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1952-11-15 第15回国会 衆議院 法務委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年十一月十五日(土曜日)     午前十時三十五分開議  出席委員    委員長 田嶋 好文君    理事 松岡 松平君 理事 小畑虎之助君    理事 猪俣 浩三君       相川 勝六君    熊谷 憲一君       小林かなえ君    松永  東君       大川 光三君    清瀬 一郎君       多賀谷真稔君    古屋 貞雄君       風見  章君  出席国務大臣         法 務 大 臣 犬養  健君         外 務 大 臣 岡崎 勝男君  委員外出席者         検     事         (刑事局長)  岡原 昌男君         外務事務官         (条約局長)  下田 武三君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 十一月十四日  戦犯者釈放に関する陳情書  (第一二八号)  同(第一二九号)  B・C級戦犯者釈放に関する陳情書  (第一三〇号) を本委員会に送付された。 本日の会議に付した事件     ――――――――――――― 国連軍裁判管轄権に関する件     ―――――――――――――
  2. 田嶋好文

    田嶋委員長 これにより会議を開きます。  前会に引続き国連軍裁判管轄権に関する件について調査を進めます。外務大臣及び法務大臣が見えておりますので、それぞれ交渉経過見解を聴取することにいたします。まず外務大臣よりその経過見解を聴取いたします。岡崎外務大臣
  3. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 この経過につきましては、もういろいろ新聞等に出おりますので、大体の点は御了解があると思いますが、念のため一応申し上げますと、実はわれわれは、日米間の行政協定を結んだ際に、でき得る限り国連軍との間の協定も同時に結んでおきたいと思いまして、試みてみたのでありますが、われわれの当時の見解におきましては、日米間の協定国連との間の協定とはおのずから性質が異なる、従つて違う協定になるべきものであるということで、その趣旨で二つの違つた協定を結ぼうと努力したのでありますが、遂に成功せずして、日米間の協定だけができ上つたわけであります。そこでその後においても、引続きすみやかに協定を結ぶべきだということで、初めのうちは当時の占領軍参謀長を主として相手方として、つまり国連代表として協議をしたのであります。その後独立してからは、国連側代表者として、朝鮮事変に参加しておる国々の大公使、そのうちの特におもな人々相手にして話合いをずつと進めて来たのでありますが、当初からの日本則意見国連側意見とはいろいろな問題において食い違いがありました。しかしだんだん技術的な研究を進めて来ておる間に、ほかの点はこまかくいえばまだ多少の調整を残しておりますが、まず大体において意見が近くなつて来ました。しかるに裁判管轄権の問題については、いまだに双方意見が合致していないのであります。そこで事務的接衝はほとんどし尽したという段階に最近来ましたために、先方代表者と私とが一昨々日会合をいたしまして、直接に双方意見を述べ、双方理解を深めるという趣旨で、非公式なものでありますが、ごくざつくばらんに両方意見を述べ合つてみようというので会合を開きました。そのときの先方言つた趣旨の要約した点は本日新聞に出ております先方の覚書の趣旨と大体同様であります。これにつきましては、われわれの方から、やはりいまだに納得できない点が幾つかあるので、その点を指摘して、結局話は結論を見ずして終つたのでありますが、先方日本側も、協定を早く結んだ方が相互のためであろうという趣旨においては一致しておりますので、でき得る限りの努力をする意味で、今後もこういう非公式な話合いを進めてみようということにきまりまして、また引続きこういう会合を催すつもりでおります。  先方日本側意見相違というのは、本日の新聞に出ておる通りでありますが、要するに先方から言えば、今日本側主張するような協定を結ぶことは各国内的にも非常に困難である、これは多くの国会におきましてもやはり与党と野党との差が非常に接近しておるために、こういうような協定ではとても国会を通過する見込みも、かりにつくつてもない、また国連将兵志気に非常に関係するというような点が述べられおります。われわれの方も同様の困難があるのみならず、もしこういう協定を結んで国内的に非常に反感のようなものが起れば、国全体としての国連協力という趣旨をかえつて阻害するおそが非常にある。そこでやはりわれわれは国民の多くの人々考え方に沿つたような、つまり国民の納得するような協定でなければ、大きな意味での国連協力を阻害する、かえつて逆効果になるおそれがあるから、ぜひ日本側主張のような点を理解して譲歩をしてもらいたいという趣旨で話をいたしておりますが、今のところは双方主張が対立しておりまして、まだとうていただちに妥結というようなところには至らない状況で来ております。しかし努力を続けるということは双方ともに同意しておりまして、今後もできるだけ力を尽そうと考えております。
  4. 田嶋好文

    田嶋委員長 次に法務大臣より承ります。犬養法務大臣
  5. 犬養健

    犬養国務大臣 法務省といたしましては、昨日午後四時外務省から発表せられまして、本朝の各新聞に出ております日本政府の提案しました日本側考え方、ことに刑事裁判権に関する日本側考え方を妥当と考えておるものでございます。またもう一歩進めて出しますならば、いかに日本国民国連軍というものに親愛感を持ち、その親愛感の基礎に立つて国連軍を支持する、そういう国民的傾向が生ずるような方向へ刑事裁判権の帰趨が行くように努力いたしたいと思つておるもの下あります。詳しいことは、今外務省折衝中でございますので、あまり具体的な、あるいは断定的な意見を申し上げることは差控えたい過程にあると思いますが、根本的な態度はただいま申し上げれようなことでございます。
  6. 田嶋好文

    田嶋委員長 発言の通告がありますから順次これを許します。発言者にお諮りいたしておきますが、外務大臣は他に所用もあるようでございますから、御質問はまず外務大臣に御質問願つて、そのあと法務大臣の方に御質問を願いたいと思います。松岡松平君。
  7. 松岡松平

    松岡(松)委員 外務大臣にお尋ねします。国連軍側の回答の要旨といいますか、新聞に掲載されたところによりますると、北大西洋条約の発効まで暫定的に日米協定による趣旨によつて運んで行こうということでありまするが、私ども考えますると北大西洋条約効力が発生した場合に起る処理と、暫定的に行われる趣旨との間に根本的な隔たりがある。将来効力が発生した場合には結局この治外法権的な問題は一応当方の主張と同様に相なるのにかかわず、暫定的な方では全然法権に対する束縛を加える、こういうことを主張せられる意味が私どもには了解できない。暫定的でありますから、そうすれば、北大西洋条約というものが将来批准を得られて発効せられる可能性があるという見通しに立つておられるということが大体私どもはわかる。とするならば、何がゆえにその間に暫定的なそういう協定を結ばなければならないと主張せられるか。もちろん国連関係国間においても、今大臣からお話のあつたような事情もありましようが、また日本として国連に対する協力を惜しんではならないと思いますが、しかしながら、その協力のためにわが国独立国家として持つている法権束縛を受けなければならぬということは、それ以上の問題であります。この新聞の—私の持つてるのは読売新聞でありますが、(5)の末項に「人及び金の犠牲に比べればごくわずかな寄与でしかないであろう」ということが言われております。朝鮮の問題に対して国連が作戦行動せられることについて日本協力を与えをということは、日本国防のために与えるのではないと思います。それからここに極東の平和、極東の平和と言われておりまするが、朝鮮の問題はひとり極東の問題ではなかろう。これは世界の問題であるがゆえに、世界国連各国軍隊を出してこの争いを収めようとしているものであつて、ひとり日本のみが、日本国防のみが危殆に瀕しており、その日本国防のために行われているものではないはずである。この関係は、私どもは読みましてまことにふに落ちない点がある、これについて大臣はどういうお考えをお持ちになつているか。ことに相手国主張を読んでみますと、治外法権くらいは何でもないじやないかというような考え方が露骨に歯をむき出して出ておりますが、何でもないじやないかという考え方自体がこれは民族意識の上に重大な問題であります。ことにわが国の明治以来の独立国家としての発生過程においていかにわが国国民が悩んで来たかという事実にかんがみまして、この治外法権という問題はかなり重大な問題であります。ことに安政条約における不対等な条約を破棄するために長い間日本が苦しんで来たこと、日本国民このためにどんなに苦しみ、これを挽回するために犠牲を払つたか、おそらく外国でこの事情を知らない国はないはずであります。しかるに今この朝鮮の問題において国連軍日本に駐留しており、アメリカ軍日本に駐留しておる場合とは根本的に相違することは、外務大臣先ほどお話になつた通りであります。しかるにもかかわわらず、いとも簡単にこれを取扱つている態度、そこに現われている一種の民族的な意識というものは、こちら側ではなく向う側に露骨に働いている。こういう問題に対する大臣の所見を私は十分に承りたいと思うのであります。しかも将来北大西洋条約が発効した場合においては、その内容に盛られているのはかなり進歩的であると私は言わなければならぬ。しかるに暫定的な内容というものは退歩的であり反動的であります。もしかようなものが薄らぐといたしまするならば、現在の国民感情から照しまして重大問題である。国連軍に対する協力は、ひとり政府のみが行うのではなく、国民とともに行わずしてはおそらくは目的を逃し得られるものではないと私は考えます。それがわからない連合国諸国ではあるまいと思う。何がゆえにさような問題に対して、北大西洋条約に盛られている考え方以上のものを要求せられるか、この意図は私どもにはまことに了解に苦しむものがある。とかく外交上の条約というものは、先になしたる国の利益と同様のものをあとになすものは求めやすい。これは歴史に照してそうであります。ことに徳川末期における条約を見ましても、あとになしたものは先になしたと同様の利益を享受して来たのであります。今ここに暫定的な協力を求められる背後に、日本アメリカがなしたる行政協定と同様の立場国連軍が同様にとられようとする意図があるとすれば、それはしかく簡単な問題ではなかろうと思う。ことに朝鮮の問題をわが国防と結びつけて、これと一つ極東における国防というような考え方を押しつけられることは、およそ国民は納得しないと思います。これにつきましての大臣のお考え方並びにこれに対する反駁—おそらく当局といたしましてこれに対して相当の反駁をなしておることと思いますが、その内容を承りたいと存じます。
  8. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 実は今おつしやつたような諸点につきましては、私はもちろんのこと、今まで事務的に協議を経て来ました範囲においても、実は松岡君と同じような発言をいたしておるのであります。趣旨はただいまのお話とほとんど同様のことを先方言つておるのであります。従いましてそれ以上のことはこちらの発言としてはあまりないのでありますが、ただこちらばかりのことを言つてもこの意味があるいは明確でないかもしれませんから、つけ足して先方言い分を少し敷衍して申し上げてみたいと思います。が、その前に簡単にひとつお断りしておかなければなりませんのは、今もおつしやいましたが、よく治外法権という言葉を使つておられまするが、私は法理的に言えばこの問題は治外法権というべき趣旨のものではないと考えております。これはまたあと機会があれば御説明いたしたいと思います。  そこで先方言い分—北大西洋条約は実は行政協定のときも、われわれはこれを中に採用したらどうかという意見をかなり繰返して述べたのであります。当時アメリカ側意見としては、実はアメリカの軍は日本のみではない、イギリスにもおる。そしてイギリス側からも行政協定と同様な趣旨待遇を受けておるわけであります。従つて北大西洋条約が発効すればともかくも、それまでの間にイギリスにおける米軍日本における米軍との待遇が違うようではとうていやつて行けないというような理由で、結論ああいうことになつたのであります。ところが北大西洋条約がいつ発効するかということにはいては、まだいろいろの点で必ずしもはつきりはいたしておりません。というのはあの協定は何といいますか、適切な言葉がありませんが、普通英語でいいますとリシービング・カントリーといつておりますが、その駐留を受ける方の側の国は大体みな賛成しておりますが、センデイング・ステートといいますか、兵隊を出す方の国からいうと必ずしも満足ではないということは言えます、ところがヨーロツパのやうなところでは、どこの兵隊がどこに行くかわかりませんから、自分の方に兵隊が来る場合には、この協定でけつこうだけれども自分軍隊が外に出る場合には都合が悪いというので、一体どの国が批准するか、なかなかわからないような状況でありましたので—まだ今でもそうでありますが、そこで行政協定の中では北大西洋条約が発効するか、しからずんばこの協定を一年やつてみて、北大西洋条約が発効しなくても、一年後にはさらにこの協定自体について改訂を協議しようということを記載しておるのであります。そこで、先方のこういうこの(5)に書いてあるような考え方のごく概略の気持を申しますと、ただいま世界民主国家の間では、どの一国といえども自分の力で自分の国を完全に守るということも困難ならば、どの一国が、いかに強力な国でも、その自国の力だけで世界の平和を維持して行くということも困難である、こういう建前から、いわゆる集団安全保障という思想が強く浮び出して来ておるのでありまして、北大西洋条約もしくは欧州事の創設あるいは朝鮮における国連軍もそうでありますが、各国ともにその範囲内におきましては、その主権の一部を放棄し、統帥権を放棄して、そうしてただ一人の司令官のもとに各国軍隊指揮を統一して、いわば外国の常人の指揮のもとに自国軍隊が喜んで死地につく場合もあるというような関係になつております。世界平和維持もしくは自国の防衛というためには、その必要の範囲内では主権の一部も統帥権の一部も放棄する、それでなければ目的は達せられない、こういつたような気持を持つてつておることと思います。そのためにいろいろの点で従来の独立国家というものの主権を非常に強く維持して行くところからだんだんと理念がかわつて来ておるというわけだろうと考えます。そういう意味で、もちろん朝鮮の問題は世界的の問題でありまするからこそ、今おつしやつたように世界中の国から兵隊を出し、金を出しして戦つておるわけでありますが、しかしたとえばイギリス朝鮮距離関係からいえば、日本朝鮮距離の方がずつと近いために、その影響するところはおのずから大きいこともこれは認めなければならないと思います。従つてそういう意味で、自分らは日本に比ぶればかなり利害関係の遠い国ではあるけれども兵隊犠牲にし、金を犠牲にして朝鮮で戦つておる。そこで非常に隣接しておる日本としては、われわれの気持ちもくんで十分なる協力をし、われわれが働きいいようにしてくれるのがいいではないか、こういうような意味と私は考えております。しかしながらこれに対しましては、今松岡君のおつしやつたような点を一々あげて、日本立場はこうであるということを言つておるわけであります。
  9. 松岡松平

