○岡原
政府委員 一応ただいままでに判明いたしましたこの犯罪の概要を
お話いたしまして、特にお尋ねの諸点に触れて行きたいと思います。
現在までのところ、この
事件は全国的にまたがりまして、最も規模の大きいのは、東京地方検察庁で捜査をしておる
事件関係でございます。この東京の駅件の概要を
お話いたしますと、全貌が一応わかりますので、それから始めたいと思います。
この
事件は、警視庁の刑事部の捜査第三課に、全太烈という者が薬品を使
つて収入印紙の消印を除去しているという投書がございました。それに基いて同課及び所轄警察において捜査をいたしました。昨年の三月二十五日、全太烈外三名の朝鮮人を逮捕し、取調べの結果、使用済みの印紙の出所及び販売交付先等が判明いたしました。爾後これに関連して広範囲に捜査が進められて来たのでございます。
捜査の開始以来本年二月十日までの統計を申し上げますと、これは東京
関係でございますが、不正印紙使用
事件関係の被疑者として検挙された者総人員三百十三名、このほか全国的に六十八名、計四百七十八名の検挙人員と相な
つております。
罪名別は印紙犯罪処罰法が大
部分でございましてこれに贈収賄、窃盗、詐欺、贓物牙保、故買といつたようなものがくつついております。
職業別に見ますと、司法書士、印紙ブローカー、印紙売りさばき人、法務事務官、郵政事務官、弁理士、海事代理士、計理士、農林事務官、水産事務官、雇、通産事務官、
会社登記係、登記所の小使、使用人その他ということに相な
つております。
現在までに起訴されました者は、東京において百五十五名、その他の各地において六十八名、合計二百二十三名と相な
つております。
なお現在までに判明したところによりますと、不正印紙の使用された期間は、
昭和二十五年の二月ごろから
昭和二十七年四月、ごろまでと考えられております。その出所でございますが、これら不正に使用せられました印紙の出所は、先ほど
お話のございました通産省、東京通商産業局、特許庁、水産庁、農林省、大体そういつたことに相な
つております。
さて、この
数額はどれくらいあるかという問題でございますが、これがたいへん困難でございまして——というのは、検察庁として現在調べておりますのは、
一つの
事件として印紙の行方をずつと上から下まで考えておりますが、犯罪
事件として起訴された
金額を足して参りますとダブ
つて参りますので、これを印紙の行先から
一つ一つ別に計算するということはほとんど困難でございます。ただそれらを推定し得る
一つの
資料といたしましては、警視庁の科学研究所において、昨年五月一日から九月三十日までの間に、各警察署の依頼に応じて、
事件発生区域内の各登記所の保管にかかる登記申請書について、一定期間を定めて鑑定いたした結果、不正印紙と判明したものが八万六千余枚、額面の
金額が一億三千余万円とな
つております。高額の印紙としては、額面十万円のものが百九十七枚、五万円のものが二百六十九枚といつたような調子で、なおこの鑑定は額面千円以上の印紙については、一応全部鑑定いたしました。額面五百円以下の印紙については、抜取り
検査でや
つております。
この犯行の概要でございますが、各官庁において使用済みのものとして消印を施し、保管中の印紙を、当該官庁の
職員その他が盗み出す等の不正の
方法によ
つて、他に流れ出しております。これを印紙ブローカー等が買受けまして、印紙ブローカーがみずから、または他人を使用して、特殊な薬品を用いて消印を除去する。その上これを司法書士、印紙売さばき人等に売却いたしまして、結局これらの印紙が登記所に納まるというふうな形に相な
つております。従いまして、検挙人員の四百七十八名のうちには、さようなほかの官庁の者、あるいはブローカー等も入
つておるわけでございます。登記所の
関係の者はそのほんの一
部分、さようなことに相なるわけであります。
この
事件発生の
原因につきましてはいろいろ考えられるのでございますが、使用済みの印紙の処理並びに保管
方法が各庁統一を欠いておつた。これはこまかく言いますと、
ちよつと技術的になりますので省略いたしますが、それぞれ書類にこの印紙を張
つて、これに消印をしてその書類がまわ
つて本省に納まる。その径路が、いろいろ
各省の取扱いが違
つております。その間数量と
金額を適当な段階において
