○
帆足委員 そこで、そのようにパリからスイスに飛んだ程度のことに、一々
罰則を加えるという国が、世界中どこにございますか。これは同じことを繰返して御
質問しても何でございまして、皆さんのお聞き及びの
通りでございますが、そういう例は世界中どこにございましようか。私
どもはこれから世界の
旅券法をよく調べて見たいと存じます。
第二に、これと並びまして、生命、財産の保護ということを盛んに申されますが、一体これは善意の、好意によるところの生命の保護
規定であるべきでございます。
政府がほんとうにその人間をいとしいと思
つて、お前はその
地域に行くのに、あそこはコレラがはや
つたり内乱状況じやないか、行けはあぶないじやないかという御好意による生命保護法ならば、行こうとする人ととめようとする
政府の間に対立が起
つて、
訴訟ざたが起るというようないまわしいことは、あるはずがございません。また人は自分の命はだれよりも守りたいというのが本能でございますから、ほんとうに命の危ういところへは当人も参りません。当人が参ろうとしても妻や子供が引きとめましよう。妻や子供が引きとめなくても、友人、知己、先輩が引きとめるでありましよう。何も
外務省がのこのこお世話なさるまでのことはないのであります。しかるに衆目の見るがごとく、
政府は別な政治的意図をも
つて、生命のあぶないというところにそれをこじつけて、そしてとめようとしておるのでございますから、そこに無理があるのでございます。従いまして、鉄のカーテンのかなたに行かせない、そういう
地域に対して行かせないというお考えがあるならば、生命、財産の安定というようなことではなくて、はつきりもう少し正々堂々たる
理由をつけて一条をおつくりになるか、またはそれがわれわれによ
つて不当であると判断を下されたならば、好ましからざる人物をやらないように第十三条の
規定をもつと明確になさればよいことであ
つて、人の命を保護するという仏様のような美名に隠れて、実際はその政治的意図を貫こうとする態度は、まことに私はけしからぬことであると存じます。これは非常にまずいことでございます。もちろん今日
旅券の
返納令命というのがございます。
返納命令というのがなぜあるかということは、
法律をつくられた
外務省は胸に手を当てて良心に問えばおわかりになるはずであります。人は命のあぶないところには行くものではございません。汚物の中に足をつつ込むなという
法律をつくらなくても、どぶの中にわざわざ足を入れるものはないのであります。しかるがゆえに行く先が命があぶないからとい
つて旅券を出せないと教えておる
法律は世界中どこにもありません。しかるがゆえにだれにも
旅券は出す、出したけれ
ども行く先に内乱が起り、戦争が起り、あるいは疫病が蔓延しておる
国民――は長距離のラジオを持
つておりません、三橋のようなもの以外は持
つておりませんので情報がわかりませんから、
政府がいち早くキヤツチして、あそこでは内乱が起
つておる、あるいは疫病が蔓延しておるから行かない方がよくはないか、何十人かの人が行
つたならば路頭に迷う、そのために跡始末を国家がしなければならないというので帰還命令を発し、
旅券の
返納を命じ得るというのがその手順でございます。しかるがゆえに今日の
旅券法の
規定は別に欠陥あがるのではなくして、そういう場合には
返納を命じ得るという
返納規定にな
つておる、これは当然のことでございまして、この法案をつく
つた諸君が私
どもよりよく事情を知
つておるのであります。それを政治的
理由のためにこじつけて、命があぶないから
帆足君はモスクワへ
行つてはならない、こういう言い方はちよつと卑怯である、私が
デンマークのあるサロンへ参りましたところが、並居る実業家が腹をかかえて笑いころげて、カールスバードのビールがこぼれるような始末でありました。かくのごときは国辱といわねばなりません。その
デンマークの実業家が申しましたのは、
日本の長野県から寒天が輸出されていた、しかるに諸君はそれを輸出しないから、すでにわれわれは北海からわかめをと
つて寒天をつくるように
なつた、この
デンマークの寒天でつく
つたようかんだが食べてくれ、これはソ連にも中国にも輸出されておる、こういうことでありまして、私はたいへん面目を失墜いたしました。
外務省をお恨みするほど
精神的痛手を受けました。従いまして法規の遵守はしなければなりません。しかし法規の遵守のためには泣く子と地頭には勝てないということであ
つてはならないのであります。長いものには巻かれろと申しますけれ
ども、そういうことは民主
国民の道義としてはなりません。長いものは適当な長さにはさみで切
つて、整理整頓すべしというのが今日のPTAの教えでなくてはなりません。従いまして私
たちは遺憾ながら
訴訟を起しまして、
外務省当局を
被告として、海野晋吉弁護士、猪俣浩三氏とか、その他法曹界の権威と相談いたしまして、理非曲直を今明らかにしつつあるような次第であります。
そこでこの問題について、生命、財産の安全という意味は、われわれの命を守るという意味でございます。命を守るという意味で申しますならば、ただそれだけを抽象的に申しますと、たとえばヒマラヤ山に登るようなことはあなたのお説だと今後できなくな
つてしまう、北極探検に行くことはできなくな
つてしまう、それからどちらがあぶないかといえば、南
朝鮮に行くのは相当危険であります。ソ連のモスクワ経済
会議に参ろうとして――地球は円形でありますから、最短距離を通じて幸い
帰国いたしましたが、その途中で非常な御馳走になりまして、私の
病気も大分そこでなおりました。体重も一貫以上もふえましたけれ
ども、あぶないというだけからいえば、南
朝鮮の方があぶないでありましよう。従いましてこのような人身保護の
規定を、
政府が
国民に対して善意による手厚い保護の
規定を、政治
目的に悪用するというようなことは、私は心がけがよろしくないと思います。従いまして生命の安全という意味を、今日の
旅券法の
改正案においてどういう意味に解釈されているか、ひとつ念のためにもう一度承
つておきたいと存じます。