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1953-02-24 第15回国会 衆議院 法務委員会 第22号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十八年二月二十四日(火曜日)     午後一時三十九分開議  出席委員    委員長 田嶋 好文君    理事 松岡 松平君 理事 松山 義雄君    理事 小畑虎之助君 理事 田万 廣文君       小林かなえ君    佐治 誠吉君       福井 盛太君    古島 義英君       松永  東君    大川 光三君       長井  源君    木下  郁君       古屋 貞雄君  出席政府委員         法務政務次官  押谷 富三君         検     事         (矯正局長事務         代理)     高橋  孝君         検     事         (入国管理局         長)      鈴木  一君  委員外出席者         東京拘置所所長 川上  桿君         東京矯正保護管         区長      巣山 末七君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 二月二十三日  委員相川勝六君辞任につき、その補欠として中  村幸八君が議長の指名委員に選任された。     ————————————— 二月二十一日  公共事務処理に関する請願原茂紹介)(第  二三五二号)  売春法制定に関する請願(船田中君紹介)(第  二三八九号)  各種登記法改正に関する請願原茂紹介)  (第二三九二号)     ————————————— 本日の会議に付した事件  小委員長の選任  少年法の一部を改正する法律案内閣提出第六  七号)  少年院法の一部を改正する法律案内閣提出第  六八号)  外国人登録法の一部を改正する法律案内閣提  出第七六号)  判事補職権特例等に関する法律の一部を改  正する法律案内閣提出第六一号)(予)  人権擁護委員法の一部を改正する法律案内閣  提出第七二号)(予)  法務行政に関する件     —————————————
  2. 田嶋好文

    田嶋委員長 これより会議を開きます。  判事補職権特例等に関する法律の一部を改正する法律案少年法の一部を改正する法律案少年院法の一部を改正する法律案人権擁護委員法の一部を改正する法律案及び外国人登録法の一部を改正する法律案、以上五案を一括議題といたします。政府より提案理由説明を聴取いたします。押谷政務次官
  3. 押谷富三

    押谷政府委員 ただいま議題となりました判事補職権特例等に関する法律の一部を改正する法律案につきまして、提案理由を申し上げます。  この法律は、御承知通り判事補職権特例裁判官の仕命資格特例とを定めたものでありますが、今回の改正案要点は、次の六点であります。  第一点は、旧裁判所構成法による判事または検事たる資格を有する者が、旧陸海軍法務官の職にあつたときは、その在職年数裁判所法に定める最高裁判所裁判官高等裁判所長官判事及び簡易裁判所判事任命資格に関する職歴年数及びこの法律の第一条に定める職権制限を受けない判事補として指定されるのに必要な職歴年数に通算することができるようにしようとするもので、第二条第二項の改正規定及び第五条の改正規定の前半の部分は、この趣旨から立案したものであります。  第二点は、旧裁判所構成法による司法官試補たる資格を有し、旧陸海軍法務官在職年数が三年以上になる者については、その三年に達したときに旧裁判所構成法による判事または検事たる資格を得たものとみなして、そのとき以後の法務官等在職年数裁判官任命資格に関する法定職歴年数に通算することができるようにしようとするもので、新たに第二条の二第二項として加えました規定は、この趣旨から立案したものであります。  第三点は、旧裁判所構成法による判事または検事たる資格を有する者が、公正取引委員会事務局に置かれる審判官等の職にあつたときは、その在職年数裁判官任命資格に関する法定職歴年数及び職権制限を受けない判事補として指名されるのに必要な法定職歴年数に通算することができるようにしようとするもので、第二条第三項の改正規定及び第五条の改正規定の後半の部分は、この趣旨から立案したものであります。  第四点は、司法修習生修習を終えた者が右の公正取引委員会事務局審判官等の職にあつたときは、その在職年数裁判官任命資格に関する法定職歴年数及び職権制限を受けない判事補指名されるのに必要な法定職歴年数に通算することができるようにしようとするものでありまして、第三条の二の改正規定は、この趣旨から立案したものであります。  第五点は、弁護士試補として一年六箇月以上の実務修習を終え考試を経た者については、その考試を経たときに旧裁判所構成法による判事または検事たる資格を得たものとみなして、そのとき以後の満洲国審判官等在職年数裁判官任命資格に関する法定職歴年数に通算することができるようにしようとするものでありまして、新たに第二条の二第一項として加えた規定は、この趣旨から立案したものであります。  第六点は、弁護士たる資格を有する者が、満洲国の律師の職にあつたときは、朝鮮、台湾等の旧外地弁護士の場合と同じように、その在職年数裁判官任命資格に関する法定職歴年数及び職権制限を受けない判事補として指名されるのに必要な法定職歴年数に通算することができ、また判事補任命資格についても同様の取扱いができるようにしようとするものでありまして、第三条の改正規定は、この趣旨から立案したものであります。  以上申し上げました各職は、その職務の性質上、その在職年教裁判官任命または職権制限を受けない判事補指名に必要な法定職歴年教に通算することがきわめて適切であると考えるのでありまして、これによりまして、裁判官任命できる者の範囲及び職権制限を受けない判事補として指名できる者の範囲を拡張し、もつて裁判官の充実に資するとともに、人事の交流を一層円滑ならしめようとするものであります。  以上簡単にこの法律案提案理由を申し上げました。何とぞよろしく御審議のほどをお願いいたします。  次にただいま上程になりました少年院法の一部を改正する法律案につきまして、その提案理由を御説明申し上げます。  この法律案の要旨は、医療少年院は、必ずしも男女別施設を設ける必要がないものとすること、並びに少年院または少年鑑別所収容中の者を同行する場合において、やむを得ない事由があるときは、これをもより少年鑑別所もしくは少年院または拘置監の特に区別した場所にかりに収容することができるものとすることの二点であります。  まず、医療少年院施設のことについて申し上げますと、御承知通り、現在は少年院法第二十一条第三項の規定により、この三月末日までの経過措置として、男子の医療少年院の一部を特に区別して女子をあわせ収容することができるものとされているのでありますが、元来医療少年院は、従来の経験に徴しますと、男女別に各独立の施設を設ける必要性も少く、かつ、同一施設内であつて男女を分隔することができれば充分であると考えられるのであります。従いまして、この際、必ずしも男女の別に従つて別々に医療少年院を設置する必要がないものといたしたのであります。  次に、少年院または少年鑑別所収容中の者の仮収容のことについて申し上げます。御承知通り少年院法弟二十一条第一項の規定による経過措置として少年院または拘置監の一部を特に区別して少年鑑別所に代用していたのでありますが、この三月末日をもつてこの制度が廃止されますので、四月一日からは、家庭裁判所支部係属事件少年で従来代用の少年鑑別所収容されているような者も、すべて本来の少年鑑別所収容されることとなるのでありますが、家庭裁判所支部は、少年鑑別所所在地からは、それぞれ遠隔の地にありますので、調査審判等のため少年家庭裁判所支部に同行した際、交通事情その他のため、その日のうちに帰つて来ることができない等のやむを得ない事情が生ずることもあるものと考えられるのでありまして、これ等の場合に、これをもより少年院または拘置監の特に区別した場所に一時かりに宿泊させることができるようにするとともに、また、少年院収容中の者の移送の場合につきましても、やはり同様のことが考えられますので、この際、少年鑑別所収容中の者についてと同様な措置をとり得るようにする旨の規定を置いたのであります。  その他四月一日からその効力がなくなります経過規定の整理をいたしております。  以上が、本法律案提案理由であります。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御可決あらんことを希望いたします。  次に少年法の一部を改正する法律案提案理由説明いたします。  御承知のように、少年院法第二十一条第一項の規定による経過措置として、従来少年院または拘置監の一部を特に区別して少年鑑別所に充てておりましたが、本年三月三十一日をもつてこの制度が廃止されますので、四月一日からは、家庭裁判所において、観護措置をとつた少年収容する所は、本来の少年鑑別所だけに依存することとなるのでありますが、この少年鑑別所所在地からかなり離れた所にある多くの家庭裁判所支部事件等につきまして、家庭裁判所少年鑑別所送致観護措置をとつた場合において、交通事情等理由から、ただちに少年鑑別所収容することが不可能であるか、または著しく困難である場合が少からず生ずるものと考えられるのであります。従いまして、この法律案において、かような場合に、家庭裁判所が、決定をもつて少年もより少年院または拘置監の特に区別した場所に一時かりに収容する措置をとることができるものといたしたのであります。しかしながら、その仮収容期間につきましては、鑑別少年の性格にかんがみまして、少年院または拘置監収容したときから七十二時間を越えてはならないものとして制限し、かつ、本人の利益のために、この期間観護措置によつて少年鑑別所収容した期間として計算するものとしておるのであります。なおこれに関連いたしまして、第二十六条を改正してこの仮収容決定の執行に関する規定を置くことといたしました。  その他本改正に伴う経過措置として、この改正法律施行直前観護措置を受けて少年院または拘置監収容せられている少年であつて少年監別所へ移送するいとまのない者をこの仮収容者とみなす旨の規定を置いておるのであります。  以上が本法律案提案理由であります。何とぞ、慎重御審議の上、すみやかに御可決あらんことを希望いたします。  次にただいま議題となりました人権擁護委員法の一部を改正する法律案提案理由説明を申し上げます。  憲法に保障された国民の基本的人権擁護重要性にかんがみ、人権擁護委員法は、全国市町村区域人権擁護委員を設け、人権侵犯の予防とその救済並びに基本的人権思想普及高揚に当らしめて参りましたことはすでに御承知通りでありますが、同法の旅行後今日までの実績にかんがみまして、この法律の本来の目的を達成するため必要な改正をなすことが本法律案趣旨であります。  次にその主たる要点を御説明申し上げます。  まず第一点は、人権擁護委員推薦手続におきまして、現行法第六条において、市町村長が定員の倍数の人権擁護委員候補者推薦しなければならないとなつておりますが、市町村長において、その市町村の議会の意見を聞いて推薦したものが法務大臣委嘱に際し、常にその半数が委嘱より落されるということは、運用上支障が多いので、この欠点を取除きまして、市町村長は単に人権擁護委員候補者推薦すればよいという規定に改めたわけであります。従いまして市町村長推薦がほとんど人権擁護委員決定することになりますので、もし市町村長推薦が誤つた場合、たとえば法第七条の欠格条項に該当するものとか、法第十五条に規定する解嘱条項に当てはまるものが推薦された場合には再推薦をさせる救済規定を設けたのであります。  第二点は、市町村人権擁護委員との関係緊密化をはかつた点であります。人権擁護委員は、その推薦せられた市町村区域において、その職務を行うのでありまして、その市町村の協力なくしてはその目的を達成することが容易でないのであります。従いまして本案におきましては、第六条におきまして人権擁護委員委嘱があつた場合は市町村長は、法務大臣人権擁護委員氏名職務等関係住民に周知せしめるため適当な措置をとることに協力しなければならないという規定を設けることといたしております。  第三点は、人権擁護委員任期の延長であります。従来二年の任期でありましたが、人権擁護委員が、この仕事を習熟したころは任期が到来して十分に人権擁護委員としての活動を期待し得ない実情にありますので、その任期を一年延長いたしまして、人権擁護委員能力発揮を十分ならしめようとするものであります。  第四点は、全国人権擁護委員連合会規定を設けて人権擁護委員全国的団結の基礎を置こうとするものであります。現行規定におきましては、都道府県ごと人権擁護委員連合会を組織いたしまして、人権擁護委員職務の自治的な連絡調整及び研究をいたしておるのですが、人権擁護活動普及化に伴い人権擁護委員自主的全国的統一活動がぜひとも必要となりましたので、第十八条の二として全国人権擁護委員連合会の組織及び任務に関する規定を設けたのであります。  以上が本法律案提案する理由であります。何とぞ慎重御審議くださいますよう願います。  次にただいま議題となりました外国人登録法の一部を改正する法律案提案理由を御説明いたします。  現行外国人登録法の第十四条によりますと、外国人登録証明書交付、引きかえ交付もしくは再交付を申請するとき、または有効期間が満了した証明書の切りかえを申請するときは、それぞれ必要書類指紋を押なつしなければならない旨規定されております。この規定目的は、要するに外国人の日本における適法な居住を証する唯一かつ最も基本的な文書である登録証明書が、従来しばしば偽造、変造される事例が発生いたしましたので、これを防止するための効果的な方法として指紋押なつ制度を設けることを意図しているものであります。  しかしながら、登録の申請にあたりまして一般外国人に強制的に指紋を押なつさせるということは、わが国の制度としても初めての試みであるため相当の準備を要し、かたがた一般外国人に対してもその制度趣旨を周知徹底させる必要がありましたので、外国人登録法の附則において、これに関する規定施行につき一年という猶予期間が置かれた次第であります。ところが、その後この指紋押なつ制度に関する一部外国人の誤解はいまだ払拭されておらない折から、その施行を強行いたしますときは、最近その好転が期待される日韓両国関係に無用な支障を与え、両国友好的交渉の障害をなすおそれもあろうかと存ぜられます。  かような情勢から判断致しまして、現段階においては、この際、外国人登録法第十四条の規定施行する猶予期間をさらに一年延期いたすことが妥当と考えられ、そのためこの法律案提案いたしました次第であります。何とぞ慎重御審議をお願いいたします。
  4. 田嶋好文

