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1952-03-25 第13回国会 参議院 労働委員会 第7号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年三月二十五日(火曜日)    午後三時一分開会   —————————————   委員の異動 三月十九日委員安井謙辞任につき、 その補欠として工藤鐵男君を議長にお いて指名した。 本日委員工藤鐵男辞任につき、その 補欠として安井謙君を議長において指 名した。   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     中村 正雄君    理事            安井  謙君            波多野林一君            村尾 重雄君    委員            上原 正吉君            早川 愼一君            重盛 壽治君            椿  繁夫君            堀木 鎌三君            堀  眞琴君   国務大臣    労 働 大 臣    厚 生 大 臣 吉武 惠市君   政府委員    労働政務次官  溝口 三郎君    労働省職業安定    局長      齋藤 邦吉君   事務局側    常任委員会専門    員       磯部  巖君    常任委員会専門    員       高戸義太郎君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○失業保險険法の一部を改正する法律案  (内閣提出衆議院送付) ○ポツダム宣言の受諾に伴い発する命  令に関する件に基く労働省関係諸命  令の廃止に関する法律案内閣提  出、衆議院送付) ○労働関係法規改廃問題に関する調査  の件 ○労働行政実情に関する調査の件 ○理事補欠選任の件 ○派遣議員報告   —————————————
  2. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 只今より会議を開きます。公報を以て通告いたしておきました失業保險法の一部を改正する法律案、これを議題といたします。先ず政府提案理由の説明を求めます。
  3. 溝口三郎

    政府委員溝口三郎君) 失業保險法の一部を改正する法律案審議されるに当りまして、本法律案提案理由を御説明申し上げます。  今回の改正内容は、第一に失業保險事業運営の現況に鑑み、現行保險料率を二割引き下げること、第二に延滞金免除規定を整備することの二点であります。  第一の保險料率引下げにつきましては、最近における失業保險事業運営状況を見ますと、一昨年六月の朝鮮動乱以後の雇用情勢を反映して、保險経済状況も著しく好転して参りましたので、従来の運営実績に基き、且つ、将来の保險経済推移を考慮に入れて現行保險料率百分の二を三割引き下げて千分の十大としたのであります。即ち、失業保險給付は、一昨年秋以来漸次減少傾向を示して昭和二十五年度末における積立金の額は百十二億円に達し、昭和二十六年度におきましても大した変動もなく推移して今日に至つておりますので、本年度末には更に相当額剰余金を得る見込であります。このような積立金状況に加えまして、最近における収支の状況、過去における運営経験等に鑑みましても、又、将来における保險経済推移を考慮いたしましてもこの程度保險料率引き下げが可能であるという見透しを得るに至りましたので、今回保險料率を二割引き下げて事業主及び労働者負担軽減し、その利益を図ることといたしたのであります。  第二の延滞金免除規定の整備につきましては、従来の延滞金免除事由は、極めて限定された事項に限られておりましたので、これを国税徴収法規定に準じて擴大し、保險料滞納処分の執行を停止し又は猶予した場合、及び保險料の納付しないことについてやむを得ない事情があると認められる場合にも免除することとし、保險料徴收事務の改善を図つたのであります。  以上本法律案提案理由の概略を御説明いたした次第でありますが、何とぞ慎重御審議上速かに可決されることをお願い申し上げる次第であります。
  4. 中村正雄

    委員長中村正雄君) これより本法律案質疑に入ります。御質疑ありませんか。
  5. 椿繁夫

    椿繁夫君 料率引下げは総額でどのくらになるのですか。
  6. 齋藤邦吉

    政府委員齋藤邦吉君) 現在の保險料率で徴収いたしますと年間百三十六億に山なるわけでございます。従つて二割軽減となりますと二十七億だけ軽減すると、こういうことになるわけでございます。
  7. 堀眞琴

    堀眞琴君 積立金の額は昭和二十五年度末において百十二億円、二十六年度も大体その見当だと書いてありますが、現在高はどのくらいになつておるのですか。
  8. 齋藤邦吉

    政府委員齋藤邦吉君) 昭和二十五年度末に、御承知のように、失業保險法は二十二年から創設いたしましたので、二十二、三年、四年、五年までの積立金が百十二億になつております。で、本年度におきましては昭和二十六年度どのくらい残るかいうことでございますが、まだ資料といたしましては昨年の四月から十二月までの分きりの統計しか出ておりませんけれども、四月から十二月までの間の保險料剰余金といたしましては大体四十五、六億円程度残るのではなかろうか。従つて本年三月末までのものといたしましては、やはり五十億を越す程度のものが残るのではなかろうということになつておるのであります。
  9. 堀眞琴

    堀眞琴君 その五十億前後というのが百十二億に加わるのですか。
  10. 齋藤邦吉

    政府委員齋藤邦吉君) その通りでございます。
  11. 堀眞琴

    堀眞琴君 そうすると百六十億以上になるわけですね。
  12. 齋藤邦吉

    政府委員齋藤邦吉君) 本年度末における積立金累計としては大体百六十億程度になるのじやないかと思います。決算いたしませんと勿論詳細はわかりませんが。
  13. 堀眞琴

    堀眞琴君 この保險料というのは使用者側労働者側と双方負担するわけになつておるのですが、まあ年度末に百六十億前後の保險経済余裕が出るという私は勘定になると思うのですがね。そうしますと料率をもう少し下げることができるのじやないかという点が一点と、それからもう一つ労働者使用主とが同じように保險料負担しているのだが、労働者のほうの料率使用者側と比較してもう少し下げることができるのはないかという二点が問題になると思うのですが、その点について若しできましたらお聞かせ願いたいと思います。
  14. 齋藤邦吉

    政府委員齋藤邦吉君) 保險料率を二割以上もつと下げたらどうかという点につきましては、実はこの二割引下げの原案ができるまでには相当に慎重に検討したわけでございます。御承知のように明年度並びに本年度下半期保險経済といたしましては一応毎月の給付は十一億五千万円とふんでいるわけであります。ところが実際支給いたしてみますとまあ大体十億の場合もありますが、本年一月には十二億近くまで上つているというようなこともありますので、一挙に余り下げて、又保險料率を上げるというのではどうしても御迷惑をおかけすることでもありますので、一応或る程度の一割なり二割程度危険率を見て、大体慎重に慎重を期して、まあ一応二割ということにいたしわけでございます。いろいろ考え方によりましてはもつとということもありましたけれども、こういう問題は御承知のようにそうなかなかにわかに参りませんので念には念を入れて実は二割ということにいたした次第でございます。  それから労使関係のことでございますが、大体失業保險は御承知のように労使とも折半負担ということにいたしていますので、只今のやり方が適当ではないかと、こういうふうに考えておる次第でございます。
  15. 中村正雄

    委員長中村正雄君) ほかにありませんか。
  16. 村尾重雄

    村尾重雄君 これによりますと率を引下げるという、それはやはり保險金給付を受ける者が減つた、即ち失業者減つたから金が相当に余つて来たということになるのですが、この数字だけを見てみますと、失業者が非常に減つた傾向ができているのですが、ごく最近の情勢なんですか、どんどん失業者は急速に殖えているのではないかと、こう思うのですが、この率を下げたことにおいて又すぐ元に戻さなければならないというような情勢が生まれるのではないかと、こう懸念されるのですが、最近の月々の失業者状況ですが、殖えておると思うのですが、如何ですか。
  17. 齋藤邦吉

