○
政府委員(関之君) お尋ねの点につきましては、私
ども立法するに当りまして、外国ではどういうことにな
つているかという点を一応調べて見た次第でございまして、十分ではございませんが、一応立法の資料に供しました僅かな範囲について私の知
つているところを申上げて御参考に資したいと思うのであります。
お尋ねの最初の英国でありまするが、これは岡部先生の御記憶のように、英米におきましてはこのフエロニー、これは重罪でありまするが、犯罪を叛逆罪と重罪と軽罪の三つに分けて
考えておりまして、叛逆罪と重罪についての犯罪を惹き起させるような
言葉、これは
日本で申しますと或いは教唆になり扇動になるかも知れませんが、要するにそういう
言葉は、それ自体がもう結果の起ると否とを問わず犯罪として処罰されている、これが普通法上の原則であるわけであります。従
つて何ら
法律制定を要せず、今申上げたような叛逆罪的なもの、そうして重罪的なもののこの教唆、扇動というふうに、それを起させるような虞れのある
言葉自体が犯罪として処罰されているわけであります。これは
考え方が私の調べによりますると、大陸法系と全然異
つておりまして、とにかく大陸法系では或る
言葉があると、それが実行が行われなければその
言葉を処罰されないという建前にな
つておりますが、そこが英法は非常に異なるのであります。この叛逆罪と重罪に関する教唆、扇動のような
言葉は、それ自体で処罰するという
考え方が、これが米国に受継がれているわけであります。米国におきましてもこの英法の基本の流れを汲みまして、そうして叛逆罪的な行為、そうして重罪的な行為は全部これをその
言葉自体で、結果が起らずとも違法としてこれを処分しているわけであります。そこで問題になりますのは、そういうような英法的な
立場から見てこの
破壊活動防止の本法の第三条に挙げるような各行為が、これが英法の
立場から見てどうなるかという比較的な問題が大きな問題になると思うのであります。そこでこの第三条に掲げました各行為につきまして、英米法の
立場から見てみますると、第三条の一項、一号のこの内乱的な行為、これは向うから申しますといわゆる叛逆罪的な行為でありまして、当然これらを惹き起させるような虞れのある各種の言動は全部このままで犯罪として処罰されているわけであります。これは
言葉といたしますればアージであるとか或いはアドヴオケートであるとかいろいろの
言葉が使われておりまして、一律ではございませんが、とにかくその結果を惹き起させるようないろいろの
言葉を、そのまま結果を見ずとも犯罪として処罰するということにな
つているわけであります。
で、この第二号のほうでありまするが、この第二号のイの騒擾の規定、これはアメリカの各州を調べてみますと、或る州によ
つてこれが重罪として扱われ、或る州によ
つては軽罪として扱われる。従
つてこの部分につきましては、或る州ではそれらの教唆、扇動的な言辞はそのまま犯罪になるが、或る州によ
つてはな
つていないということになるのであります。それからロの放火の罪、次のハの激発物破裂の罪、汽車、電車顛覆の罪、殺人、強盗、そうして爆発物の使用と、そうして凶器又は毒劇物で多衆共同して検察官、
警察官等に公務執行妨害をなす、これは英米法の
立場から見ますといずれも重罪に当るものであるというふうに、私は調査をしてさように
思つているわけであります。従いましてかような行為につきましては、英米法の
立場から見ると、その教唆とか扇動とかいろいろの
言葉がありまするが、とにかくそれを惹き起させるような虞れのある行為或いはそういうような危険を来すような虞れのある行為、そういうような
言葉はすべて今日において犯罪として処罰されているということはすでに常識的なことにな
つているわけであります。
なおこのほかに最近の傾向といたしまして、特にアメリカにおきましてはこのよう行為のほかに、いろいろの
言葉による犯罪の教唆とか扇動とかいうような行為を広く処罰することに相成
つているわけであります。最近の立法例を調べて見ますると、これはアメリカの例のスミス法であるとか或いは各州におきまする無
政府主義者の取締法であるとか、或いは国内安全保障乃至は動乱の教唆とか、或いは軍に対する妨害行為の取締法であるとか、各種の立法例を調べて見ますと、次のような
言葉が
言葉それ自体で結果が惹き起されず、犯罪として処罰されているわけであります。それはアベツト、アドヴオケート、インサイト、エンカレージ、プロヴオーク、アージ、カウンスル、アドヴアイス、テイーチ、こういうような
言葉がそれ自体で、何ら実行行為が随伴されず処分されているわけであります。これらの
言葉を
日本語に訳してみますと、或いは扇動となり教唆となり幇助となり、或いは騒擾と
なつたり、或いは激励する或いは鼓舞する、或いは奨励する、勧告する、教える、助言するという、いろいろこういうような
言葉に訳されているのでありますが、要するにかような一切の
言葉がそのままでも犯罪となるというふうに規定されているのであります。これはなせこのように随分いろいろな
言葉を挙げたのだろうか、この立法の理由につきましては、議会の
説明書が手に入りませんので調べて見ませんが、一応私
