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1952-04-21 第13回国会 参議院 法務委員会 第26号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年四月二十一日(月曜日)    午前十時五十一分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     小野 義夫君    理事            宮城タマヨ君            伊藤  修君    委員            左藤 義詮君            岡部  常君            内村 清次君            吉田 法晴君            齋  武雄君            羽仁 五郎君   政府委員    刑 政 長 官 清原 邦一君   事務局側    常任委員会専門    員       長谷川 宏君    常任委員会専門    員       西村 高兄君   参考人    毎日新聞論説副    委員長     池松 文雄君    読売新聞論説委    員       愛川 重義君    日本新聞協会新    聞法制研究会委    員       山根眞治郎君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○日本国アメリカ合衆国との間の安  全保障條約第三條に基く行政協定に  伴う刑事特別法案内閣送付)   —————————————
  2. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 只今より委員会を開きます。  先ず日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約第三條に基く行政協定に伴う刑事特別法案を議題に供します。只今手元に配付いたしました参考人各位より本案に対する御意見を承わります。  その前にちよつと一言簡單に御挨拶を申上げます。本日は御多用中誠に御迷惑な次第と存じましたが、皆様の御意見を承わりたいという私ども委員の非常な熱心な希望がございましてお願い申上げた次第でございます。どうぞよろしくお願い申上げます。それでは先着の先ず池松参考人からお願い申上げます。
  3. 池松文雄

    参考人池松文雄君) この法案を拝見いたしますと、前の半分がアメリカ軍スパイ防止規定であつて、あとの半分が裁判管轄権の問題になつておるわけでありますが、ともに非常に重要な内容を持つているものだと思います。殊に前段のアメリカ軍スパイ防止の問題につきましては我々の新聞でありますとか或いはラジオの取材活動をやる者にとりましては非常に脅威を感ずる節があるわけであります。それから善意の第三者もひつかかる虞れがあるのではないかとも考えられるのであります。私は詳しい情報と申しますか資料を持たないのでありますけれども、こういう規定北大西洋條約の加盟国であるとか、或いはフィリピンなんかにこういうものがあるかどうか、若しあるとすれば、そういうことを参考にしたいと思いますのですが、それを存じませんのであります。この法案とか、或いは最近問題になつておりました破壊活動防止法案とかいうのは、運用自体では非常にどうも言論の抑圧のような恐ろしい結果になるのではないかとも考えられるわけであります。併し駐留軍との関係が、全く日本法律法制がなくてやられるよりも、何かこういうような日本法律ができたほうが国民一般に安心を與えるということは考えられるのでありますが、併し先ほど申上げましたようなふうな善意の者がこれによつてひつかかるという虞れがないかということであります。それからアメリカ軍機保護法は戰時と平時の規定が分れておるようでありますが、この法律アメリカ規定よりも刑罰のほうが軽いということは或いはあるかもわかりませんけれども、例えば朝鮮事変などというものが終つてしまつた後と、朝鮮事変が起つている現在と無差別であつてよいかどうか、或いは緊急非常事態が起つた場合にどうするか、そういうような区別があつていいのじやないかと思いますが、戰時的な場合と平時的な場合との区別というのは技術的な問題になるかも知れませんが、何かそういう規定があつたほうがよいのではないかと考えます。それから警察予備隊や海上保安庁が将来保安隊になつて、ますます増強されるような傾向があるといたしますと、これが駐留軍と緊密な連絡をとるという場合には、このスパイ防止法的な法律は当然日本警察予備隊や何かにもそのまま適用されるのではないかということを虞れるわけであります。そういたしますと、どうも日本のそういうような警察予備隊だとか保安隊だとかいうようなものに対しても、我々は同様な虞れを以て接近しなければならないのではないかというようなことを感じるわけであります。  私たちの立場から申しまして一番問題になるのは第六條でありまして、「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的」とあるわけでありますが、過去の太平洋戰争中などに我々は非常に善意を持つて軍事行動を報道したことがしばしばあるわけであります。それが軍にとつては安全を害するといつたような意味に解釈せられて我々が非常に叱られたり何かしたことが再々あるわけであります。安全を害するということがどういうことであるかなかなかわかりにくいのであります。それから「不当な方法」という言葉が第六條に二カ所ばかり出て参りますけれども、皆さん御承知のように新聞記者活動というのは随分激しいと申しますか、或る場合にはしばしば「不当な方法」と紙一重になるようなことがあるわけでありますが、これは決して悪意でやるわけではないのでありますが、新聞競争意識でありますとか何とかからそういうことがあるのであります。それも「不当な方法」と広く解釈されますと、新聞社取材活動というものが非常な虞れを感ずるわけでありますが、それと同時に新聞記者通常方法でなくてしばしば重大なニユースを耳にすることがあるわけであります。通常不当な方法でないと入らないということが第六條の二項にありますが、新聞記者が例えばクラブなどにおきましても、或いは新聞記者でありますが故にいろいろな人に持触する機会に、不当な方法でない場合でしばしばそういうことがあるわけでありますが、これも随分危険なような感じもするわけであります。それで本人は不当な方法でも何でもなく自然にニュースをキヤツチいたしまして、それを社に帰つて幹部にこういうことがあつたよと報告いたしますと、それが機密他人に漏らしたというようなことになる震れがないかどうか。或いは又社の幹部と申しますか社会部長なら社会部長が出先の者に何か取材を命じた場合に、それが教唆だとか扇動だとか或いは陰謀だとかいうことにならないかどうか、こういうことは普通は起らないわけでありますが、非常に極端な場合と申しますか稀にはそういう慮れもあるのではないかと思いますが、とにかく非常にこれはこわい法律のように考えられるのであります。  それから第六條の別表の問題でありますが、非常にたくさん機密という事項が並べられてあるのでありますが、あのたくさん並べられたものを読みましても、私には何が機密であるかわからないのでありますが非常にたくさんとにかく書いてある。そうしてその中に、「実施状況」であるとか、或いは「隷属系統」であるとか、「部隊の……行動」とかいろいろなものがあるのでありますが、こういうことは特にどこまでが機密であるかがなかなかわかりにくいと思います。それから「軍事施設位置」という言葉があるわけでありますが、軍事施設位置というのは予備作業班や何かでやつてつて大体或いはあれは公表されるのではないかと思つておるのでありますが、軍事施設位置機密事項の中に入つているとすると、これは行政協定に現われない秘密飛行場か何かでもあるということをこの法案は予想しておるのではないかというようにも疑われるわけであります。この秘密の重要な程度についてはこの法律は触れていなくて、その不当に取材したとか不当に収集したとか探知したとか、或いは安全を害するためにやつたというようなことが規定されておりまして、秘密の重要な程度というものは問題にされていないように思うのでありますが、これはやはり秘密の重要な程度というものが問題にされるべきではないかと思うのであります。軍の機密などということは常識的にはなかなかわからないわけでありますし、すべての一般人たちがこの法律を読みながら行動するわけでもないわけでございますし、殊に外国軍隊機密となりますと一層わかりにくくなると思います。我々が最近まで経験いたしましたことでもこんなことを発表してもいいだろうかと思うようなことをアメリカさんは盛んに発表しておりますし、又逆の場合もあると思うのでありますが、こういうふうな規定でございますとはつきりしないために善意の人が引つかかつてスパイ行動をやろうとする者は免れてしまうというような虞れがあるのではないかと思うのでありますが、そういう意味におきましては機密の重要な程度ということがもつとしぼられて来て整理ざれる必要があるように考えるのであります。一番大きいところはその第六條だと私は思うのでありますが。  それから小さいことでありますが第二條に入ることを禁止した場所というのがあるのでありますが、これははつきり明示されていないと間違うことの虞れがあると思います。演習場であるとか飛行場であるとか非常に広い場面に若しそんな禁止区域があるといたしますと、一カ所や二カ所に札が立つていたぐらいでは一般にはわからない場合もあると思いますし、或いは又それが英語で立入禁止とあつた場合にはそれは徹底しないこともあるわけでございますしここにも危険を感ずるのであります。  それから第五條の何か合衆国軍隊の彈薬や糧食、被服を損壊した者という規定があるわけでありますが、これにつきましては過失の場合と故意にやつた場合とのことが分けてないのでありますが、これは分けてあつていいのではないかと思いますが、軍用自動車過失で衝突して壊したとかそういう問題も入るかどうか知りませんけれども、過失の場合と故意の場合と法文の上で分けられていていいのではないかと思います。  この法律案後段刑事手続の問題につきましては、これは行政協定の十七條の一番しまいの第五でございますかにありますように、北大西洋條協定効力が発生してから一年以内に効力を生じなかつた場合において、日本政府要請があつたときには協議をしなおすというようなことがあるわけでございますが、そうしますとこの後段でいずれにせよ一年以内に改訂されるものだと思うのでありますが、一時非常にやかましい問題になりました治外法権と申しますか属人主義を貫き通されますとこういう結果になるでありましようが、これはどうも独立でもいたしましたらば速かにこの行政協定の十七條に従いまして、裁判管轄権の根本問題を改訂してもらう以外にないのではないかと思うのであります。それまでのこの刑事手続暫定手続だと思うのでありますが、第十條に承認を受けて行うとか、或いは嘱託とするとかということがあるのでありますけれども、これは日本側が選択してするのかどうかを私は疑問に思うわけでありますが。それから承認を受けて行う場合に向うが承認をしなかつたようなことになつたらどうなるのか。或いは嘱託とするとありますが嘱託を拒否されたらどうなるのか、そういう場合に何か泣寝入りになるのかどうかという疑問も持つのであります。  十一條によりますと、まあこれも属人主義の現われでありましようが、逮捕してもすぐ引渡さなくちやならないわけでありますし、書類や証拠物件は全部すぐ向うに渡さなければならないわけでありますが、そういたしますと行政協定の十七條の4の後のほうにありますところの、日本が重要と認めて要請した場合には好意を持つてアメリカが考慮しなければならないというような規定があるのでありますが、この関係はどういうことになるか。この法文を見ますとアメリカ側日本要請従つて考慮をする場合の規定はないのでありますが、法律専門家のかたがたはこれがなくていいと考えておるかどうか存じまんが、どのような場合に日本が特に重要と認めるのか、或いはどういう場合にアメリカ好意が現われるのか、どういう手続を要するのか、又日本要請してもアメリカ好意が現われるまでに非常な期間があつたらば問題は何かうやむやになつてしまう虞れも感ずるわけでありますが、そういう点がこの法文には全然ないのでありますが、それでいいのかどうかちよつと疑問に思うわけであります。私がこの法案を読みまして感じましたところは以上の点であります。
  4. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 御発言中でありますが、大体三十分以内ぐらいの御予定で最初御発言を願いたいと思いますが。次は読売新聞論説委員愛川さん。
  5. 愛川重義

