国は西欧、濠州、フイリピン等とは歴史的、地理的、人権的に事情も異なつておるし、政府の強調するごとく米国を中心とする安全保障体制のみに依存する策をとらないで、すみやかに必要な軍備を整えなければ相ならぬと信ずる。かような観点から、現在の安保条約はあくまでも一時的のものでなければならぬと考えるのであります。従つて戦争に巻き込まれないためには、安全保障条約を改訂し、または戦争に巻き込まれたくないというわれわれの希望がいれられなければ、これを廃棄する必要があると考えておるものであります。安保条約が廃棄せられるような場合には、米軍は当然わが本土より沖縄あるいはフイリピン等の後方基地に撤退することに相なりましよう。米軍が日本を撤退した場合には、ソ連及び中共よりわが国が直接に侵略を受けるかもしれぬとしておそれる人もあるようであるけれども、私は、共産主義の理論と歴史より見て、まずかようなことはないと考えます。朝鮮においては、地理的な環境と、北鮮が共産化していたという特殊の事情があつたので、現在の朝鮮事変と相なつたけれども、普通の場合に、共産主義者の侵略方法は、共産主義国家が直接に侵略行動に出ないで、植民地あるいは半植民地においては民族解放運動を起し、また農民を主とするパルチザンを順次組織化いたしまして、また経済的に発達した国におきましては、政治的なゼネストによつて革命を起し、共産主義国家が間接にそれそぞれの国家もしくは地域の共産主義者を援助するのが原則であります。従つてわが国においても、中共やソ連からの直接侵略よりも、むしろそれらよわ援助を受ける日本共産党の革命企図に対して万全の備えをいたすことが肝要であると考えるものであります。(拍手)以上のごとき卑見に対して、政府はいかに考えておられるか、お尋ねしたいのであります。  第三に、政府は現在のわが国の自衛力をさして軍備にあらずといわれておるけれども、はたしてしからば、この場合に保安隊員の志気をいかにして維持向上せしめるおつもりであるか。現在のままでは、莫大な国費を濫費し、いたずらに数のみ多くして魂の入らない、無用の長物となるのみか、もし彼らがそのまま将来建設せらるべき国軍の基幹となるならば、あるいはその癌となることすらおそれるものであります。政府は、この際自衛軍の必要なことを表明し、国民感情をその方向に指導し、堂々憲法改正にまで持つて来るよう輿論に大胆に訴えるべきではないか。この点に関する政府の見解はどうか。  以上三つの点について、総理大臣の御意見をお伺いするものであります。  次に、治安対策につきましてお尋ねをいたします。労働対策と治安対策は、政府の最も苦手とせらるるところのようであり、本年に入つて、破防法制定に際し、数度にわたる政治ストを惹起し、ただいまも、わが国の産業界と国民生活に最も関係の深い電産及び炭労のストに対し、拱手傍観としか思えないような態度に出ているのであつて、これはまつたく不可解千万といわざるを得ないのであります。先般の外国人登録に際し、数万の登録拒否者があつたが、その大部分は共産系であるごとく聞いておる。かかる状態では、独立国家の面目いずこにありやといいたいのであります。(拍手)さらにまた、共産党は衆議院においてこそその全議席を失つたけれども、全国においてなお百万の投票を得ておるのであつて、しかも二年前のレッド・パージによつて主要産業から追放せられた細胞も、その後秘密裡に再建せられ、表面の登録党員のほかに六、七戸の秘密党員を擁し、機会あればゼネストを起して、これを契機として革命を実行すべく着々準備を進めております。特に最近の電産、炭労のストも、彼らの組合フラクの指導によるものと伝えられている。かかる状態に対し、政府は、共産党の最高指導部が地下にくぐつてからすでに二年半に舌なんなんとするにもかかわらず、一人を除き、他はいずれもこれを逮捕することができないという状態であつて国民政府の治安対策に対してきわめて寒心にたえないものがあります。政府は、この際、適切な財政経済政策の実行に加うるに、社会福祉政策の徹底に努め、そうして国民生活の安定をはかつて、共産主義の温床の絶滅を期するとともに、地方、官庁内部の共産党分子の粛正、各重要産業及び職場よりの再追放や、その防衛をも敢行し、また暴力より郷土を守るための運動を展開し、共産主義革命の計画に対し十分な準備を早急に整える必要があると私は考えるものであるが、これに対して政府の意見はどうか。基本的な問題に関しましては吉田総理大臣、また具体的な問題に関しましては犬養法務大臣の御答弁をお聞きしたいのであります。(拍手)  次に、産業経済問題について御質問する。第一に、大蔵大臣は、わが国経済政府の言うごとく安定しているかとのたびたびの質問に望まして、単に数字をあげて、あくまで安定していると強弁せられているが、官僚のつくる数字ほどあてにならないものはありません。先ほどの通産大臣の御答弁の、ごとく、生活水準も都会だけを例にとるならば低下しているにかかわらず、全国的な統計をもつてこれにすりかえる。このような官僚のつくる数字は、まつたくあてにならないのであります。  私が冒頭申し上げました一連の事実は、わが国経済政府の言明とは逆に重大な危機に立つていることを示すものであります。この原因は一体どこにあるか。それは、吉田内閣が従前の財政経済政策転換の時期を誤つたことにあります。すなわち、昭和二十四年一月、第三次吉田内閣成立以来、政府は超均衡財政をとつてつたのであるが、その目的は、当時のインフレをとめ、対日援助資金と補助金とによつて成り立つてつたところのわが国経済に終止符を打つためであつた。もともと超均衡財政なるものは、それ自体非常に不景気的な要素を持つておるものであるけれども、それが表面化しないで、比較的順調に昨年をもつてその目的を達したゆえんのものは、池田財政がよかつたからではなくして、その後世界情勢が変化したためであります。(拍手)すなわち、一昨年六月の朝鮮事変を契機といたしまして世界的な軍備拡張や軍需物資の備蓄輸入が増大し、世界の貿易が拡大いたしまして、その影響を受けて、わが国の貿易もまた飛躍的に伸び、加うるに事変による特需が産業界を潤したからであります。しかし、本年に入ると、客観的な情勢は相当かわつておる。このため貿易も減り、特需も、直接産業界に刺激を与える種類のものは、相当大幅に減少しております。加うるに、わが国独立を回復し、自主的な政策をとることができるようになつたのであるから、本年春をもつて、これまでの財政中心政策より、わが党の主張する産業経済中心政策に転換しなければならなかつたはずであります。(拍手)しかるに、吉田内閣は、従前の政策を依然として固執し、絶対多数の上にあぐらをかいて、真剣にこの問題と取組むことをしなかつたがために、現在のごとき憂うべき事態を惹起したのであります。(拍手)この点につきまして、先日のわが党川崎君の質問に対する向井蔵相答弁ではまつたく満足できませんので、もつとわれわれや国民にもわかるるような御答弁をお願いしたいのであります。(拍手)     〔議長退席、副議長着席〕  第二にお尋ねいたしたいことは、わが国経済の自立、換言すればわが国国際収支の正常的な均衡をいかにして達成するかという問題であります。なるほど、現在のわが国の国際収支は、貿易状況の悪化にもかかわらず、表面上は一応均衡がとれております。それは輸入超過をカバーするに足るだけの貿易外収入があるからであります。しかしながら、貿易外収入の大部分は正常的なものではなく、それは、いわゆる特需約三億三千万ドル、駐留軍人及び家族の消費約二億六千万ドル、合計五億九千万ドルを中心とするものであります。すなわち、わが国の現在の国際収支は、朝鮮事変以来の一時的な、しかも僥倖的な特需と、わが国にとつて屈辱的な条件で駐留する米軍及びその家族の消費、換言すれば朝鮮人の犠牲日本人の屈辱の上に均衡を保つておるものであります。(拍手)しかも、この特需三億三千万ドルは、一例をあげれば、一個十二、三ドルもする砲弾を八、九ドルで引受けるという、いわゆる出血受注が中心となつており、また軍人家族の消費二億六千万ドルのうち約二億ドルは、わが国の婦人がその中心をなしておるのであつて、現在におけるわが国国際収支の均衡は、まつた日本人にとつて耐えがたき不名誉なものであるといわざるを得ないのでございます。(拍手)  思うに、日本経済アメリカの軍事支出に依存しておる間は、真の意味におけるわが国独立と自由はあり得ない。しかも、アメリカの軍事支出は、世界情勢のいかんによつて変化するところの、きわめて不安定なものでございます。ゆえに、日本の将来に思いをいたし、わが国当面の財政経済政策の目標を求めるならば、できるだけ早く日本経済を自立せしめ、わが国の国際収支の正常的なる均衡を達成するにありと断ずることができます。(拍手)しかるに、去る二十一日、閣議決定発表の、新内閣の重要施策要綱中には、盛りだくさんな項目が列挙せられておりまするけれども、経済の自立については一言半句も言及していないのであります。(拍手)一体、政府は、米国の軍事支出を当てにしないで、わが国の国際収支の正常的な均衡を達成する必要をお認めになつておるのかどうか。もしその必要をお認めならば、一体今後何年の後においてこれを達成し得るお見込みのもとに財政経済政策を御立案になつておるのであるか。この点を経済審議庁長官お尋ね申し上げたいのであります。(拍手)  次に、為替と物価の関係についてお尋ねをいたします。大蔵大臣は、今後も現行為替レートを維持すると述べられております。現在のわが国の物価水準は、国際的に見て相当割高であります。従つて、現行の為替レートを維持じようとするならば、わが国の物価は何らかの方法をもつてこれを引下げる必要があります。しかるに、総理大臣は、当面の金融方針について、物価の安定をはかると述べられております。もしこの物価が眼前の物価水準を意味するものであるならば、現行の為替レートの維持は困難と相なつて来る。そこで政府お尋ねをいたしたいのは、物価安定の基準を一体いかなる線に置いておられるのか、この点につきまして大蔵大臣お尋ねをいたします。(拍手)  次には、貿易問題につきまして二、三お尋ねをいたしたい。現下の貿易不振には、いろいろな原因がありまするけれども、その重要原因の一つは、政府経済外交の怠慢にあると考えております。(拍手)すなわち、独立後すでに六箇月を経過しておるにかかわらず、現在までに通商航海条約を締結した国は七つ、入国関税等の部分的な通商協定のできたものは二十、目下交渉中のもの若干というありさまであつて、なお世界の主要な二十数箇国とは全然空白状態であり、ガツトヘの加盟もいまだたな上げせられておる状態であります。このために、輸出市場も十分開拓せられないのみか、相手国の事情もよくわからないところが多いのでありまして、東南アジアにおいては、華僑あるいは第三国人ブローカーによりまして、不当な中間利潤をかせがれておる例も非常に多いのであります。政府は一刻も早く経済外交を活発に展開すべきであるが、特に東南アジアの諸国については、まず賠償問題の解決に努むべきであります。賠償を解決せずして、相手国との間に友好的かつ緊密なる通商貿易関係を打開することは、これを期待し得ないのであります。  さらに、東南アジアの諸国は、独立を回復したけれども、依然として植民地的な貧困に悩んでおり、独立の実質的裏づけをなす経済建設のために闘つておるのでありまするけれども、他面、これらの諸国に対する共産主義勢力よりの侵入はすこぶる顕著なものがございます。ゆえに、すべからく政府は大局的な見地に立つて東南アジアの諸国の民族感情を洞察し、これら各国の経済的発展のために協力し、彼らの独立の実質的な達成をはかつてやるという大きな構想のもとに、誠意をもつて、まず賠償問題の解決に当るべきものと考える次第であります。しかるに、政府は、本年一月以降この問題を放棄し、あまり関心がないようであるが、この点に関し政府はいかなる用意を持つておるか、この点、外務大臣お尋ねをいたします  次に、わが国の輸出貿易不振の重要なる一原因は、わが国の国際的な物価高にあります。とりわけ、わが国の重化学工業製品の国際的な割高をいかにして引下げるかは、現下の重大問題であります。政府は、これに対し、先ほども通産大臣から、たとえば設備の近代化による企業の合理化であるとか、あるいは綿花借款のごとき方法による米国よりの鉄鉱石の輸入であるとか、あるいは東南アジア諸国との提携によつて銑鉄及び鉄鉱石を入手するようなことを考慮しておられる旨御答弁がございましたが、かかる方法だけによつて、たとえば国際的に七、八十ドルも高いわが国の鉄鋼を早急に国際水準にまで引下げることは、はなはだ疑問とせざるを得ないのであります。私は、政府のやろうとしておることは、まことにけつこうであると思うけれども、少くともそれらの諸政策がその効果を上げるまで、鉄鋼及びその他一、二の重要品目については二重価格制度をとる必要があると信ずるものであります。(拍手)あるいは、かかる政策は、不当競争であるという非難を恐れる人もあるかもしれませんが、そもそも自分の国の原料に頼つておる国と、全部の原料を外国より輸入するわが国との間には大きなハンデイキヤツプがあり、そのハンデイキヤツプを合理化によつて解消するまで国家が補助をなすことは、一向にさしつかえないところでございます。特に西欧におきましては、輸出貿易に関し、いろいろな国家補助、たとえば輸出産業に対する長期の低利貸付、あるいは輸出品に対する特別の減税、優先外貨制度の採用その他一連の政策を行つて、相当見るべき輸出の実績を上げておるのであります。それでありまするから、わが国におきましても、西欧のような貿易に関する国家補助制度をこの際真剣に研究し、その長所はこれを取入れるべきである。以上の点に関し、通産大臣のお考えをお伺い申し上げます。(拍手)  なお、一方において輸出伸張をはかりながら、他方において不必要な輸入を減少せしめて行くことが肝要でありまするけれども、現在のわが国の輸入品日中、将来これを大幅に減少する必要があり、またその可能性に富んでおるものは食糧であります。このために、食糧の自給態勢確立の問題に論及するのが順序でありまするけれども、すでに先般詳細な質問があつたのでこれを省略いたしまして、次の問題に移ります。  次の問題は、海運の問題であります。貿易外収入と関連いたしまして、海運の復興、すなわち商船隊の拡充についてお尋ねいたします。国際収支の正常な均衡をはかることは経済自立の根本であることは先に申しましたけれども、わが国経済の特殊性より考えまして、貿易においては将来とも依然入超が続くものと予想せられますので、これをカバーするためには、正常的なる貿易外収入に関し根本的な対策を立てるべきは当然であります。(拍手)その大宗をなすものがすなわち海運であります。  数箇月前の計算によりますると、わが国の重要貿易品の価格のうちにおいて、海上運賃の占める割合は、輸入品については二十四、五パーセント、輸出品については六、七パーセントに達しておつた。現在は、運賃の下落から、右のパーセンテージは多少減少しておるけれども、なお相当の部分を占めておるのでありまして、しかも現在のわが国の商船隊をもつていたしましては、わが国輸出入品の平均三割しか運んでおるにすぎず、戦前のごとく第三国間の輸送は皆無に近いのであります。これを輸出入物資とも五割まで輸送するようにして外貨を節約するとともに、さらに進んでは第三国間の輸送にまで従事せしめ、積極的に外貨を獲得し、戦前のごとく、これを貿易外収入の根本たらしめなければならないことは、賛言を要しないところであります。(拍手)  しかるに、商船は純然たる国際商品であり、これを拡充するためには、どうしてもその経済的競争力を外国船と同一にしなければならないのであります。ところが、わが国の物価高のために、船舶の建造費は外国に比べて三割も高く、しかもその金利たるや、米英その他各国ともおおむね三分前後でありまするけれども、わが国はその三倍以上になつており、また外国では税金及び資金調達上いろいろな特典を実施しておるに反し、わが国においては、船舶に対し、逆にいろいろな固定資産税その他の税金を課しまして、重大なる負担となつておるのであります。かかる事情のために、わが国の船舶を運航するコストが、外国に比べまして二倍以上に達しております。そうして海運復興に重大なる支障を来しておるのみならず、せつかく戦後復興の緒につきかけたわが国の海運は、このまま放置せられんか、破滅のほかなき状況であります。政府は、船舶の重大性と、その特殊性にかんがみ、中途半端な対策ではなくして、わが国の商船をして外国船と同一条件で競争させるよう、早急に徹底的な対策を樹立すべきではないか、この点、運輸大臣並びに大蔵大臣の御所見をお伺いする次第であります。(拍手)  次に、国内経済問題について簡単にお伺いいたします。わが国経済界の当面する最大の問題の一つは、企業の合理化と、金利の引下げに必要な資金を大幅に供給することにあります。大蔵大臣は、これまでのやり方を改めて、過去において蓄積した財政資金を放出する、かように言われたけれども、産業資金というものは、単に政府自体の財政資金の投資のみならず、企業自体の資本蓄積によつても調達し得るように対策を立てる必要があろうかと思います。西ドイツにおける最近の目ざましい産業の復興は、企業自体の資本蓄積が容易である点にその大きな原因があるとわれわれは考えている。このため、政府は現在の税制制度を根本的に改革する必要があると思うが、これに対し政府はいかなる具体案を持つておられるか、あわせてお伺いしたいのであります。以上の産業資金の問題は、大蔵大臣とともに、通産大臣に御答弁をお願いいたします。  最後に、日本経済の基本構造及び世界経済における使命についてお伺いをいたします。思うに、日本経済はその基盤がきわめて弱体であり、世界的にこれを見た場合には、民主主義陣営の中小企業にすぎないのであつて、これが育成強化のためには、自由放任政策であつてはどうしてもいけないのであります。経済の自由放任は、現下の国際情勢のもとにおきましては、わが国経済を崩壊せしめ、経済の自立を不可能ならしめるおそれがあります。それであるから、われわれは、資本主義の基調のもとに、繁栄経済を目標といたしまして、わが国経済の基本的構造部分を組織化し、計画化すべき必要があると考えるのであります。(拍手)  さらに目を世界に転ずれば、二大陣営の分裂と対立があるにかかわらず、民主主義陣営内において、米国はわが国に対して高率の関税主義をとらんとし、英国もまた輸入制限を行い、民主義陣営の二大通貨であるドルとポンドの自由交換は不可能であつて、その行き方がまつたく一貫性を欠いており、プレトン・ウツズ協定や国際貿易憲章の精神は、民主主義陣営内部においてすら失われんとしているのであります。かかる世界情勢のもとにおきまして、われわれは国内経済政策につましては経済の組織化を企図するものでありまするけれども、世界経済についてもまた、この原則の具体的実行を強く主張するものであります。政府は、この際米英その他の諸国を説いて、民主主義諸国家の国民経済相互間の計画化をはかり、相ともに繁栄する世界経済の建設を呼びかける等、雄大なる構想をもつて邁進すべきものと思うが、その熱意と用意ありや。この点、総理大臣お尋ねをいたしまして、私の質問を終るのであります。(拍手)     〔国務大臣吉田茂君登壇〕
  17. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) お答えをいたします。  世界第三次戦争に対する私の判断は、独断ではないのであります。イギリスのチヤーチル首相にしても、外務大臣のイーデン氏にしても、またアイゼンハウアー将軍、アチソン氏等の英米の当局者は、民主自由主義の国家の防衛準備が進むとともに世界第三次戦争は遠のいたと言つておらるるのであります。またソビエトのスーターリン氏にしても、自由国家との間の戦争はない、しかしながら資本主義国家の間に戦争は起るかもしれない、こう言つているのであります。この判断は、すなわち私がもつてこれを論拠にいたす次第であります。ゆえに、かかる判断があるにもかかわらず、米ソ戦争ありとしして、その前提のもとに、米国政府にある保障を求めるということはすべきでないと考えます。  また、憲法を改正して再軍備の用意をするというがごときことも、これは適当でないと考えます。現在のところは、安全保障条約を基礎として保安隊を強化して、自衛力を漸増することによつて国家を防衛する、これがわが国として進むべき道であると確信いたすのであります。  また最後に、池田国務大臣に対する不信任の決議が内閣全体として責任を負うべきものであるというふうなお考えのようでありますが、この不信任案はまことに遺憾なことでありますが、これは池田国務大臣の所論に対しての不信任の表明であつて憲法の六十六条にいわゆる内閣の行政権の行使に対する不信任とは考えません。(拍手)     〔国務大臣犬養健君登壇〕
  18. 犬養健

