○
木村(忠)
政府委員 われわれが待望いたしておりました
中共地域からの
邦人の
引揚げにつきましては、昨年の十二月一日の
北京放送によりまして、これが実現の
可能性がありますることが明らかになりました。その後いろいろといきさつがございまして、御
承知の
通りに、先月の二十六日に
日本側の
代表団が
先方に参りまして、この
引揚げの
方法等につきましての具体的な
打合せをいたすことになりました。現在その
打合せを始めておるわけであります。従いまして、
政府当局といたしましては、これに対しまして、その
受入れの
援護がきわめて重要でありますることにかんがみまして、いろいろと
準備をいたしまして、
昭和二十八
年度の
予算並びに
昭和二十七
年度のこれに必要なるところの
経費の支出ということにつきまして、一応の計画ができましたので、御
説明することにいたしたいと思います。
前にも申し上げたのでございますが、従来の
引揚げと今回の
引揚げとにおきましては、相当
国内情勢におきましても相違いたしておりまするし、また
引揚者の現地におけるところの
状況におきましても相違がございますので、われわれといたしましては、従来よりも手厚い
受入れ態勢をとらなければならぬというふうに考えまして、
財政当局とも折衝いたしました結果、次に申し上げるようなことにいたすことと
なつたわけであります。お手元に「
中共地域引揚者受入援護等の大要」という資料を配付いたしてございますので、これによりまして御
説明いたしたいと思います。
まず、
受入れの第一といたしましては、
帰還輸送船内におけるところの
援護でございます。
帰還輸送船につきましては、前々から申し上げます
通りに、現在
舞鶴港に繋留してありまするところの
高砂丸をこれに充てる
予定であります。これで
不足の場合におきましては、他の船をさらに用いるということにいたしたいと考えております。これにつきましては、今回参つております者の
先方との
打合せによりまして、どういう
速度で向うから送出が行われるかということによりまして、これがきまるわけでありまして、これらにつきましても、
代表団との
打合せは十分についておりまするし、
代表団におきましても、その方面の
専門家が
工作員として行つておりまするので、その点につきましては遺憾のない
連絡があることと考えております。
帰還輸送船内の
援護といたしましては、
船内における
給養、
医療、それから
引揚指導というような問題がおもなものでありまして、この
給養につきましては、
船内の寝具の
準備、航海中の
食事につきまして、できるだけの
措置をいたしたいと考えております。
主食は一日六百グラム、カロリーといたしまして約三千カロリー、この
経費の単価は一日九十円十七銭で、現在
政府で行つておりまする
各種のほかの
施設よりは、はるかに高い程度の
給与ができるようにいたしてございます。
次に、
医療につきましては、
帰還輸送船には
医師一名以上、
看護婦若干名を乗船させまして、
引揚者の
応急医療対策といたしておるのでありまするが、
高砂丸につきましては、今考えておりますのは、
医師二名、
看護婦十名を乗船させるつもりでおります。なお、第一船につきましては、その
状況を見まするために、さらに五名を増しまして、第一船は十五名を乗せるようにして、その経験によりまして今後のことは考えて参りたいと思つております。と申しますのは、従来の
引揚げとは異なりまして、今回はことにソ連からの場合とは違いまして、
婦女子等が相当多数おりますので、これにつきましては万全の
措置を講じなければならぬというふうに考えておるわけであります。
次の
引揚指導と申しますことは、ここには「
引揚指導官若干名を乗船させ、
内地上陸後の諸
手続の
説明並びに
復員手続の一部を行わせる。」と書いてございますが、これは、こちらに帰つて参りまして、できるだけ早くそれぞれの故郷に帰るようにいたさなければなりませんので、その
仕事をすみやかに進めまするために、
各種の
手続につきましての
準備を船の中でいたしまするほか、各般の
国内の
情勢等につきましての
連絡をいたすというために、
援護庁の
職員を五名、
外務省の
職員を二名だけ乗船させる
予定でございます。なお、第一船につきましては、やはり先ほど申し上げましたように、いろいろとめんどうを見なければならぬ