    参考人愛川重義君) この法案我我にとつて一番関心の深い点であり、最も問題になる点は申すまでもなく第六條以下の(合衆国軍隊機密を侵す罪)という條項の点であります。全般的にどうもこの合衆国軍隊機密というものが一体どういうものかということによつて我々が新聞を作ります士にこれが非常に問題になるわけでありますが、その機密がどうもこの規定ではすこぶる不明確のように思われるのであります。第六條によりますと合衆国軍隊機密として「合衆国軍隊についての別表に掲げる事項及びこれらの事項に係る文書、図画若しくは物件で、公になつていないものをいう。」と説明がついております。先ほど池松さんのお話にありましたようにこの別表に掲げる事項というものが一応詳細に規定されておるように見えて而もすこぶる不明解であります。これはいろいろな解釈の仕方ができますから、具体的な或るニユースがこれのどれかに該当するのかしないのかというようなことはこれを読んだだけでははつきりわからないのであります。更にこの中で「公になつていないもの」という点でありますが、これはまあ曽てはこの用語がしばしば問題になつたことがあるように記憶するのでありますが、どの程度のものを「公になつていないもの」というのかどうかという点はこれはなかなかわかりません。例えば日本で公になつておらんものでもアメリカではやや公に近いような状態になつておるものもありましようし、又アメリカでは公になつていないけれどもこちらでは地理的な事情から大体もう半ば公知の事実だというような場合もありましよう。これは過去にも例があつたように思うのでありますが、例えばアメリカ新聞日本軍事基地やその他のことを書いてすでにこれがアメリカ新聞に出ておる場合、これは一体公になつているもののうちに入るのか入らんのか。これはまあ特種としてすつぱ抜いて出ておるという場合に、我々としてはもうすでに新聞に出たのだから公になつたことだと思つておると、これはまあ後にも申上げますように、具体的事項機密かどうかというのを決定するのは結局こちらに駐留しておる軍当局でありますから、その当局がいやあれは新聞に出たけれどもあれは勝手にああいうことを書いたので、軍としてはまだ公の扱いをしておらん機密だというふうに判断されれば、日本新聞が同じようなことを書いてもこれは法律に触れるということになるのであります。これは非常に重要な点で我々が記事扱います上に関係が深いのでありますから、これが一体どういうものかということを一つはつきりして頂かなければ困ると思うのであります。  それからその次に「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する」ということが目的事項として書いてあります。ところがろの点は大体公になつていないものを探知、収集するということは通常合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供するものと見て差支えないんじやないかと思うのであります。従つてこれは法律をお作りになつたかたがしぼつたつもりでこういうことをお書きになつたかと想像するのでありますけれども、一向しぼつたことにならんのじやないかというような気がするのであります。まああつてもなくてもいいような文句ではないかと思います。むしろこういう種類のスパイ取締法律通常使われておりますところの、外国人及び外国のために行動する者、外国人にやとわれてやつておる日本人のような場合、そういう者に洩らす目的を以て探知、収集するとかいうふうに具体的にやつて頂ければ、これはスパイ行為取締るんだということがはつきりいたしますけれども、単に合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供するということになると非常に範囲が広くなつて、どうも極めて漠然たる内容であるという気がいたします。  更にその次に、又は不当な方法探知收集したものということになつております。そうしますと、合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的を持つていなくても、單に不当な方法探知収集した者も十年以下の懲役になるということになつておりますが、これは合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供するという目的を持つているものだけでなしに、単純に不当な方法で収集したものも縛ろうということでまあ広くかけられたわけでありましようが、この「不当な方法」という言葉が非常に又わからん。「不当な方法」ということでありますから不法ということよりは勿論広いように考えられるのであります。不法といえばまあ盗むとかいうようなことであろうと思いますが、「不当な方法」というと更に範囲が広くなつて、まあ盗み聞きも勿論でありましようけれども、新聞記者取材をする場合にまあ二人でバーにでも行つて飲みながらついいい気持になつて向うの話してくれたのをこつちも聞く、これが「不当な方法」ということになるのかどうかというようなことになつて参りますと、これはすこぶる明確を欠くのであります。まあこの第六條は日本軍機保護法と同じような條項のような気がするのでありますが、ただこの不当な方法という点が僅かにしぼつておる。日本軍機保護法は單に日本軍事上の機密探知、収集したということだけで処罰するのでありますから、不当な方法という言葉だけでしぼつたつもりでありましようけれどもすこぶる不明確である。まあアメリカ軍隊日本の安全を保障するためにおつてもらうのですから、日本国内におるアメリカ軍隊機密というものはもあ大体日本軍隊機密を守ると同じような気持でこれを保護しようという目的は一応わかるのでありますが、まあそこは何と言つてアメリカ軍日本軍とは多少感じも違うのですから、成るたけまあ実害を及ぼさない程度一つ狭くしてもらうということも一つお考えを願わなければならんとかように考えるので、私専門家じやないんでありますがこの「又は不当な方法で」という文句の中の少くともこの「又は」を削つてしまえば、「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて不当な方法で、」ということにまあなりますから、両方が要件なのでありますから、大分狭くなるような気がするのですが、どうも「又は」と「不当な方法」更に今の「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的」といずれも極めて漠然たる條件であるという点に非常な不安を持つわけであります。  それからまあその次の條項でありますが、これはまあ通常他人に洩したもの、これはまあ友人にでも夕食に家庭に話しても罪になるのでありましよう。従つて新聞にこれが出るということになれば勿論これは罪は免れないわけであります。ところがこの條項においても「通常不当な方法によらなければ探知し、又は収集することができない」ものというのが一応の條件になつておりますが、これが又すこぶる不明確で、「通常不当な方法に」、通常という文句が付いておるところから見ると、客観的に見て不当な方法でなければ探知、收集できないものということでありましようが、具体的な問題、ニユースの場合にそれが一体不当な方法によらなければ探知、収集できないものかどうかというようなことはなかなか判断ができないのであります。まあこの法を作られたかたは恐らくこれで制限をされたつもり、いわゆるしぼられたつもりであろうかと思いますが、これもどうも余りにしぼりにならないと、この六條の今の第一項、第二項を見ますと考えられる。これはまあ非常に我々にとつて重要な点でありますけれども、そのニュースならニュースの中に入つておる事項がそういうことを、例えば何といいますか、非常に珍らしい形の飛行機が飛んでおつて、それがこういう形をしておつたというようなまあ記事が仮にあつたといたしますと、そういう飛行機が飛んでおつたということだけで十分であつて、その飛行機の型というものが軍事上の機密なのだというようなことは、これは法律上の判断事項だから、これは本人が知つておらなくても別に犯罪となる場合に必要じやない。要するにまあ法律を知らないということが罪を免れることにならないのと同じで、合衆国軍隊機密かどうかということの認識を必要としないようであります、この規定によりますと。そういたしますと、単にその事実をそういうような機密かどうかということを全く認識しないで記事に書いた場合に、やはり同じような罪になると。こういうような場合には、通常は特別の業務上の関係知つた者がこれを他に洩らしてはいけないとか、或いは公にしてはいけないとかいうような規定ならば、これはまあ止むを得ないと思うのでありますが、偶然そういう機密であるとかいうようなことを全然認識しないで他に洩らしたり、新聞に書いたりした者も同じような処罰を受けるというのは、どうも相当にこれは苛酷ではないかと思います。  それから次の條項で前二項の罪の陰謀を罰するということになつておりますが、この他人漏浬の陰謀ということまでを罰するというようなことが一体どうして必要なのかと思いますし、殊にその第二項の教唆又はせん動を同じように罰するというようなことは、一体具体的にどういうことがこのスパイ行為せん動になるのかわかりませんが、どうも不必要な規定のような感じを受けるのであります。  それからもう一点。我々新聞関係の者が一番心配するのは、これは現実に合衆国軍隊機密かどうかということは、先ほども申しましたように結局日本検事はわからないので、具体的な問題が起つたときには、これが機密かどうかということは、アメリカ軍に聞くということに、これは当然なると思います。これはまあ曽つて軍機保護法でも陸軍なら陸軍軍務局に聞くとか、海軍ならやはり海軍のほうに聞合わすということで検事は起訴する、裁判官は結局そのときの判断従つて大体裁判をして来ておるのでありますから、この扱いについても大体アメリカ軍に聞くということになるだろうと思います。そうすると、新聞のほうでもこれは非常にいい特種だけれども、これを載せるとこの法律に引つかりそうだというような心配の場合には、これは当然事前新聞にする前に聞きに行こうということになるわけであります。これは一体どこで聞けばよいか、これを政府の一部などで聞くということになると、非常に誤つた判断をされたり、言論統制のために悪用されると申しますか、司令部のほうではそれほども考えておらんのに、非常に厳重に解釈して事ごと新聞を統制するために事前にいろいろなものを持つて来いとか、調べるというようなことをされると非常に危険でありますから、むしろどうせ聞きに行かなければならんものならば日米合同委員会式のものをこの問題に関してむしろ作つてもらつて、政治的に悪用される心配のない、時の行政府の顔色などにかかわらず公正に機密内容判断してくれるというような機関ができてくれたほうが、我々にとつては都合がいいというように考えておるのであります。  大体この法律に関して感じました点を雑然とでありますが、申上げたのでございます。
  6. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 次に日本新聞協会新聞法制研究会委員山根さんの御意見を願います。
  7. 山根眞治郎

