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1952-06-11 第13回国会 参議院 労働委員会 第15号 公式Web版

  1. 会議録情報

    公聽会 ———————————————— 昭和二十七年六月十一日(水曜日)    午前十時三十九分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     中村 正雄君    理事            安井  謙君            波多野林一君            村尾 重雄君    委員            上原 正吉君            木村 守江君            九鬼紋十郎君            一松 政二君            早川 愼一君            菊川 孝夫君            重盛 壽治君            堀木 鎌三君            堀  眞琴君   国務大臣    労 働 大 臣    厚 生 大 臣 吉武 惠市君   事務局側    常任委員会專門    員       磯部  巖君    常任委員会專門    員       高戸義太郎君   公述人    中央労働委員会    会長      中山伊知郎君    和歌山大学教授 後藤  清君    東京大学助教授 磯田  進君    日本労働組合総    同盟総主事   菊川 忠雄君    日本炭鉱労働組    合副委員長   原   茂君    日本電気産業労    働組合中央執行    委員長     藤田  進君    国鉄労働組合企    画部長     横山 利秋君    全印刷庁労働組    合中央執行委員    長       横手 行雄君    日本都市交通労    働組合連合会政    治対策部長   中山  一君    全国自治団体労    働組合協議会中    央執行委員長  占部 秀男君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○労働関係調整法等の一部を改正する  法律案内閣提出衆議院送付) ○労働基準法の一部を改正する法律案  (内閣提出衆議院送付) ○地方公営企業労働関係法案内閣提  出、衆議院送付)   —————————————
  2. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 只今より委員会を開きます。  本日は付託されておりまする三つの労働関係法案につきましての公聽会を開催するわけでありますが、公述に入る前に報告いたしたいことがございます。それは去る日の委員会におきまして、総理大臣出席に対しましては委員長に一任されておつたわけでありますが、十三日午後総理大臣労働委員会出席するという通告がございました。従いまして今まで皆さんがたと協議いたしまして決定しておりました議事日程につきまして、それを変更いたしたいと思います。十三日の午前中人事地方行政との合同委員会をやりまして、午後は労働委員会單独委員会といたしまして、総理大臣出席を願つて質問する、そうして十三日の午前中で一応休憩いたしておりまする人事地方行政との連合委員会を十四日に開くということに議事日程を変更いたしますから、御了承願いたいと思います。  次に本日の公述人関係でありますが、これは先般打合せ会におきまして決定いたしましたうちで、と不参加のかたがありましたので、労農党推薦高野實君が事情がありまして出席できませんので、改めて労農党推薦原茂君においでを願うことになりましたから御了解を願います。  では、只今より関係法案につきましての公述人公述を聞くことにいたしますが、一応公述人のかたに御注意申上げておきたい点は、大体お一人の発言時間は二十分程度に願いたいと思います。公述人に対しまする質疑は全部の公述が済みましたあとでお願いすると、こういうことにいたしております。最後に、公述人発言につきましては、問題になつております点の範囲を逸脱しないようにお願いいたします。最初中山君にお願いいたします。
  3. 中山伊知郎

    公述人中山伊知郎君) 中央労働委員会会長中山伊知郎であります。  今般の労働関係の三法の改正案につきまして、最初に申上げたいことは、労働問題の取扱いというものは長い間の労使、或いは議会をも含めての一般努力の結果積上げられて来るものでありまして、従つて労働法規に関する改正はその基本的な歴史的な努力成果の上に重ねられて行かなければならないということであります。非常に当然のことでありますけれども、併し特に日本のように終戦直後の短い期間にいろいろな変化を経ました場合においてはこの点を特に考えまして、漸くでき上つて参りましたこの慣行、これは勿論不完全なものではありますけれども、併し五年間の、或いは六年間の努力の結果積上げられて来たところの成果でございますから、これを育成して行くという方向に進めることが適当でないかと思います。そのような前提の下にここではたくさんの問題の中の二つの点に集中して意見を申上げたいと思います。  第一の点は、緊急調整制度改正法の第三十五條の二、三、四、及び三十八條、四十條に亘る緊急調整の問題でございます。この緊急調整制度が生れました理由は、この法案によつて推察いたしまするところ、二つ目的があると思います。第一は争議調整という本来の目的、第二は或る事業についての、そして或る條件の下における争議行為禁止という問題と、この二つ要求が盛られておると思われます。公益事業に関する争議は国全体の問題として非常に重要な問題でありますから、この二つの点から現行法規の上に更に一歩進んだこのような規定を置くという趣旨は理解するに難くはないと思います。特に六年間のあの嵐の中を通過して参りました経験から申しますと、現行法規だけで果して若しあのような事態が生じた場合に、それを円滑に処理することができるかという点になりますと、緊急調整制度考えられました趣旨というものは我々にも理解ができるのであります。けれどもこの二つ目的に果して現在の調整制度が適当しているかということを考えますと、どうも残念ながらその目的を達することができないのではないかというふうに考えるのであります。  先ず第一に争議調整手段として考えますと、これは一方的な命令によつてストライキを先ずとめておいて、そうして仲労委なら仲労委にその調停をさせるという考え方でありますけれども、そのような枠の中で調整をして参りましても、果して十分に効果が挙がるかどうかは我々甚だ自信が持てないのであります。若しそのような趣旨を徹底的に考えて行きますならば、私はそのような緊急調整に代えて現行労働法規にございます任意仲裁制度、これは現行法の第三十條でありますが、任意仲裁制度をなお活用する余地があるのではないか、現行法規における任意仲裁と申しますのは、両当事者申請があつて初めて発動し得る規定なのでございますが、そしてそのような規定が発動された例はないのでありますけれども、併し若し本当に緊急調整というような必要に直面した場合におきましては、例えばこれは試案でございますが、仲労委の総会において両当事者任意仲裁申請することを勧告する、この勧告に応じて幸いに両当事者がその任意仲裁申請いたしますれば、三十條の規定によりまして、仲裁がここに成立することになる。仲裁になりますれば、それに両当事者が拘束されることになりますから、これは緊急調整というような調停よりも一歩進んだ一つ解決が期待されるわけであります。若し不幸にしてそのような三者構成から成るところの勧告が、これが両当事者のそれぞれによつて否定されたといたします。そのような場合には、これを拒否した責任組合なり或いは会社なり、その争いの当事者が社会に対して負うことになるのでありまして、これは法律ではございませんけれども、非常な大きな冒険になるわけであります。つまり労働委員会は御承知のように労使及び公益の三者構成会議体でありますので、その会議体においてそのような勧告が有効に行われた場合に、これを拒否するということは、これは当事者にとつて非常に重大な問題なのであります。果してそのような任意仲裁勧告するというような形で問題が解けるかどうかということは実際やつてみなければわからない問題でございましよう。けれども緊急調整制度の第一の眼目が国民経済的に非常に重要な争議に対して調整を進めて行く争議調整の本来の目的を進めるということにありますならば、その一歩手前で現行法規における任意仲裁のあの制度を活用する余地があるのではないか、このことを私はこれに代えて申上げたいと存じます。   第二の要点でありますストライキ禁止ということでございますが、これは改正法規定によりますれば、一つ行政処分として行われるわけでございます。ところが若し行政処分ということになりますれば、その範囲とか或いは責任者というものをもう少し明確に規定する必要があるのであつて、この規定において果して行政処分としてのストライキ禁止が有効にできるかどうかは、これはもう少しむずかしい問題になるのだろうと思います。要するに現状に照しまして緊急調整制度がその目的としておるところを果して十分に達成するかどうか疑わしい。そうしてこの現状という点につきましてここに一つの事実を御報告したいと思うのであります。それは現在までに中労委関係におきまして公益事業争議をどのように扱つているか、その実態がどうなつているかということであります。極めて簡單な統計でございますが、昭和二十四年四月から昭和二十七年三月まで取扱いましたところの公益事業関係争議は三十三件ございます。そのうち賃金が十七件、一時金が八件、退職手当が五件、協約が三件、大体賃金関係と御承知下されば結構だと思います。ところでこの三十三件の公益事業関係争議調整状況を見ますと、調停申請されましてから調停案が提示されるまでの時間が平均五一・六日がかつております。それから調停案が提示されてから両当事者回答がありますまでの期間が別に一九・二日でございます。これを合計しますというと、七〇・八日であります。ついでに申上げますというと、この調停申請から今度は争議解決までに至る時間は平均八一・八日となつております。このうち重要なのは、この七〇・八日なんでありますが、つまり調停申請がなされて調停案が示されて、それが受諾されるか拒否されるか、とにかく回答があるというところまでの七十日間には、この三十三件の公益事業争議においてストライキは一回も行われておりません。つまり事実上その期間はいわば一つの社会的な徳義心を以てストライキが行われていないというのが実情なのであります。勿論回答が拒否と出まして、そのあと妥結に至りますまでの間にはストライキはございます。けれどもこれはこの問題の外になりましよう。そこで仮に緊急調整制度を布いて五十日のクーリング・タイムを置きましても、それは或る意味において現在すでに行われているところの、而もそれよりも短かい期間の確認にしか過ぎないのではないか、このような意味におきまして現状に照して考えますと、特に緊急調整という制度を置いてこれを処理する必要は少いのではなかろうかと考えるのであります。尤も我々は終戰後の六年の経験を通じて労働争議状況が常軌を逸脱するような危險が全然ないとは考えられません。若し不幸にしてそのような場合というものを処理しなければならないとすれば、私は原則的にはこれは労働法規の外にある問題になる、このように考えます。若しあえてこれを労働法規の中に入れますならば、これは今日の法案以上の問題になるのでありますが、私は仲裁制度というのが本来あるべき姿であつて、決して緊急調整制度というような一つの中間的な制度であつてはならない、このように考えるのであります。将来の問題としてこのような治安的な意味を含めたものを労働法規の中に入れる必要があるかどうかということは、これは将来議論されるべき問題であると思いますが そのときに若し必要があると認定されましたならば、そのときにできる制度は恐らく緊急調整というような中途半端と申しますか、やや徹底を欠くところの方法ではなくて、仲裁制度であるべきだ、このように私は考えておるのであります。原案におきまして、このような制度なつたということにはいろいろ苦心の存するところがあるのだろうと思われます。それは現に労働者に設けられました審議会審議経過を見ても明瞭であり、その審議会には我々委員会委員も又その委員として参加しておるのでありますから、十分にそういう事情は我々にも理解できるのでありますけれども、併し今日の情勢の下においてこのような改正をいたしますことは、必ずしもその目的を津、するゆえんでないということを申上げなければならないのであります。  第二の点は、技術的な機関の統合或いは整備という問題でございますが、この点について非常に小さい問題がたくさんございますが、第一に申上げたいことは、現行制度の下において公企業、それから地方公営企業、それから一般民間企業、それぞれの調整機関、即ち調停委員会というようなものがみんな別々に設けられております。改正案におきましては、公企労法における国鉄、專売の両調停委員会は一本化ということになつておりますが、なおそのほかに公企体労働法に基いて中央地方調停委員会委員各九名という形ででき上つておる。そのほかにそれとは別に委員三名の仲裁委員会があり、地方公営企業労働関係地労委にこれが任されておる。一般民間企業については中労委地労委のほかに更に中央地方船員労働委員会がある。それが又別の運輸省任命委員を以て運営されておる。このような機構は非常に必要以上に重複しておるように思われますので、これはできるだけ労働委員会一本というような形に統一することが望ましいのではないか、それからもう一つそれに附加えて申しますと、公企体職員及び現業公務員労働関係というものは、これに団体交渉権が與えられたという事情から見てもわかりますように、もともと一般公益事業職員と余り違わない労働関係であるということが認められた結果なのであります。若しそうであるといたしますならば、その労働関係を取扱う機関はやはり労働委員会でやるというような一本のものにすることが望ましいと考えられます。更にこれを一歩進めて参りますというと、現在我我の持つております労働法規がいろいろな各種規定が別々のものになつておるものも、これもできれば将来は統一して行つたほうがいいのではないか、併しこれは余り将来のことになりますからこれ以上ここで申上げません。  それから小さい問題でありますけれども、労働委員会委員の何と申しますか、資格と申しますか、それも基だ不統一なのであります。例えば中央労働委員会委員一般職でございますが、地方労働委員会委員地方公務員法に基く特別職になつておる。それから公企体法その他の調停委員特別職に近い形になつている、完全な特別職ではございませんが、人事院法二つ規定を外すというような意味において特別職に非常に近い形になつておりまして、これも特殊の地位を持つている。こういう委員資格というものも非常に小さい問題のようでありますけれども、それに一々選任の手続とか、或いはもつと実際上の問題として、委員が何か実際上適当な人が得られないという事情考えますと、これを統一して、統一する方向は勿論特別職でございますが、特別職に統一して、そうしていい人を得られるような機構に改革することが必要であろうと存じます。その他機構の問題についてはまだいろいろ申上げたいことがございますが、例えば地方労働委員会に今度地方公益企業労働関係が任されますが、それに調停委員会仲裁委員会とがございます。ところが三名とか五名とかのそういう委員構成を持つております地労委におきまして、調停委員会仲裁委員会とを両者共に行う場合に果して小さな機構でできるのであろうか、調停でありますならば、例えば緊急調整の場合の調停とその前の調停と、調停委員会でありますれば、仮に同じ人がやりましてもこう不当ではないと思うのでありますが、調停仲裁ということになりますと、同じ人でそれをやることが果して適当であろうかというような問題が出て参ります。このようなことはなお小さい点に亘つてたくさんあるのでありますけれども、これを要約いたしまして、私は過去五年の或いは過去六カ年の経験を集約して申しますと、一年間の争議件数が大体二千件、これは大ざつぱな数で年によつて異同がございますが、大体二千件、そのうち労働委員会の門を正式にくぐつて処理されたところの件数がその半分の一千件、但しそれには労働委員会委員が個人的に、或いは事実的に関與したものを除いております。ですから丁度その半分を労働委員会において今日まで処理して参りました。その一つの体験から申しまして一言にして以上の公述を要約しますというと、現行制度運用によつて問題を解決して行く途が十分に残されているのではなかろうか、ただその運用という場合に、現行制度の上で非常に問題の的となつておりますクーリング・タイム利用の仕方、或いはクーリング・タイムの置き方というような問題についてはなお考慮の余地があると思いますけれども、併しそのような意味において、大体において現行制度をもう少し有効に使つて行く途を先ず以て考えるべきではなかろうかというのが私の結論でございます。
  4. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 時間の都合がありますので、中山君に対する質問は切離して直ちにやるようにいたしますので、御質問がありましたらお願いいたします。
  5. 堀木鎌三

    堀木鎌三君 現行仲裁制度任意仲裁ですか、これを活用するという考え方一つ考え方と思うのでありますが、この政府の提出しました法案趣旨考えて見ますと、一件々々の争議行為というものよりは成る程度同じような争議行為が他の同種事業と合わさつて同時に起るようなことを予想しておるのではないか、こう考えられておる。こういうときに比較的一件一件の仲裁制度というものを頭に入れた考え方で、果して政府考えておるようなことが、今御提案になつ仲裁制度で以てできるだろうか、その点のお考え一つ聞かして頂きたい、こう思うのです。
  6. 中山伊知郎

    公述人中山伊知郎君) お答えいたします。私の先ほど申上げました任意仲裁制度というのは、今御指摘になりましたように、主として行われるところは單独の争議について有効な手段であろうと存じます。従つて只今指摘されましたような各種産業における争議が同時に重複して起るというような場合について、その利用に限界があることは私は十分に認めざるを得ないと思います。まあ仮にそうでなくても個個の産業についても果して今まで一度も利用できなかつたものが、今後円滑に利用し得るかについては私も疑問を持つております。その点は確言いたしかねます。けれども若しそのような各種産業に同時的に重なつて起るような争議行為累積に対して打つべき手段考えますならば、又そのようなことが将来必要になりますれば、そのときに最も有効に働くものは、むしろ単純率直な強制仲裁制度であつて、そうしてこのような今までやつておりましたことをいわば法文化したに過ぎない法文化したに過ぎないというのは語弊がありますが、法文化したと思われるような緊急調整制度においては却つてその効果を期待しがたいのではないかと、このように考えます。
  7. 堀木鎌三

    堀木鎌三君 今のに関連して、実はこれは御承知通り法令審議会でもゼネストの問題がいろいろ審議対象になつてから、こういうふうになつて参つた経過的のものもございますが、私今のお話を承わつて聞くのは、場合によると、そういうここに書いてありますようなその規模が大きい場合とか何とかいうことがですね、量産の大きな規模を指しておるのか、その他いろいろ解釈のしようがあると思いますが、つまり労働争議の性質上必ずしも横の連絡があつてでなくて、時期的にそういうことはこれは非常にしばしば起ることではないか、そういう点を考えましたので、ゼネストとの関係でなしに、現在起つておる労働争議の時期的な関連性から、同種又は他の種の事業について同時に起ることが相当想像されるということを考えて御質問したのでありますが、その点から見ましてどうお考えになるか、もう一遍伺います。
  8. 中山伊知郎

    公述人中山伊知郎君) 只今主としてお答え申上げましたのは、同時的な争議累積というのを、一般に言われておりますゼネスト的なもの、そういうふうに理解してお答えしたのでありますが、若しそうでなくていろいろな事情によつていろいろな産業における争議がたまたま、或いは相当理由によつて客観的には偶然的に競合するというような場合でありますならば、任意仲裁制度の活用は十分にその目的を達し得るのではないかというように考えております。
  9. 村尾重雄

    村尾重雄君 只今時間の関係から触れられなかつた問題であろうと思うので一言伺いたい。中山さんのお考えを明確にしておきたい点が一つあるのであります。それは今の緊急調整の問題に触れられたときに、従来の斡旋或いは調停中の期間の問題に触れられたのでありますが、ここに第十八條に新たに二項を加えられた中の申請却下の問題と、それからその必要如何ということと、それから冷却期間の問題について御意見を伺いたいと思います。
  10. 中山伊知郎

    公述人中山伊知郎君) 只今の御質問のそういう点は一つ争議が十分に熟していないと考えられる場合に、その申請労働委員会において却下できるという規定がこの中にあるわけでありますが、それが妥当であるかどうかという問題、それから第二は、もう少し一般的にいろいろな点に関連して参りますクーリング・タイムというものについてこの規定が妥当であるかどうか、こういう二点であると存じます。この二つの点は、実は関連をしておるのでありまして、そもそも緊急調整というようなものが幾らか問題になりました端緒は、現在までの冷却期間というのが必ずしも冷却期間目的を達成していない、それは使用者の側においても、或いは特に労働組合の側においては争議権を獲得する手段、こう言い切るのは悪いでありましようけれども、併しそのような手段として利用されるという面も相当に見受けられたのであります。これは組合だけが悪いというわけではありません。具体的な例を一つ挙げますというと、例えば電産の場合に、電気事業の経営はいろいろな意味において政府に縛られておるのであります。公益事業委員会の決定がなければ料金の改正もできない。それから賃金その他についても一つ経理内容としてこれを常に報告し、監督を受けている。このようなことで、組合の側か似例えば賃上げ要求がありました場合に、それに対して自主的に解決をすることができない。そうなりますというと、自然交渉は数回でお互いに決裂状態を認めざるを得ない、こうなりますので、殆んど交渉が実質的に持たれないで、そのまま争議状態が始まるというようなこと、或いは少くともそれですぐに調停申請しなければならないという事態が起るのであります。これは組合だけの罪ではありますまい。併し、公益事業については主としてそのような事情もあり、その他にクーリング・タイムが十分に利用されない理由もあつて、今日までの実績は甚だ客観的には十分でないと認めざるを得ないのであります。そのようなことから、若し調停申請があつても十分に交渉が熟していない、即ち争議状態が十分に発生していると認められないというような場合には、これを却下することができるというような規定が置かれたものと思います。そのような規定の精神は私も十分に了解できるので、我々の例ではそういう場合はただ一つ、三年くらい前の電産の賃金の問題につきまして、四月に中央で協定が成立した、ところがその同じ四月に地方の電産の支部からそれぞれ個別的な賃上げ要求が提出された、それは少し困るのではないか、中央に集約するか、或いは時期を見てこれを行うべきであると言つて却下したことがございます。この件一つだけが実際の例でありますけれども、その他の場合についてはまだそのような却下の例を持つておりませんが、現行制度の下においても必ずしもそういう規定を置かなくても、我々は事実上かような措置ができ得ると考えております。従つて、クーリング・ペリオドの現在不完全という点を認めまして、そうしてそのような規定が置かれましたならばということでありますならば、その趣旨は了解するにかたくないのでありますが、果してそのような形が必要があるかどうかという点には疑問を持つております。それからクーリング・ペリオドそのものにつきましては、三十日とか五十日とかいうような期限の長短よりも、私は実際に冷却期関というものが本当の意味にお互いに冷静に考える時間として利用されるような、そのような規定というものは。やはり必要なんじやなかろうか、このように考えております。
  11. 中村正雄

