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1952-02-21 第13回国会 参議院 法務委員会 第6号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年二月二十一日(木曜日)    午前十時四十七分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     小野 義夫君    理事            宮城タマヨ君            伊藤  修君    委員            左藤 義詮君            長谷山行毅君            岡部  常君            一松 定吉君            羽仁 五郎君   國務大臣    法 務 総 裁 木村篤太郎君   政府委員    法制意見長官  佐藤 達夫君    刑 政 長 官 草鹿淺之介君    法務矯正保護    局長      古橋浦四郎君    中央更生保護委    員会事務局長  齋藤 三郎君   事務局側    常任委員会専門    員       長谷川 宏君    常任委員会専門    員       西村 高兄君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○検察及び裁判の運営等に関する調査  の件  (憲法改正等に関する件)   —————————————
  2. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 只今より委員会開きます。  本日は法務総裁が出席されておりますので、この際総裁に対して御質問を願います。
  3. 伊藤修

    伊藤修君 先ず第一にお伺いいたしたいのは、法務総裁就任第一声として新聞記者会見において語られたところによりますと、いわゆる独立後におけるところ日本あり方として現行憲法の再検討を要するということを述べられております。そのうちにおいていわゆる再軍備の問題、知事公選の問題、並びに参議院制度あり方についての問題等を例示せられておりますが、法務総裁は現在においてもなお且つこの信念を持つていられるのかどうか。若し持つていられるとするならば如何なる内容を持らているのか、どういう点を改正するのか、この際明らかにして頂きたいと思います。
  4. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 只今伊藤委員から私が就任第一声として憲法改正の問題を取上げたようにおつやいましたが、これは全然誤報であります。多数の新聞記者が私に会見を申込みまして会つている事実があります。その際に一新聞記者から憲法改正云々の話が出たのであります。そのときにそういう問題がたまたまどうであるかというようなことであつた。それは将来相当考えなくちやならんじやないかというような話でありまして、私が憲法改正する意思を持ち、又はこの点についてどう改正すべきであるというようなことは毛頭も申した事実はないのであります。列席新聞記者もそのことは明言しておる次第であります。全く誤まり伝えられたものと御了承を願いたい。
  5. 伊藤修

    伊藤修君 そういたしますと、例えば一月十日の読売に書かれておる「憲法を全面再検討木村総裁談戰争放棄とは別に」と、こういうことは全然虚報を掲げておると、こうおつしやるのですか。
  6. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 全くその通りであります。
  7. 伊藤修

    伊藤修君 然らばまあ新聞掲載虚報であるといたしまして、今日の時勢に鑑みまして、又過日来本会議におけるところ法務総裁その他の御答弁を拝聴しまして、現在の憲法改正する意思ありや、又改正するとするならば、どの点とどの点が再検討を要するとお考えになるか。その点をお伺いしましよう。
  8. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 今の段階においては憲法改正するの必要はないと思つておるのであります。
  9. 伊藤修

    伊藤修君 過日来私は、巷間よく知事公選論について、現政府知事公選を変えるがごとき言葉を述べられておるということを聞いております。又、参議院制度についても再検討をしようということをよく聞くのですが、これは法務総裁としては全然そういうお考えをお持ちにならないのですか、それとも又そういうような御意図を幾分なりともお持ちになるのですか。
  10. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) お答えいたします。私は十分に再検討する必要ありという考え個人として持つております。併しどの程度改正をすべきであるかということを申上げることは憚ります。併し政府といたしましては、今の段階において参議院制度或いは知事公選制度について改正しなきやならんというまとまつた意見は何も持つておりません。
  11. 伊藤修

    伊藤修君 では法務総裁個人としての御意見一つお伺いいたしましよう。どういうようなお考えの干にいわゆる新憲法を再検討しようというお考えであるか。これは我々といたしまして十分お聞きしておく必要があると思うのです。
  12. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 私は、この委員会において個人意見を申上げることは差控えたいと思います。
  13. 伊藤修

    伊藤修君 我々は、法務総裁が抱かれるところ思想傾向、或いはお立場、感覚というものをやはり知る必要があると思います。でありますから、その一端をお伺いする意味においても、殊に重要な、かような問題につきまして個人の御見解をお持ちになるといたしますれば、その片鱗でも我々にお聞かせ願うことは、以て今後におけるところの我々の国政審議の上において重大な指針を與えるものであると思うのです。この点重ねてお願いいたしたいと思うのです。
  14. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 私は、この委員会において個人考えといえども申上げることは憚りたいと思います。又伊藤委員と膝を交えて我々の個人としての意見をお互いに開陳する機会を作れば誠に仕合せであると、こう考えております。
  15. 伊藤修

    伊藤修君 然らばその問題はまあその程度にしておきまして、では私はこの際お伺いしておきたいことは、最近の本会議を通じまして政府各位の御答弁を伺つておりまして痛切に感ずることでありますが、殊に一国の法務総裁としての御答弁を拜聴いたしまして非常に淋しい感じを持つたのであります。法務総裁在野法曹としては錚々たるおかたである。我々といたしましても多年在野法曹として今日まで健闘して参つたつもりであります。我々が公務に携わる場合におきまして、又法廷生活をする場合におきまましては、常に申すことはいわゆる法の尊厳を維持するということにあるではないかと思います。これはつとに強調して参つた次第であります。我々の行動は、必ずこれを中心にして常に行動をなされておるものと考えるのです。してみますれば、我々は法律存在というものに対しまして、これを飽くまで尊重しなくちやならんと思うのです。いやしくも法律解釈をする場合におきましては、牽強附会解釈を加えたり、或いは常識に反するがごとき解釈を加えるというようなあり方は排せなくてはならんと思うのです。例えば法廷におきまして判事にも、或いは列席各位にも失笑を買うがごとき法律解釈を以て弁護するとするならば、これは国民の信頼を失うことになり、延いて以てその弁護人の人格をも疑われるのであります。よく言う三百代言的な言辞であると言つて一笑に付せられ、劣等視せられることは……。かように厳格に今日においては世間の批評というものは、法律生活をなす者に対しまして非常な尊敬の地位に立たしむべく努力をし、我々みずからも努力をしておると思うのであります。にもかかわらず法務総裁は、一朝、朝に立つた場合におきまして、その御答弁を拝聴いたしますと、私は如何にも歎かわしいと思うのであります。というのは、憲法第九條におけるところの「陸海空軍その他の戦力」という解釈に対しまして法務総裁の御答弁は誠に奇異に感ずる。少くとも法律生活をする者に対しましては納得の行かざるところ解釈であります。殊に一般国民に対しますところ影響というものは重大なものがあろうと思うのです。私はこの際「その他の戦力」という文字に対するところ法務総裁一つ見解を、この際はつきりお伺いいたしたいと思います。
  16. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 法律家としてのあり方伊藤委員からお述べになりました。私も弁護士生活約四十年、法の前においては極めて厳粛に、又極めて公正にこの事務を取扱つておりますことを断言して憚らないのであります。私が法務総裁なつたからといつて、法を曲げて解釈するというような気持は断じてないということをここに率直に申上げます。只今憲法第九條の「戦力」という解釈についての御質問でありますが、私は、この「戦力」とは申すまでもなく憲法、いわゆる平和憲法におきまして、再び太平洋戦争のような愚をなさしめないという根本精神から発足したということは疑いもないところであります。そこで問題の憲法第九條第二項の「戦力」というのは、この意味において、再び太平洋戦争のような愚をなさしめないという、そのところ根本精神が置かれたものと解釈いたしております。そこで第九條には「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」と掲げておることは明瞭です。つまり「陸海空軍その他の戦力」いわゆる近代戦において戦争を遂行し得る有効適切能力、こう私はこれを解するのであります。従つてこの能力問題は恐らく時代によつてつて来るでありましよう。併し現段階におきましては、これは今警察予備隊の問題は出ておりませんが、少くとも戦争を遂行し得るような能力を持つ編成装備を備えたものでなければならん、私はこう解釈いたします。
  17. 伊藤修

    伊藤修君 どうも只今の御答弁では、本会議における御答弁と何ら変るところがない。私のお伺いいたしますことは、いわゆる陸海空軍は例示的のものであつて、これはもう明らかであります。その他の戦力という文字の中には、いわゆるこれを限局して考える必要は毫末も認められない。あなたの仰せのように、近代戦に適応するがごとき戦力を指すものである、而もそれは時代の進展によつて解釈すべきものである。こういうお考え納得できません。この表現から申しましても、いわゆる「その他の戦力」と言つて、何らの制限、制約も設けていない、いわゆる天然資源であろうが、人的資源であろうが、或いは機械設備であろうが、戦争遂行に必要なあらゆる力はすべてこれに包含せられると解釈することが正しい解釈であることは、これは一般憲法学者においても是認するところではないでしようが。殊に立法当時の情勢から考え合せましあも、占領軍日本国民が持つところのあらゆる武器を剥奪している、あらゆるその生産工場を破壊している、いやしくも軍事力を助成するがごとき設備、物、すべてこれを破壊し去つたのではないでしようか。いわゆる「その他の戦力」というものをことごとく日本国土から拂拭したのが当時の情勢である、これから考え合せましても、この「その他の戦力」というものはそういう広汎なる戦争遂行に必要なところの力となるべきものは、すべてこれに包容するものであると考えられたのではありませんか。殊に今日の世界軍備を通覧いたしましても、例えばスイスのごとき、いわゆる一朝動員すれば五十万と称せらるるこのスイス軍備が、近代戦に適応しないという意味において、軍備でないと否定し去ることが果してできるでしようか。勿論スイス永世中立を標榜しているが故に攻撃力というものは持たない、防備力のみに重点を置いて装備されている。今日の日本予備隊のごとき装備である、或いは政府が今日考えている予備隊装備以下のものであると言つてもあえて過言ではないと思います。かような装備を持つスイス軍隊もなお且つ軍備として国際法上認められることは当然の帰結ではないでしようか。又南朝鮮におけるところの無装備極まるところのあの脆弱な軍隊も又、軍隊としてこれは国際法上認められるところでなくてはならんと思うのです。およそ「その他の戦力」のうちに、こうしたものはすべて包含せられる。例えば或る一定の規律の下に訓練を施し、これに統率者を頂く場合におきまして、これが一朝戦時の場合において切替え得るところの集団的なものであるをらば、これ又「その他の戦力」として包含せらるることは当然の解釈と言わなくちやならんのです。かように考えて参りますれば、この憲法制定当時におけるところ立法精神というものは、「その他の戦力」としてあらゆるものをここに包含せしむる趣旨であつたことは当然な解釈と言わなくてはならんと思うのです。これを今日突如として、法務総裁が、いわゆる近代戦に適応するがごとき戦力を言うのだという一つ制約をつけるということは、私は法の解釈として余りに独善的であり、独断的であると思うのであります。解釈飛躍と言わなくてはならんと思うのです。さような飛躍的解釈というものは、よく国民納得の行くものではないと思うのです。法は人類の生活の下に存在するのであつて、法の下に我々が生活を営む場合におきまして、その生活と法との一致ということは考えなくちやならん。奇想天外な解釈というものは、それ自体、法の解釈ということは言えないのであります。あなたに申上げることは或いは釈迦に説法かも存じませんが、如何に法務総裁が現政府の下に椅子を占められるといえども、我々は法律家としていま少し正しい解釈の下に国民指導をなさなくてはならんと思うのです。常に法の下に生活する、殊に責任のある者といたしましては、政党政派を超越して毅然として私は法の解釈を曲げることなく推進することが望ましいと思うのです。法務総裁地位あり方といたしましては、設置法にある通り内閣におけるところの法の最高顧問としての存在地位を保たれておる以上は、この点について、私はこの際、法務総裁の反省を促したいと思うのです。この点に対するところの御解釈一つお伺いいたします。
  18. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) いろいろ御意見を伺いましたが、スイス軍隊のことも出たのでありまするが、私の知る範囲においてはスイス軍隊はこれは空軍を持ち、戦車隊も持ち、一個の十分なる編成の下に装備された軍隊と了承しておるのであります。日本予備隊のごときものとは全然その性格なり内容なりを異にしておるということを承知しております。で、問題は、現在のいわゆる警察予備隊憲法第九條の戦力に相当するや否やと、これが核心であろうと考えております。そこで、この日本警察予備隊なるものは予備隊令にも掲げられてありまするように、日本の内地の治安のために設けられたものでありまして、その内容装備、ことごとく治安目的にのみ利用されることと考えております。決して戦いを遂行するの能力もなければ、その目的をも有していない、従つて私は、憲法第九條の戦力にあらずということを断定しておるのであります。
  19. 伊藤修

