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1952-12-03 第15回国会 衆議院 法務委員会 第7号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年十二月三日(水曜日)     午後一時四十七分開議  出席委員    委員長 田嶋 好文君    理事 高橋 英吉君 理事 松岡 松平君    理事 小畑虎之助君 理事 石川金次郎君    理事 猪俣 浩三君       相川 勝六君    小林かなえ君       花村 四郎君    福井 盛太君       古島 義英君    松永  東君       大川 光三君    清瀬 一郎君       後藤 義隆君    長井  源君       木下  郁君    田万 廣文君       多賀谷真稔君    古屋 貞雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 犬養  健君  出席政府委員         法務政務次官検         事       押谷 富三君         (刑事局長)  岡原 昌男君         外務事務官         (条約局長)  下田 武三君  委員外出席者         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 十一月二十七日  委員木下重範辞任につき、その補欠として風  見章君が議長指名委員に選任された。 同月二十九日  委員賀谷真稔辞任につき、その補欠として  加藤清二君が議長指名委員に選任された。 十二月一日  委員熊谷憲一君、永田良吉君及び加藤清二君辞  任につき、その補欠として根本龍太郎君、久野  忠治君及び多賀谷真稔君が議長指名委員に  選任された。 十二月一日  東京拘置所における拘留被告の人権じゆうりん  に関する請願(岡田春夫紹介)(第三三六号) の審査を本委員会に付託された。 十一月二十七日  戦犯者助命減刑釈放に関する陳情書外十  件  (第四一六号)  戦犯者釈放に関する陳情書  (第四一七号)  同(第四一八  号)  同  (第四一九号) 十二月二日  戦犯受刑者助命減刑釈放内地服役等の  陳情書(第五二三  号)  同(第五二二四号) を本委員会に送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  国連軍裁判管轄権に関する件     ―――――――――――――
  2. 田嶋好文

    田嶋委員長 これより会議を開きます。  本日の日程に入る前に、去る十一月十日法務政務次官押谷富三君が就任されましたので、この際御紹介を申し上げます。押谷政務次官
  3. 押谷富三

    押谷政府委員 ただいま委員長から御紹介をいただきました法務政務次官押谷富三であります。適当な機会を失いまして、今日まで委員各位にごあいさつを申し上ぐることをしなかつた非礼をお許しを願いたいと思います。御承知のようにきわめて浅学不敏なものでありますが、どうかよろしくお願いをいたします。(拍手)
  4. 田嶋好文

    田嶋委員長 それでは本日の日程に入りまして、国連軍裁判管轄権に関する件について調査を進めます。まず英濠兵事件に関し、前回委員会において聴取いたしました以後の経過説明をこの際聴取することにいたします。犬養法務大臣
  5. 犬養健

    犬養国務大臣 経過のこまかい点は政府委員から御説明をいたさせまして、また御質問に応じるようにさしていただきたいと思います。
  6. 岡原昌男

    岡原政府委員 前回報告申し上げました以後、検察庁におきましては引続き全能力をあげまして本人取調べ並びに関係諸般の証拠の収集に当つたわけでございます。その経過は、要約いたしますると、漸次傍証が固まりまして、本人の供述は取調べの都度若干ずつ違つておるけれども、結局だんだん真相を明らかにして参りまして、先月二十九日に一応東京地方検察庁から捜査が完了したという報告が参つたわけでございます。その報告が、三長官報告と申しまして大臣、検事総長並びに検事長に対する報告でございました。私どもそれを拝見いたしました上、当時進行中の外交交渉との関係もございましたので、一応処分の方針等については何分の指示をするからちよつと待つてくれというわけで一旦とめておきましたが、そのうち同日二十九日でございますが、外交交渉が円満に成立したという外務省からの御連絡もございました。同じ日午後三時ごろじやなかつたかと思いますが、最高検察庁に対しまして、外交交渉が成立した由であるからして、事件はいずれとも処分せずに留保のまま身柄先方に引渡すようにというふうな依命通牒を出したような次第でございます。たしか午後四時半ごろに警視庁で身柄釈放しまして、英、濠軍側の憲兵に身柄渡つた、さような状況でございます。
  7. 田嶋好文

    田嶋委員長 続いて下田条約局長お願いをいたします。
  8. 下田武三

    下田政府委員 外交交渉の面を御説明を申し上げたいと思いますが、今回は何分帝都のまん中で起りました強盗事件でありますために、耳目を引きますと同時に、また中央における連絡も非常にすみやかに行われたわけでありまするが、イギリス、濠州両大使館から犯行の行われました翌日いち早く犯人身柄引渡しを願えないかという申入れがございました。もちろんこれは法務当局所管事項でありますので、私どもその要望を法務当局にお伝えしたわけでございます。  政府全体といたしましては、五月三十一日の吉田書簡というものがございますので、法務当局でおさしつかえない限りは、身柄を引渡すという方針はすでに既定方針でございますので、外務当局といたしましても法務当局の納得の行かれる方法で引渡しができるなら、諸般外交案件を控えております関係上、けつこうだという考えをいたしております。何分身柄引渡しをするのには、黙つていいかげんにするわけにはいかない。いろいろ法務当局と、かりに引渡しが行われるような場合には、日本側としてはどういう条件を付すべきであるかという点について、内々御相談を申し上げております。なおその条件の前に、あれだけの耳目を引いた事件を起したことについて、先方が陳謝するのが当然である。またタクシーの運転手から奪つた金銭あるいは宿屋宿泊料も払つておらないならば、その宿屋損害賠償もさせなければいかぬというのでこれは身柄引渡し条件の話の前に、いち早くそういうことをやるべきであるということを英、濠側に申しまして、それも中央でありますために、いち早く先方が実行いたしまして、エビス・キャンプのMP隊長四谷警察署長のところに参りまして、非常な迷惑をかけたことに対して遺憾の意を表しますと同時に、犯行翌々日英連邦軍主任将校キング中佐の配慮によりまして、日本側の受けた一切の損害賠償を支払うという手を打つてくれました。それでいよいよかりに引渡すことになつた場合にはどういう条件にすべきかという点について、先週中ずつと法務当局と御相談して参つたわけであります。しかしながら先方は御承知のように刑事裁判管轄権に関するただいまの国連軍協定のきまる前に、日本側裁判権を完全に認めてしまうという既成事実をつくることは、非常に先方はいやがつておるわけであります。普通国際法外国軍隊が駐留することが認められました場合に、外国軍隊国際法一般に認められた特権がございますことは御承知通りでございます。その特権は消極的には滞在国法権から免除されるという法権免除と、積極的には滞在国内で軍独自の軍事裁判権行使するという両方にわかれます。問題はその特権をいかなる線で区切るかということで、それが現在の交渉の目的でありますが、そのきわどい線のきめ方で、彼我非常に白熱した交渉を続けておるやさきに、この件につきまして日本側の完全な裁判権を認めることになるということは、先方としては非常な不利であるという立場から、非常に引渡し条件交渉に手間取つたわけであります。しかしながらわが方といたしましても、法務当局と密接に連絡いたしまして、大体妥当と思われる線、つまりかりに引渡しを行う場合に、先方はただちに軍事裁判東京で行う、その軍事裁判には日本側立会人を立ち会わしめる、軍事裁判の結果は、遅滞なく日本に通知するという条件と、もう一つは、日本側が必要とするときは、身柄を再び日本側に再出頭せしめる、また先方軍事裁判所判決の結果、日本国以外のところで服役せしめるというような場合には、あらかじめ日本側連絡する。大体実質的にはそういう了解をつくりました。なおこの了解は今回限りの了解であつて刑事裁判管轄権に関する双方の交渉上の立場は何らそこなうものでないという念のための了解が付せられております。この了解が成立いたしますのと同時に、法務当局の先ほど刑事局長の申されました取調べの完了という事態が、ちようど先週の土曜日に合致いたしまして、土曜の午後英、濠大使の来省を求めて了解を正式に成立せしめ、同時に係官の間でその了解確認をいたします文書を交換いたしまして、しかる後法務当局の手によりまして身柄が引渡された次第でございます。  なおこの了解事項先方におきまして、実は非常にいやがりまして、イギリス本国でも今ちようど国会が開かれて、すでにこの問題でも質問があつたようでございますが、先方から見ましても相当屈辱的と申しますか、のむのに覚悟を要したものと見えまして、この了解文書それ自体を発表されることだけは、ぜひ今対国会関係から見てやめてくれという率直な先方からの要請がございまして、それでは内容実質だけを必ず国会質問され、またそれに対してお答えすべきは日本政府として当然のことでありますから、それだけはどうしてもすると申しまして、内容実質だけを申し上げるということに、先方了解がついておりますので、了解文書自体を御配付できませんことはまことに遺憾に存じます。
  9. 田嶋好文

    田嶋委員長 発言の通告がありますから、順次これを許します。松岡松平君。
  10. 松岡松平

    松岡(松)委員 条約局長にお尋ねしたいのですが、政府当局でお考えになつている裁判権確認ということは、ただ裁判権があるということを国連側が認めればそれでいいというお考えであるか。それとも現実にその裁判権に基いて具体的事案が現われた場合に行使することも意味するものであるか、これは今後にも関係しますし、今度の事件にも関係しておるのでありますが、この点の見解をまず承りたいと思うのであります。つまり言いかえますと、向うの軍人、軍属、家族にいたしますれば、やはり向うの国の人でありますから、向うの法に違反すれば向う裁判に服さなければならぬのは当然である、従つて向う裁判権を持つているということは当然でありましようが、日本国内法律に照して犯罪になる場合に、日本がこれを裁判に付する、この裁判権日本が持つているということは、ただ観念的に日本裁判権があるのだということと、現実具体的にこの裁判権に基いて裁判をすることとは実際違うわけで、現在国民の意向として大部分希望しているところは、日本においてみずからこの裁判をすることを要望しておるのでありまして、私どもが先般来それを政府当局に強く要望して来たのは、そのことにあつたのであります。従つて政府当局として裁判権確認、確保という言葉をしばしばこの委員会でもお使いになつておるのですが、その意味は、確認さえ受ければ現実裁判をやらなくてもいいというお考えなのかどうか、この点をひとつ明確に、今後に関係する問題でありますから、御説明を賜りたい。これは結局法務大臣にも関係することでありますが、まず条約局長から、外交交渉に当られた関係上、そのお考え方をひとつお漏らし願いたいと思います。
  11. 下田武三

    下田政府委員 私ども実務に当つておりません立場といたしまして、多少観念的になるかも存じませんが、その点は御了承の上でお聞き願いたいのであります。国際法上、昔の国際法では、外国軍隊所属員犯罪については、派遣国裁判権があるのだとか、あるいは接受国裁判権があるのだとか、どつちか、一か八かにきめてしまわないと承知しなかつたのが昔の国際法つたと思います。わが方の主張しておりますNATO協定に現われた裁判考え方は、そういう割切つた考えをいたしておりません。つまり外国軍隊が滞在するという事態は、今日では決して珍しいことではございません。集団安全保障措置の発達いたしました結果、現在世界におきまして、イギリス、フランス、イタリア、デンマーク、オランダ、ベルギー等、ヨーロッパの諸国にはことごとく外国軍隊が滞在しております。旧枢軸国のドイツでございましても、オーストリアでありましても同一でございます。アジアにおきましては、フィリピン、韓国に外国軍隊が滞在することは御承知通りであります。こういう場合に、軍隊が一たび外国に滞在することを認められた場合には、当然の特権として、先ほど申し上げました二種の特権を持つておるのであります。そうしますと、その領土の中にはその接受国自体司法権と、軍隊の入つて来るために、軍隊について入つて来た軍事裁判権というものが競合して存在するわけであります。それ自体はもうけしからぬとかなんとかいうことでなくて、国際法上認められた当然の結果であります。そこで接受国普通裁判権派遣国軍事裁判権が競合するといたしまして、問題となりますのは、たいがい犯罪は実は両方法律にひつかかつておるわけであります。派遣国側軍法によれば、たとえば兵隊強盗を働くということはもつてのほかのことであつて、これも軍法違反犯罪を構成することは明らかであります。接受国の方でも、これまた当然犯罪を構成することは明らかであります。そうしますと、法律上は両方とも裁判行使する根拠があるわけであります。そこで二つの裁判権がぶつかりました場合に、どちらがそれでは優先的に、つまり第一次にどちらが行使するか、それをきめようというのが最近の国際法の主要な問題となつておるわけであります。NATO協定は御承知のように、ある場合に派遣国側に第一次の裁判権行使を認め、他の場合には接受国側に第一次の裁判権行使を認める、そういう解決をいたしておるわけであります。従いまして一体日本は、裁判権があるという建前を貫けばいいのか、建前を貫くのみでなくて、現実裁判を遂行することが必要なのではないかという点が御質問の要点と思いますが、この点条約協定でいろいろな例がございますが、たいがい条約建前は、そこで裁判権が二つ競合する場合に、いずれかの裁判権を否認するという建前はとつておりません。正直に裁判権が二つあるのだということを認めた上で、どつちに先にやらせるか、どつちに優先権を与えるかということで解決しております。従いまして優先権を与えられた場合には、裁判権を持ち、かつそれを行使するという事態になるわけでありまして、具体的の事件についてそれをきめるほかない、いかなる場合には建前も事実もそうであるということは、抽象的には申し上げられないかと存じます。
  12. 松岡松平

    松岡(松)委員 そうするとただいまのケースごと協定の基本となるものは吉田書簡で、一方において今国連側から締結を迫られておるところの協定に対するNATO方式主張は、これは吉田書簡ではなくて、新たなる主張のように思うのですが、それはどういう関係になりますか。
  13. 下田武三

    下田政府委員 吉田書簡の第一項におきまして在日国連軍所属員に対する裁判管轄権は、国際法一般原則及び国際慣習に基いて行うという規定がございますが、その第一項の国際法及び国際慣習ということは、日本側考え方によりますと、前回も申し上げましたように現在の国際法の見地から申しますと、軍隊所属員の身体に対する加害行為軍隊の財産に対する加害行為、それから軍隊所属員公務遂行中の犯罪軍隊の施設内における犯罪、これらについては優先的に派遣国側裁判管轄権を持つということはすでに国際法上はつきり認められております。それ以外の場合には接受国側が優先的の裁判権行使すべきであるという考え方でございます。従いまして吉田書簡NATO協定とをわけまして考えますと、NATO協定日本側見解によりますと従来の国際方式に近い方式でございますから、その方式吉田書簡の第一項にあります国際法とひとしいものである、そう日本側は解釈しておるわけであります。
  14. 松岡松平

    松岡(松)委員 大体今の点了承いたしましたが、十一月の文春にも出ておる事件ですが、山梨における強姦事件で、これは無罪判決になつておりますが、向う法律によつて無罪になつたのか、あるいは裁判の事実認定の上で無罪になつたのか、私どもはよくわかりませんが、こういう問題につきましてまことに国民はふに落ちない感情を持つておることがたくさんあると思う。たとえば事実認定の場合のほかに法律の上においても差異がある場合がある、そういうような場合について今度の事件に関連し、また協定の方の問題に関連して、こういうことになつて外交上の何らか話合いをなすつたことがあるのでしようか。ことに山梨事件について無罪なつ事件女子教員教員の職を奪われ、しかもいいなずけから破婚をされておるというように伝えられておるのですが、こういうような事実というものはかなり大きな波紋を描く問題であります。そういう問題に対して相手方に対して何らかこのことについてお話なつたことはございませんか。
  15. 下田武三

