運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1953-03-11 第15回国会 衆議院 内閣委員会厚生委員会連合審査会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十八年三月十一日(水曜日)     午前十時四十六分開議  出席委員  内閣委員会    委員長 船田 中君  理事 富田 健治君 理事 早稻田柳右エ門君    理事 大矢 省三君       大西 禎夫君    岡田 忠彦君       周東 英雄君    森 幸太郎君       山下 春江君    町村 金五君       粟山  博君    片山  哲君       吉田 賢一君    井手 以誠君       原   彪君    辻  政信君  厚生委員会    委員長 平野 三郎君    理事 野澤 清人君 理事 堤 ツルヨ君       新井 京太君    新井 堯爾君       池田  清君    勝俣  稔君       加藤鐐五郎君    永山 忠則君       吉江 勝保君    亘  四郎君       高橋 禎一君    岡部 周治君       鈴木 義男君    長谷川 保君       柳田 秀一君    只野直三郎君  出席公述人         元恩給局長恩給         法特例審議会委         員       高木 三郎君         早稲田大学教授         社会保障制度審         議会委員    末高  信君         旧軍人恩給復活         全国連絡会会長 永持 源次君         日本傷痍軍人会         常任理事    黒田  明君         日本遺族厚生連         盟理事長    佐藤  信君                 佐藤 盛平君  出席政府委員         総理府事務官         (恩給局長)  三橋 則雄君  委員外出席者         内閣委員会専門         員      亀卦川 浩君         内閣委員会専門         員       小関 紹夫君         厚生委員会専門         員       川井 章知君         厚生委員会専門         員       引地亮太郎君         厚生委員会専門         員       山本 正世君     ————————————— 本日の公聴会意見を聞いた事件  恩給法の一部を改正する法律案について     —————————————
  2. 船田中

    船田委員長 これより内閣委員会厚生委員会連合審査会公聴会を開きます。  私が連合審査会委員長の職務を行います。  開会にあたりまして公述人各位にごあいさつ申し上げます。目下内閣委員会において審査中の恩給法の一部を改正する法律案は、国民的関心のきわめて深い法案であり、内閣委員会といたしましては、この重要なる法案について公聴会を開き、広く国民各界の御意見を聞きまして、今後の審査の参考に資したいと存ずる次第であります。なお本法案ときわめて密接な関係にあります厚生委員会の御希望によりまして、連合審査会といたしました。公述人各位におかれましては、御多忙中のところ貴重なる時間をおさきになり御出席をいただきまして、委員長として厚くお礼を申し上げる次第であります。  なお議事の順序を申し上げますと、公述人各位の御意見を述べられる時間は、議事の都合上失礼とは存じますが、大体二十分見当にお願いいたしまして、御一名ずつ順次御意見の御開陳及びその質疑を済まして行くことにいたしたいと存じます。なお念のために申し上げますが、発言の内容意見を聞こうとする案件の範囲を越えてはならぬことになつております。また委員公述人に対して質疑をすることができますが、公述人からは委員質疑ができないことになつておりますから、さよう御了承をお願いいたします。  それではまず恩給法特例審議会委員高木三郎君より御意見をお聞きすることにいたします。高木三郎君。
  3. 大矢省三

    大矢委員 ちよつと議事進行について……。  本日のこの公聴会は、今議会で最も重要な法案の一つとしての恩給法改正案であります。従つて各界意見をお聞きするために、各公述人においでを願つたのですが、特に非常に重要と見て、委員長合同審査までされる今日のこの公聴会にあたつて、この法案関係のある各省責任者政府委員、それから大臣は、許す限り当然ここに出席して意見を聞くべきであります。しかるに従来の公聴会には、そういうことに不熱心で出て来ない。これは委員長が注意を与えられたかどうか知りませんが、この機会にぜひ関係各省政府委員はもちろんのこと、関係大臣がここへ出て来て各界意見をほんとうに聞いて、この問題を真剣に審議すべきだと私は考えておりますので、どうか委員長におかれましては、至急にそのことを関係政府委員並びに大臣に向つて請求されるように、私から希望しておきます。
  4. 船田中

    船田委員長 了承いたしました。さようとりはからいます。  高木三郎君。
  5. 高木三郎

    高木公述人 旧軍人軍属及びその遺族恩給につきましては、御承知の通り、昭和二十年の十一月二十四日、連合国最高司令官から、恩給及び恵与と題する覚書が発せられました。これに基く恩給法特例に関する件、昭和二十一年勅令第六十八号によつて昭和二十一年二月一日以後、公務傷病軍人軍属増加恩給等の一部を除きまして、すべての旧軍人軍属及び遺族恩給を廃止されたのでございます。これがため旧軍人軍属及び遺族のほとんど全部が生活の資料を奪われまして戦後七年間にわたつてまことに悲惨な生活を余儀なくせられるに至つたのであります。  元来明治憲法時代国家公務員は、極端に低い給与に甘んじながら、不定量の国務に従事することを強要せられ、かつ厳重な服務紀律に縛られていたのであります。特に軍人は他の公務員に比較いたしまして、さらに一層厳格に軍律をもつて律せられ、本人のみならずして、家族職業制限までも受けていたのであります。従つて一旦軍務に服した以上は、自由に転職することもできません。また在職中の給与は、かろうじて本人並びに家族生活を維持する最小限度であつたのであります。明治時代の俗諺に、貧乏少尉やりくり中尉、やつとこ大尉、こういうのがありますが、よく当時の実相をうがつたものであると考えます。ゆえに長年公務に従事いたしまして老朽になり、または公務に起困して傷病にかかり、不具、廃疾となりまたは死亡した場合には、在職中の給与は、とうてい爾後の生活に備うるの余力がないことは当然であり、また公務員自身が清貧に甘んじて、国家に奉仕することを名誉と心得たのであります。かかる献身的国家奉仕者に対しては、老後、死後において、十分に本人並びに遺族生活保障することが恩給制度本旨であり、国家としての当然の責務であると考えます。  叙上の立場におきまして、すでに給与せられ、または給与を受くべき権利ある者の恩給を、一朝にして剥奪するということは、国家的道義に反するものであり、また戦争に直接関係のなかりし者の生活までも脅かさんとすることは、人道上の問題でもあり得ると考えます。占領軍覚書が、そのねらいを那辺に置いたかは別問題といたしまして、覚書発表前後におきまして、当時の政府当局は、善後措置について苦心交渉を重ねたのであります。その結果わずかに傷痍軍人増加恩給のみを認められましたことは、はなはだ遺憾であつたと言わざるを得ないのであります。  かかる経過によつて廃止されました旧軍人軍属並びに遺族恩給が、平和克服後においてただちに復活せらるべきは、理の当然であると考えます。しかもポツダム宣言受諾に伴い発する命令に関する件に基く昭和二十一年勅令第六十八号、恩給法特例に関する件は、講和条約発効後六箇月内に何らかの措置が講ぜられなければ、当然にその効力を失うのであります。その結果として旧軍人軍属並びに遺族恩給は、当然に復活することは、政府側並び参議院法制局等意見として、有権的なものであると考えます。これがため政府は第十三国会に恩給法特例に関する件の措置に関する法律案を提出しました。両院の議を経てポ宣言に基く勅令第六十八号恩給法特例に関する件の効力を、昭和二十八年三月三十一日まで延期したのであります。この法律を認めました以上は、旧軍人軍属及び遺族恩給復活の問題は、既定の事実でありまして、いまさら恩給復活であるとか、社会保障であるとか、論ずべき筋合いのものではないと考えます。  ただわれわれの解釈いたすところによりますれば、前述の勅令の第六十八号施行後のわが国財政状況国民感情その他の諸条件を考慮いたしまして、現在のわが国情にふさわしき給与条件を定むべきであつて、必ずしも従来の軍人恩給に関する規定をそのまま適用するということは適当でない。またある部分においては不可能なる点もある。これがために公正な立場において、旧軍人軍属及び遺族恩給を、いかなる条件により復活すべきや、これを調査検討することが、恩給法特例審議会に与えられたところの使命であると考えます。すなわち恩給という形における古い器に盛る内容は、必ずしもそのままでなくても、新しきものであつてもさしつかえないと解釈いたしておるのであります。  私は今回政府が、恩給法の一部改正案形式をもつて軍人軍属及び遺族恩給復活規定せられますことは、叙上の理由によりまして法律上正当であり、また当然であると考えます。  ただその内容に至りましては、必ずしも満足すべきものではない。ただ国家財政現状から見まして、一応やむを得ざる最低限度であるということを認めざるを得ないのであります。特に私どもの深く同情にたえないのは、戦死者遺族方々であります。戦争の惨禍はいまさら言うまでもないのでありますが、最愛の夫、敬愛する父、つえ、柱と頼む子を失える遺族方々の心情は、いかなるものを与えてもこれで十分なりとの限界はないのであります。金銭の問題ではなく、いかに尽しても尽し切れないものではないかと思う。一刻も早く生活の最低限を保障するに足る国家保障を行うことが、せめてもの国家国民義務でなければならぬと思います。  しかも今回の法案によりますれば、遺族扶助料の年額は平均わずかに二万数千円にすぎない。それでもなお今回の恩給復活に要する国費の九割までが、戦死者遺族扶助料であります。遺族とともに同情にたえないのは、重症傷痍軍人であります。今回の改正案の適用を受ける傷痍軍人は、約四万五千人と称せられます。両手、両足、両眼盲等重症者は、まつた生活能力がないばかりでなく、肉体的、精神的に受ける苦痛は、死ぬにも増した二重の苦痛であると思います。軍人恩給廃止を命令した占領軍さえも、傷痍軍人恩給については非常に同情的であつたのであります。当時の為政者がいま少し努力を払つたならば、今日のごとく街頭に生けるしかばねをさらすの惨状を見ることがなかつたのではないかと思われまして、はなはだ遺憾に思うのであります。  近来ややもいたしますと社会保障が完全に行われるならば恩給制度の必要がないではないかという議論を耳にするのであります。これは私ども根本観念において相違いたしておると思うのであります。それが証拠には、わが国よりはるかに社会保障制度の発達いたしております英米でも別に恩給制度が存在いたしております。また敗戦国ドイツわが国より進んだ軍人恩給制度が行われておるのであります。西ドイツにおける旧職業軍人法律関係を定める基本法は、一九四九年五月八日の連邦共和国基本法によりまして、復活することを定められておるのであります。この規定によりますれば、十年以上の公務員在職十年につき退職当時の俸給の百分の三十五、十一年以上二十五年までは在職一年につき同じく百分の二、在職二十六年以上は在職一年につき百分の一の加給をいたすのであります。そしてその最高は百分の七十五までに達し得る、また扶助料につきましては、恩給の百分の六十から始まりまして、最高俸給の百分の四十五までは給せられることになつております。西ドイツのごとき財政状態においても、すでに一九五一年四月一日以降において旧軍人軍属遺族恩給復活いたしております。これは私ども理論上当然なことであると考えるのであります。  恩給給与でありまして、雇用主と使用人との関係根底になつておるのであります。社会保障制度審議会意見書に従いますれば、社会保障としての年金制度防貧の見地に立ち、国民最低生活保障することを理念とする、こう言つておられます。すなわち一般的普遍的に救貧政策を行うということでありまして、根底には恩給制度のごとく何ら雇用関係という特殊の権利義務観念もないのであります。また貧困の原因につきましても何ら問うところがないのであります。  恩給制度根本理念は、在職中の獲得能力減耗に対する損害補償の意義を有するものでありまして、受給者は当然の権利として要求し得る筋合いのものであります。これはまた当然負担すべき義務であると思います。国家公務員に対しその雇用主である国が恩給を負担すべきことは当然の責任であります。もちろん獲得能力喪失に対する損害填補論の前提といたしまして現在職中の給与内容を検討する必要は認めるのであります。社会保障制度審議会意見書中にも、公務員公務員としての給与、勤務及び雇用条件などの特殊事情がないではない、従つて公務員給与等は当然民間基準同等に維持さるべきであると言つておるのであります。これはまつたく同感であると思います。もし従来における官吏軍人待遇民間同等ないし同等以上であるといたしたならば、これに恩給を給するということは明らかに恩恵でありまして、権利ではないのであります。しかしながら過去において——現在においてもなおしかりでありますが、国家公務員待遇が常に民間より下まわつているということは疑いなき事実であると思うのであります。むしろ意識的に現職中の給与をでき得る限り低め、恩給の将来の保障によつて現職中の不足を補う政策すらとられていたのであります。  その著しき例は裁判官教職員軍人でありまして、明治憲法時代裁判官教職員軍人が、他の公務員に比しまして現職中の給与が低くして恩給額が多額であつたことは、この例証であるのであります。ともかく終戦公務員処遇は改善せられましたとはいえ、現在の公務員給与の実態ないし雇用条件等より見まして、社会保障制度以外に恩給制度を認めることは当然であると思うのであります。いわんや、過去における官吏軍人恩給給与の延長とも考えられるのでありまして、処遇の改善をなさずして社会保障に切りかえるということは不当であると思います。特に国家最大犠牲者である戦死者遺族傷痍軍人等の当然の権利を認めませんで、救貧政策による社会保障と切りかえるというがごときことは、受給者のとうてい納得しがたいことであると思うのであります。現に軍人恩給復活に関する全国五十数万の陳情者はこぞつて社会保障による給与復活を望まず、金額の多寡にかかわらず恩給による生活保障を望んでおるのであります。  恩給金額につきましては階級差認むることの可否が論ぜられておりますが、社会保障でありますれば当然生計費基礎とする定額制であるべきでありますが、しかしながら恩給制度であれば階級差があることがむしろ当然であるのであります。国家公務員法第百八条によりますれば「前条の恩給制度は、本人及び本人がその退職又は死亡の当時直接扶養する者をして、退職又は死亡の時の条件に応じて、その後において適当な生活を維持するに必要な所得を与えることを目的とするものでなければならない。」かように規定しているのであります。  旧軍人恩給文官恩給との均衡問題につきましてはある程度改正の必要を認めるのであります。しかしながら必ずしも両者同一でなければならないという理由はないと思うのであります。たとえば年金恩給所要最短年限は、下士以下の軍人は十二年、准士官以上十三年でありますのに、文官は十七年であります。また文官恩給額の極限が在職四十年でありますのに、軍人の場合は五十年であつたのであります。また加算年についても軍人文官よりはるかに有利な条件をもつて年限加算を受けておつたのであります。有利なる面を閑却して不利なる点のみをあげつろうべきではないと思うのであります。  在職年の著しく不足せる者、症状のきわめて軽い者に対する恩給についてとかくの議論あるやに聞くのでありますが、恩給制度根本理念におきまして獲得能力を失えるものを給与対象となすべきでありまして、獲得能力喪失程度低き者に終身小づかい銭を給するがごときは恩給制度本旨ではないのであります。また国家財政現状並びに今次戦争における犠牲は全国民的であつて、原爆その他の戦禍をこうむりたる者、在外引揚者等処遇と比較しまして、軍人のみがすべての既得権復活要望することは適正と考えがたい、国家財政を勘案し、財政の許す限度においてまず戦死者遺族重症傷痍軍人処遇を厚くし、さらに老齢軍人に及ぼすことが公正妥当と考えるのである。  これを要するに、社会保障制度論者議論は、理念の異なる恩給制度を、年金制度なる形式的概念をもつて、しいて統括せんとするものでありまして、何ら理論的根拠がないように思うのであります。また坊間行われておりまする恩給制度反対論は、多くは単なる感情論でありまして、首肯し得るに足る理論を聞くことができないのははなはだ遺憾であります。私は本改正案が満足すべきものでないことは認めるのでありますが、終戦後七年にわたる忍苦の生活を送つた軍人軍属、及び遺族方々のために、この際技葉末節議論に拘泥することなく、一日もすみやかに本案を採決し、国家最大犠牲者たる遺族傷痍軍人方々に安心と慰めを与えられんことを衷心より希望する次第であります。
  6. 船田中

    船田委員長 ただいまの高木三郎君の御意見について御質疑がございませんか。
  7. 大矢省三

    大矢委員 その答申案の中に、言葉ははなはだふさわしくないと思いますが、いわゆる戦犯者取扱いについての態度があいまいであつて、これは政府に大体一任するような形式をとつておるのであります。そのために今度のこの改正をするにあたつては、いわゆる戦犯者の問題はこれに取扱つていないことになつておる。これははなはだ私は片手落ちだと思いますから、どういうつもりでこういうふな答申をなされたのか、その点を私どもよくわかりませんからお伺いいたします。  それから今お聞きしておりますと、特に傷痍軍人あるいは戦没者遺族に対して厚くということであります。いわゆる既得権だからということで、恩給復活をそのまま認めるわけには行かぬという御意見でありましたが、それに対して特に軍人に対する将校並びに一般の下級兵卒に向つての差額もあまりにも多過ぎる。一方は五十何万円で一方は五万八千円、約十分の一にひとしいわずかの額をきめておるが、一体こういう階級制度を認めることが、今日の状態で、特に軍隊なき日本において、国民感情の上からどうか、どうしてこのままを答申されたのか。しかもこれに準じて多少の修正は加えておりますけれども政府原案もまたこれにならつて出しておる。これは方々からの陳情がありますが、その多くを受ける将校の中から、われわれは少くともかまわぬから、傷痍軍人並びに遺族の人に上げてくれ、こういううるわしい陳情がたくさんあるのであります。従つてこれは私どもはどうしても修正しなければならぬと考えておるのでありますが、その二点について一応あなたは特に審議会関係委員でありますからお聞きいたします。
  8. 高木三郎