    参考人山根眞治郎君) 今大体御両君からお話がありましたから、なるたけそれにダブらないようなところだけを私も意見として申上げたいと思います。  どうもこの法律を見ますとちよつと若干の疑問があると思う。第一條の二項に適用地域のことがありますが、これによりますと「日本国内及びその附近に配備されたアメリカ合衆国陸軍、空軍及び海軍であつて日本国内にある間におけるものをいう。」とその一つ範囲を書いてありますけれども、この條文通りにこれを解釈しますとこれは非常に広い範囲になる。ですから、例えば変つた飛行機が飛んだ、こういう恰好のものが飛んだといつて記事以外で以てそれを話しても、これは触れることになると思う、違反になると思う。こういうように法の解釈が非常に広い解釈になつて日本国内にある間は一切が違反の対象になる、こういうのでは結局これを運用して行く上においては発表主義で行くより他に道がないと思う。つまり今までの占領下と同じことになるというような疑いがあると思う。  それから別表が非常に広範だということは十分今までお二人からお話がありましたが、こんな広範な適用というものは、結局憲法で禁ぜられた検閲に逆戻りするようなことになると思う。殊に今までありました軍機保護法時代にあつたような一切の言論を封ずる方法として、これこれのものを書くと罰せられるから御注意するというあの注意警告をよく警察が出しておつた、ひどい年は一年に七千件あつたことがありますが、これは何もかもいけないという気持を国民に與える、言論人に與えるようになつて、これは容易ならんごとでないかと思う。  それから機密の点ですが、犯罪の成立の大体要件は、「軍隊の安全を害すべき用途に供する目的」、その次には、「又は不当な方法」それからその次は、「公になつていないもの」というような要件があるのですが、これはアメリカの防諜法をそつくり受継いだ立法だと思う。アメリカの防諜法は非常に細かく書いて非常に広範なものになつておるのです。そういうものをそつくり持つて来たものだと思う。結局それでは正当の方法というものは一体どういうものかということになるのです。さつきからお話にありましたけれども、何が一体正当だかちつともわからない。結局すべてのものがこれは危いという疑いを持たせるようになると思う。それから機密について探知、收集ということがありますが、これは新聞の場合書かないでも、又議員諸君或いは組合の者でも一般人でも、しやべらないでもこれは罰せられる。この條文通りに行きますと、探知、収集というのだから、しやべらないでも書かないでも罰せられるということになる。ですから第一條の精神からいいまして、アメリカの変つた飛行機が飛んだ、あれはこういうようなかつこうのものだとか何とかいうようなことを子供がしやべつてもこれは触れるというような疑いがある。従つてその新聞の場合は新聞社社会部長とか、或いは写真部長というようなものとか政治家、労働組合というようなものが一体どうしておつたらいいか、何したらいいかという問題について方向がちつともわからないことになるのです。いわんや「陰謀」とか、それから「教唆」とか、「せん動」とかいうものがあつて始終これに引かかる虞れがあり得る。これは全然アメリカの防諜法をそつくり持つて来たので、一体せん動なんという文字を使つたのがこつけい千万だと思うのです。防諜法の場合だと非常に又違うので、刑事裁判であるからせん動は無論刑法で罰せられるのですから、教唆は罰せられるのですから、それを通り越してせん動まで加える必要は一体どこにあるかということを私どもは思うのですね。せん動というのはこれは古い解釈かもわかりませんが、大正七年の判例にあるように事実には即しないで判断で、つまり裁判官の判断せん動と言い得るのであるから、せん動の効果はなくても結果はなくても、せん動と言い得る、こう解釈しておる。今でも刑法学者は皆その解釈でおりますからこのくらい危い、おまけに広汎なものは僕はないと思うのです。実際の結果が現われないでもこれはせん動だというので罰し得るというのはこれは非常に乱暴な規定で、戦争中ならともかくとして今日本は平和国家であり、戦争はしていないのですから、そこまで一体やる必要がどこにあるか、こういうことを私は思うのですね。  それから一切がいわゆるこれはアメリカさんの主観で判断されるので無論せん動もそうですし、それから別表機密事項なんというものもすべていろいろな関係、若しくは主としてアメリカの軍の首脳者の、アメリカ軍隊の中心である者の考えによつてどうにでも解釈できるので、こういうような場合にせん動まで入れるということはこれは非常に乱暴なものだと思うのです。もつともアメリカの防諜法ではすべて入つておるのです。せん動まで入つておりますから、それをこれはそつくり持つて来てアメリカの仰せの通りこの法文を書いたんだと思う。これはいけない、日本は今平和国家であり戰争中じやないんだから、アメリカのような冷い戰争をやつておる最中の国とは違うのですから、どうしてもこのせん動という文字はこれはいけないと思います。どこにも見渡しましてさつきもお話がありましたが、違反者を捕えるということばかりを書いておつて、被告人になつた者の利益というものがちつとも書いてないのです。もつともこれは刑事訴訟法によつて運用されるんでしようが、何もその点においてこの法律にないということは非常に不完全だろうと思うのです。  それから大体昔の軍機保護法は、第一は機密事項又はその図書、物件たることを知つて、たることを知つて探知、收集すること、それから第二は許可を得ずして撮影、録取したものとか、第三には許可を得ずして立入つたもの、現場に入込んだものですね、許可を得ずということに非常に重点を置いているのであります。この法律だと許可を得るという一つの我々の保護規定たるものも何もない。何をしたら罰せられるのか、どうしたら捕まるのだか、ちつとも判断がつかないことになつている。これじや新聞人もむろん困るし、議員諸公だつて、労働運動をするものだつて一般国民だつて非常に困るのです。結局のところ古い言葉だけれども、さわらぬ神にたたりなしでもう何にも触れないのがいいという結果になると思うのです。そうなると、国民の間にアメリカ軍をいみきらうという観念が生じて来ると思います。これは決していい方法じやないと思うのです。何とかして見ることもできるし、何とかして言うこともできる、或いは書くこともできるというような、多少の途を開いておくという法律でないと、これは民主々義の立法とはいえないし、それから平和国家の法律とはいえないと思うのであります。ただ一切が今現に冷戦をやつているアメリカさんの法律そのままの法律であつて新聞アメリカの機関紙であるというように思われることになると思うのです。これは最もいけないです。何とかして、どこかに見ることのできる、書くことのできる、言うことのできるというような穴がなくちやいけないのです。これは法律の体をなしていないと思うのです。全然触れられないというようなやり方はよろしくないと思うのです。さつきもお話がありましたけれども、どこかに何ですね、聞合わせるような一つの途を作るとか、これはアメリカの防諜法にもあるのです、アメリカの防諜法には相当な重大なものだつて、司令官とか或いは停車場の指揮官とかというようなものの許可を得るというようなことがあるのです。許可の途も何もこれは書いてない。結局何か一つの連絡機関みたいなものを設ける以外に方法がないと思うのですが、それをやると今度は憲法のいわゆる検閲というもので違反になるし、民主主義とは反対の結果を生ずると思うのです。しかしせめての方法としては了解の下に一つの連絡機関でも地方へ一カ所設けてそこへ行つて聞けば、あれはいいとかこれはいけないとか言つてくれるようになると思うが、これは公然と大つぴらにやつてくるということになると非常に弊害が生じて来る。以前は軍機保護法の違反なんかが起りますと、甲の土地ではこれが無罪になり乙の所では有罪になる。甲の人間は罰せられ乙の人間はおかまいなしになつたというような例がよくあつて、非常にちぐはぐな不合理な結果を招来しておつたのです。  大体それだけ申上げておきますけれども、我々の希望としては日本全土にこの法律が適用されるような危險を何とかして除いてもらいたい、法文の上から。つまり日本は占領下じやないのですから、今は平和国家なんだからとんでもないばかな規定はやめてもらいたいと思うのです。  それから「せん動」という文字はこれは絶対にいけない、それから問題が起り事件が起る、その範囲をいわゆるアメリカ軍の進駐基地だけにするということにしてもらいたいのです。基地といつても無論軍艦の中も入りますけれども、その基地内若くはその基地の上空で起つたものに制限してもらいたいと思うのです。  それからさつきお話がありましたけれども、別表の文字というものは非常に広汎なあれだというと何をしていいのだか、一体ただ飛行機が飛んでも或いは戰車が通つてもこれを見ないに限るという結果になると思うのです。だから或る程度は見てもいい、それから又話してもいいというその穴がないのです、この法律には。穴なしの法律なんです。こういうばかげた子供の書いたような法律を一体今どき書いたやつの考えはどうもわからない。防諜法でもすでに皆さん御存じでしようけれども、あの第十五條を御覧になるとわかりますけれども、十三條には何ですね、証拠を出すとあるのです。ところが十五條になると出しても審理官はそれを調べなくてもいいということがあるのです。こんな矛盾した子供の書いたような法律を今の政府のやつは出しているので、この今度の法律、この刑事特別法にしてもよく御観察を願いまして、成るたけ日本は今戰争中じやない、平和国家であるという観点に基いて御審議されることをお願いする次第であります。さようなさわらぬ神に崇りなしじやいけないです。それは結局アメリカに対する国民の反感を負うことである、こういうばかげた法律はどうかと思うのです。だからアメリカの例を引いて政府は言われるかも知れないけれども、アメリカの防諜法なんかの例を引いてみても非常に広汎で複雑な、あんなまわりくどい法律は僕は見たことがない、その例にしてこれをやられてはいけないです、日本は今平和国家ですから。それだけ申上げておきます。
  8. 愛川重義

