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1952-04-26 第13回国会 参議院 法務委員会 第31号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年四月二十六日(土曜日)    午前十時三十六分開会   —————————————   委員の異動 四月二十五日委員左藤義詮君辞任につ き、その補欠として寺尾豊君を議長に おいて指名した。   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     小野 義夫君    理事            伊藤  修君    委員            加藤 武徳君            鈴木 安孝君            寺尾  豊君            長谷山行毅君            岡部  常君            内村 清次君            吉田 法晴君            羽仁 五郎君   国務大臣    法 務 総 裁 木村篤太郎君   政府委員    法務政務次官  龍野喜一郎君    法制意見長官  佐藤 達夫君    法務法制意見    第二局長    林  修三君    法務検務局長 岡原 昌男君   事務局側    常任委員会專門    員       西村 高兄君   —————————————   本日の会議に付した事件日本国アメリカ合衆国との間の安  全保障條約第三條に基く行政協定に  伴う刑事特別法案内閣提出、衆議  院送付)   —————————————
  2. 小野義夫

    委員長小野義夫君) それではこれより委員会を開きます。先ず日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約第三條に基く行政協定に伴う刑事特別法案議題に供します。  前回に引続き御質疑のおありのかたは御発言を願います。  ちよつと速記をとめて下さい。    〔速記中止
  3. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 速記をつけて下さい。
  4. 吉田法晴

    吉田法晴君 伊藤委員質疑の途中で恐縮でありますが、私の質疑を始めにさせて頂いて伊藤委員来られましたら、途中で中断をいたしたいと思います。  この議題になつております行政協定に伴う刑事特別立法基礎でありますが、この標題には安全保障條約第三條に基く行政協定に伴うと書いてございます。又提案理由説明にも同協定第十八條三項においては云々と書いてございます。いや二十三條関係がその直接的な関連基礎であるかと考えられますが、二十三條を読んでみますと、「合衆国軍隊構成員及び軍属並びにそれらの家族並びにこれらのものの財産」その安全が前段の確保のための実体であります。それから後段は、「合衆国の設備、備品、財産記録及び公務上の充分な安全」とこう書いてございます。この審議をいたします刑事特別立法中心をなします軍機の点についてははつきりいたしておりません。強いて探しますと、公務上の安全或いは保護ということになるかと思いますが議事録にもこのことは書いてございません。探してみますと外務省情報文化局から私ども頂いた行政協定の解説の中に、公務上の情報の安全という言葉があるだけであります。言い換えますと行政協定そのものによつて軍機に関する罪と申しますか、それをこの刑事特別立法規定しなければならんいわゆる根拠というものは薄弱であるという感じがいたすのでございます。  それからなおこのことは従来の占領中の実体でありますが、少くともこういう実体法規占領法規としてもあり、そしてこれだけの規定を作らなければならんという事実がなかつたことはこれは大体周知の認めるところだと思うのであります。先ほど伺いましても事例極めて少いというお話でございます。そこでこういう軍機保護を而も極めて広汎に規定する必要がどこにあるのか。このことは私ども行政協定の性質についても論議がございます。政府考えているよう考えを私ども行政協定について持つておらん。或いは行政協定が何であるかということは昨日も伊藤委員との間に質疑があつたそうでありますけれども、何であつたかということについても政府見解も一致しておりませんけれども国会国民承認をしておらんということは明らかであります。特にその行政協定の中で軍機関係根拠になる條文がなかつた。或いはあつたとしてもそれについてはつきり国会国民承認を得ているわけでございませんので、こういう規定を設けます、いわば刑事特別立法中心であるかと思いますけれども、それについて根拠がないじやないか。若し行政協定についてこれは一部では広義の條約である、或いは安全保障條約で包括的な承認を認めている、こういうことで行政協定内容について国会国民承認を得ずしてこういう法律を出して来るというのは、これは政府国民国会に対して詐欺をなされたものであると極言しても差支えないのじやないかと思うのでありますけれども、この行政協定とそれから刑事特別立法との関係根拠がないとしか考えられませんけれども、この点について御説明を承わりたいと思います。
  5. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 前段行政協定第二十三條の関係でございますが、これは印刷物のあるものにつきましてはミスプリントがございまして公務上の情報のというのが正確な案文でございます。
  6. 吉田法晴

    吉田法晴君 お話中ですが、これは私ども頂いておるのは、行政協定及び交換公文として正式に国会から頂いておる資料でありますので、その中に正誤表も入つておりますけれどもその情報という文字はございません。そういう重大なミスを含んだ行政協定国会に出して資料としてあれしておきながら、あとでそれはミスプリントであつて情報という文字が入つてつたのだと、これは極めて重大な御発言だと思うのですが、その点も併せて一つ説明願いたい。
  7. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 私もこの案文を受取りましてどうも言葉の続き工合がおかしい、何か間違いがあるのじやないだろうかというふうに考えまして、この点外務省のほうに連絡いたさせましたところ、公務上の情報の充分な安全というのが正確であつて、この点については改めて正誤するということで私のほうには実はそういう連絡がございました次第でございます。  なお参考までに私のほうで英文は一体どうなつておるんだろうかといつて研究してみましたところが、その点につきましてはいろいろなことを並べてある中にずつと「プロパテイ・レコーズ・アンド・オフイシヤル・インフオメーシヨン・オブ・ジ・ユーナイテツド・ステーツ」とこういうふうに書いてございます。どちらが正文かということは別問題といたしまして、外務省といたしましても公務上の情報の充分な安全、これが正文であるとかように申しておりますが御紹介をかねまして御説明いたす次第でございます。  なおこの実体が如何なるものであるかという点につきましても私ども従来の取扱の実情を研究いたしてみましたのですが、全国的にこの事件が亘つておりますのと、それから軍事裁判の機関が必ずしもその記録を完全に保管しておるところもあり、していないところもあるという関係からこの事案の内容に一々入れることが困難でございまして、ただ一、二件それらしき事件新聞紙上等で拜見いたし、又あちら側で見せてもらつたりしたのもございます。そこで私どもよう軍機保護についての実体規定を置く必要をどの程度まで認めるべきかという点について議論し合つた結果、合衆国軍隊機密というものをこれを元の我が国軍機保護法といつたような非常に広汎且つ嚴格なる規定で律するというのは不当に失する。この際これを妥当な法定刑を持つた構成要件も又妥当な範囲で考え直そうじやないかということからしていろいろ研究しまして、結局のところこの機密が一度でも洩れたならばあとはもうしようがないことになるのだ、そういうふうな観点から成るべく洩れないようにしよう。その洩れないようにするについての事前の何と言いますか防止の手段ということと同時に、又その構成要件につきましても最小限度のところで行こう。今まで事件が割合に多くなかつたということは幸いにその機密が従来としても余り探知收集又は漏洩されなかつたということではありましようけれども、一旦漏れたらこれはもうおしまいであるという観点から立案がしてある次第でございます。従いまして事件そのものはさして多くないと私も思います。又この点は元の軍機保護法が非常に活躍したかのように思われております昭和十五、六、七、八、あの頃の統計を見ましても実は余り多くないのでございます。
  8. 吉田法晴

    吉田法晴君 国会において配られた行政協定及び交換公文成文と称せられるものに重大な間違いがあつた。又配られたばかりでなく、審議基礎なつ成文に重大な誤りがあつた。これは私は極めて重大だと思うのであります。そこで問題はこれは当法務委員会ばかりでなくて国会全部、或いはその当時審議されました外務委員会、或いは連合審査をされました委員会のみならず、これは予算の場合等にも随分論議せられたのでありますが、全国会の問題だと思うのでありますが、それをあのときは間違つてつたのだ、こういう字句が入つてつたのだ、その落ちておつた字句に基いて作つた法律を、ここで審議しろと言われても、これは私共審議するわけには参らんのであります。これは委員長において適当なお取計らいを願いたいのでありますが、一応その前に、何といつてもこれは法務総裁か或いは岡崎国務大臣か、責任のある政府の代表に御出席願つて、ここで御釈明を願い、或いは実質上行政協定自身についてもう一遍論議を盡さなければこの委員会進行するわけに私は参らんと思うのであります。この点について一つ委員長お取計らい願いたいと思います。
  9. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 まだほかにも誤植があるのじやないですか。
  10. 小野義夫

    委員長小野義夫君) ちよつと速記をとめて下さい。    〔速記中止
  11. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 速記を始めて下さい。
  12. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 議事進行発言を求めます。今吉田委員から問題にされておつたのは非常に重大だと思うのです。言うまでもなく第一に、国会審議というものは飽くまで丁重にされなければならない。その結果が決定的なものになり、そうして国民の権利や義務や或いは人心にまで及ぶと思いますから、国会審議基礎となる資料に重要な誤りがあるということでは我々は国民に対して責任を果すことはできない。それでいずれにせよ事実上国会行政協定に関して審議が行われた際、例えばこれに対して国会承認を求むべきか否かということについて採決まで行われたわけですが、そのとき国会基礎とした資料は今僕が手にしているこの印刷物であつて、それでこれには今のよう文字は入つていない。又正誤されておらない。これをそういうことが今後もたびたび繰返されるようですと我々はどうもいわゆる意味においてだけでなく、国会審議をする上に非常な不安を感じるのです。だからそこには私はそういうことは万々ないと思うんだけれども行政協定進行中にも世論もそういうことを指摘していましたが、かなり政府がつまり事態を糊塗することに汲々としておつてそうしてこの行政協定進行中にもそれらについての十分な国会或いは世論に対する発表というものを怠つていたという点が指摘されておつた。この点がその第二の点です。  この行政協定というものは政府限りで結べるのだと、いろいろ新聞世論或いは国会がそう気になさらないでもよろしいということを岡崎国務大臣どもしばしばそういうことを言つて、非常に軽々しくそれをやつた従つてそれを外務当局においても飜訳の際にも今のよう情報という文字があるかないかというようなことは相当内容関係する。それでいわゆるイレレヴアント、意義関係のない誤植ではない、意義関係のある誤りです。そういうこともなされたんじやないか。  そうして来ると今度は最後に第三に問題になつて来るのは、そういうよう国会審議基礎なつ文書というものの取扱いの上で、それから第二にはその文書が含んでいる行政協定に対する政府取扱いの上で問題があつたのじやないかというような過程から、今度出て来る刑事特別法案というものについても、或いはそういうような第一には取扱上の愼重さを欠いた点があるのではないか。第二には、内容的にもこういう刑事特別法案というものに対する政府考え方に或いは存外これを軽く見ている、大したものじやありませんから早く通して頂きたいというようなそういうお考えがあるのじやないかという心配を持たざるを得ない。で衆議院における審議に対して、世論がこの国民に対して或いは刑罰を科し、或いは報道の自由を制限する、言論の自由を制限するというような重要な法案が僅かに二、三日でもつて、そうして政府責任者である法務総裁は一日しか出席せられないで通過せられておるということは世論によつて批判されております。参議院でもそういうようなことでやつて行つたのでは到底世論も満足しないだろうと思う。  以上の三点から私は吉田委員から御要求になつておるように、この際先ず一方からは外務省を代表してその点についての釈明を求め、続いて法務総裁からもこの行政協定伴つて今度発生して来たこの刑事特別法案について政府はこれが或いは言論報道の自由を制限し、或いは国民刑罰を科するという点においてどれほどこれを愼重取扱い、又お考えになつておるのかという点についても伺つておかなければならないのだというふうに考えます。従つてどうか委員長はそういうふうにお取計らいを願いたいと思うのであります。
  13. 吉田法晴

    吉田法晴君 先ほどの御発言であり、又只今の羽仁委員の御発言関連いたしますが、私ども行政協定という基礎はつきりしなければ刑事特別法案というものは審議できないと思うのです。昨日も伊藤委員から行政協定関係、或いは行政協定のそれとこれに関連する意義というものを御質疑なつたと思うのですけれども、今の文字の点もそうでありますけれども行政協定国会承認を得ておられん、その国会承認を得ておられん行政協定に基いて重大な法案、而もその根拠とされた條文について間違いがあつた。これを先ほどの委員長の御言葉もございますし、刑事手続なりその他について審議に入ろうといたしましても根拠はつきりしないで審議にはこれは入れません。そこで法務総裁も昨日も御出席にならなかつたようですが法務総裁の御出席願つて行政協定の中の間違いその他についてはこれは外務大臣になりますけれども、もつとはつきり行政協定との関係、或いはこの刑事特別立法根拠というものについて明らかにせられないことにはこの法案審議にはこれは事実上入られん。こういうことを考えますので、委員長一つ岡崎国務大臣出席法務総裁出席を求めて根本から入つて頂くことをお願いいたしたいと思います。
  14. 長谷山行毅

    長谷山行毅君 今の取扱について暫時休憩して懇談して運営方法について諮つて頂きたいと思います。
  15. 小野義夫

    委員長小野義夫君) それではちよつと休憩して懇談に入ります。    午前十一時十七分休憩    ——————————    午前十一時三十八分開会
  16. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 再開いたします。
  17. 伊藤修

    伊藤修君 昨日の質問に引続きまして御質問いたしたいのですが、二條のうちで今一つお尋ねしたいのはこの「又は要求を受けてその場所から退去しない者」、刑法のいわゆる退去応罪に相応するものですが、この場合に例えば進駐軍労務者がこの雇用関係が不当に破棄されたとかの場合、労務者のほうといたしましてはこれに対して抗弁をする。使用者たるところの進駐軍関係のいわゆる今後における駐留軍でしようが、その側から申しますればすでにそこにおつてもらうことは好ましくないという場合において退去してくれといつた場合においては、この條項において取締るつもりかどうか。
  18. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) この点は昨日申上げましたごとく、考え方から参りまするとやはり消極になるのではないかと思つております。
  19. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると、この昨日からの御質問を申上げました全趣旨を要約いたしますと、結局正権限に基いてそこに現におる場合においては、すべてこれを含まないというような結果になるわけですか。
  20. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 具体的な事情によりましてそれが違つて参ることもあり得ると思いますけども、理論的には。併し結論的には大体お話通りになると思います。
  21. 伊藤修

    伊藤修君 そのあり得る場合を一つ……。
  22. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) さような所にとどまるについて正当な理由がないと本人が思うような場合でございます。
  23. 伊藤修

    伊藤修君 本人というのはその退去を命ぜられた側のことをおつしやるのでしようか。
  24. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) その通りでございます。
  25. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると、思うということはどういうことですか。
  26. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) つまり本人がさように信じておるという意味でございます。
  27. 伊藤修

    伊藤修君 さように信ずるとは、本人は飽くまでそれを退去はせんでもいいんだと思うのでしようが、そうすると、本人退去せんでもいいと思えばいいということになるのでしようか。そうすると、すべて含まないということになるのでしようか。
  28. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) さようなことを思うについて合理的な理由がある。これは非常に遠廻しに申しておりますのは、証拠の場合と関連がありますので、理論的な問題として実はお答えを申上げておる次第でございます。
  29. 伊藤修

    伊藤修君 その場合はどういう場合があるか、具体的に一つ例を示して下さい。
  30. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) つまり、この場所から退去しないということを本人が信じ、且つその信じるについて合理的な理由があり、且つそれが証拠の上で証明された場合、かようなことに御理解を願いたいのでございます。
  31. 伊藤修

    伊藤修君 証拠の上で証明された場合というのでありますが、例えば今私が例示したよう雇用契約が解約された、而もそれは一方的である、解約された側から申しますれば不当なものであると、こう信じておるような場合においては、或いは解雇者のほうから行けば不当でないと言うかも知りませんが、それが直ちにこの場合は退去応罪になるとは考えられない。
  32. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) つまり、その解雇不当労働行為であり当然解雇せらるべからざる事件である。本人がさように思う。さように思うについての合理的な理由があり且つそれが十分な証拠があつて認定される場合、細かく申しますと、さようなことに相成ります。
  33. 伊藤修