    高木公述人 お答えいたします。前段の問題につきましては、私どもからお答えいたすことがどうかと考えますし、また多少関係がいろいろの方面に深いと思いますが、ただ審議会における審議状況を申し上げた方がよかろうと思います。戦犯に対して恩給復活すべきやいなやということは、審議会においても非常に大きな問題になつたのであります。相当この点につきましては慎重に論議をされたのでございますが、しかし戦犯と申しましてもいろいろの程度がある。戦犯につきましては、ある一面におきましてこれは国民的に考えても恩給給与すべきでないというようなものもあるが、また他の一面には、ほとんどささいなことで戦犯として扱われている。ことに占領軍が内地におりました間におきましては、まつたく犯罪の事実のないような者までも戦犯として扱われて刑務所に入れられておるというようなものも相当あるように聞いておりますので、それらの人々から考えますれば、講和回復後において、他の旧軍人恩給復活せられるということであれば、やはり復活してもらいたいと希望せられることが当然であると考えるのであります。しかしながらたとえばA級B級C級戦犯を区別いたしまして、B、C級復活する、あるいはA級は認めない、こういうような切り方はなかなか困難である。ことにA級戦犯につきましては、対外関係が相当起るのではなかろうか。そういう点からいたしまして、あまりはつきりした基準を外部に表わさない方がよろしいのではないか。むしろ政府としての責任において手心を加える、こういう方がよろしいのではないかということで、はなはだあいまいな答申をいたしたわけであります。従いましてこの取扱いにつきましては、政府責任を持つてしかるべく善処する、こういう含みであつたのであります。  第二点の階級差の問題につきましては、これもまた非常に審議会において議論があつたのです。しかしながら先ほど申し上げましたように、恩給制度そのものの本質から考えまして、退職当時における境遇に応じて処遇する、こういうのが恩給制度本旨であります。他の文官につきましても同様、退職当時の俸給基準として恩給を計算しておるのであります。軍人の場合におきましては、階級に応じての俸給が定められておりますので、今回旧軍人階級を採用いたしたのであります。従いましてもう少し区分を小さく階級差を少くして、たとえば将官、佐官というふうな程度階級差にするということも議論として行われたのでありますが、大多数の意見は、やはり文官との権衡上、退職当時における俸給、これは階級によつて定めておりますから、その俸給基礎として恩給を算出することが適当であろう、こういうことにきまりまして答申いたした次第であります。
  9. 野澤清人

    野澤委員 高木さんに二、三御質問申し上げたいと思うのですが、ただいまの御説明で、大体恩給法特例審議会答申内容とほぼ同様な御意見の御開陳がありまして、そのうち今度の軍人恩給復活に際しまして、国家財政状態と、国民感情とに左右されるというお話をされましたけれども、この審議会等における状況並びに高木さん御自身がお感じになつております国民感情とは、いかなるものをお指しになるのか、これを第一点に伺いたいのであります。  それから次に御説明になりましたもので、この恩給復活法律上正当である、しかもそう言うておいて、新しいものであつてもさしつかえないのだ、こういうふうに断定されたのは、どういう根拠から新しいものであつてさしつかえないと断定をされたか。  第三点は、内容においては満足すべきものではない、こういう御主張でありますが、その満足すべきものでないという焦点は、第一が何、第二が何というように、詳細にお伺いできたらたいへんけつこうだと思います。  第四点は、簡単に申し上げますが、今回の恩給対象として、第一に取上げたのは、戦死者遺族である、第二には傷痍軍人重症者である、第三には老齢軍人をあげたのである、こういうふうに分割されて御説明されましたが、傷痍軍人重症者というのは、六項症までを重症者と仰せられるのか、七項症から四款症あたりの足もきかない、腕もきかないという人は、きわめて軽症なものであるから、そういうものには当然与えなくともよろしいと解釈してよろしいのかどうか。  さらに第五番目に、もしさようなことでありますならば、生きております老齢軍人と、生きております七項症以下四款症までのけがをして不自由な方々で、しかもこの人も適当な年齢になつておりますから、老齢という点においても相一致する点があると思うのであります。こうした点において従来の恩給法では四款症までとつてつたにもかかわらず、これをお捨てになつた、要するに新しいものであつてさしつかえないという考え方から出発したのだと思いますが、どういう理由でこの答申には七項症から四款症までをお捨てになつたのか、この点をはつきり伺うと同時に、先ほど申し上げました通り、老齢軍人という建前と、相当のけがをして不具の状態にあります者との比重を、どちらを重く見られたか、この点をお伺いいたしたいと存じます。
  10. 高木三郎

    高木公述人 お答えいたします。第一に、国家財政並びに国民感情と申し上げましたが、国家財政上どの程度に今回恩給復活をすべきやということは、非常に大きな問題であると考えます。元来恩給法特例審議会は諮問機関ではございませんで、調査審議するということになつております。従いまして、政府からかくかくの限度においてかくかくであるかどうかということの諮問を受ける前に、審議会自体が各般の調査をいたしまして、一定の案をつくつてこれを答申するという形式をとつたのであります。従いまして、国家財政というものが、どの程度に現在軍人恩給に対しての復活予算がとれるか、これが大きな問題であると思つたのであります。そこで審議会の最初に大蔵当局の出席を得まして、今二十八年度並びに将来における日本財政状態から考えまして、どの程度に予算をとり得るかということの質問をいたしたのであります。その際、大蔵当局から詳細に現在の国家財政状況の御説明がありまして、私どもも容易ならないものであるということを了承いたしたのであります。しかしながら一面から考えますれば、予算に束縛されまして、当然出すべきものを出さないということは、審議会立場においても困る。そこでどの程度が適当かということは非常にむずかしい問題であるが、私どもの常識といたしまして最低限にどの程度に出し得るかということの目安を立てましてこれによつて一応の案をつくろう、こういうことであつたのであります。しかしながらこれと同時に、国民感情ということを申し上げたのですが、戦争に対する責任と申しますか、軍人に対する反感というものが最近までまだ相当に強いように思つております。この点は旧軍人方々のお考えになつておる感じと、またわれわれの考えておる感じとは若干ずれがあると思います。しかしながら、ともかくもある程度戦争責任というものを軍人に求めようとする国民感情があるのじやないか。そういたしますと、この際あまりに度を越した復活ということは考えなければならない。やはり国民が考えまして適当であると考える限度において復活すべきではないか。たとえば理想論から申しますれば、全部の軍人に元の通りに復活することが一番の何ら問題のないことであると思う。しかしこれは国家財政の上から見てとうてい許されない。また国民感情の上からも、非常に多額な国家財政を脅かすような予算をとつて軍人恩給全部を復活することはできない。こういう点を考えまして答申をいたしました。  次に、当然のものであるが、新しき形態でよろしいのであるということの根拠は、第十三国会における勅令第六十八号の延期に関する法律案の際に、私どももこの点については疑問があつたのでございますが、政府並びに参議院の法制局の意見は、恩給はポツダム政令の効力を失つた際において当然に復活すべきものなりという前提に立つたものだ、そういたしますれば、これは権利としては、当然に旧軍人軍属並びに遺族恩給復活する権利があると考える。同時にその際における政府御当局の御答弁によりますと、これを復活するにあたりましては、非常に慎重に検討しなければならない、そこで公正妥当な条件によつて復活せしむるために、別に委員会をつくつてそこで研究させる、こういうことであつた。従いまして私ども立場といたしましては、先ほど申し上げましたように、恩給という形は、器は古いままであつても、しかしながらこれに盛り込むところの内容は、必ずしも前の恩給制度そのままでなくてもよろしいのである、新しき時代、新しき財政、これらに伴いまして別に新しい制度をつくつてもよろしいのだ、かように考えたわけであります。  次に、私はこの法案は非常に満足すべきものでないということを申し上げたのでありますが、その第一は金額の点であります。たとえば遺族扶助料にいたしましても、私ども審議会の大部分の意見は、少くも社会保障制度審議会がかつて提唱されました月額三千円、年額三万六千円という線までは平均に持つて行くべきじやないかということで、最後まで検討いたしました。しかしながら国家財政のうえからやむを得ないということで、答申案には年額三万円という線まで落してこれを答申した。それがさらに今回の予算によりますれば低下された。こういう点におきましてこれは満足すべきものじやない。国家財政が許すならば、さらにこれを増額すべきではないか。また給与条件につきましても、文武間の公平であるとか、あるいは将来における恩給制度というものから考えまして、なお検討を要すべきものが非常に多いように思います。これらの点から考えまして、満足すべきものではないということを申し上げたのであります。  次に、戦死者傷痍軍人等処遇につきまして、七項以下の処遇は薄いのじやないかという御質問でありますが、これは私先ほど申し上げました通り、恩給制度の本来の性質の、獲得能力喪失に対する損害填補という基本観念から申しますと、老齢者と申しましても、ある程度以上に獲得能力を喪失した者であることが給与対象にならなければならない。また傷痍の場合においても、獲得能力程度の非常に少い者に対しては、その少い程度に応じた処遇をすべきであると考えます。御承知のように七項以下と申しますと、わずかに指一本失つたとか、一耳を聾したとかいうような程度である。この程度でありますれば、終身年金を給するほどのものではなかろうと考えました。重症者と申しますのは、われわれの方の考え方といたしましては、大体四項症以上であります。今度の一部改正案をごらん願いますと、非常によくわかると思うのですが、一項、二項に非常に重点を置いております。次に三項、四項にやや重くしております。そして五項、六項はむしろ下げておる。これは私どもの考え方といたしましては、重症者に重く、軽症者はある程度がまんを願わなければならない。加算年を廃止いたしまして、ある程度の低い在職年に対しては、当然恩給をやり得るような立場にある人までもこれを給与しない現状におきましては、傷痍軍人においても軽症者はがまんしていただかなければならない、こういう立場から七項以下を切つたのであります。
  11. 野澤清人

    野澤委員 非常に詳細な御回答を得ましてありがとうございました。ごく簡単にお願いしたいと思うのですが、第一番にお答え願いました軍人恩給に対する国民感情の動向についてでありますけれども、これは見解の相違であるということで片づけられればそれまでですが、直接戦争に参加した旧軍人の考え方と、一般民間の考え方とは非常に違う。特に今度の戦争責任に対して、国民一般が軍人に反感を持つているではないかというお話でありますけれども、これは高木さん御自身のお考えか、当時特例審議会における全般の空気でありますか、簡単に、イエスかノーでけつこうであります。
  12. 高木三郎

    高木公述人 私自身といたしましては、何らそういう感情を持つておりません。軍人といえども、特に応召軍人につきましては、非常にお気の毒だ。戦争責任軍人のみに負わせると申しますか、その軍人にもいろいろ程度がある。ほんとうに戦争責任を感ずべき軍人と、ただ命令によつて動いた軍人とがあるので、大部分は命令によつて動いた軍人でありますから、私自身といたしましては、軍人に対する反感を持つというのは、これは感情論であつて、何ら根拠はない。ただ審議会においての一、二の委員の発言の中には、今なお世間ではある程度軍人に対する反感を持つておるではないか。従つてこの審議の上においては、この点を十分考える必要があるということを発言されたのであります。
  13. 野澤清人

    野澤委員 ただいまの御意見で、高木さんは軍人恩給に対する国民感情は、特別戦争責任に対して感じておらないというお話ですが、先ほどの御説明ですと、責任があるような御説明でありましたので、おそらく審議会全体の空気だろうと思いますけれども今日いたずらに国民感情を刺激し、誤解を招くようなことは一切避くべきだと思う。特に過ぐる大戦の責任というものは、実際は軍閥や財閥が仕組んだ戦争であつて、われわれ戦野を彷徨した者は、ただ命令に従つて行動しただけであります。そうした者に対して、あたかも国民が悪感情を持つかのごとく宣伝することは、これは是正すべきだと思います。もう一つは今度の戦争の負けた原因は、軍人が弱かつたとか、なまけたとかいうことではないのであります。要するに国家全体の物資の供給がなかつたために敗戦まで導かれたのである。われわれは野戦にあつてそう経験したのであります。こういう点をはつきしりさしていただいた方が、この際国家国民にとつて利益でないかと思います。  もう一つ七項症以下の問題でありますが、七項症から四款症はたかが指一本とれただけであるというような御説明でありますが、七項症について実際にその現物をごらんになられて、これを軽症者としておきめになつたか、その点をお伺いいたします。
  14. 高木三郎

    高木公述人 私は実はかつて恩給局長をやつておりまして、恩給審査をやつてつたのですが、七項症以下というものは、改正前の恩給法にはなかつたのであります。これはむしろ私どもから申しますれば、軍閥旺盛時代の遺物じやないかというふうに考えるのであります。この点は見解の相違ということになると思いますが、七項症程度の者に終身恩給をやらなければならぬかどうかということになれば、私どもはこれは行き過ぎであると思う。御承知の通り、七項症が加わりましたのは、昭和七年ですか、十二年でございましたか、その後における改正でございまして、従前の規定では、七項症というものは年金ではなかつたのであります。
  15. 野澤清人

    野澤委員 あなたは前に局長をしておつたということですが、現実の問題として、足も動かない、手も動かないというものを単に軽症者として解釈していいかということであります。この点については、写真をここに持つて来ておりますから、後刻一応ごらんを願つて、比較せられて重症でないということであるならば了承できると思いますが、軽症者であると断定されることは少し軽率ではないかと思います。以上で終ります。
  16. 柳田秀一

    ○柳田委員 高木さんにお尋ねいたしますが、かつて恩給局長をなさつておられたので、恩給に関する御権威であらせられると思いますが、ごく簡単でけつこうですが、恩給という字句が、比較的観念的な字句が使つてあるのですが、日本恩給制度の発達を見ますと、欧米の制度を取入れまして明治の初年に軍人のみに恩給制度がしかれ、後に文官にもそれが適用され、一般公務員になり、そしてさらに恩給法という法律になつておるように存ずるのでありますが、字句のことを申しておかしいのでありますが、恩給の給はよくわかるのですが、恩という字はどういう意味でありますか、ちよつとお伺いしたい。
  17. 高木三郎

    高木公述人 恩給という言葉が使われましたのは明治初年でありまして、その当時における考え方はやはり恩恵と考えた。最近におきまして獲得能力喪失に対する損害の填補、こういう考え方にかわりましたために、現在における恩給という言葉は非常に不適当だと考えております。
  18. 柳田秀一

    ○柳田委員 恩恵という言葉であつたそうでありますが、私のは少し思い過ぎの解釈かもしれませんし、あまり文献的の検査はしておらないのですが、おそらく軍人のみに明治初年恩給制度が与えられた当時は、軍人は天皇陛下の股肱の臣であり、非常時の場合、一旦緩急あれば身を戦地にさらけ出す、こういう意味での恩という字ではなかつたかと思うのですが、それはともかくといたしまして、そこで恩給復活の考え方について考えてみますと、これは当然国家に対するところの権利義務に結ばれた雇用関係にある。特に軍人に対しましては、その雇用関係というものは、いわゆる天皇の軍隊という意味に結びついておつた日本が過去たどつて来ましたような日清、日露の戦役、こういう戦役のあとにおいては、これはなるほど私は肯定できるのですが、少くとも今度の戦争のように、われわれがこういう恩給制度を立法するときには夢想もしておりませんようなとき、さらにその結果をも夢想もしておりませんようなとき、さらに戦争末期には国家総動員法というものが発令されまして、国民は、軍人であろうが公務員であろうが、国民全体が国民皆兵の思想から、全部が権利義務にしばられておつた、そして国家総動員法というようなもので徴用された者は、いたずらに義務だけは要求されまして、それに対する権利がその後考えられておらないのじやないか。先般も予算委員会で述べましたが、たまたま広島に八月六日に原子爆弾が落ちましたときに、広島には国民義勇隊令によるところの義勇隊が軍属の身分で出ておつた。これは疎開作業に出ておつた。それは悲しいかな有給軍属でありませんでしたので、援護法や恩給対象になりません。私は有給であろうが、無給であろうが、国家総動員法に基いた以上は、当然国家が補償する義務があると考えるのですが、そういう見地に立つて、なおかつ旧軍人が昔の恩給を査定された当時の社会の考え方に立つて、もう国家の主権の存在がかわつた今日、あるいは国家において革命が起つたと言つても言い過ぎでないような今日、なおかつ昔の考え方の恩給復活というのが認められるかどうか、高木さんは当然認められる、見解の相違だとおつしやると思うのですが、そこの御意見をひとつお聞かせ願いたい。
  19. 高木三郎

    高木公述人 ごもつともなことと思いますが、ただ軍人以外の犠牲者に対しても、やはりある程度に考慮するということを大蔵省でも考えております。たとえば船員として戦死した、あるいは徴用の工員等につきましては、それぞれの法域において恩給法改正と見合せて、適当に処置するということで私ども了承いたしております。
  20. 加藤鐐五郎

    ○加藤(鐐)委員 議事進行について。恩給の問題はきわめて重大な問題でありますがゆえに、いろいろ質疑も多々あるであろうと思いますが、とにかくきようは公聴会でありますがゆえに、せめて午前中の三人のお方の公述を伺いまして、しかる後に質問に移られたらいかがかと存ずるのであります。一応質問の方は、三人の方が済むまでお待ちを願いまして、その後質問を継続されるように、動議を提出いたします。
  21. 船田中

    船田委員長 ただいま加藤鐐五郎君の御動議、御賛成があるようでありますから、さようにとりはからいたいと存じます。御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  22. 船田中