    下田政府委員 その件につきましては外交交渉対象なつたことは今までございません。
  16. 松岡松平

    松岡(松)委員 そうしますと、今のところ日本アメリカとの場合におきましては、向う側が裁判しているのですが、その裁判の結果に対して著しく日本側としては納得し得ないような場合があつた場合においては、何らかの外交上の申入れをなさる御意思が今後おありなさるのでしようか、どうでしようか。
  17. 下田武三

    下田政府委員 具体的の事件につきまして刑の不当であるかどうかという点は、外務省にはつきかねますので、法務当局の御判定によつて明らかに不当であるというような場合が続出するようでございましたら、これは先方に申し入れなくてはならないと思いますが、なお先ほどお話の件については外交交渉対象なつたことはございませんと申し上げましたが、そういうことについて外務省が無関心だという意味ではございません。外務省は全般的な問題といたしまして米軍並び国連軍側に対して、一体もつと兵隊行儀がよければこういうやつかいな問題は起らないのであるということは、口をすつぱくして申しております。法務当局からまわしていただきます犯罪件数の表などを一々先方に出しまして、この通り遺憾な事件が頻発しておるではないかということを報知しまして、常に先方注意を喚起いたしております。米軍の方では、実は非常によく一生懸命にやつておるのだといいまして、米軍いろいろ苦心を話してくれます。いろいろなパンフレットみたいなものをつくりまして、ジャパン・フレンド・アンド・アライという表紙のパンフレットでございますが、友人及び同盟国たる日本という本を見ますと、さし絵入りで、日本の家に行つたら玄関でこうやつておじぎをして、畳に上るときにはくつを脱いで上りなさいという日本行儀、お作法を図解で――兵隊には無教育者も多くございますが、小学校だけしか出ないような兵隊にもわかるように懇切丁寧に日本の法令を遵守し、日本風俗習慣を尊重せよといういろいろなパンフレットをつくつて兵隊教育に努めているということをいろいろな資料で見せてくれたこともございます。あるいは濠州兵の方はそういう意味兵隊の訓練が不足しているかと思います。濠州兵に聞いてみますと、何分呉地帯は非常に兵隊の行き来がはなはだしいということで、長くいるならば腰をすえて教育できるけれども、あすこはほんとうに中継地で、カナダ、濠州、シンガポール方面から来るのがちよつと寄り、また朝鮮に行き、また帰る場合に呉に寄るということで、腰をおちつけて教育するということができないのが、他に比して不利な点であるというようなことを申しておりますが、部隊内で司令官の回章と申しますか訓令をたびたび出して、兵隊注意を喚起いたしている。そういうような措置をとらせるために外務省としてはたびたび先方申入れをいたしている次第であります。
  18. 松岡松平

    松岡(松)委員 それからこの間も問題になつた点でありますが、向うから脱走兵が出た場合に、局長はおいでになつたかどうか存じませんが、田中警視総監の御説明によりますると、必ずしも脱走兵のあつたことをわが当局へ通知するとは限らない。こういう御都合的なことははなはだ私ども考えますと、日本国にとつて迷惑のことでありますが、少くとも脱走ということは犯罪者であります。軍律を乱してその兵営から飛び出して来る。飛び出して来たこと自体がただちに危険とは言えないかもしれないが、脱走兵は危険を起す可能性が非常に多い。その危険は日本の治安を乱す可能性が非常に多い。従つてこういうものは原則としてわが当局に対して連絡し、そうして逮捕についてわが方に協力を求めるのがわれわれの常識だと思います。ときによつて連絡し、ときによつて連絡しない、こういうことでははなはだ国民は迷惑すると思うのであります。このことについて外務当局相手国に対して強くこういうことについては緊密な連絡をとられるよう要望していただきたいと思います。私は先ほど問題になつておる山梨事件、そういう場合について日本側裁判権があるという一つの根底のもとにおいては、向う裁判無罪なつたような場合には、わが方からこのまま不問に付しておくということは国民感情、少くとも国民の納得しないという実情に対して、何らかの処置をとらなければならないと私ども考える。今ほど外務省条約局長からもお話にあつたが、やはりその主体は法務当局にあるのじやなかろうかと思うのであります。これは個々の場合について具体的な折衝をなさるのが当然でありましようが、少くとも方針としてお漏らしを願わないと、国民は納得しないんじやなかろうかと思う。
  19. 田嶋好文

    田嶋委員長 さつきあなたのお問いになりました裁判権だけを確保して実際上の裁判をしなくてもいいのか、この点に対する答弁を法務大臣から求める必要はないのですか。
  20. 松岡松平

    松岡(松)委員 あります。
  21. 犬養健

    犬養国務大臣 お答えを申し上げます。法務当局といたしましては、御承知のように、しばしば御説明申し上げましたように吉田書簡並びに俗に申します第二清原通達の線に沿つてこの事件を処理いたしたのでありますが、法務当局はただ単に名目上の裁判管轄権を獲得すればよいというだけで満足はいたしておりません態度をとつて参つたのであります。御承知のように、四十八時間たちますとあちらに渡すように努力しようということが、吉田書簡によつて明らかになつておるのでありますが、この努力に値するだけの条件を獲得してからでなければ、身柄引渡しはできないという態度をとつて参りました。従つて承知のように、四十八時間をはるかに越える長時間、身柄の拘束をいたしまして、他日再び必要あるときはこちらで身柄を取返しまして、取調べのできるだけの根拠をつくつたわけでございます。先ほど刑事局長より申し上げました通り犯人の陳述と同時に、傍証を固めまして、いつ何時身柄を引取る要求をする場合にも、その要求根拠があるというところまで取調べをいたしまして身柄を渡したわけでございますから、従つて裁判管轄権名目上持つておればよいという以上に、いつ何時でも必要あるとき身柄引渡し要求できる根拠をつくつてから渡したわけであります。さよう御了承願います。  もう一つ山梨県の事件は、実は先日猪俣委員からお話のありました直後、私もたいへん気にかかりましたので、さつそく調査をいたしました。この事件松岡委員の御指摘になりましたように、アメリカにおける刑事訴訟法考え方が違つておりましてああいうことになつたのでありますが、しかし日本国民一般感情と、ことさらにあまりに違う判決が下りましたときには、友好国との友好関係を明らかにする意味におきまして、何かの形式で外務当局を通じて、日本国民判決に対して受けた国民感情真相をのみ込んでもらう処置をいたしたいと思います。これがかえつてアメリカに対する友好関係を一層持続するゆえんにもなる、こういうふうに私ども考えております。
  22. 田嶋好文

    田嶋委員長 それに関連して委員長から法務大臣にお尋ねいたしますが、今回の事件身柄引渡したのでありますが、引渡しによつて起訴権は放棄する御意思でありますか。それとも起訴権を現在なおかつ維持して、将来向う判決のいかんによつては起訴しなければならないというお含みがあるのですか。
  23. 犬養健

    犬養国務大臣 お答えを申し上げます。いつ何時でもまた必要のあるときは渡してくれというのは、結局起訴権を保留してあるのでありまして、今申し上げましたように英濠兵に対する相手国判決がいかにも日本国民感情に合わないという場合は、再び身柄引渡し要求するようなことになつております。
  24. 松岡松平

    松岡(松)委員 今大臣からの身柄引渡しというのは非常に弱いのです。そういう場合には断固として裁判権行使されるという御方針があるのでしようか。
  25. 犬養健

    犬養国務大臣 その場合は、満足できないときは再び日本側において起訴の用意ありということのもとに、身柄引渡しをいたしました。
  26. 松岡松平

    松岡(松)委員 了承いたしました。
  27. 大川光三

    ○大川委員 最初に下田条約局長に伺います。先ほど御説明になりました身柄引渡し条件の中で、日本に必要のときは出頭せしめるとか、あるいは日本側連絡なくしては両兵を外国に連れ出さないというこの二つの条件は、結局英濠両国において日本裁判権ありということを認めた上で、こういう条件について合意が成立しておるのかどうかということをまず伺います。
  28. 下田武三

    下田政府委員 われわれとしては仰せの通りに解釈して、あの了解を成立させておるのであります。つまり、ただいま法務大臣がおつしやいましたように、必要とあらば起訴し、さらに裁判するということが妨げられないような手を打つたつもりで、ああいう了解になつたのであります。
  29. 大川光三

    ○大川委員 それから、この了解事項日本対英濠間においては、今後先例としないということに了解がついたというように伺つたのでありますが、はたしてさようでございましようか。
  30. 下田武三

    下田政府委員 先例としないという意味ではございませんで、今刑事裁判権交渉をしておりまするが、その交渉で双方が主張しているそれぞれの立場は、今回限りのこの了解によつて傷つけられない、そういう意見において一致しておるのであります。
  31. 大川光三

    ○大川委員 それからこの引渡し条件の第一として、相手国軍事裁判日本の官憲が立ち会つたり、判決の結果をすみやかに通知をせしめるというような、こういう条件を何ゆえに加えられたかという点であります。申すまでもなく一九四二年の英米間の協定では、英国は米国に対して属人主義を設定いたした。そしてその協定の附属書中に、米国は犯罪行為地において公開で審理を行わるべきことがきめられているのでございますが、日本が今回の英濠兵の身柄引渡しについて、あたかも右英米協定の附属条件と類似の条件を付したということは、これは属地主義の後退である。同時に属人主義への一歩前進だという印象を深めるのでございまして、現に進行中の国連軍協定交渉にも影響するところが大であると思われるのでありまするが、はたしてさような憂いはないかどうか、あわせ伺いたいのであります。
  32. 下田武三

    下田政府委員 仰せの通り今回の条件は、一九四二年の英米交換公文で定められた条件に似ております。しかし今回のはある一定の事件だけのとりきめでございますが、英米交換公文はあの協定が有効である限りは、常にアメリカ側が裁判するという建前協定でございます。しかしなぜそういうことを必要としたかというその事情を考えてみますと、元来ですと、軍隊の方で軍事裁判を受けるなら、軍事裁判所が遠いところにあるかもしれない。そうすると証人とか何とかいうものを遠いところまで喚問される。そうすると滞在国の方の証人はえらい迷惑をする。そういうことがないように事件の起つた近いところでやつてくれ。それから公開しろということは、結局、裁判が公正妥当に推進されるかどうかというところを監視する意味の必要から来るのであります。この点は、先方軍事裁判所を公開するわけには行かないが、しかし日本政府の代表が立ち会われて、公正妥当に行われるかどうかという点を見られることは一向さしつかえないというので、そういう条件なつたわけでございますが、その必要はこれは原則的に、ああいう建前であります場合も、今回のように一回限りで行います場合も、必要性は同じでありまして、英米協定のつけたりの方にあります条件を今回借りたということは、その親元が同じになるということは意味しないのでありまして、私どもはあくまで今回の条件は今回限りというようにとつておりますし、先方もその点はよく了承しております。
  33. 大川光三

    ○大川委員 法務大臣に伺いたいのであります。先ほどのお話で、このたびの英濠兵の自動車強盗事件というものは、いわゆる清原通達に準拠して処理いたしたものであるというのでございますが、はたしてヘツプレス、パットン両一等兵の身柄引渡しにあたつて、わが国の刑事裁判権は英濠両国においてこれを認めておる、ないしはわが国の裁判権主張は貫徹されておるというように法務当局はお考えになつておるかどうか、伺いたい。
  34. 犬養健

    犬養国務大臣 お答え申し上げます。わが方に刑事裁判権が保たれているかどうかという問題の根本の論議は、外務省当局から御説明申し上げましたように、国連軍とわが方との協議の結果にまつ、しかし今回のとりきめは、双方の主張をいかなる意味においても妨げるものではない、こういうことにいたしたわけであります。また必要あるときはいつでも身柄を再びこちらにもらうという、その条件の必要とは何ぞやという問題につきましては、日本側においてそれは取調べと公判のための必要であるということを主張し、またいかなる公の席においてもそれを主張して一向かまわない、こういう了解のもとにああいう協定をいたしました。
  35. 大川光三

    ○大川委員 日本裁判権があるという確固不動たる信念の上に立ちながら、今回の英濠兵強盗事件について処分を留保されたという法務省の考え方を伺つておきたいのであります。
  36. 犬養健

    犬養国務大臣 これは御承知のように、元来吉田書簡並びに清原通達が、裁判管轄権を保持しながらも、友好国との国際礼譲というものも考慮して書かれた、その線に沿つたのでありまして、御承知のように、横田博士の英水兵事件のときの証言におきましても、裁判管轄権は確保しながら、原則としてその行使については友好裡に解決するのが一番妥当である、こういう考え方の証言がありましたが、大体においてその考え方のもとにこういう処置をいたしたわけでございます。但し御承知のように、いつ何時でも再び取調べと公判をわが国において行う権利を保留しながら、その処置に出たことは、御承知通りでございます。さよう御了承願います。
  37. 大川光三

    ○大川委員 そういたしますと、法務当局としては、国際礼譲と日本の刑事裁判権といずれを重く考えておられるかという問題でありますが、ただいまの御答弁によりますと、日本裁判権行使よりも、国際礼譲を重く見るというように解してよろしいでしようか。
  38. 犬養健

    犬養国務大臣 さようには考えておりません。国際礼譲も大事であるが、わが国における刑事裁判権の確保というものはその基礎において確立しておるのであります。ただその行使を留保しながら、国際礼譲に従うのであるが、相手国日本国民感情及び日本の刑法、刑事訴訟法の精神と著しく背馳した場合は、眠らしてある権利、すなわち再び公判、取調べのためにわが方に身柄要求するという権利を保留しながら、この処置をとつたのであります。
  39. 大川光三

    ○大川委員 第二の清原通達によりますと、日本側裁判権がこれらに及ぶから、すべてこれを立件して処理しようという、わが国に裁判権ありという根本原則の上に立つて依命通牒が発せられておるのでありますが、本件のような重要なる事件について、相手国軍事裁判の結果によつて日本裁判権を拘束するというようなことに相なりますと、いわゆるわが方に裁判権がありというこの清原通達の根本原則が、有名無実の空文に帰するおそれはないかと考えるのでありますが、法務大臣の御意見を伺いたいと思います。
  40. 犬養健

    犬養国務大臣 清原通達の御承知の殺人、放火、傷害致死、強盗、または強姦の罪に当るもの、これがこのたびの事件でございますが、この場合どういう処置をするかといいますと、できる限り逮捕後四十八時間以内に再び身柄をこつちにもらうという条件で渡せ、こういうことが書いてあります。もし私どもが再び身柄をこちらにもらう基礎になるだけの取調べを、四十八時間が来たからといつて打切つて身柄引渡しましたならば、大川委員の御心配のようなことが起ると思うのでありますが、その点は多少の国際上の摩擦を犠牲にしながら、あるいは相当の摩擦を犠牲にしながらも、四十八時間をはるかに越えて、こちらの取調べが完了するまで、わが方において身柄を勾留いたしました。どうもその点は御心配はごもつともと思いますが、十分の有名無実にならぬだけの努力はいたしたように、私どもは解釈いたしております。
  41. 大川光三