検査するなり、あるいはチエツクするなりというふうなことが欠けておる点が
一つだろうと思います。それから保管者側において、使用済みの印紙の保管についての関心が薄かつた。たとえば印紙の張
つてある書類を受取
つて、これを単に自分の机のひきだしにぽつとほうり込んでおく、あるいはその辺の戸だなの中に入れておくというふうな粗雑な
方法がとられておる例もございます。従
つて、実際に
事件にな
つてみまして、一体幾ら盗まれて、幾らがほんとうに書類に張
つてあ
つたのかということが今にな
つて実は捜査がつかぬといつた面が出て参
つておるのでございます。たいへん残念なことでございます。なおその次には、取引高税の印紙が、例の取引高税廃止の際に業者の
手元に
相当残
つてお
つたのでございます。これを印紙に切りかえ使用せしめる措置をと
つたので、これが多量に使われ出した。これで取引高税の印紙といわゆる収入印紙とがごつちやに使われました。これがやはり犯罪を誘発さしたのではないだろうか、かようなことを考えております。最後に印紙の納付を受ける側、つまり書類で印紙を受取る側の方も、あとでわかつたことでありますが、若干疎漏の点があ
つたのではないだろうか。これはただ実際に私
ども偽造、変造せられました印紙を見ますと、もうどんなに日にすかして、あるいは目を近づけて、虫めがねを使
つても、偽造、変造たることがわからぬ印紙が
相当たくさんございますので、一概に登記
官吏その他を責めるわけにはいかぬのでございますけれ
ども、中には若干疑わしいと思われるものもあつたようでございまして、それらの点につきましては、全然
責任がなかつたというふうにも言えまい。従
つて、仕事が
相当忙しいのでしようが、特に高額の印紙等については、もう少しそういうふうな点に目を注いでおつたら、未然にある程度防げたのではないだろうか、かように考えられる次第でございます。
そこで今後の
対策でございますが、まず第一には印紙の消印の
方法を改善すること、これは口幅つたいようでありますが、登記所
関係においては消印というのが実に巧妙で、決してあとで偽変造できないように消印が施されております。ほかの官庁もぜひそれになら
つていただきたい。この消印の
方法と、次には収入印紙についても千円とか一万円というような高額のものがあるのでありますからして、紙幣に準ずるような程度の非常に高度の技術を用いなければいかぬような印刷をや
つていただきたい。その次には使用済みの印紙の取扱いにつきまして、
関係機関との相互の連絡を密にいたしまして、ことにその数量と
金額を正確に把握する
方法を考慮し、その保管の
方法を完全にするということでございます。これは先ほど
原因として申し上げた点に対する
対策になるわけでございます。さような点に関連いたしまして、特に登記所の
関係におきましては、最近大蔵省の方から印紙の見本帳をとりまして、全国の登記所すみずみまで、本物の印紙はこれこれだというものを配
つてございます。従いまして何か疑問がありますと、それと対照すればすぐわかるというようなことをいたすとともに、若干の
予算の配付を受けましたので、印紙の簡易鑑別器を備えまして、疑わしい印紙が参りました際には、紫外線に当てるとある程度まではわか
つて参ります。さような機械も要所々々の登記所に備えつけたような次第でございます。なおこれらの刑事
事件といたしましては、目下地方検察庁において鋭意捜査を続行中でありまして、
事件の全貌はただいま申し上げた
通りでありますが、なお全部的にこれを処理するに至
つておりません。あと二箇月か三箇月で全部の処理を終る予定にな
つておる次第でございます。
なおつけ加えて申し上げますが、先ほど不正印紙の
数額が二千数百万円に上るという
お話でございましたが、それは登記申請の際、だれが不正印紙を使用したのか、その犯人が確定できて、すでに起訴された分が二千数百万円になるというのでありまして、また私が先刻一億三千余万円と申し上げたのは、犯人がだれであるか判
つたのもあり、判らぬのもあり、また不正印紙たることの認識があつたものもあり、その点判然せぬものもあり、ともかく鑑定により偽造または変造の印紙たることが客観的に確定し得たのが、それくらいに上るという意味でございます。御
参考までに一言申し添える次第であります。