    伊藤修君 私は、別に警察予備隊についてまだ御質問していないのです。原則論を先ずあなたと一つ研究いたしたいと申上げておるのです。現在の警察予備隊は、果して憲法九條のいわゆる戦力に相当するかどうかということはまだ問題にしていないのです。先ず原則論を私はお伺いしておるのです。警察予備隊云々だから憲法九條に違反しないと、こういう御答弁では、私の質問に対しての御答弁とは伺われない、私は原則論言つている。或いはスイス装備がそういうような精彩を持つということも私も見て参りました。併しそれは日本におけるところの今後のあり方といたしまして、法務総裁曽つて答弁をお伺いしますれば、或いは飛行機を持つ、戦車を持つ、大砲を持つ、それでもいわゆる戦力ではないのだと、軍隊ではないのだというような御答弁があつたようにも拝聴いたしますが、それは又あとの問題でありまして、私の今お伺いすることは原則論をお伺いしておるのです。
  20. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 只今国会で問題になつており、又世間でいろいろ批評されておるのは、警察予備隊の問題であります。かるが故に私は警察予備隊の問題を核心として申上げたのであります。憲法解釈につきましては、これは恐らく最高裁判所において最後の解決は下されるものと考えております。私の意見といたしましては、今申上げますように、憲法第九條二項の戦力とは、戦争を遂行し得る有効適切内容を有した編成装備を持つたものであると、こう考えております。
  21. 伊藤修

    伊藤修君 有効適切装備を持つたというものは「その他の戦力」と、こういう御解釈に出るその原因、理由をお伺いいたしましよう。
  22. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) それは私の解釈ではありません。理由というのはこう解釈すべきであるということであります。それは意見であります。
  23. 伊藤修

    伊藤修君 あなたは法律家に似合わしからぬ御答弁だと思います。それじや御答弁にならん。自分はこう解釈するということは、こういう理由がある、こういう理由があると、文字解釈から言つてもこうだ。又立法解釈から言つてもこうだ、いわゆる理論から言つてもこうだと、あらゆる論拠を示してこう解釈するのだというのでなければ納得できません。
  24. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 私は初めから言つております。いわゆる憲法第九條は戦争放棄するんだから、戦争遂行をするのを放棄した。その根本精神から出ておることである。従つて戦力とは、戦争有効適切に遂行し得る内容能力を持たなければこれには入らない。そこに私の論拠がある、憲法精神から来ておるのです。
  25. 伊藤修

    伊藤修君 今のあなたのその御説明から申上げますれば、いわゆる戦争遂行を阻止するためのあらゆるあれだと言うならば、なお更当然「その他の戦力」として解釈に入るものと考えなければならん。あらゆるものが入ることになるんじやないか。あなたの戦争遂行ということは、いわゆる原子爆弾を想像した戦争のみを考えておられる。この戦争というものは私がここで繰返して申上げるまでもなく、いわゆる今日の近代戦から考えますれば、上は原子爆弾による近代戦争がありましよう。下は拳銃によるところ小競り合い戦争から始まることもありましよう。一発のピストルを撃つことによつて宣戦が布告されることは今日の歴史が証明して余りあるところであります。あえて、最初から原子爆弾を投下しなかつたら戦争と言い得ないと、然らば法務総裁の御見解のごとくするならば、原子爆弾を投下したときに初めて戦争が開始されたのだ、それまでは戦争でないのだ、小競り合いだと、それは事変だと、曾つての近衞内閣のごとく、いわゆる戦争を現に遂行しつつあるのを、それは事変だと言つて牽強附会の議論をして、今日台湾におけるところの講和問題においてそれが重点になつておるような結果を招来しておる。さような理窟がどこにありましよう。曾つて日露戦争ですか、日清戦争ですか、仁川において砲声一発したときに、宣戦布告の前か後かによつて仁川砲撃の時が戦争開始か、宣戦布告の時が戦争開始かという問題を国際法上残しておることもあるでしよう。或いはセルビアにおいてピストルを撃つたときに、そのときに欧洲大戦が始まつたのか、或いはドイツがベルギーあたりに侵入したときに戦争が始まつたのか、そういうような問題を生ずるのではないでしようか。だからいやしくも戦争という場合におきましては、戦争の定義といたしましては、国の主張を武力という手段によつて解決せんとする行動を開始した時に初めて戦争というものが開始されるのです。して見ますれば、その武力行使の規模、内容状態というものの大小にかかわらず、戦争という認定は国際法上十分立ち得るものであります。いわゆる近代戦争が熾烈に開始されなかつたならば戦争じやないという御見解は、国民納得できない。してみますれば、いわゆる戦争内容については、あなたの言うような戦争ばかりはあり得ないということも考えなくちやならん。例えば今日インドシナにおいて、ホー・チミン軍が進んでおる場合におきまして、いわゆる近代戦争というものがなされておるか。併しこれも戦争と認定すべきものじやないでしようか。してみますれば、立法当時から考えたことは、あらゆる武力を行使して国際紛争解決する手段に供することを阻止するために、「その他の戦力」ということも書き加えたものと考えなくちやならんでしよう。してみますれば、あなたの仰せのように、近代兵器を持つたところのものでなかつたならば戦争ではない、「その他の戦力」ではないという解釈は、私はどうもあなたの解釈は余りに飛躍し過ぎておつて国民は狐につままれたような感じを持つと思う。よく新聞紙上でこの点を水掛論と言うておつて、両者の言うことが……いわゆる国民が聞かんとすることと、政府答弁することとの間には、大きな開きがあると言わなくちやならんし、この開きを飽くまで残すということは、我々は法治国民といたしまして、国民に非常な悪い影響を與えるが故に、私はここにしつこくあなたにお尋ねしようとするのであります。私は率直に、むしろ政府は、敗戦以来、我々はこの七カ年の間辛苦に堪えて来た、而して列国の間に伍して、世界生活に一歩足を踏み入れるんだ、その場合においては我々は独立国家としてみずから武力を持たなくちやならん、自衛力も持たなくちやならん、併し攻撃力は持たないのだと、堂々と述べて、私は差支えないと思うのです。そう行くべきが本来じやないでしようか。頭隠して尻隠さずのような、殊更に世界に向つて或いは今日の世界情勢におもねてか、殊更に戦力は持たない、軍備は持たないといつて、一面においてはお尻からすぐわかるような、軍備を持つような方向に進みつつあるということは、如何にも私はあり方として歎かわしいことだと思うのです。国民はそれに対して非常な危惧の念を懐く、又今後におけるところ国民法的生活指導としては、よろしきを得ないと思うのです。この点に対する御見解を今少しお伺いしたいのです。
  26. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 戦争勃発の初めにおいては、従来・例のある、ごとく、一発の拳銃でも戦争は起つたでありましよう。或いは一振りのヒ首で以て戦争が起ることもありましよう。併し戦争とは只今伊藤委員仰せになりましたように、いわゆる国際紛争解決手段としての武力……。それを行使しないということであります。国際紛争解決であります。それが端緒となつて国際紛争になつて来ることもありましよう。その国際紛争解決手段としての戦力を持たぬということであります。ただ単にいくばくの武器を持つたからと言つて、それが直ちに戦争を誘発すべきものもなかろうと私は考える。戦争というその段階行つて、その戦争有効適切にやる能力、いわゆる戦力は、憲法第九條によつて持たれないと、こう私は解釈しておる。そこで問題は、いわゆる国際紛争解決手段としての戦力であります。その戦力たるや、戦争有効適切に遂行し得る内容装備編成を持つたものである、私はそう解すべきものと思つております。
  27. 伊藤修