    委員長中村正雄君) ほかに……なければ続いて後藤君にお願いいたします。
  12. 後藤清

    公述人(後藤清君) 時間が限られておることでございますから、私は今度の労働法改正のうち、最も焦点となつておる緊急調整並びに公益事業における争議に関する労調の規定改正の点、その二点を中心として私の意見を申上げたい、こういうふうに思います。併し、その前に一般的な考え方として私の平素考えておることを申上げてみたいことは、元来日本労働組合というものは、單なる経済的な地位の向上ということよりも、更に附加えて、日本民主化に役立つ一つの要素たらしめよう、こういうところに意義があるわけでありまして、このことは現に今度の労働法改正法の提案理由の説明の中にも、労働立法というものは我が国の民主化の促進、強化に貢献したことは至大であるということを先ず述べまして、今回占領が終結し、国民待望の独立を迎えたる後におきましても、かかる労働法の基本原則は労働行政の根幹としてこれ身堅持すべきものであることは申すまでもない、こういうふうに言つておられるので、あります。従つてこの点は当局においても認識せられておる点でありますが、殊に私がこのことを申上げておきたい点は、ここに回顧したいのは大正十五年頃の情勢であります。大正十五年は第五十一議会でありましたか、その議会においては、比較的進歩的と言われた内務省社会局の労働組合法原案というものは影をひそめて、全く取締法と化した労働組合法案が提案されておる。然るにそれすらも闇に葬むられて、その代り與えられたものは暴力行為処罰に関する法律であります。なおその前年には、その後社会運動に対して大きな圧迫となつたところの治安維持法が制定されておる。こういうふうに大正十五年を境として、我が国の自主的労働運動に対する弾圧的な法令というものが完備したのであります。その後に起つたものは、軍事機構の再編成並びにそれに基いたところの我が国のフアツシズムの前進ということである。つまりこういう場合に、そういうフアツシズムの前進に対して最も抵抗すべき自主的な労働運動というものの根幹である労働組合並びにそれを守るべきところの労働法がなかつたということが、我が国を悲惨な運命に陷れた一つの原因じやないか、こういうふうに私は考える。今日講和後におきまして、かくのごとき情勢によつて再び我が国にも或いは再軍備とか、いろいろそういうようなことが問題になつておる。それを契機として或いは我が国に再びフアツシズムの波が起らないとは限らない。この点から考えて、私はかりそめにも労働者の基本権である団結権、或いは団体交渉権、或いは争議行為権を制限するがごとき傾向を持つところの立法というものは、よほどこれは愼重に考える必要があるのではないか、こういうことを先ず申上げておきたいのであります。  さて、内容について、先ほど申しましたように、緊急調整の点から申上げますが、大体私たち法律学をやつておる者の立場から見まして、新たなる制度を作り、或いは新たなるそこに犯罪というものについて規定を設ける場合に、そこには又新たなる特別の法律要件というものが必要とされるわけなんです。そこでこの点から考えますならば、今回の緊急調整に関する規定を通覧して率直に私の感得した点は、従来の公益事業における職権調停、あの制度と比べて、特別に緊急調整を設けねばならんというようなことを明らかにした法律要件が改正法の第三十五條の二の第一項には特に現われていないのです。ということは、三十五條の二の第一項は、その規定としましては、「労働大臣は、公益事業に関する労働争議又はその規模が大きいため若しくは特別の性質の事業に関するものであるために公益に著しい障害を及ぼす労働争議につき、」と言つているのですが、この読みました点までは、現在の職権調停に関する現行労調法第十八條の第五号と殆んどこれは同じ言葉をそこに挙げております。念のために現行労調法の第十八條の第五号を読んでみますと、「公益事業に関する事件又はその事件が規模が大きいため若しくは特別の性質の事業に関するものであるため公益に著しい障害を及ぼす事件につき、」とこうなつておる。今度の改正法緊急調整に関する第三十五條の二の第一項は、ただそれに、「これを放置することにより国民生活に重大な損害を與へると認めたときは、」とこういうものがくつついているわけです。併し私の見るところでは、これは取立てて新たなる要件をそこに挙げたものとは考えられない。ということは、現行労調法第十八條第五号の先ほど読みました言葉にあるところのいわゆる「公益に著しい障害を及ぼす事件につき、」或いは今度の三十五條の二の第一項の前半分の終りの文句の、同じく「公益に著しい障害を及ぼす労働争議」、この今読みました言葉に言われるところの「公益に著しい障害を及ぼす」と、これはですね、結局その労働争議を放置するから公益に著しい障害を及ぼすわけなんです。このことは、私は現行労調法の公益事業の追加指定に関する第八條第二項の言葉によつてこれを証明できるわけなんです。非常に法律の條文ばかり持出して煩わしうございますが、現行労調法第八條第二項には、「内閣総理大臣は、前項の事業の外、国会の承認を経て、業務の停廃が国民経済を著しく阻害し、又は公衆の日常生活を著しく危くする」とこう言つているわけです。つまり「業務の停廃が」ということをそこに特に指定しているわけなんです。このような点から考えますと、先ほど私が指摘しましたように、緊急調整の労働大臣の決定のなされる前提としての要件というものは、従来公益事業に関する職権調停について現行労調法第十八條五号が言つているところと大きな変りはないわけであつて、従つて先ずこの点から見ましても、現行公益事業に関する職権調停以外に、特にかかる緊急調整というものが必要とされる理由は見出し得ないと私は考えるわけなんです。  次に、こういう点は暫く別としまして、今回新たに作られて来ているところの緊急調整に関する規定について私の意見を申述べますならば、先ず私が指摘したい点は、そこに言つているところの緊急調整という言葉が、調整という言葉を裏切つて、その実質は争議行為権の剥脱になる、こういうような虜れが多分に窺えるわけなんです。ということはですね。一方において改正法案によりますというと、第三十八條によりまして緊急調整決定の公表の日から五十日間は争議行為禁止している。ところが他方において三十五條の三はです。その間、中労委が斡旋或いは調停すべきものであると、かくのごとく定めているわけでありますが、このような規定の仕方はですね、先ほど中山中労委会長も指摘されましたように、冷却期間に関する現在までの労働委員会経験というものを全く無視しているわけです。即ちたびたび末弘博士或いはその他実際に労働委員会の運営に当られたかたから指摘されておりますように、現在の冷却期間制度が何故にその効果を挙げないかということは、争議行為権が現実に発生するまでは、使用者が本腰を入れて団体交渉に乗つて来ない。だからこの冷却期間というものは、ただ徒らに争議解決を遷延するだけの効果しか挙げていない。それなればですね。ただ今度のこの五十日というところの冷却期間というものは従来三十日であつた争議の遷延の日を更に二十日延ばしたことになる。これは労働者にとつては非常に大きな痛手である。実質はこれは争議行為権の剥奪に等しい。全くこれは名前は調整であつても、実質はこれと違うことなんであります。とかく日本におきましては言葉の魔術が行われまして、占領軍と言わずして進駐軍と言い、或いは終戦という言葉を以て敗戰をごまかしていると同じようなものがここに私は感じられるわけであります。  第二点は、改正案の三十五條の二の第一項に言つているところの緊急調整の決定権、これの発動というものは全く労働大臣一個の認定にかかつてつて、その前にこれをコントロールするような、或いはそのほかこれを適当に調整するような何らの手続というものが加えられていない。これは私は恐るべき官僚統制、独善的官僚統制と考えられる。後に指摘しますように、この緊急調整制度というものは、多分にアメリカのタフト・ハートレー法の全国緊急事態手続の規定というものを参照したと思われますが、私はここに指摘したいことはです。とかく日本においては外国の制度を参照する場合に、その中においてとるべき民主的傾向助長の要素というものをわざと残して、ただ官僚統制に都合のいいものだけを取上げようとする傾向がある。我々が戰時中を振返つて見まするならば、戰時中の労務の統制というものは、多分に当時のナチスの労働法をまねたわけでありますが、併しそのときになお、ナチスといえどもさすがに数十年の労働運動の歴史を持つている国だけあつて、やはり底には民主的なものを残しておつた。余り細かく亘りますというと専門的になりまするので控えておきますが、例えばナチスの当時の労働法の根幹法であつた国民労働秩序法に信任者協議会というものがあります。この信任者協議会の委員のメンバーの人選手続において、或いはその信任者協議会にかけるべき事項において、非常に我が国と違つたものを持つておる。ところが日本においてはそういうような要素は取り去られて、全く独裁的な官僚統制的なものと化したものが当時の諸法令並びに我が国の三法論であります。この緊急調整の決定権の発動に当つて、何らの制約も條件もない。現在の労調法の第八條の二項によりますところの公益事業の追加指定においては、やはりそこには国会の承認というものが置かれている。或いはかかる調整を必要とするような緊急事能の場合においては、そのような国会承認を得るようないとまがないと反駁せられるかも知れませんが、それにしてもやはりダフト・ハートレー法は後に挙げますような慎重な手続をきめておる。従つて私はそこには中労委意見を聞くとか何とかするのが望ましいのではないか、緊急調整の決定は労働大臣が勝手にやつて、それからあとの始末は中労委がやれ、これは余りに独善的じやないか、こういうようなことが考えられる。  第三番目にタフト・ハートレー法との比較でありますが、先ずタフト・ハートレー法の第二百六條以下の全国緊急事態手続の規定において指摘したいことは、我が国のような單に公益事業の必要だとか、或いは国民の日常生活を危ぶくするとかいう、そういう漠然たる要件の掲げ方ではなくして、相当に言葉の用い方その他においてその要件を嚴格に挙げていることであります。即ちタフト・ハートレー法におきましては、全産業又はその実質的部分に影響を及ぼすストライキ又はロツク・アウトが発生する慮れあり、又は発生していてそのまま放置するときは、全国民の健康又は安全を危殆ならしめるときと、こういつておる。そこには明らかに健康又は安全ともつと具体的なものを示している。日本のようにただ公共の福祉だとか、或いは公益上の必要だとか、或いは国民の日常生活を危殆ならしめるとか、そういう漠然たる書き方をしない。これが私の指摘したい第一点であります。  第二点は、かかる全国緊急事態手続が行われます場合、大統領がその決定をなさない。即ち大統領は先ず実情調査委員会を任命して、その実情を調査せしめた後、その報告書を受取つてから、必要あると認めたときは検事総長に命じて連邦裁判所に争議行為の差止め命令を請求させる。そうして争議行為差止め命令を出すのは連邦裁判所である。こうなつておる。つまりそこに見逃がしてならないことは、先ず実情を調査した上でこの全国緊急事態手続の必要ありや否やを考える。なおそれのみならず、争議行為差止め命令をするものは裁判所である。この点最近アメリカの鉄鋼争議において御承知のように、アメリカの連邦裁判所は、国民の自由或いはその他基本権を守るためには、あえて大統領の措置を憲法違反であるというような判決をしている。この点から考えて、我が国の今度の緊急調整の決定というものが全く労働大臣一個の考えに委されておる。そうして又その決定をなすものがその労働大臣自身であるという点は、私は相当にこれは反省されて然るべきでないか、かくのごとく考えるわけであります。  時間の関係上、次に公益事業に関する調停について申します。先ず現行冷却期間というものが、従来の労働委員会の経過から見て、その所期の効果を挙げていないということは先ほど私が指摘した通りでありますが、その次に問題になる点は、改正法案の第十八條第二項に、事件の自主的な解決のための努力が不十分であるときにおいては、申請却下をなし得るとしてある、この点であります。私はこの規定は、余り設けられたところで実際には適用されないであろう、こういうことを予測するわけなんです。その根拠は、現行労調法の第四條の末尾に、労働関係当事者が自主的な解決努力をする責務を免ずるものではない、こういう規定がある。この規定について、末弘博士がこの労調法ができましてからいち早く書かれました労働関係調整法解読という本の中で、今私が引用しました規定関連して、この規定というものは飽くまでも当事者が自主的解決努力をするということを打出している。そうであるからには、例えば公益事業について調停申請があつた場合でも、なお当事者の自集約解決努力が不十分であると見た場合においては、労働委員会はその調停申請却下できるものと解すべきである、こう述べているのです。だから今度新たに加えられようとするところの第十八條二項のその内容は、みずから労働委員会調停に当られ、幾多の経験を持つておられる末弘博士自身が現行労調法第四條の解釈としてもなお可能なりとせられている。可能なりとしながら、この中労委員会長であつた末弘博士が何故これを用いられなかつたか。殆んどこれを用いられなかつたということは、結局現在の冷却期間というものが徒らに争議解決を遷延せしむるだけであるならば、真に争議解決を願うならば、やはり早く争議行為権を持たしたらよかろう、こういう考えに出ているのではなかろうか。恐らく従来がそういう線であつたならば、労働委員会の根本の運営も大きな変更はありますまい。従つて私はこの規定というものは設けられましても、何らそれは活用されることはないであろうということを予測しておきたい。そこで私の考え方を申述べさして頂きますならば、私は現在の冷却期間というものが殆んどこれは効果を挙げていないということに鑑みて、もつと私は立場を変えて、日本労働争議解決というものは、社会の輿論の審判というものを、それを盛り立てて、争議解決に間接ながらこれに力を與えさせる、こういうところに持つて行くべきではないかと思うのです。例えば現行労調法によりましても、冷却期間三十日経過してから争議行為権が発生しますならば、いつ何どき争議行為に訴えるとも自由であるべきはずでありますが、例えばれ鉄関係争議において見ますごとく、絶えずそのたびごとにやはり事前に予告している。このことは現在の労働組合みずから輿論の支持なくしては争議の終局的な解決というものは望まれないということを相当認識しているゆえんではないかと私は思う。そこでこの線を盛り立てまして、争議解決というものについては輿論の審判に任せる。そこで具体的な手続としまして、私は予告か何かは不必要である。むしろ実情調査という期間を設けて、その実情調査の或る期間のうちですべての争議の実情を世間にさらけ出して、然る後そこに争議行為をやらせる。この意味におきまして、先ず争議行為をなすであろうという通告をさせる。現在の労調法第九條、は争議行為が発生してからの通告でありますが、公益事業につきましては事前に通告する。そうして或る期間、成るべく短い期間に実情を調査し、その実情の結果を公表すると、その上で争議行為をやらせる、かくのごときあり方が一つの方法でないか、こう考えるわけであります。  時間が限られておりますので、この辺にしたいと思います。
  13. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 続いて磯田君にお願いします。
  14. 磯田進

    公述人(磯田進君) 東京大学の磯田でございます。許された時間が非常に少なうございますので、主として労調法の改正に関する部分に問題を限定するほかないように思います。あとで時間が残りましたならば、そのほかの法律関係の問題点に触れたいと思います。労調法の中の改正関係する部分が今回の一連の労働法改正の中の最も中心的な問題を多く含む部分であると、そういうふうに考えるからであります。  労調法改正の中の問題点としては、主として三つの点、一つ公益事業における調停申請をどう扱うかという点、それからもう一つはいわゆる緊急調整の点と、それから第三に労調法違反の争議行為に対する罰則の点と、大体この三つの問題について意見を申上げたいと思います。  第一の問題、公益事業における調停申請を、いわゆる事件の自主的な解決のための努力が著しく不十分であると認めたときは却下することができる、この規定でございます。第十八條第二項となることを予定されておる、この規定でありますが、これについては私は三つの点から適当でないと考えます。  第一の点は、この改正案趣旨は、団体交渉を煮詰めて持つて来いという意味だと説明されておりますが、ところが団体交渉を煮詰めて行くということは、これはつまり労使双方の気合いによることであり、その労使双方がいわゆる相撲で言えば立つ気が熟すると、こうなつて来ることの背景には、労使双方の努力交渉を妥結に導かなければならん、少々の犠牲を払つても導くべきであるという、そういう切迫した必要性がなければならないわけであります。ところが実情を見ますと、只今の後藤先生の証言にもありましたけれども、使用者側といたしましては、労働組合側が争議権をいよいよ現実に獲得するという段階に至るまでは交渉を妥結に導くべき切迫した必要というものを感じないのでありまして、それは事柄の性質上当然であろうと思います。そういたしますと、労働組合側は争議権を獲得し得るためには、調停申請を受理してもらうためには、煮詰めて行かなければならんということでありますが、こちらの側だけで煮詰めて行く努力をしなければならんということになる、悪い場合はですね。そういうことが考えられる。ところが団体交渉というものは、性質上労働組合側だけで以て煮詰めて行くということは、これは実に不可能なことであると、そう考えられます。例えば組合側が一万五千円という要求を出しております。これに対して使用者側は一万円という主張をいたしまして、その間非常に隔つておる、そのままの状態で労働委員会調停申請したのでは、まだ煮詰つていないからということでこれを却下するということが考えられるわけでありますけれども、併し使用者側としては、一万円なら一万円という線を一歩も譲らないという態勢を持しておれば、ストライキされないという点では有利だということになり、従つて使用者側としては一万円を一万一千円、一万二千円という、いわゆる次第に煮詰めて行くという、そういう努力はむしろ払わないほうが有利だということになるはずです。その場合に使用者側がそういつた態勢に出ておるのに、労働組合の側が二万五千円を一万四千円とか、一万三千円ではどうかという、そこまでの讓歩を持出して行くということを要求することは、これはフエアーでないと、公正でないと、そう考えられます。そういう理由で、こういう規定を置くことは労働組合側にとつて酷である場合が多いだろうと、そう考えられるわけであります。  それから又別の観点からいたしますと、交渉を煮詰めて行くために何らかの形の実力行使が行われる、その場合の実力行使は法の建前からいたしますと好ましくないと考えておるところのものでありますが、まあ違法のストライキと行かないまでも、ストライキに類似した形の使用者側に圧力をかける、いわゆる何らかの形で実力行使か行われる、そういう形で、冷却期間が設けられておるのに、それが事実上曲げられて行くような形になる。そういつた事態も、そういつた可能性が予想されるのであつて、そうなればこれは全く逆効果になるだろうと考えられます。以上が第一点であります。  第二点は、こういう規定によりますと、労働者争議権を與えるか否かが労働委員会の裁量にかかることになります。然るに労働委員会は職権委嘱で任命されるのであつて、そのこと自体の可否、法律上の見地から言つていいか悪いかということはこの際一応問題外といたします。現在の改正法の前提になつておるところの職権委嘱の制度はそのまま続けるということを建前として申上げるのであります。そういたしますと、結局事態はこういうことになるわけであります。時の行政権力が自分の好むところに従つて任命して行く、そのような機関の裁量によつて争議権というものが或いは與えられ、或いは與えられない、こういうことになると、こういう事態は、これは争議権を基本的人権として担えて、そういうものを保障しておりますところの日本憲法の建前とは相容れないと考えられます。憲法二十八條で、労働者争議権を保障すると言つておるが、保障するという以上は、国民に保障された或る権利の行使について、時の政治権力が何らかの意味においてそれを左右し得るような、そういう成る種の裁量にかからしめられる。つまりそういつた時の政治権力の息がかかつた、何らかの意味で息がかかつた裁量を待つて初めて或る権利が行使できる、場合によればできなくなるという、そういつたことは憲法における人権の保障というものの根本的な趣旨と相容れない。そのようなことは許されない、そう考えます。それが第二点であります。  それから第三点、労働委員会をサービス機関であるべきだと一般にされておるのでありますが、そのことは労調法の第一條を見ましても、はつきりそう謳われております。然るに労働委員会の裁量によつてストライキ権を與えたり、或いは拒んだりできるということになりますと、サービス機関であるよりは、むしろ取締機関の感をえさ呈するということになるわけであります。と申しますのは、労働委員会の認可をもらわなければストライキができない。事実上そういつた形になるわけでありまして、そこで或る行政機関の認可をもらわなければストライキができないというような事態は、これは憲法の建前と相反しておるということが先ほど申しました第二点でありますが、今の第三点で申上げたいと思うのは、ストライキの認可を與えたり、拒んだりするというそのことは労働委員会のあるべき姿でない。それが第三点として申上げたいことであります。  以上、要するに第十八條に第二項を加えようとする改正案は、憲法の建前から申しましても、又立法政策の見地からいつても、極めて不当な規定であつて、これは削除すべきであろう。そう考える次第であります。現行労調法の第十八條の第三号を以て十分足りる。ことさらにかような改正を行う必要はないというのが次の意見であります。第十八條第三号には、公益事業に関して関係当事者の一方から労働委員会に対して調停申請がなされた場合には、労働委員会調停を行う必要があると決議いたしまして、その決議をした場合にはその日から、決議をすることによつて、つまり調停申請を受理することによつて三十日の冷却期間が走り始める。こういう点については、今後藤先生が触れられましたけれども、現在の労調法の解釈とすれば、労働委員会調停を行う必要があると判断するかどうかというその基準は、労調法第一條の精神によつて制約されて来るわけであつて、つまり労調法の第一條には、「この法律は、……労働関係の公正な調整を図り、労働争議を予防し、又は解決して、産業の平和を維持し、もつて経済の興隆に寄與することを目的とする。」こういうふうに謳つておる。そのために労働委員会調停を行うのですから、そのような目的に照らして、この場合の申請は受付ける必要があるかどうかということを労働委員会が判断するということで十分であると考えます。  以上が公益事業における調停申請却下についての規定、それに対する私の意見であります。  その次に、緊急調整の問題に関しましては、第一点としまして、この緊急調整の発動を許す要件が嚴格を欠いておる。そのために、このような規定を置くことは、労働者の基本権に対する極めて不当な侵害となるというふうに考えます。よく引合いに出されるタフト・ハートレー法を読んでみてさえも、この点は極めて顯著な違いを示しておるのでありまして、タフト・ハートレー法については、只今後藤教授から相当詳しい御意見の御開陳がございました。私は後藤先生とはここ暫らくお目にかかつていないし、この問題についても話合つたこともないのでありますけれども、タフト・ハートレー法と今回の緊急調整との比較の問題、どこがどんなふうに違つているという点については、はからずも殆んど考え方が一致しておるということを発見したのでありますが、恐らくはそのように見ることが日本労働法学者にとつての常識なのだろう、そう考える次第であります。ここで緊急調整の発動を許す要件という点で両方一応比べて見るということにいたしますと、二つの点で極めて顯著な差異があります。タフト・ハートレー法においては、二百八條で、労働争議の差止め命令を最初に下し得る場合の要件を規定しておるわけでありますが、要件は一応二つあると考えていいのでありまして、第一点は後藤教授の証言と重複することになりますけれども、第一点は、一つ産業の全部或いは大部分に関係があるストライキという要件であります。一つ産業の全部或いはサブスタンシヤル・パートと書いてございますから、大部分という意味であろうと考えられます。それが第一の点、規模における要件であります。それから第二の点は、そのストライキが起る、或いは続行するならば、ナシヨナル・ヘルス・オアー・セーフテイーという言葉が使つておりますが、国民の健康又は安全を危ぶからしめる、そういう場合である。このナシヨナルというのは、恐らく合衆国全体の規模において見たという考え方だろうと思います。各州ごと、一つの州内で或るストライキが起つて、そのためにその州の国民の健康或いは安全に害があるといつたような、そういつた地方的な性質を持つ場合は、差止め命令が発動し得ないのだ、そういう差違であろうと考えられるわけでありますが、そこでそういう意味にとつて仮に訳して見ますれば、全国的な規模において、国民の健康又は安全を危ぶからしめるようなストライキ、まあかような意味にとることができると考えられるのでありますが、それがタフト・ハートレー法における発動の要件の第二点であります。  そこでこれと今回の緊急調整の案文とを比べてみますと、二つの点どちらも違つておるわけでありまして、第一に地域的に申しまして、今回の緊急調整の案によりますと、地域的或いはそのストライキ規模の点における制限というものがきまつておりません。従つてよく言われることでありますけれども、北海道だけで炭鉱がストライキをやつたというような場合にも、この緊急調整が発動する可能性があり得るように考えられるのであつて、アメリカの場合とは非常に違つております。それから第二に、緊急調整における要件の縛り方は、国民生活に重大な損害を與えるといつたような、極めて漠然たる規定の仕方でありまして、これは全国的な規模において国民の健康又は安全を危からしめるといつたような、具体的な、タフト・ハートレー法における要件のきめ方とは違つておる、非常に著しい相違があると考えられます。で、緊急調整制度においてはさような漠然たる縛り方である結果として、国民生活に重大な損害というのでありますけれども、それが單なる経済的な意味における損害、或いは日常生活における不便といつたようなものを以てさえもストライキをチエツクすることができるという考え方になる危險性があるように思います。その二つの点において、緊急調整の発動を許す要件というものが、タフト・ハートレー法と比べても極めて労働者にとつて酷にできておるということであります。それが第一点。  それから第二点、緊急調整全体につきましての第二の問題といたしましてはストライキの差止権が單なる行政官庁に與えられておるという点であります。又タフト・ハートレー法と比べてみますと後藤教授が御指摘になりましたように、タフト・ハートレー法においては裁判所がその判断に基いて差止命令を出すのであり、で、この裁判に対しては控訴、上告も許されております。即ち三番の裁判を通してストライキ権に対するこういつた重大な制約を初めて発動をさせる、認めて行くわけでありまして、日本の場合のように一行政官庁が斬捨御免で差止めを行なつて行くということは本質的に違いがあるのであります。そこで行政権力がストライキをやらせるもやらせないも自分の胸三寸であるといつたような権限を握るということは、これは先ほど公益事業に関して申上げましたように、先ほどの第二点で申しましたように、憲法における争議権の保障ということと相容れないと考えるのであります。緊急調整の発動ということは、ストライキそのものの禁止ではありませんけれども、殆んど禁止に近い制限と考えなければなるまい、理論的にはですね、そう考えなければなるまいと考えるので、さように申すわけであります。タフト・ハートレー法と比較して申しましたけれども、タフト・ハートレー法と比較してさえも、発動の要件、それから差止め得る機関、こういう二つの点で重大な違いがあるということを申しました。さえもと申します意味は、アメリカでは憲法上労働者争議権の保障というものはないのでありまして、憲法上の保障のないアメリカの法制の下においてさえも、これだけの嚴格な要件の下に、且つ愼重な手続の下に司法機関をして初めて発動を許しておる。そういたしますと、アメリカと比べてストライキ権というものが憲法上の権利である、而もそれは人権の一つであるという、この人権であるという列にまで高められて、憲法で保障されておるそういつた日本の法制の下では、アメリカでこの程度だからそれでいいということさえも言えないのであつて、いわんやアメリカの程度に至らないところのこの争議権の保障の用意周到さという点、争議権がアメリカの場合に比べてさえもなお手軽に制限され、侵害されるような法制になるという点では、どうしても私どもはこれをジヤステイフアイすることができないと考えられます。それが第二の点であります。  それから緊急調整につきまして第三の問題点としましては、これは問題点という意味で申上げるのでありますが、労働省のほうではこの緊急調整規定労働関係法令審議委員会公益委員意見を取入れたといつたように言つておるようであります。私は参議院のほうの速記録はまだ入手いたしませんが、衆議院においてこの法案の提案説明の場合に吉武労働大臣は、この緊急調整の点は今申しました労働関係法令審議委員会公益委員意見を取入れたのでありますと、こういうふうに言つておられます。それから賀來労政局長は大むね公益委員意見によつたものでありますと、こういうふうに言つておられます。ところがこれは事実と反すると考えられるのでありまして、労働関係法令審議委員会公益委員意見というのは、公益委員の最終案、いわゆる吾妻試案第六次修正案と称せられておるようなこの最終案によりますと、いわゆる緊急調整におきましてはこのような言い方をいたしております。労働争議解決が困難であり、且つ放置すれば、国民生活に回復すべからざる損害を與える緊急且つ現実の危險がある場合には、内閣総理大臣の請求により中央労働委員会は、その決議によつて緊急調整を開始することができるものとする、右の決議には公益委員五名以上を含む過半数の委員の同意を必要とするというのが、これが公益委員意見であります。そういたしますと、ここに提案になつております緊急調整のこの法文と比べますと、まさに私が先ほど指摘いたしました二つの点において重大な違いがあるわけであります。即ち第一には、その緊急調整の発動を許す要件という点において、極めて顯著な違いがあると言わなければなりません。国民生活に回復すべからざる損害を與える緊急且つ現実の危險がある場合と、かように縛つておる点と、この法案のように漠然と国民生活に重大なる損害を與えると認めたときと、こういうのとは非常な偉いがあると言わなければならないと思うのであります。それから第二に誰が緊急調整を発動するかというその機関の点において違つております。中央労働委員会、而もそれが一般議事の場合と達つて、更に嚴格な要件を経て、中央労働委員会がきめたそういう場合でなければ発動できないというのが公益委員会意見でありまして、その二つの点において非常に大きな違いがあるということ、その点についてこれは問題点であろうと思いますので申上げたいと思います。  それから第四点、公益事業については、この緊急調整規定が設けられますと、公益事業一般において十五日という冷却期間があり、十五日プラス五十日と、こうなるのが可能であるというように考えられるのでありまして、公益事業以外の事業においては五十日間の争議差止ということが二回以上発動され得るということが予想されます。まあこれらの点は恐らくは法律がどうできておりましても、労働大臣にも政治的な責任と申しますか、考慮と申しますか、そういつたものが働くわけでありましようから、それほどむちやに緊急調整の伝家の宝刀を引拔くことはあるまいということは、一応予想されると思いますけれども、私たちは法律家といたしまして、最惡の場合を考え法律上の議論をするほかはないのでありまして、そのことは法律家としての責任であろうと考えますので、法律上五十日が二回以上に亘つて発動できないようになつておるかどうかということに着目するのでありますが、私がこの法案を読んだところでは、どうもこの点について緊急調整の一回限りということの明確な限定は、この法案の中には出て来ていないのではないかという気がいたします。更に破防法といつたようなものができるといたしますと、差止め期間内に破防法によつて組合活動に対する事実上の干渉でありますとか、抑圧でありますとか、或いは威嚇でありますとか、こういつたようなことが行われる可能性が予測されます。又それと並行して、組合に対しますつる切崩しが行われて行く、こういうふうに考えます。十五日、五十日、又更に五十日といつたような、こういつた争議差止めは、事実上ストライキの実行を極めて困難ならしめることになるだろう、そのことは憲法におけるストライキ権の保障、保障という言葉は非常に重みのある言葉なのでありますから、その憲法の建前とは余りに隔つて来ることになるであろうと考えられるのであります。それが第四点であります。  第五点といたしまして、労働法の精神乃至根本原理に著しく抵触しない範囲で、本法案の狙つておることをやろうとするならば、現行労調法の規定で十分足りると考えられます。公益事業については、第十八條第五号というのがありまして、労働大臣から調停の請求をするという途が開かれておるのでありますし、それから公益事業以外の事業につきましては、第八條第二項にこういう規定があることは御承知通りでございましよう。内閣総理大臣法案公益事業のほか、国会の承認を経て、業務の停廃が国民経済を著しく阻害し、又は公衆の日常生活を著しく危くする事業を、一年以内の期間を限り、公益事業として指定することができる。こういう規定があるのでありまして、あらかじめその虞れがあれば国会の承認を得て指定して置く、指定して置いて公益事業並みの取扱いをするということになれば、それで賄えるはずであろうと考えられます。先ほど公益事業については第十八條第五号があると申しましたが、この点は私の言い間違いでありまして、公益事業の場合、それからいわゆる公益に著しい障害を及ぼす事件といつたような場合にも、十八條第五号の適用が可能であるのであります。以上の第十八條第五号、それから第八條第二項、こういつた現行労調法の規定、この程度が憲法下において許される政府による労働争議関係への介入のぎりぎりの限度であろう。この程度であつてさえも、これが適憲であるかどうかということについては問題があり得るのでありまして、このくらいがぎりぎりだと考えらるのであつて、限度を越えて更に行政権力が介入して行くということは、これはぎりぎり一ぱいの限界を越えることになろうと考えられるのであります。  以上五点を挙げまして、この緊急調整制度を適当でないと考え理由を申上げたのでありますが、ここでちよつと附け加えまして、私はタフト・ハートレー法をしきりに引比べたのでありますけれども、これはタフト・ハートレー法が適当な法令であるという意味で申上げたのでは決してないのでありますから、私は理論的にタフト・ハートレー法のごとき争議権制約は適当でないと考えておりますのみならず、実際的にもタフト・ハートレー法を制定してみたけれども、実際上ストライキを円満に解決して行くために効果が挙らなかつたということは、一般に指摘されておるのであつて、タフト・ハートレー法に賛成する、これに見ならえという意味で申上げたのでは決してないということをお断わりしたいと思います。  それから、なお労働関係法令審議会公益委員案なるものも引合いに出しましたが、これも私個人として公益委員案に賛成するという趣旨で申上げたのではありませんから、お断わり申上げて置きたいと思います。結論として、緊急調整制度は不当であつて、削除すべきである。現行法通りで可であるというのが私の意見であります。  時間がなくなりましたので、労調法についてもう一点だけ簡單に申上げて終らして頂きたいと思いますが、それは罰則でありますが、第三十九條、第四十條というのは、労調法によつて禁止されるストライキ行為をやつたその人間が刑罰に処せられるという建前になつております。これは労働法の立場から考えますと、非常にひどい法令であると考えられるのであつて、例えば公労法、公共企業体労働関係法、この公労法によりますと、公共企業体については争議行為禁止されておるということは御承知通りでありますが、例えば国鉄において争議行為をやつたという場合に、これは公労法十八條規定によりまして、職員たる地位を失う、首にされても仕方がないというその限度であつて、それ以上ストライキをやつたから刑罰を科するということまでは行つておらないのであります。或いはタフト・ハートレー法で政府使用人、ガバメント・エンブロイイーについてストライキ禁止する規定がございます。第三百五條でございますが、このタフト・ハートレー法の政府使用人、公務員といつたようなもの、政府使用人の争議禁止にいたしましても、その争議禁止に違反したからと言つて刑罰に処するということは申しておりません。單にその地位を失う、又政府に対する請求権を失うという程度であります。それは日本憲法で申しますと、憲法十八條に、日本国民は犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられないという規定がございます。その意に反する苦役というのは、アメリカの憲法のインヴオランタリー・サーヴイチユード、不任意の労役という言葉で呼ばれております有名な規定でありますが、憲法十八條はまさにその精神であると考えられておるのでありますが、お前は働かなかつたから、ストライキをやつたから刑罰に処するということになると、これは憲法十八條禁止しておる不任意の労役、極端に言えば、人を強制して労役せしめるという、これに該当することであろうと思います。罰則の三十九條、四十條の立て方は著しく不適当である。單に不適当であるのみならず、憲法違反であると私は考えております。  以上労調法における三つの問題点について申上げる時間しかございませんでしたが、若しもあとでなお御質問でも頂きますときに、御質問がございましたら、ほかの組合法でありますとか、公労法でありますとかいつたような点についての私の意見を申上げたいと思います。
  15. 中村正雄