事件がどの程度あるかということの見当もつきませんので、それよりも増員いたして、お世話をいたすようにいたしたいと思つております。
その次に書いてございます
帰国査証の点でございますが、
出入国管理令に基きます
帰国の
査証を、
引揚げて入国した
場所でしなければならぬのでございますが、これを
船内においてやる必要があるかどうかという点につきましては、現在
出入国管理庁におきまして
検討中であります。
船内におきましては、大体この
手続はしないようにした方がよいのではないか、帰りましてから簡単にできるのではないかというように考えております。これは目下まだ
検討中でございます。
次に、
舞鶴におきましては、現在
施設の整備をはかつておりまして、この前申しました
通りに、大体現在一日同時に二千五百名の
収容ができることに
なつております。やり方によりましては、もう少し入りますが、一応そのくらい入ることに
なつております。同時に多数の人が帰りますならばどうするか、現在の
状況をもちましては、あの
場所で大体これの二倍くらい
施設を拡張することができるようでございます。それにつきましての
準備もいたしておりまして、
先方からのこちらに対します送り出しの
速度等についての
連絡があり次第、これに対する必要なる
準備をしたいと思つております。
援護局の中で行われます
仕事は、まず検疫、それから
帰国の
査証、それから
税関の
検査、
身上相談、それから
引揚証明書の
交付、それから元軍人であ
つた者につきましては
復員の
業務、
帰国後における
援護物資の
交付、
応急援護金の
支給、
帰還手当の
支給、こういうようなことをいたしまして、その間におきますところの
給養もいたさなければなりません。また必要があります場合には、
応急医療を行うというのが大体のことであります。
税関検査につきましては、
国内に
持帰りが禁止されておりますもの、たとえば、阿片でありますとか、麻薬というようなもの、あるいは
偽造通貨、あるいは
公安風俗を害するような
物品は、
国内に入れることは禁止されておりますので、これらも
検査されます。その他の
物品につきましては、できる限り関税がかからないようにいたしたいというように考えまして、大体その方の
当局とは了解を得ておるのであります。ただ非常に非常識な商品とみなされるようなものを多数持つておられるような場合におきましては、いたしかたがないのでありますが、大体その人の使用されるものにつきましては、できるだけ税がかかるというようなことのないようにいたしたいと考えております。
それから、
援護局に滞在いたしまする
期間でございますが、これにつきましても、できるだけ短かい
期間で完了いたしたいと考えております。現在考えておりまするのは、三泊四日で全部済ましたいというように考えております。従来よりはその
日数を縮めまして、できるだけすみやかにおちつく先におちついていただくようにいたしていただきたいと思つております。ただ、ここにおきましていろいろな
手続をいたしておきませんと、帰りまして、いろいろまた
あとから不自由なことができることがございますので、それらの点につきまして遺憾のないように
措置をいたしまして、できるだけ短かい
期間に済ませるようにいたしたいと思います。
引揚地滞在期間における
給養につきましては、やはり一人一日
当り主食六・百グラムという先ほど申しました
給与をいたします。それから、ここにおります間におきまして、
留守宅にあてて一世帯一通の電報を
無料で取扱うようにいたしております。
身上相談につきましては、
引揚援護庁、
文部省、
労働省、
法務省、これらの各省におきまして、その
相談をいたすのでありまするが、
文部省におきましては
子弟の
教育の問題、
労働省におきましては
職業の問題、
法務省におきましては
戸籍関係の問題、これらの問題につきまして
相談に応ずるようにいたしたいと思います。その他のことにつきましては、ここでは扱わないようにいたしたいと考えております。
それから
引揚証明書の
交付、これは、帰りました
あとの
食糧の配給の問題でありますとか、あるいは
援護物資の
交付などの
手続等にも必要でございまして、おちつきましてから先の
各種の問題に関しまして、この
引揚証明書が必要でございますので、この
交付をいたしたいと思います。
それから
援護物資の
交付でございますが、ここにおきまして被服及び