    伊藤修君 九條の二項のいわゆる「その他の戦力」というものは、これは前項の前段にかかるか中段にかかる一か、後段にかかるかは、学者の間に説がありますが、いずれにいたしましても国際紛争解決手段としての戦力を否定することは間違いないと思うのです。解釈上、この文字の限りは、いわゆる自衛のために持つところ戦力を否定していないことは、学者間の一致した見解であるのです。併しその二項の後段におけるところの交戰権の放棄によつて自衛のための戦力をも我々は放棄しておると解釈することが今日の通説であると考えるのです。第九條は第一に戦争放棄し、第二に武力による威嚇を放棄し、又武力行使放棄し、第三にはその他陸海空軍その他の戦力放棄し、第四には交戦権放棄しておる、我々はあらゆるものを放棄して、丸腰になつて世界の平和を希求してやまないということを世界に宣言したのであります。いわゆる侵略を放棄するところ憲法は、世界の例はたくさんありますが、そうでなく受身の場合をも放棄したというのは世界稀に見るところのいわゆる進歩的憲法として当時世界各国に対して我々は誇つたと思われるのです。又憲法審議の際におけるところ吉田茂氏の答弁、その他金森徳次郎氏の答弁政府委員関係者質疑応答をここに持つておりますが、これによつても明らかにそういうことを堂々と貴族院におきましても衆議院においても述べておるのです。でありますから、今日の憲法解釈としては当然私は今私が申上げるごときものでなくてはならんと思うのです。それを今日たまたまアメリカの、世界情勢の変化により、曾つて日本を恐れ、日本のあらゆる軍備放棄をなさしめて置きながら、今日アメリカ太平洋政策アジア政策の一環として日本人的資源或いは物的資源を第一線に動員する必要に迫られ、以て憲法解釈をそこまで推し進めて日本戦力の用意をなさしめようとするあり方は、政策としては或いは是認してもよろしい、政策としてはそこも考えられるでしよう。併し日本憲法が厳然として存在する以上は、との憲法改正することなく、ただ牽強附会解釈の下に、これを推し進めようとするあり方は、我々法的生活をする者としては納得行かない。でありますから、私は法務総裁がこの際その解釈を一擲して将来漸増して、日本のいわゆる警察予備隊というものの強化をお図りになるというならば、現在のことを言つておるわけではないのです、将来そういうあり方に推し進めようとするならば、憲法改正して、そうして国民の輿論を問うて、その下に堂々として自衛力の必要欠くべからざる範囲において、いわゆる戦力を保持されることが好ましいと考えるのです。この点に対する法務総裁の御見解を伺つて置きます。
  28. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 今後国際情勢の変化、その他の推移によりまして或いは憲法改正するの必要を生ずるかも知れませんが、只今段階におきましては私は憲法改正するの必要はないと、こう考えております。
  29. 伊藤修

    伊藤修君 本会議の御答弁ならいざ知らず、委員会における御答弁は、それでは少くとも法務委員会におきましては私は納得しないと思うのです。私は法務総裁のお人柄についてとやかく言うわけではありませんが、どうも本会議における御態度、答弁振りから拝聴いたしまして非常に官僚的であり、フアツシヨ的である。国民と共に政治を議し、国民と共にすべてを談合して行こうというお考えが乏しいように拝聴される。大橋元法務総裁はお若いのでありますけれども、十分納得の行くまでお互いに話し合つて来られた。私は政党は異にいたしますけれども敬意を表しております。在野法曹として木村氏は我々敬意の的である。そのお方が一朝朝に立つて今のような御答弁では少くとも我々としては承服でき難い。今少しく詳細に御答弁を煩わしたい。
  30. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) いや、私は率直に言つておるのであります。将来国際情勢の変化その他の推移に鑑みて或いは憲法改正すべき時期があるかもわからん。これはそう私は考えております。併し今の段階においては憲法改正するの必要はないと、こう考えております、これであります。私は何も率直にこう言つておるのであります。婉曲な言葉を使うことは下手かも知れませんが、私の信念として率直に申上げておるのであります。
  31. 伊藤修

    伊藤修君 余り……そこの点の論議は後日に譲ることにいたしまして…。併しいは一言申添えておきたいことは、私は虚心担懐、あなたのために、日本のために私は申上げるのです。私たちがなさんとすることは、それが日本の国家のために必要欠くべからざるということなら警察予備隊の増強もよろしいでしよう。或いは自衛力を保持するために最高の限度の兵力をお持ちになることもよろしいでしよう。それならそれとして率直に国民の前に私はそれを申し聞けて、その方向に進むべきことを示唆する必要があるのではないかと言うのです。今日憲法を変えるとか、変えないとかいう問題でなくして、今の解釈としては当然無理がある。併し現在の程度ならまだ解釈の範囲においてこれを遂行できるが、将来飛行機を持ち、大砲を持ち、戦車を持つ、又装備を強化し、人員も二十万乃至三十万、即ち十個師団乃至十五個師団を持つという形を以てなお且つそれが警察予備隊で御座候と言つて頼りをして通るというあり方は我々として是認できません。少くとも法務総裁としてはそういう段階になるならば憲法改正の要がある。併し現在漸増の程度であるのであつて、七の段階においては現在の憲法の枠内において賄えるのだという答弁ならば我々は承服できるのですけれども、そのお考え方を私はお伺いしたいと思うのです。
  32. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 今伊藤委員仰せ通りであります。これはいろいろ国際情勢の変化もあり、又率直に申上げかねるようなやはり事情にあるのではないかと思います。いわゆる国際関係というものが微妙であります。従つて今の段階においては警察予備隊程度のものであつて、これは憲法改正の必要はないということを申上げるのであります。従つて国際情勢の変化、その他推移を見まして或いは警察予備隊程度ではいかないのである。いわゆる憲法第九條の戦力に相当するような装備を持たなくちやならんというような段階に来ますれば勿論憲法改正の必要はあることと考えております。併しその時期というようなことはなかなか我々は今容易に推測はしかねるのであります。軽々にそういうことは言え得ないと、こう申上げる。
  33. 伊藤修

    伊藤修君 その問題につきまして、そういたしますと法務総裁のお考えといたしましては、今日の警察予備隊が或る程度に達しまして、いわゆる「その他の戦力」として認められる時代においては憲法改正の要があるということをお考えになつていらつしやる、こういうふうに拝廳してよろしうございますか。
  34. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) その通りでございます。
  35. 伊藤修

    伊藤修君 じや、その問題は又他日に譲りまして、本日はそれくらいにしまして、次に治外法権の問題についてお尋ねしたいと思います。これは法務総裁にお尋ねじやないのですが、虚偽の報道ではないと思うのですが、二月十八日の朝日新聞の報道によりますと、いわゆる米側の裁判権というものは当分の問いわゆる地域外においても持つというのでありますが、こういう点は非常に我々として重大な事項に属すると考えます。でありますからこの際行政協定の過程におきまして治外法権問題についてどの程度進んでおるのか。又衝に当つておいでになりませんから、或いは直接それはわからん、目下交渉中だというようなことであるならば、法務総裁としてどういうような意見を開陳されて、これを示唆して勧告していらつしやるか、当然の職責と考えられるのですが……、でありますから私はこの際、法務総裁として治外法権問題についての今日までの過程及び内容を率直に一つお聞かせ願いたいと思うのです。
  36. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) この治外法権の問題は誠に私も重大だと考えております。そこで今までの直接私は交渉の任に当つていないのでありますが、交渉の今までの段階におきましては、いわゆる今後駐留軍の施設内の犯罪につきましては、この犯罪と申しますのは軍人、軍属、その従属者についてでありますが、それは向う側で、米側で捜査、逮捕して、そうしてその裁判権を向う側に持たせる。それからそれ以外のいわゆる普通人につきましては、向う側で逮捕いたしまして、そうして身柄をこちらに引渡して、こちらの裁判権に付する。それから日本地域内、いわゆる施設外で行われた犯罪、これは米軍人、軍属、従属者でありまするが、これはこちらで捜査し、逮捕する、そうして向う側に引渡して向う側の裁判権に付するというような今交渉の経過でありまするが、この点につきましてはこちらの裁判権に属させたいという意見を持つております。そうして今その点については交渉中であります。それから勿論この施設外の普通米人、いわゆる軍人、軍属、従属者にあらざるものは勿論こちらで捜査、逮捕し、こちらの裁判権に付する。それから米軍の施設内で行われた日本人の犯罪については向う側で逮捕して、身柄をこちらへ送付して、そうして日本の裁判権に付する、こういうことであります。  なお御承知の通り北大西洋條約においてこの裁判権の問題が起つておるようであります。それについては相当詳細な規定を設けられることになるようであります。いよいよ北大西洋條約が批准になつた場合にこれをどうするか、若しもこの今申上げました日本の裁判権に関する問題で、この北大西洋の條約に織り込まれた裁判権が、これは日本に有利であればそのほうに持つて行こう、同じような事情であればこの行政協定にきめられた程度にして置こうというような段階になつておりますので、只今の北大西洋條約の裁判権の問題はまだ私は承知していないのでありまするが、恐らく行政協定で問題になつているとさほど変りはないのじやなかろうかと、こう考えております。
  37. 伊藤修

    伊藤修君 第一にお伺いしたいことは、只今御説明の過程にありましたいわゆる地域外におけるところアメリカ軍人、軍属に対するところの犯罪について、現在の交渉の過程においてはいわゆる捜査権は持つが裁判権がない、法務総裁自身もそれに対しては納得できないから交渉中であるというお説で、御尤もだと思いますが、私はこの新聞が伝うるところによりますればこれを当分の間施行するというようなことが、朝日新聞の十八日付で出ておりますが、若しかような結果になるとするならば、これこそ私はいわゆる属国として、いわゆる四等国として、曾つて見ないところの、不名誉極まるところの国際地位に置かれる大前提となるものと言わなければならない。私がここで申上げるまでもなく、治外法権の屈辱というものは国民は血を以てああなつてつたのですから、今更我々がかような屈辱極まるところ地位に置かしむることに納得してはならんと思うのであります。これは少くとも法務総裁一身を犠牲に供しても私は阻止して頂きたいと思うのです。昨日法務総裁の御答弁じやなかつたと思うのですが、どなたでしたか、大臣が昨日の本会議の御答弁中に、目下アメリカいわゆる司令部にお願いしておりますという御答弁があつたのです。少くとも独立国家として、今日我々はサンフランシスコ会議によつて認められている対等の地位において、行政協定の交渉はなされていると聞いております。又世界に向つてアメリカはそれを公言しているにもかかわらず、この行政協定の内容を交渉するに当り、我々閣僚の一人といえどもそういうような卑屈な考え方を持つて、お願いするというようなお考え方は以てのほかだと思うのであります。これま国民の将来のあり方として、嚴として我々の正しい要求は貫き通すだけのやはり気概を持つて頂きたいと思うのであります。これは非常に重大な問題であるのでありますから、どうかこの点は最後まで一つ法務総裁一身をかけても死守して頂きたいと思うのであります。今日、形においては近く二十カ国近くの大使の交換をしようという、国際法上一等国としての待遇を日本には與えるらしいのです。して見ますれば、その一等国としての国際場裡において我々が生存する場合に、内にあつては治外法権の屈辱に甘んじておるといつたのでは、我々として世界を闊歩して歩くわけに行かない。将来の日本国民としてのあり方としては、かような屈辱に甘んじることは到底忍びがたいのです。どうかこの点は一つ我々の考えのごとく裁判権は、是非その点は日本にとるべく御努力を賜りたいと思うのでございます。いわゆる捜査権だけを我々がもらつて、裁判権を向うに、與えるというならば何にもならないのです。実を向うにとられて名だけをこちらがもらう。今日我々が問題にするのは捜査権じやないのです。その裁判権なんです。国民の権利義務を制約するところの国家権力、司法権力というものを我々の手に持つか、外国の手に持たせるかという重大な問題である。主権の活動がその範囲において制約されるのでありますから、これは軽々たる問題じやないのです。捜査権のごときものを我々がもらつて、そうして裁判権を投げやるというようなやり方は、国民として忍びがたいのでありますから、この点は最後まで一つ御主張賜りたいと思うのであります。それから私は基地内におけるところの軍人は別といたしまして、軍属及び家族というものに対しましては、これは属人主義をとらずして属地主義において、日本において裁判権を持つべきが当然ではないかと思うのであります。国際法上から申しましても、若しさような基地内におけるところの家族及び軍属というものの裁判権を、アメリカが持つということになりますれば、その基地はいわゆる租借地になるのです。租借地と言つて何ら憚かるところはない。少くともこれも私は日本の司法権の下に服させることが当然なことではないかと思うし、この点に対するところ一つ見解をお伺いしたい。
  38. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 御尤もな御意見であります。それで結局その軍人従属者の範囲如何という問題になつて来ますが、これは成るたけ縮小した範囲において取極めたいと、こう努力しておるのであります。  それからもう一つ言い落しましたが、いわゆる施設内の犯罪で、向う側の犯罪でありましても、これが日本側にとつて重大なる影響を及ぼすような犯罪については、こちらに引渡して、こちらの裁判権に服せしめるように、今努力しておるのであります。
  39. 伊藤修