    国務大臣(犬養健君) 河本君にお答え申し上げます。  暴力主義的破壊活動が、世界的な規模をもつてわが国の方にその重要なほこ先を向けて来ていることは、御承知の通りでございます。これを分析してみますと、日本国内において革命の中核勢力を確立させる。それをもつと掘り下げて行きますと、武装蜂起というような空気が漂つております。一方には、国家機構に対して一般国民に反感を持たせる。警察とか検事とかいうものはいやなものだ、こういう方の方策も行われているように思いますので、従つて、これらの複雑な暴力主義的破壊活動に対する対策といたしましては、捜査活動を非常に能率化すると同時に、検察とか警察とかいうものを民衆に親しませる、二つの問題があると思うのでございます。過般国会を通過いたしました破壊活動防止法の運用にあたりましても、当局に、良識と知性をもつて国民がまつたくあれならやむを得ないと考えるような態度でもつてこれを運用させたいと思いまして、就任以来、機会あるごとに、その訓示を行つている次第でございますが、さりとて、能力の強化ということをなおざりにしてはまつたくいけないと思つております。捜査活動の拡充強化というものは、結局科学的装備、無電であるとか、電話線の拡充とか、ジープとか、受信機とか、できればアメリカのFBIのように、映画機械というようなものを、十分な予算をとつて装備いたしたいと思つております。もう一つ、これはこれまで外部の方になかなか御理解願えませんでしたのは、捜査費を十分持つということであります。これは、何となく、スパイを使ういやな費用だというような感じがありまして、なかなか予算がとりにくかつたのでありますが、今度は、法務当局といたしましては、現に補正予算におきまして、ほかの予算の査定は一切大蔵省の査定に従うが、捜査費だけはどうしても十分もらいたいということで実現したわけであります。この点に対しましても御理解を願いたいと思います。もう一つは、ただ国内の活動を放置しているだけではいけないのでありまして、密入国とか密出国とかいうことで、いろいろ連絡が行われますので、この方の組織も現に強化いたしております。またもう一つは、ある一定の地域に固定して置く警察力だけではどうも不十分だと考えまして、機動的な警察力というものを強めたい、こういうふうに考えておりまして、これらのすべての点で拡充強化を行いたいと存じております。  また朝鮮人のことを言われたのでありますが、外国人の登録は、大体九〇%以上登録が済みました。お話のように、韓国人の中には非常に破壊活動に従事しているものもありますが、これに対しては断固取締りを続けますと同時に、一方、非常に善良な韓国人がとばつちりを受けている例もなきにしもあらずと考えますので、これらはとにかく隣の国で、善隣友好をなさなければならない人たちでありますから、その困窮した生活とか、学校の教育とかいうことでは、格段の、十分の注意を払つて日本国民としての心持を差向けて行きたいと存じております。  以上御了承を願います。(拍手)     〔国務大臣向井忠晴君登壇〕
  19. 向井忠晴