    政府委員齋藤邦吉君) 失業保險の毎月の保險金額で申上げたほうが結構だと思いますが、朝鮮動乱が起る前は相当失業保險の金額も出ておりましたが、十四億七千万円、月にいたしますと大体十五億近くまで出ておつたのでありますが、その後経済の好転と申しますか、雇用情勢逐月明るい面が出て参りまして、最近におきましては大体十億前後で推移するということになつております。従つてなお予算面といたしましては十一億五千万円を計上いたしておりますので、現在支給しておりますのは十億から十一億近いところでございますから、この点におきましてはここ当分の間心配がないのじやなかろうかと、こういうふうに考えている次第でございます。
  18. 堀眞琴

    堀眞琴君 今のなんですが、村尾君の質問に間連してですね。先行き失業者の数が殖えないだろうという見通しの上に立つておられるように感じたのですが、ところが最近まあ御承知のように国内経済相当逼迫を続けて来ているわけだし、そこへ持つて来まして国内経済というのは世界経済から非常に大きな影響を受けるわけです。世界経済の面で見ますと、アメリカの経済にしても或いは西ヨーロツパ経済にしましても、御承知のように必ずしも楽観を許さんのではないかと、こう見られるのですが、その点から申しますというと失業者が増大するということが大体予想されると思うのです。現にイギリスやフランスでは失業者が増大しているのです。そういう点も睨み合して、今後の日本の経済について、或いはこの失業保險を中心としての失業者の問題に関連して、それが楽観的に見通すことができるかという点は相当大きな問題だと思いますが、これは労働大臣からお答えを願いたいと思います。
  19. 吉武恵市

    国務大臣吉武惠市君) その点は相当重要な点でございまするので、この引下げにつきましても相当愼重に実は検討いたしたのでありますが、大体今、局長から話しましたように、失業の趨勢は、朝鮮動乱の起る前が山になりましてずつと減つて来ております。完全失業の数も動乱の時がたしか四十八万ぐらいでありましたのが、昨年の丁度七月頃は三十七万か八方ぐらいになりまして、その後ずつと減つて一時は三十万ぐらいになり、昨年の暮あたりに又四十万ぐらいの傾向であります。ごく最近繊維関係不況がございまして一時給付額の上昇がございますが、これはまあ金詰りの点でしわが寄つて来た点もございましてそう長い状況だとも考えないわけでございます。一方産業規模のほうの状況も、まあ私ども見通しとしては、今年が生産指数が一三八ですが、来年は一四八ぐらいになると思います。昭和三十年には一九〇ぐらいの見通しを持つているわけでありますし、それから来年度予算をとつて見ましても、御承知のように公共事業費は従来一千億であつたものが一千三百億というふうな相当大きい増額をしておりますし、それからそのほかには電源開発等も三カ年計画で実はやついるという点などを合せ考えてみますれば、私はずつと将来の状況はまあ世界経済との関係はございますけれども、少くとも来年、再来年の状況ではそう心配したものじやない。特に保險経済だけから見ますると、今話しましたように、十五億ぐらい月に出ておつたものが現在では十億、これは実績であります。  それから保險財政から見ますると実はもつと引下げができるくらい余地はあるのです。ありますが、そこをまあ堀さんあたりも話されまするように、我々としてはもうちよつと慎重でないと、いざというときに金が足りない。そういうときに又さあ保險料を上げなければならんというあわただしいことになつては困るものですから、もう少し慎重に状況を見たいと思います。大体我々が予期したような推移で、財界も余り思つたような不況でないということになれば、更に減額するような処置をとつたらどうかと、こういうぐらいの見通しを持つております。
  20. 椿繁夫

    椿繁夫君 大臣労働経済について非常な楽観論ですが、これは失業対策事業安定所に対して登録労働者の数が逐月増加傾向にあるように思うのです。これはこの保險給付期間が六カ月になると打切られるものですから、打切られた者が安定所のほうへ殺到しているということになるのではないかとこう思うわけです。そうするな失業対策事業費のほうは昨年度と同様で百二十九億しか本年度の計上がございませんが、私ども考えではそう簡單に一旦職を失つた者が次に就職をする六カ月、六〇%の保障だけしておけば大体大丈夫だというふうにも考えられないのでありますが、職安のほうの登録労働者の数の増加ですね、これについて一つ近況をお知らせ頂きたいと思います。
  21. 吉武恵市

    国務大臣吉武惠市君) この点も実は当つてみておりまして、二十五年の七月即ち朝鮮動乱の直前の日雇登録数は四十五万であります。それが昨年の暮は三十六万台に下つた。一月になりましても若干上つた程度で三十六、七万ぐらいです。でありまするからその点については失業登録についても同じような統計が出て来るわけです。
  22. 中村正雄

    委員長中村正雄君) ほかに質疑ありませんか。
  23. 椿繁夫

    椿繁夫君 こういうように日雇関係のほうも私どもの感じとは違つて計数の上では減つている。一方失業保險経済のほうは五十億も余剰が出るというようなことでありますなら、この料率引下げを行うか給付期間延長を少し図つて行くようにすればこういう剰余金が私は出る必要がないという気がするのですが、どういうお考えでしようか。
  24. 吉武恵市

    国務大臣吉武惠市君) 実はこれは米窪さんのとき私次官をやつて、この失業保險をやるということについて実は私も相当考えたのです。というのはイギリスで曾で失業保險をやりまして非常に財政上苦しんだこともありまして、制度としてはいいけれども財政上行詰まることがあつて途中でやめるようなことがあつてはどうにもならんということで、相当に慎重に考え、又危險率も相当危くないようにして実施した。実施してみると非常に成績がよくてまあ金が余るという状況になつたのですね。これは少し低く安全率を見過ぎたために、平常化すれば私は料金は下げて行くほうがいいと思います。負担軽減上いいと思います。それから内容の充実という点もございます。期間延長するとか何とかいう点もありますが、これはうつかり手を着けますと非常に将来で危くつて来て、さあどうしようかということになつてもいけないから、まあ私はこの失業保險というのはできるだけ慎重に出て、料金はその社会情勢に応じてやる。今度でも実を言いますと三割ぐらい下げられぬことはないのです。併しこれはちよつと危い。今はいいけれどもさあ今年の後半期になつてということになつては困るから安全率を見ているわけです。私としてはこの失業保險内容がいいからといつて、今一足とびに上げると将来引下げることはできませんから固く行く。そうして料金のほうは実情に応じて下げられるだけ下げる。こういうことに行くわけです。
  25. 椿繁夫

    椿繁夫君 この春奈良から和歌山のほうにちよつと視察に参りましたときに、保險金徴収事務をやつている人たちが便利の悪いあの山間部で、奈良とか和歌山は林産の盛んな所でありますから非常に交通の不便の所です。そういう所に何日も入り込んで行つて現金を預つて来るのですね。それに何か税務署職員がやはり同様な仕事をやるわけですね。それに遥かに待遇が違うといつて相当な不平がありましたがね。こんなに先々大事をふんで健全財政方針を堅持されることはよろしいのですが、そういう必要な所にはやはりこれだけの剰余金があるならば出して、安心して業務に携わることのできるようにする必要があるのじやないかと感じたのですが、そういう点についてのお考えは如何なものでしようか。
  26. 吉武恵市

