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岩間正男君 私はこの
法案に
反対です。
反対の第一の
理由は、第一、
平和條約
そのものが
和解と
信頼、こういう形で進められたにもかかわらず、その具体的な姿を
一つ一つ見ますというと、まさに
和解と
信頼に違反するような一方的な行為によ
つて規定されておる。こういう
実態がもろもろの
法案に出て来たわけであります。そういう例は枚挙にいとまありません。この
法案もまさにその具体的な
一つの姿を現わしている。この
平和條約を結ぶに当
つて、若し対等の
立場で、これは
和解と
信頼の精神を徹底するというふうなものであ
つたならば、こういうような
文化面の問題についても当然十全なる
努力を
外務省がこれはや
つて、そして今後
文化交流に対するところの
日本のそういう
権益を十全に守り得ると、こういうような点について重大な
努力をすべきであ
つたと思うのであります。然るに本
委員会に
外務省の
関係者を招致しまして、
意見を求めてみますというと、
岡崎外務大臣のごときは殆んどこの
事態についての
認識がない。更に当時の
関係者でありますところの
西村條約
局長の
意見によりますというと、この條約によ
つて今まで
占領治下の規制的な不利な問題、これを変更することが非常に困難だ。そういうようなことがこの
平和條約の
交渉の中に
因果を含められた、いわばその
因果を含められたものをやむなく了承したということをここで告白しています。こういう形によ
つて、いわば押付けられたところのこのような
平和條約、その
平和條約の第十
五條によりまして、このような
法案をいわば下請的に
日本政府が
作つて、その結果はどうなるかというは、しばしばここで論議されましたように、
日本の
著作者並びに
出版業者、そういう
関係者が非常な不利な
立場にこれは導かれる。みすみすこういうようないわば
国内立法を強いられたというような形でこの
法案ができているのであります。こういう点から考えまして、私
たちは無論
平和條約にこういう点からそもそも
反対して来て参
つたのでありますけれども、まさに
平和條約
そのものの性格がこういう形にはつきり現われておる
一つの具体的な例としまして、私は断じてこれには先ず第一に賛成することができないのであります。
従つてこういう
法案は、止むを得ず大前提が認められたのであるから、それに従うところの
措置だから止むを得ない、こういう形で、先に、
外務省がどのように一体今後
国民の
権益を守られるんだかという具体的な
一つの確証並びに見通し、こういうものに対する我々の見究め、こういうものなしに、こういう
法案が易々として通過されるということに
なつたならば、これは
平和條約によ
つていろいろ不利に押付けられましたものが、いつ一体どこでこういうものを回復するのであるか、こういう点を考えますというと、非常に不安なきを得ない。従いましてこの條約は
イタリア條約の
平和條約なんかと考え合せましても、
イタリア條約のこれは
附則には明らかに、この
占領期間中にいろいろな不利な
條件或いは歪んだ
條件、こういうものがあれば、一年間の
期間を置いてこの條約を更改する、これを改める、こういう
期間が認められておるのでありますが、
日本の條約にはそれがないために、明らかにこういうところに落されている。
従つてイタリアの
平和條約と比べましても、この
文化面におきましても非常に不利な
條件を
日本政府はこれを甘受したということになるのであります。尤もいろいろそこに
外務省の
説明を聞きますというと、
日本は
イタリアのように途中で戰争を放棄しなか
つた。
最後までこれは
敵対国であ
つた。そういう点で同等には扱えない。こういうことを言われておるのでありますが、併しいやしくもこれは
和解と
信頼ということを堂々と謳
つておる。世界の電波に乗せておる。こういう形で以てや
つておりながら、実質におきましては、
はつきりイタリア條約よりもこれは徹底的に不利なんだ。こういう形で、いわば欺瞞の形で進められておるところの條約につきましては、我々はこういう
実態に賛成することはできないのであります。
殊にこの中で一番大きな問題にな
つて、
関係者が心配に堪えないのは、この
経過規定の問題であります。
占領政策中にいわゆる政令二百七十二号、こういうものによりましてこの
日本の
著作権者、そういう
人たちがいろいろな制限が設けられまして、又
占領期間中のいろいろな
條件の中におきまして、
仲介業者が
立入つて、そしてその
仲介業者が不当に
日本の
業者を圧迫するという事実ができて来ている。この前も例を挙げたのであります。例えばシートンの「
動物記」のごとき問題であります。これを
内山賢次氏が翻訳した。そしてこれに対しまして
原著者の
シートン夫人に
交渉した。
著作権の保管につきまして、これはイギリスの
クリステー・モーア社に対しまして
譲渡権を
交渉して