    田嶋委員長 これにて提案理由説明は終りました。これら五案に対する質疑は後日に譲ります。     —————————————
  5. 田嶋好文

    田嶋委員長 ここで皆さんに一応御報告をいたしておきたい事項がございます。それは、先般来調査を進めておりますところの鹿地亘氏に対する不法監禁事件でございますが、先般の委員会において、外務省を通じて当委員会質問事項をアメリカ大使館に送付いたしておいたわけですが、この質問事項に対する回答は昨日外務省まで到達をいたしたようでございますから、いずれ本委員会において全貌を外務省から発表いたしてもらうことにいたします。なおこれに対する審議でございますが、今日の理事会におきましては、先般当委員会証人として決定しておる三橋正雄氏と鹿地亘氏を対質尋問の形において最終的に取調べをしたい、この結果を見た上で遅滞なく委員会の結論を出したい、こういうように申合せができましたので、御了承を願います。  なお三橋証人の現在の状況は、二十六日までに、被告事件として東京刑事地方裁判所にかかつておる事件がほぼ目鼻がつく予定でございますから、二十六日後なるたけ早く呼ぶことにしたいと考えておりますから御了承を願います。     —————————————
  6. 田嶋好文

    田嶋委員長 次に法務行政に関する件について調査を進めます。  去る十九日東京拘置所において起りました死刑囚脱走事件について政府より報告を求めたいと存じます。本日は法務大臣の都合が悪うございまして、政府委員として押谷政務次官関係者高橋政府委員川上東京拘置所長巣山東京矯正管区長岡野矯正局保安課長出席をされております。まず押谷政府委員より脱走事件に関する政府側報告を求め、続いて現場の責任者である川上東京拘置所長より当日の詳細な状況を承りたいと思います。押谷政府委員
  7. 押谷富三

    押谷政府委員 先般、御承知のように東京拘置所におきまして死刑囚が二名脱走して世間をお騒がせいたしましたことは、まことに恐縮にたえません。その逃走事故の概況を御報告申し上げたいと思います。  逃走いたしました人間は二人でありますが、一人は台湾人曽栄坤、二十六才、これは強盗殺人被告事件被告人であります。昭和二十七年三月十五日に東京拘置所収容いたしまして、第一審、昭和二十七年十二月十日死刑判決を受け、目下控訴中のものであります。続いて、いま一人山下栄一、これも強盗殺人被告事件被告人でありますが、昭和二十六年五月二十四日松戸拘置支所収容いたしまして、昭和二十六年十一月二十七日死刑判決を受け、控訴いたしました。昭和二十七年九月三十日控訴棄却判決を受け、目下上告中のものであり、東京拘置所には二十七年六月十四日に収容をいたしたものであります。  逃走発見及び発見直後の状況を申し上げます。二月十九日午前七時五分より担当部長は毎朝実施する既定の人員点検を実施し、同七時二十二分ごろ南舎三階第六房及び第四十房に収容している山下栄一曽栄坤の二名が逃走していることを発見いたしまして、ただちに保安課本部にこの旨を連絡の上、同七時二十七分ごろ、非常招集サイレンを吹鳴して全職員を集め、構内捜査障壁検査、並びに外部の聞込み捜査を開始いたしたのであります。障壁検査の結果、事務所庁舎に向つて左側非常口付近庁舎屋上から、こよりでつくりました直径十ミリ、長さ十三メートルの綱が下つておりますことを発見、すでに構外脱出していることが判明いたしたのであります。逃走の足取りの方向が綾瀬駅方面に向つていると思われましたので、移動捜査中の者に命じて、綾瀬駅員にそれらしい者に気がつかなかつたかどうかをただしたところ、今朝四時二十分、上野行一番電車の六両目に発車寸前無切符のまま飛び乗つた二人の者があつた、当人らは改札口を通らず、土手伝いにホームに入つて飛び乗つた者であるとの情報を得ましたので、職員別項記載通り張込み捜査に派遣いたしたのであります。今申しました経過によつて構外脱出したことを確認いたしまするや、逃走者身分帳により、逃走者氏名、人相、身分関係等逮捕に必要な事項を正確に調べて、東京拘置所所在地域を管轄いたしております亀有警察署及び同署を通じて警視庁に、逃走の事実並びに逮捕方連絡をした。その時間は午前八時ころでありました。また東京地方検察庁法務省矯正局及び東京矯正管区にも、逃走のあつた事実を報告いたしました。なお逃走者一名について約三百枚の写真をつくりまして、捜査陣に配付いたしたのであります。  逮捕のための職員配置等につきましては、またお尋ねによつてお答えをすることにいたします。  逃走箇所逃走使つたものと思われる器具でありますが、舎房切断状況を申し上げますと、第六房山下収容されておりました舎房は、窓格子の鉄を、直径二十二ミリのものでありますが、左端から三本目の最下部及びその下の横さんの継ぎ目を切断して脱出し、脱出後その鉄棒をこよりで結びまして、一見視察品から見ても切断していることがわからないようにしてあつたのであります。第四十房の曽が入つておりました方は、窓格子鉄棒左端から二本目を横さんの継ぎ目箇所から切断して、これを押し曲げて脱出をしたのであります。逃走使つたと思われる器具は、のこぎり目立てすり、刃渡り七センチ、柄が十センチくらいのものでありますが、曽栄坤収容していた舎房に、のこぎり目立てすりが残つていた点から見て、多分鉄棒をこれで切断したのではないかと思われております。この出所は目下不明でありまして、調査中であります。紙製の綱でありますが、山下栄一請願作業として封筒張りをしておつた点から見て、この封筒作製用のハトロン紙を使つて製作したものと思われます。舎房回転窓のとめ金をS字型に曲げた金具を使つております。昨年十月十日ごろから舎房修理をいたしましたが、その際修理によつて出た古材を拾つて隠匿をいたしておつたものと思われます。針金は十番鉄線、長さ五十八センチのものですが、昨年十月十日ごろ配管工事を実施いたしておりましたが、そのため工事の足場を組み立てるときに使つた針金の短かく切つた不用品を拾つてつたものと思われます。布製のひも四枚折り重ねて、幅二センチ半、長さ一メートル五十センチくらいのものでありますが、被告人に貸与しておりましたふとんを裂いてつくつたものと思われます。なお針金及びひもの確実な出所につきましては、目下厳密に調査中であります。これらをいろいろと結び合せまして、これを利用して、へいを乗り越えたものと思われます。  東京拘置所におきます職員の平時の勤務状況でありますが、東京拘置所看守部長及び看守の総員は三百八十二名でありまして、その勤務別内訳は、事務職員が八十三名、療養中十三名、中央矯正研修所に入所中の者が三名、看守教習生七名、保安関係職務に従事をいたしている職員は、二百七十六名となつております。保安関係職務に従事する職員勤務は、日勤夜勤の二部制度になつておりまして、日勤職員は百七十二名、夜勤職員は甲乙の二部にわけて、各部五十二名を配置いたしております。しかるに昼間における勤務は、被告人出廷が多いため、ことに最近は御存じのメーデー騒擾関係被告人出廷等関係もありまして、東京拘置所職員のみによる配置人員をもつてしては、運営ができない実情にありまするので、東京矯正管区の手配によりまして、常時二十二名の応援を受け、かつ事務職員戒護応援及び相当数夜勤明け職員超過勤務によつて運営をいたしている状況であります。なお保安関係に従事いたしております職員配置人員等は、またお尋ねによつてお答えをすることにいたします。  この問題の起りました南舎における勤務状況でありますが、昼間の舎房南舎区長一名、看守部長四名、看守十二名がこれに当り、その執務状況は、区長看守長が当つておりますが、南舎全般監督いたしております。看守部長部下職員の指導、監督及び随時巡回して警備及び処遇に当つておるのであります。看守は各棟を一名で受持ち、被告人視察及び被告人処遇全般を担当することになつておりますが、実際は昼間におきましては、運動、入浴、出廷等のための出入り、差入れ及び購入物品の取扱い、苦情その他の申立て処理等に忙殺されておる状況であります。夜間の舎房勤務は、十七時より翌朝七時まででありまして、これに従事する職員は、当直看守長のほかに看守部長二名、看守十二名がこれに当つて、その執務状況は、看守長は随時巡回して警備処遇監督に当つております。看守部長は随時巡視して警備処遇の同じく監督に当つておるのでありますが、看守は十七時から二十二時までは各棟一名で担当し、一時間三十分勤務、三十分休憩ということになつているのでありますが、二十二時以後翌日の朝七時までは各階一名で担当をいたしておりまして、一時間に必ず四回各房を巡回視察することになつております。  夜間における舎房外部の巡警勤務は、舎房地区巡警と工場地区巡警との二班にわかれまして、各班二名の看守をこれに充て、舎房地区は一時間に一回巡視警備をいたしておるのであります。  舎房捜検と所持物品の検査でありますが、特別警備隊員が必要と認めたときは随時実施することにいたしております。その他雨天で運動ができないとき、あるいは出廷が少い等のときによりまして職員に余力があるときには、専任者を配置して実施することに努めております。しかし最近はメーデー公判及びこれに類する事犯の被告人公判等により、職員勤務過重のため、舎房及び所持物品の検査に専任職員配置することが困難であり、現実には一週間に一回程度しか実施できない状況にあります。逃走事故のあつた房の検査は、二月十八日——逃走の前日でありますが、このときに検査を実施いたしております。その際の検査方法は、鉄窓をたたいてその音響による破損の有無の検査、あるいは房内の物品検査をしておりますが、鉄窓はそのときはまだ切断されていなかつたことと思われます。また逃走及び舎房破壊等に使つたすりその他の逃走使つたと思われる諸物件は、どこに隠しておりましたか、検査者は残念ながら発見することはできなかつたのであります。  東京拘置所における収容状況でありますが、東京拘置所収容人員は、総人員男が二千二百五十七名、女が三十一名であります。この内訳を申しますと、受刑者が、男が七百六十六名、女は二名でありまして、被告人は男が千四百七十九名、女が二十九名、この中には四名の死刑の確定囚も合んでおります。被告人中保安上特に注意を払わなければならない種類の者の状況は、次のようでありまして、死刑判決確定囚が四名、死刑判決の言い渡しのあつた者で控訴を申し立てておる者が十二名、上告中の者が十一名、無期の判決を受けまして控訴しておる者が八名、上告をしておる者が七名、さらに問題のメーデー事件及びこれに類する事件関係者は百四十二名でありまして、ほかに外国人が百七十八名、その他犯罪の手口、あるいは本人の性格が凶暴などのために、保安上特に注意を要する者が九十九名ということになつております。  逃走事故の原因と認められる点で、当局において考えました点は、舎房の精密検査が十分できておらなかつたこと、舎房出入りの際における検身——からだを改めることですが、これが非常に不十分である。被告人請願作業の場合における製素品の受渡しが正確を欠いておつたことであります。また動静視察が十分に行われておらなかつたこと、ラジオ聴取を十七時から二十一時まで継続して行わせているのでありますが、これをうまく利用されたと思われること、請願作業舎房勤務等に配置する職員が手薄であつたこと、人権思想、メーデー事件等の影響によりまして、職員は捜検等の職務の執行に消極的になりがちであつたこと、東京拘置所施設はもともと小菅刑務所であつて、受刑者を収容する目的で設計、建築されたものでありますから、被告人収容所には不適当な部分が多く、ために警備並びに処遇上困難な点があることであります。  今後の事故防止のためにわれわれが考えなければならぬと存じまする処置につきましては、まず綱紀を粛正し、志気の高揚をはからなければならぬと考えております。すなわち職務執行が消極的に傾いたのは終戦後の一般的傾向であつたが、逐次これを引締めてやや回復いたしたのでありますが、いまだ十分に立ち直つておりませんので、命令の徹底、一般の研修、職場研究、護身術、柔剣道の奨励等によりまして、厳正な職務執行の実現を期したいと考えております。舎房の転房及び舎房の精密検査を、できる限り多く実施することに努めなければならぬと存じておるのであります。ことに舎房の精密検査にあたりましては、監督者がその都度検査の対象物及び検査の方法を具体的に指示して、実施をいたしたいと存じております。舎房に出入りのときの身体の検査を厳重にするようにいたさなければならぬと存じておるのでありまして、ことに重大犯人には特に注意を払つて検身をする必要があると存じます。請願作業の実施にあたりまして、専任の作業担当者を配置いたしまして、製品とその材料を正確に受渡しをして被告人の作業状況視察に当らせ、なお夜間に作業材料をもつて反則品をつくるようなことがないように、特に朝の点検後に製素品を渡すとか、夕方点検時に引上げるというようにしなければならぬと考えております。また動静視察を十分にするように巡回を行うようにいたさなければならぬと考えておりますが、重大犯人につきましては、その者の身上相談その他の個別的指導を徹底するため、専任職員配置いたしまして心境の安定に資するとともに、もし不穏の気配があつた場合においてその動静を早期発見し得るように、なお運動、入浴など、独居房収容の重大犯人が一箇所に集まるような場合にはその挙動を十分視察し、通謀の機会を極力防がなければならぬと考えております。ラジオの聴取は継続して実施することをやめまして、プログラムの編集の際、途中随時一、二回くらい三十分ずつ聴取させずに、ラジオの音響にまぎれて反則するようなことを防がなければならぬと考えております。差入れ物の厳重な検査も励行しなければなりません。また舎房修理工事のために、出入りをいたしておる一般社会人を収容者に近づけしめないように、またこれらのものが工事のために所持している器具など、その取扱い、その保管を絶対正確にいたしまして、十分にかようなことにも注意をし、監督をする必要があると考えております。  以上概要を申し上げた次第であります。
  8. 田嶋好文

