○
村田政府委員 御審議をお願いしております
栄典法案の内容につきまして、
説明を補足させていただきたいと思います。
法案の中に盛られておりますいろいろな
項目を
項目別に順次御
説明申し上げたいと思います。
第一に
現行の
勲章の
旭日、
瑞宝、
宝冠、この三
種類の
勲章がございますのに対しまして、将来これは
旭日勲章というもので行きたいということにしております点について申し上げます。今申し上げました
旭日、
瑞宝、
宝冠、この三種の
勲章を現に持
つておられる方は私の方で大体
推定をいたしまして約二百五十万人
程度ではないかと
考えております。私の方では授与した
勲章の方は台帳に整理してございますが、現に授与された方でその後なくなられた方がわかりませんので、今のようなおよその
推定しかできないわけでございます。その方のうちで約九割は
軍人、これはもちろん兵を含むのでございますが、
軍人としての
功労に対し授与されたものと
考えられます。その
残りの大部分は
官公吏等でございまして、純
民間人としての
功労に対し授与されたものはほんの少しであるというような状態でございます。このような
従前の
勲章の
授与方針は、今後一大改革を加えなければならない、こういうふうに
考えますので、従いまして
授与方針を改めるといたしますと、
従前の
勲章と直接対比されることがないように新しい
勲章にする方が望ましい、こういうふうに
考えられるのであります。この点につきましてはさきに
世論調査をいたしましても、大体同様の
結論でございますし、また非公式ではありますが、
民間の五人の方にお願いしまして御
意見を伺いましたが、これもまた同様の御
意見のようであります。そこでこの
勲章を新しくするとして、それは元のように何
種類かにするかどうかという問題でございますが、これにつきましては
恩賞が簡明直截に行われる、小さな
功労の差を一々詮索いたしまして
区分を複雑にしない方が時勢に適合する、こういうふうに患われまして、まず
種類は一
種類にする、こういうふうに
考えたのであります。
次に
等級をわけるか、わけるとすれば
何等級かという問題につきましては、これはそもそも
等級というものが
勲章に設けてあります
理由は
功労に
大小の等差がある、また同一人が
勲章を授与されますような
功労を重ねることが予想される、この二つの問題に応ずるために
勲章を
功労の
大小に応じ数
等級に
区分する、
功労あるごとにこれに相当する
勲章を授与して、これをあわせて着用させるというのも
一つの案でございますが、しかし同じ
体裁の
勲章を功を重ねたということでたくさんにするということは
体裁上いかがかというふうに
考えるわけでありまして、功を重ねた場合には進級させるという
考え方を取入れ、これに
功労の
大小に応ずる
区分という
考え方をあわせまして、
勲章に
等級を設けるということが現在の各国の
勲章制度の通例にな
つております。そこで今度一
種類の
勲章もやはり
等級を設けた方がよいと思います。その
等級の数でございますが、これも諸
外国の
晋通の例に
従つて五
等級にするのがまず適当ではないか、こういうふうに
考えたのであります。
世論調査につきましては、この点についてあまりはつきりした
結論は出ておりません。若干の
等級はあ
つた方炉よいというふうなきわめて常識的な
意見のようでありました。それから先ほど申し上げました
内閣に非公式に設けました
会議の方では、三
等級から五等叛くらいはやむを得ないのじやないか、こういうふうな
結論でございます。
次にこの案の
勲章の
意匠と名称の問題でございます。これにつきましては
従前の
勲章とま
つたく異なるもので、
わが国の
勲章としてふさわしいというような
意匠がございますれば最も理想的ではないかというふうに
思つたのであります。しかしこれは
現実の問題としてなかなかいい
意匠を求めがたか
つたのであります。なお
外国でも、たとえば昨年
西ドイツ政府で
勲章を復活しておるのでありますが、その
勲章の図を見ますと、やはり
従前の
ドイツの
十字章の形を用いまして、同国に特有のわしの形を中央に配して、一見して
ドイツの
勲章と
考えられるようなものであります。それからまた
翻つて勲章を新しくするという
趣旨を
考えますると、これも要するに
従前の
勲章と区別するということが眼目のように
考えられるのであります。以上のような点を
考えまして、今後の
勲章は、
わが国で最初に制定されました
旭日章の
意匠を大体残しまして、リボンの色などで区別する、こういうことにして、