    参考人愛川重義君) ちよつと私申し忘れたことを一言附加えさせて頂きたいと思います。一、二分。この間これは実際にあつたことでありますが、青森の或る新聞社で突然警察から呼出を受けまして、占領目的違反か何かに該当するから今手続中だということで非常に怒られた。原因はまあ活字の組違いでミスプリントが原因だつたのです。それで先に占領軍のほうに謝りに行つたほうがいいだろうという注意もあつたのだけれども、そちらのほうに問合せたところが、いや来なくてもよろしいということで、向うがやつて来て新聞のミスプリントというものはありがちだからそんなことは心配しなくてもいい、自分たちの知らなかつたことを教えてくれて有難うと言つて、ジープで帰つてつたことがあるのであります。この法律が、東京の大きな新聞はそんなばかなことはありませんけれども、地方の新聞などはそういう事例がこの法律によつてつて来るのではないかということが心配されるわけです。私戰争中から考えておつたのですが、こういう防諜法というものは大体小者がちよつとしたつまらんことを口走つてやられる事件が多いので、ゾルゲ事件は特別でありますけれども、大変差出がましいことを申上げるようでありますが、一度一体過去の軍機保護法でどういう事例がやられておるかということをお調べ願つたらきつとおわかりになるのじやないかと思うのでありますが、これから軍需工場だとか或いは軍事基地とかいう関係で、我々もいろいろな記事の上にそういう問題が出て参りますのでは、一々たいして防諜上実害のないようなことが引つかかるという心配をしなければならんし、これが濫用される心配が一方にある。実際防諜の大きな目的を達するためにはたいして本当は役に立たないというような結果になるのじやないかという気がするわけであります。一つそういう点でもよくお調べを願いましておきめを願いたいと思うのであります。
  9. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 参考人の各位に対して委員から御質問申上げたいことがたくさんあると思いますが、ちよつとその前に御相談申上げたいことがありますので速記をとめて下さい。    〔速記中止〕
  10. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 速記を始めて下さい。それじや参考人の各位に対して御質問のあるかたはどうぞ。
  11. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 最初にここでちよつとお願しておきたいと思うのでありますが、愛川さんから御注意もあつたので誠に御尤もであると思いますので、過去の軍機保護法でどういう事件が問題になり、それがどういうふうな結末を告げたかという点について委員各位の御賛成を得て委員長のほうから政府に資料の要求をして頂きたいと思います。
  12. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 皆さん御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  13. 小野義夫