    田嶋委員長 非常に詳しく承つたのですが、その中に逃走の原因としていろいろ述べられた、そのあとで今後の対策として綱紀の弛緩をなくするということになつておるのでありますが、あなたの言われた起つた原因の中には、綱紀弛緩ということは全然触れていないのですが、これは矛盾しないのですか。それでいいですか、綱紀弛緩はなかつたと思いますが……。
  9. 押谷富三

    押谷政府委員 先ほど御説明申し上げましたうちに、原因として考えておりまする点に、人権思想、メーデー事件等の影響によりまして職員が捜検等の職務の執行に消極的になりがちであるという言葉を申し上げたのでありまして、これは綱紀が弛緩をしているという程度までを考えておりませんが、しかしかような全体のできごとから考えまして、今後一層綱紀を粛正し、かつ精神を緊張させて職務に当る。それがために、ただいま御説明申し上げましたような徹底した方法を考えたいと存じております。
  10. 田嶋好文

    田嶋委員長 委員長が特にそれを問うておりますのは、先般の予算委員会におきまして犬養法務大臣が質問に対して答えた答えの中に、今回の事件が起つたのは綱紀の弛緩にあるのだ、こうした点が原因になつておるということを——新聞報道でございまして、速記録を見ておりませんからわかりませんが、答えております。すると本日法務委員会での政府委員の答弁と大臣の答弁が食い違うことになりますので、その点を特に確かめておくわけであります。
  11. 押谷富三

    押谷政府委員 私がいろいろ対策を申し上げました中にもございますように、今回の逃走事件を顧みましてその原因をよく調査してみますと、あるいはかような重大犯人の運動、入浴等の出入りについての身体の検査でありますとか、あるいは舎房内における捜検——捜査、検査等にあたりましてもかようなものを発見することができなかつたり、かようなものを房内に持ち込んだりいたしましたことにつきましては、何としてもその職務上重大なる落度があることを認めざるを得ません。かようなことは、綱紀の弛緩という極端な言葉をもつて言い表わすことが多少躊躇はいたしまするけれども、しかし何としても役人といたしまして、かようなことに怠りがあつたということは申訳がない次第であります。綱紀の弛緩どいうものと考えます。
  12. 田嶋好文

    田嶋委員長 次に川上説明員より、重複する点は省いていいから、それ以外の点について説明を受けることにいたします。
  13. 川上桿

    川上説明員 このたびは、私が東京拘置所長といたしまして東京拘置所を預つておりながら、こうした重大犯人の逃走ということが起きたことは、私としてほんとうに社会の皆様に申訳ないと、ただひたすら謹慎の意を表しておるわけであります。もちろんただいまの御説明にもありました通り種々の点に欠陥があるのでありますが、私の考えております点を申し上げますと、ただいまの逃走原因中の舎房の精密検査を十分実施しておらなかつた、この点でありますが、これは実際精密検査をしておれば発見できたのであります。ところが精密検査を、その説明にもあります通り、一週間に一回程度ということでありまして、精密検査を十分実施していなかつたという点が、一番の原因である、こういうふうに考えておるのであります。この点部下職員監督することにおいて十分でなかつたという点を、私も痛切に考えておるのであります。また舎房の出入りの検身が不十分であつた、この点も認めざるを得ない大きな原因と思つております。その他請願作業の製素品の受渡しが正確を欠いておつたと申しますか、具体的に申しますると、山下は去年の十二月一日から請願作業を始めたのであります。それで八日まで写真のコーナーを張る仕事でありますが、そのコーナー張りをいたしておりまして、十二月九日から封筒張りを始めたのであります。この封筒と申しますのは、だ菓子を売る店屋で使つているような封筒であります。手紙の封筒ではないのでありまして、雑封筒といいますか、こういつた大きな封筒であります。それで十二月九日にナンバー八という——これは封筒の型でありますが、これを十二月九日に三千枚渡し、十二月十六日に三千七百枚を渡しております。それから十二月十九日に三千枚、合計九千七百枚を渡しております。そして出来高を見ますと、十二月十二日に七百枚、十二月十六日に千二百枚、それから一月十四日に六百枚、一月十六日に五百枚、これだけ製品ができております。ところが山下は作業成績があまり上りませんので、ことにナンバー八の封筒——この封筒ではありませんが、これとほとんど同じような封筒でありますが、その前に張つた封筒はそれの納期——これは委託者から期限をきめられて、その納期までに納めるようになつておりますが、山下が作業をあまりしていないために、その納期に遅れるということから、一月九日に二千百枚、一月十三日に四千五百枚というのを、山下から引上げてしまつたのであります。そしてほかの請願作業をしている被告に渡して封筒をつくらせて、業者の方に納めた、こういうことになつております。この差引勘定がこのナンバー八の封筒において百枚の不足が生じたのであります。それから一月二十四日になりまして、今度はナンバー七の封筒——ただいま持つて来たこの封筒でありますが、一月二十四日に六千枚渡したのであります。ところがその後やはり作業能率が上らない。他分逃走などのことを考えておつたために、能率が上らなかつたと思われるのでありますが、能率が上りませんので、二月十四日に至りまして三千枚引上げたのであります。そして十九日逃走をしたわけでありますが、調べてみたところ、未済の材料として二千五百枚残つております。それからほごになり、くずになつて、使えなくなつてつていたのが二百三十枚、合計二千七百三十枚、結局三千枚のところを、二千七百三十枚という数字が現存していた数字でありますから、不足が二百七十枚という数字が出て来るのであります。そうすると、ナンバー八の不足が百枚、ナンバー七の不足が二百七十枚、合計三百七十枚という数字が出て来るのであります。それで今度はロープでありますが、ロープは大体これを八折りにいたしまして、切つて継ぎ合せたと考えられるのであります。これは今検察庁に持つてつて検査中でありますので、私きよう借りて来ようと思つたのですが、持つて来ることができませんでしたが、これを八折りにして継ぎ合せたものであります。こういう継ぎ合せたものをより合せまして、これを三本編むのであります。三本編んだのを十メートルないし十三メートルの長さにいたしまして、それを九つ合せて編んであります。それで二十七本だと、大体二人ぐらいの人が下つても切れない強さになります。それだけ丈夫であります。その目方をはかつてみますと、二百五十匁あるわけであります。この紙は五十枚七十匁ということになりますので、そのロープをつくるのに百七十五枚から二百枚いるということになるのであります。そういう強さを持つた紙であるということを、今度初めて知つたわけであります。そういうことになりまして、この三百七十枚の紙の不足ということをはつきり知つておらなかつたことが、この逃走事故の原因であると申せると思いまして、まことに恐縮にたえないのであります。  次に問題になりますのは、やすりであります。新聞紙上などで見ますと、山下、曽は運動中にグランドで拾つた、こういうことを申し述べておるのであります。この点は所内において調査いたしましたところ、やすりを使つておるのは、東京拘置所においては工場地区の方であります。と申しますのは、昔小菅刑務所は舎房地区と工場地区とわかれまして、その間にやはりあれと同じようにへいがまん中に通つております。工場地区の方で営繕大工と申しまして、東京拘置所の中を修理いたしますのに、その大工がいろいろと修理いたしております。その連中がやすりを使うわけであります。ところがそのやすりは、担当部長がちやんと預かつております。用度課からもらいまして預かつておりまして、その必要のときに貸して、とがして使つております。こういう厳密なやり方をいたしておりまして、今度も徹底的に調べてみましたが、その方面には数量不足なし、ぴしやつと合つておりますので、まず工場地区の方から出たのではないということがわかつたのであります。さてそうなりますと、どこから出たかという問題になります。あとはこれは私はつきりしない、まつたくの推測でありますが、昨年の十月十日から、東京拘置所舎房が非常に腐朽しておりますために、修理をいたしておるのであります。約千八百万円という予算をいただきまして、修理をいたしておるような状態であります。その修理の際には、外部の職人も相当つて来ておるのであります。それから鉄管工事——前にあそこが鉛管でもつて排水ができておつたのでありますが、それが腐朽してしまつたので、今度鉄管に直したのでありまして、鉄管工事は二十人ないし四十人の外部の人が来てやつてくださつたのであります。私は今度の場合に、やすりで切つたのか、金切りのこで切つたのか、非常に疑問に思つておるのですが、今度警視庁で鑑定してくださつておりますが、その鑑定の結果、やすりと出るか、金切りのこと出るか、今一生懸命に待つておるのであります。山下の舎房を切つた切り品を見ますと、どうも金切りのこではないかという疑いを持つておるのであります。曽の方は、どうもやすりのようでありますが、山下の方は金切りのこで切つたのではないかという疑いを私は持つておるのであります。そこで金切りのこはどうして入つたか、やすりはどうして入つたか。金切りのこは、鉄管工事のために外部の人が来て、仕事をしておるときに、折れると、そのまま捨てたり放置してあるということがたくさんあります。去年十二月半ば中にも、私たちの方の職員がそれを拾いまして、全部で五本ぐらい拾いました。それでその監督者に向つて厳重に注意を与え、その折れたのを完全に保管し、それから廃棄したというような事実がありますので、そういうようなところから手に入つたという疑いを私持つておるわけであります。それからこれはここで申していいかどうかと思いますけれども、同囚の一人が、その鉄管工事に山下の悪友が一人入つていたということを言つた。その人を確かめよう思いますけれどもなかなか同囚の者は言いません。それから何かやすり、金切りのこをもらつたのではないかということを、その同囚の者が言つておるのです。これも不確定ではつきりしておりませんが、こういうことによつても入り得るということは言えるわけであります。それで、やすりと金切りのこの出所の点は今のところ不明であります。検察庁で調べ、警視庁で調べて、私どもの方へもどつて来たらよく聞いてみたいと思つております。いずれにいたしましても、そういうものが手に入つたということは何としても私たちの手落ちでありまして、非常に申訳ないと思うのであります。私たちは神経質なほどに金切りのことか、やすりについては考えておるのでありますが、そういうものが手に入つたということはどうしても私には納得ができないでいるような状態であります。  もう一つ、ロープの先へS字型に曲げた四角い鉄棒を縛りつけて、これを上にひつかけて登つた、こういうふうに思えるわけでありますが、この鉄棒は、舎房の外側に鉄格子があり、その内側に回転窓がある、その回転窓のまん中のところを押えるようになつた鉄棒であります。この鉄棒は今度の舎房修理のときにたくさん出たのであります。それを全部用度の方へ持つて来ていることになつてつたのでありますが、実はそれが抜けておつたというふうに思わざるを得ないのでありまして、それがいつの間にか盗まれた、こういうことが考えられるのであります。この点にもまことに手落ちがあつたわけで、申訳ないことばかりであります。  それから舎房捜検をしてどうしてみつからなかつたかという問題が一つあるのであります。新聞を見ますと、ああいう相当の道具をふとんの中へ隠しておつたと言つておりますが、今度逃走したあと、私もふとんの間ではないかということを考えて、すぐふとんを検査いたしたのでありますが、一つもほころびがないので、どうしてもふとんの中へ隠したとは思われない。畳んだふとんの間へ隠したということも、捜検しますときはその間へ手を入れるので、たいてい発見できるのでありますが、今度は発見できなかつた。私は舎房へ入つてみますと、大きな盲点があつたのであります。今度舎房修理いたしましたが——水洗便所であります。その便器は腰かけになりまして、その便器のところへ特にかぶせるふたができておる、そのふたをしますと読書などできるような仕組みになつている。便器にわくがあつて、三万ふさがつているが壁側のところに穴が明いている、このわくが自由自在にとりはずせるようになつている、その便器のところがすき間だらけで、ふたをかぶせておきますと、ちよつ見てもなかなか発見できない。多分ここへ隠したのではないかということを舎房の中へ入つて見てわかつたわけであります。きのうも会議を開いてこれを直そうじやないかと考えたわけでありますが、そんなところの欠点が暴露されまして、こういう結果になつたことは申訳ないと思つております。
  14. 田嶋好文