    伊藤修君 どうもそういうような御答弁を伺いますと、この二條の、「又は要求を受けてその場所から退去しない者は、」という表現だけではすつきり賄い切れないように思うのですが、この点に対しまして何らかこれを消極に解するという、昨日から質問申上げておるのですが、消極に解するという点を明らかにする必要はないでしようかね。
  34. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) その点は刑法一般理論からさように相成つて来るわけでございます。
  35. 伊藤修

    伊藤修君 その点はその程度にしておきまして又改めて伺うことにいたします。  第三條及び第四條は、これは行政協定の第十七條の第三項(e)に基いているのですが、この行政協定の(e)によりますれば、相手国もやはりこれと同様な規定を設けなければならんということになつておるのですが、相手国はやはりこの規定は設けておるのですか。
  36. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) その点につまきしては、アメリカの現在の軍刑法その他においてこの点が不十分であるかどうかという点につきまして向う側と交渉いたしました結果、大体我々のほうの法律体系体系が違つておりますために完全に両方が一致するということは法体系両方とも崩さなければいかんということになりまするので、その趣旨において事件が完全に調べができ、そうして公正な裁判ができるという限度においてお互いに考えようではないか。かようなことから、私どものほうとしてはまあこの程度の第三條並びに第四條ぐらいを置いたならばよかろう、かよう見解でいたした次第でございます。なお相手かたにおきましても、現在の法律の全体系を以て不十分である点については又考える。併し今のところ大体向うではこれに合致するものはある、かようなことであります。
  37. 伊藤修

    伊藤修君 然らばその一致するものがあるということを参考資料として見せて頂きたい思います。
  38. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) なお申残しましたが、日本裁判所におきましてかよう事件がありました場合には普通の刑法証拠湮滅偽証その他の條文がまつこうからかぶつて参ります。つまり向う人間日本裁判所に来ましてそうして偽証をやつた、或いはその日本裁判所に関する事件について証拠湮滅の犯罪を犯した、さような場合には刑法がまつこうからかぶつて来る。さような点からこちら側の事件に対する実体法規としては別に手当が要らない。ただ向う側事件について今のところ何らの手当がしてないというところからかよう規定が出て来たわけでございます。
  39. 伊藤修

    伊藤修君 そのことはこの條文の立て方次第でよくわかる。私のお尋ねしているのは、これと相応するところの相手国もそういう立法的措置が講ぜられておるか、国内法規があるか。今御説明では、それにふさわしいものがあるとおつしやつたから、然らばそのふさわしいものがあるというその資料をお出しを願いたいと、こう申上げたのです。
  40. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) お手許に配りました資料の中に、統一軍法というのがございます。
  41. 伊藤修

    伊藤修君 これは又あとでお伺いすることにいたします。
  42. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) ちよつとそれに御説明申上げますが、その統一軍法の抄録を差上げてございまするがそれにちよつと簡單に御説明を加えますが、向うとしてはこちら側の法律を全部そのまま守るということを書いてある次第でございます。
  43. 伊藤修

    伊藤修君 この点はあとで拜見いたして又お尋ねすることにいたします。この趣旨から申しますと、例えば相手国裁判所侮辱法というものがあるわけなんですが、そうするとこれに対しましては、日本の場合において将来裁判所侮辱法を制定するということを予期した趣旨になるのじやないでしようか。そういう意図があるということにも窺われるのですが、この点はどうですか。
  44. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) この点につきましては、現在の我が国裁判所やり方その他を考えまして、さよう裁判所侮辱法といつたものが必要かどうかということは別個に実は考えまして、現在の段階においてはこの法案としてとれるべきものではない。最小限度手当を以て行こうというところから單に二條をこの関係で挙げたにとどめたのでございます。
  45. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると相手国の場合においては裁判所侮辱法は勿論適用されると思うのですが、日本の場合においてはそういう意図は今後考えていないということになると均衡は保たれないと思うが、それはどうなるのですか。
  46. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) つまりこちら側の人間が何から何までアメリカの軍人に関する事件について引つかかるというふうなことがあつてはいけませんし、又逆に現在の日本裁判所取扱実体に徴して、さよう侮辱制裁法というふうなものをこの法案で律するのもこれは行き過ぎであろうと、さよう観点からこの程度にとどめたのでございまして、この点は先ほどちよつとお断りいたしました通り両方裁判所やり方、慣行、それから体系全体が違つておりますので、これを完全に統一するということは全くできないのでございます。さような点でこの実体だけを見ましてどの程度であつた裁判の公正が保たれるかという観点から立案したわけであります。
  47. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると日本国民相手がたの結局裁判所侮辱法というものは適用されないことになるのですね、相手国の場合は。
  48. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 一応向う裁判所日本人が例えば証人として呼ばれるというふうなことはあり得るわけでございます。但しその点につきましては、それと対応する日本側裁判所侮辱制裁法といつたようなものがございませんので、その実体にまさしく照応するものがなければこれは処罰ができない。かように了解いたしております。
  49. 伊藤修

    伊藤修君 私のお尋ねしているのは、向うへ召喚されていわゆる証言をした場合において、その間においてたまたまいわゆる向う法規の即ち裁判所侮辱法が適用されるよう行為があつた場合において、その行為に対して裁判所侮辱法が適用されるかどうかという点。
  50. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) その点は先ほど少し廻りくどく申上げましたが、要するに日本側実体法規がないから、これはこちらからは何とも処罰の方法がない、つまり処罰されない、さよう趣旨でございます。
  51. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると向うの法廷に出て日本人が証言しましても、向うのそういう法規の適用を受けないということになるのですか。
  52. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 証言いたしましても……。ちよつと実体が違つて参りますので……
  53. 伊藤修

    伊藤修君 証言のことは別として、法廷に出た場合において、その法廷において侮辱した場合に……。
  54. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 従いまして日本実体法規のないさよう行為がございましてもこれは問題にならん、かように御了承願いたいと思います。
  55. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると日本人に関する限りはアメリカ裁判所侮辱法というものは適用しないというふうに解釈できるのですか。
  56. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 日本においてはそういうことは日本人に関して実体法規がございませんから。
  57. 伊藤修

    伊藤修君 日本裁判所でないですよ。向う裁判所へ呼ばれた場合ですよ。この規定の反対の場合、相手国裁判所に、いわゆる軍事裁判所ですか。
  58. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) それは勿論問題になりませんです。規定がございませんから問題になりません。
  59. 伊藤修

    伊藤修君 向う裁判所日本人を召喚して証言を求めるというようなことがあり得る場合があるでしよう。そういう場合においてその証人がたまたま裁判所を侮辱するがごとき行動があつた場合において、いわゆるアメリカ裁判所侮辱法というものがその日本人に対して適用されるかどうかという、従来の軍事裁判所を見ているとそれがみんな適用されているのじやないですか。
  60. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 先ほどから繰返して申上げまする通り、その点の御質問でございましたら、勿論それは問題にならん事項でございます。こちらの実体法規がございませんから日本側裁判所としては罰つしようがないわけであります。
  61. 伊藤修

    伊藤修君 日本側ではない。私の聞いているのは、向う裁判所が、この條文じやない、この條文の反対の場合を考え言つているのですよ。
  62. 小野義夫

    委員長小野義夫君) ちよつと速記をとめて下さい。    〔速記中止
  63. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 速記をつけて下さい。
  64. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 従来占領当時におきまして向う裁判所でさようなことをやられた案件があるやのことで、今後もさようなことがあるのではないかという御不審でございますが、今後はさよう占領治下におけるよう実体並びに手続の一切の法令がガラツと変りまして、この関係は刑事特別法で行くということに相成ります関係上、今後さような事態は絶対に起らないと御了承願いたいと思います。
  65. 伊藤修

    伊藤修君 次に第五條について、この本條の規定刑法の二百六十一條の刑量に比較して、ずつと重い理由ちよつとお伺いしたいのです。
  66. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 刑法第二百六十一條におきましては、一般器物損壞罪といたしまして三年以下の懲役云々というふうなことに相成つております。なおそれが刑法第二百六十四條によりまして親告罪と相成つておるわけでございます。そこでこの刑法第四十章の二百五十八條以下二百六十一條までのいわゆる毀棄損壞罪の全般を通じてこれを見まするに、大体その考え方は二百五十八條、九條におきましては文書を毀棄し、六十條以下は建造物とか或いはその他の器物損壞を取扱つておるわけでございます。然るに合衆国軍隊で使うような兵器、彈薬、糧食、被服といつたようなものにつきましては、二百六十一條の一般の器物損壞として三年以下の懲役ということでは保護が全くない、完全ではなかろう、行政協定の第二十三條の趣旨から申しまして、これをやはりせめて建造物なみに保護するのが適当であろうかというふうに考えまして五年以下というふうに法定刑を上げたのでございます。但しさようなことにいたしますると、非常につまらんもので問題になる場合もあろうかというようなことから罰金刑もこれに加えたというよう趣旨でございます。  もう一つは先ほども申した通り、親告罪を外したという点にも意味があるのでございます。
  67. 伊藤修

    伊藤修君 どうも今の御説明ではちよつと納得しかねるのですが、成るほどそれは書き方は御説明ように特別に保護を加えなくてはならんというようなものもあり得ると思います。併しこういう規定が抽象的に定められておりますと、そういう重要ないわゆる本法が立法者が狙うような重要なものでない、單なるそこらにあるところの机を毀棄したとか、或いはちよつとした自動車を毀棄したとか、タイヤに穴を空けたといつてこれに適用することになると、それは裁判の上において或いはそういう軽いものは罰金刑を以て処するということも考えられますけれども、一応この五年以下の懲役という重い刑を以て臨まれるということでは、私は多くこれがそういう面に濫用される虞れがあるのじやないか、これはむしろ日本刑法の面において賄うべきじやないか、日本刑法に任したほうが却つていいのじやないかと思うのです。特段にこの点についても特別に規定を設けて手当をしなければならんほど重要性がないと思うのですが、如何でしようか。
  68. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) この第五條の書き方が「合衆国軍隊に属し」ということを要件といたし、「且つ、その軍用に供する」というので又しぼつてございますが、「兵器、彈薬、糧食、被服その他」と書いてあります。その他のものは、大体兵器、彈薬、糧食、被服に匹敵するような重要性を持つものというふうになるわけでございます。これは一般に例示を幾つか掲げまして、その他のものというふうな刑法並びにその他の法制用語上は大体その程度のものというふうな解釈になつて参りますので、非常につまらんものというふうなことについてはまあ解釈上さようなことには相成らんと、これはいろいろ学説もあるわけでございますけれども我々は理解しておるのでございます。なお法定刑に最下限を置きませんのでつまりこれを如何ように運用するかは裁判所において考えまして、例えば建造物といつたようなものに匹敵するような大きなものでありましたならば、これを建造物なみに五年という範囲内で事を考える、又それが非常に被服で大した数量でもないといつたようなものの損壞等につきましてはその五年の範囲内で更にこれをしぼつて考え法定刑を妥当にきめる、さようなことに相成るだろうと思います。要するにさような大きな或いは非常に重要なものに対する損壞行為というものを法定刑の引上げによりまして律しよう、かよう趣旨でございます。
  69. 伊藤修

    伊藤修君 どうも御承知の通りあなたは実務に携わつていらつしやるのでしようが、例えば進駐軍の物を日本人が所持した場合においては重く処罰するという特別法がありますね。そうすると、チヨコレート一つつてつても半年、一年という懲役を科しておるのですよ。ずつと去年、一昨年あたりになるとそれが大変緩和されましたけれども、最初の場合は報告事件になつておるのです。従つて検察庁としてもこれをどんな微罪でもやはり起訴せざるを得ない、起訴しなければ検察官が処罰されるというようなことがあつて裁判所のほうに一応報告事件ということに頭を置いて必ず重刑を科するのですよ。甚だしいのになると、チヨコレート一つか二つ持つていても半年ぐらいやられておるのがあります。たばこ五つか六つ持つておれば一年は必ずやられるのです。日本裁判所も、検察官というものがどうも外国の殊にアメリカの権力というものに対してやはりおもねるという考え方があるのですね。圧威されておる。だからそういう事件に対しましては何らの考慮を拂わない。立法者がお考えになつておるような五年以下とあるから、最低は一カ月以上の範囲において適当に裁判所はやるのだろう、こういうお考え方があるでしよう。又五万円以下の罰金刑を選択してやるだろうというけれども、なかなか容易に実際上行われていないのです。これは過去の例においても十分おわかりのことと思うのです。そういうような区別を設けていないとただ真つ向からこの條項によつて重きを以て処断するということが今日の慣わしですね。私はこういうよう條項をことさらにここに設けずして、法益を保護するならば日本刑法第四十章を以て十分事足りるのじやないかと思うのです。日本人が一番大切とするところの建造物その他の器物についてこの法律で従来賄つておるのですから、アメリカ人が持つておる物も日本人が持つておる物も同じ法益である、同じ法益であるものに格段の相違があるとは考えられない、特段にこれだけの重刑を以て臨まなくちやならんという点が私には首肯しがたい。殊に親告罪を外してしまつて、常にこれを処罰できるというふうにするということはどうかと思うのです。例えば被服の袖をちよつと引つ張つてつたという場合でも或いはパンパンが余りに勧誘し過ぎてポケツトを破つてしまつたといつても引つかかつてしまうのですよ。それはアメリカ軍がこれは処罰してくれという申告して来た場合に限つてこれを採上げてするという日本のこの刑法の四十章のような建前にしたほうが却つていいんじやないですか。飛行機をこわしたり艦船をこわしたりする場合においては申告して来ることは当然です。それは処罰されるのです。併し今の婦人が袖を引きちぎつたくらいのことは申告して来ない以上は見て見ぬ振りして差支えないと思うのですが、そういう立法の考え方をとるべきじやないでしようか。
  70. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 占領治下におきましては私具体的な事件は存じませんけれども、御指摘のように非常に重刑を以て臨んだ案件も或いはあつたかと存じます。さような事態は併しながら占領終結と共に私どもはこれを一切根絶したいと思いますし、現にもう相当前からそのよう事件に対する処理の態度は伊藤さんもおつしやつたように変つて参りました。我が方の自主的な見解によつて事件を処理するというふうにいたしておりますので、今後この第五條の運用に関して只今御指摘のよう占領直後の際のような重い刑罰を以て臨むということは勿論起らないと私どもは思つております。又さよう裁判所も恐らくないことは確信を以て言い得るところでございます。なおこの点につきましては十分求刑その他の上でも考慮するように全国に申伝えるつもりでございます。
  71. 伊藤修

