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政府委員(関之君) 私どもは問題のスタートとしては、今申しましたように、
現下における国内の騒がしい
状況はかくのごとき段階である、それに対しまして国内の法としてはどういうものがあるか、これが
一つのスタートになる。次の段階としては、然らば我々として自主的に
考えなければならん問題であるけれども、外国のやり方は一体どんなことをや
つているか、外国では或いは
民主主義その他の
主義に立脚している国においてはどういう
施策をしているか、これは他山の石としまして先ず
考えなければならない点だと思います。そこでこれは広い
意味におきまして、この
法案が
一つの
治安的な
立法である、これは言うまでもないところであります。そこで外国においてのいわゆる
治安立法というものはどうな
つているかという点どの点まで抑えているか、どの程度まで出ているかということが私どもの最も注意しなければならない点であ
つたのであります。そこで私どもとしては、イギリスとフランスとドイツとアメリカとソ連でございます、これらの国々の
治安的な
立法がどこまで行
つているかという点を調べてみたわけであります。そこでそれらを一応
治安立法というものは整備されているか、いないかという点から見て順序をつけてみますと、これは一番やはり少いのは英国とフランスであります。その次に整備されているのはドイツ、次に最近にな
つて非常に整備しているのがアメリカでありまして、それと同じくらいのものに運用上なり得るのがソ連であります。そこで一番少いと思われるフランスと英国でありますが、これは
考えようによ
つてはフランスのほうが少いのではないかと私は思
つているのであります。この問題につきましてはどうも各種の語学の制約もありまして或る友人の協力その他を得まして短い期間にできるだけの
調査はいたしましたが、勿論刑法等の基本
法律のほかに個々の単行法、殊に英国のごときはすべてコモンロー、何百年前の
法律がそのまま生きているというので、なかなか手が届きかねておりますが、大筋のところを調べてみたのであります。そこで今のような私は大体の段階ずけをいたしまして、そうして英国ではどこまで行
つているか、一番少いと思われている英国とフランスはどこまで行
つているかということが私どもの一応踏み出す根拠に
なつたわけであります。英国の実情を申上げまして、
あとはそれに準じて御説明いたしますれば、大体御理解が願えると思うのであります。
英国におきましては、これは今まで申上げたように、大体
日本の刑法にも規定するがごとき各種の反逆罪、重罪、軽罪の三に分けまして、コモンローによ
つて大体この程度の実害
行為が犯罪と規定されているわけであります。そのほかにこれは今まで御説明いたしたごとくに、かような
行為はプロキユア・ツー・コミツト・ア・クライムと書いてあるのですが、そういう犯罪を起させるような各種の
言葉、言動こういうものはそのこと自体が犯罪とな
つているわけであります。これは今の
日本の
言葉で申しますと教唆或いは
扇動が独立罪にな
つているわけであります。だからこれは今までの
日本人の
考え方から申しますと、実害
行為が起きなければ、さようなことは処罰しないほうがいいんじやないかという今までの我々の
考え方が、英米法におきましてはそういうこと自体が
社会的に不安をひき起すのだ、そのこと自体はすでに犯罪なんだと、それは英米法から申しますと、犯した者と同じような主犯者という
言葉を使
つているわけであります。
言葉で以て犯罪を犯させるようにするのは行
なつたと同じように主犯者であ
つてすでに主犯者としての刑を受ける、こういう
考え方が英米法の
考えであります。これはですから大陸系の知識を持つた我々の
考え方からいうと、なんというか非常に驚くべき
考え方でありますが、少くとも英国、米国のコモンローを中心にした国においては、そういう重罪というような反逆者というような罪を起させるように仕向ける
言葉、その
言葉はアージ、アベツト或いはエンカレツジとかそういう一切の
言葉で、全部相手方の犯意を起したり、犯意を強めるというようなその一切の
言葉、その
言葉自体が悪いのだ、それが
一つの犯罪なんだというふうに見ているわけであります。そこで英国は今の実害
行為を中心としてそういう
言葉が全部犯罪だというふうに規定されているわけであります。そのほかに我々として注意しなければならん点は、英国では御
承知のコンスピラシーの
議論があるわけであります。これは共謀の
議論でありますが、
日本の
言葉でいえば隠謀であるとか共謀であるとかいう
言葉に訳されるべき問題だと思います。犯罪を一人でや
つても何でもないが二人以上で犯罪を協議する、そのこと自体が犯罪である。これは使いようによ
つては英米法の学者或いは大陸系の学者が非常に
濫用されるものであるというふうに非難をしているのでありますが、少くとも判例法によ
つて古い伝統によりまして、一人では罪でないけれども二人以上で犯罪を共謀する、企画するというそのこと自体が犯罪であるというコンスピラシーの
議論があるわけであります。これは今日におきましては反逆罪、重罪についてのコンスピラシーは当然犯罪である。更に或る