    松岡(松)委員 大臣から今御説明を承りますと、治外法権という問題にお触れになつたようでありますが、やはり私はこれは一つ法権に対する束縛でありまして、その一部を外国に与えるということは、やはりこれは治外法権という考え方に包含せられるものと思いますし、また国民一般の常識は治外法権考えるものと考えると私は思います。ですからこれをいかに近世的な考えであるとお考えになつて、これを国民お話になつても、これはおそらく現在の日本国民一般理解し得ない、こう私は考える。やはりこれは治外法権外国に与えるものである。ことにこの問題はひとりイギリスあるいはその他の文明国ばかりではなくてわれわれが考えればまだまだもつと遅れた国も国連には加盟しておいでになります。そういう場合に、日本に来られまして作戦並びに軍の正常なる行動として動かれることに対する協力はもちろんこれは惜しんではならないと思いますが、しかしながらわが領土に滞留せらるる間に軍人、軍属及びその家族までがわが国民に加えたるところの不法行為について、日本国権がこれに対して審判し得ないということは、国民としてこれくらいの屈辱はないと思う。殺傷せられ、強姦せられ、暴行を加えられて、その加害者日本国権によつて処断せられないというこの事実は、何をもつて捕捉するか。おそらく国家に対する信頼感を失うでありましよう。そしてその加害者は軍艦に乗せられていずこへか去つてしまつた朝鮮戦線行つてしまつた、いかなる処罰を受けたか知るよしもない、こういうことになつて参りまするならば、まことに独立国家とは名のみでありまして、そしてこの国連に与えた地位は、さらに私をして言わしむるならば、まだ未調印国としてソ連、中共その他の国がたくさんあるはずでありまして、またこれらの国々も同様なことをわが国に要求せられた場合に、はたしてこれを拒み得る根拠があるかどうか。そういう場合におきましては、わが国民の立場というものは実にあわれむべきものであります。この問題は簡単な問題ではないと私は思います。講和条約が発効してようやく独立国としてこれから立ち上ろうという今日、この問題に逢着したことは国民にとつてかなり大きなシヨツクを与えていると思うのであります。どうぞ政府におかれましては、この点について一般国民の要望にこたえて強力なる外交折衝に移られたい。しかし強力とは必ずしも相手方に対して感情を刺激したり、悪感を抱かしめるものではありません。事実を伝え、真相を訴えて話になれば、必ず国連諸国においても理解せられると私は思うのであります。ことに北大西洋条約というものが一つの案文として現存しておりまする以上は、これを暫定的な協定に持ち込むならばいざ知らす、これ以上のことを協定に織り込むということは、必要のないことでありまして、現に長い間世界に行われておるところの国際公法の原則というものによつて遂行して行けばよろしいのでありまして、こちらに不利益なことは急ぐべきにあらず、こちらに有利なる場合においては、交渉は急がれてさしつかえないが、こちらに不利益な場合においては、大いに政府努力いたされまして、有利な方に転回されるように一段の御努力を切望してやまないものであります。
  10. 田嶋好文

    田嶋委員長 発言者にちよつとお諮りいたしますが、大臣先ほど申し上げましたように、所用がございまして、十一時四十五分までここにおいでのようでございますから、発言される場合は、なるたけ簡明に質問されたいと思います。なお大臣においても、そこをわきまえて御答弁願います。大川光三君。
  11. 大川光三

    大川委員 対国連軍協定の中心問題であります刑事裁判管轄権交渉に関しまして、わが方の主張及び相手国主張の大要は、すでに新聞紙上で発表されておりますので、私はこの機会に今日までわが方の当局主張しておるその主張をあくまでも堅持されるの意思があるかどうかということを端的に伺いたいのであります。先ほど外務大臣の御説明の中で、あくまでもこれに努力するということでございましたが、努力でなくして絶対に一歩も譲らぬのだ、あくまでもこの主張を堅持するのだという御意思があるかどうか、伺いたい。
  12. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 前にお断りしておきすが、先ほど委員長が言われましたように、私は十二時からフランス大使と要談がありまして、どうしても帰らなければならぬことになつております。その点御了解願いたいと思います。今の御質問でありますが、私は国際間の交渉でありますから、自分の方は一歩もまげない、全部お前の方から下つて来いというなら交渉にはならないと思うのでありまして、その間にさしつかえなくて下れるところは、できるだけわれわれの方も下ろうと思つております。しかし根本的な問題につきましては、先ほど松岡君からお話のあつたようなことでありまして、われわれとしては国民全体の一致した国連軍協力ということを望みますから、それを破壊されるような危険なことはやるべきでない。従いまして日本側で今主張しておりますところの大筋については、ぜひ先方理解を得てまとめ上げなければならぬと思つておりますが、その先には枝葉のこと、小さいことがたくさんあります。こういう点については譲り得るものは譲るというつもりでありますが、これは話合つてみなければ先方としてもそんなところは譲つてくれなくてもいいんだというような意見もあるかもしれないかわりませんが、話合いの結果の私の気持は、根本の趣旨においては、ぜひこれを先方理解さして、先方の同意を得るつもりである、こう考えておるのであります。
  13. 大川光三

    大川委員 私どもといたしましては、ただいまお説のように、わが方の主張の精神というものは、精神的にはあくまでも堅持するんだというお気持を持つて交渉に臨んでいただきたいということを希望いたします。それから先ほど当事国意見相違点として、相手国国会の承認を得ることに困難であるのみならず、将兵志気にも関するからというのでございますが、一体他の国において犯罪を犯すということは、申すまでもなく、これは軍人であれば、軍律を乱つておるのであります。その軍律を乱る、いわゆる不法行為をなした者に対して、これを裁判すべき裁判権を放棄して、不法行為、その軍律乱つた者を容認することが国連軍に対する協力であるかのごとき関係国言い分は、われわれは断じてこれを承知できない。ずいぶんわがまま身つてな、そうしてわが国を侮辱した言分であろうと思います。それと一面考え合せまして、この刑事裁判権日本にはないのだというようなことに相なりまするならば、もちろんわが国国会においても容易にこれは承認されないのでございましようし、のみならず松岡さんも言われましたが、国民感情が極度に悪北するということを考えなければならぬのであります。不法行為を犯し、犯罪をやつた場合に、日本の法律で処罰されることが、この将兵志気に関するという身がつて考え方と相対して、国民が侮辱され、屈辱的な外交であるといつて国民感情が悪化するのと相対して考えまするならば、とうてい関係国言つておるようなことは問題にならない。そこでそういういわゆる将兵志気に関するという点について、私ども考えておりまするより以上国民感情が悪化することを恐れるという、その点についての大臣考え方を伺つておきたいのであります。
  14. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 私の考え方は、ただいま申した通り国民全体が欣然として国連協力するような態勢に行かなければならないから、従つてここで無理な協定を結んでも、そのためにかえつて大きな国民協力ということに阻害があつては、お互いのためにならない、こう考えておるので、その点については御意見は同じだと考えております。ただ一言国連軍側のために弁じておきますれば、日本裁判をされるから志気に関すると国連軍言つておるのではなくて、アメリカ軍人とほかの国の軍人は、朝鮮戦線では同じように命を投げ出して闘い、同じような待遇を受け、同じように友軍として働いておる。それが日本へ帰つて来たときに、アメリカ軍のみが在日米軍の中に編入されるために、裁判管轄権国連の他の将兵と違つて行われるということになると、それが志気に関する。従つて国連軍裁判管轄権アメリカ軍隊並にしてくれるか、あるいはアメリカ行政協定をかえて、国連側と同じ待遇、つまり同等待遇にするならば、裁判管轄権の問題は、アメリカがおりてくればNATOの方式で—NATO方式は通らないという話がありますが、NATO方式でなくても、同じものでありさえすればよいのだ、必ずしもアメリカと同等を言つておるのではない、均等待遇だけを求めておる、中身は別でもよろしい、こういうのであります。  それからもう一つ、ただいまお話の中で、日本裁判をしない場合に向うで裁判をしないかというと、そうではなくて、向うではそういう場合には、これは今は英濠軍しかここで軍法会議を持つておりませんが、その他でももし向う側に裁判権を与えるということになれば、軍法会議を国内に置いて、そこでもつてはつきり裁判して、国民にもわかるようなことにするので、悪いことをした者を逃がすという意味ではむろんないということは、先方でも言つております。
  15. 大川光三

    大川委員 いわゆるすべての国は平等であるというこの法理から考えますれば、なるほどただいま大臣の御説明のように、関係国将兵が米国並にせよという一応の要求はわかるのでありまするけれども、本来日米行政協定における裁判権が、いわゆる属人主義を設定いたしておるということ自体が、すでに私は屈辱的な協定である、かように考えておるのであります。そこでこの屈辱的な協定並に他の関係国待遇せよというその言い分は、われわれは肯定することはできません。いわゆるモデル・ケースとなるべき日米行政協定そのものが屈辱的なものであるということを、強く腹に蔵して、今後交渉の衝に当られますように、私は希望をいたすものであります。
  16. 田嶋好文

    田嶋委員長 猪俣浩三君。
  17. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 今回の行政協定の締結の相手国連軍という集団的な表現を用いておるのでありますが、これは自分が法律的に考えると不明確であることは、先般の当委員会においても問題になつたのでありますが、一体国連軍と称する集団的な交渉相手たるべき責任者があるのでありますか、ないのでありますか。
  18. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 国連軍と一口に申すのは、これは常識的な言い方でありますが、正確にいえばユニフアイド・コマソド—統合司令部といいますが、ユニフアイド・コマンドの軍事の方の直接の代表者は、クラーク大将が就任しております。しかしながら、ユニフアイド・コマンドの、こういう軍事以外の問題の話合いにおきましては、大体において、今のところはアメリカ大使が代表して当つておられますが、アメリカ大使は常に関係国の大公使と協議をした上で、スポークスマンとして発議をしておられます。  なお前の質問にありました、行政協定は屈辱的だという点につきましては、私はまだそこは承服しておらないのでありまして、これはそういういろいろの意味がありまから、NATO協定が発効したらどうする、発効しなくても一年間たつたら協議をするというようなことで、とにかく試みにこういうものでやつてみようということでありまするから、暫定的の協定でありますので、さよう御承知を願いたいと思います。
  19. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、マーフイー大使はいわゆる国連軍国連軍というものは今十七箇国ですか、その代表者としての地位において日本政府交渉しておるものでありますか。
  20. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 さようであります。
  21. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、その国際統合司令部、これは「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約の署名に際し吉田内閣総理大臣とアチソン国務長官との間に交換された公文」という中に国際連合統一司令部が設置されておる、こういう文句があるのですが、これに当るのかどうかをお聞きしておる。
  22. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 その通りであります。
  23. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、十七箇国あつて、いろいろな国があり、エチオピアというのもあるのだそうでありますが、これがアチソンが代表として—あなたは一体治外法権じやないというが、私ども治外法権とは何ら異ならぬものだと考えるが、そうするとこのエチオピアにもこういう治外法権が設定されることになるのですか。
  24. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 その御質問はちよつとよくわかりませんが、治外法権であるかないかは別としまして、国連軍との協定は今交渉中でありますから、どういうものが設定されるかはまだわからないわけであります。
  25. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 その交渉中であることはわかつていますが、もしこういう、今マーフイーが代表者として主張しているがごとき、今朝の新聞に発表された彼らの精神において、日本政府が譲歩して、かりにそういう協定ができたとすれば、十七箇国全部にそれが適用されものであるか、あるいは個々に、エチオピアならエチオピアとまた特に交渉するのであるが、そこがはつきりせぬです。そういう集団的な交渉相手になつておるのであるか、個々別々に十七箇国との間の協定になるのであるか、この意味をお尋ねする例として今申し上げておる。
  26. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 これは先方との話会いにおきまして、どういうことになるかわかりませんが、全体を一つとして話合いのきまる場合もあり、個々の場合もありましようけれども、それは国連側との協定というものは、裁判管権権だけではないのであります。いろいろなものがあります。この裁判管轄権だけについて言いますれば、もし何らかの協定が成立しますれば、日本の国内において軍事裁判所を設けておる国だけに、かりにこういう問題がきまあば、これが適用されるわけでありまして、軍事裁判所がない国は、かりに向う側に裁判管轄権がある程度行つたとしましても、その裁判権を行使するものがないのでありますから、それは除外されるわけであります。
  27. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、日本に刑事裁判所というものを設けている国はどこどこでありますか。
  28. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 ただいまのところは米国と、そして英連邦、いわゆるコモンウエルスの国だけであります。
  29. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうするとフランスの兵隊なんかが、かような公務外施設外で不法行為をやつた場合には、もしかりに国連軍に対しましての特権を認めたといたしましても、それはフランスの兵隊には適用ならぬ、こういうことになるわけですか。
  30. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 これはもちろん交渉中ですからまだわかりませんが、今のところの考え方はさようであります。
  31. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうするとアメリカとはすでに行政協定ができておる、結局は英連邦だけの問題で、こういう大騒ぎをしているのだとわれわれには考えられる。そうすると英連邦だけを相手外務省ではねらいを定めて交渉なさつていいのじやないか。そのイギリス本国におきましては、はたして駐留軍に対して全部平等な地位を与えているかどうか、私どもの承知するところによれば、アメリカだけには属人主義の協定を結んでいるが、その他の国はさような協定を結んでおらないというふうに承知しておりますが、イギリスにおいてそういう駐留軍に対し不平等な態度をとつていることに対して外務省は御研究になつているかどうか、実際はどうであるか、承りたいと思います。
  32. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 今イギリスと言われましたが、英連邦でありますから、つまりわれわれの主たる話し合いの相手は、英本国、豪州、ニユージーランド、カナダ、こういう国があるわけですが、これに南阿が入るか入らないか、これは別でありますが、今のところはそういう国々であります。なお今お話あとの方の点は、たしか本日の新聞に田岡教授の御説も出ておるようであります。この点は非常に技術的、法理的の問題でありますから、正確にはここに条約局長がおりますから、条約局長から御答弁いたします。
  33. 下田武三

    ○下田説明員 ただいまの点に関しまして、前回の委員会で、一九四二年の交換公文をもつてイギリス本国におります外国軍隊に対して、専属的の刑事裁判管轄権を認めておつたということを申しました。最近外務省に到着いたしました資料によりますと、その交換公文をもつと正規な国内法をもつて裏づける試みが行われまして、その法案がイギリスの議会に出ております。その法案によりますと、単に「ヴイジテイング・フオース」といつておりますが、アメリカ軍のみならず、インド、パキスタンその他十箇国ぐらいの、現在考えられる英本国に来ている軍隊をすべて含めまして、インド、パキスタン等の軍隊に対しましても、それらの軍隊犯罪を犯しました場合には、派遣国側に専属的の裁判管轄権を認めるという法案がただいま提出されております。
  34. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 その法案はできたのですか、できないのですか。
  35. 下田武三