    伊藤修君 如何にその訓令指示ということをここでお約束願つてもちつとも守られていないのですよ。例えば同一事件を現行訴訟手続法によつて幾つにも割つても差支えないんだ、それをどんどん地域差で別々に刑をやるというようなことを初めはとらないと言つてつて最近ではそれは通例になつてしまつた。被告は非常な不利益をこうむることは現にあなたも御存じの通りです。だから今の外国関係のこの事案というものに対しましてはまあ朝鮮、支那の人に対してはそう重くはありませんけれどもアメリカだとかヨーロツパ人に対するいわゆる白人に関係するところの事件というものは一段と重く考えるのですよ、裁判所の現在のあり方は。検察庁もそうです。例えばドルを僅か五ドルか十ドル、而も商品の代金として日本貨幣がないから預つておいてくれと言つてその商人が預つた。たまたまそれが発見されてそれで懲役一年といつた例が現にあるのです、私が承知している例が。実にそういうような非常識な裁判をされるのです。併しそれは法律の……政令からいうと仕方ないのですよ。これは麻薬に関する法律もそうです。アメリカさんの考え方が非常にきつい。それから麻薬を善意に持つておる医者でもそれがたまたま届出を怠つていると直ちにこれは実刑を科せられている。而もそれは勧誘によつて摘発している。摘発官があたかも買うがごとくして売つてくれんかと言つてそれでそれに引つかかつていつも摘発されておる。これは地方裁判所ではそういう小細工をしておりますが、そういう摘発行為は最高裁判所でどうなるかわかりませんが、こういうふうにすべて今日までの扱い方というものはそういう傾向にあるのです。だからこういう種の刑罰規定する場合においては私は国内法で賄えるものは国内法を準用すべきではないかと思うのですが、重ねて一つその点をはつきりしておいてもらいたい。
  72. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 何度も重ねて私のほうもお答えするようでございますが、兵器、彈薬、糧食、被服等につきましてもその軍の活動上非常に大切なものもあるわけでございます。然るにこれを全然手当いたしておきませんと只今御指摘のよう刑法第二百六十一條が親告罪として直ちに働いて来る。さよう関係に相成るわけでございます。然るにその実体を見まするに、これが刑法第二百六十條に匹敵すべき程度の非常に重要なものが出て参るわけでございます。さようなものにつきましてはやはり法定刑の権衡をとる必要上これなみに挙げておくことが必要であろう、さよう趣旨が第五條の法定刑をおくことにして親告罪を外した趣旨でございます。
  73. 伊藤修

    伊藤修君 だから今の最後の御説明によりますれば、兵器であるとか彈薬であるというものは或いはそういうふうに特別な取扱になることもこれは首肯できるのですが、糧食であるとか被服その他の物件というのは日常に使うところのものぐらいを指すのでしようが、又その他の物件の中で相当大きなものも想像されるかも知れませんが、少くともこの糧食であるとか或いは被服であるとか、糧食を毀損したという、パンを半分に割つたということも毀損になるでしようし又どの程度を言うのか存じませんが純理論からいうとそうなるのですが、米俵を破つたつて糧食の毀損になるかどうかいろいろ問題が生ずるでしようが、そこまで私はこういう重刑を以て臨む必要はないのじやないか。若しかよう手当が必要であるとするならば二つに分けるとか或いは全体を親告罪にするとか、あなたの仰せのようアメリカのこういう軍属に属するところのいろいろなものを保護ようというならば、向う保護を望む事柄についてのみ日本人を処罰する、こういう行き方でいいでしよう。してみますればこういう点については困るというので親告して来ればそれによつて日本裁判所、検察庁が活動を開始する、こういう行き方でいいんじやないですか。
  74. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 例えどパンを半分に割つたらどうかというふうな極端な事例の御指摘でございまするが、私ども軍隊構成員又は軍属が毎日の日常生活に使つておるというふうなものはこれを含まない趣旨に解釈しております。というのはこの軍用に供すというよう言葉から出て参るわけでございまするが、やはりそれが軍用として相当重要な物件ということが当然予想されるわけでございます。パンを半分にするような議論は現在の刑法のどの條文につきましてもやはり言い得るのでございまするが、大体我が国の現在の刑法並びに刑事実体法規の建前というのはいわゆる裁判所の自由裁量について或る程度の余裕を與えよう、それでこれを段階を細かく分けまして法定刑を一から十まで分けるということにいたしますると具体的な案件でその刑の言渡が非常に不公正になる場合があり得るので、さようなことのないようにというふうな趣旨でできておると承知いたしております。さよう関係からいたしまして、事の性質上軍用に供し又は軍隊に属するというものであり、且つその重要度が兵器、彈薬、糧食、被服といつたよう程度のもので、糧食というのはそういうような非常に極端な例をおつしやるとちよつと私どももさようなものは入らんと、例えば兵隊さんの持つているハンケチを破つたらどうかという問題、いろいろな問題が又出て来るわけでありますが、さような場合は入らん。要するに「軍隊に属し、且つ、その軍用に供する」という言葉から出て来る程度の重いものとさように理解しておるのでございます。  なおそれにつきましては法定刑が五年以下というふうになつておりますので、なんでもかんでも五年又はそれに近いような重いものがやられるのではないかという点につきましては先ほども申上げました通り、これは單に最高限を定めただけでありまして最下限を規定したものではございませんので、それは適当に裁判所のほうで量刑してもらう、さよう趣旨でございます。  なお親告罪につきましても重いものと軽いものとはこれを分け、そうして大体私どもは建造物の損壞について五年以下というふうになつている以上は、それに匹敵すべき兵器、彈薬、その他のものにつきましてもやはりこれを法定刑を並べるのみならず、その親告罪の点についても刑法の二百六十四條の精神をそのまま受継こう、そういう考え方でございます。
  75. 伊藤修

    伊藤修君 それは極端なパンを割つたとかハンケチを破つたということはそれ自体守るべき法益もないというふうにお考えだし、又裁判にいう不起訴という観念もあつて従来は問題ございませんからそれは極端な例であつて、それをとり上げて申上げたのではないのです。  そうすると今の御説明趣旨から行きますと、軍用に供するというのは何ですか、現に軍人が借用しておるものまでも含むか、或いはそうでなくして集団的に軍隊の活動に集積しておるというよう趣旨だけだというお考え方ですか。
  76. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) その点は現に軍において使用中のものは勿論のこと、例えば現在は使つていない併しごく近い将来において使うだろうという予想の下に集積しておる、倉庫に保管しておる、或いは汽車に乗せて輸送中であるというようなものにつきましても考えておる次第でございます。
  77. 伊藤修

    伊藤修君 そういたしますと、例えば軍隊がある修理工場にその軍用自動車の修理を命じたという場合においてはその軍隊に属しているものであり、且つ軍用に供するものであるということになりますから、そういうものを仮に損壞いたしますればやはり処罰されることになると思うのですが。又例えば被服の場合において、被服を大量に日本人に請負わせしめて被服の修理を命じたという場合においては、やはり軍隊に属し、軍用に供するものとしてこの対象となると考えられるのですがどうですか。
  78. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) この属するという観念には大体属するということだけを見ますれば、その所有するもの、並びに事実上借りたりその他の関係で占有しておるもの、かように理解しておりまするが、更にこの軍用に供するという点から申上げますると、只今申した通り、現在使用中並びに極く近い将来にこれを使用するよう観点からしまつてあるものというふうなことになるわけでございます。  ところで今御指摘のように修理工場に出してある、或いは新らしく兵器を作つてもらうためにどつかの工場に出してある、かようなものはどうなるかという問題でございまするが、その場合におきましてはその一つ一つの契約によりましてその内容は違つて参ると思うのでございますが、全般的に考えられますのは、一般の我が国の軍需工場等に下請なり何かで出して来るというようなのも恐らく属するという観念には入つて来ないだろうし、更に軍用に供するというような段階には来ていない、さように理解するのでございます。
  79. 伊藤修

    伊藤修君 いわゆる工場の場合においては問題が起つて来ると思うのですが、今の修理工場や何かに出した場合には私はこういうふうに考えるのですが、その点を先ずお伺いしておきたいと思うのですが。それから工場に生産を命じた場合において、従来戰時中に行われたように管理工場として管理するというような制度が恐らく出て来ると思うのです、今後。現在のような受註形式ではなくしてやはり指定工場若しくは管理工場、監督工場、こういう段階のものができて来ると思うのですが、その場合においてその工場にある品物については製品、或いは製造過程にある各部分品等についてはやはり属するという考え方と、それから軍の用に供するという考え方とやはり牽連して来るのではないか。
  80. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) その法律関係がどういうふうに今後発展して行くか私共実はあまり予想がつきませんのでございますが、若しそれが事実上一から十まで支配権を及ぼすというようなことであり、且つその兵器なら兵器というものが軍に一部の修理をしてもらうというので、その管理の工場つまり属するという程度に支配権の及んでいるその工場に修理が行くというふうな場合で、それが一時的の修理の過程においてただ軍用に供せらるべき性質のものというふうな條件をだんだんと満たして行くというような場合がありとすればこの中に入つて来ることもあり得るだろう、さように理解いたしまするが、全般的には先ほど申上げた通りになるとかように理解しているのでございます。
  81. 伊藤修

    伊藤修君 私は今あなたの御説明にもあるように将来においては必ず管理工場制度というものが恐らく設けられると思うのであります。その場合においてはこの條文は非常に私は活用されるものと考えるのです。一番懸念されるどころはその場合でありまして通常の場合においては問題が起つて来ないのです。ところが国内法によりますれば労働権が確保されているのですが、争議行為の可否を誤つた場合においては本法において賄えない処罰行為でありますけれども、それは軍用の品物を傷つけるものとされて、本條の適用は恐らく近々に起きて来るものと考えられるのです。そういう点は私は今後この法律の上に明らかにするか、今後何かの方法において明確にする必要があるのじやないかと思うのです。  それから午前もう一点だけ聞いておきたいと思うのですが、前に遡つて偽証の問題で一点お伺いしておきたいのは、日本の国内法によりますると証言を拒否する場合があり得るのですね。これはやはり相手方の国内法によつて証言をしなくちやならんのですか。いわゆるアメリカ法によつて証言しなくちやならぬ、国内法におきまして証言が拒否できるということが、向う法律によつてそれが認められないということがあり得るのですか。そういう場合においてはどちらの法律によつて証言しなくちやならないか。
  82. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 合衆国軍事裁判所の手続に従つて向う側の証人として参りました場合には手続が一応向うの手続になつて参りますので、只今お話ように証言の拒否の正当性が違つて参る場合が恐らくあり得ると思います。さような場合におきましては、事の性質上は一応向う側の手続によつて行く、さようなことに相成りますと思いますが、これは議論になります。ただ実際問題としてこれを事件として処理する場合には、こちら側の裁判所で解決するごとに相成ります。裁判所というよりはこちら側の捜査機関なり裁判所で律することでございます。さような場合においては日本の刑事訴訟法の規定をよく見ましてそれと向うとの牴触したところをよく判断し、その証言拒否について相当理由があつた場合においてはこれは処罰しないというふうな取扱になろうかと思います。  なお只今の問題は本法案の第十五條に関連することでございますので、又後ほど御質問がございますれば追加いたします。
  83. 小野義夫

    委員長小野義夫君) それではこれで休憩いたしまして午後は一時半に再開いたします。    午後零時三十一分休憩    ——————————    午後一時五十四分開会
  84. 小野義夫

    委員長小野義夫君) これより再開いたします。
  85. 伊藤修

    伊藤修君 政府委員においても御承知ではありましようと思いますが、相当本法に対しまして各界において心配いたしておることは新聞紙上でもすでに御承知のことと存じます。殊に有識人でもなお且つ本法はいわゆる過失犯についても適用されるがごとく考えられておるし、毎日新聞あたりの社説においてもそういうことが取上げられて杞憂の議論が述べられておるのですが、こういう点をも考えましてこの際政府において本法がいわゆる過失犯に対しては処罰するものじやない、ということを確に一つ理由等を挙げて御説明願いたいと思います。
  86. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 申すまでもなく刑事実体法規におきましてこれを罰し得るのは故意犯が原則でございます。つまり犯罪事実についての認識がありまして或る犯罪を犯したという場合が処罰されるわけでございます。特殊な場合におきまして例えば過失傷害とか或いは失火罪とかいうふうに特に過失犯を罰するということを書いた場合に初めて問題になるというのが刑法の全体の立て方であり、同時にこの刑罰法規に対する根本的な考え方は特別的な実体法規においても全く同様でございますので、本法におきましてこの第二章罪の中に過失ということがございませんので過失罪を罰するという場合は起つて参らないのでございます。この点ともすると過失もやはり罰せられるのじやないかという危惧の念を抱かれるむきもあるやに聞いておりまするけれどもようなことは絶対ないことを明らかにいたす次第でございます。
  87. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 今の御答弁で間違いないと思うのです。併し何故本法或いはこれに類似するようないわゆる軍機とか或いは治安とかそういうふうな法律についてそういう杞憂が発生するかという点についてもう少し考えて頂く必要があるのではないかと思うのです。御承知のように過去における治安維持法というのは我々が実際に体験したところから考えてみても、今おつしやるような客観的に罪を犯す意思がある、或いはその認識があるというところを遥かに超えて、それで目的遂行というようなふうに拡大して解釈をされておつた事実があります。これは今さら申上げるまでもない。ところが本法においても合衆国軍隊の安全を害する目的をもつてというふうになつておる。その「目的をもつて」というよう言葉が使われて来る場合には、今おつしやるような放火とか或いは殺人とかいうものが、そういういわゆる安全に対して直接の危險というよりも広くなつて来るので、その合衆国軍隊の安全を害する目的というかなり広い解釈をされる虞れがあるのではないか。そういう点から今伊藤委員がおつしやつたような心配が世論によつても指摘されるのではないかと思うのでありますが、一般に今おつしやるような原則が妥当するということを我々も了解するのですけれども、こうした特別な立法の場合特にそういう点を留意する必要があるのではないかと思いますが、どうでしよう
  88. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 以前の治安維持法の法文並びにその運用等の実際に鑑みまして、いわゆる目的罪が広く動いて来るのではないかという御質問御尤もでございまするが、御承知の通り前の治安維持法におきまする「目的遂行ノ為ニスル行為ヲ為シタル者」という非常に漠然たる用語を用いておりますのと違つて、この法案におきましては例えば今の御指摘の云々の「目的をもつて」、その次に行為が具体的に又規定してあるわけでございます。探知とか收集といつたような具体的な行為が又別にかぶつて参りまして、單に目的があるからどうというふうな心配はないと存じます。
  89. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 どうでしようか、その点について意見長官なんかの御意見で、その程度で濫用が保障されているということがここではつきりおつしやることができましようか。どうでしようか。
  90. 佐藤達夫

    政府委員(佐藤達夫君) この「安全を害すべき用途に供する目的をもつて」ということは飽くまでもこれは客観的の立証は必要であることは申すまでもないことであります。従いまして、この文字の書き方としてもう少しなんとか濫用の虞れがない書き方がないものだろうかという考え方があればあり得ると思います。思いますけれどもこれはもう御承知の通り多くの立法例において慣用語と申してもいいくらいであると存じます。例えば国会で御立案になりました公職選挙法におきましても、戸別訪問の箇條のところに「投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて」云々ということがあります。これはもう至るところにある字句でございます。立法技術上の問題としては現在の水準を以てしてはこれを以て最高の水準と言わなければなるまいと存ずるわけでございます。
  91. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 いや、私の御質問をいたしたのはさつき伊藤委員のおつしやつた趣旨で、今の第六條じやない、今この法律の第二章全体についてこうした罪というものが特別立法的ないわゆる軍機保護というよう関係で、言論だとか集会だとか或いは結社だとか或いは行動だとかそういう自由を制限する法であるので、特に一般に刑法の掲げる大原則というものは貫徹することはいうまでもないのだが、特に特別法であるからという意味伊藤委員から御質問があつたと思うのですけれども、そういう点において過去においてそれが濫用なれた虞れがあるので、今特段にそういうことを考慮する必要があるのじやないかと思うのですが、どうでしようか。
  92. 佐藤達夫

    政府委員(佐藤達夫君) 今私参つたばかりでございましたので御質問の御趣旨をとり違えておつたわけでありますが、只今御指摘になつたこの第二章に掲げます事項は先ほども岡原政府委員から触れましたように、治安維持法的なものとは技術上と申しますか立法の形の上からも違つております。又実質から御覧になりましても刑法の中の條文というものと殆んど変りはないものであります。ただその客体として合衆国軍隊というものが入つて来るだけだとお考え願えればそれで十分だろうと思いますので、その点については私どもとしては何ら虞れがないと考えておるわけでございます。
  93. 内村清次

