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小野義夫君
只今上程の
破壊活動防止法案、
公安調査庁設置法案及び
公安審査委員会設置法案の三法案につきまして、
委員会における
審議の経過及び結果を一括して御
報告申上げます。
先ず政府より提出せられ衆議院において修正せられた原案につきまして、それぞれその内容を簡單に御
説明いたします。
破壊活動防止法案は、第一に、団体の活動として暴力主義的破壊活動を行
なつた団体に対する活動の制限又は解散の指定を内容とする行政的規制処分を規定したこと、第二に、暴力主義的破壊活動を行
なつた個人に対する処罰について、刑法上の若干の罪につき補整を行
なつたこと、第三に、規制処分に関する手続を定めたこと、以上の三点を骨子として構成せられているのであります。
而して暴力主義的破壊活動とは如何なることを指すかというその
定義といたしまして、本法案は、第一に、刑法の内乱罪及びその予備、陰謀、幇助の行為、第二に、これらの行為の教唆又は扇動、第三に、これらの行為の実現を容易ならしめるための文書又は図画による宣伝活動、第四に、政治上の主義又は施策を推進し、支持し、又はこれに
反対するためにする騒擾、放火等、刑事法上の重罪に当る若干の罪にかかわる行為又はこれらの行為の予備、陰謀と、教唆、扇動を規定しておるのであります。
勿論これらの行為は自然人たる個人のなす行為でありまして、本法案も団体に対して犯罪行為能力を認めているわけではなぐ、団体に属する自然人がこれらの行為をなした場合においてその行為者は当然処罰せられるのですが、なお、そのほかに、その行為が所属団体の意思
決定に基くものと認められ、且つその団体が将来更にかかる行為を繰り返す虞れありと認められる場合にはその団体に対して規制処分を行うという仕組にな
つているのであります。つまり行為者に対しては刑罰を科し、これと併行して団体に対しては規制処分を行うという建前にな
つておるわけであります。なお、この団体でありますが、これは特定の共同目的を達成するための多数人の継続的結合体又はその連合体ということにな
つております。従
つて、およそ、この要件に合致する限り、政党たると、組合たると、又法人たると否とを問わないわけであります。
規制処分の内容は先に申上げました
通り、団体活動の制限と解散の指定でありまして、前者は、六カ月以内の期間を限
つて、集団示威運動、機関誌紙の発行等を禁止する一時的な措置であります。後者は、事実上団体を解散せしめると同様の効果を生ずる終局的な措置でありまして、いずれの場合におきましても、当該団体の役職員又は構成員は、規制処分の効果として、
法律上その団体のための活動を制限又は禁止され、これに違反した場合においては処罰されることにな
つております。(「そんなフアツシヨが許されるか」と呼ぶ者あり)
次に規制の手続でありますが、処分請求の機関として、公安調査庁が先ず調査を行い、証拠の収集、資料の準備等をすると共に、当事者の
弁明及び意見を聞き、証拠の提出を受ける等、事実上の審理を行い、この審理の結果に基いて公安審査
委員会に対し処分の請求を行うことになります。公安審査
委員会は、公安調査庁より提出せられた書面に基き審査
決定をするのでありますが、この場合において審査のため必要な取調べをすることができることにな
つております。なお公安審査
委員会の
決定に対しては、行政
事件訴訟
特例法に従
つて裁判所に出訴することができることは言うまでもありません。
以上が
破壊活動防止法案の概要であります。
公安調査庁設置法案は、規制手続についての調査及び処分請求の機関たる公安調査庁を法務府の外局として設け、その下部機関として全国八カ所に公安調査局を、四十二カ所に地方公安調査局を置き、その職員に、現在の法務府特別審査局員約千二百人及び増員五百人、計千七百人を以てこれに充てることなどについて規定したものであります。
又
公安審査委員会設置法案は、規制手続についての審査
決定の機関たる公安審査
委員会を法務府の外局として設け、両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命する委員長及び委員四人を以て
委員会を構成し、過半数の議決によ
つて規制処分に関する
決定を行わしめることを定め、更に委員補佐、事務局の附設等に関して規定したものであります。
この両法案は、いずれも
破壊活動防止法案と一体をなすものであります。
委員会におきましては、これら三法案につきましてその付託以来前後二十七回に亘
つて委員会を開き、熱心且つ慎重に
審議を重ねたのであります。この間、内閣、地方行政及び労働の各