    委員長中村正雄君) それでは後藤君、磯田君と公述が終つたわけでありますが、これに対して御質問がありましたら……。
  16. 早川愼一

    ○早川愼一君 後藤さんにちよつとお伺いしたいのですが、先ほど事実調査ということを申されたのですが、この事実調査と緊急調整と実質的に勿論違いは多少わかつておりますが、結果の実質的な面で、例えば争議権の制限であるとか、そういう面でどこが違うか、一つお伺いしたい。
  17. 後藤清

    公述人(後藤清君) お答えいたします。私は結局緊急調整という制度は改めて設ける必要はないのであつて、現在の労調法第十八條にありますような公益事業或いはこれに類しますところの事業争議に関する調停のやり方というもので行くべきであると、こう考えております。と言いましても現行制度は、先ほど指摘いたしましたように冷却期間というものが全く働いていないということから、これには著しく改善の余地があると、こう考える。そこで私はとにかく争議行為を始めようとする場合には、事実調査委員会の活動を促すための前提要件として通告の義務があるようにしたい。そうしてその事実調査期間中は一応争議行為禁止する、その場合に言うところの事実調査とは争議の原因のみならず、例えば組合員の生計状態或いは会社側における経理状況、或いはその他融資の関係或いは将来の事業の発展の見通し、そういうものをできるだけ詳細に調べ上げた上でこれを公表したいと、こう考えております。ただ恐らく緊急調整においては、争議行為がとにかく五十日ということが制限されておるが、公益事業以外のものについては現行法によるとしても何ら争議行為は制限してないじやないかという御意見があるかも知れませんが、それについては現行労調法の第八條第二項によつて公益事業として指定する途がある。であるならば、これを公営事業と同じように争議行為権の制限という途も可能になる。とにかく事実調査というために必要な期間だけ争議行為権を制限する、そうしてその調査の結果は公表して、一般輿論というものの審判に任せるということは、非常にそれは危惧の念を持たれるかも知れませんが、併し日本における労働法の正しき発展の途は、そう請いうような輿論が審判するというか、こういうような状況をできるだけ作りあげるということに努力すべきじやないか、こういうふうに私は考える次第であります。
  18. 早川愼一

    ○早川愼一君 現在でも労調法の中に、例えばそれが非常に国民に影響を及ぼすというときには調停委員会事態の推移を公表するというような、ラジオ、新聞を以て公表するということが確か何か書いてあつたように思う。それからなお事案調査と緊急調整ですね、文字は違います、併しその間にやはり事実調査ということは当然併行して行われているのですね、事実調査なくして調停案も出なければ仲裁案も出ないというようなことから見まして、実質的にどこが違うということをちよつと疑問に思つたのでお伺いしたのです。
  19. 後藤清

    公述人(後藤清君) お答えいたします。現行労調法におきましても、成るほど調停案を作つたときにはこれを公表するというような制度がございますが、これはただ僅かに調停案というものだけの公表ということが法律の面においては要求されておるわけであります。深く原因或いはその他労使一切の事情をぶちまけて公表するという線は、ここに出ていないわけであります。この点について私は今申上げたような見解を持つておるわけであります。もう一つは何でございましたか。
  20. 早川愼一

    ○早川愼一君 緊急調整とか或いは調停とかいうことをやりましても、結局事実調査はやらなければ調停案も出なければ何にも出ない。
  21. 後藤清

    公述人(後藤清君) 今回の改正案においては成るほど労働大臣が緊急調整の決定をしたあとは、中労委のやるべき仕事として斡旋調停のみならず、そこには事実の調査ということは書かれておりますが、法律規定の仕方におきまして何々することができる式のやり方であります。又そこに言つておることについてはこれを公表するという、そういうような点がもう一つはつきり出ていなければならんという点を考えまして、私と多少意見が違うと思います。
  22. 早川愼一

    ○早川愼一君 もう一つ事実調査期間というものをどういうようにお考えですか、非常に短期間のようにお考えになつておるようですが。
  23. 後藤清

    公述人(後藤清君) 私は非常にそれはやり方によればいろいろございますが、併し事実調査に名をかりて、仮にも争議行為権の剥奪に等しい制限をするということは好ましくないと考えるのですね。そこは又私は何日というようなことについてはつきりした案を持ち合せませんが、私の希望するところは、できるだけそれは必要なる最短期間にとどめたい、こういうような考え方であるわけであります。
  24. 堀木鎌三

    堀木鎌三君 磯田教授に伺いたいのですが、あなたの御説によると中央労働委員会は、これは労働大臣が委嘱するのだ、だが中央労働委員会そのものが非常に官僚的な政治上の制約を受ける、これを職権委嘱だとおつしやるのですけれども、組合法の労働委員の選出方法については御承知通り労働者側が選定をする。それから使用者側は使用者側でやる、公益委員は労働大臣が勝手に委嘱することはできない、これは労使双方の同意を得て初めて労働大臣が委嘱する、これを以てしてもやはり職権委嘱だという観念でおありになるならば、どういう構成が一番正しい構成だと思つておられるのですか、その点はつきりさして頂きたいと思います。
  25. 磯田進

    公述人(磯田進君) 成るほど労働組合法第十九條第七項あたりを見ますと、労働者委員労働組合の推薦に基いて労働大臣が任命する、中労委の場合であればそうでございます。ところが法律では推薦に基いて任命すると書いてありますから、あたかも労働組合の推薦があればそれを文句なしに全部採用する、労働大臣はただ辞令を書くだけというふうに見えるのでありますけれども、併し労働組合法の施行令、それから実際に委嘱をいたしますときの手続としての労働省の通牒といつたもので、事実上労働組合をして推薦はさせますけれども、併し推薦というのは、例えば地労委であれば五人の労働者委員を必要とする場合に、推薦されて来る人の名前は百人も以上もの人が推薦されて来る、こういうふうにそういうことを可能ならしめる仕方にいたしまして、仮に百人名前をずらつと書かれて来た中から、地方の場合であれば県知事でありますが、中央の場合であれば労働大臣、これが自分はこれが適当、これが適当とこう考え、人間を引つこ拔けるような、そういうやり方に現在なつておるということは御承知通りだろうと思います。このことを通常職権委嘱というふうに申しておるわけでございますが、それから労働者委員そのものがそういつた行政権力の好むところに従つて選ばれて来る。勿論その選ばれるところの基礎にはどこの組合からも推薦して来ない、どこからも一通も書き出して来ないという場合には、それは選びようがないわけであります。けれどもどこかの組合で名前を書出して来た人間があれば、その中からこれは適当と、これは気に入つたと思う人間を引つこ拔けるという制度になつております。で労働者委員が同意をいたしまして公益委員を選定するということになるわけでありますが、労働者委員の選定そのものにそういつた行政権力の裁量権が入つておる以上は、それの同意を得て出て来るところの公益委員というものにも、理論的に言つて行政権力の好み、都合というものが反映しておると、そう考えなければならないと思うわけであります。先ほど私が職権委嘱というふうに申しましたのは、そういつた意味であります。  それから労働委員会の構成としてどういう選任の仕方をするのが適当かという御質問でございましたが、この点については、私は最初労働組合法施行の当初においてそうでありましたように、公正な方法で労働組合委員の数に応じた比例選挙といつたようなものをやりまして、それで多数をとつた者から、言い換ればその管轄内で労働組合員の多数の支持を受けておる者から順番に選んで行くという方法をとるのが適当であろうと、ほかにも例えば農地委員会の農地委員の選任といつたような場合にそういう例があるのでありまして、そのことは行政委員会の建前としてはあながち特異なことではないだろうと、そう考えております。それは一般的にそうでありまして、それから現在、併しながら職権委嘱という形が出て来ておるということを前提といたしますならば、そのような機関争議権を與えるか與えないかということの裁量を任かせる、結果においてそうなる、かような法制は妥当ではない、かように考えます。
  26. 堀木鎌三

    堀木鎌三君 実は私は無論選挙制によるということは一つの方法だと思うのです。併し私案は三年間中央労働委員をしておつたのですが、実は候補者の公益委員の問題がいつも問題になつた。労使双方がこれに同意をするということが困難だ。そして公益委員の場合に、大体七人出ているけれども、一人ぐらい余計出してくれないかというような問題はありましたが、それ以外は行政権の関與を受けたことがないのです。ですから私は実情からいうと、実際は磯田教授の言われるよりはよほど独立性があるのじやないか、そういうふうにまあ考えているから特に御質問申上げた次第なのです。  第二は、実は磯田教授でなくて後藤教授にお願いしたいのですが、あなたの御意見によると、これは労働大臣が勝手に認定するのだ、これは非常に欠点だ。タラト・ハートレー法から考えても、その認定権が一個の官僚に任されておる、こういうふうなことが非常に欠点だとされておるのですが、その場合に後藤教授のお話のうちにちよつとあつたかと思うのですが、中労委意見を聞くという條件を少くとも持つべきだ、こういうふうなお話があつたのですが、この中労委意見を聞くということを先ほど磯田教授も指摘されたように、公益委員意見としては出ているわけです。そういうふうな條件が付けば、或る程度認められるという趣旨か、それだけでは困るのだ、もつとほかのことについても條件がなくてはいけないのだ、こういうお考えなのかどうかということを一言お聞きしたい。
  27. 後藤清

    公述人(後藤清君) お答えします。私の考え方は先ほどの説明が不十分であつたので、そういうような誤解を起したのではないかと思いますが、私は緊急調整制度というものは、根本的にこれは必要でない。それに代えて現在の公益事業或いはそれに近いような争議についての職権調停への制度、私の申上げたような線において改正しながらとつて代るべきである、こういうことを考えておるのです。そこで私が先ほど中労委云々と申しましたが、仮に私のその意見が入れられなくて、改正案にあるところの緊急調整制度をお残しになるならば、その場合に少くともこの点は考えて頂きたい、こういうことで中労委云々ということを申上げた次第であります。
  28. 堀木鎌三

    堀木鎌三君 もう一つあなたの御議論のうちでお聞きしておきたいと思いますことは、例の第四條の関係で末弘博士の解釈を挙げられまして、そうしてこの第四條の関係から見て実際当事者の自主的な交渉が不十分だつた場合には、この四條の規定から裏面解釈ができる、こういうふうなお考えのようでありますが、実は確かに解釈としてはそういう解釈、末弘博士の感じておられたことは私は知つているのですが、と同時にその解釈からすぐに中央労働委員会にその権限があるということは、少しこの法律の解釈からは出て来ないのじやないかと私は思うのであります。つまり本来そういう義務が当事者双方にありますけれども、労働委員会として、これを却下するかどうかということについては、何らかの明文がなくてはいけないのではないか。実は私としては、中央労働委員会の政令で出ております規則のほうにそれに関連したものがある、公益事業に関しては坂下げを勧告することができるという規定があるのです。やはり何らかこういうようなよりどころがなくてはいけないのだと思いますが、その点についてのお考えはどうですか。
  29. 後藤清

    公述人(後藤清君) お答えいたします。私は今の点について成るほど現行労調法第四條においては中労委が多少……少くとも御質問された点においては疑問がある。そこでむしろ中労委規則のほうにやや明確な規定があるというような御説になつておりますが、お言葉を返すようでございますが、中労委規則というものは一応これは法律によつて規則制定権を中労委に與えられておりますが、恐らくその規則をお作りになるときの一つの母体たる根拠としては、少くともやはり労調法第四條のようなものが出ておるのじやないか、こういうことを私は想像するわけであります。ともかく私の申上げたことは非常に推測に亘る点が多分にあるかも知れませんが、あれほど末弘博士が自信を持つて書いておられる解釈、この解釈にかかわらず今朝中山会長公述におきましても僅か一つだけそういうことが行われたということは非常に……仮にその権限が裏付けられたとしても躊躇されておる、そういう点を考えて、新たに今度の十八條に設けることは余り意味がないということを申上げた次第でございます。
  30. 堀木鎌三

    堀木鎌三君 私はもうお聞きしませんが、この條文が中労委の規則でできて来たのが、やはり基くところが四條だ、実は中労委規則は私も関係したことがありますので、根拠がなければこういう規則はできない、それは無論そうだと思いますと同時に、あるからと言つて運用するのが労働問題の円滑な解決に資するかどうか、これは別個の問題だ、そういうように私は思つております。それだけを、私見でございますが……。
  31. 一松政二

    ○一松政二君 磯田助教授にちよつと一遍伺いたいのですが、いわゆる憲法第二十八條の罷業権を保障すると、同盟罷業をやる場合には、その限りにおいてはかなり迷惑する人が、たとえ小なりといえどもあるかも知れない、大きければ大きいほどある、これは常識なんで、これがこれを保障しているという観点から、非常に先ほどの御議論ではこれをかなり基本的人権として尊重するというか、まあ絶対視されるような御議論のように伺つたんですが、これと憲法十二條ですか、いわゆる公共の福祉と私権との関係、公共の福祉に反せざる限りという枠が入つておる、これと罷業を保障しておるという、ここの関係について憲法上の御見解を伺いたいと思つております。
  32. 磯田進

    公述人(磯田進君) これは必ずしも労調法の問題でなくて、労働法一般論になると思うのでございますが、私は憲法十二條によつて基本的人権が制限を受ける、立法上制限し得るという見解について私自身同意しておりません。憲法十二條は、法律によつて各個人が持つておるそういう基本的人権の行使をする場合の心構えを示したものであるというふうに了解しております。さればといつて憲法に人権の保障があつて、その憲法に保障された人権は飽くまで絶対的である、こういうふうにも考えておらないのでございまして、これは例えば言論の自由があるといつても、私は猥褻罪があり得るということを否定いたしませんし、それから名誉毀損罪等々もなければならない、こう考えるわけでございます。そこでその場合の問題は、私なら私が行使する、基本的人権、それを私がやたらに行使する、無制限に行使すれば、たまたま他の人間の持つておる生命とか安全とか自由とか財産とかいつたような、他の人間の基本的人権を侵害して行くという場合に、私の権利と他の国民の権利とをどこで調和させるか、こういう問題になつて来ると思うのでございまして、その意味では他の国民の基本的人権を尊重するが故に、私なら私の場合における基本的人権が制約される、これは憲法の明文を待たなくても、憲法全体の精神にそういうことは出ておる、実はそういう考え方に立つております。そうしますと具体的には例えば病院がストライキをやる、そうすると患者が死ぬかも知れない、こういつた場合が考えられるわけでありまして、そこで病院に働いておる労働者も人権としてのストライキである、それからいきなり外科手術をやめられても死ぬかも知れない、こういう患者の人権ですね、これを秤にかけてどちらを重しとするか、これは正に立法の場合に考慮されなければならないと、こう考えるのであります。例えばタフト・ハートレー法の場合にナシヨナル・ヘルス・オア・セイフテイ、健康というのが出ておりますし、安全というのが出ておりますが、これは非常に重みのあることでありまして、たとえ或る労働者ストライキを抑えることになつてもこれは止むを得ないだろう、ところがこの法案のように国民生活に重大な損害を與える、国民生活といえばこれは非常に幅の広いものでありまして、例えば工場がとまると輸出がとまつて外貨獲得ができなくなる、そうして国民生活が困る、或いはインフレーシヨンが進行して国民生活が困ると、それはストライキがあれば多かれ少かれ困るにきまつたものですから、こういつた漠然とした縛り方で、その他の国民の人権に対してこれだけの損害を與える、損害を與えるから、だからこつちを規制しても仕方がないだろうという、どうもこの計り比べはこのような規定の仕方からは賛成できない、こういう意味で申上げたのでございます。
  33. 一松政二

    ○一松政二君 その場合にいわゆる公共の福祉を判断するもの、ここに公共の福祉の論者がいますが、公共の福祉の判断をするものは当時の為政者であり、或いは為政者は政治上の責任があり、治安を維持しなければならん。併し又国民の生命財産についても、これは行政上非常に責任があることであるから、これを判断する、又公共の福祉それ自身が、非常に單純なる言葉を以てはこれを規制し得ない限度の非常に広いものであるというので、非常に憲法二十八條の基本的罷業権というものとの相反撥するところを、どこに行司を入れるかということは非常にむずかしい問題なんで、併しむずかしい問題ではあるが、為政者としては或る程度の判断をして事を処置しなければならん。この規定の行き方から言えば、少し行政的にあまり單純にその権利を振り廻し過ぎるじやないかというあなたの御意見かと思いますのですが、さように解釈していいのですか。或いは又もう罷業権といえども、やはり公共の福祉に反することはできないことは、これはもうわかり切つておるところですが、ただ言葉の幅の問題と、実際上の問題で非常に複雑な問題が起つて来る。ここでもう一度あなたの御見解を伺つておきたいと思います。
  34. 磯田進

    公述人(磯田進君) 大体の私の罷業権についての考え方、気持は、理窟を拔きにして気持を申しますと、こういうふうに考えております。世間では公共の福祉ということを振り廻して罷業権を簡單に制限してもいいかのごとき論者も世間にはないことはないのであります。ところがその人々の言うことを聞くと、例えば発電所でストライキをやると電気がとまつて困るじやないか、だからストライキをやつちやいかん、こんな気持ですが、それは成るほど電気がとまれば非常に困るわけです、他の国民は。併しほかの国民が困るからお前達は賃金が安くても、幾ら労働條件が惡くても発電所で働かなければならん。これは極端に言えば労働者を奴隷のごとく、社会をして電気の利便に浴せしめるために発電所の労働者は奴隷みたいなものである、極端に言えばこういう考え方であると思うのであります。これは少くとも二十世紀の今日、憲法があり、労働法があるという建前からすれば、やはり根本的に成立たない考え方である、気持の上ではそういうふうに考えるのであります。私は、ですから公共の福祉、公共の福祉ということを言つて、非常に手軽い気持で労働者争議権を抑えて行こうという考え方にはどうも納得できないものがあるのでありますが、それは一般的な議論なんです。それから具体的にこの法案でどうかというお尋ねでございましたが、先ほど私がお話の途中に申しました公益委員の最終案というもの、これと比べまして誠に非常な違いがあるということを申上げたのですが、公益委員の案によりますと、国民生活に回復すべからざる損害を與える、重大な損害ということを、回復すべからざる損害ということは非常にウエートが違うと思うのであります。緊急且つ現実の危險がある場合、というふうにいたしております。この法案では單に重大なる損害を與えると認めたというだけの言葉でありまして、與えるということは、必ずしも緊急に與えることにならなくてもいいし、それから現実的でなくてもいいということでありますから、こういつた点で公益委員意見と比べても非常にこれは後退しておる、労働者の権利を尊重するという憲法の精神から言えば非常に後退しておる、こう考えるわけでございます。而も私は公益委の案ですね、これにどうも賛成いたしかねるのでありまして、私個人の意見としては、先ほど結論として申しましたように現行法で足りる、現行法くらいのところがぎりぎりのところだ、それは憲法における労働者権というものの持つておる重みから言つて、ぎりぎりのところだ、こういうのが私個人の意見であります。
  35. 一松政二

    ○一松政二君 そこであなたの今の最後のお言葉のように、憲法二十八條で罷業権を保障しておるというそのいわゆる重みとおつしやつたところと、かなり……多少公共の福祉を簡單に振り廻し過ぎるというお説と考え合わせて、多少まあ聞く人、見る人、おのおの意見があろうかと思います。これから先は議論になろうかと思いますから、この辺で……。
  36. 中村正雄