    国務大臣(向井忠晴君) 一般的に申しまして、最近のわが国経済情勢は、世界経済の影響もありまして、貿易規模が多少縮小していることは事実でございますが、生産及び消費は徐々に上昇して、物価はおおむね横ばいである等、経済全体としては大体安定しているものと存じます。政府としても、国際経済に伍して経済の自主及び発展を遂げるように、産業合理化、設備の近代化によつてこれを改善して行きたいと存じます。物価水準のあり方につきましては、一般的にいえば、国際物価に適応した線で安定することが望ましいと思つておりますが、国際物価の動向はほぼ安定をとりもどしたような状態でございます。わが国の物価の国際的適応ということは、現行の三百六十円為替レートを基準として行われているのでありまして、国際収支も全般の状況は受取り超過の姿にありますから、その点を考えて、このレートは変更する必要はないと存じます。生産において設備の合理化、近代化を進める等の方途を講じて、状態を改善して行くことも必要と思います。政府としましては、現行レートを堅持して、これを中軸として国内物価の国際物価への適応を進めて行きたいと思います。  それから船舶につきましては、本邦の船価が英国等の競争力に比して割高であるのは事実でありまして、これに対し補給金を交付して国際価格まで引下げてはどうかという議論もございますが、対外的競争力はまず企業の合理化等による生産コストの引下げによるべきであつて価格補償金というような安易な方法によるべきことは適当でないと存じます。しかし、海運業の重要性につきましては、政府としても十分これは認めておりますので、従来ともいろいろこれが助成の対策を講じて参つたのでございますが、最近の海上運賃、事業の不振に対応いたしまして、船舶建造資金に対する融資割合を相当引上げました。また市中金融機関からの融資につきましても、利子補給金の道を開いております。  次に資本蓄積のための問題でございますが、今後の財政金融政策としましては、経済基礎の充実強化に資するため、まず民間資金の充実をはかることが必要で、企業の自己資本の充実、組織の増強をはかることが必要でありますので、政府としましても、今後一層資本蓄積を促進して参りたいと存ずるのであります。貸出し金利の調整、外貨資金の活用、企業の減価償却制度の……(「もつと大きな声でやれ」と呼ぶ者あり)企業の減価償却期間の短縮、預金利子課税の適正化、株式の譲渡所得税の廃止等について検討を進めて行きたいと考えております。  長期産業資金、中小企業資金等については、今後とも財政資金による投資の充実をはかつて参ります。(拍手)     〔国務大臣小笠原三九郎君登壇〕
  20. 小笠原三九郎

    国務大臣(小笠原三九郎君) 河本さんの御質疑にお答えいたします。  経済の現状を政府は安定したと見るかどうか、またむしろ憂うべき状態ではないかという意味のお話でござりましたが、近年日本は、その貿易等によりまして、国際収支は相当改善いたしておるのでありまして最近、世界的な貿易規模の縮小傾向にもかかわりませず、日本は特需等の補いもござりまして、国際収支は年々黒字になつております。現在、ドル換算で、御承知のように約十一億ドル以上の外貨を手持ちしているような状況でござります。国内物価面より見ましても、朝鮮動乱の影響によりまして一時下りましたけれども、大体ここ数箇月一五一ないし一五二程度でござります。なお、都市、農村を通じましての消費水準は、先刻申し上げました通り、年々上昇をしておりまして、都市七八、農村一一四、大体九三程度に回復いたしておるのであります。全体として、大体経済は安定したと申してよろしいと存じまするが、しかし、最近の状況考えますると、無条件に楽観することはできないので、時に応じて適当の対策を立てる必要があると存じます。  鉄鋼等について当分二重価格をとる必要があるではないかというお話がござりましたが、この点につきましては、日本のものが国際的に相当高くなつておることは河本議員が御承知の通りであります。しかし、製鉄会社におきましても、輸出促進の政府方針にのつとりまして、船舶その他のプラント輸出等に対する鉄鋼価格を——鋼材価格を引下げておりまするし、まあ日本としては、金業が自立して合理化することを望んでおるのでござりまするから、補給金制度はさしあたりのところなるべく避けたいと考えておる次第でこざります。  なお鉄鋼価格引下げの問題につきましては、先ほどもお答え申し上げました通り、合理化三箇年計画を進めておりまするほかに、東南アジア原料市場の開拓とか、あるいは原料輸送の合理化とか、長期買付の水準とか、金融の便利とか、金利の低下等をそれぞれ考えておるのでございますが、なお日本技術のためにきわめて輸出貿易の重要なることをお説きになりまして、まことに御同感でございます。これに対する対策といたしましては、一番大きな原因が各国の輸入制限による点にあるのでござりまするから、経済外交を十分に展開してその緩和をはかりたいと考えております。また、今持つておりまする外貨十一億ドルをうまく運用いたしまして、できるだけ原料をよけい買いつけることによつて日本の製品をその方面へ売りたいと考えておるのであります。  さらに、日本の輸出品が今のように国際的に高いという問題につきましては、先刻鉄のときに申しましたように、金融の円滑化、金利の低下等、あらゆる点からコストの引下げをはかつて、これに伴う措置を講じたいと考えております。  さらに、資本蓄積のために税制改正を必要とするではないかとの御所見に対しましては、まつたく御同感でございます。これにつきましては、社内留保金についての税の軽減、特別償却等の措置につきましてすでに講じてある点もござりまするが、なお大蔵省とも協議を進めたいと考えております。(拍手)     〔国務大臣石井光次郎君登壇〕
  21. 石井光次郎

    国務大臣(石井光次郎君) お答えいたします。海運国日本の再建のために政府がとる方法については、ただいま大蔵大臣も申し上げましたが、その具体化の第一歩といたしまして、本年度から外航船の建造に対しまして利子補給をするということに政府はきめまして、今度、本年度造船建造予定のなお残つておりまする五万トンから適用するつもりでおります。近く法律案を国会に提出するつもりであります。そのほかに私ども考えておりますることは、造船に対しまする財政資金の融資比率の引上げ、また市中金融機関の船舶建造融資に対する損失補償制度の確立、海運企業に対する租税の軽減、また造船用鋼材価格の引下げ等というような問題を考えておるのでありますが、目下関係各省と折衝中でございます。(拍手
  22. 岩本信行