    ○大川委員 最後に、私はわが国民感情緩和の一策として所見を述べて、法務大臣の御所感を伺いたいのであります。それは国連軍将兵の犯罪によつて被害をこうむつた者に対して、日本の国がその損害を補い、補償せよという一点であります。先ほど山梨県下の小学校教員の問題のお話もございましたが、先般新聞の伝うるところによりますと、国連軍将兵の刑事事件が三箇月間に約百件の多きに上つておりまして、一日平均三件の犯行が繰返されて来ておるのであります。将来も同様かような犯行が繰返されないとは何人も保証できないのでありまして、これらの被害者の身になつてみますれば、泣くに泣けない、償うに償い得ない多大の物質的、精神的打撃をこうむつておるのであります。しかるに独立国とは名のみであつて、公益を代表する検察官が被害者にかわつて加害者を訴追してくれない。こんななさけないことはございません。私どもは憲法において基本的人権を尊重されることを保障されております。また民事的には、われわれは裁判所において裁判を受ける権利及び訴権を保障されておるのであります。しかるにもかかわらず、国連軍将兵の犯行に対しては、国連軍へ協力するという国家的義務を履行するために被害者個人の権利は常に犠牲に供されておるありさまでございます。犬養法務大臣は先般の本委員会で、日本国民国連軍というものに親愛感を持ち、その親愛感の基礎の上に立つて国連軍を支持する、そういう国民的傾向が生ずるような方向へ刑事裁判権の帰趨が行くように努力いたしたい、かように申されました。私は当時大臣のいわゆる国民に対してあたたかい愛の手を差延べようとせられるその御所見に対して少からず感激をいたしたものであります。かように考えて参りまするときに、いわゆる国連軍に親愛感を持つて協力し得る国民態勢を整えるためには、政府はよろしくこれら被害者に簡単、迅速にその損害の補償ができるような方途を講ぜられなければならないと思うのでございまして、ときたまたま新聞紙上に問題となり、あるいは外交交渉の問題となる本件のような事件は別ではございまするが、ただそこまで明るみに出ない小さい事件のために日本国民感情が日に日に悪化いたしておる、こういう状況とにらみ合しまして、私は被害者並びに一般民衆の感情をやわらげ、国民が欣然として国連軍に親愛感を持つて協力せしめるために、先ほど申しまする国連軍将兵の犯行によつて被害をこうむつた者に対して、日本の国がその損害を何らかの方法で補償するという方途が講ぜられなければならぬと存ずるのでありますが、あえて法務大臣の御所見を伺いたいのであります。
  42. 犬養健

    犬養国務大臣 まつたく御同感でございます。国際礼譲というものは双務的でなければならぬと思います。片務的なものであれば、かえつて友好感情をそこなうのでありまして、本来のわれわれの苦心も水のあわになると存じます。先般猪俣委員から御注意がありまして、今日は松岡委員からも御注意なつたが、たとえばあの山梨事件の婚約も破棄せられ、公職も免ぜられる、そういう事件日本国民として当然たまらない事件でありました。私どもこれはまだ私案なんでありますが、かりに日本法律であつたならばどうしたろうという比較関係をした上、何かこれこそたびたび申し上げます国民感情に合うような処置をいたしたいと考えております。ただ私は法律はしろうとでございますから、どういう法律によつてそういうふうにしたらよいか、これは事務当局と今相談中でございます。しかし国民の一人として何ともたまらない気持であの事件真相を聞いたということだけは率直に申し上げておきます。御趣旨はまつたく御同感であります。
  43. 田万廣文

    ○田万委員 松岡さん並びに大川さんからいろいろ質問がございましたが、私は大体その質問と重複する点を避けてお尋ねしたいと思います。  この前の委員会におきまして私は率直、簡明に法務大臣並びに岡崎外務大臣に対しまして、引渡し条件についていかなる構想を持つておいでになるかということをたびたび繰返して御質問いたしたのでございますが、それに対して、現在は国際間のデリケートな関係にあるので、今ただちに発表することはできない、さような御答弁があつたことは事実であります。私どもがその当時お二人の話から受けた感じによる引渡し条件というものは、今日引渡しが完了している現在において、新聞その他において発表されている了解事項として書かれているその範囲からあまり出なかつた。しからばそれほど国際関係のデリケートな問題があるといろいろ奇妙な言葉を使われましたが、どういうふうな国際関係のデリケートな問題があつたのか。なぜ発表ができなかつたのか、今日はその事情をつぶさにおつしやつていただける時期が来ていると思う。その点について法務大臣から詳細な御説明をまずお願いしたいと思います。
  44. 犬養健

    犬養国務大臣 先般御質問をいただきましたことは確かに承知しております。当時は国際関係上そういうことは発表しないというぶあいそうな御返事で恐縮であつたのでありますが、率直に申し上げまして、イギリスまたは濠州の政府に問い合せておつた途中で、目下こういうことをわが方は折衝しているのだということはいかにも申し上げにくかつた。また字句の点でも最終的な決定のつかないものでありまして、かたがた二つの理由をもつて、まことに残念でありいかにも秘密を漏らさないというような態度は、私はあまり好きじやないのですけれども、ああいう御返事をやむを得ず申し上げたので、それを今日あらためて御了承願いたいと思います。
  45. 田万廣文

    ○田万委員 私どもは率直に申し上げまして、他の委員からもいろいろお話がありましたが、今度のこの引渡し了解事項というものは、あなた方は一応それで了解された気持でいるかもしれないけれども国民感情において、またはたして日本の主権をこれで完全に自主的に確保できたものかどうかという点については、非常に遺憾な考えを持つている。この了解事項というものは、私どもから言わしめれば、一つの国際的な取引には違いないが、あまりに要領よくでき過ぎている。実質的には刑事裁判権は放棄していると思われてもしかたがないようにも解されるのであります。しかるに条約局長並びに法務大臣お話によれば、刑事裁判権日本にあるのだと口ぐせのように言つておられる。あるということを向うさんが了解しておるというような御答弁である趣旨から考えて、しからばなぜ明白にしなかつたか。私はこれを言いたい。しかも必要があつた時分には出て来てもらうというが、相手方に引渡してしまつてから後裁判がはたしてできるかどうか、そこに逢着すれば、やはり刑事裁判権というものは、名目はとつたかもしれないが、実質的には放棄したものであるというふうに考えざるを得ないのですが、これはどういうふうなお考えですか。
  46. 犬養健

    犬養国務大臣 ごもつともでありまして、今回刑事裁判権裁判管轄権はわが方にありと明白にすれば一番理想的なのでありまして、最後まで努力したのでありますが、御承知のように、それのあるなしは別の会議で今やつているのだ、こういうことが結論になつておるのであります。私どもとしては、結論としては、今後も行われます国連軍代表とわが方との会議においてこの意思を主張するほかはない。但しこの事件においては刑事裁判権の確保ということを一歩たりとも退却しない。向うも退却しないが、こつちも退却しないというのが、先ほど条約局長から御説明申し上げた了解事項であります。それでは原則が立たないじやないかということになるのですが、この原則は、今申し上げた国際会議の方で確立するようにお互いに両省において努力しなければならぬ、こういうふうに考えております。
  47. 田万廣文

    ○田万委員 ますますわかりにくくなるのですが、一歩も両方が譲らない。そうすると、今裁判権があることのようなお話があつて出頭を求めた場合には出て来る、裁判があるとき出て来るというお話があつたのですが、これは明らかに裁判権を認めたことになるのではないですか。
  48. 犬養健

    犬養国務大臣 それを原則としていつの場合にも認めるというわけには先方はいかない。その認める場合は国連軍とわが方との会議の別の方でやろう。この事件において必要があるときという日本側考えは、公判と取調べの必要があるときと日本側が解釈することは妨げない。原則としていつでもそうだという方針をきめるかきめないかは別の会議、すなわち国連軍代表と日本側の代表の方でやる、こういう意味でございます。
  49. 田万廣文

    ○田万委員 そうなると、こういう問題が起きたときはその都度都度に話をしてこういうことをきめるというお考えですか。
  50. 犬養健

    犬養国務大臣 国連軍との間に結論が得られるまでは、事実としてはそうなるでしよう。その都度都度だから、こつちも裁判管轄権を放棄するというわけにも参らない。原則は双方別の会議のところで今やつておるのであります。その会議の席上わが方の主張を貫徹するほかに方法はない、このケースにおいては譲らない、こういうわけであります。
  51. 田万廣文

    ○田万委員 私どもはその都度都度こういうことが起きたことにこういう了解事項をつくつて行くというよりは、やはり原則的なものをつくつて行くということが国際紛争を解決する一番望ましい方法だと考えております。最近新聞論調を見ましても、吉田内閣の外交がいわゆるその都度外交になつておるという悪評をうたつておられますが、確かに私は今の法務大臣の話を聞くと、その都度交渉ということの認識を深めざるを得ない。しかも今の御答弁をずつと聞いておると、刑事裁判権はあるのだと実に勇ましいことをおつしやつておるけれども実質的には裁判権というものは、今日のこの了解事項においてはわれわれは遺憾ながら認めることはできない。先ほど松岡さんからもお話があり、その前に猪俣君からも話がありましたが、山梨県の女教師の問題、あれなんかは私は人道上の問題だと思う。一人の女性を二人のがんじようなアメリカ兵が自動車に引張り込んで暴行している。いかなる国の法律といえども、しかもアメリカのような女尊男卑といいますか、ああいう国においてこういうことが無罪になるということは私はあり得ないと思う。暴行なくして強姦というものはできるものじやない。こういうどこの法律を見ても明らかに有罪の判決が下されざるを得ないような事犯に対して、これは無罪判決をいたしている。私ども日本人として民族的な観念から言つても、駐留軍が公務執行中において間違つたことをする、これは当然向う側も法律によつて処断されることはわれわれは了解するにやぶさかではありません。しかしながら公務執行以外の場所において、しかも駐留している国の婦女に対してかかる暴行を働いた兵隊、われわれの祖国で起つた事件をわれわれ自身が裁判する権利がないというようなことは納得できない。しかもこれは大分前の話です。こういうような事件が次々に頻発することがないとは保証し得ないと私は思う。独立した独立したというけれども、独立したという実質的な権利をわれわれがこういう具体的な問題において勇敢に闘つて確保することが祖国を守るゆえんでなければならぬし、軽蔑されてはならないと思う。そういう趣旨において、この前に起つた山梨事件における米軍に対してどこまでも勇敢なる抗議を提出するとともに、今後また起るかもしれないさような事態に対してアメリカ側はどういう考えを持つているか。国連協力というが、協力ということはこういう状態ではできないと思う。われわれはできないということをはつきり申し上げる。そういう趣旨において、法務大臣並びに外務大臣が相手国と勇敢に交渉せられる勇気を持つているか。勇気を持つていると口の先だけではいけない。実際にこれを忠実に努力して、刑事裁判権がわれわれにあるということの運動を今後やられる熱意を持つているかどうかを私は承りたい。
  52. 田嶋好文

    田嶋委員長 ちよつと大臣の答弁の前に、田万君に委員長から忠告するわけじやありませんけれども、申し上げますが、今の山梨事件というのは、文芸春秋の十一月号に載つてつたあの占領下における事件でございますか。
  53. 田万廣文

    ○田万委員 そうです。
  54. 猪俣浩三

    猪俣委員 それは私からちよつと釈明します。
  55. 田嶋好文

    田嶋委員長 ではちよつと速記をとめて。     〔速記中止〕
  56. 田嶋好文

    田嶋委員長 速記を始めて。―委員長が田万君にただしたところが、今猪俣君の言つたように、山梨事件というのは文芸春秋十一月号に載つておるところの山室通訳の実話として述べられた奥多摩における米軍の占領政治下における暴行事件を言つたものである。だから田万君が山梨事件と言つたのはそれを言つたのであるということです。なお松岡さんの場合もそうですね。
  57. 松岡松平

    松岡(松)委員 そうです。
  58. 大川光三

    ○大川委員 私も松岡さんの言葉を引用しましたが、昭和二十五年五月東京近郷で小学校の女教師が犯された、そういう意味に御訂正願いたい。
  59. 田嶋好文

    田嶋委員長 近郷ではありません。奥多摩の方です。大分遠いところで起つた事件で、そういう意味に御了解願います。
  60. 犬養健

    犬養国務大臣 田万さんにお答えいたします。私も根本の気持はまつたく同感でございます。あなたのおつしやつた御精神を体して、これからも折衝努力いたしたいと思つております。
  61. 田万廣文

    ○田万委員 神戸の強盗事件でありますが、あれはたしか私の記憶に誤りなければ二年半の判決で、結論は執行猶予である。あれは明らかに日本国において裁判をいたした。今度のこの事件裁判に至らずして、こういう了解事項が出たのですが、その法律的な立場についての御見解はどういうことでございますか、犬養さんからお答え願いたいと思います。
  62. 犬養健

    犬養国務大臣 前の事件は私の就任しない前でございますから、ひよつとあやまちがあるといけませんので、御了解願えますれば、政府委員から御答弁いたさせます。
  63. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいま御質問の神戸の水兵事件でございますが、結論的にはお話通り執行猶予で事件が片づいたわけでございます。この事件が当初報告になりました経過並びに起訴、判決に至りました経過は、当委員会としてはまだ私の方から御説明申し上げていないので、この機会に簡単に要点だけを申し上げたいと思います。あの事件は六月の二十九日に発生いたしまして、ただちに逮捕になつたのでございます。つかまえてみましたら、英国の水兵二名でございます。これを警察で取調べの上、七月の一日に検察庁に持つて参つたのであります。検察庁におきましては、諸般の証拠を調べましたところが、ほぼ現行犯的な非常に明白な事件でございます。本人もはつきり認めておるといつたような状況でございまして、当時神戸の地検におきましては、大阪の検察庁、高等検察庁並びにそこを通じて最高検の方にも指示を仰ぎまして、その結果あの事件は七月の二日に身柄拘束のまま起訴されたような事情でございます。たしかその後七月の八日に至りまして、現地の神戸の領事館から文書をもちまして、何とか身柄を渡してくれというふうな要求がございましたが、時すでに起訴後でありましたので、一応裁判所の保釈の問題になるのではないかということで、保釈の手続を進行しようと思いましたところが、東京の英国大使館側におきまして、これをうつかり保釈の申請等の手続をすると、日本裁判権を認めたことになりはしないか、要するに日本裁判所にあてて書面を出すということは、日本裁判権を認めたことになるのではないかということで、躊躇いたします間に日がたちまして、一審判決を迎える、さようなことになつたわけでございます。一審判決は御承知通り実刑でございましたので、そこであらためて事件が大きく報道されるに至り、遂にその間外交折衝が頻繁にとりかわされるというふうなことになつたわけでございます。第二審におきましては、その一審で調べました証拠並びにこれに追加いたしまして、国際法の横田喜三郎氏を鑑定人として調べました。その結果明らかになりました諸般の状況並びに水兵たちが若干酩酊しておつたというふうな事情やら、あるいはその後改悛の状がすこぶる顕著であるというふうな事情、弁償も了した事情その他をしんしやくいたしまして、結局第二審判決はただいま御指摘のように執行猶予、さような結果になつたわけでございます。一応簡単でございますが、御説明申し上げました。
  64. 田万廣文