委員会と五回に及んで連合審査を行い、又二日間公聴会を催し、各方面より選定の公述人十九名より意見を聽取した次第であります。この三法案は、その内容が
基本的人権に直接関連する面を持つこと、及び団体の規制処分なるものが特殊の行政措置であることなどのために、世論の批判も激しく、従
つて委員会における
質疑応答も誠に詳細を極めた次第でありますが、その詳細は
速記録によ
つて御了承を願うことにいたし、ここではその主なる点若干を御
報告するにとどめたいと思います。
先ず第一点は、「我が国の現在の社会情勢下において、かかる治安立法の必要があるか。政府が適当なる社会政策をと
つたならば、この種治安立法によらずしても、現下の治安は十分にこれを維持することができるのではないか」という
質疑に対しまして政府側より、「これらの立法は治安維持のための唯一の手段ではなく、政府においては、国家予算の許す範囲内において他の社会政策も推進せしむることは勿論であるが、併し我が国の現下の社会情勢は、それと並行して治安対策を講ずる必要があり、これらの立法はその必要の最小限度のものである」という旨の
答弁がありました。
第二点は、「
破壊活動防止法案の内容が、憲法の保障する重要なる
基本的人権たる言論、結社の自由を侵害し、又印刷物に対する検閲制度の復活をもたらす虞れがあり、結局往時の治安維持法を再現するものではないか」との
質疑に対しまして、(「それよりひどい」と呼ぶ者あり)政府より、「如何なる
基本的人権といえども絶対無制限のものではなく、公共の福祉という点において制約せられるのは止むを得ないところである。又本法案は検閲制度の復活を
意図するものではなく、更に、治安維持法のごとく思想そのものを取締る立法ではなくして行為とな
つて現われた重大なる犯罪を対象として而もその範囲を厳格に制限しておるのであ
つて治安維持法とは全然異なる立法である」という
趣旨の
答弁がありました。
第三点は、「規制処分を行政処分としたのは妥当を欠くのではないか。これはその性質上司法処分となすべきではないか。殊に規制処分の基礎となりたる暴力主義的破壊活動をなしたる行為者が刑事裁判所において無罪となりたる場合に、先になしたる規制処分が取消されないときは、
委員会及び裁判所を通じて発せられる国家意思が相互に矛盾することになるのではないか」との
質問がありました。これに対して政府よりは、「国家の治安維持の
責任は行政府にあり、殊に規制処分は迅速を要するものであるから、これを行政処分として政府の
責任において処理することが適当であり、事後審査を原則とする司法機関をしてその処理に当らしめることは、不当にその負担を重からしめるのみであ
つて、三権分立の建前からも妥当を欠くと認める。なお刑事判決と規制処分とが矛盾する場合を生ずる虞れあることは
質疑の
通りであるが、風俗営業取締法等、他にもその例あり、止むを得ないことである。併し適当な方法があれば国家意思を統一することが望ましい」という
趣旨の
答弁がありました。
第四点は、「公安調査官は法文上強制処分をなす権限は有しないが、その職務の性質上、職権濫用の慮れあり、これに対して一応の訓示規定はあるが、併しこれを裏付ける制裁規定を欠いており、刑法の特別公務員の職権濫用罪のごとき特別の制裁規定を必要とするのではないか」との
質疑に対しまして、政府よりは、「公安調査官は強制処分をなすものではなく、従
つてその職権濫用に対しては刑法の特別公務員に関する刑罰規定は適用せられないけれども、一般公務員に関する刑罰規定は適用せられるので、それで十分であり、なお法の運用については十分注意し、職権濫用等のなきよう特に
愼重を期したい」旨の
答弁がなされたのであります。
第五点は、「これらの立法は労働組合の活動を制約し、その発展を阻害する虞れがあるのではないか」との
質疑に対しまして政府よりは、「労働組合等の正当な活動を制限し、又はこれに介入することのなきよう、特に規定を設けており、又労働組合が法に定める暴力主義的な破壊活動を行うようなことは到底考えられないことであ
つて若し組合が仮にそのような活動を行うとしたならば、それはすでに労働組合としての正当なる活動をしておるものではないがら、これに対して規制処分を行うことも又止むを得ないところである」との
答弁がありました。
第六点は、衆議院において修正せられた公安審査
委員会の取調べについてその範囲及び同
委員会の事務局の定員に関する
質疑に対しまして、政府よりは、取調べの範囲については、必要な場合は新たなる証拠について積極的に事実の取調べもできる
趣旨であ
つて公安調査庁長官の提出した書面の範囲に限定せられるものではないと解釈する」旨、又「事務局の定員は十名とな