    ○副議長(岩本信行君) 西村榮一君。     〔西村榮一君登壇〕
  23. 西村榮一

    ○西村榮一君 朝鮮の休戦会談は決裂いたしまして、仏印の戦闘はまずく激化いたしておるのであります。ソビエト・ロシヤは十三年ぶりに共産党大会を開催いたしまして、共産主義の世界制覇に対する柔軟性ある世界攻勢を宣言いたしたのであります。時あたかも朝鮮問題の解決と積極政策を標榜いたしまして、アメリカにおきましてはアイゼンハウアー元帥が大統領に当選いたしたのであります。今、洋の東西を問わず、全世界ははげしく動いておるのであります。すなわち、歴史の一大革の前夜に直面いたしておるのでありますが、かくのごとき際において、戦い敗れたりといえども、東洋の安定勢力として、わが日本が、世界の平和と安定、アジアの繁栄についてその方針を明示することが、現下最大の急務なりと私は信ずるのであります。(拍手)しかるに、過般行われました政府の施政演説の中には、その片鱗だも示されておりません。私は、日本社会党を代表いたしまして、国民の問わんとするところを政府にただし、わが国外交の行くべき道を明らかにいたしたいと思うのであります。  私は、まずこの際わが党の立場を明らかにいたしておきたいのでありますが、自由と民主主義を擁護して、世界の平和を確立せんとの念願が、わが日本社会党の立党以来の大精神であるということは、ここに餐言するまでもありません。しかしながら、現在、日本国民が、自由と民主主義の原理のもとに世界平和を確立するためには、それらの諸国といかに提携するかという具体的なる方針を踏み出さんとするには、まず第一に、私どもは、自由と民主主義の世界的な共通理念を確立するとともに、それに基く国際条約の上に、それらの民主主義と国際間の自由が具体化されておらねばならぬことを確信いたすのであります。しかるに、かくの、ごとき見地に立つてわが国の現状を考えてみまするときに、自由民主主義国家との間において、文明国の名に値する自由と平等の国際条約が締結されているやいなやということを考えてみまするならば、現状はまことにもつて遺憾しごくといおざるを得ないのであります。(拍手従つてわが国現下の重要問題は、かくのごとく自由と民主主義の立場に立つて世界の平和を確保するためには、まず現在わが国独立主権を制約し、自由を拘束するところの一切の国際条約の改訂ないし是正をわが国外交の基本方針とせねばならぬと、わが党は確信いたしております。(拍手)  私は、この際、まず政府にお伺いしなければならない重要な点は、行政協定の改訂の問題であります。本問題は、しばしば国会において取上げられましたから、政府は十分御了承のことと思うのであります。本行政協定が締結せられた当時より今日に至るまで、国論あげてこれに反対して来たのは何かと申しまするならば、それは裁判管轄権における属人主義であります。このことによつてわが国の裁判管轄権は否定せられ、ひいて独立主権への重大なる侵害を受けつつあるのであります。本行政協定のごとく、厖大なる特権を外国軍隊に付与したことは、近世五十年の世界歴史の中にその類例を見ざることは、これは吉田総理のつとに御了承のことと思うのであります。(拍手)屈辱的にして、かつ不平等な条約なりとして、今日なおフイリピンが批准たいしておりません、一九四七年の米比協定に比較いたしましても、わが国の不平等性と屈辱性は雲泥の差があるのであります。いわんや、北大西洋同盟協定とは本質的に異なるものでありまして、この属人主義による裁判管轄権の否定は、他国に対して従属を意味いたします。自由と平等を建前とする近代文明国家においては、その類例を見ざる片務的屈辱条約が今回の行政協定であるということは、現内閣は御了承のことだと思うのであります。かくのごとき数世紀前の遺物たる不平等条約を、和解と友好の名において締結せられた吉田外交に対して、国論一致の反対は当然であると申さねばなりません。(拍手)  しかしながら、国をあげての反対論に周章狼狽した吉田内閣は、本行政協定は北大西洋同盟協定が批准せられた際において、それに基いて改訂するか、あるいは批准せざる場合においても、本協定発効後一箇年経過後に、日本の選択によつて改訂し得るものであるということを規定いたしました。ゆえに、たとい北大西洋同盟協定の批准が未完了であつても、一年後には改訂し得るものであるということは、政府はしばしば国会において繰返し説明をせられて、当時の国論の憤激を慰撫されたことは、今日なお御記憶に新たなるところであろうと私は存ずるのであります。(拍手国民もまた一箇年後に期待をかけまして、やむなく本行政協定を黙認いたしたのであります。本行政協定が成立いたしましてからすでに九箇月を経過いたしております。この間における国際情勢は大なる変化を遂げております。日本の国際的地位と責任もまた変化いたしておるのでありまするが、現内閣は、この改訂条項について、その後アメリカといかなる交渉をなさつたのであるかという、その交渉の経過について、本日私はお伺いいたしたいのであります。(拍手)万一箇年を経過いたしまして、本行政協定の改訂が行われないといたしまするならば、それは吉田外交はダレス外交に一ぱいひつかかつたのであるか、(拍手)あるいは吉田内閣国民を欺瞞したのであるか、いずれかに属するものであると考えざるを得ないのであります。(拍手従つて、ダレス外交に一ぱいひつかかつたとするならば、その外交の失態の責任はいかなる方法においておとりになるか、あるいはまた、本行政協定を通過せしめんがために、時の方便として国民を欺瞞したといたしまするならば、その政治責任は一体いかなる方法においておとりになるかということを、明確に御答弁願いたいのであります。  本行政協定の改訂が何がゆえに重視せられるかといいまするならば、二日前の本院において、岡崎外務大臣はかような答弁をなさつておられます。国連軍日本に駐屯する上からはアメリカ軍との差別待遇をしないようにしてもらいたいという申入れをされていると、岡崎国務大臣は本議場において説明せられました。すなわち、外国軍隊の駐留条件を日米行政協定の線で締結するか、北大西洋同盟の線で締結するかということは、けだしわが国にとつて現下の重要問題であるのであります。一昨日、川崎君の質問に対し、吉田総理大臣は、川崎君は国際法を少し勉強して来なさいと侮辱的言辞をなされました。私は吉田さんのくせを知つておりまするから、大して気にもとめませんけれども、国民代表として質問しておる者に対しまして、これは大なる侮辱であると申さねばなりません。  しからば、私は総理大臣にお問いしなければならない。アメリカが何がゆえに北大西洋同盟条約が批准された後に行政協定を改訂すると約束したかと申しまするならば、これを善意に解釈すれば、北大西洋同盟に示された外国軍隊の駐留に関する各国のとりきめは、これは第二次世界大戦後において新しく生じた国際条約のひな型であります。従つてわが国がこの新たなる国際通念に従つて外国軍隊の駐留に関するとりきめをなさんとするのであるか、あるいはまた、戦勝国が暴力と権力をもつてする敗戦国に対する外国軍隊の駐留の規定に従うのであるかということは、文明の尺度を測定する重要問題であるということを吉田総理大臣は銘記していただかなければならぬと思うのであります。(拍手)それとともに、本行政協定の改訂は、国連軍との協定並びに今後発生するわが国の国際的地位に関する重大なる前例となりまするがゆえに、本行政協定改訂の成否は、国民の刮目しておるところであります。従つて、本問題についてアメリカとの約束通りに改訂ができるか、あるいはできなかつた場合においては、現内閣はいかなる手段をとられるのであるか、吉田総理大臣の常套手段である、外交は相手があるから日本だけではいかんともいたし方がないと、この行政協定の改訂にもお逃げになるかもしれませんけれども、この問題だけは、行政協定を承認する基本的条件でありまするから、相手があるということで逃げるわけには参りません。吉田総理大臣は腹をくくつて答弁を願いたいと思うのであります。(拍手)  第三にお伺いしたいことは、国連軍との駐留協定について、その後いかなる交渉経過にあるかということであります。国連軍との駐留協定につきまして率直に希望を申し述べますれば、第一に、裁判官轄権は北大西洋同盟協定の原則によること、第二に、駐留軍の財政負担は国連軍においてなすこと——保安庁長官、聞いていてくださいよ。第三は、施設の提供は国民経済並びに国防上重要ならざる地域に限定すること、第四は、労務並びに物資の調達は、直接調達の方式を避けて、日本政府を通ずる間接調達とすること、以上の諸要求は、いずれも日本国のみが特別の取扱いを受けんとするものではございません。これは自由民主諸国が取結ぶ従来の慣例に従うものでありまして、このことは、北大西洋同盟協定に示されました相互援助の原則を日本にも適用されんことを要求するのでありましてこれは世界的な常識であります。  最後に、私は、簡単なようでありまするが、かんじんなところを希望申し上げておきまするならば、国連軍の駐留期間は、これは朝鮮の休戦会談の成立するまでと限定しなければならないと思うのであります。休戦会談が成立いたしましても、国連軍に、監視兵その他の名目をもつて朝鮮にある期間中までも駐兵権を認めるということになりまするならば、わが国外国軍隊が永久的に駐兵せられる危険がありまするから、これは朝鮮休戦協定が成立するまでと、あくまで限定すべきものであると思うのであります。この要求を、現内閣は国連軍との交渉に際しまして貫徹せられる御意思があるかどうか、また見通しがあるかどうか、この点を承りたいと思うのであります。  これは、私が先ほど申し上げましたように、国際法の現在の常識でありまして、文明国家であるならば、このことは論ずるまでもないのであります。従つて、自由民主主義の陣営において協力せよと国連軍が要求いたしまするならば、この国際的な常識は国連軍において承認するのが当然であると私は確信いたしますが、万一国連軍においてこのことを承認しないといたしまするならば、国連軍が称する自由と民主主義と平等と博愛の政治スローガンは、それは西欧諸国のものであつて、東洋並びに敗戦国には適用しないものであるという印象を事実によつて日本国民に証明するものと言わざるを得ません。(拍手)しかりといたしまするならば、われわれは率直に申しまして、かくのごとき不平等条約を国連軍わが国に押しつけようとするならば、国連に対する協力を拒否しなければならないであろうということを、残念ながら申し添えておかざるを得ません。  今日、国連軍との間において、裁判管轄権の問題を中心といたしまして、幾多の紛争事件が起きております。その紛争の原因は、わが国国連軍との間に駐留協定が表成立であるという点にあると世人はいうのでありますが、私は、これは問題の重要点ではないと思つている。要するに、問題の核心は、サンフランシスコの対日講和条約に基く日本権利条項の適用完遂について、わが国外交が適切なる手を打つていたかいなかにあるのであります。すなわち、サンフランシスコ条約第六条におきまして、条約発効後九十日にして一切の外国軍隊は撤去しなければならないということが明記されておるのであります。よつて日本国政府は、この対日講和条約第六条に従つて、条約発効後九十日経過してもなお存在する外国軍隊に対しましては、その撤退を公式に要求しなければならないのであります。この要求を提出して、なおかつ外国軍隊が日本に無条約のままに駐留するということでございまするならば、それは講和条約に対する違反でありまするから、わが国は法律上駐留否定の権利が発生するのであります。同時に、かつての占領軍としての一切の特権は剥奪されておるのであります。従つて講和条約発効後九十日経過してわが国に駐屯しておりまする外国軍隊は、外国人の旅行者として取扱うか、あるいは外国軍隊の一時的国内通過としてその特権を認めるかいなか以外には法律的根拠はないのでありまして、われわれは、今日国軍が無条約のままに日本に駐屯しておるということに対しては、この二つ一の取扱い以外には方法がないと思うのであります。従つて、無条約のままにおるといたしまするならば、それは講和条約発効後九十日にして、占領軍としての一切の特権は失つておるのであります。このことは、私は議論の余地がないと思う。  そこで、この問題のけじめを明確にして、外交上の紛争の禍根を絶つという抜本的対策は、サンフンシスコ条約第六条に基く外国軍隊の占領軍としての撤退を日本国政府は正式に要求すべきであるが、一体日本政府は、講和条約第六条に基いて、占領軍隊に対して条約の完全実施のために撤退を公式にか非公式にか要求された事実があるかどうか。事実があるとするならば、その年月日を示していただきたい。要求されたといたしまするならば、その要求の文面をこの際明らかにしていただきたい。また要求しなかつたとするならば、何がゆえに要求しなかつたかというその理由を、総理大臣並びに外務大臣は、この席上において明らかにしていただきたいと思うのであります。  第四に、先ほど来問題にもなつておりましたが、私はこの際明らかにしておきたいと思いますることは、国連に対するわが国義務の範囲であります。昨年九月八日締結せられましたサンフランシスコ条約第五条に基きます日本国国連に対する義務条項でありまするが、これは、国連憲章に従いまして、わが国国連の命令には従わなければならない、援助しなければならないという義務条項であります。この国連協力義務条項の範囲並びに限界でありますが、この義務条項は、日本の軍事並びに財政上の義務を負うものであるかいなかということが、いまだ明確にされていません。しかしながら、わが国は、いまだ国連の決定に対し何らの発言権も関与の資格もないことは、これはつとに御了承の通りであります。それとともに、わが国の能力は、財政的にも軍事的にも皆無であるという二つの事実から見て、おのずとその義務条項の範囲は限定されておるものと常識上判断いたすのであります。しかしながら、アメリカ大統領の更迭といい、世界の険悪なる現下の情勢から行きまして、これを法制的に明確にしておかなければならぬと思うのであります。かくのごとき国際条約、すなわち広汎なる白紙委任状のごとき義務条項を負う上からは、従来の国際条約から申しますならば、当然それは基本条約とは別に、その取扱いについて、附属協定か別個なとりきめがなされておらなければならないことは、これは当然であります。そこで、本講和条約第五条の基本条約以外に、広汎なる白紙委任状を義務条項として出す上からは、その義務を遂行する限界と能力について、現内閣は列国との間において何かとりきめがあるかどうか、あるいは附属協定があるかどうかということを、私はお尋ねしておきたいと思うのであります。  方一かようなとりきめがないといたしまするならば、私は、この際、この国会において、国連義務条項第五条について明確にいたしておきたいことは、わが国憲法とこの講和条約第五条とは真正面に対立しておることであります。従来の慣例から申しまするならば、その国の憲法と矛盾した国際条約を結びまする場合においては、憲法を改正した後でなければその条約を結ぶことができないのであります。従つて、現在の講和条約を結ぶときに、関係諸国は、日本国憲法第九条には、国際紛争を解決する手段として武力を用いない、日本は永久に戦争を放棄するという規定が存在しておるということを承認の上で調印されたのでありますから、政府が、講和条約第五条に基く日本義務条項について、何らのとりきめなくして白紙委任状を出したといたしまするならば、その義務条項の限界というものは、わが国憲法第九条に基くものであつて従つて私は日本国憲法が優先的に解釈されるものと考えておるのであります。  このことを、なぜ私がくどく申し上げるかと申しまするならば、現在朝鮮の出兵並びに太平洋軍事同盟が云々されておるときに、この解釈を明確にしておくことが、私は抜本的な解決の一つなりと信じまするがゆえに、政府に対しまして、講和条約第五条に基くこの義務条項について、何らかの約束があつたか——約束がなかつたならば、私は、日本国憲法解釈が優先されておるものであつて従つて講和条約第五条に基く国際連合に対する義務条項は、軍事、財政の負担を意味するものではなくして、それは精神的、思想的な協力の限界があるということに解釈しておきたいのであります。(拍手)  最後に吉田総理大臣にお伺いいたしたいことは、第四次吉田内閣は、はなはだ同僚諸君を前にいたしまして言いにくいことでありまするけれども、自由党の内紛と、反吉田的空気の中に、強引に組閣されたのであります。私は、その吉田さんの心臓と自信に対しましては敬意を表するにやぶさかではありません。しかしながら、吉田総理大臣は、従来しばしば、講和問題の処理のために政権を担任するのであつて、他意なく、特に政権に恋々とするものでは断じてないと声明せられて参りました。世人は、幾多の内政上の失敗、外交上の過失はありましたけれども、この総理大臣の言動を是認いたしまして、ひたすらわが国独立のために忍びがたきを忍んで今日に参りました。従つて、サンフランシスコ条約の調印の後においては、吉田さんが当然その職を辞されるであろうと世人は期待いたしたのでありまするが、依然としてその職にとどまり、しかも、このたびは鳩山氏との公約を無視いたしまして第四次吉田内閣を成立せしめられたのであります。しからば、内政に行き詰まり、外交は八方ふさがりとなり、その威信を国家内外に失いつつ、あえて政局を担任せられたる吉田茂氏の真意那辺にあるかと、世人は問わんといたしておるのであります。  これに対して、世間は二つの解釈を下しております。一つは、吉田茂氏個人の権勢欲に基く居すわりであるのであるか、あるいは一部に伝えられるごとく、アメリカとの約束を遂行するために居すわらねばならない状態にあるのか、いずれか一つなりと世間は推察いたしておるのであります。すなわち、世人は、吉田首相がいかに再軍備せずと主張いたしましても、サンフランシスコ条約調印前において、ダレス氏との間に、再軍備並びに太平洋軍事同盟についてはある程度の約束をしている。しかも、条約調印後最後に来日せるダレス氏から、この問題について最後のだめ押しをされておるのであります。現に昨年アメリカに行かれた、吉田首相の特使と称する白洲氏は、何の目的を持つてアメリカに行かれたのであるか、使命が明らかになつておらないことが一つの証拠であります。(拍手従つて、ダレス氏と再軍備並びに太平洋軍事同盟の問題の約束を果すために内閣をつくられたのであるか、あるいは吉田茂個人の政権欲のために内閣に居すわられたのであるか、いずれであるか、どつちか一つであるといわざるを得ないのである。苛烈なる試練の前に立たされている日本国民といたしましては、かつ吉田氏個人の名誉のために、私は吉田総理大臣が個人の権勢欲から内閣に居すわつたとは信じたくはありません。しからば、他に一体いかなる政治目的があるのか、その政治目的は、内閣の政策の中にも、施政の方針の中にも、片鱗も示されておらないのであります。国際情勢はまさに風雲急を告げて、世界歴史はまさに一大転換をせんとするとき、何らの目的もなくして権勢の地位にとどまることが、はたして許されるかいなや。(拍手)私は、吉田茂氏並びに日本国民のために、その組閣の政治目的をこの際明らかにして国民の向うべき道を明示すべき責任総理大臣に存在すると思うのであります。  今より三十年前、第一次欧州大戦に敗れたるドイツは、全権大使をヴエルサイユに送りました。そのときに、ドイツの全権大使は、ドイツ国民に対し、連合国は武力によりわれわれドイツからドイツ国民の名誉と生活を剥奪せんとする、ドイツはそれを防禦する力がない、ドイツは優勢なる連合国の武力の前に屈せざるを得ない、ドイツ国民はこの条約を受諾すべきやいなやという血の叫びをもつて全ドイツの国民に呼びかけるとともに、戦争責任はひとりドイツのみが負担するにあらず、欧州諸国の帝国主義的国際空気が戦争責任であつて、その戦争責任は全欧州諸国が共同で負担すべきであるという点を連合国に力説いたしまして、講和条約をして有利に展開せしめんがために、ドイツの全権大使は必死の努力を続けたのであります。  さりながら、私はこのことをいまさら吉田総理大臣に要求するものではありません。サンフランシスコにおいて講和条約を締結しなければならなかつた敗戦国の悲劇として、私はこれを了解するものであります。しかしながら、この吉田さんのサンフランシスコにおける調印に対する了解と、その後における吉田総理大臣に対する不満と憎悪とは、おのずと別個のものであります。私は、吉田総理大臣があの屈辱的な不平等条約を結びつつ、何らそれに対する自責と懺悔の念を感ぜず、あたかも凱旋将軍のごとく気負い立ち、あの条約が最善のものであると主張して、てんとしてその職にとどまる心事を憎悪するのであります。(拍手)  歴史は、敗戦より独立までの政治家と、独立後の政局担任者とは、厳然区別いたしております。占領中における政局担任者は、みずからその悲劇的使命を自覚しなければなりません、その自覚の上に立つて運命のめぐり合せの国家的な役割を、敗戦国の政治家は果して来たのであります。一九一九年、第一次大戦後において、ドイツはヴエルサイユにその全権大使を送りました。そしてあの不平等的条約を受諾いたしました。そのときに、ヴエルサイユ条約に調印したときの全権大使は、ベルリンに帰還するや、駅頭より全ドイツの国民に何と呼びかけたか。本ヴエルサイユ条約こそは、屈辱的にして、ゲルマン民族を地上より抹殺せんとする苛酷なものである、しかしながら、ドイツの現状は、悲しいかな、この苛酷きわまりなき条約を受諾せざるを得ない、私はこの目で本条約を見た、この手でこの条約を調印して参りました、全ドイツの国民よ、諸君は必ずや本条約に不満と憤激を感ずるであろう、諸君よ、こいねがわくば、本条約に不満を持つならば、憤激を感ずるならば、本条約を見た私の目をえぐりたまえ、調印した私の手を切り取りたまえ、この屈辱的にして残忍なるヴエルサイユ条約が、諸君の奮起と努力によつて改訂せらるる日を私は待望するものであります、全知全能の神よ、こいねがわくばドイツ国民に力と恵みを与えたまえ——彼は神に祈りつつ、老妻とともにベルリンを去つて政治的自殺の道を選んだのであります。私は、このドイツ全権大使の言葉と教訓とを吉田茂氏に進呈し、率直なる心境と、第四次吉田内閣政治目的を明らかにせられんことを希望するものであります。  吉田茂氏の股肱の忠臣池田勇人すでに倒れ、岡崎勝男やがてそのあとを追わんとする。これ人のなせるわざにあらず、天意なり。天すでに去り、人また去る。自由党員また去らんとするときに、一体吉田茂氏は、いかなる目的と心境とをもつてこの内閣を担任せられたか。私は、率直なる見解と、第四次吉田内閣政策を明示せられんことを重ねて要望いたしまして、私の質問を終る次第であります。(拍手)     〔国務大臣吉田茂君登壇〕
  24. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) お答え申します。  サンフランシスコにおいて調印せられた講和条的、安全保障条約、それに付随する行政協定、これは対等の地位において結ばれたものであり、またその規定するところは、国際法上の原則もしくは儀礼に従つて締結せられたものであります。それは、当時において、いわゆる和解と信頼の条約と言われておつたのであります。それを欺瞞と言わるる西村君のお説には、私は服することはできないのであります。もしこれが欺瞞であり、これが対等でないとするならば、この条約を結んだ吉田内閣は今日において倒れて、社会党内閣ができ、西村総理大臣ができたはずであると私は思います。(拍手)しかるに、国民は、この総選挙において自由党を支持し、しこうしてこの第四次自由党内閣ができたゆえんであります。私は……(発言する者多く、聴取不能)政権に恋々するために、この地位をとつたわけではないのであります。総選挙によつて示された多数により、国会の指名によつて……。     〔発言する者多し〕
  25. 岩本信行