    ○内村清次君 只今第二章の罪の各條各項で過失罪は構成しないと、こういうお話しでありますが、例えば第五條で規定されておりまする軍用に供するところの兵器ということははつきりこれは兵器、この兵器に対して本当の過失でやつた、それが認定関係で過失ではないのだという認定のほうも成立しはしないかという心配が一つありまして、それから又過失は罰せられないと言うが、それじやたとえ過失であつても、現にそういう兵器に損傷をした者に対しては雇用関係を解除するというような、これは罪には該当しないが併し解雇関係でこれを解決をする。ところがこれに対して第二條が又適用せられる。正当なる理由があるにかかわらず退去を命ぜられる。退去を命ぜられてそれに応じないときにはこの法では又罰則が出て来るというような虞れはないかどうか。これは現実の問題ですがこの点はどうお考えになるのですか。
  94. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 過失による犯罪を罰しないということは繰返して申上げているところでありますが、その過失を原因とする何らかの解雇或いはその他の不利益な取扱があるかないかという問題は、これは本條又はその地本法案と直接関係のないところでございます。  それから第二條関係につきましては、先ほど伊藤さんにお答えいたしましたようなわけであります。解雇の原因についてこれは全く繰返して申しますが、例えば不当労働行為、或いは本人としては全く納得し得ないということについて確信を持つている、その解雇された男が。同時にそれが客観的に見て成るほど御尤である、そうしてそれがいろいろな証拠によつて正しくその通り間違いがないというふうな認定がありました場合におきましては、正当な理由があるということで退去応罪が成立しない場合になるだろうという先ほどお答えしたその通りでございます。
  95. 内村清次

    ○内村清次君 なるという確信ある答弁はできませんか。
  96. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) これは具体的な問題によつて大分違つて参りますので、私はただ法律見解を申上げているに過ぎないのでございますが、でございますから具体的に事件が、例えば本人は自分は正当な理由があると主張はするけれども、客観的に見てそれは誰が見てもうそに違いない、証拠によつてもうそであるということがはつきりしているという場合もございましよう。それから本人は正当な事由があるとこう思つてつて、それが客観的にやはり正当な事由があるということについて誰が見てもそう思うことについて間違いはない、併しながら証拠によつてこれが認定されないという場合もございましよう。それから又更に先ほど申しましたよう証拠によつてはつきりするし、本人がそう言うのは御尤だと誰が見てもこれは退去応罪でやるには当らないという事案もあると思います。そこで実はそれをひつくるめて先ほどのようにお答えした次第でございます。
  97. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 速記をとめて下さい。    〔速記中止
  98. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 速記を始めて下さい。
  99. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) これを要約して申しますれば実際問題といたしましては、さよう解雇された本人が引続きそこにがん張つておるといつたふうな場合に、第二條を以てこれをおどかすといいますか縛ると言つてあれするというふうな事態に立入ることはあるまい。これは実際問題でありますが、さよう考えられます。
  100. 伊藤修

    伊藤修君 それでは第六條をちよつと飛ばしまして第七條に移ります。第六條はいろいろ問題がありますが、あとで。第七條で第一にお伺いしたいことは第二項において、第六條第一項又は第二項の教唆についてこれを独立犯として処罰している。申すまでもなく教唆を独立犯として処罰するということは従来の共犯従属犯説には私は反すると思うのですが、こうしたことを新らしく立法しなくちやならん理由と、それからこの学説に対するところの例外的な措置をとらなくちやならんという学説上の根拠をお伺いしたい。
  101. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 教唆又はせん動、これは陰謀についても同様でございまするが、それに基いて一つの犯罪が犯された場合と、その行為、せん動なら煽動、教唆なら教唆の行為だけがございましてまだ罪の実行がない、こういう二つの場合があります。従来の客観的主義の刑法理論におきましても或いは主観主義の刑法理論におきましても、ともかくその点につきましては犯罪の実行があつた場合に初めて教唆罪が成立する。ちよつとそこの表現がまずかつたのですが、教唆として処罰し得るというふうな取扱になつておることは御承知の通りでございます。それで犯罪の種類によりますると、それが非常に重大でありまして、その犯罪が僅かでも犯された場合には公共の安全が保ちがたい、或いは私人の権利の保障に全きを期し得ないというふうな場合には、先ず未遂を以てこれを拡げて参ります。更にその犯罪がひどく重い場合に陰謀といつたような、或いは予備といつたような形で罰する場合もございます。これは御承知の通り現行刑法においてもあるのでございます。ところで或る種の犯罪等におきまして、その犯罪が一旦犯されたならばそれがどのようあとで回復を求めようとしてもこれは困難である、或いはその行為が非常に重大でありますためにその行為の発生というものを事前段階において防止するというふうな場合もあるかと存じます。又これを本人の主観から見ますると、本人が或る行為を教唆したとか、その教唆自体で本人の悪性というものが非常に顯著に外部に出る場合もございます。さような場合におきましてはその教唆によつて本人の悪性を認定いたしましてこれに罰を加えるということも、理論上又は実際上必要になつて来、合理的な事由もあるのでございます。さよう趣旨からいたしまして六條、七條の関係におきましては、機密が一旦外に漏れてしまいまするとそれはまあそれでおしまいでございまして、一旦漏れて而も若しこれが公になつた場合におきましては、もう本條におきましても或いは前條におきましても保護しないという建前になつておるわけでございます。さよう観点からこれを事前段階において防止するというのがこの法案趣旨でございます。
  102. 伊藤修

    伊藤修君 然らば教唆とせん動との相違ですね。これは説明書を拜見してもちよつと十分でないと思いますが、この点を一つはつきりと御説明願いたい。
  103. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 教唆と申しますのは、他人に或ることを申しまして或る罪の実行の決意をなさせる、さよう行為を申すのであります。一般刑法上の教唆の場合におきましては、教唆された者がそれによつて犯意を起すというそのことを申しておるのでございます。ところでせん動と申しますのは他人に対して中正な判断を失わしめるような手段方法で実行の決意をなさしめる、又はすでに実行の決意をしておる者に対してその決意を固めしめる。更にこれを助長せしめるというふうな勢いを有する刺激を與える行為、かように解釈しております。これは従来判例等において確定しておるところでございます。  それではこの他人に対しという言葉が、せん動の場合と教唆の場合と如何に違うであろうかという点についていろいろ学説、判例を当つて見ましたけれども、せん動と教唆についての根本的な差異として、この他人の内容を区別したものははつきりは出て参らなかつたのでございます。簡單に申しますと、せん動のほうは普通不特定又は多数の者に対してというのが、せん動の実際でございまするが、さような不特定又は多数の場合には教唆罪が成立しないかということになりまするとこれ又逆に問題になりますので、その他人に対するのその他人という点を両方区別する根本的なものであるかどうかという点については私どもはまだはつきりいたしておりません。ただ大体としてせん動の場合はさような不特定又は多数の者に対するという場合が多かろう、かように理解しておるのでございます。
  104. 伊藤修

    伊藤修君 これは説明書によりましても又只今の御説明によりましても、いわゆる教唆とせん動との本質的な相違というものが画然としてあり得ないと思うのであります。今第一段階で仰せのように中正な判断を失わしめるようなということは、果して教唆が他人に行為の決意をなさしめるという主観的な犯意を確定せしむるに至るところの一つの刺激を與えるわけなんですから、教唆においてもやはり同様でなくてはならんと思うのであります。その限界点というものが法律的に果して区別がつくかつかんか。又いま後段におつしやるようにいわゆる不特定多数の人を対象としてというところに区別を設けようとすることも今日の学説、判例においてははつきりしていないのでありますから、それのみによつて教唆とせん動を区別することは不可能であると思うのであります。してみますれば、ここにあえてせん動といういかがわしい言葉を使つてあらゆるものを包容しようという考え方は危險じやないかと思うのであります。むしろ本法においては教唆だけで以て事足りると思うのであります。十分目的を達し得ると思うのでありますが、この点どうですか。
  105. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 先ほど申上げました通りにせん動と申しますのは中正な判断を失わしめるような手段方法これが一つの要件になつております。それから相手方がそれによつて決意を起す程度がどの程度であるかという点につきまして、教唆に類する場合と、それから既存の決意を助長せしめるような勢いを有する場合と、その両方を含むという点において違うのでございます。  なお人によりましてはせん動のほうは人の感情に訴えてこれをなさしめる、教唆のほうは人の意思のほうに訴えてこれをなさしめる、さよう説明をしておる人もありますが、その点も確かに区別の一つであろうかと存じます。
  106. 伊藤修

    伊藤修君 私は人の感情を刺激して以て犯罪行為を実行せしむるに至らしめるというような点まで果してこの法規で以て処罰しなくちやならんかどうか、だからすでになされた決意を助長せしめるという程度において賄わなくちやならんかどうか、政策的に考えてですよ……、又そこまでこれは幅を広めてあえてしなくても本法の目的は十分達し得ると思います。
  107. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 要するにせん動と申しますのは只今申しました通り教唆より若干範囲が違つておりますのと、それから手段方法が違つておりますので観念的には別個でございます。従いましてこの教唆を以て賄えない面が極めて多いのでございます。  そこでさような点についてこれを実質的に規定する理由はどうかという点でございまするが、せん動と申しますのはその行為自体からいたしまして極めて人がやり易いと同時に、それが非常に大きな影響力を持つ行為なのでございます。つまり簡單に俗な言葉で申しますと、やれやれといつたよう言葉で表現される一つの意思表示が非常に人の心に訴えるものができまして相伴つて大きな結果に立至る場合があり得るわけでございます。さような場合はやはり單に一、二の者に対して教唆するという場合よりも実害の多い場合があるのでございます。さよう趣旨からこれも加えた次第でございます。
  108. 伊藤修

    伊藤修君 本法の場合においては、第六條の探知若しくは收集というようなことをやれやれと言つて果してできるでしようか。
  109. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 先ほどもやれやれという言葉に註釈を加えておきましたけれども、やれやれといつたような表現方法を以てする意思表示とこう申上げたのでございます。つまりそういつたような勢いで意思表示をした場合、かように御理解願いたいのでございます。
  110. 伊藤修

    伊藤修君 それは例えば放火しろとか或いは騒擾を起せとか内乱をやれとか汽車の転覆をやれとかいう場合においては、或いはせん動行為ということが手段として私は容易に認容し得ると思うのです。併しそうではなく本法には第六條に規制するがごとき事項について、いわゆる教唆ということは成るほどあなたの御説明においては或る意味においてここにおいていわゆる独立犯として認めなくちやならんかもわかりませんが、併しせん動に至るまでワクを拡げてまでもしなくちやならんということが果してこの目的を規制するのに必要であるかどうか。ここに挙げられたところの不法な方法で探知若しくは收集したとか、或いは機密を漏洩した者とか、そういうものについてせん動してやり得るものかどうかということも考えなくちやならんと思うのです。
  111. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) 繰返して申上げます通り、その意思表示の形が相手方のすでに犯意を持つておるものに対してこれを助長せしめるような場合もございます。それからまだ犯意を持つていない者に対して犯意を起させるというふうな程度の場合もございます。その二つの場合を含めまして相手方のすでに犯意を持つておる者に対してもこれを助長せしめる程度のものということにせん動はなつて来るわけでございます。もう少しくだいて申上げますと、実際にこの法案法律になつて動き出す際に証拠の問題に関連して参ります。  例えばすでに犯意を持つておる同志の者に対して何か言つた場合、これは普通の場合には従犯の理論が適用になるわけでございます。若しもそれが犯意を持つしていなければ教唆の理論が動いて来るわけでございます。ところでその行為自体からいたしまして、その意思表示の程度が果してそのどれに当るかということは客観的に一応の判断が出て参ります。併しながらこれを今度はせん動されました者において如何ように受取るであろうかという問題になりますると、その話を受けた者が一体それをどう感じたかという問題になつて参ります。さようなことになつて参りますると、その話を聞いた者、或いは文書の場合なら文書を見た者、それがそれぞれどう受取つたかということに相成りまして、その際に或る者はすでに決意があるからこんなものは大したことはないが併しまあ一応決意を助長さした、こう申す場合もございましよう。或いはそんな気がなかつたけれどもこれを見たとたんに、或いは話を聞いたとたんにそういう決意をいたしたという、そういう者もございましようと思います。さような場合もすべて含めましてさようなものは他人の中正なる判断を失わしめるような手段、方法であればこれに当る、かようなことでございます。
  112. 伊藤修

    伊藤修君 只今の御説明を伺うとますます危險になるのですよ。そうすると或る講演会へ出席いたしまして講師の講演を聞いておる場合において、いろいろな奥歯に物の挟まつたよう趣旨の講演があつて、こうしたものに対しましては我々は知らなくちやならん、知ることによつて我々の、今後の日本の国のあり方について考慮しなくちやならん、こういうようなことを申しますれば、それによつて成るほどおれは知らなくちやならんという中正ならざる判断を決意せしめるに至つたということになつてせん動に問われるということになる。従つてその人がいわゆる探知若しくは收集ようという決意をするに至らしめたということになつてしまつては非常な危險なことになるのではないでしようか。
  113. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) せん動といつたよう言葉だけを見ておりまするといろいろ御心配も出て来ると思いまするが、第一せん動ということ自体に中正なる判断を失わしめるという要素がございますので、その意思表示自体、講演なら講演の内容というものがそういうふうな性質のものでなければならんという先ず制約が出て参ります。それから一つの犯罪のせん動でございますので、その基本の犯罪の構成要件についてのそれぞれせん動がなければならんわけでございます。従いまして單にやれやれとか何とかいうことだけでは問題にならないのでありまして、犯罪行為構成要件についてのせん動がなければならんという趣旨は、これは当然のことでございます。
  114. 伊藤修

    伊藤修君 だからその犯罪行為が例えば内乱罪だとか或いは騒擾罪だとかいうものならはつきりして来るのですけれども、ここにいうところの犯罪行為というものは客体は合衆国機密であり、犯罪行為は探知、收集若しくは機密の漏洩ということにあるのですから、こうした行為に対して教唆ということを含めるというのは別問題としてもせん動まで含めるということになればあいまい模糊として来るのではないか。新聞雑誌の論説においても容易にこれがせん動とみなされるということに結論が得られるのではないでしようか。
  115. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) その点は午後の冒頭にも申上げました通り第一に過失犯は全然処罰いたしませんし、第二に、只今のまあ第六條は後廻しにしての御質問でございますので、或いは少しその点明らかになつておらないのかも知れないのでございますが、第六條におきましていろいろ要件をしぼつております、その要件についてすべて認識があつた上でそういうふうな犯罪行為というものをせん動するということに相成りまするので、さような御心配は運用上ないものと存じます。
  116. 伊藤修

    伊藤修君 あなたは心配ないと言うけれども我々国民は皆心配しているのですよ。だからお尋ねしているのですからこの点は今の御答弁では大変満足しかねる。第六條をお伺いするときに重ねてこれはお伺いすることにいたしましよう。それとこの第七條において教唆の教唆はどうするのですか。
  117. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) いわゆる教唆の教唆というのは刑法におきましても問題になつておる点でございます。それで理論の如何によりましてこの取扱が違つて来るということはあり得るのでございますが、これは一般の刑法において問題になりましたところがそのままこれにも当てはまるということでございます。
  118. 伊藤修

    伊藤修君 それは一般の刑法理論においてはそのまま当てはまるという解釈は非常に私は議論にならないと思うのです。この場合におきましてはいわゆる共犯従属説として行けば或いは一般の刑法理論でいいかも知れませんが、この場合においては教唆をいわゆる独立犯として処罰しておるのですから、それに対するところの教唆なんですから一般刑法だけでそれは説明はつくのですか。
  119. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) いわゆる純理論的にこれを考えますると、教唆が独立罪としてある場合には教唆の教唆ということも考え得るわけでございます。但し実際問題といたしましてはその実情を仔細に検討いたしまして従らに理論に走るがごときことは運用上はあるまいと存じます。
  120. 伊藤修

