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椿繁夫君
重盛委員と御一諸に一月中旬一週間に亘り愛知、
奈良、
和歌山三県下の労働事情を視察して、参りましたので、
失業並びに雇用の調整を中心に各県の特性を申述べてみたいと存じます。
先ず愛知県につきまして申上げますと、労働法規改訂については、官、労、使ともさしたる具体的
意見なく、労組側は総評の、
使用者側は日経連のそれぞれ過般発表された
意見書に盡されているとのことであり、地労委としては三者構成を破壊せぬ
程度で、技術的に
相当改正すべき点があるが、おおむね全労委
会議の結論に網羅されているとの
意見でありました。
失業情勢及びその対策につきましては、昨年十二月末職安
登録者一一、五七四名、適格者七、八二九名、新規増加七二四名、延一二、九九〇六名であり、十月中の「あぶれ」延二四、三四一名とな
つております。年末年始は日曜祭日ぶつ通しに就労せしめたため「あぶれ」はやや少か
つたのですが、本年に入り再び増加を示しております。これらの
失業者群の著しい供給源は、
一つは戦時戦後の変態的ブームの農村にしわ寄せされ、その
不況化と共に再び離村し始めた過剰人口であり、他は近時、食器工業等を中心としてとみに大量に整理せられる臨時工であります。本年上半期には、特に中小企業を中心として
相当の
失業者の続出が予想せられるのでありますが、かかる際に認証の枠が減じられたことは県当局にと
つて極めて苦痛であり、失対の分の
負担はすでに県
予算では頭打ちとな
つており、又適当な事業の創出に苦慮しておりますので、この際資材を用いる、高度の公共事業と同じものに転換する必要を痛感いたしました。そして事業主側からは能率給への切換え、ノルマ制の採用などが要望されました。
日雇労働者中、女子が二〇%を占め、その多くは戦争未亡人であり、その対策として共同作業所の設置を
考えておりました。
日雇労働者のいわゆる労働攻勢は、昨年当地に全日土建労組の大会が開催された影響もあ
つてかなり激しく、特に豊橋地区においては市長、市
会議長の私宅への押しかけなどが行われ、結局要求を容認せざるを得ぬ結果とな
つておりますので、本格的対策の確立が必要と思われますが、第四・四半期の失対の枠は三・四半期よりも縮小されたため操作に非常な困難があり、極力枠の擴大に努めておりました。民間雇用の
状況は綿紡
関係の不振に伴い次第に悪化しております。
監督行政については三五、〇〇〇の事業場を第一線監督官六〇名で担当するという困難があり、基準法を良心的に実施するためには約一一五名の増員を必要とすることになります。現在監督実施日数は一人当り一二・五日であり、而も監督所要実費の七五%は交通費にくわれるため宿泊費など殆んどありません。現員のまま旅費を十分増額するとすれば、一カ月一八日の監督が可能となります。そうすれば、増員は七〇名で済むことになります。何分現状の困難の下では監督官の身体的
負担は極めて過重で、要注意者の多い労働官署
職員の中でも長欠者を最も多く出しております。
次に名古屋港湾の荷役作業を視察し、
労使及び当局と懇談しましたが、労組では、港湾労働の特殊性と更には高度の能率性を要求する名古屋港荷役の特殊性とから港湾労働法の制定を強く要望しておりました。名古屋港はその繋船能力の制約から余儀なくされる晝夜兼行の荷役作業に、二、〇〇〇人の
労働者を要するのですが、業者にはその三分の一しか常用する能力がないので、
失業救済と港湾
労働者の確保という二つの要請から、全港湾名古屋支部で労務供給事業を行な
つておりますが、これについて失対事業の枠内に入れること、供給地域と業種別の制限を外すことなどを要望しておりました。これら港湾
労働者の厚生施設としては、荷役改善協会の援助で、港湾会館、労務者住宅、水上児童寮などの施設があり、更に高率の災害に鑑み、港湾病院の建設が要望されております。
次に
奈良県は、北部の
奈良盆地を除き、全面積の七分の六を山地が占めるため林業が重要産業とな
つており、労働市場は大阪への依存性が極めて大であります。現在求職者に対する求人は約二〇%で、
失業情勢は次第に深刻化し、
楽観を許さぬものがあります。自由労組には扇動的な影響は見られず、時に表面化するのは真の生活困窮からの動きであるだけに、その対策に県当局も腐心しておりました。例えば年末には職業