    委員長中村正雄君) では一応午前中はこの程度で終りまして午後一時三十分から再開いたします。    午後零時五十一分休憩    —————・—————    午後一時五十九分開会
  37. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 午前に引続きまして再開いたします。  午後の公述人のかたに申上げます。お一人の公述時間は二十分に制限いたしておりますので御了解願います。公述に際しましては前のかたと重複しないようにお願いいたします。公述範囲につきましては、問題の範囲を出でないようにお願いいたします。なお各委員からの質問は、全部の公述が終りましてから行いますからあらかじめ御了承願います。  では直ちに公述に入ります。菊川君に最初お願いいたします。
  38. 菊川忠雄

    公述人菊川忠雄君) 私は日本労働組合総同盟の総主事菊川忠雄でございます。ここに問題になつておりまする労調法などの一部改正に関する法律案については、第一にこの改正その他が今日時宜を得たものでないと思うので、反対をして来たものであります。又第二には改正案は内容的に見ても独立後の日本の経済自立の下における労使関係調整の上に現行法よりもよりいい効果を挙げるということを必ずしも期待できないと考えるので、この点でも反対をして来たものであります。併し今日ではこの法案がすでに衆議院を通過して参議院に回付されておる現状に鑑みて、この法案に反対をせざるを得ない重要な点だけを数点明らかにして、次善の処置として、少くともこれらの点についての修正を強く願いたいと、こう考えるのであります。  元来労働関係の法規はいわゆる生き物と言われておるごとく、他の法律などに比較して特にそのときどきの労使関係の実情に即応して制定運用されることが最も望ましいと考えます。従つてこれを時に応じて改正することに常に積極的でなければならないが、それには特に時と方法について愼重に考慮が払われなければなりません。というのは本来労働関係の法規、特に労使関係調整効果を現実に挙げることを目的とする改正であるためには、労使の自主的交渉に待つべきものであつて、時にはその自主的交渉を補強するための立法的或いは行政的な措置を必要とするのでありましようが、その間に無理があつてはならないということを考えるからであります。例えば話は多少違いますけれども、一つの企業体の労使関係について見ましても、そこに合理性と相互の納得を伴わないで、力によつてか或いは相手の弱身につけ込むか、無理に押付けて解決するがごときは、仮に妥結と呼ばうとも長く続くものではありません。必ず直接の反撃か間接の非協力の報いを受けるのであります。そして直接の反撃で紛争がぶり返す場合よりも間接の非協力の状態が底流するところに却つてその職場に暗い気分が漂い、若し何かの機会に爆発すれば、あたかも長年無理を重ねた人間が一度寝込むといろいろの病気が一度に併発するというような状態を呈するものであります。これは全般の労使の場合についても同様なことが言えると思うのであります。今日私どもが独立第一歩に当り、今までの占領下の権力主義の下に制定され、これを背景として運用された労働関係法規を自立経済下の労使関係に即応するように改正する必要があるということは認めるものであります。又戰後混乱して来まして、再建期の過程において十分なる自主的な訓練を欠いていたために、今日なお野放しの自主的交渉であつてはいけないということも認めるものであります。更に日本経済は特にいわゆる再建の底の浅い、弱い基盤の上に立つておるので、この面からしても、米英流の自由なやり方であつて日本の実情には副わないということも認めるものであります。これらの特殊な事情を認めながらも、なお且つ私どもは労使関係調整は自主的な交渉の線の上に推進しなければならないという考えは強く堅持いたしておるのであります。特に日本労使関係は先にも触れたように占領の権力を背景として法的にも行政的にも調整を図られて来た点が多くて、そして占領期間が長きに亘つたためにそれが習い性となつておる点もあり、労働組合側も使用者側も、政府当局もいわゆる他力本願的な傾向が強く残つておるということを否むわけに参りません。過去において一部労働組合運動が行過ぎであつたことは認めまするが、使用者側にも又みずからの経営者としての自信と責任とを明らかにしていないために、不健全な行き方があり、政府当局も又虎の威を借りるような態度が多分にあつたと我我は見ておるのであります。でありますから、これを切替えることが、独立後の労使関係調整の出発点でなければならない。これにはいやしくも権力を背景として労使関係調整に臨むというふうな傾向を清算することが今日第一に必要であると考えておるのであります。この点でもいわば現行の労調法が、労働委員会を中心として労使の自主的交渉の線に沿うて早期解決を図つておりまするが、これは成るほど今までの占領下では占領軍の権力が背景となつておりましたから、無言の、或いは有形の圧力となつて運用の上に効率を挙げることはできたでありましよう。これがなくなるわけでありますから、そこで今後は政府は何か物足りない感じ、或いは不安を感じて、それに代るものを求めておるものと思うのであります。それが今回の改正案で、緊急調整の構想を生んでおるのではないかと考えるのであります。併しこれは明らかに私どもの見解から申せば逆行であつて、而もこのような緊急調整は為政者には気休めになるかもしれませんけれども、実際には効果は期待できないものであると私どもは見ておるのであります。というのは例えば現行労調法においても強制調停申請をする場合は、中央労働委員会において、争議の実状と共にその社会的な影響並びに輿論の動向などを公正に判断して行うのでありまして、これには無理があればともかくも、公正な判断である限りこれを無視してまでストライキを行うというようなこと、或いはシャツト・アウトを行うというようなことは正常な情勢では到底あり得ないことでありますし、又そういう行動に移つたといたしましても、何らの効果を挙げるものじやございません。でありますから今日までもこのようなことは殆んどなかつたのであります。でありますから言い換えますならば、現行労調法で現に間に合つておるし、それもまだ現行労調法そのものすら十分に発動しないで間に合つておるのが現在の実状でございまして、これをその上に屋上屋を架するということは何の必要があるか。いわんや五十日間の争議禁止を伴うというふうなことは、全然私は必要のないことであると考えざるを得ないのであります。これらの考え方には、折角の民主主義の推進の上に、日本労使関係も自主的な交渉の上に安定さすという方向に決定されておるこの際に、それにもかかわらずこの方面に努力を傾注しないで、これを回避して、権力主義に移行しようとする反動的な官僚的なやり方の現われであるということを私どもは心配いたすのであります。底に流れているものはいわゆるゼネスト禁止法的な考え方労働者の基本権の抑圧までしなければ不安を感ずるという考え方、こういう点がほの見えますので、私どもはこの点は絶対に賛成ができないのであります。  日本の国会におきましても、今まで占領下において超憲法的な占領軍の権力が国会の上にあつたために、国会の自主性というものの必要を皆さん人一倍痛感しておられたことと思います。今日日本労働組合運動も同様の経験を経て来ておるのであります。これは必ずしも反米というふうなことではございません。私どもはアメリカの民主主義の指導理念の下の労働運動が、将来の日本の労働運動の基調として植付けられたことにつきましてはこれを十分高く評価もし、感謝をすることにもやぶさかではないのであります。けれども権力によつて自主性は抑制できるものではないのでありまして、すでにその限界が来ておるということも我々は忘れることはできないのであります。従つてこの占領軍の権力の代りに今度は国家権力が置変えられればよいというものではないと我々は考えておるのであります。このような政治的な見解につきましては勿論議論のあることと存じますが、従つてこの議論の点は暫らく置きましても、私どもは今回の労調法などの改正案の中の最も重要な点はこの点にあると思いますので、この点はこれを現行法に戻すか、少くとも中央労働委員会の決定によつて緊急調整をなすべきであつて、労働大臣或いはその代りにもつと強い意味総理大臣というふうな政府の権力者の意思によつてなすべきでないという考えであります。でありますから中央労働委員会の決定ということになれば、その権限と機能の拡充が必要であります。又これが伴つて来ればあえて緊急調整というふうな刺戟的な新らしい言葉を使わなくても、現行の強制調停程度で間に合うと我々は考えておるのであります。これらの詳しい点につきましては他のかたがたの御意見もあろうかと思いますので重複を避けたいと思います。  なお労調法などの改正案中で、例えば罰則にいわゆる個人罰が新らしく加えられておるのを見るのでありますが、私どもは立法論としての議論は專門家でないので避けなければなりませんが、我々の労働運動の経験から考えますならば、これは労働組合の内部干渉となり、延いては労働組合の自主性を乱すというふうなことになるのであつて、これは削除すべきである、かように考えております。  次に公企労法改正案につきましては、直接にこの関係労働組合責任者の御意見があることと思いますのでこれは省きたいと考えます。私どもはこの問題につきましては本来労働三法をすべてに適用して、そうして特に公共福祉との関係において競合或いは矛盾のあるような具体的な事柄について一つ一つ制限或いは制約を加えて行くというやり方が最も望ましいということが従来の主張でございますけれども、今回はその我々の原則はともかくといたしまして、その一部が団体交渉権という形で実現をされる傾向でございますからして、これは結構なことと考えてよかろうと思います。ただこの場合に、その適用を受ける範囲についてはなお検討の上に拡大すべきものが残つておるのではないかというふうにも考えます。例えば国立病院関係の従業員の組合のごときは、これはやはり検討すべき問題ではないかと、こう考えるのでありまして、恐らくこの委員会にも当該の組合関係者から陳情が出ておると思うのであります。  最後に労働基準法改正案でございまするが、これには二、三問題の点があります。殊にそのうちの一つとして見逃すことのできないのは炭坑、鉱山における年少者の就職制限緩和の規定であります。第七十條の第二項であります。これは私ども絶対に反対をしておるのであります。というのはこれが通れば炭坑、鉱山の実情においては技能者養成の名の下に、十八歳未満の就労禁止が命令によつて骨拔きにされ、そうして年少者の保健衛生上はもとより、坑内災害、労働條件などの上に憂うべき惡影響を及ぼすこととなると見ておるからであります。ところが労働省の基準局の御説明によりますれば、基幹産業たる鉱山については従業技能者養成を考慮していなかつたのであるが、併しながら世界各国の大部分はこの種の技能者養成を認めており、又国際労働機関でも現在は満十六歳以上の年少者について何ら坑内労働の制限はなく、昨年秋ジユネーヴで開催されたILOの石炭産業委員会においても、満十六歳以上の男子について技能者養成のための入坑は認める旨の決議を採択しておるというふうなことが説明の中に見られます。これが若しこの改正の大きな理由であるといたしますならば、これは理由としてはおかしいものでありまして、いささか詭弁でないかとすら私どもは考えておるのであります。というのは詳しく申上げる時間はございませんが、ILOの先般の石炭産業委員会のこの問題に関するところの討議というものは、これは年少労働者の職業指導、健康診断、夜間労働、休憩時間、社会保障、監督制度、社会福祉その他十一項目に上るところの総合的な問題の中の一つとして年少労働者の技能者養成の問題を取上げて討議をしたのでありまして、およそ日本の炭坑、鉱山の実情においてこれをそのまま技能者養成のために取入れるということには縁の遠いところの問題であるのであります。でありますからむしろILOの右の委員会趣旨に副うゆえんでないというふうに私どもは見ておるのであります。いわんや御承知のようにこの石炭産業委員会の討議というものは来年の総会にもう一遍付議をされ、更にその後労働機関の総会に回付をされて、條約或いは勧告となるまでには相当の年月を要するでありましようが、その後においても仮に條約又は勧告となりましても、労働憲章の中には御承知のようにそれを理由としてその国の労働者の今までの有利な労働條件を引下げることはできないということになつておるのであります。かような観点からいたしまして、政府のこの理由は、我々から見れば納得のできないところの理由であるのであります。いわんや今後の日本の炭鉱の実情、それから今日世界の各国が殆んど例外なくとつておるところのものは、十八歳未満の坑内就労禁止でありまして、ただイギリスのごとく社会保障制度その他の施設の完備と相待つて、そして初めて十六歳以上の坑内就労が認められておるようなところは例外的であるのであります。でありますからこういう点からいたしまして、私どもはこの問題につきましては本委員会において十分一つ実情を併せて御検討をお願いいたしたいと、こう思うのでありまして、これは先般来衆議院における公聽会においても、私どもの労働組合総同盟でこの鉱山労働を担当している責任者から縷々実情を披瀝いたしましたし、又基準審議会の過程におきましても再三再四実情を陳情いたし、又労働大臣或いは基準局長にもそういう実情を訴えて参つたのでありまするが、今までのところは遺憾ながらこれに何らの考慮が払われたあとが見られていないのでありまして、こういう点につきましては必ずしもこれが功を直ちに急ぐわけでないのでありまして、一応委員の各位が、それぞれの技能養成のために坑内就労をさそうとするところの坑内の払いの現場の実情を御調査下さいまして、果して技能養成の実が挙るものであるか、それとも何らかの他の手段利用される虞れがあるものであるか、こういう点を十分御検討願いたいと思うのでありまして、或いは我我反対いたしておるのでございまするが、御納得行かない場合におきましては一応この分につきましては保留をして頂きまして、懸案としてその後にかような簡單なものは反附加えても結構なものでございまして、十分一つお調べを願いたい、こう考えておるのであります。  要するに私どもは今日時期といたしましては、折角独立をして、国民の気分を新らしくするところの総選挙を行い、その後に国民の新らしい盛り上る気持の中において今後の労使調整の基本となる方向なり、そのための労働法規改正考えたいと思つておるのでございまするが、今日勢いこういう事情になつておりますので、私どもはこういう点におきまして最小限度今申しましたような点につきましては修正をお願いをしなければならないと、こう考えておるわけでございます。御清聽有難うございました。
  39. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 続いて原君にお願いいたします。
  40. 原茂

    公述人原茂君) 私は日本炭鉱労働組合の副委員長原茂であります。このたび政府労働関係改正案をめぐりまして、公述人といたしまして一言私見を述べたいと考えております。  先ず具体的な條文についての意見に入る前に、いろいろ衆議院の委員会或いは本会議において論議された総体的な総合意見から判断いたしまして、我我が真実を把握した上に立つて、この改正法案に対する意見を述べたいと思うわけですが、残念ながらこの労働法改正案の上程されようとしておる本旨は、労使関係の紛争を合理的に、而も円満に解決するという、こういう建設的な立場に立つて改正案であるということは微塵も考えられない。いわゆる破防法を中心といたしまして、日本が独立第一歩を踏み出さんという、この世界に新たに日本が踏み出さんとするこの途上に当りまして、いわゆる一切の考え方を治安立法的な性格に、労働組合吉の労使紛争も簡單に片付けよう、こういう考え方を私たちはどうしても、如何に否定されてもそういうふうに真実をつかまざるを得ない。大体労働組合法が極度にこういうふうに改惡されようとする情勢、或いは政治経済の判断についてはいろいろあろうかとは考えますが、いわゆる完全な我々が考え得る一つの社会主義制度の確立により、逆に言うと極度なやはり資本主義の崩壞を何らかの形で避けようとする政策、もう一つは戰争のために何らかの犠牲をどこかに求めて経済政策を集中しなければならん、こういう三つがすべてこの法案改正要求する意図に基くものである。ところが今回政府考えておるこの改正の要旨というものは、一連の治安立法的な性格の中で、ゼネスト禁止し、或いは基本的な人権をも制約しながら、改めて又労働法の改惡を意図する、こういう一貫した考え方の上に立つた改正案というものは、当然我々労働者の立場からは賛成することは絶対に不可能である。こういう立場を基本的に確認した上に立つて意見を申述べたいと考える次第でございます。  日本の憲法で保障された勤労者に対する団結権、団体交渉権、或いは団体行動権、こういうものから生れました子供である労働組合法は、労働者の労働條件の維持改善であり、生活の向上と日本の民主化を通じて日本の経済再建に寄與する重大な役割を果すということで労働組合法が制定されたことは事実でございますが、その後再三改惡されまして、今日今行われようとするものは、非常に私たち、生れる子供は似ても似つかぬ鬼子がまさに生れようとしておる、こういうことを素直に認めざるを得ない。いわゆる今まで幾たびか労働組合争議に対していろいろな意味の干渉、介入がありました。そのときは労働組合法の埓外であり、日本の憲法の埓外である、従つてこれは占領政策の一環として、或いは政令として日本労働争議調整をしなければならんという、こういう名文句によつて幾たびか日本労働組合が彈圧されたり、或いは我々の正当な要求がそのことによつて阻止される、こういうことがしばしば続きました。ところでそういう占領政策から解放された今日において、今度はそういう占領軍がやつて来た争議調整、こういうものについての判断を、再び日本政府の手によつてそういう憲法以上の、或いは労働組合法の埓外に持たれたああいう争議調整権というものを、この労働法の改惡によつて求めようとしておる。こういうふうに私たちは非常に悲しむべき事実としてこれは判断せざるを得ない。こういう意味ではまさしく日本労働組合労使関係を円満に解決する、そのことによつて日本の経済と民主主義を守るという根本精神はいずこかに消え去つしまつて、何らかの一方的な目的のために、資本蓄積と申しますか、……いわゆる我々から言う使用者側に有利な法律だけを次から次に設けようとする、こういう一方的な基本的な考え方にはどうしても肯定するわけに行かん。こういうような私たちは判断に基いてこの政府労働法改正案に対する一連の逐條的なものを申上げたいと思いますが、公益事業並びに公共企業体、或いは地方公営事業、公務員関係については公述人が全部揃つておりますので、そのことは直接重点的に触れないと考えております。特に私は日本の炭鉱労働組合を代表いたしまして、主として民間産業が持たれておる争議権というものは今度の改正案に基いてどのように変革されるか、そのことが日本の或いは我々の生活にどのような影響を及ぼし、労使関係の円満な解決が成り立つものか、或いは逆にそのことが紛争の種になるものか、こういう点について具体的な事実を以て、私たちは理論よりも運動の事実に基いて経験の一端を申上げて見たいと考えるわけでございます。  昭和二十一年の三月の一日に労働組合法が施行されまして、九月の十三日には労調法が施行され、先ずここで公営事業という、いわゆる電産、私鉄、日通が争議の制限をされたわけであります。その後二十三年の七月の一日には政令二百一号に基いて国家公務員法の改惡という恰好で二十四年の六月から施行された公企労法によつて国鉄、全逓を初めとする全官公労関係労働者は一切の争議権を全く剥奪されるという状態が生れたわけでございます。そこで日本労働組合の大半はびつこか片輪か知らんが、いずれにしても完全に憲法に保障された三権を確保するという組合は我々民間産業の一部にだけ残された、これが今日までの実態である、このように判断されるわけであります。そういう争議権というものは常にどういうふうな恰好で、どういう理由でこれは剥奪されたかというと、常に日本の公共の福祉に違反する争議行為である、或いは争議権を與えておくことは日本の福祉、或いは公共事業、或いはそういう公益に相反するものであるという理由下に一切これらの労働者が或いは労働組合が制限され、或いは争議権、罷業権というものは剥奪されて行つたわけでございます。そのことによつて、それではそれに代るべき労働者の生活を守るという、こういう日本の憲法の人権、或いは生活を守るという憲法のこの項が守られておつたかどうか、公共の福祉という面での制限は非常に受けたわけですが、残念ながら生活を守るための、そのための政府の措置というものはなされておらなかつた。それは長い間国家公務員は人事院という制度が設けられ、ここで双方の言い分を聞いて、いわゆる国民としての生活の最低を守るための一つの額というものは人事委員会によつて制定された。ところがその制定された人事委員会の額は、單なる第三者の参考意見として聞くだけでございまして、これを政府責任を以て支給するとか、或いは生活を守るという、そういう義務付けは何らなされていない。従つて当初考えたような公共の福祉を守り、生活を守るという法律は、公共の福祉だけは随分強く言われたが、労働者を守るという、生活権の確保のためのそういう予算制度というものは一切單なる看板に過ぎなかつた。こういうことが過去我々の長い間の経験の中から知らなければならない教訓ではなかろうか、このように考えるわけでございます。さてそこで最後に残された僅か一部分の、一握りの民間産業の、完全に罷業権を持つ日本労働組合のその一部分が、再び緊急調整という名前に基いて争議権というものが剥奪されようとしておる。このことについては当然私たちはいささかも賛成することは不可能であります。勿論こういう改正の主眼とする緊急調整制度、この設置によつて我々の争議権を剥奪する、或いは武器を取るということは、これは明らかでありますけれども、こういう問題を通じて私は日本が独立前の労働情勢の中で、この緊急調整ということと最も似通つたことが、私たちは賃金鬪争という恰好の中で体験済みでございます。それは炭鉱労働組合賃金の値上を要求いたしまして、丁度二十五年の一月以降という賃金要求のために、二十四年の十二月から交渉を開始したわけであります。それから数十回の団体交渉を経まして、三月の三日に至つて漸く会社の案が出て来たわけです。ところがこれを見たところが、およそお話にならない不満の賃金案であつたために、むしろ賃下げの案であつたために、我々は不満として三月の八日以降ストライキに入つたわけであります。その後十九日より団体交渉が再開されましたが、その争議を打開するように、新事態としての、新しい会社の額というものは、要求額に対する回答はなかつたわけでございます。ところが三月の二十五日から一週間のストライキに入つたが、そのときに二十七日に至りましてその当時の労働課長をやつておりましたエミスさんから最高司令官の意思に基き、司令部としては今次炭労ストは一週間以上は許されないという正式申入れがあつたわけでございます。そこでこの最高司令官の公式申入れによつて先ず我々はストを中止せざるを得ない。要求は全然通らんが、それをその指令だと言い或いは正式な命令であるとするならば、これを侵してストライキを続行することは不可能である。こういうことでストライキは中止したわけであります。ところがこういう恰好が取れますと、政府当局がこれでは非常にかわいそうであるというので、大体同日、二十七日に労調法第十八條第五項の職権調停が発動されたわけであります。そこでその当時の末弘中労委会長を中心といたしまして、我々の争議に対する調停がなされたわけでございます。ところでそこでなされた調停の経過は、本日出席いたしております電産の委員長の藤田さんも入つておりましたが、何ら具体的な調停案を事実として我々の前に提示することは不可能であつた。四月の十七日に至りましてどういう案が出たかと言いますと、一月、三月は大体従来の賃金でよかろう、四月から六月は改めて当事者間で団体交渉解決しろ、これが大体調停委員会回答であつたわけであります。そこでこの調停案については非常にこれはもう問題にならん、そういうことで要求をしたり鬪争するのは常識としてあり得ないわけでございます。そのときの調停案に納得するわけはない。こういう経過を辿りまして、炭労といたしましてはこの調停案に対しては問題にならんという反対の結論を出しました。ところがこういうことによつて我々はどういうふうにこの調停委員会考え方を判断すべきか、これは調停委員会の附帶解説といいますか、こういう中で、こういう調停を突如風のごとく頼まれても、この石炭企業という幾十種の企業別の労働組合賃金を簡單に調停させるという命令だけによつて短期日の間に本問題を解決することは不可能である。従つてこれは結論としては具体的な案を提示するに至らなかつた。而もその間においては一貫して使用者は一切の経理内容に対する、生産その他に関する資料というものの素材を拒否しておる。こういう状態からいつて、具体的な内容を出すことを一層困難ならしめたというようなことが事実問題として起きたわけでございます。  それではそういう権力によつて我々はストライキが一時中止され、或いはそういう恰好から生れた調停案に基いて争議というものが実質上解決したかどうか。ところがその後我々は企業別にその団体交渉に移行して、再び何カ月間もかかつて苦労してその交渉をやり直しするという状態が生れたわけであります。そこでそういう交渉が再び地方別に行われて、又その後においてもストライキが起り、或いはいろいろな犠牲や紛争が起きて、いわゆるそういう事態が起きてから半年もかかつて本格的な解決を見るに至つた。こういう実例を申上げますと、大体こういう恰好の形が今度の緊急調整の内容である。このように私たちは判断せざるを得ない。その当時はエーミスといういわゆる軍司令部から最高司令官の指令系統によつて我々はストライキを中止した。ところが今度はそれに変るべき労働大臣というものが現われて、エーミスさんの代行を勤めようという、こういう緊急調整の内容については、私たちは過去の経験からいつても、理論や理窟でなくて、事実問題として承認することは不可能であります。而もそういう労働大臣の命令一下我々はストライキが中止される、それと同時に労働委員会緊急調整をやる。ところがその緊急調整の内容は調停、斡旋、職権或いは勧告……、ところがこういう恰好というものは現行法で全部ある。変つておるのはストライキを中止するということだけが現行法より変つておる。そうすると緊急調整の内容は、この狙いというものは、争議を円満に解決したり我々の立場や使用者の立場を第三者的な立場から具体的に事実によつて解決の合理的な方法をとるということではなくて、現行法に示されていない、ストライキを即時いつでも中止できるというこの一項をはめるためにこの緊急調整という制度が生まれておる。こういうことについては我々は只今経験からいつても、或いはこのことが将来日本労使関係を円満に解決するのではなくて、そのことによつて一層紛争の種をばら撒くという、そういう黴菌のような改惡案を以て日本の独立を前進させようとする考え方については非常に賛成しがたい点があるわけでございます。時間がございませんので、特に私たちの立場からは緊急調整という問題を中心に触れたわけでございますが、それからそういう問題から発展して午前中の教授の皆様がたからもいろいろ意見があつたわけですが、私もそういう具体的な法的な不審については全く同意見であります。いわゆる労働委員会というものは單なる下請機関になり、或いはそのことは自主性のないことになり、而もその権限或いは具体的な作業内容というものは、自分たちがみずから判断しみずからの力によつてやるというよりも、そういう一つの権力或いはそういう指令に基いて機械のように動かなければならん、こういう形になつて、いわゆる中労委というものが動くという、こういう官僚的な政策に基く労働争議に対する干渉、干與については賛成ができません。  それから先ほど言われておりました、菊川さんも同意見でございましたが、今度の場合もそういう緊急調整に違反した罰については、大体今までの事例を以ちますと一件につき何万円という罰金であつたわけです。ところが今度の場合は個人に対して三万円以下の罰金である。こういうことになりますと、一回問題を起して我々炭労の場合に二十七万の……これが一人当り三万円以下の罰金だということになると、我々は何年かかつてこれを返済すべきかと、こういうような厖大なものもあり、このことは当然労働組合一つの個人を、対象といたしますから、あいつには罰金を科す、こいつには罰金を科さない、こういうことで労働戰線の分裂を策し、団結権というものを弱めるという狙いも政府としては考えただろうと思いますが、我々としてはこういうことについては甚だ賛成はできません。  それからいろいろありますが、時間が制限されておりますからこの辺でやめるわけでありまするが、最後に基準法の問題につきまして先ほど菊川さんからも言われておりましたが、十八歳という現在の入坑基準を十六歳に切下げる。十八歳から十六歳の間に入坑する者の誰が入るのかという基準については、技能養成というものについて入るべきである。むしろこれは使用者から言わせれば全員を入れたいと、こういう希望に燃えていることは事実であります。そこで我々といたしましては、同じ地下産業といたしまして、一貫した同じ立場に立つ労働者といたしましてこれは問題を解決しなけりやならん、これは同意見でございますが、将来の目的菊川さんも私も同じでございますが、残念ながら過程において若干違うわけです。これは御存じのかたもあると思いますが、総評という代表者を以ちまして基準審議委員を出しておりまして、その中できまつた経過等におきましては、いわゆる技能養成するという具体的な入坑の時間或いはそれに対する賃金の問題、或いはそれに対する衛生の問題、保安の問題、こういう一切附帶的な條件を附けることによつて技能者だけを臨時に入坑させることを許可をする、こういうことに我我代表は賛成しておる。こういうことで原則的にはそういう立場をとつて私たちはこの技能養成の特殊性を認める、こういう立場をとつております。それが残念ながらそういう具体的な規則或いは規制というものを設けずして、十八歳未満は技能養成という名目であればいつでも入坑できるというような手続のような恰好に本改正案にはなつておるので、労働委員の皆さんは特にいわゆる法律を仕上げる前にどんなことを作るのかということを明かにしてこれを作つてもらいたい。そういうことでこの十八歳より十六歳に切下げた臨時入坑の基準の具体的な保護規定というものを明かにした上で十六歳まで切下げるということについて我々は賛成いたしますが、そういうことがない限り、どういう恰好でも利用できるという、いわゆる仏作つて魂を入れんような法律は御免こうむりたいと、このように考えておるわけであります。  総じて申上げますと、一部賛成するところもありますが、全般的に私たちは反対しなければならない。特に緊急調整の問題については当然これは絶対反対を唱えなければならない。こういうことを参酌いたしまして、よろしく委員会といたしまして我々の意図を参酌のほどをお願いするわけであります。  その他公企或いは公益事業関係の問題についてはあとから来られる公述人によつて意思表示がなされると思いますので省略いたします。
  41. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 続いて藤田君にお願いいたします。
  42. 藤田進

