○羽生三七君
只今議題となりました
食糧管理法の一部を改正する
法律案につきまして、農林
委員会における審査の経過及び結果を
報告いたします。
この際、
報告に先立ちまして、本
法律案の主な狙いである麦の
統制の廃止を
目的とした
食糧管理法の改正に関する従来の経過の大要を申述べておきたいと思います。過ぐる
昭和二十六年三月、第十回
国会において麦の
統制を廃止せんとする
食糧管理法の改正
法律案が
政府から提出せられ、
衆議院を
原案通り通過して本院に送付せられ、本院においては農林
委員会に付託、審査の結果否決となり、本
会議においても同様否決せられ、両院協議会の協議に付せられたのでありますが、成案を得るに至らず、廃案となり、麦の
統制は従前
通り継続せられることにな
つて今日に至
つているのであります。ところが今回
政府から、「食糧事情は著しい改善を見、食糧不足から来る
国民生活の不安定や、これに起因するインフレの促進等の事態は次第に解消し、なかんずく麦類については都市家計において価格は安定するに至り、配給面においても相当数量の配給辞退が見られ、需給及び価格とも顯著な安定を見るに至り、更に今後の見通しについても、従前に引続いて万全の
措置を講ずるならば、
国内生産の維持と相待
つて、
輸入も確保できる見込であるから、何らの不安がなく推移し得るものと認められ、右のような判断から、麦については従来の供出配給制度を続ける必要は極めて薄くなり、
統制を廃止しても社会経済に不安を與える虞れがないのみならず、却
つて速かに
統制の不便から解放して、農家にはその生産した麦の自由な販売を、消費者については質と量の自由な選択を認める利便を與えることが適切と考える」という理由によ
つて、麦の
統制を廃止する意図を以て本
法律案が提出せられたのであります。
而して本
法律案の内容は大要次のようであります。即ち第一は、麦の
統制の廃止とその後の
措置についてでありまして、従来行われて来た麦類に関する供出及び配給等の
統制を本年産新麦の出廻り期から廃止することとなし、併し
統制は廃止するとしても、その後における麦類の需給を調節し、安定した麦価の水準を維持するため、
政府は、
輸入麦類についてはすべてこれを、買入れ
国内産麦と同一の価格水準で売渡すこととなし、且つ必要な限り
輸入補給金を財政支出すると共に、内麦については
政府において買入及び売渡を行い、
政府の間接的需給調節の
措置を講ぜんとするものでありましてその
実行方法を要約いたしますと、
政府は
国内産麦をその生産者又は生産者の委託を受けた者からの売渡の申込に
従つてこれに買い応ずることとなし、その場合の買入価格は農業パリテイ指数に基いて算定される価格を基準とし、麦の生産事情及び米価その他の経済事情を参酌して定めることとせられておるのであります。次に買入れた麦の売渡につきましては、需給の調節と市価の安定を図るよう毎月所要量を売渡すこととなし、その売渡の
方法は一般競争入札を原則とし、農林大臣が必要と認める場合は指名競争契約又は随意契約によることとなし、而してこの際売渡価格は消費者の家計に対して麦価が実質的に負担増加とならないように考慮して定めることとせられているのであります。なお麦食による食生活の改善に資するため、学童等に供するものについては、当分の間通常の
政府売渡価格より安く売り渡すことができる途を開くことといたしておるのであります。
第二は、すでに管理の対象から外れております「いも」類及び雑穀に関する規定及び先に解散し又近く清算
事務も完了しようとしておりまする食糧配給公団に関する規定を法文上削除せんとするものであります。なお、この点についてこの際附言を要すると思われますことは、先に「いも」類の
統制が廃止せられたときに、その後の
措置として設けられました「いも」類について生産者の申込により一定数量を
政府が買入れる制度が今回廃止せられることにな
つていることであります。
以上が
政府原案の内容の大要でありますが、かかる
政府原案に対して、
衆議院において次の
修正、即ち
政府が麦類を買入れる際の買入価格について
政府原案に対し、買入価格決定の要件として更に、「麦の再生産を確保することを旨とする」ことを追加
修正して本院に送付せられたのであります。なお本
法律案が
衆議院において
修正可決せられましたとき、大要次のような決議が行われましたことを、この際御参考までに申述べておくことにいたします。即ち、
政府は麦類の増産を確保するよう左の事項を実施すべきであるとして、
(一) 麦類の買入価格の決定に当
つては、
昭和二十五年及び
昭和二十六年の麦価の平均を基準として、その再生産を確保するよう決定すること、なお、麦類の売渡価格は現行価格を維持すること。
(二) 麦類の買入、売渡により食糧管理特別会計に赤字を生じたる場合、