    伊藤修君 基本的に私は率直に申上げます。いわゆるアメリカ軍、軍隊及び公務を持つところの軍人、これのみに限つては治外法権を国際法上において認めることについてやぶさかではないです。併し、それ以外については本来の国権の活動の範囲内に服せしめるということは、これは当然なあり方ではないかと思うのです。昨日のあなたの御答弁でしたか、いわゆるアメリカ日本の国法を尊重すると言うておるというような言葉でありましたけれども、これは国と国が相手国の国内法を尊重することは当然のことです。言うを待たない。日本人がアメリカの国法を尊重し、アメリカ人は日本の国内法を尊重することは、当然なあり方であります。問題は、尊重するが、その法律の下に裁判に服するか服しないかが問題でありますから、この点に対しては十分御考慮を賜つて、どうか懇請ではなくして、堂々と我々の持つところの主張というものを置き通して頂きたいと思うのです。若しそれに服さなかつたならば行協定には判を捺さないというくらいの御覚悟を持つて頂きたいと思う。
  40. 小野義夫

    委員長小野義夫君) ちよつと議事の進行について申上げますが、本月法務総裁は正午までに止むを得ない御用があるそうでありまするが、午後は二時半から三時半まで御出席になられるということでありますから、どうぞそのおつもりで質疑を御継続願います。
  41. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると、民事裁判権についてはどうなつておりますか。
  42. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 大体民事裁判権は、日本の裁判権に服することになる模様であります。
  43. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると、基地内におけるところの仮に為替管理法違反であるとか、関税法違反とかいうようなものが起つた場合には、それはどうなるのですかね。
  44. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 刑事事件は今の原則で行くようであります。
  45. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると、そういうような直接軍と関係のあるような問題でも、刑事事件の場合においては当然それは一切今の原則で行きますですか。
  46. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) そうです。これは国際慣例もあるようでありますが、私はまだそこまではよく国際慣例を調べておりません。国際慣例なんかを十分検討してやつておるようであります。
  47. 伊藤修

    伊藤修君 よく往々にいたしまして、従来我々が体験いたしたところによつても知るところですが、いわゆる軍の下に、袞竜の袖に隠れて国内法を脱法する、又それを日本国民が利用するというようなことは往々にありがちなことで、想像に難くないです。又これらの外国人が殊更に自己の持つところ地位環境というものを利用して、そうして不正な利得を図らんとする岩もあり得ると思うのです。こういうような者に対しまして、いわゆる軍であるというようなことを以て直ちにこれが治外法権の範疇に属さしむるということは、好ましくないと思うのです。いわゆるこれらの者が日本の刑事犯罪を、軍人といえども刑事犯罪を犯した場合において、これをどう取扱うか、この点をお伺いしたい。
  48. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 只今私はそこまで何しておりませんが、十分研究いたしまして御趣旨に副うようにいたしましよう。
  49. 伊藤修

    伊藤修君 この問題は、まだ細かいことはたくさんありますけれども、まだあなたも交渉中のことであられますし、どうか相当のおかたが皆おいでになられますから、御研究の上で少くとも悔を残さんように成果を撃げて頂きたいと思います。  次に、いわゆる平和條約第十一條によりまして、戦犯を日本国家が引継がなくちやならないですが、その場合に、これに対するところの国内法規はお出しになるように思つておりますが、大体の今日の御構想としてはどういうふうになさるおつもりですか、その概念だけでもお伺いしたいと思います。
  50. 草鹿淺之介

    政府委員草鹿淺之介君) 講和條約十一條に基きますいわゆる戦犯の刑の執行の問題でございますが、殆んどこの成案はできております。ただ一、二点につきまして、関係側と目下折衝をやつております。この点はまだ意見の一致を見ておりませんけれども、我々の考えといたしましては、三月初旬頃までには国会に提出する運びに持つて行きたいと考えております、この大体の内容は、従来戦犯に対して向う側がやつておりますような処遇の問題、それからこれらに対する赦免、減刑、仮出所といつたような、こういう今やつておりますやり方をでき得る限りそのままこちらでもやつて行きたい。その他この国際慣例上認められました処遇なんかにつきましては、でき得る限りこれをその処遇でやつて行きたいと、こういう考えの下に成文化いたしております。
  51. 伊藤修

    伊藤修君 そういたしますと、今の御説明の下に推察しますと、執行だけを日本政府が引受けるという形になるように伺えますが、そうすると外国裁判を日本政府が引受けて執行できるという憲法上の基礎をお伺いいたしたいと思います。
  52. 草鹿淺之介

    政府委員草鹿淺之介君) これはもう講和條約十一條から、もうすでに御承知と思いますけれども、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾しておりますので、この受諾しまして、「且つ、日本国で拘禁されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。」この十一條に基きまして、あとの執行を日本側で引受けると、こういう考えでやつています。
  53. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると、いわゆる條約は憲法に優るという根拠を持つておやりになつておられるわけですか。
  54. 佐藤達夫

    政府委員(佐藤達夫君) その問題は、先に平和條約の比准のための御審議がこちらでございました際に、参議院でもたしか問題に出まして、大橋法務総裁からお答えしたと存じます。その点は要するに敗戦ということから来ます講和條約というものの特殊性として止むを得ない問題であります。憲法の上に出るとか、憲法の下にあるとかいう問題とは別個の問題であるというふうに考えております。
  55. 伊藤修

    伊藤修君 いわゆる敗戦という結果から止むを得ないものとして我々は受諾せざるを得ない。これは事実です。事実は事実でよろしいが、その事実が日本国民生活の下にどうして受入れられる根拠があるかということを伺うわけですが、少くも我々は国民に対しまして、それは憲法の上にこうだ、それは條約の上にこうだというふうに、然らば條約と憲法の間はこの解釈でこうなるのだという、やはり納得の行くべき説明をしなくてはならんと思うのです。ただ、あなたの仰せのように、敗戦という事実によつて止むを得ないのだというだけではどうも納得行きかねるのですが、どうですか、法務総裁
  56. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) これはやはり今佐藤法制意見長官から答弁がありましたように、憲法が條約に優先するとかしないとかいうことは別問題として、とにかく敗戦後の処置として、こういうことを條約に規定することは止むを得なかつた状態だと、我々はこう考えて、そうしてその下にできるだけの処置をとつて行きたいと考えております。
  57. 伊藤修

    伊藤修君 これは條約の土から申しますれば、まさに仰せ通りであります。併し憲法においては、いわゆる日本国民は裁判によるにあらざれば、その自由を拘束されないということが保障されておるにもかかわらず、それが日本の裁判によらずして身体の自由を拘束されるということは、それは條約からされるに違いありませんが、憲法の上からどういうふうになるのでしようか、こういうことを私はお尋ねしておるのです。国民もまさにその点を聞きたがるでしよう。ただ敗戦という事実によつて止むを得ないのだ、これは止むを得ないことは私もよくわかりまけ。それはわかりますが、法律的にどういう意味において我々が拘束されなくちやならんかという納得の行く何かあなたのお考え一つお聞かせ願いたいと思います。
  58. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 勿論今仰せになりまするように、日本憲法では日本の裁判権に基いて刑が執行される、これは当然のことであります。外国の裁判のものを日本でこれを執行するということは、憲法上の根拠はないのであります。併しながら申上げました通り、この條約に基いて敗戦国としてこれだけのことはどうしても引受けざるを得ない状態になつておりますので、これは我々はできるだけの手続を経て処置したい、こう考えておるのであります。
  59. 伊藤修

    伊藤修君 話がいつまでたつても堂々めぐりみたいになりますが、だから條約上それは引受けざるを得ない、これはわかります。併し国内法上、憲法上どうそれを説明すべきか、処理すべきかということ。然らば條約は憲法に優つておるのだという解釈上からこれをなさるのか、どういう根拠においてなさるか。ただ條約で與えられた義務だから履行しなくちやならんというだけではどうも納得できかねるのです臓。今後執行の上において問題は起りはしないでしようか。これは條約においては止むを得ないのだと言つて突つ放せるでしようか。少くとも今後数十年の間巣鴨拘置所にあれを拘置しておくということは予測される。或いは可及的にこれが解放されるかもわかりませんが、少くとも或る日限は拘置されるのですから、その間におけるところの法的根拠というものが、ただ條約によつて與えられた義務だから履行するのだというだけでは国内法的にどうしてこれを拘置しておけるかという基礎を一つはつきりさしておいて頂いたほうがいいのじやないでしようか。
  60. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) それは、いずれこの問題につきまうては先ほど刑政長官から申上げましたように、法律の成案ができますから、そのときに又申上げたいと思います。
  61. 伊藤修