    公述人(藤田進君) 電産の委員長の藤田でございます。今度政府提案になりました労働関係三法の改正につきまして、憲法に遡つて論じなければならない基本的な事項がありまするが、これらの諸條項については真向から反対いたします。  そもそも今度提案されましたこの法案は、先に昨年十月十二日から本年の三月二十五日にかけまして、大体平年に亘る論議が労働法令審議委員会でなされて、その過程においては遂に資本家を代表する委員が退場するなどというような場面もあつた。その使用者委員の案をそのままここに提案して来ている点であります。これから具体的にその内容を申上げてみたいと思います。何しろ時間が二十分で制約されておりまするので、思う存分申上げることはできませんが、すでに民法や或いは商法、そういつた関係の学者でなくて、本当に民主主義社会における労働法を長い法制史上の面からも検討された、いわゆる労働法学者の意見公述されているのでありまするから、それはそのほうに讓るといたしまして、私どもの積極的な改正意見といたしましては、次の三項に要約ができるのであります。  第一の点は、本法案は要するにストライキを止めようというところに主眼があるのでありまするから、この法案が審議未了或いは否決になりましても他に單独立法、單行法その他でストライキ禁止するというようなものは絶対に出されてはならない、これであります。  第二の点は争議調整についてであります。これについては三つの点を主張いたします。公益事業争議行為冷却期間として労調法第三十七條に三十日間の定めがありまするが、これを廃止いたしまして、一週間程度の予告制度に切替えてもらいたい。で、これはすでに先ほど申上げましたようにこの労使間を規正し、或いは労働組合員とその団体を保護する労働法、基準法、こういつた厖大な審議を約半年に亘つていたしました。その過程に労使公益、三者挙げて現行労調法第三十七條の三十日間は無意味である、廃止すべきだということは一致いたしております。併しながら公益事業という特殊な事業に対してはやはり一週間程度の予告は必要であろうというのであります。  次の点は、調停申請労働委員会になされた場合に、これを却下するという項が政府提案にありまするが、これは削除してもらいたい。なぜかと言いますと、労働委員会調停申請をいたしました際、しばしば労使間に問題になりますことは、もつと煮つめて来い、会社はまだもつと考えてみる、考慮しようと言つているのではないか、こういう過程に労働委員会に持ち込むということはこれは早いということが使用者委員によつてしばしば主張されていた。これを立法化しようというのであります。つまり会社におきましては、殊にこのような公益事業と称する事業では労働関係を担当する相当な部課の組織があるのであります。これらの担当者が、社長さんは滅多に出て来ませんが、そういう担当者が出て来て、これはつまり交渉する役目でありますから、年柄年中交渉していればこれで事足りるのであります。事賃金の問題を取上げて見ましても、仮に五百円の賃金値上げを要求いたすといたします。会社側では上げなきやならんという肚は持つていても、これを延ばすことによつて、仮に本月六月から実施するという要求であれば、五カ月、六カ月延ばせば、漸くきまつたときからこれを実施する。その間退職金の計算、基準外、時間外の計算、すべてこれは会社側に値上げしないことによつて有利でありますから、交渉をねばります。これは現実論でありますが、そのような場合に、いつまでも労働組合の代表が相対して議論をいたしましても、五百円に対して当初五十円から入つて来るかもわかりません。従来そうでありましたが、大抵ゼロから入つております。上げられない、能力がない、漸くにして五十円、百円というのが出るが、すでに二カ月、三カ月たつてから最後の果に、たまりかねて調停委員会に持ち込む場合に、使用者委員或いは当該会社側は、実はまだ考慮するということで鋭意検討いたしつつありましたが、突如として労調法十八條三号に基いて調停申請がなされているのであるから、もう少し労使間で交渉さしてもらいたい、こういうことになりますると、公益委員労働委員会委員も、会社がそう言うのであればもう少し両当事者間で煮つめてもらつたらどうであろう、我々はその場合に、然らばそれ以上交渉を続けた場合に上るか、会社は出す肚か、いずれもそのことは何とも言えません。これが実態であります。そういうふうな場合にこれはまだ煮つめていないから却下してしまう。それのみであるならばまだしものこと、ここにも書かれておりますように、罷業権、ストライキすることができない。今度は三十日を十五日に減らしておりますが、この十五日の起算日が始まらないのであります。従つて憲法では成るほど保障されていると言いながら、いつまでたつても罷業に訴えて解決することはできない。結局要求は通らないで、ただ單なる交渉を続けて行くという実態になるのでありますが、極めて事が重大な事項でありまするので、これには絶対に反対するものであります。  次に政府の原案によりますれば、しばしば先ほどの公述人も触れられましたように、緊急調整制度が設けられております。これは吉武労働大臣のいろいろな説明を聞きますると、国民に重大な損害を與えると、これはもう判断の問題でありまするから、嚴密にはやつた後これを検討して見なければわからないのでありますが、この法案によりますると、やつてみた後の問題じやなくて、かも知れないという段階に、今であれば吉武さんが緊急調整だと、こういう仕組であります。これも後のほうに書かれているが、結局五十日間というものをスト制限をしようと、アメリカでは六十日だが、ちよつと遠慮して五十日という答弁であつたが、遠慮するくらいならあつさりこれをやめたほうがいいのでありますが、結局出ております。その意図は單に五十日でストライキを拘束、制限される、こういうふうな解釈は実体論としてできないのであります。恐らくこの法律が不幸にして、そのようなことはないと思いまするが、通つた場合にはどういうことになるか、恐らく経営者は、これは経営者の案でありまするから、いろいろなことを用意されているのでありまして、交渉し或いは労働委員会に持込まれ、そしていよいよストライキなつたというときに、出すほうの側では幾ら金がふんだんにあろうとも出さないのが本能でありまするから、出しません。なぜか、吉武さんのところに行きさえすればもうちやんといつ頃緊急調整を出すということはわかつているのでありまするから、出す必要を感じない。緊急調整がいよいよ出る間際まで頑張つていさえすればいいのであります。私が社長ならそうするでありましよう。そうして五十日が済んだというときにやつたらいいじやないか。まあこういう説明があるかもわかりません。併し団体交渉というものはそう簡單に行くものではありません。殊に労働組合の運営が民主的に運営されている今日の労働組合の実体からいつて、五十日、この間は結局百日……それ以上ストライキができないで屈服するということを予定し法律できめることになります。一体この労働組合法というものはどういうところに基本が置かれているかということ、これも長い間あの六カ月間に議論いたしましたが、單なる社会政策として、戰争前にちらちら頭を出して来たあの当時よりももつと惡いものに引戻そうというのが、この法案の内容であり、緊急調整として出て来ているんであります。およそ労使間の問題を国家がこれに干渉し、いやしくも一方の経営者側に肩を持つ、明確に一方の労働側を抑えつけるというようなものが通るといたしましても、これは恐らく守り得ないでありましよう。法治国家として本当に法律を守る意慾を持たせるためには、例えば今日生産も足りないのだから米も一合で我慢しろという法律ができたつて闇もはやる、いろいろな手段で獲得しなければ生きて行けない、事は生命に関すること、これと同じであります。この内容は、我々労働者労働組合にとつて生命を全く抹殺されようとする法律の内容であります。このようなものが守られると思つたら大間違いであります。守りたいが守り得ないだろう、これを心配するのであります。つまりこの通過によつていやが上にも社会不安が起きて、思想上どうのこうのと言いまするが、結局そういう思想を激発させる材料以外に何ものもない。従いましてこの緊急調整の項は抹殺してもらいたいのであります。  次に公務員関係でありまするが、これは縦割の現業……非常に遠慮して申上げるのでありまするが、我々の基本的なやはり主張といたしましては、積極的な改正案としては先ず国家警察その他警察官吏、消防或いは刑務所の看守、これにまでスト権を與えろということは申上げません。併しながら基本的にはやはり憲法で保障したものを労働者である者にはこれをやはり與える、保障する労働法にしてもらいたい。併しそれも今の状況ではむずかしいと思いまするので、縦割現業、これについてはやはり罷業権は復活させるべきだ。政令三百二十五号その他占領下のいろいろな事情で全く剥奪をされておるこの保障、憲法化しておる権利を元に返してもらいたい、こういうのであります。いろいろな実例を申上げますれば時間がかかりますが、簡單に一つだけ申上げても、山に木樵りに行くのこやまさかりを持つておる人たちも公務員だと称して罷業権を與えないというようなことが、一体どうもこの労働法の観点からいつて通る話かどうかを十分お考え願いたいのであります。たばこを作つておるというだけで憲法の保障するものを與えないという理窟がどこから出て来るか、理解ができないのであります。  次に今申上げた中に含むわけでありまするが、当然教職員或いは現在の公共企業体、これなどすべてこれは、殊に公共企業体については一般産業労働者と同じような線に復活してもらいたい、引戻してもらいたいということを強く主張いたします。ではありまするが、若し今のいわゆる実体法として現行ありまする中に仲裁裁定の制度がありまして、御案内のようにこれは法律上非常に美しくできているが、過去結局有名無実になつております。これはどういうことかというと、御承知のように、結局仲裁裁定が出てもそのまま実施ができない。これでは政府みずから法律を守つていないのであります。過去に実例はすでにここに出て来ておる。この政府が守つていないのを守れるような法律にしてもらいたい。つまり仲裁裁定にはもつと明確な拘束力を持たしてもらいたい、これであります。従いまして縦割現業についてはここで罷業権も復活するということになれば、非現業、先ほど申上げた非現業と申上げたのはすべて縦割り現業公務員、従つて現業公務員、これにつきましては、まあ現段階においては団体交渉権を明確に認めてもらいたい。更に公務員法中公務員の政治活動の禁止、団結権に関する制限等がありまするが、これをはつきりと撤廃してもらいたい、こういうことであります。  更に労働組合関係の中で逐條申上げたいのでありまするが、時間がないようであります。ただ一点だけ指摘して御参考に供したいと思いますることは、今度の労組法の中で不当労働行為の申立について一定の期限を附しております。つまり不当労働行為があつて、一ケ年経過すれば申立することができない、こういう途方もない規定が出て来ております。これは私ども労働委員会においていろいろ取扱つたケースの中にこの種の問題はすでに出て来ておるんであります。三光造船の尾道工場あたりがこの例でありまするが、労働組合活動をやる者を大量に首切る、これはどうも真向うから不当労働行為にぶつかるので、一応多数の人にやめてもらつて、工場も閉鎖という形で、あとは機材その他の保存の要員を残すということで、初めは十人か二十人かですが、だんだん二月三月するに従つてその保存要員が殖えて来る。一カ年ぐらいすると大体皆忘れた頃だというので工場は再開する。よく調べて見ると、電力の割当その他の契約はちやんと一カ年中断しないで継続して、その他商法上の手続その他も全くとられていない。これが今度通りますると、大体第一工場、第二工場いろいろあるでありましようから、逐次一年間ぐらい極く内輪の仕事をやつていれば、相当大量な不当労働行為がここに実現するわけであります。このような期限を設けることは賛成できないのであります。これは一つに過ぎないので、他にもそれに似たような條項がありますので、これについては我々は賛成できないのであります。  更に劈頭申上げたように今度の法案の基本的な重点となつているものは、挙げて経営者、資本家の主張であつたものが強く出ているということは、これはもう吉田内閣の性格で止むを得ないといたしましても、これに対して賛成するかしないかで、大体この国会の中で使用者を代表する人が、多くの国民の立場を代表する人かということが明確になるであろうと思いますので、十分我々は関心を持つておりますことを附加えさして頂きます。(笑声)
  43. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 次は横山君にお願いいたします。
  44. 横山利秋

    公述人(横山利秋君) 国鉄労働組合の企画統制部長の横山であります。私は現在公共企業体労働関係下にある組合の役員といたしまして、時間の制限もございますので全般的、原則的なことにつきましては、藤田公述人初め労働組合出身の公述人のおつしやつたことを支持いたしまして、私の公述の要旨を現行公労法と改正のこの法案とを対比して公述をいたしたいと思うのであります。配付をお願いいたしました資料の中で現在の公労法の問題点というところをお開きを願いたいと思います。  今日政府が公労法を改正するという内容、理由につきましは、三カ年間の公労法の実体論に触れ、その運営の全きを論じ、その上に立つて改正がなされなければなりません。そういう意味合いにおいて現行公労法が如何なる立場においてなされたかという点を振返つてみる必要があると思うのであります。この現行の公労法は米国法の直訳的立法によりまして、十分な検討がなされないままに立法されたために、幾多の矛盾を次から次へと生みました。又罷業権剥奪に代る仲裁制度が、その経過の中で何ら実質的な効果をもたらさず、一種の調停機関としての存在に墮しつつあるわけであります。以上に関連しての公労法に関する信頼感は、関係労働者には全くないのであります。学界及び労働界においても本法の所期する目的が実際には極めて稀薄になつているということをすべてが認めておられるのであります。又公労法と組合法との関連が極めて不明確であり、二重制限の個所があり、行政上或いは労働運動上複雑なところとなつておるわけであります。公共企業体として移行します精神が活かされていないで、両公社共に、今日の国鉄、專売公社当局は当事者たる能力を欠いて、殆んど制限をされておるのであります。それは單に公労法のみならず、日鉄法及び專売法と相待つてなされておるのでありますが、紛争の解決は結局政府組合、或いは国会対組合というふうに必然的に移行する仕掛けになつていると思うわけであります。こういうような矛盾を根本的に再検討を行わなければ、根がますますこの矛盾は適用範囲の拡大と共に、收拾のできないことになることを予見をいたしたいと思うのであります。  例えばその具体的な例示を二、三拾つて参りますると、第一に数百種に上る国鉄の例えば職種を一々検討して、組合員の範囲政府が政令できめることになつておるのであります。今後適用範囲の拡大をされますと、例えば農林関係とか或いは全逓、郵政関係とか、それらの組合員のあらゆる職種を拾つて、これが組合員、これが組合員でないというふうに判断を労働省がいたしますことは結局それはできない相談であります。ですから労働省といたしましても、国鉄組合や或いは国鉄当局の意見を聞くことになるのであります。そして最後は意見が折合わないときには結局いい加減なきめ方をするのであります。こういうような矛盾は当然一般労働組合法の考え方からいいましても両当事者の協議に委ぬべきことは理の当然でありまして、これらの点につきましては今回の政府案の中へ織込まれて改正をすべきなのが至当と考える次第であります。第二番目の不平等取扱の禁止條項につきましては、政府案の中へ入つておるので一応省略いたしますが、ところがそれに関連をいたしまして、第三番目に、然らばそういうふうな取扱いを、不当労働行為的なことを国鉄当局なり或いは主管大臣がいたしたときにどうなるかという点について、仲裁委員会が取消を命ずることができるというふうになつておるのであります。これは当然従わなければならない、命ぜられたものは従わなければならないと解釈するのが当然ではあろうと思うのでありますが、現行公労法又政府案は、拘束及び罰則を規定いたしていないのであります。この点は必ず将来に問題を起します。今日においても国鉄ですでにこれらに該当するようなことが生じたことがあります、表面には浮び上りませんでしたが、今後必ずこのようなことができるのであります。そのできる点について、起るべき事態について法律は極めて不明確なあいまいな点を残しておるわけであります。それから第四番目の組合資格要件、規約記載事項につきましては、政府案で私どもの主張が大体入れられておりますので、時間の関係上割愛いたします。第五番目は組合の專従職員を当局者が一方的に定めることになつておるのであります。これは極めて不届きな規定であります。公社なり或いは主管大臣が組合を圧迫しようとするときには年々再々専従者の数を減らして行けばいい、そうして今年は五百名、来年は四百名、再来年は三百名というふうに勝手にきめて、それによつて組合運動の制限、圧迫ができるということをここに実体論として存しておるのでありますから、これは削除をして、両当事者の協議に委ぬべきことが当然なことと考えられるのであります。第六番目は団体交渉範囲が、今回の政府案の中で一部緩和はされておりますが、本質的な解決をなされておりません。今回の政府案は、管理運営については団体交渉でない、で、そのほかの点については若干緩和をいたしておりますけれども、やはりこれも紛争の残るところであります。管理運営について団体交渉をしてはならないと仮に規定いたしますならば、その他はよろしい、これだけでたくさんであろうかと思うのであります。又その管理運営につきましても本来今日まで国鉄及び專売の労働者がいたして参りました国鉄企業、專売企業の進展、発展を期する労働者の気持から言うならば、一方的に管理運営についてはお前たちの知らんことだ、座敷に上つて知らん顔しておれということは、企業の発展の上に極めて不適当な文字であろうかと思うのであります。仮に今言いましたように一歩讓つて、管理運営についての団体交渉ができないといたしましても、それならばそれでそのほかのことについては団体交渉については自由である、こういう立場をとるのが理の当然でありまして、この点について政府案の八條については極めて理論的に矛盾を生じ、現実的な紛争の残る多くの事態を生じておるわけであります。  第七番目、八番目、九番目に列挙してありますことは、実は交渉單位の問題であります。この交渉單位については、ここで私が御説明を一時間いたしましても皆さんに御理解が願えないのであります。恐らくこれは、失礼なことを申上げますが、交渉單位制度を初めてお聞きになるかたに一時間お話しても何らこれは御理解願えん、それだけ複雑多岐なものであります。仮に一例を、七項目にありますが、労働協約を締結する当事者が不明確である。現行の公労法の八條及び九條と組合法の十四條が同時に適用されております。組合法の十四條では執行委員長と会社の社長が調印をすることになつておる、ところが公労法の八條、九條を推し進めて行きますと、交渉委員会の代表が調印するという理論が一応生まれて来る。これは労働省が今年になつてから主張せられておる理論であります。そうすると十四條の適用というものはどうなるのだといつて労働大臣及び先般お代りになつた松崎法規課長に質問をいたしますと回答ができないのであります。今の労働省としては十四條は適用されておる。組合の執行委員長が調印するのが当然ではあるけれども、まあいいじやないか、交渉委員会の代表で調印してもいいじやないかという理論であります。ですからこの点は全く今日の交渉單位制度が表面上労使間に現われた一つの奇怪な現象、又公労法が十分な検討をされずにそのままなされたという不手際極まるところがここに現われておるわけであります。それから第八番目に書いてあります法律上の交渉委員が団体交渉を行うことになつておるために労使責任感をますます稀薄にさしておるわけであります。交渉委員が団体交渉をやる、その交渉委員は全職員の代表であつて組合の代表でないという規定が公労法の中にされております。従いまして仮に交渉委員同士が交渉し妥結したことに対して法律上、組合がそれならば責任を負う必要はないという理論も又ここに生まれて来るのであります。調印は交渉委員の代表でいたしましたならば、執行委員長はそれに関係がない、従つて組合が協定を破棄しても、それは法律上の責任を負わない、ここまで理論が発展いたしましても、労働省は今のところ余り文句を言う、いわゆる対抗する理論がそこに生まれておらんのであります。従つて九番目にありますように交渉單位制度国鉄労使慣行、団体交渉の円滑な運営を実際論として破壞しようとしております。今年の三月三十一日までは調印は実行委員長でやりました。ところが四月の一日になつてから労働省は交渉委員会代表でやれといつておるのであります。こういうことが労使責任制を稀薄にいたしますのは当然でありまして、昨年の国鉄における交渉單位制度の紛争及び今年における紛争は今日これをこのまま存置いたしまするならば、全逓においても或いは又印刷そのほかの公務員の各單産においても同じことがここで発生をいたします。而もこの発生というものはあに労働組合だけの不愉快なことでなくして、実は当局者もこれによつて困り切つておるわけであります。四月一日からここ五十日間、国鉄においては団体交渉が行われませんでした。参議院及び衆議院の労働委員会及び運輸委員会において御忠告まで頂いた問題でありますが、団体交渉が行われ得ないままに夏期手当の紛争が爆発点に達したというような矛盾極まることが現出いたしておるのであります。これはなぜ然らば交渉單位制度がかくも問題になるかと言いますと、單位制が日本の実情に適しないということが第一、單位制度労使双方が最も忌避する政府官僚の労働問題介入を許す結果になつておること、第三番には健全な労働運動を妨げること、第四番目には單位制度が労働の責任観を稀薄にすること、第五番目には單位制度が複雑で理解がなかなか困難であり、勢い法理論に終始して、紛争の直接且つ早期解決に支障を與えること、こういう事情からいつて、單位制度につきましては單に労働者のみならず、先般労政局がアンケートいたしましたときに資本家側も一致して時期尚早であるという結論を出し、労働法審議会も又全員一致して時期尚早であるという結論を出しておるのであります。国鉄及び專売の組合がほかに皆さんに差上げました改正に関する要請書を労働大臣に説明をいたしました際に、吉武労働大臣はいろいろ私どもの説明を聞いて、そのときにずばりと言つたことがたつた一つあります。それは何かというと交渉單位制度については再検討をする、こういう約束をされたのであります。ところが如何なる事情であるか、今日我々の目の前にあるこの改正案についてはたつた一つ約束されたそれが実行されていないで、極めて瑣末的なことだけが公労法の改正案として上程をされておりますことは奇怪なことと私は考えざると得ないのであります。以上の点から行きましてこの交渉單位制度につきましては是非とも皆さんの熟議によりましてこれを撤廃されることにお願いをしてやまない次第であります。  次は十番、十一番にございます点につきましては極めて小さいことでありまして、政府案の中に入つておりますので、十二番の仲裁裁定の効力の点について公述をいたします。  過去三カ年におきます仲裁裁定は、労働協約の効力についての仲裁裁定及び仲裁裁定の効力についての問題はすでに私はここで御説明をする必要もなく、今日まで皆さんのいろいろな御協力を三カ年に亘つてお願いをして来たことであります。労働委員長中村さんも又曾つて昨年でしたか、この参議院の労働委員会において小委員会をお開きになりまして、この点についての一つの成案を得られた点であります。従いまして余り多くを論じませんが、少くともこれは今日の公労法十六條において協定を組合と当局がしたきは、「政府は、その締結後十日以内に、これを国会に付議して、その承認を求めなければならない。」、この立法の趣旨が本来承認を求めるのであります。ところが今日までの政府のいたして参りましたことは実体論として不承認を求めて来た、不承認の承認を求めた。こういう言いがかりをつけておられるようでありますが、実は十六條に違反をして不承認を求められたといつても過言ではございません。これではこの仲裁裁定が、冒頭に申上げましたように実は仲裁の本質を失つて国鉄労働組合としても仲裁が出ましたら喧嘩両成敗だからじつとしておればいいというのが本当のことでなければならないのでありますが、仲裁裁定が出た、これから戰わなければいかんと、こういうような実情になつておるわけであります。これは誠に法理論からいつても極めて奇怪なることではありますが、実際問題として政府がこの仲裁裁定に十六條の内容を歪曲して解釈し運営をして参りました点を修正せしめるために、これは改正を是非お願いをいたしたいと思うのであります。  十三番目は公労法の改正の議論をして頂くときにおいては必ずこれと密接不可分の関係にある法律についての議論をして頂かなければ、仏作つて魂入れずであります。国鉄は日鉄法により、專売は專売公社法によりまして全くこの公労法において許されたる権限すら、交渉能力すら失われておるのであります。現に日鉄法を仮に例をとつてみましても、任免の基準、給與、降職及び免職、休職、懲戒、勤務時間の延長、時間外及び休日勤務等、これらについては日鉄法においてすでに制限をされておる、これらは労働條件であります。これらが労働條件であるということは、まさにこれは誰でも否めない事実でありますが、その労働條件を日鉄法で制限をして、当事者の団体交渉範囲をここで重大な制限をいたしておることは極めてこれは矛盾極まることであります。  それから利益金の処分と制限をして企業性を失わしめておりますために、公社の当局は団体交渉当事者たる能力を欠いておるのであります。そのために国鉄における、或いは專売における今後適用範囲が拡大され、組合及び当局における団体交渉は極めて真摯なものとはなりません。どうせこれはもう政府の問題、或いは国会の問題になるのだから、この際いい加減にして置こうか、こういうような気分が出るのも、これも当然であります。又第三番目においては各年度におきまして給與の総額をきめておるわけであります。そのために、給與総額をきめられておるために、労使賃金交渉の幅というものは殆んどないのであります。それでどうして団体交渉をしつかりやれという議論が生れるでありましようか。従いましてこの公労法の改正を論議して頂くに当つては是非ともこの日鉄法とか或いは專売公社法とか、或いは今度成案化されると聞いております地方公営企業法とか、これらの点についての熟議を願いたいと思うのであります。  時間が参りましたので結論的に最後のことを申しますと、この公労法の政府改正案については、まさに仏作つて魂を入れず、こういうことが言い得ます。又適用範囲なる公務員諸君につきましては国家公務員法の紐付があるために、看板だけ団体交渉権が與えられて実は後のほうで十重二十重の紐がついておる。これは私は率直に言つてインチキの団体交渉権の付與である、こういうふうに言わなければなりません。又全般的にもう一つ地方公企労法案につきましても、私の申述べました公労述の原則は適用されると思うのであります。  以上の点から政府のこの案に対して反対をいたしまして私の公述を終ることにいたします。
  45. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 続いて横手君にお願いいたします。
  46. 横手行雄