    国務大臣吉武惠市君) それは職員給與の問題ですね。この問題はまあ、実はほかの一般の公務員との関係もありまして、ただ保險経済がいいからといつて保險経済職員だけよくするというわけには行かないので。又税務署との比較がありましたがこれは恐らく多少いいでしよう。これはまあ実をいいますと、一時税務署が非常な危険を冒して、危險の手当と育つちや語弊がありますけれども、若干税務署職員にプラスがあつたようにまあ思つおりますが、保險関係だけを一般職員から切離して行くということはちよつとむずかしいのじやないかと、かように考えるのですが。
  27. 中村正雄

    委員長中村正雄君) ほかにございませんか……。なければ質疑は終つたものと認めていいのですか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  28. 中村正雄

    委員長中村正雄君) では質疑は終つたものといたしまして討論に入ります。意見のある委員かたは賛否を明らかにして討論願いたいと思います。
  29. 椿繁夫

    椿繁夫君 これは料率の下がることでありますから私は本案賛成いたします。ただお考えを頂きたいことは、給付期間の六カ月をこんなに保險経済余裕があるならもう少し延長したい。非常は楽観論を当局は持つていられますけれども、私は今大臣お話のように、労働経済見通しというものはそんなに洋々たるものじやないと思いますので、六カ月の期間延長するような方法について御研究を頂きたいと思います。そういうようなことを條件として本案賛成いたします。
  30. 堀眞琴

    堀眞琴君 保險料率引下げに対しましては私は賛成であります。ただ保險財政相当今日の情勢ではゆとりがあるように見られますので、給付期間延長も勿論でありますが、それと同時にこの引下げをもう少し考慮して頂くということを條件としましてこの案に賛成いたします。
  31. 中村正雄

    委員長中村正雄君) ほかに……、討論は終局したものと見て御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  32. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 討論は終局したものと認めます。よつてこれより採決に入ります。  失業保險法の一部を改正する法律案について採決いたします。本法律案を原案通り可決することに賛成のかたの御起立を願います。    〔賛成者起立
  33. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 全会一致。よつて法律案は原案通り可決いたしました。  それから本院規則第七十二條によりまして、委員長が議院に提出する報告書には、多数意見者署名を附すことになつておりますから、本案賛成のかたは順次御署名を願います。  多数意見者署名     村尾 重雄  椿  繁夫     重盛 壽治  堀  眞琴     堀木 鎌三  上原 正吉     安井  謙  早川 愼一     波多野林一
  34. 中村正雄

    委員長中村正雄君) なお本会議における委員長口頭報告内容等に関しましては、すべて前例に従つて行いたいと思いますが御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  35. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 御異議ないものと認めます。よつてそのように取計らいます。   —————————————
  36. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 次にもう一つ法律案に入るわけですが、その前に大臣が見えておりますので、先般法制審議会答申が出たように聞いておりますので、答申後におきまする労働省として、労働関係法改正準備その他につきまして大臣から御説明願います。
  37. 吉武恵市

    国務大臣吉武惠市君) 御承知のように労働基準法については労働者側使用者側公益側三者の意見が一致いたしまして答申が出ましたからこれを尊重して準備をしております。それから労働関係法については、実は殆んどまとまりかけたのですが途中でうまく行きませんので、とうとう最後案答申案は重要と認められる事項が除かれまして、極く事務的なものだけが答申になつたわけであります。それでは今後の独立後の労働関係につきましては私は不十分ではないかと思います。従いまして労働法制審議会審議されました過程におきまして取上げられました事項十分参考にいたしまして立案を進めたい、かように存じているわけであります。
  38. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 質問がありましたらちよつとの時間やりたいと思いますが。
  39. 椿繁夫

    椿繁夫君 これは今日最終の結論が法制審議会のほうでは出るのですね。その答申を受けられていろいろ作業に時間を取られることと思いますが、本国会への上程の見通しは、どの程度目途を付けて労働者としては法案化を進められるか、それについてお伺いいたします。
  40. 吉武恵市

    国務大臣吉武惠市君) 実は答申が出る前に、急いでおりましたので何とかと思いましたが、答申が出る前に政府意見を述べましても、非常に妨げをしてはいけないというので実は遠慮しておりましたが、いよいよ先だつて十九日に大体答申内容が決定いたしまして、正式には今日答申が出る。従いまして至急に立案にとりかかるつもりでおります。併しながらそうは申しましても、案ができましてもいろいろな手続を要し、又一般の御意見も成案が出ましたらお聞きしなければならんかとも思つておりますので、従つてそれに相当の日数がかかりますので、できればこの月末までにとは思つておりましたがどうも月末までには無理じやないか、そうしますると月を越すようになりはしないか。いずれにしましても重要な法案でございまして、僅かの期間で御審議願うというわけにも行かんと思いまして、会期もあることですからできるだけ急いではおります。今何日頃という目途はちよつとつきません。
  41. 椿繁夫

    椿繁夫君 法案ができましたら各方面意見を聞いてその上で上程したいということですが、各方面とはどういう方面意見ですか。
  42. 吉武恵市

    国務大臣吉武惠市君) やはり組合側使用者側、或いは一般意見を聞いてやろうと思つております。併し大体労働法制審議会過程使用者側意見労働者側意見も出盡しておりますから、私ども見通しは付けておりますけれども、併しまあ政府の作りました案につきましては一応やはり御意見を聞いたほうがよかろう。かように存じております。
  43. 椿繁夫

    椿繁夫君 そういうふうに慎重な何をとられるのはいいんですが、こういうものを作つたからこれで出すのだよという程度意見ですか。それともそれぞれ関係方面から成るほどという意見が出れば、それによつてなお労働省案というものを変更してよりよいものにして行くという御準備もおありですか。
  44. 吉武恵市

    国務大臣吉武惠市君) 大体はもう労働法制審議会審議過程意見は殆んど見えております。従いましてそれを参考にいたしまして政府案というものを作つてそれによつて意見を聞きます。意見を聞く以上は意見の中で成るほどその点はそのほうがいいかなあという点があれば変えることもあるかもしれませんけれども、併しまあ大体私の見通しといたしましては、労働法制審議会、あの何カ月の間何十回とやられましたから大体まあ両方の意見はほぼつきている。かように存じております。
  45. 堀眞琴

    堀眞琴君 今の椿君の質問に関連してですが、労働基準法を初めとして労働関係の法規というものは非常に重要な法案なんでして、労働者使用者も勿論ですが一般市民相当関心を持つている問題だと思います。おつしやる通りそれぞれの審議会においてこの問題については各方面意見を参酌しながら議論を進められたことと思いますが、併し労働大臣はあのバロン・デツセということを御存じだろうと思うのです。政府が案を作るに当りまして世論を広く聞いてそしてその世論従つて法案を作成して行くということが、私は重要な法案であればあるほどなされなければならんと思うのですが、ところが今のお話では労働省のほうで立案されてできたものを土台にして各方面意見を聞かれるというのはちよつとどうかと思うのです。むしろ労働省立案をされるその過程に一応労働省としての方針を示されて、それに対する一般世論を聞かれるという方法をとられて、その上で固まつたところで労働省立案される、そして国会に提出されるということにされるほうが最も民主的な方法ではないかという工合に考えられるのですが、その点について労働大臣はどのようにお考えになつておるか、ちよつと御意見を伺いたい。
  46. 吉武恵市

