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参考人(
山根眞治郎君) 今大体御両君から
お話がありましたから、なるたけそれにダブらないようなところだけを私も
意見として申上げたいと思います。
どうもこの
法律を見ますと
ちよつと若干の疑問があると思う。第
一條の二項に
適用地域のことがありますが、これによりますと「
日本国内及びその附近に配備された
アメリカ合衆国の
陸軍、空軍及び
海軍であ
つて、
日本国内にある間におけるものをいう。」とその
一つの
範囲を書いてありますけれども、この
條文通りにこれを解釈しますとこれは非常に広い
範囲になる。ですから、例えば変
つた飛行機が飛んだ、こういう恰好のものが飛んだとい
つて、
記事以外で以てそれを話しても、これは触れることになると思う、違反になると思う。こういうように法の解釈が非常に広い解釈にな
つて、
日本国内にある間は一切が違反の対象になる、こういうのでは結局これを運用して行く上においては発表主義で行くより他に道がないと思う。つまり今までの占領下と同じことになるというような疑いがあると思う。
それから
別表が非常に広範だということは十分今までお二人から
お話がありましたが、こんな広範な適用というものは、結局憲法で禁ぜられた検閲に逆戻りするようなことになると思う。殊に今までありました
軍機保護法時代にあ
つたような一切の
言論を封ずる
方法として、これこれのものを書くと罰せられるから御注意するというあの注意警告をよく警察が出してお
つた、ひどい年は一年に七千件あ
つたことがありますが、これは何もかもいけないという
気持を国民に與える、
言論人に與えるようにな
つて、これは容易ならんごとでないかと思う。
それから
機密の点ですが、犯罪の成立の大体要件は、「
軍隊の安全を害すべき
用途に供する
目的」、その次には、「又は不当な
方法」それからその次は、「公にな
つていないもの」というような要件があるのですが、これは
アメリカの防諜法をそつくり受継いだ立法だと思う。
アメリカの防諜法は非常に細かく書いて非常に広範なものにな
つておるのです。そういうものをそつくり持
つて来たものだと思う。結局それでは正当の
方法というものは一体どういうものかということになるのです。さつきから
お話にありましたけれども、何が一体正当だかちつともわからない。結局すべてのものがこれは危いという疑いを持たせるようになると思う。それから
機密について
探知、收集ということがありますが、これは
新聞の場合書かないでも、又議員諸君或いは組合の者でも
一般人でも、しやべらないでもこれは罰せられる。この
條文通りに行きますと、
探知、収集というのだから、しやべらないでも書かないでも罰せられるということになる。ですから第
一條の精神からいいまして、
アメリカの変
つた飛行機が飛んだ、あれはこういうようなかつこうのものだとか何とかいうようなことを子供がしやべ
つてもこれは触れるというような疑いがある。
従つてその
新聞の場合は
新聞社の
社会部長とか、或いは写真部長というようなものとか政治家、労働組合というようなものが一体どうしてお
つたらいいか、何したらいいかという問題について方向がちつともわからないことになるのです。いわんや「
陰謀」とか、それから「
教唆」とか、「
せん動」とかいうものがあ
つて始終これに引かかる虞れがあり得る。これは全然
アメリカの防諜法をそつくり持
つて来たので、一体
せん動なんという文字を使
つたのがこつけい千万だと思うのです。防諜法の場合だと非常に又違うので、刑事
裁判であるから
せん動は無論刑法で罰せられるのですから、
教唆は罰せられるのですから、それを
通り越して
せん動まで加える必要は一体どこにあるかということを私どもは思うのですね。
せん動というのはこれは古い解釈かもわかりませんが、大正七年の判例にあるように事実には即しないで
判断で、つまり
裁判官の
判断で
せん動と言い得るのであるから、
せん動の効果はなくても結果はなくても、
せん動と言い得る、こう解釈しておる。今でも刑法学者は皆その解釈でおりますからこのくらい危い、おまけに広汎なものは僕はないと思うのです。実際の結果が現われないでもこれは
せん動だというので罰し得るというのはこれは非常に乱暴な
規定で、戦争中ならともかくとして今
日本は平和国家であり、戦争はしていないのですから、そこまで一体やる必要がどこにあるか、こういうことを私は思うのですね。
それから一切がいわゆるこれは
アメリカさんの主観で
判断されるので無論
せん動もそうですし、それから
別表の
機密事項なんというものもすべていろいろな
関係、若しくは主として
アメリカの軍の首脳者の、
アメリカ軍隊の中心である者の考えによ
つてどうにでも解釈できるので、こういうような場合に
せん動まで入れるということはこれは非常に乱暴なものだと思うのです。もつとも
アメリカの防諜法ではすべて入
つておるのです。
せん動まで入
つておりますから、それをこれはそつくり持
つて来て
アメリカの仰せの
通りこの
法文を書いたんだと思う。これはいけない、
日本は今平和国家であり戰争中じやないんだから、
アメリカのような冷い戰争をや
つておる最中の国とは違うのですから、どうしてもこの