    船田委員長 御異議ないようでありますから、その通りにとりはからいます。  次に早稲田大学教授末高信君にお願いいたします。
  23. 末高信

    ○末高公述人 旧軍人恩給復活を企てる恩給法の一部を改正する法律案について、私の意見を述べるにあたりまして、私は主として国民一般の生活保障、すなわち社会保障の実現という立場に立つて申したいと思うのでありますが、必ずしもその立場に限定することなく、広く文化あるいは社会党展の現段階という視野から、この問題を検討してみたいと思うのであります。  結論から申しますと、旧軍人及びその遺家族生活保障は、恩給以外の方法によるべきでありまして、従つて受給権の復活という観念の上に立つ本法律案には、反対するものであります。以下逐次その反対の根拠を申し上げたいと思います。  反対根拠の第一は、この法案の底を流れている逆コースの思想でございます。この法律案提案理由といたしまして、政府において述べられているものは、今次大戦の終了するまでは、軍人に対しても一般公務員に対すると同様恩給が支給されていたのであるが、昭和二十年十一月二十四日連合軍最高司令官から発せられた恩給及び恵与と題する覚書によつて廃止せられたこと、独立を見た今日、これをこのままに放置し、敗戦の責めを旧軍人のみに負わせることは適当でないというにあります。軍人恩給復活の第一の理由として述べられました右の言葉については、後刻私の所見を述べることにいたしますが、まずここで問題としなければならないことは、その言葉の根底となつている思想でございます。すなわち終戦後から講和に至るまでの被占領期間中の各種の政策措置は、占領軍から一方的に押しつけられたものであるから、独立後だれに遠慮もなくなつた今日、元にもどすのが当然であるという思想、一言にして申しますならば、復古思想ないし逆コースの考え方であります。この時代思潮に対しまして、私は次のように考えております。終戦というあの徹底的な敗戦によつて、私どもの国日本は一応壊滅したのでありました。その焼土と廃墟のうちから現在の日本は再建せられたものであります。その再建にあたつて国民の悲願と決意は、第一に、絶対に過去の誤りを繰返さない、再び軍国主義と侵略主義によるところの人類への反逆を犯さ、ないこと。第二には、わが国をして真に住むに値する国、愛するに値打する国たらしめるためには、私どもは不退転の決意をもつて努力をする、こういうところにあつたと思うのであります。第一の意味するところは、平和国家の建設であり、第二の意味するところは、文化国家の建設でございます。この二大目標の達成のために、私どもは民主主義の原理を採用し、国のすべての活動は、われわれ人民のためにわれわれ人民みずからこれを行うことになつたのでございます。このような新しい目標と、これを達成するための新しい原理による新しい国づくり、すなわち新社会の建設は、一朝一夕にその実効を上げることは困難でありまして、私ども一代でできなければ、孫子の時代までたゆまない努力を続けなければならないと思うのであります。この長い道程のうちにおいては、幾多の困難に遭遇するに違いないのであります。また逆にあともどりをした方が楽になると思われることが多々あるに違いないのであります。われわれはこの新しい国づくりを始めてわずかに数年を経ておるにすぎないのであります。その創業に伴う困難や摩擦は初めから覚悟の上でございます。にもかかわらず、この当面の困難を解決するの道を、この二大目標への接近と民主主義の推進に求めずして、ややともすればあともどり、逆コースに求める者が多いのは、私の非常に残念とするところであります。この平和国家の建設、文化国家の建設のためには、日本の国と日本の民族は、正に命をかけてなし遂げるべきであり、現在の民主主義、その上に立てられた政治及び社会機構は、私の見るところでは行き過ぎどころか、まだきわめて不十分不熟のものであります。このような情勢のもとにあともどり政策を実行することになりますれば、そのこと自体社会の混乱を引起すばかりでなく、過去七、八年にわたるところの努力は、まつたく無意味のものとなり、完全な空白時代となつてしまうおそれもございます。このような観点からして、行き過ぎ是正の美名のもとに逆コースの政策を行うところのこの法律案に対しましては、私は反対せざるを得ないのであります。  反対の根拠の第二点は、旧軍人への受給権の復活は憲法違反であるということでございます。次にこの法案は、旧軍人に対する恩給権の復活を目的とするものであると説明せられております。終戦前の恩給法によつて当時の軍人に与えられていた恩給は、軍人たるの身分、地位に対して与えられていたものであります。ところが終戦によりまして、わが国戦争を放棄し、軍備を全廃し、従つて軍人なる階層は消滅し、もはや軍人という身分や地位は存在しないのであります。その存在しない軍人たる身分において得られたる恩給の受給権の復活ということは、まつた根拠のないことであります。従つてこの法案のように、旧軍人恩給を与えることは、国民である以外何者でもない旧軍人という一団に対し新たなる恩給制度を創設することにほかならないのであります。かくしてこの法案をもつて恩給復活であるとあくまでも主張されるならば、まず軍人たる身分が復活しておらなければならない。戦争を放棄し、軍備をしないわが国が、わが国の憲法において軍人なる身分を存在する余地はないのであります。しかるに旧軍人恩給復活することは、それ自体軍人たる身分の復活を認めることになるのであります。このことは、現在の憲法のもとにおきましては不可能でありましてそれ自体憲法違反であると私は断ずるのでございます。  反対の根拠の第三点は、戦争犠牲は全国民がすでに負うているということであります。この法案提出にあたつて、旧軍人に対する恩給を停止してそのままに放置することは、戦争従つて敗戦の責めを旧軍人のみに負わせることになり、不合理であるという点が強く主張せられているのであります。はたしてそうでありましようか。私の見るところによれば、戦争犠牲、敗戦の責めは、すでに広く全国民が負うていると思うのであります。勤労動員にかり立てられ父祖伝来の家業から離れた市民、学徒動員で造船所、航空機製作所に働いた学生、都市防空に挺身した市民は、あるいは健康を失い、命を落し、家財を焼き、職業からほうり出されているのであります。一言にして申しますれば、国内もまた一大戦場であつたのでありまして、国民の一人一人が軍人であつたのでございます。その集約的な姿が原爆の広島、長崎であるが、焼爆によつて焦土に化しました全国都市を見ますれば、私の言葉の偽りでないことをおわかりになつてくださると思います。終戦となり、愛児を学徒動員で失つた老いた母親も、父を焼夷弾による火災で失つた幼い子供も、そのままの姿こそが与えられた運命であるとして何ら国の特権的援護を求めることなくして、自己の生命の維持、家の回復、国の復興と再建に雄雄しく立ち上つているのが現在のありさまであります。すなわち国としては戦時災害補償法その他の戦争中のあらゆる約束を廃棄し、戦争によるところの犠牲に対する特別の補償を打切つたのであります。軍人恩給の廃止もまたこのような戦時補償打切りの一環をなしたものでございます。このように一般国民軍人と同様な犠牲を払つたのであり、それによる生活の苦しみをなめているにもかかわらず、一言も半句も戦時補償の復活を要求することをしないのでございます。このように要求しないことは、日本の再建のためには国民の全部がまる裸になつて働く以外に手はない、各人が身がつての要求をすべきではないということを感じているからであります。  反対の根拠の第四点は、旧軍人も援護を受けているということでございます。敗戦によりわが国民所得は低下し、窮乏のどん底にあえいだのでございますが、国民生活保障するために、昭和二十一年には生活保護法が制定せられております。この法律は公的扶助として世界の最高水準を行くものでありまして、全国民に対し、その窮乏の実態に即し無差別に生活保障をしており、旧軍人に対しても何らの区別なく援護を与えているのでございます。その保障水準はもちろん必ずしも十分でないかもしれませんが、わが国国民経済の許す限りのものでございます。これによつて軍人生活保障が十分でないというならば、旧軍人を込めて国民一般、すなわち愛児を失つた年老いた母親、父をなくした孤児等にも一層の援護ができるように、援護のわくを広げ、その保護の水準を上げるために国家予算を増額すべきでございます。旧軍人という階層のみに対し特権的援助をなすべきではないと考えます。  反対の根拠の第五点は、財政上の負担が厖大となり、恩給亡国のおそれがあるということでございます。この法案によつて軍人に対し支給する恩給が、いかに特権的援護であるかは、それに要する予算を見れば明らかでございます。その受給権者百九十二万人に対し四百五十億円の予算が計上せられているのに対しまして、国民の全部八千五百万人を対象とし、受給者まさに四百万人を数えるところの公的扶助に対しましてはわずかに二百四十億円、また八百万人の被保険者を持つ健康保険、厚生年金保険、失業保険及び二千三百万人の被保険者を持つところの国民健康保険等の各種社会保険に対しましては、わずかに二百六十億円が予算として計上せられているにすぎないのでございます。この旧軍人に対する恩給に、さらに国家公務員に対する恩給の百三億円を加えますときには、合計五百五十三億円となりまして、国家財政の相当の比率に上るものでございます。  反対の根拠の第六点としては、この法案国民一般と旧軍人との間に不均衡をかもすのみならず、旧軍人相互の間に不均衡を生ずるということでございます。この法案は、さきに述べたように旧軍人と原爆で死んだ者、勤労動員で不具になつた者との間にまつたく不均衡を生ずるものでございますが、さらに国民のうちから出た応召兵と職業軍人との間に著しいアンバランスを生ずるものでございます。すなわち実勤務年数をとる結果といたしまして、応召兵のほとんど全部は恩給の受給権を持つておらないのであります。これは国民から出た兵隊の犠牲において職業軍人を優遇するものにほかならないのであります。これはまさに一将功なつて万骨枯るの言葉を地で行くものにほかならないと思うのであります。われわれ国民はかくのごとき不当な法案を許すことはできないのであります。またこれに関連いたしまして、先ほど高木公述人への質問にもございましたが、第七項症に該当する者は恩給を受けないことになりまして、私の見たところによりますと、その間がアンバランスのために相当な摩擦が起るのではなかろうか、かくのごとくしてこの法案国民の間に不安をかもし、摩擦をかもし、反感をかもすことになり、遂にはこれを動機として国に一つの動乱が発生しないと何人も保証することはできないと思うのであります。  以下簡単に結論を述べます。すでに冒頭に述べましたように、結論といたしましてこの法案に反対するものでございます。しかしながら私は旧軍人に対しまして、厚い同情を持つことにおいて決定して人後に落ちるものではないのであります。しからばこれに対する対策いかんということになりますと、この法案のために用意しましたところの予算四百五十億円を全部社会保障関係の経費に繰入れ、従来の扶助のわくが狭ければこれを広げ、額が足りなければこれを増し、旧軍人をも含めて、一般国民の福祉を守り、その生活保障を実現すべきものであると思います。この方法は一見迂遠のごとく見えますが、実は平和日本、文化日本の建設の礎となるであろうことは私の疑いのないところでございます。これをもつて私の意見の陳述を終ります。
  24. 船田中

    船田委員長 次に旧軍人恩給復活全国連絡会会長永持源次君にお願いいたします。永持源次君。
  25. 永持源次

    永持公述人 まず本日公述人として恩給法の一部を改正する法律案について所見を公述する機会をお与えいただきましたことにつきまして、厚くお礼を申し上げます。  旧軍人関係恩給復活という問題は、私どもといたしましては当然過ぎるほど当然と思つておるものでございます。その細部につきましてはすでに書いたもので皆様のお手元にも差上げてございます。また私が直接お目にかかつてお話申し上げた方もあります。また選挙区の関係者にはお話し申し上げたこともございます。また専門員の方もこまかい参考資料をおつくりになつておられますので、いまさら事新しく申し上げることはございません。しかしせつかく時間をお与えいただいたのでございますから、そのうちの重要な点、及び法律案を拝見いたしまして気のついた点について、一、二申し上げたいと思うのでございます。  ただいまも申し上げましたように、旧軍人関係恩給復活というのは、私どもとしては当然過ぎるほど当然と思つておるのでございます。連合国の要請によるものとは申しながら、七年間を一般公務員と差別待遇をされております。平和条約が発効になりましてからさらに一年間お預けになつたということは、まことに不可解のように思われるのでございます。一般公務員では、追放になりました者に追放解除と同時に恩給が支給されております。また一般の民間会社にいたしましても、退職当時在職中の給与の一半として多額の退職年金または退職一時金を支給しておる。それに、ただいまも他の公述人からお話がございましたように、薄給に甘んじ命を投げ出してお国に御奉公した旧軍人並びにその遺家族に対してだけ特別の差別待遇を与えることは、どうもふに落ちないのでございます。一般民間会社の退職金もやめてしまえ、一般公務員恩給もやめてしまえ、みんな社会保障にしよう、そこまで御徹底になつた御議論であれば、そのよしあしは別としても首尾一貫しておると思うのでございますが、まだそこまで行つておりませんし、またそれはちよつと実現不可能ではないかと思つておる次第でございます。たしか昭和二十三年を境として、その前とあととで一般公務員恩給が違つておる。その不均衡を是正する必要があるというので、議員立法で不均衡是正の法律をお出しになりました。一方では旧軍人関係恩給を待たしておいて、こういう不均衡を御是正になるということについて、いかにもふしぎに思つたのでございます。片方ではかように公平なお取扱いをされるのでございますから、旧軍人恩給もまたその公平のお考えをもつて取扱いいただくものと大いに期待している次第でございます。  さて、国家財政のことを考えますと、何から何まで私どもの希望通りということもできないことは覚悟をしております。御承知のように、恩給停止当時の恩給復活して、それをべース・アップした額に比べますと、恩給法特例審議会答申ですらその半額以下になつており、今度はさらにそれを一割以上も減らされているのでございますから、そこに不均衡ができておることは当然でございます。昨年一般公務員給与が改善されました。ところが一般公務員恩給はそのままになつております。ここに現職者と、一般公務員ですでに退職されておる方との均衡がとれていないことになつておる。またこれから退職される一般公務員の方、過去において退職された一般公務員方々との均衡もとれない、いろいろ不均衡のところができておるのでございますが、この点については大いに考えていただかなければならぬと思うのでございます。なお恩給法特例審議会答申が新聞紙上に発表になりましたとき、先ほどからお話がありましたように、所要額の大部分が戦死者遺族並びに傷病軍人に与えられるということは、読めばすぐわかるのでございますが、有力な新聞ですらそれを間違えてとかくの議論をして、そのために国民感情を不利に導いたということは、私どものまことに遺憾に存じておる次第でございます。また大将とか兵とかいう階級規定の上に現われておりますので、とかくの御議論があるように思います。しかしながらこの階級退職当時の収入を表わす代名詞として使われていると思つておるのでございます。大臣つた方が恩給をもらつてつても、大臣としてもらつておるのではなくて、元の大臣としてもらつておられるのでございます。元の大臣、元の将兵、それで恩給を支給されるのだと思つております。それに恩給停止当時の恩給復活した場合と、今度の法律案に示されております額とを比べてみますと、下級者については、百倍もしくは百倍を少し上まわつた額になつております。ところが上級者は五、六十倍になつておるのにすぎません。戦死者遺族扶助料にいたしましても、今回の法律案では一般公務員も元軍人も同じような形にかえられましたが、その以前におきましては、一般公務員の方は上から下まで、普通扶助料の何倍ということにきめられておつて、それが同じ倍率になつております。ところが軍人恩給の方では、上は倍率が少く、下は多く、それが二倍以上になつていたのでございます。ちよつと話が横にそれますが、かの忌まわしい五・一五、二・二六とかいうような事件が起りましたのは、社会改造という理念に支配されて、ああいう事件を起したように思つておりますが、その思想が自然の間に軍の中に入つておりまして、恩給法にもそれが反映して、今のように一般公務員とは違つて、上に薄く下に厚い規定なつたと思います。なお今度は大将の恩給基礎額が十六万五千円ということになつておりますが、それを一般公務員のに比べてみますと、昨年の給与改訂前の基礎額で、大臣が二十五万六千円、保安監が二十四万円、次官で二十万円、また小学校の校長で十八万円の恩給をもらつておられる方がたくさんあると承つております。従つて、この階級ということが現われているというので、かれこれお話の出ることはちよつとふしぎに思うのでございます。  一般的の議論はそのくらいにいたしまして、法律案そのものについて申し上げますと、先ほども申しましたように、この法律案には幾多の不満足な点が含まれておるのでございますが、一方では国家財政を無視して主張するわけには参りません。またできるだけ早く恩給をいただきたいというので、首を伸ばして待つている者がたくさんあるのでございまして一部のためにいたずらに時日を費しまして支給が遅れることは非常な痛手でございます。現に恩給法特例審議会答申の出ましたときには、もう一月から支給が始まると思われていたのでございますが、今度はそれが実現しないで四月までお預けになつておるのでございます。新聞でもごらんのように死亡して行く人もおります。そういうわけでございますから、幾多の不満足はございますが、不満足のままでもやむを得ません、この法律案をできるだけ早く通していただきたいということが、第一の念願でございます。しかしながら、いろいろな点がございます中で、これは割合に実現できるのじやないかと思う点、また特に下級者に影響の多いと思う点について希望事項を申し述べて御配慮を願いたいと思うのでございます。  第一は、公務扶助料戦死者遺族扶助料の問題でございますが、先ほど申し上げましたように、今度は文武官同じ形になりましたが、これは一般公務員の方は過去にさかのぼつては施行されません。従いまして、今度の戦争で戦死をした文官の方、これは上から下まで普通扶助料の四倍、すなわち御主人が生きておられたときの恩給の二倍の扶助料をもらわれているのでございます。それが今度の戦争に行きまして戦死した軍人遺族の上の階級の方は御主人が生きていたときの恩給ほどにも達しません。下の方で有利な方々でも、御主人が生きておられたときの恩給の三割増しになつておるにすぎないのであります。これは国家財政の上からなかなかむずかしいと思うのでありますが、しかし先ほども高木公述人からお話がございましたように、できれば一番下のところで月額で三千円程度に引上げていただくことができたらと思うのでございます。これは一人について一万円、総額にして百億に近い予算がいるのではないかと思われますから、今年のこの法律にはちよつと間に合わないかとも思いますが、将来についてはぜひ考えていただきたいと思います。  それから傷痍軍人につきまして、第七項症及び第一款症ないし第四款症の問題については、先ほどお話がございましたが、できたらこの年金の復活をしていただきたいと思うのであります。ことに第七項症の場合は、増加恩給復活せられないとともに、普通恩給も支給されぬことになるのでございます。この権利をなくなすのでございますから、この点について御考慮を願つたらいいと思います。この方は、むしろ予算は一時金が減りますので大した影響はないのではないかと思うのでございます。  次は加算の問題でございますが、これはすでにたびたび議論されております。加算廃止の理由といたしましては、内地の戦場化、調査の困難、国家財政というようなものがあげられておりますが、内地の戦場化の問題にいたしましても、軍律で強制的に刑法のもとに戦争をしております者は、そのときの特異性を考えていただいていいのではないか、また今度の戦争でなくて、過去の戦争までさかのぼるということは、りくつからいえばぐあいが悪いのではないか、こう思います。しかしながらこれは国家財政ともにらみ合せなければならぬのでございますから、ある程度のことはがまんしなければならぬ。しかしこのために恩給を受ける権利を失う者が相当多くできるので、この者に対しては何とか考える余地があるのではないかと思つておるのでございます。そのための予算はどうなるかと申しますと、こういう者は若年者でありまして、若年停止の規定にはまるものでございますので、当分の間は予算には影響はない、先に行きますと、自然減耗と相まつて予算額には大した影響はないのじやないかと考えられるのでございます。既裁定者においては、それが実現されておるのでありますから、未裁定者に対しても、既裁定者に対すると同じような規定を適用していただいたらいいのじやないかと思うのでございます。調査の困難という問題もございますが、先ほども申しましたように、若年停止を受けているので、ここ数年間ひまがありますから、その間に調査もできるのではないか、また加算の検査の方も、簡便な方法をとることも考えられると思います。なお、いよいよ勘定が骨が折れるのであれば、たとえば在職が五年以上の者で一度戦争に行つた者は、この加算のために恩給年限がつくという見地で取扱うことも考えられるのではないかと思うのでございます。なお、これを救う一つの方法といたしまして、実在職が引続き七年以上の者に一時恩給を給せられるようになりまして、それが従来なかつた兵にまでその規定を適用するということにきめられております。やむを得ず加算を考えずに一時恩給にするという場合におきましても、この「引き続く」ということはできればやめていただきたい。また、七年ということはあまりにかわいそうだ、五年くらいにしていただきたい。一般公務員では三年以上の者に一時恩給を支給されるようになつております。これも七年を五年にすると予算の上に大分影響があると思いますから、本年度間に合わなければ、将来において大いに考えていただきたいと思うのでございます。今、引続き七年の問題が出ましたが、今度の法律案を拝見いたしますと、基礎恩給年限を勘定いたしますのは、引続く在職が七年ということが基準になつているのですが、一般公務員では一年が基準になつているのであります。一年以下は切り捨てる。これには七年以下を切り捨てるということになつておりますが、何とかこれは……。恩給法特例審議会のときにも、文武官の通算と一時恩給の問題では引続き七年ということが論議されたのでございますが、一般的にはあまり論議されなかつたように承知しているのでございます。できましたらこれをやめていただいたらと思つているのでございます。一回七年で行つた者は、あとは一年以上の年限を勘定すると、たとえば七年、五年、総計で十二年になつている者は、十二年という見地からいえば恩給がいただけるのでございますが、今度はいただけないというようなかつこうになつてつて、あまりに無情ではないかと思うのでございます。なお、さらに一歩を進めまして、二十ページのところの、第九条の第一項の第一号のロの項に述べられておることでございますが、普通恩給は、引続く在職恩給の最短年に達しないと権利、資格がないということになつております。言いかえますと、七年、七年、こういうように勤務した者も年金を受取る資格、権利がないということになつているが、これは調査もそう骨が折れることはないと思います。予算の上でも大した影響はないと思いますから、この第九条の「引き続く」という字だけはぜひとつていただいたらと、こう思うのでございます。  最後に申し上げたいと思いますのは、先ほど問題になりました戦犯者の問題いでございます。私の希望といたしましては、附則の第二十四条、これは全部削つていただきたい。第一項はすでに拘禁されていない者についての規定でございますが、これは勅令第六十八号が廃止になつておりますから、特に書かないでも当然のことに思うのでございます。拘禁中の者に対しまして何とか恩給をやるようにしていただきたい。これは責任上刑を受けている者で、国内法で刑を受けている者ではないのでございます。長い間家族も困つているのであります。対外的の関係があると思いますが、この詳しいことは私は存じません。しかしこの二十四条を黙つてつてしまえば目立たないでいいのではなかろうか、これはかつて議論かもしれませんが、そういうふうに感ずる次第でございます。  なお刑死者、獄死者の家族の問題も考えていただきたいと思うのでございます。できれば公務死亡にしていただきたいのでございますが、いろいろ問題もあるだろうと思います。もしも公務死亡扱いができませんならば、何らかの方法で援護の手を延べていただきたいと思うのでございます。  まだ申し上げたいこともたくさんございますが、制限された時間をもう超過したようでございますから、この辺でやめますが、どうか公平の見地からできるだけ早くこの法律案が——やむを得なければこのままでよろしいが、できればただいま申し上げました修正希望事項をお取上げになりまして、できるだけ早く施行になるように御配慮を願いたいのでございます。  長い間御清聴を煩わしたことについて厚くお礼を申し上げ、なお私どもも力が足りなく、毎日々々苦しんでおるこれらの者に対して、まことに申訳なく思つております。それからこの議会の風雲が険悪をきわめておりますので、この法案が通らぬうちに解散にでもなりはしないかと心配をしておる者がたくさんありまして、私のところへ電話または手紙が多数来てれります。どうぞその心情に御同情を願いたいと思います。  なお漏れ承るところによりますと、この恩給停止の命令が総司令部から出まして、先ほどお話のありましたように、当時の御当局の方も何とかそれを食いとめるようにお骨折になつたそうでありますが、そのときの総司令部の御返事では、実はソビエトからいろいろ提案があつた、みんなけ飛ばしたがこの軍人恩給の停止だけはソビエトの案を採用したのだ、これ一つだけはどうしても通してやらなければ悪いから、ひとつ通してやろう、こういうお話だつたそうでございます。こういういきさつもあるということを念頭に置かれまして、御同情あるお取扱いを願いたいということを申し上げまして、私の公述を終ろうと思います。
  26. 船田中