    公述人(横手行雄君) 私は全印刷の労働組合の中央執行委員長の横手であります。私は主として公共企業体関係国家公務員を代表いたしまして意見を申述べたいと思います。  私は先ず第一に政府の提出された原案が現行労調法、労働組合法及び公労法の三法にまたがる重要部門の改正労働関係調整法等の一部を改正する法律案という一本の形で提出されたことに対しまして先ず注目をいたしたいのであります。政府は提案の理由といたしまして、平和條約発効後における労働関係の安定を目指したものであり、改正案は数回に亘つて持たれました例の労働法改正審議会意見を尊重して、答申に現われた労働者使用者公益三者の一致点を全面的に採用して、不一致の部分については公益側の最終案を参酌されたと、その妥当性を強調しているのでありますが、私は次の点でこれに承服し得ないのであります。    〔委員長退席、理事村尾重雄委員長席に着く〕 例えば藤田公述人も触れられました緊急調整の問題でありますが、これは言うまでもなく争議権の質的な制限を企図した規定でありまして、労働法改正審議会におきましては労働者委員最初から最後まで断固として反対して来たものでありまして、而もそれが公益側の案によりますと、「中央労働委員会の決議により」云々とありましたものが、政府改正案では中央労働委員会の同意を要せず、労働大臣の認定だけで五十日間の争議行為禁止できるというふうに変つておるのであります。更に公益側の最終案が職権仲裁を取上げていたのに対しまして、その点はゼネスト禁止法というふうな治安立法によることを理由といたしまして労働法改正から除外をしたことなどは、事実において使用者に極めて有利な改正案を作成したものと称して過言でないと思うのであります。なぜなら職権仲裁ということになりますならば労働者使用者側を公平に束縛することになりまして、仲裁できまつた賃金ベースを呑まねばならなくなるということもあり得るわけでありまして、それでは私企業の自由の原則に反すると使用者側が最後の土壇場におきましてこれに反対をいたしました。その反対論が通つたということになるからであります。これでは誠に欺瞞的な巧妙な、使用者側に有利な反動立法であると言われてもこの経過から見て仕方がないことだろうと考えるのであります。私は緊急調整制度は全面的に削除いたしまして、要するならば現行の職権調停及び労働大臣等の調停請求制度を活用することで十分であると主張いたしたいのであります。  更に労働関係調整の問題と現業公務員の基本権の一部復活の問題を同一法律案として提出しておるのでありますが、この労働基本権の復活の問題と労働関係調整の問題とは別問題でありまして、この別問題であるのもを一本の形として提出しておるというところに政府の真の意図が奈辺にあるかと疑わざるを得ないのであります。これは民間労働者争議制限の項目と現業公務員の基本権の一部復活の問題とを秤にかけたものとして、官業労働者と民間労働者との分裂を策する意図があるものと疑われても仕方がない点であろうと考えるのであります。  私はこのようにいたしまして労働関係調整法等の一部を改正する法律案に対しまして、各所において全般的な意見を持つておりまするし、意見を申述べたいと思いますが、すでに学識経験者、公社関係又は一般公務員の各公述人がそれぞれ意見を述べられたし、又これからも述べられると思いますので、私は主としてこれから公共企業体労働関係法の改正案のうち国家公務員に関係する諸事項につきまして意見を申述べたいと考えます。  いわゆるマツカーサー書簡に基く占領政策に基いて公務員法が施行せられまして、公務員から労働者の基本権を奪い去りまして、労使対等の立場を今日に見るような状態に突き落してからすでに数年たつております。それに代つて保障機関であるところの人事院の賃金ベースの勧告は未だ曾つて完全に一度も実現されたことがないのであります。それでこのことを解決しようとして国会を通じまして政治活動をしようといたしますれば、公務員法によつてこれ又政治活動が禁止されてできないのであります、そこで公務員は窮余の一策といたしまして、御承知のような坐り込み、ハンスト、煙突男といつたような誠に悲惨な好ましからざる手段に訴えてこの問題の解決をしようとするのでありますが、これに対しまして世論はこれを非難しておるのであります。併し私はその非難の前にここにある歪められた大多数の人々の人権の問題を国民並びに政治家はどういうふうに考えておるのであろうかと反問いたしたいのであります。あらゆる点で抑圧されました公務員が政治に不信を抱きまして民主主義に絶望しようとするのは当然でありまして、英国の場合は公務員に争議権もありますし、英国の仲裁委員会の裁定を政府は一度も拒否したことがないのであります。ところが日本の場合は人事院の勧告や、先ほど横山さんもおつしやいましたように国鉄、專売の仲裁委員会の裁定を拒否しない例は殆んどないのであります。而も私は印刷庁の従業員でありますが、印刷庁の労働者のごときはその作業の内容におきましては完全に民間の印刷労働者と同様でありますのに、紙幣を印刷しておるというただそれだけの理由によりまして、一般の行政官吏と何ら区別なき国家公務員法の適用を受けて今日に至つておるのであります。このことは実態を無視しているといいましようか、アメリカの公務員法の無批判な適用と申しましようか、とにかく全くなつていないのであります。こうした中にありまして団体交渉権をすら奪い去られたあわれな官庁の労働組合が僅かに存在しているのでありますが、団体交渉権のない労働組合の存在というものをこれはちよつと想像してみて頂きたいのであります。この団体交渉権のない労働組合の運動というものは恐らく実際に運動しておるものでなければ理解できないものであろうと考えるのであります。而もその団体交渉権のない労働組合が官庁におきましては僅かに今日におきまして民主主義の灯を守り続けて参りまして、政治の不信と反動或いは逆コースと官庁の中においては鬪つておるのであります。こういう情勢に逆比例いたしまして、皮肉にも官吏の腐敗或いは汚職の数字というものは増大しているのであります。これは民主化が後退をすれば官吏の腐敗が増大するということはけだし当然のことであろうと考えるのであります。而してさすがの政府もこれ以上の抑圧は公務員にはし得ないと考えたのでありましよう、この改正案によりまして一部の公務員の基本権の復活を提案しているのであります。併しながらこれは次の諸点におきまして幾多の矛盾と欠陷を示していると私は考えるのであります。  先ず第一にこの改正案によりますと、一般行政官吏と国の経営する企業体の職員とを区別いたしておりますが、この点は従来の例から見ますと著しい進歩でありますが、これは労働基本権の問題とはおのずから別であります。労働基本権の差別をするということは不当であると考えるのであります。公務員法が成立いたしました諸事情につきましては各位のほうがよく御了解済みであろうと思いますので省略いたしますが、その公務員法の成立の事情に鑑みまして、講和の発効がなされまして独立を迎えた今日におきましては、この際公務員全体に労働三権を適用すべきだと考えるのであります。若し国民生活に重大な脅威があるということならばたばこや印刷或いは造幣といつたような企業のほうより電気及び石炭の企業のほうがこれは重大でありますのに、身分的なことだけでこれらの労働者からストライキ権を奪つておるのであります。少くとも公共企業体及び国の経営する企業につきましてはストライキ権を認めまして、その上でこうした公共性との調和を図るべきだと私は考えるのであります。このままの條項を活かておきましては憲法でいうところの民主主義の原則が私は泣いていると思うのであります。更に又現在の政治勢力の下におきましては、或いは言うてもかいのない話かも知れないのでありますが、政治活動の制限は公共企業体関係労働法の適用を今回受ける以上その理由は全く認められないのであります。それなのに国家公務員法の適用をこのほうだけは活かさして政治活動の制限をしようと考えておるのであります。余りむちやなことを言わずにこの際国鉄專売なみには政治活動の自由を認めて頂きたいとこの点をお願いをする次第であります。  第二番目といたしまして、国鉄の横山さんも触れられましたように仲裁裁定の問題でありますが、裁定には服さなければならないという明文がありますのに予算上、資金上の名目で政府が拒否できることになつておるのでありますが、    〔理事村尾重雄君退席、委員長着席〕  このことが幾多の紛争を起して無用の鬪争に労働組合をかりたてて公労法の精神をゆがめておりますことは周知の事実であります。政府ストライキ禁止いたしましていろいろ基本権を奪うならば、当然裁定に従うべきであることは、三歳の童兒でも明らかな点であります。国会に予算を提出せず一方的に拒否できるというのも明らかに不当でありまして、第十六條第一項の「政府を拘束するものではない。」とありますのは、政府を拘束するというふうに修正すべきであると考えるのであります。この点は決して国会の審議権を無視することはならないと考えます。  第三番目に、更にこの政府改正案は、身分法であるところの国家公務員法の複雑な体系の適用と、公共企業体労働関係法の適用との間に、幾多の混乱と矛盾を起しておるのであります。專売の場合は、專売公社法、国鉄の場合は日鉄法、電通の場合は公社法と、それぞれありまして、その企業体に一応即応した法的措置というものが講じられておりまして、それと公企労法との間には直接の矛盾はないのであります。然るに今回「国の経営する企業」というふうに規定しながら、この法的根拠を一般の行政官吏の身分法であるところの公務員法を適用さしているのであります。このことから大変な矛盾が諸條項の至る所に出て来ておるわけでありますが、以下これから申上げますことはその混乱規定とその修正点であります。  根本的に先ず結論だけを先に申上げます。この混乱と矛盾を解決する方法は私は二つしかないと考えるのであります。一つは、新たに国の経営する企業というものを再検討いたしまして、この際公社にすべきは公社にし、それがどうしても不可能ならば国営企業法というふうな法律案を作成いたしまして、公労法との一致を図るべきであります。もう一つは、公労法の適用の趣旨を生かしまして、労働條件に関しましては職員と企業体との合意によつてこれを処理いたしまして、企業の正常な運営を図るため団体交渉権を認めるのでありますから、本法第八條の団体交渉範囲に属する事項に関しましては、国家公務員法の規定は完全に適用を除外することであります。第一の場合のほうが根本的な解決策でありますが、そのことが本国会にどうしても間に合わないならば、少くとも只今私が申上げております後者の点を修正し解決しなければならないと考えるのであります。  そこで、その点に立つてもう少し詳細に申上げてみたいと考えるのであります。ここに私が持つてつておりますのは、この国家公務員法の適用を受ける諸條項と、それから公企労法の適用を受ける條項との分類整理表であります。後のかたは見られないかも知れませんが議員のかたはよく見て頂きたいのであります。それで、この上の短かい條項だけが今回国家公務員中の現業公務員に対する一部基本権の復活を認めたと言われておる條項であります。そうして残る長い條項は、まだこれらの諸君に対しても適用をせられるのであります。これでは公企労法の適用を受けさしたと言つても先ほど横山さんがおつしやつたように名目的な点であります。更にひものついたインチキ極まりない団体交渉権しかできないということは、この分類整理表によつて見られてもおわかりになるだろうと思うのです。そこでこれらの点をもう少し詳しく言いますと、職員に対する給與、勤務時間、休暇、こういつたものの諸般の基準、規則というたふうなものを人事院が指示し、勧告するという規定、即ち国家公務員法の第三條は、この公労法の適用を受ける従業員に対しても又適用せられるのであります。このことは明らかに労働條件の中に占める重大項目であるわけであります。  その次に、給與を直接左右するものでありながら、身分に関する問題として除外されていない職階制の原則が、これ又団体交渉権を與えたと称しておる公企労法の適用を受ける職員に対して適用されるのであります。これが二十九條から三十二條であります。又職員の任免の基準、昇任の方法、休職、退職といつたような根本基準に関しましてもこれ又何人が見ましても明らかに労働條件中の重大事項でありますが、この点につきましても国家公務員法の適用を受けるのであります。分限、懲戒、保障の実施、これは国家公務員法七十四條であります。並びに降任、休職、免職の事由を人事院規則で定める、これは七十五條の規定であります。この点につきましても同様であります。又従業員の勤務状態というものを評定いたしまして、これが将来いわゆる能率給に適用され、或いは賞與等の原則に応用せられることになるわけでありますが、この重大な勤務評定制度に関する規定即ち七十二條につきましても、同じく公労法の職員に適用されるのであります。それから給與の支払といつたような細かい規定につきまして、これは六十八條であります、給與簿に関する規定でありますが、これも又適用を受けるのであります。これは、私が只今申上げておりますことは、適用を受ける條項の極めて小部分に過ぎないのであります。これだけを申上げまして、すべて国営企業の業務の特殊性に基いて、団体交渉権が認められておるにもかかわらず一般の行政官吏と同じ職階制が適用され、或いは又これによつて給與が決定され、或いは給與、勤務時間、休暇といつた基準規則を人事院が指示したり勧告したりするのでありますから、これらは明らかに全部団体交渉権の制約でありまして、交渉当事者としての企業体の能力を制限されるものであることは、今や一点の疑の余地のない明白な点であります。この点は結論的に私が申上げますならば、次のように修正して頂きたいのであります。  これは公労法の第八條第二項、即ち団体交渉範囲に属する事項に関しまする国家公務員法、及びこれに基く人事院規則並びに指令、並びにその他の規定は、この公労法に牴触する範囲内において第二條第二項第二号の職員、即ち公企労法の適用を受ける国の経営する企業の職員には適用しないと、附則の第四十條の四項を修正すべきであつて、こうすることによつて初めてすつきりといたしまして、公労法と国家公務員法との矛盾が団体交渉に関する限りにおいては解決することができると思うのであります。従いまして、現在存在しておりますところの国家公務員の職階制に関する法律、国家公務員災害補償法、国家公務員のための国設宿舎に関する法律といつたふうな法律は、すべて重要な労働條件でありまして、專ら団体交渉の対象とすべき事情でありますから、これらの三項を追加して除外條文とすべきであると考えるのであります。原案によりましては、適用除外規定団体交渉権を認められる企業職員の職務と責任の特殊性に基き、国家公務員法の特例であると規定をしておるのであります。ところが国家公務員法には、この法律のこの規定で適用除外とされても、他の規定や他の関係における規定は影響を受けないと明確に書いてあるのであります。従いまして、飽くまでも二重適用となるのであります。これでは公労法の適用に当りまして、公労法の立法の精神を初めからゆがめておりまして、徒らに団体交渉範囲及び効力につきまして人事院及び労使間の紛議を生じまして、紛争の正常な解決に支障があると考えるのであります。この法案が実施せられまして、現実に団体交渉が始まりまするならば、私が申しておりますることはことごとく具体的な事実となつて現われまして、労使の間に紛争が起ることは明らかであります。団体交渉というものは労働関係において占める重要な意義並びに国家公務員法の複雑な立法体系に鑑みまして、国家公務員法と公労法との団体交渉対象事項との関連を私が申しておるように明確にする必要があると繰返しくどいようでありますが、申述べたいと考えるのであります。  この点につきましては、相手方である管理者も全然異論のないところであろうと私は考えるのであります。すでに私どもの管理者は次のような悩みをこの法律案に対して打開けておるのであります。政府案によりますと国の経営する企業の職員の中で公労法の適用を受けないものがあるわけであります。これは管理又は監督の地位にある者、及び機密の事務を取扱う者、いわゆる非組合員でありますが、これが相当数に上るのでありますが、これらの諸君は公務員法による給與法の適用を受けることになるのでありますが、公企労法による団体交渉によつて定められた給與表、即ち賃金ベースと公務員法による給與表との不均衡の問題は今も現実に存在しておるであります。でこの不均衡が現実に存在する以上このアンバランスをどうして調整することができるのか、これらの諸君に対しては少くとも法律上の闇をやらない限りはこの不均衡を是正することはできないのであります。これでは人事の交流も能率化もできないと当局者が言つておるのであります。この点はこの法律で申しますと、第二條第二項で、国の経営する企業に勤務する一般職に属する国家公務員が適用を受けると規定しておきながら、一方では非組合員たる職員は団体交渉による労働協約の事項を受けることができないというふうになつておるのであります。この点につきましては、一応公社関係も同断でありますけれども、公社の場合は公社の非組合員は公務員法のような給與法の適用を受けなくてすむのでありますから、団体交渉によります労働協約事項というものは当然準用され、一本の給與法でその間に矛盾はないのであります。ところが先ほども申しましたように、二本の給與法の適用を受けますから、明らかに大きなアンバランスが生じて来るのであります。このアンバランスが現実に起り得ないと考えるのは、今までの現実に故意に目をつぶつておるものであります。又このアンバランスを知つた上でこういう改正案を出したものであるとするならば、団体交渉によるところの賃金協定の線も常に一般公務員の賃金の線に置かんとする意図があるからであると考えるほかはないのであります。そうなりますと、この與られた団体交渉権はいよいよ有名無実のものになるほかないと考えるのであります。従つてこの点に関しましては、公務員法との規定にかかわらず公労法による団体交渉によつて定められた団体協約は、これら非組合員たる公務員にも準用されるように修正すべきものと私は考えるのであります。  時間が来ましたようですから簡單に申上げますが、第三に附則第一項の但書即ちこの法律の施行月日について公共企業職員に対しましては昭和二十八年三月三十一日までに政令で定めると規定されまして、必要なる準備が整い次第速かに実施すると説明をせられておるのでありますが、併し今回公社移行の電通職員に対しましては七月一日から適用をするのでありますから、公社移行のために複雑な準備を要しまする公社より以上の準備が、これら国の経常する企業の職員及び企業体に必要であるとは到底考えられないのであります。例えば公社移行のために直ちに本法が適用される趣旨であるにいたしましても、同一の電通職員は八月一日から、郵政職員は明年三月三十一日までの間に団体交渉権が認められるという措置は、両者とも団体交渉権を認めるという趣旨から見て甚だ不均衡であると考えるのであります。企業体の特殊性からこれらの労働関係解決を団体交渉によりまして、自主的に処理する原案の精神に則りまして、直ちに適用すべきであると考えるのであります。  でこんなわかりきつたことを政府が原案で固執しておりますのは、次のように想像せざるを得ないのであります。来る給與改訂を人事勧告の線で行なつて、補正予算案の中にこれら企業体の職員の給與予算をいわゆる予算総則によつて縛りまして、その移用、流用は大蔵大臣の認めるところでなければ一切できないというふうな形にした上で、団体交渉権をこれらの職員に與えようとするのではないかと疑われても仕方がない点であろうと考えるのであります。こういうふうに見て参りますと、果して政府はこの提案説明の中に言つておりますように、自由にして正常な労使慣行というものをこの本法のどこに求めているのか、誠に疑わざるを得ないのであります。要するに本改正案は、国の内外からの世論に押されて、現業公務員の基本権の一部を僅かに認めたことに過ぎないのであります。その他の点は殆んど修正せられていないのであります。而も労働基本権の回復事項たるや、国家公務員法と公労法との適用による矛盾と混乱とを至るところに示しまして、官業労働者は勿論のこと使用者を嘆かしめるところの支離滅裂なものであります。速かに参議院の良識と名誉によりまして、本法律案の欠陷と反動的な諸点を修正されて、只今私が申しましたような労働基本権の回復條項が明確に修正されまして、独立後の官庁労使関係が正常なルールに一日も早く乗ることを期待いたしてやまない次第であります。
  47. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 続きまして中山君にお願いいたします。
  48. 中山一