    委員長小野義夫君) それでは政府にお願いいたしますが、戰争中並びに占領下二つに分けて実際に軍機保護法に触れた実例、件数等の資料を御提出願いたいと思います。
  14. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 占領下では軍機保護法はないんでしよう。
  15. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 併し占領軍でやられたのはあるかも知れません。これはあるんですよ。
  16. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それはそういうふうに決定されたとそういうふうに了承いたしまして、次にその問題に引続いて参考人のかたがたにお願いをしておきたいのでありますが、只今のような戰争中の軍機保護法違反として取上げられたような問題、或いは占領期間中に軍機保護というような実質的にそういう問題に関係して取上げられた問題について政府側に資料を要求するつもりでおりますが、併しこれらの問題というものはやはり我々の想像するところでは政府側の報告というものではなかなかよく要点がわからない。或いは例えば先ほどお話があつたように、それが言論の抑圧において失うところが大であつて、実際の軍機保護において真実は殆んどないというような事件が、どうも政府の報告ですとその逆であつて言論の抑圧は少しも行なつていない、そして軍機保護において目的を達したというような報告があることを恐れますので、そこで各参考人から若しそういうことをお願いできればお願いしておきたいと思うので伺うのでありますが、戰争中それから占領期間中にいわゆる軍機保護に関して顯著な実例を挙げて、只今御三方御同趣旨でおつしやいましたように、こうした法律言論の抑圧に走るところが非常に大であつて、実際において軍機の保護に役に立つことは殆んどないというような、そういうことを我々をして直ちに明瞭に認識せしめるような事実を若し挙げて頂ければ大変有難いと思うでありますが、現在本日只今ここでお述べを頂けるでしようか。或いは後日、最近の機会にそういうような事実についての資料を頂戴することができましようか、如何でございましようか。
  17. 愛川重義