    伊藤修君 徒らに理論に走るようなことは運用上ないと思うのですというけれども、根本的において教唆の教唆を処罰するかどうかということをはつきり伺つておきたいと思います。
  121. 岡原昌男

    政府委員岡原昌男君) この教唆の教唆についてその言葉を、同じ言葉でありますから只今分解いたしまするが、この独立犯たる教唆、つまり第七條の教唆に対する教唆につきましてはこれは従属の普通の六十一條がそのまま動いて来ると、かよう趣旨でございます。重ねて申します。この法案の第七條に規定してあります教唆は独立犯として処罰されるわけでございます、その独立犯に対する教唆が刑法の六十一條でかむるかどうかという問題であります。これは一般の刑法理論からかむつて参るわけでございます。併し同時に一般の刑法理論からいたしましてこの六十一條でかむつて来た教唆については、この独立犯が成立した場合に初めて成立するということになるわけでございます。もう一つ附加えますと、この法案における教唆の教唆は独立犯としては処罰しないと、かよう趣旨でございます。
  122. 小野義夫

    委員長小野義夫君) ちよつと速記をとめて下さい。    〔速記中止
  123. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 速記を始めて下さい。それでは法務総裁に対する御質問がありましたらこの際お願いします。
  124. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 午前問題になつたあの吉田委員の御発言に基く問題は、あらかじめ外務省からの答を頂いてそれから法務総裁に対する質疑を行われるのだと思うので、その点については吉田委員が後ほど御発言になることだと思います。  私から法務総裁の御意見を伺つておきたいのは、どうもこの刑事特別法案なりそれから又破壊活動防止法案なんというよう言論、集会、結社その他団体行動などを制限するよう法律案が、国民の自由を制限する上において非常に重大な意味を持つている法律案である。従つて国会としてはこれらを最も重要視し、そうしてこれについて審議はいやしくも遺憾のないことを期しているつもりなんでありますが、政府では或いはそういう点について、これらの例えば我々が今審議しております刑事特別法案についても、これらが国民の自由を制限するものであり、又濫用された場合は恐るべき結果を生ずるという点について、十分この重大な関心を拂つておられないのじやないかという疑いを持つのであります。その第一の点は吉田委員からの御発言の点でありますから吉田委員の後ほどの御発言に待つことにいたしまして、第二の点で私が伺いたいのは、これはこういうようなこの刑法以外の特別法を制定されて、そうして基本的人権を制限するというような態度に出られる場合には、これと相待つて若し政府が基本的人権の尊重ということにおいてはいささかも欠くるところがあつてはならないというお考えであるならば、そちらの手当を十分なさらなければならないと思う。この点で法務総裁に伺つておきたいのは、前に一度お伺いをいたしましたが、その後の情勢を見ておりますと依然として解決されないよう考えられます人権擁護局の問題であります。で、こういうよう刑事特別法案であるとか、或いは破壊活動防止法案であるというようなものが、国会において若し万一今政府が提出されているような原案で成立いたしますと、これは法務総裁も恐らくは或いは基本的人権の制限において濫用に亘るような場合があつてはならないという点では深甚の関心をお持ちになつていると思う。従つてそういうことがないために勿論これらの法案審議愼重にしなければならないと同時に、他面において人権擁護において一層今日以上に意を用いられるということがあつて初めて世論がこれを納得するのではないかと思う。幸いにして法務総裁がその後御苦心の結果、人権擁護局というものは決して現状よりも如何なる意味においても縮小されるものではないというようなお答えが頂けることができるならば、私も誠に安心をするものなんでありますが、或いは存外まだ多々困難があるのではないか。昨日もこの委員会が散会いたしましたあとに、日本弁護士連合会を代表せられまして各位が見えられまして、委員長初め各委員に向つて人権擁護局を存置せられることについて強硬なる申入れがございました。で日本弁護士連合会においてもそういう点において深甚の関心をお持ちになつておられる。私もその問題についてその後些か研究をしてみたのでありますが、人権擁護局の現状は法務総裁よく御承知のように中央においても十四名これは局長それからそのほか三人の課長それから給仕、小使さんというのを含めて十四人、ですからこれを課へお下げになりましてもまさか全部整理なさつても十四人の整理にしかならない。それから地方におきましては人権擁護局関係において職員がいなければならない場所が大よそ五十カ所あるのであります。大よそ五十カ所に対して定員が大よそ六十名です。つまり一カ所について一人何分しかお出にならない。これを削つてまさか一カ所に半人置くこともおできにならないと思う。そうすれば中央で十四人、全国で六十人これだけの陣容で今人権擁護局という仕事をされておる、これは行政整理をするということは政府の側では人権擁護についての仕事は責任は負わないということになつてしまうのではないか、これが第一点、ですからこの第一点については極端な言葉を用いれば羊頭狗肉をやつておられる、それを今縮小せられて狗頭狗肉にせられる必要がどうしてあるだろうか。それは勿論羊頭狗肉で満足するものではありませんが、併し少くとも羊頭狗肉である現在それを狗頭狗肉にするということが法務総裁の御在任中に行われるようなことは私としては甚だ納得できない。  それから第二は、たとえ課に下つてもそれだけの人員を置いておく、それだけの仕事はなされるというようなお考えであるかも知れませんが、人権擁護という特殊な仕事の性質上これはどうしても独立の局というものがなければ行えないものだろうと思う。その理由としては二つ考えられるのでありますが、第一若し課になりました場合には勧告がなされるというとき課長から警察その他に向つて外部に向つて勧告がせられるということは恐らくできないと思う。それなら民事局長から勧告をなされるということになる。そうすると民事局長は元来民事局の仕事というものはこの人権擁護とは直接関係がない、戸籍とか供託とかそういう仕事をしておられるようです。そうするとそれを受取つた警察なり何なりでは縁のないところから勧告が来たよう考えざるを得ない。これはどうしても人権擁護という仕事がこれは法務府に様々おありになる、そういう関係の仕事の中でも人権擁護という仕事が政府の仕事の中でも特殊の仕事であるから、どうしても或る程度までの独立性というものを持つことによつて、その趣旨が貫徹せられるのじやないか、これが第一点であります。  それから第二の点は、この第二点と申しますか、その点が私は独立の局として存在しておることの必要があるのじやないか。たとえ人員は現在以上にお殖やしになることができないでも、せめてこれを独立の局として置かれることによつて初めてそうした特殊の性質を持つた人権擁護の目的を果し得るのではないか。  第三の点は、この前法務総裁お話にございましたが、こういう仕事は政府でやらないで民間の弁護士連合会などにおいてして頂く、そういうために或いは政府は予算上の補助その他を考えることもできるのじやないかというお話もあつたんですが、これは事実上例えば最近起つた亀有で警官が少年を射つてしまつた、少年が外套一つを持つて逃げて行つて、友達の家に逃げ込んだのを障子の隙間からピストルを挿入れて射つてしまつた、この事件について弁護士連合会、自由人権協会、民間側から深甚の関心を持つて警察に行かれて、それで調査をしようとしたのですが、警察署長も面会されないというので、なかなか民間の側から調査もできない。人権擁護局から行かれると調査の目的が達せられた、これが現状です。  それから第三は、日本弁護士連合会において、人権擁護の特殊のすでに機構をお持ちになつておるならば、或いはそれにかなりの部分をお委せになることもできるかも知れませんが、現在そういうものができておるわけではない、そうすると今人権擁護局のほうを縮小されますと弁護士連合会がそういうものを機構を充実するまでの間には空白が生ずることにもなると思います。それから仮に弁護士連合会のほうでそういう機構を拡充せられるとしましても、人権擁護というような仕事は民間とそれから政府と相待つて行われて初めてその目的を達するのであつて政府側でそういうよう責任を軽くお考えになることができるという筋合のものではないというように思うのです。以上三点、第一には縮小せられる実益は全くない、そうして第二、第三のような点で縮小することによつて失うところが実に多大です。独立の仕事としての権威を失つてしまう。そして又民間でこれらの仕事を民間だけでやるということはできない。そういうふうに得るところ実益を得られる点は全くなく、失われるところは多大であるという点から、どうもこれは弁護士連合会その他今朝の朝日新聞にも投書でこの問題が取上げられておるようですが、一般に世論がこれについて了解に苦しむ、或いは政府はそういう意思ではないかも知れないが、これが更に一般には人権擁護というようなことも結局一時の空念仏に終つてしまうのではないかという不安を抱くこともその理由なしとしないのです。いわんや最初申上げましたように、今我々が審議しておりますよう刑事特別法案なり或いは政府がすでに衆議院において御説明になつておるような破壞活動防止法案こういうものによつて人権が制限される虞れがあるのじやないかということも世論が指摘しておる際でありますから、どうか法務総裁が格別なお力を、御苦心をなさいまして、この人権擁護局が課に格下げになるようなことのないように御盡力を頂かなければならない。これはこれらの法律案を審議いたしますときにもこういう法律案が通り、而も他面人権擁護局が課に縮小されるというようなことであると、一層これらの法案審議に我々は不安を感ずるので、その理由から今の点についての御所見を承わらして頂きたいと思います。
  125. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) お答えいたします。羽仁委員の仰せになつように憲法に保障されておる基本的人権はどこまでも擁護しなければならなんと考えております。そして人権擁護局の問題でありますが私は常にこう思つております。問題になるのは二つある。一つは官吏が普通の人民に対する人権の侵害と、普通の人が普通の人に対する人権の侵害、これも濃厚にある。この両面であります。そこで最も世俗に言われるのは、官吏が人民の基本的人権を侵害する場合であります。この場合の処置といたしましては、私はこれは民間の団体でもつて常にこれを監視して、そうして強力な推進力となつてこれを処理するということが最も理想的だろうとこう考えております。官の者が官の者に対してのいわゆるお目付役ということはこれは私は逆であるとこう考えております。そこで甚だ恐縮でありまするが、私が曽つて関係しておりました第一東京弁護士会で人権擁護委員というものを設けましてこれが実によく活躍したのであります。大きな事件についてこれが関係しないものは殆んどありません。世俗において宣伝されるよう事件についてはすぐにそれを取上げまして相当の成績を挙げて行つたのであります。現在もそれは、人権擁護委員会というものは作つております。それで私の理想案といたしましては、とにかく全国の弁護士が一体となつている日本弁護士連合会というものも最近組織されておりますが、これが従来余りその面についての活躍はしておりませんが、数日前にも私がここの会長に会いましてこういう問題というものは最も人権擁護に邁進すべき日本弁護士連合会において取上ぐべき問題じやないか。そこで人権擁護の問題については日本弁護士連合会において委員会を設置して、これに強力な推進力となつて当らせるのが極めて妥当だと考えるがどうかと、満腔の賛意を表しております。そのときには相当の会員も来ておつたのです。これに対する意見の発表というものは、ことごとく賛成された。そこでその問題とからみ合いまして、この法務府の人権擁護局の問題であります。私は羽仁委員の仰せになりましたように、官と民とが互いに協力してこの問題を取上げて行けば一番理想的ではないか、御尤もであります。私はそれですから理想といたしましては日本弁護士連合会において早急に人権擁護委員会を組織されまして、そうしてこれがあまねくこの民と官たるとを問わず人権侵害の問題についてはことごとく取上げて行く、そうして一方においては官の人権問題を取上げる機関をなにさせる、こう私は考えておるのであります。  そこで現在具体的の問題と考えますのは、人権擁護局がこれは行政機構改革の結果課になる、これは考えるべきじやないかという御議論一応御尤もな御意見と私は考えております。併し私が常に考えているのは、日本人というものはとかく何だか機構を大きくすれば、それで以て鬼面人を驚かせるようなもので、実質に関係なく過大評価する傾向がある。これは私は非常に従来からすべての問題について、実質的の問題で行かなければいかんのじやないかということを常に叫んでおる一人であります。で今度の人権擁護局におきましてもこれは課にいたしましても決して人員を減らすよう考えは毛頭持つておりません。むしろこれを強化するとしても人員の減少などということは考えておりません。これを如何にして実質的によりよく働かせるかということに努力いたしたいとこう考えております。そこで又話は元へ戻りまするが、早急に日本弁護士連合会をして、いわゆる官に対する民間の監視と言えば語弊がありますが、いわゆる官職にあるものの民間人に対する人権侵害の問題なんかについて十分活溌にこれを取上げるようにその面において私はやりたい、こう考えておる次第であります。これもいろいろ金の関係も無論ついて来ることでありまして、その面についても予算の点についてはどうするかということでございまするが、私は多少成算を持つております。これは政府の厄介にならぬ、なるべきじやない、民間としては民間人のみずからの手によつてやるべきだ、そこで私はここで発表するの時期じやございませんが、民間人に呼びかけまして、そうしてこの人権擁護の問題について大きく取上げたいと、こういう考えております。最近におきまして或いは羽仁委員も御存じかとも存じますが法律扶助の強化について、いわゆる刑事問題につきましては官選弁護の道があります。貧困者でも官選弁護人をつける、この制度がありますが、民事についてはありません。如何にも権利が侵害されておつても、民事訴訟を起すだけの資産のない者は起せないのじやないか、こういうことは放置すべき問題じやないというので、我々はこれを取上げまして、いわゆる法律扶助協会、これも政府からの補助金云々と言われましたが、断じて政府からの手を借りずにやろうじやないかということで以て、まあ政府もこの趣旨には賛成するものですが、民間人の金を集めまして最近にも活溌に動くようになりつつある次第であります。さような次第でありましてこの人権問題につきましても、これは民間においてこれを大きく取上げてこの推進力となることが最も至当な方法じやないかと、こう考えている次第であります。
  126. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 今お答え下さいましたことの御趣旨はよくわかるのでありますが、そうして私も人権擁護の問題が主として民間においてなさるべきだというお説には、全く同感であります。又そういつた団体が政府からの財政上の援助などを受けず独力でやつて行かなければならないということの御趣旨に私も全く同意見であります。併し何といつて法務総裁が今お述べになりましたのは理想として私も全く同感なんでありますが、御承知のような現状で、そうして日本の現在でなかなか官尊民卑打破と申しましても、それは我々が努力しなければ到達できない将来の目標でありまして、現在のところでは警察なりその他の関係について民間が監視する人権蹂躪がないように監視をするために調査に参るというような場合でありましても、さつきも例に引きましたように、これは弁護士連合会ですか、人権擁護協会でありますか、そこから然るべき弁護士のかたが警察署長に面会を求めて参られましても警察署長はなかなか会わないし、調査もできない。人権擁護局のほうからおいでになれば直ちにその調査の目的を達するという例を引きましたのは、甚だこれは法務総裁も御同感と思いますが、遺憾ながら現在の状況においては、まだまだその我々の理想とする人民みずから人民の人権を守るというところまで到達していないという点もございますので、もうこれ以上くどく申しませんが、なかんずく人員を整理なさらないというふうであるならば、せめて人権擁護局という独立の局を存続せられまして、そうして国民政府に対する人権擁護の期待というものに背かないようにして頂くことを心から切望する次第であります。これらについて万一縮小せられるようなことになりますと、更に又これがさまざまの物議をかもし、又意外な事態をも生ずることがあつてはならないと思いますので、どうか法務総裁がそれらの、只今私が申上げましたような真意を十分御賢察下さいまして、人権擁護局はそのまま存置して且つその充実を図られるような方向に今一層の御苦心を願いたいというふうにお願いをいたしまして、この問題についての発言を終ります。
  127. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 御趣旨の点はよくわかりました。
  128. 吉田法晴