    船田委員長 以上の三人の公述人に対する質疑を行います。質疑は通告順によつてこれを許します。堤ツルヨ君。
  27. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 高木さんにお尋ねをいたします。あなたの御意見を拝聴いたしました中で、先進国に行われております社会保障制度、また日本現状におきましても全国民がひとしくその確立を望んでおります社会保障制度というものに対して、これは救貧政策であるという御意見があつたように承りました。一言お触れになつたことで、そのあなたの御意見根拠がはつきりいたしません。元恩給局長であり、恩給法特例審議会委員でもあるあなたの場合、社会保障制度に対する御認識は非常に大切だと私は思いますので、もう少し根拠をはつきりしていただきたいと存じます。  それからもう一つ質問をいたしたいのは、公務員に対する恩給制度というものは、在職中の損害要求であり、これの補償であつて獲得能力減退に対する補償であるということを御強調になつておるのでございますが、しからば公務員以外の八千五百万の大衆をお考え願いたいのでございます。いかなる階級といえども、どんな場所で働いておりましても、働く人間である限り、農民、中小企業の場合も含め、もちろん民間産業に働く人たちも含めて、在職中の損害要求というものは何人もいたしたいところの社会情勢でございます。御存じの通り、この正月以前の補正予算の組みかえをいたしましたときも、一万三千四百円の人事院の勧告べースさえも与えられなかつたところの公務員の今日の基準を社会の基準といたしまして、民間労組に働く方々は損害要求をしなければならない今日の現状にあるのでございます。同時に獲得能力の減退ということをおつしやるのでございますが、身をすり減らして働くところの農民、中小企業、すべての勤労者は働いておりますうちに年をとつて獲得能力を減退いたしますことは、ひとり国家公務員軍人文官だけではないと思うのでございますが、この一般大衆と、特定の恩給という恩典に浴する人たちとの均衡についてあなたはどういうお考えをお持ちになつておるか、少し明快にしていただきたいのでございます。
  28. 船田中

    船田委員長 この際委員長より御注意までに申し上げますが、質問者も御答弁なさる方もなるべく簡潔にお願いいたします。
  29. 高木三郎

    高木公述人 第一に社会保障制度についてのお尋ねでございますが、これは私は社会保障制度そのものを決して非難しておるわけではない。ただ私ども立場から、これはイギリスあたりでもそうだと思いますが、ただいまの社会保障制度の発達の歴史からいえば、防貧政策であるプア・ロー・システスから来たものだ。また現在においてもスーパーアニユエーシヨン・スキームというものが相当向うでも検討されておるようであります。こういう立場から、私ども社会保障というものは非常に大切なことである、これはやらなければならないのだが、その社会保障根底となる理念恩給制度とは理念において相違する、こういうことを申し上げたい。これは後段の獲得能力喪失に対する損害填補とも関連を持つことになります。私の考えておるところによりますと、ただいま申しましたスーパーアニユエーシヨン・スキーム、老廃になつた場合にこれをどう処遇するかという問題、そうして一体その損害填補は何人が負担すべきや、こういう問題になると思います。私は先般「ジユリスト」に恩給制度論を書いて、それに詳細に私の意見を述べたつもりでございますが、一体企業者が使用人を使つた場合に、積極的にその者並びに家族生活の保持を確保する以外に、その時間の経過によつて失われて行くところの獲得能力、ウイニング・キヤパシテイというものの消極的の減耗に対して企業者自身が補償すべきものであるという考えを持つております。ですからこれは恩給制度そのもの恩給という言葉は私自身悪いと思う。外国語のペンシヨンには恩恵的意味はないのであります。ペンシヨンということはただ支払いということであつて、恩恵的という意味はひとつもない。ただ日本でたまたまつくられた言葉が、その当時の法律思想からいつて国王、国家その他の恩恵なりという考え方から恩恵的給与ということが出たと思いますけれども、現在における恩給制度根本理念から言いますれば、私はそういうものではないと考えております。従つて恩給は何も軍人とか公務員とかいうものに対する特権じやない。これはすべてのサラリーマンが要求すべき理論的根拠を持つものなりとこう考えます。そう考えました場合において一般の民間企業の企業者が、その使用人であるところの一般の雇用人、それの獲得能力の損害をみずから填補せずして国家に負担せしめるということは不当じやないかと私は考えております。それでありますから、先般来社会党の方から恩給制度についての御反対があるようですが、私はむしろふしぎに思つておるのです。これはむしろその方を声を大にして、恩給制度を一般に及ぼせ、こういう御議論なら私ども大賛成なんです。ただたまたま国家国家の使用人であるところの公務員に対して、獲得能力喪失に対する損害填補をするのが現在の恩給制度である。そしてこれは必ずしも日本ばかりじやない。欧米各国みんなやつておる、社会保障制度のあるところでも現にやつておる。アメリカにも恩給制度というものがあるかといえばあるのです。ですからこれを官吏の特権なりとお考えになること自体が、私ども非常におかしいのじやないかと思います。一般的に使用者、雇用主に対して、将来に対する獲得能力喪失に対する損害填補を要求すべき法律上の根拠を持つている、こう考えております。
  30. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 私の意見を述べることは、許されておりませんので、承つておきたいと存じます。  それから次にお尋ねいたしたいのは、特別審議会委員方々は、その答申の中に十七階級をそのまま生かしておられる、これが問題点でありますが、軍隊のない今日、十七階級というものが颯爽と再びデビューして来るということに対して、私は憲法との関連をあなたはどうお考えになるか、ひとつ承りたい。
  31. 高木三郎

    高木公述人 これは先ほど末高氏からの反対御意見の中にもあつたようでありますが、私どもはそう考えない。たまたま十七階級というものをとりましたが、これは便宜論であつて恩給は先ほど申しましたように、社会保障制度とは違う。退職当時における境遇に応じて、それぞれの処遇を与えるというのが恩給制度でございますから、結局これは西ドイツ恩給法もそうでありますが、退職当時における俸給の何分の一というのを算出するのが原則なんです。そこで旧軍人につきましては、俸給何千円ということのかわりに、便宜的に階級をとつただけにすぎない。それでございますから、先ほどお話がありましたように、憲法違反というような問題は起らないと思うのです。これは公務員についてお考えになればよくおわかりだと思うのです。公務員恩給法に定められたる各種の条件を満たしましてたとえば十七年なら十七年在職して、そうして失格原因なくして退職したときに恩給を給す。退職ということが、最後の条件である。退職してしまえば身分がなくなる。その身分のなくなつたときに恩給をやる、こういうのが恩給制度である。従つて軍人の場合においても、たまたま前の軍人の、将校以上は終身官でございますけれども、終身官でない軍人並びに終身官であつても、職を失つたときに、初めて恩給を出すのでございますから、前の階級そのままを認めるというのではなくして、便宜論としてその身分に応じて、待遇を与えるこういう考え方であります。
  32. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 これは永持さんへの質問にも同時になるわけでございますが、お二人ながら十七階級をうたわれておるのは、収入の代名詞であつて、そして一つの技術面に利用されただけであるということを御答弁になつております。これは詭弁だと思いますから後ほど……。  それから一つお伺いいたしたいのは、今度の四百五十億のこの補償の内容を見ましても、恩給法の一部を改正する法律に伴うところの予算の裏づけを見ましても、ほとんど九十何パーセントまでが戦傷病戦没者遺族等の補償であつてこれが年金等という点から勘案いたしますときに、恩給法の一部を改正するというところに銘打つて、そうして元の位階、勲等を生かした、恩給法の一部改正にあらずして、既得権をある程度認めるというならば、私は単独立法によつてなされた方が万事だれが見ても妥当ではないかと考えるのでありますが、これに対してどうお考えになりますか。
  33. 高木三郎

    高木公述人 特例審議会答申といたしましては、別段どういう形式にということも申しておりません。その方法については、政府の方でお考えになつたことだろうと思いますが、ただ私どもといたしましては、先ほど申し上げましたように、ポツダム政令に基く勅令の六十八号、これが平和回復後六箇月間そのままの状態で置かれるといたしましたならば、当然に恩給復活することになる、これを阻止するために十三国会において特例に関する法律案を出された趣旨から申しますれば、やはり恩給復活である、こういう考え方が形の上においては適当である、こう考えるのであります。
  34. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 それからもう一つお尋ねいたしたいのですが、永持さんの御発言中に、現在の保安隊の給料とお比較になりました。ここが一番私は問題だと思うのですが、吉田内閣が恩給法の一部を改正するねらいは、この保安隊との比較にあるということは、国民感情として非常に強い、私はそう思つておりますが、あなたは現在の保安隊、今のやみ軍隊と申しますか、吉田内閣の軍隊というものと、そしてこの恩給法の一部改正とのつながりにおきまして、どういうふうにお考えになつておるか、もう少しはつきり伺いたいと思います。
  35. 永持源次

    永持公述人 私が今申し上げたことは、再軍備というものには無関係と思つて申し上げたのであつてただ退職当時の収入そのものがこう違つておるのだ、退職当時の収入に基く恩給基礎が、こう違つておるのだということだけを申し上げておるわけでございます。
  36. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 そこで元の軍人の方と、恩給局長の二人にお尋ねしたいのでございますが、かつて既得権を生かすのならば、軍隊のない今日、十七階級をうたうことなく、ほんとうにこの人たちに何とか国がこたえなければならないのならば、死んだ人々、犠牲をこうむつた人々を、統計の上に現わしてみましても、八五%がほとんど兵長から一等兵、二等兵の人で占められておると思うのでございますが、何も今日位階勲等を、憲法違反の容疑までもこうむりながらうたわなくても、この八五%を占めるところの階層の人々の平均を出してここに要求をされるのならば、国民は納得が行くのでありまして、また今日の社会通念とも合致すると思うのでございますが、こういうことをお考えになつたことがあるか、元軍人の方として、元恩給局長立場としてお考えになつたことがあるか。
  37. 高木三郎

    高木公述人 今日においてはもちろんそういうことを考えて、大分議論があつたのでございます。しかし先ほど申しました通り、恩給制度そのもの理念から申しますと、退職当時における境遇、これが算出の根拠になつておりますから、文官の方においても同様に、上は大臣、下といつては悪いのですが、属までが同じであるということは、恩給制度そのものの本質からいつて言えない。やはり大臣大臣処遇、また事務官は事務官の処遇、こうなる、現在の場合においてはほかに現わしようがありませんので、たまたま旧階級を利用したというにすぎないのであります。
  38. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 私は皆様方のお心持はよくわかりますけれども、やはり一般の人々に納得行く方法において戦傷病戦没者遺族等に補償の手が打たれることが妥当と思いますので、ひとつその辺をお考え願いたい。  もう一つお尋ねいたしたいのは、七項症以下の傷病兵の問題が先ほどからも問題になつておりましたが、若年停止をもう五歳なり八歳なり十歳なり引上げて、若年の元軍人方々で健康な方はしんぼうしていただく、そうして七項症以下のだれが見ても国家がつぐないをすべき人々には、この金を予算のやりくりをしてでもまわすべきが妥当だと思いますが、先ほどの末高公述人の御発言の中にも、元軍人戦争犠牲者の中においても、仲間割れをするような原因があると御指摘になつたのはこの辺だと思いますが、そういう点は、互譲の精神をもつて若年停止を切上げて、この七項症以下の、真に救わなければならない人たちにまわすということをお考えになつたことがあるかどうか、お二人にお伺いいたします。
  39. 高木三郎

    高木公述人 特例審議会におきましても、この点は非常に慎重に検討いたしたのであります。ただ先ほど申し上げましたように七項症という程度の障害は、現実に申しますれば親指一本がなくなつたという程度です。親指一本なくなつ程度の方に年金をかりにつけるといたしましても、きわめてわずかの年金を終身出さなければならぬかどうか、こういうことになりますと、むしろその部分は非常に重傷な両眼盲であるとか、あるいは両手がなくなつたとか、こういう方々に少しでもよけいあげた方がよろしいじやないか、この考え方は、あたかも年数の少い人たちが遠慮をしまして、老齢軍人あたりに少しでもよけいまわそう、こういう考え方と同じじやないか。そこでやむを得ず七項症以下をこの際国家財政のことを考えて切つたのであります。もつとも七項症についていろいろ今言われておりますが、それらの方々はおそらく爾後重症であろうと思います。爾後重症であれば、爾後重症に対する再審査という方法があるのでございますから、親指一本なくしたのが原因になつて爾後活動ができなくなつたという場合においては、爾後重症規定によつて救済されるのでございますから、若い人が戦争に行つて親指を一本なくした、この程度の方は、やはり戦争に行つて七年しかたたなかつた、そこで恩給をもらえなかつたという人と同じように考えられて、真に救うべきものに重点的に持つて行く、こういう考え方であります。
  40. 永持源次