    ○副議長(岩本信行君) 静粛に願います。
  26. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君)(続) この第四次吉田内閣を組織したものであり、将来といえども、輿論の支持がある限り、国民支持がある限り、しこうして国会の支持がある場合には、第五次であろうが、第十次であろうが、この政局を担当する考えであります。  その他は外務大臣がお答えする。     〔国務大臣岡崎勝男君登壇〕
  27. 岡崎勝男

    国務大臣(岡崎勝男君) まず行政協定に見られるような特権はどこの国にも行われていないということでありまするが、実はその当時も御説明いたしました通りイギリスにおいても現に行われており、濠州、ニュージーランド、フランスその他にも行われてはおるのであります。  また行政協定の内容についてアメリカとの間に改訂の交渉をしたかというお話であります。同時に、北大西洋条約に言及されたのでありますが、いわゆるNATOの協定と申すものは、まだフランスを除いてはどこの国でも批准をいたしておりません。そこで、各国とも——日本もそうでありまするが、NATO協定の批准ができ上りましたならば、ただちにこれに基く適当な措置を講ずるために準備をいたしておるのであります。  また行政協定自体については、お話のように、その規定に基いて、一年後には改訂の交渉をいたすはずであります。  また、今後つくられんとする国連協定中に、いろいろ施設とかその他の財政上の問題について言及されまして、こういうものは日本としては提供すべきでないというようなお説でありますが、私は、さしつかえない限りは、国連協力の趣旨によりまして、できるだけこれについても便宜をはかるつもりでおるのであります。  なお、講和条約成立後九十日たつたならば、占領軍はもうその資格がないのだから、国連軍は撤退すべきであり、撤退の要求を出したか、こういうお話でありまするが、講和条約とともに、そのときに交換されました吉田・アチソン交換公文というのがありまして、これも条約の一部として、当時講和条約と一緒に国会に提出いたしまして、その承認を得たのであります。その吉田・アチソン交換公文によりますれば、朝鮮における国連の措置に協力して軍隊を出した場合の、その軍隊に対しては、日本においてその支持を認めるということになつておりまして、これは国会の承認を得ております。従いまして、その日本における部隊がいかなる条件に基いておるかという点を交渉しておるのでありまするが、まだその交渉が成立いたさないのは御承知の通りであります。しかし、大部分の点は双方の話がまとまつておりまするから、事実上は、裁判管轄権等を除きましては、話合いの趣旨に基いて事実上の取扱いはいたしておりまするが、協定としてはまだでき上つておりません。従つて、これらにつきましては、国際法及び国際慣習の普通のやり方によつて処置しておるわけであります。  また、国連との協力義務の範囲はどうであるか、憲法と抵触することはないであらうというお話でありまするが、これはその通りであります。元来、国連憲章を見ますると、特別の協定がない限りは、軍事的もしくは財政的の措置も、自動的には義務が発生しないことになつております。但し、たとえば国際労働機関等に加入いたしますれば、それの定める分担金等は、これは自然に加入したときに義務を生じまするけれども、それ以外は、軍事的のものなどは、ことに加盟国といえども自動的の義務は負わないことになつております。従いまして、日本も当然自動的に軍事的の義務を負うということはなくして、これは特別の協定がなければ、そういうことはできないのであります。現に朝鮮に派兵いたしておる国々も、これは勧告に基いて自発的にやつておるのでありまして、義務としてやつておるのではないのでありまするから、いわんや、いまだ加盟しておらざる日本においては、こういう問題について義務ということはあり得ないのであります。     〔西村榮一君登壇〕
  28. 西村榮一

    ○西村榮一君 私の質問した要点に対して、総理大臣並びに外務大臣は一つもお答えになつておらない。簡潔にお答え願いたい。  私は、講和条約に基いて、九十日たつて占領軍に対し撤退を要求すべきであるのであるが、それが一体要求されたのであるかどうかということをお伺いしておるのであります。同時に、ただいま一切のものは国際法に従つて処理しておると岡崎国務大臣はお答えになつた。国際法によつて連合国の軍隊駐留に関する取扱いをしておりまするならば、それは国内の一時的な外国軍隊の通過並びに旅行者であります。しかりといたしますれば、現下行われておる強盗事件その他の問題については、当然これは外国旅行者として取扱わなければならないのでありまして、この取扱いを怠つておるということは、日本国政府自身が国権の行使を怠つておるということになるのでありますが、一体その点はどうなるでありましよう。  同時に、行政協定の改訂については、私は、改訂が不可能であつた場合には、一体いかなる責任をおとりになるのか、これを改訂すべきいかなる交渉をなしたかということの経過を御質問しておるのであります。北大西洋同盟は、各国とも批准いたしておりません。なぜ批准しておらないかといえば、それは第二次大戦中において、どさくさに各国の軍隊が入り乱れて駐屯したのでありまして、それを戦後整理したのが北大西洋同盟でありまするが、この北大西洋同盟の軍事協定は著しく各国の主権を侵害するというので、各国ともこれが批准を躊躇いたしておるのであります。従つて、行政協定のときに、万一この批准ができなくとも、一箇年後においては、行政協定は北大西洋同盟相互援助条約の基準に従つて改訂するということは、しばしば言明された。従つて、批准の問題は問題ではありません。私は、行政協定が改訂不可能な場合においては、政府はいかなる責任をおとりになるかということをお尋ねいたしておるのであります。簡単に、演説ではなしに、明確なる御答弁を願いたい。(拍手)     〔国務大臣岡崎勝男君登壇〕
  29. 岡崎勝男

    国務大臣(岡崎勝男君) 第一の御質問は、占領軍の撤退を要求したかということでございまするが、これは四月二十八日を限りといたしまして、米軍はもとより、これは駐留軍になりますが、その他の軍隊も日本の占領軍ということはやめまして、占領軍は四月二十八日をもつて消滅いたしたのであります。そうして、国連軍が新たに、吉田・アチソン交換公文によりまして、日本に駐留を認められたのでありまして占領軍の撤退というものは、もうすでに消滅いたしておりまするから、そういう要求はないのであります。  なお第二番目の御質問は、駐留は国際法に基けば通過等の権利だけであろうというお話でありまするが、これはそうではないのでありまして、国際法にも、むろん通過の場合もあれば、駐屯の場合もあります。そうして、今申した吉田・アチソン交換公文によつて日本国内に国際連合の軍隊を置くことを認めておるのでありまするから、これは駐屯は認められておるのであります。  また裁判管轄権等について、強盗等の事件について国際法云々のお話がありましたが、これは戦争前におきましては、国際法及び国際慣例に基きまして、たとえば日本におきましては裁判権は有しながら、その犯人は先方に引渡しておる。また日本の軍隊、ことに、これは主として海軍でありまするが、海外において同様の事件が起りますると、日本の方にその者を引渡されておるのが国際慣例であります。  なお行政協定の改訂の問題がありまするが、行政協定の中には改訂の条項が入つております。ただいまのところは、NATO協定が四月二十八日前に批准されるかもしれない可能性もあるのであります。そうすれば、四月二十八日を待たずして行政協定の内容がかわるわけでありまするが、しかし、それができない場合にどういうふうな改訂をいたすかということにつきましては、別に行政協定には改訂の内容をどうするということは示してありません。しかしながら、いずれにしても、一時的に今の条項はできておるのでありまするから、NATO協定が発効しません場合には適当な改訂をいたすようになることは、これは当然であります。(拍手
  30. 岩本信行