    ○下田説明員 ただいま下院で修正案が提出されておりまして、それがどうなるかは今のところまだわかりません。下院が済みましても、まだ上院で討議されますので、まだどうかわるかわかりません。ただいまの現情は先ほど申し上げた通りでございます。
  36. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 イギリス連邦が、今承ると、ほとんど中心である。イギリスの本国の状態というものも、まだ全部に平等になつておらぬということが事実であるとすれば、そういうこともイギリス本国の問題としては、日本外務省では論駁できるのではないか、結局イギリス連邦だけの問題でかように私どもは問題が紛糾しているように考えられるので、ますます遺憾であります。これに対して私どもはなはだ不満を持つのであります。元来このアメリカとの行政協定につきましても私どもは反対である。そして安全保障条約第三条に基く行政協定実施に伴う刑事特別法なるものが、第十三国会に当委員会に提案せられましたときに、かようなことに対しましては私どもの独立心が許さない、ことに和解と信頼の条約だとうたつて宣伝した結果は、これは何事であるか。もしかようなことをアメリカと締結するならば、必ずイギリス連邦その他から同じ要求が出るに違いない。そうするとわれらは、私どもの先輩が長い間血涙をしぼつて闘い取つた平等条約の国、これがまた転落するのじやないか。これに対して私どもは反対をいたしましたが、何しろその基本でありまする行政協定なるものが、詳細に、ほとんど条文とあまりかわらぬような詳細な規定ができてしまつて、しかもこの行政協定なるものは何ら国民にはかられず、国会にも諮問せられず、政府独断において締結せられた。これを既定事実として、その実施の法律案を提出し、それに反対すると、もうこれは条約として認められてしまつておるから、この条約に規定せられておることは、どうしても実施しなければならないというようなことで、われわれの反対は全然採用されない、かようなことで今日に至つた。われわれが憂慮するがごときことが、今日国連軍相手として起つて来ておる。今にして進退きわまつて政府国民の前にこれを発表して、国民とともに外交するがごときことを初めて揚言して来ておる。これは今までの祕密外交の当然の結果であります。一体今までの吉田内閣のやり方というものは、実に傍若無人である。国交の調整、外交ということはわが民族の安危興亡にかかわる大問題であるにかかわらず、だれも知らぬうちに蒋介石政権を認める書簡を出したり、だれも知らぬうちにこの大事な刑事裁判権の問題を含みまするところの書簡を、本年の五月三十一日にマーフィー大使に送つておる。かようなことで、その総決算を迫られて来ておる今日になつて、初めて国民外交に移るがごときことを揚言しておる。いよいよ進退きわまつた窮余の策だとわれわれは考えるのであるが、この点につきまして私どもは実に憤懣やるせないものがある。平和条約のときにわれわれは極力反対した。それは今日のことを予見したからである。平和条約によつて当然安全保障条約が生れる。安全保障条約からは当然行政協定が現れる。いな行政協定を締結したいために安全保障条約を急がれたのであり、安全保障条約世界的に承認させんとして平和条約というものが締結せられたということは、今日世界の常識になつておる。これは一つ結論じやありませんが、かようなことに追い込んで来てしまつた。私ども外務大臣にお尋ねしたい。もしかようなアメリカと締結しましたる行政協定と同じようなことに——このアメリカとの行政協定のごときは、軍人、軍属のみならず、その家族までも治外法権の中に含めておる。あなたは治外法権じやないというけれども、これが治外法権じやなかつたら何が治外法権か。軍人、軍属はいざ知らず、その家族までも、三才の童子といえども軍人、軍属の家族であるならば、日本の法律が及ばないなんという条約が、一体古今東四にあつたか。私どもは寡聞にして聞かない。かようなことを先例にとられて、フランスでもエチオピアでも設けるならば、みんな同じことになる。かようなことでどこに日本の独立と民族の誇りがあるのか。かようなところへ追い込んでしまつた吉田内閣は、私は辞職すべきものだと思う。これはしかし吉田さんに聞いてみなければわからぬからあなたにお尋ねしますが、これがうまく行かない場合には、あなた辞職する覚悟がありますか、ありませんか、その御返答を承りたい。
  37. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 われわれの考えでは、いわゆる治外法権と申すものは、その国の国民に対して、その国の法律を適用させるということであります。しかるに軍隊に対しましては常にある種の特権が伴うことはきまつておりまして、軍隊に特権を与えても、ただちにそれが他の、その国の一般居留民に特権を与えるというふうにはならないのであります。いわゆる治外法権と称せられておるものは、刑事にしろ、民事にしろ、一般の居留民に対してその国の法権の及ばないときをさしておると了解しております。従つて私は、これは治外法権ではないと申しておるのであります。軍隊に対する特権の範囲をいかに定めるかというのが今の問題である。  なお家族に対して行政協定のようたとりきめはいまだ聞いたことがないとおつしやいましたが、行政協定当時にもしばしば御説明いたしましたように、たとえばイギリスにおきましては、アメリの駐留軍の家族に対しても軍人、軍属と同様の特権を与えております。  なお私が辞職するかしないかということは、この際私から御答弁をする限りでないのであります。
  38. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 イギリスにも家族に特別な治外法権を与えておる例があるという説明ありますが、われわれはそういう説に承服できません。どこか何とかいう小さい島一箇所が飛行機の基地になつておる。そこだけにおいてさような取扱いをやつておるだけの問題であります。日本のように属人主義で日本の北海道から九州の果てに至るまで、アメリカ人の家族までが特権を特つておるなどという協定イギリスにはないはずである。それがもしおありになつたら示していただきたい。どこか小さい島に限られておると私ども考えておる。なおさようなことはそれまでといたしましても、今申しましたような国連軍の代表で国際連合統一司令部というようなものができた。これもアチソンと吉田交換文書の中に現われて来ておる。それが今発動して来て、アメリカ大使等とともに国連軍の代表というようなことでわれらに臨んで来ておるのであります。かようなことはもうずつと遠く昔に布石がみな打たれて、その総決算がここに落ち込んで来ているのである。私どもはあなたに辞職する意思がないかどうかを聞くことは、岡崎勝男個人に対しましては、はなはだ同情いたしますけれども、吉田内閣の外務大臣としてもし国連軍との間にかようなアメリカと結んだような、同じような行政協定ができるとするならば、—政府が和解と信頼の条約なりとしてたいこを打ち鳴らし、国民の問にちようちん行列だ、旗行列だという気分を起させ、それが先例となつて、エチオピアの果てに至るまでみなそういう条約を結ばなければならないというようなことになりましたならば、一体政府は何の責任を負われているのであるか。しかも終始一貫われらは強力にこれに反対して来た。それに耳を傾けずして、国民を欺き、そしてあらゆる軽薄な宣伝をやつておる。それが今日今度は諸君を責めておることになる。どこに一体和解と信頼があつたのか。どこに民族の独立があつたのか。日本全国六百幾つの軍事基地を設定せられ、そして治外法権を設けた。今度は世界の十七箇国がみな同じような条約を締結しようとしておる。どこに一体民族の独立があるか。さようなことに対しましてわれわれは極力反対したのである—しかるにわれわれの反対をまるでへのかつぱとしてけ飛ばして、そして国民を欺瞞して今日まで来たのであります。それだから今度こういう条約をやつたとなれば、欺かれた国民が承知しません。あなた方は漫然として、それでその地位にとどまつているのであるかどうか。もし漫然としてとどまるとするならば、厚顔無恥驚くべきものである。いさぎよく辞職して罪を天下に謝すべきである。これはわれわれが過去幾多の非難攻撃を顧みず、こういう結末を予見して反対して来たのだ。傲慢不遜なる態度でわれわれを一蹴し、今になつて国民に発表して、国民とともに外交をやるのだということを言い出して来たつて、もうそれは遅いのです。もう手遅れです。あなた方はやめる以外に道がない。あなた方にもう一度はつきりした心境を訴えてもらいたい。真にやむを得ない状態であるならば、率直にそれを訴えてもらいたい一われわれ断じて許すことはできない。その責任をどうするのだ。実に今までの吉田内閣の外交というものは、国民をばかにし、外交のことはおれにまかせておけというような態度で、われわれの言うことをまるで鼻であしらつて今日まで来た。その総決算が今です。あなた方はその政治的責任を感じて辞職するか、二者一を選ぶべき時期が今来た。もう一度あなたはもつと政治的良心に基いて、ここに落ち込んだことに対する不明を謝し、今後いかに国民の真意に基いて突貫するか、その決意を明らかにしていただきたい。今やめろというのではありません。これがほとんどわれらの各党一致の要望であるが、これが一体外交交渉において成就しなかつた場合に、どういう責任をとるか、その点を今から明らかにして—今やめろと言うのではない。今やめろと言つてはあなたが困るかもしれないから、今やめろと言うのじやないのです。このわれわれの愛国心の発露である、こういう不平等の特権を外国軍隊に持たせることに対して反対する国民の要望を貫くことができなかつた場合に、あなたはどういう処置をとるかくらいは、決死の覚悟で当つてもらいたいから、私はこの要求をする。それははつきりさせておいた方がいいので、もう一ぺんあなたの所信を伺いたい。
  39. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 実はもう時間がありませんから、簡単に申しますが、第一には、先ほど何か小さな島にだけ限るようなお話がありましたが、私は英国におけるアメリカ軍軍人、軍属及びその家族については、英国全国に対しまして同じような待遇が与えられておると考えております。その根拠は、御必要とあればこの交換公文その他の条文をもつてお示しをいたします。なお猪俣君は非常に早急に、もう国連軍主張に同意するのであつて、それが今までの悪政の総決算である、こういう結論のようでありますが、私は今までるる御説明しておりますように、まだ結論は出しておらない。結論には来ておりませんが、でき得る限り今後も日本側考え方を明確にして、先方理解を得るつもりでおります。まだ辞職の問題は少し早いように考えておるのであります。また猪俣君は当初から、その属している党の立場からでありましようが、こういう条約等に反対しておられまして、お説はその当時から伺つておりますが、われわれは猪俣君の考えに同調しておるわけでないのでありまして、平和条約は結ぶべきものであり、また日本に国を守るだけの力がなければ、残念ながら安全保障条約を結ばなければならなかつたということで、これは私は国民理解と支持を得ておると考えております。その総決算がここへ来たというのは、その筋道が違うと思つております。しかしこれは議論になりますから、その点はやめまして、今の御質問の二点につきましては、英国は全部において家族に対してひとしく待遇を与えておる。島とか一地域に限つておらないという点と、辞職の問題はまだ少し早いので、ただいまお答えする限りでないということだけを申し上げておきます。
  40. 田嶋好文

    田嶋委員長 この場合委員長としても一言発言いたします。政府においては各委員の強い要望を体し、国連軍との交渉にあたりましては、最善の努力を払われんことを望みます。
  41. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 一九五二年五月三十一日、マーフイー大使あて吉田書簡なるものは、これを発送する前に、当時は法務府でありましようが、法務府と相談なさいましたか。なさいませんでしたか。
  42. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 もちろん法務府と相談をいたしました。
  43. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 ところが法務府の刑政長官から出した依命通牒によると、どうもこのマーフイー大使にあてた吉田総理大臣の書簡の内容と、それから刑政長官の依命通牒の内容とは、私は違つておると思う。非常に違つておる。われわれ巷間承るところによると、これは吉田書簡は法務府の関知せざるうちに出した。法務府としては吉田書簡の出る前に、もう国連軍将兵不法行為犯罪行為に対する取扱いにつきまして、詳細なる刑政長官の通牒が出ておる。その後まるでそれと反対のような意味のマーフイーあての書簡というものが出た。そこでまた刑政長官はマーフイー書簡が出た後に、また依命通牒を出しておる。しかしこの依命通牒を見ても、この吉田総理大臣のマーフイー書簡とは相当違つておる。法務府と外務省と十分なる意思連絡の上でこのマーフイー書簡が出されたものとはどうしても思われないのですが、その間の実情はどうなんですか。
  44. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 私はこれで時間もありませんから失礼させていただきますが、私は自分で法務総裁とも相談をいたして、あの手紙はつくつたのであります。なおそれと法務府の通達が違つておるかどうかということは、私は食い違いはないと思いますが、この点は法務府の関係でもありますから、法務府の方から御説明を願うことにいたします。
  45. 田嶋好文

    田嶋委員長 先ほど打合せ申し上げましたように、外務大臣と申合せの時間が参りましたから、これで外務大臣に対する質問は打切りたいと思います。
  46. 清瀬一郎

    ○清瀬委員 ほんの一言でわかることですから……。あなたが安全保障条約に属する行政協定交渉された際、あのNATO基準と違う基準でおまとめになりましたね。あのときには、すでに連合軍との今日の問題も予見できておつたのです。吉田・アチソン交換公文もあることであります。世の中でも朝鮮派遣軍の地位というものが問題になることはわかつておつた。それゆえにあの行政協定に属する裁判管轄を相談される際、これは安全保障だからこうしておくのだ、朝鮮に派遣された連合軍のことはこれを先例にせぬといつたようなことを、公にか私にかお話なさつたことはないのでありましようか。
  47. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 これは先ほど申しました通り、実はあのときに一緒につくりたかつたのであります。そのときには、これはこれ、これはこれと別なものを二つつくりたかつた。従つてその趣旨はむろん向うにも話しておることであります。しかし根本的に今まで来ておりますような考えの方の違いが、先方にもこちらにもあるものですから、片方の方はまとまらなかつた。それで今日まで来た、こういうわけであります。
  48. 清瀬一郎

    ○清瀬委員 そうすると向う側の代表として、スポークスマンとおつしやたが、マーフイーはあとから出て来る朝鮮における連合軍は安全保障軍と同じようには行かぬということは知つておるはずですね。
  49. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 そのときはマーフイ一大使じやないのでありまして、シーボルト大使でありますが、こちらがそういう気持であるということはむろん知つております。先方は別にそれに対して賛成とは決して言つておらなかつたのであります。
  50. 清瀬一郎

    ○清瀬委員 いわゆるげたが預けてあれば、それを痛切に主張なさる必要があろうと思います。前の条約をつくつた時分には、協定をつくつた時分には、これは先例にせぬということを国内輿論もあり、すでに言つてあるではないかということはひとつねじ込んでもらいたい、その希望だけなんです。
  51. 岡崎勝男

    岡崎国務大臣 それは今申した通り先方では私の言つたことを了承してはおらないのです。こちらは言つただけで、何べん言つても向うとその点は話がつかなかつたのです。従つてこちらはそのときにもうこう言つておるのでないかと今でも言いますけれども、いや別にあのときに承知したわけではないのだという立場をとつております。
  52. 田嶋好文

    田嶋委員長 発言の通告がありますから順次許します。これは犬養法務大臣に対してです。松岡松平君。
  53. 松岡松平

    松岡(松)委員 犬養法務大臣にお伺いいたします。今ほど外務大臣から治外法権である、ない、というお話でございまして、外国軍隊軍人、軍属及びその家族に対する犯罪行為についての裁判権を付与するという問題は刑政的なことであつて、しかもこれは治外法権的なことではないということをおつしやつたのに対して、私はこれに強く反対いたしておきました。この点について私ども考えはあくまでこれは法権に対する束縛であり、制限であり、同時にこちらの裁判権を放棄することになりますから、やはり治外法権を付与したものと私は考えるのであります。これは非常に重大な問題でありまして、先ほど外務大臣に申し上げました通り日本国民日本に駐留いたしますあるいは滞留いたします軍隊軍人、軍属並びにその家族から被害を受けたる者並びにこれを中心として、国民はこの裁判の帰趨について重大なる利害とまた関心を持つわけでありまして、一例をあげますと国内において平沢事件、これはおそらく国民全体がどうなるかということを常に関心を持つておる、ましてや外国軍隊から、外国軍隊軍人、軍属並びにその家族から受けたる不法行為に対する関心というものはきわめて重大なものである。かの英水事件のごときは全国津々浦々、おそらく新聞を読むこともできないような人ですら、これは問題にいたしているのであります。この消長のいかんは国の盛衰に関することであり、国民意識の上に重大なる問題があるのでありまして、外務大臣考え方に対して、私は先ほど強く反対いたしておきましたが、重ねて法務大臣に対しましても、この点についての御所見を承りたい。これはかなり重大な問題であります。先ほども申しましたように、わが国の近世国家としての発展過程を見まするに、一番悩んで来た問題は治外法権の問題であります。外国の領事裁判権を付与し、さらに関税権に対して制限を加えた徳川末期条約が、明治政府に承継せられて以来、明治時代の政治の中心というものは、ここに集約されておつたことは御承知のことであります。ことに大臣の御尊父のごときは、この問題に対して死力を尽されたことは、大臣も御承知のことでございます。今再び日本が終戦以来の窒息の状態からようやく解放されて独立国なつた。まことに歴史はめぐるといいまするか、また再びかような問題に逢着しておるということは、一種の運命的なもののように私は考えられるのでありますが、それゆえに私どもは連合諸国家人々考える以上に、わが国民としては重大な問題であります。これに対する御所見を私は求める次第でありまして、先ほど外務大臣がおつしやつたよりに、国連に対する協力というものは私は国民とともになさなければならない。しかし私はこの前の際に、大臣がお帰りになつあとでしたが、条約局長にもお話したのでありまするが、この協力援助というものの範囲は、軍人、軍属、家族がその滞留する国において犯した犯罪についての裁判権を与えることが、国連軍に対する協力援助というものの範囲に入るものではない。これについて法務大臣はどうお考えになつておるか。これを協力だ、援助だと考えることは牽強附会である。しかも私をして言わしむるならば、わが国が少くとも文明国であり、戦いに敗れたりとはいいながら、文明国たる点においては、われわれは自負を持つておる。おそらくアメリカ裁判イギリス裁判わが国裁判を比較して、何ら遜色ないものであります。しからば先方において、わが国に刑事裁判所を設けてこれを審判しなければ承知できないというのならば、わが国裁判の、文明の度合について疑いを持つのか、その構成に疑いを持つのか、その取扱いに疑いを持つのかどうか、あえて私どもは反問したいのであります。一種の劣等民族のごとき考えを持つて、その裁判に対して信頼を持たぬというならば、これは大きな問題であります。およそ日本裁判は少くともアメリカイギリス日本を比較した場合に、一体いかなる差異があるか。私は差等を認めがたいものがあり、まさつておるとは言いがたいが、劣つておるとは言えない。しからばその軍人、軍族、家族がわが国内においてわが国民に対して与えたる犯罪行為を、日本裁判所が審判することは一向さしつかえない。それを自国においてどうしてもやらなければならぬということは、その背後に、その根底に、民族的な、要するに日本民族に対する劣等的な考えを持つて臨んでおるということを私どもは見のがすことができない。どうぞ法務大臣におかれまして、これに対する忌憚のない、そうして日本民族の一員としての立場から御所見を承りたいのでございます。
  54. 犬養健