    参考人愛川重義君) 今具体的に事例を挙げて申上げる顕著なものを特に記憶いたしておりません。ただ先ほど山根さんからお話がありましたように、戰争はこれこれの事件は軍機保護法、並びにこれこれの事件は国防保安法などに勿論該当するから注意せよという文書が警視庁、司法省あたりから毎日たくさん参ります。それを一日に一回はデスクで我々が読みまして、それで中にはそれによつて自分たちの知らなかつたことを知らされる場合も相当あつたのでありますが、要するにそれを見ておかないと記事がうつかり書けないということで、社内でも一枚では勿論足りませんから謄写にいたしまして各部に配つてデスクにとじてあります。それを各部員が部長に毎日読めと言われてこれを毎日読んでおつたわけであります。従つて記事を書きます場合にはそれを一々詳細に覚えておるわけじやないから、あれに引つかかるかなというようなときにはとばしてしまうとか、そのことに触れると具体的にいい説明になるのだけれどもここで引つかかつちやいかんからというのでやめてしまうので、読者には非常に抽象的な判断に苦しむだろうというような表現を用いるというここになつて参るわけであります。従つて事実、真実の報道或いは評論というものは著しく阻害されるということになるだろうと思うのであります。ただ具体的にこれこれの例でこういうふうにということはあまりに数が多かつたものですから覚えておりません。いま過去の戰争中の実例を持つて来てお目にかけると一番いいのでありますが、当局から毎日たくさん来ました数千件に上るものが保存してありますかどうですか甚だ疑わしいと思うのであります。
  18. 池松文雄

    参考人池松文雄君) 私は戦争中内地にいなかつたものでございますから具体的には知りませんけれども、大きな問題で記憶に残つていることは、これは或いはちよつと違うかもわかりませんけれども竹槍事件というのがあつて、これは意見の相違ということになるかも知れませんが、私どもの記者が戦争の終末近い頃に竹槍では戦争を完遂することが不十分だというような記事を書いて東條に非常に叱られて強制徴兵かなんかされて台湾まで持つて行かれてひどく苦しめられたことがあるのでありますが、これから見まして軍の安全がどこにあるかということがわからないように思うのであります。この事件に関する記録はいろいろと出ていると思います。  それからもう一つ私の記憶に残つておる事件というと、何か戦争前でございますから十六年か十五年頃に総動員体制とか何とかいうのがあつて、それを私どもの記者が特ダネにしてそれがえらい問題になつたことがあつたのですが、それもたしか、よく記憶いたしませんが、軍機保護法に触れたのだつたかと、たしかこれは前科一犯とか何とかいうものをもらつた人が私の社の中に出て来たことがあります。それを見ると何でもない抽象的な、別表にありますようなことが経済問題だつたと思いますがあるのでありますが、それが機密漏洩ということに触れまして問題になつたことがあるのでありますが、具体的の問題をよく記憶いたしておりません。それから毎日々々いろいろな指令が来まして、それが各部に廻されてそれがこう積重ねられておつたということは、今愛川さんが言われたことは私たちのほうでもございまして、そのために特に検閲部とかいうようなものが社内にできましていろいろに引つかからない準備をするようなことがあつたわけであります。大体私の記憶しておるところではそういうところでございます。
  19. 山根眞治郎