    国務大臣吉武惠市君) 実は最初労働法制審議会意見を聞くときに、今お話のように政府が案を立てましてそれを基にして意見を聞くという方法もございます。そしてその聞いた上で最後の案を立てるという方法もありましたが、私としては最初政府の案は示さないで、フリーで実は労働法制審議会意見答申を求めたわけであります。そのうちだんだん何十面とやられます過程を見ておりますと、大体私ども考えておりましたような重要点は殆んど取上げられて実は審議されております。ただ最後にそれが意見が一致しないので答申に至らなかつたのでありまするが、その審議過程におきましては、大体現在日本の国情に応じて考えなければならない、労働者側にとつて考えなきやならん場合或いは使用者側といいますか一般国の経済の面において考えなきやならんような点は殆んど出盡したくらいに論議されている。これは答申審議の速記録を御覧になりますと大体おわかりになると思う。従いましてそれを基にして今度政府が案を立て更に意見を聞く、こういうことであります。今の堀さんのは初めから又出直してやるように聞えまするけれども、それはもうすでに昨年の秋以来実は十分審議され、その審議された上を見まして今度案を立てる、かような状況であります。
  47. 堀眞琴

    堀眞琴君 私は前に戻れという意味じやないのでございます。一応まあ答申案で乃至はその論議の過程において各方面意見も十分聞くことができた、そこで労働省の案をこれからお作りになると、こういうわけだろうと思うのです。その案ができましてから意見を聞かれるのは勿論いいと思いますが、そうではなくてまだ完全な法案としてまとまらん前に労働省としての方針をここで示されて、例えば労働基準法においては一応答申案が一致しているということですからそれを尊重して立案され、それに基く一応の労働省方針を示される。それからその他の労働関係法規については、労働省としては大体こういう方針なんだということをお示しになつて、それをハロン・デツセの仕組によつて世論を聞かれて、その上で法律案にこれを取りまとめる、そしてそれを国会に提出される。こういう手続をおふになつたらどうか、こういうことをお尋ねしているのです。
  48. 吉武恵市

    国務大臣吉武惠市君) その今の方針とおつしやるのが、今度政府がいろいろの答申案を得まして、又審議過程にも十分論議されました点を見まして具体案を立てるわけですから、その具体案でもうすでに政府方針というものがわかるわけであります。今改めて政府はこういう方針でやる、それについてどうかといつてやると、まあ先ほど私が申しました通り、初めから戻つて又同じことを繰返すことです。もうその必要は私はないと思う。もう審議過程の結論が出たのでありまするから、それを基にして政府が具体案を出して、そうして更にそれについて意見最後に聞けば大体それで私は目的は達せられるのではないかとかように思います。
  49. 堀眞琴

    堀眞琴君 労働大臣、何ですか、その各方面意見を聞かれて尤もだと思われるような意見がありましたような場合には、労働省としては立案されたものについてなお修正される御意思がおありなんでございましようか。
  50. 吉武恵市

    国務大臣吉武惠市君) 勿論意見を聞く以上は、よりいい意見があれば尊重すべきものだと思います。   —————————————
  51. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 次に公報で通告いたしておりまするポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く労働省関係諸命令の廃止に関する法律案を議題といたします。質疑に入ります。質疑のかたは……、質疑ありませんか。  ちよつと速記をとめて下さい。    〔速記中止〕
  52. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 速記を始めて下さい。質疑は大体ないように思いますので討論に入りたいと思いますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  53. 中村正雄

    委員長中村正雄君) では質疑は終了したものと認めます。討論に入りますが、意見のおありのかたは賛否を明らかにして御発言願いたいと思います。……討論も終局したものと認めて差支えありませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  54. 中村正雄

    委員長中村正雄君) それでは討論も終局したものと認めます。では直ちに採決に入ります。ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く労働省関係諸命令の廃止に関する法律案を議題といたします。本法案を原案通り町決することに賛成の方の挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  55. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 多数と認めます。よつて法律案は原案通り可決すべきものと決定いたしました。  本院規則第七十二條によりまして、委員長が議院に提出する報告書には多数意見者署名を付することになつておりますから、本案を可とされた方は順次御署名を願います。  多数意見者署名     村尾 重雄  堀木 鎌三     上原 正吉  安井  謙     早川 愼一  波多野林一
  56. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 御署名洩れはありませんか……。なしと認めます。  なお本会議における委員長口頭報告内容等に関しましてはすべて先例に従つて行いたいと思いますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  57. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 御異議ないものと認めます。よつてそのように取計らいます。ちよつと速記をとめて下さい。    〔速記中止〕
  58. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 速記を始めて下さい。先般理事安井謙君が労働委員辞任いたしまして今日まで理事が一名欠員になつておりましたが、本日再び労働委員に復帰いたしましたので、この際成規の手続を省略いたしまして委員長において安井謙君を再び理事に指名いたしたいと思いますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  59. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 御異議ないものと認めます。よつて理事安井謙君を指名いたします。   —————————————
  60. 中村正雄

    委員長中村正雄君) それでは次に去る一月自然休会中の期間を利用して、東北、北陸、近畿並びに九州地方の労働事情を視察して来られた委員からその視察報告をお願いいたしたいと思います。先ず第一班の村尾委員からお願いいたします。
  61. 村尾重雄