せん動という文字はこれはいけないと思います。どこにも見渡しましてさつきも
お話がありましたが、違反者を捕えるということばかりを書いてお
つて、被告人に
なつた者の利益というものがちつとも書いてないのです。もつともこれは刑事訴訟法によ
つて運用されるんでしようが、何もその点においてこの
法律にないということは非常に不完全だろうと思うのです。
それから大体昔の
軍機保護法は、第一は
機密事項又はその図書、
物件たることを知
つて、たることを知
つて探知、收集すること、それから第二は許可を得ずして撮影、録取したものとか、第三には許可を得ずして立入
つたもの、現場に入込んだものですね、許可を得ずということに非常に重点を置いているのであります。この
法律だと許可を得るという
一つの我々の保護
規定たるものも何もない。何をしたら罰せられるのか、どうしたら捕まるのだか、ちつとも
判断がつかないことにな
つている。これじや
新聞人もむろん困るし、議員諸公だ
つて、労働運動をするものだ
つて、
一般国民だ
つて非常に困るのです。結局のところ古い
言葉だけれども、さわらぬ神にたたりなしでもう何にも触れないのがいいという結果になると思うのです。そうなると、国民の間に
アメリカ軍をいみきらうという観念が生じて来ると思います。これは決していい
方法じやないと思うのです。何とかして見ることもできるし、何とかして言うこともできる、或いは書くこともできるというような、多少の途を開いておくという
法律でないと、これは民主々義の立法とはいえないし、それから平和国家の
法律とはいえないと思うのであります。ただ一切が今現に冷戦をや
つている
アメリカさんの
法律そのままの
法律であ
つて、
新聞が
アメリカの機関紙であるというように思われることになると思うのです。これは最もいけないです。何とかして、どこかに見ることのできる、書くことのできる、言うことのできるというような穴がなくちやいけないのです。これは
法律の体をなしていないと思うのです。全然触れられないというようなやり方はよろしくないと思うのです。さつきも
お話がありましたけれども、どこかに何ですね、聞合わせるような
一つの途を作るとか、これは
アメリカの防諜法にもあるのです、
アメリカの防諜法には相当な重大なものだ
つて、司令官とか或いは停車場の指揮官とかというようなものの許可を得るというようなことがあるのです。許可の途も何もこれは書いてない。結局何か
一つの連絡機関みたいなものを設ける以外に
方法がないと思うのですが、それをやると今度は憲法のいわゆる検閲というもので違反になるし、民主主義とは反対の結果を生ずると思うのです。しかしせめての
方法としては了解の下に
一つの連絡機関でも地方へ一カ所設けてそこへ行
つて聞けば、あれはいいとかこれはいけないとか
言つてくれるようになると思うが、これは公然と大つぴらにや
つてくるということになると非常に弊害が生じて来る。以前は
軍機保護法の違反なんかが起りますと、甲の土地ではこれが無罪になり乙の所では有罪になる。甲の人間は罰せられ乙の人間はおかまいなしに
なつたというような例がよくあ
つて、非常にちぐはぐな不合理な結果を招来してお
つたのです。
大体それだけ申上げておきますけれども、我々の希望としては
日本全土にこの
法律が適用されるような危險を何とかして除いてもらいたい、
法文の上から。つまり
日本は占領下じやないのですから、今は平和国家なんだからとんでもないばかな
規定はやめてもらいたいと思うのです。
それから「
せん動」という文字はこれは絶対にいけない、それから問題が起り事件が起る、その
範囲をいわゆる
アメリカ軍の進駐基地だけにするということにしてもらいたいのです。基地とい
つても無論軍艦の中も入りますけれども、その基地内若くはその基地の上空で起
つたものに制限してもらいたいと思うのです。
それからさつき
お話がありましたけれども、
別表の文字というものは非常に広汎なあれだというと何をしていいのだか、一体ただ
飛行機が飛んでも或いは戰車が通
つてもこれを見ないに限るという結果になると思うのです。だから或る
程度は見てもいい、それから又話してもいいというその穴がないのです、この
法律には。穴なしの
法律なんです。こういうばかげた子供の書いたような
法律を一体今どき書いたやつの考えはどうもわからない。防諜法でもすでに皆さん御存じでしようけれども、あの第十五條を御覧になるとわかりますけれども、十三條には何ですね、証拠を出すとあるのです。ところが十五條になると出しても審理官はそれを調べなくてもいいということがあるのです。こんな矛盾した子供の書いたような
法律を今の
政府のやつは出しているので、この今度の
法律、この刑事特別法にしてもよく御観察を願いまして、成るたけ
日本は今戰争中じやない、平和国家であるという観点に基いて御審議されることをお願いする次第であります。さようなさわらぬ神に崇りなしじやいけないです。それは結局
アメリカに対する国民の反感を負うことである、こういうばかげた
法律はどうかと思うのです。だから
アメリカの例を引いて
政府は言われるかも知れないけれども、
アメリカの防諜法なんかの例を引いてみても非常に広汎で複雑な、あんなまわりくどい
法律は僕は見たことがない、その例にしてこれをやられてはいけないです、
日本は今平和国家ですから。それだけ申上げておきます。