    参考人山根眞治郎君) そうですね、大体今言われたようなものですけれども、私の記憶しておるものはもつとあるように思うのだが、ひかえを戦災で焼きましたからちよつとお話ができませんが、新聞社に行きますと注意というやつの綴込みがたいがいどこの社でもあるはずです。これがさつき申上げましたように昭和十二年、十三年頃、太平洋戦争の始まる前項に、一年に大体七千件ぐらいあつたと思うのであります。これは戦争中ですともつと一万件ぐらいあると思うのです。ちよつと何のことだかいろいろ今言われたように見当がつかないような状態だつたのです。ですからどこかの社に、毎日や朝日や読売はいろいろのなんで変つたからどうですかね、或いはあるかと思いますがね。あれを取寄せて御覧になると……、何しろ一年でこれくらいあるのですから、紙に刷つたやつが実に広汎なもので殆んど手がつけられないという状態だつたのです。こういう法律ができると必ずなんですね、警察は先ず自分の責任のがれみたいに、これはいけないぞ、あれはいけないぞ、これは御注意申上げるとかいつてそういうことを言つて来るのです。実は自分たちの成績を上げるためにやつておるのだし、それから注意ということもそうじやなくて禁令なんですから禁令と解釈していいばずなんです。うつかりやるとすぐやられるわけです。一つ二、三社に御照会願つて古い注意の綴込みを取寄せて御覧になると非常によくわかると思うのです。
  20. 愛川重義

    参考人愛川重義君) 私はもう一つ心配いたしますのは、先ほどもちよつと申上げましたけれども、政府が、或る新聞がどうも反戦的な言論をしきりにやつてしやくにさわつてしようがないからこれをやつつけようという場合に、この法律を探せば紙面の上から材料は出て来るのです。それでやつつけるという手段、武器に使われる危険が非常にある。これは破壊活動防止法も同様でありますけれども、この点を心配しているわけです。
  21. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そたで今山根さんからお話がありました戦争中警察から各新聞社に通達された注意事項に関する綴込みが若しありましたならば、取寄せて参考に見るようなことができるように。
  22. 小野義夫

    委員長小野義夫君) それでは事務当局法務のほうから新聞社と交渉いたしまして取寄せます。
  23. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それでは続けて二、三の点についてお三かたどなたからでもお答え願えればいいと思うのですけれども、一応第一の点についてはおのおの参考人のかたから御意見を伺えれば結構だと思うのでありますが、第一にはこういう法律が最小限度において必要だというお考えでありましようか、それともこういつた法律はなくても他の法律を以て賄うことができるというお考えでありましようか。その点について御意見を伺つておきたいと思います。
  24. 愛川重義

    参考人愛川重義君) 他の法律を以て賄えるかどうかということは技術的な点でちよつとわかりかねますが、全然不必要ではあるまいか。何らかこの種のものが必要であろうと思います。
  25. 山根眞治郎

    参考人山根眞治郎君) 私も同感です。今言いましたように、全然この法律はいらないと私は考えないのです。或る程度やはりこういうものが必要だろうと思うのです。併しいろいろな範囲とか何とかいうようなものが広すぎて、これは一つ新聞ばかりじやない、あなたがたも非常にお困りだろうと思うのです。範囲を限定してもらうことということが一番大事だろうと思います。
  26. 池松文雄

    参考人池松文雄君) 私は先ほど申上げましたのですが、何もこういう規定がないのでやみくもに向うから向うの法律か何かでやられたりするよりも、日本法律があつたほうが不安がないのではないかと思うのでありますが、尤も私は法律の全般に亘つてよく知りませんのでございますが、そういうことがなくても守れるという法律がありますならばそれでいいと思いますけれども、それがないならば向う様の勝手にやられるよりも日本の法制のほうがいいと思います。
  27. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 第二の点について伺つておきたいのは、今お話のように、仮にこういう法律が必要であるとするならばその法律言論、報道、思想、それら憲法に保障する自由を侵害することなく、そして又憲法に禁止する検閲というようなものがそこへ生じて来るという虞れがないために、必ず守るべき点、或いは現在この法律案において提案されております点で削るべき点は、この点はどうしてもこうなるべきだというような点として先ほどお述べ下すつたものの中で、私が伺つておりまして大体次の点ではないかと思うのでありますが、それらの点がそういうふうに処置されればよろしいというふうにお考えになりますか、どうですか。又それから以外に洩れている点がありますか如何ですか、その点を伺つておきたいと思うのであります。  第一にはこれは山根参考人の御意見でありましたが、第一條の二項は広汎に過ぎる、これはどうしても基地に限定せらるべきであるという御意見であつたように思います。それから従つて全般的にこの刑事特別法は基地乃至基地に直接関係する範囲内においてのみ限定せらるべきだと、それ以外に及ぶべでない、それ以外に及ぶと日本全国に及ぶ虞れがあり、占領下と何らの差異がない、或いは日本が戦時下に置かれているということになる、これが第一点だつたように思います。  それから第二点はこれはやはり山根参考人の御意見、それから他の池松参考人愛川参考人の御意見の中にも現われていたかと思うのでありますが、この戦時とそして平時との区別が全くこの法律にはなされていない。原則的には日本は現在平和状態にあるのであるが、この法律においては戦時の状態を前提として考えられている点が多々ある。でこれはできれば日本が平和の状態にあるのであるという点を明らかにして、日本が戦争状態にあるのではない、従つてそういう関係規定を削除すべきである。その関係して来ますのは恐らくは先ず第一には別表だろう、戦争状態に入つている場合にはこういうことも広汎に考えられるかも知れないが、平和の状態においてこの別表に現われているような一般的な方針、或いは計画、或いは状況、或いは位置、或いは行動、これらは平時においてきめたと考えられをことはできないという御意見であつたように思います。  それから第三章は……。
  28. 伊藤修