    永持公述人 先ほどの社会保障制度の問題でございますが、これは先般私が社会保障というのがあまりわからぬものですから、社会保障制度審議会の事務局の方とお話をしたことがございます。そしていろいろお話を伺いましたが、実は社会保障制度は貧乏人を助ける制度であるかということを伺うつもりで、社会保障ということは個人の生活の実態を考慮して支給するものか、こういう質問をしたのであります。個人の生活の実態というものは、金持であるか、貧乏であるかという意味で言つたつもりであつたのであります。ところがそれを相手の方が間違えているわけです。いやいやそれは当然生活の実態をもとにしてやるのだ、局長だつた人は局長らしく社会保障する、下の者は下の者らしく社会保障する、こういう御答弁がございました。社会保障というのもそういうような理論が入つておるものと私は思つております。従つて退職当時の収入ということをもとにして、何らかの手当をするということは、先ほども申しましたように、民間退職金でも同様になつておると思つておるのでございます。それから今の若年停止の繰上げの問題でございますが、これについてはいろいろ私どもの間にも議論がございます。今のでも上げ過ぎる。実際過去の統計によりますと、軍人であつた者は非常に早く死んでおります。これはお手元に差上げた参考書類の中に詳しく述べております。あれを一応見ていただきたいと思いますが、割合に早く死んでいる。ところが若年停止をあのままでやりますと、恩給をもらわないで死んでおる者も大分いるというようなかつこうになつておるので、まああの辺のところで行くのが当然ではなかろうか、こういうふうに判断している次第でございます。
  41. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 ありがとうございました。その次に末高信先生にお尋ねいたしたいのでございますが、先生は社会保障制度審議会委員であられますが、私の質問いたします趣旨を間違えないように御了解願いたいのでございますが、戦争犠牲というものは、先生が論じられた通りであると思うのでございます。しかし戦争犠牲のでこぼこはあると思う。そのはなはだしいものではつきりとその範疇に入るものが戦線においてなくなつた者、それから応召されて行つた前線の兵、それから当時の国家総動員法に基いて徴用され、動員された人々、こういうものが一応対象になつて、昨年不満足ながら戦傷病戦没者遺族等援護法というものができたのでございますが、この戦傷病戦没者遺族等の援護は国が償うという建前に立つて生活保障の具体的な手が打たれなければならない。そこでこの社会保障制度の中に四百五十億の金をぶち込んで、その確立と同時にでこぼこを修正しろとおつしやいますけれども、技術的に実際考えて、大きな戦争犠牲者であるところの戦傷病戦没者遺族、しかも全然かつての旧憲法時代の軍人既得権であるところの、この恩給というものの建前から申しましても、やはり既得権を主張せられるのには少し分があると思う。その場合にこの既得権をも勘案した旧軍人に対するまた戦傷病者、戦没者遺族等に対するところの戦争犠牲のでこぼこ修正が、一躍にして社会保障制度の中に織り込まれるとお考えになるか、また織り込むことをお考えになつたことがあるか、それを承りたい。
  42. 末高信

    ○末高公述人 私の答えの前提となりますその既得権の回復ということは、私の先ほどの公述の中でも申し上げましたが、軍人という階層が現在はないのであります。だからして、その人たちに権利を回復するということは、新たなる権利の創設であれば私は納得いたします。そういうことが国民全体として納得せらるるならば私納得いたしますが、権利の回復ということはあり得ない。ただいま高木先生に座席のところで伺いましたところが、お前の考え方は違う、一体恩給というものは身分を失つたということを条件として発生する権利であるから、身分を失うということは何でもないのだということを申されましたが、それは軍人というものが日本の憲法で認められない、国家公務員というものが厳として存在している限りにおきましては、公務員をやめたときに、すなわち公務員である身分がなくなつたときに、その恩給という権利が発生するということはわかるのでありますが、日本の国は終戦前と終戦後の今とはかわつているのです。そのかわつている今日、軍人という階層は社会には一人もないのです。そういう観念はなくなつておる。その人たちに権利が回復するということは軍人という階層を再びここに持つて来る、昼間におばけを持ち出すということではなかろうかと私は考えるのであります。従つてこれは私の立場で申しますならば、あくまでもこり方法でやるところの恩給法改正というものは憲法違反であると私は考えております。それから先ほどいろいろ戦争犠牲というものの間にも厚薄がある、濃度が違う、従いまして濃度の高いものからまず手を打つのが当然ではなかろうか、こういうお話でありますが、私は濃度は違わないと思うのです。国内は全部戦場でございました。私どもあのときのことをほんとうに自分で振り返つてみまして、帝都をのがれるとか、疎開することは敗戦論者である、非国民であるといつて、私は帝都にとどまつておりました。私の家は焼爆で焼かれて命からがら逃げ出したというありさまを考えますと、だれが一体戦場で戦つていたか。私は国内でまさに戦争を戦つていた。私は早稲田大学の教員といたしまして、数千人の学徒を引き連れまして、当時の川崎航空という会社に動員せられまして、百数十機の爆撃を受けまして、一夜にしてその工場が焼けて命からがら素堀りの防空壕へ逃げ込んだという体験を持つておるのでございます。その場合に、一体どこが戦場であるかというと、国内は全部戦場であつたと断ぜざるを得ないのでありまして、そこに絶対に厚薄はあり得ないと私は考えております。
  43. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 どうもありがとうございました。
  44. 船田中

    船田委員長 吉田賢一君。
  45. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 私は簡単に末高教授に今の憲法論についてお教えを請いたいと思います。御意見を伺いますと、恩給法の一部改正法律案につきまして、これは旧軍人への受給権の復活と見るので、違憲の立法である、こういう御趣旨のようであり、そして軍人たる身分地位に対して与えられたものであり、軍人たるものは憲法上存在しない、従つて現在新しい制度の創設と見ねばならぬというような御主張のようであつたのであります。ところで一方、旧軍人には同情をする、これは社会保障制度によつて保護をすること、なお予算が必要ならどんどん組んだらいいではないかという御意見もつけ加わつていたようであります。そういたしますと、たとえば後段の御意見によれば、社会保障の制度といいましても、何らかの立法措置が必要ではないであろうか、あるいはまたさらに目を転じまして、恩給法と特別の関係があります戦傷病戦没者遺族等援護法によりましても、第一条、二条、三条、四条、五条とずつといずれも貫いて、軍人軍属たる身分によつて、ある国家保障がせられる制度が規定せられてあるのであります。そこで第一点は、憲法違反とおつしやると、こういうような援護法までも否認なさることになるのではないだろうか。憲法違反とおつしやると、社会保障制度によつて新たに旧軍人を保養してあげたいというが、そういう立法もできないことになりはしないのだろうか、こういう点が一つの疑問であります。  もう一つは、恩給法の今度の改正法律自体が、旧軍人、つまり老齢者、それから大部分八五%以上が遺家族であり、他に傷庫軍人が占めておる、こういうようなものでありますから、それはかなり社会保障的な対象たる適格者であろうとわれわれは考えるのであります。これをもしもなお憲法違反と言われるのであるか。そういうことになると、他のあげました法律、新たに制定せんとするところの社会保障制度というものとの関連についての御意見はどういうふうになるのでしようか、御説明を求めたいと思います。
  46. 末高信

    ○末高公述人 お答え申し上げます。遺家族等の援護につきましては、軍人たるの身分に付随していた権利を回復するという観念は、こうまつもその中に入つておりません。新たなる権利をこれによつて与えた、こういうことでありますから、これは憲法違反になるまいと私は思うのであります。ところが今度の法律は、その失つた権利の回復するということでございますが、失つた権利が永久に失われて、回復すべき実体がなくなつている。こういう席でたいへん申し上げにくいのでございますが、たとえば収賄罪などというものは、これは官吏たる身分、国家公務員たる身分に付着しているところの罪でありまして、そうでない人は同じようなことをしましても、道徳的には非難せられますが、いわゆる収賄罪は成り立たない。収賄罪が成り立つためには、公務員であるところの身分を必要とする。従いまして恩給というものを回復するという観念をここに持つて参りますれば、軍人という階層を新たに認めなければならぬということになりますから、軍人という階層を新たに認めるという観念が憲法違反の考え方である、こういうぐあいに考えたのでありまして、先ほど御指摘の遺族その他の援護法は、そういうような一団の人人に対しまして新たなる権利法律によつて設定したもので、回復ではないのでありますから、これは憲法違反にはならないというふうに考えております。それから先ほど私が申しましたように、旧軍人の方を込めて生活保護あるいは社会保障でもつてその生活保障をなすべきである、もう現にこの法律によりねらつておるところの九十何パーセントというものは生活保障的のものであるというお話であるならば、それこそまさにこの四百五十億円というものを一般の社会保障制度の方に盛り込みまして、社会保障としての制度のわくを広げ、額を増すことによりまして、実体的には旧軍人方々に対して生活保障をするということについて私は何らの異議がないのでございます。しかしその場合は、先ほど申し上げましたように、爆撃によつて家を失い、息子を失つたところの普通の市民の未亡人であるとか、母親であるとかいうような者にも、援護の手は延べらるべきであるということを私は申し上げておるのでございます。
  47. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 この恩給法の一部改正によりまして恩給給与せんとするのは、旧軍人の身分を回復するのであるということが前提になり、またそういう規定の趣旨、立法の精神であるということの御見解が前提になつておるわけなのでありますか。
  48. 末高信

    ○末高公述人 回復という考え方にあくまでも執着せられるならば、その裏づけになるところのものは、旧軍人という階級を再び軍人階層として認めるということが前提にならなければ観念の統一がない、徹底がないというふうに考えます。従いまして回復とあくまでも主張せられるならば、それの裏づけになるところのものは、すなわち軍人階層を再びここに認めるのだということになる、そのことが憲法違反の事実であるというふうに私は考えております。
  49. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 あなたの御意見は、この新たなる法律は旧軍人の身分の回復であるということを前提にせられるので、従つてそれに恩給を与えることは、軍人のない憲法上、憲法違反の立法になる、こういうような御趣旨の御意見であるのではないですか、というふうにお尋ねしておるのです。
  50. 末高信

    ○末高公述人 提案理由として私どもに渡された説明によりますと、これは旧軍人に対する恩給の回復であるというふうに書いてございます。恩給の受給権の回復であるというように書いてございます。その点を私は申し上げておるのでございます。受給権の回復であると書いてございます。
  51. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 そうしますと、あなたのお説では、たとえば軍人軍属公務負傷にの場合、それは権利の創設であればそういう立法をしても憲法違反にはならぬ、こういう御意見と拝聴していいのでございますか。
  52. 末高信

    ○末高公述人 実態の可否を保留いたしますれば、形式上はそれでけつこうであると思います。憲法違反にならないと思います。
  53. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 憲法の違反というものは、憲法の条章の趣旨、精神に反する場合が憲法の違反であつて、創設であろうと回復であろうと、新たなる憲法違反の法律は、それはできないはずでなければならぬと思うのであります。創設の場合ならば憲法違反にならず、回復であれば違反になるということは、私はその論理は筋が通らないように思うのでございますが、いかがでありましようか。
  54. 末高信

    ○末高公述人 見解の相違と簡単に片づければこれでお話合いは済むわけでありますが、私はその点はあくまでも筋を通したいと思つております。回復ということになりますと、失われた権利を失わなかつた元にもどすのです。元にもどすためには、受取る側が元の通りになつていなければ元にもどらないのです。元の通りになるということは、軍人があるということでありますから、憲法違反である、こういうぐあいに考えております。旧軍人の方の生活実態が非常に困難をきわめている。その方々に対してあらためて何か給与の方法として恩給という措置を講ずる。それに対してこの権利の創設を国権の最高権威であられるこの国会において設定せられるならば、これは憲法違反にならないと私は考えております。
  55. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 私は私の所見によれば、国会といえども憲法に違反して法律を制定することはこれは不可能であると信じております。一切の法律は憲法の範囲内において立法されるべき筋合いでありますので、従つてお説によりますと、筋を通すことはまことにけつこうでありますが、新たなる権利の創設及び立法、その場合は憲法の違反にならぬが、古い権利を回復するというような趣旨ならば憲法の違反になるということは、どうも納得いたしかねるのであります。私はあなたのお説を押し広げて進んで行くならば、当然この援護法も憲法違反とせねばならぬし、また軍属をどの辺で軍人の限界に入れるかは問題でありますけれども、かなり広汎の範囲におきまして、軍属もしくは雇員あるいは軍人に準ずるような、そういう階層の部類の人々にまで、この法律によつて、援護をされるいろいろな条章があるわけでありますので、この辺はやはりこの違憲論を強く御主張くださるということは、かえつて立法の上にいろいろと混雑を来すことになりはしないかと私は心配いたすのであります。ことに私最初に申しましたことく、あなたは旧軍人に対しましても御同情になり、老齢者に対しましては社会保障によつて保護をしてあげたいとおつしやるが、老齢者といえどもそれを保護する法律をつくるならば、やはり創設であろうと、回復というのはいかがかと思いますけれども、ともかく法律をつくれば軍人たりし身分にありしゆえに何らかの保障をするつもりであれば、やはりこれはあなたの論理で行くと憲法違反になるということになるのではないか、こう思いますのでお尋ね申し上げる次第なのでございます。
  56. 末高信

    ○末高公述人 私の申し上げたいことはこれで尽きておりますので、どうぞあとは十分御討議を煩わしたいと思つております。
  57. 船田中

    船田委員長 長谷川保君。
  58. 長谷川保

    ○長谷川(保)委員 私は時間がありませんので、ごく簡単に三点ばかり高木三郎さんに伺つてみたいのであります。  先ほどのお話の中に、明治憲法時代官吏、ことに軍人は非常に薄給であつた。また軍人裁判官、教員は一般公務員よりも薄給であつたというようなお言葉があり、また他の国民の一般よりも比較的薄給であつたというようなお話がございましたが、恩給法特例審議会の方では、確実な資料をもつてかかる推論をされていると思いますが、確実な資料は何と何とがございますか、そのことをお教え願いたい。それが第一点。  第二点は、先ほど来のお話によりますと、やはり既得権として考えられておられるようでありますが、この社会の軍人恩給復活に対する非難につきましては、大体戦死者遺族や傷痍者等に対しては社会全体として非常に御同情を申し上げて、国家補償の形なり社会保障の形なりにおいて何とかしなければならぬということは、どなたも考えているが、問題は二十万二千人に達する健康な旧職業軍人方々に対して支払いますことと、階級差が非常に非難の的になつている。この健康な職業軍人恩給復活につきましても、既得権復活は当然であるとお考えになつておられるかどうか。  第三点といたしましては、巷間の反対論は感情論にすぎないというようなお話でございましたが、この国民大衆の感情論は、なるほど理論的な根拠というものは十分に展開をしておらないかもしれませんが、いわゆる皮膚で感ずるという意味でのなかなか肯綮に値するものを含んでおるのではないかと思う。先ほど末高先生のお話にありましたような理論的な根拠が、国民感情の中に無意識的ではありますけれども相当にあると私は思います。この国民の感情は決してむだにできないと思いますが、これに対する御見解を承りたい。以上の三点について簡単でよろしゆうございますから御説明を願います。
  59. 高木三郎

    高木公述人 第一に、明治時代における軍人裁判官、教員等が他の公務員に比較して待遇が悪かつたということは、その当時の俸給令をごらんになりますと非常に明瞭だと思います。たとえば小学校の教員あたりの例を見ましても、一般の公務員から見ますと非常に低い。最近においては逆になつて、東京都内の小学校教員の平均給は一万七千円という状況になつておりますけれども、これは全然逆であつて明治時代においては一番給料の安いのは小学校の教員だつたと申し上げても間違いのないことだと思う。その当時の資料をごらんくださればよくわかる。裁判官もまた同様であつた。たとえば大学の教授あたりで、実は私ども役人をしておりました当時、同じ階層であつて俸給が非常に低かつた。これは現実の問順であります。この点は明瞭であると思うのです。それから既得権の問題でありますけれども、これは先ほどからいろいろ御議論があるようでございますが、大体例の二十一年のポツダム政令に基く勅令六十八号には「恩給ハ之ヲ給セズ」という条文を使つております。この給せずということの解釈論が非常にむずかしいと私は思います。これは参議院で法律案審議いたしました際に、非常に議論された問題なのでありますが、元来から申しますと、給せずという用例は廃止するという用例のようであります。しかしながらこの場合においては必ずしも廃止でなくて、ある部分は停止である。恩給の停止と廃止、支給見合せ、この三つの種類がありますが、どの部分に当てはまるかというと、やはり廃止でなくして、停止であるという考え方のようであります。従つて恩給法の中にあります軍人恩給に関する規定をあの勅令によりましてある期間停止したんだ、こういう解釈であります。従つてポツダム政令の効果を失いました場合には、当然もとにもどつて恩給法の適用を受ける、そういう意味において私ども既得権であるというのであります。  それからいま一つは、感情論であるということを申し上げたのですが、これは私ども直接にいろいろの御意見を伺つたわけではありませんが、新聞その他の紙上で拝見いたしました恩給制度に対する反対論というものは、理論的根拠がない。理論的根拠がないということは、私は感情論ではないかと思う。従来の軍人がいけなかつたんだというような感情が土台になつておるのではないか、こういう意味で感情論と申し上げたのであります。
  60. 長谷川保

    ○長谷川(保)委員 もう一度お伺いします。今の第一点の問題でありますが、軍人が特に薄給であつたということは、ほかの官吏に対してとともに、一般国民に対しまして薄給である、そういうことについての確実な資料がどこかにないか、こういうことを伺いたいのであります。  それから今のお話とは少し違いますが、先ほどのお話の中に指一本が第七項症であるというようなお話がございました。ちようど私のところに写真等もございますが、そうでない相当ひどい者が第七項症の中にあるということ。それが爾後重症というようなことでなくてあるということも考えられるのであります。たとえば足がまつたく長さが違つて、ちんばになつてしまつたとか、あるいは手が全然、上に上らないというような者、あるいは指を相当ひどくけがしております若も相当あります。それからなお目症の中にも——これは後にまた実際に公述人が述べられると思いますが、カリエスなんかの相当ひどいのがあります。こういうものを全部打切られることになりますけれども、そういうことについて十分な御調査がなされておるのでありましようか。この点もあわせて伺いたいのであります。
  61. 高木三郎

    高木公述人 軍人処遇につきましては、明治時代待遇は、たとえば少尉は高等官八等でありますが、高等官八等の少尉の俸給を他の当時の奏任官に比較いたしますと、著しく低いのであります。また明治の初年にそういう政策をとつたということを聞いておるのです。つまり明治初年の武士の百石を基準にして俸給をきめた。そのために著しく低い。こういうことは言えると思うのです。また官吏一般並びに他の銀行、会社等に比較して給与が低かつたということは、現実の問題としていくらでも証明できるのではないか。  それから七項症の問題でありますが、今問題になつておりますのは、おそらく長年たちまして爾後重症なつた者だろうと思います。大体カリエスというものは、内臓疾患になれば外部に現われない。その後において重症に陷つた場合には、再審査を受ける道が開かれておりまして、それを七項症であると当局ががんばつておられるのではなかろうかと私は思います。
  62. 長谷川保