    村尾重雄君 労働行政実情に関する調査並びに労働関係法規改廃問題に関する調査のため私は安井委員と共に去る一月十日から十七日までの期間、秋田、新潟及び長野の三県にまたがつて各県下の労働事情を実地に視察して参りましたのでその概要を御報告いたします。  先ず監督行政についてでありますが、現地においてもいわゆる朝鮮ブームの影響を受けて、一時工業部門に見られた賃金の遅拂、休業、閉鎖等は回復して一応の安定を得て来た模様でありますが、本年は講和の成立、自立経済の確立等に対処いたしまして、中小企業の整理が問題とされ、紡績、製材及び機械器具関係工業を基盤とする三県の工業界の推移も多難を予想されております。監督関係事項として出先機関が重視しているものは賃金問題であります。賃金は労働者にとつては唯一の生活給源であり、その不拂乃至は遅拂は労働者の最低生活を脅かし、労働不安を助長し、労働の生産性を低下させる原因となるので、特に嚴重な監督をしているようでありますが、これについて長野の労働基準局長が語るところでは、賃金の不拂を基準法第二十四條違反として罰則を適用するだけでは労働者の権利の回復を図ることは困難だから、賃金債権に対してはあらゆる債権に優先して先取できるような法的措置を講ずるとか、或は特別な融資制度を考慮することが、労働保護の見地から望ましいと申しておりました。  次に基準法違反を司法事件として扱つた例といたしまして、私共の注視すべき問題に婦人及び兒童を対象とする人身売買がございます。秋田を例にとれば昭和十四年から二十六年に至る三カ年間に表面に出た被害者数だけでも七百七十五名に上つており、司法事件処理件数七十二件に対して人身売買関係だけで四十一件を占める実情でありました。現行法では單に法六條の規定に根拠を求めて取締つているという消極的なもので、人身売買のごとく封建的且つ人道上許しがたい性質を持つた犯罪に対しては、もつと積極的にこれを取締るための措置が講ぜられべきものと痛感いたしました。  次に電力事情惡化に伴う労働事情について若干触れますならば、昨秋の電力危機によつて生産低下の現象を呈した工場は比較的大規模事業場に多く見受けられるとのことでありまして、電力事情惡化に原因する賃金不拂に関するものとしてはそれを直接の原因とした不拂の事業場はなく、今後の問題としては中小企業がとりわけ生産減と売掛金の回収難その他の経済事情に起因して相当数の賃金不拂の発生が予想されるとのことでありました。  それではこの辺で労災補償関係事項につきまして現在事業運営上の問題になつている点を拾つてみますと、秋田や長野のごとくいわゆる林業県では山間地に移動的に行われる伐採事業等の適正保險料の把握、各県とも共通の問題としては労働者の平均賃金算定とか、診療報酬の妥当公正な額の決定等があり、直営診療機関の設置、外科後処置の委託機関の増加と、関係予算及び定員の増加を要望する声が強かつたようであります。  労災について申上げたついでに安全衛正関係事項に関してちよつと触れてみますと、現在金属鉱山労働者の間で一番問題になつておりますものにけい肺病がございます。これは御承知のように炭鉱労働者がけい石の微粉末を吸込むことによつて起る不治的呼吸器疾患でありますが、殊に秋田県においては、すでにけい肺患者が六十七名、療養を要するものが実に四百名にも及んでおり、漸次増加の傾向にあるとか申しておりました。本委員会にも全国各地の鉱山労働者から本件についての請願及び陳情書が多数提出されて来ておりますが、労働者の産業災害の防止とその補償のために適切なる施策を早急に確立する必要があろうと考えます。  次に給與関係事項といたしましては、労務用物資、特に主食及び酒類の特配を要望する声が強く、最近諸統制の廃止に伴つて配給の枠が漸次せばめられて来ておりますが、労働生産性の高揚と勤労生活の向上のために、実質賃金の裏付けにもなるような制度は、十分その枠を確保しておくべきではなかろうかと思います。  この辺でちよつと現地の係官からの要望事項について若干申上げますと、その一つの採炭燃料費の配付、他の一つに公務員宿舎設置の問題があります。私共が秋田県に日程の第一歩を踏み出した時から私共は雪間地方特有の寒波に見舞われいささか僻易いたした次第でありますが、冬期における採炭燃料費が、現在北海道だけにしか配付されていないとかいうことでありまして、東北、北陸にも重点的に配付せらるるよう予算に計上して貰いたいと申しておりました。又監督官は司法官吏として民間その他一般に対する情実発生のおそれがあるため適当な時期に人事の交流をしなければならないが、たとえば長野県の如く非戰災地では、相当期間同一地域に勤務しなければならないような住宅難であり、職務上著しい支障を来たしているので、最限少度の公務員宿舎の早急設置を強く要望しておりました。  監督行政についてはこの程度にいたしまして次に職安行政一般については如何かと申しますと、現在では朝鮮動乱きつかけによる雇用の好転も漸く中だるみの様相を示しておりまして、学卒や農村二、三男の過剰労働力の処理と、殊に本年は、特需の不安定、行政整理、要就業人口の増加が予測されておりますので、中央における職業安定への施策が強力に推進されねばならぬことを痛感いたしました。  なお失業保險給付について新潟公共職業安定所の係官から要望された点を参考までに申添えますと、第一に失業保險法第三十八條の九第五項の規定改正して日雇労働被保險者が保險金の支給を受けるに当つての待時間を失業日数通算の場合は四日、継続の場合は二日に短縮せしめること、第二は、公共職業安定所失業保險給付事務に従事する職員が、過失によつて保險金を過拂した場合、損失補償の途を講ぜられたいとのことでありました。  労働行政一般概要については大よそ以上の通りでありますが、それでは引続き労働法規の改正をめぐる実態について調査して参りました事項に関し申し上げます。  労働法規改廃問題については、時期的に現在までの経過からいつて別段事新しく申上げる必要もないかと存じますが、新潟における労使懇談会、長野での対経営者協会代表との質疑応答及び秋田では労政関係係官からの意見聴取等の機会を持ちまして一応の調査をいたしましたので、ここでは簡單に法改正に対する関心の焦点並びにその動向といつたものについて申上げることにいたします。  先ず秋田県から申しますと、一般的にいつて労働法の改正というものに理論的な検討を欠き幾分観念的な態度が認められ、使用者側においては現行法の、不備を論断する向きもあるけれど如何に改正すべきかの積極的意見は余り認められないというのが、現地の係官から聞いた本県の実情でありました。但し労使ともその関心の焦点は労働委員会制度にある模様であります。  それでは次に新潟県は如何かといいますと労使とも法改正に対する関心は、私共の見聞したところでは相当強いようであり、労働省試案についての県内労使意見にも幾多注視すべきものがありました。特に機構の統合に関する事項として労働者側では行政機関の権限が強くなり官僚化される危険があるし、又全労委の事務局の地方支局が各県に設立されない場合には却つて不便となる。準司法的機能と調整的機能を分離することはよい方法かも知れないが、分離する必要性が明確でない。むしろ現機構を強化すべきであるとの意見を表明しており、これと並んで使用者側では、現機構が漸く軌道に乗りつつあるのであるから改革せずにむしろこれを盛りてて行くべきで、二本立は反対である。調整関係には伝家の宝刀的なものを持たせなければ調整はなかなか成功しにくいと思うので機構の分離には反対であると申しておりました。又労働争議の調整については、労使とも従来の斡旋、調停を合して調整一本にすることに賛成しておりましたが、公益に著しい障害を及ぼす争議については、労働者側から、予告期間は法に定めるべきでなく組合の自主性に任せよ。現行法の冷却期間は争議権獲得の一手段として濫用されて来た嫌いがあるので二定の予告期間を定めるべきである。実情調査については、争議権の制限禁止になるおそれがあるので反対であるとの意見。これに対して使用者側からは予告制を採用することは賛成である。実情調査は現行法の冷却期間よりも実効があると考えられるので賛成であるとの意見が述べられておりました。  最後に長野県における動向について申上げますと、本県はどちらかと云えば大企業が比載的少く、中小企業なかんずく家内工業的小企業が多い故か、私共の受けた感じとしては、法改正に対する関心の比重は、経営者側においてより勝つているように思われました。たまたま経営者協会代表の意見として私共が聴取して来た点を二、三拾い上げてみますと、一、労委の公益委員が八方美人的であり解決すべき争議が延びる傾向がある。一、時間即仕事になる企業はよいが中小企業のようにノルマのない所では、労働時間の厳守はやりにくい。一、土建業者等には土建だけの特別法を考慮して貰いたい等がございました。  労働法規改廃問題についての各県下労使の細目的な意見については別に資料として頂いて参りましたので、いずれ適当な機会に本委員会における参考資料として御利用願うことにいたしたいと思います。  終りに今回の実情調査に当つて、格別の御配慮を頂きました関係者各位に厚く御礼申上げ第一班の視察報告を終ります。
  62. 中村正雄

