○若木勝藏君 私は社会党第四控室を代表いたしまして、
只今議題となりました
公職選挙法一部
改正の
法律案に対し、
委員会の
修正及び
修正部分を除く部分に賛成の意見を表明するものであります。
衆議院における公職
選挙改正特別
委員会が本
法案を提出した理由は、既往の
選挙の実情に鑑み、
現行法の欠陷を是正して、
選挙の公明刷新、
選挙運動費の適正を図るため、
選挙運動に適当な制限を加えると共に、
選挙の管理執行に関する
規定を整備しようとするところにあるのであります。然るに本案の
内容をつぶさに検討いたしまするに、
選挙運動費の縮減に名をかり、
選挙運動に関し実に三十余項目に亘り必要以上の制限を加え、
選挙の自由を束縛し、却
つてその言うところ公正を失する虞れある点が多々指摘されるのであります。その主要な点について申述べるならば、
第一に、
選挙期日の
公示又は
告示の
期日を短縮し、
選挙運動の
期間を
衆議院議員、
知事、
都道府県教育委員、市の長、
議員及び
教育委員等の運動
期間を五日間、又町村の長、
議員及び
教育委員にあ
つては実に十日間に減らしているのであります。特に町村の
選挙では、現在の運動
期間の二十日間が半分に短縮されたことは、
選挙そのものがスムーズに行われるかということすら疑問とするところであります。言うまでもなく
選挙運動の
期間を短縮することは、事前運動を招来することや、又最悪の場合は
候補者をして、買收、饗応の悪質な不正手段に追い込む危險を包蔵し、提案者のいう公明な
選挙とはおよそ反対の方向に走る場合を生ずるに至ることは、既往の
選挙に照らして推測に難くないところであります。
第二に、
選挙運動用の
自動車、
拡声機及び
船舶の使用について制限した点であります。
選挙運動における必須の要件は、
候補者が己が政策をあまねく
選挙民に滲透させるところにあるのでありまして、この目的達成の手段上最も迅速且つ広汎に活動を助ける重要なものは、
自動車、
拡声機、
船舶であることは、議論の余地のないところであります。特に
拡声機の数を減ずることは、二の点において支障の甚大なものであるのに、原案でこれらを無視していることについては甚だ了解に苦しむところであります。
第二に、
無料葉書を
衆議院議員選挙の
特例として
現行の三万枚を一万枚に減じたこと、又
参議院全国選出議員の
選挙の場合を除き、文書、図画のうち
選挙運動用ポスターの
掲示を全面的に禁じたことであります。
候補者の政策を山間僻地に至るまで
選挙民に周知徹底させるためには、あらゆる手段を盡せしむべきであります。この意味において
無料葉書やポスターは極めて重要なものであるにかかわらず、これを減少又は禁止することは、正常な
選挙運動の具備すべき
條件を欠くものでありまして、特に名の売れていない新人にと
つては極めて不利なものとなることは明らかなことであります。
第四に、いわゆる
選挙目当ての新聞
雑誌を禁止するということに藉口して、徒らにその
報道、
評論の自由を制限せんとしたことであります。原案では、
新聞紙、
雑誌の発行回数、又
選挙期日の
公示又は
告示の前一年以来引続き発行しているという点、更に
新聞紙にあ
つては社団法人たる新聞協会の会員、
雑誌にあ
つては社団法人たる出版協会の会員であること等によりまして制限しようとしているのであります。これは全く一部特定な現象に眩惑されて、新聞
雑誌の使命を沒却し、正当な
選挙の
報道、公正な批判を
選挙民から剥奪し、
選挙に対する国民の目を塞がんとするものであり、ただに
選挙の自由を束縛するのみならず、憲法第二十一條に
規定される言論、出版その他一切の表現の自由の保障を無視し、まさに憲法違反の虞れありとすら考えられるのであります。
第五に、
個人演説会の回数を甚だしく制限し、告知用のポスターの数を僅少にし、且つ
立会演説会及び
個人演説会を除く
選挙運動のためにする
演説会は
開催を禁止したことであります。賛言を要するまでもなく、
候補者の演説は
選挙運動の中軸をなすもので、その政策の滲透は勿論、
選挙民のバロメーターとも言うべきものであります。
演説会を通じて
選挙民に批判の機会を與えることこそ民主政治の生命であり、はた又、国民の民主的教養を高める最良の機会でもあるのであります。(「そうだよ」と呼ぶ者あり)原案はただ單に
選挙費用の縮減等、当面
選挙運動の制限に偏向し、この重要な民主政治の向上の一面を沒却していることは甚だ遺憾とすることであります。(「それが賛成討論か」と呼ぶ者あり)
第六に、