    ○副議長(岩本信行君) 辻政信君。     〔辻政信君登壇〕
  31. 辻政信

    ○辻政信君 私は、自衛力漸増の根本問題について、吉田総理大臣に二、三お尋ねをいたしたいと存じます。  アジアをアジア人で守らせ、米軍を朝鮮から引揚げることを公約して大統領に選ばれたアイゼンハウアー元帥が、どうしてそれを実現するかは、世界注目の的であります。政府としては、その結果日本にどのような影響を及ぼすかを、慎重に、真剣に検討されまして、対策を講ぜねばならぬと思うのであります。  私の戦場体験から観察しますと、彼がもし積極的にこの戦争解決しようとしましたならば、原爆兵器を戦場に使うか、地上作戦で共産軍を撃破するか、それとも満州内部を爆撃して、北京政府戦争を放棄させるかのいずれかであると考えるのであります。しかしながら、原爆の効果は、疎開分散して陣地によつている共産軍に対しては、ほとんど期待し得ないのであります。のみならず、世界の非難を受けますから、これは容易に使えない。しからば、地上作戦において突破して共産軍を破ることができるかという問題を検討いたしますと、すでに一年半以上にわたり、三十八度線に膠着した彼我の戦線は、非常な堅固な縦深の大なるものになつております。そのような戦線を突破するためには、共産軍の三倍の兵力を必要とすると考えますが、それはたいへんむずかしい問題であります。万一できたと仮定いたしましても、突破後における作戦の進捗というものが、共産軍得意の持久戦略に翻弄されまして、戦局を短期間に終結させることはおそらく不可能であると考えます。満州爆撃は第三次大戦を引起すからやらないであろうと考える方もあるのであります。しかし、私は必ずしもそうとは考えないのであります。何となれば、満州はソ連の領土ではありません。朝鮮戦線における共産軍の兵站基地であります。従いまして、スターリンとしては、それに相当する報復爆撃を米軍の兵站基地たる日本に加え、戦場を日本拡大し、アジア全域にわたり大消耗戦を展開するのではないかと考えるのであります。このように日本運命に重大な影響のある満州爆撃に関して、日本としては発言を許されないということを、慎重に考えねばなりません。  次に、元帥が消極的に事変を終結しようとしたならば、捕虜交換問題、中共国連加入等において譲歩して停戦協定を結び、二百四十キロの戦線を韓国軍で持たせて、米軍を撤退することになりましよう。しかしながら、これは共産軍の再侵略に対して、とうてい持ちこたえ得ないものであります。従いまして、アメリカとしては、二年半にわたる努力犠牲を無にすることになりまして、米国の輿論が許さないであろうと考えるのであります。  第三の解決方法は、アジア人をもつてアジア人を撃たすということであります。これがために、韓国軍十箇師団を二倍に増強しようとすることは、おそらく二年以上かかるのであります。最も困難なのは幹部の養成であります。それに対し、蒋介石の軍隊を朝鮮または大陸に使用する案につきましては、その将兵の大部分が家族を中国の大陸に残しておりまして、共産党の人質にとられているということを考慮に入れなければなりません。従いまして、最後は日本保安隊朝鮮に持つて行くということがアイゼンハウアーの切札であると考えるのであります。この点につきまして、われわれは慎重に考える必要があると存ずる次第であります。  現在の保安隊朝鮮に持つてつて、はたして中共軍に対抗できるかどうか。のみならず、韓国の軍隊さえもそれに反対をしておるのであります。最近、李承晩大統領は、新聞に、もし日本軍が朝鮮に来たならば、韓国軍は銃口を日本軍に向けるであろう、こういうことを堂々と述べております。中ソ友好同盟条約日本を仮想敵としたものであり、また中ソ両国日本とは現在休戦状態にありますので、正式に宣戦布告をする必要なくして日本を報復攻撃することができるのであります。それは、本土に対する爆撃と、北海道に対する上陸になるのではないかと考えます。(「質問しろ」と呼ぶ者あり)しばらくお待ちなさい。——そういう状態におきまして、木村保安庁長官は、就任、の直後に、保安隊を……(「質問になつておらぬ」「何を言つておるのだ」と呼ぶ者あり)質問は今からやります。——保安庁長官、就任の直後に、予備隊を朝鮮に出さないとおつしやつたのであります。そこで……。     〔発言する者多し〕
  32. 岩本信行

    ○副議長(岩本信行君) 静粛に願います。     〔「われわれは兵隊じやないぞ」と呼ぶ者あり〕
  33. 辻政信

    ○辻政信君(続) わかります。——これに対して、おかしいことは、木村保安庁長官は、保安隊朝鮮に出す権限はお持ちになつておらぬのであります。そうして、しかも出さないと言つたのです。これに対して、私は吉田総理にお伺いしたいのであります。吉田総理の最も信頼される木村長官が、保安隊朝鮮に出さないと言明されておるということは、これは総理の意図と一致しておるものと考えねばなりません。その点におきまして、将来いかなる事態が発生しても、その御決意をおかえにならないかどうかという点につきまして、吉田総理からあらためてお話を伺いたいと思います。  朝鮮の戦線の推移、それが日本に与える影響につきましては、ただいま簡単に意見を申し上げたのでありますが、自衛力漸増の計画を立てるにあたりましては、さらに米ソ戦略日本の立場について検討する必要があるのであります。吉田総理は、米ソ戦は近く起らないであろう、こういう御判断でありますが、私はすでに始まつておると見るのであります。冷たい戦争と熱い戦争の境目をはつきりさせないのがスターリンの戦争方式であつて、現在はまさにその境界線上にあると考えるのであります。吉田総理は、米ソ戦は起らないとおつしやつていますが、アジアの戦乱は日々に拡大されようとしておるのであります。この意味におきまして、私は、日本の自衛力を漸増するにあたつては、その間に立つ日本の立場というものについて深く検討する必要を感ずるのであります。  米ソ戦がいつ起るか、その勝敗はどうなるかということは、もとより予断を許さないのであります。しかし、最後の運命を決するものは石油資源であると考えるのであります。その意味におきまして、イラン、イラク、アラゼアの正面がこの次の戦争の決戦方面になる。次に、空軍戦略について検討いたしますと、その目的は互いに相手国の資源を破壊することに向けられるのでありましようから、その際に日本の置かれる立場について検討を加える必要があります。
  34. 岩本信行

    ○副議長(岩本信行君) 辻君に申し上げます。意見は簡潔にして質問を願います。
  35. 辻政信

    ○辻政信君(続) そういう意味から見ますと、日本基地としてアメリカがソ連に加える戦力は、全体の一〇%以下である。このことは、日本戦略的地位が、中央アジアもしくは西ヨー口一ツパ正面に比較してはるかに低いことを意味するのであります。アイゼンハウアーが朝鮮から兵を引揚げ、また日本の再軍備を促進しようとしておるのは、かかる意義の少い戦場に戦力を消耗することを避けようとするものであります。従いまして、いつでも日本日本で守れといつて兵力をさつさと引揚げて行くところの英断を持つた人が新たにアメリカの大統領に就任されたことを、私どもは冷静に考えてみる必要があるのであります。  万一、本格的戦争が始まつてから来軍が日本を撤退する場合においては、おそらく日本の工業設備をソ連に利用りさせないように破壊して下るであまりしよう。小笠原と沖縄は、その際に日本爆撃する基地となることも想像さたるのであります。従いまして、日本の安全保障をアメリカの信義に依存しようとする考えは、根本的に間違つておるのであります。きようあたりは、おそらくアイゼンハウアーは朝鮮に行つておられるでありましようが、その途中において日本に立ち寄らないことけ何を意味するか。政治的には日本を無視することであり、戦略的には日本犠牲を意味するものであります。  ダレス氏は、米国は日本の希望により日本及びその周辺に米軍を駐屯させると述べております。これは、われわれの希望によつて、米軍を引揚げることを拒み得ないのであります。従いましてわれわれが一日も早く自衛態勢確立して、戦争になる前に米軍に引揚げてもらうということは、日米双方に共通した利益であると感ずるのであります。この意味におきまして、私どもは吉田総理にお願いいたしたいことがあります。それは……(「お願いか、質問か、どつちだ」と呼ぶ者ありお願いです。お願いしたいことは、アメカのアイゼンハウアーに対し、日本が米国に期待する限度がある。その限度とは何か。日本を、日本人の手によとて、白い日本として中立安定を保たたることが、アメリカのためにも五十パーセントの利益である。このことを納得させて、その原価計算に基いてアメリカ日本援助する。それがためには、朝鮮において二年間に消費しました二百億ドルの国費の十分の一で足りるのであります。日本の青年に銃を持たせて、大陸戦線にかり立てて、その犠牲においてアメリカの青年の血を節約しよう、こういうことを予約したような、ひもつきの援助であつたならば、断固として拒否すべきものであります。  次は、ソ連側から見ました日本の価値について検討を加えますと、北海道は千島と樺太を結ぶ扇のかなめであり、これをとることによつて、ソ連はアメリカに対する戦略態勢を強化し、日本石炭の三割を押え、共産党の暴力革命を支援し、ソ連潜水鑑の太平様における活躍を有利にする利益を持つておるのであります。従いまして、血海道に対するソ連の直接侵略は十分予期しなければなりません。その他の地方においては、それに呼応して立つ共産党の暴力革命に対して、独力をもつて日本の治安を維持することが、現在における自衛力漸増の根本目標となると考えるのであります。この点につきまして、吉田総理の御所見を承りたい。はたしてそれに同意されるか、あるいは不同意であるか。  共産党は、今度の選挙において、この議場から締め出されました。それが非合法活動をやることは当然であります。その投票数を見ると、九十数万に達しております。これはメーデーの異方を肯定した票である。それに北鮮係の数を加えますと、暴力革命の基盤はすでに完成していると見るのであります。その投票の数から見ると、第一位が大阪、第二位は東京、第三位が長野、第四位は北海道、次は兵庫になつております。これは明らかに共産党の戦略の重点を端的に現わしたものであります。  今日の共産党は、朝鮮事変を契機としてその性格を一変いたしました。昔のような古い意味の暴力革命ではかく、北鮮軍の空艇部隊であり、ソ連の前衛部隊としての組織を持つておるのであります。だれがどの工場をこわし、だれがどの発電所をこわす、成功じたあかつきにおいては大臣、知事、市町村長になるということまでも予約されておる。しかも、その攻勢は、今日労働攻勢に便乗して、すでに開始されておるのであります。この急迫した国内治安に対して、政府はいかにして対抗されようとするのであるか。  施政方針演説において、政府は、一元的な治安対策のもとに治安関係機構の活動を調整統一してそれに当るようにお述べになつておるのであります。現在の日本の機構は、マツカーサー元帥によつてばらばらにされたままであります。そのような機構のどこにおいて一貫せる治安対策を立てる人があるか、立て得るのかということをお伺いする。同時に、この急迫した国内態勢において治安確保の責任を完遂するために、マツカーサー元帥によつてばらばらにされた治安機構を強力に統一される意思がおありになるかどうか、その点について、はつきりお伺いしたいと思います。  次に、総理は、国力が充実するに伴つて自衛力を漸増しようとされておるのであります。しかし、東京都の人口のわずかに半分しかないフインランドにおいては、三箇師団半の精鋭な国防軍をもつてソ連との国境を守り、それを支援するために、国民の志願による義勇軍は十万を越え、それに協力する婦人義勇軍もまた十万を越えておるのであります。このような自衛力によつて維持されておるということを考えねばなりません。また人口わずかに四百万のスイスにおきましても、いざという場合には五十万を動員できる自衛力によつて中立を保つておる。しかるに、今日の日本はどうでありましようか。平和憲法をたてにとつて、あえてこの自衛力をも否定しようとする人がある。  現在の憲法は、マツカーサー元帥によつて与えられたものであります。それは、平和を愛好する諸国民の公正と信義を前提として、戦争を放棄し、軍備を解いたのであります。しかるに、この日本を守る諸国は、はたして平和を愛好するか。はたして公正であるか。はたして信義があるか。この前提が破れた以上、憲法を墨守して自衛の軍備に反対するとは何ごとか。諸君は、日本は平和を与えられないというのでありますが、平和と自由は与えられるものではなくして、みずからの力で守るべきものであります。国滅びてどこに憲法があり、国滅びてどこにデモクラシーがあるか。(発言する者あり)やじるから答えておる。  現在日本国民が駐屯米軍と保安隊等のために支払つておる予算は年に千八百二十億円であります。この予算のわく内において自主的な自衛の軍備を建設することは十分可能であると私は信ずるのであります。その具体的な内容については申し上げる余裕はありませんが、フインランドの国防体制、スイスの民兵制度、米国の州兵制度等は、現在の日本が自衛力を漸増するにあたつて参考とされる好資料であると考えるのであります。食糧や電源開発に五年計画をお持ちになつておる政府は、それより以上に重要なる自衛力漸増について、はたして一定の見通しをもつた計画をお持ちになつておるかどうか。当然五年計画がなければならぬと考えるのでありますが、それは決してマーフイー大使の机のひきだしから小出しにされるようなものであつてはならないのであります。吉田総理は、架空の議論に対しては答えないとしばしばおつしやつて巧みに体をかわされたのでありますが、今申しました自衛力漸増の目標をどこに置き、いかなる内容のものを、何年かかつてつくるかとうことについては、最も慎重に考えて、自主的な計画をお示しにならねばならぬはずであります。(拍手)  為政者の態度は、世におもねることなく、天下の憂いに先だつて憂えることをもつてその態度としなければならないのであります。今日遺族が首をつろうとしているときに、議員はお手盛りで歳費を上げようとしておるではないか。このような国会がどうして遺族に対して対抗できるか。国民の笑いを招くということを感ずるのであります。  これをもつて私の質疑を終ります。(拍手)     〔副議長退席、議長着席〕     〔国務大臣吉田茂君登壇〕
  36. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 御意見は伺つておきますが、答弁は差控えます。保安隊の漸増等については当局大臣からお答えいたします。     〔国務大臣木村篤太郎君登壇〕
  37. 木村篤太郎