    委員長中村正雄君) では次に第二班の堀委員にお願いいたします。
  63. 堀眞琴

    堀眞琴君 第二班の御報告ですが、堀木委員の方に急に御都合がありまして、結局委員としては私だけで去る一月十日から一週間にわたり長崎、熊本、鹿児島の三県における一般労働事情および特に昨今問題になつております労働法規の改正並びにゼネスト禁止法の問題について、現地の実情調査して参りました。結論から申しますと、私どもが日頃見聞きしまた想像もいたしておりました議論以外に、大して変つた意見を聞かされたわけでもなかつたのでありますが、これは同時に現地における労働問題の関係者が、労働行政にたずさわる人達といわず、また組合側、経営者側の人々といわず、いずれも相当熱意をもつて事に当つておられる証拠ともいえるわけでありまして、中央の意向や空気といつたものが敏感に反映していることには実は驚ろいたようなわけであります。  調査方法としましては、まず各県庁で労働関係部局並びに出先機関の担当者からそれぞれ実情の説明報告をうけたあと、労使懇談会を開いて頂いてその意見を聴き、さらに又代表的な工場を実地に視察するということで、例えば長崎では西日本重工造船所および長崎製鋼所、熊本では農機具の製造で名高い東洋社、鹿児島では三井の串木野鉱業所などを見学し、それらに就いていろいろ資料も頂戴して参つたわけでありますが、この際一々詳しく申上げることは省略しそれはあとで御質問でもあればまたお話することにして、ここでは、今回の視察の主な目的でありました労働法規の改正およびゼネスト禁止法に関する現地の意向についてその概略を取りまとめて御報告申上げたいと存じます。  まず労働組合法の関係から申しますと、現行法の第一條第二項の但書に、暴力行使排除の規定があるわけですが、この但書について、労組側は削除を希望し、使用者側は削除に強く反対しておりました。労組側の主張する点を申しますと、本来、労働組合の行う団体交渉その他の行為が、その目的に反し、又はその手段が暴力の行使を伴うことになれば、当然刑法の適用を受けることになるわけで、特に項を設けて規定する必要はない、更にまた、暴力行使という文字を使つている点は、何か労働組合というものが常に暴力を行使するような印象を與え誤解を招く虞れもあるから、この際本項を削除してほしいというのであります。  これに対し使用者側意見は、争議行為というものは、程度の差こそあれ常に威力的な性質をもつており、特に労働運動の歴史の浅い我が国の現状では、団体行動権の限界を示すという意味でも是非この項は存置する必要があるということでありました。  それから第六條の交渉権限の問題でありますが、これについても労使意見は全く反対で、労組側の主張は、これは労働組合側の交渉権限を有する者を定めたもので、使用者が本條に規定された者との交渉を拒否する場合は不当労働行為に該当する。また本條に反した労働協約が締結されてもそれは無効であるとしているのに対し、使用者側では、本條は任意規定であつて、ここに定められた事柄は当然民法の委任の規定によつて処理されるもので、特に本條を存置させる理由がない。更に労働組合では従来、本條の強行法規説を主張して、背後に政治団体等をもつ者を委任して、使用者の立場を不当に圧迫するようなことが行われたが、これは労使対等の立場で団体交渉を行おうという労使関係の本質にも反するわけで、本條はこのさい削除してほしいというのであります。  労使対等といえば、第七條の不当労働行為の規定に就きまして、使用者が団体交渉を要求した場合、労働組合がこれを拒否すれば、不当労働行為になるという点を規定しないのは片手落ちだという意見使用者側から出ておりましたが、これに対し労組側は実際問題としてさようなことは考えられないから、殊さら法規に制定する必要はないと反駁しておりました。  さらに第十七條にある一般的拘束力の問題についても、労使双方の意見は完全に反対でありました。すなわち第十七條につきましては、元来本條の趣旨は、一つの工場なり事業場に常時使用される同種の労働者の労働條件の基準がまちまちになることなくできるだけ統一しようという趣旨で設けられた規定で、常時使用される同種の労働者である限り、名称は臨時であろうと常勤であろうと当然問題でないとして、この削除に反対する労組側に対し、使用者側はこれを削除してほしいという意見でありまして、その理由とするところは、現下の経済情勢からみて、会社の経理上、止むを得ず多数の臨時労働者を使用しなければならぬ場合が多い際に、これらの臨時工に常用工と同様な労働協約が適用されるとすることは、会社経営の面に種々支障を来すから不当であるということでありました。  続いて第十八條の地域的拘束力の問題についても労使意見は全く反対で、本條の削除を主張する使用者側の主張は、現在のわが国の労働組合は、企業別組合を根幹とするもので、従つて企業別にそれぞれの労働協約の適用を受ければ支障はないはずである。それを本條があるために使用者は徒らに企業活動の自由を拘束されることになるというのに対し、労組側は現在、本條による地域決定をみているのは奈良の二地域と北海道の一地域と、全国で三地域のみであるが、これは当該地域の労働條件の安定に資するところが多く、今後これを各地域に及ぼす必要があるとして削除に反対しておりました。  その間、労使双方とも同じ意見として伺つたのは、第二十四條の公益委員のみで行う権限の問題についてでありました。これは、現在御承知のように労働委員会の判定機能については、公公益委員のみが参與することになつておりますが、今度の改正に当り、労使双方の委員をも加えたいわゆる三者構成を認めろという意見も出ているわけでありますが、これに対し現地では、不当労働行為の判定を中心とする労働委員会の判定機能に労使の各委員が参與することになれば、それぞれの主張が対立し、それでなくてさえ判定期間が長期に亘るという従来の非難を一層強めることになるという理由で、これは珍らしく労使とも現行法通りでよろしいということでありました。  次に、労働委員会に関する意見を一括して申し上げますと、労使双方とも一致して現行の労働委員会制度の現状維持を希望されておりました。まずその組織でありますが、これは従来の経験に鑑み、現行の労、使、公益各委員の三者構成による機構がよろしいということでありましたし、さらに先般の労政局試案にありました、判定、調整の両機能を別個の機関で取扱うという意見につきましては、判定機能といえども單なる法律的判断の問題ではなく一種の行政機能であつて、労働問題の実態を把握することによつてのみ妥当な判断が得られるものであるから、これには判定、調整の両機能を同一機構で行う現行制度でなければならぬということでありましたし、さらにまた調査権限については、現行法では争議予防のための調査権限が與えられていないが、争議行為の表面化を適時阻止指導することが出来るように、労働委員会にある程度調査権限を與える必要があるということに、労使双方とも大体の意見が一致しているように聞いて参りました。尤もこれについては、労組側の方で、その権限の限界点を明確にして、いやしくも労働者の基本権である、争議行為の明らかな制限になるようなことでは困るという、條件附の意見が出されておりました。  次に労働関係調整法に関する主な意見を申しますと、まず第十一條第二項にある斡旋員候補者と、労働委員委員の兼任禁止の規定は、争議行為解決の能率を高める意味において、削除すべきであるということで、これは労使双方とも同意見でありました。しかし、第三十六條の安全保持の問題では、使用者側は現行法通りを主張しておるに対し、労組側は次の理由で、本條の修正を強く希望しておりました。すなわち労組側の見解としましては、本條は争議行為についての絶対的禁止行為として、工場事業場における安全保持の施設の正常な維持または運行を停廃し、またはこれを妨げる行為を掲げたものであるが、この安全保持の施設の範囲決定の基準については、現在法律上の根拠がなく、ただ人命保護のための安全施設という抽象的な解釈がなされているに過ぎない。そこで使用者側は、この安全保持の施設については、できる限り広範囲にこれを主張し、それを労働協約の内容としてその締結を要求するために、従来からこの問題をめぐつて労使間の紛争が絶えない。従つて本條に該当する施設を各工場ごとに法定して欲しい、ということでありました。  さらに、次の三十七條にある、いわゆる公益事業の抜打争議行為の禁止の問題につきましても労使意見がさらに激しく対立しておりました。双方の主張をかいつまんで申しますと、使用者側としては、本條に三十日間の冷却期間規定があるが、これは現在ではむしろ組合側の争議権獲得のための期間に利用されているから、この際本條を改正して、必要と認める事態が発生した場合には、労働大臣又は労働委員会が強制調停手続を開始し、その期間中は争議行為を禁止し、若しその期間が過ぎても争議が解決されない場合は、一定の機関による職権仲裁ができるようにしたいという意見でありますが、これに対し労組側では、たとえ本條がなくとも、労働者世論の反撃を受けないために、抜打ストなどをやるようなことはない。冷却期間規定が却つて争議行為をひん発させたと思うから、むしろこの規定を削除した方がよいとの意見でありました。  それから、例の労政局の改正議案にありました労働関係法令の統合整理という問題でありますが、この点につきましては、労組側では公務員、公共企業体職員および公益事業労働者一般の民間労働者と同様に取扱うということであれば、現行の関係諸法令を統合した方がよい。しかし、その取扱いに区別を認めるのであれば、統合する必要はないという意見でありましたが、使用者側としては、大体において現行法通りで差支えない、という意見でありました。  最後にゼネスト禁止法案に対する現地の意向を御報告しますと、労働組合はどこへ参りましてもこれにはいずれも真向から反対で、その理由としましては石炭、電気、ガス、水道、交通および銀行といつた基幹産業の争議行為を禁止するということであるが、これら基幹産業に従事する労働者の数は現在全組織労働者の約二〇%を占めており、これにすでに争議行為を禁止されている国家地方公務員および公共企業体職員等を加えると、実に労働者総数の約五〇%の争議権を奪うということになり、全く憲法上に保障された争議権の規定を無意味にするという点で、かような立法措置に対しては、それこそゼネストをもつてしても闘う、といつた強い意見でありました。これに対し、使用者側はゼネスト禁止法には賛成でありまして、それは争議権といつても、無制限に保障されてるとは考えられない。争議行為によつて招来された事態が治安を脅かし、または国民生活に広汎かつ深刻な混乱をもたらすようなものである場合は、争議権の濫用として、もはや憲法上の保護を受けないことは勿論、国家治安の見地から禁止されるのが当然であるといつた意見でありました。  なおこのほかに労働基準法改正に関する意見も同様に調査して参つたのでありますが、この方の重点は細かい手続上の問題でありまして、それもすでにわれわれが承知いたしている点と大して相違もなかつたことでありますし、時間の関係もございますので、一応この辺で第二班の御報告を終ることにいたしたいと存じます。
  64. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 最後に第三班の報告を椿委員にお願いいたします。
  65. 椿繁夫