    ○長谷川(保)委員 時間がないので簡単に伺いますが、ただいまの少尉が高等官八等であるということ、つまり言葉を悪く言えば、ほんの青二才の少尉が、私どもが軍隊に行つてもほんの小僧つ子であつたわけでありますが、その者に高等官八等を与えることに問題がある。文官の高等官八等と軍人の高等官八等が俸給の差があるということが問題であるよりは、一歩つつ込んでまだ小僧つ子の陸軍少尉に高等官八等を与えるということにむしろ私は問題があると思う。だから高等官八等が違うから俸給が違うということは問題にならないと思います。そうでなくて、学歴がどうだ、勤続年数がこうだ、それでこう違うのだということでなければ、軍人俸給が安かつたということにはならないと思うのでありますが、その点の御見解はいかがでございますか。
  63. 高木三郎

    高木公述人 これは申すまでもないことだと思いますが、私ども議論から申しますれば、獲得能力喪失、こういう建前から申しますと、メンタルの場合と、フイジカルの場合と違う。軍人でありますとか警察官のような者は、フイジカルに力がなければ何もならない。従つて若い者でなければ戦争はできない。こういうことで、ただその若いということだけでこれを評価することはむしろいけないのではないか。軍人あるいは警察官なんか、若い者が十分に力を使う、従つて恩給の最低年限が、文官は十七年であるのを、警察官、軍人は十年とか十三年とかに受けることは、獲得能力喪失というものがメンタルの場合とフィジカルの場合と違う。従つて給与をきめる基準をわけてきめるべきだ、こういうことになると思います。
  64. 長谷川保

    ○長谷川(保)委員 ありがとうございました。これで終ります。
  65. 船田中

    船田委員長 他に御質疑はございませんか——なければ三公述人に対しまして委員長より深くお礼を申し上げます。  これにて休憩いたし、午後二時より再開いたし、黒田明君、佐藤信君、及び佐藤盛平君より御意見を拝聴いたすことにいたします。  二時まで休憩いたします。     午後一時十九分休憩      ————◇—————     午後二時三十九分開議
  66. 船田中

    船田委員長 これより再開いたします。  まず日本傷痍軍人会常任理事黒田明君より御意見開陳をお願いいたします。黒田明君。
  67. 黒田明

    ○黒田公述人 恩給法の一部を改正する法律案について公述いたします。  私は日本傷痍軍人会代表の黒田明であります。公述にあたりまして御了承を願いたいことは、現行恩給法においても、今回の改正案においても、旧軍人とかあるいは傷痍軍人という名称はないのでありますが、わかりやすく表現するため傷痍軍人の名称を用いることと、なお私は法律家でありませんから、法律論を公述いたします場合は主として昨年の十三回国会における法制局長の答弁要旨を引用いたしますこと、以上二点を特に御了承願いたいと存じます。  さて私は今回の政府の国会に上程されましたところの恩給法上一部改正案につきましては、次の二点を除く以外は全面的に賛成であります。この一つは、元傷痍軍人であり、増加恩給の第七項症、傷病年金の一款症から四款症までの受給者に対する補償打切りの問題、あるいはまた補償はされますけれども根本的の補償除外になつておる、こういうふうに訂正した方が適当かと思いますが、その問題ともう一つは一般公務員に対する同じく七項症から四款症までに対する恩給の切りかえ操作——こういうような問題は専門家でないからわかりませんが、それに対して今回の改正案では選択権を付与しておる、この二点については私は断固として反対をいたします。なおまた細部の点については納得しがたい部面も多々ありますけれども国家財政の見地から私たちはそれはやむを得ないと認めざるを得ません。なぜ私が七項症並びに四款症までのこの取扱いについて反対を唱えておるか、かく陳述する私は第三項症傷痍軍人の代表者であります。左足大腿部を切断いたし現在義足を装着しております私が、声をからし、そうしてここに公開の席上で切々と訴えたい実情をただいまから詳細に申し述べます。  まず私たちは昭和二十一年二月一日いわゆるミリタリー・サービスなる名によつて最高司令官は、軍人並びに軍属、その遺族に対して、いろいろと理由はございましようが、それを要約いたしますならば、すなわち軍人に対し懲罰的意味を科したところのあの覚書を発行し、その当時のわが国政府勅令六十八号によつて軍人並びに傷痍軍人の一部の者あるいは遺族に対し停止処分ないしは制限の措置をとつたいわゆる特例法というものを施行したのであります。しかしむずかしい法律論は先ほどの公述人によつてるる申し上げられておりますので、私がこの際特に一点だけ皆様に公述いたしたいことは、昨年の十三国会におきまして、法制局長はこの問題を簡単明瞭に割切つております。すなわちポツダム政令をやめてしまいますと、普通でありますれば法律を廃止すると効果は元にもどらないのでありますが、この場合は特例法であるこの勅令を廃止してしまいますと、基本法である恩給法だけが残つて、その基本法である恩給法を見ますと、旧軍人軍属恩給は従前の例によるというふうになつております。結局旧軍人軍属恩給が従前通りであるということになりますので、そのポ勅のあるときだけは軍人軍属恩給をやめて、それを廃止すると元々通り恩給法基本法によりまして軍人軍属恩給復活するというのと同じ結果になるものと考える。あえて私たちが現在昭和二十一年の軍人軍属あるいは遺族という、そういうものの名称はなくても、附則において公務員として依然として恩給権利はある。なお現行法の第一条におきましても、恩給というものはすなわち恩給を受ける権利を有す、権利であります。かように考えておりますので、今回この恩給法一部改正措置によりまして、特殊公務員であつたところのわれわれ軍人関係の者が、恩給を給付されることに対しては賛成でありまして、当然のことだろうと思います。  しかしながらこの中で、昭和二十一年二月一日現在におきまして恩給取得の権利を有していた者の中で、今回のこの改正案によつてただ一部の傷痍軍人の特別項症、七項症、傷病年金一款症から四款症までだけが救い上げられておりません。これは私たちはどこまでも恩給法社会保障制度というものははつきりと区別がつくものであるということを確信して疑いません。しかるに今回の恩給法の一部改正に先立ちまして、社会保障制度恩給制度というものをたまたま混同して論議をされるのでありますが、私は権威ある国家法律として恩給法をすつきりした形にするのならば、この一部改正案を国会に上程する前に、はたして政府当局はいかようなる恩給制度社会保障制度というものに対する区別をつけたのかということを尋ねたいのであります。現行の恩給法の第一条の権利を有するというのは、いかなる国の社会保障制度をたどつてみても権利という言葉はどこにも見出し得ないということを私は今までの経験においても言い得るのでありますが、現行の恩給法においてはその第一条ではつきりと権利とうたつております。ところが今回の恩給法の一部改正によつて私たちが自動的に復活される場合においては、傷が軽い、あるいは国民感情あるいは国家財政の見地から、要約しますと、大体こういう三つの理由をあげて、そうして傷痍軍人の不具者の一部分だけをオミツト——オミツトということはこういうことであります。昭和二十一年の二月一日現在において大体全国で十万八千人の人が増加恩給の証書を受領し、傷病年金受給者は一款症から四款症までが傷病年金証書を現実に持つていた、そういう者について今度の改正案においては何らの補償がされない。昭和二十一年の二月一日以降に恩給の査定を受けた者に一時金をやるという今度の補償の精神であります。従いまして私は二十一年の二月一日現在において証書を現有しておつた全国約十万八千人の傷痍軍人がその対象下にあるということを申し上げたいのであります。そしてここでしつかり考えていただきたいことは、少くともこの人たちは応召当時国家法律制度に基いて国家義務に服したので、私用に基いて戦地におもむいたのではない。勢い今日社会情勢がかわり、あるいは客観情勢がかわつたといえども、権威ある独立国家法律としてこれを改正する場合においては、どこまでも国家百年の大計を築く上においても、純然たる立法精神に基いてこれらのものをこの改正案の中に取入れるべきであると思います。すなわち、十万八千人の人たちに対する国家財政の見地ということを盛んに言われますが、私たちはいまだかつてこの七項症から四款症の者に対して幾らお金をやつていただきたいということをお願いしたことは一ぺんもございません。わずかでもよろしい、国家財政が許さないならば、最悪の場合には昭和二十九年の措置においてもよろしいから、法律としての筋を通していただきたい。国民が遵法精神をなくしたら何となりましようか。一国の国家機構が国の成規の機関において定めた法律を無視するようになつたら、国家の安寧秩序は何によつて保たれますか。私はそれをあえて力説したいのであります。従いまして、私は国家財政が云々ということでなく、金額に拘泥せずに、この人たちに恩給受給の権利を認めていただくことを力説したいと思います。  なおもう一つの理由は、軽症であるということ。私は個人の観念からこれを判断いたしまするに、恩給法というのは国家補償である。国家法律、制度に基いて国家義務に服し、それによつて傷を負うた者が、軽症なるがゆえをもつて補償を打切られるという考え方は、すなわち社会保障制度の精神ではないかと思うのであります。それと同時に、今度は国民感情と申しまするが、その国民感情の線を引く観点をどこにお置きになつたか。新聞、ラジオ、あるいは各種輿論調査におきましても、傷痍軍人遺族方々恩給は、何をおいてもやつてもらいたいという御意見は、多数のように私たちは承知いたしております。中には恩給制度というものと社会保障制度というものを混同いたしましてそこから割出すところの、わけのわからぬ、筋の通らぬ意見をもつて反対を唱える者もありましたが、私は、恩給制度というものと社会保障制度というものの根本的な相違を研究していただきたいと思います。以上のまことに脆弱なる、しかも論旨あいまいなる理由の三点をもつて、この傷痍軍人の七項症から四款症までを対象外に置いたとしいうことは、私は断固として反対であります。  もう一つ申し述べたいことは、先ほども盛んに前述の公述人において論じられたのでありますが、静かに考えていただきたいことは、恩給法、特に軍人公務員に対するところの恩給支給の立法に際しては、特別に恩情をもりて接していただきたい。古今東西の歴史、あるいは日本の歴史をひもといてみても、軍人ほど自分の個人の、人間としてのすべての自由を拘束せられるものはない。行けば必ず命かない、必ず負傷をする、人間の一番貴重な生命の自由すらも、自己の意思によつて選択できないような危険地帯に、いつ何どきでも国家の至上命令によつて、断固としておもむいて、軍人というものは危険な軍務に服したのであります。従つて軍人恩給を支給するという面におきましては、特に恩情を十分に加味していただきたい。すなわち人間は、生きる上において最上のものは生命であり、生きるすべてに対する自由があります。このすべてを拘束せられて、至上命令によつて命を保障されないところに行くという精神に対しては、私は人間の最高の恩情をもつて彼らに補償してやるべきが当然であると思います。こういう観点からいたしまして七項症から四款症までの者が今回補償を打切られておるということに対しましては、私はまことに残念に思うのであります。なお、先ほどの公述人も、盛んに指一本々々々ということを力説されたのでありますが、現在の恩給法の別表の障害程度には、七項症から四款症までが明瞭に明記してあります。七項症のどこの一項目を引いても、親指一本だけがないから七項症と規定していない。いやしくもその当路者が軽々しくああいう断言をせられるならば、この恩給法にありますところの別表の障害程度を、親指一本だけがないものだという断定を下す前において、その方がどれだけ高度の医学的知識を持つておるかということを私はお尋ねしたいのであります。いやしくもこの恩給法の別表障害程度は、各種の権威ある医学者を網羅して、権威ある日本政府、国会が厳選してここに制定したものであります。それを一介の人が親指一本として、この法令にありますところの別表を無視したごとき言動を吐くことは、私は無責任きわまる暴言と断じます。もし御希望でありますならば、七項症から四款症までの障害の見本が用意してありますので、百聞は一見にしかず、はたして七項症から四款症までの者が、親指一本の軽症であるかということをお目にかけてもさしつかえないと存じます。  なお補足いたしますが、文官恩給に関しましては、依然として傷痍軍人同様七項症から四款症までの人が、この恩給基本法によりまして終戦後も今日に至るまで恩給年金を支給されておりました。今回の改正によりまして、一般公務員は、すなわちこの改正案が成立すると同時に、その成立以後六箇月たつたあとに負傷をして恩給受給の権利を取得した者に対しては、傷病賜金、すなわち一時金を支給するように今度の改正案はなつております。しかしこの改正案を施行して、そうして六箇月以内並びにその前にすでに恩給権利を取得しておつた者に対しては、一時恩給なりあるいは傷病年金なり、そのいずれかは本人の自由な選択権を認めております。このように一般公務員においては選択権を認めておいて、ひとり傷痍軍人だけに補償を打切ることは、私は国家法律としてはあり得ないと思う。私はあえて言うならば、傷痍軍人の七項症から四款症までの者について昭和二十一年の二月一日現在において証書を持つてつた者に対しても選択権をもちろん与えていただいて、それ以降の取得者に対しては、この改正案が施行されましたら、普通文官と同様に、施行後六箇月経過した場合において取得した者に対しては傷病賜金を支給するごとく同等にやつてこそ、初めて権威ある国家法律であると断定してはばからないのであります。  かような見地から、私はここに七項症から四款症までの復活をひつさげて皆様に公述した次第でございますが、しかしこの要望は、決して国定財政を危殆に頻せしめ、なおかつ傷痍軍人の七項症から四款症までの恩給支給を力説するのではございません。国家財政が許さなかつたならば、昭和二十九年でもよろしい、これたちに対して恩給法において傷病年金、増加恩給を支給する明文を明示していただきたいのであります。それでないと、この恩給法の一部改正案のこの趣旨は、すなわち権威ある独立国家恩給法として施行を見ましたあかつきにおいては、私たちは国民として当然これを遵法する義務を負わされるのであります。いやしくもこの恩給法による補償の対象者の一部の人が、どうしても恩給法内容において納得できないという見地からこの恩給法に疑義を抱くような場合があつたならば、それは将来においてゆゆしき問題が惹起するおそれがなきにしもあらずと思うのであります。どこまでも権威ある国家法律としてこれは制定をし、それによつて国家補償をされるのであつたならば、私は社会保障制度恩給法の制度をはつきり区分していただきたいのであります。先ほども憲法違反ということが盛んに論ぜられておつたのでありますが、軍人というものは昭和二十一年の二月一日の勅令第六十八号によつてすでになくて、一般公務員という名称によつて扱われております。その憲法違反を論ずる前に、むしろ七項症から四款症までに一般公務員と差別をつけたということに対して、憲法第十四条のすべて国民は法の下に平等である、この憲法違反の疑い、すなわち憲法第二十九条の「財産権は、これを侵してはならない。」、但し「公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。」、この二つの条項の違反になるということを私は力説したいのであります。すなわち七項症から四款症までに恩給復活して、その金額が十億あるいは十一億というような場合において、はたしてこれが公共の福祉を阻害するでありましようか、これなんかも相当の疑義が生ずる。すなわちこの今国の恩給法の自動的復活に対する憲法違反よりは、むしろ憲法十四条と憲法二十九条の違反を私は指摘したいのであります。今国会におきまして恩給法のこの復活に対して政府当局ははつきりした結論を出しております。それはかつて、衆議院か参議院か今記憶しておりませんが、本国会におきまして議員の質問に対して——政府はこの恩給復活というものは何を意味するか、こういう質問でありますが、それに対しまして緒方官房長官は、即座に恩給権の復活である、権利復活であるということをはつきり答弁いたしております。私は国家百年の大計を誤らないためにいわゆる今の言葉で申します筋の通つた、しかも威厳のある日本恩給法の一部改正をするにあたりまして全国十万八千の七項症から四款症までの傷痍軍人の熱烈なる念願であり、かつまた当然の法律に基いたところの改正であるということに基きまして、ここに、この法律改正にあたりましては、少くとも七項症から四款症までのこれらの方々の補償を全面的に取入れていただくことを絶叫し、そして訴えて私の公述を終ります。
  68. 船田中

    船田委員長 次に日本遺族厚生連盟理事長佐藤信君にお願いいたします。
  69. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 委員長議事進行について。午前中の開会の際にわが党の大矢委員から政府の要路の方々は、大切な五大法案の一つであるから、この公述人の公述を聞かれたいということをわれわれが要望いたしまして、委員長から連絡をおとりになつたことだろうと思うのでございますが、今まさに三時を過ぎておりますが、大臣も官房長官も、三橋恩給局長を除いてはお見えにならない。こういう国会を軽視し、しかも公述人に対しては無礼きわまる委員会で、委員長ごらんの通りまことに権威のないところの委員会でございます。私はこうした形において公述人の公述が述べられても何ら意義をなさないと思いますので、委員長の再考を促して一旦休憩され、善処されんことを望むものでございます。
  70. 船田中

    船田委員長 ただいま堤君の御発言ごもつともでございますが、委員長といたしましては、今朝来政府の方には十分その趣旨を通じてありまして出席を促しております。緒方官房長官はある事故によりまして本日は出席できないということをお断りになつております。三橋恩給局長は朝から見えております。ただいまの御意見ごもつともでございますが、このまま公述を続けて参りたいと思いますからどうぞ御了承を願います。
  71. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 国会の委員会の委員長というものは、大臣をこの席へ呼ぶ権利を持つている。公述人が公述になりますことは、もはや数日以前から御発表になつて政府にもわかつていることでございますから、緒方官房長官が出られなければもつと違う人を出すとか、少くとも内閣総理大臣におきましてもこの席にお出ましになるのが当然であつて、私はむしろ委員長がばかにされていらつしやるのじやないか。委員長がばかにされていらつしやるということは、国会の委員会自体が軽視されているということになりますので、われわれの立場もございますから、ひとつ今後この点を委員長におかれましてはよくお考えくださいまして、われわれの意思が委員長を通じて政府に通じますように、今後御努力願いたいということを私は特に切望いたしまして、ただいまの委員長の言葉を了承いたします。
  72. 船田中