    国務大臣(木村篤太郎君) まず朝鮮への派遣についてお答えいたします。御承知の通り保安隊は、わが国の治安の確保、平和の維持、人命の保護、これを目的とするものであります。従いまして、朝鮮へこれを出動させるようなことは断じてあり得ないのであります。  自衛力の漸増につきましては、これは国際情勢、国内情勢、その他財政とにらみ合せて、徐々にやるべきものであろうと考えております。しかし、最近において一番われわれの注目を要すべきは、いわゆる国民の精神の作興であると考えておる次第であります。
  38. 大野伴睦

    議長大野伴睦君) 黒田寿男君。     〔黒田寿男君登壇〕
  39. 黒田寿男

    ○黒田寿男君 私は、労働者農民党を代表し、再軍備及び戦争問題に質問の範囲を限定して、政府の御所信を承りたいと思います。  わが国当面の最大問題は再軍備問題であり、この問題は、その性質上、必ず戦争問題と結びつけて論ぜられておるのであります。今日、わが国現実関係を持ち、かつその影響を受けております戦争は、朝鮮戦争であります。ことに、先般アイゼンハウアー元帥が大統領に当選してから、わが国民は、暗い気持に襲われながら、この戦争をあらためて見直し始めたのであります。そこで、本日は、私は最初朝鮮戦争問題を取上げ、続いて再軍備、安全保障及び戦争対策の根本問題に及びたいと思います。  まず最初に問題にしたいと思いますことは、朝鮮戦争わが国との関係は一体どういう関係であるか、この点であります。わが国は、この戦争における敵対勢力の一方の側でありまする国連軍軍事基地及び役務を提供することによりまして重要な援助を与えております。国連軍にこのような援助を与えることは、それによつてわが国朝鮮戦争への参加国となり、従つて北鮮及び中共軍に対し敵対関係に入ることになるのであるかどうか、この点をはつきりと承つておきたいと思います。  なぜ私はこれを問うか。今日わが国軍事基地から、国連軍爆撃機が朝鮮の戦場に向つて出動しております。しからば、わが本土のそれらの基地が相手方からの報復爆撃目的とされることは、戦争の法則上当然予期しなければならぬところであります。幸いにして今日までこのことが起らないで済んでおりましたから、国民は助かつているようなものの、もし報復爆撃が行われたといたしましたならば、わが同胞の運命はどうなつてつたでありましようか。今日、日本本土は、いわば潜在的な戦場にされてしまつておるのであります。わが国民の生命と財産は戦禍の危機にさらされておるのであります。また李承晩ライン及び防衛水域等の設定問題になりまして、多数の漁民は死活の境界線に追い込められております。最近では、アイゼンハウアー元帥の大統領当選を契機として、保安隊朝鮮出動問題が新たな問題となつて国民の心に暗い影を投げておるのであります。このような現実のもとで、国民の生命と財産の安全を託された仕事に従事しておりますわれわれ国会議員といたしまして、これらの事態をぼんやりと見過ごしておることはできないのであります。政府は、この際、朝鮮戦争わが国とが一体どのような関係になつておるかということを国民はつきりと示して、政府責任の所在を明らかにすべきであると私は思います。(拍手)あえて政府の御説明を求める次第であります。  第二に、朝鮮出兵問題について質問いたします。政府の今日までの御答弁では、これを否定しておいでになりますが、どうもその論拠が私どもには納得が行かない。アイゼンハウアー元帥の当選により、米国の対ソ政策が、従来の封じ込め政策から巻き返し政策へ転換すると予想せられております今日、また同元帥が、アジアはアジア人の手で守れという考えを持つておりますことが、保安隊朝鮮出動問題を新たに浮き上らせました原因になつておるのでありますけれども、なおその上に大切なことは、この問題の実現の可能性を思わせる他の理由は、わが国政府当局が、国連軍の活動がわが国の安全に寄与するという考え方を持つておること、及び対日平和条約によつてわが国国連援助義務を課せられておるということであります。朝鮮事変の成行きと、わが国の安全保障の関係とをこのように考えております以上、しからば、日本も他国にのみ犠牲を負わせないで、日本の安全のために、日本人みずからも犠牲を供すべきであると言われて、将来において人的援助という方法での援助を成規の手続を経て要請せられました場合、現内閣の物の考え方では、これを拒否する論拠は見出されないと私は考えるのであります。(拍手国連の行動への援助義務と出動拒否とは矛盾するのではないかと思います。  そこで、この際政府に御説明願いたいと思いますことは、平和条約で、国連憲章従つてとるいかなる行動についても国連にあらゆる援助を与えるという義務わが国は課せられており、朝鮮戦争における国連軍の行動は、国連憲章従つてつておる行動と解釈されておりますので、わが国は単に施設及び役務の提供による援助だげでなく、保安隊の出動というような方法におきましての援助を、将来において成規の手続によつて要請されますときに、これに応じなければならぬ義理合いにあるのではなかろうかと私は思う。この条文には、あらゆる援助とありますから、当然人的援助、兵力的援助をも含むと解釈しなければなりません。私は、政府にこの点につきましての御解釈を承りたいと思うのであります。(「先刻答弁が済んでいるぞ」と呼ぶ者あり)これは将来の問題についてでありますから、よくその点を誤解のないようにお願いをいたします。理論の問題であります。  なお質問の第三点といたしましてこの際承つておきたいと思いますことは、わが憲法第九条には、これは私どもの解釈でありますが、戦争の絶対的な放棄を規定しております。いわゆる制裁戦争への参加といえどもこれを禁じておる趣旨と私どもは解釈しておる。しかして、これは単に武力的参加を禁ずるのみでなく、基地提供等の方法による参加をも禁止する趣旨であると解しなければ、わが国憲法の、独自の、世界無比の絶対的戦争放棄、徹底的平和主義の精神は生かされないと私は思います。政府はどのように御解釈になつておいでになるかということを伺いたいと思います。  質問の第四点、わが国国連軍援助を与えておりますのは、平和条約を基礎とし、吉田・アチソン交換公文に基くものであると思います。これによつてわが国国連軍の行動への援助義務を受諾しておるのであります。平和憲法は現存しておるのに、わが国戦争への参加義務を課せられるような条約を、それと知りながら締結したのは、重大な憲法違反行為であり、国民への不信行為であると私は思う。政府はこれをどう御解釈になりますか。  質問の第五点、われわれはどのように論じてみましても、しかし、現実には戦争放棄の憲法が無視されて、戦争協力義務を規定した条約の方が生きて働いております。そうして、わか本土は今や潜在的戦場にされておるのであります。憲法の規定を理由にして条約上の義務を否認することができるか。保安隊の海外出動等が要請された場合に、保安隊員についてこの問題が提起され得ると思う。もし拒否できないとすれば、憲法よりも条約の方が優位であるからであるか、この点につきまして政府の所見を承りたいと思います。  私は以上をもちまして朝鮮戦争に関連する質問を終えますが、現在わが国民は、保安隊出動に対する懸念を深めておる。他方、再軍備問題が当面の最大問題となつておりますので、問題をこれに移し、再軍備としての保安庁制度に関し質問を続行したいと思います。  再軍備問題一般につきましては、きはうは私は論じません。私は反対論者であります。また再軍備論に関連いたしまして、今日まで最も多く論ぜられて参りましたのは、保安隊軍備に該当するかどうかという点でありましたが、私は、これが軍備であるという見方に立ちまして、他の機会に詳細に委員会におきまして論じたことがありますので、今日は繰返しません。保安隊及び警備隊の装備が御承知のごとく次第に強化されて参りまして、フリゲート艦、戦車、航空機保持の段階に達しております。今日、この制度の軍事的性質を論ずる時期は、私はもう過ぎていると思います。その軍事的性質を否認するがごときは、ナンセンスであるとともに、国民を愚弄するものであると私は思う。(拍手)しかしまた、この制度の軍事的性質を明らかにしてみたところで、それだけで、今日の段階におきましては、この制度の本質を完全に明らかにし尽したとは言えないと思います。保安隊朝鮮出動が問題視され出した今日、われわれのなすべきことは、この制度の真のねらいは何か、これを真実に即して明らかにすることであると思うのであります。  翻つて見まするに、占領の後半期から、米国の対日政策は、極東情勢の変化につれて大きく転換いたしまして、第一に日本軍事基地化、第二に日本の軍需産業能力の利用、第三に日本の人的資源の活用を目的とする政界に転換して来たのであります。第一の目的は、平和条約、安全保障条約及び行政協定の実施によりまして、すでに達成せられております。第二に、わが国の軍需産業は、今日盛んに米軍のために武器弾薬を生産しております。しこうして、第三の人的資源の利用という政策が、わが国の再軍備関係がある。この政策の実現されたものが、現在の段階では保安庁制度となつて現われておると、私はこう思うのであります。  元来、保安隊の前身たる警察予備隊の創設は、日本政府の創意によるものではなくて、マツカーサー元帥の命令によるものである。(拍手マツカーサー元帥の命令は米国の対日政策の現われでありますから、わが国の再軍備の出発点をなしました警察予備隊の創設を考え出したのは、日本政府ではなくて米国政府であつたのであります。(拍手)次に予備隊から保安隊へ、保安隊からさらに高度の制度へのその発展の促進力は何であるか。それは強大な圧力を背景とする日米安全保障条約であります。第三に、保安隊及び予備隊は、無償で、ただで借り受けた米国陸軍及び海軍の武器と艦艇とで武装させられております。第四に、これら部隊は米軍人を顧問とし、その指導を受けております。第五に、米国の軍事基地は至るところに今日設定せられており、有力な米国軍隊がわが国に駐留しておるのであります。  以上のような条件のもとでつくり出されております保安隊を、独立国日本の部隊と言い得られるでありましようか。米国の政策と米国軍隊の意思のもとで行動せざるを得ないような雇い兵的制度というほかはないと私は思う。私は、吉田内閣が締結した対日平和条約、日米安全保障条約及び行政協定等によりまして、わが国独立国の地位を回復するかわりに、米国の従属的地位に落されたことが、この保安隊という制度において最も象徴的に現われておると思うのであります。保安隊の本質がこのようなものでありますから、米国の戦争政策の要請に応じて保安隊朝鮮へ出動しなければならぬのではなかろうかという危惧の念を国民は払い落すことができないのであります。首相及び木村大臣に、あえて独立の弁を聞きたいと思うのであります。  次に、わが国の安全保障に関する将来の構想について質問いたします。政府は、先日の施政方針及び外交方針演説におきまして現下の国際関係のもとにおける平和維持及び安全保障の手段は集団安全保障体制に入り込むことにあるとの方針を示されました。そこで私は質問してみたいと思いますが、第一は、この方針の中には、単に国連に加入するという方針だけでなく、北大西洋条約に類する太平洋条約及び北大西洋軍に類する太平洋軍のごとき体制が将来創設せられる場合、それへの加入という方針も含まれておると私は思います。政府はこういう考え方をもつて内外の政策を推進されておるのであるかどうか、これを承りたいと思う。  第二に、国連への加入と太平洋同盟式の地域的安全保障体制への加盟とは非常に意味が違うと思う。これは、率直に言えば、政府はごまかしておいでになると私は考えるのであります。国連加入の問題につきましては、本日はこれを論じません。が、太平洋同盟ないし太平洋軍への加盟という考え方の中には、私は重大な問題点があると思いますので、これについて質問をしたいと思う。  大西洋同盟とか太平洋同盟とかいう体制は、地域的集団安全保障体制でありまして、この点は、国連が全面的集団安全保障体制であるのと異なつております。国連という全面的集団安全保障体制は、それがもし理想的に運営せられまするならば、平和安全保障機構としての作用を発揮することができると私は思いますけれども、北大西洋同盟のごとき、あるいは太平洋同盟のごとき地域的集団安全保障体制は、これと似ておるが、しかし私ははなはだ非なるものであると考えます。その本質は、むしろ国連以前の時代に行われた、いわゆる対抗同盟的体制の性格に近いのであります。それは、本来の平和的な、全面的な集団安全保障体制ではなくして、実質的には集団的な対抗同盟でありまして、軍事的攻守同盟の性格を持つておるものであります。これを具体的に、今日予想せられるものからいえば、米国を中心とする国際的軍事的攻守同盟の機構の中に、岡崎外務大臣の表現をもつてするならば、わが国の主権の一部と、将来あるいは発生するかもしれないその統帥権の一部をも譲つて加入するということでありましてこれは平和安全保障機構への加入にならないだけでなく、唾棄すべき隷属思想の現われがそこに見られると思う。政府は、いわゆる地域的安全保障体制と、本来の全面的集団安全保障体制との差をどのように考えておいでになりますか。政府考え方は、私は認識不足とは申しません。りつぱな方々でありますから—一けれども、私はごまかしではなかろうかと思うのであります。右の点をお伺いしたいと思う。  私は、最後に、平和維持及び安全保障につきましての私どもの考え方を簡単に申し上げておきたいと思います。わが国が自衛の目的で再軍備を実現したといたしましても、それによつて目的を達し得ないことはもちろんであります。しからば、集団安全保障体制に依存することによりまして、はたして安全の保障が達せられるかどうか、これを私どもは真剣に考えてみなければならぬ。多くの論者は、将来に予想する戦争米ソ戦争であるとしておりましよう。私はそう見ておると思う。しかしながら、このような戦争が起るといたしまして、一体そのときわが国の安全の保障は可能でありましようか。私はできないと思う。その第一の理由は、わが国の地理的位置にあるのであります。このような戦争が起るとき、両勢力とも、わが国を利用せずには済ませません。両勢力のいずれの側に立つといたしましても、わが国は苛烈なる戦場と化し、安全の保障など期し得られるものではないのであります。第二の理由は、将来戦における原子兵器の人類に対する殲滅的破壊力であります。それを計算に入れないで、軽々に安全保障を論ずることは、私は無知でなければ欺瞞であると思う。  わが国の安全保障を望むなら、わが国土を絶対に戦場にしないという以外に私は方法はないと思う。そのためには、わが国戦争政策をとらぬだけでなく、外国戦争政策にも断じて協力してはならぬのであります。(拍手)われわれは、太平洋同盟のごとき構想は、いざという場合に、わが国の安全保障にとりまして何の役にも立たぬだけでなく、それは戦争防止政策にもならず、かえつて米国の戦争政策わが国を引きずり込み、わが国戦争危機の中に追い込むだけのものであると考える。われわれが、わが国の戦場化反対のために懸命の努力を尽しておりますように、世界各国至るところに、われわれと同様に、自国を戦争の惨禍から防ぎ、自国の安全を維持するためにと、平和的方法によりまして最善の努力を尽しつつある平和勢力があるのであります。これらの平和勢力と提携し、協力して、世界平和擁護の運動に邁進すること以外に、私どもは戦争を防止し、安全を保障し得る道はないと考えております。(拍手)われわれは、現在世界大戦危機なしとはいたしません。しかしながら、私どもの情勢分析からいえば、世界平和維持の可能性の方が大きいと見ております。しかし、それは私どもの努力いかんにかかつておる。われわれは、再軍備をやめてそのために費す費用を平和的建設事業と民生安定のために振り向ける、かくのごとき国内政治を実現しながら、対外的には平和政策をもつて臨むとき、このような、わが国を侵略するような外国の社会主義勢力などあり得ないと私は確信しておる。これのみが真のアジア民族との友好回復の道であり、世界平和とわが国の安全及び繁栄を期する唯一の道であると私どもは考えておるのであります。  私は、これをもちまして私の質問を終ります。(拍手)     〔国務大臣吉田茂君登壇〕
  40. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) お答え申し上げげます。政府が申していることは、ごまかしでもなければ——率直に申しておるのであります。今日、朝鮮の形勢、戦争の推移については、むろん重大な関心を持つて政府は見ておりますが、しかし、再軍備とか、保安隊朝鮮に派出するというようなことは当面の問題ではございません。これははつきり申しておきます。黒田君のお話は、多少夢でもごらんになつておるのではないかと思いますが、それに対しては、外務大臣からお答えをいたさせます。     〔国務大臣岡崎勝男君登壇〕
  41. 岡崎勝男