    犬養国務大臣 松岡君にお答え申し上げます。法務省といたしましては、冒頭に御説明いたした通り日本政府が昨日午後四時発表いたしました内容、今朝皆さんが新聞で御承知の内容、そこに明記してありますごとく、特殊の場合を除いて、原則的に優先的裁判権を認めさせたいこういう主張を持つているのでございます。ただ国際連合軍が日本と非常に関係の深い、利害関係の深い土地において死力を尽して戦つておる。それに対する友好国としての態度といたしましては、できるだけ個々の刑事裁判権発動の場合に、その扱いを丁寧に、友好的にするということはしたいと思つておりますが、刑事裁判権については、昨日政府日本案として提唱いたしました内容を実現いたしたいと考えているものでございます。先ほど岡崎外務大臣松岡さんとの質疑応答の中に、ちよつと両方食い違つているのじやないかと思うのでありますが、法権が制限を受けるというその観点から見ますと、治外法権も、今度の国連軍に対する刑事裁判権のあり方の問題も同一の問題に属すると思うのであります。ただ治外法権ということになりますと、私の知つている限りでは、軍人、軍属、家族のみならず、一般外国人が全部例外なしに外国裁判に服すというのでありますが、ただいま国連軍との刑事裁判権のあり方ついていろいろ会談中であります問題については、これは軍人、軍属及びその家族をどうするかというのでありまして、そのほかの一般外国人は現に日本裁判でこれをやつているのでありまして、その点多少の差異がある。しかし日本国の法権の制限を受けるという点では、両者同一と思うか、思わないかという観点からの御質疑であれば、同一であると思う。しかしもつとつつ込んで論じますと、両者に差異がある、こういうふうに私は考えております。
  55. 松岡松平

    松岡(松)委員 今の大臣お話は一応ごもつともでございますが、私の申し上げるのは、法権の制限は、いずれの場合でも法権の制限でありまするが、岡崎さんのおつしやるのは、これはいわゆる治外法権ではない。しかしながらいわゆる治外法権ではない一般外国人に対する裁判権は、その外国人の所属する領事裁判でなさしめるのが治外法権だというふうに主張しておられますが、それは一面でありまして、外国軍隊が公務執行外において行う犯罪行為についての裁判権を与えるのも、これもまた一つ治外法権なりと私は主張しておる。そういうふうに、かりに理論上の定義、名目は別にいたしましても、国民はそう考えている。従つて国民考えている多数の考え方をそうではないと言つたたところで、これは承知するものではないのです。ですから、国民はこれを治外法権の問題として取上げております。ですから、ただこれを法権の一部制限であつて治外法権ではないと政府がなんぼお言葉を強調せられても、おそらく日本国民の大多数の人々はそれを受入れません。これは私の単なる主観的な言葉でなくて、おそらく国民の声だと思います。また新聞もさようなお取扱いをなさつている。これは問題の出ている焦点は小さいように見えるかもしれませんが、そこに横たわつている基底というものは大きい。要するに国民は、独立国になつて自分の国が外国人に荒された、その荒された犯罪自国裁判できぬということは、これはなかなか承知できないことです。これはまた国権一つの発動であります。国権が発動して国家権力の威力というものが生れて来るので、国家権力というものは、衝撃が起つて来ないと具体的に国家権力の威力というものが生れて来ないのが普通であります。音もなく、風もなく、何にもなければ、そこに国家権力というものは発動を生じて来ない。こういう場合が起つて初めて国家権力の威力が現われる。外国に行つてその国から圧迫を受けて、領事が来てただちに出してくれる。なるほど日本国というものはありがたいものだという感じになります。われわれがかつて外国へ行きました時分に、軍艦が海上に堂々と威容を並べておるところに、日本帝国ここにあり—はなはだ古い言葉を私は特に使いますが、こういう感じを私どもはかつて持つた。それが国権の発動であります。それと同様に、今の場合において、日本国内において日本国民外国国連軍軍人、軍属、家族から危害あるいは暴行なりあるいは侮辱を受けた場合に、その裁判自分の国に訴えるのがあたりまえである。そして自分の国の法律によつてこれを処罰してもらうのが普通であります。ですから、これに対する制限はやはり治外法権と私ども考えざるを得ません。学者がこれを定義して何と言われるかは別問題でありまして、政治は常識的に物事を取扱うべきもので、学者の考え方をわれわれは受入れなくてもよろしい。その意味で申上げておるのでありますから、どうぞそういうふうにお考えを願いたいと思います。
  56. 犬養健

    犬養国務大臣 ただいまの御趣旨はわかりました。要するに、松岡さんのおつしやりたい重点は、治外法権とは法的解釈において違うという言葉の陰に隠れて日本国民国民感情政府は無視するような傾向に行くんではないか。それではまことに困る。こういう御趣旨のように承るのでありますが、これは御同感でございます。冒頭に申上げましたように、要するに日本国民国連軍というものに親愛感を持ち、同じ自由国家群に属して自由世界を実現しようとしておる共同目的のために命を的に日本の近いところで働いてくれておるのだという親近感を持たせることが目的でございますから、それにさからうような国民の状態というものは政府の措置としてはつくりたくない、こういう考えであります。ですから、繰返して申し上げますが、治外法権と法的解釈において違うという美名のもとに隠れて、国民感情にさからうような措置はいたす心持がございませんということをはつきりお答えいたしたいと思います。
  57. 松岡松平

    松岡(松)委員 大臣から今のお言葉を伺いまして、重ねて申上げたいことは、きようの新聞紙上を見て、国連軍側の意向の中に出ておる極東の安全という問題であります。それは向うは人と金、極東の安全擁護—そこで私ども考えて行きますと、アメリカ日本国内に軍隊を駐留し、わが国防を守を守つておる。これは一応国民の大多数は認めておる。そこへ国連というものが出て来て、朝鮮という問題が出て来て、極東の平和、この大きな輪をここに描きながら全部が同等の立場というふうに取扱われて来るきらいがある。これは非常に明確にしなければならぬ問題で、朝鮮の騒乱とわが国国防ということと関連なしとは言えません。しかしながらこれはひとり極東だけの問題だというふうに押しつけられておる。そしてことにこの利害は日本が一番持つているのだ。日本国防がひいては朝鮮にまで及ぶのだというふうな考え方がほのぼのと見えておる。これは私どもは非常にきらうところであります。明確にせられなければならぬことは、朝鮮の問題は、先ほど申し上げましたように、それが世界の問題である。極東だけの問題ではない。世界の問題であるから、国連に参加しておる世界各国がこの朝鮮作戦の問題に参加せられておるのである。何も極東の問題だからといつて限局せらるべき理由はない。そういうふうに押しつけて、アメリカの持つておる特権を国連軍がまた持たなければならぬ。先ほど猪俣氏からお話があつた通り、エチオピアまで域を及ぼして行かなければならぬということは、やがては全世界各国に対して及ぼして行かなければならぬ問題になつていると私は思う。あえて言うならば、わが国と未調印国であるところのソ連や中共までもこれが及んで行くことに相なる。立場をかえて言えばそういうことになる。おそらく問題はかなり大きな問題になつて参ると思うのでありまして、アメリカ軍日本に駐留する目的と、国連軍日本の領土を基地として利用している場合とは、まつたく違う。朝鮮作戦における基地を利用し、あるいは休養のために帰つて来る、あるいは家族をそこに置くために帰つて来るという場合と、日本国防を守るために、直接アメリカ軍隊わが国内における場合とは、全然違うのであります。この点について、私どもは観念を明確にしなければならぬ。観念を明確にしなければならぬということは、やがてこの問題が大きな波紋を描いて行く可能性が十分ある措置を持つた問題である、私はこう申し上げたいのであります。
  58. 田嶋好文

  59. 小畑虎之助

    ○小畑委員 外務大臣にお伺いしたいと思つてつたのですが、お帰りになりましたから、法務大臣にお開きしたいと思うのであります。  今松岡君の御質問に対する御答弁の中にちよつと聞き漏らしたのでありますが、この条約が成立しなかつた場合にどうなりますか、この問題に対するわが国の地位はどうなりますか、このことでありますが、たしか法務大臣は、この条約が成立しなかつた場合は、今問題になつておりまする点につきましては、わが国裁判権がある、こういう方針のもとに取扱つておる、こういうことをお答えになつたように思うのでありますが、そうでございますか。
  60. 犬養健

    犬養国務大臣 私はこのとりきめが成立しなかつた場合を予想して御答弁はしてございませんが、何か行き違いではないかと思います。
  61. 小畑虎之助

    ○小畑委員 ちよつと聞き漏らしたので伺つたのでありますが、それではもしこの条約が成立しなかつて場合において、国連軍の刑事犯罪に対するわが国の取扱いの方針についての、法務省の方の御意見を伺いたい。
  62. 犬養健

    犬養国務大臣 御質問になるお心持は了承いたすのでありますが、どうも外務省が一生懸命で折衝しているその最中に、国務大臣が、しくじつた場合の用意はどうなつておるかということに対する御答弁はちよつとしにくいので、まことに相済みませんが、控えさせていただきたいと思います。
  63. 小畑虎之助

    ○小畑委員 先方主張によりますと、ヨーロツパにおいても、軍人に対する裁判権は、軍隊の派遣国が持つておるのが原則であるということを申しておるのでありまするが、私どもは寡聞にいたしまして、かように徹底したところの原則がヨーロツパにあるということを考えないのでありますが、法務大臣はどういうふうにお考えになつておりますか。
  64. 犬養健

    犬養国務大臣 これは私もただ専門家から聞とつただけでございますから、誤りがあるならばあと政府委員をして訂正させたいと思います。私の聞いている限りでは、最近ヨーロツパにおいてはそうなつておるということでございます。察するのに、あまり多くの国の軍隊が錯綜して、同一地点またはその近傍地点におりますので、この状態の推移を見て、一番便宜な方法としてそういう方法をとつたと思います。しかし日本外国軍隊を出しておるような状態にはまだなつておりません。日本の場合といたしましては冒頭にお答えをいたした通り、昨日政府が発表いたしましたあの線を堅持したいと思つております。
  65. 小畑虎之助

    ○小畑委員 外務大臣おられぬようでありますが、十二日に外務大臣が談話として御発表になつたんだろうと思いますが、新聞で見るとこういうことがあります。「国連軍側主張の中にはもつともな点もある、たとえば、国連軍朝鮮から撤退すれば、日本は重大な脅威にさらされることは事実であり、また平和条約第五条において国連に対してあらゆる協力」を約束しておる。これは当然の日本の義務である。こういうことをおつしやつておられるようでありますが、新聞の記事でありますから、外務大臣が責任を持たれるかどうかわかりませんが、私はこのことにつきまして今各委員からいろいろお述べになつておりますから、重複した議論をする必要はないのでありますけれども、吉田アチソン交換公文及び平和条約第五条、これによるところの義務を日本がが負担いたしておりますことは、それはその通りありましようが、この義務というものは法律上の義務であると思うのであります。そこで日本がNATO方式の条約主張いたしておるということがこの義務に矛盾する、こういうことを向うさんの方で主張しておるようでありますが、法務大臣どういうふうにお考えになりますか。
  66. 犬養健

    犬養国務大臣 これは厳密に申すと私の範囲ではございませんけれども行政協定を結びましたときに、一方においてNATO方式というものが別にありまして、でき得ればそこにNATO方式の形に参りたたい、こういう気持が両者にあるのでありますが、NATO方式にのつとるということは、NATO方式がまだ各国国家の批准を得ておりませんので、国としては表向きに言えないはずであつたと思うのであります。しかしNATO方式が天下晴れて、各国国会の批准を得た場合には、お互いにその方式にかわつて行こう、こういう気持があります。その結果こういうとりきめになつたものと了解しておるのであります。
  67. 小畑虎之助

    ○小畑委員 重ねて伺いますが、日米行政協定に定められました裁判権の帰属の問題でありますが、この線に沿つたものが国際法のただいまの原則である、こういうことにお考えになつておるのではもちろんなかろうと思うのでありますが、重ねて伺いたいと思います。
  68. 犬養健

    犬養国務大臣 これは日米間の特殊の事情によるものと解釈いたします。
  69. 小畑虎之助

    ○小畑委員 いや、そのことはわかつておるのでありますが、ただいまのお話によりますと、ヨーロツパにおいてはこういう場合に派遣国側に刑事裁判権がある、こういうことになつておる。こういうことになつておるというお考えでありましたら、それがすなわち国際法ではないかと私は思うのでありますが、法務大臣はそういうお考えでありますか。
  70. 犬養健

    犬養国務大臣 これは国際法というのではなくて、いわゆる国際慣行が事情によつて変化したのである。こういうふうにもしヨーロツパにおける状態が、私が先ほどお答えした通りが正確であるとするならば、国際慣行が変化した、こういうふうに解釈いたします。
  71. 小畑虎之助

    ○小畑委員 私は法律の専門家ではありませんけれども国際法というものは条約によつて生ずるものもあり、慣行によつて生ずるものもあると思うのでありますが、もし最近ヨーロツパにおいて、あるいは全世界において、そういう慣行がどんどん条約の形によらずして実際上行われておるということになりますれば、それを日本側が認めるということになると、これはいわゆる国際法がそうなつておるのだ、国際法の原則は派遣国側に裁判権があるということを、日本政府自体が認めたことになるのではないかと私は思うのであります。私の考えは間違つておるのでありましようか。
  72. 犬養健

    犬養国務大臣 私の解釈では、確立されている国際法が変化を来したと見ておりませんので、ヨーロツパにおける現地の実情にかんがみて、国際慣行に変化が来ておるというのであります。それはヨーロツパの事情でありまして、私どもは、日本における事情は、昨日政府の名において発表しましたあの線が妥当なりと、こう考えております。
  73. 小畑虎之助