    船田委員長 承知いたしました。善処いたします。  佐藤信者。
  73. 佐藤信

    佐藤(信)公述人 日本遺族厚生連盟理事長佐藤でございます。恩給法の一部改正案につきまして私見の陳述をいたします。  今回の恩給法一部改正は、昭和二十年十一月二十四日付の連合国最高司令官覚書に基き、昭和二十一年勅令第六十八号、恩給法特例に関する件によつて停止または制限をされておつた軍人軍属及びその遺族に対する恩給復活することを主として、あわせてこれに伴い一般公務員及びその遺族恩給に妥当なる改正を加えんとするものであります。  旧軍人軍属及びその遺族は戦後長きにわたつて何ら政府処遇を受くることなく、ひたすら国権回復の日を待ちわび遂に待望のその日を迎え、すみやかなる政府処遇を期待しておつたのであります。ところが政府はさきに恩給法特例に関する件の措置に関する法律を制定公布いたしまして、昭和二十一年勅令第六十八号の効力をさらに昭和二十八年三月三十一日まで延期いたしたのであります。旧軍人軍属及びその遺族の中には過去八年隠忍自重、乏しきに耐えて参つたのでございますが、その中には遂に公の処遇を受くることなく日の目を見ずして陋巷に窮死して行つた幾万の老人、幾多転落の未亡人等があるのでございます。このことを思いましてこの法律のすみやかなる制定実施を念願するものでございます。  旧軍人軍属及びその遺族に対する処遇は、ひとしく国家公務員として文官とまつたく同列に取扱わるべきものであると存ずるものでございます。今回の改正案を見まするに、一応無差別平等に規定せられているようでございますが、その内容をつぶさに検討いたしまするときに、必ずしも平等でない点、及び適当でないと考えられる諸点が見えるのでございます。  それはまず第一に附則別表第一の旧軍人の仮定俸給年額は、文官の仮定俸給年額に比べまして四号俸程度引下げられていることを発見するのであります。これはどういうような理論的根拠に基くものでありまするか私どもは了解に苦しむのでございますが、ただこれが国家財政理由によつてのみこうなつたものであるとするならば、これをひとり旧軍人だけに押しつけるということは当を得ない。よろしく文官も旧軍人も平等に国家財政の窮乏をになつて行くべきである、かように存ずるものであります。なおその上に国家財政の窮乏ということをただ恩給の面にだけしわ寄せすることがなく、金がないから恩給を少ししかやれないということでなしに、国家財政の総支出の上において考えらるべきものであろう、かように考えられるものでございます。  第二に、この改正案におきましては、従前給せられていた恩給は、そのままこれを認めるということでございますが、これはまことに当然のことであります。いわゆる既得権を認めるということは当然のことでございますが、しかしながら現在旧軍人及び軍属とその遺族に対する恩給が、昭和二十一年の勅令第六十八号によつて停止せられ、さらにその効力昭和二十八年三月三十一日まで延長せられております現状におきましては、恩給既得権として認められるものは、文官恩給と、非常に制限を受けておりますところの増加恩給のみであつて、旧軍人軍属及びその遺族に対する恩給は、事実上既得権として認められていないのであります。しかしこういつたふうに認められていないところの軍人軍属及びその遺族に対する恩給給与事由は、おおむねその大部分が少くとも八年以前に発生しておるのであります。なおその中にはすでに支給されておつたものも、昭和二十一年の勅令第六十八号によつて停止されておるのであります。そうしてその後八年間空白に置かれておるばかりでなく、さらに今既得権として認められないで、新しい条件を適用せられるような結果、文官との間に大きな差別が生ずるのであります。かくのごとき事実上の大きな不平等は、これは改むべきである、かように考えるものでございます。  第三に、公務扶助料について申し上げたいと思いますが、公務扶助料は今回の改正によりましてその倍率が大幅に引下げられております。公務扶助料は大正十二年の恩給法制定当時におきましては、普通恩給の全額が支給される、こういう規定でございまして、爾後昭和十三年、十七年、二十一年の改正におきましても、戦死による公務扶助料は普通扶助料の高級者において二十四割、下級者においては三十六割ないし五十一割であつたのでございます。そして現行の公務員公務扶助料は一率に四十割となつておるのでございます。今回の改正案を見まするに、普通恩給及び普通扶助料の率は、そのまますえ置きになつておるのでございますけれども、ひとり公務扶助料のみ十七割ないし二十七割に引下げられておるのでございます。その結果従来おおむね恩給年限を無事に勤められまして、退職し、余世を送つておられる人に給せられるいわゆる普通恩給よりも、戦闘または特殊公務によつて死んだ者の遺族に給せられる公務扶助料の方が、常に上まわつてつたのでございますが、それが今回の改正によりましては一部下まわるものができて来た。これは普通恩給や普通扶助料の率をそのままに置いて、公務扶助料の率だけを大幅に引下げた結果、そういうようなことになつて来たのでありまして、このことは、これはちよつと言葉が悪いかもしれませんけれども公務死亡の価値をそれだけ低く評価することではなかろうか。そういうことになつた結果、現実には下級者の遺族最低生活さえ営むことができないようになつておるのでございます。思うに、国家公務に殉じた者に対しては、国家道義の上からもその意義を尊重し、これを厚く処遇すべきものであると存ずるのであります。この意味において、公務扶助料の倍率は、その最低といえども普通恩給よりも上位に置くということにして、おいおいに下の者に厚くするような段階を設くべきものであると存ずるのでございます。  第四に、現行恩給法におきましては、父母が婚姻をした場合、恩給の受給権を喪失することになつておりまするが、これは普通の人情にはなはだもとるような感がいたしまするので、これは失権をしないように改正をされたい。たとえば長男が戦死をされた後に、そのお父さんが後添いをおもらいになると、恩給をもらう資格がなくなるということは人情にもとると考えられまするので、これは婚姻をした場合にも失権しないように改正をされたいと存ずるのでございます。  第五には、今次の戦争、特に太平洋戦争の様相にかんがみまして、戦地の地域の指定を拡大すべきである。そうしてなお同じような意味におきまして取上げられておりまする病気の種類も追加するようにされたいと存ずるのでございます。  第六には、孫には恩給受給の権利がないのでございますが、孫にも恩給の受給権を認めるということにいたしたいと存ずるのでございます。  その次には、配偶者が結婚をしたり、それから子供が養子縁組みをして他家に行つたという場合には、恩給受給権を喪失することは当然でございますが、今度の場合は、配偶者が、夫が戦死をしたために、生活に非常に困つて他家に縁組みをした、婚姻をしたという事実はたくさんあるのですが、たまたまその婚姻がうまく行かないで、また元の状態に復帰したというような場合が多いのでございます。それから子供の場合にいたしますれば、父親が戦死したために養うことができないので、親戚中がこれをわけて引取つたというような場合もございます。そういつた場合に養子縁組みの手続をいたしておりますると、それは恩給受給権がなくなる。これは他に引受手があつて生活を見てくれれば、恩給受給権がなくなつてもいいのでございますけれども、その引取つた親戚がまた養育することができないで、それが帰つて来るというような場合がある。結婚をした妻も、その結婚がうまく行かないでまた帰つて来る、元の状態に復帰しているという状態がたくさん見受けられるのでございますが、一旦養子緑組みをしたりあるいは結婚をした者は、帰つて来ても恩給受給権がなくなるということになります。こういう状態は、どうか元の状態に復帰しておるものであるならば、恩給受給権を与えるように改正をされたいと考えるのでございます。  その次には、現行の援護法によりまして年金五千円の支給を受けている者で、恩給法によつてこれが除外される者、たとえば別居をしている父母のごときものは、その既得権を認めて、これを恩給法の方で支給し、かつその受給者に請求権を持たせるようにしてもらいたい。このことは別居しておる父母のごときは、自分たちの方に請求権があるということが大切なことであると考えられますので、そういうふうな処置をとつていただきたいというふうに考えられるのであります。  第九に、扶養遺族加給は、一人の場合九千六百円、二人以上の場合には、その一人に九千六百円、その他の者には七千二百円ずつ支給するようにいたしたいと存ずるのであります。  それから第十には、公務扶助料並びに増加恩給を支給されましても、なお生活に困窮するような者がございます。こういうものは、現在におきましては生活保護法によつて救われておるのでございますが、考えますのに、戦争によつて一家の柱石を失つたために、やむを得ず生活の困窮に陥つておるような人たちに対して恩給を与えてもなお生活に困つて、その上に生活保護法の適用を受けなければならないような状態に置くことは、その当を得ないものと考えるのでございます。ましてそういうような場合には、生活保護を受けておるような方々恩給を受給されますと、一方における生活保護の金というものがそれだけ差引かれるというようなことになる結果が今日たくさんあるのでございます。そこでただいま申し上げまするように公務扶助料増加恩給等を支給されてもなお生活の困窮する者に対しては、生活保護法によつてやることなく、現行の戦傷病戦没者遺族等援護法を改正して、これによつて適当なる援護を得たいと存ずるのであります。  第十一に、恩給法による扶助料その他の裁定、その手続の問題でございまするが、現在行われておりまする援護法の手続が非常に遅れておるが、今度恩給法を施行されるような場合には、援護法によつて相当いろいろな調査の書類が出ておつたり、あるいは裁定をされたりしておるものがございますので、そういうものをなるべく活用して、一日も早く恩給が支給されるようにおとりはからいを願いたい、かように考えるものでございます。  以上は恩給法一部改正に対する私の意見でありますが、この改正案を通覧いたしまするのに、今次大戦によりまして、国家責任において処遇をしなければならない国家犠牲者が厖大な数に上り、加うるに軍の解体によつて、これまた厖大なる退職者が生れた。これを窮乏財政でどう処理するかに根本的な困難な問題があるのでございまして、関係者の御苦心はまことに想像に余りあるものがあるのでございます。しかしこの改正案を見まするのに、そういう国家財政の窮乏ということから、いわゆる金の切盛りにのみ重点が置かれて、少い金でどうかして大きなものを処遇するかというところに非常な苦心がある。従つて金の切盛りにのみ重点が置かれておる。言葉をかえて申しまするならば、どこをどういうふうに圧縮すれば金が浮いて来るかということに努力が払われておる結果、どうしても数の多いものが圧縮される。簡単に申しますれば、文官に比較して旧軍人が不当に圧迫される、その中で最も数の多い公務扶助料を切下げれば、それだけ金が大幅に低くなるというようなところから、公務扶助料というようなものが不当に切下げられておるような結果になる。このことは、世間で俗に言う死ぬ者貧乏ということを国家の施策が裏書きしておるようなことになることは、国家の施策としてはなはだ好ましからざることであろう、これは国家道義の上からも、すみやかに是正せられんことを切望してやまない次第でございます。  以上が私の陳述でございます。
  74. 船田中

    船田委員長 次に佐藤盛平君にお願いいたします。
  75. 佐藤盛平

    佐藤(盛)公述人 私はこのたびの恩給法の一部改正案につきまして、一般の常識論という観点から簡単に申し述べたいと思うのであります。  このたびの恩給法の一部改正案は、要するに元軍人軍属等の恩法の復活に重点を置いてあると思うのでありますけれども、一般公務員の普通恩給の存続の可否、これから私は論じさしていただきたいと思うのであります。  そもそも公務員の一般恩給が今日存続しておるということは不公平ではないか。もともと官吏というものは薄給であつた。そうして同じ学窓を出ていても、自分は腰弁になつたと卑下するように、身分的にも薄給で、いろいろ副業をするのにも所属長官の許可を得なくてはできないというふうに、非常に制約されていた。そういう経済的に恵まれない立場にある者が、営々動続して、老後に、その報いとして恩給なり恩典があつたというふうに解せられております。ところが戦後は全然それがなくなつた。むしろ不況な今日の時代においては、民間会社としては給料の不払いとか遅配があつても、公務員は国庫支弁であるからその心配がないという有利な立場に置かれた。こういう時代において、普通恩給が存続することは不公平じやないか、憲法第十四条においても、すべての国民は平等であつて、地位とかその他門地等によつて、経済的にも政治的にも差別されることはないというふうになつておりますから、もしこのままこの不公平な恩給が存続するとするならば、恩給亡国なる四字はいつまでたつても抹殺されないと思うのであります。なぜならば、戦後においては物価が上つた、貨幣価値は少くなつたということから、二度も恩給法改正されておる。これが民間の保険会社あたりで、老後保険なんかに対しまして、貨幣価値がなくなつたから、会社の自己負担によつて少しでも上げようかということはないはずであります。むしろこれは官に奉職する者も、また民間に職を求める者も同一にして、たとえば厚生年金というものに一本にまとめたならばどうであろうかと私は考えるのであります。  そこで、どうしてもこの恩給法を存続するということになれば、もちろん、これは元の軍人恩給復活させねばならない、こう思うのでありますけれども、それにはまずもつて公務員の停年制を六十まで引上げる。このたびの恩給法改正には五十五まで引上げるとうたつてあるようでございますけれども、そもそも五十五というのはどこを標準に置かれたかというと、統計等において、国民の生産年齢が満十五歳から満五十五歳を標準にしてあるからでありますけれども、今日において、経験とか知識とかいろいろな点を考慮するならば、活動能力としては、六十まで十分働き得る、こう思うのであります。そこで四十五歳から五十歳までには恩給としてその七割をやるということにするならば、一定の勤続年限で恩給にありついて、今のうちならば民間会社に行つても働けるということになる。これが全額恩給を支給されるところまで勤務したならば、民間会社では働けないというので、早く官界を去るということにもなりますし、また勤続年限を経たから、いなかにでも帰つて、そうしてゆうゆう自適しようというような怠惰な気風もかもすかもしれないと思うのです。これはあくまでも六十歳ということにして、勤続年限を二十年とする。そうしてもちろん元軍人にもこれは復活させるという方に進まねばならない、こう思うのであります。けれども復活するとしてもここに非常に疑問があると思うのでございます。職業軍人というものは、どちらかといえば戦争責任者じやないか、そういうものに恩給を支給するのはいかぬというような人が一部にあるようでございます。そもそも職業軍人もみずからの志願ではあつたけれども、これは過去において国家方針として軍人となるということが最も国家には忠実であつて、そうして立身出世の早道であるというような、要するに軍国主義教育悪の所産であつたと私は思つておるのであります。ですから元の職業軍人であろうとも、これはもちろん当然恩給復活させねばならない、こう思うのでありまするが、それかといつて階級的に、たとえば尉官とか、佐官とかあるいは将官とかいうような人が、退職したときの俸給基準として支給される、こういうことは国民は納得行かぬと思うのです。この戦争はすべての国民責任を負うております。しかしそのうちでもだれが一番その責任を負うべきかと言えば、やはり職業軍人だと思う。その職業軍人のうちでも、尉官より佐官、佐官より将官の方が責任を負わなくちやならぬ。その責任の軽重を問うたならば、結局は上級官ほど責任がなくちやならぬと思う。それが退職当時の給料によつてこれをきめるとするならば、これはまさに軍国主義の復活だというような気持が国民には湧くのじやないかと思うのです。ではこれをどういうふうにするかというならば、将官も、下士官、兵も一律にして、そうして動続年限というようなものを加算して按分比例するというふうにすれば一番公平じやないだろうか。むしろ上級官あたりは戦争のときでも経済的には割に恵まれている。ところが下士官、兵あるいはまた一般の人は困苦欠乏して国家に協力したのであります。さらにまた恩給を上級官までそういうふうに有利にするというならば、一般国民戦争犠牲者はだれが補償するかということになります。たとえば私の知つた者でも、営々苦心して、そうして家を建てた。商業を営んだ。ところが戦争に突入して商売の方はとめられた。そして強制的に徴用された。ところが横浜は空襲で大爆撃されて、一家六人がそこに無残にも爆死してしまつた。そうして戦争は間もなく終結して本人は職場を離れた。ところが元の職業に帰ろうとしても、財産は無一物でほとんど着のみ着のままであつた。こうした人のほんとうの血税をもつて恩給制度復活するというのにも、上級官には元の俸給、給料を基準として、算出根拠を出すということは国民は納得行かぬ。ほんとうに窮乏した者を救うというような社会保障を十分生かす必要があるだろう、こう私は考えるのであります。  それで私はこれを簡単ながら要約しまするならば、まず一般公務員の普通恩給法をなくして、民間も一緒に厚生年金というような、ああいう方に一本にまとめる。それがいかなくなるならば、一般公務員の停年制をしいて六十歳まで、勤続年限を二十年とする。それから後はほとんど老人とかいうようなものを救うために恩給制度復活させるというふうにしたならばよいと思うのです。もし上級軍人俸給給料によつて、この算出根拠を出すというふうにするならば、もしこれが一般の落ちぶれた老人が一人あり、そうして一方に大将とか、中将というような上級官がまた落ちぶれていた、ところがこれを養老院に送つた場合に、いやこの方は大将だつたから優遇してやれ、この人は元々貧乏人であるから冷遇してやれというようなことは、社会正義感からいつても、仁義感からいつても許されることではないのであります。従つてこれは一般にその算出根拠を一律にしても、勤続年限とかいろいろな面を加味すれば、どうしても上級官の方が有利になるのでありまするから、階級を標準とするというようなことにせず、一律に算出根拠を出す。そうして動続年限をかけるというふうにしたならば一番公平ではなかろうか、こう思うのであります。要するにあくまでも困窮者を救済するというような意味を持つて私は復活させたい。もうすでに陸軍大将とか、大佐とかいうようなものは抹消されている。それが今日恩給復活でそういう俸給、給料を基準とするということは国民には納得が行くかどうか。今申し上げたように民間の戦災者は何ら救済はされていません。そういうものがたくさんあります。そういう人の零細な血の出るような税金をもつて恩給復活する場合において、階級的にこの算出根拠を出すということは、すべての人がこれは納得しないのじやないか。むしろ同病相あわれんで、戦災未亡人とか、あるいは傷病兵とか、そういうまことに気の毒な人にこそ最低限度社会保障が必要だ。それも何も遊べというのじやない。しかし五体の健全な人として、非常に条件が悪いから、その悪いところは国家のできる範囲においてこれを救済しようというようなあたたかい気持を持つて、この民主主義の博愛主義から救済の手を差延べたいというのが私の主張でございます。  それでもちろんこの若年停止とかあるいはまたその他の加算の停止というようなものは、財源の関係もございますし、また働くのでございますから、働けるような人ほこれは当然なことであると私は思うのです。ただほんとうに気の毒な人を救うというような、社会保障制度からこれは改正していただきたいと思います。
  76. 船田中