    吉田法晴君 午前中に問題にし、そうして資料だと言われた、資料について間違いがあつたというようなことで問題になりました点を質して参るのでありますが、実は外務省のかたは岡崎国務大臣も渉外関係で御出席が願えない。それで官房長に出て頂くそうでありますが、官房長出て来られるということは、これは手続上の、正誤表を配付したけれども、それは議員に届いていなかつたという御趣旨で御出席になるのだと思うのでありますが、私はそういう手続上の問題を申しているのではないのでありますから、官房長の出席を待たないで質問を始めさして頂きますが、その点は、法務総裁国務大臣として連帶して責任を持つという内閣の連帶性に基いて、その辺一つ責任を感じて御答弁を願いたい。  私は第一に御質問を申上げようといたしました点は、行政協定によつて、この刑事特別立法が出て来た。このことは法律案の名前それ自身にも書いてございますから明らかでございます。法案提案理由説明にも書いてございます。その行政協定そのものが、これはこの国会の初めからでありますが随分問題になつて、條約であるという点も内閣として統一した意見でおいでになつたわけではございません。或いはそういう意見もあれば、或いは議員立法のようなもので、安保條約第三條の包括承認の際に承認を受けておるのだということで、中味がそれだけなかつた安保條約が、国会承認を受けておるかのごとく強弁されておる。この点について、これは條約であるから国会承認を求むべきである、こういう議論を出しましたが、不幸にして参議院においても僅かの差でこれは国会承認を要しないでいいということにきまりましたが、併しあの僅かの差というものは、これは條約であつて国会承認を受けるべきであるという多くの議論が国の内外にあつたことを明示しております。で、私はあの論議を通じましても、これが憲法第七十三條に違反しておるという意味で違憲訴訟を考えたのであります。違憲訴訟ができるという有力な意見も相当ございました。これは参議院の法制局長もそういう御意見でありました。そこで行政協定の持つております効力というものがはつきりいたしておりません。行政協定十七條乃至二十三條に基くこの法律根拠というものがはつきりしない。土台自身がぐらついておる。その上にこれだけの法律を制定するということは、作るということは、これは困難な問題である。こういう意見に合せて質問をやつてつたのであります。特に三十三條の文句の中には、私が申上げるまでもありませんが、この軍隊、それから構成員、軍属、家族それからその財産の安全の保護、それから後段には「合衆国の設備、備品、財産記録及び公務上の充分な安全及び保護」と、こういうことが書いてございます。その恐らく後段のものであろうけれども、その中にはこの刑事特別立法中心をなします軍機保護という問題が、この條約の文言からは出て来ないのじやないか。こういう御質問をいたしましたところが、そこで初めてこれはミスプリントがあつて公務上の情報」という言葉が落ちておつた、こういう御説明なのでありまして、答弁といいますか、弁明を受けたのであります。ところが、これは午前中、その前にもそういう御説明があつたと思いますけれども、私どもここにこの法律案を審議いたしますために、いろいろの参考資料をもらつております。これは或いは法務府においても責任はないとは考えませんが、参考資料一つの中に、刑事特別立法案と、刑事特別法案行政協定との対照表というものももらつております。それから或いは関係法令集というものももらつております。これらも全部、これは私どもが今まで持つて参りました行政協定及びその交換公文と称せられます外務省から参りました法文と同じに「公務上の情報」という言葉が入つておりません。それからこれは何と申しますか、念のため申添えますけれども、その後出ました、有斐閣から出ました六法全書のこれに補遺でありますが、これに載つておりまする行政協定の中にも、そういう文句は入つておりません。そうすると、国会審議参考と申しますか、持つて来られましたこれは正文でございます。そうしてこの問題について論議が終りますまでにおいて、成るほどそれは第二回か第三回か知りませんけれども正誤表を配つたと言うけれども、我々の手許には届いておらん。或いは審議の際にはそういう重大な、何と申しますか、訂正なり、釈明なり、説明なりというものが外務当局からもなされておらん。どこからもなされておらん。国会審議論議を通じても、或いはこれは法務府から出たかどうか知りませんけれども政府の、或いは国会の正式な機関を経て出て来た関係参考法令集の中にも入つておらん。或いは一般の国民の周知といいますか、国民の中に配られた法令集の中にも入つておらん。言い換えますと、今それが條約であるかないかはとにかくといたしまして、実体関係としては「の情報」という文句なしに皆考えて参つておる。その上にこの根拠の薄弱な、そうして間違つておるということを今は言われますけれども、そういう間違いの基礎の上にこの刑事特別立法審議いたそうといたしましても、私どもはこれは困難だと思うのであります。正誤表が届いていた、いなかつたを或いは事務員といいますか、或いは官房長から手続上云々で弁明を頂く問題ではございません。法務総裁から一つ御答弁を得たいと思います。
  129. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 行政協定が今問題に出ましたが、行政協定は安保條約第三條によつて政府間において作られることは当然なことであります。これを以て今無効なりという御主張をいたされておりますが、承服することはできないのであります。而してこの二十三條の問題でありますが、この二十三條の原文には明らかに「情報」の文字は入つておるのであります。又これについての正誤表というものはお手許まで配布されていないという御主張でありまするが、我々の調査するところによりましては一般に配布したということになつております。併しながらいずれにいたしましてもこの行政協定第三條に基いてこれらの法案が今御審議願つておるのであります。この二十三條の問題全般から見れば、私はこの軍機保護も当然この対象となるものと考えております。なおこの法案はいわゆる駐留軍の安全保持のためにかよう法案を作成するに至つたのでありますから、今吉田委員が仰せになりましたこの二十三條の「情報」の文字が或いは吉田委員正誤表がお手許になくて遺漏のままお読みになつて、この法案を御審議下さいますとも、我々はこれは入つておるのだということを十分に御了解願つてする以上は、御審議願うのに少しも私は差支えないものだ、こういうふうに考えております。
  130. 吉田法晴

    吉田法晴君 法務総裁正誤表は配られておつた吉田委員が知らなかつただけだ、こういう意味にとれる言葉でございましたが、先ほど伺いましたところでは、全委員その点は承知いたしておりません。言い換えますと、これは衆議院は知りませんけれども、参議院の大部分はなかつたものと理解して参つたと思うのであります。それだけでなくて、先ほども申しましたけれども、今度の法律案の参考資料として、出所は法務府であるかも知れませんけれども、出て来た法令に全部入つておりません。それからこれは一般に配られました……、それは一出版社のこの法令集のあれだと言われるかも知れませんけれども国民の間に流れておるものはみんな入つておらん。言い換えますと、これが條約であるかないかは別問題として、法律関係であることは間違いございませんが、法律関係についてどういう工合に理解されておるか、どういう工合に行政協定があるかという理解が、実体的な問題についてはこれはなしに理解されておるというのが事実と思うのであります。いわゆる法源がどにあるか云々ということもございますけれども、或いは原文が外務省にあつたとか、そういうことは問題じやないと思うのです。そのことを私は第一に申上げておつたのであります。  それからもう一つは、政府間の取極という今も御説明がございましたけれども、その政府間の取極が、如何なる程度にこの特別立法の根拠たり得るか。今のお言葉ように、例えば「の情報」というのが仮になかつたとしても、二十三條全体から、或いはこれは午前中にもそういうちよつと議論もございましたけれども行政協定の二十三條じやなくつて安全保障條約の三條からということであるならば、それでも結構であります。併しながら、それならばこの行政協定に伴う刑事特別立法という名前も、それから提案理由説明も、やり直して出て頂きたいと思う。法務総裁に御答弁をお願いします。
  131. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 私は、この二十三條は、これは正誤表はお読みにならんと仰せになりまするけれども、二十三條自体は原文に正しくこれは情報という文字が入つておる以上は、これは御審議願う上に一向差支えないと考えております。二十三條、これをこのままお読み下さつても、これはすなおに何すれば、私は駐留軍のこの情報機密を保全してやらなければならんということは理解されるものと、かよう考えております。
  132. 吉田法晴

    吉田法晴君 ほかの質問については答弁を願わないで、情報の原文には、情報という意味がどういう意味か知りませんが、それは英語で書いてあつた行政協定の原文であるという意味に思うのでありますが、国会が頂きました原文にはなかつたのであります。それから問題は、そういう法律関係、これは法務総裁が言われますように、アメリカ政府日本政府との間の取極だけであつて、それが国内法関係に影響しないものでありますならば、それはそれでもかまいません。併しながらこれを刑事特別立法基礎にしようという行政協定というのは、国内法の効力を持たない政府間の取極、それを基礎にして恐らくこの刑事特別立法をお作りになるのでは私はなかろうと思う。若し法務総裁政府間の取極で国内法的な効力がない、そういうものの基礎の上にこの刑事特別立法をお作りになろうというようなら、それでもかまいません。それでは併しこの刑事特別立法の表題にしても、内容にしても、違つて参らなければならん。
  133. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) もとよりこの刑事特別法案は、安保條約第三條に基いて作られたものであります。いわゆる駐留軍軍隊機密関係したものであります。
  134. 吉田法晴

    吉田法晴君 そうすると二十三條そのものが問題になつて参ります。二十三條は、これは両政府間の取極であるかも知らんけれども、それが実際に條約と同じ効力を持つ……條約と言われるか言われんかは知りませんけれども、條約と同様の法律的な効力を持ち、そうしてその法律関係の上に立つてこの刑事特別立法ができて来た、これは間違いはないと思うのであります。それをこの原文と申しますのは、政府間の取極、本当の原文……タイプでは落ちましたが、本文には入つているかも知れません。併しそれが條約と同様の国内法的な効力を持つ法律関係基礎になるためには、国会に配られた原文の中にもあるべきであろうし、或いは国民が理解する法律関係の中にも、そういうものが入つて来なければ、そういう基礎にはならんのではありませんか、こう申上げているのであります。
  135. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 取極の原文には入つているのであります。
  136. 吉田法晴

    吉田法晴君 それは了解いたします。
  137. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) ただあなたのお手許に配付された、いわゆる写しと申しましようか、それが入つていないということでありまするから、この行政協定の効力はやはりこの成文によつて縛られるわけであります。その成文の二十三條によつて国民の規律を定めるというのは、これは私は当然なことであろうと思います。
  138. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 ちよつと速記をとめて……。
  139. 小野義夫

    委員長小野義夫君) ちよつと止めて……。    〔速記中止
  140. 小野義夫

    委員長小野義夫君) それでは速記を始めて。
  141. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) この二十三條にミス・プリントのあつた点につきましては、法務総裁政府を代表いたしまして誠に遺憾の意を表します。
  142. 吉田法晴

    吉田法晴君 遺憾の意を表せられましたので、手続上の問題については了承をいたします。了承をいたしますが、法理論については、これはなお続けざるを得ませんので御了承願いたいと思います。と申しますのは、この私どもが今審議をいたしております刑事特別法案、この根拠と、それからこの條文そのもの、或いは内容というものは、これはどうしても関連がございます。で一歩を譲りまして、根本論は措いて、そしてこの法案中心をなしております軍機関係の問題につきましても、行政協定の中に情報という文字が入つておるか入つておらんかによつて、この軍機に関します規定というものは作らなくつてもいい、或いは作るべきか。それから作る態様についても私は変つて参ると考える。それから行政協定自身が両政府間の取極で、そしてそれが條約上の性質を持つか、持たないか、條約の性質を持つといたしますならば、これは国会承認を求めるということの必要もございましようが、それによつて確定されたこれは條約上の国内法的な効力、その條約の国内法的な効力に基いて、この刑事特別立法というものが実際には生まれて来ておる。ところがその條約の国内法的な効力というものはあいまいになつてつて、そうしてその上に刑事特別法というものを作るということは、これは基礎はつきりしないので、言い換えますというと、若し行政協定を條約でなくて、法の基礎になり得ないといたしますならば、法務総裁の御答弁にもありましたけれども安全保障條約第三條に基く、或いは第三條に関連する刑事特別法、こういうことになりましよう。そうすると法律の名前もそうでありますが、内容についても変つて来るが、変つて来る根拠はとにかくといたしまして、これはやはり連関しなければならん、こういうことに私はなると思うのです。そうしてその政府間の取極めというものが、どういう性質のものであるかはとにかくとして、法的なものであることに変りはございません。法律関係であることには間違いない、その法律関係の中の文句というのは、印刷に載つておるかどうかということはとにかくといたしまして、それが国民の間に或いは国会においても、どう理解されたか、紙の上にどう書いてあるかはとにかくとして、実体法上どうであるかということは、それがどう紙の上にあるかなしということも相当大きな問題じやないか。こういう点を論議し、質問をしておるのでありますが、法制意見局長一つ助け船を出してやつて下さい。
  143. 佐藤達夫

    政府委員(佐藤達夫君) この字句の問題は、今法務総裁の御発言によつて完全に御了解頂けたことと存じますが、私どもの立場から一言さして頂きます。先ほど岡原政府委員も申したと存じますが、我々はこの法律案を立案いたしますについては、まさにこの條約の原本によりまして、公務上の情報の十分な安全ということに基いて、この機密関係條項を立案いたしたのであります。立証の手段はいくらもございますけれども、例えば三月二十日に発行されましたこの「時の法令解説」という印刷庁発行のものがございますが、これに行政協定の解説をいたしております。解説については別に政府の公の何の意見ということはございませんが、その中に参考條文日本文、英文、双方載せておりますが、このものについてははつきり二十三條のところにこの「情報の」という文字が入つております。これは強制意見局の編集ということになつております。さようなことで我々が立案いたしますにつきまして、完全に原本に則つたことだけは御了承願つておきたいと存じます。  そこで今の條約と国内立法との関係についてお尋ねでございましたが、これは先般たしか民事の再審査の際に、非常に私敬服いたしたのでありますが、議定書の関係について、やはり国内法との関連を御指摘になりまして、その際も一応はお答えをしたのでありますが、このほうのこの行政協定の二十三條の問題は、丁度あの三年三カ月ですか、あすこをまあ六カ月というようなふうに国内立法をしましたのと同じよう関係に立つのであります。もとよりこの二十三條の中にあります必要な立法を求めるという文字がありまして、それに基いて立案をしておるのであります。従いまして政府としては立法義務を負つておる。その立法義務の範囲は何かというと、今申しましたこの公務の云々というようなところに、前のほうに列挙されております事柄について立法義務を果そうというので、立法を求めて本案を御提案申上げておるわけであります。一応その辺でお答えを切りまして、後の又お尋ねに応じます。
  144. 吉田法晴

    吉田法晴君 そうすると、政府としては安全保障條約に基いて行政協定を結んでおる、この行政協定正文には情報のという言葉が入つてつた、その行政協定の第二十三條に基く義務と申しますか、それから出て来る当然の措置として刑事特別立法を立案した、こういう御説明であつたかと思います。その政府責任はわかります。問題は、ここに刑事特別立法という法律を作る、国内法としてこういう法体系を、実体法、手続規定両方含んでおりますが、法体系を作ろうというのであります。それは政府責任ばかりでなくて、政府が立案或いは国会に提出せられる責任でなくて、国の法体系としてここに作ろう、こうしておるわけであります。その法体系基礎になります関係、それは政府アメリカ政府と取極をした、こういうことのみによつてはその法律体系基礎にはなり得ない。そこに行政協定なら行政協定法律関係というものが実体に問題になつて来る。その行政協定法律関係というものは、條約であるのないの、とにかくあいまい模糊と今しておる。そうすると、これは民事特別立法の場合にも同じでありましたけれども、問題が重大であるだけに、もう一遍掘下げて問題にして、それも情報というのもあつた。併し原文にはとにかくとして、実体法律関係の中には情報というものはなかつたのじやないか、一応入れたのですが、そこは落しますが、そこで基礎になる法律関係の性質を明らかにする必要があるのではないか、こういう意味で、それが條約であるかないかあいまい模糊としておいて、議論のあるようなままで私どもは進むわけには行かんじやないか、こういうことを申上げておるわけです。
  145. 佐藤達夫