    ○小畑委員 先刻この交渉が妥結を見なかつた場合に、どうなるかという問題につきましてお答え願いました点、ごもつともに存ずるのであります。外務省の方で一生懸命に交渉しておる、法務大臣が今一人で意見を述ぶるべきものでないという御意見、ごもつともと思うのでありますけれども、私ども考えまするのは、何らかの条約が成立しなかつた場合に、条約のない状態におきましては派遣国側に裁判権があるということが、これは原則であります。その原則に対する例外となるべき特殊の理由がない以上は、どこまでもそれで行くべきものである、かように考えるのであります。もし日本政府が、この原則を認むるということになりましたならば、あえてこの条約が成立しないでも、日本側国際法上の原則によつてこれを認めることができる。これはりくつの問題でありますが、実際問題といたしましては、国交の円満の上から言いましても、実際の取扱いといたしましては、考えがあることはもちろんでありますが、今日の国際法上の原則が、派遣国側に裁判権があるか、それから受入れ国側に裁判権があるか、この問題が根本をなすのであります。日本の法務省といたしましては、まずこの見解を明らかにしてもらわなければいけない。これが明らかになりますというと、私が冒頭に質問をいたしましたところの解決はつくのであります。しかしこれは法務大臣だけではちよつと答えられないとおつしやるのでありまするが、私どもはこの交渉の成行きを見守つておりまして、どういうことになるかということに非常に心配をいたしており、関心を持つておりまするが、われわれがまず最後にはらをきめてかからねばならぬことは、妥結に至らなかつた場合をどうするかということの問題であります。この次の委員会におきまして、外務大臣が御出席になりまして、外務大臣質問をいたしてみましても、外務大臣から日本の法律を適用しようということについてのお答えはあるはずはない。われわれは一体どこへこれを聞いたらいいかということになるのでありますが、どこへ聞きましても、しばらくは答えられないということであるのでありましようか。また本会議等において吉田総理大臣に伺えば、このことが明確になるのでありましようか。本問題を審議する上におきまして、われわれの意見を決定する上におきましては、日本側が原則として裁判権を持つか持たないか、この長解が基礎をなすものであると私は考えております。御意見を伺いたいと思います。
  74. 犬養健

    犬養国務大臣 お答えいたします。昨日発表しました政府考え通り、原則としては、優先的に裁判権があると考えておりますればこそ、いろいろ苦心をしているわけでございます。ただそれにプラス日本国連軍の友好関係を、原則的に確立されている刑事裁判権に、どの点でどの程度及ぼすかということが、今の会談の主要議題になつております。基礎は、あるべき刑事裁判権にどのくらい影響を与えるかという問題であると思います。ですからこれで御了承願えると思います。  もう一つは、小畑さんが国民の代表として、万一この会談が成立しなかつた場合の御心配をなさることは、国民代表として当然でありまして、あらゆる場合を考えるということは、お互い政治家の責任だと思いますが、しかし国務大臣といたしましては、しくじつた場合はこういう用意があるというような御答弁はしにくいのでありまして、この点はひとつ御了承願いたいと思います。
  75. 小畑虎之助

    ○小畑委員 またこれは外務大臣の話でありますが、「現行国際法でも、たとえば兵舎内や軍隊として行動中の事件については、派遣国の軍当局裁判権を持ち、」ここまではこれはわかつておるのであります。「軍人が純然たる個人として行つた犯罪については、受入れ国に裁判権があることは明らかだが、徴妙な点になると不明確である」こういう結論がついておるのであります。この微妙な点というようなことはたとえば先般起りました神戸の水兵事件は、われわれが考えて微妙な点は一つもないのであります。それから前に申しました平和条約第5条と交換公文との結果、当然の義務を負担しているのだから、この義務にもとるというこの外国側の主張にもつともな点がある。かようなことを御発表になりまして、この記事を見ましたわれわれの頭にまつ先に響いたことは、これはどうも交渉の成行きの雲行きが悪い。外務大臣は一生懸命うしろを向いて、外務大臣にむちうつて応援しておるところのわれわれ国民を納得させよう。向うへ向つて交渉をするのでなくて、うしろを向いてこういうわけだから、向さんの言うことにも理由があるのだ、強く行けない、われわれの言うことは無理である、というところまでは申されないのでありますが、向うさんの言うことに理由がある。こういうことでもつて、うしろに向つて国民を納得させようということに、一生懸命になられているのじやないかというような考えがわれわれの頭に響いたのであります。私は、今日大多数の国民が、今なさつておりますところの外交交渉は手ぬるいじやないか、どうも政府はもう結論をほとんど持つてつて国民を納得させ、あるいは国民の承認を得るということの工作のためにいろいろ御苦心をなさつているのであつて、われわれ国民の声を伝えて、そして先方に向つて毅然たる決意と信念を持つて交渉になつているのじやないじやないか、こういう感じがするのです。私はそうだというわけではありませんけれども、こういうことを御発表になると、国民はそういう感じを抱くのでありますから、どうぞ今後は外務大臣におきましても、その他政府全体におきましても、よほど御注意になりまして、真に国民の声を代表して—今までは秘密外交であつたかもしれないけれども、これからは国民外交でやつて行くのだ。諸君の声を映して、われわれは外交交渉を行うのだ。原則としてわが方に断じて裁判権はあるのだ。この信念を持つて外交交渉にあたつておるのだ。このことを単なる作文だけでなくてほんとうに誠意を持つて国民にお示しになることが必要だと思うのであります。私どもは当委員会でこの問題にまだ終止符を打つわけではございません。やがてはこの委員会といたしましても適当なる議決が行われることであろうと思うのでございまするが、われわれはあくまで日本裁判権がある—微妙な点についてはというようなことは、それは例外があるかないか知りませんけれども、英水兵事件のごときは微妙な点は一つもない。だからわが国裁判権があるのだ。この信念を—そうは言うておるけれども、実際は向うさんのおつしやることにもつともなところがあるのだという考えでなく、毅然たる態度をもつて交渉を進められんことを切にお願いをするのであります。これは質問じやありませんから答弁はけつこうであります。
  76. 大川光三

    大川委員 ただいま、国連軍協定が不成立の場合を予想してあらかじめ法務大臣としての意見を申し述べることはできない、これはごもつともと存ずるのであります。ところが本日手元に配付されました刑政長官発のいわゆる「在日国連軍将兵の刑事事件に関する取扱基準」このうちでその第二に「第一に掲げる場合を除き、国連軍将兵が犯した刑事事件については日本側の、裁判権がこれに及ぶものであるから、すべてこれを立件して処理するものとする」かような通牒を発せられておるのであります。いわゆる日本側裁判権がこれに及ぶものであるというその根拠を法的に承つておきたいと思うのであります。
  77. 岡原昌男

    ○岡原説明員 本日お配りいたしました取扱基準は、一昨日お求めがございましたので、印刷して御配付申し上げた書類でございます。御指摘の第二の裁判権の所属につきましては、私どもといたしましてはこれが確立された国際公法の原則である、さように理解して表示いたしたものでございます。
  78. 大川光三

    大川委員 かの国際的な注目を浴びた神戸の英水兵強盗事件の控訴審の判決が下されました。今月の五日に法務大臣はその談として新聞紙上でこういうことをおつしやつております。この判決で独立国にふさわしい日本裁判権も認められ、一方国際的な慣例も尊重され、満足の行くものと言えよう、という記事が掲載されておりますが、これは法務大臣の御趣旨を了承してよろしいでしようか。
  79. 犬養健

    犬養国務大臣 その記事はどういう新聞だかよく覚えておりませんが、大体そういう趣旨のことを申したことは事実でございます。従つて国際公法に基いて日本刑事裁判権があるということもただいま考え方にかわりはありません。問題は国際慣行としましては身柄取扱いの問題についてできるだけ円満にやろう、こういうところにわれわれが考慮を払つたのであります。さよう御承知を願いたいと思います。
  80. 大川光三

    大川委員 ただいまの御答弁でありますが、この新聞の御発表を見ますると、この判決で独立国にふさわしい日本裁判権が認められたというのは、日本裁判所が日本裁判権があるということを認めたというのか、あるいは英国とかあるいは被告人とかいうものが、日本裁判権を認めたというように解釈すべきかに実は疑問があるのですがどうですか。
  81. 犬養健

    犬養国務大臣 どうもそれは私が書いた、私の責任をもつて署名して発表したものでありませんから、その文章で一々御追究があるのは私も迷惑と言つては少し言葉が強過ぎるかもしれませんが、一々責任がとれません。要するにあなたの御心配のこの裁判が初めなかつたかもしれない日本国際法上の当然持つべき権利がわれわれにもどつた、まことに慶賀にたえないという意味でないことだけは御了承願いたいと思います。
  82. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 法務総裁が法務大臣にかわられて法務省という機構になつたのでありますが、これは私は研究が足りないのでお伺いするのです。前の法務総裁は、内閣の法律顧問となつてつたのであります。法務大臣になつてもやはり時の内閣の法律顧問たる権限がおありになるのであるかどうか、お尋ねいたします。
  83. 犬養健

    犬養国務大臣 私は法務省の事務を、統轄しておるものでありますが、内閣法律顧問ということについてはあまり聞いたことはありませんが、ともかくも法律関係の事務を総轄しておるものでございます。
  84. 岡原昌男

    ○岡原説明員 法務府設置法がかわりまして、法務省設置法になりましたとたんに、従来法務府にございました法制意見長官部内の四局がなくなりまして、内閣法制局ということに移りましたので、従いまして従来内閣の法律顧問的性格を持つておりました法務府はその限度において法務省してはなくなつた、かように理言しております。
  85. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうするとたいへん地位がかわられたのでありますが、しかしこういう司法関係については第一次の責任の地位におありになるわけであります。そこで今法務大臣が受入国と派遣国との刑事裁判権に関する問題についてヨーロツパの方に第二大戦後新しい慣行ができたということは聞いておるというお話でありますが、私どもはさまうな慣行というものはまだいわゆる国際慣習法になつておらぬ。国際法の原則にはなつておらぬ。ヨーロツパの特殊的な事情に基いて一時さようなことが行われておつても、万国を通ずる国際法の原則ではない。なおまたわが憲法第九十八条の二項「日本国が締結した条した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」これがもし確立された国際法規ということになりますとわれわれ遵守しなければならぬ義務が発生するのでありますが、今ヨーロツパに行われておるのは慣習法じやない、単なる一時的の慣行である、だからこれが憲法の「確立された国際法規」とは認めがたいと思うのでありますが、法務大臣の御所見いかがですか。
  86. 犬養健

    犬養国務大臣 さように存じております。ヨーロツパにおいて行われております状態は国際慣習でありまして、まだ国際慣習法というものになつていないように承知しておりますが、しかし一方において国際慣習法的な傾向を帯びつつあると思つております。しかしこれは冒頭に申し上げましたように、わが国において現在起つております国連軍との話合いの場合におけるわれわれの考え方は、昨日政府が発表しました通りの線を堅持しておりまして、問題は別だと私ども考えております。
  87. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 次にお尋ねいたしますことは、先ほど外務大臣にお尋ねしたのでありますが、さきにアメリカとの安全保障条約第三条に基く行政協定を締結する際に、いわゆる刑事裁判権等につきましては、どうも十二分に法務府と意見の一致がなかつたやうに私聞いておるのであります。法務府側では相当な不満がある、そして十分なる連絡がないうちに行政協定なんというものが締結されしまつた、それに基くところの刑事特別法なるものが上程された、そのとき法務府と十分打合せはあつたでありましようが、法務府側としては答弁する際に非常に困つたような実情も私は漏れ聞いておるのであります。今回の五月三十一日に吉田内閣総理大臣の名において、マーフイー大使にあてた書簡というものは、十二分に法務府と交渉したかどうか。そのときあなたは法務大臣であられなかつたのだから、あなた自身は折衝にお当りにならなかつたでしようが、受継いでおられると思うのであります。かような書簡を出すことについて、十二分に法務府に連絡があつて、承認の上にこの書簡が発せられたものであるか、あるいは外務省が独断で発せられたものであるか、そこを承りたい。
  88. 犬養健

    犬養国務大臣 猪俣さんのお察しの通り、私の就任前のことでありますから、一々その場にいたような御答弁はいたしかねるのでありますが、未然に連絡のあつたことは事実であります。
  89. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうしますと、私どもはちよつとふに落ちかねるところがある。それは昭和二十七年五月十七日に刑政長官の名前で、「外国軍隊将兵に係る違反事件の処理について」という依命通牒が出ておる。これによりますと、今までわれわれが理解しておるところの国際法の原則にのつとつたその精神において、この通牒が出されて、結局外国将兵の施設外あるいは任務外の犯罪については、日本がこれを逮捕し、勾留し、裁判をやるという原則で貫かれておると思うのであります。これが五月十七日です、しかるにマーフイー大使に出した吉田書簡というものは、十二、三日たつてから、この通牒とまつたく根本的原則を異にするような通牒が出ておるのであります。この辺に私どもがはなはだ予解に苦しむ点が一点ある。しかしどうもあなたは私どもからすると張合いがないのであるが、そのとき当局者でなかつたので、これ以上追究してもしようがない。ところがなおわれわれが、法務府関係が十分納得しないで、こういう書簡が出されたと思うことは、この書簡が出された後におきまして、今度は法務府からまた六月二十三日付依命通牒で「在日国連軍将兵の刑事事件に関する取扱基準」というものが出ておるのであります。これを見ますと、原則としてやはり国際公法の精神にのつとり、国連軍側犯罪については日本裁判権があり、かつこれを逮捕、勾留することが原則的に書いてある。ところが吉田書簡は、原則は連合軍に引渡すのであるが、ごく重要な問題について多少例外がある。そういう重要な問題について身柄を勾留した場合にはさつそく国連軍側折衝するが、その折衝が四十八時間以内にまとまらぬ場合には向う側に身柄を引渡さなければならぬというような規定があります。ところがこの六月二十三日付で見るとまるで違つてつて、ことに殺人、放火、傷害致死、強盗、強姦というような罪を犯した者は日本が逮捕し、向うから要求があつても身柄を引渡すな、向うの方で国連軍側の憲兵が逮捕した場合でも身柄をこちらが要求して引取れという意味のものであつて、かかる犯罪について、四十八時間の間に身柄について協議がまとまらぬ場合には彼らに引渡すことを原則とするということはちつとも書いてない。そこでこの通牒の出た後にいわゆる神戸の英国水兵事件というものが起つたのであるから、検察庁としてはこの通牒に従つて、この通牒通りおやりになつたのであろうと思う。そうするとアメリカのマーフイーからは吉田書簡を持ち出されて反撃をされておる。そこで私はこれは非常に醜態だと思う。一体こういうような食い違いがどうして起つたか、あなたがお聞きになつたならば、十分に連絡した後にこういう書簡が出されたものであるならば、あの神戸事件みたいな醜態は大体起らなかつたはずである。今になつて十分連絡ができておつたなんというのは、今あとからお考えつきになつて口裏を合せたのじやないかと思う。みないけないことをする者は口裏を合す、だから一般犯罪容疑者はこれを勾留して調べるという手があるが、どうも国会として大臣を勾留するわけにいかぬし、口裏を合せておるが、しかし客観的事実はこういうふうに食い違いのあつたことを明らかにしておるのであります。あなたは就任前のことですから責めるわけにはいかぬが、これは今後のことについて、司法権の問題については法務省がしつかりしてもらわないと困る。  そこで私はなおお尋ねしたいのですが、今外務大臣は一生懸命にやつておられることは同情いたしますけれども岡崎勝男外務大臣という資格と、選挙違反の何か多少疑いがかけられておる資格と違うけれども、やはり肉体を備えておる一箇の人間である。そこでこういう国家の運命にかかわる重大問題を折衝なさる際に、どうもいつ起訴されるのかわからぬような、身辺に火のついておる外務大臣は、実に私は心配でならない。そつちの方にやはり頭が注がれて一心にやれないのじやないか、岡崎さんが外務大臣に任命されたときに私どもは愕然としたのです。そこであなたにお尋ねしたいことは、岡崎さんとは言わぬが、岡崎派の被疑事件というものが岡崎外務大臣に影響を及ぼすのであるかどうか、そういう見込みがついたらあなた方は閣内において早晩辞職を勧告すべきものだというふうに私は考えるのであります。  なお立つたついでに申し上げたい。あなたに念を押すことは、これははなはだデマだと思うのでありますが、あなたは法律についてはあまり今まで御研究のない方です。文化人としては著名な方であるが、こういうことをあまり今まで専門になさつていない方を法務大臣にすえたのは、選挙違反を恩赦にかけよう、いわゆる常識と法律をマツチさせようという深い考えがあつてすえられたというようなことを言う者がある。私はさようなことは信じませんけれども、さような疑いを持つ者もあるのであります。恩赦は私ども絶対反対で、幸にして選挙違反はその中に漏れました。世人はあなたの黒星だと思つておる。そこで岡崎さんの問題に移るのだが、あなたが一体選挙違反を恩赦の中に入れようと考えられるかどうかは、これは港間伝うるところだけでは真意はわからぬが、岡崎さんをあいまいなような取扱いをなさると、これは私たちは承服いたしかねるのですが、岡崎さんの選挙に関連する問題はどの程度のものでありますか、御説明願いたいと思います。
  90. 犬養健