    ○田万委員 私の言いたいことは、その判決の趣旨に対しては、とやかく言うのはどうかと思いますが、国民的な気持から言えば――伝うるところによれば、首を締めてそうして金銭を強奪して自動車をとつて逃げた。日本のお互い同胞がやみ討ちして、三十円か五十円の金を、ナイフくらい示してとつたのでも、懲役五年くらいの刑になるのです。あの裁判の結果に対して非常に不満を持つているのは、ぬぐうべからざる事実です。私ども心配するのは、軍法会議はああいう結果になるおそれを多分に持つている。従つて被害を受けたわれわれの国の手で裁判権を確保いたして裁判したい。これはもう当然のことなのです。これを反対にアメリカ日本立場をかえて、あるいは国連軍イギリスならイギリス、濠州なら濠州の立場をかえて、日本の駐留しておる兵隊なら兵隊がこういうことになつたらどうなるか。私は国際協力というものはお互の人格を尊重し、お互の立場を理解し合うところに、先ほどお話があつたように協力というものが油然と湧き起つて来るのだと考える。この立場から言うならば、私は今日の国連のやり方、国連というか、イギリスあるいは濠州政府との交渉の行き方というものは、明らかに国民的な気持から言えば、協力を拒否せざるを得ないやり方になつているということ、これを私は言いたい。従いまして法務大臣並びに外務大臣――はきようは御出席ございませんが、下田条約局長ですか、あなたの方から国民の要望というものは、こういうところにあるのだということを、心の底にはつきりたたき込んでいただきまして、今後その都度外交でなくして、原則的な大方針を勇敢に立ててもらいたい。またこの機会にこれを確立するということが私は望ましいと思うのでありますから、それを特に要望したいと思います。  最後に小さいことを聞くようでありますが、先ほどのお話によると、出頭の必要を生じたときは本件犯人日本関係当局に再出頭させるようにとりはからうというふうに新聞記事には載つておりますが、そのような条項になつているわけですか。その点は実際問題としてどうなつておりますか。
  65. 下田武三

    下田政府委員 とりはからうということは、ツー・シー・ツー・イツトという英語になつておりますが、単にするであろうというのではなくして、必ずそういうふうにいたしますという意味の強い方の表現になつております。
  66. 田万廣文

    ○田万委員 どうもこの了解事項として新聞に伝えるところを読めば、この事件について英濠側軍法会議東京で開く、それから軍法会議には日本側関係者を立ち会わせる、あるいは軍法会議裁判の結果は日本側に通知する、それから今の関係当局に出頭させるようとりはからう、それから最後のところへ軍法会議終了後本国に送還するときはあらかじめ日本側了解を求める、―非常に御丁重な文句になつておりまするが、これは一つ日本側国民感情を押えるところの役割を果す言葉かもしれない。かえつてどもはこれを掘り下げて考えたならば、変な気持になる。今の出頭を要求した時分にはそういうふうにとりはからうということであるが、国際慣行によつてそういうことはないとは思うけれども、実際問題として、はからうと言うておるが、はからつてくれなかつた場合においてはどうなるのであろうか、これもあわせてひとつ念のために聞いておきたい。この前同じような質問をいたした時分に、そういうことが今後二度とあつたような場合においては、断固として勇敢に闘うというようなお話があつたように思うのでありますが、この点をひとつ法務大臣犬養さんからお答え願いたいと思います。
  67. 犬養健

    犬養国務大臣 今外務省政府委員から申しましたように、とりはからうという字は、シー・ツー・イツトという英語が使つてありまして、私は英語はあまりできる方ではありませんが、私などが習つた知識の範囲でも、これはかなり強い言葉と解釈しております。相手方が必ずそうする気持でないと書けない英語である、こういうふうに解釈いたしました次第でございます。従つてそうでない場合を予想して、法務大臣国会でそうでない場合の答弁というのはちよつといたしかねますから御了承願います。
  68. 田万廣文

    ○田万委員 それでは先ほどお話を承つておると、相手方の裁判が軽い、重いによつて取扱いがかわるというようなお話でございます。すなわち軽ければこちらで裁判をやろう、重ければほつておくというように聞えるような御答弁があつたように思うのですが、重い軽いはどこで判断なさるのですか。法務大臣でなくてもけつこうです。そういう御答弁をなさつた方が御返事を願いたい。
  69. 岡原昌男

    岡原政府委員 大体わが国の強盗罪に該当します刑法二百三十六条におきましては、五年以上の有期の懲役になつております。英国の軍法におきましては、いろいろ場合によつて違うように承知いたしておりまするけれども、大体私どもといたしましては、日本裁判所であつたら大体この事件に対してどのくらいの判断をするであろうかという一つの目安がございます。その目安を判断といたしまして、もし私どもで不服であれば、一般国民感情としても当然不服であろうと思いますので、さような場合においては刑法第五条の趣旨にのつとりまして、もう一度裁判はできるという建前、そういうことから申しております。その足りないと思う部分をさらに刑を加重して――加重と申しますか、加えて執行する、さような見解でございます。
  70. 田万廣文

    ○田万委員 最後でございますが、もし相手方の裁判が軽ければ断固としてそういう方針で進む、これは再確認したい。間違いございませんな。―それでは神戸の強盗事件判決二年半、高裁の判決でございますが、二年半、執行猶予。裁判は私どもがとかく言う筋合いではなかろうと思うが、刑事局長考えとしては、それは軽いと思いますか、重いと思いますか。実態をあなたはよく知つているので……。
  71. 岡原昌男

    岡原政府委員 この事件につきまして具体的な判断を加えますと、ちよつとさしさわりが出るかとは思うのでありますが、一般的に従来わが国において強盗罪についていかような判決があつたかということを回顧的にお話申し上げますならば、終戦直後、わが国の強盗事件が特に青年、少年の間で頻発いたしました当時におきましては、この種の事件を、大体場合によつては恐喝もしくは強盗未遂としてこの神戸事件のごとく処理したことが多いようでございます。あの当時は御承知通り相当多数の被疑者たちが群れをなして各地を荒しまわつたちよつと間違うと強喝、ちよつと程度が過ぎると強盗というような非常にきわどい事件が頻発いたしまして、その当時の裁判例といたしましても、当時十八歳から二十歳、ちようど神戸の水兵事件のような年齢のものが次々とさような事件を起すことに対して、これは社会政策上も一々全部五年以上の実刑を科するということはとうていできなかつたわけでございまして、その後の実際の事件判決結果に徴しましても、本件、神戸の事件を、必ずしも従来の行き方から著しく逸脱した、かような判断は下し得ない次第でございます。
  72. 田嶋好文

    田嶋委員長 この場合田万君の質問に関連いたしまして、条約局長委員長からお尋ねしたいと思うのですが、各委員より結局今回の英濠兵引渡しの問題に関連いたしまして、双方でとりかわされたと言われておりますメモランダムの内容についての質問は相当きついと思うのであります。しかしこれは政府当局が言うように、国際礼儀もございましようし、国際礼儀上発表することができないということも了承できるのでございますが、そういたしますれば、当方から英濠側にこういうような条件が受入れられればというのか、向うからこういうような条件なら引渡してくれないだろうか、こういうようなことがあつたと思うのですが、そういうような点をここで述べることはできないものですか。もしできればそうしたことを述べていただければ、委員会はまことに満足すると思うのであります。
  73. 下田武三

    下田政府委員 これは引渡し条件と申しますか、了解事項とは全然別の問題なのでありますが、いよいよ身柄を引渡す直前に、イギリスと濠州の大使に外務省に来てもらいましたときに希望したことがございます。それはもし軍法会議犯人が不当に軽い刑に処せられるようなことがあつたら、日本国民感情としてそれを黙視できない。当然これは重く罰するものと期待するということを申し入れました。これに対しては、英濠大使とも、自分は裁判官ではないが、もちろんそのようになると思つておると言つておりました。これはあながち外交辞令ではなくて、もし不当に軽い刑を言い渡したら、今度は日本側は、絶対に引渡すものかという日本側の気持は先方にもよくわかつておりますので、その点は先方もしかるべく刑を科するものと期待しております。
  74. 猪俣浩三

    猪俣委員 大体裁判権の問題は明かかになりつつあると思いまするが、これを国民並びにわれわれが強調いたしますゆえんのものは、国家の独立という面、国権の尊重という面のみならず、ただいま各委員質問内容にありましたように、私どもの生命、財産、身体、こういうものを保護するには、やはりわが国の法律を適用し、わが国の裁判所において処断せられることが、われわれの法益保護に最も適しておるという見地が濃厚であると考えられるのであります。そこで例の東京都下の女教員強姦事件の問題なんかも出たのでありますが、私はなお現在アメリカ軍隊、あるいは国連軍軍隊、及びこれらの軍隊関係あります諜報機関その他の機関が内地に多数駐在いたしておりまする現在におきまして、終戦前にわれわれが見られなかつた幾多の現象が起る可能性があると思いまして、なお裁判権問題は重要なものではないか、そこで先般も新聞に発表せられましたように、外国の軍人が日本の青年を朝鮮に連れて行つて、その青年が朝鮮で戦死するというようなことが起る。あるいは――これは、私は、本日たまたま外務の当局及び法務の首脳の方々がおいでになりまするからお尋ねしたいと思うのでありますが、外国のある機関が日本人を軟禁しているような事情がありました際におきましては、わが日本国民としてはどういう手続でこれが救済をすることができるのであるか。なお、たとえば人身保護法の第二条には「法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる。」というのでありますが、相手が外国の機関であるとする際に、――これは仮定であります。仮定でありますが、あるいはこれは現実になるかもしれません。そういう所に軟禁せられておる者があるとする場合に、この人身保護法が外国の機関にまで及ぶのであるかどうか、われわれは日本の国家機関のいずれへ訴えて出て、いかなる手続でもつてそれを救出することができるのであるかどうか。さような点について、刑事局長あるいは条約局長、あるいは人権擁護局長がおいでになつておりますので、ひとつ御答弁をいただきたい。
  75. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいま猪俣さんからのお話は仮定論でございますので、いろいろな場合が考えられると思うのでございますが、たとえば監禁せられておる場所が向うの軍の中であるとか、あるいは大公使館であるというふうな外交上あるいは国際上の特権を持つた場所であります場合には、本人がそのことを何らかの方法で外部の人に連絡をした際に、外交折衝その他で交渉することになろうかと存じます。それからもし一般私人のうちでさようなことが行われておりまするとすれば、それはただいま御指摘の人身保護法上の関係もございましようし、また刑法上の問題といたしましては不法監禁というふうな犯罪現行犯になるわけでございます。さような場合は、事案のいかんによりましては、あるいは緊急逮捕、あるいは現場に臨んで証拠保全その他の手続もできる、かようになろうかと存じます。その他事をわけて考えますといろいろな場合が考えられるのでありますが、大別いたしますとさようなことになろうかと存じます。
  76. 猪俣浩三

    猪俣委員 これも現在の状態において、私本日は仮定論として申し上げておるのであるが、ある外国のある種の機関が日本人をある個人の家に軟禁しておる。軟禁する主体は外国のある機関であるが、その場所は個人の家であるという場合におきまして、これは結局外交交渉向うにかけ合うという以外に日本の警察権の発動というものはないものでありますか。
  77. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいまのような設例でございますると、おそらくその機関なるものが向うの公のものとして認められた、つまり外交機関として認められた機関じやない、以外のものだと存じまするので、さような場合には当然こちら側の警察権なりが及ぶ、さように解釈してさしつかえないと思います。
  78. 古島義英

    ○古島委員 同僚諸君の質問でありましたが、私にはさらに了解のできないところがある。条約局長の先ほどのお話で、犯人を引渡すときの了解事項の中に、向う軍事裁判に立会いをするというのであるが、立会いというのは、立会いでなく傍聴だけではないか。立会いであるというならば、どういうふうな形式の法廷構成でどういうふうな立場の仕事をやるのか、その点を承りたい。
  79. 下田武三

    下田政府委員 立会いと申しますのは、向う裁判自体に関与するものではございません。ただ公正妥当なる手続によつて裁判が行われるかどうかということを監視するために立ち会うだけであります。
  80. 古島義英

    ○古島委員 監視をするというと、傍聴よりはさらに強いわけですね。法廷でどういうふうな構成になつて日本人が外国裁判を監視することができるか。監視するならば、もし違反があるならば発言しなくてはならない、発言することができるのか。単純な傍聴か、監視か、明瞭にしてください。
  81. 下田武三

    下田政府委員 その意味では単純なる立会いでございます。向う裁判自体に影響を及ぼすことは、裁判の途中で発言をしまして、どういうふうにとりはからえという指示もなすことはできません。もし申し入れることがあるとすれば、黙つて監視しておつて、あとでそのことを先方に指摘する以外に手はございません。
  82. 古島義英

    ○古島委員 今の単純な立会いというその立会いがわからない。単純な立会いは単純な傍聴にすぎぬのではないか。ただ傍聴を許されたというだけで立会いじやない。いやしくも法廷を開いて、その法廷に立ち会うというならば、いわゆる監視するというならば、何かの発言権がある。黙つて聞いておいてあとで文句を言うだけという、そんな立会いというものがあるものか、単に傍聴を許されたにすぎない。この点は明瞭にしておいてください。
  83. 下田武三

    下田政府委員 英語ではオブザーヴアーという言葉を使つております。これは、日本が国際会議にまだ正式のメンバーとして入れられないときに、発言しないで、また投票しないで見守つてつたときにオブザーヴアーという字が使われましたが、今度の場合もオブザーヴアーでございます。これは監視人とすれば日本側には非常に納得が行くのでありますが、先方は監視されるというような字句はなかなかのみ得ないし、事実オブザーヴアーでございますから、その通り立会人ということにいたしております。
  84. 古島義英

    ○古島委員 幾度繰返しても同じですが、とにかく、外国の連中には頭から迎合することのみを考えているあなた方に監視などができるものではない。実際から言うならば、黙つて聞かせてもらうというにすぎぬ。こちらが三拝九拝してようようその傍聴を許されて、軍事裁判の一部の席を得て黙つて聞いているというだけだ、こんなことでこちらの重大犯人を引渡すというようなことがどうしてできるか。しかもあなた方は、裁判が軽ければこちらへまた引受けてこれをやると言う、しかもこちらでまだ起訴しない。強盗というような重大事件があるにかかわらず、なぜ起訴せずにそのまま向うへ引渡すか、しかも英米法で、むろん同一被告人が再び同じ危険にさらされないことになつている。しからば控訴さえ許さないというような意味合いになつて来るのだが、それを、一ぺん片方の軍事裁判判決を言い渡して、それが軽いの重いのということでいいかげんに判断して、軽いからこちらで起訴するという、さようなことができますか。もしそのときに一事不再理というような抗弁が出たらどうする。これは一ぺん罰せられたのです、軽かろうが重かろうが罰せられたのです。こういうことになつたらどうにもならぬから、そこでこちらは先に起訴しておかなければならぬ。起訴もせずにそのままにうつちやつておいて、こちらは裁判権があるのにその裁判権行使しない。裁判権がもしあるならば起訴をいたし、向うは重かろうが軽かろうがこちらはやる、こちらの法律で、こちらの裁判所で、こちらで罰するというくらいのかたい決心がなければとうていできるものではない。重いの軽いのと言うよりも、今の同一被告人が再び同じ危険にさらされないというような抗弁が出て、そうして一事不再理と言われたらどうなるか、そのときに無理に引渡し要求しますか。そこを承りたい。
  85. 下田武三