つておるが、これはこの程度で一応事務の遂行が可能であると考えられるとの
答弁がありました。
このほかに、規制処分と一事不再理の原則との関係、扇動の解釈、審理手続における代理人の代理権の範囲、機関誌紙の同一性を認定する方法、同一政党に属する公安審査委員の数、暴力主義的破壊活動と芝居、演劇等との関係などにつきまして又注意すべき
質疑応答が行われた次第であります。
かくて六月十九日
質疑を打切り、討論に入
つたのでありますが、先ず
中山委員より
岡部委員との共同修正案が提出せられました。
この修正案の骨子は、
破壊活動防止法案につきましては、第一に、本法の適用を必要な最小限度にとどめ、拡張解釈を許さぬ旨闡明する規定を設け、第二に、暴力主義的破壊活動として先ず刑法の外患誘致、外患援助及びこれらの行為の未遂、予備及び陰謀、次に内乱、外患誘致又は外患援助の実行を目的とする無線通信又は有線放送による通信を新たに加え、第二に、扇動について明確な
定義を與えると共に、予備、陰謀及び幇助の扇動行為はすべてこれを暴力主義的破壊活動から除外しました。又、文書等の所持もこれから除外することとし、第四に、以上の修正に伴う罰則の整理を行い、第五に、公安審査
委員会の事実取調に関して所要の手続規定を設け、第六に、公安調査官の職権濫用罪を設ける旨の修正をするものであります。次に、
公安調査庁設置法案につきましては、右の修正に伴う字句及び條文の整理を行い、更に
公安審査委員会設置法案につきましては、委員の数を二名増員し、これに伴う
会議成立のための定足数を増加する等の修正を行うものであります。
次に、伊藤委員よりも又同じく三法案に対する修正案が提出せられたのであります。その要旨は、
破壊活動防止法案につきましては、第一に、本法の規制の基準を本法の規定する犯罪の捜査にも適用するものとすること、第二に、暴力主義的破壊活動より、扇動、文書等の所持及び公務執行妨害の行為を削除して、その範囲を縮小すると共に、これに伴う罰則の整理を行い、第三に、公安審査
委員会をして実質的な審査に当らしめるため、その事実取調に関して詳細な手続規定を設け、第四に、規制処分に関する行政訴訟においては、内閣総理大臣の執行停止に対する異議申立権を排除することとし、第五に、規制処分の理由と
なつた暴力主義的破壊活動の行為者たる当該団体の役職員又は構成員の全員が刑事裁判において無罪の判決を受け、それが確定したときは、公安審査
委員会はみずからその処分を取消すものとし、この場合には、国が当該団体に対して処分による損失を補償することとし、第六に、この場合おいて処分は
決定のときに遡及して無効とされ、その結果として団体員が処分に関してなしたる違反行為は、これを罰しないこととし、若し有罪判決が確定している場合は再審の請求ができるものとし、第七に、公安調査官、検察又は警察の職務を行う者等の本法執行に関する職権濫用の罪を設ける等の修正をするものであります。次に、
公安調査庁設置法案につきましては、公安調査庁職員の定員を二十名減員して、これを公安審査
委員会に振り向けることに改め、又
公安審査委員会設置法案につきましては、委員の数を二名増員し、委員長又は委員を罷免する場合にも両議院の同意を要することとし、且つ二人以上が同一政党に属することができないように改め、又委員の増員に伴う
会議成立のための定足数及び委員補佐の数をそれぞれ増加する等の点について修正を行うものであります。
これらの修正案の
説明に引続いて各党各派の委員九名より、それぞれ意見の開陳が行われたのでありますが、その詳細は
速記録に譲りまして、結論だけを申上げますと、
内村、
吉田、羽仁の三委員は両修正案及び原案のいずれにも
反対、
松浦、片岡、宮城、紅露の四委員は伊藤修正案及びこの修正部分を除くその余の原案に対して
賛成、
長谷山委員は、
中山、
岡部共同修正案及びこの修正部分を除くその余の原案に対して
賛成する旨の意見が述べられました次第であります。又
岡部委員よりは、その修正案について補足的な
説明が加えられたのであります。
討論を終了いたしまして
採決に入
つたのでありますが、先ず三法案に対する伊藤修君の修正案、次に
中山、
岡部共同修正案についてそれぞれ
採決いたしましたところ、いずれも
賛成者少数にて否決となり、次いで三法案の原案につき一括
採決いたしましたところ、これ又
賛成者少数にて否決すべきものしと
決定いたした次第であります。
以上御
報告申上げます。(「票数を言わないでどうするのか」「言えないのだ」「それは中間
報告だ」と呼ぶ者あり、
拍手)
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