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渡邊(喜)
政府委員 われわれといたしましても、
法律をつくりますときに、できるだけわかりやすい平易なものにしたいということを大きな
目標としてや
つております。私も十数年ずつと
事務官時代から
法案の起案をや
つておまして、いろいろ苦労しているわけなりですが、大体こういうふうに考ふております。
一つの
法律をつくりますときに、
最初すらすらつと書くと、
割合に首尾一貫したわかりやすいものができるのです。ところがその場合、何と申しましても、たとえば
所得税のような場合でございますと、
日本全国に住んでおる人が八千五百万、その中で
所得を得る方はその何分の一なんですが、その方の全部にそれが適用されるものでございますから、そういう八千五百万の国民の中の何十人の方、何百人の方というごくわずかの方に必要な
幾つかの特殊な例がございます。そういう場合、それでは
課税がどういうふうになるのだということを頭に置きまして、やはりそれに対応するような適当な
規定を
幾つか定めて行かなければならないのであります。さらにそれを穴埋めしてみますと、その次に、今度はまたこういう場合はどうなんだろうというようなことが考えられる。
法案をつくりますときに一番苦労する問題は、そうした例外の
ケースがあつた場合にどういう
事態になるか、この
規定をやはり
法律の上ではつきりきめておきませんと、その
事態にぶつかりましたときに、非常に不権衡な状態ができるか、あるいは
執行官庁の
裁量でも
つて、
法律の中を離れた適当な
裁量をしなければならぬ。こういうような
事態にぶつかるものですから、そうした
割合に例外的な
ケースの
事態を考えたような
規定が
幾つか入
つて行くわけなのでございます。たとえば
所得税法に例をと
つてみますと、
変動所得に関する非常にむずかしい
規定があります。あれが適用される方は非常にわずかなんですが、しかしやはりああいう
規定が必要にな
つて行く。あるいはみなす配当という場合がございますが、減資の場合とか、そういう場合は、
日本国中探してどれくらい一年にあるかといえば、非常に数としては少い。しかしそういう場合を考えての
規定がないと、その場合にぶつかりまして、どうして解決するかというむずかしい問題が出て来る。そういう
事例が
幾つか入
つて来る場合におきまして、結局ごく原則的な
規定と例外的な
規定とが同じような大きさの
活字で並んでおるものですから、普通の
方々にはほとんど必要のないような
規定が、かえ
つて条文としてはむずかしい
規定となりまして、大きくのさば
つておる。
法律を頭から読んで参りますと、ほとんど例外的な
規定でありまして、普通の
一般の方にはそう必要のない場合でありましても、それが大きく出て来るものですから、そういうむずかしい
条文にぶつか
つてしまいますと、それから先を読むのはいささかがつかりして、いやにな
つてしまう。あるいは、どこの
条文はそういう場合には必要ないのだという点などが、初めて読まれる方にはわからない。こういうような点が、
所得税法のような特に非常に広い
納税者を
対象とした
法律でありますと、どうしても必要でもあるし、またそういう問題にぶつか
つて来るのじやないかというふうに考えております。
それともう
一つは、やはり
法律の
文章は
正確性を期さなければならぬ。
正確性を期さないと、たとえばあいまいな
文章で、どちらにもとれるような
文章でございますと、争いに
なつたときに、一体
法律としてはどういう
意味の
規定か、これが議論になりまして、そして絶えず裁判所まで行かなければならぬ。これはやはり避けなければならぬ問題だと思
つております。
国会の方で御審議願います際に、そういう
意味においてはつきりした意図をそこへお出し願いますのも、
正確性の問題がそこにあるのです。
大体
法文の体裁を見て参りますと、現在の
法文をわかりにくくしているのは、
一つはそうした特殊な
事例が織り込まれて行かなければならぬという問題と、それから
法文の
正確性を期すというために、
文章自身が何となしにかた苦しくなる。普通の解説めいたものを書く場合ですと、
割合にすらすらと書けるものが、
法律の場合は、それでは表現が非常に不正確だ。それが大体
法文というものをこんなに読みにくくしておるゆえんじやないかと思
つております。われわれといたしましても、現在
所得税の
規定というもの全体がどうもややつこしい、もう少し何とかわかりやすい、
納税者の頭にすらすらと入るようなものにならぬものだろうかというふうに考えております。もう
一つ、
所得税法は
昭和二十二年に全部
改正がありましたが、その後一部
改正、一部
改正で進んで来ておるものでありますから、これもわかりにくい
一つの
原因でもあるのではないかと思
つております。シヤウプのああした大きな
改正でも一部
改正でや
つて参りました。
従つて、一応
国会などが
終つたあとという問題になると思いますが、時間を得ましたならば、コーデイフイケーシヨンの問題について全文を検討しまして、どうしたならばわかりやすいものになるだろうか、たとえば例外的な
規定は
むしろ別に離してしま
つて、本筋の
規定だけまず頭の方にまとめてしまうとか
——イギリスの
税法などは非常にわかりにくいのです。あれは御
承知のように、
あとから
あとから
法律をつく
つて参りまして、
一つの
法典にな
つておりませんから、どうしても
解説書がなければならない。それで
大分前でございましたが、数年かかりましてコーデイフイヶーシヨンの大きな
委員会をつくりまして、
内容を審議するというよりも、
法文化する方の仕事に相当の精力を費したことがありました。あれがものに
なつたかどうか、私ははつきり聞いておりませんが、そういう面について、われわれの方としても
努力して参りたい。実はできるだけわかりやすくするということは、われわれの念願なんでありますが、今申したようないろいろな
関係があるものですから、なかなか思うような成果があげられない。もう一歩くふうして考えてみたい、かように考えております。