    田嶋委員長 本件について質疑の通告がありますからこれを許します。松岡松平君。
  15. 松岡松平

    ○松岡(松)委員 川上さんにお尋ねしたいのですが、今の御説明を聞きますとあなたは房の中に初めて入つたということですけれども、私も便器の中は非常に怪しい箇所だと想像しております。少菅の中は私もよく知つております。南舎も知つておりますが、非常に逃走容易な箇所であると思われる。というのは鉄格子の外に廊下があるが、その鉄格子がきわめて不完全であるし、普通鋼になつている。おそらくアメリカあたりでは普通鋼は使つておらぬ。普通鋼で二十二ミリくらいのものはちよつと握力の強い人なら曲る。だからそれを切るにしてもおそらくやすりが二寸の長さがあれば切れるし、音が出ません。石けん水をつけて手ぬぐいをかぶせれば音は出ない。問題は設備の不完全ということを考えなければならない。第一鉄格子の外に廊下があるが、窓であれば非常に逃走には困難である。脱出してさらにぶら下るということはなかなかの技術です。あの場合は一本切ればほかは曲げられますし、容易にからだが出られるということが考えられるのですが、そういう点について今までお考えが及ばなかつたということは非常に不注意だ。ことに鉄格子の中段がおそらく二本だつたと思いますが、二本では不完全であります。それから鉄格子をはめたらがんじような網をつけることが必要である。網がつけてありませんから、棒を一本切ればたやすく外に出られる。出れば屋根伝いに行ける。この間も新聞に出ておりましたように小菅は玄関は無警備であります。屋根伝いに出れば、飛び下りの達人ならあれから飛び下りるのもそうむずかしいことではないと思う。そういう点をよく見張りをし、注意して見ておらなかつたというところに大きな遠因があるので、設備の不完全ということを特に指摘したい。人を拘禁する以上は脱出ということがまず考えられるのだら、看守するということは脱出を防ぐということが第一問題である。それについて今小菅では室内の点検に努力しておらないのではなかろうか。こんなことを申し上げては何ですが、私は追放令違反で二十三年に実は見学させていただいた。たいへん貴重な見学でありました。その際には一ぺんも内部、の点検がございません。つまらないことばかり拘束しておる。差入れる本は入つてから一週間もたたなければ入つて来ない。そういうことは拘束するが、室内の点検などは一向にしません。それから私が調査したところによると、終戦直後朝鮮人が多数いた際には、あのドアの下の窓を破つて自由に横行した。しかも当時それを阻止する力がなかつた。それが半年にわたつて行われ、朝鮮人諸君はあの房を自由に横行していた。ようやく看守の一名が空砲を発砲してこれがとまつて、その機会に修理した。おそらく今なおこういう残滓が残つておるのではなかろうかと思われる。  それから先ほどの綱紀の弛緩の問題がありますが、これははなはだしいものだと思います。現在の看守諸君は二十三年当時の人も多数おると思うのですが、私が接した看守看守とは思われない。むしろ私をして言わしむれば、房の中におる囚人と友達であります。考え方に至つては実にひどいものでありまして、人を看守する人とは思えない。私についた人は何回もかわつておるが、私が話をしてその人の考え方というものを確かめてみたことが何回もあります。ありますが、これはなつておりません。所長はどういうふうにお考えになつておられるか知らぬが、われわれ当時拘禁された者から見た看守というものは、驚くべきものです。これらの人たちによつて監視されておるなどということは、まことに驚くべき私は現象だと思つた。一々例をあげてもよろしゆうございますが、おそらく所長においてはお気づきのことと私は思う。一つは、彼らはもう口を開けば待遇の問題を言います。食つて行けない、食つて行けないということは、それではどろぼうでもしなければならぬのかと言いかねないのでありまして、これは十人が十人ともそういう体験をしました。これは非常に驚くべき現象でありまして、この点については根本的にお考えになる必要がある。単に綱紀々々といつて武道ばかり教えたからといつて、生活上の問題から来ておるものはしかく簡単には直りません。これは、根本的に考えなければならぬことは、看守の地位というものを確保すると同時に、質を高めることでありまして、いいかげんの者を採用して、看守に仕立て上げたところで、結局ごろんぼや、やくざの人間に看守の服を着せてかつこうをつけただけの話であります。こういうもので綱紀が維持されるものとは私は考えられないのでありまして、看守の待遇をもつと高めて生活の保障を与えると同時に、精神的な訓練を要望する。これは質の向上であります。こういうことから考えますると、私はひとつ現在の看守というものを根底から考え直して、組織の再編成をやる必要があると思うのであります。おそらく今後においてこういうような事態はずいぶん出て参ると思うのです。これはむしろ私は上官の下部に対する監督というものが、全体の空気が困難な状態にあると思われるのです。一例をあげますると、たとえば病監にいたしましても、私は病監を一ぺんのぞいてみたことがあるのでありますが、この病監などというものは、これこそ私に言わせれば刑務所の中の別荘である。別荘であると同時に犯罪技術の訓練所みたいなものなんです。なかなかむずかしいところであります。幾多のルーズなことがこういうところで行われておる。  それから作業をする場合も外部の人間との接触に起る問題ですが、結局看守が囚人と同じような考えで不平たらたら働いておるということははつきり言い得ると思つたのです。だからこの点を私は法務省におかれましても、根本的にお考え願うと同時に、一ぺん法務大臣が一日くらいあすこへ行つて、静坐してみることも必要なんです。これは正木弁護士があの中へ二日間ごまかして入つたそうですが、たいへんな経験だとおつしやつた。これはどうも上の人が知つてつたのだから大した経験にならないという者もあるが、私はそうでないと思う。やはりあの空気というものは、一日、二日ぐらいおつてみて、初めてその欠点なり長所がわかるのです。法務大臣視察といえば、みなもう右へならえで、いいかつこうをして見せますから、欠点などを発見することはできません。ことに所長の巡視なんかがありますと、みな看守が起立をしまして、欠点なんか見せません。だから私はこういう巡視に対しましても、所長あたりが巡視をせられるときには、不意に無警告に急所をついて調査せらるる必要がある。警告を発して巡視されて、欠点などわかるものではありません。みなそれは整頓して、整理しておきますから、ただそれを見に歩くだけだつたら歩かぬ方がよろしい。それが帰つてしまえばまたすぐあともどりいたします。こういう状態であります。  それから外部との出入り、面会人なんかの監督などはきわめてルーズであります。おそらくやすり一本ぐらいを所持することは天勝の芸をもつてすれば、私は困難なこととは思われない。ことに衣服の間にやすり一本を入れたところで——現在は知りませんが、二十三年当時の小菅の監視状態であつたならば発見なんかされぬだろうと私は思います。ですからこの点について、私はひとり監督という小さな問題でなく、機構の全体を再検討せられる必要があると思います。つまらない形式的なところはやかましい。私語をしちやいかぬとか、すわつたとか、足を投げ出したとかいうつまらない口小言は非常に多い。こういうことは私はどうでもいい。それよりかんじんかなめな急所を押えるところがないから、こういう問題が起る。まず窓のところは鉄格子の改革であります。これをせられると同時に厳重にせられることである。一本のやすりで切断できる。これを五本も六本も切らなければ出られないということになると時間がかかるから、必ず発見されます。ところが一本ぐらいで出られるような施設であつたならば、これは今後相当見張りを厳重にせられましても、こういう問題が起ると思うのです。私は小菅見学中に承りました話によると、当時府中の監獄に有名な脱獄の名人がいた。これなどは天井をはうそうであります。これは所長もよく御存じのはずであります。これなどは夜間に目がよくきくというくらいな人物だそうで、これらに言わせると、小菅刑務所なんか脱獄するのは朝飯前だと言つていたそうであります。そういう経験が十分生かされておつたとしたならば、今日こういうものは防止し得たと思う。  それからもう一つ欠点を指摘しておきたいと思うのは、六千枚の紙を一括して死刑判決を受けて上告中の者にお渡しになることは、根本的に軽率であります。一日の分量をお渡しになればよろしい。要するに取扱者がなまくらであります。怠惰であるために、手数の煩雑を防いで六千枚という、幾日分か知らぬけれども、これを渡しておいて、そしてあとで計算してとるなどという、そういうルーズな状況は、おそらく今日の整つた工場ではこういうばかげたことはやつておりません。工場でやつておらぬことをどうして刑務所の中においておやりになりますか。これはよろしく御反省願いたいのであります。また伝え聞くところによりますと、小菅などで同性同士の嫉妬から、殺人など起つたという話も聞いております。それは事実であるかどうかは私知りませんが、根本において考えていただかなければならない。大体日本の官憲は、人民に口小言とか、つまらないことを圧迫することはすきですが、かんじんかなめのところをはずす。この点は人間はきわめて自由にしてやつてよろしいが、かんじんのところはぐつと押える必要がある。そのかんじんのところをはずしているものだから、こういう問題が起るのでありまして、六千枚からの紙を包括的に渡すなんていうことは、おそらくどこの工場でもやつておらぬ。これにひとしいような紙の箱をつくつている工場なり、あるいは製薬工場をお調べになればわかります。一日分を渡して一日分を返して行くのであります。伝票と引合わせて職工が返して行くのが通例であります。六千枚もの紙から、一日に三枚づつ引抜いたつてわかりません。勘定間違いだと言えばこれはなかなかわかることではない。また監督し切れるものではない。これはよろしく毎日毎日運んで、包括的にやるなどということは今後やるべきことでないと思うのであります。でありますから一つ一つ指摘するよりも、刑務所全体の機構というものを再検討せられる必要がある。また考えなければならないことは、房にあつて監視せられる以上は、あの中において教化するという考えを持つべきである。ことに死刑判決を受けて、控訴上告中の被告などというものは、心理的に微妙な感じがある。こういうような者に対しては特別にその心事をくみとつて教化し、彼がもし死刑の確定を受けてこの世に終りを告げるとするならば、やはり人間としての最後を全うせしむるように、日常訓育を与え、感化を与えるように、相当な人格のある人をしてその担当者たらしめるように努力せられることであります。私は追放令違反であそこに入つておりましたが、小平と相向いで、私の隣りが殺人、まるで私は殺人犯人と同じ所へ入れられた。ところが彼らを朝夕見ておりますと、やはり彼も人の子であります。小平などというものは、死刑が確定いたしまして私朝夕見ておりましたが、まことに子供のようなものでありました。しかしながらちよつと感情が激するとかわつた動作はある、普通人でないということは十分に見とられる。私の隣におつた、これも殺人犯人でありまするから、死刑になる部類でありますが、これなどは私に呼びかけていわく、お前も殺人で来たかと、これにはいささか驚きましたが、隣と隣との話が通ずるのです。あれを何とか処置をしなければいけない。窓を通じて隣に話が通ずるこの施設を大いにこの機会にもお考えおき願いたい。こういうケースはおそらく現在の機構においては起る可能性はあると思う。でありまするから、まず物的な改善をはかり精神的な改善をはかる、こういう点に法務省の御努力を私は希望してやみません。こういうことができると人心が非常に不安心であります。どうぞこの点について積極的に勇気をもつてとつ改善に当つていただきたいと希望する次第であります。
  16. 川上桿

    川上説明員 ただいまのお話は非常に胸にこたえるものがあるのでありまする例をおとりになりましたが、所長巡視の問題でも、なるほどその通りでありまして、所長が行きますと親指を出しましてサインをしまして、向うの方では所長が来たということがわかつてしまつているというようなことで、なかなか困難でありますので、私もできるだけ不意に行くことにしておりますが、入り口が一つでかぎがあきますものですから、どうしてもがちやつとしてわかるものですから、どうもその点がうまく行きません。  それから六千枚の紙を入れたことが非常に悪いということはごもつともであります。これは山下に三千枚とか六千枚入れたことが悪いということでありまして、ほかの人では——大体出来高を調べてみましたところが、ナンバー七の今の紙でありますが、一日六千六百枚張る人がいる場合があります。一日普通の人が千枚張るということが、大体課程と申しますか、標準になつておりまして、それでありますから千枚という課程は少いのでありまして、平均にしますると三千八百五十枚という数字が出て来ておるわけなのです。山下についてはその点はまことに申訳ないのです。なまけて仕事をしないのですから、引揚げてしまい、またできるだけ五百枚とか六百枚渡さなければいけないのを、その十倍も渡していたということは、この点申訳ないと思つております。しかしこの対策にもあります通り、今度は朝渡して夕方に員数を合してちやんと引揚げるということを実現いたすように、今どういうふうにしたらそれができるかということを調査させて、私これは必らずやるつもりでおります。  それから設備の点でありますが、お説の通りでありまして、あの鉄棒は生鉄でありますので、非常に切りやすいのであります。大体あれを金のこで切りますと、石けん水をつけるとかそれからバターをつける、被告人は差入れがありますので、バターをつけてやるというようなことにすれば、二十分か三十分であれを切つてしまうというようなことが言われておりまして、実際そういう点からするとあつてなきがごとくですから、特に監視を十分にしなければならぬところをしなかつたという点、非常に問題があると思うのであります。  それから先ほど申し落しましたが、ここに山下と曽が舎房が六房と四十房というようにずつと離れておるのであります。これはどうして通謀したかという問題があるわけなのでありますが、これは設備にも関係しておりまして、大体ああいう死刑囚などは零番と言つております。東京拘置所では重罪犯は最後の番号が零で終るようになつておりますので、零番と申しておりますので零番と申しておりますが、そういう人たちは個別的な運動とか入浴をさせなければならぬわけであります。ところが南舎だけで現在八百人の被告がおるわけであります。運動場は三箇所ありまして、一番大きいのが二百四十坪、百四十坪それから百二十四坪の三つの運動場であります。これが四百人を一日三十分以上運動をさせなければならぬことになつております。そうなつて来ますと、これを一人ずつやつたのではとうてい運動はできないのであります。そこで勢い零番というような重罪犯人をどうしてもグループとして出して運動をさせなければならぬというやむを得ない事情が出て来ておるのであります。ですから実際死刑囚とか零番は南舎に大体二十二名おりますが、この二十二名の零番を大体二つにわけてやるか、ある場合には天候などの関係で、小雨が降りそうだから運動を早くやつてしまわなければならぬというので、一緒に運動をやらせるという点もあるのでありまして、こういう点も欠陥ではありますが、また一面そうしないとできない事情があつて、この点はほんとうに私は今悩んでおるわけであります。そういつた際に、また看守の数が少いものですから、一人で立つて見張りをしておるわけであります。十人なり、二十人なりが運動をしておる、そこに一人が立つているのですから、通謀するなと言つてもこれはするなと言う方が無理であります。そういうわけで運動しておるときに通謀されたのではないかということが考えられるわけです。  それから設備の点でもう一つ、隣と隣と話ができる、これはできるのであります。構造の点で、あれをふさぐのには相当の金がかかるのではないかと思います。この点も私らほんとうに悩んでおります。大体六つくらい向うの方まで聞えるのであります。隣または一つ置いての隣までは話ができる。これは外から窓と窓とで話をする。窓に向つて話をすれば話ができるわけです。そういう設備の点から先ほど申し上げましたように、小菅刑務所としてつくられましたので、ただいま独居房その他の居房に被告人がおりますが、昼間はあそこはほんとうはあいていたのであります。昼間は全部工場に行つてあいていて、夜だけ帰つて来て寝るという仕組みのところに昼間も夜も一日いなければならぬという状況ですから、いろいろそういつたところに欠陥がある、こういう欠陥が一つの原因と思われるのであります。  それから看守の地位その他の問題につきましてもお話がありましたが、実際同感であります。看守の地位が低い、ほんとうは月給が安いのであります。これは率直に申し上げますが、看守の初任給が六千二百円であります。大体六千二百円で大学卒業者を採用しようといつても——近ごろはときどき来ますけれども、あまり大学卒業生とかそういう人は来ないのであります。勢い中学校卒業あるいは新制高校卒業程度の人を採用するよりいたしかたがないのであります。そういう点からも看守の地位の向上ということはなかなか困難な問題であると考えております。しかし近ごろは大学卒業者も入つて来て、優秀な人も来ますので、こういう人を訓練してやつて行きたいと考えております。  それから先ほど昭和二十三年ごろのお話がありましたが、その当時の状態はまつたくお話の通りであります。朝鮮人が乱暴してほとんどあそこを牛耳つてつた。私は二十四年の一月の一日から東京拘置所の所長になつて来たのでありますが、実際来てみて、この間新聞でもたたかれた通り、そういいとは言いませんが、二十四年に来たときには実際混乱状態で、爆発寸前といつた状態でありまして、実際舎房、廊下には全部出て遊んでおる。所長も歩けないという状態でありまして、今昼でも本錠にいたしております。本錠、仮錠ということも今一つの問題でありますが、前に仮錠にしておつたのを本錠にして、外に出られないようにしております。そういうような点もぼつぼつ改革したが、あまりに多いので、十分な改革なかなかできなかつたということは、私も三年以上もおりまして、申訳ないと思つているわけであります。
  17. 田嶋好文