日用品を
支給することに従来からいたしておりますが、現在こちらで持つておりまする
物資によりまして、できるだけ手厚い
支給をいたすようにいたしたいと考えまして、現在
手持ち物資の調査をいたしており、できるだけ早い機会にこの
基準をきめたいと思つておりまするが、われわれの気持といたしましては、従来よりは手厚くしたいと考えております。
応急援護金、これは、上陸いたしましてから
定着地へ帰りまするまでの
各種の
経費でございます。これにつきまして、
旅費あるいは
雑費として
支給いたすのでございまするが、
上陸地区から
定着地までの間の距離に応じまして、一人
当り、
おとなで千円から三千円までの間、
子供はその半額を
支給することにいたします。「
帰郷旅(雑)費」と書いてございますが、未
復員者と特別未
帰還者には
旅費として、その他の
邦人には
雑費として
支給する。これは
金額は同じでございます。ただ、
片方は
法律により、
片方は
法律によらない行政上の
措置によつてやるわけで、
内容は同じでございます。
次に、
帰還手当でございますが、これは従来いたしていなか
つたものでございます。今回の帰りました
方々が安心して国に帰ることができる、つまり帰りましてからただちに
生活に困窮することがないようにするためには、一応応急的な
生活その他のための資財といたしまして、若干の
資金が必要であろうと考えられますので、これについて今回新たに
帰還手当の制度を設けまして、
引揚者に対して、
おとなが一人
当り一万円、
子供が一人
当り五千円を
支給することにいたしたのでございます。この
帰還手当は、この
帰還手当と本人の
所持金を合せたものがこの
手当の倍額になるまでは
支給するということにいたしております。大体そのくらいのつもりでおります。従いまして、
持帰り金が一人
当り二万円以上に
なつている者につきましては、これは
支給されません。大体今のところはそういうようなことに
なつておるのであります。またこれは、純粋の
引揚者に
交付するようにいたしたいと考えて、現在のところそういう
話合いに
なつておるのであります。それから
持帰り金は、米ドルあるいは英ポンドの
現金、それらの
金額でできております
外国為替証書というものが
持帰りができるのでございます。その他のものでは、こちらで
現金になりません。これらの
現金を
日本金に引きかえますのは、
援護局内にその銀行が出ておりまして、できるようにいたすことに
なつております。それから、現在までのところでは、
中共では
持帰り金について何ら制限を加えていないように伺つております。
次に、
衛生関係でございまするが、
医療の問題は、病気によりまして、軽症の者は、
援護局内に病室がございますので、そこに
収容いたしまして、そこで
医療の
看護を加えまするし、重症の者は、
国立病院等に移しまして、そこで療養されるようにいたしたいと思つております。
次は、
援護局から郷里に帰るまでの
陸上輸送でございますが、この
陸上輸送につきましては、東
舞鶴駅から帰ります
場所までの
鉄道輸送に
無料の
乗車券を
交付いたします。これは
引揚援護庁でもつてその
乗車券の
費用を負担いたします。
引揚者の
輸送を
無料で行つておるのは従来の
通りであります。これは
携行品、
引揚げ荷物を含めまして、さようにいたしております。なお、この間におきまする
臨時列車の運転あるいは車両の貸切りと申しますか、こういうような
措置を講じることにつきまして、大体
国鉄当局とも
話合いが、幹線におきましてはできることに
なつております。ただ時期が時期でございますので、どうかと思いまするけれども、
国鉄といたしましては、できる限りの便宜をはかるというふうにいたしておりまして、大体われわれの見込みでは、それができるだろうと考えております。
それから、その途中の
食糧でございますが、従来は途中で、適当な
場所におきまする車中の
弁当を
支給いたしておりまして、そのほかに、
食糧の
不足を補う
措置として、
乾パンを
交付したのでありますが、現在
乾パンは適当ではございませんし、むしろ
弁当の質をよくする方がよいと考えまして、
弁当は質のいいものにいたし、従来よりも
主食の量を増加いたしまして、これを
交付することにいたしたのであります。これは、
ちようど食事の時間にあたる駅におきまして
支給するようにいたしております。