選挙運動のためにする街頭演説について、
候補者の一人につき一本の標旗を交付し、それを所持する場合以外はできないと
規定したことであります。前述のごとく
候補者の演説は
選挙運動の中軸をなすものであり、特に街頭演説はこれを最も手軽く効果的にするものであることは、既往の
選挙の経験から万人ひとしくこれを認めるところであります。これを極度に制限し、一人の
候補者については一カ所よりやれないとしたことは、公明自由ないわゆるガラス張りの言論戰を回避するも甚だしいものであり、かくのごとき制限は、やがて公明であるべき
選挙を忌わしい闇の
選挙に追い込む危險を多分に含むと共に、隠れたる優秀な新人の進出に対し、その機会を奪うものであると断ぜざるを得ないのであります。この点については、
選挙制度調査会においてすら、
候補者一人につき標旗三本まで認めているのであります。
第七には、
衆議院議員選挙の
特例として政党その他の政治団体の
政治活動について極端な制限の
規定を設けたことであります。原案では政談
演説会は一
選挙区につき一回とすること、
政治活動を行うことができる政党その他の政治団体は、全国を通じ二十五名以上の
候補者を有するものに限定し、その
候補者の数によ
つて使用の
自動車の台数をきめ、又その発行する機関
新聞紙、又は
雑誌の
選挙に関する
報道及び
評論を
規定したものであります。政党、政治団体は、
政治活動を除いて存在の理由がないのでありまして、
選挙の機会において、政党、政治団体の政策を自由に普及滲透させるところに政党の成長があり、政党政治の意義があるのであります。然るに原案において、憲法二十一條に
規定されている集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由の保障まで無視して、政党その他の団体に対して二十五名の立
候補者を有するものに限
つて政治活動を行わしめるように制限したことは、その意味奈辺にあるのか了解に苦しむところであります。(「一つも賛成するところないじやないか」と呼ぶ者あり)
これを要するに、
衆議院送付の原案は(「賛成討論だよ」と呼ぶ者あり)
現行法によれば
選挙運動の費用が多額に上るということに藉口して、運動のあらゆる面に大幅な制限を加えたものでありまして、それがために、
候補者の演説や、或いは新聞
雑誌の
報道、
評論の自由等、
選挙運動の中核とも言うべき言論の自由の抑圧となり、又政党、政治団体の
政治活動の極端な束縛とな
つて、
候補者は勿論、政党、政治団体は
選挙民にその政策を十分に滲透させる機会と方法を奪われてしま
つているのであります。一方、
選挙民の側からすれば、
候補者、政党等の政策を十分批判する機会を與えられず、明確な判断の下に
選挙権を行使することができない状態に置かれているのであります。このような状態は全く民主的な
選挙の基本線を外れたものでありまして、我が国の民主政治の成長に甚だしいブレーキをかけるものと言わざるを得ないのであります。
委員会の
修正は主としてこの極端な行き過ぎの部面の是正に着目されているのであります。即ち
拡声機の数を一揃から二揃に増加し、
個人演説会の回数を四十回から六十回に殖やし、(「五割殖えた」と呼ぶ者あり)併せてその告知用のポスターの
枚数を原案の四百枚を千二百枚に改め、(「三倍、大したものだ」と呼ぶ者あり)更に原案で禁止されたポスターを地方区の参議院の
選挙に二千枚を限り復活し、
選挙公報の字数を現在の三倍まで増加する等、言論の制限を緩和すると共に、新聞
雑誌の
報道、
評論の自由に対する束縛
規定を緩和したことは、原案に比べて公明な
選挙に幾分の明るさを取戻したことが認められるのであります。(「ちよつとおかしい」と呼ぶ者あり)次に、候補の
氏名の
掲示の順序を
規定した点、
当選争訟におけるところの
潜在無効投票の処理を合理的な方法に改めたこと、当選無効の原因となる
選挙犯罪の処理、
罰則規定の
改正等は、
選挙管理上適切な
措置が図られたものと言うべきであります。
かくのごとく、
委員会の
修正によ
つて、原案における
選挙運動の極端なる制限が是正され、
選挙管理上の二、三の点が適正化されたとしても、本
法案の全般を通じ、自由、公明な
選挙ということは、未だ多くを期待しがたいのでありまして、我が党といたしましては、不満の点を有するものでありますが、(「なぜ反対しないか」と呼ぶ者あり)原案よりも我々の意図するところに近付いたものとして賛成する次第であります。(拍手、「そんな乞食根性で、いつ問題が解決するか」と呼ぶ者あり)