    伊藤修君 その問題は後日に残しておきます。然らば執行を受諾とてこれを執行して行くのでありますが、その場合におけるところ解釈その他が、いわゆる従来と同様若しくは国内法と同様に取扱つて行くというお考えは今拝聴しましたが、所遇の問題はどうなんでしようか。いわゆる現在の日本国民の刑務所に拘置されておる者は、副食費が十五円とか十七円五十銭で、あらゆる、主食物を入れて四、五十円のものである。聞くところによりますと、巣鴨の場合におきましては一人前百五十円、到底我々の国民生活にふさわしからざるところの高級な生活をしておる。これを乏しい国家財政の下に今後継続なされる意思でありますか。或いは国内法におけるところの刑務所と同様な待遇をなさるつもりですか、どういうようなお考えをお持ちでしようか。
  62. 草鹿淺之介

    政府委員草鹿淺之介君) この点につきまして我々のほうといたしましては、でき得る限り従来の待遇に近い線を維持して行きたいと、こういう考えから大蔵省その他と折衝を重ねましたが、とても今までのような待遇を與えるということは財政上やその他から困難でございますけれども、一日百円程度、或いはそれよりもう少し上のところという見当で考えてやつております。
  63. 伊藤修

    伊藤修君 もう一点だけそれに関連して伺つておきますが、そうするといわゆる講和條約成立の発効時において日本国が引受けるところ戦争犯罪人の数というものは、どのくらいを予定していらつしやるのですか。現在千二、三百人おるようですが、このうちどれだけを引受けるという予定の下に皆さつまは御計画を立てていらつしやるか、その点を伺いたい。
  64. 草鹿淺之介

    政府委員草鹿淺之介君) これは申すまでもありませんが、講和條約の効力の発生します日時と、それまでにおきます向う側で現在やつております仮釈放になります人数に影響されますけれども、大体講和條約発効が三月下旬或いは四月上旬ということに仮定いたしまして、最近での向うの仮釈放をいたします数から大体計算いたしますと、およそ千人くらい残るのじやないかという、これは海外におります者は一応別といたしまして、現在おります人数で残る者は約千人内外であろうという予想の下にやつております。
  65. 伊藤修

    伊藤修君 まあその問題はいずれ法案が出ることですから、その際に詳細又お伺いすることにいたします。  この際、もう一つお伺いしておきたいことは、御承知の通り、又前法務総裁も二、三回声明しておりましたが、いわゆる講和條約発効時、三月末と存じますが、そのときにおいていわゆる恩赦をお出しになることと思いますが、この恩赦の範囲はどの程度までなさるつもりでありますか、その時期を、いわゆる講和條約の発効の即日という御趣旨になるか、或いは四月一日という御趣旨になるか、この点を一つお伺いしたい。
  66. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 実はいろいろ影響するところが大きいものでありますから、時期もまだはつきりしていないのです。はつきりしていませんが、大体講和條約の発効の時ということを考えておるのです。それから範囲の問題、これは実は微妙な点があるのです。我々の気持といたしましてはできるだけ広範囲にやりたい、こう考えております。併しこれはどこまでやつて行くかということになると、それは今後のいろいろな微妙な点があることは御承知の通り。それを相当考慮に入れて、犯罪が行われた何もありましようし、それから具体的にどういうもの、どういうものと、いうことを今率直に申上げることは差控えたいと思います。併し少くとも相当の範囲を考えておるのです。それを発表する時期が、非常に今申上げますように微妙な点がありますので、申上げかねるということを御了承を願います。
  67. 伊藤修

    伊藤修君 時間がありませんから……。まあ法務総裁も在野にいらしたから、私が言うまでもなくよくおわかりのことと思いますが、全国のこの恩赦を待ちわびておる関係者が数万人おるということは御承知のことですが、恐らく相当数のものがこれを鶴首しておるのです。でありますから、裁判もその意味において遅々として進まざるものがたくさんある。最高裁判所においてそれを予想して握つておる。それも数千件ある。これらは速かにその発効と同時に解決して、いわゆる裁判の促進が事実上行われることを考えますから、これは少くとも私は相当広範囲に行わるべきことの先ず大原則としてお考えを煩したいと思うのです。  それからもう一つは、これは画期的な、時代を画するものでありまして、日本は新らしくここに新日本として発足するのでありますから、いわば建国の第一歩を踏み出すと言つても差支えないと思います。又先に貞明皇后がおかくれになつた時た、国民感情から言いますれば、恩赦のあり得べきことを期待しておつた、ということを考え合せなければならぬ。又過去におけるところのいわゆる十名近くに亘るところの不当な為政者の指導の下に戦争というものが遂行され、その戦争遂行のためにこれに反対するものはすべて刑罰に処せられておる。こういうことを我我考えなければならん。いわゆる戦時立法であるところの総動員法に基くところの違反行為というものは、この際挙げてこれは免責すべきではないかと思うのです。又これに対して処罰を受けたものに対しましてはその前科を拂拭すべきではないかと思いますが、いわゆる戦争協力を要求するために作られた法律の違反というものに対しましては、今日の段階におきましてはそれはむしろそれを強いたものが違反者、戦争犯罪人になつたのですから、協力しなかつた違反者はこれはむしろ今日の時勢に合うところの人々であると言わなければならない。併しそ時代における法律違反であるからその処罰ということは止むを得んといたしまして、これに対しましては今度は少くとも全面的に恩赦の手当をすべきではないかと思いますが、その他の犯罪に対しましても法務総裁仰せのごとく微妙な点がありますから、どこの点、どういう点ということは私は指摘しませんが、これは十分最大限にこの恩赦の途を講ぜられることが私は当然だと思うのです。その点は在野法曹としての経験豊かな木村法務総裁におきましては十分画期的なものを一つ御執行あらんことを切に希望しておきたいと思います。重ねて一つ御奔走を願いたいと思います。
  68. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 十分御意見として考慮いたしたいと思います。勿論御承知の通り今度の特赦法は昔のものと全然その構想を異にしておりまして、いわゆる国の慶事についてのものであります。皇室の御慶事についての何ではありません。国の慶事というのは御承知の通りそうたくさんあるわけではないのです。私の知る限りにおいて憲法公布、その他二、三です。皇室の御慶事について大赦が行われたのは明治天皇の崩御の時であります。今度は日本が本当に独立国家としての再出発をする時でありますから、本当の慶事であると考えております。ですから御趣旨によく副うように成るべく広範囲に亘つて喜びを共にしたいと、こう考えております。
  69. 小野義夫