    犬養国務大臣 御忠告まことにありがとうございました。順序が違いますが、就任いたしました主要目的が選挙違反をあいまいにすることが重大任務の第一であるというようなばかげたことは絶対にございませんから、これはひとつ御了解を願いたいと思います。岡崎外務大臣に関して選挙違反し問題が起つていることは事実でありますが、猪俣さんのおつしやつたように、岡崎派の選挙違反事件が岡崎国務大臣個人の違反と結びつくかどうか、これが大事なところでありますが、今のところ捜査中におきましては、岡崎君個人に及んでいる見通しはございません。
  91. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると今のところは見通しがないということでありますが、あまり常識とマツチさせないようにお願いしたいのであります。法は法でありますから、いやしくも法務大臣なつた以上は、人間によつて差別をおつけになさらぬと確信いたしますが、さようなことは絶対にないように、厳正に法を守つていただだきたい。これはとし要望て申し上げておきます。  それからなおこれは法務大臣として内閣あるいは外務省あたりにあなたから進言していただきたい。私ども老婆心として申し上げるのですが、実際問題として裁判権外国にある、外国の特別裁判所において裁判されるという場合において、日本国民の基本的人権、そういうものが非常に侵害を受ける。それは先般も山梨県だかに起つたことですが、小学校の女教員がアメリカ兵隊二人のためにまつたく強姦せられた。この人は処女の人である。しかも教員であります。そこでこれが問題に相なりましたので、アメリカ裁判所が裁判をした。その事実を聞いてみましても、これはまつたく典型的な強姦犯罪日本裁判ならば相当重刑に処せられたはすであります。しかるにこれが無罪になつた。そうして犯人二人は日本言葉で言えば万歳というようなことを法廷で叫びを上げて、にこにこ顔で帰つたが、被害者はそのために婚約も取消され、教員として教職につくこともできないというさんたんたる状態になつた。ところがそれをよく研究してみますと、必ずしもアメリカの特別裁判所の判事諸公が、日本人であるからそんなものはよいかげんにしてよいという意味で無罪にしたとは思われない。そういう状況でもないと思うのであります。それは結局アメリカの証拠法といわゆる裁判のやり方とがわが国の状態と違うから起つて来るのであつて、彼らが不公平な裁判をしたのではない。アメリカの訴訟のやり方、アメリカの証拠法からいうと無罪にしなければならぬというようなことで、われわれには理解できないようなこの強姦犯人が無罪になつた。こういう実例が現在あるわけであります。かような意味におきまして、私ども国民の身体生命守る上におきまして、まるで法律の形態、訴訟の形態が違いまする外国裁判にまかせるということは、非常な危険性がある。ただ国の面目というばかりではなくて、実際上のそういう実害があるのでありますから、その意味におきましては、その国人の被害についてはその国の人が守つてやる。一体この女教員のこれだけの精神、身体に受けましたる損害を何人が補償するのでありますか。やられた者はやられ損、やらない者はやらず損というようなことでは、何としてもわれわれは安閑と生活できない状態であります。こういう意味におきましても、この刑事裁判権というものは重大な意義があるのでありまして、私どもは第十三国会におきまして、刑事特別法が上程されましたときに、かようなこともよく言つて反対したのであますが、何しろ行政協定というものをわれわれに無相談で結んでしまつて、そして大綱をきめてしまつておるのでありますから、これは守らなければならぬという義務があるということになると、それを具体化した。事特別法というものは反対しきれない状態に陥つてしまう。それでありますから、こういうことも外務省にも、いわゆるわれわれの基本的人権を守る殿堂でありまする法務省としては、もつと直撃痛烈に要求を出していただいて、国民の輿望を失わぬように御努力願いたい。これは希望でございます。
  92. 清瀬一郎

    ○清瀬委員 今猪俣君は吉田書簡を発する際に、法務大臣の前任者と外務当局との間に意思の疏通ありしやいなやということに関連いたしまして刑政長官の通牒を御引用されました。これに牽連いたしておるわけでありますが、私は事前の両当局者の相談というよりも、一旦吉田書簡が出たならば吉田書簡のあるいは努力するとか、とりはからうとかいう文字は、やはり司法当局が知らなければならぬことである。わけても検察官が知らなければならぬことである。引渡しは起訴前にはできませんから、起訴してしまつた以上はこれはしかたがない。これが日本主張、そうすると法務当局は吉田書簡の内容を全国の検察官、警察官に徹底しておかなければならぬのじやないかと私は思うのであります。ほんとうをいうと、世間自身にも、検察当局じやなくとも、世間もそれを知つておかれないといけないと思います。世間が知らぬのに、役人だけの秘密命令で逮捕した者を釈放したということになると、すぐ問題が起りますから、その手続が私ははなはだ遺憾ではなかつたかと思う。すなわち今猪俣君御引用の二十七年六月二十三日の刑政長官の通牒です。これは六月二十三日でありまするから、吉田書簡が出てから後です。吉田書簡は五月三十一日です。六月二十三日の刑政長官の通牒の一番末文を見ると「国連軍将兵の家族については、国際法及び国際慣行から見ても当然日本側裁判権がこれに及び、身柄の拘束についても国連軍将兵と同様の取扱いを行う理由が少いと解するから、一般の在留外国人として取扱うべきものである。」家族については断然在留外国人と同じことだということを備考第二にうたつております。ところが吉田書簡はそうじやないのですね。あれは四項からなつておりますが、第三項をごらんくださるとわかります。読んでみますと、第三項には「日本国の書局は、罪を犯したこれらの軍隊の構成員及び軍属並びにそれから家族を逮捕したときは、次の四に掲げる場合を除いて、犯人をその所属国の軍当局に、原則として、引き渡すように取り計らう。」家族も向うに引渡すということになつているのです。この二つを対照して見ますると、六月二十三日の通牒を出した人は吉田書簡を知らない人がこれを書いている。そうではありませんか。ほかのところでも食い違いがたくさんありまするが、一番明瞭なことは、吉田書簡は家族も引渡せ、引渡すように日本中の権利を取り払うべきものだ。ところがそれからあとの二十三日のやつに家族は別だぞと言つている。ですから二十三日のは吉田書簡をかいもく知らぬ人が書いたものである。それで私は神戸事件が起つていると思うのですが、神戸事件は家族の問題ではありません。水兵本人の問題でありまするけれども、この通牒の第一号には、やはり「刑事事件については、国際法及び国際慣行により、もつぱら当該国連軍裁判権によつて処理されるものである。」こういうことを言つておるのです。だから結局はあなたの前任者のことで、それからきようはまた人を糾弾する日じやありませんから、それはまた別の機会に譲りますけれども、二十三日の通牒は、やはり法務当局が吉田書簡を知らずにお出しになつたというのが事実じやないですか。これは法務大臣よりも説明員の方がよいかと思いまするが、ほんとうにおつしやつてください。
  93. 犬養健

    犬養国務大臣 清瀬さんの御質問に原則的なお答えをして、こまかいいきさつになりましたら政府委員からお答えをすることにいたします。吉田書簡を承知して発したものでございます。今御指摘の点、御不審ごもつともでありますが、吉田書簡の第三項に、今お読み上げましたように、「日本国の当局は、罪を犯したこれらの軍隊の構成員及び軍属並びにそれら家族を逮捕したときは」というので逮捕も遠慮しろということは書いてないのでありまして、清原通達も、御承知のようにその前後に呉事件だの何だのたくさん起りまして、占領当時の惰性心理が—われ人ともにこの事態に対してまず注意を与えたのが実は五月十七日の通牒なんであります。六月二十三日のは吉田書簡を承知しまして、さらに原則の刑事裁判権を認めておりますが、主として身柄の拘束について、友好関係にある国々に属する国民をどう扱うかということに対して、さらに踏み込んで通牒を発した。こういうふうに私ども解釈しておるるでありますが、この備考の第二のことは、私の承知しております限りにおきましては、連合国軍軍人軍属の家族まで非常に遠慮してつかまえることを躊躇するということはいらないのだ。こういう点に重点を置いておるのであります。従つて吉田書簡は承知したあとでございまして、これは決してごまかしのために申し上げているのではございません。詳しいことは政府委員から御説明いたさせます。
  94. 清瀬一郎

    ○清瀬委員 私の質問をもつと明らかにします。吉田書簡が委員諸君のお手元にないのは遺憾ですが、吉田書簡の三項は、構成員と軍人と家族を逮捕したときは、所属の当局に原則として引渡す、ですから大方みな引渡す。ところが備考の二項には、「将兵の家族については」云々と書いて、「身柄の拘束についても国連軍将兵と同様の取扱いを行う理由は少いと解するから、一般の在留外国人として取扱うべきのものである。」一般の在留外国人は、原則として引渡してはおりません。吉田書簡とマツチしておらぬ。なおこれについてもほんとうの説明があるならばやつてください。
  95. 岡原昌男

