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永持公述人 まず本日
公述人として
恩給法の一部を
改正する
法律案について所見を公述する機会をお与えいただきましたことにつきまして、厚くお礼を申し上げます。
旧
軍人関係の
恩給の
復活という問題は、私
どもといたしましては当然過ぎるほど当然と思
つておるものでございます。その細部につきましてはすでに書いたもので皆様のお手元にも差上げてございます。また私が直接お目にかか
つてお話申し上げた方もあります。また選挙区の
関係者にはお話し申し上げたこともございます。また専門員の方もこまかい参考資料をおつくりにな
つておられますので、いまさら事新しく申し上げることはございません。しかしせつかく時間をお与えいただいたのでございますから、そのうちの重要な点、及び
法律案を拝見いたしまして気のついた点について、一、二申し上げたいと思うのでございます。
ただいまも申し上げましたように、旧
軍人関係の
恩給復活というのは、私
どもとしては当然過ぎるほど当然と思
つておるのでございます。連合国の要請によるものとは申しながら、七年間を一般
公務員と差別
待遇をされております。平和条約が発効になりましてからさらに一年間お預けに
なつたということは、まことに不可解のように思われるのでございます。一般
公務員では、追放になりました者に追放解除と同時に
恩給が支給されております。また一般の
民間会社にいたしましても、
退職当時
在職中の
給与の一半として多額の
退職年金または
退職一時金を支給しておる。それに、ただいまも他の
公述人からお話がございましたように、薄給に甘んじ命を投げ出してお国に御奉公した旧
軍人並びにその遺
家族に対してだけ特別の差別
待遇を与えることは、どうもふに落ちないのでございます。一般
民間会社の
退職金もやめてしまえ、一般
公務員の
恩給もやめてしまえ、みんな
社会保障にしよう、そこまで御徹底に
なつた御
議論であれば、そのよしあしは別としても首尾一貫しておると思うのでございますが、まだそこまで行
つておりませんし、またそれはちよつと実現不可能ではないかと思
つておる次第でございます。たしか
昭和二十三年を境として、その前とあととで一般
公務員の
恩給が違
つておる。その不均衡を是正する必要があるというので、議員立法で不均衡是正の
法律をお出しになりました。一方では旧
軍人関係の
恩給を待たしておいて、こういう不均衡を御是正になるということについて、いかにもふしぎに思
つたのでございます。片方ではかように公平なお
取扱いをされるのでございますから、旧
軍人の
恩給もまたその公平のお考えをも
つてお
取扱いいただくものと大いに期待している次第でございます。
さて、
国家財政のことを考えますと、何から何まで私
どもの希望通りということもできないことは覚悟をしております。御承知のように、
恩給停止当時の
恩給を
復活して、それをべース・アップした額に比べますと、
恩給法特例審議会の
答申ですらその半額以下にな
つており、今度はさらにそれを一割以上も減らされているのでございますから、そこに不均衡ができておることは当然でございます。昨年一般
公務員の
給与が改善されました。ところが一般
公務員の
恩給はそのままにな
つております。ここに
現職者と、一般
公務員ですでに
退職されておる方との均衡がとれていないことにな
つておる。またこれから
退職される一般
公務員の方、過去において
退職された一般
公務員の
方々との均衡もとれない、いろいろ不均衡のところができておるのでございますが、この点については大いに考えていただかなければならぬと思うのでございます。なお
恩給法特例審議会の
答申が新聞紙上に発表になりましたとき、先ほどからお話がありましたように、所要額の大部分が
戦死者の
遺族並びに
傷病軍人に与えられるということは、読めばすぐわかるのでございますが、有力な新聞ですらそれを間違えてとかくの
議論をして、そのために
国民感情を不利に導いたということは、私
どものまことに遺憾に存じておる次第でございます。また大将とか兵とかいう
階級が
規定の上に現われておりますので、とかくの御
議論があるように思います。しかしながらこの
階級は
退職当時の収入を表わす代名詞として使われていると思
つておるのでございます。
大臣だ
つた方が
恩給をもら
つてお
つても、
大臣としてもら
つておるのではなくて、元の
大臣としてもら
つておられるのでございます。元の
大臣、元の将兵、それで
恩給を支給されるのだと思
つております。それに
恩給停止当時の
恩給を
復活した場合と、今度の
法律案に示されております額とを比べてみますと、下級者については、百倍もしくは百倍を少し上まわ
つた額にな
つております。ところが上級者は五、六十倍にな
つておるのにすぎません。
戦死者の
遺族の
扶助料にいたしましても、今回の
法律案では一般
公務員も元
軍人も同じような形にかえられましたが、その以前におきましては、一般
公務員の方は上から下まで、普通
扶助料の何倍ということにきめられてお
つて、それが同じ倍率にな
つております。ところが
軍人恩給の方では、上は倍率が少く、下は多く、それが二倍以上にな
