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矢嶋参議院議員 勤労青少年
教育振興
法案のご
審議を願いますにあたり、発議者を代表いたしまして、私から本
法案の立案の
趣旨を御
説明いたしますとともに、その
内容の概略について申し上げたいと存じます。
終戦後、わが国が、極度の疲労困憊のまつただ中におきまして、非常な苦心を払い、
義務教育の年限延長や、それに伴う多方面の
教育制度の改革を断行いたしましたのも、ひとえに、新憲法および
教育基本法において明示された、
教育の機会均等の保証という新
教育制度の基本
原則に従つたものでありまして、これによ
つてさらに、国民の
教育水準を向上させ、わが国の民主化を促進いたしますとともに、文化的経済的発展の基礎をつちかおうといたしたものと申さねばなりません。
しかしながら、このようにして発足いたしました新
教育制度も、その後の実施状況を見ておりますと、そのすべての面にわたって、われわれははなはだしい不満を禁じ得ないものがあります。それはいたずらに基本
原則だけが高く掲げられ、現実があまりにこれと懸隔しておることでありまして、
義務教育無償の
原則の場合は、その最もはなはだしいものでありますが、この
教育の機会均等の
原則につきましても、また同様の
実情にあるものと認めねばなりません。
試みに
昭和二十七年の
義務教育終了者について申し上げますと、総数百七十二万余名の者のうち、
高等学校の通常課程へ進学いたした者は、三八%にとどまり、その残余は、
高等学校の定時制課程に進みました者一一%、
高等学校通信教育を受ける者〇・二%を除きますと、全体の五一%、すなわち過半数以上のものは、能力のいかんを問わず主として経済的
理由によりまして、それ以上の
学校教育を断念いたしておるわけであります。年々大体このような割合で社会に送り出される青少年は、教養の面におきましても、また職業技能の面におきましても、なおきわめて未熟、不十分でありますことは当然でありまして、何らかの形式において、彼らが少くも
高等学校程度の
教育をさらに受け得るるよう、その対策が講ぜられない限りは、これらの青少年には、
教育の機会均等はほとんど実質的には保障されていないものと申さねばなりません。
さらにまた
高等学校課程を終了したものにつきましても、その多数の者は、現在ただちに職業につきます
関係上、
大学進学の道をはばまれております。これらの多くの青年が
大学教育の機会均等を失
つています重要な原因といたしましては、現在わが国の
大学夜間部や
大学通信教育の普及
充実が不十分であることを指摘いたさねばならぬと存じます。
さて現在、わが国におきましては、
勤労青年の
学校教育施設といたしまして、定時制高校、高校
通信教育、
大学夜間部、及び
大学通信教育等を数えることができます。
そのうち、まず第一に、定時制高校と高校
通信教育について、その
現状を申し上げますと、定時制高校と高校
通信教育は、農山漁村等の僻地にまで、高校
教育の普及をはかる場合には、最も適当な
方法であります。
ことに定時制高校は、その
教育活動が夜間とか、特別の時間、時期において自由に行われるものでありまして、働きながら通常課程の
学校とまつたく同等の
教育を履修いたし得るとともに、各自の好む
教科をすきなだけ学べるという科目別履修の
方法もありますし、またその
学校施設と教職員を活用いたしますならば、社会
教育講座や公民館の行う定期講座等を開設いたしまして、社会
教育の振興にも多大の貢献をなし得るわけであります。従
つて、
義務教育を終えた
勤労青少年
教育の振興には、この定時制高校の普及拡充をはかることが最も有効適切な
方法であると申さねばなりません。
ところが、現在この定時制高校の設置者は
市町村の場合が相当多数に上
つておりますが、
市町村はすべて定時制高校に非常な熱意を持ちながら、
義務教育の施設
整備のために、その貧弱な財政のほとんどすべてを消耗いたしておる
現状では、定時制高校にはほとんど手のまわらないことは、やむを得ないところであり、
都道府県もまた、全日制高校のため、その高校
教育費の大部分を費消いたしておるため、定時制高校に対する補助や、高校
通信教育を
充実する余裕は持
つておりません。地方財政のこのような窮状をつぶさに考えますと、定時制高校や、高校
通信教育の維持運営や
整備充実には、もはや国の援助を求める以外には道のないことを痛感いたさないわけには参りません。
定時制高校の教職員給は、
昭和二十三
年度から
施行されました
市町村立
学校職員給与負担法によりまして、
義務教育学校の場合と同様に
都道府県の負担となり、さらに同じく
昭和二十三年から、公立高校定時制課程職員費国庫補助法によりまして、この教職員給の四割を国庫で負担することになつたのであります。
昭和二十五年、この教職員給の国庫負担が平衡交付金に移行いたします直前には、この負担額は年額六億円に達するに
至りました。
その後、平衡交付金に移りましてからは、府県に対する国の財源保障は、おのずからきわめて不明確となりましたため、現在その教職員定数は暫定
基準(乙号表)にも達しない地方が多く、そのため生徒も向学の機会と意欲とを著しく減殺され、
現場の教職員の苦労は名状しがたい
現状であります。
第二に、
大学夜間部と
大学通信教育との
現状を見ますと、まず
大学夜間部は、国立三校、公立三校、私立三十一校、計三十七校にすぎないのでありまして、すでに数年前から各地に夜間部増設の運動が盛り上
つております。
国は、国立
大学の夜間部につきましてその設置に要する経費は地元負担の建前を主張していますため、ついに今日まで、その期待にこたえるに至