政府は一般会計より赤字補てんを行い、これを生産者又は消費者に負担せしめないこと。
(三) 配給米食率を全国的に均一化すること。
が挙げられておるのであります。
委員会におきましては、
国内における食糧需給の現況と今後の見通し、
外国食糧
輸入の見通し、外貨の需給、国際小麦協定の将来、麦類需給調整操作の実施
方法、米価と麦価との
関係、主食の二重価格制とこれに関する見解、食糧管理特別会計の運用、
輸入食糧補給金のあり方、米食率並びにその調整及び維持、麦類の増産と麦食の普及、畑作の改善及び「いも」作の育成、
衆議院における決議に対する
政府の決意等の問題について、
政府当局に対して
質疑が行われたのでありまして、これが詳細については
会議録に譲ることをお許し願いたいのでありますが、そのうち二三の問題についてこれが大要を御紹介いたしたいと存じます。
その一は、
政府において今回麦の
統制を廃止せんとする理由として、
我が国の食糧事情が著しい改善を見るに至り、特に麦類についてはその需給が顯著に安定し、今後においても何らの不安なく推移し得るものと見込まれるからであると述べられているのであるが、これに対して
我が国の食糧の供給は高度に
輸入食糧に依存しておるのであ
つて、かような
状態を以て食糧需給が安定したと言うことができるであろうか。
外国食糧の
輸入は果して
政府において期待せられているように楽観できるであろうか。又
世界的に
外交情勢が食糧に警戒的である際、特に昨年産米の供出が不振であるにかかわらず、ひとり
我が国において安易な気持を以て大勢と逆行した
政策をとることが許されるであろうか。更に国際収支の制約は、多額の食糧の
輸入を賄うことを続けることができるであろうか。最近麦類の需給が緩和し、消費者価格調査において麦類の実効価格が公定価格に近く、麦類の配給辞退が起
つているのは、昨年産の麦の生産が稀有の豊作であ
つて且つ麦類の
統制に関する
政府の取締が緩められたことに基因するところが大きいものと思われるが、かような異常な事態を以て直ちに麦の需給が安定したと即断して差支えないであろうか。且つ
統制が廃止されれば需給操作のため供給を或る程度増加しなければならないこととなりはしないか等、本
法律案の核心である食糧の需給について先ず以て重大な関心が拂われ、極めて真撃な質問が発せられたのは当然なことであります。かかる質問に対して
政府当局からは、
我が国内における食糧の生産は需要を賄うことができないため、毎年相当量の
外国食糧を
輸入しなければならないのであ
つて、食糧事情は決して安心することはできない。
従つて米の
統制はこれを引続いて
実行する必要があるが、併し麦については全く安定していると言い切
つても差支えないと思う。麦類の
輸入の見通しは、昨年十一月から本年十月までの
昭和二十七年米穀年度において、外麦の
輸入計画は玄米換算約百八十七万七千トンであ
つて、これに対してすでに五十一万トンの小麦が到着しており、更に九十万三千トンの小麦の買付が終り、
両者合せて半歳にして百四十一万三千トンが確保せられている
状態であり、且つ小麦は国際的に見て大きなストツクがあり、
アメリカにおいては七百万トン以上、カナダにおいても相当量のストツクがあると伝えられているので、麦類については物量においては何らの不安、心配はない。ただ米の需給については本年は決して楽ではないが、併し米の最小限の確保については最善の
努力を盡したい。又国際収支の
関係において、外貨の面については本年度の
輸入計画総額約二十一億ドルであ
つて、そのうち米麦に関するもの約四億一千二百万ドル、このうちドル地域から二億五千六百万ドル、ポンド及びオープン・アカウント地域から一億五千六百万ドルが期待されていて、米麦
輸入のためこの程度のドル貨の支拂は必ずしも多いものではないという認識に立
つている。直接
統制方式については、供出割当の面において又配給の面においていろいろな欠陥が現われ、麦類需給の現状においては、全国プールの現
統制方式にあ
つては価格の面から
統制は崩れて来る。かような点から見て、麦の管理方式を改めることが
統制から来る混乱を防ぐこととなるという趣旨の
答弁がなされたのであります。
その二は、
衆議院における
修正と同じく
衆議院における決議に関してでありまして、現行法による米の買入価格の決定
方法と今度
衆議院において
修正せられた麦類の買入価格の決定
方法とを対比して見るとき、主客顛倒の感がありはしないか。又、麦の
政府買入価格の決定
方法に関して
政府の
原案と
衆議院修正案とは実質的に如何に相違しているか。更に又かかる
方法によ
つて決定せられた価格を以て買入れ、これを
衆議院における決議の趣旨による価格を以て売却すれば、二重価格となる公算が大きく、且つ買入価格についても売渡価格についても米と麦とは均衡を得た取扱になすべきであるとしてこの点に関する見解が質され、これらの問題については、ひとり