意味においては軽罪についてもさようなものは犯罪であるというふうなこのような
考え方が英国から生まれて、更に今の米国に移入されて英米法は大体さような
考え方にな
つているわけであります。
そこで
治安的なこの種の破壞的な犯罪に対しまして英国ではどういうことができるかと申しますと、大体
日本の例になら
つてみますと、
日本の各種の実害
行為が刑法に書いてあるわけであります、刑法に書いてある外側のかような
行為の教唆、
扇動という
行為は、そのこと自体がすべて犯罪になる。そうして同時にその犯罪の中において、そういうことを二人以上で共謀するということが、そのことがすでに罪とされるわけであります。その犯罪というものを犯罪としてキヤツチできるということになりまして、これを
日本の刑法に当てはめてみますと、刑法のすべての犯罪に対しで
扇動、教唆をして、そうしてすべての犯罪に対して隠謀を或いは予備を企てたというところが英国の実はコンモンローにおけるクリミナルに関する規定に相成るわけであります。これを
日本流に
考えてみますと非常に広範なものになるわけであります。とにかく英国はそこまでや
つているというふうに私は
考えまして、成るほど英国人というものの
考え方は、我我からみると自由
人権と云
つてお
つて非常に
民主主義の祖国といわれるような国だが、なかなかやはり
法律的体制にはえらいものがあるというふうに実は驚いたのであります。
第二といたしましてフランスであります。フランスにおきましては大体刑法の立て方は
日本流であります。そうして言論の処罰は即も教唆する相手方が本犯を実行しなければ犯罪にしないというのも
日本流であります。ところがそういうことではいけないということになりまして、一九二二年頃に単行法によりまして、重罪について例えばこの
法案の三条に規定してあるようなああいう重い罪については、そういう場合の
扇動行為それ自体犯罪として処分するというように相成
つているのであります。そのほかにその後における刑法の
内乱規定の一部の修正というようなものによりまして、やはりそういう重罪を犯すようなことをそそのかしたり、あおつたりする各種の言動
行為がやはり犯罪になるということに相成
つているわけであります。この両国のあれは、危険な言動が起つた場合に押えるという点から見るならば、英国のほうが私は遙かに便宜であり、
法律が整備されていると思うのであります。
なおこのほかに英国におきましては、一九二二年に過激な思想の
宣伝行為を取締る
法律、それから十六歳未満の子供に対して、過激思想を
教授することを取締るという
法律が出たといと文献がありまするが、私は調べて見ましたら現行法の法典にはな
つておりませんが、出たという文献が
日本にあるのであります。そこで英国は廃止同様なわけですから、そういうようなこと。なおそのほかに細かい
法律としましては、例えばこの国会の周囲において、これは人数は忘れましたが例えば五十人以上で議会の開会中にデモをしてはいけない、或いは国会に入
つて来たらばその国会のルールに
従つて若し違反したら処罰する、或いは特定の服装をして集団的なデモンストレーシヨンをしてはいけない、これは
ナチの服装で
ナチが盛んにや
つたので似たような
ナチ的な
行為をしては
いかんというようなことであろうと思うのであります。大体
ナチの勃興時代にできた
法律であります。そうして今までの刑法の規定で、非常にとにかく仮に
日本の現状におきまして見ますならば、相当危険な言動というものは一切抑えられるということになるわけであります。フランスはどうも比較して見ますとフランスのほうがやはり実質的には少いのじやないかと、今申上げましたようなわけで、これらの点が特にこの
法案を作るに当りまして、先進のというかとにかく民主諸国においては、一体どこまで行
つているかという
一つのふん切りを
考えるべき問題であ
つたのであります。
そうして次はドイツでありますが、ドイツは今度の昨年の八月の刑法改正によりまして、これは非常に広範なものでありまして、国内に対する破壞的活動に対する各種の
立法を整備したのであります。
更にアメリカに参りますと、御
承知のごとくこの数十年来
ナチの勃興以来、アメリカの破壞活動とかかような言論活動というものに対する
立法というものは実に驚くべきものがあるのでありまして、これは
一つのクリミナルとして処罰するほかに、或いは公職や重要産業に対する就職禁止であるとか、或いは公務員の忠誠令であるとう、或いはイミグレーシヨンに対する各種の措置であるとかいろいろな措置をと
つているのであります。そういうような段階にな
つております。
ソ連に至りましては更にそれを徹底化した一切の反抗する言論まで全部抑えられることができるというようなことにな
つているのであります。
そういうようなふうに外国の
立法例を見まして、
日本の現行法をこの外国のこの系列に並べて見たら一体我が国はどうなるかという点が私の次の考察であ
つたのであります。そこでみますと、御
承知のごとく、
日本においては、刑法がすべてそうしてまあ
治安的な
法律として
暴力行為等処罰に関する
法律、爆発物取締罰則、そうしてその他……