それか、
帰郷途中におきまする
車内の
事故等につきましては、
日赤が
車内の施療を担当いたします。また主要な駅におきましては、できる限り湯茶、
みそ汁等の接待をいたしたり、あるいは
休養所の設置をいたしたりして、これに対しまする
措置を遺憾なくいたしたいと考えております。
最後に、
帰郷いたしました
定着地におきまする
援護でございますが、今度の
引揚げの特殊な性質にかんがみまして、
引揚者の一時
収容所を特に整備いたしたいと考えておるのであります。
引揚者でありまして、全然
縁故者がなくて、ただちにおちつくところのないような方、適当な
住宅が得られるまで応急的に住居を必要とする人に対しまして、主要な
都市に一時
収容所を設置することにいたしまして、これにつきましては、本
年度及び
明年度の
予算でもつてこの
施設を整備いたしたいと考えております。新設の必要がありますものは新設いたしますし、また従来の
施設を転用する場合におきましては、これの
補修費用というようなものを見まして、大体主要な
都市全体にこれを設置いたしたいと考えております。
それから、先ほど申しましたように無
縁故者が非常に多いと考えられますので、これらに対しましては、できるならば一般の
公営住宅等に入つていただくことが最も望ましいのでございますけれども、いろいろな御
事情によりまして、特に帰られた当座はこちらの
状況になれませんために、
公営住宅等に入りにくいような
方々もあると思いますし、またそういうものが建てられないような
場所におちつく方もありますので、これらの
方々のために特別な
引揚者住宅を設置するようにいたしたいと考えております。これにつきましては、おおむね来
年度三千戸、本
年度四百六十戸を設置するようにいたしたいと考えております。これらにつきましては、その必要な
場所に設置するようにいたしたいと考えております。これをあらかじめつくつておきまして、そこに入らなければならぬというような強制がされないようにするために、実際に帰られました
事情に応じまして建てるようにいたしたいと考えております。ただ、
引揚者の
方々が多数入られるような
場所におきましては、本
年度内にできる限り建てるようにいたしたいと考えております。
次に、
引揚者で
厨房用品等のない者、これが手に入らない人に対しまするあつせん、あるいはこの
支給等につきましては、従来と同様な
措置を講じます。
それから
更生資金でございまするが、
更生資金は、今回一応国民金融公庫に二億円のわくを設けて、その
貸付を行うことにいたしております。これの
貸付の
基準等につきましては、従来よりは有利にいたしたいと考えまして、
目下金融公庫と折衝中でございます。大体従来よりはある程度有利になるというふうに考えております。
その他、
職業あつせんでありますとか、あるいは
引揚者の
子弟の
教育、あるいは
引揚者の
戸籍に関する問題、これらに対しましては、先ほど申し上げました
通りに、一応
舞鶴の
援護局でもつてこれらについての一応の大ざつぱな御
相談はいたしまするけれども、具体的な問題につきましては、やはり
定着地に参りまして
相談しなければなりません。これらにつきましては、それぞれ担当の
労働省、
文部省、
法務省におきまして、それらについての
準備をいたしておるようであります。これにつきましては、重ね重ね申しますような方針で、できるだけこれにつきまして遺憾のないようにするということで
準備いたしておるようでございます。
なお、今回の
引揚げにつきましては、国民全体が、この長らく外地で苦労されましたところの
引揚者の
方々を、あたたかい手でもつて迎えて、そうしてこちらの土地に完全に定着できるようにしなければならぬものであると考えておるのであります。そのために、従来やつておりまするところの
引揚げ援護愛の運動をさらに強力に展開いたしたいと考えまして、これにつきまして若干の
経費を見込みまして、各地方に対しまして、これを展開するようにいたしたいと考えております。
大体以上をもちまして
受入れの大綱を御
説明申し上げたわけであります。これらの
措置におきまして、まだこれでもつて十分であるとは決して申し上げられないのでありますが、従来の
援護に比べまして、さらに
内容を充実いたしまして、これらの
方々をお迎えするのに遺憾のないようにいたしたいと存じておる次第でございます。