政府当局からばかりでなく、
衆議院における
修正案提出の
代表小林
衆議院議員及び決議案の趣旨説明者吉川
衆議院議員の出席を求めて、直接
関係者からの説明が聽取せられたのでありまして、これに対し両議員から、大要、主食全般として米麦
一体論に立
つていて、法文上の
関係はともあれ、買入価格は、麦は勿論、又米についても当然再生産が確保されるように決定せらるべきである。売渡価格は当然二重価格という結果になる、併しこの二重価格制を
法律上規定することは現行食糧管理特別会計の原則として種々問題があるので、
法律の改正はこれを避け、決議というような形をと
つたのである。而してこの決議の
実行はこの決議に関する農林大臣の
答弁に対する
政府の誠意と責任如何にかか
つているとの趣旨の
答弁があり、なお麦類の取扱によ
つて生ずる赤字を米価を以て相殺することは絶対行わないようにしたいと附言せられたのであります。なお又麦について二重価格の
措置を講ずることになれば、米についても当然同様な
措置がとられるべきであるとして、この点について
政府の所見が確められましたところ、麦については
衆議院の決議の結果二重価格となるが、米についてはその際の事情如何によ
つては希望するところであるが、今日は未だ適用するか否かをきめる段階ではないのであ
つて、後日米価
審議会等の
意見を聞いて
措置されることとなるであろうと答えられ、これに対して更に米についても適用することは当然であると重ねて念を押されたのであります。
その三は、
輸入外麦について、これが価格を調整するため国庫から少からぬ金額の
輸入補給金が支拂われているにかかわらず、市場の価格を自由に放任することは、
政府においてその手持麦の操作によ
つて市場価格の調整を行う意図であ
つても、消費者の価格が適正に安定される保証とはならないのであ
つて、折角の補給金の効果を減殺することとなりはしないかとの質問に対して、はつきりした保証とはならないわけであるが、併し結果においては安くなるから消費者価格に端的に響くこととなり、市場価格の安定を期待することができる旨答えられているのであります。
その四は、今回の改正によ
つて現行法において規定せられている「いも」類の生産者の申出に応ずる
政府買入に関する規定が削除せられ、この制度が廃止せられることになるのであるが、この制度は「いも」類の
統制廃止の際設けられたものであ
つて、「いも」作の維持育成のため重要な事柄であるから、かかる規定が削除せられることは不適当であり、これはやがて麦類が迫るべき運命ではないかとの質問に対して、この制度は主食が不足な場合の制度であつたが、今はその段階は過ぎ、
政府は「いも」類を買入れる意思がなく、且つ「いも」類の価格維持
政策としては
実行上疑問があるから、今回削除して廃止することにした、麦についてはかような意図は毛頭持
つていないと答えられたのであります。
かくして
質疑を打切り、
討論に入りましたところ、
日本社会党第四控室小林孝平
委員から、
政府今回の
措置は国際
情勢の現況及び貿易
関係の状況から見て、今日の段階においては早計であ
つて、暴挙にひとしいものである。併しながら戰時戰後を通じ多年に亘
つて行われて来た苛酷な供出制度及び窮屈な配給制度は排除せられなければならない。而してこれに代る方策としては、生産農家による自由申告に基く供出と登録店を以てする一定ルートを通じての公定価格による自由販売こそ、この際とらるべき最適当な
方法であるとの趣旨に基く
修正案が提案せられ、この
修正案に対して協調の趣旨を以て
日本社会党第二控室松永義雄
委員から賛意が表明せられ、続いて
緑風会片柳眞吉
委員から
賛成の意が述べられ、続いて
緑風会加賀操
委員から、
緑風会所属
委員有志並びに自由党、改進党及び民主クラブの共同提案を以て、主食として米と麦は同列に取扱うべきものであるとする米麦
一体論を倉重し、その原則に即応して、米と麦との
政府における買入及び売渡価格は同じ方針に基いて行わるべきであり、又前に述べました
衆議院において行われた決議はこれを單に決議にとどめることなく、その趣旨を法制化することが当然であるので、この決議の内容を鮮明して、その趣旨に
従つて必要な規定を設け、且つ麦に対する
輸入補給金の効果を麦の実需者価格に反映せしめるため、
政府における麦の売渡は原則として随意契約とすべきであるとの趣旨に基く
修正案が提案せられ、これに対して
日本社会党第四控室小林孝平
委員から
反対が述べられ、
緑風会飯島連次郎
委員及び自由党宮本邦彦
委員からいずれも
賛成が表明せられたのであります。
これにて
討論を終り、
採決の結果、多数を以て本改正
法律案は
衆議院送付案に加賀操
委員が
代表して提案せられた
修正案を加えて可決すべきものと決定いたした次第であります。
右御
報告いたします。(
拍手)