    政府委員(佐藤達夫君) この行政協定の法的の性格について申上げます。率直にはつきり申上げますが、行政協定はもとり條約でございます。実質上はもとより條約でございます。従いまして普通でありますならば、憲法七十三條の條文によりまして国会の御承認を得べきものであることは間違いございません。然るに、御承知のこの安全保障條約第三條におきまして、特にこれは文理上も明白でございますが、駐留の配備の條件は両政府間の行政協定で定めると書いてあるわけであります。その取極は、文理上から申しましても、政府に一任されている形になつておりますのみならず、前の国会におきまして、両院の條約特別委員会におきまして、政府といたしましてはこれはもう改めてこの協定について国会の御承認が必要としない、安保條約の御承認によつて行政協定についての事前の御承認を得たものと考えるということをはつきり御説明申上げた上ででき上つたものでございます。従いましてこの行政協定は実質上條約ではございますけれども、さよう意味において更にここに重ねて国会の御承認を要すべきものではないということでございます。例を挙げて御説明申上げますれば、極めて簡單明瞭だと存じますが、御承知のように、たくさん條約の先例はございます。新憲法になりましても、例えば郵便條約などというのが国会の御承認を得て出ておるのでありますが、それにも郵政関係に対する協定の締結権の御一任があるわけでありますが、それらと全く同じふうに考えております。
  146. 吉田法晴

    吉田法晴君 佐藤意見局長官は、條約であり云々という御説明をせられて来たかと思いますけれども政府の当時の説明は、はつきりいたしておりませんでした。仮に條約であるとしても第三條に云々ということで、これは吉田総理の御答弁であつたかと記憶しておりますけれどもはつきりいたしておりません。そこで問題になつたのでありますが、これはこれより以上議論をしても元の問題に帰りますから、この程度でおきますけれども、それが條約であり、それから安保條約第三條で包括承認を受けておる、こう言われても、包括承認の際には中味ははつきりしなかつた。今度でもそうでありますが、二十三條、この法律で問題にして来ると、情報という字が入つておる、こういうお話で、いつもとにかく前もつて承認を得たような恰好をしておいて、あとから中味を出して来る。而もそれが国民の権利に非常な関係を持つておる、こういうことなんであります。再び安保條約と行政協定との関係のときにおけるごまかしを、今度は行政協定刑事特別立法の際にごまかしをやろう。こういうお話だと了解するのであります。(笑声)これについてはまあ手続上の問題もございまするし、手続上の問題を責めようとは思いませんけれども、私は紙の上にどう書いてあるかということよりも、問題は国民の中に実体的な関係がどうであるか、これが一番問題だと思う。そういう意味におきまして、行政協定が依然としてはつきりしないままに今日まで来た。或いはその中味として二十三條関係においてあいまいな点があつたという点はこれははつきりさしておきたいと思うのであります。それから先は議論になりますから、省略をいたしまして、一応それでは細目に入ります前に、なお政府の御見解とは違うところのものがあるということをはつきりいたしまして、その点の質疑を終ります。
  147. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 今の問題に関連して意見長官の御意見を伺つておきたいのですが、こういうような問題が発生して来ますと、今日のこの委員会における現状を御覧になりまして、この行政協定というものが国会承認を得ておいたほうがよかつたのじやないかというようなお考えをお持ちになつておるのじやないかと思うのですが、どうですか。我々決して形式的にそういうことを言つておるのじやないので、アメリカの場合のように大統領が非常に広大な権利を持つておるという場合と違つて日本の内閣総理大臣というその地位から言いましても問題がありますし、それからそういう形式上の問題は別として、国民の権利義務に関係するかなり重要な問題が出て来る、刑罰ども伴つて来る。そういうものなんだから、今吉田委員が縷々質疑をせられ、又御意見を開陳せられるゆえんのものも、全く理由がないとは言えない。私が脇で拜聽しておつても、その理由がある。それは行政協定というものが最も愼重な方法を以て取扱われなかつたという点に問題があるのじやないか。従つてまあそれが誤植の問題にまで及ぶということがあるのじやないか。そこで意見局長官に今後のことについて伺つておきたいのですが、今後日本が実質的に外交上の條約と同じようなものを結ぶ場合、政府限りでやるというような方法をおとりになることを望ましいというふうにお考えになるか、それとも必ず国会を通して国会審議又は承認というものを尊重せられることが望ましいとお考えになるか。実際今後にも殊にアメリカとの関係においては、向うが大統領で行政協定締結権というものを持つておる関係から、絶えずこういうふうなことが起つて行きやすいのじやないか。それで御承知のように現在アメリカにおいても大統領が行政協定を締結する権限を持つていることが問題がないかどうかということについて議論があることは、意見局長官もよく御承知のところだと思う。これは学問上も議論があり、又政治上においても議論があります。又第一次、第二次などの世界大戰前後に、それから、或いはベルサイユ條約の場合とか、そういう事件をめぐつて最近一時的に大統領が行政協定を締結する権限というものを拡大された。その当時の事情はともかくとして、そういう傾向がだんだん増大しているということはアメリカにおいても問題のあることだ。いわんや日本の場合に、アメリカの大統領と日本政府とが行政協定を結ぶということが、仮に内閣総理大臣の権限の不当な拡大ということになつて、それで国会の立法権というものを縮小するというようなことになつて行くことは望ましくないと思う。私は過去の問題は問題として、この行政協定が結ばれたようなことが今後繰返されることはどうかして防いで行かなければならないと思うのですが、意見長官としてはその点について今後も実質的に外交條約と同じものが、国会審議乃至承認というものを経ないで行われて差支えないというふうにお考えになつておられるかどうか。その点を伺つておきたいと思います。
  148. 佐藤達夫

    政府委員(佐藤達夫君) この根本問題につきましては何も閣議決定を経たわけでも何でもございませんけれども、少くともその衝にあります私として考えますところは、今例にもお出しになりましたアメリカにおけるエクゼキユテイヴ・アグリメントと申しますか、あの執行機関による取極の制度、これは非常に私は広くなつていると思います。そのままの原理を日本の憲法にもつて来ることは到底これは困難であろうと私は確信いたしております。但しこの行政協定アメリカのエキゼキユテイヴ・アグリメントと同じであるということについては、私はそれははつきり違う。何ともなれば先ほども申上げましたように、これは安全保障條約の三條というものによつて総括的に承認をされている。又その承認根拠というものは、三條の文章の上からもはつきりしておりますし、政府も当時十分御説明しておりますという点から、この行政協定は今結ばれているようアメリカのあれとは全然違いますということを申上げます。従いましてこの行政協定に匹敵するようなものを、安全保障條約というような親も何もなしに、政府が手ぶらで締結をするというようなことは、少くとも私がその職にいる間は、大きなことを言い過ぎて申訳ありませんけれども、したくないと思つております。而して万止むを得ないで今後この安全保障條約のような形で親の協定、これは先ほども例に申しました通り、少さいものは幾らでもあります。例えば郵便條約のようなものについてその道を全然塞がれてしまつては行政上の運営はできません。従つてそういうことはあり得ると思いますけれども、その節は條約の文言の上において、政府においてはつきり御説明を盡して御審議を煩わしたいというふうに考えております。
  149. 吉田法晴

    吉田法晴君 今の御答弁に関連してでありますが、私の目の黒いうちは今後郵便條約その他のものは別であるけれども、広汎な根拠のない独立の條約について、締結或いは国会承認を求めないことはないという御熱意のある御返事誠に力強く感ずるのであります。先ほどの法務総裁の答弁を聞いておつても、條約であるという点ははつきり御言明になりませんでした。政府間の取極でありますからという御答弁であることはお聞き及びの通りであります。従つて行政協定の性質についてはまだ閣内意見がはつきり統一されていると私は了解いたしません、これは実際問題としてその点が一つ。それからもう一つ、これは郵便條約その他の問題については、その前の議論はいたしませんけれども国民の権利義務にこれだけ影響のあるものでないことははつきりしております。それは郵便関係について、恐らく国民についても、その内容が出ましてもそう問題にならんものであります。安保條約の第三條で包括承認を得ておられると言うけれども、文句の上では成るほどそうです。それではそのときに国会も、行政協定について国会承認を求めるのであるということをはつきりしておけばよかつたということは、あとからは言えます。併し中味のわからんものについて、或いは経験のないものについてそういうことを言えということは実際無理で、そこであとからできた行政協定について、その中味はこれほど国民の権利義務に関する問題であるから、たとえ安全保障條約第三條に基いて包括承認を受けたような形になつてつても、その実体について国民承認を求むべきものである。若しこれをそういう弊害を繰返しますならば、これは言うまでもなく政府の行政権による、或いは外交権も含んでおりますが、政府の行政独裁という形が出て来る。だからそういうものは、これは民主主義の或いは憲法の運営上防がなければならんという意味で議論を申上げて来たのであります。その点を形式的な今までの経緯なんかに関連せず、これはあなたの目の黒いうちに一つはつきり確立をして頂きたい。で、行政協定問題についても議論のはつきりしておらん点は、これは今の問題でありますから、法制意見局長官として御努力願う余地が十分あると考えます。  それからもう一つついでに伺いますが、先ほど「時の法令解説」ですか、私も実はそれを持つてつたのですが、そこのところは実は読んでいなかつた。併しこれは法の実体、法の法源がどこにあるかということは問題ですが、私どもがこの机の上に載せているもの、政府からもらつたものも、或いは有斐閣から出ているものも、今政府委員が新聞をお持ちになつておりますけれども、そこに出ているものが皆入つていないといたしますと、日本の法関係としてどちらが生きているものか、或いは生きようとしているものか、こういう点についてはこれは私は日本全国に散らばつているものを全部取寄せてみなければわかりませんが、恐らく入つていないものが多かろうと思う。その実体関係を先ほど問題にしたのでありますから、この実体関係についての御意見、いわゆる法源、政府の、先ほど法務総裁は原本はと言いました。原本は紙の上、法律関係は紙の上のものが法律関係になるのじやありません。その点についての御留意と御意見を承わつておきたい。
  150. 佐藤達夫

    政府委員(佐藤達夫君) 政府が公の行為として今の條約関係においてとります措置は、勿論この原本の作成、これは根本でありますが、それが今度は国民に知らせる方法、これはどういう方法によつて知らせられますかというと、憲法七條の天皇の行為として條約を公布することとなつております。これが国民に知らす面においての公の、公式の方法でございます。ところでその国民に対する正式の公布はどうなるか、これは今までの扱いに則りまして、條約発効の日に官報で公布するつもりでおります。従いましてその官報が正式なる政府の公表でございまして、その官報においては勿論この文字が立派に入つて出て参りますことを御期待頂きたいと思います。
  151. 小野義夫

    委員長小野義夫君) ちよつと、法務総裁が見えましたから法務総裁に対する御質問を……。
  152. 内村清次

    ○内村清次君 法務総裁に御質問いたしたいのですが、これは行政協定が結ばれまして国会論議になりましたときに、その当時は法務総裁はこの国会で一番問題になりました戰力の問題、憲法九條の問題、この問題に集中せられておつて、大体行政協定関係は岡崎国務相が主として一人で受持つておられたようでありますけれども、併し問題はこの行政協定の中でも、殊に裁判管轄権の問題につきましても、この問題一つでやはり憲法の條約と匹敵をするよう行政協定である以上は、国会承認を求めなくちやならんと、この一つでさえもこれは国内的な輿論が湧き上つたことはもう御承知の通りであります。当時の岡崎国務相の御答弁によりますると、とにかく今回の行政協定裁判管轄権の問題というものは、これは確かに属人主義で、輿論も治外法権である、こんな不平等な行政協定を結ぶことは、これは以てのほかだ、これは平等じやないのだというようなことに対しましても、とにかくこれは暫定的であつて、大西洋條約が締結をされておるし、その効力が発生したときにおいては、これは直ちに日本の要請によつてこれは解消するのである、こういうような答弁で終始せられたように私は考えておるわけであります。勿論この行政協定の第十七條には、その第一項においてこれが明確になつておるのですが、私はそのときに恐らく行政協定をラスクとの間に話合いの途中にこの裁判管轄権の問題だけはあなたは少し突張つたと、これは承諾しちやあとで困つた問題にならないかというよう情報も私たちは聞いて、さすが木村法務総裁日本人的なしつかりしたお考えがあると、こういうふうに私は思つてつたのですが、やはりこういつた協定になつてしまつた。そこで総裁といたしましては、これはどういうふうに第十七條の第一項を是非とも一つ貫いて行くという御意思があるかどうか。いわゆる要請をして早く一つこの問題を解決するのだというような御意思があるかどうか。この点を先ず第一点として聞いておきたいと思つております。
  153. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) お答えいたします。今内村委員の御指摘になりました点でありますが、御承知の通り北大西洋條約がこの行政協定ができるときは、まだ効力を発生しておりません。そこでこの行政協定に基いていろいろな法案が出たわけでありまするが、その当時に発効いたしておれば、或いは北大西洋條約と同じよう協定が結ばれたかと思われます。併し実際のところを見ますと、一体北大西洋條約のようなきめ方が果して有利であるか、現在のようなきめ方がいいんであるか。これは私の考えですがはつきりした目途はつかないのです。世間往々にして行政協定裁判管轄権の問題でありますが、治外法権ということを言われておりまするが、御承知のように治外法権というのは、主として領事裁判権のようなものです。或る一定区域の中では一国の裁判権が全部及ぶ、そこではそこの国の人もその裁判権に服する。これは日本で従来あつたことです。そういうことになりますると、いわゆる完全な治外法権なんです。その区域内は完全に向う裁判権に服する。ところが今度の行政協定は、日本内地における日本人というのは決して向う裁判に服するわけじやないのです。ただ向うから来たうちの人間の或る部分は日本裁判によらずして、向う裁判権に服するというだけのことなんです。そこで御承知の通り、米比協定なんか見てみると、いわゆるフイリピンとの或る一定の大きな区域の今言つた領事裁判権を持つているのです。そんなものとはおよそかけ離れたものでございまして、ただ向うから来た人間の成る一部のものが日本裁判権に服しないというに過ぎないのであります。北大西洋條約もよく検討してみまして、これは御承知の通り日本が有利と思えばそれに移り変つてよいということになつております。その点についても我々は詳細に検討してみたい、こう考えております。
  154. 内村清次

    ○内村清次君 その点は私たちは少し又所見を異にする問題でありまして、安政年間にありました領事裁判権、これはその地域だけですはな。ところが今回の協定を結んだところの、政府のほうで言うところの施設、それから私たちはこれは確かに日本の国内に基地があるのだと、こう考えておるのですけれども、区域だとか、施設だとか、こうおつしやつていますが、これは相当私は広範囲に亘る問題ではないか。而もその区域外におきましても、やはり属人主義であります以上、向うのほうの犯したところの、それに関係した日本人というものは、勿論裁判権は日本人には裁判権はないけれども向うのかたは向う裁判に服さなければならん。被害者は、或いは又日本人であつてもその蒙るところの被害というものは、相当広範囲に亘る気がしやしないか、こういう考え方を持つておりまするからして、私たちはあの当時よりもむしろこれは日本人にとつて影響が多くはないかということを考えておるわけです。そこで問題は先ほど第一点として質問いたしましたように、その法務総裁のおつしやるようなお考えであつたならば、たとえそういう協定の発効があつても、日本は要請しないようなことになるのですかどうですか。
  155. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 決してそうではありません。これは我々も十分検討して、国民の輿論の向うところに何しまして、北大西洋條約のほうは日本について有利だということであれば、無論私は率先してそれに切替えることを要請するつもりであります。
  156. 内村清次