    下田政府委員 私は外務省の人間で専門的なことはわかりませんが、刑法第五条は、日本側が再び裁判することを妨げないものであるというように伺つております。また仮定の場合でございますが、もし了解に反した事態が起りましたらば、当然外交交渉で強く申入れをすべき筋合いと考えております。
  86. 古島義英

    ○古島委員 神戸事件で出たように、あるいは酒を飲んでおつたとか、改悛の状が著しい、そこで執行猶予にして一向さしつかえない、こういう甘い考えを持つておるのです。そこで日本の刑法では強盗をした場合にこれは五年以上の懲役に処せられるということが明瞭に書いてある。ところが五年以下で、これは二年なり三年なりになつて執行猶予になるそういう場合には、日本裁判権行使いたしませんか、しますか。そこはどうですか。
  87. 岡原昌男

    岡原政府委員 先ほども申し上げました通り一つ事件に対する物の見方というのはいろいろあるのでございまして、たとえば一つの同じ犯罪事件が、一審において懲役十年を言い渡され、二審においてそれが三年になつた。あるいは逆に一審において軽いのが、検事控訴で非常に重い刑を受けるということもあるわけでございます。さようなことは別といたしまして、私どもといたしましては、国民の大部分の人が、この程度であつたなら大体予想せられる判決のわくの中にあるというそのわくの中におちつきますれば、それでよかろう。ただもしそうでない場合には、さらにその際に考えて事を処理するということは、先ほど田万さんからの御質問でお答えした通りでございます。ただいま一事不再理、あるいはダブル・ジエパデイという問題がございましたけれども、本件のごとき場合におきましてはこれは当らないものと私ども考えておりまして、刑法第五条は、すなわちそれを許す趣旨だ、かように考えておる次第でございます。
  88. 古島義英

    ○古島委員 そうではない。実際正直に言えば、向う引渡してしまつたので、その引渡したことがあまりに不合理な引渡し方をした。しかしながらこれが日本国民に何と映るであろうか。まずごまかすのには、裁判権がこちらにあるのだから、軽ければまたこちらへ連れて来て罰するのだ。こういうあなた方はいいかげんなつくりごとをするので――この事件は、今私はお断りいたしておきますが、重い、軽いというのは先ほどどなたか質問したように、これはあなた方の判断で行くのでしよう。しかしわれわれがあまりにこれは軽過ぎたと考えたところで、われわれいかんともするわけにいかぬ。軽過ぎたからやりなさいということを法務大臣に申し入れることもできない。そこで結局はこれは向う引渡しつぱなしで、こちらがやるようなことはない。必要ならばこちらにまた引渡してくれるというが、起訴もしないのにどこに必要があるか。再び調べるというが、二十九日までに全部調べ上げてしまつた。調べ上げてしまつたものが何の必要があるか。あるいは別の共犯者が別な犯罪でつかまつておるというのならこれは必要があるでしよう。ところが共犯者もみな向うへ行つておる。また二人の兵隊向うへ行つておる。そしてこつちに必要が起るということはないが、必要が起つた場合にはこちらへ引渡すという了解事項があるのだから、どうか黙つてつてくれというような腹であろうが、実際はあなた方はこつちへ再び引渡してもらうというようなことが仮想できますか。軽いから罰するというその意味だけでほかにないと思いますが、何かありますか。
  89. 岡原昌男

    岡原政府委員 法律的に事を考え、並びに事を実際的に考え、二つの面からお話いたしますれば、法律問題といたしましては、ただいま申し上げた通り、再起訴するについては何ら問題がない、かようにわれわれ確信いたしております。この点に関連いたしましては、刑法第五条に関連する最近のいろいろな判例もございまするし、問題がないと確信いたしております。事実問題といたしましても、たとえばこの事件に対しまして軍法会議が非常に軽い刑を言い渡したというふうな場合には、われわれとしてこれを黙つているわけにはいきませんので、今回の引渡しの際にとりかわしました文書に基き先方に対して厳重に身柄の再出頭を要求する、さようなことになろうと存じております。なおさような際に起訴しておかなければ身柄の出頭を要求する必要がないじやないかという御議論でございますが、刑事訴訟法によりますれば、公判には被告人は在廷しなければならぬ、出頭しなければならぬというふうなことになつておりますので、起訴の結果といたしまして当然在廷を必要とする。従つて身柄はこちらに出て来てもらわなければならぬ、かようなことになると思います。
  90. 古島義英

    ○古島委員 起訴をする考えがあるかないかを私は確かめたい。あなた方は軽ければ起訴をするが、相当なところならば起訴をしないというのだが、起訴をしておいても、あるいは起訴の取下げができるでしよう。もしくはまた公訴の放棄もできるでしよう。ところが起訴もせずにおいて、そのままで向う引渡してしまうのでは、何のために取調べたか。今後起訴をするつもりで取調べをしたのだというが、しからば起訴をしておいて、向うへ引渡せば、こちらに起訴があるのだからというので、あまり軽ければ引渡しを請求するのが正当じやないか。これだけの強盗事件というような重大な事件で、起訴もせずにそのまま引渡すということは、あまりに甘い考えだと私は思う。どうか本日の答弁を忘れずにおいて、起訴をするか起訴をしないか、私らこそ監視しますから十分御活動願います。
  91. 岡原昌男

    岡原政府委員 先ほども法務大臣からお答えしました通り、私どもといたしましては諸般傍証を全部とりそろえまして、何どきたりとも向う側の措置をまつて起訴ができるというふうな証拠がそろつております。従いまして、国際礼譲に基き一旦身柄引渡したわけではございますが、向う裁判の結果とにらみ合せまして、刑法第五条の精神にのつとり、その必要な場合には必ず起訴する、かように考えている次第でございます。
  92. 後藤義隆

    ○後藤委員 法務大臣にお伺いいたしますが、先ほど委員長より前回委員会のその後における状態について法務大臣報告を求められたのでありますが、日本側において逮捕されました二人については取調べを一応終つて条件を付して相手方に引渡したということの先ほど報告がありました。これは大体了解したのでありますが、日本側に逮捕されなかつた、エビス・キャンプに逮捕されておつた被疑者は、日本法務省から引渡しを求めたというふうに先日はお話があつたのでありますが、その点は引渡しをされたのかどうか。相手方が日本要求に対して引渡しを実行したのかどうかということを伺いたい。もし相手がこれに対して引渡しに応じなかつたといたしましたならば、独立国であるところの日本の国権と申しますか、日本立場を無視した行為であつて、友好的関係にあるというふうには考えられない。その点は一体どうでしようか。
  93. 犬養健

    犬養国務大臣 お答え申し上げます。今の御質問のごとく、エビス・キャンプに勾留中のシンクレアという兵隊に対して身柄引渡し要求いたしました。ところが先方はこの犯罪の前に重要な犯罪をやつて取調べ中であるから、ひとつ御苦労だがこつちへ来て聞いてくれないか、そのかわりあなたの方でつかまえている二人についても関連の尋問をそつちへ行つてやるというような話合いになつたそうであります。従つて双方とも同じような形でもつて双方へ出張して調べつこをした、さよう御了承願います。
  94. 後藤義隆

    ○後藤委員 もう一点お伺いいたしたいのは、相手国判決の結果を見て、軽ければさらにこちらの方から引渡し要求するというような先ほどからのお話の趣旨のようですが、判決の結果いかんということももちろん考慮のうちに入れる必要があるが、それよりも現在のごとく非常に同種の犯罪が多くて、一日に三件も駐留軍関係犯罪が行われておるような現在においては、判決の結果を見るまでもなく、現在の状態においてはやはり日本でもつて裁判をする必要があるのではないか、こういうように私は考えるが、この点についてはいかがでしようか。
  95. 犬養健

    犬養国務大臣 これにはいろいろお考えもあることと存じます。私ども吉田書簡並びに第二清原通達の線に沿いまして、ある条件を確保した上は、身柄を相手に渡すという原則沿つて処置をいたしておるわけであります。
  96. 後藤義隆

    ○後藤委員 重ねてお伺いしますが、身柄はたとい相手方に引渡したといたしましても、先ほどから他の委員がしばしば申しておりますように、相手の裁判をまつまでもなく、まず日本側において裁判をする必要があるのではないか、こういうように私は考えますが、その点はどうでしようか。
  97. 犬養健

    犬養国務大臣 その点はしばしば申し上げることでありますが、吉田書簡の線に沿いまして、裁判管轄権を確保し、いつでも一定の起訴ができるという状態にまで取調べをいたした上は、四十八時間以内になるべく引渡すというのでありますが、その四十八時間はあえて無視いたしまして、十分取調べのつくまでは四十八時間をはるかに越えてもしかたがない、こういうことでやつたわけでありまして、要するに再び身柄をこちらにもらつて起訴ができるだけの根拠をつくつた上で相手に身柄を渡すという吉田書簡の線に沿つたわけでございます。
  98. 後藤義隆

    ○後藤委員 実は私の今お伺いしておりますのは、引渡したこがよいとか悪いとかいうのではなしに、一旦引渡したもではあるが、現在は非常に駐留軍関係犯罪が多いから、やはり相手の判決の結果を見るまでもなく、現在のような情勢下においては日本でまず引渡しを求め、日本裁判所において裁判をする必要があるのではないか、私はこういうように国務大臣の所信を伺つておるわけです。
  99. 犬養健

    犬養国務大臣 これは結局、裁判管轄権の確保と同時に、われわれが頭に置かなければならない国際慣行あるいは国際礼譲、この三者を勘案いたしましてこの処置に出たわけでございます。
  100. 古島義英

    ○古島委員 私ちよつと承るのを忘れましたが、向う軍事裁判が軽くて、こつちへ引渡しを求め、そしてこつちでまた判決をするというふうなことにかりになるとすれば、どちらの判決に既判力がありますか。こつちの判決を執行するのか、両方判決を執行するのか、伺つておきたいと思います。
  101. 岡原昌男

    岡原政府委員 この一時不再理あるいはダブル・ジエパデイという問題は、同じ裁判権のもとにおける問題でございまして、裁判権根拠たる国法が違う場合におきましてはその問題は生じないわけであります。さればこそ先ほどから申し上げました通り、刑法第五条というような規定も置かれてあるように承知いたしております。なおこれに関連いたしましては、刑法第二条、第三条、第四条の辺にも同じような精神のもとに書かれた条文がございまして、このような場合には、それぞれ外国において一旦刑の執行を受け、また国内にもどつて来て国内で処分を受ける、あるいは日本国内外国軍事裁判を受けて、その執行を終つた後にこちら側の裁判の執行を受けるというようなことがあり得る、その場合にどうするかという調和の規定が、この第五条の但書で「刑ノ執行ヲ減軽又ハ免除ス」というように調和をとつてあるわけでありまして、それぞれの判決をして執行が行われる。これは現に前例で申しますと、四月二十八日に軍事裁判によつて確定し、日本国内で刑の執行をされておりました多くの者たちが、講和発効後再起訴されまして、たしか五月末で三十七名ほど起訴になつておりますが、それが第一審判決を受け、さらにこちらの裁判の効力として目下執行されているというふうな実例もあるのでございまして、この点は最高裁判所以下各裁判所も一致した見解のもとに取扱つているように承知いたしております。
  102. 古島義英

    ○古島委員 そういたしますと、たとえばこちらが考えるのは五年くらいの判決を言い渡されることが正当だと思つたときに、向うが二年の判決を言い渡したというときには、こちらは三年くらいの求刑をして、両方合せて五年というようなことになるのですか。それともこちらが初めから五年くらいが正当だと思うから五年の刑を求刑して、五年の判決になる、そうして向うではすでに二年罰せられて、こちらが五年ということになれば、七年罰せられることになるが、それはどういうふうなことになりますか。
  103. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点は刑法第五条をごらんになるとおわかりになると思うのでありますが、普通の減刑または免除の規定は、「其刑ヲ減軽又ハ免除ス」という文字が使つてあります。ところが刑法第五条におきましては、「刑ノ執行ヲ減軽又ハ免除ス」ということになつておりますので、求刑といたしましては、本来こちらの裁判所としてあるべき刑の求刑があり、裁判所としても、自分の方の裁判所では外国軍事裁判所なら軍事裁判所でいかような刑の言渡しがあり、それがいかように執行されたかということを考慮に入れずして日本裁判所として独自の裁判をしたらどうなるであろうかということをまず考えまして、それを主文に盛るわけであります。そしてその主文に但しをつけまして、但しこの刑の執行を幾ら幾らに減刑するというふうな形に主文がなるわけであります。
  104. 木下郁

    木下(郁)委員 まず法務大臣にお伺いいたします。今軍事裁判の方で受けた刑が軽ければこつちでまたやるというようなことを伺いました。この点について、憲法で、日本国民日本裁判を受ける権利が確保されている。一例を言えば、強姦とか名誉毀損とかいう犯罪の種類によつては、日本国民は自分が被告ではありませんけれども、告訴権を持つている。その告訴権を持つてつた場合に、今度のようなお取扱いをされることは憲法違反ということが一つ考えられる。なお今度の事件にしましても、警察官なんかが中に入つて損害賠償の手続をするというようなことが御説明の中にもあつたようでありますけれども日本の官憲が中に入つて損害賠償のことにタッチするということはあまりよろしくないと思います。そういう点については今度は被害者から民事訴訟が起り得る場合が予想される。そういうものには一体今度のような取扱いでできないようなことになるのじやないかというように考える。しかしながら向う裁判でもこつちが官憲でやるのだという趣旨からいえば、被害者から、親告罪の場合に、告訴が出た場合に、向う裁判の妥当か不当であるかということを問わず、こつちでもやれるのでありますか。その点をちよつと伺いたい。
  105. 犬養健

    犬養国務大臣 政府委員から答弁いたさせます。
  106. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいまのお尋ねの点でございますが、親告罪、つまり告訴権の所在あるいはその行使、この問題と裁判権の問題とはちようどうらはらでございまして、裁判権があるからこそその裁判権行使するための親告罪あるいは告訴権という問題が生じて来るのであります。先ほどから申し上げました通り裁判権の所在につきましては私ども少しも疑念を持つておりませんので、わが方にあり。従いましてわが方といたしましてはそれを前提とする諸般の捜査をいたすということになるわけでございます。従いましてその過程において親告罪でありますならば、告訴を待つて起訴という段階に至るわけでございます。もし告訴がなければ起訴はできないというだけのことでございまして、向う側に身柄が行つたからといつて、わが方に裁判権がない、あるいは放棄したということには、初めから申し上げました通り、全然なつておりませんので、従いまして告訴の問題はこれと全然別個に、今でも告訴権はあり、従いまして告訴が正常にとり上げられて、その告訴権に基き起訴ということもまたあり得る。かように御了承願いたいのであります。また民事の関係におきましては、刑事についてさようなたとえば身柄引渡しということが起りましても、別の問題でございます。これは少しもそこなわれない。かように御了解願いたい。
  107. 木下郁