    田嶋委員長 それに関連してちよつと伺いますが、今メーデー事件被告人がたくさんいる。その被告人が、何か団体交渉をあなたのところに申し込んで来て、それに対してあなたの方で応じて、いろいろやつおるというようなことを聞くのですが、そういうことはあるのですか。
  18. 川上桿

    川上説明員 今度の事故の一つの原因として、ここにメーデー事件その他の事件、主として共産主義者の関係のことが原因としてあげてありますが、これが私は今度の原因の、精神的な面でありますが、一番大きな原因であると思つております。去年の五月一日のメーデーでもつてたくさんの被告が、一時はメーデーの被告だけで二百七十名、その他練馬事件その他でもつて、結局三百名以上の被告が入つたのであります。ところがあの人々が、担当看守その他部長、区長または保安課長、それから管理部長その他お医者さんでも、だれでもかまわず面会願いを出しまして、処遇の改善ということを、彼ら独自の立場から要求するのであります。そしてそれをいれないと、結局ハンストをやるというようなことをやつて、すべてが闘争で来るのであります。書籍の差入れ問題、衣料、食糧の問題等においても、すべて抗議々々、闘争で来るのであります。ところが彼らにも反則が相当あるのであります。たとえば中でもつて、普通に話をするのは禁止するというようなことはしておりませんが、インターをみなで歌つてみたり、それから刑務官に向つてつばきを吐きかけてみたり、あるいは本をかつてに貸し借りをするわけであります。それからタバコの問題がまた出ると思うのですが、タバコを吸う。これは出廷のときでありますが、公判に出て来て、大体飯粒をぞうりの後につけて置く。吸がらが落ちているとぱつと足で踏みつけて、そして持つて帰るのであります。これは身体の検査が不十分だと思いますが、私たちはそれで参つてしまつております。ぞうりの裏についていないか、どこか隠していないか検査するのですが、共産党の人なんか、身体検査については毎日ほとんど争いであります。体を見させない。裸にしては見ませんけれども、ふところには手をつつ込んで見ます。そうすると人権蹂躙だとか、舎房検査をすると住居権の侵害だとか、ことごとく問題になるわけであります。そういうことを言われて、看守諸君もそう腹があるわけでもなし、また知的に彼らを説得させるだけの力もありませんので、どうしても押されがちになつて、ただいま申しましたように消極的になりがちであります。それでただいま委員長の方からお尋ねになりました集団面会ということは、いたしておらないのであります。ただメーデー公判の打合せのために弁護士さんが見えたときに、一緒でないとうまい打合せができないからというので、弁護士さんについてそのとりはからいを一度したことがございます。その程度で、ほかの人の集団面会は許しておりません。共産党の人が実にもう闘争々々で毎日やるので、実際心身が疲れる。そうして結局メーデーとか共産党のああいう事件の方へ注意力がずつと、私以下下の職員まで向いて行つてしまつた。その死角をつかれたといいますか、盲点をつかれたといいますか、そんなことがあつてはならないのでありますけれども、実情としてはそういうふうになつておると思われるのであります。
  19. 田嶋好文

    田嶋委員長 大川光三君。
  20. 大川光三

    ○大川委員 今回の未決死刑囚脱走事件につきましては、いち早く都内七十数箇所の署に自動車の検問所が設けられるとか、あるいは二万にも及ぶ警察官を動員して、非常警戒陣をしかれたということでありますが、これに要した費用の損害はもとより、三十数時間にわたつて都内の人心を不安と恐怖の中にさらしたという、社会的、精神的被害は、決して少くないと私は考えるのであります。先ほど押谷政府委員から、きわめて詳細なる事実の報告を得たのでありまするが、私どもはそれをもつてはいまだ満足できない。端的に申しますと、今回の脱走事件の根本原因は、法務行政の弛緩にあるとさえ私は考えておるのであります。法務省の発表されました調査によりますと、全国七十三刑務所で発生した昨年中の囚人脱走事件は六十九件、延人員にして百四十一人に及んでおるということでありまして、その中にはさきに発生いたしました宮城、大阪両刑務所における死刑囚脱走事件もございまして、いずれも鉄格子を切り取つて脱出するというような、同じ手口をとつておるのであります。昨年度における多数の脱走事件にかんがみて、今日まで法務省当局としてはどういう対策をおとりになつて来たか、それをまず伺いたいのであります。
  21. 押谷富三

    押谷政府委員 大川委員の御質問にお答え申し上げます。今御指摘になりましたような脱走事件を惹起いたしておりますることは、まことに遺憾にたえないところであります。法務省といたしまして、その事件については個々に厳密な調査をいたしまして、その脱走の原因を究明して、そうしてただいま御指摘になりましたように、法務省の職員にしてもし職務を怠り、綱紀弛緩をいたしておるような点があるならば、苛責なくこれに対して懲戒処分を行うという方法をもつて臨んでおるのであります。数字は相当たくさんに上つておりますが、今回起りましたような脱走は、あまり多く例がないのでありまして、そのたくさんの数字のうちの大部分は、郊外作業をいたしておる間に逃げたというのが多いのであります。と申しましてそれで決していいというわけではないので、かようなことがいずれの場合においても、いかなる事態において生じましても、恐縮にたえないことであります。よく原因を究明するとともに、それぞれの責任者の処分をし、綱紀を引締めるように努力を続けておる次第であります。
  22. 大川光三

    ○大川委員 そこで私はさらに進んで伺いたいのでありますが、法務行政の中で法務省みずからが法を守らない、違法行為を公然とやつておられるというような感を私は抱くのであります。先ほど押谷政府委員から、東京拘置所における収容人員についての御説明がございまして、現在は男子が二千二百五十七名、女子が三十一名というのでありますが、一体東京拘置所には収容人員についての定員の定めがあるかどうか、定員を超過して収容しておることはないか、その点を伺いたいのであります。
  23. 押谷富三

    押谷政府委員 お答えいたします。東京拘置所における収容の定員は合計千八百三十九名であります。これを内訳いたしますと、旧来の建築舎房に千二百名、新築舎房に百九十八名、これは南でありますが、北に三百三十五名、ほかに病者を収容する病者舎房に百六名、合計千八百三十九名でありますが、ここに先ほど申しましたような人数を収容いたしておりますので、過剰拘禁となつております。
  24. 大川光三

    ○大川委員 関連して伺いますが、東京拘置所職員の定数はいかがになつておりますか、また現在何人職員がおられるのでありますか。
  25. 川上桿

    川上説明員 全部で五百三十二名であります。これは所長以下雇員まで入れた数字であります。それで現員は五百十九名でありますので、現在不足が十三名になつております。
  26. 大川光三

    ○大川委員 これはただいまの東京拘置所の例でございますが、定員数を上まわることまさに三割以上の増加でございまして、しかも職員数においては多少定員を下まわつておる。この職員の不足と、加うるに定員以上に超過収容ということが、知らず知らずの間に拘置所職員に過労な仕事を与え、しかも与えられます一定の待遇と対比いたしまして、仕事が多くして待遇が悪い。ひとり東京拘置所に限らず、各地の拘置所の看守等が不平満々として仕事に従事しておるというところに私は大きな原因があろうかと存ずるのでございまして、こういう点につきましては、当局はすべからく法を守る、定員を守るということは、一つは受刑者の人権を尊重することであり、同時に職員の労働基準法に反するような酷使をしないということ、これに思いをいたされまして、今後の脱走事件に対する一つの対策とせられたいということを私は希望し、その点に関する当局の意見を伺つておきたいのであります。
  27. 押谷富三

    押谷政府委員 大川委員のきわめて適切な御意見を拝聴いたしましたが、現在の主要都市における拘置所の収容人員は、いずれのところに参りましてもほとんど過剰人員で、過剰収容しておらないところはございません。たいへん施設が悪く、犯罪者が多いので、どこでもたいへんな数を超過いたしておるのでありますが、これにつきまして法務当局としても何とか施設をいたしたいと存じておりますが、目下御承知のごとき国家財政でありまして、十分に施設の拡充もできません。各位の御協賛を得て施設の拡充、そしてかような過剰人員にならない、過剰拘禁にならないように、かつ職員の充実も十分いたしたいと存じております。
  28. 田嶋好文

    田嶋委員長 田万廣文君。
  29. 田万廣文

    ○田万委員 松岡さんから大分専門的な立場からいろいろお話があつたので私も参考になつたのですが、私どもがいろいろ聞いておる脱走の方法として、やはり今度の脱走事件のように、舎房鉄棒を切断して出ておることが多いと思うのですが、そのほかに何か川上さんの方で脱走の方法として考えられるものがいろいろありますか。舎房の中から逃走する場合……。
  30. 川上桿

    川上説明員 その他の方法といたしましては、廊下の方へ出る方法が一つあるのであります。それはドアのはめ板を切るわけであります。大体はめ板は額縁のようにはめ込みになつておりますので、そのわくを切る。それでもつてそのわくをはずせるようにしておいて、夜などに、割合にぼやつとしたような看守が当直のようなときをねらつてそこから出て、看守のネクタイをとつて手足を縛つたり、さるぐつわをはめて逃げたのを私一つ経験しております。  もう一つ、これは宮城刑務所に私がおつたときの話でありますが、舎房の床板を切るわけであります。その床板が、宮城の刑務所はひのきの一寸以上ある板でありますが、これをアルミニユームの食器を平らにいたしまして、それをのこ切り形にいたしまして切るわけであります。これは職が大工でありますから、そういつたのこ切りでもそれを切つてしまつて、なおその下に床のねだが六寸角くらいのが入つておるわけでありますが、それを約半分切られたところをつかまえたことがあります。その男は、かつて宮城刑務所でそうやつて床下へ抜けまして、床下の土を掘りまして、そこには土台の石が相当深く入つておりますが、その下にトンネルをつくつて抜け出したという前歴を持つた男であります。その二つを自分で経験しておるのであります。
  31. 田万廣文

    ○田万委員 大体脱走の方法については、逃げる方と逃がしてはいかぬ立場と、お互いにいろいろ研究し合つておると思うのです。今度の事件なんかは、大体方法としてはありふれた方法に違いない。ただ封筒をどういう方法で張つたか知らないけれども、とにかく、それでもつてなわをつくるという一つの新手が生れたと思うのでありますけれども、鉄棒を切つて逃走するということは、一番わかりやすい逃走の方法であります。今度の場合を考えてみて、私ども非常に遺憾に思うのは、あれだけの鉄棒をやすりで切つたか、あるいはあなたがおつしやつたようにまた別の道具で切つたかは別として、まずわれわれ相当日数がかかると思う。従つて私が言いたいのは、舎房の点検について重大な手落ちがあつたということは見のがせない事実だと思う。過去においてそういう方法で逃走した事案がたくさんあるのであるからして、特に死刑判決を受け、既決になつておらなくて未決であつても、死刑判決を受けるような犯人が多分に逃走したいということを思つていることは常識的に考えられる。そういうような舎房に対する捜検というのですか、その方法において重大な手落ちがあつたということは、何度言つても言い過ぎではない。この点についてあなたの方としては、今後の対策としてどういうふうな方法を考えておられるか。もうすでに具体的に考えができておるはずですが、それを承りたい。
  32. 川上桿