安定所長宅放火未遂事件などが起
つております。
一般的には当県の
労働者は他県に比し比較的平穏であり、生活困窮の結果は、他県の場合
安定所押しかけなどとな
つて現われるエネルギーが内攻して、或は栄養失調となり、或は窃盗などの犯罪とな
つて現われるのです。ところが雇用趨勢は依然として思わしくないので、半恒久的
失業者ともいうべき性格がいつしか形成され、牢として抜きがたいものがあります。このため県当局は緊急失対法を半恒久失対法として施行することを望んでおります。そして実質的効果のある失対事業を実施し得るよう具体的な裏付けを望んでおります。
毎春社会に送り出される新規学校卒業者の求職に対しましては、県内外の紡績業への振向けを
考えており、昨
年度においては全国第二位の成績を示したのでありますが、本年は、
情勢も変り操短の動きもありまして、求人手控えの気配が見え憂慮しておりました。
労働金庫については、主として
使用者側から遅拂、不拂等の場合ここかか融資を受けると対外的に信用をそこない、次回からは他の銀行が融資しなくなるし、又手続そのものも煩瑣であるとの
意見がありました。
山地が大半を占める本県においては山林労働が重要な特色をなしておりますが、これにつきましては
和歌山県のそれと一括して後ほど申上げたいと存じます。
次に
和歌山県でございますが、ここも労働市場として京阪神特に大阪への依存性が強く、大阪に常駐の求人係設置を
考えているほどでありますが、繊維業の操短気がまえ、電力事情による生産減退、資金難からの経営難、ひいては企業整備等の事情により、雇用量の増加の期待しがたい反面、求職者の数は約六千、毎月の新規求職者も二千を超え、加うるに新規学卒者の求職もあり、求人と求職のギヤツプはますます擴大するだろうと当局は憂慮しておりました。ちなみに昨年一、二月の就職率は二四%弱であります。
日雇求職者数は毎月新規に四百、有効求職者で約三千とな
つておりますが、求への八〇%は失対事業であり、民間事業は約一〇%に過ぎず、求人源としての公共事業に対する県当局の期待は非常に大きいようであります。
これら
労働者のいわゆる攻勢は
一般には激しくないのですが、南北に細長く交通不便な地勢からして、地域的にはかなり憂慮すべき様相を呈しております。例えば、
和歌山市から汽車で一時間半ほど南に御坊といふ町がありますが、ここでは生活保護を要する困窮者が一、〇〇〇人につき五四名もおり、県平均の二八名に比しほぼ二倍とな
つており、町で施行している失対事業もその社会不安を解消することはできず、暴力的
傾向さえ見られ、町議会でその実策として協議会設置を
考えておりました。
次に
奈良、
和歌山両県の重要な産業労働の
一つである林業労働について申上げます。林業
労働者はおおむね所在地の住民であり、又自由
労働者的性格を有しておりまして、その正確な数はつかみにくいのですが、それぞれ約二万五千人、そのうち労組を組織せるものそれぞれ約五千五百人です。林業地帶にあ
つては、貧富を問わず生計を林業に依存している
関係上、山林所有者にして労働組合員であるものも少くなく、又みずから伐り出しを請け負
つて他の
労働者を使用する者もあります。労組はいわゆる地域組合でありまして村又は大字單位で結成され、従来伐り出し請負を行な
つて来た者が勢い役員に選ばれておりますので、その
関係を合法化するため職安法第四五條の許可を受けております。しかしこれらは一部に過ぎないのでありまして多くの林業
労働者の実態を見ますと事業の
運営方法には旧態依然たるものがありましで、事業主たる素材業者や製材業者は山林現地における
労働者の管理について殆ど把握することなく、現地における商主又は庄屋と称するいわゆる中間的代行人が実際の山林事業を経営しているというのが
実情であります。
従つて木材生産業者や製材業者はこれら中間的存在たる商主庄屋に対し、仕込金と称して労務賃金及び資材その他の雑費を一括支出し、個々の
労働者については何ら
実情を把握しておりません。然るに商主や庄屋は身分的に事業主に屈するものか、或は別個の独立せる仲介業者なのか、その性格は極めてあいまいであります。山林