    委員長小野義夫君) それではこれで午前中は打切りまして、午後は二時半から再開いたしたいと思います。「    午後零時六分休憩    —————・—————    午後二時五十三分開会
  70. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 只今より委員会を開会いたします。  午前に続きまして法務総裁に対する質疑を願います。
  71. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 私は五つ六つの問題につきまして、簡単な問題でございますけれども、法務総裁にお伺いしたいと思います。  法務府の機構改革の点につきまして、最近新聞がときどき報じておりますことで、私にとつても非常に重大な問題があるのでございますが、それは犯罪者予防更生法によつて更生保護委員会ができておりますが、その更生保護委員会は今度潰すという報道でございますが、それは如何なものでございますか、お尋ね申上げます。
  72. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 実は新聞にいろいろ報道されておりまするが、あれは決して確定した案でも何でもないのです。ああいうことがどうして漏れたかということを私は不思議に感じておるわけでございます。只今全面的の機構の改革についていろいろ各省と話合いをしておるのです。そこでこの法務府における中央更生保護委員会をどうするかという問題も俎上には上つております。これは私はまだ法務府内部のこれに関係しているかたがたとの意見の交換はしておりません。そこで大体の構想といたしましては、行政機構は如何にも戦後複雑になつておる。これをどうかもう少し簡素化して、能率化しなければならんのであります。御承知の通り、各種の委員会というものが戦後急速に殖えておる。果してこの委員会がよく機能が発揮されておるかどうか。或いはほかの実施の行政面との繋がりがとうであるか。これを再検討すべく今いろいろ調査中であります。そこで中央更生保護委員会も今申しまするように問題になつておるのでありまするが、まだこれをやめるべきものであるか、或いはそのまま存置すべきものであるか、確定的にはなつておりません。若しこれをやめるべきものとすれば、それに代るべき方法をどうすべきかということは目下研究中であります。率直に申しますると、まだ私は部内の意見を十分に聴取しておりません。従つてこれを今廃止すべきであるかどうかという結論も出ておりません。ただ新聞紙上に出て、これを廃止すべきものだと確定的のようなことを報道されておることは、これは間違いであるということを私は率直に申上げます。まだこれはきまつておりません。
  73. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 きまつてはおりませんが、問題になつておりますわけなんでございますね。
  74. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) そうです。問題にはなつております。
  75. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 只今仰せのように、終戦直後、委員会なるものが随分できて参りましたけれども、そのたくさんの、殊に内閣直属の委員会なんかもできておりますけれども、それとこの委員会というものは大分私は考慮を別にしなければならない価値のあるものではないかと思つております。私どもこれは極く最近手にいたしました中央更生保護委員会のほうの保護関係の資料を拝見いたしますと、この二十六年度におきましては、この予算は二億六千七百六万六千円使つておりますが、これによつて保護されております者は五万四千九百九十六人となつておりまして、この一人当りに使われております費用の平均は四千八百五十六円という計算になつておりますように見受けますのでございます。これは私は大変な問題でございまして、という意味は、普通の刑務所におきましては、一人一カ年間の費用は四万円ぐらい……、三万九千幾らかというように心得ております。それから少年の保護に限りましては、施設の費用等を入れますというと、一人当りは十万円かかるということを言われておるように思つておりますが、そういうことから見ますというと、殆んど刑務所、少年院のこの費用に比べますというと十分の一くらいの経費を以て賄われておる。而も拘束を受けないで、本当に教育保護の目的を達するという仕事をいたしておりますこの委員会を今潰すということは、保護矯正教育の立場から申しましても、又特にはこの貧弱な予算面から申しましても、これは大変な大きな結果を来たすのではないか。でございますから、この委員会を而も折角二年半ばかり前にできましたこの犯罪者予防更生法なるものの中の一番中核をなしておりますこの委員制度を潰すということは、これは国家の立場から申しましても相成らんことではないかというように私は考えております。殊に犯罪者予防更生制度の一番中核をなしております例のプロペーシヨン・システムとパロール・システムは、これは今世界の保護矯正教育面の行き方といたしましては、もう各国とも、それこそ世界各国ともこのことを以てやつて行くことが目的を達することだというように考えておりますことは、一昨年この方面の各国の代表者がセントルイスに集まりました会合に出席いたしましたときにも、もう殆んど問題の中心はこのプロペーシヨンの問題とパロールの問題でございます。それを漸く日本で本格的に取入れましてやり始めましたとの委員会制度というものについてこれを考えなければなりませんが、併し現在ございます委員会あり方というものについて私も幾分の疑義を持つております。でございますから、先ほど法務総裁仰せになりましたやめないで少し内容について考えなければならんかも知れないというようなことでございましたら納得できますけれども、一つこの点につきましては、十分この仕事の成績などを事務当局からお聞き下さいまして、今問題がこれからでございますようでしたら、これは一つ潰す委員会にして頂きたくないということを私お願い申上げたいのでございます。
  76. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) よく内部の事情を調査いたしまして考慮いたしたいと思つております。何分にも各種の委員会が果して機能を十分に発揮しておるかどうかという疑問の点も幾つもあるのであります。この委員会も仮に廃止すべきものといたしましても、委員会でやつておる仕事を全面的に廃止するわけじやなかろうかと考えております。委員会そのものの設置が問題になつております。仕事はこれを私は全面的にやめるという訳合いのものじやなかろうかと考えております。よくその間の内容を精査いたしまして、御趣旨の点は十分拝承いたしたいとこう考えております。
  77. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 それではこの問題につきましては、法務総裁に一層の御考慮を願いまして、もつとこの委員会あり方及びこの事務局のあり方について、特に地方の委員会、地方の事務局なんかにつきましては、十分に事務当局からお聞き下さいまして、もう少し手を入れて頂きたいという点も多々ございます。それから細かいことにつきましては今日は省きます。  次には、やはり法務府の機構改革についての問題でございますが、殊に少年の問題についてお伺いしたいと思います。それはこの少年法の一部改正がもう毎国会に出て参るのでございます。それでそのことは困つた問題でございますことを私はしよつちゆうこの委員会でも申しているのでございますけれども、ただその一部分の法案をいじるということだけでなくて、実は御存じのように、少年法は第四十五議会を通過いたしますときにも、あれは内務省の感化院法と非常に摩擦がございまして、漸く年齢の点で折合いがつきまして、まあ司法省では少年法ということで少年法ができましたのでございますが、それ以来、実に厚生省関係ともうしよつちゆう、悪い言葉を使えば畠争いがございまして、その犯罪少年、犯罪少年につきましての取扱についていつも面倒が起つております。今日なおそのきらいがございますのでございますが、そこで単にそれが対外的と申しますか、ほかの省との関係のことはちよつとまあおきましても、実際一昨年犯罪少年の年齢引上げの問題が起りましたときなんかは、やはり法務府と検察庁と裁判所と全く三つ巴になつて、これは一種の畠争いがあつたかのように私どもも感じられる点がたくさんございました。そうして殊に又この法務府の管轄いたしております鑑別所なんかは、これは又問題でございまして、今以て末端に参つて仕事をしております人々は、一体この鑑別所を裁判所のほうにつけるべきじやないか、又或る人はやつぱり法務府関係につけるべきものだというようなことで、鑑別所一つの問題につきましても、これはなかなか問題がたくさんございます。それで果してどこにどういうふうな管轄にして、どこで取扱うのが一番子供のためになるかというようなことも、私は保護の根本問題として考えて頂かなければならない点だろうか、と思つているのでございますが、まあそういつたような少年法をめぐりましての問題は幾多ございます。その意味におきまして、やつぱり少年法を毎国会にいじつて行かなければならないような結果になるのじやないかという虞れもなしておるのでございますが、これも又一人の少年について考えて見ますというと、私どもは、今日の殊に少年に対しましての取扱は、どこまでも矯正保護を以て、もうその一本槍で行かなければならないと思いまするような点から、子供が方々でいじり廻されているのじやないか。まあこの虞犯少年にしましても、犯罪少年にしましても、警察で、それから警視庁に行つて刑事が、その次に家廃裁判所に行つて審判官が、それから今度は鑑別所に参りまして鑑別所の職員、それから少年院に参りますとしますと、少年院において又この職員に、あつちこつちいじられまして、そうしていよいよ観察官の手に渡りまして、少年保護司の手に渡つて、本当にいよいよ社会人として子供が取扱われますときまで数えて見ますというと、八回ぐらいの難関があるのでございます。そうしてその難関で取扱う人が十分教育の、考えのございます人々ばか。とは限りませんので、結構嘘を申しますことも覚えて来ます。そうして嘘が本当になつて来まして、年や原籍、姓名を偽称いたしておりますようなことでも、余り上手にすらすらと言いますから、どつちが本当だかわからないほどもう嘘も上手になつて来るということは、たくさんの難関を潜つて参ります子供といたしまして、これはまあ悲しいことでございますけれども、本当じやないかと思うのでございますが、こういう一人の子供の取扱から考えましても一つここに根本的な子供を良くする、たとえ不良でも、虞犯少年でも、犯罪少年でも、とにかく日本の将来を背負つてつてくれるべき子供を立直すという意味において、どうしてもここに根本的な政府考えをお立て下さいまして、殊に現総裁は保護の面はよくおわかりでいらつしやいますから、この際私は大機構改革を一つ子供のためにして頂きたいという念願を持つております。それは勿論厚生省や労働省、文部省その他の官庁とも非常に連関のある子供の問題でございますから、私は願われますことなら法務府に行きましたら法務府関係、或いは裁判所関係で取扱う子供は、もう全部犯罪少年という烙印を押されるというような感じを持たせますことも大変惜しいと思います。これは今日の憲法によりましては、裁判所に送らないわけには参りませんけれども、その他のものにつきましては、これを一つ一丸とされて、ここで新たに少年庁と申しますか、児童庁と申しますか、一つすべての子供を、犯罪見だけではなくして、養護施設にやります者も、教護施設に容れなければならないような者も、又少年院、少年刑務所に行つたというようなものも全部その種類の子供、或いはその他の教育、単に文部省の教育の面というようなことばかりでなく、機構をできるならまとめまして、一つ児童庁とでもいうようなものを作りましたら、子供たちのために非常に助かるのじやないかというような願いを持つておりますのでございますが、一つそれらの点につきましての法務総裁の御意見を拝聴さして頂きます。
  78. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 只今誠に事情に即した御意見を承わりました。私も御存じの通り相当の年数の間、司法保護委員をやつておりまして、子供を手なづけて来た経験もあるのであります。なかなか容易ならん仕事でありまするが、国家的に見て有意義な仕事と考えましてやつてつたのであります。前々からこの法務府の関係と厚生省の関係との間が密接に行つていなかつたという噂は聞いておるのでありますが、実際にどの面において齟齬扞格を来たしておつたかという実情については、残念ながら私は調査しておりません。そこで今仰せのごとく、これを一本にして、将来国家を背負うべき少年が、強力な体制の下にこれを育成して行くというお考えは至極御尤もかと考えております。裁判所、検察庁、法務府関係、この関係についても、率直に申しますと、よくわかつておりません。この家庭裁判所の関係なんかも、うすうすは開いておるのでありますが、実情はどうなつておるのか実は知らないのでございます。今御意見が出ましたので、よくその辺のことは調査いたします。できる限り一本にまとめて、そうして犯罪を行なつた子供も、又嫌疑ある子供も、或いは普通の子供も、これをよく育て上げて行くという方面についての考え方は至極御尤もだと考えております。十分に調査いたしまして、善処したいと考えております。
  79. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 次の問題は、刑務所内で生まれます乳児の取扱についてでございます。並びに妊娠して受刑いたします婦人の問題なんでございますが、昨年の暮に、現に刑務所で育てられて母親のふところ、受刑者のふところで育てられております子供は四十三人かおります。そうしてその子供たちが、まあお乳や或いはおむつ、着物といつたような点につきましてもいろいろ問題がございますが、それはちよつと今日の問題にはいたしません。今日は生れまして刑務所では丸一カ年母親の手で育てられることになつておるようであります。ところがこの育てられております乳児が、これはもう原則といたしましたら生後一カ年くらい母の、実母の乳を飲ませることが子供のためにいいとされておりますが、この受刑者の母の手でお乳を飲ませ、あの中で育てることについて、法務府当局はどういうふうにお考えになつておりますのですか。実は刑務所で育てました子供をあと預つて育てております人の話を聞きますというと、この子供たちが普通のいわゆる娑婆に出まして育てますときに、丁度あの刑務所の中は穴の中のようなものでございまして、穴の中の魚がだんだん目が退化して目が見えなくなると同じように、世の中に出ますと、まぶしくてまぶしくて日の目を拝むということが子供時代にできないので泣いて困る。それからいま一つの原因は、あの刑務所の中のあのにおいになじんでおりまして、あのにおいが好きで、娑婆のよい空気では子供が泣いて仕方がないということを、本当に育てております素人が申しておるのであります。このことは本当に素人の目にも映ります問題でございますので、それほど、まあ三つ子の魂と申しますか、赤ん坊の魂に私は大変なものが植付けられるのじやないかということを心配しておるのであります。そこでこの問題を一つ何とか解決して頂きたい。私は余り広い範囲ではございませんけれども、外国の一部分を見ました経験から申しますというと、私の見た範囲におきましては、刑務所の中で女囚が子供を産んでおる所はございませんでした。すべてこれは別の病院なり或いは産院においてお産をさせる、そうして或る時日だけ母親の乳を與えるときもあるし、全然母親から放しましてもつとよりよい母親を、よりよい環境を子供のために選びまして、そこで子供を育てるというのがこれは私は世界の傾向だろうかと思つております。それと比べますというと、この中に、たとえこの一年に百人足らずの子供だと仮定いたしましても、この子供たちに対して非常な問題でございます。いま一つは、この刑務所の中で生まれますと、勿論刑務所で生まれたということは戸籍につきませんけれども、刑務所の番地がちやんと載るのでございます。そうしますというと、知る人ぞ知る、やはり刑務所の中で生まれたということには変りはないのでございます。これは子供の将来にとつてどんなものでございましようかということを非常に私は恐れております。そこで私はやはり今非常に政府の困難な財政の中ではございますけれども、たつた一つのその刑務所と分かれた産院でも、その他の病院でもよろしうございますから、生まれ出ます子供たちのために一つの施設をどうしてもこうしても最近に作つて頂きたい。その産院で生みまして、そうしてそこで或る程度まで育つて、よりよい境遇の子供を育ててもらういわゆる里親制度でも何でもいいのでございますから、この子供たちのために一つ考えを願いたいと思いますが、法務総裁の御意見なり政府当局の御意見一つ伺わせて頂きたいと思います。或いは又そういうものに対してすでに準備がされておりますでしようか、どうでございましようか。
  80. 草鹿淺之介