つていたのでございます。ちよつと話が横にそれますが、かの忌まわしい五・一五、二・二六とかいうような事件が起りましたのは、社会改造という
理念に支配されて、ああいう事件を起したように思
つておりますが、その思想が自然の間に軍の中に入
つておりまして、
恩給法にもそれが反映して、今のように一般
公務員とは違
つて、上に薄く下に厚い
規定に
なつたと思います。なお今度は大将の
恩給基礎額が十六万五千円ということにな
つておりますが、それを一般
公務員のに比べてみますと、昨年の
給与改訂前の
基礎額で、
大臣が二十五万六千円、保安監が二十四万円、次官で二十万円、また小学校の校長で十八万円の
恩給をもら
つておられる方がたくさんあると承
つております。
従つて、この
階級ということが現われているというので、かれこれお話の出ることはちよつとふしぎに思うのでございます。
一般的の
議論はそのくらいにいたしまして、
法律案そのものについて申し上げますと、先ほ
ども申しましたように、この
法律案には幾多の不満足な点が含まれておるのでございますが、一方では
国家財政を無視して主張するわけには参りません。またできるだけ早く
恩給をいただきたいというので、首を伸ばして待
つている者がたくさんあるのでございまして一部のためにいたずらに時日を費しまして支給が遅れることは非常な痛手でございます。現に
恩給法特例審議会の
答申の出ましたときには、もう一月から支給が始まると思われていたのでございますが、今度はそれが実現しないで四月までお預けにな
つておるのでございます。新聞でもごらんのように
死亡して行く人もおります。そういうわけでございますから、幾多の不満足はございますが、不満足のままでもやむを得ません、この
法律案をできるだけ早く通していただきたいということが、第一の念願でございます。しかしながら、いろいろな点がございます中で、これは割合に実現できるのじやないかと思う点、また特に下級者に影響の多いと思う点について希望事項を申し述べて御配慮を願いたいと思うのでございます。
第一は、
公務扶助料、
戦死者遺族の
扶助料の問題でございますが、先ほど申し上げましたように、今度は文武官同じ形になりましたが、これは一般
公務員の方は過去にさかのぼ
つては施行されません。従いまして、今度の
戦争で戦死をした
文官の方、これは上から下まで普通
扶助料の四倍、すなわち御主人が生きておられたときの
恩給の二倍の
扶助料をもらわれているのでございます。それが今度の
戦争に行きまして戦死した
軍人の
遺族の上の
階級の方は御主人が生きていたときの
恩給ほどにも達しません。下の方で有利な
方々でも、御主人が生きておられたときの
恩給の三割増しにな
つておるにすぎないのであります。これは
国家財政の上からなかなかむずかしいと思うのでありますが、しかし先ほ
ども高木公述人からお話がございましたように、できれば一番下のところで月額で三千円
程度に引上げていただくことができたらと思うのでございます。これは一人について一万円、総額にして百億に近い予算がいるのではないかと思われますから、今年のこの
法律にはちよつと間に合わないかとも思いますが、将来についてはぜひ考えていただきたいと思います。
それから
傷痍軍人につきまして、第七項症及び第一
款症ないし第四
款症の問題については、先ほどお話がございましたが、できたらこの年金の
復活をしていただきたいと思うのであります。ことに第七項症の場合は、
増加恩給の
復活せられないとともに、普通
恩給も支給されぬことになるのでございます。この
権利をなくなすのでございますから、この点について御考慮を願
つたらいいと思います。この方は、むしろ予算は一時金が減りますので大した影響はないのではないかと思うのでございます。
次は加算の問題でございますが、これはすでにたびたび
議論されております。加算廃止の
理由といたしましては、内地の戦場化、調査の困難、
国家財政というようなものがあげられておりますが、内地の戦場化の問題にいたしましても、軍律で強制的に刑法のもとに
戦争をしております者は、そのときの特異性を考えていただいていいのではないか、また今度の
戦争でなくて、過去の
戦争までさかのぼるということは、りくつからいえばぐあいが悪いのではないか、こう思います。しかしながらこれは
国家財政ともにらみ合せなければならぬのでございますから、ある
程度のことはがまんしなければならぬ。しかしこのために
恩給を受ける
権利を失う者が相当多くできるので、この者に対しては何とか考える余地があるのではないかと思
つておるのでございます。そのための予算はどうなるかと申しますと、こういう者は若年者でありまして、若年停止の
規定にはまるものでございますので、当分の間は予算には影響はない、先に行きますと、自然減耗と相ま
つて予算額には大した影響はないのじやないかと考えられるのでございます。既裁定者においては、それが実現されておるのでありますから、未裁定者に対しても、既裁定者に対すると同じような
規定を適用していただいたらいいのじやないかと思うのでございます。調査の困難という問題もございますが、先ほ
ども申しましたように、若年停止を受けているので、ここ数年間ひまがありますから、その間に調査もできるのではないか、また加算の検査の方も、簡便な方法をとることも考えられると思います。なお、いよいよ勘定が骨が折れるのであれば、たとえば