    川上説明員 それにつきましては、まず何としても舎房捜検であります。中に入つてやる捜検と言いましても、普通にただ中に入つて、ふとんなどに簡単に手をつつ込んで見るのも捜検であります。それから鉄格子を前日にたたいてまわつたのですが、その音感を聞くわけです。ぱんぱんとたたいてみると、切れているところは音感が違う。これは部長がやつたのですが、その音感を聞き得なかつたことは実に残念がつてつたところです。そういう方法と、それよりも精密検査を十分にしなければならぬ。精密検査と申しますと、職員が二人ないし三人でもつて被告を出しまして、中に入つて畳から全部あげて見るわけです。そして本の間——本の間には非常に隠しやすいのです。ことに本の背のところは、やすりなどを隠すには隠しやすいところです。そういうところまで全部捜検をやるのであります。これは非常に気を使つてやる仕事ですから、大体二人でやつて一日に三つの舎房がせいぜいです。そうしますと、これを計算してみますと、独居房が大体七百以上ありますから、二人でやりますと、百三十何日という日数がかかるので、とうていできません。そういうことで一々それをこまかくやつて行くという方法も、中には入るけれどもできない。それで今度は具体的に、私の方の責任者としては管理部長、保安課長がおりますが、今日は鉄格子の精密検査をしようということで徹底的に鉄格子だけを検査する、また今日はとにかくふとんを検査しようというので——ふとんの中に割にいろいろな逃走器具を隠すのですが、ふとんの中を徹底的にやる。その次には、この前ふとんをやつたから来ないと思つているから、またふとんをやるというように特別の点を指示いたしまして、本をやり、また便所に新しい隠し場所ができたから、そういうところを特に注意してやるとか、また少い舎房でもいいから精密にやるとか、こういう方法を織りまぜて舎房捜検をやろうと思つております。これをやりますと、事故の発生を未然に防止できて一番いい方法であります。先ほどおしかりを受けました通り、やつてはいたのですが、それを間断なくやらなかつたことは何としても申訳なかつたと思います。今後は今言つたように、精密捜検をやり、なおその間に今日は鉄格子の精密検査をやる、今日はふとんの精密検査をやるというように特別の指令を出してやらせる。それからもう一つ考えているのは、きのうさつそくやつたのですが、きのうはちようどメーデー公判がありませんでしたので、二十五時間勤務して非番で帰るのを残して舎房を一斎にやつてみたのであります。そしたらいろいろのものが出て来ました。たとえばサイダーびんとかカン詰のあきカンが非常に出て来たのです。これは差入れて来たものを被告が出さないから、そういうものが山のようになつて、そういうものの間に入れても隠しきれるので、そういうものを全部きのうあげてしまつたわけであります。そういつた中へ入つて一斎的にやる方法を入れたり、ただいま申しました個別的な方法を入れたり、そういうふうにして舎房の捜検を厳密にやることと、もう一つは身体の捜検であります。しかしこれはなかなかむずかしい問題であります。これは受刑者であるならば、裸にして捜検するのであります。刑務所ではまつ裸にして捜検を実際やるのです。口の中も、その他全部の穴を見るのでありますが、しかしながら被告の地位というものは受刑者とおのずから違う地位でありまして、結局証拠隠滅、逃走という二つの理由があるために、被告として拘禁されておるのでありますから、それ以外のことについては、有罪の判決を受けるまでは、とにかく社会一般の人と同じ扱いをしなければならないというのが一つの建前でありますので、裸にして徹底的な検査をするというようなことは、なかなか困難であります。それがために裸にしないで、手をつつ込んで、こういうところをやる。このえりが、先ほど松岡先生もおつしやられた通り非常に隠しやすいので、検査するときにはこういうところにほしがあるのでありますが、そういう検査を精密にやつて行くことに方針をきめて、実際そういうふうにやつております。全然捜検もやらないし身体検査もやらないわけではありませんで、毎日やつておりますが、そういう抜かつたところが出たわけであります。
  33. 田万廣文

    ○田万委員 大体逃げ出すのは、昼の日中に逃げ出したという事例がありますか、夜の方が多いのですか。私なんかの考えでは、夜中の看守の盲点をついた時間に逃走しておる事例が多いと思うがどうです。今度の事件もそうじやないですか。
  34. 川上桿

    川上説明員 これは夜の方が非常に多いのです。昼間としてはほとんど構外作業で、たとえばダム工事などに出ている人が工事場から逃げ出すというようなのがおもでありまして、やはり夜間に逃げる方がずつと多いのであります。
  35. 田万廣文

    ○田万委員 私はそういう方面のしろうとですけれども、看守の方の勤務時間も、一番逃走に適しておると思われる時間をこまかく区切つて、そうしてずつと臨検してまわるという方法がとられたならば、今度の事件もあるいは未然に防止し得たのではなかろうかと考えるのです。私はそういう考えを持つておるのですが、それに対するお答えを願いたいのと、もう一つは、今お話がありました身体検査に対する点ですが、看守の方でも、いわゆる新米の方と相当長い経験者とでは、同じ時間の身体検査でも、能率的に非常に違うと思う。新米の方では見のがしたけれども、古い経験者であれば、絶対見のがさないというような場合も相当あるように聞いておる。現在お宅の拘置所の看守の方で、未経験者が相当おるのではなかろうか、そういうところに今度の逃亡という一つの原因もひそんでおるのではなかろうかと思う。これに対してお答えを願いたい。
  36. 川上桿

    川上説明員 ただいまの夜間の巡回警備の点でありますが、これについては、どうしても昼間の方が仕事が多いために、職員を昼間の方へ多く使うのであります。拘置所では被告を裁判所へ出廷させるということが一番大きな仕事であるので、どうしても職員の割合が昼間の方に多くなるわけであります。それで夜の職員が、ここに書いてあります通り、五十二名ずつ甲乙の二組にわけてありますが、甲番の人は、たとえばけさの七時に出て来ますと、きよう一日勤務して、今晩勤務しまして、あすの八時に上るわけであります。七時に点呼がありますから、それが済んで、大体舎房捜検などを一時間くらい手伝いますから、八時になつて、それで二十四時間勤務になるわけであります。それと交代に、今度は乙番の人が七時から勤務につくわけであります。そういうことで非常に過労になり、注意力が少くなるということは、これは何としても争われないととであると思うのであります。そこで私たちとして今実際理想的にやろうとすれば、三部制にするのが一番いいのでありまして、八時間交代にして切りかえて行きますと、これは相当勤務の状態もよくなつて来る、こういうふうに考えますが、現在は非常にオーバー・ワークの傾向があるのであります。そうして夜間の勤務もこれはきまつておりまして、大体あそこを一まわりまわるのに十五分から二十分かかるのであります。夜は舎房視察孔というのがあるのであります。ちようど目の高さのところに穴があるのであります。昼間はふたしてありますけれども、夜になるとこれをみな上に上げて、穴が見えるようになつております。それを一つ一つのぞいて見て歩くのであります。それをそうやつて一まわりまわるのに、大体十五分から二十分かかるのであります。それで一まわりまわつて来ますと、また一まわりまわる、大体一時間半というもの、腰かけることもできないで勤務しているわけであります。一時間半勤務して、三十分休むということで勤務しております。それでありますから、この点は職員をたくさんいただかないと、それ以上にやれといつてもなかなかできないのです。この点がなかなかむずかしい点なのであります。そういうふうにして視察は夜でも厳重にしていますが、今度の山下、曽はちようど寝たかつこうをつくつてつたのであります。ふとんの中に頭のところにやかんを持つてつたのであります。これは湯のみのためにやかんが入つていますから……。それから腰の辺などへは本とか、その辺にごみ捨てのかごがありますが、そういうものを入れたりして、寝たような形にしてありますから、看守視察孔からのぞきますと、いかにもちようど横になつて寝ているような形に見える。曽のところもそういうふうに見えたということで、視察孔から見ただけでは発見できなかつた、こういうことであります。  それから身体検査の点につきましては、新米と古参の点でありますが、これは特別警備隊というのがあるのであります。これが主として当つております。そのほかそれの補助に使うのは、たとえば今申しました夜勤の明け番の人を使うとか、また出廷の少い日に、出廷に行くべき人等をその方にまわすとかいうことでやつておりますから、その中には古参の者も新しい者も入つていると思います。実情はそういう方法でやつております。
  37. 田万廣文

    ○田万委員 新聞で拝見しますと、鉄柵を切る際に、ラジオの放送に合してやつたというようなことがあるのですが、実際その時刻にはラジオが放送されておつたことは間違いないのですか。それと、ラジオ放送中の巡視はどういうふうになつてつたか、これをあわせて伺いたい。
  38. 川上桿

    川上説明員 ラジオは大体夕方五時から九時まで放送することになつております。この放送につきましては、教育課でもつてその日の新聞を見て、プログラムをつくるわけであります。ですからNHKの第一放送を聞かせることもあるし、それからまたラジオ東京が入ることもありますが、それを大体五時から九時まで四時間入れることになつておるのであります。ところがこのラジオの昔に合せて舎房鉄棒を切るということが、これは起りやすいことであります。しかしこれも今度検討してみましたところ、一体ラジオをやめるか、巡回の点をどうするか、これを改善したならばそういうことを防げるのじやないか。ラジオをやめることができるかどうか検討してみたら、ラジオをやめることはできない。ことに被告でありますから、これはどうしても放送しなければならない。しかしつまらない放送がある場合には、その間に二回くらい切ることを考える。それからもう一つ、舎房の外側に鉄格子がありますから、ラジオのときには特に外側をまわる。内側をまわるよりは外側をまわるということで、この間事故が起きました十九日以後におきましては、そうした鉄棒の方をまわらせることにして、警備をしておるわけであります。
  39. 田万廣文

    ○田万委員 先ほど松岡君から話がちよつとあつたのですが、ラジオをかけておろうがおるまいが、石けん水をつけてやれば音がせぬというのは、なかなかうがつたことを言つておると思います。ラジオはやはりかけてやるべき必要があろうと思いますが、それはラジオに合したと言うけれども、やはりラジオ関係だけでなく、根本の問題は、先ほど大川さんもお尋ねがあつたが、刑務所の看守の人の綱紀の弛緩というか、そういうところに私は大きな原因があつたと思います。これは早期に京都で被告人がつかまえられて、被害が少くて非常によかつたのですが、これが長期にわたつたならば、脱獄という事実から多くの犯罪が次々に生れて、あるいは単なる犯罪でなくて、殺人強盗という恐るべき犯罪の形をとつたかもしれない。そういう点から考えると、これは押谷政務次官はよほど考えてもらわなければならぬ。法務大臣がきよう見えておらぬから、私押谷さんに申しておきたい。今後こういう凶悪犯人が町に一歩も踏み出すことができないように、徹底的な取締りを政府にお願いしたい。これに対して押谷政務次官の御見解をお伺いしたい。
  40. 押谷富三

    押谷政府委員 今回の問題につきまして、たいへん恐縮に存ずるとともに、政府としても非常に責任を感じました。この問題を惹起いたしましたことを聞き込むと同時に、私みずから小菅刑務所に参りまして、現場において所長その他の責任者から、親しく経過を聞き、また脱走いたしましたその箇所調査をして参つたのでありますが、いろいろ原因はたくさんあつて、一つ二つではございませんが、何としても刑務所の職員職務の懈怠ということは、これは見のがすことのできないものであると存じます。しかしながら先ほど大川委員の御意見の中にもありましたように、小菅において定員だけの職員が動いておらないで、収容者は非常に多い。またそれを看守する看守人は少い。このアンバランスが一つの原因ではないかというお話がありましたが、まつたくただいまの状況におきましては、刑務所の職員はきわめて恵まれざる待遇のもとに、非常な苦労をいたしております。従来は犯罪者、収容者がふえるに従つて、増員をしていただいたのでありますが、最近各刑務所、拘置所において収容者が減つておりますので、二十八年度の予算に現われておるところによりましても、刑務所の職員を来年度百八十人を減員するというようなことにきまつております。実は今日よりも人が減つて来るというので、お説のごとくふやしていただくことになればたいへんけつこうなのでありますが、百八十人減らされることにすでに確定をいたしておりますので、まことに憂慮をいたしておるのであります。しかも収容者は減つておりますけれども、この小菅の例によりましても、収容されておる中には、メーデー事件被告人のごとき、きわめて集団的に粗暴な者がおりまして、百五十人ばかりでありますが、これらが音頭をとる。その音頭につれて、あるいは革命歌を歌うとか、騒擾をするとか、いろいろ要求をする。またそれが構内だけでなくて、御存じの小菅の刑務所の表には放水路がありますが、その堤の上に共産党が現われて、払声機をかけて中にいる収容者に呼びかけて、その呼びかけに応じて中からも騒ぐというようなわけで、百五十名の人たちだけでもう千人にも二千人にも当るような大騒動を毎日繰返して、これがために、わずかの職員が全部それの方にもう全精力を傾けて、取締りに当つておるというので、さなきだに苦しい勤務の中に、人手不足からかような収容者に全部の力が注がれて、注意力が集中されて、勢い他に盲点を生ずるというようなことになるのでありまして、今回の原因は役人の疎漏ではありましたが、その疎漏の陰には、かような注意力が一方にそらされている、全精力を一方に傾け尽した盲点をつかれたという同情すべき事情があることも御承知をいただきたいと思うのであります。また拘置所の設備におきましても、当初所長から申し上げましたが、この小菅の拘置所は元来既決囚を収容する刑務所として設計をし、建築をされたのでありますから、未決囚収容にはきわめて不適当であります。私は現場において収容されている人たちに、この窓を通して隣の房と話ができるかと言えばできると言います。三つくらい先の房と話ができるかと言うと、できますと言う。さらに四つ、五つ、六つ、七つ先の房と話ができるかと言いますと、簡単なことならば話ができると言います。それは窓をあけてものを言えば、その向いに遮蔽のへいがあります。コンクリートのへい、これが四間か五間先にあつて、そのへいに声が当つてつて来る。その反響で話ができるという、こう言つておるのでありまして、これらの通話を禁止されているはずの独房者に対して簡単に通話ができるというような今回の施設は、大いに考えなければならぬと思うのでありますが、こういうような施設である。施設としてはまことに不備である。しかもそこには過剰の人員があり、役人の数は不足であり、最近のような集団のいろいろな治安事件から出て来まする被告人の粗暴な、そうして集団的な示威運動のごときことをやる者、またそれに対して外から呼応するというような事柄を考えますと、まことに手不足であり、困つたものでありますが、国家財政等もありまするので、今日のところこの陣容をもつて、この設備内で万全を期したいと努力をいたしていることを御承知を願いたいと思うのであります。
  41. 田万廣文

