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国務大臣(
吉武惠市君) 御尤もな御
質問でありますが、日本の今日の
労働基準法は、これは私立案をいたしましたのでよく了承しておりますが、率直に
言つて日本の国情から見るならば、やや高い
水準だと思います。というのはどういうわけかと申しますと、この立案の基礎はどこを以て立案したかというと、先ず従来の
国際条約に規定された原則を一応拾
つたのであります、立案の際に……。従いまして今まで各種の条約がございましたが、日本の国情に副わないからということで批准をしなか
つた問題がたくさんございましたが、終戦後においてやはり
労働条件というものは或る程度
国際的
水準に持
つて行かなきやならないという高い理想を以ちまして立案をいたしましたために、相当条約の原則というものを取入れ、だから率直に言うならば、私は高いという批判があるのは止むを得ないと思
つております。従
つて今日まで施行いたしましたこの
基準法に対する批判としては二つの意見がございます。
一つは
水準が高過ぎるという意見と、もう
一つは余りにも手続が煩瑣であるというこの二つが今日まで
基準法について言われた私は批判ではなかろうかと思
つておる。併し私はこの場合にこの
国際的な
水準が日本の今日の国情に比べてやや高くても、それは
一つの
国際的な
水準であるから、若し万難を排してそれが維持できるならば私はその原則は維持したいというのが私の信念であります。で、その点は中小企業としましては多少気の毒な点があるかも知れません。あるかも知れませんが、この
労働者保護における基本的な原則、例えば最低年齢であるとか、或いは深夜業の禁止であるとか、そういうふうな
労働法上最も人道的、或いは健康的から見て守らなければならんという
国際的な基本については、多少の無理があ
つても、私はこれを守り抜いて行くということが是非必要ではないかという感じを持
つております。ただ併しもう
一つの批判であるところの手続の煩瑣という点につきましては、これは私はできるだけこれを簡素化し、又国情に即して行くということが必要ではないか、又原則は変えないけれ
ども、個々の適用について
実情に副わぬ点は
実情に副わしめるということぐらいは私は必要ではないか、ただ
国際的にきめた、
国際的な事情の上に作られたこの条約をそのまま鵜呑みにして、日本の
基準法にして、これは一歩も変えられないんだというふうに窮屈にすることは却
つて法を守らなくなることでありますから、私は
国際的な基本の原則というものはどこまでも守
つて行くと、併し手続や個々の適用について国情に副うような改正はこれは止むを得んし、又やることにおいて却
つて法を維持するゆえんじやないか、こういう観点から今回の改正にも着手をいたしまして、この
基準審議会のほうへも私のほうからは案を示さなか
つたのであります。これは法制
審議会と同じでありまして、労使双方から意見が出れば結局日本の国情に副うた妥当な結論が出るだろうということで案を示さなか
つたのですができ上
つたものを見ますると、全く私が言
つたような
労働者保護上の基本的な原則というものはいじ
つていない。その実際の適用において日本の国情に副わない点の幾分かの改正或いは手続の簡素化というものを狙
つておる。でありますから私は今後のこの
労働基準法についての
考え方というものはそのつもりで行きたいと思
つております。
それから
イギリスやその他の国で日本に対して非常な危惧の念を持
つておられるような点は私
どもも拝聽いたしております。で、これは私率直に言いまして、日本の
労働組合が、まだ
政府がどういう案をどう持
つて行くかということを言わないうちから、即ち昨年の暮頃からどうも
政府は非常な改悪をするんだろうというふうな宣伝をし、或いは又
国際的にも働きかけられたんじやないかというような節も見えるのでありますが、そういうのが手伝
つて、我々がまだ案を
考えない先から、いわゆる
国際自由労連からもいろいろな抗議文が出る、紹介の手紙が来るという
状況でございます。これは私は非常に
国際的には面白くない点で、我々今回改正しましたこのくらいの改正案は
国際的に私は
説明をすれば、なにこんなことがというふうに恐らく了解を得ると私は確信をしておる。ただ
国際的に余りこの改悪するという宣伝のほうが行き渡
つただけで、誤解を招いているんじやないか、かように存じております。