在職が五年以上の者で一度
戦争に行
つた者は、この加算のために
恩給年限がつくという見地で取扱うことも考えられるのではないかと思うのでございます。なお、これを救う一つの方法といたしまして、実
在職が引続き七年以上の者に一時
恩給を給せられるようになりまして、それが従来なか
つた兵にまでその
規定を適用するということにきめられております。やむを得ず加算を考えずに一時
恩給にするという場合におきましても、この「引き続く」ということはできればやめていただきたい。また、七年ということはあまりにかわいそうだ、五年くらいにしていただきたい。一般
公務員では三年以上の者に一時
恩給を支給されるようにな
つております。これも七年を五年にすると予算の上に大分影響があると思いますから、本年度間に合わなければ、将来において大いに考えていただきたいと思うのでございます。今、引続き七年の問題が出ましたが、今度の
法律案を拝見いたしますと、
基礎の
恩給年限を勘定いたしますのは、引続く
在職が七年ということが
基準にな
つているのですが、一般
公務員では一年が
基準にな
つているのであります。一年以下は切り捨てる。これには七年以下を切り捨てるということにな
つておりますが、何とかこれは……。
恩給法特例審議会のときにも、文武官の通算と一時
恩給の問題では引続き七年ということが論議されたのでございますが、一般的にはあまり論議されなか
つたように承知しているのでございます。できましたらこれをやめていただいたらと思
つているのでございます。一回七年で行
つた者は、あとは一年以上の年限を勘定すると、たとえば七年、五年、総計で十二年にな
つている者は、十二年という見地からいえば
恩給がいただけるのでございますが、今度はいただけないというようなかつこうにな
つてお
つて、あまりに無情ではないかと思うのでございます。なお、さらに一歩を進めまして、二十ページのところの、第九条の第一項の第一号のロの項に述べられておることでございますが、普通
恩給は、引続く
在職が
恩給の最短年に達しないと
権利、資格がないということにな
つております。言いかえますと、七年、七年、こういうように勤務した者も年金を受取る資格、
権利がないということにな
つているが、これは調査もそう骨が折れることはないと思います。予算の上でも大した影響はないと思いますから、この第九条の「引き続く」という字だけはぜひと
つていただいたらと、こう思うのでございます。
最後に申し上げたいと思いますのは、先ほど問題になりました
戦犯者の問題いでございます。私の希望といたしましては、附則の第二十四条、これは全部削
つていただきたい。第一項はすでに拘禁されていない者についての
規定でございますが、これは
勅令第六十八号が廃止にな
つておりますから、特に書かないでも当然のことに思うのでございます。拘禁中の者に対しまして何とか
恩給をやるようにしていただきたい。これは
責任上刑を受けている者で、国内法で刑を受けている者ではないのでございます。長い間
家族も困
つているのであります。対外的の
関係があると思いますが、この詳しいことは私は存じません。しかしこの二十四条を黙
つて削
つてしまえば目立たないでいいのではなかろうか、これはか
つてな
議論かもしれませんが、そういうふうに感ずる次第でございます。
なお刑死者、獄死者の
家族の問題も考えていただきたいと思うのでございます。できれば
公務死亡にしていただきたいのでございますが、いろいろ問題もあるだろうと思います。もしも
公務死亡扱いができませんならば、何らかの方法で援護の手を延べていただきたいと思うのでございます。
まだ申し上げたいこともたくさんございますが、制限された時間をもう超過したようでございますから、この辺でやめますが、どうか公平の見地からできるだけ早くこの
法律案が——やむを得なければこのままでよろしいが、できればただいま申し上げました修正希望事項をお取上げになりまして、できるだけ早く施行になるように御配慮を願いたいのでございます。
長い間御清聴を煩わしたことについて厚くお礼を申し上げ、なお私
どもも力が足りなく、毎日々々苦しんでおるこれらの者に対して、まことに申訳なく思
つております。それからこの
議会の風雲が険悪をきわめておりますので、この
法案が通らぬうちに解散にでもなりはしないかと心配をしておる者がたくさんありまして、私のところへ電話または手紙が多数来てれります。どうぞその心情に御
同情を願いたいと思います。
なお漏れ承るところによりますと、この
恩給停止の命令が総司令部から出まして、先ほどお話のありましたように、当時の御当局の方も何とかそれを食いとめるようにお骨折に
なつたそうでありますが、そのときの総司令部の御返事では、実はソビエトからいろいろ提案があ
つた、みんなけ飛ばしたがこの
軍人恩給の停止だけはソビエトの案を採用したのだ、これ一つだけはどうしても通してやらなければ悪いから、ひとつ通してやろう、こういうお話だ
つたそうでございます。こういういきさつもあるということを念頭に置かれまして、御
同情あるお
取扱いを願いたいということを申し上げまして、私の公述を終ろうと思います。