    椿繁夫君 重盛委員と御一諸に一月中旬一週間に亘り愛知、奈良和歌山三県下の労働事情を視察して、参りましたので、失業並びに雇用の調整を中心に各県の特性を申述べてみたいと存じます。  先ず愛知県につきまして申上げますと、労働法規改訂については、官、労、使ともさしたる具体的意見なく、労組側は総評の、使用者側は日経連のそれぞれ過般発表された意見書に盡されているとのことであり、地労委としては三者構成を破壊せぬ程度で、技術的に相当改正すべき点があるが、おおむね全労委会議の結論に網羅されているとの意見でありました。  失業情勢及びその対策につきましては、昨年十二月末職安登録者一一、五七四名、適格者七、八二九名、新規増加七二四名、延一二、九九〇六名であり、十月中の「あぶれ」延二四、三四一名となつております。年末年始は日曜祭日ぶつ通しに就労せしめたため「あぶれ」はやや少かつたのですが、本年に入り再び増加を示しております。これらの失業者群の著しい供給源は、一つは戦時戦後の変態的ブームの農村にしわ寄せされ、その不況化と共に再び離村し始めた過剰人口であり、他は近時、食器工業等を中心としてとみに大量に整理せられる臨時工であります。本年上半期には、特に中小企業を中心として相当失業者の続出が予想せられるのでありますが、かかる際に認証の枠が減じられたことは県当局にとつて極めて苦痛であり、失対の分の負担はすでに県予算では頭打ちとなつており、又適当な事業の創出に苦慮しておりますので、この際資材を用いる、高度の公共事業と同じものに転換する必要を痛感いたしました。そして事業主側からは能率給への切換え、ノルマ制の採用などが要望されました。  日雇労働者中、女子が二〇%を占め、その多くは戦争未亡人であり、その対策として共同作業所の設置を考えておりました。日雇労働者のいわゆる労働攻勢は、昨年当地に全日土建労組の大会が開催された影響もあつてかなり激しく、特に豊橋地区においては市長、市会議長の私宅への押しかけなどが行われ、結局要求を容認せざるを得ぬ結果となつておりますので、本格的対策の確立が必要と思われますが、第四・四半期の失対の枠は三・四半期よりも縮小されたため操作に非常な困難があり、極力枠の擴大に努めておりました。民間雇用の状況は綿紡関係の不振に伴い次第に悪化しております。  監督行政については三五、〇〇〇の事業場を第一線監督官六〇名で担当するという困難があり、基準法を良心的に実施するためには約一一五名の増員を必要とすることになります。現在監督実施日数は一人当り一二・五日であり、而も監督所要実費の七五%は交通費にくわれるため宿泊費など殆んどありません。現員のまま旅費を十分増額するとすれば、一カ月一八日の監督が可能となります。そうすれば、増員は七〇名で済むことになります。何分現状の困難の下では監督官の身体的負担は極めて過重で、要注意者の多い労働官署職員の中でも長欠者を最も多く出しております。  次に名古屋港湾の荷役作業を視察し、労使及び当局と懇談しましたが、労組では、港湾労働の特殊性と更には高度の能率性を要求する名古屋港荷役の特殊性とから港湾労働法の制定を強く要望しておりました。名古屋港はその繋船能力の制約から余儀なくされる晝夜兼行の荷役作業に、二、〇〇〇人の労働者を要するのですが、業者にはその三分の一しか常用する能力がないので、失業救済と港湾労働者の確保という二つの要請から、全港湾名古屋支部で労務供給事業を行なつておりますが、これについて失対事業の枠内に入れること、供給地域と業種別の制限を外すことなどを要望しておりました。これら港湾労働者の厚生施設としては、荷役改善協会の援助で、港湾会館、労務者住宅、水上児童寮などの施設があり、更に高率の災害に鑑み、港湾病院の建設が要望されております。  次に奈良県は、北部の奈良盆地を除き、全面積の七分の六を山地が占めるため林業が重要産業となつており、労働市場は大阪への依存性が極めて大であります。現在求職者に対する求人は約二〇%で、失業情勢は次第に深刻化し、楽観を許さぬものがあります。自由労組には扇動的な影響は見られず、時に表面化するのは真の生活困窮からの動きであるだけに、その対策に県当局も腐心しておりました。例えば年末には職業安定所長宅放火未遂事件などが起つております。一般的には当県の労働者は他県に比し比較的平穏であり、生活困窮の結果は、他県の場合安定所押しかけなどとなつて現われるエネルギーが内攻して、或は栄養失調となり、或は窃盗などの犯罪となつて現われるのです。ところが雇用趨勢は依然として思わしくないので、半恒久的失業者ともいうべき性格がいつしか形成され、牢として抜きがたいものがあります。このため県当局は緊急失対法を半恒久失対法として施行することを望んでおります。そして実質的効果のある失対事業を実施し得るよう具体的な裏付けを望んでおります。  毎春社会に送り出される新規学校卒業者の求職に対しましては、県内外の紡績業への振向けを考えており、昨年度においては全国第二位の成績を示したのでありますが、本年は、情勢も変り操短の動きもありまして、求人手控えの気配が見え憂慮しておりました。  労働金庫については、主として使用者側から遅拂、不拂等の場合ここかか融資を受けると対外的に信用をそこない、次回からは他の銀行が融資しなくなるし、又手続そのものも煩瑣であるとの意見がありました。  山地が大半を占める本県においては山林労働が重要な特色をなしておりますが、これにつきましては和歌山県のそれと一括して後ほど申上げたいと存じます。  次に和歌山県でございますが、ここも労働市場として京阪神特に大阪への依存性が強く、大阪に常駐の求人係設置を考えているほどでありますが、繊維業の操短気がまえ、電力事情による生産減退、資金難からの経営難、ひいては企業整備等の事情により、雇用量の増加の期待しがたい反面、求職者の数は約六千、毎月の新規求職者も二千を超え、加うるに新規学卒者の求職もあり、求人と求職のギヤツプはますます擴大するだろうと当局は憂慮しておりました。ちなみに昨年一、二月の就職率は二四%弱であります。  日雇求職者数は毎月新規に四百、有効求職者で約三千となつておりますが、求への八〇%は失対事業であり、民間事業は約一〇%に過ぎず、求人源としての公共事業に対する県当局の期待は非常に大きいようであります。  これら労働者のいわゆる攻勢は一般には激しくないのですが、南北に細長く交通不便な地勢からして、地域的にはかなり憂慮すべき様相を呈しております。