承諾を得た。この場合の印税は七分五厘、こういうことで
承諾書が書かれているのであります。然るにここに
アメリカの
仲介業者のトーマス某なる者がこの中に入
つて、そうしてここに
交渉権を獲得して、そして
内山賢次氏からこの
承諾書を借りたままいつの間にか取上げてしま
つた。その後の折衝によると、その
承諾書を受取
つた覚えはない。こういう形におきまして、印税は七分五厘から実に九分に引上げられた。こういうようないわば非常に歪められたところの形で、これは一例に過ぎないのでありますが、
出版業者、飜訳者が非常に不当にこれは抑圧されている。こういうことでは少くとも
和解と
信頼の精神には大きく違反するのでありまして少くとも講和が発効した、こういうような形におきましては、これを当然昔の正常な姿に戻す。少くともその講和の精神のところに戻してこれは
文化交流を対等的にや
つて行くということが必要なのでありますけれども、こういうような
占領治下に起りましたところの不在み或いは不当の抑圧に対しましては、全くそれが継続ざれる形にな
つて行く。そうしていつ一体どこでそれが具体的に解決されるのであるかという見通しは、
文部当局は無論のこと、
外務省におきましても何らこれはない。そういうことになりますというと、今後この
業者間の混乱或いはこれをめぐるところの紛争、こういうものは非常に処置しようがなくな
つて来る。こういうことが出てくるのであります。これは当
委員会におけるところの参考人の公述におきましても、はつきりこういう
事態に対するところの心配が出ておる。従いまして
著作権協会の意向としましては、むしろこういうような條約によるところの止むを得ないところの下請的な
国内立法をするよりも、むしろ問題の焦点であるところの
占領治下における
経過規定、この
経過規定をどのように是正し、どのようにこれを改変するかというところにこの
法案の主眼を置いて欲しい。こういうような
一つの
意見さえ出ておるのでありますが、これは御尤もな
意見だと私は思うのであります。若しも民族の利益というものを本当に代表し、そして国会も政府もそういうような点におきまして、講和後の
日本の態勢を確立するという
一つの確信を若し持つならば、本当に独立したところの
日本人の確信を持つならば、私はそういう点においてこういう立法がなされることが国会の当然の任務であろうと思う。然るに先ほど申述べましたように、この
法案というものは、止むを得ず原則がきめられたのだから、その原則に
従つて飽くまでその下請的な立法をやらざるを得ないという形、而もこの
法案につきましては、恐らく当時占領中でありましたところのGHQ当局とこれは
交渉して原案が作成されたのであります。
従つてそういうような
法案でありますから、決してこれは
日本の
業者に有利なわけはないのであります。こういう形でできました
法案、而も
業者を本当に保護するということに徹していない、こういうような形の
法案に対しましては、私は断じて賛成することができないのであります。従いまして以上簡單に二、三の例を挙げたのでありますけれども、こういう点から私
たちはこの
法案に賛成することができない。
なお
反対の
理由点としまして追加を加えますと、これは講和條約を結んだ国々との
規定について書かれてあるのでありますが、講和條約に調印しなか
つたこういうような国々、殊にはつきりこれは申上げますと、ソヴイエツトロシヤ、或いは中国であります。こういうところとの今後の一体
著作権の問題をどうするのであるか、而もこういうところは非常に実質的に交流が多いし、殊に文学面から見ますと、ロシヤ文学のごときは
日本の文学の非常に大きなところの
一つの要素にな
つておる。従いましてこういう点において果してどういうふうな対策をとるのか、全然これは不明であります。現在のような、或る一国に対しまして文化的な封鎖をする、経済的な封鎖をや
つておるのであります。政治的な封鎖をや
つておるのでありますが、これを
文化面におきましても封鎖をして行くということになりますと、こういう点から私は非常に今後不利が起るんではないか。我々は少くとも世界に対して限を開いてその真相を見て行く。文化的にも、そういう点で決して我々は精神の栄養失調に陷
つてはならん。一方的なものだけを食べて、そうしてビタミン欠乏症で、自分
たちの精神栄養の失調を起すということは非常にこれは私としては重大な問題でありますが、こういう問題については何ら解決されていないのであります。こういう点でも併せて私はこの
法案に対する
反対理由を挙げる。もう
一つ申述べますと、
日本の受ける、今後これに対して負わされる
義務、こういう面の
規定は多いのでありますけれども、
日本における海外のそういう
権益についてはどのように守るか、こういうような面の
規定というものはこれはない。
以上私は、直接この
法案の中に内在した問題ではありませんが、これと関連したところのいろいろな
理由から挙げましても、どうしてもこの
法案には賛成することができないのであります。