名前も
旭日勲章と称することが適当ではないかという
結論に
なつた次第であります。
次に、今までに授与した
旭日、
瑞宝、
宝冠、この三章の
取扱いでございますが、元来
国家が過去において、功を認め、労を多として授与した
勲章、
恩賞を、
あとになりまして情勢の変化で取消すということは穏がでないというふうに、原則的には
考えられます。しかしながら
勲章と申しますものは、杯とかあるいはお金とかいうものと違いまして、将来にわた
つてこれを着用することを認め、その栄誉を長く顕彰しようというものでありますから、必ずしもさつき申し上げました
原則通りには行きかねる、こういうふうに思います。しかし今
現実の
旭日、
瑞宝、
宝冠の問題として、今まで授与した
勲章につきまして一応問題になるようなものを
考えてみますると、
満州事変とか
日華事変における
功労によ
つて授与された
勲章——これは余談になるかもしれませんが、
太平洋戦争につきましては、
生存者に
勲章を授与しておりませんから、
太平洋戦争の
功労によ
つて授与された
勲章を持
つておる方はないのでございます。それから先ほど申しました
事変の
功労によ
つて授与した
勲章を元にして進級した
勲章、
事変中は、戦地で勤務したことによりまして加算された
勤続年数に基いて授与されたいわゆる
定例叙勲の
勲章、
事変や戦争に関与した
文武官の
勲章、こういうような問題の
取扱いが
現実の問題としてどうしたらよいかということになるのであります。これらの
勲章を授与された
功労というものは、敗戦によ
つて水泡に帰したというふうにも
考えられるのでありますが、当時のその労苦は多としなければならないというものもありまして、一様に全部無効にするということは非常に酷であると思います。しからばそのうち無効とするものとしないものとを取捨選択ということになりますると、これまた
現実の問題としては非常にむずかしい問題であります。その上に、問題の
勲章を無効としたという場合に、その
勲章関係の
功労を除いて、
残りの
功労でその
下級の
勲章に該当するようなときは、あらためて
下級の
勲章を授与しなければ公平を失するというような
関係もございます。以上のような点から
考えまして、
従前の
勲章の
効力は引続き認めることにしたい、こういうふうな
結論になりました。この点につきましてもやはり
世論調査は大体
賛成しております。前の
軍関係の
功労で授与された
勲章でも、やはり
効力は認めた方がいいという方が、否認するよりも数が多か
つたようであります。先ほどの非公式に
内閣に設けました
委員会も同様でございました。
次に、今申し上げました
旭日、
瑞宝、
宝冠という
勲章に関連しまして、
現行制度では
勲位勲等という
制度がございます。現在の
旭日、
瑞宝、
宝冠の三章は、
勲位勲等に叙し、そのしるしとして章をつけさせる、こういう建前にな
つておるのであります。この
勲位勲等の
制度といいますものは、
わが国の位というものと照応さした独特の
制度ではありますが、
外国でもこれにやや似たようなものがないわけではないのであります。たとえばイギリスで、ある
勲章を授与しますと、その授与された人に、
勲章の
種類に応じまして、頭文字をと
つた、大体三字ぐらいの、M・R・Vとかいうような字を
名前の上につけるということを認めておるのであります。
勲位勲等制度と似たところはあります。要するに、
勲章受領者にこのような
称号を認めまして、
勲章受領者の
待遇を厚くするという
考えなのであります。この点について必ずしも排斥する
理由はないのでありますが、これを存続いたしますると、
従前の
勲章を新しい
勲章に切りかえたという意義が没却されるのではないかと
考えるのであります。またそれでは従来の
勲位勲等を改めまして、これに類似の
名前のものを新しく設けるとしましても、やはり
従前の
勲位勲等との
関係を明確にするという
必要性が生じまして、新
勲章と旧
勲章を一応別
種類のものとし、その間の
関係を端的に示すことを避けようとする
方針に反することにな
つて参ります。なお
あとで申し上げることになりまするが、位の
制度を存続するということになりますと、これとの
重喜複ということにもなりまするし、また従来
文化勲章受領者には特別の
称号を与えていないというようなことから
考えまして、
勲位勲等の
制度は将来廃止するという
結論にな
つたのであります。将来これを授与することを廃止するとすれば、今現に持
つておるものも
栄典としての
効力は失うことにしたい、こういうふうに