例えば、和歌山市から汽車で一時間半ほど南に御坊といふ町がありますが、ここでは生活保護を要する困窮者が一、〇〇〇人につき五四名もおり、県平均の二八名に比しほぼ二倍となつており、町で施行している失対事業もその社会不安を解消することはできず、暴力的傾向さえ見られ、町議会でその実策として協議会設置を考えておりました。  次に奈良和歌山両県の重要な産業労働の一つである林業労働について申上げます。林業労働者はおおむね所在地の住民であり、又自由労働者的性格を有しておりまして、その正確な数はつかみにくいのですが、それぞれ約二万五千人、そのうち労組を組織せるものそれぞれ約五千五百人です。林業地帶にあつては、貧富を問わず生計を林業に依存している関係上、山林所有者にして労働組合員であるものも少くなく、又みずから伐り出しを請け負つて他の労働者を使用する者もあります。労組はいわゆる地域組合でありまして村又は大字單位で結成され、従来伐り出し請負を行なつて来た者が勢い役員に選ばれておりますので、その関係を合法化するため職安法第四五條の許可を受けております。しかしこれらは一部に過ぎないのでありまして多くの林業労働者の実態を見ますと事業の運営方法には旧態依然たるものがありましで、事業主たる素材業者や製材業者は山林現地における労働者の管理について殆ど把握することなく、現地における商主又は庄屋と称するいわゆる中間的代行人が実際の山林事業を経営しているというのが実情であります。従つて木材生産業者や製材業者はこれら中間的存在たる商主庄屋に対し、仕込金と称して労務賃金及び資材その他の雑費を一括支出し、個々の労働者については何ら実情を把握しておりません。然るに商主や庄屋は身分的に事業主に屈するものか、或は別個の独立せる仲介業者なのか、その性格は極めてあいまいであります。山林労働者はこれらの商主や庄屋を通じて業者に雇用されている者が多いのですが、庄屋等の性格が漠然としており、基準法の精神の理解に乏しく封建的色彩濃厚なので、法令の周知徹底を欠くこと甚だしく、災害防止、安全教育についても当局は対策に苦慮しておりました。その上、労働者の安全に対する認識も極めて低調なので、作業の原始性と相待つて災害率は非常に高く、例えば和歌山県においては昨年一月より十一月に至る間に死亡者一一名、重傷者六五八名を出しおります。これらの災害に対しましては従来の慣習として死亡に対しては二万円乃至五万円、入院一カ月以上の重傷には、これに準ずる程度の見舞金がそれぞれ出されており、それ以外はすべて労働者自身の負担となつておりましたが、労災保險制度の浸透に従つて漸次改善の方向には向いつつあるようです。しかし実際は、原始的産業が辺鄙な山地に散在しておるのであり、労働者も三乃至一〇の作業場を渡り歩く状態では労務管理など殆ど把握し得ない状況であり、且つ山地の住民として事務的能力も皆無にひとしい関係からして実態の整備、合理化の伴わぬ形式的な模倣的最類の作成にとどまる場合が大部分と考えられるのであります。それ故実際は労使双方の記憶或は簡單なメモ程度のものによつて一切が処理されており、税金の顧慮等もあつて、正確な記録の保存等は全く考慮されていないようであります。この間の消息は、労務加配米の稼働日数によつて税金が賦課された次の期には、受配者が半数以下に激減した事例に徴しても明らかであり、賃金支拂においても労使間は土地に繋がる封建的関係が主でありまして、必要に応じては過大な前借金が與えられる状況で、綿密な賃金計算など望むべくもなく、すべて概算で処理されているようです。  このような関係において決定される賃金、——これは請負單価でありますが——は作業上の足場等の環境、搬出の難易などによつて上山、中山、下山の三段階に区分されており、更に地区によつても基準を異にしております。又労働者は自家菜園等の耕作に携わり、或は他の作業場に恣意的に就労するのが通念でありまして、その比重如何によつては低額な單価に甘んずる場合もあり、一事業場当りの生日当り單価は生計費当り單価より遙かに下過るものと思われます。現物給與としては主として食事給與でありまして、俗に泊山(とまりやま)と称して業者が山小屋を建てて労働者を宿泊させ食事を供する場合がありますが、この場合の請負單価は二、三割低くなつているようです。  災害防止には各基準局とも極めて腐心しておりまして、山林作業の安全基準、原木運搬取扱作業標準動作規定などの冊子を作り頒布し、監督署を通じて啓蒙指導に努めておりましたが、当局の指示する安全装置は地方の実情に副わず操作しにくいし、非能率的であるという声もありました。基準局では安全衛生課の設置を強く要望しております。監督官の言を聴きますと、山中深く入つて監督業務を実施する上に、難路、山險等の自然的危險のみならず、人為的な危險をもしばしば感じるとのことでありまして、その労苦はひとしお深いものがあるとしみじみ思いました。又、山林業者から、労災を支出するとき山を売らねばならぬ羽目に陷り倒産の虞れある場合がしばしばあり、又山林所得に対する課税が高過ぎるなどのうつたえがありました。  労働法規改訂については奈良和歌山両県下では格別の意見も出ませんでしたが、幾分目立つたものを申上げますと、使用者側より基準法は現状維持か或はもつとゆるい規定にして実施は当事者に任せることを望み、労組側からは、労組法第十七、第十八條は地方の労働運動にあつては組合切崩しに利用される危惧があるから再考すべきであり、労使の力関係で解釈の変るような規定は一層明確化することが望ましく、基準法の罰則を強く規定してほしいなどの意見がありました。  労働官署特に基準局関係の庁舎が或いは老朽であり、或いは狭隘に過ぎ、はては倉庫の一隅と賃借りしている事情、自転車の備つけも不十分であるといふこと、又保險関係の収納担当官に危險手当の支給が必要であることなどは、従来各委員の御報告の際一再ならず申述べられたことであり、この三県についても同様でありますので詳しい御説明は省きますが、労働省当局におかれても深甚の御配慮を煩わしたいと存じます。  甚だとりとめのないことを雑然と申上げましたが、これで御報告を終ります。
  66. 中村正雄

    委員長中村正雄君) 次回は四月一日午後一時から開会いたしまして、行政協定に関しまする労務関係について労働大臣より説明を求めたいと思います。なおその際相当請願、陳情がたまつておりますのでそれも一括して議題にしたいと思いますので御了解願います。  本日はこれで散会いたします。    午後四時十六分散会