    ○伊藤修君 ちよつと羽仁さん、参考人のおつしやつたことは又繰返して御説明になることはちよつと煩わしいのですが、問題点だけ指摘して頂いたらどうです。我々も聞いてよく知つているのですから。
  29. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 第三にはこれはどなたかの御意見つたと思いますが、特にこの法律裁判権の問題に関係しておつしやつたと思うのであります。その前に第三は今の戦時平時の区別において、特に朝鮮事件等が解決しない間と、それから解決したのちとに非常な違いが生ずをことが十分考えられていないのじやないか。  第四には、特に裁判権に関係しては、これは最近の機会において改訂せられるということがここにおいて十分予想されていない。それから裁判権の関係ではいわゆる行政協定の第十七條の四項に述べられている「好意的考慮」というものが第三章の裁判権の関係で現われていない。  それから次の問題として第六條における「公になつていないもの」それから「合衆国軍隊の安全を害すべき用途」……
  30. 小野義夫

    委員長小野義夫君) ちよつと議事進行で申上げますが、重複に亘る問題はすでに速記録になつておりますから簡単に。今のあなたのようにたくさん並べると御答弁に非常にお困りになるかも知れませんから、人を御指摘になつて一つ一つお聞きになつて、重複しないで。
  31. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私の目的はさつき…。
  32. 小野義夫

    委員長小野義夫君) コンフアームにならないように……。
  33. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 コンフアームでなくて、私の目的は元ほどお述べになつた重要点を列挙しまして、伺い洩れがあるか。或いはそれ以外にお述べになる点があるか、その点だけなんです。
  34. 小野義夫

    委員長小野義夫君) それでは…。
  35. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それから第六條については第一には「公になつていないもの、」第二には「合衆国軍隊の安全を害する」、第三はこれに「不当な方法」、それから第六條の二項の他人に漏らすというところが広汎に過ぎる。第七條おける陰謀の概念が広過ぎる。殊に他人に漏らすということは陰謀だということは了解に苦しむ。第七條の二項の「せん動」ということは広過ぎる。大体以上のような御意見であつたように思うのであります。そうしてそれらの御意見の御趣旨は主として新聞取材活動を不当に制限する。それから又新聞関係者そのほか政治に関係する者、或いは労働組合に関係する者、その他の人々が正当に当然これらの知識を持つ、知る権利を持つている。それらが何ら現われていない。どの点までこれを知り得るのであるか、又できるだけこれらの問題について知り得る権利を持つているものであるが、これでは殆んどどの程度のものを知り得るのかその保障も全くないというような御意見であつたと思うのでありますが、大体以上のような点がこの法律案について主要な点だというふうにお考えになつておられるように伺いましたのですが、それらのほかにもまだ問題がごございますでしようか。その点伺つておきたいと思います。
  36. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 愛川さんどうですか。
  37. 愛川重義

    参考人愛川重義君) 申すと又繰返すことになりますが。
  38. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 重複はどうぞ……。
  39. 愛川重義

    参考人愛川重義君) 先ほど申上げたことで実はもう盡きるのでありますが、ただ今強いてお尋ねですから、戦時と平時ということのお尋ねがございましたけれども、これは私の感じでは、この法律駐留軍がおる間のものでございましよう。永久のものじやないのだから、戦時も平時もということは、余りそこまでは考えなくても、暫定的な法律であるのが建前じやないかと思うのでございますから。ただ條文のどういう点に対して非常なこういう條項は要らんのじやあるまいかという疑念を持つておるということは、先ほど申上げましたから繰返しません。
  40. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 池松さん、励仁君が質問されたその他に何かまだ漏れておる点はないかというお尋ねでございますが。
  41. 池松文雄

    参考人池松文雄君) 大体重要なことは今集約されたことで盡きると思います。
  42. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 山根さん如何ですか。
  43. 山根眞治郎

    参考人山根眞治郎君) ちよつと今お聞きするのをうつかりしましたが、とにかく何ですね、この法律は刑事法なんですから刑事訴訟法によつて措置されますが、その根本になる立法の考え方というものが、実にアメリカの占領下にあつたように米軍の考えは至上命令だ、憲法以上のものだというような考えがあつたのだが、それを受継いでいるかのように見えるところがちよちよいあるように思うのです。ですから検閲に類するようなことはしてはいけないし、それから言論の自由を極度に制限して、そうしてその処分の対象を広げるようなやり方は僕はいけないと思うのです。努めて制限すべきである。アメリカの防諜法のように細かくいろいろなものを、例えば青写真を作つてはいけないとかいろいろなことがありますけれども、そこまでは行かなくても無論いいがもう少し簡単にしてもらつて、そうして違反になるものの対象を少くしてもらうことが必要だと思います。どうも立法の考え方というものが、占領時代の考えをそのままにしてアメリカ軍の命令は至上命令だというような気持があるのじやないかと思うのです。ですからどこまでも日本は今平和国家だ、独立国家だという観念を貫いて頂きたいと思うのです。
  44. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 何かその他に御質問は。
  45. 伊藤修

    ○伊藤修君 私は質問ではないのですが資料を要求しておきます。大西洋條約と、それに伴うところの行政協定及びフィリピンの條約、それと伴うところの行政協定、或いはアメリカの防諜法、これを御提出願います。
  46. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 政府のほうで今伊藤君の言われた北大西洋條約に伴う行政協定、フィリピンの何に対する行政協定、それからアメリカの防諜法ですか、この三つを次の委員会までに、次というか成るべく至急に出して頂きたい。
  47. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 今伊藤委員のおつしやるのは、例えば北大西洋條約に対しては行政協定はまだできてないのですが。
  48. 伊藤修

    ○伊藤修君 できておりますけれども批准がなつてないのです。
  49. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それらも含めて、それらに基く刑事特別法、つまりこの法律と類似したような法律があるならばそれらも御要求になつているわけですか。
  50. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 相手国が大分多いのですが、代表的な相手国皆作つているというと……、あれですか、そのうちでイギリスとか、何とか言うのがあれば……。
  51. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 イギリス、フランス、フィリピンくらいですね。
  52. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 主要国署すね。
  53. 伊藤修

    ○伊藤修君 国際連合に要求してもらつて……。(笑声)
  54. 小野義夫

    委員長小野義夫君) それではこれで本日は散会いたします。    午後零時十七分散会