    公述人中山一君) 私は都市交通の政治対策部長中山でございます。私は三つの法律案のうち、地方公営企業労働関係法の直接の適用対象でありまする電車事業、バス事業或いは水道事業等の公営企業に従事する労働者を代表して、政府原案に対して意見を述べたいと思うのであります。  時間がありませんので、先に基本的態度を要約いたしますと、先ずこの法案につきましては反対であります。我我は基本的な労働組合法、労調法等のいわゆる労働三法を完全適用しろということを主張したいのであります。併し次善の策といたしまして、次の諸点について修正を強く主張したいのであります。  第一番は団結権に対するところの不当制限規定の排除、次に第六條の專従職員に対するところの專断行為を協議事項にするということ。  次に第七條の団体交渉に対するところの不当制限を修正するということであります。  第三番目は、第八條から第十條まで規定しておりますところの條約或いは予算又は資金上の問題と労働協約との関係についての規定について甚だ矛盾する問題がありますので、これをもう少しずつきりした形に修正してもらいたいということであります。  次に第十一條の争議行為の禁示の規定でありますが、これについては絶対反対を叫んで全面削除を要求するものであります。  第十二條の罰則の問題は御趣旨から当然であります。  次に第十四條から十六條に亘るところの調停仲裁の開始並びに仲裁裁定の問題について、少くとも仲裁裁定によつてあとに労働不安がなお残るというようなことについては改めてもらわなくてはならない。これは国鉄等に今日まで実績がありまする公企労法の例を見ましても当然であります。以上の問題につきまして時間の許す範囲においてその修正意見理由を述べたいと思うのであります。  我々公営企業に従事する労働者は、たまたま身分が地方公務員であるという理由から、昭和二十三年七月三十日に発布されましたポ政令二百一号に縛られまして、団体交渉権、罷業権等の否認という極めて不当な制限を受けたまま今日に至つておるのであります。我々は憲法第二十八條によつて保障されておるところの労働基本権に対するこれら不当な制限を排除して、正常な労働関係を確立するために、政令二百一号の撤廃、即ち団体交渉権、労働協約締結権、罷業権等の復活を実に四年の長きに亘つて主張して来たのであります。少くとも講和発効後におきましては、占領中における憲法違反の内容を持つところの政令二百一号は撤廃せられて、我々の労働基本権は復活されるものと期待していたのであります。然るに今回政府が提出いたしました地方公営企業労働関係法を見まするに、僅かに団交権を制限付で許すという内容に過ぎないのであります。団体交渉権を制限付で許すというのでありまするが、政令二百一号下においても実際上は団体交渉をやつて来ております。でありまするから、我々にとつてはこの法律というものは、何ら與えられるものは一つもなくて、全部鉄の鎖で我我の労働基本権を縛りつける法律であるという内容のものであります。従いまして第十一條、第十二條の規定については、我々労働者は絶対に服従できないというのであります。で政府我我都市交通を律するのに国鉄等に対する公全労法を見本として作つたと、こういうように提案説明において述べておるのでありまするが、その公企労法そのものが前公述人から申述べられましたように、矛盾だらけの内容の法律であります。その矛盾だらけの内容の法律を以て我々の新たに制定せんとするところの法律の見本としたというのでありまするから、当然この内容は矛盾だらけのものであるわけであります。  我々都市交通の労働者の業務の性格及び実態というものは、私鉄の労働者に大体匹敵されると思うのであります。一例を申しますると、東京の地下鉄の労働者ストライキができる。大阪の地下鉄の労働者ストライキができない。広島の市内電車の従業員はストライキが認められておる。併し呉市の市内電車の従業員はストライキをやつてはならない。それから福岡の市内電車はストライキをやつてもよろしい。併し熊本の市内電車はストライキをやつてはならん、こういうのが今回政府から提出されておるところの地方公企労法の内容なんです。どなたが聞いてもこれほど矛盾した法律は先ずないと思うのであります。でこの両者の関係につきましては、一方は都市交通である。一方は私鉄である、こういうことからして区分しておるのでありまするが、労働者の業務の性格、実態というものは何ら変らないのであります。それにもかかわらず、その労働関係に対する法律規定は、前者に対しては労働三法を完全適用し、罷業権を與え、後者に対しては労働争議権を全然否認しておると、こういうことであります。従つて我々としては第十一條の争議行為禁止ということは絶対に承服できない規定である。而も実態においても甚だ矛盾しておるものである。  政府はこれら労働基本権に対する不当制限の理由として、なお身分が公務員である、或いは経営主体が公共団体である、或いは公共の福祉ということを挙げておりまするが、第一公務員の基本的性格から争議行為禁止するというならば、この法案と表裏の関係にありまする地方公宮企業法は身分関係を律する法律でありまするから、そのほうの法律において規定されなくてはならないのであります。然るに公営企業法のほうにおいては公務員法の規定の適用関係におきまして争議行為禁止の條項は排除されておるのであります。かような形式上の立法技術の面からでなく、公務員の性格を規定付けておりまするのは憲法第十五條の、公務員は、国民の全体に対する奉仕者であるということでありまするが、この憲法第十五條の規定というものは、公務員の中立性を保持しなくてはならないという規定でありまして、憲法第二十八條の労働基本権を蹂躪してもよろしいいんだ、この十五條の規定によつて二十八條の基本権を蹂躪してもいいということにはなつていないのであります。又経常主体が公共団体であるという理由は、單なる我々の労働基本権を圧迫する理由の詭弁に過ぎない。それからただ憲法二十八條の労働基本権を制限するのには、憲法十三條でいう、いわゆる公共の福祉、これだけが労働基本権に対する一つの制限理由ということになるのでありまするが、公共の福祉というものは公益でございまして、国民生活に及ぼす影響ということであります。  そこでお考え願いたいことは、私鉄十三万がストライキができて、都市交通僅か四万がストライキができないということは甚だ国民生活に及ぼす影響、公共の福祉という観点から考えて甚だ矛盾した取扱でないかと思うのであります。併しながら我々は企業の性格又公務員たる責任を全然考えないというのではないのでありまするが、いずれにいたしましても、この十一條の條項だけは是非とも撤廃或いは修正をして頂かなければ到底承服できないということであります。  次に第五條の団結権に対する不当制限でありまするが、第一項においては労働組合法の第七條のシヨツプ約款を禁止しており、第二項においては、当然この第二項の規定というのは労働組合法第二條によつて明確な問題でありまして、あえて政令とか條例というような問題によつて問題を複雑化する必要はないのであります。で第二項の規定は全く団結権に対する不当侵害でありまして、この第五條の団結権に関する規定というのは有害無益な規定でありますので、基本的に全面削除でありますが、最小限度以上述べました線によつて修正を願いたいと思うのであります。  第六條の專従職員に対する許可制の問題は、これは平和な労働関係を確立するための民主的な労働関係考えた場合において、その労働組合運動の基礎的要件でありまする專従職員の設置の問題を使用者の專断事項である許可制でやる、こういうようなことは決して平和な労働関係に寄與するゆえんでないと思いますので、これは協議事項と改めてもらいたいと思うのであります。  次に第七條の団体交渉範囲でありまするが、その第一項において管理、運営に関する事項は除くとしてありまするが、このことは第二項にいうところの団体交渉事項と競合する問題について労使の紛争が絶え間がないという問題が起りますので、これこそ労使の紛争を捲起すたねを第七條でこしらえておるということで、決してこの立法の精神に副うものでないと思いますので、第一項はこれはないほうがよいと思うのであります。もとより我々は経営権を侵犯するという考えはないのでありますから、一般産業と同様情理によつて当然これらの区分はつくのであります。併しながら最小限度経営協議会を設置して協議することを妨げない、或いは第二項の団体交渉事項と競合する問題については、団体交渉事項として取扱うという点を明確に規定付けられたいと思うのであります。その他団体交渉事項において共済及び福利厚生に関する事項、或いは就業規則に関する問題、或いは任免、採用に関する等の問題を明確に挿入されたほうがより平和な労働関係確立の上に寄與されるのではないかと思うのであります。  次に第八條から第十條に亘る規定は條例或いは規則或いは予算又は資金上に牴触する協定との関係規定されておるのでありまするが、第八條及び第九條における規定と第十條における規定とを見ましても甚だしく矛盾があるのであります。第十條の予算及び資金上に関する協定の効力発生の問題については、議会の承認があつた場合においては、その協定に記載された日に遡つて効力を発生すると規定されてありまするが、この第八條及び第七條には効力発生に関する規定がないのであります。従いまして予算だけの問題ということはないのであります。仲裁裁定においても同じでありますが、労働協約においても少くともまとまつた一つの協定案の内容というものは、條例にも関係いたしますし予算、資金にも同時に関係を及ぼして来るというのであります。然るに同一の協定によつて予算、資金の問題については協約の締結の日に遡つて効力を発生する、條例については議会任せである。こういうことになりますると、実施上においてこれがいろいろ紛淆が起る種をまくということでありまして、これらについても是非とも紛淆の起きないように一致したように解決してもらいたいのであります。なお第八條の條例の手続関係におきまして二重手続が第一項と第二項においてしてありまするが、これらは一元的な手続関係にして頂きたいと思うのであります。  次にこの調停仲裁の開始の問題について強制調停或いは強制仲裁規定を設けておりまするが、これは決して労使の自発的な労働関係解決ということにならないのでありまして、こうした権力制度になるような規定は排除をして頂きたいと思うのであります。第十六條の問題は仲裁裁定に対する効力の問題であります。これが折角仲裁裁定が出ましてもこの仲裁裁定に服従しなくてもかまわないようになつております。これは裁定は労使がこれを履行するか、実施するかということは労使の勝手であると、こういう法律でありますので、折角強権を発動して仲裁裁定を出した、それでもその裁定に服す、服さないは勝手であるというような法律であつては、これは労働不安の絶え間がない、こういうことになりますので、仲裁裁定については公営企業の当事者は服従しなくてはならない、こういう規定を挿入する必要があると思うのであります。  以上が大体修正して頂きたい要点でありまするが、不幸にしてこれらの修正が何ら一顧だに與えられず政府原案のままこの法律が実施されるということになりますると、いよいよ以て都市交通関係においては労働不安の絶え間がない、こういうことになりますので、どうか我々の切なる修正点については特段の御配慮をお願いしたいと思うのであります。
  49. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 最後に占部さんにお願いいたします。
  50. 占部秀男

    公述人(占部秀男君) 自治労協の委員長占部でございます。重複したところを省いて問題を地方公営企業労働関係法案に集中して申上げたいと思います。省いた点につきましては労働組合の代表のかたがたがいろいろと申上げましたところと殆んど一致しておりますのでその点省きたいと思います。なおこれから述べます意見でございますが、この点につきましても我々の団体から労働委員の皆さまがたにすでに意見書が配られておりますので、特に関心の多い点だけ要点的に申上げたいと思います。  先ず第一にこの地方公企労法案というものの対象の問題でございますが、御存じのように一昨年の十二月の八日に地方公務員法通りまして、そのときに只今私の前に公述をいたしました中山さんの属しております市内電車であるとか或いはバス等のような公企労関係、又私たちの組織に大部分を持つております單純労務関係は、身分は公務員であつても、実体は私企業と何ら変りはない、従つて附則二十項、二十一項で労働組合法の適用をするような特例をしようというような形で拔き出されていたわけでございます。で具体的に申上げますと、例えば東京のような場合ですと、皆さんの御家庭の汚物をいろいろ清掃するところの、いわゆる昔でいえばおわいやさんという清掃事業から、物を製造する者、或いは土木建築、或いはお百姓さん関係の農林畜産、或いはお医者さん関係の衛生、病院関係、その他屠殺から、昔隠坊燒きと言われました燒却場、或いは旅館、食堂、中には公益質屋まで含まれております。こういうものは実体的に見ましてこの地方公企労法のかたがたと何ら変りはないのでありまして、従つて当時の地方公法の制定の経過から見まして、同時にこの人たちに対する特例法が出されるのが至当なわけでございます。今度のこの法案が出ます過程におきましても、労働省としては單純労務関係の者たちをこの地公労法の中で同じように適用する、こういう原案を出したのを閣議で削られておるような状態でございます。ところで、なぜ閣議で削られたかと申しますと、單純労務関係といつても例えば東京都のような場合百は七百五、六十の職種がある。従つてつかみにくいというようなことから閣議で削られたというふうに聞いておりますが、併し、国のほうといたしましても我々のほうと同じように郵政、電通、或いは農林というような事業が、今度労働組合法の適用を受けるようになつて来ておるのでありまして、我々のほうの関係の現業だけをそのまま放つておくというような理由は少しもないのであります。而もこの七百五十幾つという種類のつかみにくいというのでございますが、これは法律的にはつかみ得るのでございまして、先ほど電産の藤田さんから申しましたように、縦割現業の原則に基きまして、それぞれの個々の職種について地方の條例に任せるならば、地方のそれぞれの自治体におきまして結構対象としてつかみ得る余地を持つておるのでございます。従いまして、今日單独立法にできないという段階におきましては、先ず單純労務関係の君たちを、つまりこの法律の第四條から第六條までと、第八條から第十六條までの規定を適用すると、こういうことにお取計らいが願いたいと思います。そうしないと、非常に不公平な工合になつて来るのではなかろうかというふうに我々は考えております。  そこで、第二の点でございますが、以上のような観点に立ちまして、この法を適用するところの組合の構成に関する意見、つまり内容の第四條、及び第五條の問題でございますが、この第五條におきまして、單純労務の職員を、一般地方公務員法の適用を受ける当該公共団体の職員と団結することができるということを一項入れて頂くと同時に、第百五條の冒頭にありますところの、「職員は、労働組合を結成し、若しくは結成せず、」というこの「若しくは結成せず、」というような字句は削除して頂いて、二項も三項も共に削除が願いたいと思うわけでございます。と申しますのは、法の建前から行きましてもこうした扱いは団結権の侵害でありまして、組合組織のいわば内部干渉になる問題でございます。特に追加を願いたいというのは、我々單純労務の関係は、例えば東京のような場合でも清掃関係は六千も職員がありますけれども、給仕その他については各職場に個個ばらばらに散つておる、こういうような事情に適合してお願いをいたしたいというわけでございます。  第三に申上げたい点は、この法案の中に示されております団体交渉とその結果についての問題でございますが、これは二つの点について特に御留意が願いたいと思います。先ず第一番は、団体交渉の対象の点についての第七條でございますけれども、ここに管理及び運営云々の問題がございますが、これはすでに国鉄その他から申上げましたので私は申上げたくないと思いますが、これはどうしても削除して頂きたい。むしろ第七條は削除して頂きたいのですが、全文削除できない場合には、この冒頭の字句は削除して頂いて、更にこの第二項の中をもつと詳細に規定して頂きたい。これを私どもは一つ意見でございますが、例えば就業規則、シヨツプ制、組合活動に関する事項、或いは経営協議会、或いは福利厚生、こういうような点を団交の対象としてここに詳しく一つ幅を拡げて頂きたいということでございます。  次に団交の協定の結果についてでございますが、これは中山さんからも申上げましたが、この法案によりますと形だけは団体交渉は與えられておりますが、その結果に対しては非常に制限して、むしろその結果が出にくいような工合にできておるように思います。我々は職員として市長或いは知事その他からいわゆる身分上の何と申しますか発令を受けているのでありますけれども、その実体は市長の職員ではなく、知事の職員ではなくて、府県或いは市という公共団体に属しておる職員であります。従いまして、この職員と公共団体のいわば執行機関である理事者側とがお互いに協定し合つたものはその後の事態が効力があるようにして頂くのが、これが法理的にも当然であると思うのでありますが、この法案によりますと例えば執行機関が認めたとしても議決機関が認めない場合は、協定そのものまでも否定するような状態にな、つて来ると、これは非常に甚だ遺憾でありまして、仮に執行機関が協定をして議決機関がこれを否定したような場合においては、その協定をしたところの執行機関の長である市長、若しくは知事の責任問題はあるでありましようけれども、協定の内容そのものまでも否定するような行き力については、これは非常に我々職員だけではなく、法理論的な建前からいつても問題になる箇所ではないかと私は考えます。以上のような点を一つ御留意を願いたい。  最後に、争議行為禁止であるとか或いは調停裁定の問題であるとか、これは中山氏の言われた通りでございますが、ここで二つの点を一つ、この法案に直接間接に関係がありますので最後にお願いをいたしたいと思うのでありますが、第一点は水道事業に対する取扱といいますか、水道事業に従事しておる職員に対する取扱の問題でございますが、この法案と表裏一体をいたしますところの地方公営企業法案によりますと、五十人以下の者は扱わんというような形になつておりますが、これは非常に、その人数の多募によつて同じ水道事業の従業員に対する扱いが違うということは、不公平も甚だしいことであると私は考えます。これは同じような扱いに願いたいと同時に、例えば東京都のような場合に今日上水と下水とは切離し得ないような実態にある。つまり上水の問題は水洗便所が相当普及しておりまして上下水道というものは切離し得ないような実態にあるのであります。こうした実態にあるところは特別な取扱ができるように考えて頂きたい。そうしませんと、折角の法律が空文になるところの憂えがあるとを指摘いたしたいと思います。  最後のもう一つの問題は、これは法案には直接関係はございません、間接の問題でありますが、地公法の問題であります。これはさつき横手君から国家公務員の問題につきまして、いろいろ現状を話されましたので私は余り敷衍したくはございませんが、この地方公務員法が施行されましてから今日地方の現地の労働組合のいわゆる労働関係はどうであるかと申しますと、人事委員会というものが設けられましたが、この人事委員会は給與その他の問題で勧告一つできないような状態であります。もう三年間もたつておりますが、開店休業というよりも看板だけ掲げて仕事をしないという、まあ非常に無責任といいますかできないような実態でございます。こういうような結果我々の職場では地公法の状態がどうあろうともやはり団交をやり、或る場合には実力行使をやつて物事を決定しておる、こういうような状態でありますので、この委員会におきましてもこれと間接的に我々のほうでもあとで問題を起すようになると思いますが、地方公務員の諸君には団交権はやはりはつきりと認めるように一つお取計らいを願いたい。このことだけをお願いいたしまして私の公述を終りたいと思います。
  51. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 以上で各公述人公述を終りました。各委員からの質問を許します。
  52. 早川愼一

    ○早川愼一君 藤田さんにちよつとお伺いいたしたいのでありますが、先ほどの御発言の中に緊急調整使用者側の意見である、こういうふうに出ておりましたが、私どもの承知いたしておりまするところでは政府公益委員意見をとり入れた、こういうことになつておりますし、又審議の経過を見ましてもいわゆる公益側の我妻案というものが提出されまして、それがとうとう労使双方の意見が一致せずに終つたというふうに聞いておりますが、先ほどの御意見とちよつと食い違いがあるようですが、その点を明らかにして頂きたいと思います。  それからもう一つついでにお伺いいたしておきたいのは緊急調整の場合の争議権の制限と申しますか、争議権禁止と申しますか、この点についてけさほど中山公述人のお話によりますと、大体五十日は調停でもかかつておる、調停案が出ますまでに五十日はかかつておる、なお又現在の労使間におきまして調停案が出ないのにストライキに入つたという慣行もないというお話もありましたが、そういたしますと緊急調整は現在の状況から見ましても手続はいろいろ問題があろう思いますが、とにかく実情から見まして制限といえば制限になりますが、事実の上から見ますと五十日くらいはかかつておるという実情から見て特に藤田さんは中央労働委員にも関係しておられますので、よくその間のことは御承知だろうと思いますが、それらとこのやはり緊急調整というものは不当なる制限であるというお考えでありますか。
  53. 藤田進

    公述人(藤田進君) お答えいたします。最も問題になつておりまする一項として御質問緊急調整の案が、これは使用者側の案であつたということを申上げましたので、この経過を若干ここで解明いたしましてお答えにしたいと思います。  法令審議委員会が持たれましたのが昨年の十月十二日、これが三月二十五日の労働大臣に対する答申案のその過程に公益委員として先ず出された第一次案、特に我妻委員長の主催された小委員会の結論として労働法学者の立場からされた現状日本労使関係からこれが最も妥当であり公正であるといういわゆる第一次案なるものには、この緊急調整なるものは、全然含まれていなかつたのであります。これが次第に法務府並びに労働省当局一連の政府或いは使用者側等の折衝の過程で遂に第五次案に姿が変つて出て参つたのであります。その第一次案から第五次案に至るまですでに経営者、使用者委員が特に公益事業については緊急調整ができる條項をとるべきであるという具体的な文書による案が提示されていたのであります。このような事情の下にあつて我々労働者側の委員労働法令審議委員会におきまして第一次案を指示いたしまして、一部に反対の者も勿論ありましたが、この中には御質問とも若干関連もありまするので申上げますると、縦割現業の公務員に対して基本権を與えるべきだというものも含まれておつたのであります。今の御質問緊急調整はさような経過からだんだん押流されて、労働法学者である委員としても私どもに覆われた点は本当に法律の立場、労働法の立場から結論を出すならば誠に理路一貫しない、恐縮いたしますけれども今の政治情勢等等から信念を曲げた、こういう第五次案になつたのであるから了解してもらいたい、こういうことさえ当時言われていたのであります。従いまして公益委員案として出たかに見えるがこれはさような経過で一次案より五次案の過程において使用者委員が出されたものをそのまま公益委員側案として出さざるを得なかつたという事情があるから、表面的には公益委員案に見えるけれども本質はそうでないということを申上げたのであります。  次に争議権の制限に事実上ならないというゆえんは、現在の労調法三十七條の扱いについて成るほど五十日はおろか二カ月或いは三カ月くらいの調停期間を要しております。これは結局基準法などでたとえてみても非常に違反する事実が多いから結局基準法が惡いのだという理論に持つて来られるのと同じで、やはり非常に長期の調停の日数をかけてやるということは事案の性質上許さるべきではないと思います。が、ここに緊急調整として五十日と出ておるものは早川議員も御案内のように、先ず調停申請して十五日引続きプラスの五十日合計六十五日、こういう実態ではないと思います。十五日の調停申請以後日にちを数えて調停案がいつ出るかこれはわかりませんが、一応十五日経過いたしますと罷業権が発生するということが言えると思います。これは極めてノーマルな状態であつて、若し煮つめていないという状況下であるならばこれは何日目に罷業権が生ずるかわからないが、仮にノーマルな状態で申請いたしまして十五日たてば罷業権が発生する、調停案も出た、そこで調停案に対する態度として受諾できなくて使用者側がしばしば拒否しておりますが、こういう事態は将来も予測できるのでありますが、仮に組合側が調停案を呑んでも使用者側がこれを拒否したならば勢い団体行動に訴えざるを得ないのでありますが、その団体行動に訴えて何日かたつていよいよ使用者側もここらで何とか出すべきものは出して解決しなければならないという、その直前に緊急調整という発動がなされるのでありますから、従つてストライキに入つて、而も将来を予想して国民に重大なる損害を與える云々で以て、仮に争議行為発生後一カ月くら調整が出るならば優に九十五日間といいで緊急うことになると思うのであります。このような状態でありまするから今言われておりまする五十日程度は事実上調停に日にちがかかり、而もその間争議行為が行われた事例は極めて稀だ、よつてこの緊急調整は事実上争議行為の制限又は不当なる抑圧にはならないということが我々には理解ができないのであります。若しこれを従来の日通或いは私鉄、電産等の公益事業の曾ての罷業の日数等から考えてみますると、大体争議行為に入つて二カ月場合によれば三カ月目に何とか解決を見るという状態であり、そのときは争議行為の段階からいえばだんだん強化されて来るというのが実情であります。途中でゆるめることなく次第に争議状態は深刻化して行く。そうなりますと、三カ月でいよいよ緊急調整が出るということになれば、これは九十日プラスの五十日で百四十日、それに十五日でありまするから百五十五日、大体二百日ぐらいはどうにもならないということになる。であるから事実上争議行為禁止にひとしいものだとこういうふうに申上げたのであります。
  54. 木村守江

    ○木村守江君 ちよつと菊川さんにお伺いいたします。先ほど労働法というものは、これは生きた法律でなければいけない、御尤もだと思います。すべての法律が私はそうでなくちやいけないと思いますが、特に労働法においてはそういうような感じを持つものであります。そういう点から考えましてそのときどきに応じて法案改正されて行かなければならないというようなこともわかりますが、独立後の日本の現在におきましてこのままでいいとお考えになりますか。特に最近のいわゆる労働スト、ややもすれば政治ストの疑いを持つようなストが行われるというような際、何らかそういうものを矯正して正常なる労働ストというものにしなければならないことを考えなければいけないのじやないかと思うのですが、それに対する御意見を伺いたい。
  55. 菊川忠雄