    ○田万委員 さらにお尋ねしておきます。言葉の御趣旨はよくわかりました。なかなか御苦労だと思います。しかしまた再びこういう逃走事件が、しかも凶悪犯人が逃亡するというようなことがないということは保証しがたいと私は考える。その際においてまた政務次官押谷君から予算関係から手不足でやむを得ない、万全を尽したというようなことでは困ると思う。従つてこれは人権とか生命、財産に重大なる関係がある問題でありますから、予算関係において悩みがあるということもわれわれよく了承いたしますけれども、さらに御努力を払つていただいて、われわれもそれに協力して、一人の脱走犯人もなからしむる、その人のためにも、社会のためにもなからしむることが絶対必要だ、これに対してくどいようでありますが、もう最後でありますが、大政務次官の押谷君の御見解をひとつくくつてつていただきたい、私はそれをぜひお願いしたいと思います。
  42. 押谷富三

    押谷政府委員 まことに恐縮にたえません。こういう事件ができましたのは、単に予算の関係や人員の不足だけで言訳をしようとするわけではございません。今日の設備において、今日の役人の陣容において、万全を期し、再びかようなことのないように全力をあげ、全注意力を集中いたしまして、刑務行政、特に未決の拘置所のかような問題につきましては、再び起らないように万全の処置を講じますから、どうぞさように御承知を願います。
  43. 田嶋好文

    田嶋委員長 ちよつとそれに関連してお聞きします。巣山区長に聞いた方がいいと思うのですが、矯正管区長というのはどんな仕事をするのですか。
  44. 巣山末七

    巣山説明員 これは議会でおつくりになつた制度でありまして、私から説明するまでもないと思うのでありますが、終戦後、昭和二十四年一月一日から全国を八管区にわけまして、その各管区内の少年院少年鑑別所、刑務所、拘置所、それらのものを指導監督することになつたのであります。その管区所在地は大体高等裁判所の所在地、元の控訴院所在地と同じであります。そういう関係で、東京には東京矯正管区所というものが置かれまして、その管轄範囲は、ちようど高裁の管轄範囲と同じで、一部十県になつております。
  45. 田嶋好文

    田嶋委員長 こまかいことはいいのですが、今の指導監督という立場から今度の事件を見て答えてもらいたい。そんなことをお聞きしておるのじやないのです。もつと中心に触れてください。
  46. 巣山末七

    巣山説明員 私の方では常に管内の施設を見てまわりまして、現場に即して指導監督をする。そのために監察ということをやつております。これは毎年予算の許す範囲内において管内の監察をいたすことになつておりますので……。
  47. 田嶋好文

    田嶋委員長 今度の事件についてどんな責任を感じますか。委員長の聞いておるのはそれです。ちよつと頭が悪い、簡単に中心に触れてください。
  48. 巣山末七

    巣山説明員 東京拘置所は管轄下にありますので、そうした見地からかくのごとき重大なる事故を発生しましたことは、監督者としてまことに恐縮にたえないのであります。それはやはり日ごろの監督が十分に行かなかつたということの結果とも見られますのでその点については責任を感じておる次第であります。
  49. 田嶋好文

    田嶋委員長 管区長というのは、ほんとうはいらぬのじやないですか。あなたの答えを聞いていると、どうもいらぬような気がします。あなたが責任を感じているような気もせぬし、さつきの委員長の質問に対して何やらわからぬような答弁をする、そういうような、ふまじめじやないかもしれないけれども、頭の使い方では、とてもこんな重大な責任は遂行できないと思うのですが、どう考えますか。
  50. 巣山末七

    巣山説明員 それは私は絶対に必要だと思います。大体この事件が起りまして、皆さんに御迷惑をかけてまことに恐縮でありますが、ああした凶悪な罪人を単に収容しているばかりではありません。それを逃走させないために、またこれを改過遷善させるためには、現場を監督指導する機関もなければはなはだ困難なことでありまして、これはひとり日本ばかりじやなくて、外国でも同様にやつておることであります。それでわれわれといたしましては、なるべく現場に即しまして、もちろん中央には局がありますけれども、これは地方の隅々まで現場に即した指導監督というものがなかなかできにくいのであります。それでどうしても八つぐらいの管区で、なるべく現場に即してそれを指導して行く、たとえば物資の配給の状態、建築をしますれば、建築はいかにあるべきか、また職員はどういうふうに適材を適所に配置するか、その他先ほども申しました通りに、職員の教養訓練、こういうことも全国的に始終一堂に集めることもできませんので、各管区の地方研修所で研修をやつて素質の向上発展を期しておる次第であります。刑務所、少年院等は単に収容するばかりでなく、再び悪いことをせぬために、矯正して行かなければならぬ。矯正教育ということが非常に大きな仕事になつておる。これは世界的の傾向でありますが、犯人を教化することはなかなかの困難な事情でありまして、そのためには設備の面もありますし、職員の素質の面もありますし、そういう面からなるべく管区現場において指導して行くということは絶対に必要だと思うのであります。
  51. 田嶋好文

    田嶋委員長 もう一つ聞きますが、今の説明で事務としてのあなたの抱負、考えはよくわかりましたが、今度の事件についてのあなたの抱負、今述べたようなことを実際上やつてつたかやつてないのか、そこらあたりを反省するところがあるのか、ないのか。
  52. 巣山末七

    巣山説明員 大いに反省いたしております。
  53. 田嶋好文

    田嶋委員長 どういう点を反省しておりますか。
  54. 巣山末七

    巣山説明員 それは現場の監督が十分でなかつた、そのために捜検その他が疎漏にわたつてつたということについては、むろんこれは最初によくおわびしなければならなかつたのでありますが、非常に責任を感じている次第であります。
  55. 田嶋好文

    田嶋委員長 それから押谷政府委員のさつきの答弁の中に、前日房の中を見たときに異状がなかつたという答えがありましたね。これはだれが見たのですか。前日看守した人の名前。
  56. 川上桿

    川上説明員 前日見たのは渡辺看守部長でありまして、そこの舎房責任者であります。
  57. 田嶋好文

    田嶋委員長 これは調べたことはありますか。あなたから尋問したのですか。
  58. 川上桿

    川上説明員 尋問いたしました。
  59. 田嶋好文

    田嶋委員長 この男に尋問した結果はどうなんです。本人はどういうようなことを言つているのですか。
  60. 川上桿

    川上説明員 鉄棒をたたいてみたが音がかわらなかつた、これが発見できなかつたのは実にくやしい、毎日これは見ておりますが、中を見たつてそうふだんとかわつた様子がなかつた、それで発見できなかつた、こう言つておりました。
  61. 田嶋好文

    田嶋委員長 何分ぐらい調べたのですか。
  62. 川上桿

    川上説明員 これは精密捜検ではないのであります。ごく簡単な捜検であります。
  63. 田嶋好文

    田嶋委員長 渡辺部長は手落ちを認めているのですか。
  64. 川上桿

    川上説明員 責任があるということを彼自身痛感しているわけです。
  65. 田嶋好文

    田嶋委員長 こういう場合は、渡辺部長に対する処置はどうするのですか。ただこのまま見のがすのですか。
  66. 川上桿

    川上説明員 いや、そうじやありません。これは当然に懲戒処分であります。
  67. 田嶋好文

    田嶋委員長 懲戒にもいろいろあるのだが、どの程度の懲戒に値するのですか。
  68. 川上桿

    川上説明員 これは今具体的どこまでやるか決定しておりません。
  69. 田嶋好文

    田嶋委員長 それからもう一つお聞きします。これは高橋さんに聞いた方がいいと思うのですが、今まで死刑囚で脱走した人間があるのですが、その脱走監督の任に当つてつた刑務所の責任者が処罰された例はどういう例があるのですか。
  70. 押谷富三

    押谷政府委員 従来すでに起つておりまする脱走事件責任者で、看守並びに看守部長に対しましてはそれぞれ減給の懲戒処分をいたしております。またその以上の本所の分はまだ未決定であります。
  71. 田嶋好文

    田嶋委員長 それから新聞の記事を見ますと何か上野の鶯谷ですか、この交番の巡査が不審尋問をして当然捕えられる機会があつたにかかわらず、川上さんの方の通告が遅れたためにそれが捕えられなかつたというような記事が載つておりますね。逃走してからどれくらい時間がたつてからおわかりになつたのですか。
  72. 川上桿

    川上説明員 これは私いまだ本人から聞いておりません。検察庁の方から聞いておりませんから、逃走時間がわかりません。推定するに大体二時から三時の間と、こういうふうに推定しているのです。それで発見したのが朝の人員点検のときでありますから、それが七時五分から点検を始めて七時二十分に終る。七時二十二分のとき配食——食事を持つてつたときに発見したのであります。それで鶯谷の関係は七時ごろか七時二十分ころ、多分発見した前後でありますから、そのときには通報ができなかつた状態であります。
  73. 古屋貞雄

    ○古屋委員 二点だけ質問いたしたいと思います。押谷政務次官に質問するのですが、綱紀粛正の点についてお考えなさつているようですが、ただいま御説明を承ると、本件の原因の重点はメーデー事件の被告が相当特殊な行動をいたしまして、それに原因をなしているというようなことを申されておりまするが、それが主たる原因であるか、それとも看守の方、ただいま問題になつておりまする職員の不足と過労と、さらに生活の保障並びに身分保障などに欠くるところがあつて、綱紀紊乱の原因がその方面に重点があるのかいずれにあるのか、この点を一応承りたいと思うのです。
  74. 押谷富三

    押谷政府委員 綱紀が弛緩をいたしておりますることは否定はできないのでありますが、今回の脱走者を出すに至りました原因は、ただいまおあげになりましたようないろいろな事情が総合いたしまして、遂に役人の目が届かなかつた。一口に言えば目が届かなかつたことが原因になつているのでありまして、人員が非常に少い。また少い人員が二十五時間も勤務いたしておる。その勤務中においては、先ほど申し上げましたようにメーデー事件の共産党の被告の、常にてんやわんやの大騒ぎがあつて、その方面に注意力が集中され、他がおろそかになり、また力もやはりそういうことになるのでありまして、こういう不始末をしでかしたのであります。同時に逃走いたしました方面におきましても、聞けば相当長い期間にわたつて準備をいたしておつたようでありますが、それも十分捜検の際発見できなかつた。また彼らも相当巧みにやりまして先ほどお尋ねの通報が遅れましたのも、ちよつと外から見たのでは寝ているとしか考えられない状況に彼らが擬装して逃走いたしましたので、ちよつと看守窓からのぞいただけでは中に人がいるとしか思われないような擬装を巧みにやつて逃走いたしましたような関係で、逃走者相当手口は巧みでありましたが、何としても綱紀の弛緩から来る職務の懈怠は免れません。それの原因はただいま申し上げたように、かれこれ総合しましてこういうことが起つたのでありまして、どれが主たる原因ということはありませんけれども、特にメーデー事件の被告の騒乱は、小菅拘置所における特別な事情でありますからこれを申し上げたのでありまして、どうぞさようにお聞取りを願いたいのであります。
  75. 古屋貞雄

    ○古屋委員 私どもが承知しておりまする刑務所の中の綱紀紊乱の大きな原因は、今回のようなメーデー事件もまことに納得が行きます。その点に重きを置いてお考えのようですけれども、むしろさらにさかのぼつて、牢名主というものがありまして、それが刑務所の規律を乱している、これは顕著な事実であります。その規律を乱している顕著な事実に対して、今日までこれが対策を講ぜられなかつたという原因はどこにあるか。さような事実があつたかどうか。私どもは承知しておりますけれども、当局においてはさような事実をお認めになるかどうか。いわゆる牢名主というものがあつて、ばくちの親分がおり、あるいはテキ屋の親分が入つて来て、ほとんど言語に絶するような刑務所の中の規律を乱した事実を私どもは承知しているのですが、さような点が結局本件を起すような原因の重点にはなつていないかということを考えるのであります。そういうような事実があつたかどうか、さような点が刑務所内の規律を乱す原因になつたのかどうか、この点の御説明を願いたい。
  76. 押谷富三

    押谷政府委員 ただいまお尋ねの牢名主の関係でありますが、おそらくそれは大勢の者が一箇所収容された雑居房の場合において起る現象だと思います。本件の脱走は一人々々を収容いたしております独房内に起つた事件でありまして、直接関係はございません。また雑居房はありますが、その雑居房内において牢名主などの者がおつてそこに威力を示している、それが綱紀弛緩の原因をなしているということは、この小菅刑務所にはございません。
  77. 古屋貞雄