    木下(郁)委員 その告訴権が完全に保護されておるというのは、やはり直接には刑法の規定でありまするが、その後には憲法の裁判を受くる権利、三十二条ですか、それに基くわけになりますか。その点をちよつと承つておきたいと思います。
  108. 岡原昌男

    岡原政府委員 この裁判を受くる権利ということをいかように読むか、なかなかこまかいところになりますると問題はあるようでありまするが、ただただいまも申し上げました通り、この告訴権の行使について、さような身柄が動いたということによつて裁判権の帰趨には影響しないという私ども見解でございまするが、結論的には身柄向う側に渡つたということをもつて告訴権は害されたものでない。かように繰返して申しておるのでございます。
  109. 木下郁

    木下(郁)委員 そうしますると、親告罪の告訴権より少し弱い被害者の告訴、それから第三者の持つておる告発権というようなものも、親告罪の告訴権と同じように理解してよろしゆうございましようか。
  110. 岡原昌男

    岡原政府委員 申すまでもなく、この告訴権あるいは告発権と申しますものはもつぱら刑事訴訟の運営についての条件でございまして、これは裁判権の所在という問題から切り離して考えるべきものと考えております。従いまして告発あるいは告訴というものがない場合でも、つまり非親告罪の場合におきましては当然起訴ができ、裁判権従つて行使ができるというふうな場合もございまするし、またこの親告罪の場合に、その告訴がなければ裁判所は有罪の判決を下されない。さようなことになるので、これはまつた裁判権そのものの問題とは別個に考えるべきものと存じます。
  111. 木下郁

    木下(郁)委員 裁判権の所在とは別個の問題、つまり日本裁判権ありという御見解のもとであります。それで早い話が今度の件につきまして身柄向うに引渡すと、向うでは軍事裁判をやる。一方でやつておるときに司法当局としてはその裁判の結果を待つてやろう。先般来いろいろ述べられたいきさつで、そういう取扱いをするという腹であつても、本件の被害者または第三者が告発をしたり、告訴をしたりした場合には憲法上の保護を受ける。憲法三十二条で保護される。裁判を受ける国民の権利という意味からしまするならば、待つも何もない。こつちでその方の取扱いを進めて行かなければならぬと私は考えるわけです。その点はどういうふうに当局としてはお考えになつておりますか。
  112. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいまの御質問で問題の要点がわかつたのでございまするが、要するに一つの告訴権なるもの行使した場合に、長いことうやむやのままに経過するのは、国民の告訴権なるものの行使を正当に取上げていないじやないかということになるのでございます。この点につきましては、ただいまもときどき問題に相なりまする告訴事件を警察または検察庁において取調べ中に、なかなか事件困難のために日が延びまして、結局その処理に長年月かかるという場合に、被害者の権利はどうしてくれるのかというふうな告訴権の問題とちようど似たような関係に立つのではないかと存じます。
  113. 木下郁

    木下(郁)委員 憲法上、われわれの新しい憲法で与えられた権利というものを第一に保護して行かなければならないと思います。さような意味犯人引渡した、向う裁判をやつておるというときでも、本件は親告罪でありませんが、本件について被害者から告訴があり、あるいは国民の中から告発があつた場合には、どしどし裁判の手続を御進行願いたい。  なお条約局長にお尋ねいたしますが、他国に駐在する外国軍隊に属人的な裁判権を認めるのは国際慣例だということが、今度のお取扱いなんかのやはり基礎になつておることを繰返し御説明を受けました。その国際慣例というのは双務主義の上に、相互に対等の、国と国との間での儀礼的な意味その他の双務主義の理念の上にできておるものであろうと思います。どうお考えになりますか。
  114. 下田武三

    下田政府委員 双務主義と申しますと、もし日本軍隊がございますれば、日本軍隊相手国におりまして、ちようどヨーロッパでイギリス兵隊がフランスにおり、フランスの兵隊イギリスにおるというような状態ならお互いに同じような特権を持つておるという事態が発生いたしますが、ただいまの日本国は憲法第九条で軍隊を持つておりませんので、そういう意味での双務主義は実現のしようがないと考えております。
  115. 木下郁

    木下(郁)委員 国際慣例の発生が、元来そういう意味でおのおの軍隊を持つた独立国の間で他国の駐留軍がおつた場合に、その軍隊に対しては属人主義的な裁判権を認める、これはもつともな筋でもあると思う。だがこのたびの国連軍との交渉にあたつて、私は先般岡崎外務大臣に、基本的な態度として、犯人引渡し問題に直接に関係はないけれども、戦争裁判の受刑者の人たちの釈放云々の問題について、その裁判自体国際法に違反していると思うておるなら思うておる、ただ条約にそのことが書いてあるというようなことでなくして、あの戦争裁判自体国際法違反なら違反という確信の上に立つておるか、それともあれは新しく第二次世界大戦中にできて来た新しい国際法の上に立つた適法の裁判だという観点に立つておるかということを伺いました。その点についてははつきりした答えがありませんでしたが、今度の国連軍と今御折衝になつておる際に、日本は双務主義といつても、今度の日本との関係では、今あなたがおつしやつた通り日本は憲法上軍隊を持たない、今後もない。さような立場であれば、これを双務主義という観点からいえば、日本としては非常に片務的なものになる。片寄つたことになる。その点を相手国に極力主張して、それを理解しないような相手国考え方があるならば、これははつきり修正してもらわなければ、国民が納得しないと思う。さような意味で、あなたもやはり外務大臣と一緒にその折衝には御参加なすつておると思いますので、そういう問題をやはり日本として主張すべき新たなる裏づけの一つ根拠として、極力主張していただきたいと思うし、現にいただいておることと思いますが、おやりになつておるかどうか伺いたいと思います。いろいろ日本主張する根拠がありまするが、その点を日本だけの持つている特別な新たなる事情の一つとして御主張になつておるかどうか。それを伺いたいと思います。
  116. 下田武三

    下田政府委員 現在軍隊を持たない日本としては、まつたく一方的に先方に認める特権であり、フエイヴアーであることは常に言つております。それに対して先方は、それは少し身がつてじやないか、日本軍隊を持つてつたときの日本軍隊特権を見なさい、満州国や支那において日本国軍隊に単に日本人のみならず、満人、支那人までも裁判しておつたじやないか、かつてもつと大きな軍隊特権を持つて行使しておつた日本が、一たび軍隊を持たなくなると、そう言うことはあまりにも身がつてじやないかということを先方はその都度申します。結局双務主義という論拠はあまりわが方としては有力な武器ではないように認めておりますが、NATO協定も実はアメリカやカナダから見ますと、一方的にヨーロッパで受けておりますので、ヨーロッパ軍隊がアリメカ、カナダの方には行つておりませんので、必ずしもNATO協定の不便が双務主義の上から出ておるというようにも解釈ができないと思います。
  117. 木下郁

    木下(郁)委員 その点をあまり強く主張しても向うが聞かぬ。といつて日本立場からいえばこれがやはり一番通りのいい、また国民も一番この点は主張したい点であります。どうかひとつこの点は十分お含みになつてつていただきたい。  なお刑事局長に一点だけこまかいところをお聞きしておきたいと思います。具体的に問題になつておる今度の英濠兵の強盗事件、これは向うでやつている軍事裁判判決が妥当であれば起訴はしないという御方針でおりますか、その点だけ伺つておきたいと思います。
  118. 岡原昌男

    岡原政府委員 先ほども申し上げました通り、その妥当であるかどうかという点につきましての判断はかなりむずかしいものがあるだろうと存じます。従いまして妥当ならざる結果があつた場合にはこちらで再起訴をする決心であるということを申し上げている次第であります。
  119. 石川金次郎

    ○石川委員 木下君の質問に関連してお尋ねいたしますが、それでは適当妥当と思われる裁判があつたならば起訴せられぬのか、これをお聞きします。どういう場合でも、重かろうと軽かろうと、起訴権は放棄したのではない、裁判権は放棄したのではないのだ、刑法の五条があるのだからそれで向う裁判と見合いながらなお裁判をやるのだ、こうおつしやるのか。先ほどから向うが軽ければやる、重ければ何とも言わない、もしくはこつちから見て重いならばそのままあなたの方では起訴しない。こういうお考えか。かりに重かつた場合にはどうか。
  120. 岡原昌男

    岡原政府委員 石川先生のお話でございますが、かりにというまくら書きのついたまま考えますと、かりに国民のだれもが納得するような裁判であれば、さらにこの裁判に対してもう一度似たような刑を加える必要もなかろうかと存じます。
  121. 石川金次郎

    ○石川委員 そのお考えですと、起訴する。お考えもないし、裁判する必要もない、こういうお考えですか。
  122. 岡原昌男

    岡原政府委員 刑法の第五条をお読み願うとわかるのでございますが、こちらの裁判所において刑を言い渡したであろうというふうな刑があちらですでに執行を終つたというふうな場合においては、「執行ヲ減軽又ハ免除ス」ということが書いてございます。その精神は、要するに先ほど古島先生からお話のございました二重起訴という問題が――たといそれが法権的には二重起訴の問題にはならぬにいたしましても、国際正義あるいは刑の権衡というものを広く見るという立場からすれば、やはり古島先生のおつしやるような問題が起るのではないかというのが、刑法第五条において調和を設けた趣旨と考えております。従いましてさような場合におきましては、さらに起訴する必要のない場合もあり得るものと、かように存じております。
  123. 石川金次郎

    ○石川委員 それでは適正妥当な裁判権があつたならば日本裁判権行使しなくてもいいというお考えを持つて問題を処理せられている。こうわれわれ考えておつてよろしゆうございますか。
  124. 岡原昌男

    岡原政府委員 裁判権行使ということをいかような意味でお使いになつておるか知りませんが、私たちといたしましては裁判権行使というものは単に観念的に起訴するとか、裁判があつたとかいうふうな問題ではないのでございまして、もしこれを単に裁判権行使という問題で事を処理するといたしますれば、抽象的には、たとえば極端には裁判権のない事件について起訴いたしましても、裁判権行使されて一つの判断が下るわけであります。さような極端な例は別といたしましても、一つ事件について判断がいろいろ下された場合に、その一つの判断が国際的な視野に立つて必ずしも妥当でないという場合には、あらためて考える余地が出て参るわけでございまするが、それが妥当であるといつたような判断が下された場合においては、やはり刑法がとつておるところの大きな立場を尊重して事を処理するのが妥当であろう。これは裁判権行使するあるいはしないという問題ではないのでありまして、具体的な事件についてただ起訴しないというふうにお答えいたしておけばはつきりいたすかと存じます。
  125. 石川金次郎

    ○石川委員 それでは妥当な裁判軍事裁判で相手方からあつたという、そういう実例があれば起訴はしない。それは起訴をしなくても、起訴をするだけの目的は達したから起訴をしなくてもよいという情状があるのだ、こういうことで本件の場合はおやりにならないというお考えでやつておるわけですね。結局は跡始末は向うに渡しておいて裁判ができない。向うまかせにするという巧妙な道を行つておるかに思われますが、そういうお考えではございませんか。
  126. 岡原昌男

    岡原政府委員 この点は先ほどからくどくど申し上げております通り、私どもとしてはかたい決心をもつて臨んでおることを御了解願いたいのでございます。
  127. 古屋貞雄

    ○古屋委員 大分時間が経過いたしましたから、四点だけダブらぬような点について御質問いたします。これは外務当局法務当局。  第一に神戸の水兵事件と本件の英濠兵事件に対する取扱いが異なつておりまするが、その理由を明確にしていただきたい。これが第一点。  それから第二点はシンクレア被疑者を日本法務省において引渡しを受けずにその状態に置いて。それから現在刑事裁判権におきまして国連と日本がこれに対する協定の進行中であるというこの事実、特に国連軍においては日本には刑事裁判権はない。新しい国際慣行において日本には刑事裁判権はないという主張を極力しております。それからなおただいまの刑事局長の言葉じりをつかまえて申し上げるのではありませんが、満足の行くような裁判があるならば起訴しない。かようなお考えにおいて二人の被告を国連軍引渡してしまつたという、かような関係から考えまするならば、すでに今後の国連軍との刑事裁判権交渉にあたりまして、真意は、国連軍にゆだねて日本にはこれを主張する気持がないというような関係、並びにさようにわれわれ国民全体も考えて従来の岡崎外交の軟弱であつた事案に徴しましても、国民は非常に杞憂を持つものであります。はたしてかようなことになりまするならば水兵事件の当時における厳然たるわが国の刑事裁判権を放棄したという結果になるのでありまするが、さように考えていいかどうか。  それから第三の問題は清原通達におきまして、検察庁がしきりに外国の将兵に対する犯行に対する捜査をまじめにやつて参りますが、今回のようなことがしばしば行われますならば、まじめに第一線の捜査官は捜査にかかれなくなるということになると思いますが、さようなことになりまするならば、われわれ国民は現に頻繁として起つておりまするところの国連軍のわが国内における犯罪に対しまして、われわれ国民は安心して生活ができないという結果になり、国民大衆は日本の国権に対する信頼を失う。その結果重大なる問題を国内に引起すおそれがあるとわれわれは考えます。これは法務大臣に承りたいと思つておりましたが、これに対する法務大臣の明確な御答弁。  第四は、これは簡単なことでございまするが、前会までの委員会におきまして、法務当局並びに外務省は、吉田書簡を受けて清原通達が出ておるというようなことをおつしやつておりまするが、その根本において取締りの対象となるべき点において相違があるのですが、この点はどういう理由かということをお尋ねしたいのであります。たとえば清原通達におきましては単に将兵のみが対象になつている。ところが吉田書簡によりますと、将兵並びに軍属その他家族ということになりまして、取締りの対象が異なつておりまするが、これはいかなる理由によつて異なつたのかこの点を御説明願いたい。
  128. 岡原昌男