    ○内村清次君 そうしますと、これはもう行政協定の十七條を基といたしますし、先ほどから同僚委員から質疑をいたしました二十三條の問題でできた立法措置でありまする以上、この法案はどこまでも暫定的な法案です。こういうような御意思に承わつてよろしうございますか。
  157. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) その意味ではそうなると考えております。
  158. 内村清次

    ○内村清次君 そうしますと、やはりこれには、法案の附則のところにはこれはこの法律日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約の発効の日から施行すると、施行は附則にはつきりと書いてありまするが、そういうことをやはり謳つて置くべき必要はないか。暫定法案であるということを私たちは立法の根拠といたしまして考えるわけですが、この点に対しては政府はどうお考えになるか。
  159. 佐藤達夫

    政府委員(佐藤達夫君) 一応は御尤もに拜承いたしますけれども、この法案そのものの表題にも明らかに出ておりますように、行政協定に伴うということで、この法律そのものは行政協定と運命を共にするものであります。而もこの十七條関係法案につきましては十七條関係と運命を共にすることが明らかになつておりますので、これで私どもは十分であろうと考えております。仮に附則で御趣旨ようなことを書きましても、何月何日までと書けばこれははつきりしますが、ことの性質上そういうことは書けないことでありますので、今の表題等によつて、或いはこの内容によつてその趣旨は当然窺い得るというふうに御了解願つて結構であろうと存じます。
  160. 内村清次

    ○内村清次君 次にお尋ねいたしますことは、この法案が提出せられましてから、これは一番心配されておるところは勿論広汎でありましようが、新聞関係は特に心配されておる、而も取材関係で心配していることだと思いますが、又直接に心配しておるのはこの條文の第二章の罪の中に関係しております。直接の労務者関係、或いは又は今後この駐留軍の指定を受けるというような業務に携わる人たちの関係でございますが、特にこの国際的な問題がいろいろの変化がなされて参りますと、この法案で相当広範囲に影響を受けた人たちの間から、或いは又は実際は独立というよう日本の形態の上につきまして駐留軍がおるということは、これはやはり一方におきましては本当の独立じやないのだという考えを持つておるかたがたもあるのでありますからして、この法案の影響するところによりまして駐留軍に対しまして早く一つ撤退をしてもらいたいというよう考えを起す人も出て来やしないか。そういうような若しも運動というものが展開をされる場合においてこの法案の第六條に基くよう駐留軍の、即ち合衆国軍隊の安全を害すべきというこの用途ですね、この用途にそれが匹敵するような、そういう運動というものが匹敵するようなことと相成つて行くかどうか。これは重要な問題でありますからして、そういう運動の問題につきまして一つ法務総裁の明確なお考え方をお教え願いたい。
  161. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) さような運動はこの六條には決して該当いたさないと考えております。それから今の駐留軍の問題でありまするが、もとより我々としては一日も早く駐留軍の引揚げあらんことを、そういう事態になることを希望するのであります。私は日本国民の一人といたしまして一日も速かに日本がみずからの手によつてみずからを守り得る態勢を整え、そうして駐留軍が一日も早く引揚げてもらうということの時期の来たらんことを希う一人であります。
  162. 内村清次

    ○内村清次君 それから新聞関係で一番心配しておられるようなことは、これはもう現在でも、而も又アメリカでは特にそういうような記事として扱つておられる、或いは又写真として出ておるというような、これは軍事機密的な内容全般を公開するようなことではないにいたしましても、例えば新鋭の飛行機ができて来た、これを発表するのだとか、それから又いま一つは民族運動がどこに起きておるのだ、こういうようなことを記事として書いて行く。こういうようなことが取材をされ、而も又掲載されたというような場合のときにおきましてもこれはあえてこの法案は適用しないということであるかどうかですね。
  163. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) もうすでにアメリカの新聞、雑誌なんかで明らかになつたものは日本の新聞記事などに掲載されても一向差支えないとこう考えております。大体日本の新聞なんかで発表されるのはアメリカにおいてもう発表したものなんです。発表されないものが日本の新聞に載るというようなことは恐らくこれは将来においてもなかろうと考えております。
  164. 内村清次

    ○内村清次君 それから特に別表の問題でございますが、この別表の中に、これは私たちも経験した、太平洋戦争のときに経験したことですが、運輸又は通信に関する事項の中で特に運輸関係でありますが、このイの項の「軍事輸送の計画の内容又はその実施の状況」ということが出ておりますが、これはやはり汽車一つ動かそうとするには相当なやはり綿密な計画を立てなければならん。その計画というものはやはり一般取扱うところの職員にもこれを徹底させなくてはその列車の安全ということは図れないわけです。その安全が図れないところの、例えば今後は軍事輸送の形体ということになりまするか、駐留軍の輸送という名を打つて行くにしても、とにかく機密の判は押してあります。確かにこれは軍事機密として押してはありましようが、これはその駅の取扱をする、例えば貨物列車であるとしたならばその運送店の仲仕の人たちも或る程度知らなくてはならんことになつて、そうしてそういう問題が円滑に総合して列車というものが運転されて行くのです。そういうよう取扱つておる人たちが自分は職務を遂行するために、勿論他人に機密を漏らそうという考えも何にもない。何にもないがそれが他人にどういう方法で漏らされたか知らんが、それが一つの大きな問題になつたというようなことも戰争中にはあつたのです。こういうようなことで非常に輸送関係は心配しておるのです。この法律の制定に対してはこれはどの点までこの法案に対しての罰則として脅威を逃れることができるか。この点につきまして一つ説明をお願いしたい。
  165. 佐藤達夫

    政府委員(佐藤達夫君) 御心配は御尤もに存じますけれども、これは十分御安心願つてよろしいと存じます。今の輸送関係の現業に従事しております人々の知り得る事項ということにつきましては、第一にこの別表に確かに挙つておりますけれども、その点はやはりこの第六條の今の第一項でございますか、この條件が全部かぶるわけでありますから、第一に公になつていないもので、而もそれを探知するについて「軍隊の安全を害すべき用途に供する目的」を有する、或いは「不当な方法」というようなことが全部かぶつております。従いまして普通の輸送の現実の業務に携わつておられるかたがたがその機密事項を知り得るということもこれは想像できませんけれども、この條文の建前から申しましても御安心願つて結構であると思います。
  166. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 今の内村委員からの御質問の点に関連するのでありますが、そうしてこれはすでに法務総裁は、その点についての見解を表明せられておるのかと思うのでありますが、念のため伺つておきたいことが二つあるのでありますが、第一はこの刑事特別法案について先日も新聞を代表せられるかたがたの御意見を伺つた際にもその問題が繰返して出て来たのですが、この法律が如何にも今意見長官の御説明ように、正当な職務によつてこれらの活動に、これらに関係する人々を脅威するものじやないということは明かなのでありますが、併しその中でもなかんずく国会議員並びに新聞記者、それからこの駐留軍の仕事を担当せられる労働組合、これらの人たちがその職務の上から、国会議員がその職務の上から、又新聞記者がその職務の上から、それから又労働組合のかたがたがそれらの職務の上からなされるところの行為に対して、いやしくも脅威をなすものではないというふうに我々も信じ又当然そうあることを確信しておるのでありますが、その点について特に法務総裁はつきりした見解を示しておかれることが有意義であろうというふうに思われるのです。でこれはややもしますと、例えばその刑罰の、裁判にまで行けばそんなことはないというのですが、併し戰争中その他の経験から言いましてもどうかしますと、警察なり何なり、そういう、いわゆる末端といいますか、そういうところではとかくそういうふうなものにまでまあ責任上といいますか、若し自分の責任が全うされなければならんというふうな、昔風の、官僚的の考え方で、あらかじめそういう点についても手配をしておく。それで新聞社で特に御心配になつておるのは、戰争中軍機保護法によつて新聞社に向つて警視庁から毎日いわゆるその記事差しとめの命令というものが来る。年に七千件もまあ来た。そうすると新聞の記事編集には絶えずその警視庁から送られて来る記事差しとめに関する通達をひつくり返して見て、それで一々記事を編集しなければならないようなことになつてしまう。従つてこの刑事特別法が成立しました後にやはりそんなよう関係でその新聞社までに向つてもそういう記事、これらの記事は掲載せられると、刑事特別法に触れるからというような、触れる虞れがあるからというようなことで、この警視庁なり或いは何なりから新聞社にそういうようなものが通達されますと、新聞の編集者は一々そういうものを見ながら編集しなければならないということになることを非常に恐れているくらいなんです。それから国会議員が正当なる職務で国会においてこれらの日本に駐在する米国軍或いはそれの関連について材料を集め、それから又その知識をいわゆる探知し、又はそれについて発見をするということは正当の職務執行の上から、当然なさなければならないことだと思うのでありますが、併しながら例えば任期が終つた国会議員の現議員ではない前議員のかたがたがその現議員であられた当時に、そういう職務上の活動をなされるために收集されたそれらの書類というようなものが或いは問題になるというようなことが又起つてはならないと思うのであります。で正当な理由なくしてということがありますから、裁判にまで行けば、そういうことは救われるというふうに思うのでありますけれども、併しそれもあらかじめ警察などにおいてそういう点において行き過ぎたことをやる、或いは刑事特別法に触れる虞れがあるからと言つて記事差しとめを求めるような通達をなしたり、或いは国会議員がその職務を遂行する上に不安を感じたり、これらの点国会議員並びに新聞記者、それから駐留軍関係する業務に携わられる労働組合、或いは労働者、これらの、それ以外にも勿論あると思うのでありますけれども、併し大きな問題はこういうところにあるのじやないかというように指摘せられておりますが、これらについてこの際法務総裁が刑事特別法というものがそれらの正当な業務の上に行われたものが罪として考えられるということがあり得ないばかりでなく、それらの正当な活動がいやしくも脅威されるようなことがあつてはならないという点について所見を示されたいというふうに思う。これが第一の点であります。  それから続いてお願いしておきたいと思いますが、第二の点は、言うまでもなくこの刑事特別法案安全保障條約に基くわけであります。安全保障條約はそこに明らかに明示せられておりますように、日本国に対する直接又は間接の侵略に対する安全の保障ということが明記せられております。然るにこの法案を見ますると、この点がさつき意見長官からお述べられになられましたように、表題においては明かなんでありますけれども、併し各條項を見ますると、これがかなり広汎に解釈される虞れがある。で直接乃至間接の侵略に対する安全の保障ということのみならず、これらはめつたに起ることではない。勿論我々も絶対にそういうことが起らないことを望んでおるわけでありますが、仮にそういう問題が恐れられる場合としても、めつたに起る問題ではない、そういうめつたに起り得ないものに対する手当なんですが、その手当が拡大されて解釈されますと、又常時、常に、毎日日本が、国民がこの刑事特別法の下に置かれ、そうしてそれの運用の下に、さまざまの正当な活動を脅かされるという虞れがある。この点についてこれが暫定的のものであり、且つ又その安全保障條約に定むる直接乃至間接の侵略に対する安全保障を目的とするものであるということが明らかにされる必要があると思います。でこれも繰返しては恐れ入りますが、裁判その他になればそういう点は救われると思うのでありますけれども、取締りの上からあたかも常にこの刑事特別法というものが、それら国民の正当な活動を脅かすようなことになつては、実にいわゆるその占領の継続というような実感を與え、そうして独立の実感を妨げ、日本国民の活撥な活動ということが妨げられる虞れがあると思いますので、以上二点について第一は国会議員、新聞記者、それから駐留軍関係の仕事に従事する労働者及びその労働組合、これらの正当な活動は妨げられないのみならず、これらに対して脅威がなされてはならないのではないか。第二はこの刑事特別法が特に安全保障條約に定むる直接又は関接の侵略に対する安全を中心とするものであつて、常時国民の活溌な活動というものを制限し、又脅威するものであつてはならないのではないかというふうに思います。この二点についてどうか法務総裁はこの際明確な所見をお示し頂きたいと思うのであります。
  167. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 只今羽仁委員の仰せられることは全面的に私は賛意を表する次第であります。この法案によりまして、いやしくも国会議員或いは新聞取扱い又は一般の労務者その他の人たちの正常な業務として或いは権利としてやる事柄については、何らの制肘を加えるものではありません。而して只今お説の警察なんかにおいてあらかじめそういうことを新聞報道者なんかに言つて、記事の点の取扱い方について指示したりするような懸念があるのじやないかというような御懸念でありますが、さようなことのないように万全の措置をいたしたい、又あつてはならんことであります。私の知る範囲におきましては、殊にアメリカは割合フランクでありまして、軍機におきまして極く極く秘密でなければ、割合大ぴらなのでありまして、その点につきましては、特に私は駐留軍の当局者と話合いをつけて、いやしくも日本国民の正当なる行動に対して、そういう懸念のないよう取扱いをいたしたいとこう考えておる次第であります。
  168. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 第二点の……。
  169. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 安全保障……。
  170. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 第一点に全般的には御同意下さつたんで、それから第一点については又更に法務総裁の識見を示されたのですが、第二点のこの刑事特別法が、安全保障條約に定むる、直接又は間接の侵略に対する安全保障というものを中心とするものであつて、常時日本国民のあらゆる意味における活撥なる活動自由というものを制限するものではなく又それらを脅威するものであつてはならないという点であります。それから念のために申上げておきますが、アメリカの場合にも、最近これはアメリカの輿論で問題になつている問題でありますが、御承知のアメリカの上院議員のマツカーシイというかたによつて、最近アメリカの有名な評論家アルソツプ兄弟を防諜法によつて告発しようとしておる事件があります。アルソツプ兄弟が評論された評論は、皆さんもよく御承知の、アメリカとソ連との空軍の比較をされて、それでソ連においては昨年度においてはミグ十五の飛行機が七千台生産されている、アメリカではこういうジエツト戦鬪機が、昨年度においては七百台くらいしか生産されてない、十分の一の生産しかない。又ジエツト爆撃機の生産においても、アメリカとソ連とは非常に懸隔があつて、ソ連が非常に優れておる、こういう点で空軍の上ではアメリカはソ連に対して勝ち目がないという評論をアルソツプ兄弟がニユーヨークタイムズに掲載し、日本タイムスにも転載された。アメリカの上院議員がこれを取上げてアルソツプの新聞評論をとらえて防諜法に違反するものだということを以て、アルソツプ兄弟の新聞評論家としての活動に脅威を與えようとしておる事実があります。只今法務総裁は、アメリカは非常に寛大であるという印象を持たれておるようお話になりましたが、併し他面今申し上げたように、非常に驚くべき言論抑圧を企てておられる上院議員があるということも事実でありますから、こういう点につきましても、なおそれらの影響の下に、万々そういうことが起ることはないと思うのでありますが、問題は我々自身の問題でありますが、それらの点について、この刑事特別法案審議の過程において法務総裁の明確な識見を伺つておきたいのでございます。
  171. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) この法案は、要するに行政協定に基きましてアメリカ駐留軍の軍備の機密に関する入手に関連しての法案であります。極めてこれは嚴格に解すべきものでありまして、いやしくも日本の全国民の日常の生活に対していささかも懸念のないようにこれを解釈し、又は施行すべきものであると私はこう考えております。なお、これらの点につきましては、関係各方面におきまして十分の連絡をとりまして、いささかも日本国民の正当なる業務、その他の活動において不便を来さないように処置いたしたい、こう考えております。
  172. 小野義夫

    委員長小野義夫君) ちよつと五分間休憩します。    午後四時二十四分休憩    ——————————    午後四時三十分開会
  173. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 再開いたします。  本日はこの程度で散会いたし、明日午後一時より開会いたします。本日はこれにて散会いたします。    午後四時三十一分散会