    ○古屋委員 押谷政務次官から、小菅刑務所にはないというような御説明がありまして、けつこうだと思います。  そこで私承りたいのは、メーデー事件の被告がさような態度をとりまするに対して、しからば刑務所並びに法務省はいかなる対策をとつて来たか、また今後これに対して具体的にいかなる対策をとるか、この点を一応承りたい。
  78. 押谷富三

    押谷政府委員 まことに困つたものでありまして、共産党の尖鋭分子の集団的な治安撹乱のような犯罪における集団被告の取扱いにつきましては、法廷におきましても御承知のような法廷闘争を展開いたしております。拘置所に収容しても、やはり拘置所内において職員を相手に闘争を展開いたしております。しかもこの闘争については、外からも相当応援をいたしておるのでありまして、ここには近くにステーシヨンがありますが、その構内からあるときは手旗信号で意思を通じておつたという事実もあつたようでありますし、放水路の土堤の上からは、拡声機をつけまして、拘置所の同志にがんばれというような声援を送るとともに、いろいろ示威運動をやる。内外呼応してやつておるのでありまして、これが取締り得る範囲におきましては極力取締り、かつこれを慰撫鎮静するために努力を払つておるのであります。公判が開廷されるに至り、最近ややおちついて参りまして、よほど扱いよいなりましたが、何分にも常軌を逸した人たちであり、一向遵法の精神というような考え方を持つてくれない人でありまして、規律も規則もあつたものではございません。まつたくてんやわんや、無軌道な行動で、闘争をしようという意識のもとに秩序を乱しておる人たちでありますから、刑務所職員もまつたく手をやいておるのが実情であります。最近よほど収まつて来たことは、われわれを安堵せしめるものでありますが、これに対する徹底的な対策といたしましていろいろ考慮はいたしておりますけれども、いまだ徹底した対策は立ち得ない、規律を乱して闘争をするという意識でやつておる人たちでありますから困りものである、手をやいておるというのが現情であります。
  79. 古屋貞雄

    ○古屋委員 ただいまのお言葉によりますと、手をやいておるというのですが、それは相当長い数箇月にわたつて手をやいておるということで、さような手をやいて困つておると言つただけで、一体国民に責任を負つておるところの態度であるかどうか、この点は私どもは非常に疑問に思います。そこで私が承りたいのは、これに対する具体的な対策を今日までとつて来たとするならば、どういう対策をとつたかということである。それから今後これに対してどういう対策をするかということである。あなたは手をやいておるということで、默つて見ておつて今日のような問題を引起すようなことをしておるなら、われわれは治安をまかせられないことになる。この具体的な対策、今後の対策を承りたい。
  80. 押谷富三

    押谷政府委員 今までやつて参りました問題につきましては、非常に困りながらも、今日の機構において許される最大最高の配慮をいたしまして、彼らの出廷の場合におきましても、特に喧噪にわたるような場合におきましても、よその方面から職員の融通を受けまして拘置所内における秩序を守り、また裁判所に出廷に際しての護送途上においても万全を期するというような処置をとつて参りまして、よその拘置所から人員の融通等によつてやつとこの難局を切り抜けて参つたのであります。また収容者の中で収容中における規則を乱す者に対しましても、それぞれ適当な処分等があるのでありまして、その処置も講じて参りましたが、先ほど申しましたごとく、処分をしても治まらぬ、威力をもつて押えるということのできない、規則も法律も威力も無視した、闘争をしようという意識、秩序を乱そう、撹乱しようという考えを持つてつております集団闘争でありますから、まことに困つたものであります。しかしながら困つたと言つて手をこまねいておるわけではないのでありまして、先ほど申しましたように、いろいろ他方面からの援助によつて今日の程度に治まつておる、幸いこの程度にしてさしたる大きな支障を外にも現わさずに来ておるということを喜んでおる次第であります。今後もこれらの扱いから対社会的に迷惑をかけることのないように、他の応援等によつて万全の処置を講じて参りますから、さように御承知を願います。
  81. 古屋貞雄

    ○古屋委員 私は片言隻句をつかまえて申し上げるのではありませんが、今日のような程度で治めておるから喜ばしいことだというお言葉を聞いて、私は本件に対して責任を感ずる当局としては、聞捨てにならぬと思うのであります。この点はまつたくでたらめであります。さようなことを申すならば、私も一言申し上げたいのです。かような重大な問題を引起しておりながら、今日の程度でよかつたという、この食言をお取消しを願いたい、これだけ申し上げます。
  82. 押谷富三

    押谷政府委員 御要求とあれば取消してもいいのでありますが、私の申し上げたのは、共産党が騒いでいる。それに対して政府は何の処置もできないで、それでよいのかというお尋ねでありますから、そこで共産党のこの集団の騒ぎに対して、拘置所はまつたく手をやいておりますが、しかしながら手をやきながらも、他の応援を得て今日の程度に治めておるということはせめてもの安心である、かように申したのでありまして、この死刑囚が脱走いたしましたことは、たびたび繰返して申し上げておりますようにまことに恐縮である。これはもう言葉に現わしようのないほど恐縮をいたしておる次第でありますから、どうぞさようにお聞取り願つておきたいと思います。
  83. 古屋貞雄

    ○古屋委員 さようにお働き願えば私もあえて追究いたしませんが、そこで承りたいのは、手不足であるという事実が現実にここに現われておる。従つて職員勤務過労であるということも明らかである。しかるに本年の予算において削られて、しかも人員が減らされるという形になつたということを御説明賜わりましたが、さようなことに対して今後法務当局は絶対にかような事案が再発しないような対策のために、現在無理をして、超過勤務をさせなければならぬような人員不足に対する補充の方法を講じ得るやいなや。これと、もう一つは私どもはそう思うのでありますが、現在の政府は予算から比較いたしますれば相当の率の治安費を使つておりますのに、かような国民に直接不安を与える、しかもとらを野に放してしまうような現実を国民の目の前に如実にさらしておつて、予算がないからとか予算が足りないからというようなことで、一体法務当局は法務行政を完全に責任を持つて国民にこたえられる確信ありやいなや。私が承りたいことは、予算が削られて少くなりましたけれども、こうした事実並びに共産党の集団策動の事実を前提にいたしまして、かような事案の再発を完全に防止するための、しこうして国民に対して安心を与えるための国内治安の最も重要な案件でありますこういう問題に対して、予算措置をする意思が一体あるかどうか、これを承りたい。
  84. 押谷富三

    押谷政府委員 人員につきましてただいまお聞かせいただきましたように、今日の状況では人員不足であります。しかし従来刑務行政における人員は、収容者に比例をいたしましてあるいはふやし、あるいは減らしいたして参つたのでありまして、相当たくさんの人員をちようだいいたしておりました当時は、非常にたくさんの収容者を持つてつたのでありますが、最近激減をいたしております。社会情勢も治まりまして、収容者が非常に減つて参りましたから、その収容者の減員に比例いたしまして、来年度百八十名の減員をすることになつておるのであります。これは収容者との比例から参りましたのでやむを得ないのでありますが、法務省といたしましても、この人員につきましてはできる限り減員をとりやめてもらいたいと努力をいたしておつたのでありますが、他の各省の組織とかれこれ勘案し、国家財政ともにらみ合せまして、やむを得ないものとしてこれをのむことにいたしたのであります。しかし今日のこの陣容によりまして綱紀粛正をし、各人緊張いたしまして再びかようなことのないように、この陣容をもつて努力をいたしたいと考えております。  なお拘置所の設備の不備の点につきましては、ただいま与えられている予算内においても十分考慮をして改善をするとともに、ぜひ新しい施設あるいは既設の施設についての改良をなすべき点につきましては、予算措置を十分考えて対処いたしたいと念願をしております。
  85. 古屋貞雄

    ○古屋委員 さらに、一体刑務所の職員の給与が他の公務員より非常に安いという点をお認めになるかどうか。もう一つは、刑務所の職員がけがをしたり死亡をした場合、つまり職務執行中に最も危険な人たちに接するのでありますから、そういうような公務上の傷害並びに不具者になり、死亡をしたような場合について、特別に他の公務員より危険な職務に従事しておりますので、これに対する救済援護の制度はどうなつておるか、この点をも御説明願いたいのであります。
  86. 押谷富三

    押谷政府委員 刑務所の職員は他の一般職と比べまして決して待遇が悪いとも考えられないのでありまして、特別職でたいへん勤務時間が長いのでありますが、一般職に比して私どもが考えて特に冷遇されているとも考えておりません。今お尋ね職務上の災害があつた場合におきましては、公務災害補償制度によりまして適当に補償をいたしておりますから、これも補償金で方法が講ぜられていることを御承知を願いたいと思います。
  87. 古屋貞雄

    ○古屋委員 なお承りたいことは、押谷政務次官から今後職員に気合いをかけて一生懸命やらせるというようなお言葉がございまして、まことに私はけつこうだと思いますけれども、従来の実績から申しますならば、そういうような掛声はから念仏に終つておるという現実がある。従いましてかような特別に危険な職務にしかも長い時間勤務しております職員に対しましては、さらに一層の生活の保障の制度が私は必要と思う。さようにいたしまして生活の保障がされたるときに、初めて、ただいま押谷政務次官のおつしやられたような上司の監督の気合いとぴつたり合いまして、かような不祥事を引起すことがないような対策が講ぜられると思うのでありますが、その点についての問題の結論は予算の問題であります。たとえば現在治安費として他の方面に使われておる予算をかような重要な面に振り向けるだけの努力をする考えかどうか。たとえば保安隊の費用のごとき、従来ある一定の問題が起きるときに備えておるもの——ただいま申し上げたような国民の治安の上に現実に直接関係を持つ死刑囚の脱走というような事実が全国に数人に及んでおり、さらに将来さようなことがあるということについては国民が非常に不安を持つておりますが、保安費などに使つております費用を法務行政ことに刑務所行政などの方面にまわすような努力をする意思があるかどうか、この点を承りたい。
  88. 押谷富三

    押谷政府委員 刑務所の役人に対するきわめて御同情ある御意見を拝聴いたしまして感謝にたえません。まことにごもつともな御意見でありますので、法務省といたしましても十分御意見のあるところを尊重し、研究をいたしたいと存じております。
  89. 古屋貞雄

    ○古屋委員 研究にあらずして具体的に実現して、国民に対する不安を取除くことに御努力を願いたいことを御願い申し上げまして、私の質問を終ります。
  90. 田嶋好文

    田嶋委員長 最後にちよつと聞いておきたいと思います。これは大臣の御出席を願つて委員会として最後の結論を出すことになるのですが、大臣がちようどお見えになりませんので政務次官にお聞きします。綱紀粛正ということは、終戦前歴代内閣の一つの大きな看板であり、この内閣は綱紀粛正で非常に成功して来ておると思う。ところが戦後綱紀が乱れておるのに、綱紀粛正の点になると、言葉だけはあるのたが実際上行われていない。こういう矛盾した現象が今日起つておるのですが、今の説明を聞いておりましても、脱走事件等に対しては下部組織の看守だとか看守部長だとか、かわいそうな人たちに対しての懲戒は行われておるのだが、その上の人の懲戒は全然行われていない。ここらあたりにも私は大いに考えなければならぬ点があると思う。特に今度の事件は、さつき大川委員からも言われたように、警察官が二万人も動員されなければならぬというような、法務省としてはたいへんな大事件だと思うのですが、これに対して私たちは綱紀粛正ということからも、責任者が責任をとる、これがなければならぬと思う。責任者が責任をとるということが、終戦後今日まで国民の前に一回も現われていない、まことに遺憾に思うのですが、この事件に関してどんな考えを持つておるか承つておきたい。
  91. 押谷富三

    押谷政府委員 先ほど私の言葉が足らなかつたのでありますが、過去におけるこの種の脱走事件責任者の懲戒は、刑務所長まで及んでおるのであります。刑務所長から当番看守までが減俸その他の懲戒を受けているのでありまして、法務省内における責任者の処罰は、目下それぞれの機関で審査をいたしている次第であります。これも不日行われると思います。今回の問題につきましても、非常に世間をお騒がせした事件でありまして、当局としてはまつたく恐縮であるとともに、その責任者の処置につきまして、それぞれの機関にかけて厳密に調査をし、その責任者に対してはそれぞれ相当の懲戒をいたす所存であります。
  92. 田嶋好文

    田嶋委員長 なお一つ御注文いたしておきますが、私は管区制度というものは相当研究しなくちやならぬ点じやないかと思つております。ちよつと見たところでは無用の長物というようなことにも考えられるし、また今の巣山説明員の説明では納得できない。私は最高の責任者が矯正管区長でなければならぬと考えるが、それがまつたく見られない。単なるおざなりの機関で、月給をとり旅費をとつて管区を巡視するというような形しか今日は見られない。率直に言つてそうだと思う。こういう点について、制度的にもひとつしつかり御研究願いたい。     —————————————
  93. 田嶋好文

    田嶋委員長 おはかりいたします。去る十三日設置いたしました接収不動産の権利調整に関する小委員会の小委員長を選任したいと存じますが、これは委員長において指名するに御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  94. 田嶋好文

    田嶋委員長 御異議がなければ、委員長において松岡松平君を接収不動産の権利調整に関する小委員長指名いたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後四時三十五分散会