    岡原政府委員 神戸事件と本件との取扱いの差が実際に出て来ました実情は、先ほど神戸事件につきましては簡単ながら御説明いたしました通りでありますが、さらにその身柄の点につきましては次のような事情があつたことを付加いたします。  それはちようど逮捕されました六月二十九日に、こちら側の警察が逮捕する際に英国側のSPと申しますか、シヨア・パトロール、ちようど憲兵のようなものでありますが、それがおつたのであります。現地ですでに身柄のやりとりについて一応の話がついたような形で事件が警察に送られ、検察庁に送られたというようなことがあつたのであります。さらにその後起訴しました際に、これは言葉のやりとりに若干の違いがあつたのでありますが、検察庁から神戸の領事館に起訴の旨を連絡いたしましたところが、了承したというような返事をもらいましたので、中央にその旨を打電して参つた次第であります。それで先ほど申した通り事が大きくなつて外交折衝の軌道に乗つた、七月八日に至つて初めて問題になつたということなのでありまして、吉田書簡の線、清原通達の線から申しますと、あの事件についてすでに現地において身柄裁判権の問題についてはわれわれ疑念を持つておりません。これは問題にしないのでありまするが、身柄措置について現地で話がついたというふうに了解をいたしたわけでございます。その後あちら側から七月八日に書面が来るに及んで、外務当局といたしましても、中央の大使館からその旨の話があり、法務省におきましても初めて現地で十分の了解が遂げてなかつたのだということがわかりまして、それが初めて吉田書簡の第四項が動いて来たわけであります。従つてその後の経過は協議はしたけれどもととのわなかつた。しかも身柄引渡しについて努力はしたけれども、当時裁判所で身柄拘束中で保釈の問題にならなかつたというような日本側政府態度は一貫したわけであります。ただ先ほども申しました通り、この神戸事件につきましては、ざつくばらんに申しまして、ただいま言つたような諸般の事情からして若干の行き違いがあつた。つまり身柄を最初確保した際に、これがどちらでどういうふうに引取るかということについて現地の方は十分中央との連絡もなし、また言葉の行き違いもあつたらしく了承を得たものとして処理しておつたのであります。中央といたしましても、当時外務省にも大使館から何とも言つて来ない。またわれわれとしても外務省から何とも言つて来ない、それでわれわれと外務省でこの事件はこれで治まつたのだろうかというようなことで何げなく数日間たつたわけであります。そういうような事情でございまして、七月八日に至つたとかように御了承願いたいのであります。  今度の英濠兵事件におきましては、この十一月二十一日に事件が起きたのでございますが、この兵隊たちが逃げたのがその前日の二十日でございます。エビス・キャンプから逃げ出しまして事故を起したということで、ただちに向う側から正式の外交ルートを通しまして逃げたやつがあるが、ひとつつかまえてくれ、日本側でつかまえたらこちらにお渡し願いたいというふうな手配書が参りました。その後警察でつかまりましたが、こちらとしてはこちらの裁判権主張し、かつ取調べのためにどうしても身柄釈放できないというような立場をもつて終始しておつたわけでございます。で先ほども申し上げた通り調べが進行したわけでございますが、一方検察庁の調べが済みました上はこちらとしていずれかの態度をとらなければならない。そこで先ほど申しました通り本件につきましては、神戸事件において問題が提起され、そうしてそれが裁判の形で解決されたのに比較いたしまして、今度は国際礼譲というものが真正面から取上げられて、当初から問題になつたというふうなことでございます。従いまして、その軌道に乗せて事件が運んだというふうに御了承願いたいのでございます。これをもう少し砕いて申し上げますと、あちら側からこうこういう人間が逃げたというふうな書面が参りまして、私どもの方といたしましては、警察からつかまつたという報告を受けました際に、これは別に向うの方が先に事件を起しておるから向うに渡すというようなことにはならぬけれども、とにかくそういうような筋が一つある。つまり向う側に因縁をつけられる節が一つあるという感じを受けたのであります。これを国内法的に申しますれば、例の指名手配が警察同士でかわされました場合には、手配庁がその後に身柄をどこからでももらえることに警察同士のとりきめができております。たとえば東京犯罪を犯しまして指名手配がございます。そうすると、たとえば大阪でその逃げた人間が別の重大な犯罪をいたしましても、東京なら東京の警視庁がこれを引取つて処理するというふうなことに相なります。これは一つ国内慣習でございますが、といつたような似たような関係がやはり国際法的にも考え得るのではないかというふうなこともございまして、それやこれやでかような取扱いになつた。いずれも清原通達並びに吉田書簡の線に沿うて処理した、かように理解しておるのでございます。  御質問の第二点でございますが、今度の事件においてわが方が裁判権を放棄したということは全然ございません。またさような考えのもとに処理したものでもございません。先ほど法務大臣から繰返し述べました通り、わが方としては裁判権行使をなし得る調べを十分いたした上で処理した次第でございます。  お尋ねの第三点でございますが、かようなことがあると、後日警察または検察庁において事件をまじめに捜査しなくなるのではないかというふうな御心配でございますが、現在私どもといたしましては、警察並びに検察庁に対しまして、かような事件はわが方に裁判権があるし、事件のいかんによつてはわが方はいつでも起訴できるのだ、ただ国際礼譲との兼ね合いで、国連協定ができない間は個々の事件ごとに、いろいろな問題は生ずるにせよ、全部その建前でやつておるからして、十分調べをするようにという指令をしておりますので、その点はさような御心配はないものと存ずるのでございます。  お尋ねの第四点でございますが、清原通達考え方は、前会清瀬委員からお尋ねのありました際に申し上げた通り、私どもといたしましては、当時吉田書簡なるものがあちら側に出されたということについて国際慣例上これを公にすることはできない、さようなことからいたしまして、その精神を部内に流す際に、これをどのようなものでやるかというようなことになつたのであります。その際、前回の五月十七日の清原第一次通達が出ておりますので、この清原通達と著しく違つた線でありますれば、当然吉田書簡というものが中にはさまつているということを言わざるを得ない。さようなことになりますと、国際儀礼上これはたいへんなことになるというふうな建前を尊重いたしましてこの五月十七日の線と五月三十一日の吉田書簡、それからこれの流れ出るところを六月二十三日の通達というものでなるべく近い線でまとめようとしたのでございます。そこでただいま御指摘の家族の点でございますが、この点につきましても、私どもといたしましては、当初吉田書簡の第一項に、将兵、軍属並びにその家族については云々ということは、国際公法の原則によると書いてございますが、憲法第九十八条によつて確立された原則というものは、この家族の点ははつきりしていない。むしろそういうものについて裁判権をあちら側に認めるというふうな前例は乏しいというようなことから、この吉田書簡に関する限り家族というものは国際公法上そう大して意義がない、かように読みまして、これをその趣旨に準じて読んで行つたわけであります。そこで先ほど御指摘のようなことになつたのでございます。つけ加えて申し上げますと、あの通達は検事長あてでございまして、検事長においてこれを十分頭の中に入れて処理していただきたいという趣旨でございますので、この線に沿うて従来も処理して参りましたし、またこれに加えまして外国人の一般事件につきましては、会同の都度あるいは何か事件のある都度十分下部機構にわれわれの考えているところを到達させまして、その処理については十分中央連絡の上遺憾なきを期せられたいという趣旨を申し述べてございます。現にその当時、国連軍の家族というのはおそらく四十五、六名であつたと思いますが、子供を入れましてその程度のものようない状態においては、その点についての問題も特に起るまいというふうな観点からさようなことになつたのであります。
  129. 古屋貞雄

    ○古屋委員 第一点でございますが、そうすると、神戸事件のごとき取扱いをすることを原則として法務省は主張しておるのですか、それとも今回の英濠事件のような取扱いを国際礼譲として、これを原則として取扱うという御意見ですか、その点が一つと、それから第二の点でございますが、結局結論は条件付放棄というようなことになるのですか。われわれはさように承知いたします。そうしますと、結局法務省の御主張並びに外務省の公式の国内においての主張は、いかにも強がりをしておりますけれども国連軍との交渉においてはすでにそれと最も異なつた結果を引起しているというこの食い違い、これに対しまして、国民から考えまするならば、いかにも欺瞞されているような感情を持つ。でありますから、今後外務省なり法務省は、特に外務省におきましては、今後徹底的に、岡崎外務大臣がさきに委員会主張されました日本に刑事裁判権があるという基本線だけは絶対に譲らないという御決心で今後もこの裁判管轄権に対して主張し貫くかどうか。その場合に、国連軍主張と食い違いまして協定ができない場合には、現状のままにおいてこれを主張する勇気ありやいなや、御決意ありやいなや、この点が一つ。  それから第三の点でありますが、もちろん法務省のお考えはさようでありますが、法務省の命令に基いて、下級の捜査官がまじめにやるかやらぬかという問題は、御命令がありまするならば捜査をいたすかもしれませんけれども、これらの捜査の手心、捜査の仕方に対しまして、現在のような結果、状況におきましては、国民は信頼を持たないというおそれが深くあるのです。それに対して、ただいま御答弁のような一片の答弁だけでは、国民が納得行かないと思う。先刻も申し上げましたように、言葉じりをつかまえて申し上げるわけではありませんけれども国民並びに法務省が納得の行くような裁判は、一体いずれに基準を置いてきめるかということにつきましては、他の委員から申して、すでにるる御説明ありましたから追究いたしませんが、今後法務省並びに外務省態度について国民を納得させ、国民が信頼して国権に従うというような方面に導くこと自体が、本件におきましては重大な問題だと思うのです。その点につきましては、現在のような、適当な判決があるならば、起訴してさらに裁判する考えがないという先刻の御答弁で、はたして国民が納得し得られると思うかどうか。  それから第四の点でありますが、私の承りたいところは、部内におけるいろいろの命令あるいは会合おいて了解済みである、下部組織においてよく承知しておるというような御答弁でありますけれども、特に吉田書簡に基いて清原通達が生れたとするならば、何ゆえに明示される相手方が相違しておるか、これは単なる事務上の間違いであるか、それとも特に区別して厳格にいたすように清原通達が出たのか、この点も御答弁願います。
  130. 岡原昌男

    岡原政府委員 大体先ほどお答えした中に全部含まれておるのでございますが、神戸事件と本件とそのどちらが原則的な取扱い方か、私どもといたしましては、いずれも一つの前例として考えておるのでございます。それで個々一の事件が起りました場合に、それぞれ事件ごとにいろいろな外交渉が起るでございましよう。これは国連協定が完全にできていない現在としてはやむを得ないところでございます。従いましてその事件々々によりまして、その当時の状況、中央との連絡状況、領事あるいはこちらの検察の出先等の交渉のてんまつ等によりまして、いろいろと結論が違つて来ると思いまするが、私どもといたしましては、吉田書簡並びに清原通達の線でやつて行きたい、かように存じておる次第でございます。  第二の放棄の問題でございまするが、これは条件付のものではないかというお話でございますが、私どもはさようには考えておりません。これは先ほどからるる申し上げた通りでございます。  第三の、かようなことでは相ならぬ、国民の信頼を得るような捜査並びにその処理をしなければいかぬ、これはいかにもごもつともでございまして、私どもといたしましては、個々具体的な事件が起りました場合には、単に国連関係であるのみならず、ほかの一切の事件につきましても、検察庁の取扱いとしては、国民が納得するような結論を得なければならぬということをかたく確信しておる次第でございまして、本件につきましても、私どもといたしましては、私どもの最善を尽して処理したつもりでおるのでございます。  第四の点も先ほど申し上げました通りでございまして、この字句の読み方、つまり国際公法上家族がどういう取扱いをされておるかという問題から出た結論でございまして、先ほど御説明いたした通りでございます。
  131. 古屋貞雄

    ○古屋委員 あと一点だけ徹底したいと思うのですが、相手方の裁判が妥当だと考えた場合には起訴しない、かような御答弁がございましたが、それが今後の日本の刑事裁判権の国連との交渉に対しまして一歩譲歩したというような結果になると思うのですが、その点はいかがでしようか、御答弁願いたい。
  132. 岡原昌男

    岡原政府委員 先ほど外務省からも御説明いたしました通り、本件の取扱いにつきましては、これが国連協定の双方の主張に対して何らの害を来すものではないというような立場をとつておりまするので、この事件一つ一つどうなつたからということで、それが両方主張に影響を来すものとは考えておりません。
  133. 小林錡

    ○小林(か)委員 関連して簡単に、ただいまの御答弁によりますと、神戸事件の処理も、東京における事件の処理も、同じく吉田書簡の真意に合しておるものである、それから清原第二通達の趣意に沿つたものである、こういうふうにおつしやつておるのですが、私その点ちよつと理解しかねるので、お伺いいたします。吉田書簡の趣旨によりますと、簡単な一般事件原則として身柄先方に引渡す、それから特別重要な事由のある事件についてもある条件のもとにやはり身柄先方に引渡すということで、結局全部身柄先方に引渡すということに結論がなつておる。いかに裁判管轄権はわが方にあるのだ、こういうふうに言つておられましても、結局は身柄の処分について外交的に解決しようということであつて、いやしくも総理大臣の名前をもつた文書が行つておるのでありますから、刑事訴訟法その他いかなる法規の関係においても、総理大臣からの命令があるならば、いかに下級の検察官が強硬主張しても最後にはこれに従わざるを得ない。私は何と言われても実質的には裁判権を放棄したということになると思うのでありますが、そういう意味から行けば検事が身柄を拘束したならばすぐに上司に相談――検察庁法により個々の具体的の刑事事件に対しては検事総長に最高指揮権があるのでありますから、検事正、検事長を経て検事総長に指揮を仰いで身柄処置をなし、さらに外交当局を通じて犯人の所属国とも交渉してその上に起訴するかいなかをきめるのがマーフイーあて吉田書簡の本旨だと思う。しかるに二十九日に犯行が起り、検事は七月二日に取調べをし、犯行後わずかに三日たつてすぐに公訴を提起しておる。これで一体吉田書簡の趣旨に合しておると言えるでしようか。その間における「行き違い」、それは領事との交渉で言葉の上の行き違いか何かであつたと言われるけれども、もし神戸の水兵事件に対する取扱方が正当であつたといはれるならば、今後こういう事件を担当する検事によつて、上司の指揮を仰がないで独断で事件受理後ただちに起訴手続をし、外交当局に通報もせずにいても、なおかつ吉田書簡の趣旨に合い、清原通達の趣旨に合うといい得るのであるか、あなたのお話を聞くといかにもこれを肯定されるように見える。もし今回の処置がよくて、神戸事件処置が間違つておるというのならば、私は理解します。すなわち神戸事件の係りの検察官の処置が事実上、いかなる正当性があつたかわかりませんが、少くとも常識上外交儀礼としても相当丁重に扱わなければならぬという事件を、しかもあなたのいつかのお話では六月二十九日に事件があつて、七月一日に検事が初めて取調べをして翌二日に起訴しておるというのですから、はなはだ軽率のように思える。いわんや吉田書簡が出ておるにおいておやである。単に領事に問い合せるというようなことは従来、こんな書簡すなわち吉田書簡のようなものが出ていなくとも、また清原通達が出ていなくとも、事を慎重に扱うべぎ検察官として当然やるべきことでありまして、私はいかにも吉田書簡の趣旨というものが下の方の検察官に徹底しておらなかつたに相違ないと思う。であるから神戸の事件のやり方が間違つてつたとおつしやるならば私はわかるが、両方とも検事の取扱い方がいいというのでは、了解することができません。今後出先の検察官が、上司に対し何ら相談をせずして、すぐ公訴を提起して公判に送致するようなことがあつても、あなたの言われるように、これもりつぱに吉田書簡の趣旨に合う、こう言われなければならぬと思いますが、いかがですか。
  134. 岡原昌男