考えました。この点につきましても、非公式の
内閣の
委員会では大体御
賛成のようでありました。
次に、
文化勲章は従来
通り存置するという問題でございます。
文化勲章は従来主として学術、芸術上きわめて高い価値を創造したというような
功労に授与しておるのでありますが、それを設けました
理由は、今申しましたような
功労については、
功労の
大小を社会、公共に直接及ぼした影響という方から測定することができませんので、
従つて普通勲章を授与するときには
——普通勲章と申しますのは、
旭日、
瑞宝、
宝冠のような、
等級のある
勲章でございまして、将来としては
旭日勲章になるわけでありますが、これを授与すると
何等級にするか、実際上きわめて困難であるために、
単一級の
勲章をつく
つて授与した方がいいということでできたものでありまして、この点は将来もかわりがないというふうに
考えておるわけであります。
次に
産業勲章を新しくつくることをお願いしようという問題でございますが、これは
産業、
経済方面の特にすぐれた
功労者に授与するものとしましても、
ちようど文化勲章に匹敵するような
単一級の
特別勲章というふうに
考えられておるのであります。元来こういうような
特別勲章ば、普通の
勲章がありますと、ほかにつくるという
理由は理論的にはないのであります。しかしこれは
現実の問題として、
普通勲章に
等級区分があるために、むしろ
等級区分のない
特別勲章の方が
寅際の
運用上便宜である、こういう実際面から来たものであります。この点につきましては、
世論調査の方では必ずしも特別の
勲章を
文化勲章のほかに必要としていない
意見のようでございます。しかし
内閣に設けられました非公式の
委員会の方では、つく
つた方がいいという
意見がほとんど全員の御
意見でございました。但し
産業勲章というものにした方がいいかどうかということについては、
委員の御
意見必ずしも一致しておらなか
つたのであります。
それから次に位を存置するという問題でございます。これは
現行制度では
国家に
功労がある者と、在官、
在職者、すなわち
官公職にある者に授与するということにな
つております。これは御承知の
通り古い沿革を持
つたものでありますが、現在として
考えますると、その本質はやはり
一つの
称号制度であ
つて、被
表彰者に
称号を与えるというふうなものと
考えられるのであります。ただその
表現が非常に古い
表現であるということが
一つの難点ではありまするが、
勲章の
制度が、先ほ
ども申し上げましたように
旭日勲章一
種類が五階級というふうに
簡素化されておりまするので、将来これと並べてその副的なものとして
運用の余地があるのではないか、こういうふうに
考えまして、存置しようというふうに
考えたのでございます。
世論調査についてはこの点をはつきり
一つの
項目として
調査しませんでしたので、
結論が出ておりませんが、
内閣の先ほど申し上げました非公式の
委員会では、
反対論の方がむしろ多か
つたように思います。次は
功労章というものを新設した問題であります。これは
勲章を授与される
程度に達しない
功労者に広く授与することを目的として制定したものでありまして、
実質上は
勲章の
下級に属するものであります。
形式上は
勲章と
別種のものにした方が適当ではないか。
普通勲章五
等級のさらに下に六
等級、七
等級というような形のものとするよりも
別種のものとした方が適当でないか、こういうふうに
考えてつくられたものであります。なお
功労章のうち普通の
功労に対して授与するもののほかに
特別功労章というものを設けましたのは、これは主として火災、風水害、工場、
鉱山等における災害、治安の維持などに際しまして、自己の危険を顧みずに勇敢な行動をして
功労を立てた者に授与するものとして
考えたのでありますが、このような
功労は実際上同一人が再度以上重ねるような場合もあるというふうに
考えまして、功を重ねた人には
飾版を授与するというふうにして
累功者に応ずるようなものにしたい。そのために
別種のものにしよう、こういうふうに
なつたわけであります。
次に
褒章の
制度でございますが、これは大体
現行法の
通り存置するのが適当であると
考えております。二、三こまかいことで
改正はいたしておりまするが、大筋ではそのままで引継いでおります。
功労章と
褒章につきましても
内閣の非公式の
委員会では、提案申し上げましたような御
趣旨に皆さん御
賛成のようでございました。
以上重要な点につきまして御
説明申し上げた次第であります。