○
羽仁五郎君 この
住民登録法施行法案については、この元に
なつた
住民登録法案が本
委員会で審議されましたときに、私としては幾つかの論拠を挙げて、こういう
住民登録というようなことが行われる場合に、
政府として或いはその
立法者として重大な関心を払わなければならない点を列挙しておいたことは、今
議題にな
つております新らしい
法案の
提出者におかれても十分御
記憶のことであろうと思うのであります。
従つてそれらの点について今繰返すことを避けますが、私はその当時のこの
速記録を調べても恐らくあると思うのでありますが、
住民登録法の
法案の
提出者である
かたがたが、即ち共通しておるこの
立法に当られる
かたがたは、この
住民登録法について私が述べたような点は重大な意義を持
つておるということは御承認にな
つて、そうしてそれらは
施行法において必ず十分にこれを尊重するということを述べておられたのであります。で、これは
速記によ
つて証明するまでもなく当然のことでありまして、その整わざわざ
施行法という、
法案というものを以て、単に
施行細則というふうな法令的な
手続をやらないで、
法律を以てこの
施行に関する
規定をなされるということに私はな
つているだろうと思うのです。ところが、この提案された
施行法案のほうを拝見いたしますと、それらの点に関する
考慮が一つもないのです。それで、これは先ずその点を、伺
つておきたいと思うのでありますが、
住民登録法それ自体がすでにそういう問題を含んでいるのでありますけれども、併し当時としてはいろいろな事情があ
つて、そうして
最小限度の
修正で以て私どもは満足をせざるを得なか
つた、満足したわけではないのですけれども、実際上において
最小限度の
修正しか行われなか
つた。併しその際私は決してこの
住民登録法について、結果において現われた
修正を以て満足しているものではないということは当時も申上げたのであります。で、それらの点は必ずこの
施行法において、
施行法案において現わされるというふうに期待していたのです。で何故にそういう点の
考慮を全く忘却されたような形で、この
施行法案をお出しにな
つているのか。即ち
前回に申上げましたような
趣旨が全く御了解がないのでしようかどうか。で甚だ恐縮ですが、
前回にこの
住民登録法の際に申上げた
要点だけを今繰返さざるを得ないのです。あらゆる
法律がそうでありますけれども、併し特にこの
住民の
登録、つまり国民の一
人々々の或いは
人権、或いはその
個人の
秘密というものに
関係をする
立法をなす場合に、厳格に守らなければならないことは、いわゆる
行政上の
便宜というものに便乗して、そうして個への
人権、或いは
個人の
秘密というものに立ち入
つてはならない。これはもうすでに数千年来の
歴史の証明するところであ
つて、その
最初のものとしては有名な
旧約聖書に述べられておるように、ダヴイデがイスライルの民の数を数えようとした。ところがパレスチナに激動が起
つたということは
旧約聖書に書いてある。これはもう古くからある問題で、民の数を数えるということは決して軽々しくやることはできない。ダヴィデのような賢明なる王が全く
行政上の
便宜ということからなされる場合であ
つても、それが当時は言論の自由も何にもないかも知れないが、疫病というものにな
つて現われるというくらい恐るべき問題がそこにあるのであります。それから第二の例として
住民登録のときに申上げたのは、イギリスがいわゆる
国勢調査というものをや
つておる場合にも必ず大体その
要点として第一に、そこの
国勢調査によ
つて調査するところのものは、
統計以外の
目的に用いることを許さない。若しこれを
統計以外の
目的に
政府、
公務員なりが用いた場合には、それに対して厳重な
刑罰、二年以下の懲役、或いは何ポンドの罰金とかいう
刑罰を以てそれを
規定してある。そうして且つその
国勢調査をなす場合にその
調査表を作る人はその家の
戸主であり、決して
公務員がそれを作らない。
従つてその
戸主の判断において守るべき
秘密だと思えるものはこれを守るという建前をと
つておる。これも前に申上げた
通りであります。こういうふうなふうに長い
歴史の上で守られて来ておるもの、そうしてその
個人の
秘密を守るということは
如何に保障せらるべきかということの最も与えやすい例としてこの前の場合に
癩療養所に入
つておられる
かたがたの例を引いたのであります。
個人の
秘密と言いますと、とかくいわゆる
官僚主義的な
人々は民衆の
秘密というものをあばいてもかまわない、或いはむしろそれを立ち入ることを興味を感じておるのではないかと思われるくらいの疑わざるを得ない理由がある。併しながら、
如何なる
官僚主義者といえども
癩療養所に入所しておる
人々の
秘密を侵せ
げ癩療養所に収容するという
目的は果せなくな
つてしまう。それで民間に自益の家で治療をしている患者が殖えてそれで癩の蔓延を防ぐことができない。こういうように癩に罹
つておられる
かたがたのその
秘密というものが現わしておるような問題は、決してこれは癩ばかりの問題ではないのです。
人間に
個人の
秘密がなくな
つてしまうということは、同時に
個人の
秘密が侵されてしまうということは、
人間に深い
生活がなくな
つてしまうということなんです。何でも人にわか
つてしまうような簡単な
生活しかできない。それでは到底
社会の進歩或いは将来の発展ということを期するということはできない。且つ又、その
個人の
秘密を侵す
官僚主義が許される場合には、これはやがては
基本的人権が侵害されるという
警察国家にも優る恐るべき危険がそこに包蔵されて行く。故にこの
住民登録法案が
立法されるときに、これらの点を十分お考えにな
つておるはずだというふうに思
つて質問したのでありますが、当時の
速記録を見れば明らかにそれがわかるように、
住民登録法の
立案者におかれてはこれらの重大な点について慎重な
考慮を欠いておられたのではないかというように恐れざるを得ないような印象を私は受けたのであります。併し当時として若しそうであ
つたとするならば、今度それを
施行する上に特に
法律を以て
規定する
住民登録法施行法におきましてはこれらの
趣旨が明らかに掲げらるべきであ
つたというように私は了解してお
つたのであります。
従つてこの
目的、或いはこの前文というものにおいてこの
住民登録ということは
行政上の
便宜からこれをなすべきものであるけれども、併しながら
行政の
便宜ということによ
つて基本的人権、或いは
個人の
秘密というようなそういう
近代社会の
原則というものを侵すものではない。又これを侵した場合には、それを侵した
公務員はその責任を問われなければならない。それからこの
登録法を
施行する場合に、その
施行……それらの
基本的人権や
個人の
秘密に亘るものまで守られるような
措置がとられているということを明らかにする必要が私は絶対にあると思うのであります。どうしてそういうような
規定をお作りにならなか
つたのでしようか。この前の
住民登録法のときの
質疑応答或いは
討論というものに、参議院の本
委員会における
質疑応答並びに
討論というものの
趣旨を全然無視されるという立場をとられたのでありましようか。その点を先ず伺
つておきたい。