    岡原政府委員 先ほど神戸事件経過説明の際に申し上げました通り、あれは最高検察庁の指揮を受けて処理しております。神戸事件吉田書簡の線であり、それから今度の事件吉田書簡の線であるということについて御疑念を持たれるのは、ごもつともと存じますが、吉田書簡に載つておるという趣旨は、要するにこの吉田書簡の第四項の身柄処置につきまして、お読みを願うとわかります通り、「努力する」という文字がございます。吉田書簡はその性質上、条約として国会の批准を経たものではございませんで、これは国内的に拘束する効力は法律的にはないわけでございます。従いまして刑事訴訟法との優先の問題が起りますれば、刑事訴訟法が優先する。かような関係から、刑事訴訟法で許される限度においてこれは考えてやろうという趣旨によるべきものと、われわれは判断したのでございます。従いましてあの神戸事件につきましては、身柄がすでに裁判所に移されまして、勾留のあります最中に交渉が始まつたわけでございます。協議がそこから始まりました関係上、その協議が四十八時間内に整わなかつた、つまり保釈や何かで身柄が出るわけに行かなかつたというふうな、訴訟法上の制約を受けましたために、第四項の努力が長いこと実を結ばなかつた、こういうふうなことに御了承願いたいのでございます。
  135. 小林錡

    ○小林(か)委員 それは起訴されたあとで、身柄がすでに裁判所に移り、事件裁判所に移つておれば、もう総理大臣の力といえどもいかんともできないのは、司法権の独立性の当然の結果でありますが、私が申し上げるのは、検事が起訴する前に、たつた一日や二日の余裕しか置かず、外交交渉も重ねずに軽率にすぐに起訴してしまうということ自体が、すでに、清原場通達――吉田書簡はさらにゆとりのあるものですけれども、これら両者に反するものだといわなければならぬ。私は神戸の水兵事件と今度の東京事件の取扱い方が、両方とも正当で全然同じ趣旨だというあなたの答弁は、私も他の委員諸君と同じように理解することはできません。いやしくも吉田書簡というものの趣旨が下僚に徹底しておるならば、たつた二日や三日の間に起訴手続が終るということはすこぶる不当といわなければならない。今日普通の事件でも、二十二日は身柄の拘束ができる。その間に深思熟慮、捜査を十分にして、その上で起訴、不起訴を決定する余裕は十分にある。ことに外国の軍人であり、しかも海軍の軍艦に乗つて来ておるという国際公法の上から見ても、いやしくも法律を研究した人なら相当慎重に考えなければならぬ。それがいかにもあわてたようにすぐ起訴されたというふう思える。これでも吉田書簡の趣旨に合うというなら、これから先、そういう検事が方々に出たならば、吉田書簡の趣旨は没却されると思うがいかがですか。
  136. 岡原昌男

    岡原政府委員 先ほども申し上げました通り、この吉田書簡の趣旨を、その線に沿うて書きました清原通達は、これはあとで調べてわかつたのでありますが、神戸事件の発生する前に、神戸の方に伝わつております。従いましてその趣旨にのつとつて、神戸の地検といたしましては処理したものと存じまするが、先ほどの御説明の際に申し上げました通り事件が現行犯的に逮捕されましたすこぶる明白な事件でございますので、現地ではただちにその調べを終了した旨最高検に打電して参りました。高検を通じてたしか打電して参りまして、最高検の指示を仰いだのであります。従いまして、この事件について、現地の検事が独断でこれを処理したという事実はないのでございます。
  137. 小林錡

    ○小林(か)委員 そうすると最高検察庁すなわち検事総長の指揮のもとにこれは起訴した事件ですか。そう了承してよろしゆうございますか。―そうするとどうもますます責任の所在が大きくなると私は思う。同じ事件でありながら、一つの方は外交儀礼を尽し、一方の方はたつた一日か二日ですぐに起訴、不起訴を決定する、余裕は十分あるのにかかわらずやつておるということになりますと、検事総長にも吉田書簡の趣旨がどうも徹底しておらなかつたのじやないかと思われる。知つて検事総長が指揮されたとなれば、ますます事は重大です。とにかくごの吉田書簡というものは、軟弱外交とか、かなり非難を受けてもしかたがないと思えるような書簡でありますが、幸いにしてこれはまだ効力を発していないで、単に政治的、道義的の責任だけが残つておるという程度だから、まだいいと思いますけれども、どうも外交上における公文というものが、検事総長にも徹底しておらなかつたからそんな結果が起つたのじやないかというふうに私は懸念される。いやしくも一国の検察事務を総轄しておられるところの検事総長が、外国軍人に対する刑事事件を、警察が逮捕して事件を送致してから検事がたつた一日だけ調べて、二日目に起訴する。慎重に外交交渉もせず、しかも最高検察庁の指揮を受けたというのである。思うに吉田書簡の趣旨というものは、いわゆるわが国に裁判管轄権は認めておるけれども身柄は全部向う引渡してしまう、すなわち身柄引渡しによつて外交関係を調節しようという趣旨に出ておるように思うのでありまして、あなたが何と言われましても、この両事件の処理経過はどうしても矛盾すると思いますから、もう一ぺんわかるように御説明が願いたい。
  138. 岡原昌男

    岡原政府委員 この点は実に率直に申し上げておるのでありまして、もちろん吉田書簡が出ました当時に、その趣旨は検事総長にも伝えてございます。検事総長のみならず、たしかあのときは、その趣旨をさらに解明したという意味におきまして案を練りましたのが、六月二十三日に検事長まで行つておる。さらに検事長はこれを地元の問題の起りそうな検事正にはみな伝えてある。かようなことだつたのでございます。そこでしからばこの取扱いがその線と違うのではないかというお尋ね、ごもつともでございますが、これまた先ほど私から繰返し申し上げました通り吉田書簡の第四項の「努力する」という文字は、要するにわが方の検察権なり裁判権行使するにつきまして、これを訴訟法的に見て、あるいは訴訟の実際の運用から見て、わが方でなし得る限度がある、この限度を越えたものについては、これはわが方としてもできないのだ、であるからなるべくそういう方に努力するけれども、努力には限度がある、さように読むべきものでありまして必ず身柄を引渡すというふうには書いてないのでございます。
  139. 小林錡

    ○小林(か)委員 なるほど努力するとか、とりはからうとか書いてありますけれども、これは下僚の役人が言うことではない。一国の首相が――外務大臣でもないもつと上の総理大臣が、努力するとかあるいはとりはからうとかいう以上は、法規上、また行政上、その担当の役人に対して、司法権としての裁判権ならば別でありますけれども、検察事務というものは行政事務にすぎないのでありますから、この目的が通せないということは私は決してないと思う。もしあなたのおつしやるように、法律的な意味において非常に悪質であつて引渡すことができないというような意味の場合に、できるだけ努力する、こういうのであるならば、私は身柄問題のみにとどめないで、神戸事件と同じように、今度の事件もすぐに公訴を提起されて、そうして身柄先方引渡して、先方軍事裁判判決の様子を見て、もし相当以上の刑が科してある場合なら、こちらは公訴権を放棄すればいいのでありますし、あるいは刑が軽過ぎる場合には、こちらの裁判の刑の執行を軽減をしてやればいいのでありますから、あなたのおつしやるようならば、むしろ私は身柄の問題のみにしないで、もつと管轄権のあることをはつきり理解させるために、そこまで行くのがほんとうじやないか。であるからもし非常にかわつた検察官がおつて、上司の命令を受けずして、すぐに本件を起訴したような場合には一体どうなりますか。刑事訴訟法上は私は有効だと思いますが、いかがですか。
  140. 岡原昌男

    岡原政府委員 かわつた検察官がどういうことをやりますか、具体的に事件が起きてみなければわかりませんが、おそらくさようなことはないものと信じます。
  141. 小林錡

    ○小林(か)委員 あつたらどうします。あつた場合を聞いております。
  142. 岡原昌男

    岡原政府委員 そのあつた場合の事情に応じまして十分事態調査した上で善処するつもりでございます。
  143. 小林錡

    ○小林(か)委員 私はどうも今おつしやる神戸の事件も正当の取扱い、今回の事件も正当の取扱いという、この二つの間に非常に矛盾があると思う。巷間伝うるところによれば、当時の外務省当局も、いわゆる法務当局も、上の方の人々はどの程度交渉されたか知らぬけれども、どうも両者間の連絡がよくとれていなかつたようだ。そしてそれが下僚に徹底しないで、神戸事件のような問題が起つたというふうに私は聞いております。神戸の検察官に吉田書簡のような趣旨が徹底しなかつたために、検察官のやつたことは正当であつたが、将来はこういう方法でなく、吉田書簡の趣旨によつて今回の東京事件の処理のような方法をとると言われるならば、私はわかる。そうでないというなら、私はどうお答えになつても、これは了解が行きません。もしこれが議論になるというのであれば、もう時間もたつておりますからこれでやめます。
  144. 松岡松平

    松岡(松)委員 岡原局長にお尋ねしますが、今問題になつておる吉田書簡と清原刑政長官の通達との間の矛盾、これは前回から私がしばしば指摘して来たのでありますが、先ほど下田条約局長にもお伺いしますと、ケースごと交渉されておる基点も吉田書簡にある、さらに迫られておる国連側との協定に対するこちらの主張吉田書簡の基本的線によつておるものだ、こう言つておられる。吉田書簡一つの基点であるということについて、外務当局においては、矛盾はないように思われる。ところが法務省の方の清原通達吉田書簡との間にどうもわれわれが理解できない矛盾がある。これは先ほど小林委員も言われた通り、それはある。ですから今後法務当局において、これは日々起る可能性のある問題に対する指示なんですから、このまま清原刑政長官の通達を維持しておられますか、それとももう少し明瞭になるように統一される御意思がありますか、これをきようでなくてもよろしゆうございますが、これはひとつ態度を明確にせられる必要があると思う。今この際あなたからお答え願わなくても、大臣ともよくお打合せになりまして、ひとつ統一ある処置をせられぬと問題は解決しないと思います。
  145. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいまの御質問の点はまことにごもつともでございまして、私どもといたしましては吉田書簡に基きまして六月二十三日に通知を出したわけでございまするが、その当時の一般的な国内情勢、国際情勢その他を大きく考えた上で出ましたあの通牒は、ある意味におきましては、私どもとしては相手が検事長でございますから、読み違えるようなことはないと確信はいたしておりますが、実際にその取扱いが末端に至つて何らかの間違いは保しがたいというふうな観点から、また再検討をいたした方がよいのじやないかという議論もございまして、大臣とも相談の上しかるべく善処したい、かように存じておるのでございます。
  146. 小林錡

    ○小林(か)委員 私も今松岡委員の言われるのと同じでありまして、この吉田書簡と第二清原通達と比較してみましても、ぴつたりとしない文句がずいぶんあります。たとえば「駐留区域外」としてあるのに、清原通達の方は「施設外」という言葉が使つてある。そしていわゆる行政協定の中には「施設及び区域」として、別の意味があるように書いてあります。それから今の家族に対する管轄権の問題、これが吉田書簡清原通達とが全然一致するというのは詭弁です。だからつまらない詭弁は避けられて間違いは間違いとし、部下に徹底しないで間違つた処置をしたというのならばそれでもよいから、これから先はどういう処置をする方針であるということをはつきりさせられる必要があると思う。  それからなお一点、これでおしまいになると思いますから、申し上げておきたいことは、先ほど法務大臣ども横田喜三郎さんの説ですということをしきりに出して言つておられる。横田さんは最近の新聞に、いわゆる管轄権だけは認めて身柄先方にみな引渡して解決したらよいというふうな論文を出しておる。その中に従来属地主義でやつたものが最近いわゆる属人主義に慣行がかわつて来たというようなことを肯定した前提のもとに述べておられるのでありますけれども、学者の中には決してこの横田さんと同じ説ばかりではないのであります。もうこれでおしまいになるので、詳しい学説などを私は申し上げませんけれども、第一次並びに第二次世界戦争以後、なるほどそういうような傾向はありますけれども、その特殊な属人主義を認めておるのは、これは決して慣行にあらずして、その国々における特殊な政治上の関係から特約としてしておるのであつて、これは決して慣行ではないということを、フランスがイギリスやベルギーと属人主義の協定をしたときにも、国防次官からはつきりそういう言葉をつけ加えて訓令を出しておる。それからまた、その名前は一々言いませんけれども外国のプロフエツサーの中には、そういうことは決して慣行にはなつていない、これは一種の特約であるからこそ、そう承認するのであつて、こういう譲歩は、国際法上むしろ従来承認されたるところの規則を越えるものである、こういうことがはつきり学説の上にりつぱに述べられておる。しかもこれから有効になろとし、われわれも従つて行こうといつて一般に言われる裁判管轄権に関するいわゆる北大西洋条約当事国間における協定、この内容をごらんになれば、そういうことが決して軽々に肯定されるものでないということはわかるのでありますから、どうも都合のいいような学説や慣行だけをあげられて、そうして一般国民の攻撃を避けられるということは、卑怯な態度だと思います。堂々として政府外交に臨まれることが必要じやないか。これは質問じやないのでありますが、つけ加えて申し上げておきます。
  147. 岡原昌男

    岡原政府委員 これはその直接のお答えにはあるいはならぬかと思うのでございますが、最後に私どもとしてつけ加えておきたいことは、吉田書簡が出ました当時の日本国内輿論というもの、それから六月二十三日当時、私ども清原通達というものを出すに至つたその当時の輿論の帰趨というものを振り返つて考えてみますと、私どもといたしましては、多少神戸事件の処理の際には、いろいろなことも考えたのでございまするが、何分にも今から考えますと、いろいろな点で足りなかつたことがあつたんじやないかということを、率直に認めたいと思います。ただその当時の輿論というものが非常に強くて、五月十七日に、いわゆる国際公法の原則なるものを清原第一次通達として出した。この線についてはおそらく御異論ないものと思いますが、その後の行き方について、各方面に各種の議論が起きました。当時フイリピンの兵隊事件がございました。これを起訴しましたところが、輿論が非常にこれを是として取上げたのでございます。引続きをして神戸事件が発生しました際にも、何で起訴しないかというふうな議論があり、起訴した際には、弁護士協会を初めとしまして国内輿論がほとんど全部あげて賛成したわけでございます。それで私どもといたしましては、事件の処理というものは、常に輿論とともになければならぬというふうなことも考えておりましたので、やはりその当時としては、よかつたなあというふうな考えのもとに処理しておつたのは事実でございます。その後私どもといたしましては、いろいろ事を考え、かつ研究もいたし、さらに輿論の帰趨を見きわめまして、今度の英濠兵事件の処理をいたしたのでございますが、私どもとして基本の線は、相かわらず吉田書簡並びに清原第二次通達の線にのつとつておるというつもりでおるのでございます。先ほど小林さんの御不審に思われた点はごもつともでございます。その間に若干の時が流れておるということを御了承願いたいのでございます。  それからもう一つ、神戸事件と今度の事件とが、結論的にはたいへん違つた結論になつておりまして、この両方をやはり同じく吉田書簡にのつとつて処理したつもりだというふうなことについて、御疑念を持たれることはごもつともでございます。ただ詭弁でこれを申すわけではないのでございますが、当時の神戸事件についての若干の行き違い、これが事件の処理について、当初吉田書簡が企図した、あるいは意図した線に、結論的には沿わなかつた。ただわれわれとしてはそれ沿つたつもりで、吉田書簡清原通達にのつとつたつもりで処理しておつたという点だけは、くれぐれも御了承願いたいと存ずるのでございます。
  148. 田嶋好文

    田嶋委員長 この場合政府委員長から要求いたしておきます。今日まで起りました国連軍の刑事犯罪、この資料を委員会に出していただきたいと思います。  次会は来る八日開会することとし、本日はこれにて散会いたします。     午後五時三分散会