    ○岡原説明員 吉田書簡が出ましてその後に六月二十三日に取扱基準を出しました経緯は、ただいま大臣から概略的に御説明した通りでございます。その前に御指摘の通り五月十七日に別に刑政長官通達が出ておりますが、これがいわゆる新聞紙上伝えられました清原通達というものですが、なおこれと関連しまして、六月二十三日の分も清原刑政長官の名前で出ておりますので、第二清原通達と申してもいいわけでございます。私どもの方は、これは取扱基準として、その詳細な扱いぶりを示したというふうに取扱つております。最初五月十七日にかような文書が出ました経緯は、当時呉地区において英濠軍関係の事件が日々頻発いたしまして、五月の中旬に至るまでに、こまかい事件も入れますと、二十数件が発生したわけでございます。ところがこれに対してどのように取扱うべきが、刑事裁判権の所在はいずれにあるかというふうなことについて若干問題が生じ、個々の事件の取扱いに困難を来したという現地からの報告に基いて、すでにその前にかようなこともあろうかというので準備をいたしておりましたこの通牒を取急ぎ出した次第でございます。従いましてその通牒はきわめて簡単な文句を使つてございます。すなわち国際公法の原則に従つてそれを処理する。ただ国際公法上こちら側に、裁判権のないときはこれを除外しろ。なお取扱いに注意して言語、慣習等の相違があるから、いたずらに紛争のないように特に留意されたい、さらに念を入れまして、かような事件については中央にその都度速報するようにというふうに出した次第でございます。その後五月の下旬に至りまして、外務省の方からこの事態を解決するために何らかの措置をとりたいという申出がございまして、その案文について検討いたしました結果、五月三十一日のいわゆる吉田書簡が出されるに至つた次第でございます。この吉田書簡が出されるに至りました事情は、先ほど猪俣さんからおしかりを受けましたようなものではなくて、現に私も最後の段階において一部関与いたしておりますので、私どもといたしましては、外務省と当時の法務府との間に意見の一致を見た上で出したというふうにお聞き願つていいと思います。この吉田書簡なるものが出されましたにつきまして、その内容をしさいに点検いたしますると、従来の五月十七日の通牒をもつてしては、なおまかない切れぬ面があるのではないかというふうな問題が一つ出て参りました。というのは前の通牒は非常に簡単なものでございますので、これをどういうふうに下部に伝えようかということになつたわけでございます。そこでこれをさらに詳細にいたしましたのが六月二十三日のいわゆる取扱基準ということになるわけでございます。この取扱基準の主たる目的といたしまするところは、大体の線はいわゆる吉田書簡なるものも、それから五月十七日の清原通達なるものも、そう大して根本において違つているとは、われわれは考えておらない。ただ現在—ちよつとその点を詳しく申し上げますと、もとより裁判権の問題については、まつたく同一歩調に立つておるわけでございます。従いまして、その考え方を下部に徹底するに際しましては、この刑事裁判権の所在の問題については、特にこれをあらためて言う必要はない、ただ吉田書簡第二項の紛争が生じた場合の個々の協議、決定の問題が残るわけでございますが、これは五月十七日の通牒が生きておりまするからして、中央に速報があればそれによつて外交交渉が開かれる、かようなことになるわけでございますから、特に必要はない、さようになるわけでございます。そこでこの刑事裁判権に関する取扱基準の第一におきまして、「国連軍将兵が、国連軍の施設内において、又は場所の如何を問わずその軍務の執行にあたつて犯した刑事事件については、国際法及び国際慣行により、もつばら当該国連軍裁判権によつて処理されるものである。従つて、これに対して日本側裁判権は及ばないのであるが、施設外における軍務の執行中の犯罪に対して、日本側が現行犯人を逮捕してその身柄を国連軍当局に引渡すことは妨げない。」この逮捕の規定を入れまして明らかにいたした、これが第一の向う側に裁判権がある場合の裁判権の実行といいますか、その面と逮捕の問題を解決してあるのでございます。  次に第二はその他の事件の処理でございます。第一に掲げる場合を除いて、国連軍将兵が犯した刑事事件について、日本側がいかにこれを処理するかということについては、日本側裁判権がこれに及ぶものであるから、すべてこれを立件して処理するものとする、という原則を掲げました。この第二の問題につきまして、さらに一番問題になりますのは、身柄の問題でございますので、身柄の点につきましては、「この場合において、現在国連軍側は、国連軍将兵の身柄の拘束について強い関心と希望を抱いており、日本側としては国連協力の見地から国内法上可能な限度でこれに応ずる方針を採ることとなつたの国連軍将兵の身柄の拘束については、左の区分によつて取扱うこととする。」という前置きを置いた次第でございます。当時外務省とも打合せもいたしましたし、いわゆる吉田書簡なるものは、外交文書といたしましてこれをあちら側の了承を得ずに発表するということは、国際信義に反するという国際慣行を尊重するようにというようなお話がございましたので、その線に浴うて私どもは吉田書簡の精神を国内法の許す限度においてなるべくこれを取り入れたい。しかし従来のわれわれの刑事訴訟上の取扱いその他からいつて、入れ得ないところはこれを入れる必要はない、努力するという限度はそういうように言うべきだというふうに読みまして、次の(1)、(2)、(3)、(4)、(5)というようなこまかい区分にいたしたようなわけでございます。そのうち第一項目におきまして、私どもが最も望ましき事態と考えましたのは、まずこの協議とかなんとかいう問題が起る前に現地で話が済めばそれでよいのではないかというのが第二の(一)でございます。つまり「日本側において国連軍将兵の身柄を拘束したときは、速やかに当該国連軍将兵の所属する軍の当局にその旨連絡し、なるべく円満な了解を得るよう努力すること。」ということが(一)でございます。そうして第二の(二)におきましては、特殊な重大な事犯、つまり吉田書簡の第四項に掲げるようなものにつきましてはどうするかという問題を掲げてございます。この(二)とその次の(三)はあわせてお読み願うとその関係がよくわかるのであります。つまり(二)(三)は左の各号の事件、つまり殺人、放火、傷害致死、強盗、強姦というふうな非常にわれわれとして重大特殊な事犯と認めておるようなもの、それからその他国民の耳目を引くかあるいは被害が重大である、犯行が悪質であるというふうな理由によつて国民感情上または事件の処理上日本側で身柄を拘束する必要があるような事件については、日本側においても身柄を確保して取調べをするように、もし身柄が向う側で先につかまえているならば、それに対して取調べをこちらでやりたいからこちらに身柄をよこしてくれというので、一応引渡しを要求するようにというふうな趣旨でございます。但しこれはいわゆる特殊重大な事犯でございましても、日本側において身柄を拘束する実質的な理由がないと認めるもの、これは日本の実際の刑事事件にあつても、殺人、放火、その他の事件にあつても問題は同じでございますが、在宅で傷害致死の事件を調べる、在宅で強姦の事件を調べるということも事実あり得る、また事実やつているのでございまして、現在日本側において身柄を拘束する実質的な必要がないと認めるものについては、でき得る限り逮捕後四十八時間以内に、つまり手取り早く言いますと、警察に身柄がある場合に当該国連軍係官から日本側のその必要があるなら、何時でも身柄は差上げますという確約の文書をもつて、これを国連側に引渡すようにとりはからいたいというようなことを書いたわけでございます。なおこの特殊重大な事犯、先ほど言つた放火、殺人、傷害、致死、強盗、強姦といつたような、あるいは国民の耳目を引く、犯行が悪質であるというふうな事件でない、つまりさつきの(二)に該当しない事件につきまして、日本側国連軍将兵を逮捕したときにどうするかという問題がございますが、これらもまた国連当局の身柄はあとで出しますよという確約を得て、引渡すようにというふうなことを言つてあるわけでございます。そこで日本側の逮捕に先立つて国連軍側が身柄を逮捕したときはどうするか。この場合には特にその事件が軽徴なるにかんがみ引渡しを要求しない。ただ取調べの必要上その後随時出頭さしてもらいたいということを申し入れておくこと、こういうふうな順序に書いたわけでございます。なおいずれさような事件につきまして(一)に掲げたように、なるべく円満に了解を得るというふうな方針で事を調べてもらいたいけれども、もしそれでなお国連軍側と紛議があつた場合には、その旨すみやかに前の五月十七日の通牒の趣旨に準じて、中央に報告すれば中央でこれを外交折衝その他で解決するつもりであるということが前文でございます。なお御指摘の備考は一、二とございまするが、この「第二に掲げる基準は、国連軍将兵の刑事事件処理のうち身柄の拘束に関するものがあるから、日本側において身柄を拘束していない場合においても不拘束のまま公訴を提起することを妨げるものではない。」これはいわゆる在宅事件として起訴する場合に当るわけであります。二は「国連軍将兵の家族については、国際法及び国際慣行から見ても当然日本側裁判権がこれに及び、身柄の拘束についても国連軍将兵と同様の取扱いを行う理由は少いと解するから、一般の在留外国人として取扱うべきものである。もし具体的事件の処理にわたり国連軍当局との間にこれに関して紛議を生じたときは、直に、前同様中央に報告されたい。」ということを書きましたのは、従来国際公法の確立された原則といたしましては、国連軍将兵の家族についてはむしろ触れていないというのが多かつたのでございます。最近これに対する若干の例外的な慣行があるやに聞いておりますけれども、確立された国際法規の原則といたしましては、その裁判権の問題は家族には及ばぬというふうに解釈しておりましたので、そのような取扱いをするということを同時にいいまして、なお身柄の拘束についても一般国連軍将兵と全然同じということは言えないではないかというので、その点については理由は少いと解するというので、在留外人としての取扱いにつきましては別に通牒がございまして、十分身柄の措置について留意するようにというふうなものが出ております。そういうふうな趣旨にのつとつて取扱うべきものである。なおそれでも事件があつた場合には、具体的にそれの内容を報告して、中央の外交交渉に移されたい、かような趣旨に書いた次第でございます。繰返して申し上げますが、この五月三十一日の吉田書簡が出るにつきましては、その当時の状況を逐一申し上げるほどの自由は持ちませんけれども、少くともその最後の段階におきまして私が関与しておることは事実でございます。
  96. 清瀬一郎

    ○清瀬委員 同じことは繰返しませんが、今の御説明の大部分はこの通牒をお読みになつて、それに言葉を加えられただけのことで、私の質問はその最後のところなんです。吉田書簡というものがあるとは聞いておつたけれども、あるいは国際法の原則では家族に及ばぬとおつしやつておるけれども、吉田書簡自身には第三項で同等に取扱つておるのです。当局は罪を犯したこれら軍隊の構成員、軍属並びにその家族を逮捕した場合には、原則としては引渡すようにとりはからわれたい。ところがこれでは、将兵と同様に取扱う理由が少い。吉田は同様に取扱つている。法務当局は同様に扱うことは少い。それを知つて吉田書簡をためて御通牒になつたのでしようか。
  97. 岡原昌男

    ○岡原説明員 そういうふうに真正面からお聞きくだされば、言葉を強めれば、知つてまげてというふうになるわけでありますが、それはその当時の出すに至りました事情から申し上げなければならぬわけであります。その当時わが国一般輿論というものは、いわゆる行政協定について必ずしもこれに全面的に賛意を表するという声ばかりではなかつたわけでありまして、その後の国連協定の成行き等に関する、ただいま法務委員会においてお話のありましたような諸般の空気がその当時にすでにございました。しかもその空気も相当強いわけでございました。さようなわけでございますので、この吉田書簡をいかにわれわれがのんでこれを下に伝えるかということは、実は私どもの非常に苦心したところでございます。ざつくばらんに申し上げまして、私どもはこの六月二十三日の基準を出すにつきましては、おそらく五、六日間案を練つたのではないかと思います。ただ最後の段階におきまして、呉の事件がその当時六月になりますとおそらく五、六十件にもなつておつたと思います。そこでその当時呉の方からこの事件の取扱いについてどうすればよいのかという非常な催促がございました。私どもといたしましては、いわゆる吉田書簡なるものは外交文書として外部に出せないという一つの制約からいたしまして、これをいかに咀嚼して下部に伝えるかという点について苦慮いたしました結果、たしか六月二十一日か二十二日かと思いますが、呉に私どもの局から係を派遣いたしまして、この取扱いの基準について会議を持つことになつたわけであります。そこでその当時呉の検察庁、それから広島の高検、地検、並びにかような事件が頻発するであろうところの福岡の高検の次席か何かに来てもらいまして、実はひそかに吉田書簡なるものの線を示しました。かような線の書簡が出ておる。その線に沿うて事を処理するのであるけれども、これは対外的な問題もあり、対内的の問題もあり、取扱いには相当注意をしていただきたいということを協議したわけであります。その協議が単に言葉上のことで協議したのでは誤まりがあるであろうから、これを文書として持たしてやるということになつたわけであります。ところが先ほどから申し上げました通り、いろいろな諸般の問題がございました関係上、私どもの方で案を練るにつきまして相当議論も出ました。特にこれを検察庁方面に流すとすれば、実際問題として若干検察庁方面の意見も徴さなければならぬというふうな議論も出ました。そこで会議の日取りを決定して、その前日に係官にこれを渡して、向う側の会議に臨ませるという予定でありましたところ、それが結局間に合わなかつたわけであります。そこで間に合わぬままにこちらは引続き会議を続けまして、そうしてほとんど案文のままで向うに先行した事務官に電報で打つたわけであります。その基準なるものを電報で連絡いたしまして、向うで事務上の連絡をつけました上、それと同時にその案文を、その翌日か翌々日か忘れましたが、刑政長官通達というので出したわけでありますが、あて名をごらんになるとわかります通り、これは検事長あてになつております。最初の五月十七日のいわゆる清原通達は検事正、検事長あてになつております。下部の検事正、検事長までこれを通達したわけでありますが、二度目のものにつきましては、行き違いがあつてはならぬし、また諸般の国際外交上の問題もありますので、これを検事長あての文書といたしまして、検事長がさらにこれを咀嚼して下部に流すという建前にしたわけであります。その間の事情を何とぞ御了承願いたいのでございます。
  98. 清瀬一郎

    ○清瀬委員 事情のあつたということは、あなたはうそをおつきにならないことは了承いたしますが、その取扱いについては国会議員としては了承できない。あなたの今のお言葉の中に、吉田書簡をどの程度のむかということを相談した。吉田は日本の内閣総理大臣です。それが連合国の代表に向つて一つの書簡を出した。それをのむのがいやなら辞任されたらよい。それをのまないで潤色して自分の気に入るような一つの作文をしてそれを下へ流して、この結果はどうなります。二枚舌ということになる。私どもは実は吉田総理は信用しない人ですよ。議会においては糾弾する。一旦書簡を出した以上は、日本人としては、吉田がしたものでも日本の行いとしてわれわれは認めなければならぬ。われわれ代議士でもそういう覚悟を持つておる。事務当局が吉田書簡をどの程度でのむかといつて非常に密謀をこらしたということは、実に驚き入つたことです。今日本がどういう地位におるかと申しますと、前に間違つた戦争をした、国際の信義を破つたと向うは言うのです。私は必ずしもそう思つておらぬが、向うはそう言うのです。平和条約ができて、日本は約束を守る国だ、条約はむろんのこと、総理大臣の署名した書簡というものがある以上は、日本国は大臣がかわつても守つてくれる国だというので、初めて日本の信義が通ずる。それが新日本であります。ところが吉田は外国に向つて、構成員はむろんのこと、軍属も家族も引渡すように努力するということを署名して渡した。日本の官僚が策謀して、国際法にはそういうことはないのだから、ここはのまぬという書面をつくつて検事長に出した。どういう結果が起るかわかり切つております。日本はやはり二枚舌だ。諸君が非常に悪く言われる昔の軍閥時代でも、このくらい明らかな食言をしたことはありません。これは非常に明らかな食言です。聞いてもぞつとするくらいです。そうしてはたして起つたのが神戸事件です。神戸事件はこの吉田書簡通りにやつておりません。二項の一に書いてある通りつておるのです。しかし二項の一に書いてある通りも行つておらぬ。二項の一には、将兵の所属する軍の当局にその旨連絡し、なるべく円満に解決する—なるべく円満というようなあいまいな言葉を使つておる。吉田書簡によれば、軍の当局には連絡せぬでもいいのです。原則として引渡すようとりはからうのです。原則として犯人は所属国の軍隊当局に引渡すようとりはからうと吉田は約束しております。ところが法務当局では、向うへ連絡をしてやつて、なるべく—なるべくは含みがあるが、なるべく円満にとりはからう。実はこの通知もしておりません。六月二十九日に逮捕されて、向うの領事かなんかに何か言うたそうでありますけれども、七月二日には早くも起訴されておるのです。五日には有罪の判決です。これをイギリスの方で不平を言うのは—私はイギリスの肩は持ちません。なぜあのときにイーデン外務大臣が—日本にいる領事やなんかでない。世界外交家イーデンが日本に苦情を言つたのはけしからぬと思つたが、あとでこのいきさつをきよう聞くに及んで、イーデンが腹を立てるのは無理ないです。吉田書簡と違うような取扱いをしている。この当時の当局の策謀によつて、新しい日本国家の面上には非常に大きなどろを塗られたと思います。またこのこだわりが今日問題になつておる国連軍協定をむずかしからしめている。白紙で行つたらもつとすらつと行くのです。ここで日本一つうそをいつておるから、なかなかこの交渉はめんどうです。そこでめんどうになつたらどうするか。外務大臣自分の手でめんどうは解決できませんから、猪俣君が言う通り、世間に発表して、われわれのしり押しで何とか切り抜けようとしておる。これまた策謀なんです。率直に申しますと、もう新日本は道理に従つて行動されぬといけません。外務の当局も、司法の当局も、日本は新たになつたのだから、正直にまともに国際信義を守つてやりますと、まどろつこしいようでありますが、それが日本が初めて世界に信用を得る根本であります。今回の五月三十一日の吉田書簡から今日に至るまでの政府のやつたことは非常に遺憾です。初めのころは保釈を願つた。保釈にするからもう一ぺん出て来る約束でおれといつた。 あのときの外務省の方針は、保釈さしておいて、保釈のままで逃げて帰れば問題はそれで済む。こんな卑怯なことを考えておつたのです。さすが裁判所はこれを看破して、保釈を許しませんでした。だけれども外務省の現地に出張した参事官などのやつたことは見えすいている。あのときにだれかに保証させて—神戸市長が保証すると言い出したが、保証させて保釈する。保釈してベルフアーストに帰れば事は終りだというので、保釈運動を盛んにされた。裁判官は寛大ですから、たいていの場合は許すのですけれども政府の策謀を見破つてそれを許しませんでした。まあいろいろなことがあつて、公訴になつてあの通り執行猶予になり、この問題は解決しましたから、私ども日本人として外国に対する関係においては荒立てたくはないのです。しかし国内的には—これは本日結論を出しません。党にも諮り、また他党とも相談して、この官僚の策謀をどうして防ぐか、日本国際信用をどうして保つか、これについては深刻なる研究をいたしたいと思う。これをもつて私の発言を終ります。
  99. 犬養健

    犬養国務大臣 清瀬さんのお話承りましたが、神戸水兵事件に関しましては若干の食い違いがあります。いずれまたそれを申し上げる機会もありますが、吉田書簡が述べない部分があるから、法務当局として述べない部分を自分意見通り実行する方法として神戸事件の態度をとつたのだという御解釈は、まつたく誤解であります。領事館との間に、不幸にして英語と日本語との間の誤解がありましたが、初めからそういう意図で官僚の陰謀事件だとおつしやることに対しては、あくまでも承服できません。
  100. 清瀬一郎