    国務大臣(岡崎勝男君) 黒田君にお答えいたします。  国連の措置は、もちろん、この朝鮮におきましても、平和の維持と正義のためでありまして、従つてわれわれは国連の措置に十分なる協力をすると、こう申しておるのであります。また、申すまでもなく、これが日本の将来に非常に大きな影響を持つものでありますから、ますます十分なる協力をすべきである、こういうわけであります。  それから国連援助の限界というような点につきましてお話がありましたが、これは先ほどすでにお答えした通りでありまして国連加盟国といえども、たとえば兵力を出すというような、安全保障理事会の決定に基く措置につきましては、特別の協定がなければやらないことになつております。今回の場合は、もちろん勧告に基いて入国が自発的にとつた措置でありまして、いわんや、まだ加盟していない日本として、このような義務が自然に発生するということは、これはあり得ないのであります。従つて憲法違反でもないし、また平和条約と憲法の間に矛盾はいたしておらない、こういうわけであります。  それから太平洋同盟というようなことを言われたのでありますが、これも、もう総理からしばしばお答えがありました通り、まだできていないものについていろいろ議論されても、これはしかたがありません。しかし、国連と地域的安全保障との間には区別がある。それで、国連加入はよろしいが、地域的安全保障に加入するというのは危険であるというようなお説であり、また、それでごまかしておるのではないか、こういうお話でありますが、私は別にごまかしておるとは考えておりません。なぜならば、私の演説の中にも、はつきりと、国連加入とともに民主主義国家との緊密なる提携、こういうこと言つておりまして、われわれは決してごまかしておるのではないのであります。  それから最後に、はつきりはわかりませんが、中立論の意味のようなことを唱えられたのでありますが、私どもは、これがつまり、うつかりすると民主国家の結束を乱すおそれのあることでありまして、いくらこちら側で中立というようなことを唱えましても、現に今はやつておりまする一辺倒という言葉は、中共側で発明した言葉でありまして、どつちかに一辺倒しかないしということを向うが言つておるのであります。われわれは、だから、こういう間においては、やはりこの決意勇気を必要とすると考えておるような次第であります。(拍手)     〔国務大臣木村篤太郎君登壇〕
  42. 木村篤太郎

    国務大臣(木村篤太郎君) 平和条約第五条による援助は、今岡崎国務大臣から申されたように、一定の制限があるのであります。無条件ではないのであります。しかして、保安隊は、先刻申し上げました通り、保安庁法第条によつて日本の平和と秩序のために設けられたものであります。これが断じて朝鮮なんかに出動せざるものであるということは明らかであります。しかして、この保安隊において使用いたしまするいろいろな艦船とか、あるいは武器とかいうようなものは、これは米軍から借りておるのであります。いずれも保安隊の行動に必要やむを得ざるものでありまして、われわれ日本においてこれをつくるということは、今の財政上許すことができませんから、やむを得ず米軍から借りているような次第であります。(拍手
  43. 大野伴睦

    議長大野伴睦君) これにて国務大臣演説に対する質疑は終了いたしました。      ————◇—————  一般職職員等の俸給の支給方法臨時特例に関する法律案有田二郎君外二十三名提出)(委員会審査省略要求事件)
  44. 久野忠治

    ○久野忠治君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。すなわち、有田二郎君外二十三名提出、一般職職員等の俸給の支給方法臨時特例に関する法律案は、提出者の要求の通り委員会の審査を省略してこの際これを上程し、その審議を進められんことを望みます。
  45. 大野伴睦

    議長大野伴睦君) 久野君の動議に御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  46. 大野伴睦

    議長大野伴睦君) 御異議なしと認めます。よつて日程は追加されました。  一般職職員等の俸給の支給方法臨時特例に関する法律案を議題といたします。提出者の趣旨の弁明を許します有田二郎君。     〔有田二郎君登壇〕
  47. 有田二郎

    有田二郎君 ただいま議題となりました一般職職員等の俸給の支給方法臨時特例に関する法律案の提案理由並びにその内容の大略を御説明申し上げます。  御承知の通り、現行の一般職の職員の給与に関する法律では、俸給の支給方法は月二回払いとなつております。特別職の職員の場合におきましても、大体一般職の職員の例にならい、またはこれを準用しておるのであります。このたび公務員諸君の家計支出の現状並びに諸般の実情にかんがみ、本年十二月分に限りこれを一回払いとし、十二月の上旬に支給する必要を認めまして、ここに本法案を提出した次第であります。何とぞ御賛同をお願い申し上げます。(拍手
  48. 大野伴睦

    議長大野伴睦君) 採決いたします。本案を可決するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  49. 大野伴睦

    議長大野伴睦君) 御異議なしと認めます。よつて本案は可決いたしました。  本日はこれにて散会いたします。     午後五時二十七分散会