労働者はこれらの商主や庄屋を通じて業者に雇用されている者が多いのですが、庄屋等の性格が漠然としており、基準法の精神の理解に乏しく封建的色彩濃厚なので、法令の周知徹底を欠くこと甚だしく、災害防止、安全教育についても当局は対策に苦慮しておりました。その上、
労働者の安全に対する認識も極めて低調なので、作業の原始性と相待
つて災害率は非常に高く、例えば
和歌山県においては昨年一月より十一月に至る間に死亡者一一名、重傷者六五八名を出しおります。これらの災害に対しましては従来の慣習として死亡に対しては二万円乃至五万円、入院一カ月以上の重傷には、これに準ずる
程度の見舞金がそれぞれ出されており、それ以外はすべて
労働者自身の
負担とな
つておりましたが、労災
保險制度の浸透に
従つて漸次改善の方向には向いつつあるようです。しかし実際は、原始的産業が辺鄙な山地に散在しておるのであり、
労働者も三乃至一〇の作業場を渡り歩く状態では労務管理など殆ど把握し得ない
状況であり、且つ山地の住民として事務的能力も皆無にひとしい
関係からして実態の整備、合理化の伴わぬ形式的な模倣的最類の作成にとどまる場合が大部分と
考えられるのであります。それ故実際は
労使双方の記憶或は簡單なメモ
程度のものによ
つて一切が処理されており、税金の顧慮等もあ
つて、正確な記録の保存等は全く考慮されていないようであります。この間の消息は、労務加配米の稼働日数によ
つて税金が賦課された次の期には、受配者が半数以下に激減した事例に徴しても明らかであり、賃金支拂においても
労使間は土地に繋がる封建的
関係が主でありまして、必要に応じては過大な前借金が與えられる
状況で、綿密な賃金計算など望むべくもなく、すべて概算で処理されているようです。
このような
関係において決定される賃金、——これは請負單価でありますが——は作業上の足場等の環境、搬出の難易などによ
つて上山、中山、下山の三段階に区分されており、更に地区によ
つても基準を異にしております。又
労働者は自家菜園等の耕作に携わり、或は他の作業場に恣意的に就労するのが通念でありまして、その比重如何によ
つては低額な單価に甘んずる場合もあり、一事業場当りの生日当り單価は生計費当り單価より遙かに下過るものと思われます。現物
給與としては主として食事
給與でありまして、俗に泊山(とまりやま)と称して業者が山小屋を建てて
労働者を宿泊させ食事を供する場合がありますが、この場合の請負單価は二、三割低くな
つているようです。
災害防止には各基準局とも極めて腐心しておりまして、山林作業の安全基準、原木運搬取扱作業標準動作
規定などの冊子を作り頒布し、監督署を通じて啓蒙指導に努めておりましたが、当局の指示する安全装置は地方の
実情に副わず操作しにくいし、非能率的であるという声もありました。基準局では安全衛生課の設置を強く要望しております。監督官の言を聴きますと、山中深く入
つて監督業務を実施する上に、難路、山險等の自然的危險のみならず、人為的な危險をもしばしば感じるとのことでありまして、その労苦はひとしお深いものがあるとしみじみ思いました。又、山林業者から、労災を支出するとき山を売らねばならぬ羽目に陷り倒産の虞れある場合がしばしばあり、又山林所得に対する課税が高過ぎるなどのう
つたえがありました。
労働法規改訂については
奈良、
和歌山両県下では格別の
意見も出ませんでしたが、幾分目立
つたものを申上げますと、
使用者側より基準法は現状維持か或はもつとゆるい
規定にして実施は当事者に任せることを望み、労組側からは、労組法第十七、第十八條は地方の労働運動にあ
つては組合切崩しに利用される危惧があるから再考すべきであり、
労使の力
関係で解釈の変るような
規定は一層明確化することが望ましく、基準法の罰則を強く
規定してほしいなどの
意見がありました。
労働官署特に基準局
関係の庁舎が或いは老朽であり、或いは狭隘に過ぎ、はては倉庫の一隅と賃借りしている事情、自転車の備つけも不十分であるといふこと、又
保險関係の収納担当官に危險手当の支給が必要であることなどは、従来各
委員の御
報告の際一再ならず申述べられたことであり、この三県についても同様でありますので詳しい御説明は省きますが、
労働省当局におかれても深甚の御配慮を煩わしたいと存じます。
甚だとりとめのないことを雑然と申上げましたが、これで御
報告を終ります。