    船田委員長 これより、以上の三公述人に対する質疑を行います。御質疑はございませんか。
  77. 野澤清人

    野澤委員 黒田さんにちよつとお尋ねを申し上げたいのですが、七項症以下四款症の問題に関連しまして、一時恩給では不当であるからこれを年金受給者として指定するのが妥当ではないかという御意見でありましたが、それについて黒田さんの方でお考えになつていますことは、非常に脆弱な財政であるから少いのもやむを得ない、自分たちは金を要求しているのではないのだという御議論のように承つたのですが、今度の恩給法ではなくなられた方の遺家族を中心にして、今度の恩給のほとんど八七%が遺族の救護になつております。それでもしも七項症以下を年金として計上するということになりますと、そうでなくとも総体の予算が少いのに、遺族扶助料も少くして七項症以下を年金に加えたいという御意向なのか、金は要求しないという今までの建前から、国家義務であり、また傷病者の権利である建前から、遵法精神を生かしてほしい、こういう考えで、金額の多少にかかわらず年金受給者としての資格において待遇を受けたいというのか、この点だけをお伺いしたいと思います。
  78. 黒田明

    ○黒田公述人 ただいまの御質問にお答えいたします。  お答えする前に、先ほどの公述で少し落しましたので、補足させていただきます。増加恩給受給者特別項症から第七項症までの者に対して、現在人員による家族加給を支給されるよう、恩給法第六十五条を改正していただきたいと思います。これが私の忘れました事項でございます。  ただいまの御質問は、七項症から四款症まで年金を給するという場合におきまして、国家財政関係からお金を要求しない、しかしこれを支給する場合には、今回の改正の骨子は遺家族を重点的にしたのであるから、これらの人の支給金額をも削つてくれという意味か、こういう御質問のように承りましたが、この七項症から四款症までのものの復活ということは、これはどこまでも国家の権威ある法律制度に基いて義務に服した、こういうものが今日この法律を新しくつくるに先立つてのいろいろな法理論でないもの、人情論とか感情論とかいうものを加味して御研究、御討議になつて立案される場合には、何ら異議を申し立てるものではございませんが、旧法に基いて、あるいは国家法律制度の義務観念に結びつけておいて、彼らはその法律の許す範囲において恩給受給権の原因である戦傷を受けたのであります。従つて、今回の改正にあたりましては、国家補償であるという趣旨をどこまでも明示されております関係上、これらはすでに恩給の受給権を取得しておるのですから、立法の精神に徴しても、またわれわれこの法律を守る側の遵法精神からいつても、私は当然これらに対して法律制度の確立を叫ぶのであります。しかし国家財政の現在の段階におきまして、どうしても昭和二十八年度においては実施できないのであるならば、但書をつけてでも昭和二十九年度よりこれらに対して最低限度国家補償として年金を支給するというようにしていただきたい。従つて他の遺族並びにその他の関係方々のお金を減らしてまでもこれをやつてくれというのではありません。ことし国家財政が許さなかつたならば、少くとも二十九年度においては国家責任において最小限度の年金を支給するという御処置を今回の改正法案の中に明記していただきたいということを、強く要望いたしておるのであります。
  79. 野澤清人

    野澤委員 ありがとうございました。
  80. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 午前中の高木公述人の公述を承つておりましても、七項症以下は指一本程度ということが再三論ぜられております。しかし私たちが実際に地方をまわつてみまして、二十七年度の戦傷病戦没者遺族等援護法の実施に当りまして、七項症以下の方々の事情を承り、また実情を拝見いたしましても、確かにこれは国が償うべき傷の程度であるということを実際に見せつけられておるのでございますが、黒田さんは指一本と言われるけれども、相当な障害であつて、この傍聴人の中にそうした実例がおいでになるということをおつしやいましたが、もし委員諸公が御希望ならば、一応参考のためにお見せ願えればけつこうだと思いますが、委員長においておとりはからいを願います。
  81. 船田中

    船田委員長 ただいまの堤ツルヨ君の御発言まことにごもつともと思いますが、今の御要求にありました点は散会直後にお願いいたしたいと思いますので、御了承願います。
  82. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 了承いたしました。  次に日本遺族厚生連盟理事長佐藤さんにお尋ねいたしたいのでありますが、今回の恩給法の一部改正は元の軍人既得権であるということをあなたは昨年の公聴会でもしばしば力説されておりますが、御存じの通り日本には今日軍隊がございません。従つて憲法のもとに許されない軍隊、しかも身分はすでになくなつてしまつたこの方々恩給権の復活は、見解の相違もありましようが、非常に考えなければならぬ問題であると思います。恩給権を持たない戦争犠牲者と、恩給権を持つている戦争犠牲者を含めて指導なりお世話して来られたあなたといたしましては、この恩給権は既得権であるという御主張と、それ以外の遺族の補償とに対して一本の筋が通らないことになつて来るのでありますが、恩給権を持たない人たちに対しましては何の根拠をもつて遺族補償なり戦傷病戦没者に対しての補償をお求めになろうとするのか。恩給権を持つた人と持たない人とについての御見解をもう一度はつきりしていただきたい。
  83. 佐藤信

    佐藤(信)公述人 ただいまの御質問にお答えをいたしたいと思います。私ども既得権と申しておりますることは二つに考えられるのであります。かつて恩給が停止されますまでの間にすでに裁定を受けて、受給をされておつた者、いわゆる裁定済みの者と、それから恩給受給の事由が生じておつたけれども、手続が未済であつて、裁定をされないうちに停止をされた、こういうものと二つあるのであります。私どもの申しまするのは、この法律上——私は法律家でございませんから、そういうこまかい限界はわかりません。常識的に考えまして、もちろん裁定済みであつて、その者がポ勅六十八号によつてどもは停止されておる、こう解釈しておる。従つてポ勅六十八号の効力がなくなればそれは復権して来るものと解して、既得権と称しておる。それからいま一つ、恩給受給の事由がすでに発生しておるのに、手続が未済であつたということによつて裁定されていない者は、当然ポ勅の効力がなくなれば、もとの規定によつて裁定さるべきものであろう。こういうものも含めて事実においての既得権だというふうに——法律的には正当な解釈かどうかわかりませんけれども、常識的に考えて、そういうふうなものをひつくるめて既得権と考えておるわけであります。従つて裁定されていない者と、裁定されて、それが停止になつた者とを別に二つにわけて考えていないということに御了承を願いたいと思います。
  84. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 私の質問とはちよつとピントが合つておらないのでございまして、たとえば今度政府恩給法の一部を改正する法律案というものに四百五十億の予算の裏づけがございますが、この恩給法改正対象にならないのが戦争犠牲者の中にあるわけです。これは恩給権を持たない者です。そうすると今あなたのおつしやつたの恩給権を持つてつて裁定済みの者と、未裁定の者をおつしやつておるのであつて、午前中の末高信先生などとわが党の吉田さんと論戦がございましたが、これは非常に法理的にと申しますか、専門的に考えます場合に、恩給権を持つた者と、持たない者とを包含されるところの日本遺族厚生連盟としては、恩給権を持つた者だけの既得権の侵害があつて、この復活の要求をお振りまわしになりますと、持たない人のために困ることができるのじやないか。そこを私は聞いておるのであつて従つてざつくばらんに申し上げますが、あなたは重点的に国家戦争犠牲者のでこぼこを修正するために、恩給権を持つておろうと、持つておらない者であろうと、恩給法の一部改正関係なく戦争犠牲者が救われることをお望みになるのが当然であると思うのです。そこのところはどうでございますか。
  85. 佐藤信

    佐藤(信)公述人 前の御質問を聞き違えまして、間違つた答弁を申し上げたと思います。次の御質問によつてよく了承いたしました。ただいま御質問のように今度の恩給法によつて取入れられるいわゆる戦争犠牲者、こういうものに対しましては、今この恩給復活していただいて、それによつて処遇をしていただきたいということに尽きておりますが、それに漏れておる者があるのは事実でございます。これはおおむね援護法等によりまして、一応処遇をされておる。なおそれにも漏れておる者があると思う。こういう者は、恩給法の中に全部取入れてやつていただきたいということは無理だと思いますが、一応援護法の方においてこの援護を強化していただきたい。すでにそういうふうな御処置が御計画をなされておるようにも聞き及んでおるわけでございますが、なおそれにも漏れる者があるとするならば、これはやはり援護法の方に取入れるようにしていただきたい。それからさつき私の公述の中にもございましたように、恩給法によつて恩給を受けても、なおかつ生活に困るところの者がたくさんある。それは今の生活保護法によつて、もちろん救済をさるべきではあるけれども、そういう場合にはむしろ生活保護法の方から切り離して、援護法の方に取入れて、援護法の方で恩給受給と別に援護を強化していただきたい、こういうふうに考えておるわけでございます。
  86. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 私は佐藤さんに、日本遺族厚生連盟理事長として率直にお答え願いたいのでございますが、今回の恩給法の一部を改正する法律案の予算を見ましても、これはたびたび申し上げている通り九十何パーセントが遺族の補償、戦傷病者の方々の補償であります。年金であります。私は逆コースであるとか憲法違反であるとか、軍隊のない今日十七階級を持ち出して来るというような戦傷病者、戦没者遺族に対するところの国家の補償にあらずして、むしろ戦傷病戦没者遺族等年金法案とも言うべき単独立法によつて真の戦争犠牲者の救済、補償を国に求められるのが遺族会の立場ではないかと思うのでございますが、あなたの方ではこういう意思をはつきり御表明になつたことがあるかどうか、ひとつ承りたいと存じます。
  87. 佐藤信

    佐藤(信)公述人 この恩給法というようなものだけでなく、援護法とかいろいろわかれておつて、それぞれによつて統一がなく戦争犠牲者全部を処遇しておる、こういうことは実は私どもとしても非常に不徹底だと考えておるわけでございます。その意味におきまして、実は考え方といたしましては、戦争犠牲者というものを打つて一丸として、それに対する特別な法律をつくつてもらつて、統一のある救済をしていただきたいと研究はいたし、あるいは考えてはおりますけれども、まだその成案を得ているわけでもございませんし、現実の問題として今ここに坂上げられておりますこの問題を、それはいけないから別なこういうふうなものにしてくれというようなことは、現実としては少し迂遠だと考えておるのでございます。従つて現在の行き方でも、それをよりよくやつていただくということに努力をすべきであるという考えでもつて、ただいまの場合におきましては、ただちに統一した一つの法律で全部を取入れて処遇していただきたい、さようなことはまだ現実の問題として成案を得ておらないわけでございます。考え方は持つていることを御了承願います。
  88. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 私は理事長にお尋ねしたいのでございますが、占領下において日本遺族厚生連盟は非常に熱心に遺族の救済を叫んでおいでになつてあなたも世話をして来られて先頭に立たれた方でございますが、昨年できました戦傷病戦没者遺族等援護法ではまことに不満であつて、二十七年度限りこれをやめる、恩給特例審議会答申によつて何とか改正するからごめんしてくれというので、政府から一本をとつておいて私たちが二十八年度の改正に臨んでいるのがこの恩給法の一部改正であります。何年間か続けておいでになつ遺族厚生連盟が確たる案をお持ちにならないで、政府に望んでおられるとはまことにふかしぎなことである。昨年の改善を叫ばれた点から考えてみても、私たちの厚生委員会の手元には遺族等援護法とか、内閣委員会には恩給法の一部改正法律が出ている。これを合せて一本のものになつて、昨年の戦傷病戦没者遺族等援護法の改正ができるのであるという、そんなふうなうすぼんやりしたことはなかつたはずであります。しかるに今さら理事長がこんなところでぼかされるのは何かおかしなところがあるのではないかと気をまわしておりますが、ひとつ日本遺族厚生連盟におかれましては、真に遺族を守るべき立場にあるところの会であるならば、遺族の声を声として今から即刻案をおつくりになり、一本にまとめてもらいたいというお考えをもつてこの国会にお出ましあらんことを、私は質問に添えて希望しておきたいと存じます。
  89. 佐藤信

    佐藤(信)公述人 ただいまのお尋ねでございますが、私ども考えておりますことは、この恩給法に望むことは、現在におきましていわゆる一応の線を引いた戦争犠牲者の全部は恩給法の方に取入れて、そうしてこれによつて処遇をしていただきたいということを私どもは前から希望しているわけであります。従つて現在恩給法でお考えになつておりますほかに、援護法におきまして処遇されておつて恩給法の方には今取入れられないおそれがあるところのいわゆる国家総動員法による人たちとか、そういうような援護法第三十四条の二項に該当する人たちも、全部恩給法の方にお取上げ願いたいということを私たちしばしば陳情しているわけでありまして、それらの者も全部恩給法によつて処遇してもらいたいということを言つておりますので、従つてども戦争犠牲者の処遇はまず第一段階としては恩給法によつてできるだけのものを取入れて、処遇をしていただきたいということになつているわけであります。但しそういうことになりましてもまだまだそのほかに取残されているものがあるわけであます。そういうものは援護法の方に残して、そうしてその方で処遇されることもあえて拒むわけではない。大体のものは全部取入れて、どうしても取入れられないものは援護法の方によつて処遇をしてもらいたいというふうに考えておりますので、決して二本建に考えているとか、まとまつた考え方を持つていないというわけではございません。一応は全部恩給法というものに期待をして、全部この恩給法によつて取上げてもらいたいということは、私どもがたびたび請願している通りでありまして、以上でひとつ御了承いただきたいと思います。
  90. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 私とあなたとが意見を闘わすことは許されておりませんからこれでやめますけれども、しかし百八十万の英霊を南方あるいは北方において殺したわれわれは、断じて再びこの英霊を犬死させたり、英霊をこしらえたりしてはならないのでございます。この英霊を出した遺族自体が再び軍隊をつくるような、基礎をつくる恩給法一部改正に御賛成になるということは根本的にあやまちを犯す問題であつて国民から疑念を持たれますから、一言御注意を申し上げておきたいと存じます。  それから次にもう一人の佐藤さんにお伺いをいたします。あなたが公述の場合におつしやいました公務員だけの恩給があるという制度には反対だ、これは国民全体の生活安定を中心としたところの保障制度が打立てられて、ひとしく国家の恩典に浴さなければならない、守られなければならない国民立場から言わしむれば、妥当な意見でございまして軍人文官だけに恩給制度があつて、そして社会保障に何ら見るべきものがない、国民全体を対象としてなかつたということは、まことに国際的にもはずかしいことでございますが、しかしあなたの御主張通り私もあなたのように考えますが、今即刻これを機会に文官恩給をこの場合なくしてしまうということが現実において可能であるかどうか。もしあなたがよい方法をお持ちでございましたならば、こういう方法においてなくしろということをひとつお教え願いたいと存じます。
  91. 佐藤盛平

    佐藤(盛)公述人 ただいまの御質問は私の最も歓迎するところです。それではこれは輿論機関、つまり新聞等を大いに煩わして、そうして公正な世論によつてやりたいと思うのです。実は各政党の、失礼なきわみではありますけれども、各政党の諸先生方に煩わしたいのですけれども。何せこれは極端な例でありますけれども、金がたまるとどうも出す方はいやだ、たまる方は幾らでもいいというのがこれは人情の常です。ですから、たとえば高額の恩給をとつていらつしやる、これはわれわれたちには高額であるけれども、相当の地位の人はなあにそのくらいのものなら問題でないと、こうおつしやるでしよう。けれども、さてどうしてもそれは消極的になりはしないか。いわんや公務員全体がたとえば中央だけでも六十五万、全国的に地方公務員、教員とか何とかいうようなものをひつくるめても二百万から二百五十万あるだろう、これが全部たいてい有権者が多い。それからその家族の妻なり父兄なりがやはりたいてい有権者です。するとその一人がたいてい三票の有権者であるとするならば、七百五十万くらいの有権者。この人たちが禅坊主のように大悟徹底した人ならば、まことにけつこうだと言つてそれは賛成なさるでしよう。けれどもさて出すとなるとやはり、七百五十万まではないかもしれないけれども、たいていこれは反対だろう。しかし大局的に国家存立から見て行つたならば、どうしても恩給亡国と言われるような——こう言うのは決して公務員を冷遇しようとするのじやなくして民間と対等にしろと言うのでございますから、これはりつぱな正論ですけれども、さてその利害関係に立つ立場の人はどうしても不賛成。正面切つては不賛成はできないけれども不賛成になるだろう。従つてこれは一番当らずさわらず最も力強いものは何かと言えば、結局は言論機関たる新聞あたりをもつて大いに普通恩給制度なんか廃止すると言うのが一番いいのじやないか。これは失礼ですけれども、代議士諸先生方はいわゆる理論としてはけつこうだと言うけれども、実際においてはちよつ消極的にならざるを得ないような立場もあるのじやないか。実は率先先生方からそういうことを主張していただくとまことにけつこうだと思うのでございます。
  92. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 われわれ国会に出ております者は、もちろん選挙のときに票ももらいますけれども、あなたのおつしやるようにその一部の方々の得票を目当として国会で国民を代弁するのではございません。あくまでも大衆の生活を一人でも多く守るために私たちは代弁しているのでございますから、一部の反対者にくわえて振りまわされるような非常識な国会議員ばかりだというような御見解をもつてそういう言辞を弄されることは、ひとつお慎みを願いたいと思います。  そこで具体的に承りまして、新聞などの輿論でやるのがよかろうとおつしやいますけれども、はたして実際にこれをやるとするといたしまして、新聞の輿論くらいで片がつくものであるかどうか。片がついたらまことにけつこうでございますけれども、新聞やラジオで少々の輿論をかき立てるくらいのことならば、もはや今日あるところまでやつていると思う。実際にやるとなると、われわれ国会議員でも票が気になるのじやなしに、実際にいろいろな隘路があつてできないのでございまして、もつとつつ込んであなたに聞きたかつたのでございますが、新聞やラジオで輿論を承るくらいのことならば私たちも思いついておりますので、もつとよい道がございましたならば、今後御研究願つてわれわれにお教えを願えればけつこうだと思います。私の質問を終ります。
  93. 船田中

    船田委員長 他に御質疑はございませんか。——なければ、本日の公聴会を終りたいと存じます。公述人方々には御熱心に御意見をお述べくださつたことを委員長より厚く御礼申し上げます。明十二日午前十時より公聴会を開きます。  なお先ほど堤君、また前々から永山忠則君より御要望がありまして、第七項症の方々がおいでになつておりますから、散会直後にその方々とお会いくださることを委員長として希望申し上げます。  本日はこれにて散会いたします。     午後四時十分散会