どもの推定といたしましては、要するに犯罪者が、お前はアドヴオケートしたのだというと、俺はそうじやない、エンカレージしたのだというふうに遁辞を設けていろいろ逃げてしまうから、それでいろいろの
言葉を羅列して、そしてそのような一切の犯罪が惹き起される行為を全部押えてしまうというような
考え方ではないかと思うのであります。これが米英法における概要であります。
次に第二点でありまするが、ドイツとかフランスの大陸法系におきましては、この犯罪の教唆とか扇動とかいう
言葉につきましては、第一の原則は、それらが正犯が実行しなければ処罰しない。だから犯罪を教唆いたしましても、正犯が実行しなければ処罰しない。丁度
日本の刑法第六十一条の原則でありまして、そういうことが長い間の原則であ
つたのであります。ところがその後この英米法の
考え方が移入されまして、どうもそれだけでは不足であるからして、重い罪については教唆とか扇動とかいろいろ、とにかくそういう
言葉でそのような重い罪が惹き起されるような虞れのある行為は、実行が伴わなくても、直ちにこれを犯罪として処分するという
考え方が大巾に入
つて来たのであります。それで例えばドイツで申しますと、
日本の刑法第六十一条のような教唆に関する規定のほかに、先ずこの重罪を扇動するということは、それを独立に処罰するわけであります。又公然大衆の面前又は文書によ
つて法令又は官憲の命令に服従しないことを扇動すること、これはそのこと自体で犯罪として処分しているわけであります。そうして又
一般に犯罪を扇動することは、結果が起きた場合と結果が起きない場合によ
つて刑に若干の差別を設けて、そういう行為を
一般に処罰しているわけであります。従
つて結論から申しますと、
一般に犯罪を扇動することは、結果が起きなくても、そのこと自体で処罰するということに相成
つておるわけであります。
次に昨年の八月ドイツにおきましては占領軍の進駐と共に内乱罪に関する一切の規定が削除を命せられまして削除しましたが、平和条約の発効を見越して昨年の八月に刑法の改正をいたしまして、内乱に関する部分の規定を挿入いたしたのであります。そしてその中には以上の原則のほかに、この内乱罪に関する文書、録音盤、絵画、若しくは制作物の出版、制作頒布又は頒布目的の所持というものを処罰するという規定を新たに一条加えているのであります。又そのほかにかかる
内容を有する表示物若しくは制作物の映画、
放送、無線電話、若しくはその他の光学的複製によ
つて頒布するものを又同様に処罰しているわけであります。従いまして内乱罪につきましては、その扇動、教唆というふうな犯罪を起す虞れのある
言葉、かようなことを書いてあるところの文書、録音盤とか図画、若しくは制作物とかいうような出版、制作物の頒布及びかようなものの
放送、電信電話、若しくは光学的複製によ
つてやる頒布、こういうような広汎なものが犯罪として処罰されているわけであります。なおこのほかドイツの昨年の改正におきましては、国権の執行、従
つて国会であるとか或いは大統領であるとか、或いは行
政府或いは憲法裁判所というような、そういう国権の中枢、最も重要な機関に対する各種の
政治的意図を以て品位を傷けるような名誉毀損的な行為、そういうようなものも広汎に犯罪として処分する規定を設けているのであります。これが大体ドイツにおける今日の現状であるわけであります。
次はフランスでございますが、フランスは刑法の教唆の規定は
日本の現行刑法と建前は一致しておるわけであります。即ち犯罪の教唆、扇動でありましても、その結果が起らなければ、その
言葉自体では処罰しないというのが刑法の建前であります。ところがこの建前も一八八〇年代に崩れました。そうしてその後におきましては
言葉自体で処罰するという方向に進んでいるわけであります。そうして現在の刑法の中では、
政府の転覆若しくは変更、又は公民若しくは住民を扇動して
政府に対して武器をとらしめるというようなことを目的とする違法行為は重く処罰するという規定があるのであります。これはかなり前からあ
つたようであります。併しその後こういう方面に対する言論出版のようなものの取締の
法律を新たに制定いたしまして、今日におきましては公けの場所又は集会においてなしたる言論又は公けの場所若しくは社会において頒布する文書、印刷物等によ
つて重罪又は軽罪を直接に扇動することは、方法は多少限定されておりまするが、フランスにおいても広く犯罪として処罪されるわけであります。そうして次には窃盗罪、故殺罪、略奪罪、放火の罪及び爆発物使用の罪、こういうようなものの罪とか或いは内乱罪でありまするが、これらの罪及び外患罪、こういうものにつきましては、直接扇動した方法の如何を問わず、扇動した者を処罰しているのであります。又次には今の故殺とか略奪、放火とかの重罪若しくは窃盗の罪、若しくは爆発物使用というような重罪を賞揚すること、これは扇動でなくて、それを賞め上げるというようなことも、これも独立罪として処罰されているわけであります。こういうようなことがフランスの現在の刑法やその他の刑事取締法規に現れておりまして、この
破壊活動防止法案と比較されれば参考立法と相成るかと思うのであります。
極く概略でありまするが、御
説明した次第であります。