    政府委員草鹿淺之介君) 最初の御質問にお答えいたします。これは我々といたしましても、刑務所の中で生まれました子供をできるだけ早く刑務所じやない一般社会の中で育てて行くようにやりたいと考えておりますが、現在のところ甚だ遺憾でございますが、なかなかその施設がございません。将来は我々の考えとしましては、何か適当な、刑務所のあの構内じやない所に、適当なそういつた収容施設を作つて行くことができると、こう考えて研究をいたしておりますが、現在予算関係その他の制約を受けまして、なかなか我々の理想を実現することができないような状態でございます。そこで我々といたしまして現在はでき得る限り、厚生省の関係のいろいろな施設を活用する、こういう考えでやつているのでありますが、この厚生省関係のそういつた施設もこれ又、今御承知のように、極めて貧弱な、殆んど施設らしい施設がないような状態でございますので、この点仰せのように何とか近き将来そういうことをやつて行かなければならない、こう考えております。で、まあそのほかにこれは母親のほうが條件のかなつておりますものは、例えば仮釈放の措置のできる限りとつて行く、こういつたようなことも考えておりますが、いずれもこれらは根本的な処置ではございませんので、何とか根本的な解決をいたしたい、こう考えてやつております。  それから子供の番地も、仰せ通り子供の将来にとりましても非常な問題でございまするが、これ又今後余りはつきりと嘘をつくわけにも行きませんので、例えば刑務所と、この刑務所長官舎が番地が違つておりますような場合には、所長官舎の番地を適宜借用するとか、便宜上そういうような考えの下にやつておりますけれども、余り嘘を言うというわけにも行きません。これも何とか将来考えて行きたいと思つております。
  81. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 厚生省関係の施設が若し幾分余裕がございましたとしましても、それに託するということが又問題のもとになると私は思つております。それでございますから、厚生省関係の施設以外に、どうしても受刑者を収容する意味において、これは子供を生み、育てる僅かの間でございますから、全国的に一つつて、そう大きいものは不必要だろうと思つておりますが、これはどうぞ早い機会に是非御考慮願いたいと思うわけでございます。それからいま一つ、子供が生まれて、一年から一年半ぐらいの間が人間の一生涯で一番感受性の強いときだと学者は申しておりますが、この強いときを、あの刑務所の中で、あの空気の中で、あの境遇で育てるということは、これは国家の立場としても、子供に対して相済まんことでございますので、これだけはどうぞ、重ねてお願い申上げておきますが、早いところでお手当して頂きたいと思います。  それからその次には刑務所や少年院の中の処遇のことでございますが、これはどうも今の取扱の方向としましたら、勿論保護矯正教育の目的を以て取扱われておることは、もう大変いいことなんでございますけれども、ところが実際におきましてどんな刑務所を見ましても、どんな少年院を見ましても、成るほどこれはその教育によつてやられておるのだという感じを持つ所が誠に少いということなんでございます。それでその取扱われる処遇と申しますものは、あの中の例えば受刑者として、少年院の子供としていい子であるように、間違いのないようにということを以てやられておるという感じを非常に受けます。そうでございますために一旦外に出ますというと、どうしても再犯をいたしますし、又子供たちもしくじる場合が多い。どうかこの中の処遇というものについては、もう少し社会に出たときの、つまりもつと社会的な取扱をして、社会の縮図でございますといつたような方向に一つつて行つて頂きたいと思つておりますが、その点について政府の御意見を伺わして下さいませ。
  82. 草鹿淺之介

    政府委員草鹿淺之介君) 少年刑務所或いは少年院におきまして矯正保護をやりますゆえんは、仰せ通り少年院等における模範生を作るためじやございませんので、言うまでもなく健全な社会人を作り出して社会に送る、これが第一の目的でございますので、我々もやはりそういう感がいたすところがございますから、十分御意見の趣旨を体しまして、できるだけ我々も御趣旨に副うようにやつて行きたいと考えております。
  83. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 そこで少し細かい点についてお伺いしたいのでございますが、社会に順応するようなものを作りますという点につきましては、一体少年院、少年刑務所、又普通の刑務所もそうでございますけれども、あの作業というもの、仕事ということが非常に問題じやないか、殊に仕事をいたしまして得るところの作業費、こういうものについて今のところでは本当に問題にならない少量のものを頂いておるようでございますが、あれは何とか近い将来に手をお打ちになる御意思がございますでしようか、どうでしようか。
  84. 古橋浦四郎

    政府委員(古橋浦四郎君) 作業賃金につきましては、やはり僅かながらも大蔵省から増額を認められまして、漸次多くを與えることができるようになつておりますが、併しまだ一般の社会の賃金等に比べますれば誠に少いのでございますので、将来もその増額について十分に努力をいたしたいと思つております。なおこの作業に関しましても、外に出てから勤労の癖がつきまするような教育的な立場でその作業に従事させたいという方針をとつております。
  85. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 社会ではちよつと使おうと思えば、いい生活をしようと思えば、自分の欲求を満たそうと思えば、やはり一生懸命働けばいいというために、まあ本気で稼ぐいうような結果にもなつておるのでございますけれども、あの中ではどうしても子供らは蔭日向があつたり、或いは怠けたりというようなことは、働いても働いてもそんなものは全部国家に納めるものだというような考えがございますために、大変これは教育上にも悪いと思つているのでございますが、実際私が願うところはあの刑務所の被服にしましても刑務所の食事にいたしましても甚だ相済まない。殊に大きくなり盛りの子供らに対して、憲法の線に副つて行きましても全く人権蹂躙ではないかという考えを持つくらい、子供たちはぼろを着ると申しますが、晝も夜も同じ着物を着まして、作業場からそのままで子供は寝なければならない。洗濯しようと思つても着替えがないから、そうしてどうしてもこうしても洗濯しなければならないためには、洗濯をする間震えて待つているというような、そういう極端な所も中に見受けたようなことがございますから、まあそうで、ございませんでも、一部分だけでも洗濯をする間着替えがあるといつたような程度でございます。これはそこで慣れていても無理だろう、被服の点についてもそうでありますし、又夜具などの点につきましても、最近集団逃走いたしました少年院なんかを調べましたときに、寒いので逃げたという場所が一、二カ所、ございましたので、勿論御当局は御存じだと思いますけれども、まあそれほどでないまでにいたしましても、せめて子供たちは一人々々寝ませませんと、あの年頃の子供たちは大抵の所で三人を一つのふとんでというように、或いは一つのふとんに二人が入るというような状態でごいますというと、非常に恐るべき結果のございますような問題も起るかと思つておりますが、いずれにしましても、この被服にしましても夜具にしましても、非常に世間では考えられないような状態もございます。だからできますなら、この作業費を相当に支拂うことにいたしまして、これはどうせ作業費の収入は国家に入りまして国家が支出をするのでございますから、これは直接に子供のものとして、子供の着物も買つて着る、子供がときには夜具もできたら自分で作るだけの働きをし出すというような、それはどつちに流用しても結果としては同じやないかと思うのでございますが、そういう方向に特つて行くということが、つまりこの社会生活に近付ける一つのことでも……最も近い生活において近付けることじやないかというように考えておりますが、一体この被服や夜具について、今二十七年度の予算にはどのくらいを計上しておいででございましようか。
  86. 草鹿淺之介

    政府委員草鹿淺之介君) 仰せ通り現在の実情は誠に不満足な実情でございます。これは申すまでもなく戦時中、戦後におきまして、統制関係その他値段の関係等いろいろな事情がございましたが、最近これらの点も次第に改良されて参つておりますので、至急にその改善を考えております。改善の方針としましては、何と申しましても少年のほうが成人と比べますと発育盛りでございますので、消耗の度合い等も成人よりはひどいわけでございます。そこで品物の割当等にいたしましても、我々のほうとしましては成人よりも少年のほうに量を多く、そして優先的に行くように考えてやつております。一般的に申しますと、大体戦前の状態にまで辛うじて復し得るのじやないかと思いますので、二十八年度まで要することになつております。これは御承知のように、戦前の状態と申し七も、これは決して満足な状態じやございませんが、この戦前の状態に復するのにすら二十八年度まで待たなければいけないというような状態でございます。来年度の予算も昨年と同額の予算を請求しておるはずだと思います。
  87. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 時間がございませんから改めて被服のことにつきましては伺いたいと思つておりますが、今度はちよつと食事のことでございますが、極く最近、去年の暮にもございましたが、少年院、刑務所等数カ所に参りまして、どこに参りましてもどうしても副食費が足らないということを訴えられております。最低は一日二円、或いは最高は五円ぐらい増額されなければどうしても賄つて行かれないという訴えだつたのでございます。それは見ますというと、二十四年六月でございますかの法務総裁からのお達しによりまして、少年院、少年刑務所その他の一般の刑務所についてのカロリーの指示があつているのでございますけれども、あのカロリーを、法務府から出ておりますあれだけのカロリーを攝るに、今は非常に物価が高くなつておりますので、最低のものといたしましても、ともあの当時指定されました副食費では賄えないというので、自然に二円或いは五円という毎日の不足が出て来ることだろうと思つております。それで被服の点よりももつと子供たちに切実に応えます食べるものという点につきまして、どうかしてもう少し人間なみのものを食べさしてやらなければ人間になれないのじやないかということをしみじみ考えているのでございますが、ここに、これは当委員会に配付されたものによりますると、警察予備隊の一日の副食費というのは五十九円何がしかになり、海上保安庁は五十二円、刑務所は十五円、少年刑務所は十八円五十銭、拘置所は十三円五十銭、それから国立の教護院二十四円、それから又国立病院の一日の副食費は五十二円というような統計によつて見ましても、特にこの少年関係のものは、刑務所もそうでございますが、これは刑務所は非常に大きい賄いでございますから、幾分がそこに余裕が出るかと思つておりますつけれども、小さい規模の少年院なんかでございますと、本当にこれだけの副食費を以て栄養を攝り、子供を、一番の肥り盛りの身体を作つて行こうということは到底不可能なことであると思いますが、殊にどこでも問題になつておりますのは、子供にお八つがやりたい、たまでいいからお八つがやりたいということを院長がたが訴えてお出でになります。勿論子供はこのお八つが欲しいのでございます。又先だつて京都の少年院に参りましたところが、院長は医学博士のかたでございますが、そのかたが子供を大変可愛がつていらつしやいましたが、子供にお八つをねだられまして、それでお八つがやりたいと思うけれども、毎日の食費にも困るのだから、考えまして塩を嘗めさせているということでございます。塩を嘗めさせて水を飲ましているけれども、それでも子供は喜んでいる。若し普通の家庭でございまたら、お菓子はやれないけれども、お砂糖を嘗めさしたということがありますが、塩をなめさしても喜ぶという、こういう賄い方によりましては、とても所期の目的は達せられないと思つておりますが、まあ毎日のお八つは勿論願いませんけれども、先ず第一は副食費をせめて二円、願えれば五円、殊に少年関係の所に増額して頂きたい。それから願われれば一週間に一遍、或いは月に二遍くらい、多少甘いものを子供に食べさしてやるような、一つ予算措置をして頂きたいということを願つておりますけれども、この辺についての何かお考えがございまして、予算措置ができつつございましよか。
  88. 草鹿淺之介