    公述人菊川忠雄君) お答えする要点が二つあるように承わつたのですが、一つは特に労働関係の法規は生き物であるという表現をいたしましたのは、そのときどきの労使関係調整することにやはりぴつたりと間に合うという状態にあるということが一番望ましいのでありまして、従つてほかの法律と違つて裁判所の判決例、そういうもので積み重ねて行くというような性質のものであれば、非常に訴訴手続その他で時間を要するのでありますからして、そういうものでなく間に合うという意味において他の法律と特に区別をして、仮に生き物であることが望ましいとこういうことを言つたわけであります。併しながらそれはだから何でもかんでもその場当りにつぎつぎと変えることが積極的であるとは私ども考えないのでありまして、やはりそこに一つの方針がなければならない。その方針は、私どもやはり自主的な労使交渉とかいうものが基本となつて、そうしてそれが初めは時間も要し、或いは訓練も足りない未熟な点もございましようけれども、それがやはりだんだんと労使並びに政府当局三者の間で訓練を積むことによつて、又それを国民も批判することによつて、そうしてこういう問題は自主的交渉がだんだんと強化される、こういう線だけは逸脱してはならない、こういうことであるのであります。でありますから、そういう点におきまして、今回の労調法などの改正案につきましてはどうもやはり逆行の傾向が明瞭でありますから反対をする。従つて今日はそういう形のものをすべきでなくて、むしろこの際は現行の労調法その他労働法規、必ずしもこれで我々は過去の経験から見まして完全とは考えておりません、いわんや講和発効後のこの大きな情勢の変化において根本的にやはり考え直さなければならぬところの部分も多くあると思うのであります。けれどもそういうものを含めて、そうしてこれを解決すべきであつて、而もこれは何も講和が発効したから、今の内閣の存命中にその講和後の緊急事態に処してやらなければ間に合わない要素は殆んどないと私は見ておるのでありまして、真の国民の新しい気分を盛り込んだ総選挙後の情勢において政府が、国会がこれを十分に審議なさつて、結構ここ僅か数カ月のことであるからして間に合うのじやないか。何を好んで今この際に絶対多数の置土産で無理なさるほうが効果のないことではないか、こういうことが私の根本的な見通しにあるわけであります。  それから第二の点は労鬪ストのようなことが現在あるのに、それでも現在の労働法規で間に合うか、或いはこういう問題に対して何かやはりこれを矯正し、或いは指導するといつたような考えから、この改正は必要でないかというふうに受取つたのでございますが、これは問題がやはり労鬪ストという問題についての見解について或いは私どもと違つておる点があるのじやないかとこう思いますので、そのことを幾分私どもの見解を申上げながら御説明申上げないとわからないのじやないか、こう思うのであります。併しながら時間の関係もありましようから結論的なことだけを申上げますれば、私どもは今日の労鬪ストというものが一般に政治ストである、こういうふうに仮に言われておる向きがございまするが、併しその場合の政治ストという一体言葉は、どういう問題を指しておるのかということが、言う人によつて先ず吟味を要するものではないかと思うのであります。例えば最初に出ておつた頃のように現行労働組合法なり或いは労働関係法規において経済的な目的を主たる目的とするところのストライキ行為、これは経済ストである。従つてその労働組合法の保護なり救済を受け得ないところのストライキ、これは政治スト、こういうふうな区別をするところの場合の政治ストという言葉は、これは私は單に労働法規を尺度としてのことであるからして、このことについては、今日の労働組合がそういう意味の政治ストとしてこれを認めてやつておるのか、それとも又これは必ずしもそういう意味の政治ストと我々は考えないとしてやつているのか、この点につきましてもそれぞれの組合においての見解がまだ違う点があると思います。又これに参加するところの方法といたしましても、その組合自身が従来の団体交渉上の問題を取上げたとして、時限ストという形で時を同じくするものもある。或いはそういう問題のないところに、この政治的な目的のために時間を限つてそうして作業の放棄をやるという行動をとる所もありますので、その実態によつても一概には言えない点があると思います。でありますから、このようなことでいわゆる労働組合がみずからの政治的な要求というものを、これを世論を通じて国会に力強く反映さすというためにとるところの行動、その半面においてそれが従業員の全部であるか、或いは一部分であるか、そうして又二十四時間というふうな一日であるか或いは二時間というようなことであるか、場合によれば時間外の労働の拒否という形であるか、或いは賜暇をとるというような形であるか、そういう形において団体交渉或いは労働協約の手続をふんでそうして合法的に作業の時間を放棄をするという行動が伴うに過ぎないのであります。でありますからこの範囲におきましてはやはり民主国家において国会を尊重し、そうして労働組合員も自分の政治的な要求というものを自分たちが選んだところの代表者を通じてそうして国会に実現を期するということはこれを十分に認めてかかつておるのでありまして、従つてこういう点におきましては民主主義の原則の上に民主主義国家における国民としての政治運動の枠を決して逸脱をしてないのであります。ただその行為をするためにたまたま自分の職場の作業時間の一部か全部を放棄するという行為が伴うのでありまして、その部分がいわゆる政治スリである、こういうふうに言われるのでありますが、これは私どもから見ますれば決して非合法でもなければ、いわんや労働省が先般通達しましたようなこれが憲法における労働者の団体行動権から逸脱するところの違憲行為であるというようなことは勿論我々は毛頭考えないのでありまして、却つてかような憲法の名においてそうしてこういう行動をすら抑圧しようとするところに却つて反動性があるということを我々は警告をしたいのであります。でありますからそういう点において今日の労鬪ストというものは、何らこの行為があつたからこれが直接労働法規の上において取締をするために労働法規を急に変えなければならんという性質のものではないと考えております。いわんや従つてこれを理由として今後やはり何かゼネスト禁止法を計画するというふうなことがありますれば、これはむしろもつと恐るべきところの逆効果を生むのではないかとこう考えます。というのは、こういう民主的労働組合がやるところのこういう政治行動がたまたま職場放棄を伴うという、つまりストライキ行為を平面に伴うということは、これは決して本来民主的労働組合運動のあり方に徹底をしようとするものから見れば好ましいこととは思つておりませんけれども、今日ただ労働組合に対してのみ民主主義に徹底せよということを幾ら要求いたしましても、一方において政府なり或いは今日の政治情勢の中になお日本全体を挙げて民主主義の成長の過渡期にあり、或いは一部にはいわゆる逆行の傾向すらある、こういう中において、ただ労働組合のみこの中においてみずからのやることは一から十まで寸分民主主義の理想的な原則、ルールから離れてはならないということをこれを要求することはいささか無理だろうと思うのであります。でありますからして私どもはそういう点におきましては、やはり好ましくないけれども、今日の政治情勢においてはより強力に自分たちの意思をもつと反映するために、かような手段もとる労働組合もあるということで以て我々はこれをそういう労働組合事情を了とし、又それを賛成し得ないところの労働組合は賛成しないところの労働組合において、別個の立場において同じ目的を達するために鬪うという方法があり得ると我々は考えておるのであります。でありますから我々はこういう見解からいたしますれば、今日の労鬪ストというものは、むしろその労働組合がこういう方針をとつておるということは、二・一ゼネストのごとく明らかに政権鬪争の手段として労働者を動員し、そのために労働組合を動員の機関としているところの方針とは本質が違うのでありまして、従つて何らこれがゼネスト的な考え方の下に指導され或いは企画されておるものでないのでありますから、飽くまでもこれはやはり民主主義の成長発展の過程において起つておるところの一つの事柄である、やがて日本の民主化のもつと安定すると共にこういう傾向は労働組合におきましてもだんだんと本来の民主主義的労働組合のとるところの政治行動のあり方に落付いて行くであろうとかように我々は考えておるのでありまして、この点を混同されることはむしろ危險であるとかように考えておるわけであります。
  56. 木村守江

    ○木村守江君 そうすると総同盟に属されておる菊川さんは、最近のいわゆる破防法とか労働法改正に対する反対の政治スト、これに対して好ましくなつい労働鬪争だということはお認めになりますね。
  57. 菊川忠雄

    公述人菊川忠雄君) 私は率直に申しますと、今日の破防法なり或いは労働法規改正問題について、これに対する反対は、すべての我々民主的労働組合は同じ立場にあるのでありますから、この鬪う鬪い方が労働組合それぞれの立場と事柄によつて違うということは、これは我々労働組合内部の問題であるのであります。でありますからして、この鬪い方が違うから我々がこの問題についての考え方が違うわけではございません。従つて私どもは労鬪ストにつきましては、労鬪ストのその方針に我々は同調し得ないから一緒にやらないだけであります。併しながらそれ以外に方法がないわけではないのであつて、私どもは労働組合挙げての大衆的な民主的な立場における政治鬪争として、これを国民運動の一環としてそうして強力に展開する途がある、こういうことからそのほうがより有効であるという考えも持つてつて、そうしてやつておるのであります。でありますから、労鬪ストという方法をとることが最も有効であるとしてやつておるところの団体の諸君とはやり方においては違いますけれども、併しながらこれはやはり今日の民主的労働組合の発展の過程においては、当然どこにも起り得るところのそういう凸凹は止むを得ない、かように考えております。でありますから絶対に反対という意味ではございません。
  58. 木村守江

    ○木村守江君 大体わかりましたが、結局最近のいわゆる労鬪ストというものは、まあ反対ではないが好ましくないというように解釈できるのですが、そういういわゆる労鬪ストというものが、これは或いは合法的で何ら差支えない、或いは労働組合の内部的なもので差支えないと言いますが、私は本当の労鬪スト、正しい労鬪ストでないもののために労働組合員が自分の労働権を放棄するということによりまして、世間に迷惑をかけるというような点は私は法律を離れてやはり考えるべきではないかと思うのですが、如何でしようか。
  59. 菊川忠雄

    公述人菊川忠雄君) 私が言う意味の好ましくないということは、労鬪ストについては止むを得ないということは、これはやはり先ほど申上げましたように、今日の日本の民主主義の未熟な過程においては、こういう問題に限らずあり得ることであります。殊にこの問題について、従つてなぜ一体民主的な労働組合を、みずからもやはり民主主義の上に立つた政治鬪争としてこの問題を指導をしておるところの労働組合の幹部をああいう形に追い込まなければならんのか。ここにやはり政府の政策が、或いは労働組合対策においてかような問題を扱う場合において十分盡すべき物事を盡さなかつたのではないかというふうに私どもは批判をいたしておるのであります。でありますから私はそういう点において、今日この労鬪ストというふうな形が行われるということが、これが将来ともにこういうことがますます激化して、その激化する結果において或いは共産党などのとつておる政権鬪争のためのストライキ、いわゆるゼネスト的な本質を持つところのストライキ或いはその予備的なストライキ、こういう形に行く傾向があるならば、私どもはそれに対して当然の何らかの措置が必要と思いますけれども、私どもの信ずるところによれば今日の日本労働組合運動というものは、今までの戰後の混乱期において幾多のそういう共産主義的な運動の試錬を経た結果起つたところの、そういう労働組合の民主化運動が中心になつておるのであります。でありますから、私どもはこういうやり方というものがやがてみずからの自己反省と共に必ずあるべきところの民主主義労働組合の政治鬪争の行き方に落着いて来るであろうということを私どもは考えておるのであります。そういうことを考えるが故に、こういう問題につきましては我々仲間の間において、いろいろのこの問題についての批判なり反省をして、大いにこの問題について議論いたしまするが、併し私どもはこれは内部の問題として今後処理をして行くべきものである。従つてこの面において国民の人々にいろいろと迷惑をかけておる点は我々も遺憾に思いますけれども、併しながらこれはやはりこのことに限らず今日の日本の過渡期においては他にもあることで、而もあることの結果がこのまま放置できないのか、それともこれはみずからの反省と批判によつてだんだん清算をされて行けるものかということの区別は必要と思いますので、私は労鬪ストの場合においてはそういう見解を持つておるが故に、逆にこれに対して何らかの対策をするがために労働法規改正が必要である、こういう見解をとるものであります。
  60. 木村守江

    ○木村守江君 私は菊川さん非常に立派な御意見を持つておりまして、その点非常に敬服しておるのですが、今回のこの頃行われておるストは二・一ゼネストなんかと違つて、二・一ゼネストは初めから政権の獲得にあつたんだということを言われておりますが、私は初めからああいうようなゼネストにならなくても、最近のゼネストの恰好がややもすればまあ好まざるような形態に移行して行くというようなことを考えざるを得ないことがあるのですが、そういう御心配はないと思うのですか。
  61. 菊川忠雄

    公述人菊川忠雄君) 大体お尋ねも抽象的で而も大体意味はよくわかるつもりでおるのでありますが、私はこの二・一ゼネスト、勿論あの場合だつてこれは御承知のように官公庁の諸君の給與の問題が直接の問題で、形は飽くまでも経済鬪争というところに出発をいたしておりますけれども、何といつてもその指導権を取る、そして実質的に指導を與えておるところのものというものが、いあゆるその後の秘密指令というものが出ましてわかつたごとく、たにえ経済的要求が通つてもストに突入しろとか、こういうふうな方針にも明瞭なごとく、要すにる労働者の直接的な政治ストによつて、直接的な団体政治行動によつて、そして政権のあり方を変えようということが目的であることは明瞭でございます。でありますから私どもはそういう点において形においては実質がそこにある。ところが今の労鬪ストなどは成るほど形のなかには一部分やはりそれぞれの組合においては職場の経済的な問題を団体交渉するのであり、そしてその交渉を中断した形の或いは促進するための時限ストライキという形に制限しておる。併し組合員の諸君は破防法反対或いは労働法規の改惡反対と、こういつたことでなくして自分のところの団体交渉が問題で時限ストに入つておるというふうに考えておる点も多いと思います。ただ幹部の諸君がたまたま時を合せてそうして一斉労鬪ストの中に入つておるというふうな点もありまして、これは私どもから率直に言えば内と外と話が合わないことでありまして、幾分そこに私どもはこういうやり方というものは幹部の諸君が組合員に対してはその鬪争のあり方の全部をありのままに知らしていないということであつて民主的労働組合本来の運営の原則から申しますれば、むしろ誠に矛盾したものを含んでおることは、これは今後反省しなければならないと思います。併しこういうことは言い換えれば、これはいわゆる共産党の方式であるところの経済的な要求を大衆動員の道具に使つて、そうして上のほうだけでこれを政治的目的のために切替えて行くと、こういうやり方に対して混同されがちであります。従つてこういうやり方をそのまま無批判におきますならば、大衆は結果におきましては共産主義労働組合がやるところの政治鬪争の方式の路線にみずからも乗せられておるのであるからして、そこに私どもが御指摘の通り十分今後警戒もし、そうして自己批判をもしなければならんところがあると思いますけれども、今日それではそういう点が多少あつたからといつて、今日労働ストの実質なり或いは傾向がそういうものであるかといいますれば、私どもは決してそういうものではないということをいろいろな点におきまして本質的に二・一ゼネスト当時のものとは違うという点は我我は十分信用いたしておるようなわけであります。  でありますから将来こういう運動がどうな、つて行くかということにつきましては、私はやはりこういうことの試錬を経て、初めて日本労働組合運動は占領下の育成された民主的労働組合からみずからの足で立つところの責任ある民主的労働組合にこれから自主性を以て切替わるのでありますから、この切替りは或る程度の行過ぎもあり或いは混乱もあるのであります。これを併しながら権力を以て変えようといたしますならば、却つて曾ての又占領政策という権力下に反撥を感じつつある国民の気持と同じ気持を持つて全部的にやはり反撥を受けると思います。でありますから私どもの必要なことはこういう時の転換期でありますから、だからしてこの転換期においては多少の混乱もあることはこれは物事の当然でありますから、この中において我々が試練を経て、そして民主的労働組合というものを正常な道の上に守り育てて行くことがお互いの責任である。又従つてこのことにつきましては立場は違いますけれども、経営者にいたしましても、ただ労働組合に対して民主主義のあり方として徹底して、堅実的活動であつて労働組合の活動を何も経営者の立場から心配される必要はございませんからして、経営者みずからも又堅実であつてそして健全な企業、そうして労働組合のどこから突込まれても明瞭に、産業民主主義に徹底したところの経営のあり方さえやつて来れば、それと取組んでそこに民主主義的労働組合の職場が安定する、こういうふうに考えるのであります。政府も又同様であります。飽くまでもその政治の健全な取組み方の上に自主的交渉の途をだんだん開いて行くことの上に、どうか労働政策の基本があつて欲しいとこう考えるわけであります。
  62. 中村正雄

    委員長中村正雄君) その程度あと相当質問者がありますから……。
  63. 木村守江

    ○木村守江君 先ほど申されましたように私も独立後の日本においてはできるだけ明るいその気持を以て進んで行きたいというような考えを持つておるのでありまして、そういう点からこれは本当にその取締法令的な束縛するようなこの法規というものを排除して行かなくちやいけないというような感じを持つておることは同感であります。併しながら只今言われましたようにこれは初めからゼネスト的なものでなくとも、そういうものが或る意図的なものに誘導されてそういうような方向なつたり或いは自分で思わないときにこれはゼネスト的なものになつたりというようなことはこれは何ものも保証し得ない状態であると思うのであります。そういうようなときを考えましたときに、曾つて我々が占領下にありましたときに二・一ゼネストのあの問題が起つた場合にこれは日本の現在の憲法と法律ではどうにもしようがなくて占領軍の命令によつて我々は屈辱的な泣寢入をしなくてはいけなかつたというような状態が私はあつたと思うのです。そういうような場合を考えたときにその労働法がいわゆる裁判の判例のようなものを積み重ねてそれでやることができないようにこれは本当に急を要するというようなことになると思うのでありまして、そういうことを考えたときに、私はやはりそれは権力で抑えることはいけないといたしましても、これは占領軍の命令というものから比べましたらずつとずつと小さい権力、権力とあえて言えばそういうもので或る規制を保つてつて、いわゆる治安維持を保つて行き、いわゆる労使協力を保つて我が国の産業の発展を期して行かなくちやいけないのじやないかと思うのですが、それに対する御意見を。
  64. 菊川忠雄

    公述人菊川忠雄君) 余り長い時間をとつても恐縮ですが、ただ結論的に申上げることで一つ御了承願いたいと思います。私は従つてそういうことのために必要なものは労使政府三者のやはり十分な協議の上でそれぞれの立場があるから完全一致はないでしようけれども、一致する部分についてやはりやつて行くという基礎を固められることが大事だと思います。従つて今回でもやはり労働法令審議委員会においてきまつた事柄は結構でありまするが、きまらない事柄についてただ政府がその中の経営者の意見に偏つたようなことで以てこういう改正案をお作りになつても、その結果は逆の効果こそあれ何らの効果はない、かように考えるわけであります。
  65. 木村守江

    ○木村守江君 あとありますが、あとからにします。
  66. 重盛壽治

    ○重盛壽治君 ちよつと横手さんにお伺いしておきますけれども、先ほどあなたのお話の中に監督の地位に立つ者、或いは公務員にしていわゆる今度の法律には当てはまらない秘密の事項に属するものとか、人事に属するとか、労務に属するとかあなたがたと同じ組合員になれない者、資格は同じ、言い換えればあなたがたは公企労法で以て行つて、そうして残つたそういうものは公務員の資格で行くと、こういう二元的なものがあるのにこれの処置に非常に困るという話があつた。これは丁度地方の企業法の面で行きますとそれはそういつたような形が出るのだが、これに対しましては昨日の地方行政委員会で鈴木次長や加來労政局長の考え方は、例えば都市交通が或いは水道が要求書を出した、その要求等を獲得した場合に一般地方公務員であるそういう身分の者に対してこれと同じものが與えられるかどうか、予算の常識上これが與えられないことがあつては困るじやないかということに対して、管理者が責任をもつていわゆるこれらの一般公企業職員とそれから地方公務員とが同じ待遇になるように管理者にその権限がある、そういうことになる。それに準じて行くとあなたのほうは大臣でなくて印刷庁長官になるのか何になるのか知らんが、それと同じような形のものがあるのかないのか。例えば東京を例にしますと都長でなくて水道局長とか交通局長が東交が要求したものに対しては東交の組合に入つていない君たちも同じような一切の待遇をする、こういうようなことが決定付けられるわけである。そういうような場合にあなたのほうでそういう機構ができるかできないかということ、できないならば法律上でどういうことにしておくほうが将来やりいいかということを、その点は今すぐでなければあとでもいいのですが。  それから最後についでに一言だけですから原さんにお尋ねしますが、私の聞き間違いかも知らんが、十八歳未満の者であつても炭坑に入坑することが本当の技術の見習という意味で二時間とか三時間とかいう限られた時間で入るというような場合には、我々決して反対するものではないというように聞こえたがそういう意味ですか。見習いというのは例えば十八歳未満で坑夫の見習いになつて十八歳以上になつてから一人前の坑夫になる、十六歳から十八歳までの者は一時間とか二時間ならばいいのだ、純然たる見習ならば入つてもいい、入つてもいいと條件がつけばやはり二時間やるならば五時間、六時間やつたほうが技術を覚えるためにはいいのだ、こういう解釈にとれる懸念があるので一つ。  それからもう一つ、これは藤田さんにお尋ねしたい。吉武さんのいるうちに聞いておけばよかつたのだが、彼がいなくなつたから聞く必要がなくなつたのだが、大体今度の労働法規改正の基本が先ほど来言われるようにあなたがたが審議して来て両者のそれによつて一致したものはそれによつてやつた、一致しないものは中立委員意見を取上げたとこう言つている。特に緊急調整の問題はそれに非常に強く力を入れられているのだが、九日の日に大阪で公聽会をやつたときに丁度色川氏が出てこられましてこれは全く政府の僞りであるということでありましたし、今日の午前中の学者の話でもこれは僞りである、私が見たり聞いたりした埓内でもやはり政府がかなり一方的な行為をしておられるというように考えておる。というのは中立委員の諸君はこういう緊急調整をやろうということじやなくして、本当に生命財産に危險を及ぼすというような緊急事態ができて、取返しのつかないというようなことができた場合には、総理大臣労働委員会に連絡をしてというか委託して、そうして労働委員会からその争議当事者緊急調整をするようにしたい、而もその労働委員会公益委員の五人までが賛成しなければそういうことをやつちやいけんということを言うておるのに、あたかも中立委員意見であるかのごとき形でこの法律に取込まれたことは甚だ遺憾であるというように言われているのですが、その辺の真意は大体私はあなたの言われた通りだと思いますけれども、更に明確にさしておいて頂きたい。一ぺんにお聞きして恐縮ですが時間がないそうですから一つ横手さんから順次に御答弁願いたい。
  67. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 横手さん答弁なさいますか。
  68. 横手行雄

    公述人(横手行雄君) はい。御指摘のように公労法の中で管理者或いは機密その他の事項を担当する者は公企労法の適用を受けない、即ち非組合員になるということがあるわけであります。その前にこの公企労法一般職の公務員に適用するという原則があつて、今の項目で更に公企労法の適用を受けない、こういうふうになつておるわけであります。ところが国鉄や專売或いは電通の組合というのは労働組合法の第何條だか忘れましたが、従業員の四分の三を代表する従業員が相手方との間に労働協約を結んだ場合は、その事業場の全体に適用するという規定がある。これがその国鉄の場合には生きておるからその規定で準用することができるわけです。ところが我々の場合は国家公務員法という身分法がこの人たちは準用されるわけでありますから、国家公務員法に基いて給與表というものがあるわけですから、それに基いて支給をせられるのであつて、従つて団体交渉で如何に給與ベースの協定ができても、これらの人たちには絶対に適用されないということになるわけです。従つてこれに対して何らかの特別の措置を講じるということを労政局長ですかおつしやつたようですけれども、特別な措置というのは、速かにその人事院の勧告等から政府が国家公務員給與法全般を改正してその部分を調整をするか、給與法全般をいじらない限りはそれは解決つかない問題であつて、これを單に印刷局長なら印刷局長、長官なら長官という人たちがこれを調整しようとすれば闇給與を支給する以外にないわけです。これは法律的には全然国家公務員法に基く給與法というものによつて適用を受けているわけですから、それは当然できない相談でありますから、私はこの場合は非組合員の場合は国家公務員の給與法による適用を受けるのであつて、従つて公労法による団体交渉によつて賃金協定との間に差が生じて来る。そしてその差が現実に生じ、且つ将来に亘つて生じて来る場合のアンバランスというものは、この法律では絶対に調整できないのだとこういうことを申上げておるわけです。
  69. 原茂

    公述人原茂君) 十八歳未満十六歳までの技能養成という理由で臨時入坑させるとこういうことでございますが、大体基準審議委員会の経過からいうと、技能養成という特殊的な條件がつけられてそういう場合に限つてだけ許すということは意見が一致したのです。そこで問題になるのは、抽象的にただ技能養成ということであれば十六歳までは入坑可能であるというふうに條文だけ作り上げてしまうと、そのあとでそれではその技能養成というものは具体的にはどういう範囲かというこの條件あとからきめる、こういうことであるならば、いわゆる使用者が初めから主張しておつた、実質的には技能養成という名目で普通の労働のように一人前に働かせる、こういう狙いに濫用される。従つて法律成立と同時に同じく諸規定というものが附帶して成立しない限りにおいては、この法案趣旨は基準審議委員会の決定とは違う。そういう点も明らかにした上でやつてもらいたい。それが若し不可能な場合ならこれは当然問題にならない。その切下げというものは如何に技能養成という名目であろうとやめてもらわなければ困るとこういうことであります。
  70. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 続いて藤田君。
  71. 藤田進

    公述人(藤田進君) 藤田であります。  政府が今回労働関係調整法等の一部を改正する法律案要綱というものを発表いたしました。その第三にこういうことが書いてあります。「以上の外、労働組合法、労働関係調整法、公共企業体労働関係法及び同法の施行に関する法律につき、細部の事項に関して、労働関係法令審議委員会の答申等に基き左の如く一部改正を行うこと。」全く答申そのままを尊重されたように見えるのですが、全くさにあらずという点を申上げたいと思うのであります。大阪の公聽会事情只今聞いたのが初めてでありますが、緊急調整に関する事項について申上げますると、今御指摘の通りもみにもんで五次案になり流された結果遂にこの問題は答申することに至らなかつた事項でありますが、その答申するかしないかの最終的段階の公益委員案、公益委員案と一応言つているが内容は使用者の案でありますが、この中の要綱は総理大臣がそういう発議をする、ここに書かれているよりももつとシビヤーな国民に重大な回復しがたい損害ということで明確にされて、而もその総理大臣中央労働委員会に対してその請求をした場合に、労働委員会はこれを総会にかけて公益委員五名を含む賛成ということが明確になつていたのであります。これが全く使用者委員が提案した内容に肩替りをしているということであります。  で、そのほか明確に三者一致して答申したものが法案として出ていないで、明確に使用者側だけが賛成したものが出ているというのが諸所に見られるのであります。例えば地方労働委員会委員はすべてこれは特別職扱いになつております。これが中央労働委員会になりますと、一般職であるからそれぞれ仮に選挙の応援などをする場合これはまかりならん。まあ早い話が使用者委員の場合、或いは労働側委員の場合にそれぞれの団体の役員であります。そういう場合にはやはり地労委なみに特別職扱いにすべきだということは満場一致答申いたしておるのでありますがどこを調べてみてもこれが見付からない。そのほか先ほど申上げましたが、不当労働行為の一年で以てもうあとは申立ができんというやつはこれは答申しなかつたのであります。使用者委員の賛成、労働委員の反対で遂に成立しなかつたがこいつがここに出て来ている。このほか一々取上げれば、まあ時間がないので申上げませんが、そういう事情で結局如何にも法令審議委員会の内容が尊重されたに見えて具体的にこれを検索して見ると全然尊重されていない。而も私どもは法令審議委員会が遂に大団円を告げたのが夜中になりましたが、吉武労働大臣もたまたま大臣室に控えておりましたので、我々七名の労働側委員は本答申ができた以上答申案を尊重してもらいたい、答申案以外の変なものを出してもらいたくないという申入れを直ちに労働省へいたしました際に吉武さん曰く十分尊重いたします、ということでありましたが、どこが尊重されたか以上申上げたような事情であります。
  72. 中村正雄

    委員長中村正雄君) それじやこれで公聽会を終りまして、これで本日は散会いたします。    午後五時二十七分散会