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平井説明員 ただいま
総裁から申し上げました
言葉で尽きると私
ども存じますが、私
どものただいま
研究しております事態を冷静に諸
外国と比較してみますと、相当の遅れがございます。戦争中のブランク、あるいは私
どもの能力の足りない点もあるかと存じます。いかにしたらば一体世界レベル以上になり得るか、こういう問題は私
ども日夜頭を悩ましておるところでございます。たとえば
外国から
技術をとる、そうするとそれによ
つてそこのレベルに達したかと申しますと、必ずしもそう申し上げられないのでありまして、私
どもが
研究をや
つております途中においていろいろのむだがございます。むだと申しますと語弊がございますが、
研究をやりました過程においての多くの失敗があるわけであります。その失敗の積み重なりというものが、次の飛躍に対して非常に大きな役割をしているのであります。これは私
どもの周囲を見渡しましても枚挙にいとまがないのでありまして、
ちよつとお時間を拝借しまして実例を申し上げますと、たとえば私
どもで四号
電話機という
電話機をつくります。これが私
どもとしては現在のところ精一ぱいの
努力であ
つたのでありますが、これができましてから、簡単なことではありますが申し上げてみますと、たとえば夜、暗がりで
電話をかける、そして受話器を元へかけます。
電話をかけた
あとで相手からかか
つて来て、出て
電話をかける。この場合に私
どもの今の
電話機は、ダイヤルと送受器受けの間に受話器がかかります。そうすると永久につながりつぱなしの
状態にな
つて、元の
状態に返らないというようなことがあります。また送受器受けの片方にコードが一本はさまりますと、半分切れたような
状態になるわけであります。こういうような欠点が私
どものただいまの
電話機にあるわけであります。私
どもはそれを今欠点として感じているわけでありますが、それがウエスタンの
電話機ではどうな
つているかと申しますと、これは握りの形が
ちよつとかわ
つておりまして、どんなにひもをかけても半切れの
状態にはならないようにな
つております。またダイヤルの面は
電話機の面よりひつ込んでおります。
従つて受話器をそこへかけようと思
つてもかからないというようなことをや
つているわけであります。おそらく
アメリカも全然発表しておらぬと思いますが、いろいろとや
つてみて現場でそういうようなことが起り、失敗が起
つて、それによ
つて電話機が今のような形にかわ
つて来たのであろうと私
どもは了解するわけであります。これは非常に卑近な例でありますが、多くの
研究が失敗の積み重りの上にこそ、
ほんとうの
技術の確立ができるであろうというように私
どもは考えたのであります。
従つて私
どもの
技術レベルを引上げるために無批判に受入れるということは、決して
日本の
技術を伸ばすゆえんにはならない。私
どもが苦労いたしましてある解決策を見出したものにつきまして、
外国から輸入したときに、初めてそこで私
どもの
技術が飛躍的に上る。私
どもの
技術が
外国から輸入せぬでも十分太刀打ちできることが理想でありますが、たといそれができませんでも、私
どもが
一つの形をつくりまして、その上に輸入したときに初めて
技術が上るもの、こういうように考えている次第であります。これは
松前先生が先ほどおつしやいました
研究の
根本的な考え方というものにつきましてお答えを申し上げるのであります。
ただいま御
質問がございましたいかなる
目標をも
つて現在
研究を進めているかという点でございますが、私
どもはこれに対しまして五項目ほど
基本的な題目を掲げているわけであります。
その第一項目は、現在の
通信方式を安定化するための
研究、これが最重点の項目に現在しております。と申しますのは、現在の
電信電話サービスはまだまだ
設備の不安定のために、多くの利用者に御迷惑をかけているのでありまして、これは一日も早くいい
通信が安定した
状態で得られることが望ましい。しかしこの関係は非常に広汎なかつこま
かい問題を多く扱わなければなりません。
従つて現在特に
研究所で扱
つております問題のほとんど大
部分のものが、この目に見えないこま
かい問題を扱
つているのであります。
第二の項目といたしましては、不足資材あるいは不安定資材の対策であります。これは戦時中も
日本においてやられた問題でございますが、現在の変転きわまりない国際情勢のもとにおきまして、
通信事業は非常に多くのいわゆる軍需物資、あるいは軍需的に非常に重要な物資を不可欠の要素として含んでいるのでありまして、これらに対して
日本の国内に産しないものもたくさんあるのでありますが、その輸入がとまるという場合に、私
どもの
通信事業がたちまち死命を制せられるということになりますので、これに対する
研究を第二の項目として選んでおります。
第三の項目は
通信網の、あるいは
通信方式の
無人化の問題であります。安定化と相ま
つてそれを
機械化して行くという
方向に現在向
つております。
第四項は、新しい
周波数の開拓であります。これはただいま
お話もございました
マイクロ・ウエーヴもその
一つの例でありますが、あるいは無
装荷ケーブルにおきましても、ただいま
ドイツの例としてV六〇というような
方式の
お話がございましたが、そういうふうにわれわれの無限に使い得る資産であります
周波数をできるだけ広げて、経済的に考えて行くという
方向に
研究を向けて行くわけであります。
五番目に、それらに伴います基礎的な
研究でございます。
研究というのは、私
どもは
実用化という名前で、製品をあるいは成果を事業の中に適用しておりますが、その基礎をなすものは私
どもが過去において蓄積した
技術力でございます。この
技術力を将来に向
つてより発展せしめるという
意味におきまして、その基礎
研究というものは私
どもの将来への経過として一日もゆるがせにできないところでありまして、これを重点として取上げましたゆえんであります。
ただいま
研究所が当面しております
技術の将来に向
つての
方向は、ただいま申し上げましたような五つの項目に向
つて集約されるのでありまして、ただいま
研究所はそれらの
目標に向
つて研究に邁進しているというふうに申し上げ得ると思います。