    政府委員草鹿淺之介君) 来年度の副食費の予算につきまして、大蔵省と折衝いたしました結果、これは成年のほうも平均してでございますが、一人当り二円の増額を大体了承してくれるということになつております。あとの甘いものの点につきましても、これはもうできる限り十分考えてやつて行きたいと思つております。
  89. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 最後に一つ附加えさして頂きます。それはこの間暮に私ども法務のほうから笠松の中間刑務所に参りまして、女の年齢三十五歳以下の者が収容されております、模範的な囚人が。それに少女の特別少年院がございましたのですが、一緒に経営されているのでございますが、ここでは業者の寄付によりました特別な施設、特別な仕事、特別な仕事と申しますというと、機織りをいたしておるのでございます。ここでできます毛織物はさておきまして、木綿のいわゆる洋服地のギンガムをたくさん娘の子供たちが織つておりましたのでございますが、私は、さぞこのボロを着ております子供たちが、あの囚人の着物を着ております子供たちが、こんなきれいな布を自分の手で織つて、そうしてそれを朝晩見ておりましたら、さぞこれは着たいだろうな、盗む子はいませんかと聞きましたら、幸いにまだ一遍も一人も布を盗んだという人はいませんということを聞きまして、私はむしろ不思議に思いました。どんなにかこの子供たちが自分の手で織つております着物が欲しいだろうと思いましたので、これは何とか一つ予算を組んで頂いて、せめて出ますときでも、世の中の娘が着るような、アツパツパでもよろしうございますから、着物一枚だけでも持たせて出してやりたいということを願つたのでございますが、この点は一つただ作るものが着せられるということだけではなくて、一般の娘の子、又少年に対しましては、少年相当のものを出るときだけでも一つ着せて出すということを先ず手始めにやつて頂きたいと思つておりますが、その点のお考え一つ法務総裁にまとめてお答え、願いたいと思います。
  90. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) いろいろこの施設の改善についての御希望を伺いまして、誠に御尤もであります。何分にも予算関係がなかなか我々の思うようになりませんので、併し御趣旨の点については十分我々再検討いたしまして、来年度からの予算面については努力いたしまして、そういう少年の取扱方についても施設の改善を図つて行きたいと、こう考えております。
  91. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 甚だ長くて恐れ入りますが、齋藤局長が見えておりますようですから、一つ中央更生保護委員会の成績について極くざつとでよろしうございますから承わりたいと思います。殊に先ほどから法務総裁に伺いましたら、幾分この点について揺いでおりますようで、私は非常に心配しておりますので、御報告願いたいと思います。
  92. 齋藤三郎

    政府委員(齋藤三郎君) 中央更生保護委員会では、少年のプロベーシヨンとパロールと、それから大人のパロールと仮出獄と保護観察、こういうことをいたしております。対象になりまする保護観察の人員は漸次殖えて参つておりまして、殊に少年保護の年齢が十八歳から二十歳に引上つてから、とみに事件が殖えて参つております。現在職員は千人余りで、そのうちこの仕事の本当の保護観察という面を担当いたしておりまする保護観察官は、少年と成人と合せまして五百人からちよつと切れるような状況でございまして、到底この五百人足らずの観察官で、現在では七万名くらいの人を保護観察いたしておりますが、到底担当し切れないような状態であります。幸いに全国に保護司法によりまして認められております民間の協力者、保護司の法律上の定員は五万名余りあります。実際には選考その他で四万五千人くらいかと存じますが、このかたがたが大体一人半くらいの対象者を担当しておられます。このかたがたが非常に御熱心におやりになつておられますので、僅かの職員でありまするが、この制度を行いましてから、やや統計的にも成績を挙げているような徴候が見えております。この保護観察のうちの一つの大きな部分を占めまする、仮出獄を許されて保護観察をいたしておりまするその人々の取消の数字におきまして、この制度を始めました当時は一〇%をちよつと上廻つておりましたが、この制度を行なつてから仮出獄の取消の分が毎年減つてつておりまして、現在では六%くらいに下つております。少年のプロペーシヨンの場合も家庭裁判所から、少年院に入れないで、社会においてまあ保護観察をすべく決定のあつた少年、これについての成績はまだ十分な仮出獄ほどの低減率と言いまするか、その間に事故を起す率は減つておりませんですが、やはり下向きになつております。これは先ほど宮城委員仰せられたようないろいろな機構が、曾つての少年保護の機構が少年審判所に統一されておつた時代と変りまして、審判機構が、機能は家庭裁判所へ行つて法務府とは別個の役所がいたす。それをこちらで執行を受ける。その間にバトンの引渡し等においてまだ十分スムースにと言いますか、スムースというよりも、事務的な関係で、決定があつてから保護観察を開始する間にやはり若干のズレがございます。ひどいところでは数ケ月間、その間空白があつたというような例がございました。それらの点を改善いたして参るならば、もう少し成績を挙げるのではないか、かように存じております。その他この保護観察のほかに、中央委員会といたしましては恩赦制度が、新憲法の下において、刑事政策の面から主として恩赦をいたす、こういうことに恩赦法が変りまして、結局諸外国でやつておるように、やはりパロール、プロベーシヨンを実施する官庁が同じような観点からこの恩赦を考えることが適当であろうということで、恩赦法の改正によりまして中央委員会内閣にそれを申入れ、そして内閣が決定せられる、こういうことになりまして漸次この恩赦の制度も一般に普及いたして参りまして、件数がだんだん殖えて参つております。昨今では常時三十人乃至四十人くらい恩赦の申入れ出願、或いは刑務所長からの申請がございまして、これらを中央委員会で処理して参つております。大体さような事情になつております。
  93. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 保護司法によりますと、保護司の数は五万四千人だつたと思いますが今欠員がございますですね。四万何千と、こうおつしやつたようですが、それは人がないのでございますか、不必要なのでございますか。
  94. 齋藤三郎

    政府委員(齋藤三郎君) 件数が殖えて参つておりますので、人は是非ともフルにおきたいのでございます。保護司法によりますると、定員は五万二千五百ということになつております。但しこの仕事が従来の恩恵的な保護というよりも、刊事政策の一環として施設に容れるということは最後の切札であつて、施設に容れる前、或いは施設に容れても成績によつては期間中に條件付きで社会に出す。そして本人の改善更生を図る。こういつた刑事政策の面で、従いまして場合によつては取消すこともある。こういうことになりまするので、よほどその人によろしきを得なければ、不測の又弊害をもたらすこともございます。さような関係で保護司法におきましても、そのときの知事さんであるとか、或いは裁判所長さんであるとか、検事正といつたいろいろな各方面の代表的なかたがお集りになつて、選考委員会をお作りになりまして、そこで選考して頂いたものを委嘱する、こういう制度になつておりまして、なかなか人を得られないというような事情で定員まで参つておらないので、人が少くて足るということはございません。
  95. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 保護司は無給なものでございますけれども、今一件について幾らということになつておりますか。
  96. 齋藤三郎

    政府委員(齋藤三郎君) 保護司は社会奉仕者であることに法律でも明記いたしておりまして、決して物質的なものを対象としてお仕事をやつておられるのではございませんが、ただ実際上相当の費用を要することになつております。殊に現在のように保護観察を徹底してやる、そうして保護観察の責任者は地方の委員会が責任を持つておりますので、保護司さんが実際にやつておられる保護観察の実績も地方委員会、その出先機関である保護観察所が十分それを承知して、場合によつては適切な指導もするということが必要になつて参りますので、全国四万数千の保護司が七百幾つの保護区に分れまして、その保護区ごとに、極く辺鄙な所はさように参りませんが、定例的に毎月一回保護司会議を開いて、そこに保護司の担当としておる観察官が出張いたしまして、その事件の報告を受け、適切な指導連絡をする、こういうことにいたしております。その仕事等にも相当費用を要するのでありまして、さような補導の実費弁償という形で補導費を国庫から頂戴しております。その額は大体一件について、一昨年度は三十五円、月三十五円だつたと思います。昨年度は七十円、本年度が百円、来年度は百二十円、こういうことで現在予算案が組まれて国会に出されておるような状況でございます。そのほかに謝金といたしまして、一人に一年間に五百円という金額を出しております。この謝金も増額を希望いたしておるのでありますが、他の多数おられる委員との振合い上、財政上困難であるという理由で、これは二、三年前と同額でございます。
  97. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 この頃のことでございまするから一件お持ちになつてお歩きになつても随分足代がいると思いますが、殊にまあ例えば神奈川まで、或いは山梨にまで、或いはときに大阪までも子供を連れに行つた、送つたというような話も聞きますけれども、そういう費用もみんなこちらの委員会が持つというわけではないのでございましようか。
  98. 齋藤三郎

    政府委員(齋藤三郎君) 現在保護司さんはやはり無給の非常勤公務員でございます。さような関係で環境調整に、と申しますのは、刑務所や少年院に入つた場合には、いつ出したらよろしいかという時期を見て、委員会で決定するので、この改革更生を図るキー・ポイントになりますその時期をきめるのには、所内でのいろいろな成績と、それから受入れる社会環境と言いますか、親元が現在どうなつておるか、そこに又親と不仲の場合があればこれを調整するとか、いろいろな環境を調整して、それを地方委員会に報告いたす。その環境調整のためにお歩きになる旅費だけは昨年度から頂戴しております。来年度もそれは見込まれております。同行の場合、少年を施設から出します際には、非帶に少年のほうでは家出したあげくに、又刑務所や少年院に入つたという場合が非常に多いのでございます。従いまして非常に敷居が高い、親元へ帰りにくい、そうすると結局又横道へそれるというような関係でございますので、できるだけ原則的に同行いたすようにいたしております。その旅費は出せることになつております。
  99. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 次の機会にいたします。
  100. 小野義夫

    委員長小野義夫君) それでは本日はこれにて散会いたします。    午後三時五十八分散会