つていないことは、はなはだ遺憾であると申さねばなりません。
次に、
大学通信教育は、農村を初め、僻遠地等において果たしております役割は極めて重大でありますにもかかわらず、今日、
大学卒業過程の
通信教育部を置く
大学は、私立の六校だけでありまして、しかも
所要経費の
関係で、まだ完全に
卒業資格を得るような
通信教育とな
つてはいない
実情であります。
しかも、これらの
大学夜間部や、
大学通信教育は、いずれも、その特殊性のため、教職員の負担過重の傾向がきわめて著しく、教職員給や、運営費等において、国の積極的な
充実、助成の
措置がぜひとも必要なわけであります。
勤労青年
教育の施設の
現状は、およそ以上の
通りでございますが、さらに進んで、
勤労青年の就学問題につきまして考えますと、現在、
勤労青年の就学をはばんでおります一般的原因といたしましては、ただいま述べましたような
教育施設の不足不備が重大な原因をなしておりますが、さらに個人的原因を見ますと、その最も主要なものはもちろん経済的
理由であります。このような就学困難な者に対して、育英
資金貸与の大幅適用や、授業料の減免あるいは
教科書用図書等の補助等によ
つて、奨学の
措置を講ずる必要がありますことは、言をまたないであります。しかし
勤労青年の就学問題についてさらに注目いたさねばならないことは、最近職場におきまして、職制強化や労働強化の
影響を受け、定時制高校あるいは夜間
大学に就学する
勤労青年に対する圧迫が次第にはげしくな
つておる事実であります。
勤労青年に対しまして、真に
教育の機会均等を保障いたしますためには、奨学
制度の確立とともに、さらに進んで就学を保護する
措置もまた必要とな
つて来ております。
およそ以上のような
勤労青年
教育の
実情にかんがみまして、その振興のため、最も有効適切な法的
措置をこの際早急に講ぜねばならぬと存じ、今回本
法案を発議いたした次第であります。
次に、
法案の骨子を申し上げますと、本
法案におきまして、
勤労青年と申しますのは、
義務教育を終了した後、働きながら、
学校教育法に
規定された
学校の
教育を受ける者をさしております。
次に、勤務青年
教育と申しますのは、定時制高校の
教育、高校
通信教育、
大学夜間学部
教育、及び
大学通信教育をさしております。
本
法案は、まずこのような
勤労青年
教育につきまして、国が地方公共団体と協力して、その振興をはかる任務を持つことを明らかにいたしますとともに、
充実した
勤労青年
教育を実施して行くためには、国及び地方公共団体において、何よりもそれに従事する教職員の員数及び待遇について、特別の考慮を払わねばならぬことを
規定いたしました。
次に、本
法案が
措置を講じました具体的な
勤労青年
教育の振興
方法について申し上げますと、まず第一に、現在
勤労青年
教育において最も重要な役割を演じております定時制高校及び高校
通信教育を普及
充実いたすために各種の法的
措置を定めました。
すなわち、まず
都道府県は定時制課程の
高等学校をでき得る限り広汎に設置して、
高等学校の
勤労青年
教育の普及
充実に努めねばならないことを
規定いたしますとともに、公立の
高等学校の
勤労青年
教育に従事する教職員の給与費等につきましては、地方公共団体において要する経費の実支出額の二分の一を国が負担することにいたしました。
次に、国は公立の
高等学校が、
勤労青年
教育を行うために必要な施設設備で、
文部大臣の定める
基準に達していないものを、その
基準まで引上げようとする場合等には、予算の範囲内において必要な経費の二分の一以内を負担することにいたしました。私立の
高等学校が、
勤労青年に対して
教育を行います場合にも、教職員の給与費や施設設備費につきまして国は予算の範囲内においてその経費の二分の一以内を補助することができることにな
つております。
第二に、
大学の
勤労青年
教育につきましては、国は、国立
大学の場合は、夜間学部の設置及び
通信教育の実施、並びに
勤労青年
教育に必要な施設設備の
整備充実に努めねばならないことを明らかにいたしますとともに、公立または私立の
大学については、予算の範囲内において、
勤労青年
教育の振興のため、特に必要と認められる経費の二分の一以内を補助することができるようにいたしました。
第三に、
勤労青年の就学の奨励と保護につきましては、授業料の減免、
学資の補助、及び
教科用図書に関する特別の考慮や
措置につきまして、それぞれ
規定を置きますとともに、就学の保護に関しましては、使用者に
一定の
義務を定め、特に
高等学校の定時制課程
教育につきましては、
罰則を設けて、就学の保護をさらに的確にいたすこととしました。
以上をもちまして
法案の
内容の
説明を終りますが、本
法案は附則におきまして、従来ほとんど国の助成対象から除かれて参りました各種
学校を取上げ、
一定の場合、国はその行います
勤労青年
教育に類する
教育に対して必要な経費を補助し得ることにいたしました。
なお
施行期日について一言申し上げますと、本
法案は四月一日から
施行されることを予定いたしておりますが、第六條、第
八條第一項第一号、同條第二項及び附則第三項第一号の
規定に限りまして、予算の
措置等の
関係上、その
施行を
昭和二十九年四月一日からといたしました。
以上がこの
法律案の提案の
趣旨及び
内容の概略でございますが、
勤労青年
教育のまことに憂慮すべき
現状にかんがみまして、慎重御
審議の上、すみやかに御議決くださるよう切にお願い申し上げます。
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