    ○清瀬委員 犬養大臣言葉を励まして申されますが、一体家族は同等に扱つたらどうです。今聞けば……。
  101. 犬養健

    犬養国務大臣 今家族の問題じやない、英国水兵の問題です。
  102. 清瀬一郎

    ○清瀬委員 待ちなさい。私の言うておる間はあなたはおちつきなさい。大臣というものはもつと貫録を持たなければいけません。全体について私は言うているのです。私は言いましたよ、吉田書簡から今日に至るまでの全体の事柄は。それは吉田書簡をのまずして別の注釈書をつくろうという官僚の陰謀、という言葉が悪ければ密謀であつたのです。今詳しくおつしやいましたが、その結果この刑政局長の通牒が出ておるのです。刑政局長の通牒は吉田書簡を正確に注解したものではありません。神戸事件に適用さるる部分はこの二項の一です。第二項の一は吉田書簡と違うております。吉田書簡は引渡すという書簡なんだ。これは軍に通牒して円満解決するということなんです。違うておりましよう。なぜこういうことが起つたか。この一連のことはすべてこれは密謀によるものです。吉田書簡をそのまま正直に検察庁へずつとお示しになるか—私はこれは国民にも知らせていいものだと思うのです。国民も知らなければ、なぜ検察庁があんな不公平なことをするかわからぬ。これをはつきり世の中に示しておきますれば、このあとくされはないのです。島参事官という者が神戸へ来たことは事実です。私は現地におるものです。あなたは御承知かどうか知りませんが、あの人は領事と交通して保釈運動をしたことは事実なんです。この保釈はどうなるか。あのときの情勢から見れば、被告を保釈すればベルフアーストに帰るにきまつております。イギリスの軍艦に入れば日本裁判権はそれでなくなる。これを言うのです。これについてそう腹をお立てにならずに、冷静にお答えになれば承ります。
  103. 犬養健

    犬養国務大臣 別に腹を立てるわけではありませんが、清瀬さんのごとき国会議員の大先輩から官僚の陰謀というお言葉があります以上は、私は下僚を気の毒に思いまして発言をいたした次第でございます。  イギリス水兵事件のことでございますが、これは御要求でありますならば、こまかいいきさつを申し上げます。但しこれは私の知つている限りでは、まことに不事にも英語と日本語のやりとりの間に誤解がありまして、先ほど申し上げましたように、吉田書簡に気に食わない部分がある、官僚側としては、これと独立した解釈でもつて自分考えを遂行しようという意図のもとに行われたかのごとき御発言がありましたので、さようなことはないということを明らかにいたしたいと思いまして、御答弁いたした次第でございます。
  104. 下田武三

    ○下田説明員 清瀬議員がいろいろ御不審にお思いになは点、まことにごもつともなのでありますが、この点は外交上の経緯を申し上げないとおわかりにならないと思います。ただ非常に機微な点がありますので、お許しを願えれば速記をとめていただきたいと思います。
  105. 田嶋好文

    田嶋委員長 速記をやめて。   (速記中止〕
  106. 田嶋好文

    田嶋委員長 速記を始めて。
  107. 岡原昌男

    ○岡原説明員 ただいま清瀬さんからの御発言では、日本の全官僚がいわゆる二枚舌を使うという、たいへん私一人を例にとつて全官僚を非難されたるようなお言葉でございますので、私の立場から一言全官僚にかわりまして弁明いたします。私どもといたしましては、この吉田書簡をいかにのむかのまぬか、あるいはまたこれをいかに下部に伝えるかという当時の事情を外にして申し上げることはできないと先ほど申し上げたのでございますが、さらにその詳細ないきさつはただいま下田条約局長からの御説明通りであります。私どもといたしましては、まず身柄の取扱いの問題につきましても、吉田書簡第一項の裁判権の問題が先だつものであります。裁判権の所在か明らかになりますれば、身柄の問題はおのずからそれに付随して来る問題でございまして、その取扱いはまつたく一つでございます。そこで私どもといたしましては、この吉田書簡が出る当初におきまして、岡崎外務大臣にも確かめたところでございますが、かような外交文書というものは、それぞれの立場によつて有利に読んでよろしいものである。さような外交文書というものは、英文、和文とありました場合には、その成文をどういうふうに解釈するかということは、それぞれの立場々々で有利に解釈して、あと外交交渉でやればよろしいというふうな、そごまで詳しくはおつしやいませんが、そういうふうな趣旨国際慣例があるやに聞きましたので、私どもといたしましては、この吉田書簡の第一項目から争つてかかつておるわけでございます。争つてというはの語弊があるので釈明いたしますが、国際公法の原則といたしまして、家族までこれが及ぶという確立されたものはないと私どもは承知いたしております。従いまして、吉田書簡の第一項目において、云々については国際公法の原則による、このついては原則によるのでございますから、原則のない限りは家族についてもそれがない、かように読むべきものと解釈するわけであります。従いましてその限度におきましては、第三項もそれに引続いて来る問題でございまして、私どもといたしましては、いわゆる二枚舌というふうなことで言われますと、たいへん心外にたえないところでございます。
  108. 清瀬一郎

    ○清瀬委員 私もこの事件を憂うるのあまり言葉を強く用いましたが、しかし私が二枚否と言うのではありません。イーデンが日本は二枚舌を使うじやないかと言うて来ておる。言われてもちよつと弁解の辞がないように思うのです。そこで同じことを繰返すことになりますから、事実として一つ伺いたいのは、六月二十三日の検事長あての依命通牒は今日でも有効ですか。
  109. 岡原昌男

    ○岡原説明員 その後変更した通牒を出しておりません。
  110. 清瀬一郎

    ○清瀬委員 これも議論になるから私は言いませんけれども、吉田書簡があの通り公表されてしまいました。それと違うところの検事長あつての通牒が有効に生きております。今日はこの状態であります。われわれがこれをどう扱うかは国会としてひとつ研究してみます。吉田書簡は取消されておりません。おらぬのみならず、外務大臣が注釈付で発表までしております。日本の検事長にあててこのものに、まつたく矛盾じやありませんが、相違した通牒があるのです。それが生きておる。この状態で外国国連軍の地位に関する協定を定める、外国がこれで承知するはずがありません。日本の言質を疑います。吉田書簡をポケツトに持つて来てどうだと言われれば何とも言われぬでありませんか。私は聰明なる犬養国務大臣はさらに御検討に相なつて刑政長官の通牒については再検討を加えて、そうして外交交渉に入られんことを希望いたします。これはお聞きになつてもならなくてもけつこうでありますけれども、こんな状態で外交はできやしません。
  111. 岡原昌男

    ○岡原説明員 ただいまの吉田書簡の解釈につきましては、冒頭その解釈の立場を申し上げました通り、まつたく見解相違でございまするので、その点は法律的に事を論じたいと存ずるものでございます。
  112. 田嶋好文

  113. 松岡松平

    松岡(松)委員 これは大臣からお答えにならなくてもいいと思うのですが、六月二十三日付の依命通牒のうちの(二)のその引渡しを要求するものとする。その(一)に「殺人、放火、傷害致死、強盗又は強姦の罪にあたる事件」とこう書いてある。私ども聞いておりまする事件数は、多く頻発するのはむしろ暴行、器物毀棄、無銭飲食、強姦事件というのが多いと聞いておりますが、大体傷害致死というのは傷害した結果死に至らしめたというので、その前に傷害罪というものがある、暴行事件というのがある、恐喝もあるわけです。そういう事件についてはきわめて取扱いが変なんですね。これは身柄拘束の一つの原則を貫かれているようですが、これでは結局暴行したり傷害されてなぐられて傷つけられた程度はおつぱなし、それから無銭飲食なんかは無銭飲食をやらせておく、こういうような感じを受ける。最近選挙違反事件なんかについても実にあらしのごとく逮捕事件がたくさんある。戸別訪問あるいは話合いしておつた程度でも逮捕状をどんどん出しおる、それらに比較いたしまして非常に不平を持つて来ます。外国人が来て無銭飲食して行つても手も足も出ない。ピストルで頭をなぐられてもけがしてもそれは一向に調べてもくれない、しかもただ人のうちをたずねただけで逮捕状をどんどん書いておる、こういうようなことでは法の威厳というものはないではないかというような質問をずいぶん受けます。これはこの文章を読んでみますと、暴行、傷害、無銭飲食なんということは微罪で道路へ小便した程度にしか扱つておらぬのですが、そういうお気持なんですか。一体これはどういう意味ですか。これは全文を読んでみますと大体そういうふうな感じを受ける、向うにやつてしまえば向うはやりませんよ。人をなぐつて来た程度で処罰はしないでむしろこれは不問に付するだろうと思う。そしてしかも四十八時間内に渡してしまうということになつておりますが、これはどういう取扱いの意味なんですか。これは必ず今後問題が起つて来ると思います。
  114. 岡原昌男

    ○岡原説明員 ただいまの割合に軽微の事件につきましては、括弧の四の規定が働いて参りまして、身柄不拘束の取扱いで随時調べをする際は先方から取寄せてこれは調べる、そうしてもちろん起訴は不拘束で起訴をすることができる、こういうような趣旨でございます。
  115. 松岡松平

    松岡(松)委員 関連してお尋ねいたしますが、日本国内における犯罪においては、このごろはたいてい逮捕状が出る。それは実際国民は逮捕状に悩み切つております。これは大臣もぜひお聞きおき願いたい。およそ選挙違反などというものは特にひどい、自宅で呼び出して調べればいいことをすぐ逮捕状を出す、伝え聞くところによりますと、何百通と逮捕状を持つておりまして名前を書き込んで持つて歩くというような状態すら聞いております。これは私も調査しております。しかるに外国人が日本に来て軍隊がやつた場合には、暴行事件を非常に軽微なもののように局長がおつしやいましたが、傷害事件、暴行事件は程度によつてただ軽微とは言えません。寄つてたかつてなぐられ、けられる、そのために二箇月も三箇月も病床につく人が幾らもある、これはこの中に該当しません。しかしこれは重い罪です。  それから無銭飲食でもその度合いが五人も六人も来て、そのうちのビールでも片つぱしから飲んでしまえば、小さな飲食店は立ち行かなくなる。こういうことを考えて来ますると、取扱いがかなり手かげんがあるもので、殺人、これは大事件です、放火はもちろん、傷害致死などというものはあまりない事件である。それから強盗、強姦にいたしましても、これは先ほども言うように相当あると思いますが、この強盗、傷害致死、放火、殺人というようなあまりない事件をここに例示してありますが、一般に行われる暴行、傷害、無銭飲食、こういうものについて私はそう微罪に取扱わるべきものではなかろうではないかと考えるのですがいかがでしようか。
  116. 岡原昌男

    ○岡原説明員 御不審ごもつともでございます。現に発生しております事件の大半は御指摘の通り暴行、傷害、無銭飲食、詐欺、小さな窃盗が大部分でございます。そこでさような事件について逮捕状を請求し、身柄を勾留するかどうかという問題は、日本の刑事訴訟法では御承知の通り、たとえば逃亡のおそれがある、あるいは証拠隠滅のおそれがあるというような場合にいたすことになるわけであります。この国連軍将兵については大体さような事件が起きました際には身分証明書というもので、名前、それから所属部隊その他がはつきりいたします。それからその事件が現行犯その他であります場合には、大体証拠の関係もすごぶるはつきりいたしまして、特に身柄をこちら側で押えておいてぎゆうぎゆう突き詰めて調べなければならぬというふうなことにはならぬ場合が割合に多いのでございます。そこで小さな事件と申しましたのは殺人、暴行と比べて問題でございまして、特にこれを国民感情上放任してよろしいという意味で申し上げたのではないのでございまするが、さような比較的軽小な事件につきましては、日本の実際の取扱いにおきましても暴行、殺人、傷害致死、強盗、強姦というような事件とはおのずから差別がございまして、逮捕する場合も非常に少い。さような場合にはおおむね在宅の取扱いをする例になつておりますので、さような趣旨に書いたわけでございます。
  117. 犬養健

    犬養国務大臣 先ほどの清瀬さんの御注意に対して一応お答えをいたしておきます。かた苦しくなく当時の通牒を発しましたときの事情といいますか雰囲気といいますか、そういうものを私就任以来やはり清瀬さんと御同様いろいろ憂慮いたしまして、できるだけ詳細に聞き取つてみたのでございます。それを率直に申し上げてみたいと思います。五月十七日の通牒は、先ほど政府委員も言及いたしましたように、当時呉でもつて盛んに不祥事件が起りまして、客観的に見ますと連合国の方の将兵も占領当時と同じとは思つておらないのでありましようが、惰性で多少そこに区別した心理を持つていないか、被害を受ける日本人の方もそういうような同じ惰性的な心理のまま被害を受けておる。どうにかしなければ困るというような空気が非常に濃厚になりまして、御承知と思いますが、衆議院でも相当問題になりました。視察に行くというようなことも起りました。すみやかに占領当時と違うという扱いをはつきりすべき必要が起りましたので、このような刑事裁判権の確立を再認識させるような意味で急いで通牒をいたしたわけでございますが、その後五月三十一日にいわゆ吉田書簡が出まして、これはただいま下田説明員が説明されたように、それに対する相手方の返事もない、返事もないままにしておくわけにも行きませんので、六月二十三日に第二通達を出して、身柄拘束に関して、刑事裁判権は確立しているが、身柄拘束の方法についてはできるだけ友好国との間の国際慣行を重んじて円満にやろうというので、一歩踏み込んで身柄拘束のことに触れました。  最後に一番おしかりを受けた問題でございますが、私どもが聞いております限りにおきましては、一般の在留外国人については別の通牒が出ておりまして、これもできるだけ円満に扱うようにという通牒が出ております。それと大体同じような扱いでよろしいのである、家族についてはこういう考えでやつてくれ、こういう意味にほかならないのでありまして、官僚が吉田書簡を不満として、どうもこれではやつていけないというので、下部には別の心持ちで通達を計画的にいたしたということはないと承知しております。その点は御了承を願いたいと思います。ただ清瀬さんのお考えをそんたくいたしますと、この第二通達の最後の記の文意では、吉田書簡の意味と心持ちはそうであつても読み違えるものが多い、清瀬さんのお考えではほとんど全部が読み違えるではないか、こういうようなお話だろうと思いますが、この点については当時これを通達した人もおりますので、よく聞きまして、また虚心担懐にお答えをする機会もあろうかと存じます。
  118. 清瀬一郎

    ○清瀬委員 もはや時間も移りましたから簡単に言いますが、日本交渉しておる各国は吉田書簡を知つておるのです。今日まで私どもも知らなかつたが六月二十三日の検事長あての通知がきようここへ出ました以上は、これは先方にも知れることと思います。先方がこの二つをつき合せて、どうも日本は吉田書簡といつたような、外務大臣ではなく、わざわざ総理大臣の署名までしてよこしたものを実行するにあたつてはためて実行しておると考えるに相違ありません。このことがわかりますれば私は外交交渉は相当難航するものと思う、虚心坦懐に検事長あての通牒を取消して別にされる方がよいのじやないかと思うのです。
  119. 松岡松平

    松岡(松)委員 先ほど申し上げた趣旨は、国内における犯罪の取扱いと外国軍人、軍属の場合と相違のないようにしていただきませんと、今後においてもこれは非常な問題を起して来ると思うのです。どうぞその点をよく体して遠慮すべきところは遠慮してもさしつかえない、これはむちやくちやにやられることはあまり好ましいことでありません。勘忍することは勘忍されてけつこうですが、それを平等に取扱つていただきたい、差等があるということだけはどうだ特に御注意を願いたいと思います。
  120. 田嶋好文

    田嶋委員長 本日はこれにて散会いたします。  次会は来る二十四半日前十一時開会することにいたします。     午後二時五分散会